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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100481
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】水処理方法及び可搬式水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/28 20230101AFI20240719BHJP
【FI】
C02F1/28 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004508
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國井 聡
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 直樹
(72)【発明者】
【氏名】赤松 佑介
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 正太郎
【テーマコード(参考)】
4D624
【Fターム(参考)】
4D624AA01
4D624AB11
4D624BA02
4D624BA07
4D624BA17
4D624BC01
4D624BC04
4D624CA01
4D624CA04
4D624CA06
4D624DA04
4D624DB19
(57)【要約】
【課題】貯水槽内に貯留されている要処理水を失うことなく、当該要処理水からPFASを取り除き、清浄化する実用的かつ簡便な方法を提供すること。
【解決手段】処理対象の貯水槽内に貯留された要処理水の量及び、前記要処理水のPFAS(ペルフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル化合物)含有濃度である、処理前PFAS濃度を測定するステップと、前記量及び前記処理前PFAS濃度に基づいて、吸着剤量及び処理条件を決定するステップと、前記貯水槽内に、前記吸着剤量の吸着剤及び攪拌機構を浸漬するステップと、前記処理条件に基づいて、前記攪拌機構により、前記貯水槽内の前記要処理水を攪拌するステップと、前記貯水槽から、前記吸着剤及び前記攪拌機構を撤去するステップと、を有する水処理方法。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象の貯水槽内に貯留された要処理水の量及び、前記要処理水のPFAS(ペルフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル化合物)含有濃度である、処理前PFAS濃度を測定するステップと、
前記量及び前記処理前PFAS濃度に基づいて、吸着剤量及び処理条件を決定するステップと、
前記貯水槽内に、前記吸着剤量の吸着剤及び攪拌機構を浸漬するステップと、
前記処理条件に基づいて、前記攪拌機構により、前記貯水槽内の前記要処理水を攪拌するステップと、
前記貯水槽から、前記吸着剤及び前記攪拌機構を撤去するステップと、
を有する水処理方法。
【請求項2】
前記要処理水を攪拌するステップの後、さらに前記要処理水のPFAS含有濃度である、処理後PFAS濃度を測定するステップと、
前記処理後PFAS濃度が目標濃度を超える場合に、前記量及び前記処理後PFAS濃度に基づいて、追加の処理時間を決定するステップと、
前記追加の処理時間以上、前記攪拌機構により、前記貯水槽内の前記要処理水を追加で攪拌するステップと、
を有する
請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記吸着剤は、透水性の容器に収容され、前記貯水槽のアクセス開口から懸垂される、
請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記攪拌装置は、水中ポンプである、
請求項3に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記攪拌装置は、水上又は水中ドローンであり、前記吸着剤は、透水性の容器に収容され、前記水上又は水中ドローンに固定されるか、曳航される、
