(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100446
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系樹脂組成物およびポリプロピレン系樹脂組成物からなる成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/10 20060101AFI20240719BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20240719BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20240719BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C08L23/10
C08K5/103
C08K5/20
C08K5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004450
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】505130112
【氏名又は名称】株式会社プライムポリマー
(71)【出願人】
【識別番号】000157717
【氏名又は名称】丸菱油化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田島 武治
(72)【発明者】
【氏名】松野 友樹
(72)【発明者】
【氏名】内田 将都
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB121
4J002BB141
4J002BB211
4J002BP021
4J002EH056
4J002EH076
4J002EK038
4J002EK048
4J002EK058
4J002EK088
4J002EP017
4J002FD106
4J002FD107
4J002GG01
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】有機過酸化物の存在下で溶融混練した後に成形して得られた成形物からの有機化合物の放散量が少なく、かつ、帯電防止性能に優れるポリプロピレン系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂(A)100質量部と、モノグリセリン脂肪酸エステル(B)0.04~0.6質量部と、アルキルジエタノールアミド脂肪酸モノエステルを含むアルキルジエタノールアミド系化合物(C)0.08~0.8質量部を含み、アルキルジエタノールアミン脂肪酸エステルの含有量が0.08質量部以下であるポリプロピレン系樹脂組成物(X)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂(A)100質量部と、
モノグリセリン脂肪酸エステル(B)0.04~0.6質量部と、
アルキルジエタノールアミド脂肪酸エステルを含むアルキルジエタノールアミド系化合物(C)0.08~0.8質量部を含み、
アルキルジエタノールアミン脂肪酸エステルの含有量が0.08質量部以下である
ポリプロピレン系樹脂組成物(X)。
【請求項2】
有機過酸化物(D)0.01~0.1質量部をさらに含み、溶融混練された組成物である、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物(X)。
【請求項3】
前記アルキルジエタノールアミド系化合物(C)は、前記アルキルジエタノールアミド系化合物(C)を180℃で10分間保持した場合に、メタノールの発生量が5.0μg/g以下であるという要件を満たす、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物(X)。
【請求項4】
前記アルキルジエタノールアミド系化合物(C)は、前記アルキルジエタノールアミド系化合物(C)を180℃で10分間保持した場合に、ジエタノールアミンの発生量が100μg/g以下であるという要件を満たす、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物(X)。
【請求項5】
前記アルキルジエタノールアミド系化合物(C)は、前記アルキルジエタノールアミド系化合物(C)を180℃で10分間保持した場合に、アセトアルデヒドの発生量が30μg/g以下であるという要件を満たす、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物(X)。
【請求項6】
ポリプロピレン系樹脂(A)100質量部に対し、前記モノグリセリン脂肪酸エステル(B)および前記アルキルジエタノールアミド系化合物(C)を合計で0.2~1.0質量部配合してなる、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物(X)。
【請求項7】
前記モノグリセリン脂肪酸エステル(B)と前記アルキルジエタノールアミド系化合物(C)との質量比が、(B)/(C)=20/80~60/40である、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物(X)。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のポリプロピレン系樹脂組成物(X)からなる成形体。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載のポリプロピレン系樹脂組成物(X)からなる射出成形体。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載のポリプロピレン系樹脂組成物(X)からなる自動車内装部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂組成物およびポリプロピレン系樹脂組成物からなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン樹脂の成形体は、自動車内外装材や電気部品箱体等に利用されている。特に、自動車内装材や電気部品箱体等として使用する場合、成形体の表面にほこりが付着しないことが望ましい。そこで、成形体表面へのほこりの付着を抑制するために、ポリプロピレン樹脂に帯電防止剤を配合して成形体表面の電気抵抗を低下させ、静電気を逃がすことが一般に行われている。
【0003】
しかし、帯電防止剤を配合したポリプロピレン樹脂から得られた成形体は、温度が上昇すると、帯電防止剤に由来する揮発成分を放散するので、用途によっては問題となる。例えば、成形体が自動車内装材として用いられる場合、成形体から放散した揮発成分が自動車のフロントガラス等に付着して、ガラスの透明性が損なわれるおそれがある(フォギング)。さらに、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等のVOC(Volatile Organic Compounds)成分も人体への有害性の面から低減する必要がある。また、自動車内装材以外であっても、これらの揮発成分の放散量が少なく、かつ、成形体がほこりの付着を抑制できる程度に帯電防止性能に優れることが望まれる用途は数多く存在する。
