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特開2024-100400海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物およびその製造方法
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  • 特開-海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100400
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20240719BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20240719BHJP
   C08G 63/688 20060101ALI20240719BHJP
   C08G 63/78 20060101ALI20240719BHJP
   C08K 5/524 20060101ALI20240719BHJP
   D01F 6/84 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L101/16
C08G63/688
C08G63/78
C08K5/524
D01F6/84 305C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004380
(22)【出願日】2023-01-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2022年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ムーンショット型研究開発事業」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 智義
(72)【発明者】
【氏名】岩井 正宏
(72)【発明者】
【氏名】石井 修人
(72)【発明者】
【氏名】米田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】玉垣 萌
(72)【発明者】
【氏名】神山 三枝
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
4J200
4L035
【Fターム(参考)】
4J002CF141
4J002EW066
4J002EW086
4J002FD196
4J002GK01
4J029AA03
4J029AB04
4J029AB07
4J029AC02
4J029AD06
4J029AD10
4J029AE02
4J029AE03
4J029BA03
4J029CA04
4J029CA06
4J029CA09
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029CC05A
4J029CC06A
4J029CE04
4J029CF08
4J029CH02
4J029CH07
4J029DB02
4J029DB07
4J029DB13
4J029HA01
4J029HB01
4J029JC483
4J029KB02
4J029KB04
4J029KB15
4J029KB22
4J029KE03
4J200AA04
4J200AA09
4J200BA03
4J200BA09
4J200BA19
4J200BA20
4J200CA01
4J200CA06
4J200EA11
4L035AA02
4L035AA05
4L035BB31
4L035BB33
4L035BB89
4L035BB91
4L035GG01
4L035HH01
4L035HH10
(57)【要約】
【課題】実用耐久性と海洋分解性を高いレベルで両立するポリエステル組成物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のポリエステル系樹脂組成物は、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸からなる海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物であって、脂肪族ジカルボン酸としてメチレン基炭素数が2または4となるジカルボン酸成分が全酸成分に対して3モル%以上35モル%以下を有しており、芳香族ジカルボン酸成分の一部がスルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸成分であって、全酸成分に対して0.1モル%以上5.0モル%以下を含有しており、さらにジオール成分としては、全ジオール成分の80モル%以上がメチレン基炭素数が2のグリコールからなり、芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジカルボン酸成分のランダム共重合度が0.8以上1.2以下であって、亜リン酸エステル化合物を0.1~5.0質量%含有し、融点が180℃以上245℃以下であることを特徴とする。さらには、30℃海水中で60日後に、数平均分子量が15%以上減少することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸からなる海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物であって、脂肪族ジカルボン酸としてメチレン基炭素数が2または4となるジカルボン酸成分が全酸成分に対して3モル%以上35モル%以下を有しており、芳香族ジカルボン酸成分の一部がスルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸成分であって、全酸成分に対して0.1モル%以上5.0モル%以下を含有しており、さらにジオール成分を含有し、全ジオール成分の80モル%以上がメチレン基炭素数が2のグリコールからなり、芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジカルボン酸成分のランダム共重合度が0.8以上1.2以下であって、亜リン酸エステル化合物を0.1~5.0質量%含有し、融点が180℃以上245℃以下であることを特徴とする海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物。
【請求項2】
芳香族ジカルボン酸成分の平均連鎖長が4以上かつ脂肪族ジカルボン酸成分の平均連鎖長が2未満である請求項1記載の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物。
【請求項3】
脂肪族ジカルボン酸成分が、コハク酸、コハク酸ジメチル、アジピン酸、アジピン酸ジメチル、およびその混合物からなる群から選択されるいずれか一つ以上である請求項1に記載の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物。
【請求項4】
主たる芳香族ジカルボン酸成分がテレフタル酸である請求項1に記載の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物。
【請求項5】
