(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100522
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】積層鉄心及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/18 20060101AFI20240719BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
H02K1/18 B
H02K15/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004581
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100166615
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田村 達二
【テーマコード(参考)】
5H601
5H615
【Fターム(参考)】
5H601AA08
5H601AA09
5H601EE19
5H601GA02
5H601GB05
5H601GB13
5H601GC02
5H601GC12
5H601GC32
5H601KK08
5H601KK21
5H601KK22
5H615AA01
5H615BB14
5H615PP06
5H615SS10
5H615SS16
5H615SS18
5H615SS24
5H615TT34
(57)【要約】
【課題】接着剤を硬化させるための別途の工程や設備を不要にすることが可能な積層鉄心を提供する。
【解決手段】鉄心片7を積層した積層鉄心片3と、隣接する鉄心片7間を接着した接着剤5を硬化させた硬化接着部5Aと、積層鉄心片3を積層方向に沿って溶接した溶接部15とを備え、溶接時の熱により接着剤5を硬化させて硬化接着部5Aを形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の環状の鉄心片を積層した積層鉄心片と、
前記積層鉄心片を積層方向に沿って溶接した溶接部と、
前記溶接の熱によって接着剤を硬化させる温度を有する前記積層鉄心片の硬化温度部の範囲内に形成され前記積層方向で隣接する鉄心片間を接着した前記接着剤が硬化した硬化接着部と、
を備えた積層鉄心。
【請求項2】
請求項1の積層鉄心であって、
前記硬化接着部は、前記接着剤の全部が硬化してなる、
積層鉄心。
【請求項3】
請求項1の積層鉄心であって、
前記硬化接着部は、前記溶接により前記積層鉄心片に組織変化を伴う熱影響部の外側に備えられる、
積層鉄心。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項の積層鉄心であって、
前記積層鉄心片は、周回形状のヨーク部にティース部を備え、
前記ヨーク部は、外周に前記積層方向に沿った前記溶接のための凹部を備え、
前記溶接部は、前記凹部に備えられ、
前記硬化接着部は、前記凹部の周方向の幅内且つ前記ヨーク部の外周から径方向の幅の中央までの範囲に配置された、
積層鉄心。
【請求項5】
請求項1~3の何れか一項の積層鉄心の製造方法であって、
前記積層方向で隣接する前記鉄心片間を前記接着剤で接着した積層鉄心片を形成し、
前記積層鉄心片を前記積層方向に沿って溶接して前記溶接部を形成すると共に前記溶接の熱によって前記硬化温度部の範囲内で前記接着剤を硬化させて前記硬化接着部を形成する、
積層鉄心の製造方法。
【請求項6】
請求項5の積層鉄心の製造方法であって、
前記溶接は、前記積層鉄心片を前記積層方向に加圧しながら行う、
積層鉄心の製造方法。
【請求項7】
請求項5の積層鉄心の製造方法であって、
前記硬化温度部の範囲内でのみ前記接着剤による接着を行う、
積層鉄心の製造方法。
【請求項8】
請求項5の積層鉄心の製造方法であって、
前記溶接により前記積層鉄心片に組織変化を伴う熱影響部の外側でのみ前記接着剤による前記接着を行う、
積層鉄心の製造方法。
【請求項9】
請求項5の積層鉄心の製造方法であって、
前記積層鉄心片は、周回形状のヨーク部の内周にティース部を備え、
前記ヨーク部は、外周に前記積層方向で前記溶接のための凹部を備え、
