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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100461
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】車両用冷却システム
(51)【国際特許分類】
   B60R 16/02 20060101AFI20240719BHJP
   B60R 11/02 20060101ALI20240719BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
B60R16/02 610D
B60R11/02 Z
H05K7/20 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004476
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 淳一
【テーマコード(参考)】
3D020
5E322
【Fターム(参考)】
3D020BA09
3D020BE03
5E322AA01
5E322AA03
5E322AB10
5E322BB03
5E322BB04
5E322BB06
5E322BB10
5E322EA10
(57)【要約】
【課題】熱源を冷却するファンなどの動作に伴って発生する騒音の影響を緩和すること。
【解決手段】車両に搭載されるSOC11などの熱源を冷却ファン13で送風して冷却する場合に、車速情報i01、エンジン回転情報i02、窓開閉情報i03、オーディオ情報i04などの車両の状態を表す情報を車両情報取得部18で取得して車室内の乗員に聞こえる周囲騒音の大きさを周囲騒音推定部17で推定する。ファン制御回路16は、推定した周囲騒音の大きさを反映するように冷却ファン13の回転速度を自動的に制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される熱源と、
前記熱源から発生した熱を放熱するヒートシンクと、
前記熱源および前記ヒートシンクを冷却する送風機と、
前記送風機の回転速度を制御する送風制御部と、
前記車両の状態を表す情報を取得する情報取得部と、
を備え、
前記送風制御部は、前記車両上で乗員が認識可能な騒音の大きさを前記車両の状態に基づいて推定し、推定した騒音の大きさを前記送風機の回転速度の制御に反映する、
車両用冷却システム。
【請求項2】
前記送風制御部は、前記車両が走行状態から停車状態に切り替わったことを検知した場合は、前記送風機の回転速度を下げることを走行時よりも優先する、
請求項1に記載の車両用冷却システム。
【請求項3】
前記送風制御部は、推定した騒音の音量増大に伴って前記送風機の回転速度を上げるように制御し、推定した騒音の音量減少に伴って前記送風機の回転速度を下げるように制御する、
請求項1に記載の車両用冷却システム。
【請求項4】
前記送風制御部は、前記車両における走行速度、エンジン回転速度、窓の開閉状態、及びオーディオ機器の音量設定の少なくとも1つに基づいて騒音の大きさを推定する、
請求項1に記載の車両用冷却システム。
【請求項5】
前記熱源は、車両に搭載される電子制御ユニット内に組み込まれる少なくとも1つの半導体集積回路を含む、
請求項1に記載の車両用冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両上で例えば半導体チップなどを冷却する部位に適用可能な車両用冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1は、発熱部品を含んだ電子機器のための冷却システムを開示している。具体的には、冷却ファン201の回転数に関する計測データを出力するファン・コントローラ202と、CPUカード10等の発熱部品に設けられた識別子とファンの最適回転数との関係を記述した最適値テーブルを含む。更に、発熱部品周辺の温度を計測する温度計測器204と、発熱部品の識別子と計測温度に従って現在の最適回転数を決定する回転数決定手段と、ファン・コントローラ経由で得られたファンの実回転数と最適回転数との差に従って、ファンに供給する駆動電源オン/オフのデューティ比を修正する冷却システム・コントローラとを具備する。
【0003】
