(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100425
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】法面の保護剤および緑化方法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/32 20060101AFI20240719BHJP
C09K 17/18 20060101ALI20240719BHJP
A01G 20/00 20180101ALI20240719BHJP
【FI】
C09K17/32 H
C09K17/18 H
A01G20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004420
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100128392
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】冨貴 丈宏
(72)【発明者】
【氏名】稲邉 裕司
(72)【発明者】
【氏名】山本 凌
【テーマコード(参考)】
2B022
4H026
【Fターム(参考)】
2B022AB02
4H026AA09
4H026AA10
4H026AB03
4H026AB04
(57)【要約】
【課題】堤防等に形成される法面の土石流出の保護と緑化とを図る。
【解決手段】ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドとポリカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩とをゲル化しない状態で混合した水溶液にヘアリーベッチを含有させて保護剤を形成し、該保護剤を法面に散布することで、法面の土壌流失を抑制すると共にヘアリーベッチの発芽育成により雑草繁茂がない状態での法面緑化を図る。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面に散布することで法面の保護をする保護剤であって、該保護剤は、
カチオン性セルロース、カチオン性デンプンから選択される少なくとも1種のカチオン性高分子と、
カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルアミロースから選択される少なくとも1種のアニオン性高分子と、
を含む水溶液であって、該水溶液は、アニオン性高分子がカチオン性高分子に対して過剰に含有することでゲル化のないものであることを特徴とする法面の保護剤。
【請求項2】
カチオン性高分子はポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドであり、アニオン性高分子はポリカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩であることを特徴とする請求項1記載の法面の保護剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の法面の保護剤に種子を混合したものを法面に散布することで法面を緑化することを特徴とする法面の緑化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川や海岸等の沿岸に設けられる堤防の法面、造成地に形成される法面等の各種の法面の保護剤および法面の緑化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、例えば河川や海岸等の沿岸線を防護するため堤防が設けられるが、このような場合に、堤防には斜面土壌面である法面が形成される。このような法面は、土壌が露出したままに放置した状態では、粉塵飛散の問題に加えて、降雨時等において表面土壌が流失して法面崩壊を招来する惧れがある。そこで法面を、コンクリートを吹き付ける等して全面をコンクリート面にすることが試みられているが、この様にした場合、緑化による環境保全の立場に反する等の問題がある。そこで法面を緑化するため、種子を吹き付けたり植生マット(シート)を敷設したりする等して積極的な緑化促進を試みることが知られているが、前者の場合、種子が発芽して生育するまでの間に法面の土壌が降雨や風等によって流亡する惧れがあり、また後者の場合には敷設したマットの後処理が問題になる。
ところでポリ酢酸ビニルとポリビニルアルコールを含む主剤に、アニオン性高分子とカチオン性高分子とを添加したものが粉塵飛散を抑制する効果があることが知られており(特許文献1参照)、このものを法面保護剤として用いることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが前記粉塵飛散抑制剤は、粉塵飛散抑制効果があるとされるアニオン性高分子とカチオン性高分子とを含有しているが、これらアニオン性高分子とカチオン性高分子とを混合したものは反応してゲル化、または固化して沈殿物が生成しやすく、この沈殿物(ダマ、固溶体)が生成した状態のまま散布した場合、散布用ノズルが早期のうちに詰まってしまうだけでなく、散布にムラが出て均一な粉塵飛散効果が期待できないことから、このものを法面保護剤として用いた場合、同様に均一な法面保護が果たせない等の問題があるうえ、法面の緑化には寄与しないものであり、これらに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、法面に散布することで法面の保護をする保護剤であって、該保護剤は、カチオン性セルロース、カチオン性デンプンから選択される少なくとも1種のカチオン性高分子と、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルアミロースから選択される少なくとも1種のアニオン性高分子と、を含む水溶液であって、該水溶液は、アニオン性高分子がカチオン性高分子に対して過剰に含有することでゲル化のないものであることを特徴とする法面の保護剤である。
