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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100492
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】マイクロ波照射装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/72 20060101AFI20240719BHJP
   H05B 6/64 20060101ALI20240719BHJP
   F24C 7/02 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
H05B6/72 C
H05B6/64 G
F24C7/02 511D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004523
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 友樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 真司
【テーマコード(参考)】
3K090
3L086
【Fターム(参考)】
3K090AA01
3K090AB02
3K090BA01
3K090BA03
3K090DA18
3L086AA01
3L086BB04
3L086DA12
(57)【要約】
【課題】複数のアンテナを有するマイクロ波照射装置が適切に動作するようにする。
【解決手段】マイクロ波照射装置1は、被照射物90を保持位置で保持するように構成された保持具と、発振装置10と、発振装置10と導通するように構成された給電器具20と、給電器具20を介した導通による給電によってマイクロ波を指向性照射軸の方向へ照射するように構成された指向性のアンテナ40とを備える。アンテナ40は、保持位置を挟んで、保持位置の方向にマイクロ波を照射するように複数配置されている。マイクロ波照射装置1は、対向するアンテナ40から照射されるマイクロ波の偏波がそろわないように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被照射物を保持位置で保持するように構成された保持具と、
発振装置と、
前記発振装置と導通するように構成された給電器具と、
前記給電器具を介した導通による給電によってマイクロ波を指向性照射軸の方向へ照射するように構成された指向性のアンテナであって、前記保持位置を挟んで、前記保持位置の方向にマイクロ波を照射するように配置された複数のアンテナと
を備え、
対向する前記アンテナから照射されるマイクロ波の偏波がそろわないように構成されている、
マイクロ波照射装置。
【請求項2】
前記アンテナは、直線偏波を有するマイクロ波を照射するように構成されており、
前記対向するアンテナは、前記偏波がそろわないように、前記指向性照射軸に対する当該アンテナへの給電位置が互いに異なるように配置されている、請求項1に記載のマイクロ波照射装置。
【請求項3】
前記アンテナは、ループアンテナ又はマイクロストリップアンテナである、請求項2に記載のマイクロ波照射装置。
【請求項4】
前記複数のアンテナは、各々の前記指向性照射軸が一致するように配置されており、
前記対向するアンテナの前記給電位置は、前記指向性照射軸を回転軸として0度より大きく180度未満である角度を有するように配置されている、
請求項2に記載のマイクロ波照射装置。
【請求項5】
前記アンテナは、円偏波を有するマイクロ波を照射するように構成されている、請求項1に記載のマイクロ波照射装置。
【請求項6】
前記対向するアンテナは、前記偏波がそろわないように、給電に関する位相が互いに異なるように構成されている、請求項5に記載のマイクロ波照射装置。
【請求項7】
前記発振装置は、複数のマイクロ波発振ユニットを含み、
前記対向するアンテナは、互いに独立した前記マイクロ波発振ユニットに接続されている、
請求項1乃至6の何れかに記載のマイクロ波照射装置。
【請求項8】
前記対向するアンテナは、前記発振装置の一つのマイクロ波発振ユニットから分岐して並列に接続されている、請求項1乃至5の何れかに記載のマイクロ波照射装置。
【請求項9】
前記保持具は、前記被照射物を前記指向性照射軸に沿って搬送するように構成されている、請求項1に記載のマイクロ波照射装置。
【請求項10】
前記アンテナは、ループアンテナであり、
前記保持具は、前記被照射物を複数の前記ループアンテナの開口面を通過させるように構成されている、
請求項9に記載のマイクロ波照射装置。
【請求項11】
前記保持具は、前記被照射物を前記指向性照射軸と交差する方向に搬送するように構成されている、請求項1に記載のマイクロ波照射装置。
【請求項12】
