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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100487
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/18 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
G05B19/18 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004518
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】弁理士法人ネクスト
(74)【代理人】
【識別番号】100162237
【弁理士】
【氏名又は名称】深津 泰隆
(74)【代理人】
【識別番号】100191433
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 友希
(72)【発明者】
【氏名】森 雅彦
【テーマコード(参考)】
3C269
【Fターム(参考)】
3C269AB02
3C269BB08
3C269CC02
3C269CC13
3C269CC19
3C269EF14
3C269EF19
3C269EF35
3C269EF39
3C269QB06
(57)【要約】
【課題】制御対象の軸を切り替えたい場合に、NCプログラムの編集作業の負荷を軽減できる工作機械を提供すること。
【解決手段】工作機械は、タレット装置と、タレット装置をタレットスライド軸に沿ってスライド移動させるタレット用スライド装置と、工具主軸装置と、工具主軸装置を工具主軸スライド軸に沿ってスライド移動させる工具主軸用スライド装置と、タレット用スライド装置と、工具主軸用スライド装置を数値制御する数値制御装置と、数値制御装置に接続されたPLCと、を備える。数値制御装置は、タレット装置をスライド移動させるタレットスライド軸の制御と、工具主軸装置をスライド移動させる工具主軸スライド軸の制御とを切り替える場合に、PLCにおける所定のデバイスの値を変更することでタレットスライド軸の制御と工具主軸スライド軸の制御を入れ替える。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タレット装置と、
前記タレット装置をタレットスライド軸に沿ってスライド移動させるタレット用スライド装置と、
工具主軸装置と、
前記工具主軸装置を工具主軸スライド軸に沿ってスライド移動させる工具主軸用スライド装置と、
前記タレット用スライド装置と、前記工具主軸用スライド装置を数値制御する数値制御装置と、
前記数値制御装置に接続されたPLCと、
を備え、
前記数値制御装置は、
前記タレット装置をスライド移動させる前記タレットスライド軸の制御と、前記工具主軸装置をスライド移動させる前記工具主軸スライド軸の制御とを切り替える場合に、前記PLCにおける所定のデバイスの値を変更することで前記タレットスライド軸の制御と前記工具主軸スライド軸の制御を入れ替える、工作機械。
【請求項2】
前記数値制御装置は、
前記タレット用スライド装置を数値制御するタレット用NCプログラムを実行して前記タレット用スライド装置を制御し、前記工具主軸用スライド装置を数値制御する工具主軸用NCプログラムを実行して前記工具主軸用スライド装置を制御し、前記タレット用NCプログラムの指令によって前記PLCの前記デバイスの値を変更し、前記PLCのラダープログラムの処理によって前記PLCから前記工具主軸用NCプログラムへ変更後の前記デバイスの値に基づく信号を出力することで、前記工具主軸用NCプログラムが制御する前記工具主軸スライド軸のうち、前記タレット用NCプログラムで必要な前記工具主軸スライド軸の制御を解放させる、請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記タレット用NCプログラムには、
数値制御の指令であるMコード、及びマクロ変数のうち、少なくとも一方が設定され、
前記数値制御装置は、
前記タレット用NCプログラムを実行し、前記Mコード、及び前記マクロ変数のうち、少なくとも一方を用いて、前記デバイスの値を変更する、請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記数値制御装置は、
前記タレット用スライド装置を数値制御するタレット用NCプログラムを実行して前記タレット用スライド装置を制御し、前記工具主軸用スライド装置を数値制御する工具主軸用NCプログラムを実行して前記工具主軸用スライド装置を制御し、
前記タレットスライド軸は、
前記タレット用NCプログラムにおいて、前記タレットスライド軸を識別するタレットスライド軸識別情報が設定されており、
前記工具主軸スライド軸は、
前記工具主軸用NCプログラムにおいて、前記工具主軸スライド軸を識別する工具主軸スライド軸識別情報が設定されており、
前記数値制御装置は、
前記タレット用スライド装置の前記タレットスライド軸の制御と、前記工具主軸用スライド装置の前記工具主軸スライド軸の制御とを切り替える場合に、前記タレット用NCプログラムで制御する前記タレットスライド軸のうち、所定の前記タレットスライド軸識別情報の前記タレットスライド軸を前記タレット用NCプログラムの制御から解放し、
前記工具主軸用NCプログラムで制御する前記工具主軸スライド軸のうち、前記タレット用NCプログラムが制御を解放した前記タレットスライド軸の前記タレットスライド軸識別情報と軸方向が対応する前記工具主軸スライド軸識別情報の前記工具主軸スライド軸を前記工具主軸用NCプログラムの制御から解放し、
前記タレットスライド軸及び前記工具主軸スライド軸の制御を解放した後、前記タレット用NCプログラムの制御から解放した前記タレットスライド軸に替えて、前記工具主軸用NCプログラムの制御から解放した前記工具主軸スライド軸を前記タレット用NCプログラムの制御対象の軸として割り当てる、請求項1に記載の工作機械。
【請求項5】
ワーク主軸を中心にワークを回転させる第1ワーク主軸装置と、
前記ワーク主軸と平行な方向において前記第1ワーク主軸装置と対向する位置に配置される第2ワーク主軸装置と、
を、さらに備え、
前記工具主軸装置は、
前記ワーク主軸と平行な方向において、前記第1ワーク主軸装置と前記第2ワーク主軸装置の間に配置され、
前記タレット装置は、
前記第1ワーク主軸装置に保持された前記ワークを加工する第1タレット装置と、
前記第2ワーク主軸装置に保持された前記ワークを加工する第2タレット装置と、
を有し、
前記タレット用スライド装置は、
前記第1タレット装置を第1タレットスライド軸に沿って移動させる第1タレット用スライド装置と、
前記第2タレット装置を第2タレットスライド軸に沿って移動させる第2タレット用スライド装置と、
を有し、
前記数値制御装置は、
前記第1ワーク主軸装置に保持された前記ワークを前記工具主軸装置で加工する場合に、前記PLCの前記デバイスの値を変更し、前記第1タレット用スライド装置の前記第1タレットスライド軸の制御と前記工具主軸スライド軸の制御を入れ替えた後、前記工具主軸スライド軸に基づいて前記工具主軸用スライド装置を制御し前記工具主軸装置を前記工具主軸スライド軸に沿って移動させ、前記第1ワーク主軸装置に保持された前記ワークを前記工具主軸装置で加工する、請求項1に記載の工作機械。
【請求項6】
前記数値制御装置は、
前記第1タレット用スライド装置を数値制御する第1タレット用NCプログラムを実行して前記第1タレット用スライド装置を制御し、前記第2タレット用スライド装置を数値制御する第2タレット用NCプログラムを実行して前記第2タレット用スライド装置を制御し、前記工具主軸用スライド装置を数値制御する工具主軸用NCプログラムを実行して前記工具主軸用スライド装置を制御し、
前記第1タレット用NCプログラムの指令によって前記PLCの前記デバイスの値を変更し、前記PLCのラダープログラムの処理によって前記PLCから前記工具主軸用NCプログラムへ変更後の前記デバイスの値に基づく信号を出力することで、前記工具主軸用NCプログラムが制御する前記工具主軸スライド軸のうち、前記第1タレット用NCプログラムで必要な前記工具主軸スライド軸の制御を解放させ、