30℃海水中で60日後に、数平均分子量が15%以上減少する請求項1~4のいずれか1項に記載の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか記載の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物からなる海洋分解性ランダム共重合ポリエステル繊維。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか記載の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物からなる海洋分解性ランダム共重合ポリエステルフィルム。
【請求項8】
請求項1~4のいずれかに記載の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物の製造方法であって、(A)芳香族ジカルボン酸とジオール成分とを反応せしめた芳香族ポリエステルオリゴマーに、あらかじめ重合触媒を添加し分散した状態で(B)脂肪族ジカルボン酸を全酸成分に対して10モル%以上35モル%以下になるように添加することを特徴とする海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実用耐久性と海水分解性を高いレベルで両立させた海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)に代表されるポリエステル樹脂組成物は多くの優れた特性を有しているため、繊維やフィルムとして広く用いられている。
一方で、その高い耐久性、耐薬品性がゆえに、生分解性が低く、一度環境中に廃棄または洗濯等を通して脱落した場合、分解せずに自然環境中に残存しやすいという問題があった。特に海水中では土壌中よりも分解速度が遅く、また分解途中の段階で「マイクロプラスチック」として海洋中に流出、残存した場合の問題点も指摘されている。
【0003】
主に土壌における生分解可能なポリエステル材料としては、脂肪族-芳香族ランダム共重合ポリエステル共重合体や共重合改質ポリエステルが開発されており、例えば特許文献1や特許文献2等では、芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジカルボン酸成分に酸成分としてスルホネート成分を含むスルホン化脂肪族-芳香族コポリエーテルエステルが開示されている。
しかしこれらの技術は、埋立ゴミ処理工場等における土壌分解を中心に検討されており、生分解としてはより困難な海洋分解性に関しては、まだ十分なものでは無かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007-502909号公報
【特許文献2】特表2007-524741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の問題を解決し、実用耐久性と海水分解性を高いレベルで両立させた海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸からなる海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物であって、脂肪族ジカルボン酸としてメチレン基炭素数が2または4となるジカルボン酸成分が全酸成分に対して3モル%以上35モル%以下を有しており、芳香族ジカルボン酸成分の一部がスルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸成分であって、全酸成分に対して0.1モル%以上5.0モル%以下を含有しており、さらにジオール成分としては、全ジオール成分の80モル%以上がメチレン基炭素数が2のグリコールからなり、芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジカルボン酸成分のランダム共重合度が0.8以上1.2以下であって、亜リン酸エステル化合物を0.1~5.0質量%含有し、融点が180℃以上245℃以下であることを特徴とする。
【0007】
さらには、芳香族ジカルボン酸成分の平均連鎖長が4以上かつ脂肪族ジカルボン酸成分の平均連鎖長が2未満であることや、脂肪族ジカルボン酸成分が、コハク酸、コハク酸ジメチル、アジピン酸、アジピン酸ジメチル、およびその混合物からなる群から選択されるいずれか一つ以上であること、主たる芳香族ジカルボン酸成分がテレフタル酸であること、30℃海水中で60日後に、数平均分子量が15%以上減少することが好ましい。
【0008】
また本明細書の発明は、上記の本発明のいずれか一つの海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物からなる海洋分解性ランダム共重合ポリエステル繊維及び海洋分解性ランダム共重合ポリエステルフィルムを包含する。
【0009】
もう一つの本発明である海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物の製造方法は、上記本発明のいずれかに記載の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物の製造方法であって、(A)芳香族ジカルボン酸とジオール成分とを反応せしめた芳香族ポリエステルオリゴマーに、あらかじめ重合触媒を添加し分散した状態で(B)脂肪族ジカルボン酸を全酸成分に対して10モル%以上35モル%以下になるように添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物は、実用耐久性と海洋分解性を高いレベルで両立する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ランダム共重合型ポリマー、交互共重合型ポリマー、ブロック共重合型ポリマーの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物は、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸からなる海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物である。そして脂肪族ジカルボン酸としては、メチレン基炭素数が2または4となるジカルボン酸成分が全酸成分に対して3モル%以上35モル%以下を有しており、芳香族ジカルボン酸成分の一部がスルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸成分であって、全酸成分に対して0.1モル%以上5.0モル%以下を含有している。
【0013】
さらに本発明の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物は、ジカルボン酸成分と共にポリエステルを構成するジオール成分としては、全ジオール成分の80モル%以上がメチレン基炭素数が2のグリコールであり、さらに亜リン酸エステル化合物をランダム共重合ポリエステル組成物中に0.1~5.0質量%含有する。
【0014】
また本発明の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物は、芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジカルボン酸成分のランダム共重合度が0.8以上1.2以下であることを必須とし、融点が180℃以上245℃以下である海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物である。