請求項1又は2に記載の水処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理方法及び可搬式水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、PFAS(ペルフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル化合物)廃液処理のための可搬式システム及び方法(Mobile System and Method for PFAS Effluent Treatment)が開示されている。同文献記載のシステムは、トレーラーのような可搬式プラットフォーム上に設置され、ポンプによりホースで汲み上げたPFAS廃液を沈殿物フィルタ(Sediment Filter)、粒状活性炭(GAC;Granular Activated Carbon)、及びイオン交換樹脂(IX;Ion Exchange Regins)を通過させて清浄化し、処理済み水貯留タンク(Treated Water Holding Tank)に貯留するというものである。
【0003】
特許文献2には、水面又は水中を移動可能な移動体(測定ドローン)を用いた測定により、貯水池における、カビ臭発生の原因となるカビ臭原因物質に関する情報を収集し、カビ臭原因物質に関する情報に基づき、カビ臭原因物質の発生を抑制するための対策を決定し、該決定した対策を、空中、水面又は水中を移動可能な移動体(対策ドローン)に実行させる水処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2021/0322951号明細書
【特許文献2】特開2021-90910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PFASは難分解性であり長期にわたり残留するため環境問題を引き起こす原因物質であると指摘されると同時に、規制の強化が近年なされつつある。そのため、PFASを含有する水からPFASを取り除き、清浄化する水処理の必要性が生じる。
【0006】
PFASはこれまで種々の用途に用いられてきたが、それらの用途の一つに、火災の際の消火剤としての用途が挙げられる。そのため、まとまった量の消火用水を必要としている施設、例えば、空港、軍事施設、その他の建築物の中には、敷地内の地下などに貯水槽を備え、消火用水を貯留しているものがあり、そして貯留されている消火用水にはPFASが含有されている場合がある。しかしながら、このような限られた容量の貯水槽内のPFAS含有水から実用的にPFASを除去する簡便な方法は知られておらず、有効な対処は取られてこなかった。
【0007】
すなわち、貯水槽内の要処理水の量は限られており、また、貯水槽自体が特定の用途向けの施設に付属して設けられているものであるから、当該貯水槽に隣接して水処理施設を新たに設置するのは全く現実的でない。かといって、貯水槽内の要処理水を汲み上げ、別の処理施設へと運搬して処理するのは、運搬に要するコストが無視できず、さらに、別の処理施設にて水処理を行っている最中には、貯水槽内に貯留されている水が一時的とはいえ失われるため、かかる水が消火用水である場合には、その消火設備としての機能を失ってしまう。
【0008】
さらに、貯水槽は、屋外の落葉や砂塵などの混入を防ぐため、その上部が蓋或いは天井により覆われており、人ひとりがやっと入れる程度の限られた大きさのアクセス開口によってのみ貯水槽内部にアクセスできるようになっていたり、消火用ポンプなどの機械設備が併設される都合上、機械室等の建屋内部にアクセス開口が収容されているなど、その内部にアクセスする際のスペースが限られていることも多く、水処理のための大掛かりな設備を貯水槽の近傍に一時的に設置することが困難である場合も多く見受けられる。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、貯水槽内に貯留されている要処理水を失うことなく、当該要処理水からPFASを取り除き、清浄化する実用的かつ簡便な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく本出願において開示される発明は種々の側面を有しており、それら側面の代表的なものの概要は以下のとおりである。
【0011】
(1)処理対象の貯水槽内に貯留された要処理水の量及び、前記要処理水のPFAS(ペルフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル化合物)含有濃度である、処理前PFAS濃度を測定するステップと、前記量及び前記処理前PFAS濃度に基づいて、吸着剤量及び処理条件を決定するステップと、前記貯水槽内に、前記吸着剤量の吸着剤及び攪拌機構を浸漬するステップと、前記処理条件に基づいて、前記攪拌機構により、前記貯水槽内の前記要処理水を攪拌するステップと、前記貯水槽から、前記吸着剤及び前記攪拌機構を撤去するステップと、を有する水処理方法。
【0012】