前記第1タレット用NCプログラムで必要な前記工具主軸スライド軸を、前記第2タレット用NCプログラムが使用中である場合、前記第1タレット用NCプログラムで必要な前記工具主軸スライド軸を、前記第2タレット用NCプログラムが解放するまで、前記第1タレット用NCプログラムによる処理を待機させる、請求項5に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械において、制御対象の軸を切り替える技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献1には、対向する2つのワーク主軸のそれぞれの加工エリアで共通して使用する刃物台を備える工作機械について記載されている。特許文献1の工作機械は、主軸選択Mコードを含む加工プログラムで刃物台を制御し、Mコードによって加工エリアを変更する際に、変更先の加工エリア用に予め登録しておいた補正演算式を呼び出して、呼び出した補正演算式で補正した指令値で刃物台の位置を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-172716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、工作機械で用いられる数値制御装置は、例えば、X軸、Y軸、Z軸、あるいはこれらの軸を中心とした回転軸を用いて、制御対象の装置を制御する。数値制御装置は、制御対象の装置を、例えば、タレット装置から工具主軸装置へ切り替える場合や、タレット装置から別のタレット装置へ切り替える場合などに、制御対象の軸を変更する必要が生じる。この場合に、変更前の装置と、変更後の装置とを、別のNCプログラムで制御していた場合、複数のNCプログラム間で軸の制御の受け渡しが必要となってくる。その結果、軸の制御の受け渡しを実行しようとする場合や、受け渡しタイミングを変更したい場合など、複数のNCプログラムを編集する必要があり、作業負荷が増加する恐れがあった。
【0005】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、制御対象の軸を切り替えたい場合に、NCプログラムの編集作業の負荷を軽減できる工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本明細書は、タレット装置と、前記タレット装置をタレットスライド軸に沿ってスライド移動させるタレット用スライド装置と、工具主軸装置と、前記工具主軸装置を工具主軸スライド軸に沿ってスライド移動させる工具主軸用スライド装置と、前記タレット用スライド装置と、前記工具主軸用スライド装置を数値制御する数値制御装置と、前記数値制御装置に接続されたPLCと、を備え、前記数値制御装置は、前記タレット装置をスライド移動させる前記タレットスライド軸の制御と、前記工具主軸装置をスライド移動させる前記工具主軸スライド軸の制御とを切り替える場合に、前記PLCにおける所定のデバイスの値を変更することで前記タレットスライド軸の制御と前記工具主軸スライド軸の制御を入れ替える、工作機械を開示する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の工作機械によれば、数値制御装置で実行する複数のNCプログラム間で、タレットスライド軸と工具主軸スライド軸の制御を受け渡す場合、PLCのデバイスの値を変更することで、PLC経由で指示を送ることができる。一方のNCプログラムが、デバイスの値を変更して他のNCプログラムに指示を送ることで軸の制御の解放や取得を行うことができる。制御対象の軸を切り替えたい場合に、一方のNCプログラムにPLCのデバイスの値を変更するプログラムを追加することで、軸の制御の受け渡しが可能となる。その結果、NCプログラムの編集作業の負荷を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施の工作機械を正面側から見た斜視図。
図2】複合加工機の主要な構造を示す斜視図。
図3図2の右側面図。
図4】工具主軸装置及び工具主軸用スライド装置の斜視図。
図5】工作機械のブロック図。
図6】系統1と系統3との間で軸の制御を受け渡す状態を示す図。
図7】比較例の識別番号方式を説明するための図。
図8】本実施の信号指令による切換方式を説明するための図。
図9】各系統間で軸の制御を受け渡した場合に、軸順番号に割り当てられる軸を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の工作機械を具体化した一実施例について、図を参照しつつ詳しく説明する。図1は、本実施例の工作機械1を正面側から見た斜視図を示している。図2は、工作機械1が備える複合加工機53の主要な構造を示す斜視図である。図3は、図2の右側面図を示している。尚、図1は、工作機械1を覆う装置カバーや操作盤3(図5参照)などの図示を省略している。以下の説明では、図1図3に示すように、工作機械1を正面から見た方向を基準として、機械幅方向であって装置の設置面に水平な方向における右方向をZ軸方向、装置の設置面に平行でZ軸方向に垂直な前方向をY軸方向、Z軸方向及びY軸方向に垂直な上方向をX軸方向と称して説明する。また、以下の説明では、概ね、工作機械1の左側に配置された装置に関する符号に「L」の文字を、右側に配置された装置に関する符号に「R」の文字を付加する。
【0010】
(工作機械1の構成)
工作機械1は、図示しない装置カバーによって前面を覆われており、機械正面に操作盤3(図5参照)が取り付けられている。図1図3に示すように、工作機械1は、操作盤3の他に、左側加工装置11L、右側加工装置11R、ワーク搬送装置14、制御装置15(図5参照)を備えている。装置の左側には、左側加工装置11L及び左側加工装置11Lの加工室16Lが設けられている。左側加工装置11Lは、タレット型の旋盤であり、左側主軸装置12Lと、左側タレット装置13Lを備えている。左側主軸装置12Lは、円筒形状の主軸台19にスピンドルが回転自在に組み込まれ、加工対象であるワークWを把持する、又は把持を解放するチャック機構20が組付けられている。尚、図1は、チャック機構20及びワークWの図示を省略している。チャック機構20としては、例えば、ワークWを挟持する複数のチャック爪、あるいはコレットチャックを採用することができる。主軸台19のスピンドルは、スピンドルモータ21の回転軸とプーリを介してベルトが掛け渡されている。左側主軸装置12Lは、制御装置15の制御に基づいてスピンドルモータ21を回転させ、Z軸方向と平行な方向(本開示のワーク主軸の一例)を中心としてC軸方向(回転方向)へワークWを回転させる。左側タレット装置13Lは、複数の工具T1(回転工具や切削工具)を取り付け可能なタレット17Lを有し、割出し用サーボモータ44を駆動してタレット17Lを回転させ工具T1の割り出しを実行する。左側タレット装置13Lは、割り出した工具T1によって左側主軸装置12Lに把持されたワークWに対する加工(切削加工や穴開け加工など)を実行する。
【0011】
同様に、装置の右側には、右側加工装置11R及び右側加工装置11Rの加工室16Rが設けられている。右側加工装置11Rは、左側加工装置11Lと装置の向きが左右対象であるものの、左側加工装置11Lと同一の構成となっている。このため、右側加工装置11Rの説明において左側加工装置11Lと同様の内容については省略する。右側加工装置11Rは、右側主軸装置12Rと、右側タレット装置13Rを備えている。右側主軸装置12Rの主軸は、Z軸方向と平行であり、左側加工装置11Lの左側主軸装置12Lの主軸と左右方向で対向している(向き合っている)。従って、左側及び右側加工装置11L,11Rは、左右対称に配置された所謂、対向2軸型の旋盤である。右側タレット装置13Rは、割出し用サーボモータ44を駆動しタレット17Rを回転させ割り出した工具T1により、右側主軸装置12Rで把持したワークWに対する加工を実行する。尚、右側加工装置11Rは、左側加工装置11Lと同一構成でなくとも良い。例えば、左側加工装置11L及び右側加工装置11Rの少なくとも一方が、マシニングセンタなどの他の種類の加工装置でも良い。
