(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100417
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ワークの寸法取得方法
(51)【国際特許分類】
G01B 5/08 20060101AFI20240719BHJP
G01B 5/06 20060101ALI20240719BHJP
G01B 5/12 20060101ALI20240719BHJP
G01B 5/20 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
G01B5/08
G01B5/06
G01B5/12
G01B5/20 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004408
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊行
【テーマコード(参考)】
2F062
【Fターム(参考)】
2F062AA27
2F062AA32
2F062AA34
2F062AA57
2F062BB10
2F062BC37
2F062CC30
2F062EE04
2F062EE63
2F062FF03
2F062FG07
2F062GG17
2F062HH01
2F062LL07
(57)【要約】
【課題】薄肉の円環状ワークの寸法を精度良く取得可能とする。
【解決手段】横断面形状が円環状をなすワークWの外径寸法等を取得するための方法であって、平置き姿勢のワークWの径方向外側に周方向に間隔を空けて配置した2つの外側支持部3,3をワークWの外周面Waに接触させた状態で、2つの外側支持部3,3間にワークWを挟んで径方向に対向配置したゼロ点較正済みの外側検出端子6及び内側検出端子7を相対的に接近移動させてワークWの外周面Wa及び内周面Wbにそれぞれ接触させることにより、外側検出端子6のゼロ点からワークWの外周面Waに対する外側検出端子6の接触点までの変位量δ1と、内側検出端子7のゼロ点からワークWの内周面Wbに対する内側検出端子7の接触点までの変位量δ2とを測定し、これら変位量δ1,δ2に基づいて、ワークWの外径寸法、内径寸法、外径真円度、内径真円度及び肉厚の少なくとも一つを算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
横断面形状が円環状をなすワークの寸法を取得するための方法であって、
前記ワークの径方向外側に周方向に間隔を空けて配置した2つの外側支持部を前記ワークの外周面に接触させた状態で、2つの前記外側支持部間に前記ワークを挟んで径方向に対向配置したゼロ点較正済みの外側検出端子及び内側検出端子を相対的に接近移動させて前記ワークの外周面及び内周面にそれぞれ接触させることにより、前記外側検出端子のゼロ点から前記ワークの外周面に対する前記外側検出端子の接触点までの変位量と、前記内側検出端子のゼロ点から前記ワークの内周面の内周面に対する前記内側検出端子の接触点までの変位量とを測定する変位量測定工程と、
前記変位量測定工程で測定された前記ワークの外周面変位量及び内周面変位量に基づいて、前記ワークの外径寸法、内径寸法、外径真円度、内径真円度及び肉厚の少なくとも一つを算出する寸法算出工程と、を含むことを特徴とする寸法取得方法。
【請求項2】
前記変位量測定工程では、前記ワークをその中心軸回りに回転させながら前記ワークの外周面変位量及び内周面変位量を測定する請求項1に記載の寸法取得方法。
【請求項3】
前記変位量測定工程では、静止状態の前記ワークの外周面変位量及び内周面変位量を測定する変位量測定作業と、前記ワークをその中心軸回りに所定量回転させるワーク回転作業とを交互に複数回実施する請求項1に記載の寸法取得方法。
【請求項4】
前記外側支持部と、前記外側支持部の径方向内側に配置したクランパとで静止状態の前記ワークを径方向に挟持した状態で前記ワークの外周面変位量及び内周面変位量を測定する請求項3に記載の寸法取得方法。
【請求項5】
