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  • 特開-耐熱性Ir合金 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100362
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】耐熱性Ir合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 5/04 20060101AFI20240719BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20240719BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240719BHJP
   C22F 1/14 20060101ALN20240719BHJP
   C22F 1/16 20060101ALN20240719BHJP
【FI】
C22C5/04
C22C30/00
C22F1/00 650A
C22F1/00 640B
C22F1/00 630K
C22F1/00 685A
C22F1/00 683
C22F1/00 621
C22F1/00 682
C22F1/00 694A
C22F1/00 623
C22F1/00 691C
C22F1/00 691B
C22F1/00 691Z
C22F1/14
C22F1/16 Z
C22F1/00 630M
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004309
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】000198709
【氏名又は名称】石福金属興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166039
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 款
(72)【発明者】
【氏名】柴田 暉大
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩一
(57)【要約】
【課題】高温における耐酸化消耗性を確保しつつ、再結晶温度を向上させたIr合金を提供する。
【解決手段】Pt、Rh及びTaを含むIr合金であって、Ptが4.5~45mass%、Rhが3~30mass%、Taが0.5~5mass%、Irが45~92mass%からなることを特徴とする耐熱性Ir合金。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pt、Rh及びTaを含むIr合金であって、
Ptが4.5~45mass%、
Rhが3~30mass%、
Taが0.5~5mass%、
Irが45~92mass%
からなることを特徴とする耐熱性Ir合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性Ir合金に関する。
【背景技術】
【0002】
高温用るつぼ、耐熱器具、ガスタービン、スパークプラグ、高温用センサ、ジェットエンジンなどに用いる耐熱材料として種々の合金が開発されている。主な耐熱材料として耐熱鋼、ニッケル基超合金、白金合金、タングステンなどが挙げられる。耐熱鋼、ニッケル基超合金、白金合金などは固相点が2000℃未満でそれ以上の温度では使用できない。一方、タングステンやモリブデンなどの高融点金属は高温の大気中では酸化消耗が激しい。そこで高融点であって、かつ、耐酸化消耗性の高い耐熱材料としてIr合金が開発されている。
【0003】
特許文献1には、内燃機関用スパークプラグの貴金属チップに用いる、Irの高温揮発性を防止するためにRhを3wt%~30wt%添加したIrRh合金が開示されている。そのような合金を採用することにより高温耐熱性に優れ、耐酸化消耗性を向上させるチップが得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09-007733
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
耐熱材料として用いられるIr合金は、酸素含有雰囲気下で使用すると、Irの酸化揮発による消耗が起こる。また、酸化消耗が結晶粒界から優先的に起こることで結晶粒が脱落、さらに消耗量が大きくなる場合がある。
このことから酸化消耗の抑制に加え、結晶粒の脱落を抑えるため、再結晶温度の向上が求められる。
【0006】
本発明の目的は、高温における耐酸化消耗性を確保しつつ、再結晶温度を向上させたIr合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、Pt、Rh及びTaを含むIr合金であって、
Ptが4.5~45mass%、
Rhが3~30mass%、
Taが0.5~5mass%、
Irが45~92mass%
からなることを特徴とする耐熱性Ir合金である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温における耐酸化消耗性を確保しつつ、再結晶温度を向上させたIr合金を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例6の耐熱性Ir合金を1200℃30min、1300℃30minで熱処理した後の組織を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、Pt、Rh及びTaを含むIr合金であって、Ptが4.5~45mass%、Rhが3~30mass%、Taが0.5~5mass%、Irが45~92mass%からなることを特徴とする耐熱性Ir合金である。各元素の合計は100mass%である。
【0011】
Ir合金にPtを含有させると、再結晶温度が向上し、粒界からの酸化揮発が抑制される。またPt自体の酸化揮発は、Irと比較すると少なく、Pt添加量に応じ酸化揮発は抑制される。
【0012】
Ir合金におけるPtの含有量を4.5mass%未満とした場合、再結晶温度の向上効果が十分に発揮されない。一方、Ir合金におけるPtの含有量を45mass%よりも多くした場合、再結晶温度が低下する。
【0013】
Ptの含有量は、5mass%以上、43mass%以下が好ましい。
【0014】
Ir合金にRhを含有させると、高温、酸素含有雰囲気下での酸化揮発が抑制され、耐酸化消耗性が著しく改善される。
【0015】
Rhの含有量が3mass%を下回る場合、Ir合金の耐酸化消耗性が不十分である。一方、Rhの含有量が30mass%を超えると、Ir合金の耐酸化消耗性は良いが、再結晶温度が低下する。
【0016】
Rhの含有量は、3mass%以上、28mass%以下が好ましい。
【0017】
Ir合金にTaを含有させると、再結晶温度が向上し、加工時の組織が高温まで維持され、結晶粒の脱落が生じにくくなる。
【0018】
Ir合金におけるTaの含有量を0.5mass%未満とした場合、再結晶温度の向上効果が十分に発揮されない。また、Ta含有量が5mass%より多いと加工性が低下し、熱間加工温度を上げても塑性加工が困難となる。
【0019】
Taの含有量は、0.8mass%以上、4.5mass%以下が好ましい。
【0020】
Ir合金はPt、Rh、Ta以外の残部がIrであり、Irの含有量は45mass%以上、92mass%以下とする。Irの含有量は46mass%以上、88mass%以下が好ましい。Irの含有量は48mass%以上、84mass%以下がより好ましい。
【0021】
上記いずれの実施形態においても、Ir合金は酸化物や金属間化合物を持たない固溶体となる。そのため展延性が良好で、公知の温間加工又は熱間加工により、様々な形状・寸法に塑性加工することができる。また、機械加工や溶接も容易である。
【実施例0022】
本発明の実施例について説明する。実施例及び比較例の合金組成と試験結果を表1に示す。
各原料粉末(Ir粉末、Pt粉末、Rh粉末、Ta粉末)を所定の割合で混合し、混合粉末を作製し、得られた混合粉末を、一軸加圧成形機を用いて成形し圧粉体を得た。得られた圧粉体をアーク溶解法により溶解し、インゴットを作製した。
【0023】
次いで、作製したインゴットを1000℃以上で加熱後、熱間鍛造し、厚み4mm程度のインゴットとした。このインゴットを1000℃以上で加熱後、熱間圧延し、厚み0.7mmの板材を得た。
【0024】
耐酸化消耗性は、下記高温酸化試験における質量変化で評価する。高温酸化試験は、上記板材から□5mmに切り出した試験片を用いた。高温酸化試験は、アルミナ板上に置いた試験片を電気炉内にセットし、1000℃、1100℃、1200℃の条件で20時間保持した後、試験前後の質量変化で評価した。
単位面積あたりの質量変化ΔM(mg/mm)は、試験片の試験前の質量をM0(mg)、試験後の質量をM1(mg)、試験片の試験前の表面積をS(mm)とし式1から算出した。