また、特許文献2は車両の高圧バッテリを冷却する冷却ファンの回転数を精度よく制御するための技術を開示している。具体的には、ハイブリッドECUが高圧バッテリの温度TB、SOC、入出力電流、車室内の温度および暗騒音に基づいて、冷却ファンのファン駆動段数Fを設定するステップ(S100)と、電圧センサから送信された信号に基づいて、冷却ファンの電源である補機バッテリの電圧を検知するステップ(S102)と、補機バッテリの電圧が高いほど、冷却ファンへのデューティ指令値が低くなるように、ファン駆動段数Fおよび補機バッテリの電圧から、デューティ指令値を設定するステップ(S104)とを含むプログラムを実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-233984号公報
【特許文献2】特開2007-200780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両上には、発熱する様々な機器が搭載されている。特に、各種電子制御ユニット(ECU)に中枢の電子部品として含まれているSOC(System On Chip)、あるいはCPUは、回路の稼働に伴って非常に面積の小さい半導体チップの領域で大きな発熱が生じる可能性がある。しかも、SOCのように半導体を用いた電子部品は高温になると動作不良が生じたり回路が破壊される可能性があるので、温度が所定以上にならないように冷却する必要がある。
【0006】
したがって、一般的な電子機器や車両用のECUなどの装置においては、SOCなどの電子部品を冷却するために、表面積が非常に大きいヒートシンクを熱源に装着して放熱を促すことが行われている。また、特許文献1に示されているように、冷却ファンを装備して熱源やヒートシンクの近傍に強制的に空気の流れを形成し、空気による冷却効果を上げることが一般的に行われている。
【0007】
一方、効率的な冷却を可能にするために冷却ファンの回転速度を上げると、ファンの風切り音や機械振動の発生によりユーザに聞こえる騒音が大きくなる。この騒音により車室内における乗員の快適な環境が阻害される懸念がある。しかしながら、SOCなどの半導体部品を冷却する場合には、誤動作の発生や部品の故障を避けるために、SOCなどの温度を優先的に管理する必要がある。そのため、特許文献1に示されているように熱源近傍の温度を計測して冷却ファンの回転速度を制御する必要がある。
【0008】
特に、近年ではSOCなどが実行するアプリケーションソフトウェアの数がますます増える傾向にあり、SOCにおける処理負荷の増大に伴って発熱量が増え、冷却性能を上げるためにファンの回転速度上昇、すなわち騒音の増大が生じやすい状況になっている。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、熱源を冷却するファンなどの動作に伴って発生する騒音の影響を緩和することが可能な車両用冷却システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
【0011】
車両に搭載される熱源と、
前記熱源から発生した熱を放熱するヒートシンクと、
前記熱源および前記ヒートシンクを冷却する送風機と、
前記送風機の回転速度を制御する送風制御部と、
前記車両の状態を表す情報を取得する情報取得部と、
を備え、
前記送風制御部は、前記車両上で乗員が認識可能な騒音の大きさを前記車両の状態に基づいて推定し、推定した騒音の大きさを前記送風機の回転速度の制御に反映する、
車両用冷却システム。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車両用冷却システムによれば、熱源を冷却するファンなどの動作に伴って発生する騒音の影響を緩和することが可能である。すなわち、車両上で乗員が認識可能な騒音の大きさを推定して送風機の回転速度の制御に反映するので、ファン以外に起因する外部騒音の大きさを考慮して送風機の回転速度を調整できる。
【0013】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の実施形態における車両用冷却システムの構成を示すブロック図である。
図2図2は、車両用冷却システムの特徴的な動作例を示すフローチャートである。
図3図3は、冷却ファンの制御におけるモード遷移例を示す状態遷移図である。
図4図4は、冷却ファンの制御における動作例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0016】
本発明の実施形態における車両用冷却システム100の構成を図1に示す。
