(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100506
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】呼吸数測定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/08 20060101AFI20240719BHJP
A61B 5/113 20060101ALI20240719BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
A61B5/08
A61B5/113
A61B5/11 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004549
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】清水 厚輝
(72)【発明者】
【氏名】糸魚川 喜之
(72)【発明者】
【氏名】宗 修平
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038SS09
4C038SV01
4C038VA04
4C038VB33
(57)【要約】
【課題】呼吸による波形と呼吸以外の動作による波形とを含む波形データに基づいて、簡単な処理によって短時間の安静状態から呼吸数を測定することができる、新規な呼吸数測定装置を提供する。
【解決手段】測定対象Pの呼吸数を測定する呼吸数測定装置10であって、測定対象Pの体動による入力を経時的に示す波形データを取得する波形取得部32と、波形取得部32が取得した波形データにおいて周期間の振幅及び波長のばらつきが小さい類似波形が予め設定された連続回数閾値以上に連続することをもって類似波形を呼吸波形と判定する呼吸波形判定部42と、呼吸波形の波長に基づいて単位時間当たりの呼吸数を算出する呼吸数算出部44とを、備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の体動による入力を経時的に示す波形データを取得する波形取得部と、
該波形取得部が取得した該波形データにおいて周期間の振幅及び波長のばらつきが小さい類似波形が予め設定された連続回数閾値以上に連続することをもって該類似波形を呼吸波形と判定する呼吸波形判定部と、
該呼吸波形の波長に基づいて単位時間当たりの呼吸数を算出する呼吸数算出部と
を、備える呼吸数測定装置。
【請求項2】
前記連続回数閾値は3以上に設定されている請求項1に記載の呼吸数測定装置。
【請求項3】
前記連続回数閾値は10以下に設定されている請求項1又は2に記載の呼吸数測定装置。
【請求項4】
前記波形データにおいて前記類似波形であるか否かを前記呼吸波形判定部によって判定される判定波形の振幅のばらつきの判定閾値が、基準となる該判定波形の振幅に対して50%以下の範囲内で設定されており、且つ、該判定波形の波長のばらつきの判定閾値が、基準となる該判定波形の波長に対して50%以下の範囲内で設定されている請求項1又は2に記載の呼吸数測定装置。
【請求項5】
前記呼吸波形判定部による前記類似波形であるか否かの判定における振幅のばらつきの閾値が、前記波形取得部が取得する前記波形データに基づいて動的に変更設定される動的閾値とされている請求項1又は2に記載の呼吸数測定装置。
【請求項6】
前記呼吸波形判定部は、前記波形データにおいて時系列で隣り合う周期間で波形の振幅及び波長を比較して、それら波形の振幅及び波長のばらつきが小さいことをもってそれら波形を前記類似波形と判定する請求項1又は2に記載の呼吸数測定装置。
【請求項7】
前記呼吸波形判定部は、前記波形データにおいて選択された1周期の波形の振幅及び波長を他の周期の波形の振幅及び波長と比較して、それら波形の振幅及び波長のばらつきが小さいことをもってそれら波形を前記類似波形と判定する請求項1又は2に記載の呼吸数測定装置。
【請求項8】
前記呼吸波形判定部は、前記波形データにおいて選択された複数周期の波形の相互間で振幅及び波長を比較して、それら波形の振幅及び波長のばらつきが小さいことをもってそれら波形を前記類似波形と判定する請求項1又は2に記載の呼吸数測定装置。
【請求項9】
前記波形取得部は、前記測定対象の下方に敷かれて該測定対象の体動による作用面圧を検出する面圧センサの検出結果に基づいて前記波形データを取得する請求項1又は2に記載の呼吸数測定装置。
【請求項10】
前記面圧センサは、可撓性を有するシート状とされている請求項9に記載の呼吸数測定装置。
【請求項11】
前記呼吸数算出部が算出する乳児の単位時間当たりの呼吸数が予め設定された下限値未満となることで該乳児が無呼吸状態であると判定する乳児用無呼吸判定部を備えている請求項1又は2に記載の呼吸数測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、就寝時等に測定対象の呼吸数を測定する呼吸数測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、寝床において測定対象の呼吸数を呼吸に起因する体動に基づいて測定する呼吸数測定装置が、例えば特開2019-097829号公報(特許文献1)に開示されている。特許文献1では、体動による入力を検出するシート状の検出装置が寝床の上面に敷かれることにより、測定対象の呼吸に起因する体動によって検出装置に及ぼされる入力に基づいて呼吸数を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の呼吸数測定装置は、例えば測定対象が寝床の上で寝返りを打つなどして体を動かすと、検出装置には、呼吸による入力だけでなく、寝返り等の体動に基づく入力も作用することから、呼吸以外の体動に基づく入力がノイズとなって、呼吸数の測定を行うことができない。従って、特許文献1の特定装置が呼吸数の測定を行うためには、測定対象が寝床の上で静止している必要がある。
【0005】
