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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100465
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】修飾タンパク質の分離方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/18 20060101AFI20240719BHJP
   C07K 16/32 20060101ALN20240719BHJP
【FI】
C07K1/18
C07K16/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004482
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 正己
(74)【代理人】
【識別番号】100179844
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 芳國
(72)【発明者】
【氏名】橋本 有佳子
(72)【発明者】
【氏名】井村 亮太
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA20
4H045DA76
4H045EA28
4H045GA23
(57)【要約】
【課題】修飾タンパク質と非修飾タンパク質とを含む液体から修飾タンパク質を分離する方法を提供すること。
【解決手段】タンパク質が修飾化合物によって修飾されてなる修飾タンパク質と、非修飾タンパク質と、を含む液体から陽イオン交換クロマトグラフィーによって前記修飾タンパク質を分離する修飾タンパク質の分離方法であって、下記の工程1、2を含むことを特徴とする修飾タンパク質の分離方法。
工程1:陽イオン交換体を充填したカラムに修飾タンパク質と非修飾タンパク質とを含有する液体を供給する工程
工程2:前記カラムから流出する前記修飾タンパク質を含有する第1の画分を回収する工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質が修飾化合物によって修飾されてなる修飾タンパク質と、非修飾タンパク質と、を含む液体から陽イオン交換クロマトグラフィーによって前記修飾タンパク質を分離する修飾タンパク質の分離方法であって、下記の工程1、2を含むことを特徴とする修飾タンパク質の分離方法。
工程1:陽イオン交換体を充填したカラムに修飾タンパク質と非修飾タンパク質とを含有する液体を供給する工程
工程2:前記カラムから流出する前記修飾タンパク質を含有する第1の画分を回収する工程
【請求項2】
更に、下記工程3を含む、請求項1に記載の修飾タンパク質の分離方法。
工程3:前記第1の画分に次いで前記カラムから流出する前記非修飾タンパク質を含有する第2の画分を回収する工程
【請求項3】
更に、前記工程3で回収した第2の画分を修飾タンパク質の製造方法における原料として使用する、請求項2に記載の修飾タンパク質の分離方法。
【請求項4】
前記陽イオン交換体が陽イオン交換樹脂である、請求項1に記載の修飾タンパク質の分離方法。
【請求項5】
前記タンパク質が抗体であり、前記修飾化合物がキレート形成性化合物である、請求項1に記載の修飾タンパク質の分離方法。
【請求項6】
前記抗体がトラスツズマブであり、前記キレート形成性化合物がp-SCN-Bn-Deferoxamineである、請求項5に記載の修飾タンパク質の分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は修飾タンパク質の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質には抗体のように標的とする抗原に対して特異的な結合特性を有するものがあるため、このようなタンパク質に機能性物質(抗がん剤、放射性核種、等)を標識して薬物送達システム(DDS:drug delivery system)として利用するというアイデアが盛んに研究されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
標準的なタンパク質修飾方法としては、タンパク質中のリシンを標的としてアミン反応性試薬と反応させて機能性物質を導入する方法がある。タンパク質の修飾反応後、タンパク質はゲルろ過クロマトグラフィー又は限外ろ過法などの方法で脱塩して未反応の薬剤を除去してから動物実験や臨床研究に利用される(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-87135号公報
【特許文献2】国際公開第2009/20094号
【特許文献3】特開2019-112309号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】DrugDeliverySystem 36-1,2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術における、ゲルろ過法もしくは限外ろ過法などの分離方法は、抗体の分子量が他共存物質と比べて極めて大きいことに着目した分離法であり、低分子化合物(塩類や未反応の機能性薬剤)を除去することはできる。しかしながら、修飾抗体と非修飾抗体とには大きな分子量の違いが無いため修飾抗体と非修飾抗体とを分離することができない。