図1に示した車両用冷却システム100は、熱源であるSOC11を冷却するための機能を有している。車両用冷却システムは、SOC11と、ヒートシンク12と、冷却ファン13と、温度センサ14と、モータドライバ15と、ファン制御回路16と、周囲騒音推定部17と、車両情報取得部18とを備えている。
【0017】
車両に搭載される様々な種類の電子制御ユニット10は、CPUなど様々な制御要素を含むSOC11を備える場合が多い。また、SOC11は、温度が異常に上昇すると内部の半導体回路が誤動作したり故障することになるので、冷却が必要不可欠である。そこで、ヒートシンク12をSOC11と隣接する位置に配置することで、SOC11の温度上昇を抑制できる。しかし、様々なアプリケーションの実行などに伴いSOC11の処理負荷が増大して発熱量が増えた場合や周囲温度が高いような場合には、ヒートシンク12を大幅に大型化しなければ十分な冷却効果が得られない。
【0018】
そのため、冷却ファン13を用いて送風し、SOC11やヒートシンク12の近傍に強制的に空気の流れを形成することで十分な冷却効果が得られるように設計される。また、冷却ファン13の回転速度(rpm)を上げれば、空気流の流速が上がるので冷却効率を高めることができる。このとき、冷却ファン13を高速で回転させると一般的に比較的大きい騒音が発生する。そのため、騒音の抑制が必要な環境では、冷却ファン13の回転を停止させたり回転速度を下げることも必要になる。
【0019】
本実施形態の車両用冷却システム100は、冷却ファン13により発生する騒音を効果的に軽減する機能を備えている。具体的には、車両上の乗員に聞こえる冷却ファン13以外の周囲の騒音の大きさを推定し、冷却ファン13で発生する騒音が乗員に聞こえにくくなるように、推定した騒音の大きさに応じて冷却ファン13を制御する。
【0020】
図1に示したモータドライバ15は、冷却ファン13を駆動する電気モータに流す電流のオンオフを制御する。温度センサ14は、SOC11の近傍の温度を計測する。ファン制御回路16は、SOC温度信号SG1によりSOC11の温度を把握して、温度が上がりすぎないように冷却ファン13の回転速度を制御できる。
【0021】
ファン制御回路16がモータドライバ15に与えるモータ制御信号SG2はPWM信号である。このモータ制御信号SG2により、ファン制御回路16は冷却ファン13の電気モータに流す電流のオンオフデューティを調整し、冷却ファン13の回転速度を制御できる。
【0022】
周囲騒音推定部17は、車両情報取得部18から入力される様々な情報に基づいて車両内で乗員に聞こえる周囲の騒音の大きさを推定し、騒音制御信号SG3によりファン制御回路16の動作モードなどの状態を制御する。すなわち、推定した周囲の騒音を冷却ファン13の回転速度の制御に反映することができる。
【0023】
図1に示した例では、車両情報取得部18は、車両情報SG4として車速情報i01、エンジン回転情報i02、窓開閉情報i03、オーディオ情報i04、エアコン情報i05、位置情報i06、及び地図情報i07を取得できる。
【0024】
車両と電子制御ユニット10との間はCAN(Controller Area Network)などの車載通信網を介して接続されているので、車両情報取得部18は様々な情報を必要に応じて車両側から取得できる。
【0025】
車速情報i01は、自車両の最新の走行速度[km/h]を表す情報である。エンジン回転情報i02は、自車両の最新のエンジン回転速度[rpm]を表す情報である。窓開閉情報i03は、例えば自車両の各窓が全閉状態か否か、あるいは窓の開度を表す情報である。
【0026】
オーディオ情報i04は、車載テレビや音楽再生機器などがメディアの再生動作を行っているか否かや、音量設定の大きさを表す情報である。エアコン情報i05は、カーエアコンが検知した室内温度や現在の送風レベルを表す情報である。自車両の現在位置を表す位置情報i06や、現在走行中の場所を含む地域の道路などを表す地図情報i07は、例えばカーナビゲーションシステムから取得可能である。
【0027】
なお、図1に示したファン制御回路16、周囲騒音推定部17、車両情報取得部18などの各機能については、SOC11の内部回路を利用して実現することもできるし、SOC11から独立した新たな専用回路として用意することもできる。
【0028】
車両用冷却システム100の特徴的な動作例の処理手順を図2に示す。図2に示した動作について以下に説明する。
【0029】