各クランパを、前記ワークの外周面に対する前記外側支持部の接触点よりも、前記ワークに対する前記内側検出端子の接触点側にシフトした位置で前記ワークの内周面に接触させる請求項4に記載の寸法取得方法。
【請求項6】
2つの前記外側支持部のうちの一方の前記ワークに対する接触点と前記ワークの中心軸とを結ぶ直線と、2つの前記外側支持部のうちの他方の前記ワークに対する接触点と前記ワークの中心軸とを結ぶ直線がなす角度θを、90°<θ<180°とした請求項1~5の何れか一項に記載の寸法取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの寸法取得方法に関し、特に、横断面形状が円環状をなし、かつ直径寸法に比して肉厚が小さく径方向に弾性変形し易い薄肉ワークの寸法を取得するために好適に用い得る寸法取得方法に関する。上記薄肉ワークの具体例としては、ロボット用の減速機や遠心分離機に用いられる転がり軸受の軌道輪を挙げることができる。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受の軌道輪等、横断面形状が円環状をなす機械部品の製造(加工)工程においては、円環状のワークの外径寸法や内径寸法などが適宜のタイミングで測定される。下記の特許文献1には、円環状のワークの内周面のうち径方向で略対向する二部分に対して固定測定端子及び可動測定端子をそれぞれ当接させた状態でワークを回転させながら、ワークの内径寸法に追従して径方向に移動する可動測定端子の変位を全周に亘って検出器で測定し、その測定値の平均値を演算手段で求めるという技術手段が記載されている。係る技術手段によれば、真円度が大きい円環状のワーク(例えば、直径寸法に比して肉厚が小さく、弾性変形し易い円環状のワーク)であっても、その内径寸法を正確に求めることができる、としている。なお、係る技術手段は、測定端子の配置態様等を変更すればワークの外径寸法を求める際に適用することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術手段では、測定端子の接触力(押し付け力)によって円環状のワークが弾性変形する可能性があることから、ワークの外径寸法や内径寸法を必ずしも精度良く測定・取得できるとは限らない。
【0005】
係る実情に鑑み、本発明は、直径寸法に比して肉厚が小さく、径方向に弾性変形し易い薄肉の円環状ワークであっても、その外径寸法や内径寸法などといった各種寸法を精度良く取得することを可能とする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、
横断面形状が円環状をなすワークの寸法を取得するための方法であって、
ワークの径方向外側に周方向に間隔を空けて配置した2つの外側支持部をワークの外周面に接触させた状態で、2つの外側支持部間にワークを挟んで径方向に対向配置したゼロ点較正済みの外側検出端子及び内側検出端子を相対的に接近移動させてワークの外周面及び内周面にそれぞれ接触させることにより、外側検出端子のゼロ点からワークの外周面に対する外側検出端子の接触点までの変位量と、内側検出端子のゼロ点からワークの内周面に対する内側検出端子の接触点までの変位量とを測定する変位量測定工程と、
変位量測定工程で測定されたワークの外周面変位量及び内周面変位量に基づいて、ワークの外径寸法、内径寸法、外径真円度、内径真円度及び肉厚の少なくとも一つを算出する寸法算出工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
係る方法によれば、変位量測定工程での変位量測定時には、ワークの外周面と2つの外側支持部との接触点を基準にして変位量が測定される。このとき、一方の検出端子からワークに付与される測定力(径方向の加圧力)を他方の検出端子で相殺することができるので、検出端子による加圧力によってワークを変形(弾性変形)させることなくワークの変位量を精度良く測定することができる。そのため、測定対象のワークが、直径寸法に比して肉厚が小さく径方向に弾性変形し易い薄肉の円環状形態のものであっても、そのワークの外径寸法や真円度等を精度良く算出・取得することができる。また、上記の方法であれば、測定対象の円環状ワークのうち、その周方向一部領域に配置した2つの外側支持部、及び内外一対の検出端子を最低限備えた測定装置、すなわち、全体としてコンパクトな構成の測定装置を用いてワークの外径寸法や真円度等を取得することができるという利点もある。