しかしながら、例えば、長時間にわたって測定を継続する場合に、測定対象の体動は避けられないことから、呼吸による波形と、寝返り等の体動による波形とを、判別する必要がある。このような波形の判別は、測定担当者が検出装置に対する入力の波形を確認して行うことも可能ではあるが、特に長時間にわたる測定において現実的ではないことから、呼吸による波形と呼吸以外の体動を含む波形とを簡単且つ速やかに判別可能な呼吸数測定装置が求められていた。
【0006】
本発明の解決課題は、呼吸による波形と呼吸以外の動作による波形とを含む波形データに基づいて、簡単な処理によって短時間の安静状態から呼吸数を測定することができる、新規な呼吸数測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0008】
第一の態様は、呼吸数測定装置であって、測定対象の体動による入力を経時的に示す波形データを取得する波形取得部と、該波形取得部が取得した該波形データにおいて周期間の振幅及び波長のばらつきが小さい類似波形が予め設定された連続回数閾値以上に連続することをもって該類似波形を呼吸波形と判定する呼吸波形判定部と、該呼吸波形の波長に基づいて単位時間当たりの呼吸数を算出する呼吸数算出部とを、備えるものである。
【0009】
本態様に従う構造とされた呼吸数測定装置によれば、波形データにおいて振幅及び波長のばらつきが小さい類似波形が複数連続していることに基づいて、寝返り等の動作による入力の影響が小さい安静状態での呼吸波形を、寝返り等の動作による入力の影響が大きい他の波形に対して判別する。このように、連続波形において振幅及び波長のばらつきを判定する簡単な判定処理によって、呼吸以外の動作を含む体動による入力を測定した測定結果(波形データ)から安静状態での呼吸波形を安定して抽出することができて、呼吸波形の波長に基づいて単位時間当たりの呼吸数をより正確に算出することができる。
【0010】
連続する類似波形が呼吸波形か否かを判定するための連続回数閾値は、複数であれば数値が限定されるものではなく、数値が大きくなるに従って呼吸以外の動作の影響が大きい波形を高い確率で排除可能となるが、連続回数閾値を例えば3~6等の比較的に小さい数値に設定しても有効な判定精度が実現されることが確認されている。従って、例えば、呼吸以外の動作が多い測定対象で、呼吸以外の動作が波形に影響し難い安静状態が短時間しか持続しない場合であっても、波形データから呼吸波形を有効に得ることができて、呼吸数の測定を行うことができる。
【0011】
第二の態様は、第一の態様に記載された呼吸数測定装置において、前記連続回数閾値は3以上に設定されているものである。
【0012】
本態様に従う構造とされた呼吸数測定装置によれば、呼吸以外の動作による入力の影響の大きい波形が呼吸波形であると誤判定され難くなって、呼吸波形の判定精度の向上が図られることから、呼吸数をより精度よく測定することができる。
【0013】
第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された呼吸数測定装置において、前記連続回数閾値は10以下に設定されているものである。
【0014】
本態様に従う構造とされた呼吸数測定装置によれば、波形データから呼吸波形を取得できない場合が少なくなって、呼吸数の安定した測定が可能になる。
【0015】
第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載された呼吸数測定装置において、前記波形データにおいて前記類似波形であるか否かを前記呼吸波形判定部によって判定される判定波形の振幅のばらつきの判定閾値が、基準となる該判定波形の振幅に対して50%以下の範囲内で設定されており、且つ、該判定波形の波長のばらつきの判定閾値が、基準となる該判定波形の波長に対して50%以下の範囲内で設定されているものである。
【0016】
本態様に従う構造とされた呼吸数測定装置によれば、判定波形が類似波形か否かの判定に用いられる振幅と波長のばらつきの判定閾値が、基準となる判定波形の50%以下の範囲内で設定されることにより、呼吸以外の影響が大きい呼吸波形以外の波形に対して呼吸波形を有効に判別することができる。
【0017】
なお、呼吸波形判定部が類似波形の判定に用いる振幅及び波長のばらつきの判定閾値は、好適には、基準となる判定波形の振幅及び波長に対して10%~50%の範囲内で設定される。これにより、呼吸以外の影響が大きく振幅及び波長の変化が大きい波形に対して、呼吸波形をより有効に判別することができる。また、呼吸以外の動作の影響が小さい呼吸波形と判定されるべき波形が、過度に小さな判定閾値によって誤って呼吸波形ではないと判定されるのを防いで、波形データから呼吸波形をより精度よく抽出することができる。
【0018】
第五の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載された呼吸数測定装置において、前記呼吸波形判定部による前記類似波形であるか否かの判定における振幅のばらつきの閾値が、前記波形取得部が取得する前記波形データに基づいて動的に変更設定される動的閾値とされているものである。
【0019】
本態様に従う構造とされた呼吸数測定装置によれば、例えば、複数の波形が類似波形であるか否かを判定するための閾値が、測定結果である波形データに基づいて動的に変更設定されることから、呼吸波形を判定するための閾値が一定の値である場合に比して、測定対象の個別の特性に応じた閾値が設定されて、呼吸波形の判定精度の向上が図られ得る。
【0020】
第六の態様は、第一~第五の何れか1つの態様に記載された呼吸数測定装置において、前記呼吸波形判定部は、前記波形データにおいて時系列で隣り合う周期間で波形の振幅及び波長を比較して、それら波形の振幅及び波長のばらつきが小さいことをもってそれら波形を前記類似波形と判定するものである。
【0021】
