IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社安藤・間の特許一覧

<>
  • 特開-締固め管理方法 図1
  • 特開-締固め管理方法 図2
  • 特開-締固め管理方法 図3
  • 特開-締固め管理方法 図4
  • 特開-締固め管理方法 図5
  • 特開-締固め管理方法 図6
  • 特開-締固め管理方法 図7
  • 特開-締固め管理方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100532
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】締固め管理方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/02 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
E02D3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004597
(22)【出願日】2023-01-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・第57回地盤工学研究発表会 講演概要(令和4年6月30日) ・第57回地盤工学研究発表会(令和4年7月21日)
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 淳夫
(72)【発明者】
【氏名】荻原 績
【テーマコード(参考)】
2D043
【Fターム(参考)】
2D043AA01
2D043AC01
2D043CA01
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、従来技術に比べて局所的な管理が可能である締固め管理方法を提供することである。
【解決手段】本願発明の締固め管理方法は、小領域ごとに含水比が略一様な盛土材の締固めを管理する方法であり、敷均し工程と第1計測工程、締固め工程、第2計測工程、圧縮率算出工程、適否判定工程を備えた方法である。圧縮率算出工程では、高低差を敷均し高で除した「圧縮率」を小領域ごとに求め、適否判定工程では、圧縮率と圧縮率許容範囲とを照らし合わせることによって締固めの適否を小領域ごとに判定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象範囲を平面的に分割した小領域ごとに、含水比が一様又は略一様な盛土材の締固めを管理する方法であって、
前記盛土材を撒き出して敷均しを行う敷均し工程と、
敷均し後の該盛土材の表面を計測して複数の3次元計測点を取得するとともに、該3次元計測点に基づいて前記小領域ごとの「敷均し高」を取得する第1計測工程と、
敷均し後の前記盛土材を締め固める締固め工程と、
締固め後の該盛土材の表面を計測して複数の前記3次元計測点を取得するとともに、該3次元計測点に基づいて前記小領域ごとの「締固め高」を取得する第2計測工程と、
前記敷均し高と前記締固め高との高低差を前記小領域ごとに求めるとともに、該高低差を前記敷均し高で除した「圧縮率」を該小領域ごとに求める圧縮率算出工程と、
前記圧縮率と、あらかじめ定めた圧縮率許容範囲と、を照らし合わせることによって、締固めの適否を前記小領域ごとに判定する適否判定工程と、を備え、
前記適否判定工程では、前記圧縮率が前記圧縮率許容範囲内にある前記小領域は締固めが適切であると判定し、前記圧縮率が該圧縮率許容範囲から外れる前記小領域は締固めが不適であると判定する、
ことを特徴とする締固め管理方法。
【請求項2】
本施工の前に、試験施工を行い、
前記試験施工には、
試験用の前記盛土材である「盛土材試料」の質量である「試料質量」を計量する計量工程と、
前記盛土材試料を撒き出して敷均しを行うとともに、敷均し後の該盛土材試料の表面を計測して、該盛土材試料の表面に設定された前記小領域ごとの前記敷均し高を取得する第1計測試験工程と、
前記盛土材試料の前記敷均し高と、該盛土材試料の平面範囲と、に基づいて敷均し後の該盛土材試料の体積である「試料体積」を求めるとともに、該試料体積と前記試料質量に基づいて該盛土材試料の密度である「敷均し密度」を求める敷均し密度算出工程と、
前記盛土材試料を締め固めるとともに、締固め後の該盛土材試料の表面を計測して、該盛土材試料に係る前記小領域ごとの前記締固め高を取得する第2計測試験工程と、
前記盛土材試料に係る前記小領域ごとに、前記高低差を求めるとともに、前記圧縮率を求める圧縮率算出試験工程と、