【0008】
変位量測定工程においては、ワークをその中心軸回りに回転させながら外周面変位量及び内周面変位量を(連続的に)測定することができる他、静止状態のワークの外周面変位量及び内周面変位量を測定する変位量測定作業と、ワークをその中心軸回りに所定量回転させるワーク回転作業とを交互に複数回実施することもできる。ワークをその中心軸回りに回転させる際のワークの姿勢は、ワークの外周面を2つの外側支持部に接触させた状態を維持できれば特に制約はなく、ワークの中心軸を鉛直方向に沿わせた平置き姿勢としても良いし、ワークの中心軸を鉛直方向に対して所定角度傾斜させた傾斜姿勢としても良い。
【0009】
静止状態のワークの外周面変位量及び内周面変位量を測定する場合、当該ワークを外側支持部と、外側支持部の径方向内側に配置したクランパとで径方向に挟持した状態で測定するのが好ましい。このようにすれば、検出端子がワークに接触するのに伴ってワークの姿勢が変化等するのを可及的に防止し、変位量測定時のワークの姿勢を安定化することができる(ワークの外周面を2つの外側支持部に接触させた状態を維持することができる)ので、変位量を精度良く測定することができる。
【0010】
各クランパは、ワークの外周面に対する外側支持部の接触点よりも、ワークに対する内側検出端子の接触点側にシフトした位置でワークの内周面に接触させるのが好ましい。このようにすれば、ワークの外周面と外側支持部の接触点を中心とするモーメント荷重をワークに作用させることができるので、測定時のワークの姿勢を一層安定化することができる。
【0011】
以上の構成において、2つのワーク支持部のうちの一方のワークに対する接触点とワークの中心とを結ぶ直線と、2つのワーク支持部のうちの他方のワークに対する接触点とワークの中心とを結ぶ直線とがなす角度をθとしたとき、角度θが小さ過ぎても、あるいは大き過ぎてもワークの変位量を精度良く測定することが難しくなる。そのため、角度θは、90°<θ<180°とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
以上より、本発明によれば、直径寸法に比して肉厚が小さく、径方向に弾性変形し易い薄肉の円環状ワークであっても、その外径寸法や内径寸法などといった各種寸法を精度良く取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)図は、本発明に係る寸法取得方法を実施する際に使用される測定装置の概略平面図、(b)図は、(a)図のA-A線矢視概略断面図である。
【
図2】本発明に係る寸法取得方法で実施される工程のフロー図である。
【
図3】変位量測定工程及び寸法算出工程で実施される作業のフロー図である。
【
図4】変位量の測定方法を異ならせた場合における、変位量測定工程及び寸法算出工程で実施される作業のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1(a)は、本発明に係る寸法取得方法を実施する際に使用される測定装置1の概略平面図、
図1(b)は、(a)図のA-A線矢視概略断面図である。
図1(a)(b)に示す測定装置1は、円環状のワークWを測定対象物とするものであって、特に、直径寸法に比して肉厚が小さく、径方向に弾性変形し易い薄肉のワークWの外径寸法や内径寸法などを測定(取得)するために好適に使用される。ワークWの一例として、外径寸法、内径寸法及び肉厚の設計値が、それぞれφ250mm、φ240mm及び5mmに設定された転がり軸受の軌道輪(内周面に外側軌道面を有する外輪、又は外周面に内側軌道面を有する内輪)の基材であって、特に、ロボット用の減速機や遠心分離機に用いられる転がり軸受の軌道輪の基材を挙げることができる。
【0016】