(2)(1)において、前記要処理水を攪拌するステップの後、さらに前記要処理水のPFAS含有濃度である、処理後PFAS濃度を測定するステップと、前記処理後PFAS濃度が目標濃度を超える場合に、前記量及び前記処理後PFAS濃度に基づいて、追加の処理時間を決定するステップと、前記追加の処理時間以上、前記攪拌機構により、前記貯水槽内の前記要処理水を追加で攪拌するステップと、を有する水処理方法。
【0013】
(3)(1)又は(2)において、前記吸着剤は、透水性の容器に収容され、前記貯水槽のアクセス開口から懸垂される、水処理方法。
【0014】
(4)(3)において、前記攪拌装置は、水中ポンプである、水処理方法。
【0015】
(5)(1)又は(2)において、前記攪拌装置は、水上又は水中ドローンであり、前記吸着剤は、透水性の容器に収容され、前記水上又は水中ドローンに固定されるか、曳航される、水処理方法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る水処理方法の第1の実施形態を実施している様子を模式的に示す図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る水処理方法のフロー図である。
図3】体積当たりの吸着剤添加量と、吸着剤投入後のPFAS平衡濃度及び吸着剤の重量当たりPFAS吸着量の関係を示すグラフである。
図4】目標濃度に対する要処理水のPFAS濃度の比と時間との関係を示すグラフである。
図5】本発明に係る水処理方法の第2の実施形態を実施している様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1には、本発明の好適な実施形態に係る水処理方法において、水処理の対象となる要処理水Wを湛えた典型的な貯水槽1の概略断面図が例示されている。貯水槽1は、地表面GLより下の、地下に設けられており、その床面10及び四方の側面11は漏水を防止するため壁で覆われている。また、貯水槽1の上面には、天井12が設けられ、落ち葉や砂塵等の異物が貯水槽1内に落下混入しないよう保護するとともに、消火用ポンプ2のような機械設備を設置する床面を兼ねている。
【0018】
天井12には、アクセス開口13が設けられ、貯水槽1のメンテナンス等のために、オペレータがその内部に進入できるようになっている。アクセス開口13は、いわゆるマンホールであり、人ひとりが出入りするのに十分な大きさを有しているが、決して大きなものではない。また、平時は、アクセス開口13は適宜の蓋により閉鎖しておいてもよい。また、アクセス開口13からオペレータが貯水槽1内部に降りることができるように、壁面にタラップ14が設けられている。図1では、タラップ14は、図示の簡略化のために、要処理水W中に水没しているものは示していないが、タラップ14はオペレータが床面10に到達できる位置まで設けられる。
【0019】
また、貯水槽1の上部には、建屋3が設けられ、消火用ポンプ2や、アクセス開口13を風雨より保護している。また、消火用ポンプ2の付属品、例えば放水ホースやメンテナンス用の交換部品等を収容する倉庫として建屋3を利用してもよい。
【0020】
また、図1は、本発明に係る水処理方法の第1の実施形態を実施している様子を模式的に示している。この実施形態では、貯水槽1内の要処理水Wの攪拌機構として、水中ポンプ4を貯水槽1内に設置し運転することにより、要処理水Wに水流Fを発生させている。水中ポンプ4は、ワイヤ40(又はロープ)によりアクセス開口13から貯水槽1内に降ろされ、水処理の終了後は、引き揚げられ回収される。アクセス開口13付近の天井12上には、リール41を設置する。リール41は、その自重で固定されるものであっても、建屋3や消火用ポンプ2の土台等を利用して、その位置を固定するものであってもよい。リール41は、水中ポンプ4を安定して貯水槽1内に降ろし、貯水槽1から引き揚げ、また、水中ポンプ4の稼働時にその位置が動かないよう支持するものとして用いられる。
【0021】
また、貯水槽1の内部には、要処理水Wに浸漬されるようにして、吸着剤5が懸垂支持される。好ましくは、吸着剤5は、床面10に接触することなく、また、要処理水Wの水面に浮かび上がらないよう、要処理水Wの液中に位置するよう保持される。吸着剤5は、透水性の容器50内に、要処理水W中に拡散することがなく、なおかつ、要処理水Wと接触できるように収容されている。ここでは、透水性の容器50は、外側の金属あるいは合成樹脂製の蛇篭内に収められた、布、例えば不織布製のバッグからなっている。不織布製のバッグは、吸着剤5を要処理水Wに拡散させることなく、しかしながら、要処理水Wをその内部の吸着剤5に接触させるために用いられる。蛇篭は、不織布性のバッグが、貯水槽1内の構造物、例えばタラップ14と接触したり、水中ポンプ4に巻き込まれて破損したりすることが無いようこれを保護するものである。透水性の容器50は、ワイヤ51(又はロープ)により懸垂支持され、ワイヤ51はここでは、フック52により適宜の構造物、例えば、タラップ14に固定される。ワイヤ51の長さは、貯水槽1の大きさ及び、要処理水Wの水位に応じて適宜調節される。
