(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100382
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
H01T 13/32 20060101AFI20240719BHJP
H01T 13/20 20060101ALI20240719BHJP
H01T 21/02 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
H01T13/32
H01T13/20 B
H01T21/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004342
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】鬼海 高明
(72)【発明者】
【氏名】野口 智史
【テーマコード(参考)】
5G059
【Fターム(参考)】
5G059AA10
5G059DD04
5G059DD11
5G059GG01
5G059GG03
5G059GG05
(57)【要約】
【課題】溶融部の強度を確保できるスパークプラグを提供する。
【解決手段】スパークプラグは、中心電極と、中心電極を内側に絶縁保持する主体金具と、主体金具から中心電極へ向かって突き出す接地電極と、を備え、主体金具は、外周におねじが設けられた円筒部を備え、円筒部を径方向に貫通する穴が設けられ、穴の中で円筒部に溶融部を介して接地電極が接続する。穴の中心線と溶融部とを含む断面において、溶融部のうち円筒部と接する部分が、接地電極よりも径方向の外側に存在する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心電極と、
前記中心電極を内側に絶縁保持する主体金具と、
前記主体金具から前記中心電極へ向かって突き出す接地電極と、を備え、
前記主体金具は、外周におねじが設けられた円筒部を備え、前記円筒部を径方向に貫通する穴が設けられ、
前記穴の中で前記円筒部に溶融部を介して前記接地電極が接続するスパークプラグであって、
前記穴の中心線と前記溶融部とを含む断面において、
前記溶融部のうち前記円筒部と接する部分が、前記接地電極よりも前記径方向の外側に存在するスパークプラグ。
【請求項2】
前記穴の中心線と前記溶融部とを含む断面において、
前記部分と前記穴の内面との交点における前記穴の大きさをA(mm)、前記部分の前記中心線に沿う距離をB(mm)としたときに、2<A/B≦15である請求項1記載のスパークプラグ。
【請求項3】
前記穴は、前記円筒部の径方向に一定の大きさである請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
【請求項4】
前記主体金具の先端側を閉塞するキャップを備え、
前記キャップで閉塞された空間の内と外とを連通する貫通孔が前記キャップに設けられている請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶融部を介して主体金具に接地電極が接続されるスパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
中心電極と、中心電極を内側に絶縁保持する筒状の主体金具と、主体金具から中心電極へ向かって突き出す接地電極と、を備えるスパークプラグに関する先行技術は特許文献1に開示されている。先行技術では主体金具を貫通する穴の中で、溶融部を介して主体金具に接地電極が接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術では穴が貫通する主体金具の厚さや穴の大きさに溶融部の接合面積が制約されるため、溶融部の強度が小さくなるおそれがある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、溶融部の強度を確保できるスパークプラグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の第1の態様は、中心電極と、中心電極を内側に絶縁保持する主体金具と、主体金具から中心電極へ向かって突き出す接地電極と、を備え、主体金具は、外周におねじが設けられた円筒部を備え、円筒部を径方向に貫通する穴が設けられ、穴の中で円筒部に溶融部を介して接地電極が接続するスパークプラグであって、穴の中心線と溶融部とを含む断面において、溶融部のうち円筒部と接する部分が、接地電極よりも径方向の外側に存在する。
【0007】
第2の態様は、第1の態様において、穴の中心線と溶融部とを含む断面において、溶融部のうち円筒部と接する部分と穴の内面との交点における穴の大きさをA(mm)、溶融部のうち円筒部と接する部分の中心線に沿う距離をB(mm)としたときに、2<A/B≦15である。
【0008】
第3の態様は、第1又は第2の態様において、穴は、円筒部の径方向に一定の大きさである。