【0004】
このような問題に対応するために、例えば、特許文献1には、結晶性ポリプロピレン樹脂に、帯電防止剤としてパルミチン酸ジエタノールアミドを配合したポリプロピレン樹脂組成物が提案されている。また、特許文献2には、ポリプロピレン樹脂に、モノグリセリン脂肪酸エステルおよびジグリセリン脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種のエステル化合物、ステアリルジエタノールアミンモノステアレート、および、N,N’-ジ(ヒドロキシエチル)アルキルアミド(アルキルジエタノールアミドともいう)を配合したポリプロピレン樹脂組成物が提案されている。さらに、特許文献3には、ポリプロピレン樹脂に、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミドを配合し、アルキルジエタノールアミンおよび/またはアルキルジエタノールアミンの脂肪酸エステルを実質的に含まないポリプロピレン樹脂組成物が提案されている。
【0005】
ところで、ポリプロピレン樹脂の成形性を改良するなどの目的で、ポリプロピレン樹脂に有機過酸化物を配合し、溶融混練して、ポリプロピレン樹脂の流動性を調整することがある。そこで、有機過酸化物を配合しつつVOCの放散量を低減可能な組成物として、特許文献4には、ポリプロピレンに有機過酸化物とアルキルジエタノールアミドを配合し、溶融混練したポリプロピレン樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-212353号公報
【特許文献2】特開2014-201615号公報
【特許文献3】特開2020-143278号公報
【特許文献4】特開2014-201616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載のポリプロピレン樹脂組成物はフォギング防止性が十分でなく、またアセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等の放散量についても改善の余地があった。特許文献3に記載のポリプロピレン樹脂組成物では、特許文献1、2のポリプロピレン樹脂組成物に比べてアセトアルデヒドおよびホルムアルデヒドの放散量が低減されているものの、用途によっては成形性が不十分な場合があることが分かった。しかし、特許文献3のポリプロピレン樹脂組成物に有機過酸化物を配合して溶融混練を行うと、成形性が改善するものの、溶融混練により、アセトアルデヒド、アクロレイン等のVOC成分が発生してしまい、フォギングの原因となる揮発成分も発生することが分かった。特許文献4に記載のポリプロピレン樹脂組成物でも、溶融混練により、ホルムアルデヒドの発生原因であるメタノールが多く発生してしまう上、モノグリセリン脂肪酸エステルを併用していないことから帯電防止性能が不十分であり、成形体表面にほこりが付着してしまう。
【0008】
このように、有機過酸化物の存在下で溶融混練した後に成形して得られる成形物からのVOCの放散量が少なく、かつ、成形体の表面へほこりが付着しにくい程度に帯電防止性能が良好なポリプロピレン系樹脂組成物は、いまだに得られていない。
【0009】
そこで、本発明は、有機過酸化物の存在下で溶融混練した後に成形して得られる成形物からの有機化合物(VOC)の放散量が少なく、かつ、帯電防止性能に優れるポリプロピレン系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が研究を進めた結果、下記構成例によれば、前記課題を解決できることを見出した。本発明の構成例は、以下の通りである。
なお、本明細書では、数値範囲を示す「A~B」は、A以上B以下を示す。
【0011】
[1] ポリプロピレン系樹脂(A)100質量部と、
モノグリセリン脂肪酸エステル(B)0.04~0.6質量部と、
アルキルジエタノールアミド脂肪酸エステルを含むアルキルジエタノールアミド系化合物(C)0.08~0.8質量部を含み、
アルキルジエタノールアミン脂肪酸エステルの含有量が0.08質量部以下である
ポリプロピレン系樹脂組成物(X)。
【0012】
[2] 有機過酸化物(D)0.01~0.1質量部をさらに含み、溶融混練された組成物である、[1]に記載のポリプロピレン系樹脂組成物(X)。
【0013】
[3] 前記アルキルジエタノールアミド系化合物(C)は、前記アルキルジエタノールアミド系化合物(C)を180℃で10分間保持した場合に、メタノールの発生量が5.0μg/g以下であるという要件を満たす、[1]または[2]に記載のポリプロピレン系樹脂組成物(X)。
【0014】
[4] 前記アルキルジエタノールアミド系化合物(C)は、前記アルキルジエタノールアミド系化合物(C)を180℃で10分間保持した場合に、ジエタノールアミンの発生量が100μg/g以下であるという要件を満たす、[1]~[3]のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂組成物(X)。
【0015】
[5] 前記アルキルジエタノールアミド系化合物(C)は、前記アルキルジエタノールアミド系化合物(C)を180℃で10分間保持した場合に、アセトアルデヒドの発生量が30μg/g以下であるという要件を満たす、[1]~[4]のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂組成物(X)。
【0016】
[6] ポリプロピレン系樹脂(A)100質量部に対し、前記モノグリセリン脂肪酸エステル(B)および前記アルキルジエタノールアミド系化合物(C)を合計で0.2~1.0質量部配合してなる、[1]~[5]のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂組成物(X)。
【0017】
[7] 前記モノグリセリン脂肪酸エステル(B)と前記アルキルジエタノールアミド系化合物(C)との質量比が、(B)/(C)=20/80~60/40である、[1]~[6]のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂組成物(X)。
【0018】
[8] [1]~[7]のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂組成物(X)からなる成形体。
【0019】
[9] [1]~[7]のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂組成物(X)からなる射出成形体。
【0020】
[10] [1]~[7]のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂組成物(X)からなる自動車内装部品。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、有機過酸化物の存在下で溶融混練した後に成形して得られる成形物からの有機化合物(VOC)の放散量が少なく、かつ、帯電防止性能に優れるポリプロピレン系樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