測定装置1は、中心軸Oを鉛直方向に沿わせた平置き姿勢のワークW(の下端面)を下方側から接触支持する下側支持部2と、ワークWの径方向外側に配置された外側支持部3と、ワークWの径方向内側に配置されたクランパ4と、検出器5とを備える。図示は省略しているが、測定装置1は、ワークWを持ち上げて(下側支持部2による支持状態を解除して)ワークWをその中心軸O回りに回転させるワーク回転機構をさらに備える。ワーク回転機構としては、サーボモータ等、ワークWの回転量を制御することができるモータを回転駆動源としたものが使用される。
【0017】
下側支持部2は、ワークWの周方向に間隔を空けて複数配置されており、ここでは、軸状をなした3つの下側支持部2が等間隔(120°ピッチ)で配置されている。下側支持部2の配置数や配置間隔は適宜設定することができる。下側支持部2は、図示例のようにワークWの下端面の一部を支持するものに替えて、ワークWの下端面全域を支持するものを用いても良い。
【0018】
外側支持部3は、周方向に間隔を空けて2つ配置されており、下側支持部2により支持されたワークWの外周面Waを接触支持する。2つの外側支持部3は、一方の外側支持部3(第1外側支持部3A)のワークWの外周面Waに対する接触点P1とワークWの中心軸Oとを結ぶ直線L1と、他方の外側支持部3(第2外側支持部3B)のワークWの外周面Waに対する接触点P2とワークWの中心軸Oとを結ぶ直線L2とがなす角度(開き角)θが90°<θ<180°となるように配置されている。図示例ではθ=120°とされ、120°ピッチで配置された下側支持部2と同じ周方向位置に外側支持部3が配置されている。
【0019】
クランパ4は、第1外側支持部3A及び第2外側支持部3Bの径方向内側にそれぞれ配置されている。各クランパ4は、ワークWの内周面Wbに接触することにより、ワークWを挟んで径方向に対向配置された外側支持部3(第1外側支持部3A又は第2外側支持部3B)と協働してワークWを径方向に挟持する挟持位置[
図1(a)中の実線参照]と、この挟持位置よりも径方向内側にシフトした、ワークWの内周面Wbに接触しない退避位置[
図1(a)中の二点鎖線参照]の二位置間を往復動可能となっている。第1外側支持部3Aと協働してワークWを挟持するクランパ4は、ワークWの外周面Waに対する第1外側支持部3Aの接触点P1よりも、ワークWに対する内側検出端子7(詳細は後述する)の接触点側に所定量シフトした位置P3でワークWの内周面Wbに接触するように、また、第2外側支持部3Bと協働してワークWを挟持するクランパ4は、ワークWの外周面Waに対する第2外側支持部3Bの接触点P2よりも、ワークWに対する内側検出端子7の接触点側に所定量シフトした位置P4でワークWの内周面Wbに接触するように、配置位置が調整されている。
【0020】
検出器5は、第1外側支持部3Aと第2外側支持部3Bの周方向間(好ましくは、上記の接触点P1,P2を結ぶ直線の二等分線上)にワークWを挟んで径方向に対向配置された外側検出端子6及び内側検出端子7と、先端に外側検出端子6及び内側検出端子7がそれぞれ取り付けられた一対の支持アーム8,8とを備える。一対の支持アーム8,8は、相対的に接近及び離反移動可能であると共に、同期して昇降移動可能とされている。
図1(b)に示すように、支持アーム8,8が下降限に位置したとき、外側検出端子6と内側検出端子7はワークWを挟んで対向する。
【0021】
外側検出端子6及び内側検出端子7は、測定装置1にセットされる測定対象のワークWに応じてゼロ点較正(ゼロ点出し)がなされている。要するに、測定対象のワークWが、設計上の外径寸法等を異ならせた別のワークに変更される都度、両検出端子6,7のゼロ点較正がなされる。検出端子6,7のゼロ点較正は、測定対象のワークWとは別に準備した基準ワークを用いて行われる。基準ワークとは、測定対象のワークWと設計上の各部寸法を同じくする同一型番のワークであり、好ましくは外径寸法や内径寸法などが略設計値に仕上げられた高寸法精度のワークである。そして、測定装置1に基準ワークをセットし、セットした基準ワークの外周面及び内周面に外側検出端子6及び内側検出端子7がそれぞれ接触する位置が「外側検出端子6のゼロ点」及び「内側検出端子7のゼロ点」に設定される。
