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特開2024-100398海洋分解性共重合ポリエステル繊維およびその製造方法
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  • 特開-海洋分解性共重合ポリエステル繊維およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100398
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】海洋分解性共重合ポリエステル繊維およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/84 20060101AFI20240719BHJP
   C08G 63/688 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
D01F6/84 301B
D01F6/84 301G
D01F6/84 305
C08G63/688
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004378
(22)【出願日】2023-01-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2022年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ムーンショット型研究開発事業」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】米田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】玉垣 萌
(72)【発明者】
【氏名】神山 三枝
(72)【発明者】
【氏名】山本 智義
(72)【発明者】
【氏名】岩井 正宏
(72)【発明者】
【氏名】石井 修人
【テーマコード(参考)】
4J029
4L035
【Fターム(参考)】
4J029AA03
4J029AB01
4J029AC02
4J029AD01
4J029AD06
4J029AD07
4J029AE02
4J029BA03
4J029BF25
4J029CA01
4J029CA03
4J029CA04
4J029CA05
4J029CA06
4J029CB05A
4J029CB05B
4J029CB06A
4J029CB10A
4J029CC05A
4J029CC06A
4J029CE04
4J029CH02
4J029DB02
4J029DB07
4J029DB11
4J029DB13
4J029HB03A
4J029HB03C
4J029JA091
4J029JC433
4J029JF032
4J029JF471
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE02
4J029KE05
4J029KE15
4L035AA05
4L035BB31
4L035EE01
4L035EE20
4L035HH01
4L035HH10
4L035JJ25
(57)【要約】
【課題】実用耐久性と海水分解性を高いレベルで両立させた海洋分解性共重合ポリエステル繊維及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維は、脂肪族酸、芳香族酸及びスルホン酸からなる海洋分解性共重合ポリエステル繊維であって、脂肪族酸としてメチレン基炭素数が2または4となるジカルボン酸成分が全酸成分に対して3モルパーセント以上35モルパーセント以下含有し、スルホン酸としてスルホネート基を有するジカルボン酸成分が全酸成分に対して0.1モルパーセント以上5モルパーセント以下含有しており、ジオール成分の80モルパーセント以上がメチレン基炭素数が2のグリコールからなることを特徴とする。さらには、融解熱量が15J/g以上であること、低温海洋環境下における主鎖切断数が5(eq/ton)/60日以上となることが好ましい。及び上記の海洋分解性共重合ポリエステル繊維を10質量%以上含む繊維製品や、繊維の製造方法を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族酸、芳香族酸及びスルホン酸からなる海洋分解性共重合ポリエステル繊維であって、脂肪族酸としてメチレン基炭素数が2または4となるジカルボン酸成分が全酸成分に対して3モルパーセント以上35モルパーセント以下含有し、スルホン酸としてスルホネート基を有するジカルボン酸成分が全酸成分に対して0.1モルパーセント以上5モルパーセント以下含有しており、ジオール成分の80モルパーセント以上がメチレン基炭素数が2のグリコールからなる繊維であって、融点が180℃以上230℃以下であることを特徴とする海洋分解性共重合ポリエステル繊維。
【請求項2】
強度×√伸度≧13.0である請求項1記載の海洋分解性共重合ポリエステル繊維。
【請求項3】
融解熱量が15J/g以上である請求項1記載の海洋分解性共重合ポリエステル繊維。
【請求項4】
ガラス転移温度が35℃以上65℃以下である請求項1記載の海洋分解性共重合ポリエステル繊維。
【請求項5】
繊維長軸方向のポリマー配向度が85%以上である請求項1記載の海洋分解性共重合ポリエステル繊維。
【請求項6】
繊維中のポリマー結晶化度が50%以上である請求項1記載の海洋分解性共重合ポリエステル繊維。
【請求項7】
亜リン酸エステルを含む化合物を含有する請求項1記載の海洋分解性共重合ポリエステル繊維。
【請求項8】
30℃海洋環境下における数平均分子量の60日後の主鎖切断数が5(eq/ton)/60日以上となる請求項1記載の海洋分解性共重合ポリエステル繊維。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか記載の海洋分解性共重合ポリエステル繊維を10質量%以上含む繊維製品。
【請求項10】
脂肪族酸、芳香族酸及びスルホン酸からなる海洋分解性共重合ポリエステル繊維の製造方法であって、脂肪族酸としてメチレン基炭素数が2または4となるジカルボン酸成分が全酸成分に対して3モルパーセント以上35モルパーセント以下含有し、スルホン酸としてスルホネート基を有するジカルボン酸成分が全酸成分に対して0.1モルパーセント以上5モルパーセント以下含有しており、ジオール成分の80モルパーセント以上がメチレン基炭素数が2のグリコールからなる共重合ポリエステル組成物を、溶融紡糸し、紡糸速度500m/分以上6000m/分以下の速度で巻取り、ガラス転移温度以上で予熱した後に、延伸、定長熱処理することを特徴とする海洋分解性共重合ポリエステル繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実用耐久性と海水分解性を高いレベルで両立させた海洋分解性共重合ポリエステル繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)に代表されるポリエステル樹脂は多くの優れた特性を有している。中でもポリエステル繊維として用いた場合、機械的性質、耐薬品性、ウォッシュアンドウエア性等に優れ、衣料用や産業用の繊維として、幅広く用いられている。
【0003】
一方で、その高い耐久性、耐薬品性がゆえに、生分解性が低く、一度環境中に廃棄した場合のみならず洗濯等を通して繊維くずが脱落した場合にさえ、分解せずに自然環境中に残存するという問題があった。またポリエステル繊維は水や紫外線により細かく粉砕されるものの、自然環境では完全には分解されずに微細化だけが進行し、『マイクロプラスチック』と呼ばれる、回収困難な汚染物質となり得ることが指摘されている。特に海水中では土壌中よりも分解速度が遅いため『マイクロプラスチック』が海洋中に拡散し、魚や貝類の体内に摂取・蓄積され、生態系や人体に悪影響を及ぼす懸念がある。
【0004】
主に土壌における生分解可能なポリエステル材料としては、脂肪族-芳香族ランダム共重合ポリエステル共重合体や共重合改質ポリエステルが開発されており、例えば特許文献1及び特許文献2等では、芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジカルボン酸成分に酸成分としてスルホネート成分を含むスルホン化脂肪族-芳香族コポリエーテルエステルからなるフィルムが主に開示されている。
