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特開2024-100587マンホールライニング工法および押さえ治具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100587
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】マンホールライニング工法および押さえ治具
(51)【国際特許分類】
   E03F 5/02 20060101AFI20240719BHJP
   E03F 7/00 20060101ALI20240719BHJP
   E02D 29/12 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
E03F5/02
E03F7/00
E02D29/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004691
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】508165490
【氏名又は名称】アクアインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉延 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100164242
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 直人
(74)【代理人】
【識別番号】100172498
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】梅田 卓佳
(72)【発明者】
【氏名】五老 祐大
【テーマコード(参考)】
2D063
2D147
【Fターム(参考)】
2D063DA17
2D063DA21
2D063DA24
2D063DA30
2D063EA06
2D147BA01
2D147BA07
2D147BA29
2D147CA04
2D147MB11
2D147MC01
2D147MC06
2D147NA01
2D147NA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】マンホールの内周壁を裏打ちするマンホールライニング工法およびその工法で使用される押さえ治具に関し、作業性を良好にする。
【解決手段】マンホールMの内周壁Mi全周を内周壁Miとの間に充填空間Sを残して内周壁Miの内側から覆う筒状モールド12を充填空間Sを残しながら内周壁Mi側に押さえる押さえ治具5であって、筒状モールド12の内周壁12iに接し、周方向に隙間51Sが設けられた円弧状帯体51と、隙間51Sの大きさを調整する調整手段520とを備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円弧状のシート体の周方向両端を重ね合わせた縮径状態で該シート体を前記マンホールの入口の開口から該マンホール内に挿入する挿入工程と、
前記縮径状態の前記シート体を拡径し該シート体の周方向両端部分をつなぎ合わせ筒状モールドとし、該筒状モールドの外周面と前記マンホールの内周壁との間に充填空間を形成する充填空間形成工程と、
前記充填空間に充填材を充填する充填工程とを有し、
前記充填工程は、周方向に隙間が設けられた円弧状帯体を、前記筒状モールドの内側であって、該隙間が前記シート体の周方向両端部分をつなぎ合わせた箇所に位置するように設置し、該隙間を拡げるように拡径することで、前記充填空間を残しつつ該筒状モールドを前記マンホールの内周壁側に向けて押しながら実施する工程であることを特徴とするマンホールライニング工法。
【請求項2】
マンホールの内周壁全周を該内周壁との間に充填空間を残して該内周壁の内側から覆う筒状モールドを該充填空間を残しながら該内周壁側に押さえる押さえ治具であって、
前記筒状モールドの内周壁に接し、周方向に隙間が設けられた円弧状帯体と、
前記隙間の大きさを調整する調整手段とを備えたことを特徴とする押さえ治具。
【請求項3】
前記円弧状帯体は、前記筒状モールドの内周壁に接する面に加熱機構を有するものであることを特徴とする請求項2記載の押さえ治具。
【請求項4】
前記調整手段は、前記円弧状帯体と分離可能なものであり、
前記円弧状帯体は、可撓性を有するものであり、前記調整手段が分離されると弓状になるまで開くことが可能なものであることを特徴とする請求項2又は3記載の押さえ治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
マンホールの内周壁を裏打ちするマンホールライニング工法およびその工法で使用される押さえ治具に関する。
【背景技術】
【0002】
マンホールは一般的にコンクリート製であり、長い間には地中管、特に下水管内で発生する硫化水素によって内壁面が腐食する場合がある。また、車道に埋設されたマンホールでは、土圧や車両の振動によって内壁面に亀裂が発生する場合もある。さらには、経年劣化によってマンホールの強度が低下する場合もある。これらの場合には、マンホールの補修が必要になる。
【0003】
ところが、交通事情により、また補修費用を抑えるためには、開削によるマンホールの補修は困難である。
【0004】