【0015】
さらに本発明の海洋分解性を有する結晶性脂肪族-芳香族ランダム共重合ポリエステル組成物においては、酸成分は、3モル%以上35モル%以下のメチレン基炭素数2または4の脂肪族カルボン酸成分と、65モル%以上97モル%以下の芳香族ジカルボン酸成分からなることが好ましく、この全酸成分に対して0.1モル%以上5.0モル%以下のスルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸成分を含むことが必要である。
【0016】
またポリエステルを構成するジオール成分としては、全ジオール成分の80モル%以上がメチレン基炭素数が2のグリコールからなるが、この80モル%以上のエチレングリコールを第1のグリコール成分とし、第2のグリコール成分として0以上20モル%以下の他のグリコール成分を有していてもよい。また物性を損なわない程度に上記ポリエステルに他のアルキレングリコール等の共重合成分、艶消し剤、滑剤、分解促進などの目的で充填剤を添加してもよい。
【0017】
ここでさらに本発明に用いられる芳香族ジカルボン酸成分を詳細に説明する。本発明で用いる芳香族ジカルボン酸成分としては、8個~20個の炭素を有する無置換および置換芳香族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸のグリコレートエステル、および芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルから選択されるものであることが好ましい。望ましいジカルボン酸の例には、テレフタル酸類、イソフタル酸類、ナフタル酸類および二安息香酸類(bibenzoate)から誘導されたものが含まれる。芳香族ジカルボン酸成分として使用するのに望ましいジカルボン酸の具体例には、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ビス(2-ヒドロキシエチル)、イソフタル酸、イソフタル酸ジメチル、イソフタル酸ビス(2-ヒドロキシエチル)、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタル酸ジメチル、2,7-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタル酸ジメチル、3,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、3,4’ジフェニルエーテルジカルボン酸ジメチル、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸ジメチル、3,4’-ジフェニルスルフィドジカルボン酸、3,4’-ジフェニルスルフィドジカルボン酸ジメチル、4,4’-ジフェニルスルフィドジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルフィドジカルボン酸ジメチル、3,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、3,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸ジメチル、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸ジメチル、3,4’-ベンゾフェノンジカルボン酸、3,4’-ベンゾフェノンジカルボン酸ジメチル、4,4’-ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ベンゾフェノンジカルボン酸ジメチル、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタル酸ジメチル、4,4’-メチレンビス(安息香酸)、4,4’-メチレンビス(安息香酸)ジメチル、およびそれから誘導される混合物が含まれる。特には芳香族ジカルボン酸成分として、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸、イソフタル酸ジメチル、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタル酸ジメチル、またはその混合物から選択されるものであることが好ましい。本発明においては上記のような芳香族ジカルボン酸を使用することができるが、さらには芳香族ジカルボン酸成分が主としてテレフタル酸であることが最も好ましい。
【0018】
そして本発明の海洋分解性を有する結晶性脂肪族-芳香族ランダム共重合ポリエステル組成物においては、65モル%以上97モル%以下の上記の芳香族ジカルボン酸成分を含むことが好ましく、さらに好ましくは70モル%以上80モル%以下の芳香族ジカルボン酸成分を含むことが好ましい。芳香族ジカルボン酸成分が65モル%よりも小さい場合には、十分な結晶性が得られにくい傾向にある。また芳香族ジカルボン酸成分が97モル%よりも大きい場合には所望の加水分解性/生分解性がえられにくい傾向にある。
【0019】
また本発明において芳香族ジカルボン酸と共に用いられる脂肪族ジカルボン酸成分としては、メチレン基炭素数が2または4となる無置換、置換、線状および分枝の脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸のグリコレートエステル、および脂肪族ジカルボン酸の低級アルキルエステルから選択されるものであることが好ましい。このような脂肪族ジカルボン酸成分の具体例としては、コハク酸、コハク酸ジメチル、メチルコハク酸、アジピン酸、アジピン酸ジメチル、3-メチルアジピン酸など、およびそれらから誘導された混合物が含まれ、本発明の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物としては脂肪族ジカルボン酸成分が、コハク酸、コハク酸ジメチル、アジピン酸、アジピン酸ジメチル、およびその混合物からなる群から選択されるいずれか一つ以上であることが好ましい。
【0020】
初期機械物性を保ちながら、分解速度が速いという観点では、脂肪族ジカルボン酸としては特にはメチレン基炭素数2となる無置換、置換、線状および分枝の脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸のグリコレートエステル、および脂肪族ジカルボン酸の低級アルキルエステルから選択されるものであることが好ましい。このような望ましい脂肪族ジカルボン酸成分の具体例には、コハク酸、コハク酸ジメチル、メチルコハク酸など、およびそれらから誘導された混合物が含まれる。
【0021】
本発明ではこのような脂肪族ポリエステルを含有することによって加水分解性は高くなる。また、脂肪族ポリエステル構成成分中のメチレン基数を少なくすることによって、単位量あたりのエステル密度が高く、加水分解性も高くなった。さらにそのメチレン基炭素数を2または4の偶数とすることによって、共重合であるにも関わらず融点の低下が少なく、高い物性の維持が可能となった。
【0022】
また本発明では、全酸成分に対してメチレン基炭素数が2または4となるジカルボン酸成分が3モル%以上35モル%以下含有することを必須とするが、さらに他の脂肪族ジカルボン酸成分を若干であれば含有しても良い。