【0005】
しかしより高い生分解性をポリエステルに付与しようとすると、短鎖の脂肪族ジカルボン酸を多量に共重合することが効果的ではあるが、短鎖の脂肪族ジカルボン酸を多量に共重合した場合、ガラス転移温度が高くなり、繊維化が困難になるという問題があった。結晶化を生じる分子運動が遅くなることで、高い結晶性を有する繊維を得ることが難しく、優れた機械特性や寸法安定性を得ることが困難となるのである。
またこれらの技術は、埋立ゴミ処理工場等における土壌分解を中心に検討されており、生分解としてはより困難な海洋中の分解性や、実用性に優れた繊維物性を両立したものとしては、まだ不十分なものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007-502909号公報
【特許文献2】特表2007-524741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の問題を解決し、実用耐久性と海水分解性を高いレベルで両立させた海洋分解性共重合ポリエステル繊維及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維は、脂肪族酸、芳香族酸及びスルホン酸からなる海洋分解性共重合ポリエステル繊維であって、脂肪族酸としてメチレン基炭素数が2または4となるジカルボン酸成分が全酸成分に対して3モルパーセント以上35モルパーセント以下含有し、スルホン酸としてスルホネート基を有するジカルボン酸成分が全酸成分に対して0.1モルパーセント以上5モルパーセント以下含有しており、ジオール成分の80モルパーセント以上がメチレン基炭素数が2のグリコールからなることを特徴とする。
【0009】
さらには、強度×√伸度≧13.0であること、融解熱量が15J/g以上であること、ガラス転移温度が35℃以上65℃以下であること、繊維長軸方向のポリマー配向度が85%以上であること、繊維中のポリマー結晶化度が50%以上であること、亜リン酸エステルを含む化合物を含有することや、30℃海洋環境下における数平均分子量の60日後の主鎖切断数が5(eq/ton)/60日以上となることが好ましい。
またこのような本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維を10質量%以上含む繊維製品を包含する。
【0010】
そしてもう一つの本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維の製造方法は、脂肪族酸、芳香族酸及びスルホン酸からなる海洋分解性共重合ポリエステル繊維の製造方法であって、脂肪族酸としてメチレン基炭素数が2または4となるジカルボン酸成分が全酸成分に対して3モルパーセント以上35モルパーセント以下含有し、スルホン酸としてスルホネート基を有するジカルボン酸成分が全酸成分に対して0.1モルパーセント以上5モルパーセント以下含有しており、ジオール成分の80モルパーセント以上がメチレン基炭素数が2のグリコールからなる共重合ポリエステル組成物を、溶融紡糸し、紡糸速度500m/分以上6000m/分以下の速度で巻取り、ガラス転移温度以上で予熱した後に、延伸、定長熱処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、実用耐久性と海水分解性を高いレベルで両立させた海洋分解性共重合ポリエステル繊維及びその製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ランダム共重合型ポリマー、交互共重合型ポリマー、ブロック共重合型ポリマーの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維は、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸からなる海洋分解性共重合ポリエステル繊維である。そして脂肪族ジカルボン酸としては、メチレン基炭素数が2または4となるジカルボン酸成分が全酸成分に対して3モルパーセント以上35モルパーセント以下を有しており、スルホン酸としてスルホネート基を有するジカルボン酸成分が全酸成分に対して0.1モルパーセント以上5モルパーセント以下含有している。
【0014】
さらに本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維は、ジカルボン酸成分と共にポリエステルを構成するジオール成分としては、全ジオール成分の80モルパーセント以上がメチレン基炭素数が2のグリコールである。
【0015】
すなわち本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維は、上記のような脂肪族酸、芳香族酸及びスルホン酸を必須成分として含むポリエステル組成物からなる繊維であって、さらにこの本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維は、融点が180℃以上230℃以下であることを必須とする繊維である。
【0016】
さらに本発明の本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維を構成するポリエステル組成物としては、結晶性脂肪族-芳香族ランダム共重合ポリエステル組成物であって、酸成分は、3モルパーセント以上35モルパーセント以下のメチレン基炭素数2または4の脂肪族カルボン酸成分と、65モルパーセント以上97モルパーセント以下の芳香族ジカルボン酸成分からなり、この全酸成分に対して0.1モルパーセント以上5.0モルパーセント以下のスルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸成分を含むことが好ましい。
【0017】
また本発明で用いられるポリエステルを構成するジオール成分としては、全ジオール成分の80モルパーセント以上がメチレン基炭素数が2のグリコールからなるものであるが、この80モルパーセント以上のエチレングリコールを第1のグリコール成分とし、第2のグリコール成分として0以上20モルパーセント以下の他のグリコール成分を有していてもよい。また物性を損なわない程度に上記ポリエステルに他のアルキレングリコール等の共重合成分に加え、艶消し剤、滑剤、分解促進などの目的で、他の充填剤を添加してもよい。
【0018】
ここでさらに本発明の繊維に用いられる芳香族ジカルボン酸成分を詳細に説明する。
本発明で用いる芳香族ジカルボン酸成分としては、8個~20個の炭素を有する無置換および置換芳香族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸のグリコレートエステル、および芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルから選択されるものであることが好ましい。望ましいジカルボン酸の例には、テレフタル酸類、イソフタル酸類、ナフタル酸類および二安息香酸類(bibenzoate)から誘導されたものが含まれる。芳香族ジカルボン酸成分として使用するのに望ましいジカルボン酸の具体例には、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ビス(2-ヒドロキシエチル)、イソフタル酸、イソフタル酸ジメチル、イソフタル酸ビス(2-ヒドロキシエチル)、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタル酸ジメチル、2,7-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタル酸ジメチル、3,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、3,4’ジフェニルエーテルジカルボン酸ジメチル、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸ジメチル、3,4’-ジフェニルスルフィドジカルボン酸、3,4’-ジフェニルスルフィドジカルボン酸ジメチル、4,4’-ジフェニルスルフィドジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルフィドジカルボン酸ジメチル、3,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、3,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸ジメチル、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸ジメチル、3,4’-ベンゾフェノンジカルボン酸、3,4’-ベンゾフェノンジカルボン酸ジメチル、4,4’-ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ベンゾフェノンジカルボン酸ジメチル、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタル酸ジメチル、4,4’-メチレンビス(安息香酸)、4,4’-メチレンビス(安息香酸)ジメチル、およびそれから誘導される混合物が含まれる。