≪ポリプロピレン系樹脂組成物(X)≫
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物(X)(以下「樹脂組成物(X)」ともいう。)は、ポリプロピレン系樹脂(A)、モノグリセリン脂肪酸エステル(B)、および、アルキルジエタノールアミド脂肪酸エステルを含むアルキルジエタノールアミド系化合物(C)を含む。
【0023】
<ポリプロピレン系樹脂(A)>
樹脂組成物(X)に含まれるポリプロピレン系樹脂(A)としては、従来公知のポリプロピレン系樹脂を適宜選択して用いることができる。ポリプロピレン系樹脂(A)として、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレンエチレンブロック共重合体、プロピレンとα-オレフィン(ただし、プロピレンは除く)とのプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体、およびプロピレンとα-オレフィン(ただし、プロピレンは除く)とのプロピレン・α-オレフィンブロック共重合体を挙げることができる。また、ポリプロピレン系樹脂(A)は、無水マレイン酸等の極性基含有モノマーで変性されていてもよい。樹脂組成物(X)に含まれるポリプロピレン系樹脂(A)は、1種類でもよく、また、2種類以上であってもよい。
【0024】
前記プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体またはプロピレン・α-オレフィンブロック共重合体を形成するα-オレフィンとしては、炭素数4~20のα-オレフィンが好ましく挙げられ、具体的には、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ヘキサデセン、4-メチル-1-ペンテンなどを挙げることができる。これらのα-オレフィンは、1種類のみが使用されてもよく、また、2種類以上が使用されてもよい。
【0025】
ポリプロピレン系樹脂(A)は、好ましくは、以下の要件(a-1)~(a-4)の1つ以上を満たし、より好ましくは、要件(a-1)~(a-4)の2つ以上を満たす。
【0026】
〔要件(a-1)〕
JIS K-7210(ISO1133)に準拠して230℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(以下「MFR」ともいう。)が、好ましくは、1.0~70g/10分であり、より好ましくは20~50g/10分である。
ポリプロピレン系樹脂(A)のMFRが前記範囲にあると、ポリプロピレン系樹脂(A)を含む樹脂組成物(X)の成形性と物性の両方が良好になる。
【0027】
〔要件(a-2)〕
ポリプロピレン系樹脂(A)は、好ましくは、室温(23℃)でのn-デカン可溶部(Dsol)として特定されるプロピレン・エチレン共重合体もしくはプロピレン・α-オレフィン共重合体を含む。ポリプロピレン系樹脂(A)に含まれる室温での(23℃)n-デカン可溶部の量は、ポリプロピレン系樹脂(A)100質量%に対して、好ましくは、10~40質量%、より好ましくは15~30質量%である。
ポリプロピレン系樹脂(A)に含まれるn-デカン可溶部の量が上記範囲にあると、ポリプロピレン系樹脂(A)を含む樹脂組成物(X)の衝撃性と剛性の両方が良好である。
【0028】
〔要件(a-3)〕
ポリプロピレン系樹脂(A)が室温(23℃)でのn-デカン可溶部(Dsol)を含む場合、室温(23℃)でのn-デカン可溶部の極限粘度[η](135℃、デカリン中で測定)は、好ましくは1.5~8.0dl/g、より好ましくは1.6~6.5dl/gである。
ポリプロピレン系樹脂(A)に含まれるn-デカン可溶部の極限粘度[η]が上記範囲にあると、ポリプロピレン系樹脂(A)を含む樹脂組成物(X)の耐衝撃性が良好であり、樹脂組成物(X)の成形収縮率が小さく、樹脂組成物(X)を成形した際にブツなどの外観不良が発生し難い。
【0029】
〔要件(a-4)〕
ポリプロピレン系樹脂(A)が室温(23℃)でのn-デカン可溶部(Dsol)を含む場合、室温(23℃)でのn-デカン可溶部は、エチレンから導かれる構成単位を、好ましくは20~50質量%、より好ましくは30~40質量%含む(ただし、デカン可溶部の質量を100質量%とする)。
前記n-デカン可溶部中のエチレンから導かれる構成単位の量が前記範囲であると、ポリプロピレン系樹脂(A)を含む樹脂組成物(X)を成形した際、外観不良の原因となるブツが発生し難く、低光沢性を満足する。なお、樹脂組成物(X)を成形した際の光沢が低いと、樹脂組成物(X)から得られた成形体を自動車内装材として使用した場合に、前記自動車内装材がフロントガラスなどのガラスへの映り込むのを抑制しやすく、視界不良を引き起こしにくい。
【0030】
ポリプロピレン系樹脂(A)は、それ自体公知の固体状チタン触媒あるいはメタロセン系触媒などを用いて、公知の方法により製造することができる。
例えば、プロピレンエチレンブロック共重合体とプロピレン・α-オレフィンブロック共重合体のいずれも、通常、直列に連結した複数個の重合器でされる。これらのブロック共重合体は、例えば、前段側の重合器でプロピレン単独重合体を生成し、後段側の重合器でプロピレン単独重合体の存在下でプロピレン・エチレンランダム共重合またはプロピレン・α-オレフィンランダム共重合を生成することにより得られる。このため、これらのブロック共重合体では、プロピレン単独重合体とプロピレン・エチレンランダム共重合またはプロピレン・α-オレフィンランダム共重合とが均一に混合している。
【0031】
ポリプロピレン系樹脂(A)は、少なくとも1種以上のバイオマス由来モノマーに由来する構成単位を含んでいてもよい。ポリプロピレン系樹脂(A)の原料となるバイオマス由来モノマーは、バイオマス由来のα-オレフィンであってもよく、例えば、バイオマス由来のエチレン、バイオマス由来のプロピレンが挙げられる。ポリプロピレン系樹脂(A)の原料となるモノマーは、バイオマス由来モノマーのみを含んでもよいし、バイオマス由来モノマーと化石燃料由来モノマーの両方を含んでもよい。なお、バイオマス由来のエチレン、バイオマス由来のプロピレンなどのバイオマス由来のα-オレフィンは、公知の方法により得られる。
ここで、バイオマス由来モノマーとは、菌類、酵母、藻類および細菌類を含む、植物由来または動物由来などの、あらゆる再生可能な天然原料およびその残渣を原料としてなるモノマーで、該モノマーに含まれる炭素全体を1とすると、14C同位体を10-12程度の割合で含有する。また、バイオマス由来モノマーでは、ASTM D 6866に準拠して測定したバイオマス炭素濃度(pMC、percent Modern Carbon)が100(pMC)程度である。
【0032】