本態様に従う構造とされた呼吸数測定装置によれば、時系列的に隣り合う周期間での振幅及び波長を比較して呼吸波形か否かを判定することから、例えばチェーンストークス呼吸のように振幅が徐々に変化したり、新生児のように波長が徐々に変化する特殊な呼吸態様であっても、何れも類似波形と判定され得る。それゆえ、上述のような特殊な呼吸の波形も、呼吸波形と判定されて呼吸数の測定に採用される可能性がある。また、時系列で隣り合う波形間に振幅及び波長の急激な変化がない場合に類似波形と判定されることから、類似波形と判定され易く、例えば測定時間が短く波形データが少ない場合にも比較的に呼吸波形を得易い。
【0022】
第七の態様は、第一~第五の何れか1つの態様に記載された呼吸数測定装置において、前記呼吸波形判定部は、前記波形データにおいて選択された1周期の波形の振幅及び波長を他の周期の波形の振幅及び波長と比較して、それら波形の振幅及び波長のばらつきが小さいことをもってそれら波形を前記類似波形と判定するものである。
【0023】
本態様に従う構造とされた呼吸数測定装置によれば、波形データにおいて選択された1周期の波形を振幅及び波長のばらつきの判定基準とすることで、類似波形の判定処理が簡単になると共に、判定精度の向上が図られ得る。
【0024】
第八の態様は、第一~第五の何れか1つの態様に記載された呼吸数測定装置において、前記呼吸波形判定部は、前記波形データにおいて選択された複数周期の波形の相互間で振幅及び波長を比較して、それら波形の振幅及び波長のばらつきが小さいことをもってそれら波形を前記類似波形と判定するものである。
【0025】
本態様に従う構造とされた呼吸数測定装置によれば、波形データから選択された複数周期の波形について、振幅及び波長を2周期ずつ全ての組み合わせで比較することによって、それら複数周期の波形が類似波形か否かが判定されることから、呼吸以外の動作の影響の大きい波形が呼吸波形であると誤判定され難く、呼吸波形を精度よく検出することができる。
【0026】
第九の態様は、第一~第八の何れか1つの態様に記載された呼吸数測定装置において、前記波形取得部は、前記測定対象の下方に敷かれて該測定対象の体動による作用面圧を検出する面圧センサの検出結果に基づいて前記波形データを取得するものである。
【0027】
本態様に従う構造とされた呼吸数測定装置によれば、測定対象の下方に敷かれる面圧センサによって呼吸を含む体動による入力を精度よく検出することができる。また、測定対象の体にセンサを取り付ける必要がなく、測定対象の負担を少なくすることができる。
【0028】
第十の態様は、第九の態様に記載された呼吸数測定装置において、前記面圧センサは、可撓性を有するシート状とされているものである。
【0029】
本態様に従う構造とされた呼吸数測定装置によれば、面圧センサが可撓性を有するシート状とされていることにより、測定対象が面圧センサに直接的又は間接的に触れても違和感が少なく、例えばベッドのマットレス上に面圧センサを敷く等しても寝心地に影響し難い。
【0030】
第十一の態様は、第一~第十の何れか1つの態様に記載された呼吸数測定装置において、前記呼吸数算出部が算出する乳児の単位時間当たりの呼吸数が予め設定された下限値未満となることで該乳児が無呼吸状態であると判定する乳児用無呼吸判定部を備えているものである。
【0031】
本態様に従う構造とされた呼吸数測定装置によれば、乳児の無呼吸状態を単位時間当たりの呼吸数に基づいて把握することで、乳児の無呼吸状態をより正確に把握して速やかに対応することが可能となる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、呼吸による波形と呼吸以外の動作による波形とを含む波形データに基づいて、簡単な処理によって短時間の安静状態から呼吸数を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の第一の実施形態としての呼吸数測定装置を使用状態で示す平面図
【
図3】
図1に示す呼吸数測定装置を構成する検出装置の斜視図
【
図4】
図3に示す検出装置を構成するセンサシートの断面を拡大して示す図であって、
図2のIV-IV断面に相当する図
【
図5】
図1に示す呼吸数測定装置によって取得される波形データの一例
【
図6】
図1に示す呼吸数測定装置における呼吸波形の判定について説明するモデル図
【
図7】
図1に示す呼吸数測定装置による呼吸数の測定結果において類似波形の連続回数ごとに分類した表
【
図8】
図6に示す呼吸波形の判定に動的閾値を採用する場合の処理について説明するフローチャート
【
図9】
図8に示す動的閾値を用いた呼吸波形の判定において動的閾値の測定時間に対する変化を示すグラフ
【
図10】固定閾値を用いた場合と動的閾値を用いた場合とのそれぞれについて呼吸の測定結果を示す表
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0035】
図1には、本発明の第一の実施形態としての呼吸数測定装置10が使用状態で示されている。呼吸数測定装置10は、
図2も示すように、測定対象Pの身体の体動(振動)が入力されて当該体動に応じた検出信号を出力する圧電型の面圧センサ12と、面圧センサ12から出力された検出信号を解析処理する処理装置14とを含んで構成されている。以下の説明において、原則として、上下方向とは、使用状態でセンサシート16の厚さ方向である鉛直上下方向となる
図1中の紙面直交方向を言う。
【0036】
面圧センサ12は、
図3にも示すように、センサシート16を備えている。センサシート16は、可撓性を有する柔軟な略矩形シート状とされており、本実施形態では細長い帯状とされている。センサシート16は、
図4に示すように、圧電層18と、圧電層18の感圧方向の両側面に重ね合わせ状態で配された一対の電極層20a,20bと、一対の保護層22a,22bとを備えている。
【0037】
圧電層18の材質としては、セラミックスや合成樹脂、ゴム弾性体(エラストマを含む)等が採用され得るが、本実施形態では、セラミックスや合成樹脂よりも比較的、体積抵抗率ρvの小さいゴム弾性体により構成されている。体積抵抗率が小さいとカットオフ周波数が、例えば呼吸に起因する振動周波数の下限の周波数よりも高周波側で、呼吸に起因する振動周波数帯における低周波側の周波数になってしまうことから、呼吸信号の一次周波数成分の検出に支障が出るおそれがある。このことから、ゴム弾性体の抵抗値を大きくして、カットオフ周波数を、例えば呼吸に起因する振動周波数の下限の周波数よりも低周波側とすることが望ましい。具体的には、圧電層18の体積抵抗率ρvは、109Ω・cm以上とされることが好適であり、1010Ω・cm以上とされることがより好適である。