【0023】
そのような脂肪族ジカルボン酸成分の具体例としては、上記のコハク酸等以外に、シュウ酸、シュウ酸ジメチル、マロン酸、マロン酸ジメチル、グルタル酸、グルタル酸ジメチル、2-メチルグルタル酸、3-メチルグルタル酸、など、およびそれらから誘導された混合物が含まれる。
【0024】
ただし脂肪族酸としてメチレン基炭素数5以上の脂肪族ジカルボン酸成分を併用した場合には、加水分解点/生分解点となる単位体積当たりのエステル基濃度が低くなり、ポリマーの加水分解性/生分解性が得られにくくなる傾向にある。またメチレン基炭素数が1以下の脂肪族ジカルボン酸成分を用いた場合は、重合時脂肪族ジカルボン酸成分が熱分解を起こしやすく、適切な重合度のポリマーを得られることができず好ましくない。加えて、メチレン基炭素数が奇数である1や3などの脂肪族ジカルボン酸成分を用いた場合にも、結晶性が低下し初期機械物性が得られず、好ましくない。
【0025】
本発明では、先にも述べたようにメチレン基炭素数が2または4となるジカルボン酸成分である脂肪族酸は、全酸成分に対して3モル%以上35モル%以下含有する。メチレン基炭素数2または4となる脂肪族ジカルボン酸が3モル%よりも小さい場合には、所望の加水分解性/生分解性がえられない。またメチレン基炭素数2または4となる脂肪族ジカルボン酸が35モル%よりも大きい場合には十分な結晶性が得られない。加えて初期機械物性を保ちながら、分解速度が速いという観点では、メチレン基炭素数2または4となる脂肪族ジカルボン酸が5モル%以上32モル%以下、好ましくは10モル%以上30モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上30モル%以下含むことが好ましい。また、メチレン基炭素数が2となるジカルボン酸成分を含有することが特に好ましい。
【0026】
また本発明では、スルホネート基を有するジカルボン酸成分が全酸成分に対して0.1モル%以上5.0モル%以下含有することを必須とする。このようなスルホネート基を有するジカルボン酸成分としては、5-スルホイソフタル酸の金属またはホスホニウム等からなる有機リン化合物、または5-スルホイソフタル酸低級アルキルエステルであることが好ましい。ここで金属塩は、例えば一価または多価のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、または他の金属イオンとすることができる。アルカリ金属イオンは、ナトリウム、カリウム、またはリチウムであることが好ましい。さらにマグネシウムなどのアルカリ土類金属も有用である。他の有用な金属イオンには、亜鉛、コバルト、または鉄などの遷移金属イオンが含まれる。
【0027】
スルホネート基を有するジカルボン酸成分が全酸成分に対して0.1モル%より少ない場合はスルホネート基による分解促進効果が得られず、5モル%よりも多い場合、スルホネート基がポリマーを成形した際の配向・結晶を阻害するため、初期機械強度が得られず、好ましくない。さらにはスルホネート基を有するジカルボン酸成分が全酸成分に対して0.5モル%以上3.0モル%以下含有することが好ましい。
【0028】
さらに本発明における海洋分解性を有する結晶性脂肪族-芳香族ランダム共重合ポリエステルを構成するジオール成分としては、その全ジオール成分の80モル%以上がメチレン基炭素数が2のグリコールであることが必要である。グリコール成分として80モル%よりも小さい場合、高い耐熱性と、優れた生分解性を得ることができず好ましくない。さらには全ジオール成分の90モル%以上100モル%以下がエチレングリコールであることが好ましい。
【0029】
このほか、主とするメチレン基炭素数が2のグリコールであるエチレングリコールに加えて、他のジオール成分を併用しても良い。例えば、2個の炭素原子~36個の炭素原子を有する無置換、置換、直鎖、分岐、環状の脂肪族、脂肪族-芳香族及び芳香族ジオールから選択される1つまたは複数のグリコールを含むが、偶数個のメチレン基炭素数をその主骨格中に含むジオールであることが好ましい。
【0030】
特には、本発明の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物には、さらに優れた親水性、生分解性を与えるために、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(1,4-ブチレングリコール)に代表されるポリアルキレングリコールを添加または共重合してもよい。なお共重合を得る場合、アルキレングリコールは任意の段階で添加することができるが、熱による着色がしやすいため、ポリエステル組成物中に均一に分散させることが好ましい。このため、エステル化反応もしくはエステル交換反応が実質終了した時点から重縮合反応の開始までに添加することが好ましい。
【0031】
また本発明の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物においては、さらに亜リン酸エステル化合物を0.1~5.0質量%含有することを必須とする。
ここで、亜リン酸エステル化合物とは、亜リン酸エステル並びにこれらの混合物及び組み合わせを含む群から選択される物質であって、プロトン性条件下で縮合ポリマーの加水分解を触媒する添加剤(加水分解触媒)として用いられる物である。このような亜リン酸エステル化合物を含有することにより、海洋環境下でのポリマーの分解・劣化を、より促進することが可能となる。
【0032】
本発明においては先に述べたジカルボン酸成分に含まれるスルホネート基によって親水性が高まり加水分解のトリガーである水を組成物中に呼び込む効果を有するのであるが、さらにこのような亜リン酸エステルを併用することによって、亜リン酸エステル化合物の分解触媒機能がより効果的に作用する。
【0033】
本発明の組成物への亜リン酸エステル系分解促進剤の添加量としては、組成物樹脂中に0.1~5質量%含むことが好ましい。さらには0.2~3質量%の範囲が、特には0.5~2質量%の範囲であることが好ましい。これらの剤の添加量が少なすぎると分解速度を高める効果が低くなり、多すぎると成形性が悪く、あるいは熱安定性が悪化する傾向にある。
【0034】
ここで上記、亜リン酸エステルは例えば、脂肪族基を有するホスファイトなどの容易に加水分解され得るホスファイトであり得る。少なくとも1つのホスファイトは、一般式(I)を有するホスファイトであることが好ましい。
【0035】
【化1】
【0036】
ここで、置換基Rは任意に置換された炭素数4(C4)~炭素数32(C32)の-アルキル-、シクロアルキル-及びアリール残基を含む群から選択された基であり、置換基R、Rは、任意に置換された炭素数4(C4)~炭素数32(C32)の-アルキル-、シクロアルキル-及びアリール残基、及び環状系を含む群から選択された基であり、あるいは置換基R及びRは結合しスピロ環を形成する。
さらに、このような亜リン酸エステルの例を以下に例示する。
【0037】
【化2】
【0038】
【化3】
【0039】
【化4】
【0040】
【化5】
【0041】
【化6】
【0042】
本発明においては、上記の亜リン酸エステルを用いることが可能であるが、好ましくは
3,9-Bis(octadecyloxy)-2,4,8,10-tetraoxa-3,9-diphosphaspiro[5.5]undecane(化学式4)、
