(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100514
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】液晶エラストマー
(51)【国際特許分類】
C08G 18/32 20060101AFI20240719BHJP
C08G 18/73 20060101ALI20240719BHJP
C08G 18/67 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C08G18/32 015
C08G18/73
C08G18/67 010
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004564
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早見 知花
【テーマコード(参考)】
4J034
【Fターム(参考)】
4J034BA06
4J034CA04
4J034CB03
4J034CC03
4J034CC08
4J034CC12
4J034CC23
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4J034QB19
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4J034RA19
(57)【要約】
【課題】大きな収縮率を有する液晶エラストマーを提供すること。
【解決手段】X線回折測定において、同じ方向に繰り返し出現する回折斑点が存在し、かつ、それらと中心位置とを結んだ2直線が成す角度が48°以下である液晶エラストマー。該液晶エラストマーは、例えば、少なくとも活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、活性水素基を有する光重合性基含有化合物とを反応させることにより、光架橋性液晶ポリウレタンを製造し、これを延伸した状態で特定波長の光を照射することにより製造することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折測定において、同じ方向に繰り返し出現する回折斑点が存在し、かつ、それらと中心位置とを結んだ2直線が成す角度が48°以下である液晶エラストマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶エラストマーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
分子構造内にメソゲン基を有する液晶ポリマーは、液晶(メソゲン基)の配向度の変化に伴って物性が変化する。このような性質に着目し、液晶ポリマーをエラストマーとして様々な用途で利用する試みがなされている。
【0003】
例えば、液晶ポリマーとして、ジイソシアネート成分と、高分子量ポリオール成分と、メソゲンジオールとの反応によって得られる液晶性ポリマーをマトリックスとして含む熱応答性材料がある(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の液晶性ポリマーをマトリックスとして含む熱応答性材料は、本出願人が開発したものであり、液晶性発現温度領域でゴム弾性を有するものである。この液晶ポリウレタンエラストマーは、従来の液晶ポリウレタンと比べて、液晶性発現温度を低下させたものである。かかる液晶ポリウレタンエラストマーは、液晶分子を一軸配向し、等方相-液晶相転移させると、収縮などの可逆変形を引き起こす。しかしながら、用途によってはより大きな収縮率が必要になる場合がある。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、大きな収縮率を有する液晶エラストマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は下記構成により達成し得る。すなわち本発明は、X線回折測定において、同じ方向に繰り返し出現する回折斑点が存在し、かつ、それらと中心位置とを結んだ2直線が成す角度が48°以下である液晶エラストマーに関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る液晶エラストマーは収縮率が向上している。このような効果が得られる理由は明らかではないが、例えば以下の理由が考えられる。
【0009】
本発明に係る液晶エラストマーは、ポリマー構造中に含まれる繰り返し構造の層の傾きが小さい状態、具体的にはX線回折測定により、同じ方向に繰り返し出現する回折斑点が存在し、かつ、それらと中心位置とを結んだ2直線が成す角度が48°以下となるように設計されているため、常温ではエントロピーが低い状態となっている。一方、加熱により液晶構造が溶融した際、エントロピーが高くなるように働くため、エントロピーの変化量が大きくなることで、本発明に係る液晶エラストマーの収縮率も大きくなると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る液晶エラストマーの2次元画像における同じ方向に繰り返し出現する回折斑点と、それらと中心位置とを結んだ2直線の一例である。
【
図2】本発明に係る液晶エラストマーの2次元画像における同じ方向に繰り返し出現する回折斑点と、回折角積分をする際の積分範囲とを示す一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る液晶エラストマーは、X線回折測定により得られる、同じ方向に繰り返し出現する回折斑点と中心位置とを結んだ2直線が成す角度(以下、単に「開き角」ともいう)が48°以下となるように設計されている。
【0012】
本発明においては、X線回折装置を使用し、液晶エラストマーに対し、入射角0°でX線を入射させ、検出器0°で撮像し、2次元画像を得る。ここで、本発明に係る液晶エラストマーのように、ポリマー構造中にラメラ構造が秩序高く存在すると、得られた2次元画像には同じ方向に繰り返し回折斑点が現れる。本発明では、2次元画像を回折角の強度プロフィールに変換することにより、開き角を算出可能である。この開き角が48°以下であると、常温ではエントロピーが低い状態となっている。一方、加熱により液晶構造が溶融した際、エントロピーが高くなるように働くため、エントロピーの変化量が大きくなることで、本発明に係る液晶エラストマーの収縮率も大きくなると考えられる。
