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特開2024-100562負熱膨張材料微粒子群、複合材料、部品、及び負熱膨張材料微粒子群の製造方法
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  • 特開-負熱膨張材料微粒子群、複合材料、部品、及び負熱膨張材料微粒子群の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100562
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】負熱膨張材料微粒子群、複合材料、部品、及び負熱膨張材料微粒子群の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/45 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
C01B25/45 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004657
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】竹中 康司
(57)【要約】
【課題】新たな負熱膨張材料微粒子群を提供する。
【解決手段】負熱膨張微材料粒子群は、一般式(1)Zn2-x2-y(Tは、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Sb、La、Ta、W、Biから選ばれる少なくとも1種の元素を含み、Aは、Al、Si、V、Ge、Snから選ばれる少なくとも1種の元素を含み、0≦x<2、0≦y≦2を満たす。ただし、(x,y)=(0,0)及び(0,2)は除く。)で表され、負の線膨張係数を有し、レーザー回折/散乱式粒子径分布評価装置による体積頻度中心粒径(メジアン径)が30nm以上1μm未満の微粒子からなる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)Zn2-x2-y(Tは、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Sb、La、Ta、W、Biから選ばれる少なくとも1種の元素を含み、Aは、Al、Si、V、Ge、Snから選ばれる少なくとも1種の元素を含み、0≦x<2、0≦y≦2を満たす。ただし、(x,y)=(0,0)及び(0,2)は除く。)で表され、負の線膨張係数を有し、レーザー回折/散乱式粒子径分布評価装置による体積頻度中心粒径(メジアン径)が30nm以上1μm未満の微粒子からなる負熱膨張微材料粒子群。
【請求項2】
前記Tは、Mg、Al、Mn、Fe、Cuから選ばれる少なくとも1種の元素を含み、前記yは、0である
請求項1に記載の負熱膨張材料微粒子群。
【請求項3】
200Kから380Kのうちの少なくとも一部の温度範囲における線膨張係数が-10ppm/K以下である
請求項1に記載の負熱膨張材料微粒子群。
【請求項4】
前記負熱膨張材料微粒子群の線膨張係数は、前記負熱膨張材料微粒子群をエポキシ樹脂に体積比で30%配合した複合材料の線熱膨張の測定結果から、α=(α-να)/ν(ここで、νはエポキシ樹脂の体積比、αはエポキシ樹脂の線膨張係数、νは負熱膨張材料微粒子群の体積比、αは負熱膨張材料微粒子群の線膨張係数、αは複合材料の線膨張係数であり、ν+ν=1)により算出された、250Kから350Kのうちの少なくとも一部の温度範囲における前記負熱膨張材料微粒子群の線膨張係数αの平均値である
請求項3に記載の負熱膨張材料微粒子群。
【請求項5】
正の線膨張係数を有する正熱膨張材料と、
請求項1から4のいずれか1項に記載の負熱膨張材料微粒子群と、
を含む複合材料。
【請求項6】
請求項5に記載の複合材料を含む部品。
【請求項7】
一般式(1)Zn2-x2-y(Tは、Mg、Al、Ca、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Sb、La、Ta、W、Biから選ばれる少なくとも1種の元素を含み、Aは、Al、Si、V、Ge、Snから選ばれる少なくとも1種の元素を含み、0≦x<2、0≦y≦2を満たす。ただし、(x,y)=(0,0)及び(0,2)は除く。)で表される化合物及びその原料のうち少なくとも一方と、酸、塩、及び有機金属化合物のうち少なくとも1つとを含む水溶液を噴霧乾燥する工程を有する負熱膨張材料微粒子群の製造方法。
【請求項8】
前記化合物及びその原料のうち少なくとも一方を、酸、塩、及び有機金属化合物のうち少なくとも1つとを含む水溶液に加温して溶解する工程を有する