前記敷均し密度算出工程で得られた前記敷均し密度と、前記圧縮率算出試験工程で得られた前記圧縮率と、に基づいて「締固め推定密度」を求める締固め密度推定試験工程と、
締固め後の前記盛土材試料を部分的に採取して実際の密度である「締固め実密度」を測定する締固め密度測定試験工程と、
前記締固め推定密度と前記締固め実密度からなる複数の組み合わせを取得するとともに、該締固め実密度に近似する該締固め推定密度に係る前記圧縮率に基づいて、前記圧縮率許容範囲を設定する許容範囲設定工程と、が含まれる、
ことを特徴とする請求項1記載の締固め管理方法。
【請求項3】
前記試験施工には、
前記締固め推定密度と該締固め実密度との比である「密度比」を求める密度比算出試験工程と、
前記圧縮率と前記密度比に基づいて、該圧縮率と該密度比との関係を表す「密度比関数」を設定する関数設定工程と、がさらに含まれる、
ことを特徴とする請求項2記載の締固め管理方法。
【請求項4】
前記締固め工程による敷均し後の前記盛土材を、部分的に採取して前記締固め実密度を測定する締固め密度測定工程と、
前記圧縮率算出工程で得られた前記圧縮率と、前記締固め密度測定工程で得られた前記締固め実密度と、前記関数設定工程で設定された前記密度比関数と、に基づいて、前記締固め工程による締固め後の前記盛土材の前記締固め推定密度を求める締固め密度推定工程と、をさらに備え、
前記締固め密度推定工程では、前記適否判定工程で締固めが適切であると判定された前記小領域に対して前記締固め推定密度を求める、
ことを特徴とする請求項3記載の締固め管理方法。
【請求項5】
撒き出した1層ごとに、前記盛土材の締固めの適否を判定する層判定工程を、をさらに備え、
前記層判定工程では、1層の前記盛土材に係る全ての前記小領域のうち、前記適否判定工程で締固めが適切であると判定された前記小領域が占める割合が、あらかじめ定めた閾値を上回るときに、当該1層の締固めが適切であると判定する、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の締固め管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ベントナイト混合土などその含水比が略一様(一様を含む)な盛土材の締固めに関する技術であり、より具体的には、盛土材の敷均し後と締固めた後の表面高さから得られる圧縮率に基づいて盛土材の締固めの程度を評価する締固め管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ベントナイト混合土は、膨潤性に優れ遮水性能を有することから、埋設物の遮水を目的とした覆土として利用されることも多く、例えば浅地中ピット処分の覆土としても用いられることがある。この浅地中ピット処分は、放射能レベルが比較的低い廃棄物を埋設処分する方法であり、図8に示すように地表面から浅い位置に構築したコンクリートピット内に廃棄物を収納して埋設する方法である。図8(a)は浅地中ピット処分を上方から見た平面図であり、図8(b)は図8(a)のA-A矢視図であって浅地中ピット処分を鉛直面で切断した断面図である。このように、廃棄物を収納したコンクリートピットの周辺には、地下水等の移流速度の低減などを目的としてベントナイト混合土が設置されることがある。
【0003】
覆土として設置されるベントナイト混合土は、その性能として特に低透水性や液状化抵抗性が要求される。そしてこれらの性能を発揮するためには、ベントナイト混合土を均質かつ高密度に締め固める必要がある。そこで通常は、11t級の振動ローラーなどを利用してベントナイト混合土の締固めが行われている。ただし、11t級の振動ローラーを利用して締め固めたとしてもベントナイト混合土の低透水性などが十分発揮されるとは限らないことから、締固めの程度を管理しながら締固め施工は実施される。すなわち、1層ごとにベントナイト混合土を撒き出して敷均し、転圧不足や過転圧がないように管理しながら締め固めていくわけである。
【0004】
浅地中ピット処分の覆土としてベントナイト混合土を利用する場合、比較的広い範囲にベントナイト混合土による盛土が形成される。そのため、締固めの管理は広く面的に行う必要があり、しかも部分的にも転圧不足や過転圧を見逃さないように管理することが望ましい。従来、盛土などを締め固める際に面的に転圧管理を行うにあたっては、振動ローラーに取り付けた加速度応答値CCV(Compaction Control Value)を利用した手法や、盛土の表面をレーザー等によって計測してその沈下量を取得する手法などが採用されていた。