【0022】
なお、基準ワークについては、測定装置1にセットして両検出端子6,7のゼロ点較正を実施する前に、その外径寸法及び内径寸法を真円度測定器等を用いて予め測定しておく。これにより、測定された基準ワークの外径寸法をD、内径寸法をdとすると、外側検出端子6及び内側検出端子7がそれぞれゼロ点に位置していることを検知したときには、測定対象のワークWの外径寸法及び内径寸法はそれぞれ「D」及び「d」とすることができる。また、このときのワークWの肉厚は(D-d)/2で算出可能である。
【0023】
測定装置1は概ね以上の構成を有しており、測定対象のワークWの外径寸法、内径寸法、外径真円度、内径真円度及び肉厚は、
図2に示すように、較正工程S1、変位量測定工程S2及び寸法算出工程S3を順に実施することで取得することができる。なお、較正工程S1は、真円度測定器等を用いての基準ワークの寸法測定作業と、基準ワークを用いての検出器5(両検出端子6,7)のゼロ点較正作業とが実施される工程であり、これらの作業手順は上段で説明したことから、以下では、変位量測定工程S2及び寸法算出工程S3についてのみ説明する。
【0024】
[変位量測定工程S2]
図3は、変位量測定工程S2で実施される作業の手順を示すフロー図である。この工程S2では、まず、測定装置1に測定対象のワークWがセットされると共に、変位量測定作業の総実施回数Nが測定装置1の制御部に設定される。総実施回数Nは、2以上の正の整数である。
【0025】
測定対象のワークWは、
図1(a)に示すように、中心軸Oを鉛直方向に沿わせた平置き姿勢で下側支持部2上にセットされる。このとき、第1外側支持部3A及び第2外側支持部3Bの径方向内側にそれぞれ配置されたクランパ4は退避位置に位置させておき、ワークWの外周面Waを第1外側支持部3A及び第2外側支持部3Bに当接させた後、各クランパ4を退避位置から挟持位置に移動させる。これにより、径方向に対向配置された外側支持部3とクランパ4とでワークWが径方向に挟持される。このようにすれば、変位量測定時(詳細は後述する)に検出端子6,7がワークWに接触等するのに伴ってワークWの姿勢や位置が変化するのを可及的に防止することができる(ワークWの姿勢を安定化し、ワークWの外周面Waを外側支持部3A,3Bに接触させた状態を維持できる)ので、変位量の測定精度を高めることができる。
【0026】
特に本実施形態では、第1外側支持部3Aと協働してワークWを挟持するクランパ4を、ワークWの外周面Waに対する第1外側支持部3Aの接触点P1よりも、ワークWの内周面Wbに対する内側検出端子7の接触点側に所定量シフトした位置P3でワークWの内周面Wbに接触させると共に、第2外側支持部3Bと協働してワークWを挟持するクランパ4を、ワークWの外周面Waに対する第2外側支持部3Bの接触点P2よりも、ワークWの内周面Wbに対する内側検出端子7の接触点側に所定量シフトした位置P4でワークWの内周面Wbに接触させている。このようにすれば、
図1(a)中に黒塗り矢印で示すように、ワークWの外周面Waに対する外側支持部3A,3Bの接触点P1,P2を中心とするモーメント荷重をワークWに作用させることができるので、変位量測定時のワークWの姿勢を一層安定化し、変位量の測定精度を一層高めることができる。
【0027】
以上のようにして測定装置1にワークWをセットすると、検出器5を駆動して外側検出端子6及び内側検出端子7をワークWを挟んで径方向に対向配置し[
図1(b)参照]、ワークWの外周面Wa及び内周面Wbのゼロ点からの変位量を測定する変位量測定作業を実施可能な状態とする。変位量測定作業は、一対の支持アーム8,8(の先端にそれぞれ取り付けられた外側検出端子6及び内側検出端子7)を相対的に接近移動させた時に、基準ワークを用いて予め設定された外側検出端子6のゼロ点からワークWの外周面Waに対する外側検出端子6の接触点までの変位量(外周面変位量)δ1[