【0022】
吸着剤5は、活性炭、ゼオライト等の多孔性吸着剤、又はイオン交換樹脂、あるいはこれらの混合物であってよい。吸着剤5が、要処理水Wに接触することにより、要処理水W中のPFASが吸着剤5に吸着され、要処理水W中から除去される。ここで、単に吸着剤5を要処理水Wに浸漬しただけならば、吸着剤5と接触した要処理水WからはPFASが除去されるが、貯水槽1内の大半の要処理水Wは吸着剤5と接触することがなく、PFASの有効な除去をすることができない。そこで、本実施形態に係る水処理方法では、水中ポンプ4のような攪拌機構を同時に用い、要処理水Wに水流Fを生じさせ、十分な時間の間、要処理水Wと吸着剤5を接触させることにより、貯水槽1内の要処理水Wからの実用的なPFASの除去を図っている。
【0023】
ここで、かかる水処理方法を実施しようとすると、使用する吸着剤5の吸着剤量と、処理条件、少なくとも、処理時間を、合理的な時間内に要処理水WからのPFASの除去が行えるように決定しなければならない。ここで、PFASの除去とは、要処理水W中のPFASの濃度を、その目標濃度以下とすることを指す。また、処理条件には、処理時間のほか、水流Fの条件(例えば、水中ポンプ4の能力の選定、水流Fの速度、体積流量等)が含まれてよい。
【0024】
なぜなら、PFASは化学的に極めて安定な物質であることが知られており、水中に含有されるPFASの濃度を知るためには、専用の設備を有する分析機関等による分析を要するのであって、水処理の過程におけるPFAS濃度をリアルタイムに検出できるセンサや方法は知られていないからである。このため、本実施形態に係る水処理方法の実施にあたっては、例えば、貯水槽1内の要処理水W中のPFASの濃度をモニタしておいて、それが目標濃度以下となるまで水中ポンプ4を運転する、というオペレーションをすることはできず、あらかじめ、実施にあたって、吸着剤量と処理条件を見積もっておく必要がある。
【0025】
図2は、本実施形態に係る水処理方法のフロー図である。なお、同図に示したフローは、代表的な手順を説明するものであり、一部前後して差し支えないものについては、これを入れ替え、又は同時に実行するようにしてもよい。
【0026】
水処理方法の実施にあたっては、まず、ステップST1にて、処理対象の貯水槽1内に貯留された要処理水Wの量及び、要処理水WのPFAS含有濃度である、処理前PFAS濃度を測定する。要処理水Wの量は、貯水槽1中の要処理水Wの水位から容易に求めることができ、また、処理前PFAS濃度は、要処理水Wの一部をサンプリングし、分析機関にて成分分析を行うことにより測定することができる。通常、この測定には、半日~数日程度を要する。
【0027】
続くステップST2では、吸着剤量を決定する。この決定は、測定された処理前PFAS濃度と、要処理水Wの量に基づいてなされる。
【0028】
より具体的には、図3に例示的に示す、体積当たりの吸着剤添加量wと、吸着剤5投入後のPFAS平衡濃度ρ及び吸着剤の重量当たりPFAS吸着量ηの関係を用いる。図3に示したグラフは、横軸に要処理水Wの体積当たりの吸着剤添加量wを、左縦軸に吸着剤5の重量当たりのPFAS吸着量ηを、右縦軸に吸着剤5投入後の要処理水Wが到達するPFAS平衡濃度ρを取ったものであり、図中上側の曲線はPFAS吸着量ηを、下側の曲線はPFAS平衡濃度ρを示している。なお、同図中示した単位は便宜上具体例として示したものであり、任意のものを用いてよい。
【0029】
同グラフよりわかるように、PFAS平衡濃度ρとPFAS吸着量ηは、吸着剤添加量wの関数であり、一定ではない。また、吸着剤添加量wに対するPFAS平衡濃度ρとPFAS吸着量ηの関係は、用いる吸着剤の違いや、要処理水Wの元々のPFAS濃度によって異なる。したがって、使用する吸着剤について、異なるPFAS濃度に対し、予めラボ実験によりPFAS平衡濃度ρとPFAS吸着量ηを求めておき、処理前PFAS濃度ρに最も近いPFAS濃度について得られたグラフを用いるか、その前後のグラフから線形補完により、PFAS平衡濃度ρ及びPFAS吸着量ηと、吸着剤添加量wとの関係を得る。
【0030】
あるいは、PFAS平衡濃度ρ及びPFAS吸着量ηと、吸着剤添加量wとの関係は、要処理水Wに含まれる他の不純物濃度、例えば塩化物濃度によっても変化するため、実際に貯水槽1内の要処理水Wの一部を汲み、図3に示したPFAS平衡濃度ρ及びPFAS吸着量と、吸着剤添加量wとの関係を実験的に求めてもよい。