【0038】
圧電層18として採用されるゴム弾性体は、限定されるものでないが、例えば架橋ゴム及び熱可塑性エラストマから選ばれる一種以上を用いることが好適であり、例えばウレタンゴム、シリコーンゴム、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H-NBR)、アクリルゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体、ブチルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンゴム等が挙げられる。また、官能基を導入する等して変性したエラストマを用いてもよい。変性エラストマとしては、例えばカルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基から選ばれる一つ以上を有する水素化ニトリルゴムが好ましい。
【0039】
また、圧電層18は、圧電粒子を含んでいる。圧電粒子は、圧電性を有する化合物の粒子である。圧電性を有する化合物としては、ペロブスカイト型の結晶構造を有する強誘電体が知られており、例えばチタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウムナトリウム、ニオブ酸カリウムナトリウムリチウム、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)、チタン酸ビスマスランタン(BLT)、タンタル酸ビスマスストロンチウム(SBT)のうちの一種類又は二種類以上の混合物が好適に採用され得る。
【0040】
電極層20a,20bは、圧電層18に追従して変形し得る柔軟性を有することが好ましい。このような電極層20a,20bは、例えばバインダーに導電材を配合した導電材料、導電性繊維等から形成することができる。バインダーとしては、上述の圧電層18を構成する架橋ゴム及び熱可塑性エラストマと同様の材質が採用され得る。
【0041】
また、電極層20a,20bに配合される導電材は、限定されるものではないが、例えば銀、金、銅、ニッケル、ロジウム、パラジウム、クロム、チタン、白金、鉄、及びこれらの合金等からなる金属粒子、酸化亜鉛、酸化チタン等からなる金属酸化物粒子、チタンカーボネート等からなる金属炭化物粒子、銀、金、銅、白金、及びニッケル等からなる金属ナノワイヤ、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、黒鉛、薄層黒鉛、グラフェン等の導電性炭素材料の中から適宜選択され得る。
【0042】
保護層22a,22bは、材質を限定されるものでないが、柔軟性に加えて電気絶縁性や耐久性、生体親和性を有することが望ましい。
【0043】
本実施形態では、圧電層18、電極層20a,20b、保護層22a,22bが何れも薄肉の矩形板状とされており、圧電層18の厚さ方向両側に電極層20a,20bが固着されていると共に、これら圧電層18及び電極層20a,20bの厚さ方向両側に保護層22a,22bが固着されている。これにより、圧電層18及び電極層20a,20bが外部に露出することなく、保護層22a,22bの内部に埋設されている。かかる構造をもって、センサシート16が薄肉の略矩形シート状として形成されている。
【0044】
そして、センサシート16の幅方向中央部分において、圧電層18と電極層20a,20bとが厚さ方向で重なる領域が、感圧部24とされており、当該感圧部24に荷重が及ぼされることにより電荷が発生するようになっている。なお、感圧部24は、全体に亘って一つの構造体とされていても良いし、面方向において複数の感圧部に分割されたセル構造体とされていても良い。
【0045】
制御装置26は、センサシート16の長手方向一方の端部に取り付けられたハウジング28を備えている。制御装置26は、
図2に示すように、計測回路30と、波形取得部としての波形データ生成回路32と、フィルタ34と、電源回路36とを、備えている。計測回路30と、波形データ生成回路32と、フィルタ34と、電源回路36は、例えば、電子基板上に実装されるチップ等によって構成されており、当該電子基板がハウジング28に収容されている。
【0046】
計測回路30は、センサシート16の電極層20a,20bと電気的に接続されている。そして、センサシート16に対する厚さ方向の圧縮力の作用時に、圧電層18において生じる電荷(圧電気)が電極層20a,20bによって計測回路30に伝達されて、当該電荷に対応する電圧の大きさが計測回路30によって計測される。計測回路30は、センサシート16において発生する電荷を電圧に変換するチャージアンプや、チャージアンプで変換された電圧出力をデジタル信号に変換するA/D変換部を備えている。また、計測回路30は信号増幅部を備えており、例えばセンサシート16において発生した電荷、チャージアンプにより変換された電圧、A/D変換部により変換されたデジタル信号等が適宜増幅され得る。
【0047】
波形データ生成回路32は、計測回路30によって計測された圧電気の大きさに基づいてセンサシート16に対する入力の大きさを算出し、入力の経時変化を示す波形データを生成する。波形データ生成回路32によって得られた波形データは、フィルタ34によって波形を整えられて、
図5に例示するような呼吸数の測定に用いられる波形データとされる。フィルタ34は、デジタルフィルタであって、例えば、波形データから高周波成分又は低周波成分を除去するローパスフィルタ又はハイパスフィルタ、特定の周波数成分を抽出するバンドパスフィルタ等とされる。
【0048】
計測回路30と波形データ生成回路32とフィルタ34は、電源回路36から電源を供給されることで作動する。電源回路36は、外部から供給された電源を適宜に制御して、それら計測回路30と波形データ生成回路32とフィルタ34とに作動電源を供給する。電源回路36は、後述する処理装置14を介して外部の電源装置40に接続されている。