請求項2の発明は、カチオン性高分子はポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドであり、アニオン性高分子はポリカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩であることを特徴とする請求項1記載の法面の保護剤である。
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の法面の保護剤に種子を混合したものを法面に散布することで法面を緑化することを特徴とする法面の緑化方法である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明とすることにより、カチオン性セルロース、カチオン性デンプンから選択される少なくとも1種のカチオン性高分子と、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルアミロースから選択される少なくとも1種のアニオン性高分子とがゲル化のない状態で混合される粉塵飛散防止機能の高い水溶液が、法面の保護剤として利用することができることになって、法面保護が確実になる。
請求項2の発明とすることにより、カチオン性高分子はポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、アニオン性高分子はポリカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩は汎用性が高く、安全性に優れた法面の保護剤とすることができる。
請求項3の発明とすることにより、法面が前記保護剤によって保護されている状態で含有する種子からの発芽、生育がなされることになって法面の積極的な緑化が、シート材等の後処理をする必要なくできることになる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図5】耐雨性能の確認試験の結果を示すグラフ図である。
【
図6】散布後28日を経過したときの粉塵飛散濃度を示すグラフ図である。
【
図7】ヘアリーベッチの生育状況を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。
本発明において採用されるカチオン性高分子としては、ポリカチオン性セルロース、ポリカチオン性デンプン等のポリカチオン性高分子から選択される少なくとも1種であり、具体的には、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(以下「DADMAC」と称する。)を例示することができるが、該DADMACは、繊維加工、紙・パルプ、塗料、インキ等の多くの分野で採用されている高分子であって、人体、環境に影響を与えることが殆どないものとして知られている。
【0009】
【化1】
ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DADMAC)
【0010】
また、アニオン性高分子としては、ポリカルボキシメチルセルロース、ポリカルボキシメチルアミロースから選択される少なくとも1種であり、具体的には、ポリカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(以下「CMC」と称する。)を例示することができるが、該CMCについても、食品、医薬、化粧品等の多くの分野で採用されている高分子であって、人体、環境に影響を与えることが殆どないものとして知られている。
【0011】
【化2】
ポリカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(CMC)
【0012】
そして本発明は、特にアニオン性高分子がカチオン性高分子に対して過剰に含まれていることが特徴であり、このようにアニオン性高分子が過剰に含まれていることで、両高分子を高濃度で混合した水溶液を製造した場合において、両高分子同士が反応したときの沈殿物の生成(ゲル化)が抑制され、また生成した沈殿物についても時間経過とともに過大化することが殆どなく、このため両高分子同士の反応を抑制するため従来公知の反応抑制剤(例えば塩化ナトリウム等の塩)を別途加える必要はない。
【0013】
また本発明が実施される保護剤の溶剤(媒体)としては原則として水であるが、必要において水溶性の有機溶剤、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、2プロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、またはアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類の水溶性の有機溶剤を水に配合して使用することができるが、有機溶剤の配合量としては、環境に影響を与えないよう10重量%以下程度とすることが好ましい。これらの有機溶剤は、本発明が実施される保護剤の水溶液の粘度調整や使用成分、生成した沈殿物の溶解を促進するものとして使用できるが、これらの有機溶剤を使用する場合、人体に対する影響と環境負荷を少なくするためにエチルアルコールとすることが好ましい。
【0014】
本発明が実施される保護剤のカチオン性高分子とアニオン性高分子との混合比であるが、当量比として1:3~1:300の範囲であり、好ましくは1:5~1:100の範囲である。