【0009】
第4の態様は、第1から第3の態様のいずれかにおいて、主体金具の先端側を閉塞するキャップを備え、キャップで閉塞された空間の内と外とを連通する貫通孔がキャップに設けられている。
【発明の効果】
【0010】
本発明のスパークプラグによれば、円筒部に設けられた穴の中心線と溶融部とを含む断面において、溶融部のうち円筒部と接する部分が、接地電極よりも径方向の外側に存在する。溶融部のうち円筒部と接する部分を、円筒部の径方向の外側に延ばすことができるので、接地電極よりも径方向の外側に溶融部が存在しない場合に比べ、溶融部の接合面積を大きくできる。従って溶融部の強度を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施の形態におけるスパークプラグの部分断面図である。
【
図2】
図1のIIで示す部分を拡大したスパークプラグの断面図である。
【
図3】
図2のIII-IIIにおけるスパークプラグの断面図である。
【
図4】第2実施の形態におけるスパークプラグの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は一実施の形態におけるスパークプラグ10の部分断面図である。
図1にはスパークプラグ10の先端側の部分の軸線Oを含む断面が図示されている。
図1では紙面下側をスパークプラグ10の先端側、紙面上側をスパークプラグ10の後端側という(
図2においても同じ)。
図1に示すようにスパークプラグ10は、絶縁体11、中心電極15、主体金具20及び接地電極25を備えている。
【0013】
絶縁体11は、軸線Oに沿って延びる軸孔12を有する略円筒状の部材であり、機械的特性や高温下の絶縁性に優れるアルミナ等のセラミックスにより形成されている。絶縁体11は、係止部13と、係止部13の先端側に隣接する先端部14と、を含む。先端部14の外径は係止部13の外径よりも小さい。
【0014】
絶縁体11の少なくとも係止部13から先端部14にかけて軸線Oに沿って軸孔12の中に中心電極15が配置されている。中心電極15は、Niを主成分とする棒状の母材16と、母材16の先端に配置されたPt,Rh,Ru,Ir等の貴金属のうちの1種以上を主成分とするチップ17と、チップ17と母材16とを接合する溶融部18と、を含む。チップ17や溶融部18は省略できる。
【0015】
中心電極15の先端は、絶縁体11から先端側に突き出している。中心電極15は軸孔12内で端子金具19と電気的に接続されている。端子金具19は、高圧ケーブル(図示せず)が接続される棒状の部材であり、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成されている。端子金具19は絶縁体11の後端に固定されている。
【0016】
主体金具20は、導電性を有する金属材料(例えば銅、銅合金、低炭素鋼等)によって形成された略円筒状の部材である。主体金具20は絶縁体11の外周に配置されている。主体金具20は、絶縁体11の少なくとも係止部13及び先端部14の外周側に位置する円筒部21を含む。円筒部21は外周におねじ22が設けられた円筒形の部分であり、内周に棚部23が設けられている。おねじ22は、エンジン(図示せず)のプラグホールに設けられためねじにはまる。棚部23は、絶縁体11の係止部13の先端側に位置し、係止部13を係止する。
【0017】
円筒部21の棚部23よりも先端側の部分に、円筒部21を径方向に貫通する穴24が設けられている。本実施形態では穴24はおねじ22の位置に設けられており、穴24は断面が円形である。円筒部21の穴24の中に接地電極25が配置されている。穴24に配置された接地電極25は、円筒部21から中心電極15へ向かって突き出している。
【0018】
主体金具20の先端側を閉塞するキャップ26によって、キャップ26の内側に空間29が設けられている。キャップ26の材料は、Fe,Ni,Cu等の1種以上を主成分とする金属材料が例示される。本実施形態ではキャップ26は溶融部28を介して円筒部21の先端側に接続されている。空間29の内と外とを連通する貫通孔27がキャップ26に設けられている。
【0019】
図2は
図1のIIで示す部分を拡大したスパークプラグ10の断面図である。円筒部21に設けられた穴24の内面30は円筒部21の外周面31につながっており、円筒部21の内周面32と穴24の内面30との間に接地電極25が設けられている。接地電極25は、例えばNiを主成分とする母材33と、Pt,Rh,Ru,Ir等の貴金属のうちの1種以上を主成分とするチップ34と、チップ34と母材33とを接合する溶融部35と、を含む。チップ34や溶融部35は省略できる。母材33の端面36は穴24の中に位置している。円筒部21に設けられた穴24は接地電極25で塞がっている。
【0020】