請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
得られた粒子を粉砕する工程を有する
請求項7に記載の製造方法。
【請求項10】
得られた粒子を分級する工程を有する
請求項7に記載の製造方法。
【請求項11】
レーザー回折/散乱式粒子径分布評価装置による体積頻度中心粒径(メジアン径)が30nm以上1μm未満の微粒子からなる負熱膨張微材料粒子群を得る
請求項7から10のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、負熱膨張材料微粒子群、複合材料、部品、及び負熱膨張材料微粒子群の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、物質は温度上昇に伴って熱膨張することが知られている。しかしながら、近年における産業技術の高度な発達は、固体材料の宿命とも言える熱膨張すら制御することを求める。長さの変化率(歪)にして10ppm(10-5)程度の、一般的な感覚からすればわずかな形状変化でも、ナノメートルレベルの高精度が求められる半導体デバイス製造や、部品のわずかな歪が機能に大きな影響を与える精密機器などの分野では大きな問題である。また、複数の素材を組み合わせたデバイスでは、構成素材それぞれの熱膨張の違いから、界面剥離や断線といった他の問題も生じることがある。
【0003】
一方、温度上昇に伴って格子体積が減少する(負の熱膨張率を持った)負熱膨張材料も知られている。例えば、ピロリン酸亜鉛マグネシウムZn2-xMgは、室温付近を中心に広い温度範囲で大きな負熱膨張を示すとともに、低コストで環境負荷も小さいことから、工業的な熱膨張抑制剤として期待されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「Structural phase transition and giant negative thermal expansion in pyrophosphate Zn2-xMgxP2O7」、Y. Kadowaki, R. Kasugai, Y. Yokoyama, N. Katayama, Y. Okamoto, and K. Takenaka、Appl. Phys. Lett. 119, 201906 (2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
微細化、高機能化、複雑化が急速に進む電子デバイス分野では、構成素材間の熱膨張差が剥離や断線といった深刻な問題を生み、熱膨張の制御は喫緊の課題となっている。電子デバイス分野での熱膨張制御には、樹脂フィルム、接着剤、層間充填剤、基板といった部材の熱膨張制御が不可欠とされているが、それらの部材は数μm程度のサイズで用いることが想定されており、実現には熱膨張抑制剤をサブミクロンから1μm程度に微細化する必要がある。
【0006】
しかしながら、バルク体や粗粉末で巨大な負熱膨張を示す材料であっても、微粒子化に伴って負熱膨張特性が著しく損なわれることが多い。これは、微粒子化の工程で結晶に歪や欠陥が導入されることが一因と考えられている。
【0007】
本開示はこうした状況に鑑みてなされており、その目的とするところの一つは、新たな負熱膨張材料微粒子群を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の負熱膨張微材料粒子群は、一般式(1)Zn2-x2-y(Tは、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Sb、La、Ta、W、Biから選ばれる少なくとも1種の元素を含み、Aは、Al、Si、V、Ge、Snから選ばれる少なくとも1種の元素を含み、0≦x<2、0≦y≦2を満たす。ただし、(x,y)=(0,0)及び(0,2)は除く。)で表され、負の線膨張係数を有し、レーザー回折/散乱式粒子径分布評価装置による体積頻度中心粒径(メジアン径)が30nm以上1μm未満の微粒子からなる。
【0009】
本開示の別の態様は、複合材料である。この複合材料は、正の線膨張係数を有する正熱膨張材料と、上記の負熱膨張材料微粒子群と、を含む。
【0010】
本開示の更に別の態様は、部品である。この部品は、上記の複合材料を含む。
【0011】