周囲騒音推定部17は、車両情報取得部18が取得した最新の車速情報i01に基づいて車室内に侵入するロードノイズの大きさをS11で推定する。すなわち、車速に応じて車輪などの部位で発生するロードノイズの大きさも変化するので、車速を利用して乗員の聴覚に影響を与える車室内のロードノイズの大きさを推定する。
【0030】
また、周囲騒音推定部17は、車両情報取得部18が取得した最新のエンジン回転情報i02に基づいて車室内で乗員に聞こえるエンジン音(吸排気音など)の大きさをS12で推定する。また、周囲騒音推定部17は車両情報取得部18が取得した最新のオーディオ情報i04に基づいて車室内で乗員に聞こえるオーディオ機器の音量をS13で推定する。
【0031】
また、周囲騒音推定部17は、車両情報取得部18が取得した窓開閉情報i03を利用して周囲騒音の推定音量を補正する。すなわち、窓が全閉の場合は車外から車室内に侵入するロードノイズやエンジン音などの周囲騒音の音量は比較的小さくなるが、窓が開いている時には車室内の乗員に聞こえる周囲騒音の音量が大きくなる傾向があるので、この傾向に基づいて推定音量を補正する。
【0032】
なお、更にエアコン情報i05を利用して推定音量を補正してもよい。すなわち、エアコンのブロアーの風量が大きい場合には冷却ファン13の騒音が乗員に聞こえにくくなるので、冷却ファン13の回転速度を多少上げても乗員に不快感を与えるような状況は生じにくい。
【0033】
周囲騒音推定部17は、位置情報i06及び地図情報i07を利用可能な状態か否かをS15で識別した結果に応じて、S15からS16又はS17の処理に進む。
位置情報i06及び地図情報i07を利用できる場合は、周囲騒音推定部17は、地図上の自車両の現在位置の情報を取得して、現在位置が市街地か郊外かをS16で自動的に識別する。そして、その結果をファン制御回路16のファン制御に反映する。
【0034】
すなわち、車両が市街地を走行する場合には比較的ゆっくりと走行する機会が多くなり、信号機がある交差点の近傍などで頻繁に停車する可能性も高いので、車室内の乗員に聞こえる周囲騒音の音量は小さくなる傾向がある。一方、車両が郊外を走行する場合には、比較的高速で走行する機会が増え、信号機の数も少ないので、車室内の乗員に聞こえる周囲騒音の音量は大きくなる傾向がある。
【0035】
そこで、例えば市街地を走行し、平均車速も低いような状況では、ロードノイズやエンジン音が小さくなり冷却ファン13からの騒音が相対的に目立って乗員に聞こえるのを避けるために、ファン制御回路16は冷却ファン13の回転速度を下げるように制御する。また、信号機のある交差点で短時間停車しているような状況では、短時間だけ冷却ファン13の回転を止めるように制御する。
【0036】
また、例えば郊外を走行している状況ではロードノイズやエンジン音が比較的大きく、冷却ファン13からの騒音が乗員に聞こえにくくなるので、ファン制御回路16が冷却ファン13の回転速度を下げる頻度を小さくする。つまり、周囲騒音推定部17が冷却ファン13の回転速度を制御する際に、市街地を走行する時に適用する動作モードと、郊外を走行するときに適用する動作モードとを使い分ける。
【0037】
例えば、位置情報i06及び地図情報i07を利用できないような場合は、周囲騒音推定部17は、自車両の車速およびエンジン回転速度の平均値などに基づいて現在位置が市街地か郊外かをS17で自動的に識別する。そして、その結果をファン制御回路16のファン制御に反映する。
【0038】
冷却ファンの制御におけるモード遷移例を図3に示す。
図3に示した例では、前述のファン制御回路16および周囲騒音推定部17が実施する冷却ファンの制御の中にアイドルモードM0、ファン停止モードM1、騒音推定モードM2、回転数マップ設定モードM3、およびSOC温度制御モードM4があり、状況に応じてこれらのモードを自動的に切り替える状況を表している。図3に示した制御について以下に説明する。
【0039】
図3に示すように、初期状態ではアイドル(IDLE)モードM0が選択される。また、状態遷移条件C00として車両のイグニッションがオン(IGON)になると、ファン停止モードM1に遷移する。このファン停止モードM1では、冷却ファン13の回転速度の指示値を保持する「ファン回転レジスタ」に初期値の「0」をファン制御回路16がセットする。これにより、冷却ファン13は回転を停止する。
【0040】