【0012】
左側及び右側主軸装置12L,12Rの各々の主軸台19やスピンドルモータ21は、主軸スライド23に搭載されている。工作機械1のベッド22は、機体前後方向の寸法を抑えるためにスラントベッド構造となっている。ベッド22における左側及び右側主軸装置12L,12Rを搭載する面は、前を低くした前側傾斜面22Aとなっている。逆に機体後方側に配置された左側及び右側タレット装置13L,13Rの搭載面は、後を低くした後側傾斜面22B(図3参照)となっている。
【0013】
左側及び右側主軸装置12L,12Rの各々には、主軸スライド23をベッド22の前側傾斜面22Aに沿ってZ軸方向に移動させる駆動機構24(図3参照)が設けられている。一対の駆動機構24は、一対のガイドレール27、一対のガイドブロック29(図3参照)、ボールネジ機構31、Z軸サーボモータ32などを備えている。主軸スライド23の下面には、一対のガイドブロック29が固定されている。一対のガイドブロック29は、一対のガイドレール27の各々に摺動可能に取り付けられている。従って、主軸スライド23は、ベッド22の前側傾斜面22Aに設けられた一対のガイドレール27に沿ってZ軸方向に移動可能となっている。
【0014】
左側及び右側主軸装置12L,12Rは、一対の駆動機構24の各ボールネジ機構31によってZ軸方向と平行な方向に移動可能であり、一対のガイドレール27の間には、ボールネジ機構31のネジ軸がZ軸方向と平行に配置され軸受を介して支持されている。また、一対の駆動機構24の各々のZ軸サーボモータ32は、左側及び右側主軸装置12L,12Rにおける機体幅方向の外側にそれぞれ設けられている。Z軸サーボモータ32の回転軸は、ボールネジ機構31のネジ軸に連結されている。一方、主軸スライド23にはネジ軸が通ったナット部材(図示略)が固定されている。一対の駆動機構24は、制御装置15(図5参照)の制御に基づいてZ軸サーボモータ32をそれぞれ駆動しネジ軸を回転させることで、主軸スライド23をZ軸方向の任意の位置に直線移動(スライド移動)させることができる。
【0015】
工作機械1は、ワークWを加工する作業位置へ工具T1を移動させるために、左側及び右側タレット装置13L,13Rのタレット17L,17RをZ軸方向に直交するXY平面上であって、水平方向及び鉛直方向に対して45度の角度をもったYL軸方向とXL軸方向(図3参照)に移動させる左側及び右側スライド装置18L,18Rを備えている(図5参照)。左側スライド装置18Lは、左側タレット装置13Lをスライド移動させる装置である。右側スライド装置18Rは、右側タレット装置13Rをスライド移動させる装置である。図3に示すように、ベッド22には、YL軸に平行な後側傾斜面22Bが形成され、そこにYL軸ガイドレール33が固定されている。左側及び右側スライド装置18L,18Rの各々は、後側傾斜面22Bの上方に、略三角形状のベーススライド35を備えている。ベーススライド35は、一辺にYL軸ガイドレール33を摺動するガイド部37が設けられ、90度で隣り合う辺にタレット17L,17Rを搭載する搭載面を形成され、その搭載面にXL軸ガイドレール39が設けられている。左側及び右側スライド装置18L,18Rの各々は、左側及び右側タレット装置13L,13R(タレット17L,17Rや割出し用サーボモータ44)を搭載するタレットスライド41を備える。タレットスライド41のガイド部43は、XL軸ガイドレール39に対して摺動可能に噛み合っており、XL軸と平行な加工移動線L1に沿って移動可能となっている。
【0016】
ベーススライド35とタレットスライド41にはボールネジ機構が設けられている。YL軸ガイドレール33及びXL軸ガイドレール39の各々には、YL軸やXL軸と平行なネジ軸が軸受によって支持されている。各ネジ軸はベーススライド35やタレットスライド41に固定されたナット部材に挿入されている。また、左側及び右側スライド装置18L,18Rは、左側及び右側タレット装置13L,13Rをスライド移動させる駆動源として、YL軸サーボモータ45及びXL軸サーボモータ46を備えている。各ネジ軸はYL軸サーボモータ45又はXL軸サーボモータ46の回転軸に連結されている。従って、左側及び右側タレット装置13L,13Rは、左側及び右側スライド装置18L,18Rの各々のYL軸サーボモータ45とXL軸サーボモータ46の駆動制御によってタレット17L,17RのYL軸及びXL軸の各方向の移動制御のほか、両軸方向の移動を合成した水平方向の移動制御が可能になっている。
【0017】
また、工作機械1は、NC旋盤とマシニングセンタの両方の機能を備えている。工作機械1は、機体中央であって、自動工具交換装置25の後方に工具主軸装置55を備えている。工作機械1は、左側及び右側加工装置11L,11R、及び工具主軸装置55を備える複合加工機53を一つのベッド22の上に備えている。工具主軸装置55は、例えば、左側及び右側タレット装置13L,13Rでは難しい深さや角度での加工を可能にするものである。また、工作機械1は、工具主軸装置55をスライド移動させる工具主軸用スライド装置28を備えている。
【0018】
図4は、工具主軸装置55及び工具主軸用スライド装置28の斜視図を示している。図2図4に示すように、工具主軸用スライド装置28は、X軸方向及びY軸方向に工具主軸装置55(工具T2)を移動させる装置である。工具主軸装置55は、Y軸方向と平行な回転軸であるB軸を中心に工具T2の角度を調整可能となっている。工具主軸装置55は、主軸用サーボモータや工具スピンドルを内蔵され、その下端部に設けられた工具装着部に対して、自動工具交換装置25(図1参照)に収められた様々な工具T2の取り替えが可能になっている。工具主軸装置55は、工具主軸用スライド装置28のX軸スライド57に対して回転可能に取り付けられ、回転伝達機構を介してB軸サーボモータ59の回転が伝達されるように構成されている。
【0019】
工具主軸用スライド装置28は、工具主軸用スライド装置28の本体部65及び工具主軸装置55をY軸方向に移動させるガイドレール60を、ベッド22の上面に有する。ガイドレール60は、Y軸方向に沿った一対のY軸レール61(図4では右側のY軸レール61のみ図示)を備えている。一対のY軸レール61は、Z軸方向において所定の間隔を間に有し、互いに平行な状態でY軸方向と平行な方向に沿って設けられている。工具主軸用スライド装置28のY軸スライド63は、ガイド部64、本体部65、一対のX軸レール66を有している。Y軸スライド63は、本体部65の下部に設けられたガイド部64を一対のY軸レール61の各々に取り付けられ、一対のY軸レール61に対して摺動可能に取り付けられている。これにより、Y軸スライド63は、Y軸方向にスライド移動可能となっている。
【0020】
一対のX軸レール66は、本体部65の前面に取り付けられている。一対のX軸レール66は、Z軸方向において所定の間隔を間に有し、互いに平行な状態でX軸方向と平行な方向に沿って設けられている。X軸スライド57は、後方に設けられたガイド部67を一対のX軸レール66の各々に取り付けられ、一対のX軸レール66に対して摺動可能に取り付けられている。
【0021】
Y軸スライド63は、ガイド部64とY軸レール61の連結部分に設けられたボールネジ機構(図示略)によってY軸レール61に対してY軸方向に移動可能である。同様に、X軸スライド57は、ガイド部67とX軸レール66の連結部分に設けられたボールネジ機構(図示略)によってX軸レール66に対してX軸方向に移動可能である。このボールネジ機構は、各軸方向に配置されたネジ軸が軸受を介して支持され、そのネジ軸がX軸スライド57又はY軸スライド63に固定されたナット部材を通っている。そして、各々のネジ軸には、工具主軸用スライド装置28のX軸サーボモータ69又はY軸サーボモータ70(図5参照)がそれぞれ連結され、各サーボモータの回転出力によってX軸スライド57又はY軸スライド63の直線移動が可能になっている。従って、工具主軸装置55は、工具主軸用スライド装置28のX軸サーボモータ69及びY軸サーボモータ70の駆動制御によってX軸方向及びY軸方向における工具T2の位置を変更され、B軸サーボモータ59の駆動制御によってワークWに対する工具T2の姿勢(角度)調整が可能である。