そこで、非開削でマンホールの補修を行う方法として、円弧状の補修材を縮径状態でマンホールの入口の開口からマンホール内に挿入し、その補修材を拡径し補修材の周方向両端部分をつなぎ合わせ筒状とし、筒状の補修材の外周面とマンホールの内周壁との間になる充填空間にエポキシ樹脂又はグラウト材を充填してそのエポキシ樹脂又はグラウト材を硬化させ、補修材の内周面がマンホールの新たな内周壁となる工法が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。この特許文献1には、筒状の補修材を充填空間を残しつつ内周壁側に向けて押し拡げるにあたり、一箇所が切断されたばね鋼製のリング体の径をラックピニオン機構を用いて変化させる構造の押さえ治具が用いられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-243082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された押さえ治具は、一箇所が切断されてはいるもののリング体であることから、補修材の周方向両端部分をつなぎ合わせる作業が、押さえ治具を設置した箇所では押さえ治具が邪魔になって行いにくいといった作業性の問題が生じる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、作業性が良好なマンホールライニング工法および押さえ治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を解決する本発明のマンホールライニング工法は、
マンホールの内周壁を裏打ちするマンホールライニング工法であって、
円弧状のシート体の周方向両端を重ね合わせた縮径状態で該シート体を前記マンホールの入口の開口から該マンホール内に挿入する挿入工程と、
前記縮径状態の前記シート体を拡径し該シート体の周方向両端部分をつなぎ合わせ筒状モールドとし、該筒状モールドの外周面と前記マンホールの内周壁との間に充填空間を形成する充填空間形成工程と、
前記充填空間に充填材を充填する充填工程とを有し、
前記充填工程は、周方向に隙間が設けられた円弧状帯体を、前記筒状モールドの内側であって、該隙間が前記シート体の周方向両端部分をつなぎ合わせた箇所に位置するように設置し、該隙間を拡げるように拡径することで、前記充填空間を残しつつ該筒状モールドを前記マンホールの内周壁側に向けて押しながら実施する工程であることを特徴とする。
【0009】
本発明のマンホールライニング工法によれば、前記円弧状帯体の前記隙間が、前記シート体の周方向両端部分をつなぎ合わせた箇所に位置するため、該隙間を利用して、該箇所に対する目地処理等の作業を容易に行うことができ、作業性が良好である。
【0010】
上記目的を解決する本発明の押さえ治具は、
マンホールの内周壁全周を該内周壁との間に充填空間を残して該内周壁の内側から覆う筒状モールドを該充填空間を残しながら該内周壁側に押さえる押さえ治具であって、
前記筒状モールドの内周壁に接し、周方向に隙間が設けられた円弧状帯体と、
前記隙間の大きさを調整する調整手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明の押さえ治具によれば、前記隙間を利用して、前記筒状モールドの目地処理等の作業を容易に行うことができ、作業性が良好になる。
【0012】
なお、前記調整手段は、操作されることで前記隙間の大きさが変化する操作部が設けられたものであってもよい。さらに、前記操作部は、前記隙間から外れた位置に設けられたものであることが好ましい。
【0013】
また、前記円弧状帯体は、金属部品が取り付けられたものであってもよいが樹脂によって形成されたものであることが、軽くなり、作業性が向上することから好ましい。
【0014】
また、前記円弧状帯体は、10cm以上の幅を有することも好ましい。前記円弧状帯体の幅が広ければ、前記筒状モールドを押さえる面積が拡がり、該円弧状帯体の設置数が少なくてすみ、設置の手間が省け好ましい。また、上述のごとく、前記円弧状帯体が樹脂によって形成されたものであれば、軽くなり、幅広にしても作業性が悪化することは避けられる。
【0015】
また、上記押さえ治具において、
前記円弧状帯体は、前記筒状モールドの内周壁に接する面に加熱機構を有するものであることを特徴としてもよい。
【0016】
前記充填空間に充填される充填材が、硬化性充填材である場合、前記加熱機構によって加熱され、硬化時間を短縮することができる。特に、冬場や寒冷地では前記加熱機構による加熱が有効である。
【0017】
なお、ここでも記円弧状帯体が幅広であれば、前記加熱機構の加熱面積も広く確保することができ好ましい。
【0018】
さらに、上記押さえ治具において、
前記調整手段は、前記円弧状帯体と分離可能なものであり、
前記円弧状帯体は、可撓性を有するものであり、前記調整手段が分離されると弓状になるまで開くことが可能なものであることを特徴としてもよい。
【0019】
前記円弧状帯体が弓状になるまで開くことが可能なものであることによって、該円弧状帯体を縮径状態にせずに開いた状態で前記マンホールの入口の開口から入れることができ、この点からも作業性が向上する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、作業性が良好なマンホールライニング工法および押さえ治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】補修対象となるマンホールの一例を示す図である。
図2】本実施形態のマンホールライニング工法のフローチャートを示す図である。
図3図1に示すマンホールの内側に設置されたモールドを示す図である。
図4】直壁モールド12の内周側に設置した押さえ治具を示す図である。
図5】押さえ治具5の、調整機構52の周辺を示す図である。
図6】(A)は直壁モールド12の接続部123を水平方向に断面した状態を模式的に示す図であり、(B)は(A)に示す接続部の変形例を(A)と同様に示す図である。
図7】(A)は斜壁モールドを構成する4分割されたシート体を示す図であり、(B)は首モールド部と本体モールド部の接続箇所を模式的に示す図である。
図8】(A)は本体モールド部11Mを真上から見た模式図であり、(B)は正面モールド部111の傾斜角度を調整した様子を模式的に示す図であり、(C)は変形例の本体モールド部11M’を真上から見た模式図であり、(D)は設置が完了した斜壁モールド11を正面斜め上方から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0023】
図1は、補修対象となるマンホールの一例を示す図である。
【0024】