例えば特許文献1では、振動ローラーの転圧によって生じた沈下量をレーザー計測によって計測するとともに、あらかじめ設定された回帰式とその沈下量に基づいて締固めの程度を判定する技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09-079924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される発明は、密度比と沈下量の関係を表す回帰式に沈下量を入力することによって密度比を推定し、推定された密度比と所定の閾値とを照らし合わせることによって締固めの程度を判定するものである。すなわち、推定された密度比が所定閾値以上であれば締固めは十分であると判定し、密度比が所定閾値未満であれば締固めは不十分であると判定するわけである。なお、実測密度と理論密度はそれぞれ締固め後の盛土の密度であり、実測密度は表面型RI(Radio Isotope)密度計によって計測され、一方の理論密度は沈下量に基づいて求められる。
【0007】
特許文献1の発明は、締固めの施工中にリアルタイムで締固めの適否を判定することができ、施工後に判定するケースに比べていわゆる手戻りが大幅に低減されるうえ、高い品質を確保した盛土体を提供することができる。他方、密度比と所定閾値とを照らすことで締固めの適否を判定するため、この所定閾値の設定が極めて重要となる。すなわち、適否判定が所定閾値の設定に著しく依存することとなり、適切な所定閾値を設定することができれば適切な適否判定を行うことができるものの、所定閾値の設定を誤るとその適否判定も精度を欠くこととなる。そして、この所定閾値は施工現場ごとに設定する必要があるが、それぞれの施工現場に適した所定閾値を設定することはたとえ経験豊富な技術者であっても容易ではない。
【0008】
また従来技術では、撒き出された1層ごとに、つまり層単位で締固めの程度を管理していた。しかしながら、層全体として適切に締固められたとしても、部分的には転圧不足や過転圧が生じているケースも十分考えられる。つまり従来の管理手法では、層全体で評価するが故に、一部の不適切個所については注目されることがなく、つまり局所的な転圧不足や過転圧は看過されていたわけである。
【0009】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、従来技術に比べて局所的な管理が可能である締固め管理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、締固め前後の盛土材の「圧縮率」と、締固め推定密度(締固め後の推定値)と締固め実密度(締固め後の実測値)の「密度比」が、高い相関関係にあるということに着目したうえで許容範囲を設定し、さらに対象範囲を平面的に分割した小領域ごとに締固めの適否を判定する、というこれまでにない発想に基づいて行われたものである。
【0011】
本願発明の締固め管理方法は、対象範囲を平面的に分割した小領域ごとに含水比が略一様(一様を含む)な盛土材の締固めを管理する方法であり、敷均し工程と第1計測工程、締固め工程、第2計測工程、圧縮率算出工程、適否判定工程を備えた方法である。このうち敷均し工程では、盛土材を撒き出して敷均しを行い、第1計測工程では、敷均し後の盛土材の表面を計測して複数の3次元計測点を取得するとともに3次元計測点に基づいて小領域ごとの「敷均し高」を取得する。また締固め工程では、敷均し後の盛土材を締固め、第2計測工程では、締固め後の盛土材の表面を計測して複数の3次元計測点を取得するとともに3次元計測点に基づいて小領域ごとの「締固め高」を取得する。圧縮率算出工程では、敷均し高と締固め高との高低差を小領域ごとに求めるとともに高低差を敷均し高で除した「圧縮率」を小領域ごとに求め、適否判定工程では、圧縮率とあらかじめ定めた圧縮率許容範囲とを照らし合わせることによって締固めの適否を小領域ごとに判定する。なお適否判定工程では、圧縮率が圧縮率許容範囲内にある小領域については締固めが適切であると判定し、圧縮率が圧縮率許容範囲から外れる小領域については締固めが不適であると判定する。
【0012】
本願発明の締固め管理方法は、本施工の前に試験施工を行う方法とすることもできる。なお試験施工には、計量工程、第1計測試験工程、敷均し密度算出工程、第2計測試験工程、圧縮率算出試験工程、締固め密度推定試験工程、締固め密度測定試験工程、及び許容範囲設定工程が含まれる。このうち計量工程では、「盛土材試料(試験用の盛土材)」の質量である「試料質量」を計量し、第1計測試験工程では、盛土材試料を撒き出して敷均しを行うとともに敷均し後の盛土材試料の表面を計測して小領域(ただし、盛土材試料の表面に設定されたもの)ごとの敷均し高を取得し、敷均し密度算出工程では、盛土材試料の敷均し高と平面範囲に基づいて「試料体積(敷均し後の盛土材試料の体積)」を求めるとともに試料体積と試料質量に基づいて盛土材試料の「敷均し密度」を求める。