本開示の更に別の態様は、負熱膨張材料微粒子群の製造方法である。この方法は、一般式(1)Zn2-x2-y(Tは、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Sb、La、Ta、W、Biから選ばれる少なくとも1種の元素を含み、Aは、Al、Si、V、Ge、Snから選ばれる少なくとも1種の元素を含み、0≦x<2、0≦y≦2を満たす。ただし、(x,y)=(0,0)及び(0,2)は除く。)で表される化合物及びその原料のうち少なくとも一方と、酸、塩、及び有機金属化合物のうち少なくとも1つとを含む水溶液を噴霧乾燥する工程を有する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、新たな負熱膨張材料微粒子群を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例のZn2-xMg微粒子群の電子顕微鏡写真である。
図2】実施例のZn2-xMg微粒子群の粒径分布を示す図である。
図3】エポキシ樹脂に実施例のZn2-xMg微粒子群を体積比で30%配合した複合材料と、エポキシ樹脂単体と、Zn2-xMg焼結体の線熱膨張を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[負熱膨張材料微粒子群]
本発明者らは、負熱膨張が発現する物質の候補として、Zn系に注目した。Znは、低温で単斜晶I2/cのα相、高温で単斜晶C2/mのβ相が安定し、温度の上昇によって約405Kで1.8%(格子定数からの計算値)の大きな収縮を伴う転移を示す。本発明者らは、ZnサイトやPサイトの一部を他の元素で置換した場合に負熱膨張特性を発現することを見出し、当該構成を有する負熱膨張材料微粒子群を考案した。
【0015】
本開示の負熱膨張材料微粒子群は、一般式(1)Zn2-x2-y(Tは、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Sb、La、Ta、W、Biから選ばれる少なくとも1種の元素を含み、Aは、Al、Si、V、Ge、Snから選ばれる少なくとも1種の元素を含み、0≦x<2、0≦y≦2を満たす。ただし、(x,y)=(0,0)及び(0,2)は除く。)で表され、負の線膨張係数を有し、レーザー回折/散乱式粒子径分布評価装置による体積頻度中心粒径(メジアン径)が30nm以上1μm未満の微粒子からなる。
【0016】
この態様によると、室温付近で負熱膨張が大きい安価な負熱膨張材料微粒子群を提供できる。また、この負熱膨張材料微粒子群を用いることにより、1μmレベルの微小部材や局所領域の精密な熱膨張制御が可能となる。また、負熱膨張材料微粒子群を樹脂などの基剤に分散させたときに、負熱膨張材料微粒子群の沈降を抑えることができるので、均質な分散を実現することができる。また、負熱膨張材料微粒子群のメジアン径が可視光の波長(300nm~800nm)と同等あるいはそれより小さいので、ガラスやアクリル等の透明又は半透明な材料に負熱膨張材料微粒子群を配合しても、可視光の透過性を維持することができる。
【0017】
なお、ここで「微粒子」とは、さらに小さな単結晶粒からなる集合体のことであり、「微粒子群」とは、レーザー回折/散乱式粒子径分布評価法による体積頻度中心粒径(メジアン径)が30nm以上1μm未満の径を有する微粒子の集合であるものとする。なお、以下において「レーザー回折/散乱式粒子径分布評価法による体積頻度中心粒径(メジアン径)」のことを単に「粒子径」ということがある。また、微粒子の粒子径は以下に説明する製造方法の条件を変更することにより適宜大きさを変更可能である。例えば、微粒子の粒子径は、0.9μm以下、0.8μm以下、0.7μm以下、0.6μm以下、0.5μm以下、0.4μm以下、0.3μm以下、0.2μm以下、0.1μm以下であってもよい。
【0018】
一般式(1)におけるxは、0<x≦1.6を満たしてもよい。より好ましくは、xは、0.05~1.6である。
【0019】
一般式(1)におけるyは、0≦y≦1.8を満たしてもよい。より好ましくは、yは、0≦y≦1.6であり、さらに好ましくは、yは、0~1.2である。
【0020】
ピロリン酸塩は、例えば、Mg、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znなど、多くの化学量論組成が存在することが知られており、柔軟な結晶構造を持つ。このため、周期表上でZnに近い数多くの元素が、一般式(1)におけるTとして好ましい。例えば、Mg、Al、Mn、Fe、CuなどがTとして好ましい。
【0021】