【0013】
なお、前記開き角が48°以下となる液晶エラストマーは、例えば、少なくとも活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、活性水素基を有する光重合性基含有化合物とを反応させることにより、光架橋性液晶ポリウレタンを製造し、これを延伸した状態で特定波長の光を照射することにより製造することができる。以下に、光架橋性液晶ポリウレタン(液晶ポリウレタンエラストマー)の原料となる各成分について説明する。
【0014】
[メソゲン基含有化合物]
メソゲン基含有化合物としては、例えば、下記の一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【化1】
【0015】
上記一般式(1)において、Xは活性水素基であり、R1は隣接する結合基の一部をなす単結合、-N=N-、-CO-、-CO-O-、または-CH=N-であり、R2は隣接する結合基の一部をなす単結合、または-O-であり、R3は隣接する結合基の一部をなす単結合、または炭素数1~20のアルキレン基である。ただし、R2が-O-であり、且つR3が隣接する結合基の一部をなす単結合であるものを除く。)なお、「隣接する結合基の一部をなす単結合」とは、当該単結合が隣接する結合基の一部と共有されている状態を意味する。例えば、上記一般式(1)において、R1が隣接する結合基の一部をなす単結合である場合、単結合であるR1は両側のベンゼン環と共有された状態となり、当該両側のベンゼン環とともにビフェニル構造を形成する。Xとしては、例えば、OH、SH、NH2、COOH、二級アミンなどが挙げられる。メソゲン基含有化合物の配合量は、液晶ポリウレタンエラストマーを構成する原料中、20~80質量%、好ましくは40~70質量%となるように調整される。メソゲン基含有化合物の配合量が20質量%未満の場合、生成した液晶ポリウレタンエラストマーに液晶性が発現し難くなる。メソゲン基含有化合物の配合量が80質量%を超える場合、液晶相-等方相間の相転移温度(Ti)が高くなり、常温を含む低温領域で液晶ポリウレタンエラストマーを成形することが困難となる。
【0016】
メソゲン基含有化合物には、アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドを併用することが好ましい。アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドは、液晶ポリウレタンエラストマーにおける液晶相の発現温度を低下させるように機能するため、メソゲン基含有化合物にアルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドを併用して生成した液晶ポリウレタンエラストマーは、常温での実用性に優れた製品となり得る。アルキレンオキシドは、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、またはブチレンオキシドを使用することができる。上掲のアルキレンオキシドは、単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。スチレンオキシドについては、ベンゼン環にアルキル基、アルコキシ基、ハロゲンなどの置換基を有するものでもよい。アルキレンオキシドは、上掲のアルキレンオキシドと、上掲のスチレンオキシドとを混合したものを使用することも可能である。アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドの配合量は、メソゲン基含有化合物1モルに対して、アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドが1~10モル、好ましくは2~6モル付加されるように調整される。アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドの付加モル数が1モル未満の場合、液晶ポリウレタンエラストマーの液晶相が発現する温度範囲を十分に低下させることが困難となり、そのため、無溶媒で且つ液晶相が発現した状態で光架橋性液晶ポリウレタンを連続成形することが困難となる。アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドの付加モル数が10モルを超える場合、液晶ポリウレタンエラストマーの液晶相が発現し難くなる虞がある。
【0017】
[イソシアネート化合物]
イソシアネート化合物は、例えば下記に示すジイソシアネート化合物を使用することができる。ジイソシアネート化合物を例示すると、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-キシリレンジイソシアネート、およびm-キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;エチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、および1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;並びに1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’-ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、およびノルボルナンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネートなどが挙げられる。例示したジイソシアネート化合物は、単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。なお、本発明ではイソシアネート化合物として3官能以上のイソシアネート化合物を併用しても良いが、得られる光架橋性液晶ポリウレタンの熱可塑性を確保するため、使用するイソシアネート化合物の全量を100質量%としたとき、ジイソシアネート化合物の割合は98質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることがより好ましく、略100質量%であることがさらに好ましい。3官能以上のイソシアネート化合物を例示すると、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート、リジンエステルトリイソシアネート、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネート-4-イソシアネートメチルオクタン、ビシクロヘプタントリイソシアネートなどのトリイソシアネート、およびテトライソシアネートシランなどのテトライソシアネートが挙げられる。