【0049】
制御装置26は、外部配線38によって処理装置14に接続されている。処理装置14は、例えばデスクトップ又はラップトップであって、中央演算装置(CPU)やRAM、ROM、ディスプレイ等の表示部(46)、キーボード等の入力装置を含むハードウェア構成を備えている。処理装置14は、制御装置26と有線通信又は無線通信によって電気的に接続されており、制御装置26の波形データを受信可能とされている。また、処理装置14は、電源装置40に接続されており、本実施形態では電源装置40から供給された電源を制御装置26の電源回路36に供給する。処理装置14は、呼吸波形判定部42と、呼吸数算出部44と、表示部46とを、備えている。
【0050】
呼吸波形判定部42は、制御装置26の波形データ生成回路32から受信した波形データにおいて、呼吸以外の動作等の影響が小さい呼吸波形を抽出する、呼吸波形判定処理を実行する。
【0051】
すなわち、呼吸に起因する体動の波形は、経時的な変化が少なく安定しており、振幅と波長の急激な変化が少ない。一方、寝返り等の呼吸以外の動作を含む体動の波形は、経時的な変化が比較的に大きく、振幅と波長の急激な変化が生じ易い。そこで、本実施形態の呼吸波形判定部42は、波形データにおいて、振幅及び波長のばらつきが閾値よりも小さい波形(類似波形)が予め設定された連続回数閾値以上の周期数に亘って連続する
図6のような場合に、それら類似波形を呼吸波形と判定する。このような呼吸波形判定処理により、呼吸波形判定部42は、体動の波形データにおいて呼吸以外の動作の影響が小さい呼吸波形と呼吸以外の動作の影響が大きい波形とを判別して、呼吸波形だけを抽出することができる。そして、呼吸波形判定部42は、波形データから呼吸波形を抽出して記憶し、抽出した呼吸波形のデータを呼吸波形データとして後述する呼吸数算出部44へ送信する。
【0052】
呼吸波形判定部42において、類似波形か否かの判定対象となる判定波形の振幅のばらつきの判定閾値は、基準となる判定波形の振幅の50%以下の範囲内で設定されており、判定波形の波長のばらつきの判定閾値は、基準となる判定波形の波長の50%以下の範囲内で設定されている。本実施形態では、呼吸波形判定部42において、判定波形の振幅のばらつきの判定閾値が基準となる判定波形の振幅の20%に設定されており、判定波形の波長のばらつきの判定閾値が基準となる判定波形の波長の20%に設定されている。従って、呼吸波形判定部42は、判定波形の振幅のばらつき(振幅の差)が、基準となる判定波形の振幅の20%以下であり、且つ判定波形の波長のばらつき(波長の差)が、基準となる判定波形の振幅の20%以下である場合に、当該判定波形が類似波形であると判定する。
【0053】
より具体的には、例えば、本実施形態の呼吸波形判定部42は、
図6に示す連続する3周期の波形からなる判定波形48において、時系列で隣り合う第1波形50の振幅A1と第2波形52の振幅A2との差及び第2波形52の振幅A2と第3波形54の振幅A3との差が、何れも基準となる判定波形48の振幅(例えば第1波形50の振幅A1)の20%以下の大きさであり、且つ第1波形50の波長λ1と第2波形52の波長λ2との差及び第2波形52の波長λ2と第3波形54の波長λ3との差が、何れも基準となる判定波形48の波長(例えば第1波形50の波長λ1)の20%以下の大きさである場合に、判定波形48を構成する第1~第3波形50,52,54が類似波形であると判定する。本実施形態において、第1波形50と第2波形52と第3波形54は、
図6中に一点鎖線で示した基準線Lを図中で下から上へ跨ぐ際の交点が境界となることから、何れも入力の最大値と最小値が明確で振幅を把握し易くなっている。
【0054】
もっとも、呼吸波形判定部42による判定波形の振幅及び波長のばらつきによる呼吸波形の判定は、必ずしも時系列で連続する2波形間の比較によってのみ行われるものではない。例えば、第1波形50の振幅A1及び波長λ1を基準として、第1波形50の振幅A1及び波長λ1と第2波形52の振幅A2及び波長λ2との差と、第1波形50の振幅A1及び波長λ1と第3波形54の振幅A3及び波長λ3との差とが、何れも基準となる判定波形48の振幅及び波長の20%以下の大きさであることをもって、呼吸波形判定部42が第1~第3波形50,52,54を類似波形と判定するようにしてもよい。これによれば、判定波形における振幅及び波長のばらつきの許容範囲が比較的に小さくなることから、呼吸以外の動作の影響が大きい波形をより確実に排除することができる。なお、振幅及び波長のばらつきの判定基準となる波形は、必ずしも時系列で最初の波形に限定されず、例えば中間の波形や最後の波形であってもよい。振幅及び波長のばらつきの判定基準は、例えば、判定波形における最初、最後、何番目等といった時系列上での位置を特定して基準波形を設定する他、頻出値、平均値、最大や最小を除く中間値等を基準とすることなども考えられる。
【0055】
また、例えば、第1波形50の振幅A1及び波長λ1と第2波形52の振幅A2及び波長λ2との差と、第1波形50の振幅A1及び波長λ1と第3波形54の振幅A3及び波長λ3との差と、第2波形52の振幅A2及び波長λ2と第3波形54の振幅A3及び波長λ3との差とが、何れも基準となる判定波形48の振幅及び波長の20%以下の大きさであることをもって、呼吸波形判定部42が第1~第3波形50,52,54を類似波形と判定するようにしてもよい。要するに、判定波形を構成する全ての波形間において振幅及び波長のばらつきを参照することもできる。これによれば、第1~第3波形50,52,54の振幅及び波長のばらつきがより小さい場合に呼吸波形と判定されることから、呼吸以外の動作の影響が大きい波形をより確実に排除することができる。
【0056】