ポリプロピレン系樹脂(A)がバイオマス由来モノマーに由来する構成単位を含むことは環境負荷低減の観点から好ましい。重合用触媒、重合温度などの重合体製造条件が同等であれば、ポリプロピレン系樹脂(A)の原料となるモノマーがバイオマス由来モノマーを含んでいても、14C同位体を炭素全体の10-12程度の割合で含む以外の分子構造は、原料となるモノマーが化石燃料由来モノマーのみであるポリプロピレン系樹脂(A)と同等である。従って、バイオマス由来モノマーに由来する構成単位を含むポリプロピレン系樹脂(A)と、化石燃料由来モノマーに由来する構成単位のみからなるポリプロピレン系樹脂(A)では、性能も変わらない。
【0033】
ポリプロピレン系樹脂(A)は、少なくとも1種以上のケミカルリサイクル由来モノマーに由来する構成単位を含んでいてもよい。ポリプロピレン系樹脂(A)の原料となるケミカルリサイクル由来モノマーは、ケミカルリサイクル由来プロピレンのみでもよいし、ケミカルリサイクル由来プロピレンと化石燃料由来プロピレンおよび/またはバイオマス由来プロピレンを含んでもよい。ケミカルリサイクル由来プロピレンは、従来から知られている方法により得られる。
ポリプロピレン系樹脂(A)がケミカルリサイクル由来プロピレンに由来する構成単位を含むことは環境負荷低減(主に廃棄物削減)の観点から好ましい。一般に、原料モノマー(例えばプロピレン)がケミカルリサイクル由来モノマーを含んでいても、ケミカルリサイクル由来モノマーは廃プラスチックなどの重合体を解重合、熱分解等でプロピレンなどのモノマー単位にまで戻したモノマー、ならびに該モノマーを原料にして製造したモノマーであるので、重合用触媒、重合プロセス、重合温度などの重合体製造条件が同等であれば、分子構造は、原料プロピレンが化石燃料由来モノマーのみからなるポリプロピレン系樹脂(A)と同等である。従って、ケミカルリサイクル由来モノマーに由来する構成単位を含むポリプロピレン系樹脂(A)と、化石燃料由来モノマーに由来する構成単位のみからなるポリプロピレン系樹脂(A)では、性能も変わらないとされる。
【0034】
<帯電防止剤成分>
樹脂組成物(X)は、帯電防止剤成分を含む。帯電防止剤成分には、モノグリセリン脂肪酸エステル(B)とアルキルジエタノールアミド系化合物(C)とが含まれる。
【0035】
<モノグリセリン脂肪酸エステル(B)>
モノグリセリン脂肪酸エステル(B)は、樹脂組成物(X)において帯電防止剤として作用する。モノグリセリン脂肪酸エステル(B)は、モノグリセリンと脂肪酸とのエステル化反応、またはモノグリセリンと脂肪酸低級アルキルアルコールエステルとのエステル交換反応等の公知の方法によって得られるエステル化合物である。モノグリセリン脂肪酸エステル(B)は、好ましくはモノグリセリンと炭素数8~22の脂肪酸とから得られるモノグリセリンのモノ脂肪酸エステル化合物であるが、ジ脂肪酸エステル、トリ脂肪酸エステルが含まれてもよい。モノグリセリン脂肪酸エステル(B)は、エステル化反応後、蒸留したものであってもよいし、未蒸留のまま使用してもよい。なお、樹脂組成物(X)に含まれるモノグリセリン脂肪酸エステル(B)は、1種類でもよく、また、2種類以上であってもよい。
【0036】
炭素数8~22の脂肪酸はカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸等の飽和脂肪酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、テトラデセン酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレイン酸、リシノール酸等の不飽和脂肪酸などが挙げられる。これらの中でも、帯電防止性、ブリード性の観点からラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸が好ましく、パルミチン酸、ステアリン酸が特に好ましい。
【0037】
モノグリセリン脂肪酸エステル(B)の配合量は、ポリプロピレン系樹脂(A)100質量部に対して、0.04~0.6質量部であるが、帯電防止性やフォギング防止性の観点で好ましくは0.08~0.4質量部、より好ましくは0.1~0.3質量部の割合で配合される。
【0038】
<アルキルジエタノールアミド系化合物(C)>
アルキルジエタノールアミド系化合物(C)は、アルキルジエタノールアミド脂肪酸エステルを含み、好ましくは、以下の式(1)で表されるアルキルジエタノールアミド脂肪酸モノエステルを含む。アルキルジエタノールアミド系化合物(C)は、樹脂組成物(X)において帯電防止剤として作用する。
【0039】
【0040】
式(1)中、R1は好ましくは炭素数7~21のアルキル基、より好ましくは炭素数11~17のアルキル基であり、R2は好ましくは炭素数7~21のアルキル基、より好ましくは炭素数11~17のアルキル基である。また、R1とR2とは、互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0041】
アルキルジエタノールアミド系化合物(C)は、以下の式(2)で表されるアルキルジエタノールアミド脂肪酸ジエステル、および、以下の式(3)で表されるアルキルジエタノールアミドからなる群から選択される1種類以上を含んでもよい。
【0042】
【0043】
式(2)中、R3は好ましくは炭素数7~21のアルキル基、より好ましくは炭素数11~17のアルキル基であり、R4は好ましくは炭素数7~21のアルキル基、より好ましくは炭素数11~17のアルキル基であり、R5は好ましくは炭素数7~21のアルキル基、より好ましくは炭素数11~17のアルキル基である。また、R3~R5は、互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0044】
【0045】
式(1)中、R6は好ましくは炭素数7~21のアルキル基、より好ましくは炭素数11~17のアルキル基である。
【0046】
なお、アルキルジエタノールアミド系化合物(C)に含まれるアルキルジエタノールアミド脂肪酸エステルは、1種類でもよく、また、2種類以上であってもよい。例えば、アルキルジエタノールアミド系化合物(C)は、アルキルジエタノールアミド脂肪酸モノエステルと、アルキルジエタノールアミド脂肪酸ジエステルとを含んでいてもよい。また、例えば、R1とR2のアルキル基が異なる2種類以上のアルキルジエタノールアミド脂肪酸モノエステルが、アルキルジエタノールアミド系化合物(C)含まれていてもよい。同様に、例えば、R3~R5のアルキル基が異なる2種類以上のアルキルジエタノールアミド脂肪酸ジエステルが、アルキルジエタノールアミド系化合物(C)含まれていてもよい。さらに、樹脂組成物(X)に含まれるアルキルジエタノールアミド系化合物(C)は、1種類でもよく、また、2種類以上であってもよい。
【0047】
アルキルジエタノールアミド系化合物(C)に含まれるアルキルジエタノールアミド脂肪酸エステルの量は、アルキルジエタノールアミド系化合物(C)100質量%に対して、好ましくは、70~100質量%、より好ましくは90~100質量%である。ここで、アルキルジエタノールアミド脂肪酸エステルの量は、アルキルジエタノールアミド脂肪酸モノエステルの総量と、アルキルジエタノールアミド脂肪酸ジエステルの総量との合計である。