もしくは
3,9-Bis(2,6-di-tert-butyl-4-methylphenoxy)-2,4,8,10-tetraoxa-3,9-diphosphaspiro[5.5]undecane(化学式5)
のような、亜リン酸エステル基としてペンタエリスリトール構造を有する亜リン酸エステルを用いることが好ましい。これらは、通常使用時には安定であるが、多量の水環境中で容易に加水分解されて酸を生成し、これがポリマーの分解促進剤として機能する。特に海水環境中では加水分解スイッチとして機能することになり、好ましく用いられる。
【0043】
さらに本発明では、組成物にポリエステルで使用する際に知られている任意の充填剤材料を使用することも可能である。その発明の効果を失わない範囲で、公知のあらゆる添加剤、フィラーを添加して用いることができる。例えば、充填剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、耐衝撃改良剤などを含有することも好ましい。添加剤、充填剤、またはブレンド材料を、重合プロセスの前に、重合プロセス中の任意の段階で、または後重合プロセスとして添加することができる。
【0044】
そしてこのような本発明の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物は、その芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジカルボン酸成分のランダム共重合度が0.8以上1.2以下であることを必須としている。
【0045】
ここで本発明のランダム共重合度とは、1H核磁気共鳴分析(プロトンNMR)によって測定することができるものである。
例えば図1において、〇を芳香族ジカルボン酸部、●を脂肪族ジカルボン酸とすれば、ジオール成分のプロトンのNMRシグナルを計測することによって、芳香族ジカルボン酸同士が結合した「〇〇」結合部(TET)、脂肪族ジカルボン酸部同士が結合した「●●」結合部(SES)、芳香族ジカルボン酸部と脂肪族ジカルボン酸部が結合した「〇●」結合部(TES)の3種類の結合部の比率を、まずは求めることができる。
【0046】
この時、それぞれの結合比率F、すなわち各FTET、TES、SES(ただし、FTET+FTES+FSES=1)の値から、芳香族ジカルボン酸部の平均的な連鎖長Lt、脂肪族ジカルボン酸部の平均的な連鎖長Lsは、下記式となる。
【0047】
【数1】
【0048】
【数2】
【0049】
そして本発明のランダム共重合度Rは、上記の平均連鎖長L及びLから、
R=1/L+1/L (式3)
で求めることができる値である。
【0050】
ランダム共重合度Rが0≦R<1の値となる場合、0に近いほどブロック共重合性が高い。逆にランダム共重合度Rが、1<R≦2の値となる場合、2に近いほど交互共重合性が高く、結局R=1に近いほどランダム共重合性が高いことを表している。本発明の海洋分解性を有する結晶性脂肪族-芳香族共重合ポリエステル組成物は、そのランダム共重合度が0.8~1.2であることを必須とし、このように高いランダム共重合度の場合に優れた海水分解性を得ることが可能となった。さらにはランダム共重合度が0.85~1.15であることが好ましく、0.9~1.1であることが特に好ましい。
【0051】
本発明の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物においては、特に、メチレン基炭素数が2または4の脂肪族ジカルボン酸や、スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸、亜リン酸エステル化合物の共存下において、共重合している脂肪族ジカルボン酸成分が形成するエステル結合が、芳香族ジカルボン酸成分によって形成されるエステル結合よりも加水分解されやすく、分解促進点としてより機能しやすくなる。例えば図1に示すように、共重合はランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合に分類されるが、分解促進点として機能しやすい脂肪族ジカルボン酸がどのように共重合されているかが、その後の海水分解性に大きく影響する。本発明者らは、特に本発明の組成において、脂肪族ジカルボン酸のランダム共重合性が高いことが、分解性の向上に大きく寄与し、分解性が優れるとともに実用的な機械物性に優れていることを見出したのである。
【0052】
この詳細なメカニズムについいては現在も解明を進めているところであるが、ランダム共重合度が低くブロック共重合性が高い場合、脂肪族ジカルボン酸部分のみが優先的に分解するため、分解性の低い芳香族ジカルボン酸部が長く結合したポリマーが残ってしまい、その後の分解速度が遅くなりやすい。逆にランダム共重合度が高く交互共重合性が高いと、脂肪族ジカルボン酸部分が優先的に分解しやすく、後に残る芳香族ジカルボン酸部分のポリマー鎖は短くなるものの、一方で分解していない部分の均一性が高く結晶化が進みやすいため、最終的には分解速度が遅くなってしまうものと推察される。
【0053】
さらには本発明の組成物では、芳香族ジカルボン酸部の平均的な連鎖長Lは4以上、脂肪族ジカルボン酸成分の平均連鎖長Lが2未満であることが好ましい。特には例えば芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸の共重合比が70:30~90:10の範囲の場合には、芳香族ジカルボン酸部の平均的な連鎖長Lは3~9、脂肪族ジカルボン酸成分の平均連鎖長Lが1.1~1.5の範囲であることが好ましい。
【0054】
また本発明の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物は、融点が180℃以上245℃以下であることを必須とする。さらには融点が190℃以上220℃以下であることが好ましい。組成物の融点が180℃よりも小さくなると、耐熱性が低くなるため好ましくない。また組成物の融点が245℃よりも大きくなると、成型時の温度が高くなるため樹脂劣化が進みやすくなり好ましくない。
【0055】
本発明の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物は、上記のような組成比と共に、ランダム共重合度が0.8以上1.2以下、融点が180℃以上245℃以下との要件を満たすことによって、樹脂組成物の物性と海洋分解性を高いレベルで両立させることが可能となったのである。
【0056】
さらには本発明の共重合ポリエステル組成物の融解熱量としては15J/g以上とすることが好ましい。さらに好ましくは20J/g、さらに好ましくは、25J/g以上40J/g以下であることが好ましい。15J/gよりも小さくなると成形時に十分な結晶性が得にくく、機械特性が低下する傾向にある。
【0057】
また、上記海洋分解性を有する結晶性脂肪族-芳香族ランダム共重合ポリエステル組成物のガラス転移温度は30℃以上70℃以下であることが好ましい。さらに好ましくは35℃以上60℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が、30℃よりも小さい場合、変形しやすい傾向にある。また、本発明の海洋分解性を有する結晶性脂肪族-芳香族ランダム共重合ポリエステル組成物の極限粘度(IV)は0.40~1.30dl/gであることが好ましい。極限粘度が低くなると、強度等の機械物性が低下する傾向にある。また、極限粘度が高すぎる場合には、製造時の工程通過性が低下する傾向にある。例えば溶融粘度が高くなり、重縮合槽での撹拌や、重合装置や紡糸装置などの成形機から吐出が困難となる傾向にある。さらに極限粘度の好ましい範囲は、0.5~1.10dl/gである。これらは、主たる繰り返し単位である脂肪族カルボン酸の種類やスルホネートを有するジカルボン酸の共重合比率によって調整することができる。