前記保持具は、前記被照射物を水平又は鉛直に搬送するように構成されている、請求項1に記載のマイクロ波照射装置。
【請求項13】
給電器具を介した導通により発振器から指向性の複数のアンテナに給電し、複数の前記アンテナのそれぞれから指向性照射軸の方向へマイクロ波を放射させることを含むマイクロ波の照射方法であって、
前記指向性照射軸の方向に対向する前記アンテナから照射されるマイクロ波の偏波がそろわないように構成されている、
マイクロ波の照射方法。
【請求項14】
請求項13に記載のマイクロ波の照射方法によって被照射物に前記マイクロ波を照射して、前記被照射物を加熱することを含む、加熱方法。
【請求項15】
請求項14に記載の加熱方法によって、食品である前記被照射物を加熱することを含む、食品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、被照射物にマイクロ波を照射することで被照射物を誘電加熱する加熱装置が知られている。このような加熱装置において、様々な工夫がなされている。例えば特許文献1には、被加熱物の一部を部分的に加熱することができるマイクロ波加熱装置について開示されている。この加熱装置では、マイクロ波を放射するアンテナが、マイクロ波加熱装置の加熱室に2次元状に複数配置されており、非加熱物の一部を部分的に加熱することができる。そして、2次元的に配列されたアンテナにおいて、あるアンテナから放射されたマイクロ波の一部が隣のアンテナに入射して吸収されてしまうことを防ぐため、アンテナの放射電極の長手方向の向きは、隣り合うアンテナ同士で異なるように配置されている。このように、マイクロ波照射装置に複数のアンテナを設ける場合、マイクロ波照射装置の適切な動作のためには、あるアンテナに他のアンテナから放射されたマイクロ波が回り込むことを抑制することは有意義である。特許文献1に開示された2次元状に複数のアンテナを配置する方法では、斜め方向に隣接したアンテナ同士はアンテナの向きが同じであり、マイクロ波の回り込みを防ぐことができない。さらに、被加熱物の面積が大きいほど配置するアンテナの数を増やす必要があり、マイクロ波の回り込みも増加するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-133847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、複数のアンテナを有するマイクロ波照射装置が適切に動作することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、マイクロ波照射装置は、被照射物を保持位置で保持するように構成された保持具と、発振装置と、前記発振装置と導通するように構成された給電器具と、前記給電器具を介した導通による給電によってマイクロ波を指向性照射軸の方向へ照射するように構成された指向性のアンテナであって、前記保持位置を挟んで、前記保持位置の方向にマイクロ波を照射するように配置された複数のアンテナとを備え、対向する前記アンテナから照射されるマイクロ波の偏波がそろわないように構成されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、複数のアンテナを有するマイクロ波照射装置が適切に動作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第1の実施形態に係るマイクロ波照射装置の基本的な構成例の概略を模式的に示す図である。
図2A図2Aは、第1ループアンテナ、第2ループアンテナ及びベルトの位置関係を模式的に示す斜視図である。
図2B図2Bは、第2ループアンテナ側から第1ループアンテナ側を見た模式的に示す図である。
図3図3は、実験例1で各アンテナ角度θにおいて得られた対向するアンテナ間の伝搬率を示す図である。
図4図4は、実験例2で各アンテナ角度θにおいて得られた対向する各アンテナの反射損失を示す図である。
図5図5は、電磁界解析で各アンテナ角度θにおいて得られた対向する各アンテナの反射損失を示す図である。
図6図6は、電磁界解析で各アンテナ角度θにおいて得られた各アンテナ間の伝搬率を示す図である。
図7図7は、第2の実施形態に係るマイクロ波照射装置の基本的な構成例の概略を模式的に示す図である。
図8図8は、実験例3で各アンテナ角度θにおいて得られた対向する各アンテナの反射損失を示す図である。
図9図9は、第3の実施形態に係るマイクロ波照射装置の基本的な構成例の概略を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[第1の実施形態]