アルキルジエタノールアミド系化合物(C)に含まれるアルキルジエタノールアミド脂肪酸エステルの量が前記範囲にあると、アルキルジエタノールアミド系化合物(C)を含む樹脂組成物(X)を、後述する有機過酸化物(D)の存在下で溶融混練しても、メタノールの発生量およびジエタノールアミンの発生量が比較的少なくて済む。メタノールとジエタノールアミンのいずれも、後述するように、VOC発生の原因物質であるため、これらの物質の発生量を低減させることにより、樹脂組成物(X)から得られる成形体からのVOCの放散量を低減できる。さらに、アルキルジエタノールアミド脂肪酸エステルの量が前記範囲にあると、アルキルジエタノールアミド脂肪酸エステルに起因した帯電防止効果も期待できる。
【0048】
アルキルジエタノールアミド系化合物(C)がアルキルジエタノールアミドを含む場合、アルキルジエタノールアミドの量は、アルキルジエタノールアミド系化合物(C)100質量%に対して、好ましくは、0~30質量%、より好ましくは0~10質量%である。アルキルジエタノールアミド系化合物(C)に含まれるアルキルジエタノールアミドは、1種類でもよく、また、2種類以上であってもよい。
【0049】
アルキルジエタノールアミドは、高温にさらされた場合にジエタノールアミンを発生させてしまう場合がある。またこの発生は有機過酸化物(D)の存在によって促進される傾向があるので、アルキルジエタノールアミドの含有量が前記の範囲内であると、樹脂組成物(X)を有機過酸化物(D)の存在下で溶融混錬した場合においても、ジエタノールアミンの発生を抑制できる。溶融混錬などによりジエタノールアミンが多く発生すると、ジエタノールアミンに起因したVOCが発生し、さらに、ジエタノールアミンに起因したモノグリセリン脂肪酸エステル(B)の分解によりグリセリンが発生するので、グリセリンの放散によるフォギングの発生が助長されることになる。なお、ジエタノールアミンは、以下の式(4)で表される。
【0050】
【0051】
アルキルジエタノールアミド系化合物(C)は好ましくは、以下の要件(c-1)~(c-3)のいずれかを満たし、より好ましくは、要件(c-1)~(c-3)の2つ以上を満たす。
【0052】
〔要件(c-1)〕
アルキルジエタノールアミド系化合物(C)を180℃で10分間保持した場合に、アルキルジエタノールアミド系化合物(C)から発生するメタノールの量が、好ましくは5.0μg/g以下、より好ましくは2.0μg/g以下、特に好ましくは1.6μg/g以下である。前記条件により加熱した場合のメタノールの生成量は、少ないほど良く、下記の実施例記載の方法での検出限界以下であってもよい。なお、メタノールの生成量の測定方法は、下記の実施例に記載のとおりである。
メタノールが酸化されるとホルムアルデヒドが生成する。また、ホルムアルデヒドの生成は、後述する有機過酸化物(D)の存在下で溶融混練されることにより促進される。このため、アルキルジエタノールアミド系化合物(C)を前記条件で加熱した場合のメタノールの発生量が前記範囲にあると、アルキルジエタノールアミド系化合物(C)を配合した樹脂組成物(X)から得られる成形体からのホルムアルデヒドの放散量が比較的少なくなる。
【0053】
〔要件(c-2)〕
アルキルジエタノールアミド系化合物(C)を180℃で10分間保持した場合に、アルキルジエタノールアミド系化合物(C)から発生するジエタノールアミンの発生量が好ましくは100μg/g以下、より好ましくは50μg/g以下、特に好ましくは10μg/g以下である。また、前記条件により加熱した場合のジエタノールアミンの生成量は、少ないほど良いが、通常、0.5μg/g以上である。なお、ジエタノールアミンの生成量の測定方法は、下記の実施例に記載のとおりである。
【0054】
ジエタノールアミンは、有機過酸化物(D)の存在下で、VOCを発生させると考えられている。さらに、ジエタノールアミンは、モノグリセリン脂肪酸エステル(B)からグリセリンを発生させ、その結果、フォギングを助長させる。このため、アルキルジエタノールアミド系化合物(C)を前記条件で加熱した場合のジエタノールアミンの発生量が前記範囲にあると、アルキルジエタノールアミド系化合物(C)を配合した樹脂組成物(X)から得られた成形体からのVOCの放散量が比較的少なくなる上、グリセリンの発生によるフォギングを抑制できる。
【0055】
〔要件(c-3)〕
アルキルジエタノールアミド系化合物(C)を180℃で10分間保持した場合に、アルキルジエタノールアミド系化合物(C)から発生するアセトアルデヒドの発生量が好ましくは30μg/g以下、より好ましくは25μg/g以下、特に好ましくは20μg/g以下である。また、前記条件により加熱した場合のアセトアルデヒドの生成量は、少ないほど良いが、通常、0.5μg/g以上である。なお、アセトアルデヒドの生成量の測定方法は、下記の実施例に記載のとおりである。
アルキルジエタノールアミド系化合物(C)を前記条件で加熱した場合のアセトアルデヒドの発生量が前記範囲にあると、アルキルジエタノールアミド系化合物(C)を配合した樹脂組成物(X)から得られる成形体からのアセトアルデヒドの放散量が比較的少なくなる。
【0056】
アルキルジエタノールアミド系化合物(C)に含まれるアルキルジエタノールアミド脂肪酸エステルは、公知の方法で合成され得るが、市販品を用いてもよい。さらに、アルキルジエタノールアミド系化合物(C)は、モノグリセリン脂肪酸エステル(B)との混合物として市販されているものであってもよい。このような市販品としては、例えば、デノン3423、デノン3424(いずれも丸菱油化工業株式会社製)などが挙げられる。
【0057】
アルキルジエタノールアミド系化合物(C)の配合量は、ポリプロピレン系樹脂(A)100質量部に対して、0.08~0.8質量部であるが、帯電防止性やフォギング防止性の観点で好ましくは0.16~0.5質量部、より好ましくは0.2~0.4質量部の割合で配合される。
【0058】
<有機過酸化物(D)>
樹脂組成物(X)は、ポリプロピレン系樹脂(A)、モノグリセリン脂肪酸エステル(B)、アルキルジエタノールアミド系化合物(C)を含み、さらに、有機過酸化物(D)を含んでもよい。また、樹脂組成物(X)が有機過酸化物(D)を含まない場合、樹脂組成物(X)は成形性の向上などを目的として、有機過酸化物(D)を配合して溶融混練され得る。
【0059】
有機過酸化物(D)としては、例えば、過酸化アルキル類、過酸化ジアシル類、過酸化エステル類および過酸化カーボネート類が挙げられる。
【0060】
過酸化アルキル類としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、tert-ブチルクミル,1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、3,6,9-トリエチル-3,6,9-トリメチル-1,4,7-トリパーオキソナン等が挙げられる。
【0061】