【0058】
そしてこのような本発明の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物は、30℃海水中で60日後に、数平均分子量が15%以上減少することが好ましい。さらには20~40%減少することが好ましい。なおここで30℃海水中での数平均分子量の減少率は、得られたポリマーを凍結粉砕機にて粉砕し、ふるいによって75~425μmの粒子を選択し、30℃×60日間の低温海水分解試験を実施したサンプルをGPCにて測定した値である。
【0059】
このような上記の本発明の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物を用いて、別の本発明である海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物からなる海洋分解性ランダム共重合ポリエステル繊維や、海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物からなる海洋分解性ランダム共重合ポリエステルフィルムを得ることが可能となる。これらは、本発明の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物を溶融成形し、延伸して得られるものであって、高い実用物性と海水分解性を両立するものである。
【0060】
そしてこのような本発明の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物は、もう一つの本発明である海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物の製造方法によって得ることが可能となる。
【0061】
すなわち(A)芳香族ジカルボン酸とジオール成分とを反応せしめた芳香族ポリエステルオリゴマーに、あらかじめ重合触媒を添加し分散した状態で(B)脂肪族ジカルボン酸を全酸成分に対して10モル%以上35モル%以下になるように添加することによって得られる海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物の製造方法である。
【0062】
ここで本発明の製造方法にて得られる海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物は、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸からなる海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物であって、脂肪族ジカルボン酸としてメチレン基炭素数が2または4となるジカルボン酸成分が全酸成分に対して3モル%以上35モル%以下を有しており、芳香族ジカルボン酸成分の一部がスルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸成分であって、全酸成分に対してスルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸成分を0.1モル%以上5.0モル%以下を含有しており、さらにジオール成分を含有し、全ジオール成分の80モル%以上がメチレン基炭素数が2のグリコールからなり、芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジカルボン酸成分のランダム共重合度が0.8以上1.2以下であって、融点が180℃以上245℃以下となる海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物である。
【0063】
さらには
・芳香族ジカルボン酸成分の平均連鎖長が4以上かつ脂肪族ジカルボン酸成分の平均連鎖長が2未満であること。
・脂肪族ジカルボン酸成分が、コハク酸、コハク酸ジメチル、アジピン酸、アジピン酸ジメチル、およびその混合物からなる群から選択されるものであること。
・主たる芳香族ジカルボン酸成分がテレフタル酸であること。
・30℃海水中で60日後に、数平均分子量が15%以上減少すること。
の特性を有する海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物を製造する方法であることが好ましい。
【0064】
そしてこのような本発明の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物の製造方法は、通常の重縮合プロセスによって調整することができる。重縮合プロセスとしては、溶融重合プロセスを使用する公知の方法を用いることができる。溶融重合プロセスにおいては、酸、エステル、またはそれらから誘導される混合物としての芳香族ジカルボン酸成分、酸、エステル、またはそれらから誘導される混合物としての脂肪族ジカルボン酸成分、スルホネート成分、エチレングリコールまたは任意のその他のグリコール成分、および任意の多官能性分枝化剤を、充分に高温で触媒の存在下で組み合わせ、モノマーが結合したエステルおよびジエステル、ついでオリゴマー、最後にはポリマーを形成する。この重合プロセスの生成物は、溶融生成物となる。通常、第一のグリコール成分のエチレングリコールまたは必要に応じて用いる第二のグリコール成分は揮発性であるので、重合が進行するにつれて、過剰なものは反応器から留出させる。
【0065】
重合時の溶融プロセス条件、特に使用するモノマーの量に関しては、所望する最終的なポリマー組成に応じて変更することが可能である。エチレングリコール、その他のグリコール成分、芳香族ジカルボン酸成分、脂肪族酸成分、スルホネート化合物の量は、最終的なポリマー生成物が、各種のモノマー単位の所望の量、望ましくは、個々のジオールおよび二酸成分から誘導されるモノマー単位が当量となるように、選択する。いくつかのモノマー、例えば第二のグリコール成分やエチレングリコール成分が揮発性であること、および、反応器の密閉度(加圧条件)、重合温度の上昇速度、ポリマーの合成に使用する蒸留カラムの効率、などに応じて、原料となるモノマーの量を調整する。第二のグリコール成分およびエチレングリコール成分等は、重合反応の開始時には過剰に存在させ、反応が進行するにつれて蒸留によって除去することが好ましい。
【0066】
例えば過剰となるように二酸、エチレングリコール成分、およびその他のグリコールを仕込むことが好ましく、過剰の二酸、エチレングリコール、およびその他のグリコールを、重合反応が進行するにつれて蒸留または他の方法の蒸発によって除去することが好ましい。より具体的には、例えばエチレングリコールを、最終ポリマー中で望まれている量よりも10~100%多く仕込むことが好ましい。さらには20~70%多く仕込むことがより好ましい。また第2のグリコール成分を用いる場合は、第2のグリコール成分の揮発性に応じて、最終生成物中で望まれている量よりも0~100%多く仕込むことが好ましい。これらの数値は、用いる蒸留塔、ならびに他の種類の回収および再生システムなどの効率に応じて変更することができる。