第1の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態は、マイクロ波照射装置及びそれを用いたマイクロ波照射方法に関する。本実施形態のマイクロ波照射装置は、被照射物に対してマイクロ波を照射して、被照射物を内部加熱するように構成されている。特に、このマイクロ波照射装置では、複数の指向性アンテナが用いられている。このマイクロ波照射装置では、複数のアンテナが、指向性アンテナから放射されるマイクロ波の主たる進行方向である指向性照射軸が被照射物に向くように、対向して設けられている。ここで、対向するアンテナから照射されるそれぞれのマイクロ波の偏波がそろわないように構成されている。被照射物は、これに限らないが、例えば食品である。したがって、このマイクロ波照射装置やそれを用いたマイクロ波の照射方法は、例えば包装食品を含む食品の製造に用いられ得る。
【0009】
〈マイクロ波照射装置の基本構成〉
図1は、本実施形態に係るマイクロ波照射装置1の基本的な構成例の概略を模式的に示す図である。マイクロ波照射装置1は、搬送装置85によって、搬送される被照射物90を次々と加熱するように構成されている。搬送装置85は、例えばベルトコンベアである。搬送装置85は、その長手方向に移動するベルト86を有する。被照射物90は、ベルト86の上の保持位置に置かれ、ベルト86の長手方向に搬送される。このように、本実施形態では、搬送装置85は、被照射物90を保持位置で保持する保持具として機能する。
【0010】
マイクロ波照射装置1は、搬送装置85によって搬送される被照射物90にマイクロ波を照射するように構成されたアンテナ40を備える。アンテナ40は、指向性のアンテナである。図1に示す例では、マイクロ波照射装置1は、アンテナ40として、2つのループアンテナ、すなわち、第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42を有する。ループアンテナの数は、適宜に変更され得る。
【0011】
第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42は、それぞれ例えば、照射するマイクロ波の一波長分の長さを有して円環形状に形成された導線52を備える。導線52が形成する形状は、円環に限らず、四角形、三角形、非対称形など他の形の環状でもよい。導線52の両端は、給電点53となっている。給電点53には、給電器具20としての例えば同軸ケーブルが接続されている。同軸ケーブルは、発振装置10とループアンテナとを接続して導通させる。
【0012】
発振装置10は、第1発振ユニット11と第2発振ユニット12とを有する。第1発振ユニット11と第2発振ユニット12との各々は、マイクロ波の周波数に応じた高周波電力を出力する。その周波数は、これに限らないが、例えば、200MHz~500MHz、915MHz又は2.45GHzといったものである。
【0013】
第1発振ユニット11と第2発振ユニット12とは、それぞれ完全に独立した発振器であり得る。また、第1発振ユニット11と第2発振ユニット12とは、一つの筐体に収まっており、一つの発振装置10の一部であってもよい。第1発振ユニット11と第2発振ユニット12とは、発振源が同一でありアンプが異なる等、出力チャンネルが異なるものであってもよい。いずれの場合にも、第1ループアンテナ41と第2ループアンテナ42とは、それぞれ独立に給電される。
【0014】
第1ループアンテナ41には、第1同軸ケーブル21を介して、第1発振ユニット11からマイクロ波電力が給電される。第2ループアンテナ42には、第2同軸ケーブル22を介して、第2発振ユニット12からマイクロ波電力が給電される。給電されると、エレメントとしての導線52に電流が生じ、ループアンテナは電波を放射して電界を形成する。
【0015】
アンテナ40の位置関係について図2A及び図2Bを参照して説明する。図2Aは、第1ループアンテナ41、第2ループアンテナ42及びベルト86の位置関係を模式的に示す斜視図である。図2Bは、第2ループアンテナ42側から第1ループアンテナ41側を見た模式図である。
【0016】
円環形状のループアンテナ51では、導線52によって形成された開口面54がマイクロ波の照射面55となり、開口面54の中心がマイクロ波の照射源56となる。照射源56を通り、開口面54に垂直な方向に指向性照射軸57が形成され、指向性照射軸57に沿って両方向にマイクロ波が放射される。
【0017】
図1に示すように、マイクロ波照射装置1は、被照射物90が第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42の照射面55である開口面54を通り抜けて搬送されるように構成されている。このため、搬送装置85のベルト86は、第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42の開口面54を貫通するように設けられている。第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42の照射面55は、ベルト86の長手方向に対して垂直に配置されている。すなわち、第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42の指向性照射軸57は、ベルト86の長手方向と平行に配置されている。また、第1ループアンテナ41と第2ループアンテナ42とは、それらの指向性照射軸57が一致するように配置されている。すなわち、第1ループアンテナ41と第2ループアンテナ42とは、平行に、互いに対向するように配置されている。