また第2計測試験工程では、盛土材試料を締め固めるとともに締固め後の盛土材試料の表面を計測して小領域(ただし、盛土材試料の表面に設定されたもの)ごとの締固め高を取得し、圧縮率算出試験工程では、小領域ごとに高低差と圧縮率を求め、締固め密度推定試験工程では、敷均し密度(敷均し密度算出工程)と圧縮率(圧縮率算出試験工程)に基づいて「締固め推定密度」を求める。締固め密度測定試験工程では、締固め後の盛土材試料を部分的に採取して「締固め実密度(実際の密度)」を測定し、許容範囲設定工程では、締固め推定密度と締固め実密度からなる複数の組み合わせを取得するとともに締固め実密度に近似する締固め推定密度に係る圧縮率に基づいて圧縮率許容範囲を設定する。
【0013】
本願発明の締固め管理方法は、試験施工に密度比算出試験工程と関数設定工程がさらに含まれた方法とすることもできる。この密度比算出試験工程では、「密度比(締固め推定密度と締固め実密度との比)」を求め、関数設定工程では、圧縮率と密度比に基づいて「密度比関数(圧縮率と密度比との関係を表す関数)」を設定する。
【0014】
本願発明の締固め管理方法は、締固め密度測定工程と締固め密度推定工程をさらに備えた方法とすることもできる。この締固め密度測定工程では、盛土材(締固め工程による敷均し後)を部分的に採取して締固め実密度を測定し、締固め密度推定工程では、圧縮率(圧縮率算出工程)と締固め実密度(締固め密度測定工程)、密度比関数(関数設定工程)に基づいて盛土材(締固め工程による締固め後)の締固め推定密度を求める。なお締固め密度推定工程では、適否判定工程で締固めが適切であると判定された小領域に対して、締固め推定密度を求める。
【0015】
本願発明の締固め管理方法は、層判定工程をさらに備えた方法とすることもできる。この層判定工程では、撒き出した1層ごとに盛土材の締固めの適否を判定する。なお層判定工程では、1層の盛土材に係る全ての小領域のうち、締固めが適切である(適否判定工程)と判定された小領域が占める割合が、あらかじめ定めた閾値を上回るときにその1層の締固めが適切であると判定する。
【発明の効果】
【0016】
本願発明の締固め管理方法には、次のような効果がある。
(1)締固めの適否を判定するための許容範囲を、従来技術に比べてより客観的に定めることができる。その結果、経験や知識が豊富な技術者に頼る必要がなく、しかも客観的かつ容易に締固めの適否を判定することができる。
(2)3DスキャナやLiDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)は締固め対象領域を外して設置することができるため、締固め施工の妨げになることがなく、すなわち自由に施工ができるうえに、振動ローラーなどが稼働している時でも計測することができる。
(3)概ね10分程度で締固めの不適(転圧不足や過転圧)を判定することができ、しかも1層全体における適否判定に加え、局所的な適否判定も行うことができる。その結果、工期短縮を図ることができ、さらに施工コストの低減に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】対象領域と複数の小領域を説明する平面図。
図2】本願発明の締固め管理方法のうち試験施工に含まれる主な工程の流れを示すフロー図。
図3】小領域における圧縮率を説明するモデル図。
図4】圧縮率と密度比を2軸とする座標系に圧縮率と密度比を座標として散布した散布図を示すグラフ図。
図5】本願発明の締固め管理方法のうち本施工に含まれる主な工程の流れを示すフロー図。
図6】本願発明の締固め管理方法のうち本施工に含まれる主な工程の流れを示すステップ図。
図7】(a)はディスプレイに表示された小領域ごとの「沈下量」を示す画像図、(b)はディスプレイに表示された小領域ごとの「圧縮率」を示す画像図。
図8】(a)は浅地中ピット処分を説明する平面図、(b)は浅地中ピット処分を説明する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願発明の締固め管理方法の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0019】
本願発明の締固め管理方法は、含水比が略一様(一様を含む)な材料(以下、「盛土材」という。)を用いて盛土を行う際に、その盛土材の締固めの程度を評価する方法であり、図1に示す小領域MSごとに評価することを技術的特徴の1つとするものである。この小領域MSは、盛土を行う平面範囲(以下、「対象範囲TA」という。)をメッシュ状に分割して設定される領域であり、換言すれば対象範囲TAは複数(図では8×12)の小領域MSによって形成される。小領域MSの平面寸法は、施工現場の状況や使用する盛土材、目標品質などに応じて適宜選択することができ、例えば200mm×200mm~1,000mm×1,000mmのレンジで設定することができる。