特には芳香族ジカルボン酸成分として、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸、イソフタル酸ジメチル、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタル酸ジメチル、またはその混合物から選択されるものであることが好ましい。本発明においては上記のような芳香族ジカルボン酸を使用することができるが、さらには芳香族ジカルボン酸成分が主としてテレフタル酸であることが最も好ましい。
【0019】
そして本発明の繊維に用いられる結晶性脂肪族-芳香族ランダム共重合ポリエステル組成物においては、65モルパーセント以上97モルパーセント以下の上記の芳香族ジカルボン酸成分を含むことが好ましく、さらには68モルパーセント以上95モルパーセント以下、70モルパーセント以上90モルパーセント以下、特には70モルパーセント以上80モルパーセント以下の芳香族ジカルボン酸成分を含むことが好ましい。芳香族ジカルボン酸成分が65モルパーセントよりも小さい場合には、十分な結晶性が得られず、高い耐熱性となりにくい傾向にある。また芳香族ジカルボン酸成分が97モルパーセントよりも大きい場合には海水中において所望の加水分解性/生分解性がえられにくい傾向にある。またそのように芳香族ジカルボン酸成分が多い場合には、繊維の易染性が低下する傾向にある。
【0020】
また本発明の繊維において芳香族ジカルボン酸と共に用いられる脂肪族ジカルボン酸成分としては、メチレン基炭素数が2または4となる無置換、置換、線状および分枝の脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸のグリコレートエステル、および脂肪族ジカルボン酸の低級アルキルエステルから選択されるものであることが好ましい。このような脂肪族ジカルボン酸成分の具体例としては、コハク酸、コハク酸ジメチル、メチルコハク酸、アジピン酸、アジピン酸ジメチル、3-メチルアジピン酸など、およびそれらから誘導された混合物が含まれる。
【0021】
繊維の初期機械物性を保ちながら、分解速度が速いという観点では、脂肪族ジカルボン酸としては特にはメチレン基炭素数2となる無置換、置換、線状および分枝の脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸のグリコレートエステル、および脂肪族ジカルボン酸の低級アルキルエステルから選択されるものであることが特に好ましい。このような望ましい脂肪族ジカルボン酸成分の具体例には、コハク酸、コハク酸ジメチル、メチルコハク酸など、およびそれらから誘導された混合物が含まれる。
【0022】
本発明ではこのような脂肪族ポリエステルを含有することによって加水分解性は高くなる。また、脂肪族ポリエステル構成成分中のメチレン基数を少なくすることによって、単位量あたりのエステル密度が高くなり、加水分解性を向上させる。さらにそのメチレン基炭素数を2または4の偶数とすることによって、共重合であるにも関わらず融点の低下が少なく、高い物性の維持が可能となった。さらにこのような脂肪族ポリエステルを含有することによって、本発明の共重合ポリエステル繊維は、優れた易染性と染色後の高い洗濯堅ろう度(洗濯に対する染色堅牢度)を得ることが可能となった。
【0023】
また本発明では、全酸成分に対してメチレン基炭素数が2または4となるジカルボン酸成分が3モルパーセント以上35モルパーセント以下含有することを必須とするが、他の脂肪族ジカルボン酸成分を若干であれば含有しても良い。
【0024】
そのような脂肪族ジカルボン酸成分の具体例としては、上記のコハク酸等以外に、シュウ酸、シュウ酸ジメチル、マロン酸、マロン酸ジメチル、グルタル酸、グルタル酸ジメチル、2-メチルグルタル酸、3-メチルグルタル酸、など、およびそれらから誘導された混合物が含まれる。
【0025】
ただし脂肪族酸としてメチレン基炭素数5以上の脂肪族ジカルボン酸成分を併用した場合には、加水分解点/生分解点となる単位体積当たりのエステル基濃度が低くなり、ポリマーの加水分解性/生分解性が得られにくくなる傾向にある。またメチレン基炭素数が1以下の脂肪族ジカルボン酸成分を用いた場合は、重合時脂肪族ジカルボン酸成分が熱分解を起こしやすく、適切な重合度のポリマーを得られることができず好ましくない。加えて、メチレン基炭素数が奇数である1や3などの脂肪族ジカルボン酸成分を用いた場合にも、結晶性が低下し初期機械物性が得られず、好ましくない。
【0026】
本発明では、先にも述べたようにメチレン基炭素数が2または4となるジカルボン酸成分である脂肪族酸を、全酸成分に対して3モルパーセント以上35モルパーセント以下含有する。メチレン基炭素数2または4となる脂肪族ジカルボン酸が3モルパーセントよりも小さい場合には、所望の加水分解性/生分解性がえられないばかりか染色性が低下する。またメチレン基炭素数2または4となる脂肪族ジカルボン酸が35モルパーセントよりも大きい場合には十分な結晶性が得られない。加えて初期機械物性を保ちながら、分解速度が速いという観点では、メチレン基炭素数2または4となる脂肪族ジカルボン酸が5モルパーセント以上32モルパーセント以下、好ましくは10モルパーセント以上30モルパーセント以下、さらに好ましくは20モルパーセント以上30モルパーセント以下含むことが好ましい。また、メチレン基炭素数が2となるジカルボン酸成分を含有することが特に好ましい。
【0027】
また本発明では、スルホネート基を有するジカルボン酸成分が全酸成分に対して0.1モルパーセント以上5.0モルパーセント以下含有することを必須とする。このようなスルホネート基を有するジカルボン酸成分としては、5-スルホイソフタル酸の金属またはホスホニウム等からなる有機リン化合物、または5-スルホイソフタル酸低級アルキルエステルであることが好ましい。ここで金属塩は、例えば一価または多価のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、または他の金属イオンとすることができる。アルカリ金属イオンは、ナトリウム、カリウム、またはリチウムであることが好ましい。さらにマグネシウムなどのアルカリ土類金属も有用である。他の有用な金属イオンには、亜鉛、コバルト、または鉄などの遷移金属イオンが含まれる。
【0028】
スルホネート基を有するジカルボン酸成分が全酸成分に対して0.1モルパーセントより少ない場合はスルホネート基による分解促進効果が得られず、5モルパーセントよりも多い場合、スルホネート基がポリマーを繊維化した際の配向・結晶を阻害するため、初期機械強度が得られず、好ましくない。さらにはスルホネート基を有するジカルボン酸成分が全酸成分に対して0.5モルパーセント以上3.0モルパーセント以下含有することが好ましい。
【0029】
さらに本発明における海洋分解性を有する繊維を構成するポリエステル中のジオール成分としては、その全ジオール成分の80モルパーセント以上がメチレン基炭素数が2のグリコールであることが必要である。グリコール成分として80モルパーセントよりも小さい場合、高い耐熱性と、優れた生分解性を得ることができず好ましくない。さらには全ジオール成分の90モルパーセント以上100モルパーセント以下がエチレングリコールであることが好ましい。
【0030】
このほか、主とするメチレン基炭素数が2のグリコールであるエチレングリコールに加えて、他のジオール成分を併用しても良い。例えば、2個の炭素原子~36個の炭素原子を有する無置換、置換、直鎖、分岐、環状の脂肪族、脂肪族-芳香族及び芳香族ジオールから選択される1つまたは複数のグリコールを含むが、偶数個のメチレン基炭素数をその主骨格中に含むジオールであることが好ましい。