【0022】
また、複合加工機53は、左側及び右側加工装置11L,11Rで同時にワークWを加工するほか、工具主軸装置55における工具交換も行うことが可能である。このため、図2に示すように、各装置がクーラントや切屑などの影響を受けないように、2枚の分離シャッタ71が設けられている。2枚の分離シャッタ71は、工具主軸装置55の左右方向の両側に配置され、サーボモータ等を備えるシャッタ駆動機構73(図5参照)によって機体前後方向に個別に水平移動するよう構成されている。複合加工機53は、この2枚の分離シャッタ71によって、加工室16L,16R、工具交換室16Cに分離可能となっている。加工室16Lは、左側主軸装置12L及び左側タレット装置13Lを他の装置と分離し、左側主軸装置12Lで把持したワークWに対する左側タレット装置13Lによる加工を行なう加工室である。同様に、加工室16Rは、右側主軸装置12RのワークWに対する右側タレット装置13Rによる加工を行なう加工室である。工具交換室16Cは、工具主軸装置55を分離し、工具主軸装置55の工具T2の交換等を行なう作業室である。制御装置15は、シャッタ駆動機構73を駆動して、分離シャッタ71を前方に出し各部屋を区画する、又は後方に収納し各部屋を開放する。制御装置15は、3つの部屋に区画する制御の他、2枚の分離シャッタ71の一方だけを前方に出すことで、例えば、加工室16Lと工具交換室16Cを繋げた広い空間を作り出すこともできる。この際、後述するように、制御装置15は、工具主軸装置55によって左側主軸装置12Lに把持されたワークWに対する加工を実行する一方、自動工具交換装置25を駆動して交換用の工具T2を予め工具交換位置まで搬送することができる。また、後述するように、工具主軸装置55を拡張した加工室16L,16Rで使用するのに合わせて軸の制御を移行することができる。
【0023】
また、工作機械1は、装置の前方に自動工具交換装置25を備えている。工具主軸装置55は、Z軸方向における工作機械1の中央に設けられ、自動工具交換装置25との間で工具T2(主軸ヘッド工具)を取り替え可能となっている。工具T2は、例えば、ドリル、エンドミルなどである。図1に示すように、自動工具交換装置25は、設置面に起立した交換装置本体25Aと、交換装置本体25Aの上部に設けられたツールマガジン25Bと、工具T2を移動させるシフト装置25Cと、工具T2を交換するツールチェンジャ25Dを備えている。ツールマガジン25Bは、工具主軸装置55の上方で、且つ工作機械1における前方側となる位置に配置され、交換用の工具T2を収容している。ツールマガジン25Bは、ローラチェーンに吊り下げられた複数の工具保持部材の各々に工具T2を取り付けられ、サーボモータの駆動によりローラチェーンを回転させることで、左右方向の中央後部に設けられた割り出し位置に、任意の工具T2を移動させる。工具T2は、工具保持具に対して着脱可能に取り付けられている。
【0024】
シフト装置25Cは、工具T2を前後方向に移動させる前後シフタや、上下方向に移動させる上下シフタを備え、機体上部に位置するツールマガジン25Bと、それより低い位置にある工具主軸装置55の工具交換位置との間で工具T2を移動させる。シフト装置25Cは、前後シフタによってツールチェンジャ25Dの割り出し位置に位置決めされ工具T2を後方へ運び出し、上下シフタによって運び出した工具T2を下降させ工具交換位置まで搬送する。ツールチェンジャ25Dは、シフト装置25Cが工具交換位置に配置した工具T2と、工具主軸装置55に取り付けられた工具T2を取り替える。ツールチェンジャ25Dは、工具交換室16C内において工具主軸装置55の近くに配置され、例えば、工具T2を把持する一対のチャックを有する工具交換アーム、その工具交換アームを旋回させるカム装置などを備える。ツールチェンジャ25Dは、工具交換アームを旋回させることで、シフト装置25Cの上下シフタに保持された工具T2と、工具主軸装置55の工具T2を交換する。
【0025】
また、ワーク搬送装置14は、例えば、ガントリ式のワーク搬送装置であり、フレーム構体76に支持された走行レール77等を有し、ワークWを把持するヘッド(図示略)をXYZの各軸方向へ移動させる。ワーク搬送装置14は、左側及び右側加工装置11L,11R、ワークWを搬入する入口装置、ワークWを排出する出口装置等と、ヘッドの間でワークWの受け渡しを実行する。また、左側及び右側主軸装置12L,12Rは、Z軸方向と平行な方向にスライド移動し、且つ互いに近づく方向へ移動することでワークWの受け渡しを直接実行することもできる。
【0026】
また、図5に示す操作盤3は、例えば、タッチパネル、ハードスイッチ(押しボタンスイッチなど)を備え、ユーザインタフェースとして機能する。操作盤3は、タッチパネル等に対するユーザの操作入力に応じた信号を制御装置15に出力する。また、操作盤3は、制御装置15の制御に基づいてタッチパネルの表示内容の変更やランプの点灯状態の変更等を実行する。
【0027】
また、図5に示すように、工作機械1は、制御装置15、上記した各装置(操作盤3、右側加工装置11R、ワーク搬送装置14等)の他に、複数の駆動回路80を備えている。制御装置15は、数値制御装置81と、PLC82を備えている。数値制御装置81は、CPU83と、記憶装置84とを備えている。PLC82は、CPU85と、記憶装置86とを備えている。記憶装置84,86は、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリ等を備えている。尚、記憶装置84,86の構成は、上記した構成に限らず、HDDやSSHを備える構成でも良く、USBメモリなどの外部記憶装置、DVD-RAMなどの記憶メディアを備える構成でも良く、あるいはこれらを組み合わせた構成でも良い。
【0028】
記憶装置84には、ワークWに対する加工において左側及び右側加工装置11L,11R等の各々の動作を数値制御するNCプログラム88が記憶されている。尚、記憶装置84には、NCプログラム88の他に、加工に必要な各種の設定データ、操作盤3の表示内容を変更するためのプログラムなど、各種のデータが記憶されている。数値制御装置81は、上記した各装置と、駆動回路80を介して電気的に接続され、各装置を制御可能となっている。駆動回路80は、例えば、操作盤3に接続された駆動回路80であれば、操作盤3から入力した信号の増幅・処理等を実行するアンプ回路である。また、駆動回路80は、例えば、Z軸サーボモータ32等のモータに接続された駆動回路80であれば、各サーボモータに供給する三相交流の電流を、制御装置15の指示信号(移動量、移動先の位置、移動速度、目標トルクなど)に基づいて変更するドライバ回路(サーボアンプ)である。数値制御装置81は、NCプログラム88をCPU83で実行し、NCプログラム88に記述された数値指令に従って、駆動回路80(ドライバ回路)に指示信号を出力して制御する。駆動回路80(ドライバ回路)は、例えば、各サーボモータに取り付けられたエンコーダのエンコーダ情報と、制御装置15の指示信号に基づいて三相交流の電流を変更するフィードバック制御を実行し、処理の完了等を数値制御装置81に通知する。これにより、制御装置15は、数値制御装置81による数値制御に基づいて所望の位置へ右側主軸装置12Rや右側タレット装置13Rを各軸に沿ってスライド移動等させる。尚、各装置をスライド移動させる駆動源としては、サーボモータに限らず、ステッピングモータやリニアモータなどの他の駆動源を採用できる。
【0029】
PLC82は、Programmable Logic Controllerである。記憶装置86には、各種の信号を処理するラダー回路を構築するためのラダープログラム89が記憶されている。PLC82は、CPU85でラダープログラム89を実行し、ラダープログラム89に基づくシーケンス処理によって、例えば、工作機械1が備える各種のランプ、リレー、ソレノイド等の素子へ出力信号を出力して駆動する処理、リミットスイッチ、センサなどの素子から入力信号を入力する処理を実行する。また、PLC82は、例えば、通信バス91を介して数値制御装置81と接続され、数値制御装置81との間で通信可能となっている。PLC82は、ラダープログラム89に基づいて構築したデバイス93を用いて数値制御装置81との間で信号の入出力を実行する。デバイス93は、例えば、CPU85でラダープログラム89を実行することで記憶装置86上に構築される記憶領域であり、工作機械1が備える外部I/O(センサなど)の信号の値を記憶するデバイス、数値制御装置81とやり取りするための信号の値を記憶するためのデバイス、設定値を記憶するキープリレーを実現するデバイスなどである。これにより、PLC82は、工作機械1が備える外部I/Oと、数値制御装置81との間の信号の中継(入出力)を実行する。