非修飾抗体は機能性物質が標識されておらず機能性物質に基づく効能が期待できないため患者への投与量は厳密に管理されることが望ましい。しかしながら従来技術では非修飾抗体を除去することができないため、最終プロダクト溶液に非修飾抗体が残存し、機能性物質抗体を所定量患者に投与するためには非修飾抗体も同時に患者にも投与されるという問題がある。また、抗体に限らず医療を目的としたタンパク質全般の修飾に関しても同様の課題がある
【0007】
本発明は、修飾タンパク質と非修飾タンパク質とを含む液体から修飾タンパク質を分離する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、以下のとおりである。
タンパク質が修飾化合物によって修飾されてなる修飾タンパク質(タンパク質のひとつとして抗体を含む)と、非修飾タンパク質と、を含む液体から陽イオン交換クロマトグラフィーによって前記修飾タンパク質を分離する修飾タンパク質の分離方法であって、下記の工程1、2を含むことを特徴とする修飾タンパク質の分離方法。
工程1:陽イオン交換体を充填したカラムに修飾タンパク質と非修飾タンパク質とを含有する液体を供給する工程
工程2:前記カラムから流出する前記修飾タンパク質を含有する第1の画分を回収する工程
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、修飾タンパク質と非修飾タンパク質とを含む液体から修飾タンパク質を分離することができる。なお、本願明細書の実施例においてはタンパク質として抗体を用いた。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、修飾抗体と修飾化合物との反応式を示す模式図である。
図2図2は、修飾抗体と非修飾抗体とを分離するイオン交換クロマトグラフィーのメカニズムを説明する図である。
図3図3は、本発明の修飾抗体の分離方法の工程を説明する図である。
図4図4は、本発明の実施形態において得られたイオン交換クロマトグラムを示す図である。
図5図5は、修飾化合物と抗体との反応における修飾化合物と抗体との量比と修飾抗体の分離率との関係を示す図である。
図6図6は、従来のゲルろ過を用いて修飾抗体を分離する工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明においては、修飾抗体及び非修飾抗体を含む液体を陽イオン交換カラムに通液することで、修飾抗体と非修飾抗体とを分離する。
本発明と従来技術とを対比するために、まず従来技術のゲルろ過クロマトグラフィーの原理について図6を参照して説明する。
【0012】
混合液中に大きさが異なる分子a、分子b、分子c(分子の大きさ:分子a>分子b>分子c)が含まれているとき、混合液中の各分子をゲルろ過クロマトグラフィーによって分離する方法は次のようにして行う。
図6のAに示すように、各分子を含む液体をゲルろ過クロマトグラフィーカラムに通液する。
混合液がカラムに充填された移動相を通過すると分子量に応じて異なる時間で分子が排出される。
このため、図6のBに示すように、まず、分子aがカラムを通過して溶出する。
次いで、図6のCに示すように、分子bが溶出し、最後に図6のDに示すように、分子cが溶出する。
このように各分子が溶出するタイミングで各画分を回収することで分離が行われる。
【0013】
しかしながら修飾抗体と非修飾抗体とは分子量がほぼ同一であり分子の大きさに大きな差異はないため、両者の分離は困難である。
本発明では修飾抗体と非修飾抗体とのイオン価数の差を利用して修飾抗体と非修飾抗体とをイオン交換クロマトグラフィーで分離することを特徴とする。
【0014】
図1に、抗体としてトラスツズマブを用い、この抗体を修飾化合物としてのデフェロキサミン(DFO:deferoxamine)で修飾する場合の反応の反応式を模式的に示す。
デフェロキサミン(以下、DFOという)はキレート形成性化合物であり、放射性同位元素を配位させることができる。
抗体をDFOで修飾し、次いで、DFOに放射性同位元素を配位させることによって標識抗体を得ることができる。放射性元素(例えば、放射性ジルコニウム)は、抗体に標識させて、陽電子断層撮影法(PET)による撮像のためのトレーサとして使用することができる。
【0015】
トラスツズマブとDFOとを反応させると、図1に示すように、反応液には修飾抗体、非修飾抗体及び未反応のDFOが含まれる。
タンパク質中には正電荷を有する塩基性アミノ酸(リシン等)が存在する。塩基性アミノ酸の一つであるリシンは側鎖にアミノ基(-NH )を有している。アミノ基は反応性が高く機能性物質の導入に利用することができる。アミノ基反応性物質としてはイソチオシアネートやN-ヒドロキシコハク酸イミドなどが知られており、多くの機能性物質ではこれらのアミノ基反応性物質が末端に導入された試薬が市販されている。イソチオシアネートやN-ヒドロキシコハク酸イミドはアミノ基と反応するとそれぞれチオ尿素およびアミドとなり、電荷を有しない化学構造となる。すなわち機能性物質導入前は正電荷を有していたリシンは機能性物質が導入されることで電荷が失われる。DFOの場合も末端にイソチオシアネートが導入されたp-SCN-Bn-Deferoxamine(C3352)が市販されており、これを抗体と反応させると反応したリシンは正電荷を失う。
このため、修飾抗体は非修飾抗体よりも静電力が弱くなる。
【0016】
静電引力による分離のメカニズムを図2に基づいて説明する。