そしてカチオン性高分子とアニオン性高分子とが混合された水溶液の濃度としては、散布時において1重量%程度の低濃度に調整することが作業性等の観点から好ましいが、散布面積が広い場合、このような低濃度の保護剤を散布現場に搬送することは経済的観点から好ましいとは言えない。このため例えば数十重量%程度の高濃度の原液を調整し、該原液を散布現場に搬送後、水で希釈して散布するようにすることが好ましく、このためには、前記調整された高濃度の原液中に、両高分子を混合したことによる反応促進に伴う沈殿物の生成がないか、あっても僅かであって散布に支障がない程度であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の保護剤において、法面緑化のため種子として含有される植物は、一年生で、播種した後の発芽、生育が早く、土壌面を覆いつくすように成長するものであって、ヘアリーベッチ、マルチムギが例示される。ヘアリーベッチはマメ科の一年生植物であって、草高が50cmほどとなって土壌面全体を覆うように成長することで土壌面に日光の照射を遮ることで除草効果を発揮するだけでなく、根粒細菌による窒素の固定効果が期待できる。
マルチムギは、イネ科の植物であって、草丈が30~50cmほどとなって土壌面を覆う状態で生育して雑草の生育を阻害する効果が期待できる。
【0016】
さらに本発明の保護剤には、法面に散布した場合に混入する種子の流亡を防止するための流亡防止材としてパルプを混入することが好ましいが、該パルプとしては、バージンパルプでもよいが、回収した古紙をパルプに再生した古紙パルプ(再生パルプ)が再生材の有効利用の観点から好ましい。このようなパルプを混入することにより、抑制剤の粘度を上昇(増粘)させ、散布した抑制剤が散布土壌から流失してしまうことの防止が図れるが、混入するパルプに種子が絡みついた状態となって種子自体の流亡防止にも寄与できるという利点がある。
【0017】
次に、本発明の有効性を確認するため次の作業、実験を試みた。
【0018】
<供試土および供試土が充填されたコンテナの作成>
ある国内の造成現場において採取した土壌について、風乾後、4.5mmメッシュの篩を透過したものを供試土として作成した。該供試土の粒径加積曲線は
図2のグラフ図に示すとおりであり、その性状は、JIS(日本工業規格)A 1202の土粒子の密度試験、JIS A 1204の土の粒度実験、JIS A 1210の突固めによる供試土の締固め実験を行った結果を
図3の表図に示す。
前記作成した供試土1を、縦横内幅が166mm×106mm、深さが86mmのコンテナ(容器)に充填するが、その充填方法として、供試土を30mmの厚さになるよう自然落下する状態でコンテナに充填したものに、重さ150g、直径25mmの突き棒を、高さ50cmのところから自然落下させて供試土を締固めることをコンテナ全面に亘って均等に行った。この供試土のコンテナへの充填、締固め作業を3回繰り返すことで、締固められた供試土が深さ(高さ、厚さ)略9割の状態で充填されたコンテナを作成した。
【0019】
<試験液の調整>
保護剤として、カチオン性高分子であるDADMAC(センカ株式会社製 商品名:ユニセンスFPA1001L 分子量10~50万)と、アニオン性高分子であるCMC(ダイセル化学工業株式会社製 商品名:CMCダイセル1330 分子量16~38万)とを選択し、そして当量比として、DADMAC:CMCを1:1、1:3、1:5、1:7、1:40、1:60、1:80、1:100、1:200、1:300、1:400、43:1となるよう試験液1~12を調整するが、これらの試験液1~12は、10重量%の高濃度水溶液である原液を調整し、該原液を6時間、温度20℃、湿度60%の室内に静置した後、1重量%の濃度の水溶液になるよう希釈することで作成した。
【0020】
<試験液の散布および粉塵飛散実験>
前記コンテナに充填された供試土に、前記調整された保護剤の試験液1~12を散布した後、温度20℃、湿度60%の屋内にて48時間養生した。試験液1~12の散布量は、2L/m
2となるように調整した。因みに2L/m
2の散布量は、供試土の表面全体に、凡そ1~2mmの深さまで試験液が隙間なく浸透する程度に散布されるものである。
養生後、
図1に示すように、供試土1が充填されたコンテナ2を台座3に載置する一方、送風機(ボッシュ株式会社製、ブロアGBL800E)4を、前記台座3よりも高い台座5に載置し、該送風機4からの送風を行うことになる。その際に、台座3、5間の距離および高低差、送風機4の向き等の送風条件として、供試土1部位において送風機4からの送風が、気象庁が定める「風の強さと吹き方」において「強い風」に分類される風速15m/sとなるよう調整されたものとなっており、この条件下で、送風機4から5分間、供試土1の表面に送風をした。
そして送風前後の供試土の重量差(実際にはコンテナ2を含めた重量差)を測定し、その差分を飛散した粉塵量とした。
【0021】
<粉塵飛散結果および考察>
前記粉塵飛散実験を、各試験液1~12ごとに3回繰り返し、各飛散した粉塵量から平均粉塵飛散量を求めたところ、
図4に示すグラフ図のようになった。
尚、この粉塵飛散実験には、ブランクとして全く散水しないもの(ブランク1)、水のみを散水したもの(ブランク2)についても同様の実験をした。
これらの実験から、粉塵飛散の抑制効果があるものとして、DADMACとCMCとの当量比が、DADMACを1としたときに3~300の範囲であり、好ましくは、5~100の範囲であることが確認された。
【0022】
DADMACを1としたときの当量比が1のものは、原液中に沈殿物の発生が視認され、これを水で希釈して試験液にしても沈殿物は残留しており、この結果、飛散抑制効果が低下したものと推定される。因みに、当量比が3の原液は沈殿物の発生が僅かではあるが視認され、当量費が5以上のものは沈殿物が視認されず、このため粉塵飛散抑制効果に差が出たものと推定される。