【0020】
また本願発明の締固め管理方法は、後述する「圧縮率」を指標として締固めの適否を判定することも技術的特徴の1つとしており、より詳しくは圧縮率が「圧縮率許容範囲」に含まれるか否かによって締固めの適否を判定する方法である。この圧縮率許容範囲は、技術者の経験や知識などに基づいていわば主観的に設定する値ではなく、後述するように所定の技術的根拠に基づいて設定する値である。そして圧縮率許容範囲を設定するためには、実際に施工現場で実施する締固め施工(以下、「本施工」という。)に先行して、試験的な施工(以下、「試験施工」という。)が行われる。ただし、既に試験施工が実施され、適当な圧縮率許容範囲が得られているときは、試験施工を省略して本施工を実施してもよい。
【0021】
以下、本願発明の締固め管理方法について、試験施工と本施工に分けて詳しく説明する。なお本願発明の締固め管理方法は、含水比が略一様(一様を含む)であれば種々の材料を盛土材として用いることができるが、便宜上ここでは盛土材としてベントナイト混合土を用いる例で説明する。
【0022】
1.試験施工
はじめに本願発明の締固め管理方法のうちの試験施工について、図2を参照しながら説明する。図2は、試験施工に含まれる主な工程の流れを示すフロー図である。試験施工は、試験用のベントナイト混合土(以下、「盛土材試料」という。)を用いて、圧縮率許容範囲を設定することを主な目的として行われる。もちろんこの盛土材試料は、本施工で使用する予定のベントナイト混合土と同規格のものが用いられる。そのため試験施工を実施するにあたっては、本施工用のベントナイト混合土と同じ配合でベントナイトと細骨材を混合して盛土材試料を生成する。
【0023】
盛土材試料を生成すると、その盛土材試料の重量(以下、「試料質量」という。)を計量する(図2のStep101の「計量工程」)。そして、計量された盛土材試料を撒き出し、例えばアスファルトフィニッシャなどによって盛土材試料を敷き均す。
【0024】
盛土材試料を敷き均すと、盛土材試料(敷均し後)の表面を複数個所で離散的に計測し、3次元座標を具備する計測点(以下、「3次元計測点」という。)を取得する(図2のStep102の「第1計測試験工程」)。なお3次元計測点を取得するにあたっては、3DスキャナやLiDARなどを用いたレーザー計測のほか、トータルステーション(TS:total station)や、測角器(トランシットやセオドライトなど)と水準器距離を併用した計測、写真計測など、従来用いられている種々の手法を採用することができる。
【0025】
複数個所で3次元座標を取得すると、盛土材試料(敷均し後)の表面に複数の小領域MSを設定したうえで、3次元計測点に基づいて盛土材試料(敷均し後)の表面高さ(以下、「敷均し高」)を小領域MSごとに求める。レーザー計測などによって得られる3次元点群は、一般的にランダムデータ(平面的に不規則な配置のデータ)であることが多いため、小領域MSの代表点に高さを与えるには幾何計算を実行するとよい。この計算方法としては、ランダムデータから形成される不整三角網によって高さを求めるTIN(Triangulated Irregular Network)による手法、最も近いレーザー計測点を採用する最近傍法(Nearest Neighbor)による手法のほか、逆距離加重法(IDW:Inverse Distance Weighting)、Kriging法、平均法などを挙げることができる。
【0026】
小領域MSごとの敷均し高が得られると、この敷均し高と、盛土材試料(敷均し後)の平面範囲に基づいて盛土材試料(敷均し後)の体積(以下、「試料体積」という。)を求め、さらに試料体積と試料質量に基づいて盛土材試料(敷均し後)の密度(以下、「敷均し密度」という。)を求める(図2のStep103の「敷均し密度算出工程」)。
【0027】
敷均し密度が得られると、敷き均した状態の盛土材試料を例えば11t級振動ローラーなどによって締め固める。盛土材試料を締め固めると、盛土材試料(締固め後)の表面を計測して複数の3次元計測点を取得する(図2のStep104の「第2計測試験工程」)。ここでも第1計測試験工程と同様、3DスキャナやLiDARなどを用いたレーザー計測のほか従来用いられている種々の手法を採用して3次元計測点を取得することができる。そして複数の3次元座標を取得すると、盛土材試料(締固め後)の表面に複数の小領域MSを設定したうえで、3次元計測点に基づいて盛土材試料(締固め後)の表面高さ(以下、「締固め高」)を小領域MSごとに求める。ここでも第1計測試験工程と同様、TINによる手法のほか従来用いられている種々の手法を採用して小領域MSごとの締固め高を求めることができる。