【0018】
液晶ポリウレタンエラストマーを構成するメソゲン基含有化合物の全量を100質量部としたとき、イソシアネート化合物の割合は20~70質量部であることが好ましく、30~60質量部であることがより好ましい。イソシアネート化合物の配合量が20質量部未満である場合、ウレタン反応による高分子化が不十分となるため、液晶ポリウレタンエラストマーを連続成形することが困難となる。一方、イソシアネート化合物の割合が70質量部を超える場合、液晶ポリウレタンエラストマーの原材料全体に占めるメソゲン基含有化合物の配合量が相対的に少なくなるため、液晶ポリウレタンエラストマーの液晶性が低下する。
【0019】
なお、イソシアネート化合物が有するイソシアネート基は、メソゲン基含有化合物が有する水酸基などの活性水素基、および光重合性基含有化合物が有する水酸基などの活性水素基と反応し得る。メソゲン基含有化合物および光重合性基含有化合物が有する活性水素基の理論量に対するイソシアネート化合物が有するイソシアネート基の理論量であるNCO INDEX(NCO/OH)は、0.95~1.10であることが好ましく、1.00~1.05であることがより好ましい。
【0020】
[光重合性基含有化合物]
活性水素基を有する光重合性基含有化合物は、例えば、アクリロイル基含有化合物、メタクリロイル基含有化合物、アリル化合物を使用することができる。アクリロイル基含有化合物を例示すると、プロピレングリコールジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、エチレングリコールジグリシジルエーテルメタクリル酸付加物、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、グリセリンジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、ビスフェノールA PO2mol付加物ジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、β-カルボキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、2-アクリロイロキシエチル-コハク酸、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-アクリロイロキシエチル-フタル酸、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、2-アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどが挙げられる。メタクリロイル基含有化合物を例示すると、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、2-メタクリロイロキシエチルコハク酸、2-メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート、グリセリンジメタクリレート、ビスフェノールA PO2mol付加物ジグリシジルエーテルメタクリル酸付加物、ビスフェノールAジグリシジルエーテルメタクリル酸付加物、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、2-メタクリロイルオキシエチルサクシネートなどが挙げられる。アリル基含有化合物を例示すると、グリセリンモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテルなどが挙げられる。
【0021】
液晶ポリウレタンエラストマーを構成するメソゲン基含有化合物の全量を100質量部としたとき、光重合性基含有化合物の割合は0.1~10質量部であることが好ましく、0.3~7質量部であることがより好ましい。光重合性基含有化合物の割合が0.1質量部未満の場合、原材料に光照射を行っても十分に硬化しないため、生成した液晶ポリウレタンエラストマーは熱応答性を発現し難くなる。光重合性基含有化合物の割合が10質量部を超える場合、液晶ポリウレタンエラストマー中の架橋密度が高くなり過ぎるため、この場合も生成した液晶ポリウレタンエラストマーは熱応答性を発現し難くなる。
【0022】
[その他の原材料]
活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、活性水素基を有する光重合性基含有化合物とに加え、液晶ポリウレタンエラストマーの原材料として、活性水素基含有化合物を使用してもよい。活性水素基含有化合物としては、例えば、ポリオール化合物、アミン化合物が挙げられる。ポリオール化合物としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどが挙げられる。上掲の各活性水素基含有化合物は、単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。
【0023】