マンホールは、常時、人が出入りできない地下構造物において、人がその地下構造物を点検するための出入口であり、埋設されたコンクリート成形体になる。マンホールには、現場でコンクリートを打設することで作製されるものもあれば、工場で製造されたユニットタイプのものを積み上げた構造のものもある。図1には、後者のものの一例が示されている。また、図1に示すマンホールは下水道用のものである。
【0025】
図1(A)はマンホールの正面から見た断面図を示し、同図(B)はマンホールの側面から見た断面図を示す。図1(B)では図の左側が正面側になり、右側が背面側になる。
【0026】
図1(A)及び同図(B)には、マンホールMの入口の開口を塞ぐ開閉可能な蓋体MCと、その蓋体MCを受ける受枠MRが示されている。マンホールMは、高さ調整部材M1、斜壁体M2、2つの直壁体M3、管取付け壁体M4およびインバートM5によって構成されている。また、斜壁体M2および2つの直壁体M3には、背面側の内周壁に昇降用の足掛け金具SPが取り付けられている。
【0027】
高さ調整部材M1は、蓋体MCの表面を地面の高さ位置に合わせるための部材であり、調整用のモルタルであったり、既製の調整リングであったり、施工現場で打設されたコンクリート製のリングであったりする。高さ調整部材M1の上に受枠MRは設置される。
【0028】
斜壁体M2は、工場で製造されたコンクリート製のものである。この斜壁体M2は、図1(B)に示すように片側傾斜のものであり、正面側が下方に向かうほど径方向外側に傾斜している。なお、厳密には、背面側も下方に向かうほど径方向外側に傾斜しているが、この背面側の傾斜角度は正面側の傾斜角度に比べて遙かに小さい。斜壁体には、両側傾斜のものもあり、両側傾斜のものは、正面側と背面側が同じ傾斜角度で傾斜している。なお、斜壁体としては、片側傾斜にしても両側傾斜にしても様々な傾斜角度のものがある。
【0029】
直壁体M3も、工場で製造されたコンクリート製のものである。この直壁体M3は、円筒状のものであり、ここでは2段に積み上げられている。なお、直壁体としては、様々な高さのものがある。
【0030】
管取付け壁体M4も、工場で製造されたコンクリート製の円筒状のものである。
【0031】
図1(C)は、管取付け壁体M4を上方から見た図である。
【0032】
図1(B)や同図(C)に示すように、管取付け壁体M4には流入管IPと流出管OPそれぞれが接続される。管取付け壁体M4の底部には、インバートM5が配置され、流入管IPと流出管OPは、このインバートM5に設けられた溝M51によって接続されている。
【0033】
高さ調整部材M1と斜壁体M2の間M12、斜壁体M2と上方の直壁体M3の間M23、2つの直壁体M3の間M33、下方の直壁体M3と管取付け壁体M4の間M34それぞれは、シール部材でシールされている。
【0034】
図2は、本実施形態のマンホールライニング工法のフローチャートを示す図である。
【0035】
本実施形態のマンホールライニング工法では、まず、下地処理を行う(ステップS1)。下地処理では、マンホールMの内周壁の汚れ、堆積付着物、脆弱部、劣化部を高圧洗浄により除去する。なお、高圧洗浄後に劣化部が残っている場合は、削り作業により劣化部を削り落とす。
【0036】
ステップS2では、施工前処理を行う。この施工前処理では、足掛け金具SPを切断し、除去する。また、マンホールMの内周面に大きなひび割れが生じていたり、浸入水が漏れ出している場合には、充填材を充填しシール処理を施す。
【0037】
ステップS3では、施工面調査を行う。本実施形態のマンホールライニング工法では、マンホールMの設計段階の内径に戻してから施工を行うことが好ましい。このため、施工面調査を行い、マンホールMの内周面を修復材を用いて修復する場合がある。修復した内周面は、後述する充填材との接着性を良くするため凹凸状に加工しておくことが好ましい。
【0038】
続いて、モールドの設置を行う。モールドは、マンホールMの内周壁よりも内側にその内周壁全周にわたって設置され、モールドの外周面とマンホールMの内周壁との間に充填空間を形成するためのものである。
【0039】
図3は、図1に示すマンホールの内側に設置されたモールドを示す図である。図3(A)は、マンホールの正面から見たモールドの断面図であり、同図(B)は、マンホールの側面から見たモールドの断面図である。図3(B)では、正面側が図の左側になり、背面側が図の右側になる。なお、図3では、マンホールMを図1を用いて説明した構成要素に分けて示さず一体の状態で示している。
【0040】
モールドには、斜壁モールド11、直壁モールド12、インバートモールド13の3種類のモールドがある。斜壁モールド11は、図1に示す高さ調整部材M1および斜壁体M2の内側に設置された筒状のものである。斜壁モールド11の上縁11uは、高さ調整部材の上端M1uよりも下方に位置し、斜壁モールド11の上縁11uが受枠MRに干渉しないようにしている。直壁モールド12は、図1に示す直壁体M3の内側に設置された筒状のものである。インバートモールド13は、図1に示す管取付け壁体M4のうち、インバートM5の肩M52よりも上の内側に設置された筒状のものである。
【0041】
図3に示すように、インバートモールド13の上に直壁モールド12が積み上げられ、その直壁モールド12の上に斜壁モールド11が積み上げられている。なお、直壁モールド12は1段であるが、上下方向複数段に分割して積み上げてもよい。下方に位置するモールドの上端部には径方向外側に拡がったラップ部121、131が設けられている。積み上げられるモールドの下端部は、このラップ部121、131の内側に嵌め込まれ、ラップ部121、131に下端部がラップした状態になる。
【0042】