一方、状態遷移条件C01を満たすと、ファン停止モードM1から騒音推定モードM2に遷移する。状態遷移条件C01は、例えば車速と設定車速との比較結果、エンジン回転速度とその設定値との比較結果、及びオーディオ推定音量と閾値との比較結果のいずれか1つを含む。
【0041】
騒音推定モードM2では、周囲騒音の推定値が「ファン回転レジスタ」にセットされ、この推定値に応じて冷却ファン13の回転速度が決定される。
また、騒音推定モードM2では、状態遷移条件C03に応じて回転数マップ設定モードM3に遷移してファン回転数のマップを設定した後で騒音推定モードM2に戻る。
【0042】
状態遷移条件C03は、車速がその閾値以上の場合、エンジン回転速度がその閾値以上の場合、オーディオ推定音量が閾値以上かつ再生中の場合のいずれかである。
回転数マップ設定モードM3では、事前に定めたマッピングの条件に従い「ファン回転レジスタ」の内容をセットする。マッピングの条件は、例えば次のC1~C3のように定める。
【0043】
C1.ファン回転を低速にする条件:
車速が閾値VsL以内、
又はエンジン回転が閾値VeL以内、
又は(オーディオ音量設定値が閾値VaL以内、且つメディア再生中)
C2.ファン回転を中速にする条件:
車速が閾値VsL~VsMの範囲内、
又はエンジン回転が閾値VeL~VeMの範囲内、
又は(オーディオ音量設定値が閾値VaL~VaMの範囲内、且つメディア再生中)
C3.ファン回転を高速にする条件:
車速が閾値VsMを超える、
又はエンジン回転が閾値VeMを超える、
又は(オーディオ音量設定値が閾値VaMを超える、且つメディア再生中)
【0044】
一方、騒音推定モードM2の状態で状態遷移条件C02を満たすと、ファン制御回路16はファン停止モードM1に遷移する。状態遷移条件C02は、車速が設定値以下、且つエンジン回転が設定値以下、且つ(オーディオ音量設定値が閾値以下、且つメディア再生停止中)とする。
【0045】
一方、騒音推定モードM2の状態でSOCの温度検出値(あるいは推定値)が所定の限界値(上限)に達すると、状態遷移条件C04を満たすので、ファン制御回路16はSOC温度制御モードM4に遷移する。このSOC温度制御モードM4では、SOCの温度を十分に下げることを優先した状態で「ファン回転レジスタ」の内容を決定する。
【0046】
一方、ファン停止モードM1の状態でSOCの温度検出値(あるいは推定値)が事前に定めた上限ファン設定温度に達した場合も、状態遷移条件C05を満たすので、ファン制御回路16はSOC温度制御モードM4に遷移する。また、SOC温度制御モードM4の状態でSOCの温度検出値(あるいは推定値)が事前に定めた下限ファン設定温度以下になった場合は、状態遷移条件C06を満たすので、ファン制御回路16はファン停止モードM1に遷移する。
【0047】
また、SOC温度制御モードM4の状態でSOCの温度検出値(あるいは推定値)が事前に定めた上限ファン設定温度+X以上になると、状態遷移条件C07を満たすので、ファン制御回路16は回転数加算機能F3により「ファン回転レジスタ」に一定値を加算する。更に、タイマ機能F1により一定時間(X秒)を経過した後でSOC温度制御モードM4に戻る。
【0048】
また、SOC温度制御モードM4の状態でSOCの温度検出値(あるいは推定値)が事前に定めた上限ファン設定温度以下になると、状態遷移条件C08を満たすので、ファン制御回路16は回転数減算機能F2により「ファン回転レジスタ」から一定値を減算する。更に、タイマ機能F1により一定時間(X秒)を経過した後でSOC温度制御モードM4に戻る。
【0049】
前述の車両用冷却システム100の冷却ファン制御における動作タイミングの例を図4に示す、図4において、横軸は時間tを表し、縦軸はファン回転速度Vfan、外部騒音推定値Ne、又はSOC温度Tsocを表す。
【0050】
外部騒音推定値Neは、例えば図2に示した処理手順により周囲騒音推定部17が推定した騒音の推定値に相当する。したがって、外部騒音推定値Neは自車両の走行速度の変化やエンジン回転速度の変化に伴って図4のように時間経過と共に変動する。
【0051】
図4中のSOC温度Tsocは、例えば温度センサ14が検出したSOC11近傍の実測温度に相当し、SOC11における発熱の状況や、ヒートシンク12及び冷却ファン13による冷却状況を反映して図4のように変動する。また、SOC11における発熱の状況は、SOC11が実行する処理の負荷の大きさに応じて変動する。
【0052】
本実施形態では、車両用冷却システム100のファン制御回路16は、周囲騒音推定部17が推定した外部騒音推定値Neを反映するようにファン回転速度Vfanを制御できる。