【0031】
特には、本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維には、さらに優れた親水性、生分解性、易染性を与えるために、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(1,4-ブチレングリコール)に代表されるポリアルキレングリコールを添加または共重合してもよい。なお共重合を得る場合、アルキレングリコールは任意の段階で添加することができるが、熱による着色がしやすいため、ポリエステル組成物中に均一に分散させることが好ましい。このため、エステル化反応もしくはエステル交換反応が実質終了した時点から重縮合反応の開始までに添加することが好ましい。
また本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維においては、さらに亜リン酸エステル化合物を含有することが好ましい。
【0032】
ここで、亜リン酸エステル化合物とは、亜リン酸エステル並びにこれらの混合物及び組み合わせを含む群から選択される物質であって、プロトン性条件下で縮合ポリマーの加水分解を触媒する添加剤(加水分解触媒)として用いられる物である。このような亜リン酸エステル化合物を含有することにより、海洋環境下での繊維を構成するポリマーの分解・劣化を、より促進することが可能となる。
【0033】
本発明においては先に述べたジカルボン酸成分に含まれるスルホネート基によって親水性が高まり加水分解のトリガーである水を組成物中に呼び込む効果を有するのであるが、さらにこのような亜リン酸エステルを併用することによって、亜リン酸エステル化合物の分解触媒機能がより効果的に作用することが可能となる。
【0034】
本発明の繊維を構成するポリエステル中への亜リン酸エステル系分解促進剤の添加量としては、組成物樹脂中に5質量%以下含むことが好ましい。さらには0.2~3質量%の範囲が、特には0.5~2質量%の範囲であることが好ましい。これらの剤の添加量が少なすぎると分解速度を高める効果が低くなり、多すぎると成形性が悪く、あるいは熱安定性が悪化する傾向にある。
【0035】
ここで上記、亜リン酸エステルは例えば、脂肪族基を有するホスファイトなどの容易に加水分解され得るホスファイトであり得る。少なくとも1つのホスファイトは、一般式(I)を有するホスファイトであることが好ましい。
【0036】
【化1】
【0037】
ここで、置換基Rは任意に置換された炭素数4(C4)~炭素数32(C32)の-アルキル-、シクロアルキル-及びアリール残基を含む群から選択された基であり、置換基R、Rは、任意に置換された炭素数4(C4)~炭素数32(C32)の-アルキル-、シクロアルキル-及びアリール残基、及び環状系を含む群から選択された基であり、あるいは置換基R及びRは結合しスピロ環を形成する。
さらに、このような亜リン酸エステルの例を以下に例示する。
【0038】
【化2】
【0039】
【化3】
【0040】
【化4】
【0041】
【化5】
【0042】
【化6】
【0043】
本発明においては、上記の亜リン酸エステルを用いることが可能であるが、好ましくは
3,9-Bis(octadecyloxy)-2,4,8,10-tetraoxa-3,9-diphosphaspiro[5.5]undecane(化学式4)、
もしくは
3,9-Bis(2,6-di-tert-butyl-4-methylphenoxy)-2,4,8,10-tetraoxa-3,9-diphosphaspiro[5.5]undecane(化学式5)
のような、亜リン酸エステル基としてペンタエリスリトール構造を有する亜リン酸エステルを用いることが好ましい。これらは、通常使用時には安定であるが、多量の水環境中で容易に加水分解されて酸を生成し、これがポリマーの分解促進剤として機能する。特に海水環境中では加水分解スイッチとして機能することになり、好ましく用いられる。
【0044】
さらに本発明では、組成物にポリエステルで使用する際に知られている任意の充填剤材料を使用することも可能である。その発明の効果を失わない範囲で、公知のあらゆる添加剤、フィラーを添加して用いることができる。例えば、充填剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、耐衝撃改良剤などを含有することも好ましい。添加剤、充填剤、またはブレンド材料を、重合プロセスの前に、重合プロセス中の任意の段階で、または後重合プロセスとして添加することができる。
【0045】
さらに本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維は、その繊維を構成するポリエステルにおいて、芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジカルボン酸成分のランダム共重合度が0.8以上1.2以下であることが好ましい。
【0046】
ここで本発明のランダム共重合度とは、1H核磁気共鳴分析(プロトンNMR)によって測定することができるものである。
例えば図1において、〇を芳香族ジカルボン酸部、●を脂肪族ジカルボン酸とすれば、ジオール成分のプロトンのNMRシグナルを計測することによって、芳香族ジカルボン酸同士が結合した「〇〇」結合部(TET)、脂肪族ジカルボン酸部同士が結合した「●●」結合部(SES)、芳香族ジカルボン酸部と脂肪族ジカルボン酸部が結合した「〇●」結合部(TES)の3種類の結合部の比率を、まずは求めることができる。
【0047】
この時、それぞれの結合比率F、すなわち各FTET、TES、SES(ただし、FTET+FTES+FSES=1)の値から、芳香族ジカルボン酸部の平均的な連鎖長Lt、脂肪族ジカルボン酸部の平均的な連鎖長Lsは、下記式となる。
【0048】
【数1】
【0049】
【数2】
【0050】
そして本発明のランダム共重合度Rは、上記の平均連鎖長L及びLから、
R=1/L+1/L (式3)
で求めることができる値である。
【0051】
ランダム共重合度Rが0≦R<1の値となる場合、0に近いほどブロック共重合性が高い。逆にランダム共重合度Rが、1<R≦2の値となる場合、2に近いほど交互共重合性が高く、結局R=1に近いほどランダム共重合性が高いことを表している。本発明の海洋分解性を有する繊維を構成するポリエステルとしては、そのランダム共重合度が0.8~1.2であることが好ましく、さらにはランダム共重合度が0.85~1.15であること、特には0.9~1.1であることが好ましい。このように高いランダム共重合度の場合に、より優れた海水分解性を得ることが可能となった。
【0052】
本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維においては、共重合しているメチレン基炭素数が2または4の脂肪族ジカルボン酸成分が形成するエステル結合が、芳香族ジカルボン酸成分によって形成されるエステル結合よりも加水分解されやすく、分解促進点としてより機能しやすくなる。
【0053】
そして図1に示すように、共重合はランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合に分類されるが、分解促進点として機能しやすい脂肪族ジカルボン酸がどのように共重合されているかも、その後の海水分解性に影響する。上記のように脂肪族ジカルボン酸のランダム共重合性が高いことが分解性の向上に寄与し、分解性が優れるとともに実用的な機械物性両立させることとなる。ランダム共重合度が低くブロック共重合性が高い場合、脂肪族ジカルボン酸部分のみが優先的に分解するため、分解性の低い芳香族ジカルボン酸部が長く結合したポリマーが残ってしまい、その後の分解速度が遅くなりやすい。逆にランダム共重合度が高く交互共重合性が高いと、脂肪族ジカルボン酸部分が優先的に分解しやすく、後に残る芳香族ジカルボン酸部分のポリマー鎖は短くなるものの、一方で分解していない部分の均一性が高く結晶化が進みやすいため、最終的には分解速度が遅くなってしまうものと推察される。
【0054】
さらには本発明の繊維を構成するポリエステルでは、芳香族ジカルボン酸部の平均的な連鎖長Lは4以上、脂肪族ジカルボン酸成分の平均連鎖長Lが2未満であることが好ましい。特には例えば芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸の共重合比が70:30~90:10の範囲の場合には、芳香族ジカルボン酸部の平均的な連鎖長Lは3~9、脂肪族ジカルボン酸成分の平均連鎖長Lが1.1~1.5の範囲であることが好ましい。