また、少なくとも活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、活性水素基を有する光重合性基含有化合物とを反応させる場合、当業者に公知のウレタン重合触媒を使用してもよい。かかる重合触媒としては、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトラ―2-エチルへキソキシド、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)などの有機チタン触媒、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネートなどの有機ジルコニウム触媒、ナフテン酸亜鉛などの有機亜鉛触媒、ジブチル錫ジラウレートやオクチル酸錫などの有機錫系触媒、トリエチレンジアミンおよびその誘導体、N-メチルモルホリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7(DBU)、ビス(N,N-ジメチルアミノ-2-エチル)エーテル、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテルなどの第3級アミン系触媒、酢酸カリウム、オクチル酸カリウムなどのカルボン酸金属塩触媒、イミダゾール系触媒などが挙げられる。これらの中でも、トリエチレンジアミンおよびその誘導体の使用が好ましい。
【0024】
少なくとも活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、活性水素基を有する光重合性基含有化合物との反応物を製造する際、光反応開始剤を配合することが好ましい。
【0025】
[光反応開始剤]
光反応開始剤は、例えば、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフォンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン/ベンゾフェノン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、オキシ-フェニル-アセチックアシッド2-[2-オキソ-2-フェニル-アセトキシ-エトキシ]-エチルエステル/オキシ-フェニル-アセチックアシッド2-[2-ヒドロキシ-エトキシ]-エチルエステル、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モリフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)フェニル-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、ヨードニウム,(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]-ヘキサフルオロフォスフェート(1-)/プロピレンカーボネート、トリアリールスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート、トリアリールスルフォニウムテトラキス-(ペンタフルオロフェニル)ボレート、オキシムスルホネート系光酸発生剤を使用することができる。光反応開始剤の割合は、光架橋性液晶ポリウレタンを構成するメソゲン基含有化合物の全量を100質量部としたとき、0.1~10質量部であることが好ましく、0.1~8質量部であることがより好ましい。光反応開始剤の配合量が0.1質量部未満の場合、光照射時に均一に重合反応が進行しないため、あるいは硬化が不十分となるため、生成した液晶ポリウレタンエラストマーは熱応答性を発現し難くなる。光反応開始剤の配合量が10質量部を超える場合、生成した液晶ポリウレタンエラストマー中のメソゲン基の含有量が減少するため、液晶相が発現し難くなる。光反応開始剤は、200~600nmに吸収波長を有するものが好ましい。光反応開始剤が上記範囲の吸収波長を有していれば、光架橋性液晶ポリウレタンまたはその原材料の透明度(可視光の透過率)が低いものであっても、光反応開始剤が光を吸収し、確実に光架橋反応を進行させることができる。
【0026】
液晶ポリウレタンエラストマーの前駆体(原料)となる光架橋性液晶ポリウレタンは、光反応開始剤の存在下、少なくとも活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、活性水素基を有する光重合性基含有化合物とを反応させることにより、製造することができる。反応させる際の反応条件としては、例えば光反応開始剤と共に、活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、活性水素基を有する光重合性基含有化合物とを押出成形機に投入し、例えば60~150℃に加熱した状態で加熱溶融しつつ、これらを反応させる方法が挙げられる。
【0027】
光架橋性液晶ポリウレタンおよび光反応開始剤を含む、加熱溶融された液晶ポリウレタンエラストマー用組成物は、冷却後、粉砕してペレット状に成形しておき、ペレット化した原材料を押出成形機を用いて所定の形状に成形した後、液晶相を発現する温度領域(すなわち、ガラス転移温度(Tg)以上かつ相転移温度(Ti)以下)で延伸しながら押出成形してもよい。あるいは、光反応開始剤存在下、活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、活性水素基を有する光重合性基含有化合物との反応物(光架橋性液晶ポリウレタン)をそのまま、液晶相を発現する温度領域(すなわち、ガラス転移温度(Tg)以上かつ相転移温度(Ti)以下の温度領域)で延伸しながら押出成形してもよい。この場合、メソゲン基含有化合物に含まれるメソゲン基が延伸方向に沿うように動くため、高度な配向性を有する光架橋性液晶ポリウレタンの成形体を製造することができる。
【0028】
前記で得られた、高度な配向性を有する光架橋性液晶ポリウレタンの成形体を適切な形状に成形して冷却し、延伸状態を保ったまま波長200~600nm光を照射すると、配向性を維持したまま原材料間で架橋反応が進行し、低温での液晶相の発現性と弾性とを兼ね備えた熱応答性を示す液晶ポリウレタンエラストマーが完成する。このようにして製造された液晶ポリウレタンエラストマーは、低温領域ではメソゲン基が延伸方向に配向しているが、加熱して相転移温度(Ti)を上回るとメソゲン基の配向が崩れて(不規則となって)延伸方向に収縮し、冷却して相転移温度(Ti)を下回るとメソゲン基の配向が復活して延伸方向に伸張するという特異的な熱応答性挙動を示す。特に本発明に係る液晶ポリウレタンエラストマーは、X線回折測定により得られる、同じ方向に繰り返し出現する回折斑点と中心位置とを結んだ2直線が成す角度が48°以下となるように設計されているため、大きな収縮率を有する。