本開示の負熱膨張材料微粒子群は、200Kから380Kのうちの少なくとも一部の温度範囲で、上記粒子径において負の線膨張係数を有し、好ましくはα=-3.5ppm/K以下、より好ましくはα=-6ppm/K以下、更に好ましくはα=-10ppm/K以下、更に好ましくは-20ppm/K以下の線膨張係数を有するものである。負熱膨張材料微粒子群の線膨張係数は、-1ppm/K以下、-2ppm/K以下、-3ppm/K以下、-4ppm/K以下、-5ppm/K以下、-7ppm/K以下、-8ppm/K以下、-9ppm/K以下、-12ppm/K以下、-15ppm/K以下、-30ppm/K以下であってもよい。200K~380Kのうちの少なくとも一部の温度範囲で上記の負の線膨張係数を有していればよく、200K~380Kのうちの一部の温度範囲で上記の負の線膨張係数を有していなくてもよい。「少なくとも一部の温度範囲」は、任意の温度幅であってもよく、例えば、1Kであってもよいし、100Kであってもよい。
【0022】
なお、本開示において、負熱膨張材料微粒子群の線膨張係数は次のように評価される。微粒子一粒の熱膨張特性を測定するのは技術的に困難であるし、微粒子を焼結したものの熱膨張特性を測定しようとすると、焼結の過程で負熱膨張材料が変質する可能性がある。負熱膨張材料は、樹脂等の材料と複合化して、その熱膨張を抑制するために用いられることが主な用途であることに鑑みると、負熱膨張材料微粒子群の熱膨張係数は、負熱膨張材料微粒子群をエポキシ樹脂等の一般的な樹脂と複合化した複合材料において熱膨張がどの程度抑制されるかを測定することにより評価することが合理的である。したがって、本開示においては、複合材料の基剤と基剤に分散される負熱膨張材料微粒子群の体積比でそれぞれの熱膨張係数を案分することにより複合材料の線膨張係数を予測する複合則にしたがって、負熱膨張材料微粒子群の線膨張係数を評価する。
【0023】
複合則とは、基剤の体積比と線膨張係数をそれぞれν、α、微粒子の体積比と線膨張係数をそれぞれν、α、複合材料の線膨張係数をαとして、
α=να+να
の関係式より、複合材料の線熱膨張を予測するものである。ここで、ν+ν=1である。この式に基づき、
α=(α-να)/ν
より、負熱膨張材料微粒子群の線膨張係数を評価する。α以外は、全て容易に実測することができる。この手法によれば、基剤の種類によらず、負熱膨張材料微粒子群の線膨張係数αとして同じ値を得ることができるので、線膨張係数αが既知又は実測可能なものであれば任意の材料を基剤として用いることができる。しかしながら、金属やセラミックスを基剤とする場合は、複合化のための熱処理温度が樹脂に比べて高いため、複合化の過程で負熱膨張材料が変質し、本来示される負熱膨張より劣った値が示される場合があることが過去の文献(例えば、「Matrix-filler interfaces and physical properties of metal matrix composites with negative thermal expansion manganese nitride」、K. Takenaka, K. Kuzuoka, and N. Sugimoto、J. Appl. Phys. 118, 084902 (2015))で報告されており、負熱膨張材料微粒子群の線膨張係数を評価する目的としては好ましくない。このため、エポキシ樹脂を基剤として用いるのが好適である。後述の実施例においては、エポキシ樹脂を基剤として負熱膨張材料微粒子群と複合化した複合材料を用いて負熱膨張材料微粒子群の線膨張係数を評価した。200K~380Kにおけるαの平均値を、200K~380Kにおける負熱膨張材料微粒子群の線膨張係数とする。負熱膨張材料微粒子群が大きな負熱膨張を示す温度域は化学組成により変化しうるので、熱膨張を評価する温度域は、負熱膨張材料微粒子群の熱膨張抑制能力を適切に評価するために適宜変更されてもよい。例えば、250K~350K、200K~350K、300K~380Kなどが好ましい場合もある。温度範囲の両端におけるαの平均値を、その温度範囲における負熱膨張材料微粒子群の線膨張係数としてもよい。
【0024】
[負熱膨張材料微粒子群の製造方法]
本開示の負熱膨張材料微粒子群の製造方法は、一般式(1)Zn2-x2-y(Tは、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Sb、La、Ta、W、Biから選ばれる少なくとも1種の元素を含み、Aは、Al、Si、V、Ge、Snから選ばれる少なくとも1種の元素を含み、0≦x<2、0≦y≦2を満たす。ただし、(x,y)=(0,0)及び(0,2)は除く。)で表される化合物及びその原料のうち少なくとも一方と、酸、塩、及び有機金属化合物のうち少なくとも1つとを含む水溶液を噴霧乾燥する工程を有する。得られた粒子を粉砕する粉砕工程を有してもよい。得られた粒子を分級する工程を有してもよい。