【0055】
そしてこのような本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維は、融点が180℃以上230℃以下であることを必須とする。さらには融点が190℃以上220℃以下であることが好ましい。繊維の融点が180℃よりも小さくなると、耐熱性が低くなる。また繊維の融点が230℃よりも大きくなると、高い海水中の分解性がえられない。さらには最終的な繊維製品の易染性も低下する。
【0056】
本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維は、上記のような組成比のポリエステルを用いると共に、融点が180℃以上230℃以下との要件を満たすことによって、繊維物性と海水分解性とを高いレベルで両立させることが可能となったのである。
【0057】
さらには本発明の繊維の融解熱量としては15J/g以上とすることが好ましい。融解熱量は繊維の配向度や結晶性が高まるのに比例して増加する数値であり、このように高い融解熱量を有すると、繊維物性としても高い値となりやすい。さらに好ましくは融解熱量が20J/g以上、さらに好ましくは、25J/g以上40J/g以下であることが好ましい。15J/gよりも小さくなるとポリマーを溶融紡糸-延伸時に、十分な配向・結晶性がえられず、優れた機械特性が得られない傾向にある。
【0058】
また、本発明の共重合ポリエステル繊維のガラス転移温度は30℃以上65℃以下であることが好ましい。さらに好ましくは35℃以上60℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が、30℃よりも小さい場合、耐熱性や洗濯耐久性、堅ろう性が低下する傾向にある。また、本発明の海洋分解性を有する繊維を構成する共重合ポリエステルの極限粘度(IV)は0.40~1.30dl/gであることが好ましい。極限粘度が低くなると、強度等の繊維物性が低下する傾向にある。また、極限粘度が高すぎる場合には、重縮合槽での撹拌や、重合装置や紡糸装置などの成形機から吐出が困難となる傾向にある。さらに極限粘度の好ましい範囲は、0.5~1.10dl/gである。これらは、主たる繰り返し単位である脂肪族カルボン酸の種類やスルホネートを有するジカルボン酸の共重合比率によって調整することができる。
【0059】
そしてこのような本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維は、30℃海水中で60日後に、主鎖切断数が5(eq/ton)/60日以上となることが好ましい。さらには12~60(eq/ton)/60日の範囲であることや、特には20~40(eq/ton)/60日の範囲であることが好ましい。
【0060】
このような本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維は、フィラメント繊維から構成された糸条であることが好ましい。糸条を構成するフィラメントの本数としては12~240本、さらには20~120本の範囲であることが好ましく、糸条を構成する単糸の繊度としては0.5~10dtex、さらには1~5dtexの範囲であることが好ましい。糸条の総繊度としては5~1500dtex、さらには10~500dtexであることが好ましい。
【0061】
そして本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維は、その繊維または繊維から構成される糸条(以下、両者を含めて「繊維等」と記載する)の強度×√伸度の値が13.0以上であることが好ましく、さらに好ましくは15.0以上、特に好ましくは17.0~40の値であることが好ましい。繊維等の強度×√伸度が小さい場合、繊維等の機械物性が低く、耐久性が低い傾向にある。
【0062】
また本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維は、沸水収縮後、もしくは染色後における繊維または繊維から構成される糸条の伸度10%にける強度が0.7cN/dtex以上、1.5cN/dtex以下とすることが好ましい。沸水収縮後、もしくは染色後における繊維等の伸度10%における強度が小さすぎる場合、繊維を構成するポリマーの配向・結晶化度が小さく、繊維等の機械物性が低く、耐久性が低くなる傾向にある。逆に繊維等の伸度10%における強度が1.5cN/dtexよりも大きい場合、繊維等が100℃以下常圧下の温度で染まりにくい傾向となる。
【0063】
ここで繊維の染色性に関して、繊維等を筒編みし、70℃で20分の精練を行った後、70℃20分の乾燥を行い、その後130℃の高圧条件下にて染色した際の色相を分光光度計を用いて反射光を分析しカラーを測定し、高圧条件下の染色性として評価する。また同様に100℃常圧下において同様に繊維等の筒編みを染色した際に、高圧染色時の筒編みのL値と常圧染色時の筒編みのL値の比である染色率(下記式)としては、90%以上であることが好ましい。より好ましくは95%以上さらに好ましくは98%~100%の範囲であることが好ましい。染色率が低い場合は、繊維等が100℃常圧下で染まりにくくなることを示す。
染色率=(常圧染色時の筒編みL値)/(高圧染色時の筒編みL値) (式4)
【0064】
さらに繊維長軸方向のポリマーの配向度が85%以上であることが好ましく、特には90~96%の範囲であることが好ましい。配向度が低すぎる場合、優れた機械強度が得られにくい傾向になる。また繊維中の結晶化度としては50%以上とすることが好ましく、特には60~80%の範囲であることが好ましい。繊維中の結晶化度が低すぎる場合、沸水収縮化時の強度が低下する傾向にある。
【0065】
本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維を用いて、これを10質量%以上含む混繊糸、織編物などの布帛や繊維構造体とした際には、優れた分解性と機械特性、寸法安定性や易染性を有するものを得ることができる。本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維を10質量%以上含むことよって、高い海水分解性と機械物性が両立した繊維製品を得ることが可能となる。
【0066】
そのような繊維製品としては長繊維や短繊維を用いてなる糸条や混繊糸、あるいはそれらを用いた織編物、不織布等、各種繊維製品を挙げることができ、衣料以外に産業用の繊維製品としても使用することが可能である。
そしてこのような本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維は、もう一つの本発明である海洋分解性共重合ポリエステル繊維の製造方法によって得ることが可能となる。
【0067】
すなわち、脂肪族酸、芳香族酸及びスルホン酸からなる海洋分解性共重合ポリエステル繊維の製造方法であって、脂肪族酸としてメチレン基炭素数が2または4となるジカルボン酸成分が全酸成分に対して3モルパーセント以上35モルパーセント以下含有し、スルホン酸としてスルホネート基を有するジカルボン酸成分が全酸成分に対して0.1モルパーセント以上5モルパーセント以下含有しており、ジオール成分の80モルパーセント以上がメチレン基炭素数が2のグリコールからなる共重合ポリエステル組成物を、溶融紡糸し、紡糸速度500m/分以上6000m/分以下の速度で巻取り、ガラス転移温度以上で予熱した後に、延伸、定長熱処理することを特徴とする海洋分解性共重合ポリエステル繊維の製造方法である。
【0068】
さらにはその得られる繊維において
・融解熱量が15J/g以上であること。
・ガラス転移温度が35℃以上65℃以下であること。
・繊維長軸方向のポリマー配向度が85%以上であること。
・繊維中のポリマー結晶化度が50%以上であること。
・亜リン酸エステルを含む化合物を含有すること。
・30℃海洋環境下における数平均分子量の60日後の主鎖切断数が5(eq/ton)/60日以上であること。
の特性を有する海洋分解性共重合ポリエステル繊維を製造する方法であることが好ましい。
【0069】