各モールド11~13には、径方向外側に突出した突出部11N2、122、132が全周にわたって周方向に間隔をあけて均等に設けられている。各突出部11N2、122、132の突出長は設計厚(例えば6mm)である。これらの突出部11N2、122、132がマンホールMの内周壁Miに当接し、各モールド11~13の外周面11o、12o、13oとマンホールの内周壁Miとの間に充填空間Sが形成される。各突出部11N2、122、132は、充填材が流れ落ちることを妨げないように、上下方向の長さよりも周方向の長さを短くしている。斜壁モールド11では、高さ調整部材M1の内側となる部分に突出部11N2が設けられている。直壁モールド12では、ラップ部121に突出部122が設けられ、さらに、その下の上下方向2箇所の位置に突出部122が設けられている。インバートモールド13でも、ラップ部131に突出部132が設けられ、さらに、その下の上下方向1箇所の位置に突出部132が設けられている。詳しくは後述するが、一部の突出部11N2、122、132には、アンカーボルトABが打ち込まれている。
【0043】
図2に示すステップS4では、最も下方に位置するインバートモールド13用のシート体をマンホールの入口の開口Mhから挿入する。インバートモールド13は、挿入される段階では、筒状ではなく、円弧状のシート体である。このシート体は、硫化水素に耐性のあるビニルエステルを主成分とした樹脂製のものである。シート体は、周方向両端を重ね合わせた縮径状態でマンホールMの入口の開口から挿入される。なお、インバートモールド13用のシート体と、後述する直壁モールド12用のシート体と違いは、高さ方向(縦方向)の長さが異なるだけである。
【0044】
ステップS5では、マンホールM内に挿入したシート体の下端部を、インバートM5における肩M52の形状に合わせて寸法取りを行い、シート体を地上に一旦引き上げる。地上では、シート体の下端部を、肩M52の形状に合うように加工するとともに、流入管IPおよび流出管OPの位置では、それらの管に合致するように半円状に切り抜く。図3(A)に示すインバートモールド13の下縁133は、インバートM5における肩M52に沿って傾斜しているとともに流出管OPの上半分に合致している。
【0045】
下端部の加工が終了すると、シート体をマンホールの入口の開口Mhから再び挿入する。マンホール内では、シート体をインバートM5の上で、突出部132がマンホールの内周壁Miに当接するまで作業者の手によって拡径し、シート体は、周方向の両端部どうしが重なり合った筒状のインバートモールド13になる。図3(B)では、シート体の、周方向の両端部どうしが重なり合った箇所を2点鎖線で表している。インバートモールド13では、周方向の両端部どうしが重なり合った箇所は背面側になる。周方向の両端部どうしが重なり合った状態で、複数設けられた突出部132の中から、周方向に均等に散らばるように選択された一部の突出部132において、マンホールの内周壁Miに向けてアンカーボルトABを打ち込み、インバートモールド13がマンホールの内周壁Miに固定され、インバートモールド13の設置が完了する(ステップS6)。
【0046】
ステップS7では、直壁モールド12用のシート体をマンホールの入口の開口Mhから挿入する。直壁モールド12用のシート体は、インバートモールド13用のシート体の2倍程度の高さがあるが、直壁モールド12用のシート体も、インバートモールド13用のシート体と同じく、挿入される段階では、筒状ではなく、円弧状のシート体である。また、直壁モールド12用のシート体もビニルエステルを主成分とした樹脂製のものである。このシート体は、周方向両端を重ね合わせた縮径状態でマンホールMの入口の開口Mhから挿入される。
【0047】
マンホールM内に挿入された直壁モールド12用のシート体の下端部を、下段のモールドのラップ部(ここではインバートモールド13のラップ部131)の内側に嵌め込み、突出部122がマンホールの内周壁Miに当接するまで作業者の手によってシート体を拡径し、シート体は、周方向の両端部どうしが重なり合った筒状の直壁モールド12になる。直壁モールド12では、周方向の両端部どうしが重なり合った箇所は、インバートモールド13における重なり合った箇所とは反対側の正面側になる。モールドを積み上げていく場合、周方向の両端部どうしが重なり合った箇所が上下のモールドで180度ずつズレるようにしている。周方向の両端部どうしが重なり合った状態で、複数設けられた突出部122の中から、周方向に均等に散らばるように選択された一部の突出部122において、マンホールの内周壁Miに向けてアンカーボルトABを打ち込み、直壁モールド12がマンホールの内周壁Miに固定され、直壁モールド12の設置が完了する(ステップS8)。
【0048】
マンホールMの深さが深い場合には、直壁モールド12を複数段積み重ねる必要があり、ステップS9では、次の直壁モールド12がないかを確認し、次の直壁モールド12がなくなるまでステップS7及びステップS8を繰り返す。なお、直壁モールド12は、ラップ部121より下の高さが30cmのものと、60cmのもと、90cmのものと、120cmのものが用意されている。図3に示す直壁モールド12は、ラップ部121より下の高さが90cmのものになる。
【0049】
ステップS10では、充填材を充填する前に、インバートモールド13および直壁モールド12それぞれの内周側に押さえ治具を設置する。インバートモールド13および直壁モールド12は、マンホールの内周壁MiにアンカーボルトABで固定されてはいるものの、充填空間Sに充填材が充填されると、充填材の重みで内側に膨らんだり倒れ込むようになる場合があり、押さえ治具による内側からの押さえが必要になる。
【0050】
図4は、直壁モールド12の内周側に設置した押さえ治具を示す図である。図4(A)は、マンホールを構成するうちの一つである直壁体M3を真上から見た図である。図の上方が正面側になり、下方が背面側になる。
【0051】
この図4(A)には、直壁モールド12と、その直壁モールド12の内周側に設置された押さえ治具5が示されている。図4(A)に示す直壁モールド12は、突出部122が図示省略されているが、図4(A)には充填空間Sも示されている。また、直壁モールド12における周方向の両端部どうしが重なり合った接続部123にはハッチングを施している。図4(A)では、直壁モールド12の厚みにしても、充填空間Sの厚さにしても誇張して示している。
【0052】