【0018】
ループアンテナから放射されるマイクロ波は、直線偏波である。図2A及び図2Bに示すように、第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42から放射されるマイクロ波の電界の振動方向である偏波方向58は、指向性照射軸57に対して垂直な方向のうち、照射源56を通り給電点53と照射源56とを通る直線に対して垂直な面上の方向となる。
【0019】
本実施形態のマイクロ波照射装置1では、図2Bに示すように、第1ループアンテナ41と第2ループアンテナ42とは、指向性照射軸57を軸として、異なる角度に回転させられた位置関係を有するように配置されている。すなわち、指向性照射軸57に対して、第1ループアンテナ41の給電点53Aの方向と、第2ループアンテナ42の給電点53B方向とは、異なる。指向性照射軸57に対する給電位置が互いに異なるように配置されていることで、第1ループアンテナ41の偏波方向58Aと、第2ループアンテナ42の偏波方向58Bとは、異なっており、一致しない。
【0020】
図2Bに示すように、第1ループアンテナ41の給電点53と照射源56とを結ぶ線と、第2ループアンテナ42の給電点53と照射源56とを結ぶ線とを、指向性照射軸57に対して垂直な同一面に投影したときに、これら線がなす角をアンテナ角度θと称することにする。
【0021】
図1に戻って説明を続ける。マイクロ波照射装置1は、マイクロ波の遮蔽のため、金属筐体80を備える。すなわち、アンテナ40は、金属筐体80で覆われている。搬送装置85のベルト86は、金属筐体80を通り抜けている。より詳しくは、金属筐体80は、主筐体81を備える。アンテナ40は、主筐体81内に配置されている。主筐体81の両側面には、ベルト86が通り抜ける貫通孔が設けられている。この貫通孔のそれぞれには、ベルト86及びその上に置かれる被照射物90が通る大きさの側筐体82が接続されている。
【0022】
〈マイクロ波照射装置の動作の概要〉
本実施形態のマイクロ波照射装置1の動作について説明する。第1発振ユニット11から出力されたマイクロ波電力は、第1同軸ケーブル21を介して第1ループアンテナ41に供給される。第1ループアンテナ41は、この給電に基づいて、マイクロ波を放射する。また、第2発振ユニット12から出力されたマイクロ波電力は、第2同軸ケーブル22を介して第2ループアンテナ42に供給される。第2ループアンテナ42は、この給電に基づいて、マイクロ波を放射する。
【0023】
被照射物90は、搬送装置85によって第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42から放射されたマイクロ波が照射される加熱位置に次々と搬送される。このマイクロ波の照射によって、被照射物90は次々と誘電加熱される。被照射物90が加熱位置で停止するように搬送装置85が間歇的に動かされてもよいし、被照射物90が加熱位置を十分な時間をかけて通過するように搬送装置85が連続的に動かされてもよい。
【0024】
マイクロ波の出力中、第1発振ユニット11及び第2発振ユニット12は、反射波電力等を監視しながら、インピーダンス整合を行ったりする。
【0025】
なお、仮に、第1ループアンテナ41の給電点53Aと第2ループアンテナ42の給電点53Bとの位置が指向性照射軸57に対して同じ位置にある場合、すなわち、アンテナ角度θが0°である場合、次のようになるおそれがある。すなわち、この場合、第1ループアンテナ41の偏波方向58Aと第2ループアンテナ42の偏波方向58Bとが一致する。このとき、第1ループアンテナ41が、第2ループアンテナ42から放射されたマイクロ波を受信し、この信号が第1発振ユニット11に入り得る。すなわち、第2ループアンテナ42から放射されたマイクロ波が、第1発振ユニット11に回り込む。その結果、第1発振ユニット11は、反射波電力が非常に大きいと誤認識する可能性がある。このような場合、第1発振ユニット11は、安全のため、所定のプログラムに従って出力を自動停止するおそれがある。第2発振ユニット12についても同様である。
【0026】
これに対して、本実施形態のマイクロ波照射装置1では、第1ループアンテナ41の偏波方向58Aと第2ループアンテナ42の偏波方向58Bとが一致していないため、第1ループアンテナ41は、第2ループアンテナ42から放射されたマイクロ波を受信しにくいし、第2ループアンテナ42は、第1ループアンテナ41から放射されたマイクロ波を受信しにくい。すなわち、第1発振ユニット11及び第2発振ユニット12への回り込みが生じにくい。その結果、第1発振ユニット11及び第2発振ユニット12は、上述のような反射波が非常に大きいという誤認識をしなくなり、適切に動作するようになる。