【0067】
共重合ポリエステル組成物の重合プロセスでは、ジカルボン酸として直接エステル化する方法、またはジアルキルエステルからエステル交換する方法でオリゴマーを作製する第一段階の反応の後、得られたオリゴマーを高温真空下で重合反応する2段階のいずれの方法を採用することも可能である。直接エステル化法には触媒は不要であるが、エステル交換反応の場合は触媒を用いて行う。エステル交換触媒としては、Li、Ca、Mg、Mn、Zn、Pb、SnおよびTiの酢酸塩などの塩、グリコール付加物およびTiアルコキシドを含めた酸化物が使用される。第2段階の反応である重合反応においては触媒の添加は必須である。重合触媒としては、Sb、Sn、GeおよびTiのグリコール付加物およびTiアルコキシドを含めた酸化物が好適に用いられる。
【0068】
この時、通常のポリエステルの製造方法では重合触媒は任意の段階で添加することができるが、本発明においては、芳香族ジカルボン酸とジオール成分とを反応せしめた芳香族ポリエステルオリゴマーにあらかじめ重合触媒を添加し、分散させた状態で脂肪族ジカルボン酸を添加し、230℃~約300℃、好ましくは250℃~295℃の範囲の温度で重合反応を行うことが好ましい。この方法により、本発明の脂肪族-芳香族共重合ポリエステル組成物のランダム共重合性を高めることができる。
上記の溶融縮合プロセスによって得られたポリマーは、さらに固相重合を使用して、より高い分子量とすることが好ましい。
【0069】
このような本発明の製造方法によって得られた海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物は、さらに繊維やフィルム等の成形物することが好ましい。
例えば、本発明の海洋分解性ランダム共重合ポリエステル組成物を溶融紡糸することによって、繊維形状とすることができる。あるいは組成物を溶融後、製膜機によってフィルム形状とすることができる。溶融押出法としては、従来公知のポリエステル繊維/フィルムの溶融紡糸/溶融成膜法を採用することができる。
また得られる繊維やフィルム等の成形物の物性や海水分解性を向上させるためには、延伸処理や熱処理を行うことが好ましい。
【0070】
繊維化する場合には、例えば紡糸口金より溶融紡糸したのち、1000~5000m/分の速度で巻取り、得られた未延伸糸を残留伸度が10%~40%になるよう予熱後1.5~4.0倍に延伸し、続いて延伸後100~120℃で加熱し、1.00~1.05倍の延伸を行いながら140~180℃の加熱ローラーで張力をかけながら熱セット行った後、紙管に巻きつける等の製造方法を採用することが好ましい。
【0071】
フィルム化する場合には、例えばダイから溶融状態で回転中の温度15~50℃の冷却ドラム上にシート状に押し出して未延伸フィルムを得、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が70~110℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率2~4倍で行い、一軸延伸フィルムとし、またはさらにこの一軸延伸フィルムを80~120℃横方向(幅方向)に延伸倍率3~6倍で延伸し、その後90~120℃で熱固定処理を行い、厚さ10~50μmの二軸延伸フィルムとすることが好ましい。
【実施例0072】
以下実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。尚、実施例中の物性値は以下の方法で測定した。
【0073】
(1)数平均分子量(Mn)
ポリマーの数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定し、標準ポリスチレンに換算した値とした。
測定時には、下記の検出器およびカラムを使用し、クロロホルムを溶離液とし温度40℃、流速1.0ml/minの条件にて、サンプル溶液10μLをカラムに注入し測定を行った。サンプル溶液は、濃度2mg/mlとなるようにクロロホルムへサンプルを溶解した後、0.45μmPTFE製メンブレンフィルターにて濾過した物を使用した。
検出器;示差屈折計;(Waters Corporation製)「Waters 2414」。使用カラムとしては、昭和電工株式会社製「shodex GPC K-806L」を直列に2本接続した。
【0074】
(2)ガラス転移温度(Tg)、融点、および融解熱
ISO11357-3、ASTM D3418に準拠し測定を行った。
TAインスツルメント社製の示差走査熱量計(DSC「Q‐20」)を用い、サンプル量10mg、昇温速度10℃/分で室温から350℃まで昇温し、繊維の原料となる各樹脂を完全に融解させたあと、急冷し、更に10℃/分の速度で300℃まで昇温するときに得られる吸熱ピークの頂点を融点とし、ガラス転移温度(Tg)及び融解熱も測定した。
【0075】
(3)ランダム共重合度
まず、試料10mgを重トリフルオロ酢酸/重クロロホルム=1/1の混合溶媒0.6mLに溶解し、室温で600MHz1HNMRを測定する。NMR装置として日本電子株式会社性「ECA600」、標準物質としてテトラメチルシランを用い、芳香族ジカルボン酸同士が結合したジオール成分のプロトン、脂肪族ジカルボン酸同士が結合したジオール成分のプロトン、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸が結合したジオール成分のプロトンそれぞれに由来するNMRシグナルを計測した。
【0076】
次にこれらのジオール成分のプロトンのNMRシグナルから、芳香族ジカルボン酸同士が結合した結合部(TET)、脂肪族ジカルボン酸部同士が結合した結合部(SES)、芳香族ジカルボン酸部と脂肪族ジカルボン酸部が結合した結合部(TES)の3種類の結合部の比率を求めた。そしてこの3種類の結合比率F、すなわち各FTET、FTES、FSES(ただし、FTET+FTES+FSES=1)の値から、芳香族ジカルボン酸部の平均的な連鎖長L、脂肪族ジカルボン酸部の平均的な連鎖長Lを、下記式によって求めた。
【0077】
【数3】
【0078】
【数4】
【0079】
得られた芳香族ジカルボン酸部の平均的な連鎖長Lt、脂肪族ジカルボン酸部の平均的な連鎖長Lsから、下記式によりランダム共重合度Rを求めた。
R=1/L+1/L (式3)
【0080】
(4)破断強度(繊維破断強度) JISL1013に基づいて定速伸長形引張試験機であるオリエンテック株式会社製万能引張試験装置「テンシロン」を用いて、つかみ間隔20cm、引張速度20cm/分にて測定した。
【0081】
(5)フィルムのヤング率
得られたフィルムを試料巾10mm、長さ15cmで切り取り、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分の条件でオリエンテック株式会社製万能引張試験装置「テンシロン」)にて引っ張る。得られた荷重―伸び曲線の立ち上がり部の接線よりヤング率を計算した。
【0082】
(6)分解度(低温海水中での分解評価)
サンプルとするポリマーを凍結粉砕機にて粉砕し、ふるいによって75~425μmの粒子とした。