過酸化ジアシル類としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド等が挙げられる。過酸化エステル類としては、例えば、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、α-クミルパーオキシネオデカノエート、tert-ブチルパーオキシネオデカノエート、tert-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ヘキシルパーオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-アミルパーオキシル-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシイソブチレート、ジ-tert-ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、tert-アミルパーオキシ3,5,5-トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシアセテート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、ジ-ブチルパーオキシトリメチルアディペート等が挙げられる。
【0062】
過酸化カーボネート類としては、例えば、ジ-3-メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジ(4-tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジセチルパーオキシジカーボネート、ジミリスチルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0063】
このうち、過酸化アルキル類を用いることが好ましく、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、3,6,9-トリエチル-3,6,9-トリメチル-1,4,7-トリパーオキソナンのいずれかを用いることがより好ましい。
【0064】
樹脂組成物(X)が有機過酸化物(D)を含む場合、有機過酸化物(D)の配合量は、ポリプロピレン系樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.01~0.1質量部、より好ましくは0.03~0.09質量部である。
有機過酸化物(D)の配合量が上記範囲にあると、モノグリセリン脂肪酸エステル(B)またはアルキルジエタノールアミド系化合物(C)に起因して樹脂組成物(X)の成形体から放散されるグリセリン、アクロレイン、アセトアルデヒドの量が比較的少ないため、フォギングを発生させずに、樹脂組成物(X)の成形性を改善できる。
【0065】
有機過酸化物(D)が樹脂組成物(X)に含まれる場合、有機過酸化物(D)は、そのまま樹脂組成物(X)に配合してもよく、ポリプロピレン系樹脂(A)の粉末に任意の濃度で混合又は含浸させた粉末(マスターバッチと称する)として樹脂組成物(X)に配合してもよい。
また、有機過酸化物(D)の配合後に樹脂組成物(X)は溶融混練され得る。溶融混練の方法としては、バンバリーミキサー、プラストミル、一軸押出機、二軸押出機等の公知の装置を用いる方法が挙げられるが、好ましくは、連続生産ができ生産性が高いという観点から、一軸押出機または二軸押出機を用いて溶融混練する方法である。
【0066】
<その他の成分>
樹脂組成物(X)は、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、各種添加剤を含有してもよい。添加剤の具体例としては、核剤、酸化防止剤、塩酸吸収剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃剤、顔料、染料、分散剤、銅害防止剤、中和剤、可塑剤、架橋剤、ウェルド強度改良剤、天然油、合成油、ワックス等が挙げられる。
その他の成分を含む場合、その他の成分の配合量は、本発明の目的を損なわない任意の量とすることができるが、その他の成分の配合量の総量は、樹脂組成物(X)100質量部に対して通常0.005~5質量部、好ましくは0.01~3質量部程度である。
【0067】
なお、樹脂組成物(X)は、VOCの発生防止およびガラス霞性の点から、アルキルジエタノールアミン脂肪酸エステル、および、アルキルジエタノールアミンの含有量が、ポリプロピレン系樹脂(A)100質量部に対して、好ましくはそれぞれ0.08質量部以下、より好ましくはそれぞれ0.008質量部以下であり、さらに好ましくは、樹脂組成物(X)はアルキルジエタノールアミン脂肪酸エステル、および、アルキルジエタノールアミンを実質的に含まない。ここで、「実質的に含まない」とは、樹脂組成物(X)中のこれらの物質の量が、それぞれ、好ましくは樹脂組成物(X)の10ppm以下、より好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下であることを意味する。
樹脂組成物(X)がアルキルジエタノールアミン脂肪酸エステル、および、アルキルジエタノールアミンのいずれも含まない場合、樹脂組成物(X)中の帯電防止剤成分は、モノグリセリン脂肪酸エステル(B)とアルキルジエタノールアミド系化合物(C)のみからなるものであってもよい。樹脂組成物(X)がアルキルジエタノールアミン脂肪酸エステル、および、アルキルジエタノールアミンのいずれも含まない場合、樹脂組成物(X)中の帯電防止剤成分は、より好ましくは、モノグリセリン脂肪酸エステル(B)とアルキルジエタノールアミド系化合物(C)のみからなる。
【0068】
<樹脂組成物(X)>
樹脂組成物(X)は、ポリプロピレン系樹脂(A)100質量部と、モノグリセリン脂肪酸エステル(B)0.04~0.6質量部と、アルキルジエタノールアミド系化合物(C)0.08~0.8質量部とを含む。
樹脂組成物(X)は、好ましくは要件(x-1)~(x-3)のいずれかを満たし、より好ましくは、は要件(x-1)~(x-3)の2つ以上を満たす。
【0069】
〔要件(x-1)〕
モノグリセリン脂肪酸エステル(B)の配合量とアルキルジエタノールアミド系化合物(C)の配合量との合計は、ポリプロピレン系樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.2~1.0質量部、より好ましくは0.3~0.7質量部である。
モノグリセリン脂肪酸エステル(B)の配合量とアルキルジエタノールアミド系化合物(C)の配合量との合計が上記範囲にあると、モノグリセリン脂肪酸エステル(B)に起因して樹脂組成物(X)の成形体から放散されるグリセリンの量が比較的少ないため、フォギングを発生させずに、樹脂組成物(X)の帯電防止性能を高めることができる。
【0070】
〔要件(x-2)〕
モノグリセリン脂肪酸エステル(B)の配合量とアルキルジエタノールアミド系化合物(C)の配合量との質量比((B)/(C))は、好ましくは20/80~60/40質量部、より好ましくは30/70~50/50質量部である。
前記質量比((B)/(C))が上記範囲にあると、モノグリセリン脂肪酸エステル(B)に起因して樹脂組成物(X)の成形体から放散されるグリセリンの量が比較的少ないため、フォギングを発生させずに、樹脂組成物(X)の帯電防止性能を高めることができる。
【0071】
〔要件(x-3)〕