押さえ治具5は、周方向に隙間51Sが設けられた円弧状帯体51と、その隙間51Sの大きさを調整する調整機構52と、シリコンラバーヒータ531を有する加熱機構を備えている。シリコンラバーヒータ531は、円弧状帯体51の外周面に設けられたものであるが、図4(A)では、このシリコンラバーヒータ531と円弧状帯体51を厚みを誇張して一体的に示している。また、図4(A)では、加熱機構のうちシリコンラバーヒータ531のみを示し、他は図示省略している。
【0053】
円弧状帯体51は、耐熱性の樹脂材料で形成されている。例えば、モールドと同じ樹脂を用いてもよい。円弧状帯体51は、周方向に設けられた隙間51Sが、直壁モールド12における接続部123に位置するように設置される。後述するように、この接続部123には目地処理が行われるため、円弧状帯体51によって接続部123を塞がないようにしている。円弧状帯体51の周長は、直壁モールド12をマンホールの内周壁Mi(直壁体M3の内周壁)に向けて押し付けた際でも、接続部123を塞がない長さであることが必要になる。また、円弧状帯体51の幅(上下方向の長さ)は、10cm以上であることが好ましく、本実施形態の円弧状帯体51の幅は20cmである。円弧状帯体51は樹脂性のため20cmの幅があっても軽量であり、重さで取扱いに苦労することはない。また、円弧状帯体51は、樹脂製であることから可撓性を有するものであり、後述する操作回転体520を取り外せば、弓状になるまで開くことが可能である。このため、円弧状帯体51は、弓状になるまで開いた状態で、マンホールの入口の開口Mhから挿入することができ、この点でも取扱い性が良好である。
【0054】
図4(B)は、押さえ治具5の、直壁モールド12への設置例を示す図である。
【0055】
図4(B)には、直壁モールド12の側面図が示され、その直壁モールド12の内周側に設置された押さえ治具5が点線で示されている。押さえ治具5は、直壁モールド12のラップ部121を除いた箇所に設置可能であり、図4(B)に示す例では、ラップ部121の下に一つ設置され、そこから円弧状帯体51の幅Wを超えた間隔(この例では30cm程度)離してもう一つ設置されている。上方の押さえ治具5の位置は、突出部122の一部にかかる位置であり、下方の押さえ治具5の位置は、突出部122全体にかかる位置である。押さえ治具5を、突出部122の少なくとも一部にかかる位置に設置することで、押さえ治具5によって直壁モールド12をマンホールの内周壁Mi(直壁体M3の内周壁)に向けて強く押し付けても充填空間Sの設計厚を維持しやすくなり、充填空間Sの厚みが安定する。
【0056】
図4(A)に示す調整機構52は、左側ネジ棒521L、右側ネジ棒521R、操作ハンドル522、左側押し片523L、右側押し片523R、左側金具524Lおよび右側金具524Rを有する。
【0057】
左側ネジ棒521Lと右側ネジ棒521Rは互いに逆方向にネジが切られたネジ棒であり、操作ハンドル522の左側に左側ネジ棒521Lが固定され、操作ハンドル522の右側に右側ネジ棒521Rが固定されている。操作ハンドル522を回転操作すると左側ネジ棒521Lも右側ネジ棒521Rも軸周りに回転する。
【0058】
また、左側ネジ棒521Lには左側押し片523Lが螺合されており、右側ネジ棒521Rには右側押し片523Rが螺合されている。以下の説明では、左側押し片523L、左側ネジ棒521L、操作ハンドル522、右側ネジ棒521Rおよび右側押し片523Rを総称して操作回転体520と称する。この操作回転体520は、調整手段の一例に相当する。
【0059】
図5は、押さえ治具5の、調整機構52の周辺を示す図である。この図5は、円弧状帯体51の中心側から見た図であり、円弧状帯体51の内周面51iが図示されている。また、円弧状帯体51の、周方向に設けられた隙間51Sも示されている。さらに、この図5では、左側ネジ棒521Lと右側ネジ棒521Rが互いに逆ネジであることも示されている。
【0060】
左側金具524Lおよび右側金具524Rそれぞれは、アルミニウム製であり、固定部5241と受け部5242を備えている。固定部5241は、樹脂性の円弧状帯体51の中にインサートされたものであり、2本の延在体5241aと、プレート5241bを有する。プレート5241bには、貫通孔である固定孔fhが多数設けられている。2本の延在体5241aがある程度の長さをもって円弧状帯体51を形成する樹脂にインサートされるとともに、多数の固定孔fhにはその樹脂が入り込んで絡み合うことで、固定部5241は円弧状帯体51に強固に固定される。
【0061】
プレート5241bからは、受け部5242が円弧状帯体51の中心側に向かって突出している。受け部5242は上方が開口したフレーム状のものであり、操作回転体520が、上方の開口から着脱自在に装着される。すなわち、操作回転体520が装着されると、左側金具524Lの受け部5242には左側押し片523Lが収納され、右側金具524Rの受け部5242には右側押し片523Rが収納される。また、受け部5242は、左フレーム壁5242Lおよび右フレーム壁5242R(図5参照)で、装着された操作回転体520を回転自在に軸支する。操作回転体520が装着された状態では、操作ハンドル522は、円弧状帯体51の、周方向に設けられた隙間51Sに位置する。なお、操作ハンドル522を、隙間51Sから外れた箇所に位置するようにしてもよい。例えば、隙間51Sと受け部5242の間に位置するようにしてもよい。あるいは、左側金具524Lの受け部5242よりも左側と、右側金具524Rの受け部5242よりも右側それぞれに操作ハンドル522を設けてもよい。
【0062】