【0029】
本発明に係る液晶エラストマーは、衣料製品(繊維)、アクチュエータ、フィルターなどの分野において利用できる可能性がある。
【実施例0030】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例などについて説明する。なお、実施例などにおける評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0031】
<開き角の算出方法>
液晶エラストマーの開き角、つまり同じ方向に繰り返し出現する回折斑点と中心位置とを結んだ2直線が成す角度の算出方法について説明する。
Bruker社製X線回折装置(DISCOVER D8)を用いて、広角X線回折像を撮像した。光源には管電圧50kV、管電流1000μAで発生させた波長1.5460ÅのCuKα線を用いた。続いて、試料について、カメラ長30cm、スリット径1.0mm、コリメータ直径0.5mm、透過測定(コリメータ、検出器ともに角度0°)にて10分間撮像した。ブルカー社製DIFFRAC.EVAを用い、試料の回折像について、2直線上の回折斑点がどちらも含まれるように、方位角315~45°、回折角4°~5.2°、ステップ幅0.1°で回折角積分し、強度プロフィールを得た。得られた強度プロフィールの方位角の値を0~90°に置き換え、強度プロフィールをピークフィッティングして、2つのピークの強度が最大となる回折角を抽出し、回折角が大きいものを回折角A、小さいものを回折角Bとし、下記式にて算出した。
開き角(°)=回折角A-回折角B
ピークフィッティングには、Igor社製 MultiPeakFittingを使用し、ベースライン関数はCubic、各ピークについては、ローレンツ関数にてフィッティング処理を行った。
【0032】
<収縮率>
液晶エラストマーについて、液晶相(20℃)および等方相(60℃)における配向方向の長さをスケールで測定し、収縮率を下記の式によって算出した。
収縮率=L2/L1
L1:20℃におけるサンプルの配向方向の長さ(mm)
L2:60℃におけるサンプルの配向方向の長さ(mm)
表1における収縮率は、比較例1で得られた液晶エラストマーの収縮率を100として指数評価した。指数が高いほど、高い収縮率を有することを意味する。
【0033】
(光架橋性液晶ポリウレタンおよび液晶ポリウレタンエラストマーの製造例)
実施例1
反応容器に、活性水素基を有するメソゲン基含有化合物として式(1)のR1が単結合であるBH6(500g)、水酸化カリウム(19g)、および溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミド(3000ml)を入れて混合し、さらに、アルキレンオキシドとしてプロピレンオキシドを1モルのBH6に対して5当量添加し、これらの混合物を、加圧条件下、120℃で2時間反応させた(付加反応)。次いで、反応容器にシュウ酸(15g)を添加して付加反応を停止させ、反応液中の不溶な塩を吸引ろ過によって除去し、さらに、反応液中のN,N-ジメチルホルムアミドを減圧蒸留法により除去することにより、メソゲンジオールAを得た。メソゲンジオールAの合成スキームを式(3)に示す。なお、式(3)中に示したメソゲンジオールAは代表的なものであり、種々の構造異性体を含み得る。
【0034】
【0035】
得られたメソゲンジオールA100質量部に対し、イソシアネート化合物として1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(三井化学社製)を27.5質量部、光重合性基含有化合物として2-ヒドロキシエチルアクリレート(共栄社化学社製)を2質量部、光反応開始剤として2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(TPO)(IGM resins社製)を0.1質量部、鎖延長剤としての1,4-ブタンジオールを2.00質量部混合し、光架橋性液晶ポリウレタンの原材料を調製した。この原材料を撹拌しながら80℃で加熱溶融し、メソゲンジオールAと、イソシアネート化合物と、光重合性基含有化合物と、1,4-ブタンジオールとを反応させることにより、光架橋性液晶ポリウレタンおよび光反応開始剤を含有する液晶ポリウレタンエラストマー用組成物を製造した。得られた製造物を冷却後、プラスチック粉砕機(品名:ZI-420、株式会社ホーライ製)で粉砕した。
【0036】
実施例2~3および比較例1
1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、1,4-ブタンジオールの配合量を表1に記載のものに変更した以外は、実施例1と同様に光架橋性液晶ポリウレタンおよび光反応開始剤を含有する液晶ポリウレタンエラストマー用組成物を製造した。
【0037】
(液晶ポリウレタンエラストマーの製造例)
実施例1~3および比較例1に係る液晶ポリウレタン用組成物の樹脂ペレットを、80~120℃に設定した単軸押出機(品名:SZW25GT-24MG-STD、株式会社テクノベル製)に投入し、厚み1.0mmの樹脂シートに成形した。この樹脂シートを15℃に設定した冷却ロールに通してガラス転移温度(Tg)以上且つ相転移温度(Ti)以下に冷却し、引取りロールで巻き取った。このとき、冷却ロールと引取りロールとの間に回転差を付けることにより、樹脂シートを1.5~10倍に延伸した。さらに、冷却ロールと引取りロールとの間に卓上型UV硬化装置(品名:アイminiグランテージ(ESC-1511U)、アイグラフィックス株式会社製)を設置し、延伸された樹脂シートに高圧水銀ランプまたはメタルハライドランプを光源とした光を照射し、光架橋(硬化)された液晶ポリウレタンエラストマーを得た。
【0038】
【0039】
比較例1で製造した、光架橋性液晶ポリウレタンを含有する液晶ポリウレタン用組成物を原料として製造された液晶ポリウレタンエラストマーに比して、実施例1~3で製造した、光架橋性液晶ポリマーを含有する液晶ポリウレタン用組成物を原料として製造された液晶ポリウレタンエラストマーは、開き角が小さく設計されていることに起因して、収縮率が飛躍的に向上していることがわかる。