モノグリセリン脂肪酸エステル(B)とアルキルジエタノールアミド系化合物(C)とを、樹脂組成物(X)中での配合量の質量比((B)/(C))で混合した混合物(すなわち、モノグリセリン脂肪酸エステル(B)0.04~0.6質量部と、アルキルジエタノールアミド系化合物(C)0.08~0.8質量部とを配合した混合物)は、180℃で10分間保持した場合に、前記混合物から発生するアセトアルデヒドの発生量が好ましくは30μg/g以下、より好ましくは20μg/g以下、特に好ましくは15μg/g以下である。また、前記条件により加熱した場合のアセトアルデヒドの生成量は、少ないほど良いが、通常、0.5μg/g以上である。なお、アセトアルデヒドの生成量の測定方法は、下記の実施例に記載のとおりである。
本発明の好ましい態様では、モノグリセリン脂肪酸エステル(B)とアルキルジエタノールアミド系化合物(C)とを、樹脂組成物(X)中での配合量の質量比((B)/(C))で混合した混合物は、樹脂組成物(X)に含まれる帯電防止剤成分に相当する。したがって、前記混合物を前記条件で加熱した場合のアセトアルデヒドの発生量が前記範囲にあると、前記混合物を配合した樹脂組成物(X)から得られる成形体からのアセトアルデヒドの放散量を抑えつつ、樹脂組成物(X)の帯電防止性能を高めることができる。
【0072】
<樹脂組成物(X)の製造方法>
樹脂組成物(X)は、ポリプロピレン系樹脂(A)、モノグリセリン脂肪酸エステル(B)、アルキルジエタノールアミド系化合物(C)、および、必要により前記その他の成分をドライブレンドすることにより製造される。
樹脂組成物(X)が有機過酸化物(D)をさらに含み、溶融混錬された樹脂組成物である場合、樹脂組成物(X)は、ポリプロピレン系樹脂(A)、モノグリセリン脂肪酸エステル(B)、アルキルジエタノールアミド系化合物(C)、有機過酸化物(D)、および、必要により前記その他の成分をニーダー等の従来公知の混合装置を使用して溶融混錬することで製造できる。
【0073】
<成形体>
樹脂組成物(X)は、成形性に優れているので、様々な成形法に使用できる。樹脂組成物(X)の成形体の具体例としては、射出成形体、発泡成形体、射出発泡成形体、押出成形体、ブロー成形体、真空・圧空成形体、カレンダー成形体、圧縮成形体が挙げられる。特に、射出成形体が好ましい。成形体を製造する場合の成形条件は特に制限されず、公知の条件を採用できる。
【0074】
樹脂組成物(X)の成形体は、優れた成形性を有する。樹脂組成物(X)の成形体は、モノグリセリン脂肪酸エステル(B)とアルキルジエタノールアミド系化合物(C)とを所定量を含むので帯電防止性に優れ、かつ、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アクロレインなどのVOCの放散量が少なく、耐フォギング性に優れる。また、ポリプロピレン系樹脂(A)を含むので十分な剛性、耐衝撃性を有する。
【0075】
樹脂組成物(X)の成形体の用途は、特に限定されない。好適な用途の具体例としては、ドアパネル、ピラートリム、ドアトリム、ドアロアガーニッシュ、インストルメントパネルなどの自動車内外装材、エンジンルーム周辺部品、その他自動車部品、家電部品、食品容器、飲料容器、医療容器が挙げられる。中でも、自動車内外装材(特に自動車内装部材)の用途が好ましく、自動車ドアトリム、ピラー部材の用途が特に好ましい。
【実施例0076】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0077】
<ポリプロピレン系樹脂(A)の物性の測定方法>
実施例および比較例で使用したポリプロピレン系樹脂(A)の物性は、以下の方法により測定した。
【0078】
〔メルトフローレート(MFR)〕
ポリプロピレン系樹脂(A)のメルトフローレートは、JIS K-7210(ISO1133)に準拠して230℃、2.16kg荷重にて測定した。
【0079】
〔室温(23℃)におけるn-デカン可溶部の含有量〕
ガラス製の測定容器にポリプロピレン系樹脂(A)2.0000g、デカン500ml、およびデカンに可溶な耐熱安定剤(少量)を仕込み、窒素雰囲気下、スターラーで攪拌しながら2時間かけて150℃まで昇温してポリプロピレン系樹脂(A)を溶解させ、室温(23℃)で2時間保持した後、8時間かけて室温(23℃)まで徐冷した。徐冷後のサンプルを、グラスフィルターで減圧ろ過した。ろ液の100mlを採取し、アセトンで抽出、遠心分離後、採取した析出物を減圧乾燥することにより、デカン可溶部の一部を得て、質量を測定した。n-デカン可溶部(Dsol)の割合を下記式によって決定した。なお、以下の式において、aは減圧乾燥処理により得られたデカン可溶成分の質量であり、bは測定容器に仕込んだポリプロピレン系樹脂(A)の質量である。
n-デカン可溶部(Dsol)の割合(質量%)
=(500×a)/(100×b)×100
【0080】
〔極限粘度[η]〕
ポリプロピレン系樹脂(A)に含まれるn-デカン可溶部(Dsol)の極限粘度[η]は、135℃のデカリン中で常法に従い測定した。すなわち、室温(23℃)におけるn-デカン可溶部の含有量を求める際の減圧乾燥処理によって得られたデカン可溶分を約20mg計り取り、デカリン15mLに溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリン溶媒を5mL追加して希釈後、同様にして比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返し、濃度(C)を0に外挿したときのηsp/Cの値を極限粘度として求めた(下式参照)。
[η]=lim(ηsp/C) (C→0)
【0081】
<原材料>
以下の分析例、比較分析例、実施例および比較例で使用した原材料は以下のとおりである。
【0082】
[ポリプロピレン系樹脂(A)]
・「ポリプロピレン系樹脂(A-1)」:エチレン・プロピレンブロック共重合体(商品名:プライムポリプロ、型番:J-650HP、プライムポリマー社製)、MFR(230℃、2.16kg荷重)=6.4g/10分、n-デカン可溶部=17質量%、n-デカン可溶部の極限粘度[η]=4.4dl/g、エチレンから導かれる構成単位の量=30質量%(ただし、エチレンから導かれる構成単位の量は、デカン可溶部の質量を100質量%とした値である。)
【0083】
[モノグリセリン脂肪酸エステル(B)]
・「モノグリセリン脂肪酸エステル(B-1)」:混合モノグリセリン脂肪酸エステル(グリセリンモノステアレートとグリセリンモノパルミテートとの混合物)
【0084】
[アルキルジエタノールアミド系化合物(C)]
・「アルキルジエタノールアミド脂肪酸エステル(C-1)」:ミリスチルジエタノールアミドパルミチン酸エステル
・「アルキルジエタノールアミド脂肪酸エステル(C-2)」:ステアリルジエタノールアミドステアリン酸エステル
【0085】
[比較分析例または比較例で使用したアルキルジエタノールアミド系化合物およびアルキルジエタノールアミン脂肪酸エステル]
比較分析例または比較例で使用したアルキルジエタノールアミド系化合物およびアルキルジエタノールアミン脂肪酸エステルは以下のとおりである。
・「アルキルジエタノールアミン脂肪酸エステル」:ステアリルジエタノールアミンステアリン酸エステル