【0028】
小領域MSごとの敷均し高と締固め高が得られると、同一の小領域MSに係る敷均し高と締固め高との差(以下、「高低差」という。)を算出する。もちろん、この高低差は小領域MSごとに得られる。そして、この高低差と敷均し高に基づいて小領域MSごとに「圧縮率」を算出する(図2のStep105の「圧縮率算出試験工程」)。図3の式1に示すように圧縮率αは、敷均し後の体積(つまり、試料体積V)と締固め後の体積Vとの体積差を試料体積Vで除した値であり、締固め前後で小領域MSの面積が変化しないとすれば高低差(敷均し高H-締固め高H)を敷均し高Hで除した値である。なお、図3では小領域MSにおける盛土材試料を模式的に示しており、左側に敷均し後(締固め前)の状態を、右側に締固め後の状態を示している。またこの図の式2に示すように、盛土材試料の質量(つまり、試料質量M)は、敷均し後の密度(つまり、敷均し密度ρd1)と試料体積Vとの積によって求められ、締固め後の密度ρd2と締固め後の体積Vとの積によって求めることもできる。
【0029】
小領域MSごとの圧縮率αが得られると、敷均し密度ρd1(敷均し密度算出工程)と圧縮率α(圧縮率算出試験工程)に基づいて「締固め推定密度」を求める(図2のStep106の「締固め密度推定試験工程」)。この締固め推定密度は、小領域MSごとの盛土材試料の密度であって、締固め後の密度として推定される値であり、図3の式3に示すように敷均し後の密度ρd1と圧縮率αによって求めることができる。
【0030】
一方、締固め後の盛土材試料を部分的に採取して実際の密度(以下、「締固め実密度」という。)も測定する(図2のStep107の「締固め密度測定試験工程」)。例えば、採取した盛土材試料コアに対して現場密度試験を行い、その結果得られる乾燥密度を締固め実密度とすることができる。これにより、締固め推定密度(締固め密度推定試験工程)と締固め実密度(締固め密度測定試験工程)との組み合わせ(以下、この組み合わせを「締固め密度セット」という。)が得られる。この締固め密度セットは、図3の式3から分かるように圧縮率αに依存するものである。そして、次の工程では、異なる圧縮率αに基づく複数の締固め密度セット(締固め推定密度,締固め実密度)が必要である。そこで、盛土材試料(敷均し後)の締固めに関する施工条件を変えながら、複数の締固め密度セットを取得するとよい。例えば、振動ローラーなどによる締固めの強度を変えつつ、図2のStep104(第2計測試験工程)~Step107(締固め密度測定試験工程)を繰り返し行うことによって複数の締固め密度セットを取得することができる。締固めの強度を変えるため、圧縮率αが変化するとともにこれに伴って締固め推定密度も変化し、また締固め実密度も変化することから、異なる圧縮率αに基づく締固め密度セットが繰り返した数だけ得られるわけである。
【0031】
異なる圧縮率αに基づく複数の締固め密度セット(締固め推定密度,締固め実密度)が得られると、次式によって密度比を算出する(図2のStep108の「密度比算出試験工程」)。
密度比μ=締固め推定密度÷締固め実密度
もちろんこの密度比μは、圧縮率αに依存するものであって、締固め密度セットごとに得られる値である。そして、圧縮率α(例えば横軸)と密度比μ(例えば縦軸)を2軸とする座標系に、圧縮率αと密度比μとの組み合わせを座標(以下、「比率座標」という。)として散布することによって、図4に示すような散布図を作成する。このとき、比率座標(圧縮率α,密度比μ)によって求められる回帰式(以下、「密度比関数」という。)を設定することもできる(図2のStep109の「関数設定工程」)。なお図4では、1次式の密度比関数を示しているが、これに限らず高次式による密度比関数を設定してもよい。
【0032】
図4に示す散布図を見ると、圧縮率αと密度比μは高い相関(この場合は、正の相関)を示しており、密度比関数の決定係数Rも高い値(0.9041)を示している。なお図4では、比率座標を白丸で示しており、密度比関数を実線で、比率座標のうち95%信頼される比率座標の上限と下限を一点鎖線で、比率座標の母集団うち95%信頼される比率座標の上限と下限を破線でそれぞれ示している。
【0033】