【0030】
例えば、ファナック株式会社製のPLC(PMC)であれば、PLC82から数値制御装置81への指示にデバイス記号「G」のデバイス93が用いられる。また、逆に、数値制御装置81からPLC82への指示にデバイス記号「F」のデバイス93が用いられる。例えば、PLC82は、ラダープログラム89を実行し所定の周期(数msなど)でデバイス93に記憶された値に基づく入出力(補助機能コード信号など)を実行する場合、デバイス記号「G」の所定のデバイス93(以下、Gデバイスという場合がある)へ書き込んだ信号を、数値制御装置81が読み込む。また、PLC82は、ラダープログラム89を実行し所定の周期で、数値制御装置81がデバイス記号「F」の所定のデバイス93(以下、Fデバイスという場合がある)へ書き込んだ信号を読み込む。これにより、例えば、数値制御装置81(任意のNCプログラム88)からFデバイスに入力した信号の値を、Gデバイスを介して数値制御装置81(他のNCプログラム88)に出力する。制御装置15は、後述するように、本開示のデバイスとして、例えば、このデバイス記号「G」「F」のデバイス93を用いて、任意のNCプログラム88から他のNCプログラム88に対する指令を実行し、軸の制御の解放・取得を実行する。
【0031】
(軸の制御の受け渡しについて)
次に、軸の制御の受け渡しについて説明する。本実施例の工作機械1は、上記したようにワークWを加工する加工装置として、左側タレット装置13L、右側タレット装置13R、工具主軸装置55(以下、各加工装置という場合がある)の3つの加工装置を備えている。例えば、図5に示すように、NCプログラム88には、左側加工装置11Lが加工を実行するためのNCプログラム88A、右側加工装置11Rが加工を実行するためのNCプログラム88B、工具主軸装置55、工具主軸用スライド装置28や自動工具交換装置25を制御して工具T2を交換するためのNCプログラム88Cが含まれている。NCプログラム88A~88Cは、別々のファイルとして記憶される別のデータでも良く、1つのファイルに含まれるデータでも良く、1つのプログラムから呼び出す別々のモジュールでも良い。以下の説明では、これらの左側加工装置11L、右側加工装置11R、工具主軸装置55及び工具主軸用スライド装置28(以下、工具主軸装置55等という場合がある)のそれぞれを制御するNCプログラム88A~88C(そのプログラムが制御する制御系統)を、この順番に「系統1、系統2、系統3」と称して説明する。この場合、系統1は、左側加工装置11Lが、左側タレット装置13Lによって左側主軸装置12LのワークWを加工するためのNCプログラム(制御系統)である。また、系統3は、工具T2の交換を実施するプログラムであり、加工を実行しないプログラムである。尚、以下の説明において、系統1、2、3のNCプログラム88A~88Cを総称する場合は、NCプログラム88と記載する。
【0032】
1~3の各系統は、各加工装置をそれぞれX軸方向及びY軸方向にスライド移動させるスライド軸(タレットスライド、工具主軸スライド)を有する。上記したように、工具主軸装置55等は、2つの加工室16L,16Rで加工に使用されるほか、自動工具交換装置25との間で工具T2の交換を行う。系統1、2は、加工に工具主軸装置55等を使用したい場合、系統3から工具主軸装置55等の制御を取得する必要がある。尚、上記した構成は、一例であり、例えば、系統1は、各加工装置をZ軸方向にスライド移動させるスライド軸を有しても良い。
【0033】
一方、各系統のNCプログラム88は、例えば、制御内容の簡素化や、編集の容易化などの観点から各軸方向として、1つの軸をそれぞれ制御対象の軸としている。従って、例えば、系統1のNCプログラム88Aが、制御対象の軸として複数のX軸(異なるX軸)を同時に制御することはなく、XYZの各軸、各軸を中心とした回転軸(C軸やB軸など)をそれぞれ1つずつ制御対象の軸として制御する。このため、系統1、2は、加工に工具主軸装置55を使用したい場合、自系統のX軸及びY軸を制御から解放する処理と、系統3から工具主軸装置55等のX軸、Y軸、B軸の制御を取得する処理が必要となる。また、この処理に合わせて、取得される系統3は、工具主軸装置55等のX軸、Y軸、B軸を解放する必要がある。そして、系統1、2は、取得した軸の制御を自系統の制御対象の軸として割り当てる。尚、上記した軸の制御の受け渡し内容は、一例である。例えば、系統1が、B軸(Y軸方向と平行な軸を中心とした回転軸)を有する構成である場合、系統1のB軸の解放、割り当てが必要となってくる。また、1つの系統のNCプログラム88が、各軸方向において、同時に複数の軸(2つの異なるX軸など)を制御しても良い。
【0034】
以下の説明では、上記した軸の制御の受け渡しとして、系統1と、系統3の間で受け渡す場合について説明する。図6は、系統1と系統3との間で軸の制御を受け渡す状態を示しており、上の図は、受け渡す前の状態を、下の図は受け渡した後の状態を示している。また、図6に示すように、説明の便宜上、左側タレット装置13Lのスライド方向をXL軸方向及びYL軸方向と称し、工具主軸装置55をX軸方向と平行な方向にスライドさせる方向をXB軸方向、工具主軸装置55をY軸方向と平行な方向にスライドさせる方向をYB軸方向と称して説明する。また、後述する図9では、右側タレット装置13Rのスライド方向をXR軸方向及びYR軸方向と称して記載している。また、図6は、ワークWを除いて、ハッチングが付してある装置は、破線で囲む系統に属して制御される装置を示しおり、白塗りの装置は、破線で囲む系統において制御を解除された装置を示している。
【0035】
図6の上の状態は、系統1が左側タレット装置13Lを制御し、系統3が工具主軸装置55を制御し、加工室16L、工具交換室16Cのそれぞれで作業を実行している状態である。図6の下の状態は、軸の制御の受け渡しが完了しており、左側タレット装置13LのXL軸及びYL軸が解放され、工具主軸装置55のXB軸及びYB軸が系統1の制御下となっている。このような系統3から系統1へ制御を取得する場合、上記した通り、(1)系統1の対象軸の解放、(2)系統3の対象軸の解放、(3)系統3から系統1への対象軸の取得が必要となる。
【0036】
図7は、比較例の識別番号方式を示している。この識別番号方式では、系統1、3の各NCプログラム88A,88Cが軸の解放及び取得を実行する。一例として、軸の解放指令を示すGコードG52.1、軸の取得指令を示すGコードG52.2を用いた場合について説明する。図7の使用例に示すように、各系統の軸には、識別番号が設定されている。具体的には、XL、YL、Zの各軸に対し、この順番に、識別番号101、102、103が設定され、XB、YB、Bの各軸に対し、この順番に、識別番号201、202、203が設定されている。G52.1は、仕様フォーマットに示すように、コードの後に解放する軸の識別番号(図7中ではP、Q、Rで例示)を記載する。G52.2は、仕様フォーマットに示すように、コードの後に取得する軸の識別番号(図7中ではP、Q、Rで例示)と、その後に軸を挿入する軸順番号(図7中ではI、J、Kで例示)を記載する。軸順番号は、例えば、制御対象の軸に1から順番に付与した識別用の数字である。
【0037】
図9は、各系統間で軸の制御を受け渡した場合に、軸順番号に割り当てられる軸を示している。図9の左側に示すように、軸の制御を受け渡す前の状態では、系統1、2には、軸順番号の1、2、3の順に、XL、YL、Zの各軸が割り当てられている。また、系統3には、軸順番号の1、2、3の順に、XB、YB、Bの各軸が割り当てられている。