【0025】
粉砕工程は、レーザー回折/散乱式粒子径分布評価装置による体積頻度中心粒径(メジアン径)が30nm以上1μm未満の微粒子からなる負熱膨張微材料粒子群が得られるように実行される。
【0026】
噴霧乾燥(スプレードライ)法によれば、従来の固相反応法に比べて、粒径が小さく、粒度分布が狭く、粒子の形状が等方的である粒子を得ることができる。これにより、従来の固相反応法で得られた大きな結晶を粉砕するのに比べて、圧倒的に小さな力学的負荷で粉末を粉砕することができるので、負熱膨張の特性が維持された微粒子群を得ることができる。篩い分けなどの分級工程を取り入れることで、さらに粒径や粒度分布を調整することもできる。
【0027】
酸は、有機酸であってもよいし、無機酸であってもよい。有機酸として、例えば、クエン酸、酢酸などを用いることができる。塩は、有機酸とアルカリの塩であってもよいし、無機酸とアルカリの塩であってもよい。塩として、例えば、金属硝酸塩、金属酢酸塩、金属硫酸塩、金属塩化物、金属脂肪酸などを用いることができる。有機金属化合物として、金属アルコキシド、金属アセチルアセトナートなどを用いることができる。金属を硝酸、塩酸、硫酸などで溶解した水溶液を用いてもよい。
【0028】
水溶液を調整する際に、一般式(1)で表される化合物自体を溶解させてもよいし、一般式(1)で表される化合物の原料を溶解させてもよい。
【0029】
[複合材料]
本開示の複合材料は、本開示の負熱膨張材料微粒子群と、正の線膨張係数を有する正熱膨張材料と、を含む。これにより、正熱膨張材料の特性を維持しつつ温度変化に対する体積変化が抑制された複合材料を提供することができる。
【0030】
複合材料は、負熱膨張材料微粒子群として、上述した一般式(1)で表される負熱膨張材料の微粒子群を含んでもよい。複合材料は、一般式(1)で表される負熱膨張材料から選択された組成の異なる複数の負熱膨張材料の微粒子群を含んでもよい。複合材料は、更に、Mn-Zn-Sn-N系逆ペロフスカイト型マンガン窒化物、Mn-Zn-Ge-N系逆ペロフスカイト型マンガン窒化物など、一般式(1)で表される負熱膨張材料以外の任意の種類の負熱膨張材料の微粒子群を含んでもよい。複合材料は、2種以上の負熱膨張材料の微粒子群を含んでもよい。
【0031】
複合材料は、正熱膨張材料として、金属、半導体、絶縁体、樹脂、セラミックなどを含んでもよい。複合材料は、これらの正熱膨張材料のうち1種のみを含んでもよいし、任意の2種以上の組合せを含んでもよい。
【0032】
複合材料は、正熱膨張材料として、金属及び半導体のうち少なくともいずれかを含んでもよい。金属は、例えば、アルミニウム、銅、鉄、チタン、及び真鍮のうち少なくとも1つを含んでもよい。半導体は、例えば、シリコンなどを含んでもよい。
【0033】
複合材料は、正熱膨張材料として、絶縁体を含んでもよい。絶縁体は、例えば、ガラス、接着剤、顔料、及びゴムのうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0034】
複合材料は、正熱膨張材料として、樹脂を含んでもよい。樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリルブタジエン樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレン、及びポリエチレンテレフタレートのうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0035】
複合材料は、正熱膨張材料として、セラミックを含んでもよい。セラミックは、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、及びシリコンカーバイトのうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0036】
本実施の形態に係る部品は、上記の複合材料を含む。これにより、温度変化に対する体積変化が抑制された部品が実現できる。具体的には、温度による形状や寸法の変化を嫌う精密光学部品や機械部品、プロセス機器・工具、ファイバーグレーティングの温度補償材、プリント回路基板、電子部品の封止材、熱スイッチ、冷凍機部品、人工衛星部品などに利用することができる。特に、正の熱膨張率の大きな樹脂のマトリックス相に負熱膨張材料が分散された複合材料とすることで、樹脂材料においても熱膨張を抑制、制御することが可能となるため、様々な用途での利用が可能となる。
【0037】
[実施例]
本開示の負熱膨張材料微粒子群の製造方法により、Zn2-xMg(一般式(1)において、T=Mg、y=0)の負熱膨張材料微粒子群を製造した。