前記凹部の周方向の幅内且つ前記ヨーク部の外周から径方向の幅内の中央までの範囲で前記接着剤を塗布し、
前記溶接により前記凹部に前記溶接部を形成すると共に前記接着剤を硬化させる、
積層鉄心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モーター等に供される積層鉄心及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の積層鉄心としては、例えば特許文献1のように鉄心片間を溶接及び接着したものがある。
【0003】
この積層鉄心は、積層された複数の鉄心片と、積層方向で隣接する鉄心片のティース部間に設けられ硬化した接着剤からなる接着部と、鉄心片間を溶接する溶接部とを備えている。かかる積層鉄心では、磁気特性を劣化させることなく、固定強度を向上させることができるとされている。
【0004】
しかし、接着剤を硬化させるには別途の工程や設備が必要となり、製造が煩雑になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする問題点は、接着剤を硬化させるための別途の工程や設備が必要となり、製造が煩雑になる点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数の環状の鉄心片を積層した積層鉄心片と、前記積層鉄心片を積層方向に沿って溶接した溶接部と、前記溶接の熱によって接着剤を硬化させる温度を有する前記積層鉄心片の硬化温度部の範囲内に形成され前記積層方向で隣接する鉄心片間を接着した前記接着剤が硬化した硬化接着部と、を備えた積層鉄心を提供する。
【0008】
また、本発明は、前記積層方向で隣接する前記鉄心片間を前記接着剤で接着した積層鉄心片を形成し、前記積層鉄心片を前記積層方向に沿って溶接して前記溶接部を形成すると共に前記溶接の熱によって前記硬化温度部の範囲内で前記接着剤を硬化させて前記硬化接着部を形成する、積層鉄心の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、接着剤を硬化させる別途の工程や設備を不要にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施例に係る積層鉄心の平面図である。
【
図3】
図3は、
図1の溶接前の積層鉄心片の一部を拡大して示す平面図である。
【
図4】
図4は、
図1の積層鉄心の溶接部、硬化温度部、及び硬化接着部を示す概略平面図である。
【
図5】
図5は、
図1の積層鉄心の溶接部周辺を拡大して示す断面図である。
【
図6】
図6は、
図1の積層鉄心片の溶接を含めた積層鉄心の製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、接着剤を硬化させるための別途の工程や設備を不要にするという目的を、溶接の熱を利用して接着剤を硬化させることで実現した。
【0012】
図のように、積層鉄心1は、積層鉄心片3と、溶接部15と、硬化接着部5Aとを備えている。積層鉄心片3は、環状の鉄心片7を積層したものである。溶接部15は、積層鉄心片3を積層方向に沿って溶接することで形成される。硬化接着部5Aは、溶接の熱によって接着剤5を硬化させる温度を有する積層鉄心片3の硬化温度部Bの範囲内に形成され、積層方向で隣接する鉄心片7間を接着した接着剤5が硬化したものである。
【0013】
硬化接着部5Aは、接着剤5の一部又は全部が硬化したものからなるが、接着剤5の全部が硬化したものとするのが好ましい。
【0014】
硬化接着部5Aは、溶接により積層鉄心片3に組織変化を伴う熱影響部Cの外側に備えるのが好ましい。
【0015】
積層鉄心片3は、周回形状のヨーク部9にティース部11を備え、ヨーク部9は、外周に溶接のための凹部13を備えてもよい。この場合、溶接部15は、凹部13に備えられ、硬化接着部5Aは、凹部13の周方向の幅内且つヨーク部9の外周から径方向の幅の中央までの範囲に配置される。
【0016】
本発明の積層鉄心の製造方法は、積層方向で隣接する鉄心片7間を接着剤5で接着した積層鉄心片3を形成し、積層鉄心片3を積層方向に沿って溶接して溶接部15を形成すると共に溶接の熱によって接着剤5を硬化させて硬化接着部5Aを形成する。
【0017】
溶接は、積層鉄心片3を積層方向に加圧しながら行ってもよい。