【0038】
図7の実行例には、系統1、2のNCプログラム88A,88Cの内容を左側に、その内容を実行した場合の動作を右側に図示している。例えば、系統3から系統1への軸の制御の受け渡しでは、(1)系統1の対象軸の解放、(2)系統3の対象軸の解放、(3)系統3から系統1への対象軸の取得を実行する。尚、この実行例は一例である。実行例の(1)に示すように、系統1のNCプログラム88Aは、G52.1を実行することで、指定されたパラメータP101、Q102、即ち、XL、YL軸の制御を解放する。同様に、実行例の(2)に示すように、系統3のNCプログラム88Cは、G52.1を実行することで、指定されたXB、YB、B軸の制御を解放する。その後、実行例の(3)に示すように、系統1のNCプログラム88Aは、G52.2を実行することで、指定されたパラメータP201、Q202、R203、即ち、系統3で解放されたXB、YB、B軸の制御を取得する。系統1のNCプログラム88Aは、取得した各軸を、指定されたパラメータI1、J2、K4、即ち、軸順番号の1、2、4に割り当てる。
【0039】
これにより、図9の左に示す「制御を受け渡す前の状態」から右上に示す「系統1に制御を受け渡した後の状態」へと遷移する。即ち、軸の制御の受け渡しが完了する。系統1には、軸順番号1~4の順に、XB、YB、Z、B軸の各軸が割り当てられる。XL、YLの各軸は、制御の対象外となる。図6の下の状態に示すように、数値制御装置81は、系統1のNCプログラム88Aを実行することで、工具主軸装置55を、XB、YB、Bの各軸方向へ動作させ、左側主軸装置12LのワークWに対する加工を実行することができる。より具体的には、例えば、数値制御装置81が、系統1のNCプログラム88Aを実行し、位置決め指示のGコード「G00」に、パラメータ(座標値)としてX0.0を設定し「G00 X0.0」を実行した場合を考える。この場合、数値制御装置81は、受け渡し前であれば、駆動回路80を介してXL軸サーボモータ46を制御し、左側タレット装置13LをXL軸方向における座標値0.0(原点位置)へスライド移動させる。数値制御装置81は、受け渡し後であれば、駆動回路80を介してX軸サーボモータ69を制御し、工具主軸装置55をXB軸方向における座標値0.0(原点位置)へスライド移動させる。また、系統3では、工具主軸装置55が系統1で使用されている間に、ツールマガジン25Bやツールチェンジャ25Dを制御して交換用の工具T2を工具主軸装置55の工具交換位置まで事前に運ぶことができる。
【0040】
しかしながら、図7に示す比較例の識別番号方式では、上記した(1)、(3)のコードを系統1のNCプログラム88Aに追加するだけでなく、(2)のコードを系統3のNCプログラム88Cに追加する必要が生じる。即ち、複数の系統のNCプログラム88A,88Cを編集する必要がある。同様に、系統2、3で軸の制御を受け渡す場合にも複数の系統のNCプログラム88B,88Cを編集する必要がある。また、系統3は、工具T2の交換用のNCプログラム88Cであり、加工を行う系統1、2のNCプログラム88A,88Bとは異なり、加工位置の調整等が不要である。このため、可能であれば系統3を変更せずに、系統1、2のNCプログラム88A,88Bだけの変更で対応できれば、編集や確認対象のプログラムが1つ減り、使用者の作業負担が大幅に軽減される。
【0041】
そこで、本実施の系統1は、図8に示す信号指令による切換方式を用いて軸の制御の受け渡しを実行する。この切替方式では、PLC82の特定のデバイス93の信号を変更(ON/OFFなど)することで、予め設定しておいた軸の制御の移動が可能となる。図8に示すように、例えば、特定のデバイス93として、Gデバイス(G536.2)の値を1にすることで軸の解放指令を実行する。解放する対象の軸は、図8の使用例に示すように、例えば、デバイス記号「R」の内部リレーのデバイス93(以下、Rデバイスという場合がある)を用いて指定する。XL、YL、Z軸は、この順に、RデバイスのアドレスR1000、R1010、R1020が予め設定される。また、XB、YB、B軸は、この順に、RデバイスのアドレスR2000、R2010、R2020が予め設定される。
【0042】
系統1のXL、YL軸の制御を解放する場合、図8の使用例(1)に示すように、例えば、Rデバイスの「R1000=1」、「R1010=1」とした状態で、GデバイスのG536.2=1とすることで、XL、YLの各軸の制御が系統1から解放される。また、(2)に示すように、Rデバイスの「R2000=1」、「R2010=1」、「R2020=1」とした状態で、GデバイスのG536.2=1とすることで、XB、YB、Bの各軸の制御が解放される。
【0043】
また、例えば、特定のデバイス93として、Gデバイス(G536.3)の値を1にすることで軸の取得指令を実行する。取得する対象の軸は、解放の場合と同様にRデバイスを用いて指定する。Gデバイス(G536.3)は、図8の使用例(3)に示すように、対象の軸、軸順番号の何軸目、系統の情報を一組として、軸の取得処理の内容を指定する。使用例(3)では、縦に並べて各組を示している。例えば、「XB軸を」、「軸順番号の1へ」、「系統1を指定し」取得する場合、Rデバイスの「R2000=1」、「R2001=1」、「R2002=1」とした状態で、GデバイスのG536.3=1とすることで、XB軸の制御を系統1の軸順番号の1に取得できる。同様に、YB、B軸についても各組み合わせの3つのRデバイスを設定し、GデバイスのG536.3=1とすることで取得できる。
【0044】
比較例の識別番号方式では、準備機能であるGコードを用いて軸の解放、取得を実行した。これに対し、Gデバイス、Rデバイスを用いた切替方法では、補助機能であるMコードを用いて、軸の解放、取得をまとめて実行できる。具体的には、例えば、ラダープログラム89において、特定のFデバイス(PLC82の外部入力デバイス)に値が入力されると、上記したGデバイスやRデバイスを設定するプログラムを作成する。系統1のNCプログラム88Aには、MコードのM230(外部M信号)に上記したFデバイスを指定して(経由して)GデバイスやRデバイスの値を変更する(G536.2=1にするなど)指示を関連付けておく。これにより、系統1のNCプログラム88Aの所望のタイミングでM230を実行することで、PLC82の所望のデバイス93(上記したG536.2=1など)を設定できる。PLC82は、所定の周期でGデバイスに信号を書き込むことで、あらかじめ記憶された値に基づく出力を、系統1、3のNCプログラム88A,88Cに対して実行する。また、NCプログラム88A,88Cは、例えば、特定の入力(図8に示すPLC82の解放指令や取得指令を示すGデバイスの外部入力)を受け付けたことに基づいて、軸の解放や取得を実行する設定(プログラムなど)がなされている。これにより、PLC82経由で軸の解放や取得を実行できる。その結果、識別番号方式で示すような3つのGコードを、軸の制御の受け渡しが必要となるたびに、系統1、3のNCプログラム88A,88Cに追加する必要がなくなる。好適には、軸の制御の受け渡しが必要となるタイミングで、上記したM230のコードを系統1のNCプログラム88Aに追記するだけで、軸の受け渡しが実行できる。
【0045】
尚、上記した切替方式では、軸の解放と取得の両方を、PLC82(デバイス93)を用いて実行した。これにより、系統1では、1つのMコードを実行することで、軸の解放と取得を実行でき、NCプログラム88の行数(データ量)を減らすことができる。しかしながら、この方法に限らず、例えば、解放のみを実行しても良い。図7に示すように、軸の制御を受け渡す系統3側の軸(XB軸など)を系統1側から解放できれば、系統1のNCプログラム88Aの編集のみで軸の受け渡しが可能となる。具体的には、系統1のNCプログラム88Aに、切替方式の(1)系統1の軸の解放と、(3)軸の取得を実行するGコードを追記する。また、(2)系統3の軸の解放については、NCプログラム88Aに、Mコードを追記し、Gデバイス(G536.2=1)を用いて実現しても良い。即ち、切替方式と識別番号方式とを組み合わせて軸の制御の受け渡しを実行しても良い。
【0046】