【0053】
例えば、図4中の時刻t0-t1の区間では、外部騒音推定値Neが小さく、SOC温度Tsocも低いので、冷却ファン13の回転を停止するようにファン制御回路16が制御する。
【0054】
また、時刻t1では外部騒音推定値Neが大きくなったため、ファン制御回路16は冷却ファン13の回転を開始する。また、時刻t1以降は外部騒音推定値Neの増大に伴ってファン回転速度Vfanを段階的に上げる。この際、ファン制御回路16は、後に冷却ファン13が停止してもSOC温度Tsocが上限ファン設定温度に達するまでに十分な時間が確保できるよう、SOC温度Tsocが低下しても外部騒音推定値Neが減少するt2までファン回転速度Vfanを維持する。
【0055】
また、時刻t2-t3の区間では外部騒音推定値Neが減少しているので、それに伴ってファン回転速度Vfanを段階的に下げるようにファン制御回路16が制御する。
例えば、自車両が信号機のある交差点などで一時的に停車中の場合には、外部騒音推定値Neが0に近づく。そのような場合は、ファンの騒音が目立つのを避けるため、SOC温度Tsocが多少上がってもファン制御回路16は冷却ファン13を回転させず待機する。そのため、図4中の時刻t3-t4の区間では冷却ファン13は停止する。
【0056】
また、冷却ファン13を停止した状態が長くなると、SOC温度Tsocが上昇する。そして、図4中の時刻t4のようにSOC温度Tsocが上限ファン設定温度以上になると、ファン制御回路16は冷却ファン13の回転を開始する。更に、時刻t5でSOC温度Tsocが十分に下がったことを検知すると、ファン制御回路16は冷却ファン13の回転を停止する。
【0057】
上記と同様に、ファン制御回路16はSOC温度Tsocの変化に応じて、図4中の時刻t6で冷却ファン13の回転を開始する。更に、時刻t7で冷却ファン13の回転を停止する。
【0058】
一方、図4中の時刻t8-t9の区間では外部騒音推定値Neがほぼ0であるが、自車両上でオーディオ機器の再生が時刻t8で開始された状況を想定している。オーディオ機器が再生中になると、車両外部から聞こえる周囲騒音が小さくても、冷却ファン13の回転に伴って生じる騒音は乗員に聞こえにくくなる。そこで、ファン制御回路16はオーディオ機器の音量設定に合わせて、時刻t8-t9の区間で回転速度を下限に抑制した状態で冷却ファン13の回転を実行する。
【0059】
以上のように、本実施形態に係る車両用冷却システム100によれば、SOC11等を冷却する冷却ファン13の回転速度を車速やエンジン回転速度などに基づいて推定した周囲騒音に応じて制御するので、冷却ファン13の回転に起因する騒音を効果的に軽減できる。
【0060】
例えば、交差点などで車両が一時的に停車しているときには、車速が0で、エンジン回転速度も低下するため周囲騒音が小さくなり、ファンの回転で生じる小さい音が目立ちやすくなる。そのような状況で冷却ファン13を自動的に停止すれば、車室内の乗員は冷却ファン13からの騒音を認識できなくなるので、快適な車室内環境を維持できる。また、車両が走行している時にはロードノイズやエンジン音が通常の騒音として乗員に聞こえる状態になるので、冷却ファン13の回転速度を上げてもその騒音は乗員に聞こえにくくなる。
【0061】
また、図2のS16又はS17のように市街地と郊外とを区別してそれぞれ異なる動作モードで冷却ファン13の回転速度を制御する場合には、車両の走行状態に適した精密な制御が容易になる。例えば、市街地では走行速度が低くエンジン回転速度も低くなる機会が増えるので、推定した周囲騒音に応じて冷却ファン13の回転を抑制する頻度を上げることが容易になる。また、郊外では周囲騒音が小さくなる機会が少ないので、推定した周囲騒音に応じて冷却ファン13の回転を抑制する頻度を下げることが容易になる。
【0062】
また、図2のS14のように窓の開閉状態を冷却ファン13の回転制御に反映したり、車内エアコンの動作状態を考慮することで、より精密な制御が可能になり、冷却ファン13の騒音を効果的に低減できる。
【0063】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0064】
ここで、上述した本発明の実施形態に係る車両用冷却システムの特徴をそれぞれ以下[1]~[5]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 車両に搭載される熱源(SOC11)と、