【0031】
ここで、目標濃度ρに対して、図中(1)で示したように、ρの値を読み取り、必要吸着剤添加量wを求める。必要吸着剤添加量wは、目標濃度ρを得るために、最低限必要となる体積当たりの吸着剤5の添加量である。なお、ここで、プロセスの安全のため、安全率F(例えば、2)を設定し、真の目標濃度ρtrueに対し目標濃度ρを次のように設定してよい。
【0032】
【数1】
【0033】
次に、図中(2)(3)で示したように、必要吸着剤添加量wに対して、ηの値を読み取り、実PFAS吸着量ηを求める。実PFAS吸着量ηは、目標濃度ρを実現できる量の吸着剤5を投入した際に実現される吸着剤5の吸着能力(吸着剤の単位重量当たりのPFAS吸着量)を示す。
【0034】
こうして得られた実PFAS吸着量ηと、要処理水Wの量V、処理前PFAS濃度ρ、目標濃度ρから、必要な吸着剤量Gは次式により得られる。
【0035】
【数2】
【0036】
図2に戻り、続くステップST3では、処理条件を決定する。処理条件には、処理時間Tのほか、本実施形態では、水中ポンプ4により実現されるべき体積流量Qが含まれる。この決定もまた、測定された処理前PFAS濃度と、要処理水Wの量Vに基づいてなされる。
【0037】
より具体的には、図4に例示的に示す、目標濃度ρ(これは、図3より明らかなように、PFAS平衡濃度である)に対する要処理水WのPFAS濃度ρの比と時間tとの関係を用いる。この関係は、攪拌機構である水中ポンプ4による要処理水Wの攪拌能力に応じて異なる曲線となるが、ここでは、攪拌能力として、要処理水Wの量Vを水中ポンプ4により実現される体積流量Qで除したもの(V/Q)を用いる。V/Qは時間の次元を持ち、意味合いとしては、貯水槽1内の要処理水Wを全て水中ポンプ4で流動させるのにかかる時間を示す。V/Qの値が小さいほど、水中ポンプ4の能力が高く、したがってより激しく貯水槽1内の要処理水Wが攪拌されるということを示す。そのため、図4には、V/Qが12[h]、24[h]、36[h]の3つの場合を示したが、V/Qが小さく攪拌能が優れているほど、曲線の傾きは大きく、速やかにρ/ρが1に近づく、すなわち、PFAS濃度ρが急速に減少することを示している。
【0038】
ここで、処理時間Tは、任意のV/Q曲線を選んだときに、ρ/ρがその初期値であるρ/ρから1に至るまでの時間として求められる。例えば、ρ/ρ=3であるとした場合に、V/Q=12の曲線を選ぶと、処理時間Tは、図中示したT12として求められる。同様に、V/Q=24の曲線を選ぶと、処理時間Tは、図中示したT24、V/Q=36の曲線を選ぶと、処理時間Tは、図中示したT36と求められる。
【0039】
このようにして求められた処理時間Tの候補T12、T24、T36から、水処理方法の実施にあたって確保できる時間に合致するものを選択することにより、処理時間Tと、同時に、水中ポンプ4により実現されるべき体積流量Qが定まる。水処理方法の実施に用いる水中ポンプ4は、かかる体積流量Qが実現できる能力を持つものを選定すればよい。なお、ここでの処理時間Tの選択は、水処理方法の実施全体について確保できる時間に対し、要処理水Wの採集、成分分析、吸着剤や攪拌機構の準備、設置及び撤去、後述する追加の処理時間を設定するための猶予等を加味して、総合的に行う。
【0040】
吸着剤量G及び、処理時間Tや使用する水中ポンプ4の選定や体積流量Qなど処理条件が決定されれば、図2のステップST4へと進み、貯水槽1の要処理水W内に、図1に概略的に示したように、吸着剤5及び攪拌装置(水中ポンプ4)を浸漬する。そして、ステップST5にて、決定された処理条件にしたがって、水中ポンプ4を運転し、要処理水Wの攪拌を行う。これにより、要処理水Wに含有されるPFASは吸着剤5に吸着され、漸次除去されていく。
【0041】
処理条件で定めた処理時間Tの間の攪拌が終了したら、続くステップST6では、貯水槽1内の要処理水Wを再度採取し、再び分析機関にて成分分析を行って、処理後PFAS濃度を測定する。これは、先に定めた処理条件による水処理により、目標濃度以下となるまで確かにPFASが除去されたか否かを確認するためである。なぜなら、事前の種々の測定には多少の誤差があり、また、貯水槽1の形状の違いによる要処理水Wの攪拌の状態の違いや、水温その他の条件の違いにより、必ずしも当初想定した通りのPFASの除去がなされるとは限らないためである。
【0042】
続くステップST7において、処理後PFAS濃度が目標濃度ρ(又は真の目標濃度ρtrue)以下であれば、要処理水Wからは、PFASが十分に除去されているから、ステップST9へと進み、貯水槽1から吸着剤5及び攪拌装置(水中ポンプ4)を撤去し、水処理を終了する。PFASを吸着した吸着剤5は、熱分解などの処理によりPFASを無害化し、処分される。