また、上記した説明では、特に言及していないが、軸の制御の受け渡しに使用するデバイス93としては、「1又は0」の値を示すビットデバイスでも良く、数値を示すワードデバイスでも良い。従って、使用するデバイス93としては、F、G、Rデバイスに限らず、K(キープリレー)デバイスやD(データテーブル)デバイスなどの他のデバイス93を用いても良い。
【0047】
また、系統1で軸の制御の受け渡しを開始するトリガーとなるコードは、Mコードに限らない。例えば、マクロ変数(マクロ機能、カスタムマクロとも言い得る)を用いる方法でも良い。ここでいうマクロ変数とは、例えば、数値制御装置81(NCプログラム88)からPLC82に信号を送るために用いる変数、演算指示、条件分岐などの機能である。例えば、上記した特定のデバイス93(GデバイスやRデバイス)に「1」などの値を設定するマクロ変数を予め定義し、このマクロ変数を系統1のNCプログラム88Aから呼び出して実行しても良い。これにより、Mコードを実行した場合と同様に軸の制御の受け渡しを実行できる。
【0048】
従って、系統1のNCプログラム88Aは、数値制御の指令であるMコード、及びマクロ変数のうち、少なくとも一方が設定される構成でも良い。即ち、軸の制御の受け渡しにおいて、Mコードだけを用いても良く、マクロ変数だけを用いても良く、両方を用いても良い。そして、数値制御装置81は、系統1のNCプログラム88Aを実行し、Mコード、及びマクロ変数のうち、少なくとも一方を用いて、デバイス93の値を変更する。系統3の軸の解放だけでなく、系統1の軸の解放、軸の取得の一連の処理をMコードやマクロ変数によって定義できる。軸の受け渡し処理を、Mコードやマクロ変数で定型化することができる。
【0049】
また、上記した説明では、系統3から系統1への軸の制御の受け渡しについて説明したが、他の系統間における軸の制御の受け渡しについても同様にデバイス93を用いて受け渡すことができる。例えば、系統3から系統2への受け渡しでは、図9の右下の図に示すように、右側加工装置11RのXR、YRの各スライド軸を、図8に示す解放指令のGデバイス(G536.2=1)で解放する。また、系統3と系統1の場合と同様に、系統3のXB、YB、B軸を解放指令のGデバイスで解放する。そして、図8に示す取得指令のGデバイス(G536.3=1)によって、系統2の解放した軸順番号の1、2と、空いている軸順番号の4のそれぞれに、XB、YB、B軸を割り当てることで、系統2において工具主軸装置55をスライド移動させ加工を行うことができる。このような一連の制御を、上記したMコードやマクロ変数を系統2のNCプログラム88Bに記述することで実現できる。
【0050】
また、系統1から系統3、あるいは、系統2から系統3へ取得済みのXB軸等の制御を返却する場合にも、Mコードやデバイス93を用いて制御の受け渡しを実行できる。例えば、系統1は、図8に示す使用例(2)と同様に、解放指令のGデバイス(G536.2=1)と、系統1に対してXB、YB、B軸を指定するためのRデバイスを用いることで、XB、YB、Bの各軸の制御を系統1から解放する。また、PLC82において、例えば、所定のFデバイスの値が変更された(書き込まれた)場合に、系統3にXB、YB、B軸の割り当てを指示する信号をGデバイスから出力するように設定(ラダー回路を構築)する。また、NCプログラム88Cは、例えば、このGデバイスの外部入力を読み込んだことに基づいて、軸を取得する設定(プログラムなど)がなされている。そして、系統1は、Mコードを実行することで、XB、YB、Bの各軸の制御を解放するとともに、上記した所定のFデバイスの値を変更する。これにより、系統3は、PLC82の指示によって(Gデバイスからの外部入力に基づいて)、系統1から解放されたXB、YB、B軸の制御を元の軸順番号に割り当て、軸の制御の返却(受け取り)を実行する。また、系統1は、例えば、上記したMコードの実行において、XB、YB、B軸の解放、系統3への割り当てだけでなく、デバイス93を用いた切替方式の取得指令を自装置の軸の制御に対しても実行し、自装置の軸順番号の1、2にXL、YL軸を割り当て、軸の制御の状態を元に戻しても良い。これにより、系統1、3は、図6の上の状態に戻ることとなる。尚、軸の制御を戻す場合に、図7の識別番号方式を用いても良く、切替方式と識別番号方式を組み合わせても良く、トリガーとしてMコードではなくマクロ変数を用いても良い。即ち、適宜、返却方法を変更しても良い。
【0051】
また、軸の制御を返却する方法は、上記したPLC82から通知する方法に限らない。例えば、系統3のNCプログラム88CがPLC82を監視しても良い。系統3のNCプログラム88Cが、XB、YB、B軸を解放した後、特定のデバイス93(GデバイスやRデバイスなど)の値を監視する。系統3のNCプログラム88Cは、このデバイス93の値がゼロである間はXB軸等の制御を取得せず、値が1に変更されると軸の制御を取得する。系統3のNCプログラム88Cは、例えば、図8の使用例(3)と同様に、XB、YB、B軸を対象に、軸順番号を1、2、3とし、系統3を指定してG536.3=1とするMコードを実行する。この方法でも、系統1から系統3へXB、YB、B軸の制御を返却できる。
【0052】
上記したように、数値制御装置81は、左側スライド装置18Lを数値制御する系統1のNCプログラム88A(本開示のタレット用NCプログラムの一例)を実行して左側スライド装置18Lを制御する。また、数値制御装置81は、工具主軸用スライド装置28を数値制御する系統3のNCプログラム88C(本開示の工具主軸用NCプログラムの一例)を実行して工具主軸用スライド装置28を制御する。そして、数値制御装置81は、系統1のNCプログラム88Aの指令によってPLC82のデバイス93(Gデバイスなど)の値を変更する。PLC82は、ラダープログラム89の処理によってPLC82から系統3のNCプログラム88Cへ変更後のデバイス93の値に基づく信号を出力する。これにより、系統3が制御するXB、YB、B軸のうち、系統1で必要な軸の制御を解放させる。系統1や系統2から系統3へ指令を出して系統3の軸の制御を解放できる。ラダー処理によって軸の解放指令を伝達できる。尚、系統3の解放する軸は、XB、YB、B軸の少なくとも1つでも良い。また、系統3は、XB、YB、B軸以外の軸(Z軸など)を備えても良い。
【0053】
また、系統1、2は、系統3の動作状態に関わらず、軸の解放を指示できる。このため、系統3がXB、YB、B軸を使用中であるか否かを監視する機能を工作機械1が備えることが好ましい。具体的には、例えば、系統3のNCプログラム88Cは、自系統でXB、YB、B軸の少なくとも1つを使用している場合、解放指令のGデバイスの信号を入力しても、使用が完了するまでの間、軸の制御を解放しない。そして、NCプログラム88Cは、自系統でXB、YB、B軸の全てを使用していない場合、解放指令のGデバイスの信号に基づいて軸の制御を解放する。この場合、系統3のNCプログラム88Cが、XB、YB、B軸の使用状態を監視できる。あるいは、PLC82は、所定のデバイス93において系統3からXB、YB、B軸を使用中であるか否かの入力を受け付けても良い。例えば、所定のFデバイスの値が1であれば使用中を、ゼロであれば使用していないことを示すようにしても良い。そして、PLC82は、所定のFデバイスがゼロ(不使用状態)である場合のみ、軸の解放を指示するGデバイス等の値をNCプログラム88Cへ出力しても良い。
【0054】
また、系統1で使用するタレットスライド軸(XL、YL、Z軸)は、系統1のNCプログラム88Aにおいて、タレットスライド軸を識別する軸順番号(本開示のタレットスライド軸識別情報の一例)が設定されている。また、系統3で使用する工具主軸スライド軸(XB、YB、B軸)にも、系統3のNCプログラム88Cにおいて、工具主軸スライド軸を識別する軸順番号(本開示の工具主軸スライド軸識別情報の一例が)設定されている。数値制御装置81は、軸の制御を切り替える場合に、系統1で制御するタレットスライド軸のうち、軸順番号1,2(XL、YL)の軸を解放する。また、数値制御装置81は、系統3で制御する工具主軸スライド軸のうち、系統1が制御を解放した軸の軸順番号と軸方向が対応する(XLとXB、YLとYBの方向が対応する)軸順番号の工具主軸スライド軸を系統3の制御から解放する。数値制御装置81は、系統1、3の軸の制御を解放した後、系統1の制御から解放した軸に替えて、系統3の制御から解放した軸を、系統1のNCプログラム88Aの制御対象の軸として割り当てる。これにより、予め軸順番号と軸方向を対応付けておくことで、軸方向が対応する軸順番号同士を入れ替えることができる。尚、軸方向が対応するとは、互いに平行な軸に限らず、XLとXB、YLとYBのように3軸方向を考えた場合に、概ね方向が対応する軸や、軸を識別する文字として同じアルファベットが付与されていることをいう。