図4(A)に示すように、受け部5242には、ストッパ5242aが設けられている。受け部5242に装着した操作回転体520を操作ハンドル522によって所定方向に回転させると、左側押し片523Lも右側押し片523Rもストッパ5242aに当接し、左側ネジ棒521Lと右側ネジ棒521Rだけが軸周りに回転する。この結果、左側押し片523Lは左側金具524Lにおける受け部5242の左フレーム壁5242Lに当接し、右側押し片523Rは右側金具524Rにおける受け部5242の右フレーム壁5242Rに当接する。図5では、左側押し片523Lおよび右側押し片523Rは、受け部5242内に収納され本来は見えないが、左側金具524Lにおける受け部5242内で左フレーム壁5242Lに当接した左側押し片523Lと、右側金具524Rにおける受け部5242内で右フレーム壁5242Rに当接した右側押し片523Rとをそれぞれ点線で表している。ここからさらに、操作回転体520を所定方向に回転させ続けると、左側押し片523Lは、左側金具524Lにおける受け部5242の左フレーム壁5242Lを左側に向かって押し、右側押し片523Rは、右側金具524Rにおける受け部5242の右フレーム壁5242Rを右側に向かって押し、円弧状帯体51は隙間51Sが拡げられ拡径する。この結果、直壁モールド12は、押さえ治具5によってマンホールの内周壁Mi(直壁体M2の内周壁)に向けて押し付けられる。
【0063】
なお、操作回転体520を、受け部5242から取り外してしまえば、直壁モールド12への押し付けが一気に解除される。また、操作回転体520を所定方向とは反対の逆方向に回転させれば、左側押し片523Lは、左側金具524Lにおける受け部5242の左フレーム壁5242Lから離れ、右側押し片523Rは、右側金具524Rにおける受け部5242の右フレーム壁5242Rから離れ、直壁モールド12への押し付け力を弱めることができる。
【0064】
また、図5には、押さえ治具5が備える加熱機構53も示されている。加熱機構53は、シリコンラバーヒータ531の他に、そのシリコンラバーヒータ531に給電する給電ケーブル532と、シリコンラバーヒータ531の温度を測定する熱電対533を備える。図5では、円弧状帯体51の外周面に接したシリコンラバーヒータ531が示されている。シリコンラバーヒータ531の周長は、円弧状帯体51の周長と同じかそれよりわずかに短い。また、シリコンラバーヒータ531には、円弧状帯体51の上縁部に係止する固定用フック531fが周方向に間隔をあけて複数設けられており、シリコンラバーヒータ531が円弧状帯体51からズレ落ちることが防止されている。
【0065】
給電ケーブル532の先には不図示の温度調整用コントローラが設けられている。
【0066】
熱電対533は、シリコンラバーヒータ531の内周面に取り付けられる。円弧状帯体51では、シリコンラバーヒータ531の、熱電対533が取り付けられる箇所に対応した位置に切欠窓51wを設け、熱電対533は、その切欠窓51wからシリコンラバーヒータ531に取り付けられる。熱電対533は、不図示の温度表示器に接続されている。作業者は、その温度表示器を見ながら、不図示の温度調整用コントローラでシリコンラバーヒータ531の加熱温度を調整する。
【0067】
図2に示すステップS10では、シリコンラバーヒータ531を円弧状帯体51の外周面側に巻き付け、固定用フック531fを円弧状帯体51の上縁部に係止させる。次いで、シリコンラバーヒータ531が巻き付けられた円弧状帯体51を、直壁モールド12またはインバートモールド13の内周面側に配置し、操作回転体520を左右の受け部5242に装着する。続いて、操作回転体520を所定方向に回転させ、直壁モールド12またはインバートモールド13をマンホールの内周壁Miに向けて押し付ける。直壁モールド12からインバートモールド13にかけて、複数の押さえ治具5を上下方向に間隔あけて設置し、ステップS10の実行は完了する。
【0068】
ステップS10の実行が完了すると、直壁モールド12の接続部123、インバートモールド13の接続部およびインバートモールド13の下端部それぞれの目地処理を行う(ステップS11)。
【0069】
目地処理では、シリコンパテや耐酸エポキシパテといった目地材が用いられることが多いが、本実施形態では、目地材として、硫化水素に耐性のある樹脂を用いる。例えば、直壁モールド12用のシート体やインバートモールド13用のシート体に用いられる樹脂と同じ樹脂であるビニルエステルを主成分とした樹脂を用いる。
【0070】
図6(A)は、直壁モールド12の接続部123を水平方向に断面した状態を模式的に示す図である。また、図6(B)は、同図(A)に示す接続部の変形例を同図(A)と同様に示す図である。したがって、この図6(B)でも、同図(A)と同じように、直壁モールド12の接続部123を水平方向に断面した状態が模式的に示されている。
【0071】
図6(A)及び同図(B)では上方が直壁体M3になり、マンホールの内周壁Miが図示され、下方がマンホールの中心側になる。したがって、上方が外側であり、下方が内側になる。また、図6(A)及び同図(B)では、マンホールの内周壁Miと直壁モールド12の間には充填空間Sが確保されている。なお、厳密には、マンホールの内周壁Miは円弧状であるが、図6では直線状に描いており、充填空間Sや直壁モールド12も同様に直線状に描いている。
【0072】
まず、図6(A)を用いて本実施形態について説明する。この図6(A)に示す接続部123では、周方向一端側の一端部分1231が外側になり、他端側の他端部分1232が内側になるように重なり合っている。一端部分1231は、マンホールの内周壁Mi側に寄った第1退避部1233と、周方向一端の縁12aとの間の部分になる。第1退避部1233がマンホールの内周壁Mi側に寄った量(退避量)は、図の上下方向の長さになり、直壁モールド12の厚み方向の長さになる。
【0073】
直壁モールド12の、充填空間S側になる面、すなわち外周面12oには、充填空間Sに充填される充填材(ここではエポキシ樹脂を主成分とした常温硬化型の樹脂)との接着性を向上する目的でプライマー層PMが設けられている。図6では、このプライマー層PMを灰色で表している。プライマー層PMとしては、例えば、ポリエステル系プライマーが塗布された層があげられる。他端部分1232は、一端部分1231よりも内側で一端部分1231に重なることにより、他端部分1232の外周面12oは、一端部分1231に対向した面になる。この他端部分1232の外周面12oにもプライマー層PMが設けられている。また、一端部分1231の、他端部分1232に対向した面(内周面)にもプライマー層PMが設けられている。さらに、第1退避部1233では、直壁モールド12の周方向他端の縁12bに対向する面(内周面)にもプライマー層PMが設けられている。