ここで密度比μは、上記したとおり締固め推定密度と締固め実密度との比であり、つまり密度比μが1に近い値であるほど締固め推定密度(推定値)は締固め実密度(実測値)に近似し、換言すれば密度比μが1に近いほど実際の締固め後の密度(以下、単に「締固め密度」という。)をより適切に推定していることになる。さらに、圧縮率αと密度比μは高い相関を示すことから、圧縮率αが取得できれば高い精度で密度比μを推定することができる。すなわち、圧縮率αの値に基づいて密度比μを推定することができ、密度比μが1に近似する範囲(以下、「適切密度比範囲」という。)であればより適切に締固め密度を推定することができるわけである。
【0034】
そして、適切密度比範囲を設定すれば、散布図(図4)や密度比関数から圧縮率αの下限値と上限値を求めることができ、この下限値と上限値を「圧縮率許容範囲」として設定することができる(図2のStep110の「許容範囲設定工程」)。例えば図4(破線の長方形)では、適切密度比範囲として「0.9~1.1(1.0±0.1)」を設定しており、これに伴って圧縮率αの下限値を45%、その上限値を50%とする圧縮率許容範囲が設定される。もちろん、施工現場の状況や使用する盛土材、目標品質などに応じて、適切密度比範囲は任意に設定することができ、すなわち圧縮率許容範囲も任意に設定することができる。また圧縮率許容範囲は、例えば「40%以上」など下限値のみによって設定することもできるし、「60%以下」など上限値のみによって設定することもできる。このように本願発明の締固め管理方法は、散布図(図4)や密度比関数、適切密度比範囲によって圧縮率許容範囲が必然的に設定され、従来技術のように圧縮技術者の経験や知識などに依存することなく、いわば客観的に圧縮率許容範囲を設定することができる。
【0035】
2.本施工
続いて本願発明の締固め管理方法のうちの本施工について、図5図6を参照しながら説明する。図5は、本施工に含まれる主な工程の流れを示すフロー図であり、図6は、本施工に含まれる主な工程の流れを示すステップ図である。まず、計画された配合に基づいてベントナイトと細骨材を混合して本施工用のベントナイト混合土(盛土材)を生成する。
【0036】
本施工用のベントナイト混合土を生成すると、そのベントナイト混合土を図6(a)に示すように撒き出し、例えばアスファルトフィニッシャなどによって盛土材試料を敷き均していく(図5のStep201の「敷均し工程」)。ベントナイト混合土を敷き均すと、図6(b)に示すようにベントナイト混合土(敷均し後)の表面を計測して複数の3次元計測点を取得する(図5のStep202の「第1計測工程」)。ここでも第1計測試験工程(試験施工)と同様、3DスキャナやLiDARなどを用いたレーザー計測のほか従来用いられている種々の手法を採用して3次元計測点を取得することができる。
【0037】
そして複数の3次元座標を取得すると、ベントナイト混合土(敷均し後)の表面に複数の小領域MSを設定したうえで、3次元計測点に基づいてベントナイト混合土(敷均し後)の「敷均し高」を小領域MSごとに求める。ここでも第1計測試験工程(試験施工)と同様、TINによる手法のほか従来用いられている種々の手法を採用して小領域MSごとの敷均し高を求めることができる。
【0038】
敷均し密度が得られると、敷き均した状態のベントナイト混合土を、図6(c)に示すように例えば11t級振動ローラーなどによって締め固めていく(図5のStep203の「締固め工程」)。このとき、今後の上層の締固め施工によって当該層が沈下しないように、例えばモディファイドプロテクター(Modified Proctor)に相当する程度に堅固に締め固めるとよい。ベントナイト混合土を締め固めると、図6(d)に示すようにベントナイト混合土(締固め後)の表面を計測して複数の3次元計測点を取得する(図5のStep204の「第2計測工程」)。ここでも第1計測試験工程(試験施工)と同様、3DスキャナやLiDARなどを用いたレーザー計測のほか従来用いられている種々の手法を採用して3次元計測点を取得することができる。そして複数の3次元座標を取得すると、ベントナイト混合土(締固め後)の表面に複数の小領域MSを設定したうえで、3次元計測点に基づいてベントナイト混合土(締固め後)の「締固め高」を小領域MSごとに求める。ここでも第1計測試験工程(試験施工)と同様、TINによる手法のほか従来用いられている種々の手法を採用して小領域MSごとの締固め高を求めることができる。
【0039】
小領域MSごとの敷均し高と締固め高が得られると、同一の小領域MSに係る敷均し高と締固め高との「高低差」を算出する。もちろん、この高低差は小領域MSごとに得られる。そして、この高低差と敷均し高に基づいて小領域MSごとに「圧縮率α」を算出する(図5のStep205の「圧縮率算出工程」)。
【0040】