本実施形態では母材33は穴24の中の部分が円柱形であり、母材33のうち穴24の中の部分が、溶融部35が設けられた部分よりも太い。接地電極25のチップ34は中心電極15のチップ17の側面に対向し、接地電極25の先端と中心電極15の側面との間に火花ギャップGが設けられている。
【0021】
接地電極25の母材33は穴24の中で溶融部37を介して円筒部21に接続されている。溶融部37は、穴24の中に配置した接地電極25の母材33の端面36にレーザビームを照射して作られる。溶融部37は、母材33の端面36の一部を含む部分と円筒部21の穴24の内面30の一部を含む部分とが溶けてなる。
【0022】
エンジン(図示せず)に取り付けられたスパークプラグ10は、エンジンのバルブ操作により、エンジンの燃焼室から貫通孔27を通って空間29に燃料ガスが流入する。スパークプラグ10は、中心電極15と接地電極25との間の放電により火炎核を生成する。火炎核が成長すると空間29内の燃料ガスに点火し燃料ガスが燃焼する。燃料ガスの燃焼によって生じる膨張圧力により、火炎を含むガス流が生じ、火炎を含むガスを貫通孔27から燃焼室に噴射する。その火炎の噴流によって燃焼室内の燃料ガスが燃焼する。すなわちキャップ26の内側の空間29は、エンジンの燃焼室の中に設けられた副燃焼室として機能する。
【0023】
図3は
図2のIII-IIIにおけるスパークプラグ10の断面図である。
図3では穴24の中心線Cを含む円筒部21及び接地電極25の断面の一部が図示されており、紙面下側を円筒部21の径方向の内側、紙面上側を円筒部21の径方向の外側という(
図4においても同じ)。穴24の中心線Cは穴24の内面30の切り口が輪になるように切断した複数の断面を複数の平面図形としたときの各幾何中心を通る直線である。本実施形態では穴24の中心線Cの周りの全長に亘って溶融部37が設けられているので、中心線Cを含む断面図である
図3には、中心線Cの両側にそれぞれ溶融部37,38が現出する。
【0024】
片方の溶融部37のうち円筒部21と接する部分39は、溶融部37のうち円筒部21の径方向の外側の表面40と穴24の内面30との交点41と、溶融部37に円筒部21の内周面32が交わる交点42と、をつなぐ部分(溶融部37と円筒部21との間の界面)である。部分39の一部は、母材33(本実施形態では端面36)よりも円筒部21の径方向の外側に存在する。
【0025】
母材33よりも円筒部21の径方向の外側に部分39が存在する。接地電極25よりも径方向の外側に溶融部37が存在しない場合に比べ、部分39が長くなるので、溶融部37の強度に関係する接合面積を大きくできる。従って溶融部37の強度を確保できる。
【0026】
本実施形態では溶融部37の表面40のうち径方向の最も外側の位置は交点41である。溶融部37の余盛が過大にならないようにできるので、交点41に生じる応力を低減できる。その結果、円筒部21や溶融部37の疲労強度が低下しないようにできる。
【0027】
もう片方の溶融部38のうち円筒部21と接する部分43は、溶融部38のうち円筒部21の径方向の外側の表面44と穴24の内面30との交点45と、溶融部38に円筒部21の内周面32が交わる交点46と、をつなぐ部分(溶融部38と円筒部21との間の界面)である。部分43の一部は、母材33(本実施形態では端面36)よりも円筒部21の径方向の外側に存在する。交点41,45は、穴24の内面30のうちおねじ22(
図1参照)の谷よりも径方向の内側に存在するので、プラグホールに設けられためねじにおねじ22をはめることができる。
【0028】
母材33よりも円筒部21の径方向の外側に部分43が存在する。接地電極25よりも径方向の外側に溶融部38が存在しない場合に比べ、部分43が長くなるので、溶融部38の強度に関係する接合面積を大きくできる。従って溶融部38の強度を確保できる。
【0029】
本実施形態では溶融部38の表面44のうち径方向の最も外側の位置は交点45である。溶融部38の余盛が過大にならないようにできるので、交点45に生じる応力を低減できる。その結果、円筒部21や溶融部38の疲労強度が低下しないようにできる。
【0030】
部分39,43は両方とも母材33よりも円筒部21の径方向の外側に存在する。これにより、部分39,43のうち片方が、母材33よりも円筒部21の径方向の外側に存在する場合に比べ、溶融部37,38の強度を大きくできる。
【0031】
母材33の端面36を含む部分が溶融し、さらに円筒部21の径方向の内側へ向かって溶融部37,38が延びると、部分39,43の全体が、母材33よりも円筒部21の径方向の外側に存在するようになる。このときは、母材33よりも円筒部21の径方向の外側に部分39,43の一部が存在する場合に比べ、母材33や円筒部21を溶かすための大きな熱エネルギーが母材33や円筒部21に加わることになるため、母材33や円筒部21が変形するおそれがある。本実施形態のように部分39,43の一部が、母材33よりも円筒部21の径方向の外側に存在することにより、溶融部37,38の強度を確保できると共に、母材33や円筒部21の変形、特におねじ22の変形を低減できる。