【0027】
[実験例]
図1に示した構成の実験装置を用いて、いくつかの実験を行った。
【0028】
実験装置の主筐体81は、アルミニウム材で形成した。主筐体81の寸法は、ベルト86が延びる方向に沿う長さを666 mm、その方向に直交する幅を400 mm、高さを400 mmとした。主筐体81内を通るように、幅150 mmの樹脂製のベルト86を設けた。
【0029】
主筐体81内には、ベルト86が貫通するように、第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42を設けた。第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42は、それぞれアルミニウム材で形成し、その内径は258 mm、厚みは2 mmとした。第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42は、放射されるマイクロ波の指向性照射軸がベルト86の載置面に対して平行であるように、互いに対向するように配置した。第1ループアンテナ41と第2ループアンテナ42との間隔は、450 mmとした。
【0030】
ベルト86を移動させずに固定し、被照射物90としての食品を第1ループアンテナ41と第2ループアンテナ42との中間のベルト86上に置いた。被照射物90は、ポリプロピレン(PP)製のトレー(150×115×30 mm)にポテトサラダ140 gを充填したものとした。
【0031】
〈実験例1〉
第1ループアンテナ41に第1同軸ケーブル21を介してアナライザを接続し、第2ループアンテナ42に第2同軸ケーブル22を介して発振器を接続した。出力電力の周波数は450 MHzであり、3チャンネルを有する発振器を用いた。この発振器の最大出力電力は、150 W/chであり、許容反射電力は30 W/chである。
【0032】
第1ループアンテナ41と第2ループアンテナ42とを、それぞれ時計回りと反時計回りに同じ角度ずつ指向性照射軸57周りに回転させて、図2Bに示すアンテナ角度θを変更した。アンテナ角度θを0°から90°まで10°刻みで変更し、それぞれの場合について計測を行った。計測において、発振器の出力電力を100 Wとして第2ループアンテナ42に給電し、第2ループアンテナ42からマイクロ波を照射させた。このとき、第1ループアンテナ41で受信した電力を測定した。得られた値から下記式に基づいて、アンテナ間伝搬率を算出した。
アンテナ間の伝搬率[%]=(受信電力)/(発振器出力)×100
【0033】
各アンテナ角度θにおいて得られたアンテナ間の伝搬率を図3に示す。0°から90°まででは、アンテナ角度θが大きいほど、対向アンテナへの伝搬が減少することが明らかになった。すなわち、この範囲では、アンテナ角度θが大きいほど、装置やその動作に悪影響を与え得る対向アンテナへの回り込みが抑制され、好ましいことが明らかになった。また、他のアンテナに伝搬されるマイクロ波は、被照射物90の加熱に寄与しないので、伝搬率は小さい方が加熱効率はよい。したがって、アンテナ角度θが大きいほど、マイクロ波照射装置1の加熱効率はよいことが明らかになった。
【0034】
〈実験例2〉
実験例1の場合と同様に、アンテナ角度θを変更し、同じ発振器を用いて実験を行った。発振器の出力チャンネルの一つに第1同軸ケーブル21を介して第1ループアンテナ41を接続し、発振器の出力チャンネルの別の一つに第2同軸ケーブル22を介して第2ループアンテナ42を接続した。各出力チャンネルの出力電力を100 Wとして、第1ループアンテナ41と第2ループアンテナ42とに、それぞれ独立に同時に給電した。各アンテナ角度θにおいて、このときの各発振器の反射電力の値を取得した。この反射電力には、放射して戻ってきたエネルギーと、対向するアンテナから放射されて受信されたエネルギーとが含まれると考えられる。
【0035】
得られた反射電力から下記式に基づいて、反射損失を算出した。
反射損失[dB]=20log10((反射電力)1/2/(発振器出力)1/2
【0036】
各アンテナ角度θにおいて得られた反射損失を図4に示す。アンテナ角度θが20°未満のとき、発振器が、反射電力が許容量を超えたと判定して停止し、同時発振することができなかった。アンテナ角度θが20°以上90°のとき、発振器が同時発振可能となり、計測値が得られた。アンテナ角度θが20°以上では、概してアンテナ角度θが大きいほど、反射損失が小さくなった。アンテナ角度θが90°のとき、反射損失が最小となった。
【0037】
この実験と同様の条件で、数値シミュレーションによる電磁界解析を行った。解析結果を図5に示す。実験の場合と同様に、アンテナ角度θが0°から100°までは、アンテナ角度θが大きいほど、反射損失が小さくなった。アンテナ角度θが100°のとき、反射損失が最小になった。アンテナ角度θが100°から120°までは、アンテナ角度θが大きいほど、反射損失が大きくなった。