呼吸波形判定部42が判定波形を呼吸波形であると判定する振幅及び波長のばらつきの判定閾値(振幅及び波長の呼吸判定閾値)は、基準となる判定波形の振幅及び波長に対して、好適には10~50%の範囲内で設定され、より好適には10~30%の範囲内で設定される。当該振幅及び波長の呼吸判定閾値は、数値が小さくなるほど判定波形間の振幅及び波長のばらつきが小さくなることから、呼吸以外の動作の影響が大きい波形を排除し易くなる。一方、振幅及び波長の呼吸判定閾値を大きな数値に設定すれば、短時間の測定で波形データの波形数が少ない場合にも呼吸波形を取得し易くなる。
【0057】
本実施形態の呼吸波形判定部42は、連続回数閾値が3に設定されており、波形データにおいて時系列で連続する3周期以上の波形が呼吸波形判定部42によって類似波形であると判定された場合に、それら類似波形を呼吸波形であると判定する。呼吸波形判定部42の呼吸波形判定処理において、呼吸波形と判定する類似波形の連続回数閾値は、2以上であれば特に限定されないが、3以上に設定されることが望ましい。また、呼吸波形と判定する類似波形の連続回数閾値は、10以下に設定されることが望ましく、より好適には6以下に設定される。なお、例えば、
図5に示す波形データでは、呼吸波形と判定される波形が測定時間中の2か所に存在している。
【0058】
呼吸波形判定部42による呼吸波形判定処理は、波形データ上の時間を進めながら繰り返し実行される。これにより、波形データの時系列の全体にわたって呼吸波形判定処理を実行することができると共に、4回以上にわたって連続する呼吸波形も得ることができる。なお、呼吸波形判定部42は、センサシート16への入力に対して呼吸波形判定処理をリアルタイムで実行してもよいし、所定の測定時間に亘って波形データを蓄積した後で蓄積された波形データに対して呼吸波形判定処理を実行してもよい。
【0059】
図7は、実測によって得た波形データに対して、時系列で隣り合う波形間の振幅及び波長の差が±20%の判定閾値内である場合に類似波形とみなす判定処理を行った結果を、類似波形の連続回数(連続周期数)ごとに分類して示した表である。
図7によれば、呼吸波形と判定される3周期以上に亘って連続して類似波形と判定された波形数は、測定された波形の総数1013波形中の466波形であり、547波形が呼吸波形ではない(類似波形の連続数が1又は2)と判定された。このように、振幅と波長の各判定閾値を基準となる判定波形に対して20%の大きさとして、振幅及び波長のばらつき(変化量)が判定閾値以下の類似波形が3周期以上に亘って連続する場合に呼吸波形と判定することにより、呼吸以外の動作の影響が大きい波形を十分に排除しながら、呼吸波形を安定して取得できることが、実測によって確認されている。
【0060】
呼吸波形判定部42によって波形データから抽出された呼吸波形データは、呼吸数算出部44へ送信される。呼吸数算出部44は、1呼吸に要する時間を示す呼吸波形の波長に基づいて単位時間当たりの呼吸数を算出する。具体的には、例えば、呼吸波形の一波長が2秒であれば、一分間の呼吸数は30回と推定される。
【0061】
本実施形態の処理装置14は、ディスプレイ等の表示部46を備えている。そして、表示部46は、波形データ生成回路32が生成した波形データのグラフ、呼吸波形判定部42の判定結果、呼吸数算出部44が算出した呼吸数等を表示可能とされている。
【0062】
本実施形態の処理装置14は、乳児用無呼吸判定部56を備えている。乳児用無呼吸判定部56は、呼吸数測定装置10が乳児の呼吸数を測定する場合において、呼吸数算出部44が算出した単位時間当たりの呼吸数が、予め設定された下限値未満となった場合に、乳児が無呼吸状態であると判定する。具体的には、例えば、乳児の呼吸数の測定時に、呼吸数算出部44が算出した1分間の呼吸数が20回未満となった場合に、乳児用無呼吸判定部56は測定対象Pである乳児が無呼吸状態であると判定する。
【0063】
乳児用無呼吸判定部56は、乳児の無呼吸状態が所定の時間を越えて連続する場合に、処理装置14のアラート部58を制御して、警告音の発音や警告灯の点灯、医療従事者への通知メールの送信等の報知手段を実行する。なお、アラート部58による警報の種類は、周囲の人や離れた場所にいる医療従事者等に無呼吸状態であることが伝わるものであれば、特に限定されない。また、乳児の無呼吸状態の警報手段として、乳児用無呼吸判定部56は、例えば、表示部46に制御信号を送信して、表示部46に警告表示をするようにもできる。
【0064】
なお、処理装置14は、呼吸波形の判定や呼吸数の算出などの処理を行う演算装置(CPU等)だけでなく、受信データ、判定や算出の結果等を記憶する記憶装置(ハードディスク等)を備えており、呼吸波形判定部42と呼吸数算出部44と乳児用無呼吸判定部56は、それら演算装置と記憶装置の組み合わせによって構成され得る。
【0065】
このような構造とされた呼吸数測定装置10は、例えば、
図1に示すように、面圧センサ12のセンサシート16がベッド60のマットレス上に重ね合わされて、ベッド60に横たわる測定対象Pの下方にセンサシート16が敷かれた状態で、測定対象Pの呼吸数の測定に使用される。長手帯状とされたセンサシート16は、好適には、ベッド60の横方向に延びるように配されて、測定対象Pの胸部付近に配置される。これにより、呼吸による測定対象Pの胸部の動きを検出し易くなる。例えば、長さを調節可能とされたベルトが面圧センサ12に設けられて、当該ベルトがベッド60のマットレスに巻き付けられることにより、面圧センサ12がベッド60(マットレス)に固定されて、センサシート16がマットレス上で位置決めされるようにしてもよい。
【0066】
センサシート16は、可撓性を有する柔軟なシート状とされていることから、測定対象Pの体表面の凹凸に沿って変形することで、測定対象Pに痛みや違和感を与え難い。また、測定対象Pの下方に敷設されることから、測定対象Pに取り付けられる場合に比して、測定対象Pの違和感が低減される。なお、センサシート16が重ね合わされたマットレスの上からシーツを被せることによって、測定対象Pがセンサシート16に直接接触しないようにしてもよい。
【0067】