【0074】
また、接続部123において外側になる一端部分1231には、内側に向けて突出した保持部1231aが設けられている。この保持部1231aは周方向(図6(A)では左右方向)に間隔をあけて上下方向(図6(A)では紙面に対して垂直方向)に延在した2本の突条体になる。保持部1231aの側面にもプライマー層PMが設けられている。他端部分1232は、これらの保持部1231aを間において一端部分1231に対向する。他端部分1232の厚みと保持部1231aの突出量を合わせた長さは、上記退避量の長さとほぼ同じである。このため、他端部分1232が、内側に突出したり、外側に入り込んでしまうことが抑えられている。
【0075】
ステップS11では、押さえ治具5における円弧状帯体51の隙間51Sから、他端部分1232をめくり上げて、一端部分1231に目地材を塗布する。隙間51Sが設けられていることで、目地材を塗布する作業性は良好である。一端部分1231には、保持部1231aが設けられているため、目地材は、この保持部1231aに担持され、流れ落ちてしまうことが阻止される。また、目地材は、第1退避部1233にも塗布される。プライマー層PMは、充填材である樹脂との接着性を上げる機能の他、目地材との接着性を上げる機能も有する。このため、目地材は、プライマー層PMによっても流れ落ちにくくなる。さらに、プライマー層PMによって、下地の平滑性が向上したり、目地材の樹脂の耐久性も向上することから、プライマー層PMは、サーフェイサー層としての機能も有し、プライマーサーフェイサー(プラサフ)層とみることもできる。目地材の塗布を終えると、めくり上げていた他端部分1232を戻し、他端部分1232を一端部分1231に向けて押さえつける。目地材は、一端部分1231と他端部分1232を接着する接着剤として機能する。こうした結果、接続部123は、図6(A)に示す状態になる。プライマー層PMによって一端部分1231と他端部分1232の接着力も高められており、一端部分1231と他端部分1232が剥がれにくくなり、マンホール新設時の強度近くまで復元でき耐震性も付与される。さらに、マンホール内で発生する場合がある硫化水素の進入も阻むことができる。図6(A)では、硫化水素に耐性のある目地材JMを点のハッチングで表している。目地材JMは、一端部分1231と他端部分1232との間および第1退避部1233と直壁モールド12の周方向他端の縁12bとの間に介在している。保持部1231aは一端部分1231と他端部分1232との間に目地材JMを介在させるスペースを形成する役目も果たしている。目地材JMは、硫化水素に耐性のある樹脂であることにより、モールドの内周面の他、接続部123も硫化水素で腐食されにくく、充填空間Sに充填されて硬化した充填材まで硫化水素が入り込みにくくなっている。また、目地材JMが、第1退避部1233と直壁モールド12の周方向他端の縁12bとの間にも介在することで、マンホール内で発生した硫化水素が図6(A)に示す矢印のように入り込むことを防止することもできる。
【0076】
次に、図6(B)における変形例について説明する。この変形例における一端部分1231は、図6(A)における実施形態と同じく、マンホールの内周壁Mi側に寄った第1退避部1233と、直壁モールド12の周方向一端の縁12aとの間の部分になる。また、変形例では、直壁モールド12の周方向他端側にも、第1退避部1233と同じ量だけマンホールの内周壁Mi側に寄った第2退避部1234が設けられており、他端部分1232は、その第2退避部1234と、直壁モールド12の周方向他端の縁12bとの間の部分になる。
【0077】
この変形例でも、直壁モールド12の、充填空間S側になる面、すなわち外周面12oには、充填空間Sに充填される充填樹脂との接着性を向上する目的でプライマー層PMが設けられている。また、この変形例では、一端部分1231および他端部分1232それぞれの内周面12iにもプライマー層PMが設けられている。さらに、第1退避部1233の内周面にも第2退避部1234の内周面にもプライマー層PMが設けられている。
【0078】
また、この変形例では、一端部分1231にも他端部分1232にも、内側に向けて突出した保持部がそれぞれ1本設けられている。一端部分1231に設けられた保持部1231aと、他端部分1232に設けられた保持部1232aは、周方向(図の左右方向)に離れており、それぞれの保持部1231a、1232aは、上下方向(紙面に対して垂直方向)に延在した突条体である。また、それぞれの保持部1231a、1232aの側面にもプライマー層PMが設けられている。
【0079】
この変形例によれば、ステップS8における直壁モールド12の設置では、直壁モールド12の周方向一端の縁12a(一端部分1231の縁)と周方向他端の縁12b(他端部分1232の縁)を突き当てる。この結果、一端部分1231および他端部分1232の領域が接続部123になる。ステップS10では、円弧状帯体51の隙間51Sをその接続部123の位置に合わせて、直壁モールド12の内周側に押さえ治具5を設置する。
【0080】