図1(a)参照]と、基準ワークを用いて予め設定された内側検出端子7のゼロ点からワークWの内周面Wbに対する内側検出端子7の接触点までの変位量(内周面変位量)δ2[
図1(a)参照]とを測定する作業である。測定された外周面変位量δ1及び内周面変位量δ2は、図示外の記憶装置に入力・保存される。
【0028】
変位量測定作業が完了すると、測定装置1に設けられた図示外のワーク回転機構を駆動させ、ワークWをその中心軸O回りに所定量回転させるワーク回転作業を実施する。ワーク回転作業におけるワークWの回転量(回転角)は、例えば20°~120°の範囲に設定される。ワーク回転作業が完了すると、上述した変位量測定作業を再度実施し、これが完了すると、ワーク回転作業を再度実施する。そして、変位量測定作業の実施回数(=n)が、予め設定した変位量測定作業の総実施回数(=N)と等しくなったら、変位量測定工程S2は完了する。
【0029】
[寸法算出工程S3]
寸法算出工程S3は、変位量測定工程S2で測定したワークWの外周面変位量δ1及び内周面変位量δ2に基づいて、ワークWの外径寸法、内径寸法、外径真円度、内径真円度及び肉厚の少なくとも一つを算出し、その算出結果を図示外のディスプレイ装置等に表示する工程である。
【0030】
ワークWの外径寸法等を算出するに当たっては、まず、外周面変位量δ1の平均値Qa、外周面変位量δ1の範囲Qb、外周面変位量δ1と内周面変位量δ2の差の平均値Ta、外周面変位量δ1と内周面変位量δ2の差の範囲Tbが算出される。変位量δ1(又はδ2)のデータ総数をmとすると、
平均値Qaは、変位量δ1の総和をデータ総数mで除することにより算出され、
範囲Qbは、変位量δ1の最大値(δ1max)から変位量δ1の最小値(δ1min)を減ずることにより算出され、
平均値Taは、変位量δ1とδ2の差の総和をデータ数mで除することにより算出され、
範囲Tbは、変位量δ1とδ2の差の最大値[=(δ1-δ2)max]から変位量δ1とδ2の差の最小値[=(δ1-δ2)min]を減ずることにより算出される。
すなわち、
・Qa=「δ1の総和」/m
・Qb=δ1max-δ1min
・Ta=「(δ1―δ2)の総和」/m
・Tb=(δ1-δ2)max-(δ1-δ2)min
である。
【0031】
上記の各種パラメータQa、Qb、Ta、Tbが算出されると、ワークWの外径寸法Di、内径寸法di、外径真円度、内径真円度及び肉厚は、それぞれ以下の計算式を用いて算出することができる。
・Di=D+(Qa×2)
・di=Di-[{(D-d)/2}-Ta]×2
・外径真円度=Qb/拡大率
・内径真円度=(Qb+Tb)/拡大率
・肉厚=(Di-di)/2
なお、外径寸法Di及び内径寸法diの計算式中のパラメータ「D」及び「d」は、それぞれ、検出端子6,7のゼロ点較正に使用した基準ワークの外径寸法及び内径寸法である。また、真円度の計算式中の「拡大率」とは、3点法真円度測定における測定値と形状偏差の比である。
【0032】
上記の「3点法真円度測定」、「3点法真円度測定における測定値」及び「形状偏差」について補足する。まず、一般に知られている「3点法真円度測定」は、
図1に示すように、所定の開き角θを形成するように配置した2つの外側支持部3A,3Bに外周面Waを接触させた状態でワークWを回転させたときに、ワークWのうち、両支持部3A,3B間に存在する円弧状部分の外周面振れ量(=真円度に相当)を測定するものである。この3点法真円度測定では、両支持部3A,3Bの開き角θと、ワークWの角数(ワークWを回転させたときの断面形状が概ね楕円(二角)であるか、あるいは、三角、四角、五角・・・等であるか)によって、ワークWの外周面Waの振れ量(=真円度)が変化する。あるワークの真円度を真円度測定器で測定し、その測定値を真の値(=形状偏差)とすると、3点法真円度測定では、上記開き角θ及びワークWの角数により、測定値が形状偏差に対して大きくなったり小さくなったりする。これを数値化したものが「拡大率」であり、上記開き角θ及びワークWの角数の関係式で予め算出することができる。そのため、3点法真円度測定では、ワークWの角数がわかっていれば、測定値を対応する拡大率で除することにより形状偏差を求めることができる。本件発明が測定対象とする低剛性の円環状ワークWの場合、その角数は小さくなる(10未満になる)傾向がある。本発明では、この角数を対応する拡大率で除することにより測定値を取得する。