そして、センサシート16が取り付けられたベッド60に横たわった測定対象Pは、呼吸を含む体動によって、センサシート16に対して厚さ方向の圧縮力を入力する。センサシートには、呼吸に起因する体動だけでなく、寝返り等の動作等に起因する体動も複合的に入力される。本実施形態に係る呼吸数測定装置10は、体動による入力の面圧センサ12による検出結果である波形データにおいて、呼吸に起因する波形の振幅及び波長が大きく変化せず安定していることに着目して、振幅及び波長が類似する類似波形が予め設定された連続回数閾値以上の周期にわたって連続する場合に、呼吸波形であると判定する。これにより、種々の体動が複合的に作用した状態の波形データにおいて、呼吸以外の動作による影響が小さい呼吸波形を精度よく抽出することができて、呼吸波形に基づいて呼吸数をより高い信頼性をもって算出することができる。
【0068】
本実施形態の呼吸波形判定部42は、振幅及び波長のばらつきが小さい類似波形が3回以上にわたって連続する場合に、呼吸波形と判定する。これにより、呼吸以外の動作による波形の振幅と波長が偶然類似することで、それら波形が誤って呼吸波形と判定され難くなって、呼吸波形の判定精度の向上が図られる。
【0069】
また、呼吸波形判定部42の呼吸波形判定処理に用いられる類似波形の連続回数閾値は、10以下に設定されることが望ましい。これにより、呼吸以外の動作の影響が小さい波形が、誤って呼吸波形ではないと判定され難くなって、波形データから呼吸波形を有効に得ることができる。特に本実施形態では、類似波形の連続回数閾値が3に設定されていることから、呼吸以外の動作の影響が大きい波形を呼吸波形から十分に排除しながら、数秒乃至は十数秒の短時間の安静状態で呼吸波形を取得することができる。それゆえ、成人の人間だけでなく、静止時間が短く呼吸以外の動作が多い乳児や幼児、或いは犬等の人間以外の哺乳動物の呼吸数も、有効に測定することができる。
【0070】
なお、呼吸波形判定部42が呼吸波形と判定する類似波形の連続回数は、多いほど要求される呼吸以外の動作の影響を排除し易くなり、少ないほど短時間で呼吸波形を得ることが可能になることから、必要な精度や測定の容易さ等を考慮して適宜に設定される。類似波形の連続回数は、好適には、上記のごとく3~10回の範囲内で設定され、より好適には、3~6回の範囲内で設定される。
【0071】
ところで、振幅と波長の各呼吸判定閾値は、上記のように特定の数値を予め固定的に設定する他に、波形データの計測結果に基づいて動的に設定することもできる。具体的には、例えば、
図8に示すフローチャートのように動的な呼吸判定閾値を用いた呼吸判定処理を行うこともできる。
【0072】
すなわち、
図8に示す呼吸判定処理では、少なくとも3つの波形を測定した後、ステップ(以下、S)1において自然数mを1に設定し、次に、S2において、m番目の波形である第m波形の振幅及び波長と、m+1番目の波形である第m+1波形の振幅及び波長との差を算出し、振幅の差が基準となる波形(例えば第m波形)の振幅の50%以下であり、且つ波長の差が基準となる波形(例えば第m波形)の波長の50%以下であるか否かを判定する。
【0073】
S2において、第m波形と第m+1波形の振幅の差と波長の差との少なくとも一方が、基準波形の振幅と波長の50%を超える大きさ(S2がNo)である場合には、S3でmに1を加えてからS2以降の処理を実行する。
【0074】
S2において第m波形と第m+1波形の振幅の差と波長の差が、何れも基準波形の振幅と波長の50%以下の大きさ(S2がYes)である場合には、S4において、m+1番目の波形である第m+1波形の振幅及び波長と、m+2番目の波形である第m+2波形の振幅及び波長との差を算出し、振幅の差が基準波形(例えば第m+1波形)の振幅の50%以下であり、且つ波長の差が基準波形(例えば第m+1波形)の波長の50%以下であるか否かを判定する。
【0075】
S4において、第m+1波形と第m+2波形の振幅の差と波長の差との少なくとも一方が、基準波形の振幅と波長の50%を超える大きさ(S4がNo)である場合には、S3でmに1を加えてからS2以降の処理を実行する。
【0076】
S4において、第m+1波形と第m+2波形の振幅の差と波長の差が、何れも基準波形の振幅と波長の50%以下の大きさ(S4がYes)である場合には、S5において、第m~第m+2波形からなる判定波形を類似波形が3周期に亘って連続する算出対象波形として記憶した後、S6において、予め設定されたデータ蓄積時間が経過したか否かの判定を実行する。S6において所定のデータ蓄積時間が経過していない(S6がNo)と判定された場合には、S3でmに1を加えてからS2以降の処理を実行する。
【0077】
S6において所定のデータ蓄積時間が経過した(S6がYes)と判定された場合には、S7において、S5で記憶した算出対象波形について、振幅の標準偏差σ1と波長の標準偏差σ2とをそれぞれ算出する。次に、S8において、σ1×100を振幅の呼吸判定閾値T1に設定し、σ2×100を波長の呼吸判定閾値T2に設定する。
【0078】
次に、S9とS11において、n番目の波形である第n波形と、n+1番目の波形である第n+1波形と、n+2番目の波形である第n+2波形とについて、呼吸波形判定処理を行う。即ち、S9では、第n波形と第n+1波形との振幅の差が、基準波形(例えば第n波形)の振幅のT1%以下の大きさであるか否かを判定すると共に、第n波形と第n+1波形との波長の差が、基準波形の波長のT2%以下の大きさであるか否かを判定する。なお、nは、任意の自然数であって、例えば、nの最小値を1とすれば測定波形の全体について呼吸判定を行うことができる。また、例えば、S8までの処理が終了した時点でのmの最大値に1を加えた数値をnの最小値とすれば、S8までの初期の動的閾値を設定する処理に用いた波形データを含むことなく、初期の動的閾値の設定が完了した後の波形データについてのみ呼吸判定を行うことができる。
【0079】
S9において、第n波形と第n+1波形の振幅の差が基準波形の振幅のT1%を超える大きさであるか、第n波形と第n+1波形の波長の差が基準波形の波長のT2%を超える大きさであるかの少なくとも一方(S9がNo)であれば、S10でnに1を加えてからS9以降の処理を実行する。
【0080】