小領域MSごとの圧縮率αが得られると、圧縮率αと圧縮率許容範囲を照らし合わせることによって、締固めの適否を判定する(図5のStep206の「適否判定工程」)。なお、この締固めの適否は小領域MSごとに判定される。具体的には、圧縮率αが圧縮率許容範囲内にある(圧縮率許容範囲に含まれる)とき、その小領域MSを「締固めが適切」と判定し、一方、圧縮率αが圧縮率許容範囲から外れる(圧縮率許容範囲に含まれない)とき、その小領域MSを「締固めが不適」と判定する。もちろん、圧縮率許容範囲が下限値のみによって設定されている場合は、その圧縮率αがその下限値を上回る(あるいは、以上となる)とき、その小領域MSを「締固めが適切」と判定し、圧縮率許容範囲が上限値のみによって設定されている場合は、その圧縮率αがその上限値を下回る(あるいは、以下となる)とき、その小領域MSを「締固めが適切」と判定する。
【0041】
本願発明の締固め管理方法は、締固め後(締固め工程)のベントナイト混合土の締固め推定密度を求めることもできる。この場合、締固め工程による敷均し後のベントナイト混合土を、部分的に採取して実際の密度(つまり、締固め実密度)を測定する(図5のStep207の「締固め密度測定工程」)。例えば、採取したベントナイト混合土のコアに対して現場密度試験を行い、その結果得られる乾燥密度を締固め実密度とすることができる。そして、密度比関数(試験施工の関数設定工程)に圧縮率α(圧縮率算出工程)を入力することによって密度比μを求め、この密度比μと締固め実密度(締固め密度測定工程)に基づいて締固め後(締固め工程)ベントナイト混合土の締固め推定密度を求める(図5のStep208の「締固め密度推定工程」)。ここで得られた締固め推定密度を記録しておけば、今後の施工の際に参考にすることができる。なお、密度比関数は圧縮率αが圧縮率許容範囲内にあるときにより信頼することができることから、「締固めが適切」と判定された小領域MSを対象として締固め推定密度を求めるとよい。
【0042】
通常、ベントナイト混合土などによって盛土を形成するときは、複数層に分けて層ごとに段階的に形成していく。そこで本願発明の締固め管理方法は、1層ごとに締固めの適否を判定することもできる(図5のStep209の「層判定工程」)。例えば、1層のベントナイト混合土に係る全ての小領域MSのうち、「締固めが適切」と判定された小領域MSが占める割合が、あらかじめ定めた閾値を上回るときに、その1層の締固めが適切であると判定する。そして、1層の締固めが適切であると判定されるまで繰り返し締固め(図5のStep203)を行う。もちろん、再度の締固めを行う際は、「締固めが不適」と判定された小領域MSを対象として実施するとよい。
【0043】
以上、1層に係る一連の工程(図5のStep201~Step209)を行うと、引き続き上層に係る一連の工程を実施する。
【0044】
本願発明の締固め管理方法は、施工中リアルタイムに締固めの適否を判定することができ、しかも小領域MS単位で締固めの適否を判定することができる。そのため、図7に示すように締固めの判定結果を、パーソナルコンピュータや、スマートフォンに代表される携帯型端末、あるいはiPad(登録商標)といったタブレット型端末などに表示することができる。図7(a)はディスプレイに表示された小領域MSごとの「沈下量(つまり、高低差)」を示す画像図であり、図7(b)はディスプレイに表示された小領域MSごとの「圧縮率α」を示す画像図である。いずれも、あらかじめ沈下量や圧縮率αを複数のレンジに分けるとともに、レンジごとに色や濃淡が設定されており、小領域MSの各値(沈下量や圧縮率α)に相当するレンジの色などを表示している。この図に示すように、施工中リアルタイムに、しかも小領域MSごとに締固めの適否を直感的に確認することができるため、施工後に判定するケースに比べていわゆる手戻りが大幅に低減され、その結果、工期短縮や施工コスト低減に貢献することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本願発明の締固め管理方法は、浅地中ピット処分の覆土として利用できるほか、埋設処分された廃棄物の覆土として広く利用することができる。本願発明は、いままさに喫緊の課題となっている放射性廃棄物の処理に対して好適な解決策を提供することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明である。
【符号の説明】
【0046】
敷均し高
締固め高
M 試料質量
MS 小領域
TA 対象範囲
試料体積
締固め後の体積
α 圧縮率
ρd1 敷均し密度
ρd2 締固め後の密度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8