そしてこのような本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維の製造方法に用いるポリエステルは、その重縮合プロセス等によっても物性を調整することができる。重縮合プロセスとしては、溶融重合プロセスを使用する公知の方法を用いることができる。溶融重合プロセスにおいては、酸、エステル、またはそれらから誘導される混合物としての芳香族ジカルボン酸成分、酸、エステル、またはそれらから誘導される混合物としての脂肪族ジカルボン酸成分、スルホネート成分、エチレングリコールまたは任意のその他のグリコール成分、および任意の多官能性分枝化剤を、充分に高温で触媒の存在下で組み合わせ、モノマーが結合したエステルおよびジエステル、ついでオリゴマー、最後にはポリマーを形成する。この重合プロセスの生成物は、溶融生成物となる。通常、第一のグリコール成分のエチレングリコールまたは必要に応じて用いる第二のグリコール成分は揮発性であるので、重合が進行するにつれて、過剰なものは反応器から留出させる。
【0070】
重合時の溶融プロセス条件、特に使用するモノマーの量に関しては、所望する最終的なポリマー組成に応じて変更することが可能である。エチレングリコール、その他のグリコール成分、芳香族ジカルボン酸成分、脂肪族酸成分、スルホネート化合物の量は、最終的なポリマー生成物が、各種のモノマー単位の所望の量、望ましくは、個々のジオールおよび二酸成分から誘導されるモノマー単位が当量となるように、選択する。いくつかのモノマー、例えば第二のグリコール成分やエチレングリコール成分が揮発性であること、および、反応器の密閉度(加圧条件)、重合温度の上昇速度、ポリマーの合成に使用する蒸留カラムの効率、などに応じて、原料となるモノマーの量を調整する。第二のグリコール成分およびエチレングリコール成分等は、重合反応の開始時には過剰に存在させ、反応が進行するにつれて蒸留によって除去することが好ましい。
【0071】
さらには過剰となるように二酸、エチレングリコール成分、およびその他のグリコールを仕込むことが好ましく、過剰の二酸、エチレングリコール、およびその他のグリコールを、重合反応が進行するにつれて蒸留または他の方法の蒸発によって除去することが好ましい。より具体的には、例えばエチレングリコールを、最終ポリマー中で望まれている量よりも10~100%多く仕込むことが好ましい。さらには20~70%多く仕込むことがより好ましい。また第2のグリコール成分を用いる場合は、第2のグリコール成分の揮発性に応じて、最終生成物中で望まれている量よりも0~100%多く仕込むことが好ましい。これらの数値は、用いる蒸留塔、ならびに他の種類の回収および再生システムなどの効率に応じて変更することができる。
【0072】
このような共重合ポリエステルの重合プロセスでは、ジカルボン酸として直接エステル化する方法、またはジアルキルエステルからエステル交換する方法でオリゴマーを作製する第一段階の反応の後、得られたオリゴマーを高温真空下で重合反応する2段階のいずれの方法を採用することも可能である。直接エステル化法には触媒は不要であるが、エステル交換反応の場合は触媒を用いて行う。エステル交換触媒としては、Li、Ca、Mg、Mn、Zn、Pb、SnおよびTiの酢酸塩などの塩、グリコール付加物およびTiアルコキシドを含めた酸化物が使用される。第2段階の反応である重合反応においては触媒の添加は必須である。重合触媒としては、Sb、Sn、GeおよびTiのグリコール付加物およびTiアルコキシドを含めた酸化物が好適に用いられる。
【0073】
この時、通常のポリエステルの製造方法では重合触媒は任意の段階で添加することができるが、本発明においては、芳香族ジカルボン酸とジオール成分とを反応せしめた芳香族ポリエステルオリゴマーにあらかじめ重合触媒を添加し、分散させた状態で脂肪族ジカルボン酸を添加し、230℃~約300℃、好ましくは250℃~295℃の範囲の温度で重合反応を行うことが好ましい。この方法により、本発明の脂肪族-芳香族共重合ポリエステル組成物のランダム共重合性を高めることができる。
【0074】
上記の溶融縮合プロセスによって得られたポリマーは、さらに固相重合を使用して、より高い分子量とすることが好ましい。
このような上記の方法によって得られた共重合ポリエステルは、さらに溶融紡糸することによって、繊維形状とする。より具体的には上記の共重合ポリエステル組成物を、溶融紡糸し、紡糸速度500m/分以上6000m/分以下の速度で巻取り、ガラス転移温度以上で予熱した後に、延伸、熱処理し、海洋分解性共重合ポリエステル繊維とする。
【0075】
本発明の繊維の製造においては、熱処理が重要であり、さらには紡糸速度500m/分以上6000m/分以下の速度で糸を捲き取り、そのまま直接もしくは一度紙管に巻きつけた後、引き続いて、ポリマーのガラス転移温度以上で糸を予熱した後、糸の伸度が100%以下となるように延伸行い、さらに続けて、0.8~1.3倍の延伸を行いながら、150℃以上の熱ローラーに巻きつけることが好ましい。本発明の製造方法では、このような延伸、熱処理を行うことで、ポリマーの配向・結晶化度を高めることができ、沸水下における収縮率を下げ、後の染色等の工程でも高い寸法安定性が得られる繊維等とすることが可能となった。
【0076】
従来、脂肪族―芳香族共重合ポリエステルを繊維化して、生分解性の高い繊維とした場合、寸法安定性が低く、繊維を染色・熱セットする工程で糸が収縮しやすいという問題があった。本発明の繊維製造の製造方法にて得られた繊維は、特定のポリマー組成を適切な延伸、熱セット処理を行うことによって、脂肪族酸の共重合が高いにも関わらず結晶化度の高い収縮しがたい繊維とすることが可能となり、後工程通過性能に優れた脂肪族―芳香族共重合ポリエステル繊維を得ることが可能となった。
【0077】
このような本発明のポリエステル繊維の製造方法における紡糸速度としては、さらには1000~5000m/分の範囲であることが好ましい。また延伸条件は紡糸口金より溶融紡糸し巻取った後、得られた未延伸糸を残留伸度が10%~40%になるよう予熱後延伸することが好ましい。延伸前の予熱温度は延伸するポリエステルのガラス転移点以上であることが好ましく、さらにはガラス転移点となる温度の5~30℃高い温度であることが好ましい。延伸倍率は1.5~4倍であることが好ましく、さらには延伸倍率が1.8~3倍であることが好ましく、延伸工程としては2段以上であることも好ましい。さらに延伸後の熱処理は1.00~1.05倍の若干の延伸であることも好ましく、熱処理温度としては100~120℃の範囲であることが好ましい。さらに最後に熱セットを行うことが好ましく、150~180℃の加熱ローラーで張力をかけながら熱セット行った後、紙管に巻きつけることが好ましい。特に本発明の製造方法では、最後の熱セット条件が重要であり、張力の掛かりにくい加熱ローラーにて熱セットを行うことが特に好ましい。
【0078】
紡糸速度が低すぎる場合には単純に生産性が悪くなるし、高すぎる場合にも糸切れ等が発生し生産性が低下する傾向にある。また予熱温度がポリマーのガラス転移温度未満の場合には、繊維の延伸時に斑が発生する傾向にある。本発明の製造方法では、延伸0.8以上1.3以下倍の延伸を行いながら150℃以上の熱ローラーに巻きつけて熱処理を行うことが特に好ましく、沸水下における繊維の寸法安定性を高めることが可能となる。この熱処理時の延伸倍率が低すぎる場合、繊維を構成するポリエステルの配向・結晶化が十分に生じず、糸の機械物性が劣る傾向にある。逆に熱処理時の延伸倍率が高すぎる場合、処理繊維の工程張力が高くなりすぎ、糸の機械物性が低下する傾向にある。
【0079】
このような本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維及びもう一つの本発明の製造方法にて得られた海洋分解性共重合ポリエステル繊維は、円形、異形、中実、中空等の繊維とすることができ、マルチフィラメントや短繊維からなる糸条やそれからなる織編物、短繊維からなる不織布等の様々な繊維製品として使用することが可能となる。
【0080】
そしてそのような本発明の海洋分解性共重合ポリエステル繊維を含む繊維製品は、高い海洋生分解性を有しながら、高い配向・結晶性を同時に満たすことによって、優れた機械物性および熱による形態安定性に優れた繊維製品となった。またさらには後工程通過性に優れるため他素材との併用使用することも容易となり、また生分解の困難な海洋中に流出した場合でも、生分解しやすい、環境にやさしい繊維となった。
【実施例0081】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