S9において、第n波形と第n+1波形の振幅の差が基準波形の振幅のT1%以下の大きさであり、且つ第n波形と第n+1波形の波長の差が基準波形の波長のT2%以下の大きさ(S9がYes)であれば、S11において、第n+1波形と第n+2波形との振幅の差が基準波形(例えば第n+1波形)の振幅のT1%以下の大きさであるか否かを判定すると共に、第n+1波形と第n+2波形との波長の差が基準波形(例えば第n+1波形)の波長のT2%以下の大きさであるか否かを判定する。
【0081】
S11において、第n+1波形と第n+2波形の振幅の差が基準波形の振幅のT1%を超える大きさであるか、第n+1波形と第n+2波形の波長の差が基準波形の波長のT2%を超える大きさであるかの少なくとも一方(S11がNo)であれば、S10でnに1を加えてからS9以降の処理を実行する。
【0082】
S11において、第n+1波形と第n+2波形の振幅の差が基準波形の振幅のT1%以下の大きさであり、且つ第n+1波形と第n+2波形の波長の差が基準波形の波長のT2%以下の大きさ(S11がYes)であれば、時系列で連続する3周期の波形(第n~第n+2波形)のばらつきが小さいことから、S12において、第n~第n+2波形からなる判定波形を類似波形が3周期連続した呼吸波形として記憶する。
【0083】
次に、S13において、予め設定された測定時間を経過したか否かを判定する。S13において測定時間を経過した(S13がYes)と判定された場合には、呼吸波形判定処理を終了する。
【0084】
S13において測定時間を経過していない(S13がNo)と判定された場合には、S14において、S5で記憶した算出対象波形とS12で記憶した呼吸波形とについて、振幅の標準偏差σ1´と波長の標準偏差σ2´とをそれぞれ算出する。次に、S15において、σ1´×100を振幅の呼吸判定閾値T1に設定し、σ2´×100を波長の呼吸判定閾値T2に設定する。
【0085】
S15において呼吸判定閾値T1,T2を設定した後、S10でnに1を加えてからS9以降の処理を実行する。
【0086】
以上の処理によって、センサシート16によって検出された体動の波形データから呼吸以外の動作の影響が小さい安静時の呼吸波形を、動的な呼吸判定閾値に基づいて判別して取り出すことができる。
【0087】
なお、
図9に示すように、動的な呼吸判定閾値は、測定初期には数値の変動が大きく、測定時間が長くなって波形データの波形数が多くなるに従って数値が20%程度の収束値で安定する。具体的には、30分程度に亘って
図8の処理を行うことにより、動的閾値が20%程度で略一定となって安定する。それゆえ、例えば、S9以降の処理を開始してから所定の時間(例えば30分)が経過した後の波形データだけから呼吸波形を抽出すれば、呼吸以外の動作の影響が小さい呼吸波形をより精度よく抽出することができる。また、動的な呼吸判定閾値の収束値は、実際の測定結果から20%前後となることが確認されており、呼吸判定閾値を固定値とする場合に20%前後の値に設定すれば、呼吸数を精度よく測定することができる。なお、
図9において、(a)は測定対象Pが新生児の場合の動的な呼吸判定閾値の推移を示し、(b)は測定対象Pが成人の場合の動的な呼吸判定閾値の推移を示す。
【0088】
また、
図10に示すように、呼吸判定閾値を固定値(20%)とした場合と、呼吸判定閾値を動的に設定した場合との間には、平均呼吸時間やその標準偏差に大きな差がなく、何れの場合にも呼吸数を有効に測定することが可能であると考えられる。また、測定時間が長く測定される波形数が多い場合には、動的な呼吸判定閾値を採用することで、測定精度の更なる向上が期待できる。
【0089】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、体動による波形データを取得するためのセンサは、シート状の面圧センサに限定されない。また、シート状の面圧センサを採用する場合に、必ずしも長手帯状の形状に限定されず、正方形や円形などのシート状であってもよい。
【0090】
前記実施形態では、ベッド60に横たわった測定対象Pの呼吸数を測定する例を示したが、測定対象Pは、必ずしも測定時に臥位である必要はなく、座位や立位等の臥位以外の姿勢であってもよい。例えば、椅子の座面に面圧センサ12を敷いて、椅子に座った座位姿勢の測定対象Pの呼吸数を測定することもできる。なお、上記したように、測定対象Pは、
図1に例示したような成人の人間に限定されず、例えば、新生児を含む乳児や幼児などであってもよいし、犬や猫などの人間以外の哺乳動物であってもよい。
【0091】
前記実施形態では、面圧センサ12の制御装置26とは別に、面圧センサ12に接続される処理装置14が呼吸波形の判定処理や呼吸数の算出演算を行う例を示したが、面圧センサ12の制御装置26にそれら判定処理や演算処理を実行する機能を持たせることもできる。また、処理装置14が備えていた表示部46による情報表示機能や乳児用無呼吸判定部56による乳児の無呼吸判定機能、アラート部58による報知機能も、何れも面圧センサ12の制御装置26に設定することができる。なお、前記実施形態では、処理装置14を介して電源装置40から制御装置26へ電源が間接的に供給される構造を例示したが、例えば、制御装置26が外部配線38によって電源装置40に直接的に接続されるようにしてもよい。
【0092】
前記実施形態では、処理装置14の一例として、ラップトップ又はデスクトップを例示したが、例えば、処理装置としてスマートフォンやタブレット端末等のモバイルデバイスを採用することもできる。
【符号の説明】
【0093】
10 呼吸数測定装置(第一の実施形態)
12 面圧センサ
14 処理装置
16 センサシート
18 圧電層
20a,20b 電極層
22a,22b 保護層
24 感圧部
26 制御装置
28 ハウジング
30 計測回路
32 波形データ生成回路(波形取得部)
34 フィルタ
36 電源回路
38 外部配線
40 電源装置
42 呼吸波形判定部
44 呼吸数算出部
46 表示部
48 判定波形
50 第1波形
52 第2波形
54 第3波形
56 乳児用無呼吸判定部
58 アラート部
60 ベッド
P 測定対象