【0032】
本実施形態では穴24は円筒部21の径方向に一定の大きさである。これにより溶融部37,38を形成するレーザ溶接の条件が制御しやすくなる。穴24の大きさが円筒部21の径方向に一定というのは、穴24の内面30の差渡し(穴24の大きさ)を円筒部21の径方向の全長に亘って複数測定したときの最大値と最小値との差が0.20mm以下であることをいう。穴24の大きさは小数第3位まで測定して最大値と最小値とを求め、最大値と最小値との差の小数第3位を四捨五入する。
【0033】
溶融部37の交点41は、溶融部38の交点45よりも円筒部21の径方向の外側に位置する。スパークプラグ10は、溶融部37,38の交点41,45のうち径方向の外側に位置する交点41における穴24の大きさをA(mm)とし、交点41を含む部分39の中心線Cに沿う距離をB(mm)としたときに2<A/B≦15を満たすことが好ましい。Aは、穴24の内面30によって中心線Cに垂直な直線が切り取られてできる線分の長さである。
【0034】
2<A/B≦15を満たすことが好ましい理由は以下のとおりである。Aが大きくなるにつれて、おねじ22の部分を除く穴24の内面30の径方向の長さが短くなるため、溶融部37の接合強度を確保しながら、おねじ22を変形させずに溶融部37を内面30に形成するのが困難になる傾向がみられる。Bが大きくなるにつれて、溶融部37を形成するときの熱エネルギーによって円筒部21のおねじ22が変形しやすくなる傾向がみられる。AやBが小さくなるにつれて溶融部37の接合面積が小さくなるため、溶融部37の接合強度が小さくなる傾向がみられる。2<A/B≦15であると、おねじ22を変形させずに溶融部37の接合強度を確保できるからである。
【0035】
本実施形態は、溶融部37,38の交点41,45のうち径方向の内側に位置する交点45を含む部分43の中心線Cに沿う距離をB(mm)としたときにも2<A/B≦15を満たす。中心線Cの両側に位置する部分39,43が2<A/B≦15を満たすので、溶融部37,38の強度を向上できる。
【0036】
穴24の大きさAは1mm<A≦3mmが好ましい。Aが1mm以下であると、穴24の中にレーザビームを照射して溶融部37,38を形成するのが難しくなるからである。Aが3mmを超えると、おねじ22の部分を除く穴24の内面30に溶融部37,38を形成するのが難しくなるからである。
【0037】
スパークプラグ10はキャップ26(
図1参照)によって主体金具20の先端側が閉塞され、キャップ26の内側の空間29で燃料ガスが燃焼し、その膨張圧力がキャップ26や円筒部21、溶融部37,38に加わる。溶融部37,38はその圧力に耐え得る機械的強度が必要である。スパークプラグ10は母材33よりも円筒部21の径方向の外側に溶融部37,38の部分39,43が存在するので、溶融部37,38の強度を確保できる。従ってキャップ26を備えるスパークプラグ10に好適である。
【0038】
図4を参照して第2実施の形態について説明する。第1実施形態では、溶融部37,38の部分39,43が、円筒部21の内周面32と交わる場合について説明した。これに対し第2実施形態では溶融部52,53のうち円筒部21と接する部分54,59が、円筒部21の外周面31と内周面32との間に収まる場合について説明する。第2実施形態において、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0039】
図4は第2実施の形態におけるスパークプラグ10の円筒部21に設けられた穴47の中心線Cを含む断面図である。穴47は円筒部21のおねじ22(
図1参照)の位置に設けられている。穴47の内面48は、円筒部21の外周面31と交わる第1部49と、第1部49の径方向の内側に隣接する第2部50と、第2部50の内側に隣接する第3部51と、を含む。第1部49における穴47の大きさは、第3部51における穴47の大きさよりも大きい。第2部50は、おねじ22の谷の付近に設けられている。
【0040】
本実施形態では第1部49及び第3部51は円筒面であり、第2部50は中心線Cに垂直な平面である。中心線Cの周りの全長に亘って第3部51に溶融部が設けられている。従って
図4には第3部51の中心線Cの両側にそれぞれ溶融部52,53が現出する。穴47の第3部51は円筒部21の径方向に一定の大きさである。これにより溶融部52,53を形成するレーザ溶接の条件が制御しやすくなる。
【0041】
第3部51につながる第2部50及び第1部49で、第3部51に対して穴47が拡大しているので、穴47の中にレーザビームを照射して第3部51に溶融部52,53を設けるレーザ溶接の熱影響をおねじ22が受けにくくなる。従っておねじ22の変形を低減できる。
【0042】