【0082】
(1)脂肪族―芳香族共重合ポリエステルの極限粘度(IV)
試料を35℃、o-クロロフェノール中での比粘度ηspと濃度C(g/100ミリリットル)の比ηsp/Cを濃度ゼロに外挿し、以下の式に従って求めた。
[η]=limC→0(ηsp/C) (式5)
【0083】
(2)数平均分子量(Mn)
ポリマーの数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定し、標準ポリスチレンに換算した値とした。
測定時には、下記の検出器およびカラムを使用し、クロロホルムを溶離液とし温度40℃、流速1.0ml/minの条件にて、サンプル溶液10μLをカラムに注入し測定を行った。サンプル溶液は、濃度2mg/mlとなるようにクロロホルムへサンプルを溶解した後、0.45μmPTFE製メンブレンフィルターにて濾過した物を使用した。
検出器;示差屈折計;(Waters Corporation製)「Waters 2414」。使用カラムとしては、昭和電工株式会社製「shodex GPC K-806L」を直列に2本接続した。
【0084】
(3)ガラス転移温度(Tg)、融点、および融解熱量
ISO11357-3、ASTM D3418に準拠し測定を行った。
TAインスツルメント社製の示差走査熱量計(DSC「Q‐20」)を用い、円労度昇温速度10℃/分で室温から350℃まで昇温し、繊維の原料となる各樹脂を完全に融解させたあと、急冷し、更に10℃/分の速度で300℃まで昇温するときに得られる吸熱ピークの頂点を融点とし、ガラス転移温度(Tg)及び融解熱も測定した。
【0085】
(4)ランダム共重合度
まず、試料10mgを重トリフルオロ酢酸/重クロロホルム=1/1の混合溶媒0.6mLに溶解し、室温で日本電子株式会社性「ECA600」を用いて600MHz1HNMRを測定する。標準物質としてテトラメチルシランを用い、芳香族ジカルボン酸同士が結合したジオール成分のプロトン、脂肪族ジカルボン酸同士が結合したジオール成分のプロトン、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸が結合したジオール成分のプロトンそれぞれに由来するNMRシグナルを計測した。
【0086】
次にこれらのジオール成分のプロトンのNMRシグナルから、芳香族ジカルボン酸同士が結合した結合部(TET)、脂肪族ジカルボン酸部同士が結合した結合部(SES)、芳香族ジカルボン酸部と脂肪族ジカルボン酸部が結合した結合部(TES)の3種類の結合部の比率を求めた。そしてこの3種類の結合比率F、すなわち各FTET、FTES、FSES(ただし、FTET+FTES+FSES=1)の値から、芳香族ジカルボン酸部の平均的な連鎖長L、脂肪族ジカルボン酸部の平均的な連鎖長Lを、下記式によって求めた。
【0087】
【数3】
【0088】
【数4】
【0089】
得られた芳香族ジカルボン酸部の平均的な連鎖長Lt、脂肪族ジカルボン酸部の平均的な連鎖長Lsから、下記式によりランダム共重合度Rを求めた。
R=1/L+1/L (式3)
【0090】
(5)繊度
JISL1013:2010 8.3.1 A法に従い、繊度の測定を行った。
【0091】
(6)繊維破断強度、伸度
JISL1013に基づいて定速伸長形引張試験機であるオリエンテック株式会社製テンシロンを用いて、つかみ間隔20cm、引張速度20cm/分にて測定した。
【0092】
(7)沸水収縮率(BWS)
得られた繊維を綛取りし、0.05g/dの荷重下での綛長がL0の試料を無荷重下沸騰水(100℃)中で30分間処理し、0.05g/dの荷重下での綛長L1を求め、次式により算出した。
BWS(%)=〔(L0-L1)/L0〕×100 (式6)
【0093】
(8)沸水収縮後における伸度10%における繊維強度
得られた繊維を綛取りし、無荷重下沸騰水(100℃)中で30分間処理し、定速伸長形引張試験機であるオリエンテック株式会社製テンシロンを用いて、つかみ間隔20cm、引張速度20cm/分にて破断強度、伸度を測定し、伸度10%における引っ張り強度の値を読み取り、沸水収縮後における伸度10%における繊維強度とした。
【0094】
(9)染色率
得られた繊維を筒編みし、70℃で20分間の精練を行った後、70℃で20分の乾燥を行い、下記の条件で100℃および130℃でそれぞれ30分間染色し、70℃で20分間の還元洗浄を行い、風乾した。得られた染色編地を140で1分の熱セットを行った。得られた編地を3枚に重ね合わせ、マクベス分光光度計(CE3100)を用いて、編地サンプルの反射率測定から測色し、L値、a値、b値を算定した。
130℃高圧染色時の繊維L(高)値と常圧染色時の繊維L(常)値のL値の割合である染色率=L(高)/L(常)の測定を行った。
染色条件;分散染料 「TERASIL」 NAVY GRL-C 200% 1%(対繊維重量)
分散剤;「ニッカサンソルト」 SN-250 1g/L
浴比;1:30
【0095】
(10)洗濯堅ろう度
JIS L 0844 「洗濯に対する染色堅ろう度試験方法」A-1号に従い試験を実施した。
【0096】
(11)結晶化度および結晶配向度(広角X線回折測定)
結晶化度および結晶配向度(ポリマー配向度)は、理学電気社製X線発生装置(RINT-TTRIII)、イメージングプレート(R-AXIS2)を用いニッケルフィルターで単色化下Cu-Kα線(波長=1.5418オングストロング)で測定した。
結晶化度の測定としては、まず得られた繊維試料の繊維軸がX線回折面に対して垂直になるようにサンプルホルダーにセットした。この時の試料の厚みは、1mmになるようにした。強度40kv、152mAでX線発生装置を運転し、約30分間測定した。結晶化度は、X線回折像のデバイ環の赤道方向で、0°~50°の範囲においてX線回折強度曲線を測定し、ブラッグ角2θ=0°と50°の回折強度曲線間を直線で結び、結晶部と非晶部に分離し次式に従って面積法で結晶化度Xcを求めた。
Xc=(結晶部の散乱強度/全散乱強度)×100(%) (式7)
【0097】
結晶配向度の測定としては、サンプルはヤーン1本を用いた。赤道線はサンプルが垂直方向に、子午線はサンプルが水平方向になるようχ軸の角度を変更した。次いで、上記方法で得られた子午線方向の2次元データを以下の条件で、方位角方向のX線回折強度曲線に変換した。2θ=0~50°、χ=-150~-30°、ステップ幅=0.1°
最後に、ピーク2θ=15~20°のピークを有するX線回折強度曲線について上記方法で得られた強度図のピークの半価幅(Wi(°))を求め、簡易法により以下の式を用いて繊維の配向度を算出した。
配向度:A=(360-ΣWi)/360 (式8)
【0098】
(12)主鎖切断数増加速度(低温海水中での分解評価)
得られた繊維を筒編み形状にした試料5g及び天然海水100cc(愛媛県松山港にて採取)を250ccのスクリュー管瓶の中に入れ、30℃、100rpmで60日間振盪させた。60日後、試料を取り出し、真空乾燥機にて一晩乾燥させ、GPCにより数平均分子量を測定し、得られた数平均分子量を用い、試料の主鎖切断数を測定し、下記数式9、10により主鎖切断数増加速度を求めた。
【0099】
【数5】
【0100】
【数6】
【0101】
なお、下記では添加剤として下記の剤を用いた。
亜リン酸エステルA:
3,9-Bis(octadecyloxy)-2,4,8,10-tetraoxa-3,9-diphosphaspiro[5.5]undecane
亜リン酸エステルB:
3,9-Bis(2,6-di-tert-butyl-4-methylphenoxy)-2,4,8,10-tetraoxa-3,9-diphosphaspiro[5.5]undecane
【0102】
[実施例1]<海洋分解性脂肪族―芳香族共重合ポリエステル繊維>
テレフタル酸132質量部、エチレングリコール87質量部をエステル化槽に仕込み、4kg/cmの加圧下、260℃まで昇温してエステル化反応を行い、オリゴマーを得た。得られた反応生成物を重合槽に移し、0.0786質量部の三酸化アンチモンを添加し撹拌分散後、5-ナトリウムスルホイソフタル酸(SIP)1.34質量部(全酸成分に対し、0.5モルパーセント)コハク酸23.6質量部(全酸成分に対し、コハク酸20モルパーセント)を添加し、槽を減圧して真空度1トル以下の高真空化260℃で重合反応行い、脂肪族-芳香族共重合ポリエステルを得た。またこのポリマーに、添加剤として亜リン酸エステルAを全ポリマー組成物に対して1質量部(wt%)になるように混錬した。得られたポリマーの数平均分子量は15×10(g/mol)であり、融点は210℃、融解熱は31J/g、ガラス転移温度は46℃であった。NMRから求められたテレフタル酸とSIPを含む芳香族ポリエステル部分の平均連鎖長LTは4.99、コハク酸部分の平均連鎖長LSは1.24、ランダム共重合度Rは1.01であった。ポリマー組成物の物性を表1に示した。