【0018】
硬化温度部Bの範囲内でのみ接着剤5による接着を行ってもよい。
【0019】
溶接により積層鉄心片3に組織変化を伴う熱影響部Cの外側でのみ接着剤5による接着を行ってもよい。
【0020】
積層鉄心片3が周回形状のヨーク部9にティース部11を備え、ヨーク部9が外周に溶接のための凹部13を備える場合は、凹部13の周方向の幅内且つヨーク部9の外周から径方向の幅の中央までの範囲で接着剤による接着を行う。そして、溶接により凹部13に溶接部15を形成すると共に接着剤5を硬化させる。
【実施例0021】
[積層鉄心]
図1は、実施例に係る積層鉄心の平面図である。
図2は、
図1の積層鉄心の概略側面図である。
図3は、
図1の溶接前の積層鉄心片の一部を拡大して示す平面図である。
【0022】
図1及び
図2の積層環状鉄心3を用いた積層鉄心1は、電動モーターや発電機の固定子側に用いられるステーターコア用である。なお、積層鉄心1としては、ローターコア用とすることもできる。
【0023】
この積層鉄心1は、複数の環状の鉄心片7を積層すると共に接着した積層鉄心片3に対し、溶接部15を形成して鉄心片7を一体化したものである。なお、接着剤5は、後述するように溶接後に硬化接着部5Aとなる。
【0024】
各鉄心片7は、環状に形成された板材(電磁鋼板)であり、単一の環状の板材又は複数の円弧状の板材を組み合わせたものの何れであってもよい。この鉄心片7を積層した積層鉄心片3は、周回形状のヨーク部9にティース部11を備えている。
【0025】
ヨーク部9は、径方向の幅Rを有する周回形状、特に円環状に形成されている。このヨーク部9は、内周に複数のティース部11が周方向に間隔を空けて設けられている。ヨーク部9の外周には、溶接部15が形成される。
【0026】
本実施例のヨーク部9は、その外周に積層鉄心片3の鉄心片7を溶接するための凹部13を備えている。凹部13は、ヨーク部9の外周形状に対する径方向の凹状の部分であり、積層方向に沿って伸びる。この凹部13内には、溶接用の突起部13aが備えられている。突起部13aは、周方向の中央部に設けられているが、中央部に限られるものではない。
【0027】
なお、径方向とは、積層鉄心1の径に沿った方向であり、周方向とは、積層鉄心1の外周に沿った方向であり、積層方向とは、鉄心片7を重ねる方向であり、積層鉄心1の軸心に沿った方向である。
【0028】
本実施例において、ヨーク部9の径方向の幅Rは10~30mmである。積層鉄心片3の積層方向の鉄心片7間の隙間は1~5μmとなっている。ただし、ヨーク部11の径方向の幅R及び鉄心片7間の隙間は、積層鉄心1の仕様により自由に設定できる。
【0029】
図4は、
図1の積層鉄心の溶接部、硬化温度部、及び硬化接着部を示す概略平面図である。
【0030】
硬化接着部5Aは、積層鉄心片3の硬化温度部Bの範囲内で、鉄心片7間を接着する接着剤5が硬化して形成されている。硬化温度部Bの範囲内とは、積層方向から見た鉄心片7の平面視における範囲内をいう。従って、硬化接着部5Aと硬化温度部Bは、積層方向に重なって設けられている。なお、硬化接着部5Aは、全溶接部15に対する硬化温度部Bに設けられているが、一部の溶接部15に対する硬化温度部Bにのみ設けてもよい。
【0031】
硬化温度部Bは、後述する溶接時の熱によって、積層鉄心片3の一部が接着剤5を硬化させる温度を有する部分である。硬化温度部Bは、溶接部15を中心とした扇形の領域となっている。
【0032】
接着剤5の硬化温度は、例えば100~300℃であり、硬化時間は、エポキシ系であれば80℃で30分、120℃で10分、140℃で5分程度である。従って、硬化温度部Bは、接着剤5の硬化時間以上の間、硬化温度以上に保たれる部分となる。ただし、硬化温度部Bは、接着剤5の耐熱温度を下回る必要がある。なお、溶接後に温度低下するが室温まで冷えるには8時間程度要するため、接着剤5の硬化に問題はない。
【0033】
接着剤5の耐熱温度は、耐熱条件(軟化、劣化、分解等)によっても異なるが、エポキシ系であれば250℃程度である。耐熱の一つの指標となるガラス転移点は、エポキシ系であれば例えば100~200℃である。
【0034】
硬化温度部Bの温度や範囲は、後述する溶接のパワー等の溶接条件とで設定することが可能である。
【0035】