前記熱源から発生した熱を放熱するヒートシンク(12)と、
前記熱源および前記ヒートシンクを冷却する送風機(冷却ファン13)と、
前記送風機の回転速度を制御する送風制御部(ファン制御回路16)と、
前記車両の状態を表す情報を取得する情報取得部(車両情報取得部18)と、
を備え、
前記送風制御部は、前記車両上で乗員が認識可能な騒音の大きさを前記車両の状態に基づいて推定し(S11~S14)、推定した騒音の大きさを前記送風機の回転速度の制御に反映する(騒音推定モードM2)、
車両用冷却システム(100)。
【0065】
上記[1]の構成の車両用冷却システムによれば、車両上で乗員が認識可能な騒音の大きさを推定して送風機の回転速度の制御に反映するので、送風機のファン回転に起因する騒音が乗員に聞こえなくなるように制御できる。例えば、車両が一時的に停車している場合のように周囲の騒音が小さい時に送風機の回転速度を抑制することで、送風機の騒音を低減できる。また、実際の騒音を測定する必要がないので、制御の遅れが生じにくく効果的な騒音抑制が可能になる。
【0066】
[2] 前記送風制御部は、前記車両が走行状態から停車状態に切り替わったことを検知した場合は、前記送風機の回転速度を下げることを走行時よりも優先する(t3-t4)、
上記[1]に記載の車両用冷却システム。
【0067】
上記[2]の構成の車両用冷却システムによれば、車室内で乗員に聞こえる周囲騒音が小さい状況で、送風機が発生する騒音が小さくなるので、送風機の騒音が乗員に聞こえにくくなる。
【0068】
[3] 前記送風制御部は、推定した騒音の音量増大に伴って前記送風機の回転速度を上げるように制御し(t1-t2)、推定した騒音の音量減少に伴って前記送風機の回転速度を下げるように制御する(t2-t3)、
上記[1]又は[2]に記載の車両用冷却システム。
【0069】
上記[3]の構成の車両用冷却システムによれば、送風機の回転に伴って発生する騒音の大きさが、推定した周囲の騒音の大きさに追従するように変化するので、車室内の乗員は送風機からの騒音を騒音として認識しにくい状態になる。すなわち、送風機からの騒音が周囲の騒音に紛れ込む状況になるため、送風機が騒音を発していても乗員はそれを認識しにくい状態になる。
【0070】
[4] 前記送風制御部は、前記車両における走行速度、エンジン回転速度、窓の開閉状態、及びオーディオ機器の音量設定の少なくとも1つに基づいて騒音の大きさを推定する、
上記[1]から[3]のいずれかに記載の車両用冷却システム。
【0071】
上記[4]の構成の車両用冷却システムによれば、走行速度の情報を利用することで、車室内で認識可能な走行時のロードノイズの大きさを推定できる。また、エンジン回転速度の情報を利用することで、エンジンの吸排気音などの大きさを推定できる。また、窓の開閉状態を把握することで、窓の開閉に起因して変化する車室内で聞こえる騒音の大きさを推定できる。また、オーディオ機器の音量設定の情報を利用することで、ユーザのオーディオ機器視聴に伴う影響を考慮して適切な騒音を推定できる。
【0072】
[5] 前記熱源は、車両に搭載される電子制御ユニット(10)内に組み込まれる少なくとも1つの半導体集積回路(SOC11)を含む、
上記[1]から[4]のいずれかに記載の車両用冷却システム。
【0073】
上記[5]の構成の車両用冷却システムによれば、回路動作に伴って発熱する半導体集積回路を冷却する際に、送風機の回転に伴って発生する騒音を低減できる。また、送風機を用いた冷却により、半導体集積回路の処理負荷が増大した場合でも、温度上昇に伴う誤動作や故障の発生を防止できる。
【符号の説明】
【0074】
10 電子制御ユニット
11 SOC
12 ヒートシンク
13 冷却ファン
14 温度センサ
15 モータドライバ
16 ファン制御回路
17 周囲騒音推定部
18 車両情報取得部
100 車両用冷却システム
F1 タイマ機能
F2 回転数減算機能
F3 回転数加算機能
i01 車速情報
i02 エンジン回転情報
i03 窓開閉情報
i04 オーディオ情報
i05 エアコン情報
i06 位置情報
i07 地図情報
M0 アイドルモード
M1 ファン停止モード
M2 騒音推定モード
M3 回転数マップ設定モード
M4 SOC温度制御モード
SG1 SOC温度信号
SG2 モータ制御信号
SG3 騒音制御信号
SG4 車両情報
Ne 外部騒音推定値
Tsoc SOC温度
Vfan ファン回転速度
図1
図2
図3
図4