片方の溶融部52のうち円筒部21と接する部分54は、溶融部52のうち円筒部21の径方向の外側の表面55と穴47の内面48(第3部51)との交点56と、溶融部52の径方向の内側の表面57と穴47の内面48との交点58と、をつなぐ部分(溶融部52と円筒部21との間の界面)である。部分54の一部は、母材33(本実施形態では端面36)よりも円筒部21の径方向の外側に存在する。交点56は、溶融部52の表面55のうち径方向の最も外側に位置する。
【0043】
母材33よりも円筒部21の径方向の外側に部分54が存在する。接地電極25よりも径方向の外側に溶融部52が存在しない場合に比べ、部分54が長くなるので、溶融部52の強度に関係する接合面積を大きくできる。従って溶融部52の強度を確保できる。
【0044】
もう片方の溶融部53のうち円筒部21と接する部分59は、溶融部53のうち円筒部21の径方向の外側の表面60と穴47の内面48との交点61と、溶融部53の径方向の内側の表面62と穴47の内面48との交点63と、をつなぐ部分(溶融部53と円筒部21との間の界面)である。部分59の一部は、母材33(本実施形態では端面36)よりも円筒部21の径方向の外側に存在する。交点61は、溶融部53の表面60のうち径方向の最も外側に位置する。交点56,61は、穴47の内面48のうちおねじ22(
図1参照)の谷よりも径方向の内側に存在する。
【0045】
母材33よりも円筒部21の径方向の外側に部分59が存在する。接地電極25よりも径方向の外側に溶融部53が存在しない場合に比べ、部分59が長くなるので、溶融部53の強度に関係する接合面積を大きくできる。従って溶融部53の強度を確保できる。
【0046】
溶融部53の交点61は、溶融部52の交点56よりも円筒部21の径方向の外側に位置する。溶融部52,53のうち径方向の外側に位置する交点61における穴47の大きさをA(mm)とし、交点61を含む部分59の中心線Cに沿う距離をB(mm)としたときに2<A/B≦15を満たす。これによりおねじ22を変形させずに溶融部53の接合強度を確保できる。
【0047】
本実施形態は、交点56,61のうち径方向の内側に位置する交点56を含む部分54の中心線Cに沿う距離をB(mm)としたときにも2<A/B≦15を満たす。中心線Cの両側に位置する部分54,59が2<A/B≦15を満たすので、溶融部52,53の強度を向上できる。
【実施例0048】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0049】
試験者は、第1実施形態におけるスパークプラグ10の円筒部21と同形の、厚さ1.5mmの炭素鋼製の円筒の外周におねじを設け、直径が1mmから4mmまでの穴がおねじの部分を貫通したものを準備した。おねじの呼び径は10mmとし、おねじはJIS B8031:2006に準じた。穴は円筒の径方向に一定の大きさの円形とし、円筒の中心線に穴の中心線が垂直に交わるようにした。
【0050】
おねじの谷よりも径方向の内側に円柱の端面が位置するように円柱を穴に入れた後、円柱の端面にレーザビームを照射して、円柱の全周を円筒にレーザ溶接した。円柱の材料はNi基合金(NCF601)とし、円柱の長さは3mmとし、円柱の直径は穴の直径に対して0.1mm小さくした。これにより表1に示すNo.1-10のサンプルを作製した。
【0051】
【表1】
各サンプルの穴の中にピンを入れ、円筒の径方向の内側へ向かう力をピンで円柱に加えたときの最大荷重(N)を測定した。サンプルNo.1,10は、円筒に設けられたおねじが変形していたため、最大荷重を測定しなかった。
【0052】
次に各サンプルを切断し、円柱の中心線を含む断面に現出する溶融部の画像を光学顕微鏡で取得し、画像解析により、溶融部の交点における穴の大きさA(mm)、穴の大きさAを測定した交点を含む溶融部における距離B(mm)を測定した。大きさA(円の直径)に円周率と距離Bとを乗じた値を溶融部の接合面積(mm2)とし、最大荷重を接合面積で除した応力(N/mm2)を求めた。
【0053】
応力が、破壊的な異常燃焼(いわゆるメガノック)が発生したときの圧力に安全率を加えた60N/mm2以下のサンプルは良い(G)と判定し、応力が60N/mm2を超えたサンプルは劣る(P)と判定した。おねじが変形したサンプルNo.1,10も劣る(P)と判定した。各サンプルのA、B、A/B、応力および判定は表1に記した。
【0054】
表1のとおり、2.0<A/B≦15.0を満たすサンプルNo.3-8は判定がGであったのに対し、A/B≦2.0のサンプルNo.1,2及びA/B>15.0のサンプルNo.9,10は判定がPであった。実施例によれば、2.0<A/B≦15.0を満たすことで、おねじの変形を低減できると共に溶融部の強度を確保できることが明らかになった。
【0055】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0056】