【0055】
また、数値制御装置81は、左側主軸装置12Lに保持されたワークWを工具主軸装置55で加工する場合に、PLC82のデバイス93の値を変更し、左側スライド装置18LのXL、YL軸(本開示の第1タレットスライド軸の一例)の制御とXB、YB軸の制御を入れ替える。数値制御装置81(系統1のNCプログラム88A)は、入れ替えた後、XB、YB軸に基づいて工具主軸用スライド装置28を制御し工具主軸装置55をXB、YB、B軸に沿って移動させ、左側主軸装置12Lに保持されたワークWを工具主軸装置55で加工する。これによれば、対向2軸の主軸装置(左側及び右側加工装置11L,11R)と、その中央に工具主軸装置55を備える複合加工機53において、左側及び右側加工装置11L,11Rの各々と工具主軸装置55との間で軸の受け渡しを実行し、工具主軸装置55を各主軸装置で使用できる。工具主軸装置55を共用して使用できるため、装置の小型化が図れる。また、このような複合加工機53において、主軸装置側から工具主軸装置55へ軸の解放や取得を行うことができる。
【0056】
ここで、上記したデバイス93を用いた軸の受け渡しでは、系統1、2は、自系統で必要なタイミングで系統3に軸の制御を要求できる。このため、系統1がXB、YB、B軸の制御を取得している状態で系統2が系統3へXB、YB、B軸の制御を要求する可能性がある。この場合、系統1が取得している状態で系統2が要求すると、例えば、Gデバイス(G536.2やG536.3)の値を変更して実行した場合に、系統3の軸を解放できない、又は取得できない状態となる。例えば、PLC82は、系統1や系統2からMコードを介してFデバイスに書き込まれた値を、系統3に出力するためのGデバイスに設定するラダープログラム89(ラダー回路)において、系統3が軸を解放しているか否かを判断するプログラムが設定されている。PLC82は、系統1がXB、YB、B軸の制御を取得している状態で系統2から系統3のXB、YB、B軸の制御を要求された場合、上記したプログラムにより系統3の軸が解放されていると判断し、系統2の要求に応答しない。PLC82は、系統1からXB、YB、B軸の制御が解放されるまでの間、例えば、系統2の要求処理を一時的に待機させる。その結果、系統2は、軸の制御を取得する処理を待つ状態となる。系統1、2は、互いに使用していない場合、且つ、系統3が使用していない場合に、系統3の軸の制御を取得できる。系統1、2は、例えば、ループ処理により所定時間ごとに繰り返し解放や取得処理を繰り返すことで、上記した条件が成立するまで一時的に待機し、条件が成立した後に軸の制御を取得して工具主軸装置55による加工を開始する。尚、PLC82は、系統1がXB、YB、B軸の制御を取得している状態で系統2からXB、YB、B軸の制御を要求された場合、エラーを系統2に応答しても良い。
【0057】
従って、本実施例の系統1、2、3のNCプログラム88は、左側スライド装置18L、右側スライド装置18R、工具主軸用スライド装置28をそれぞれ制御する。例えば、系統1が、XB,YB、B軸を使用中である場合、系統2は、系統1がXB,YB、B軸を解放(系統3に返却)するまで、NCプログラム88Bによる処理を待機させる。これにより、系統1、2において軸の制御の取得が重複した場合に、一方の系統を一時的に待機させ、他方の系統が解放した後に、待機させていた系統の軸の取得や加工を開始できる。
【0058】
因みに、上記実施例において、左側及び右側主軸装置12L,12Rは、第1ワーク主軸装置、第2ワーク主軸装置の一例である。左側及び右側タレット装置13L,13Rは、タレット装置、第1タレット装置、第2タレット装置の一例である。XL、YL、XR、YRの各スライド軸は、タレットスライド軸、第1タレットスライド軸、第2タレットスライド軸の一例である。XB、YBの各スライド軸は、工具主軸スライド軸の一例である。左側及び右側スライド装置18L,18Rは、タレット用スライド装置、第1タレット用スライド装置、第2タレット用スライド装置の一例である。系統1、2のNCプログラム88A,88Bは、タレット用NCプログラム、第1タレット用NCプログラム、第2タレット用NCプログラムの一例である。系統3のNCプログラム88Cは、工具主軸用NCプログラムの一例である。
【0059】
以上、上記した本実施例によれば以下の効果を奏する。
本実施例の一態様の数値制御装置81は、左側及び右側タレット装置13L,13Rをスライド移動させるタレットスライド軸(XL、YL軸又はXR、YR軸)の制御と、工具主軸装置55をスライド移動させる工具主軸スライド軸(XB、YB軸)の制御を切り替える場合に、PLC82における所定のデバイス93(Gデバイスなど)の値を変更することでスライド軸の制御を入れ替える。これによれば、系統間で軸の制御を受け渡す場合、PLC82のGデバイス等の値を変更することで、PLC82経由で指示を送ることができる。制御対象の軸を切り替えたい場合に、例えば、系統1のNCプログラム88AにPLC82のデバイス93の値を変更するプログラム(Mコードやマクロ変数など)を追加するだけで、軸の制御の受け渡しが可能となる。その結果、系統3のNCプログラム88Cを編集することなく、系統1のNCプログラム88Aを編集するだけで軸の制御を受け渡すことができ、NCプログラム88の編集作業の負荷を軽減できる。使用者は、工具主軸装置55のNCプログラム88Cを編集する必要がなくなり、系統1、2だけを編集すれば、系統3から系統1や系統2への軸の取得等を行うことが可能となる。
【0060】
尚、本開示は上記の実施例に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内での種々の改良、変更が可能であることは言うまでもない。
例えば、上記実施例の工作機械1の構成は、一例である。工作機械1は、左側加工装置11L、及び右側加工装置11Rの一方のみを備える構成でも良い。
また、左側及び右側加工装置11L,11Rは、対向2軸の旋盤に限らず、平行2軸の旋盤でも良い。また、左側及び右側加工装置11L,11Rとしては、例えば、横型旋盤、正面旋盤、立型旋盤、マシニングセンタ、フライス盤、ボール盤など、様々な構成を採用できる。
また、本開示の制御を受け渡す対象の軸は、XL、YL、XB、YBなどのスライド軸に限らず、B、Cなどの回転軸でも良い。
【0061】
尚、本開示の範囲は、特許請求の範囲に記載された従属関係に限定されない。例えば、本明細書では、請求項4において「請求項1に記載の工作機械」を「請求項1~3の何れか1項に記載の工作機械」に変更した技術思想も開示されている。また、例えば、本明細書では、請求項5において「請求項1に記載の工作機械」を「請求項1~4の何れか1項に記載の工作機械」に変更した技術思想も開示されている。
【符号の説明】
【0062】
1 工作機械、12L,12R 左側及び右側主軸装置(第1ワーク主軸装置、第2ワーク主軸装置)、13L,13R 左側及び右側タレット装置(タレット装置、第1タレット装置、第2タレット装置)、18L,18R 左側及び右側スライド装置(タレット用スライド装置、第1タレット用スライド装置、第2タレット用スライド装置)、28 工具主軸用スライド装置、55 工具主軸装置、81 数値制御装置、82 PLC、88A,88B NCプログラム(タレット用NCプログラム、第1タレット用NCプログラム、第2タレット用NCプログラム)、88C NCプログラム(工具主軸用NCプログラム)、89 ラダープログラム、W ワーク。
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