【0038】
第1ループアンテナ41と第2ループアンテナ42とは、互いに同様の構成を有している。電磁界解析結果では、各アンテナ角度θにおいて第1ループアンテナ41と第2ループアンテナ42とで同じ反射損失が得られた。上述の実験で、第1ループアンテナ41と第2ループアンテナ42とで反射損失が異なったのは、実験的な誤差であると考えられた。
【0039】
[解析例]
数値シミュレーションによる電磁界解析によって、指向性照射軸に沿って3個のループアンテナが配置されている場合の各アンテナ間の伝搬率について検討した。本解析においては、3個のアンテナ40を順に、アンテナ1、アンテナ2、アンテナ3と称することにする。解析では、水平に配置されたベルト86の上に被照射物90が配置されており、被照射物90の部分にアンテナ2が配置されており、アンテナ2の一方側にアンテナ1が配置されており、アンテナ2の他方側にアンテナ3が配置されている構成とした。
【0040】
解析条件及び解析結果を図6に示す。図6には上から、各アンテナの配置と、電磁界解析に用いたモデルの図と、解析の結果とを示す。各アンテナの配置については、鉛直上方向を0°とし、アンテナ1からアンテナ3方向をみて時計回りに見た角度を示す。解析結果は、上段に、アンテナ1とアンテナ2との間の、及び、アンテナ2とアンテナ3との間の、アンテナ角度θ及び伝搬率を示し、下段に、アンテナ1とアンテナ3との間のアンテナ角度θ及び伝搬率を示す。
【0041】
解析結果によれば、伝搬率は、アンテナ角度θが0°、60°、90°の順に小さくなることが明らかになった。なお、偏波方向58がなす角という点では、アンテナ角度θが0°のときと180°のときとは同一であり、アンテナ角度θが60°のときと120°のときとは同一である。伝搬率は小さい方が好ましい。
【0042】
アンテナ1とアンテナ2との間及びアンテナ2とアンテナ3との間と比較して、アンテナ1とアンテナ3との間は離れているので、伝搬率は低い。このことを考慮すると、例えばアンテナ1とアンテナ2とのように、特に隣接するアンテナ間のアンテナ角度θが一致していないことは、電波の回り込みの抑制に寄与することが明らかになった。電波の回り込みを抑制するためには、アンテナ角度θが90°であることが好ましいことが明らかになった。
【0043】
[第2の実施形態]
第2の実施形態について説明する。ここでは、第1の実施形態との相違点について説明し、同一の部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。第2の実施形態に係るマイクロ波照射装置2の構成例の概略を図7に示す。この図に示すように、本実施形態のマイクロ波照射装置2では、第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42は、一つの発振装置15の一つのマイクロ波の発振ユニットから並列かつ同相に給電される。このため、一つの発振ユニットに接続された同軸ケーブル25は、途中で分岐して、分岐したそれぞれの端が、第1ループアンテナ41と第2ループアンテナ42とに接続されている。一つの発振ユニットから並列かつ同相に給電されることで、一方のアンテナからの出力を他方のアンテナにおいて反射として誤認識されることがなくなる。
【0044】
ただし、一つの発振ユニットに接続された同軸ケーブル25には、第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42に供給する電流が流れるため、同軸ケーブル25への負荷は大きい。このため、第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42のそれぞれへ大電力を供給することは比較的困難になる。また、第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42に大電力を供給するための同軸ケーブル25の入手は比較的困難である。また、分岐部分の耐電力性についての検討が必要である。また、分岐部分から各アンテナまでのケーブル長がインピーダンス整合に影響を与えるので、この点の検討も必要である。
【0045】
第2の実施形態の装置構成によれば、第1ループアンテナ41と第2ループアンテナ42とから同条件でマイクロ波を放射させることできる。一方で、第1の実施形態のように、第1ループアンテナ41と第2ループアンテナ42とにそれぞれ第1発振ユニット11と第2発振ユニット12という異なる発振ユニットを用いることで、第1ループアンテナ41と第2ループアンテナ42とから異なる条件でマイクロ波を放射させることができる。
【0046】
[実験例]
〈実験例3〉