・「アルキルジエタノールアミド」:n-ラウリルジエタノールアミド
【0086】
[有機過酸化物(D)]
・「有機過酸化物(D-1)」:2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、(商品名:パーヘキサ25B、日油(株)製)
【0087】
<帯電防止剤の分析>
[分析例1]
〔分析対象の帯電防止剤の配合〕
モノグリセリン脂肪酸エステル(B-1)50gとアルキルジエタノールアミド脂肪酸モノエステル(C-1)50gとを配合し、帯電防止剤とした。
【0088】
〔ジエタノールアミンの定量分析〕
得られた帯電防止剤10mgをディスポーサブルチューブに採取し、ピリジン(一級、林純薬工業株式会社)を加え、帯電防止剤の1.0wt./vol.%溶液を作成した。これに誘導体化試薬(N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド(BSA)、>80.0%、東京化成工業株式会社)0.2mlを加えた後に、アルミブロック恒温槽(MG2000,東京理科機械株式会社製)内で、90℃にて30分加熱し、トリメチルシリル(TMS)誘導体化を行った。加熱誘導体後の溶液をマイクロシリンジで1.0μL採取し、ガスクロマトグラフィー装置(GC-2010、株式会社島津製作所製)で分析した。得られた結果を表1に示す。なお、ジエタノールアミンの含有量(帯電防止剤成分中に副生成物として含まれるジエタノールアミンの量)は、標準物質(n-テトラデカン、>99.0%、東京化成工業株式会社)を用いて、定量を行った。
【0089】
〔帯電防止剤の加熱試験〕
得られた帯電防止剤50mgをバイアルに封入し,フッ素樹脂コートのセプタムとアルミキャップで密封した。バイアルをヘッドスペースサンプラー(G1888 Network Head Space Sampler、アジレント・テクノロジー株式会社製)に入れ、180℃で、10分間保温した。その後、バイアル中の気相(ヘッドスペース)をガスタイトシリンジで採取して、ガスクロマトグラフィー装置(6890N Network GC System、アジレント・テクノロジー株式会社製)で分析した。得られた結果を表1に示す。なお、各物質の発生量は、標準物質(トルエン>99%、安藤パラケミー株式会社)を用いて定量した。また、得られた帯電防止剤1g当たりの発生量に換算している。
【0090】
[分析例2、比較分析例1~6]
帯電防止剤の配合を表1に示すように変更した他は、分析例1と同様に、帯電防止剤中のジエタノールアミンの定量分析と、帯電防止剤の加熱試験とを行った。得られた結果を表1に示す。
【0091】
【0092】
[実施例1]
〔樹脂組成物(X1)の調製と混練〕
ポリプロピレン系樹脂(A-1)100質量部に対し、モノグリセリン脂肪酸エステル(B-1)を0.20質量部、アルキルジエタノールアミド脂肪酸モノエステル(C-1)を0.20質量部、および、有機過酸化物(D-1)を0.08質量部、ドライブレンドして、樹脂組成物(X1)を調製した。
得られた樹脂組成物(X1)を、直径36mm、スクリューの長さ(L/D)=31の二軸押出機(NR2-36、フリージアマクロス株式会社製)を用いて、設定温度200℃、25kg/hの吐出量でペレットに造粒した。
【0093】
〔樹脂組成物(X1)のMFR〕
得られた樹脂組成物(X1)のペレットを用いて、JIS K-7210(ISO1133)に準拠して230℃、2.16kg荷重にて、樹脂組成物(X1)のMFRを測定した。得られた結果を表2に示す。
【0094】
〔樹脂組成物(X1)の成形〕
〈テストピースT1〉
樹脂組成物(X1)のペレットを、以下の射出成形条件にて、射出成形機(NEX110IV、日精樹脂工業製)を用いて成形することにより、縦120mm×横130mm×厚さ3mmの板状のテストピースT1を作製した。なお、ガラス霞性および表面固有抵抗の評価に用いるために十分な数のテストピースT1を成形した。
(射出成形条件)
・成形温度:200℃
・金型温度:40℃
・スクリュー回転速度:120rpm
・射出速度:18mm/s
・保圧:46MPa
【0095】
〈テストピースT2〉
テストピースT1の生成条件のうち、成形温度を250℃に変えて、縦160mm×横80mm×厚さ2mmの板状のテストピースT2を作製した。テストピースT2はVOCの生成量の測定用に十分な数を作製した。
【0096】
〔ガラス霞性の評価〕
前記テストピースT1から、縦25mm×横100mm×厚さ3mmのサンプルを2枚採取した。なお、サンプルの採取は、そのサンプルの作製に用いたテストピースの成形から7日後に行った。採取したサンプルを、ISO 6452に準拠してガラス瓶に入れ、ガラス蓋をして、加熱温度100℃で20時間加熱した。加熱処理後、サンプルを入れていた瓶のガラス蓋のヘイズを測定した。なお、ガラス蓋のヘイズの測定は、ASTM D1003に準拠して行い、ヘイズの測定にはヘイズメータ(HM-150 L2型、村上色彩技術研究社製)を用いた。また、得られたヘイズ値が以下の評価基準を満たすかにより、ガラス霞性を評価した。得られた結果を表2に示す。なお、加熱処理前のガラス蓋のヘイズ(加熱処理前に加熱処理後のガラス蓋と同様の方法で測定)は、いずれのサンプルにおいても0.1%以下であった。
(評価基準)
〇:加熱処理後のヘイズが10%未満である。
×:加熱処理後のヘイズが10%以上である。
【0097】
〔表面固有抵抗値の評価〕
前記テストピースT1の成形から14日後に、ASTM D257に準拠して、(株式会社アドバンテスト製R-8340A)を用いて、表面固有抵抗値を測定した。また、表面固有抵抗値が以下の評価基準を満たすかにより、帯電防止性能を評価した。得られた結果を表2に示す。
(評価基準)
〇:表面固有抵抗値が1.0×1016Ω未満である。
×:表面固有抵抗値が1.0×1016Ω以上である。
【0098】
〔VOCの発生量〕
前記テストピースT2の成形から14日後に、テストピースT2を、4Lのフッ素樹脂バックに入れ、温度65℃で2時間加熱し、加熱時に発生した揮発成分を、アルデヒド類分析用DNPHカートリッジに2.8L採取した。その後、アセトニトリルで誘導化物を溶出し、HPLC(10Aシリーズ、島津製作所製)で定量分析した。また、1枚のテストピースT2を加熱した際のVOC発生量が以下の評価基準を満たすかにより、樹脂組成物(X1)からのVOC発生量を評価した。得られた結果を表2に示す。
(評価基準)
〇:ホルムアルデヒドの発生量が0.3μg未満、アセトアルデヒドの発生量が0.4μg未満、かつ、アクロレインの発生量が0.03μg未満である。
×:ホルムアルデヒドの発生量が0.3μg以上であるという要件と、アセトアルデヒドの発生量が0.4μg以上であるという要件と、アクロレインの発生量が0.03μg以上であるという要件のうちの少なくとも1つの要件を満たす。
【0099】
[実施例2、3、比較例1~3、参考例1、2]
ポリプロピレン系樹脂(A-1)に配合する物質の種類と配合量を表2に示すように変更した他は、実施例1と同様に、混錬、成形、物性等の評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0100】