そしてこの高い粉塵飛散抑制効果は、当量比が100のものまでは凡そ維持され、これを越えて300までのものは、若干劣るがそれなりの粉塵飛散抑制効果を発揮したものとなって実用性が認められる。一方、当量比が400のものは、飛散抑制効果が低く、実用的ではないと判断される。
これに対し、逆にCMCをDADMACに対して過剰にした試験液12のものは、水を散水したものよりも低い粉塵飛散抑制効果となった。
このようにカチオン性高分子であるDADMACを過剰にした場合には高い粉塵飛散抑制機能が確認されるのに対し、逆にアニオン性高分子であるCMCを過剰にしたものでは粉塵飛散抑制効果が認められないものとなったことにより本発明の有効性が確認される。
【0023】
<法面保護性能の確認実験とその考察>
前記供試土を、長さ90cm、幅45cm、深さ20cmの試験箱に充填し、鎮圧したものについて、供試土表面が30度の角度となるようセットする。このものに、耐雨性を確認するため、人工降雨機を用いて80mm/h(日本気象庁が定める「猛烈な雨」に相当する。)の降雨量で60分間降雨させ、供試土の土砂の流失量を測定した。
流失量の測定をした保護剤としては、前記粉塵飛散抑制の実験結果を参考にしてDADMACとCMCとの当量比を1:7の割合とし、濃度が1.0重量%になるよう調整した保護剤1の水溶液を作成し、該保護材1を2L/m
2となる状態で散布したものと、何も散布しないブランク3のものとについて法面の土砂の流失状態を観測した。その結果を
図5の表図に示す。
この結果から、本発明が実施された保護剤1は、散布しないブランク3のものに比して1/5以下の土砂の流失しかないことが確認され、保護材1は、高い耐雨性が認められ法面の保護機能があることが確認された。
【0024】
<粉塵飛散および雑草繁茂の抑制実験>
次に、前記調整した保護材1の1.8kgに、ヘアリーベッチの種子を450gの割合で混合したもの、さらにこのものに古紙ファイバーを5kgの割合で混合したものを作成し、このようにすることで本発明が実施された保護材2、3を作成した。
このようにして作成された保護剤2、3の180Lを、90m2(9.5m四方)の造成直後の土壌面に均一になるようにして散布した。散布は汎用の散布機(ハイドロシーダー)を用いた。ブランク4として無散布の土壌、ブランク5としてヘアリーベッチの種子のみを散播した土壌も用意した。
また実験土壌は、種子の周辺への流亡を確認するため、四周縁部を幅50cmのポリ塩化ビニール製のシート材で被覆した状態で保護剤2、3を散布した後、およびブランク5の種子のみの播種した後、前記シート材を取り除いた状態とした。
【0025】
<粉塵飛散および雑草繁茂の抑制実験の結果と考察>
i.粉塵飛散抑制実験の結果と考察
まず、粉塵の飛散状態について確認をした。散布後、28日を経過した土壌の粉塵飛散状態について検討した。この結果、
図6に示すように、保護剤2、3の粉塵飛散濃度は、無処理のブランク4のものに比して28日経過後おいても、1/10程度の低減状態を維持していることが認められ、ヘアリーベッチの種子を混合したものでも、高い粉塵抑制効果があることが認められた。また保護剤2、3とでは、古紙パルプを混合した保護剤2の方が、粉塵抑制効果が高いことが認められた。
これは古紙パルプの混合により、散布された複合物の土壌に対する定着性が向上し、粉塵抑制効果が高まったものと推測される。
【0026】
ii.ヘアリーベッチの生育状態の結果と考察
一方、保護剤2、3、ブランク5において播種されたヘアリーベッチの発芽、育成状態の確認をしたところ、何れのものも、
図7に示す表図のように順調に生育した。
この結果、ヘアリーベッチは、粉塵発生の抑制および法面保護効果が認められるDADMACとCMCとの複合物の有無に関係なく成長することが確認された。このことより、DADMACとCMCとの複合物はヘアリーベッチの発芽、成長に影響を与えないものであるといえる。
【0027】
iii.雑草抑制効果の結果と考察
このように保護剤2、3、ブランク5のヘアリーベッチが播種された土壌においては、ヘアリーベッチの発芽、育成が何れも同様になされ、早期のうちに一面に繁茂していることから、雑草の発芽が僅かであった。これに対し、なにも散布しなかったブランク4のものは雑草があちこちに発芽していることが確認された。これは、繁茂するヘアリーベッチにより土壌面への日光の照射が阻害され、その後に発芽する雑草の生育を抑制する効果が高いことによるものと推測される。
【0028】
iv.種子の流亡状態の結果と考察
次に、播種したヘアリーベッチが、実験土壌の外の外周縁部にどれだけはみ出た状態で生育しているかについて確認した。因みに外周縁部は、90m2の実験土壌の外周縁から50cmまでの範囲とし、この範囲に散布後のヘアリーベッチの生育状況を確認した。
散布後、28日経過したときの各実験土壌における外周縁部に生育するヘアリーベッチの繁茂状態について確認したところ、ブランク5の種子のみを散布したものは、保護剤2、3を散布したものに比して明らかに外周縁部においてのヘアリーベッチの生育が明らかに多く確認された。これは保護材2、3に含まれるDMACとCMCとの複合物が種子の流亡防止に寄与しているものと推察される。
さらに保護剤2、3とでは、古紙パルプが含有した保護剤3を散布したものの方が、保護剤2の古紙パルプがないものに比して少ないことが確認された。この結果から、古紙パルプを含有する保護剤3は、古紙パルプが種子の流亡に寄与しているものと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、造成土壌等の土壌からの粉塵飛散と雑草繁茂とを抑制することができる粉塵飛散および雑草繁茂の抑制剤および抑制方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 供試土
2 コンテナ
3 台座
4 送風機
5 台座