式1:ΔM=(M1-M0)/S

試験片の表面積S(mm)は、表面積を画像解析ソフトで計測、側面面積は、マイクロメーターで計測した板厚×周囲長で算出し、アルミナ板上に接した面を除いた面積の合計とした。
【0025】
耐酸化消耗性の評価は、基準をIrとし、Irの消耗量を100%として式2から算出した質量変化率で評価した。耐酸化消耗性の評価結果は表1に記載した。

式2:質量変化率(%)=ΔM(各サンプルの質量変化)/ΔMIr(Irの質量変化)×100

質量変化率が60%以下の場合は、耐酸化消耗性が○(良好)とした。質量変化率が60%超、70%以下の場合は、耐酸化消耗性が△(やや悪い)とした。質量変化率が70%超の場合は、耐酸化消耗性が×(悪い)とした。
【0026】
試験片をAr雰囲気で900℃から1400℃で30分処理し、組織観察を行った。
上記組織観察の結果から、加工組織中に結晶粒が確認できた温度を再結晶温度とした。再結晶温度の評価結果は表1に記載した。
【0027】
例えば図1に示すように1200℃で加工組織を有していたが、1300℃で再結晶粒を確認した。この場合、再結晶温度は1300℃とした。再結晶温度が1300℃以上の場合は、評価を○とした。再結晶温度が1200℃以上、1300℃未満の場合は、評価を△とした。再結晶温度が1200℃未満の場合は、評価を×とした。
【0028】
以上の耐酸化消耗性と再結晶温度の評価をふまえ、総合評価を表1に示した。耐酸化消耗性および再結晶温度がすべて○の場合は、○とした。耐酸化消耗性および再結晶温度が○または△で、すべて○でない場合は、△とした。耐酸化消耗性と再結晶温度のいずれかが×の場合は、×とした。
【0029】
表1に示す実施例と比較例1~7の組成は、いずれも熱間加工により厚み0.7mmまで加工可能だった。しかし、比較例8のようにTaが所定量以上含有している場合、熱間加工中に割れが生じ、塑性加工が困難だった。よって、比較例8は評価を行わなかった。
【0030】
表1に示す結果から、実施例の合金は総合評価が〇で、耐熱材料として特に好ましい特性を有することが確認された。
【0031】
表1に示す結果から、比較例2のようにPtだけが所定量含有している場合、再結晶温度が低く、耐酸化消耗性も悪かった。
【0032】
表1に示す結果から、比較例3のように、Ptが所定量以上含有している場合、再結晶温度が低く、耐酸化消耗性も悪かった。
【0033】
表1に示す結果から、比較例4~7のようにRhが一定量含有している場合、十分な耐酸化消耗性を有するが、Pt、Taが所定量含有していないため、再結晶温度が低かった。
【0034】
表1の結果のように、IrにPt、Rh、Taを複合添加することにより耐酸化消耗性の向上、再結晶温度の上昇が可能となる。
【0035】
【表1】

図1