上述の実験例1及び2と同様の装置において、図7に示した構成のように同軸ケーブル25を介して第1ループアンテナ41及び第2ループアンテナ42に並列にネットワークアナライザを接続した。上述の実験例の場合と同様に、アンテナ角度θを変更し、各々の反射損失を計測した。
【0047】
計測結果を図8に示す。並列給電の場合でも、アンテナ角度θを大きくすることで、回り込みを減少させて反射損失を減少させる効果が得られることが明らかになった。
【0048】
[第3の実施形態]
第3の実施形態について説明する。ここでは、第1の実施形態との相違点について説明し、同一の部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。図9は、第3の実施形態に係るマイクロ波照射装置3の基本的な構成例の概略を模式的に示す図である。本実施形態では、アンテナ40は、搬送装置85のベルト86の両側に対向して設けられている。図9に示す例では、ベルト86を挟んで、3組のアンテナが設けられている。
【0049】
本構成では、第1の実施形態の構成のようにアンテナ40が開口している必要がないので、例えばパッチアンテナ(マイクロストリップアンテナ)のようなアンテナも用いられ得る。図9に示す例では、ベルト86を挟んで、第1パッチアンテナ61と第2パッチアンテナ62とが対向して設けられており、これらの下流に第3パッチアンテナ63と第4パッチアンテナ64とが対向して設けられており、これらの下流に第5パッチアンテナ65と第6パッチアンテナ66とが対向して設けられている。パッチアンテナではなく、ループアンテナが用いられてもよい。
【0050】
本実施形態においても、対向するアンテナから照射されるマイクロ波の偏波がそろわないように構成されている。アンテナがループアンテナである場合、対向するアンテナの指向性照射軸に対する給電位置が互いに異なるようにアンテナが設けられる。
【0051】
パッチアンテナは、直線偏波を有するマイクロ波を放射する構成と、円偏波を有するマイクロ波を放射する構成とがあり得る。パッチアンテナが直線偏波を放射する場合、その偏波方向は、給電点の位置に応じる。したがって、例えば、第1パッチアンテナ61と第2パッチアンテナ62のように、対向するアンテナについて、指向性照射軸に対する当該アンテナへの給電位置が互いに異なるようにこれらアンテナは配置される。
【0052】
パッチアンテナが円偏波を放射する場合、対向する2つのパッチアンテナは、一方が右旋円偏波を放射するように構成され、他方が左旋円偏波を放射するように構成される。例えば、アンテナに切込みを入れて円偏波を放射させる一点給電方式の場合、対向するアンテナについて、切込み位置が異なるようにアンテナは配置される。また、例えば、空間的に直交する二つの給電点で給電して円偏波を放射させる二点給電方式の場合、対向するアンテナについて、一方が右旋円偏波を放射して他方が左旋円偏波を放射するように、給電に関する位相が互いに異なるように調整される。
【0053】
上述の各実施形態では、アンテナ40にループアンテナ又はパッチアンテナが用いられる例を示したが、これに限らない。アンテナ40には、他の種類のアンテナが用いられてもよい。採用するアンテナの構造や給電方法に応じて偏波の特性は決まるので、マイクロ波照射装置は、対向するアンテナから照射されるマイクロ波の偏波がそろわないように構成されていれば、上述の効果が得られる。
【0054】
上述の各実施形態では、対向するアンテナが、それらの指向性照射軸が一致するように設けられる場合を例に挙げて説明したが、これに限らない。指向性照射軸が、平行であっても一致していない場合や、所定の角度を有している場合などであっても、アンテナ同士が対向しており、一方のアンテナが他方のアンテナから放射されたマイクロ波を受信する場合、上述の偏波がそろわないようにする構成により、上述の効果が得られる。
【0055】
上述の各実施形態では、被照射物90が水平方向に搬送される例を示したがこれに限らない。被照射物90は、鉛直方向に搬送されてもよいし、斜め方向に搬送されてもよい。
【0056】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0057】
1、2、3:マイクロ波照射装置
10:発振装置、11:第1発振ユニット、12:第2発振ユニット、15:発振装置
20:給電器具、21:第1同軸ケーブル、22:第2同軸ケーブル、25:同軸ケーブル
40:アンテナ、41:第1ループアンテナ、42:第2ループアンテナ
51:ループアンテナ、52:導線、53:給電点、54:開口面、55:照射面、56:照射源、57:指向性照射軸、58:偏波方向
61:第1パッチアンテナ、62:第2パッチアンテナ、63:第3パッチアンテナ、64:第4パッチアンテナ、65:第5パッチアンテナ、66:第6パッチアンテナ
80:金属筐体、81:主筐体、82:側筐体
85:搬送装置、86:ベルト
90:被照射物

図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9