修飾抗体はDFOがリシンに結合しておりリシンの電荷が失われているためにイオン交換カラムへの吸着力が低下する。
修飾抗体及び非修飾抗体を含む液体を陽イオン交換カラムに通液すると、タンパク中の塩基性アミノ酸(例えばリシン)と陽イオン交換体とが静電引力で引き合うために非修飾抗体(塩基性アミノ酸リッチなタンパク質)はカラムに吸着しやすく、修飾抗体(塩基性アミノ酸プアーなタンパク質)はカラムに吸着しづらい。
【0017】
本発明の修飾抗体の分離方法を図3に基づいて説明する。
本発明の修飾抗体の分離方法は下記の工程1、2によって行われる。また、下記工程3は必要に応じて行われる。
工程1:図3のAに示すように、修飾抗体と非修飾抗体との混合液を、陽イオン交換樹脂を充填したカラムに通液する。
図3のBに示すように、イオン交換クロマトグラフィーにより、修飾抗体aと非修飾抗体bとが分離される。
工程2:図3のCに示すように、吸光度検出器を用いて、カラムから抗体が溶出するのを検知したら、溶出液を回収しこれを第1の画分とする。
この第1の画分には、修飾抗体が含まれている。
工程3:第1の画分を回収した後、更に、吸光度検出器を用いて、カラムから抗体が溶出するのを検知したら、溶出液を回収し、これを第2の画分とする。
第2の画分には、非修飾抗体が含まれている。
【0018】
本発明を、抗体を放射性元素で標識する際に用いられる修飾抗体に適用した実施の態様について以下述べる。
抗体としては抗がん剤として用いられるトラスツズマブ(抗HER2ヒト化モノクローナル抗体)を用いた。
抗体修飾化合物としては放射性同位元素を配位させることができるキレート形成性化合物であるDFO(デフェロキサミン)を用いた。
【0019】
まず、マイクロチューブを用いて、0.1mol/L炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH9.0)に溶媒置換したトラスツズマブ(1mg/mL濃度)とp-SCN-Bn-Deferoxamineとトラスツズマブの1分子に対してデフェロキサミンが15分子となるような量比で反応させた。反応は37℃、1時間の条件で行った。反応後、脱塩カラム(Cytiva、PD-10)を用いて未反応のp-SCN-Bn-Deferoxamineを除去した。
【0020】
上記で得た修飾抗体と非修飾抗体とを含む反応液を図3に示すようなイオン交換体を充填したカラムに通液した。
イオン交換体としては陽イオン交換樹樹脂を充填したイオン交換カラムであるYMC社の「BioPro IEX SF」HiTrap(登録商標)SP HPを用いた。
溶離条件は以下の通りとした。
固相:BioPro IEX SF
移動相A:10mM MES(pH5.7)
移動相B:10mM MES(pH5.7)+1M NaCl
通液速度:0.6mL/minで一定
グラジエント:移動相Bの濃度
0%(0min)→10%(1min)→12%(30min)
【0021】
上記の条件でイオン交換処理して得られたイオン交換クロマトグラムを図4に示す。
図4に示すように、修飾抗体であるDFO-トラスツズマブは15分~19分で溶出するので、この画分を回収する。
【0022】
DFOと抗体との量比を種々代えて修飾抗体の分離率(%)を求めた。
その結果を図5に示す。
なお、カラムを長くすることにより分離率は高まる。
図5において、横軸はDFO/抗体(DFOを抗体に対して何倍量添加したか)を表し、縦軸は分離率を示す。
本発明における分離率(%)は以下のように定義される。
イオン交換体に注入したDFO-トラスツズマブ量を100%とし、15分~19分の画分で回収されたDFO-トラスツズマブの比率を分離率として定義する。
【0023】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
(1)タンパク質が修飾化合物によって修飾されてなる修飾タンパク質と、非修飾タンパク質と、を含む液体から陽イオン交換クロマトグラフィーによって前記修飾タンパク質を分離する修飾タンパク質の分離方法であって、下記の工程1、2を含むことを特徴とする修飾タンパク質の分離方法。
工程1:陽イオン交換体を充填したカラムに修飾タンパク質と非修飾タンパク質とを含有する液体を供給する工程
工程2:前記カラムから流出する前記修飾タンパク質を含有する第1の画分を回収する工程
(2)更に、下記工程3を含む、上記(1)に記載の修飾タンパク質の分離方法。
工程3:前記第1の画分に次いで前記カラムから流出する前記非修飾タンパク質を含有する第2の画分を回収する工程
(3)更に、前記工程3で回収した第2の画分を修飾タンパク質の製造方法における原料として使用する、上記(2)に記載の修飾タンパク質の分離方法。
(4)前記陽イオン交換体が陽イオン交換樹脂である、上記(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の修飾タンパク質の分離方法。
(5)前記タンパク質が抗体であり、前記修飾化合物がキレート形成性化合物である、上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の修飾タンパク質の分離方法。
(6)前記抗体がトラスツズマブであり、前記キレート形成性化合物がp-SCN-Bn-Deferoxamineである、上記(5)に記載の修飾タンパク質の分離方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6