【0103】
得られたポリマー組成物を常法によりチップ化し、真空乾燥機にて1トル以下になるようにし、80℃にて5時間乾燥し、50ppm以下に乾燥した。このポリマー組成物を用いて孔径0.25mmの円形孔を36個有する紡糸口金より紡糸温度230℃にて溶融紡糸した。吐出糸条は、冷却気流で冷却固化した後、油剤を付与し、3000m/分の巻取速度で巻取った。次いで、得られた未延伸糸を残留伸度が20%~30%前後になるよう65℃で予熱後2.0倍に延伸し、続いて延伸後110℃で加熱し、1.02倍で延伸行いながら160℃の加熱ローラーで張力をかけながら熱セット行った後、紙管に巻きつけた。得られた延伸糸の物性については表2に示す。得られた延伸糸は高い配向・結晶性を有することで、優れた機械物性、熱による形態安定性に優れ、かつ100℃常圧下においても染色性に優れるものであった。
【0104】
[比較例1]
テレフタル酸及びエチレングリコールのみを用い、コハク酸その他の添加物を使用せず、重合温度を285℃とした以外は実施例1と同様に行った。ポリマー組成物の物性を表1に併せて示した。
【0105】
その後、この作製したポリエチレンテレフタレートを用いて、孔径0.25mmの円形孔を36個有する紡糸口金より紡糸温度285℃にて溶融紡糸した。吐出糸条は、冷却気流で冷却固化した後、油剤を付与し、3000m/分の巻取速度で巻取った。次いで、得られた未延伸糸を残留伸度が20%~30%前後になるよう90℃で予熱後1.7倍に延伸し、200℃の非接触式ヒーターを通過させることで熱セット行った後、紙管に巻きつけた。得られた延伸糸の物性については表2に併せて示す。
【0106】
[比較例2]
コハク酸を使用し、SIPや添加剤を使用しなかった以外は実施例1と同様に行い脂肪族―芳香族共重合ポリエステルとなるポリマー組成物を得た。ポリマー組成物の物性を表1に併せて示した。
【0107】
得られたポリマー組成物を用いて孔径0.25mmの円形孔を36個有する紡糸口金より紡糸温度250℃にて溶融紡糸した。吐出糸条は、冷却気流で冷却固化した後、油剤を付与し、3000m/分の巻取速度で巻取った。次いで、得られた未延伸糸を残留伸度が20%~30%前後になるよう70℃で予熱後2.0倍に延伸し、続いて延伸後100℃で加熱し、1.02倍で延伸行いながら150℃の加熱ローラーで張力をかけながら熱セット行った後、紙管に巻きつけた。得られたポリマー組成物、延伸糸の物性については表2に併せて示した。
【0108】
[比較例3]
コハク酸の量を表1記載の通り変更し、SIPや添加剤を使用しなかった以外は実施例1と同様に行い脂肪族―芳香族共重合ポリエステルとなるポリマー組成物を得た。ポリマー組成物の物性を表1に併せて示した。
【0109】
得られたポリマー組成物を用いて孔径0.25mmの円形孔を36個有する紡糸口金より紡糸温度240℃にて溶融紡糸した。吐出糸条は、冷却気流で冷却固化した後、油剤を付与し、3000m/分の巻取速度で巻取った。次いで、得られた未延伸糸を残留伸度が20%~30%前後になるよう70℃で予熱後2.2倍に延伸し、続いて延伸後100℃で加熱し、1.02倍で延伸行いながら150℃の加熱ローラーで張力をかけながら熱セット行った後、紙管に巻きつけた。得られたポリマー組成物、延伸糸の物性については表2に併せて示した。
【0110】
[実施例2]<海洋分解性脂肪族―芳香族共重合ポリエステル繊維>
コハク酸及びSIPの量を表1記載の通り変更した以外は実施例1と同様に行い脂肪族―芳香族共重合ポリエステルとなるポリマー組成物を得た。ポリマー組成物の物性を表1に併せて示した。
【0111】
得られたポリマー組成物を用いて孔径0.25mmの円形孔を36個有する紡糸口金より紡糸温度220℃にて溶融紡糸した。吐出糸条は、冷却気流で冷却固化した後、油剤を付与し、3000m/分の巻取速度で巻取った。次いで、得られた未延伸糸を残留伸度が20%~30%前後になるよう50℃で予熱後2.2倍に延伸し、続いて延伸後100℃で加熱し、1.02倍で延伸行いながら150℃の加熱ローラーで張力をかけながら熱セット行った後、紙管に巻きつけた。得られたポリマー組成物、延伸糸の物性については表2に併せて示した。
【0112】
[実施例3、4]<海洋分解性脂肪族―芳香族共重合ポリエステル繊維>
コハク酸及びSIPの量を表1記載の通り変更した以外は実施例1と同様に行い脂肪族―芳香族共重合ポリエステルとなるポリマー組成物及び延伸糸を得た。得られたポリマー組成物の物性については表1に、延伸糸の物性については表2に併せて示した。
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】
【0115】
[実施例5]<海洋分解性脂肪族―芳香族共重合ポリエステル繊維>
添加剤を亜リン酸エステルAから亜リン酸エステルBに変更した以外は実施例1と同様に行った。得られたポリマー組成物の物性については表3に、延伸糸の物性については表4に示した。
【0116】
[実施例6]<海洋分解性脂肪族―芳香族共重合ポリエステル繊維>
添加剤の量を変更した以外は実施例1と同様に行い脂肪族―芳香族共重合ポリエステルとなるポリマー組成物を得た。
【0117】
得られたポリマー組成物を25mmの円形孔を36個有する紡糸口金より紡糸温度230℃にて溶融紡糸した。吐出糸条は、冷却気流で冷却固化した後、油剤を付与し、3000m/分の巻取速度で巻取った。次いで、得られた未延伸糸を残留伸度が20%~30%前後になるよう60℃で予熱後2.1倍に延伸し、続いて延伸後100℃で加熱し、1.02倍で延伸行いながら150℃の加熱ローラーで張力をかけながら熱セット行った後、紙管に巻きつけた。得られたポリマー組成物の物性については表3に、延伸糸の物性については表4に併せて示した。
【0118】
[比較例4]
共重合するジカルボン酸をコハク酸からセバシン酸に変更し、全酸成分に対しセバシン酸を20モルパーセント、SIPを0.1モルパーセント、)、亜リン酸エステルAを全ポリマー組成物に対して0.1質量部(wt%)になるように変更して混錬した以外は実施例1と同様に行った。得られたポリマー組成物の物性については表3に、延伸糸の物性については表4に併せて示した。
【0119】
[比較例5]
コハク酸、SIP、および添加剤の亜リン酸エステルAの量を表2記載の通り変更した以外は実施例1と同様に行い脂肪族―芳香族共重合ポリエステルとなるポリマー組成物を得た。
【0120】
得られたポリマー組成物を25mmの円形孔を36個有する紡糸口金より紡糸温度220℃にて溶融紡糸した。吐出糸条は、冷却気流で冷却固化した後、油剤を付与し、3000m/分の巻取速度で巻取った。次いで、得られた未延伸糸を残留伸度が20%~30%前後になるよう60℃で予熱後2.3倍に延伸し、続いて延伸後100℃で加熱し、1.02倍で延伸行いながら150℃の加熱ローラーで張力をかけながら熱セット行った後、紙管に巻きつけた。得られたポリマー組成物の物性については表3に、延伸糸の物性については表4に併せて示した。
【0121】
[比較例6]
コハク酸、SIP、および添加剤の亜リン酸エステルAの量を表2記載の通り変更した以外は実施例1と同様に行い脂肪族―芳香族共重合ポリエステルとなるポリマー組成物を得た。
【0122】
得られたポリマー組成物を25mmの円形孔を36個有する紡糸口金より紡糸温度220℃にて溶融紡糸した。吐出糸条は、冷却気流で冷却固化した後、油剤を付与し、3000m/分の巻取速度で巻取った。次いで、得られた未延伸糸を残留伸度が20%~30%前後になるよう65℃で予熱後1.5倍に延伸し、続いて延伸後100℃で加熱し、1.02倍で延伸行いながら150℃の加熱ローラーで張力をかけながら熱セット行った後、紙管に巻きつけた。得られたポリマー組成物の物性については表3に、延伸糸の物性については表4に併せて示した。
【0123】
【表3】
【0124】
【表4】
【符号の説明】
【0125】
〇:芳香族ジカルボン酸部
●:脂肪族ジカルボン酸部
図1