【0043】
ステップST7にて、処理後PFAS濃度が目標濃度ρ(又は真の目標濃度ρtrue)以下でない、すなわち、目標濃度ρ(又は真の目標濃度ρtrue)を超えるようであれば、ステップST8へと進み、処理後PFAS濃度を処理前PFAS濃度ρの代わりとして用い、ステップST3及び図4で説明したのと同様の方法により、追加の処理時間を決定する。この追加の処理時間は、先の水処理にて除去しきれなかった要処理水W中のPFASを除去するため、さらなる要処理水Wの攪拌を行い、吸着剤5によるPFASの吸着を行う際の処理時間である。
【0044】
その後、ステップST5へと戻り、追加の処理時間だけ、さらに要処理水Wの攪拌を行う。以降は同様のフローにより、処理後PFAS濃度が目標濃度ρ(又は真の目標濃度ρtrue)以下となるまで繰り返せばよい。
【0045】
以上の実施形態で説明した水処理方法によれば、貯水槽1内の要処理水Wの処理に具体的に用いられ、貯水槽1内に導入されるのは透水性の容器50に収容された吸着剤5と水中ポンプ4のみであり、大掛かりな設備等は必要がないため、PFASの除去を簡便かつ低コストに行うことができるほか、アクセス開口13が狭いなど、十分な作業スペースが確保しにくい狭い環境であってもPFASの除去ができる。また、水中ポンプ4を使用することにより、要処理水Wを地表面GL以上に汲み上げる必要がなく、貯水槽1内での運動量のみを与えて攪拌することができるから、水処理に必要なエネルギー量が少なく、効率的にPFASの除去を行うことができる。
【0046】
なお、以上説明した第1の実施形態に係る水処理方法において用いられる水中ポンプ4の形式は特に限定されず、任意のものを用いてよい。軸流ポンプ等のプロペラ式のポンプであってもよいし、渦巻きポンプ等の遠心ポンプであってもよい。また、非容積式のポンプだけでなく、容積式のポンプを用いてもよいが、本実施形態に係る水処理方法において、水中ポンプ4の主要な役割は、要処理水Wに運動エネルギーを与え、貯水槽1内で攪拌することであるので、一般にエネルギー効率の点からは、非容積式のポンプが推奨される。
【0047】
上述の第1の実施形態に係る水処理方法では、貯水槽1内の要処理水Wの攪拌は水中ポンプ4を用いて行ったが、攪拌機構は、水中ポンプ4に限定されない。図5は、本発明に係る水処理方法の第2の実施形態を実施している様子を模式的に示す図であり、本実施形態において、攪拌機構が水中ポンプ4ではなく、水上又は水中ドローン6である点が先の実施形態と相違している。
【0048】
本実施形態においても、吸着剤5は透水性の容器50に収容されているが、透水性の容器50は水上又は水中ドローン6にワイヤ51(又はロープ)により繋がれ、水中を曳航されるか、または、吸着剤5が要処理水Wに水没するように、例えば、水上又は水中ドローン6の機体の下面に直接固定される。図5に模式的に示されているのは、水上ドローンを用いて、水中の吸着剤5を曳航する例である。
【0049】
図より明らかなように、水上又は水中ドローン6が貯水槽1内部を航行すると、それにしたがって、吸着剤5も水中を移動することになり、また同時に貯水槽1内の要処理水Wも攪拌されるため、十分な時間の間航行を継続すると、吸着剤5は貯水槽1内の要処理水Wと十分に接触し、含有されているPFASを吸着し除去することができる。
【0050】
水上又は水中ドローン6は吸着剤5を曳航できるだけの能力があればよいので、アクセス開口13から貯水槽1内部に入れることができる小型のもので足りる。また、水上又は水中ドローン6は貯水槽1内部をくまなく航行することが望ましく、有線又は無線により外部より制御されてもよいが、自律航行できるものが良い。
【0051】
攪拌機構として、水上又は水中ドローン6を用いる本実施形態に係る水処理方法においても、そのフローは図2に示したものと同様である。この時、ステップST3の処理条件の決定においては、先の実施形態の水中ポンプ4における体積流量Qに替えて、水上又は水中ドローン6の航行速度をv、吸着剤5の進行方向投影面積をAとしたときに、vAを便宜的に用いて、図4の関係より同様に処理時間Tを求めればよい。また、水上又は水中ドローン6の能力は、曳航しようとする吸着剤5の吸着剤量、または、アクセス開口13を通過できるサイズといった要因に基づいて決定される。
【符号の説明】
【0052】
1 貯水槽、2 消火用ポンプ、3 建屋、4 水中ポンプ、5 吸着剤、6 水上又は水中ドローン、10 床面、11 側面、12 天井、13 アクセス開口、14 タラップ、40 ワイヤ、41 リール、50 透水性の容器、51 ワイヤ、52 フック、W 要処理水、F 水流。

図1
図2
図3
図4
図5