硬化接着部5Aを構成する接着剤5は、熱硬化性の接着剤である。ただし、接着剤5は、熱硬化性に加えて、嫌気性等の他の性質を含んでもよい。この接着剤5は、硬化温度部Bの範囲内に一部又は全部が塗布される。本実施例では、硬化温度部Bの範囲内に接着剤5の全部が塗布される。従って、硬化温度部B内にのみ硬化接着部5Aが形成される。なお、硬化温度部B外に接着剤5の一部が位置する場合は、その接着剤5の一部が硬化せずに残る。
【0036】
本実施例において、接着剤5の塗布は、矩形の範囲A内で行われる。範囲Aは、凹部13の周方向の幅L内且つヨーク部11の外周から径方向の幅Rの中央までの範囲である。
【0037】
この範囲Aでの塗布により接着剤5は、その一部又は全部を硬化温度部B内に位置させることが可能となる。つまり、硬化接着部5Aは、凹部13の周方向の幅L内且つヨーク部11の外周から径方向の幅Rの中央までの範囲に配置される。なお、接着剤5は、
図3のように、積層鉄心片3の加圧によって円形に拡がるため、この拡がった状態において一部又は全部が硬化温度部B内に位置すればよい。
【0038】
一例として、接着剤5の塗布時の体積は、0.04~0.19μLとされ、鉄心片7の積層方向の隙間が1~5μmであり、接着剤5の拡がった状態での直径は、ほぼ7mmとなる。また、本実施例では、接着剤5の全部が硬化接着部5Aとなるため、硬化接着部5Aの直径もほぼ7mmとなる。つまり、積層方向で隣接する鉄心片7間の隙間に応じて、接着剤5が所定の径となるように接着剤5の塗布量が調整される。ただし、硬化接着部5Aの直径の大きさは、積層鉄心1の仕様により自由に設定できる。
【0039】
溶接部15は、積層鉄心片3を積層方向に沿って溶接することで形成されている。本実施例の溶接部15は、溶接ビードであり、凹部13内の突起部13aを溶融・凝固させることで形成され、積層方向で積層鉄心片3の全域にわたる。
【0040】
突起部13aは、溶接後において消失しているが、突起部13aの一部が残ってもよい。なお、突起部13aの平面形状は、台形形状であるが、任意に設定可能である。積層鉄心1がローターコアの場合、溶接部15は、積層鉄心1の内周部等に形成することができる。
【0041】
図5は、
図1の積層鉄心の溶接部周辺を拡大して示す断面図である。
【0042】
図5のように、溶接部15を囲む円弧状のライン内は溶接による扇形の熱影響部Cである。熱影響部Cは、溶接時の熱により、溶融していないが、鉄心片7に組織変化、機械的性質の変化を伴う範囲である。機械的性質は、微細構造や特性である。この熱影響部Cは、
図4の硬化温度部B内に位置し、溶接部15を中心としたより狭い領域となっている。
【0043】
熱影響部Cでの温度は、鉄心片7が電磁鋼板の場合、溶接後7秒で600℃以上となる。熱影響部C内に位置し、溶接部15の溶接ビードの範囲Dでの温度は、溶接後7秒で1500℃以上となる。熱影響部Cの温度は、接着剤5の耐熱温度よりも高いため、硬化接着部5Aは、全部が熱影響部Cの外側に備えられる。これにより、硬化した接着剤5からなる硬化接着部5Aの劣化等を低減できる。
【0044】
ただし、接着剤5は、一部が熱影響部C内に塗布されてもよい。この場合、熱影響部C内の接着剤5は劣化し易くなるため、熱影響部Cの外側の硬化接着部5Aが接着の主体となる。
【0045】
[製造方法]
図6は、
図1の積層鉄心片の溶接を含めた積層鉄心の製造工程図である。
【0046】
図6の製造工程は、積層工程SA及び溶接工程SBを備えている。積層工程SAでは、積層方向で隣接する鉄心片7間を接着剤5で接着した積層鉄心片3を形成する。溶接工程SBでは、積層鉄心片3を積層方向に沿って溶接して溶接部15を形成すると共に溶接の熱によって硬化温度部Bの範囲内で接着剤5を硬化させて硬化接着部5Aを形成する。
【0047】
本実施例の積層工程SAは、接着剤塗布S1、プレスS2、及び積層(仮接着)S3を含む。溶接工程SBは、溶接治具に対する挿入S4、加圧S5、溶接S6、硬化(本接着)S7を含む。
【0048】
接着剤塗布S1では、帯状の磁性鋼板の鉄心片7となる部分に対して接着剤5が塗布される。この接着剤5の塗布は周知の手法によって実現可能である。塗布された接着剤5は、各鉄心片7の範囲Aとなる部分内に位置し、点状を呈している。塗布する接着剤5の体積は、例えば0.04~0.19μLとしている。