この得られたサンプル100mg及び天然海水(愛媛県松山港にて採取)100ccをスクリュー管瓶の中に入れ、アズワン製ミックスローター(型番:VMRC-5)を用いて、30℃、100rpmで60日間振盪させた。60日後、樹脂組成物を取り出し、ろ紙(JIS、P3801:1995、5種A規格)を用いてろ過を行い、ろ紙上に残る樹脂組成物を室温、133.3Pa以下の真空にて一晩乾燥させ、GPCにより数平均分子量を測定した。
【0083】
初期の数平均分子量(初期分子量)と60日後の数平均分子量(試験後分子量)の値から、分解度(%)を求めた。
分解度(%)=((初期分子量―試験後分子量)/初期分子量)×100 (式4)
【0084】
なお、下記では亜リン酸エステルとして下記の剤を用いた。
亜リン酸エステルA:
3,9-Bis(octadecyloxy)-2,4,8,10-tetraoxa-3,9-diphosphaspiro[5.5]undecane
亜リン酸エステルB:
3,9-Bis(2,6-di-tert-butyl-4-methylphenoxy)-2,4,8,10-tetraoxa-3,9-diphosphaspiro[5.5]undecane
亜リン酸エステルC:亜リン酸トリブチル
【0085】
[実施例1]
テレフタル酸132.0質量部、エチレングリコール87質量部をエステル化槽に仕込み、4kg/cmの加圧下、260℃まで昇温してエステル化反応を行い、オリゴマーを得た。得られた反応生成物を重合槽に移し、0.0786質量%の三酸化アンチモンを添加し撹拌分散後、5-ナトリウムスルホイソフタル酸(SIP)1.34質量部(全酸成分に対し、0.5モル%)コハク酸23.6質量部(全酸成分に対し、コハク酸20モル%)を添加し、槽を減圧して真空度1torr以下の高真空化260℃で重合反応行い、脂肪族-芳香族共重合ポリエステルを得た。またこのポリマーに、亜リン酸エステルAを1wt%になるように混錬した。
【0086】
得られたポリマーの数平均分子量は15×10(g/mol)であり、融点は210℃、融解熱は31J/g、ガラス転移温度は46℃であった。NMRから求められたテレフタル酸とSIPを含む芳香族ポリエステル部分の平均連鎖長Lは4.99、コハク酸部分の平均連鎖長Lは1.24、ランダム共重合度Rは1.01であった。
得られたポリマーを凍結粉砕機にて粉砕した。目開き425μmのふるいを通り、目開き75μmのふるい上に残ったパウダーの低温海水分解試験を実施し、30℃×60日間の数平均分子量の低下度は27%であった。
【0087】
また得られたポリマーを常法によりチップ化し、真空乾燥機にて1torr以下になるようにし、80℃にて5時間乾燥し、50ppm以下に乾燥した。この添加剤を含む、脂肪族-芳香族共重合ポリエステル組成物を用いて孔径0.25mmの円形孔を36個有する紡糸口金より紡糸温度230℃にて溶融紡糸した。吐出糸条は、冷却気流で冷却固化した後、油剤を付与し、3,000m/分の巻取速度で巻取った。次いで、得られた未延伸糸を残留伸度が20%~30%前後になるよう65℃で予熱後2.0倍に延伸し、続いて延伸後110℃で加熱し、1.02倍で延伸行いながら160℃の加熱ローラーで張力をかけながら熱セット行った後、紙管に巻きつけた。得られた延伸糸の強度は3.0cN/dtexであり、充分な実用強度を有する繊維が得られた。
【0088】
また得られたポリマーを105℃で4時間乾燥した後、230℃でダイから溶融状態で回転中の温度30℃の冷却ドラム上にシート状に押し出して未延伸フィルムを得た。そして製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が90℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率3.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。さらにこの一軸延伸フィルムをステンターに導き、90℃で横方向(幅方向)に延伸倍率5.0倍で延伸し、その後100℃で3秒間熱固定処理を行い、厚さ25μmの二軸延伸フィルムを得た。フィルムのヤング率は4.1GPa(成膜方向)、6.2GPa(幅方向)であり、実用的な物性を有していた。
【0089】
[比較例1]
コハク酸、SIPおよび亜リン酸エステルを添加せず、重合温度を285℃とした以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示した。
【0090】
[実施例2~8、比較例2~4]
コハク酸、SIP、亜リン酸エステルの量を表1記載の通り変更した以外は実施例1と同様に行った。結果も表1に示した。なお比較例2、比較例3においては、結晶性が低かったため紡糸時に融着が発生し、繊維化はできなかった。
【0091】
[比較例5]
亜リン酸エステルの量を7wt%とした以外は実施例1と同様に行ったが、混練時にポリマーが熱劣化した。
【0092】
[実施例9、10]
亜リン酸エステルAに代えてとして、亜リン酸エステルB(実施例9)もしくは亜リン酸エステルC(実施例10、亜リン酸トリブチル)をそれぞれ1wt%添加した以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に併せて示した。
【0093】
[比較例6]
脂肪族ジカルボン酸を用いずに、テレフタル酸177.7質量部、エチレングリコール87質量部をエステル化槽に仕込み、4kg/cmの加圧下、260℃まで昇温してエステル化反応を行い、オリゴマーを得た。得られた反応生成物を重合槽に移し、0.0786質量%の三酸化アンチモンを添加し撹拌分散後、5-ナトリウムスルホイソフタル酸(SIP)1.34質量部(全酸成分に対し、0.5モル%)槽を減圧して真空度1torr以下の高真空化280℃で重合反応行い芳香族ポリエステルを得た。
【0094】
また、脂肪族ジカルボン酸であるコハク酸118質量部、エチレングリコール87質量部をエステル化槽に仕込み、4kg/cmの加圧下、240℃まで昇温してエステル化反応を行い、オリゴマーを得た。得られた反応生成物を重合槽に移し、0.0786質量%の三酸化アンチモンを添加し撹拌分散後、槽を減圧して真空度1torr以下の高真空化280℃で重合反応行い脂肪族ポリエステルを得た。
【0095】
得られた芳香族ポリエステル154質量部に、脂肪族ポリエステル29質量部、さらに亜リン酸エステルAを1wt%になるように混錬した。得られたポリマーの数平均分子量は15×10(g/mol)であり、融点は210℃、融解熱は30J/g、ガラス転移温度は46℃であった。このポリマーのランダム共重合度Rは0.6であった。
得られたポリマーを凍結粉砕機にて粉砕した。目開き425μmのふるいを通り、目開き75μmのふるい上に残ったパウダーの低温海水分解試験を実施し、30℃×60日間の数平均分子量の低下度は13%であった。
【0096】
【表1】
【0097】
SIP:5-ナトリウムスルホイソフタル酸
亜リン酸エステルA:
3,9-Bis(octadecyloxy)-2,4,8,10-tetraoxa-3,9-diphosphaspiro[5.5]undecane
亜リン酸エステルB:
3,9-Bis(2,6-di-tert-butyl-4-methylphenoxy)-2,4,8,10-tetraoxa-3,9-diphosphaspiro[5.5]undecane
亜リン酸エステルC:亜リン酸トリブチル
【符号の説明】
【0098】
〇:芳香族ジカルボン酸部
●:脂肪族ジカルボン酸部
図1