【0033】
算出結果が表示(取得)されると、測定対象のワークWを測定装置1から取り外す。検出器5を再度較正する(外側検出端子6及び内側検出端子7について再度ゼロ点較正を行う)必要があれば、基準ワークを測定装置1に再セットして較正作業を行う。検出器5を再度較正する必要がなければ、次の測定対象のワークWを測定装置1にセットして、上記同様にしてワークWの外径寸法等を取得する。
【0034】
以上を小括すると、本発明の実施形態に係る円環状のワークWの寸法取得方法では、測定(寸法取得)対象の円環状ワークWの周方向に間隔を空けて配置した2つの外側支持部3(3A,3B)間にゼロ点較正済みの外側検出端子6及び内側検出端子7をワークWを挟んで径方向に対向配置し、両検出端子6,7を相対的に接近移動させてこれらをワークWの外周面Wa及び内周面Wbにそれぞれ接触させることにより、外側検出端子6のゼロ点からワークWの外周面Waに対する外側検出端子6の接触点までの変位量δ1と、内側検出端子7のゼロ点からワークWの内周面Wbに対する内側検出端子7の接触点までの変位量δ2とを測定する変位量測定工程S2が実施され、その後の寸法算出工程S3において、上記変位量δ1,δ2に基づいてワークWの外径寸法等が算出(取得)される。
【0035】
係る方法によれば、変位量測定工程S2での両検出端子6,7による変位量測定時には、一方の検出端子6(又は7)からワークWに付与される測定力(径方向の加圧力)を他方の検出端子7(又は6)で相殺することができるので、検出端子6,7による加圧力によってワークWを変形(弾性変形)させることなくワークWの変位量を精度良く測定することができる。このため、測定対象のワークWが、直径寸法に比して肉厚が小さく径方向に弾性変形し易い薄肉の円環状形態のものであっても、そのワークWの外径寸法等を精度良く算出・取得することができる。
【0036】
また、上記の方法であれば、測定対象のワークWのうち、その周方向一部領域に配置した2つの外側支持部3(3A,3B)、及び内外一対の検出端子6,7を最低限備えたコンパクトな測定装置1を用いてワークWの外径寸法等を取得することができるという利点もある。
【0037】
以上、本発明の一実施形態に係るワークWの寸法取得方法を説明したが、本発明の実施の形態はこれに限られない。
【0038】
例えば、変位量測定工程S2においては、
図4に示すように、ワークWをその中心軸O回りに回転させながら、ワークWの外周面変位量δ1及び内周面変位量δ2を(連続的に)測定することができる。このようにすれば、変位量測定工程S2において、静止状態のワークWの外周面変位量δ1及び内周面変位量δ2を測定する変位量測定作業と、ワークWをその中心軸O回りに所定量回転させるワーク回転作業とを交互に複数回実施するようにした前述の実施形態に比べ、変位量δ1,δ2を迅速にかつ多数測定することができる、変位量測定工程S2を簡素化してその実施時間を短縮することができる、などというメリットがある。但し、この場合には、検出端子6,7による変位量δ1,δ2の測定時に、クランパ4をワークWの内周面Wbに押し当てること(外側支持部3とクランパ4とでワークWを径方向に挟持すること)ができないものの、遠心力によってワークWの外周面Waを外側支持部3A,3Bに強く押し当てることが可能となるので、測定精度の低下を回避することができる。
【0039】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得る。すなわち、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0040】
1 測定装置
2 下側支持部
3 外側支持部
4 クランパ
5 検出器
6 外側検出端子
7 内側検出端子
O 中心軸
W ワーク
Wa 外周面
Wb 内周面
δ1 外周面変位量
δ2 内周面変位量
P1,P2,P3,P4 接触点