【0038】
(Zn2-xMg粉末の調整)
クエン酸水溶液に溶解するためのZn2-xMgの粉末を、固相反応法により作製した。原料として、ZnO(純度:99.9%)、MgO(99.9%)、NHPO(純度:99%)の粉末を定められたモル比で秤量し、メノウ製の乳鉢と乳棒で混合した後、大気中800~850℃で2~6時間、アルミナ坩堝に入れて焼成した。焼成後に取り出して、再びメノウ製の乳鉢と乳棒で混合した後、大気中850~900℃で2~10時間、アルミナ坩堝に入れて焼成した。
【0039】
後述する線熱膨張特性の評価に用いるZn2-xMg焼結体を作製する場合は、上述の工程のうち、前半の800~850℃で焼成した後で、メノウ製の乳鉢と乳棒で混合し、圧粉、成形した後、大気中で850~900℃、2~10時間、アルミナボートに入れて焼結した。
【0040】
(Zn2-xMgのクエン酸水溶液の調整)
水200gに対し、クエン酸を3~15gと、Zn2-xMgを2~10g加え、室温から90℃の温度で溶解した。上記のように固相反応法を用いて予め合成したZn2-xMg粉末を用いる場合は、溶解度が低く、高濃度のクエン酸水溶液を得ることが難しいので、加熱して溶解させてもよい。Zn2-xMg粉末に代えて、Zn2-xMgの原料であるZnO、MgO、NHPO又は(NHHPOを用いてクエン酸水溶液を調整することがより望ましい。酸としては、クエン酸の他、酢酸などの有機酸や、塩酸、硝酸なども用いることができる。塩酸を用いる場合、生成物に不純物として塩化物が混じるので、生成後、水で洗浄し、これらの不純物を除去する。
【0041】
(噴霧乾燥及び焼成)
調整したクエン酸水溶液を、スプレードライヤーにより乾燥、造粒し、クエン酸塩の粉末を得た。この粉末をアルミナ坩堝に入れ、大気中で400℃、5時間加熱してクエン酸塩を分解した。得られた粉末を、遊星ボールミルを用いて粉砕し、アルミナ坩堝に入れ、大気中850~900℃、2~10時間焼成した。
【0042】
(粉砕による微粒子化)
作製した粉末を更に遊星ボールミルで10分~1時間程度粉砕した。これにより、負熱膨張特性を維持したまま、メジアン径を1μm未満まで小さくすることができた。スプレードライ法は、従来の固相反応法に比べて、粒径が小さく、粒度分布が狭く、形状が等方的な粒子を得ることができる。したがって、従来の固相反応法で得られた、大きな結晶を粉砕するのに比べて、圧倒的に小さな力学的負荷で粉砕でき、負熱膨張の特性も維持できる。
【0043】
(Zn2-xMg微粒子群の評価)
図1は、実施例のZn2-xMg微粒子群の電子顕微鏡写真である。図2は、実施例のZn2-xMg微粒子群の粒径分布を示す。メジアン径が1μm未満であるZn2-xMg微粒子群が製造できたことが示される。
【0044】
図3は、エポキシ樹脂(Adeka EP-4100E/EH-105L)に実施例のZn2-xMg微粒子群を体積比で30%配合した複合材料と、エポキシ樹脂単体と、Zn2-xMg焼結体の線熱膨張を示す。ここで、体積比の算出には、エポキシ樹脂の真比重として1.16、Zn2-xMg(x=0.4)の真比重として3.17を、それぞれ用いた。固体材料の熱膨張は、線熱膨張ΔL/Lで評価される。図3の縦軸の線熱膨張ΔL/Lは、100Kの長さLを基準とした長さ変化である。長さ変化は、レーザー熱膨張計(LIX-2:株式会社アルバック製)を用いて測定した。線熱膨張の傾き、すなわち温度微分が線膨張係数αである。方向依存性がない等方的な材料の場合、線熱膨張は本質的に体熱膨張を表し、ΔV/V=3ΔL/Lの関係にある(Vは体積)。
【0045】
複合材料の線熱膨張の測定値は、200K~380Kの温度範囲、とりわけ250K~350Kの温度範囲において、特に有効にエポキシ樹脂の熱膨張を抑制していることが示された。250K~350Kの温度範囲において、上述した複合則により求めた実施例のZn2-xMg微粒子群の線膨張係数は、-53ppm/Kとなっている。
【0046】
なお、実施例では、ZnにおけるZnの一部をMgに置換した例について説明しているが、Znの一部をAl、Si、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Sb、La、Ta、W、Bi等の元素で置換した場合も、同様の負熱膨張特性を示すと考えられる。また、Pの一部をAl、Si、V、Ge、Sn等の元素で置換した場合も、同様の負熱膨張特性を示すと考えられる。
【0047】
以上、本開示を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
図1
図2
図3