【0049】
プレスS2では、接着剤5が塗布された帯状の磁性鋼板から金型装置により鉄心片7を順次打ち抜き、積層(接着)S3では、接着剤5を介在させて鉄心片7を積層していく。
【0050】
このプレスS2及び積層S3は、例えばパンチにより打ち抜かれた鉄心片7をダイ内に保持することによって行うことができる。このとき、積層方向で隣接する鉄心片7間が接着剤5により仮接着される。所定数の鉄心片7が積層されると積層鉄心片3が形成される。仮接着とは、硬化前の接着剤5の表面張力や粘性力によって積層鉄心片3の鉄心片7同士が接着された接着形態をいう。
【0051】
本実施例の溶接工程SBは、積層鉄心片3を積層方向に加圧しながら溶接を行う。溶接工程SBの溶接治具に対する挿入S4では、溶接治具上に例えばダイを抜けた積層鉄心3が受けられる。
【0052】
加圧S5では、押圧装置等で積層鉄心片3に直接または上板を介して荷重を付加することで、或いは上板を例えばボルトの締結によって固定することで、積層鉄心片3を所定の厚さに加圧し保持する。かかる加圧により、鉄心片7間の積層方向の隙間を例えば1~5μmとし、これに応じて接着剤5が拡がって直径が7mm程度になる。
【0053】
溶接S6では、ファイバーレーザー溶接機等によって溶接が行われる。溶接は、凹部13の突起部13aに沿って行われ、積層鉄心片3の積層方向の全域に溶接部15を形成する。なお、溶接部15は、積層鉄心片3の積層方向で部分的に形成してもよい。
【0054】
硬化S7は、積層鉄心片3の積層方向で隣接する鉄心片7間が接着剤5により本接着される。本接着は、硬化した接着剤5によって積層鉄心片3の鉄心片7同士が接着された接着形態をいう。この接着剤5の硬化は、溶接部15の形成時又は溶接部15が形成された積層鉄心片3の余熱により行われる。具体的には、溶接によって昇温された硬化温度部Bが接着剤5の硬化温度以上を保持したまま接着剤5の硬化時間以上を経過させる。これによって、接着剤5が硬化した硬化接着部5Aを有する積層鉄心片1を得ることができる。
【0055】
こうして得られた積層鉄心1は、次工程へ搬出される。
【0056】
以上説明したように、本実施例の積層鉄心1では、複数の鉄心片7を積層した積層鉄心片3において、積層方向の隣接する鉄心片7間を接着剤5によって仮接合することができ、カシメを用いることなく一時的に一体化した姿勢を保つことができる。
【0057】
鉄心片7間は薄い接着層となるため占積率(積層密度)はカシメに比較して高く、仮接合を安定させることができる。
【0058】
また、カシメのような鉄心片7間を導通させる部分を無くすこともできる。
【0059】
また、カシメを用いる場合のようにツールの厳格な精度管理を必要とせず、ツールのメンテナンスサイクルを伸ばすことができ、積層鉄心1の生産効率がよい。
【0060】
かかる積層鉄心1は、溶接部15により積層鉄心片3を積層方向に沿って溶接することで形成される。このとき、隣接する鉄心片7間を仮接合した接着剤5を溶接部15の溶接に伴って硬化させて硬化接着部5Aとすることができる。
【0061】
従って、積層鉄心1は、硬化接着部5Aによって溶接部15による鉄心片7間の接合をより強固にすることができる。
【0062】
また、接着剤5が硬化接着部5Aとなることで、接着剤5の流出を抑制できる。従って、積層鉄心1を車両用の電動モーター等に用い、電動モーターをATF等の冷媒で冷却する場合において、冷媒に侵された積層鉄心1の接着剤5が冷媒に混入することを抑制できる。塗布された接着剤5の全部が硬化してなる硬化接着部5Aであれば、より確実に接着剤5の冷媒への混入を抑制できる。
【0063】
しかも、接着剤5は溶接の熱により硬化するため、接着剤5を硬化させる別途の工程や設備を不要にすることができる。このため、硬化接着部5A及び溶接部15を備えた積層鉄心1を容易に製造することができる。
【0064】
硬化接着部5Aは、硬化前の接着剤5の時に多少ずれても硬化後の接合機能に影響を与えないため取扱い性がよい。
【0065】
また、本実施例では、積層鉄心片3を積層方向に加圧しながら溶接を行うから、隣接する鉄心片7間の隙間を低減できると共に接着剤5を鉄心片7間で薄く延ばすことができる。これにより、接着剤5は、鉄心片7への当接面積が増加し、伝熱性が高められて確実に硬化される。