実施形態では穴24,47が円形の場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。穴24,47の他の形は、楕円、半円、三角や四角、六角などの多角形、隅が丸みを帯びた多角形が例示される。穴24,47の中に配置される接地電極25の断面の形は、穴24,47の形に応じて適宜設定される。
【0057】
実施形態では穴24,47の中心線Cの周りに連続的に溶融部が設けられている場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。穴24,47の中心線Cの周りに断続的に溶融部を設けることは当然可能である。穴24,47に断続的に溶融部が設けられた場合、穴24,47の中心線Cと溶融部とを含む断面において、実施形態のように中心線Cの両側に溶融部が現出するとは限らず、中心線Cの片方だけに溶融部が現出することもある。
【0058】
実施形態では接地電極25の母材33の端面36の一部が溶け残っている場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。母材33の端面36の全体が溶融部37,38,52,53に溶けて端面36が消失していることはある。母材33の端面36が消失している場合、溶融部37,38,52,53のうち円筒部21と接する部分39,43,54,59が、接地電極25よりも径方向の外側に存在するといえるのは、溶融部と母材33との間の界面のうち最も径方向の外側に位置する部分よりも、部分39,43,54,59の少なくとも一部が、円筒部21の径方向の外側に位置する場合である。
【0059】
実施形態では穴24の内面30や穴47の第3部51の大きさが、円筒部21の径方向に一定の大きさである場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。穴の大きさが、円筒部21の径方向の外側から内側に向かうにつれて小さくなる、いわゆるテーパー状の穴を円筒部21に設け、その穴の中に接地電極25を配置することは当然可能である。
【0060】
実施形態では円筒部21のおねじ22の部分に穴24,47を設ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば円筒部21の先端部におねじ22のない筒状の部分を設け、円筒部21の先端部(筒状の部分)に穴をあけて接地電極25を設けることは当然可能である。
【0061】
実施形態では接地電極25のうち穴24,47の中の部分が、軸線Oに近い部分よりも太い場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。接地電極25の穴24,47の中の部分の太さと軸線Oに近い部分の太さとを同じにすることは当然可能である。
【0062】
実施形態では中心電極15の側面と接地電極25の先端との間に火花ギャップGを設ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。円筒部21に設ける穴24,47の位置を先端側にずらすと共に、接地電極25を少し長くして、中心電極15の先端と接地電極25の側面との間に火花ギャップGを設けても良い。
【0063】
実施形態では主体金具20の先端側にキャップ26が配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。キャップ26を省くことは当然可能である。
【0064】
実施形態では半球状のキャップ26を主体金具20に配置する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。キャップ26の形状は適宜設定できる。キャップ26の他の形状は、有底円筒状、円板状が例示される。
【0065】
実施形態では、主体金具20にキャップ26が溶接されている場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。先端にキャップを設けた筒状部材を準備し、これを主体金具20に接続して空間29を形成することは当然可能である。筒状部材はキャップで先端が閉じた筒状の部材であり、主体金具20のおねじ22に結合するめねじが内周面に設けられている。筒状部材の外周面には、エンジンのプラグホールのめねじに結合するおねじが設けられている。筒状部材のめねじを主体金具20のおねじ22に結合することにより、主体金具20の先端側にキャップが配置される。このキャップに貫通孔27が設けられる。
【0066】
筒状部材を主体金具20に接続して主体金具20の先端側にキャップを配置する手段は、筒状部材の内周面のめねじを、主体金具20のおねじ22に結合するものに限らない。他の手段によって筒状部材を主体金具に接続することは当然可能である。他の手段としては、例えば筒状部材と主体金具とを溶接等によって接合するものが挙げられる。筒状部材の材料は、Ni基合金やステンレス鋼等の金属材料や窒化ケイ素等のセラミックスが例示される。