ステップS11の目地処理では、その隙間51Sから、接続部123に目地材を塗布する。この変形例の接続部123では、他端部分1232をめくり上げる必要がなく、作業性がより良好である。また、この変形例でも保持部1231a、1232aが設けられているため、目地材は、これらの保持部1231a、1232aに担持され、流れ落ちてしまうことが阻止される。また、目地材は、第1退避部1233にも第2退避部1234にも塗布されるが、プライマー層PMによっても流れ落ちにくくなる。目地材の塗布を終えると、接続部123に別部材である覆い部材1235を被せる。この覆い部材1235は、直壁モールド12と同じく、硫化水素に耐性のあるビニルエステルを主成分とした樹脂製のものである。また、覆い部材1235の、接続部123に対向する面にもプライマー層PMが設けられている。覆い部材1235は、保持部1231a、1232aを間において一端部分1231および他端部分1232と対向する。覆い部材1235の厚みと保持部1231a、1232aの突出量を合わせた長さは、第1退避部1233や第2退避部1234の退避量の長さとほぼ同じである。このため、覆い部材1235が、内側に突出したり、外側に入り込んでしまうことが抑えられている。接続部123に覆い部材1235を被せ、その覆い部材1235を接続部123に向けて押さえつける。目地材は、接続部123と覆い部材1235を接着する接着剤として機能する。こうした結果、図6(B)に示す状態になる。プライマー層PMによって接続部123と覆い部材1235の接着力も高められており、覆い部材1235が剥がれにくくなり、マンホール新設時の強度近くまで復元でき耐震性も付与される。さらに、硫化水素の進入も阻むことができる。図6(B)でも、目地材JMを点のハッチングで表している。目地材JMは、接続部123と覆い部材1235との間、第1退避部1233と覆い部材1235における第1退避部1233側の縁1235aとの間および第2退避部1234と覆い部材1235における第2退避部1234側の縁1235bとの間に介在している。保持部1231a、1232aは、接続部123と覆い部材1235との間に目地材JMを介在させるスペースを形成する役目も果たしている。また、この変形例では、直壁モールド12の縁12a,12bどうしを突き当てておくことで、充填空間Sに充填された充填材に硫化水素が進入しにくくなるが、縁12a,12bどうしの境目も目地材JMで塞がれるため、硫化水素がより進入しにくくなる。さらに、第1退避部1233近傍も第2退避部1234近傍も目地材JMで塞がれているため、ここからの硫化水素の進入も防ぐことができる。
【0081】
なお、接続部123の態様は、図6(A)および同図(B)に示した態様に限定されることはなく、一端部分1231と他端部分1232が硫化水素に耐性があるモールド用材料を用いてつなぎ合わされていればよい。
【0082】
ステップS11では、インバートモールド13の接続部についても同様に目地処理を行う。さらに、インバートモールド13の下縁133(図3(A)参照)とインバートM5における肩M52も目地処理を行い、インバートモールド13の、流入管IPおよび流出管OPに合わせて切り抜いた部分と流入管IPおよび流出管OPも目地処理を行う。こられの目地処理でも、目地材として、硫化水素に耐性のある樹脂(例えば、ビニルエステルを主成分とした樹脂)が用いられる。
【0083】
以上説明したステップS8~ステップS11が、充填空間形成工程の一例に相当する。
【0084】
ステップS11の目地処理が完了すると、充填空間Sに充填材を充填する(ステップS12)。充填材としては、エポキシ樹脂を主成分とした常温硬化型の樹脂が用いられる。より具体的には、主剤と硬化剤を施工現場で混合して充填材とする。なお、硬化促進剤を添加する場合もある。また、冬期や寒冷地では、温めながら混合作業を行うことが好ましい。直壁モールド12の上縁とマンホールの内周壁Mi(直壁体M3の内周壁)との間から充填材を充填空間Sに注入する。初回の最下部(インバートモールド13によって形成された充填空間Sの下部)への充填材の注入では、2回目以降の注入高さの半分以下の高さまでしか注入を行わない。これは、底部を硬化させて充填材の漏れがないことを確認するためである。2回目以降は、初回の注入高さの2倍以上7倍以下の高さを目安に充填材を注入する。7倍の高さを超えると、押さえ治具5を設置していても充填材の重みによる内側への膨らみを抑えることができない場合がある。また、樹脂は硬化する際に発熱するものであり、樹脂の容量が増えると熱がこもりやすく、モールドが熱変形してしまう恐れもある。一方、2倍未満であると作業効率が悪く施工時間が長くなってしまう。充填材の樹脂は常温硬化型の樹脂であるが、図5に示す熱電対533が接続された温度表示器を見ながら、温度調整用コントローラでシリコンラバーヒータ531の加熱温度を調整し、充填材の樹脂が硬化するのを待ってもよい。特に、冬期や寒冷地では有効である。充填した樹脂が硬化したか否かは、ハンマーを用いてモールドを叩くことでわかる(打音検査)。次回の注入は、充填した樹脂が硬化したことが確認できたら行う。こうして、充填材の充填を複数回に分けて行う。充填材が、直壁モールド12のラップ部121のすぐ下まで充填されるとステップS12は終了になる。この後、斜壁モールド11の下端部が直壁モールド12のラップ部121の内側に嵌め込まれるため、ラップ部121がある程度外側に拡がる余裕を確保するため、ステップS12ではラップ部121の高さまでは充填材を充填しないでおく。
【0085】
なお、充填材として樹脂の代わりにグラウト材を用いてもよい。グラウト材は、粉体セメントと混和液と水を現場で混合したものや、あらかじめ粉体セメントと混和液を配合したプレミックスタイプが用いられる。
【0086】
ステップS12に続いてステップS21が実行される。このステップS21では、斜壁モールドの設置を行う。これまで説明したシート体は円弧状であり、モールドを構成するシート体としては単体のものであったが、斜壁モールド11では、シート体は複数用意されている。すなわち、斜壁モールド11は、複数に分割されたシート体を組み合わせて形成される。
【0087】
図7(A)は、斜壁モールドを構成する4分割されたシート体(モールド部)を示す図である。この図7(A)では、紙面手前側がマンホールの正面側になり、紙面奥側がマンホールの背面側になる。
【0088】
上述のごとく、斜壁モールド11は、高さ調整部材M1および斜壁体M2の内側に設置されるものであり、高さ調整部材M1の内側に設置される首モールド部用のシート体Sh1は、インバートモールド13用のシート体や直壁モールド12用のシート体と同じく、円弧状のビニルエステルを主成分とした樹脂製のものである。ただし、下端部11N1が、径方向外側に向けて折れ曲がり斜め下方に延在している(図7(B)も参照))。また、首モールド部用のシート体Sh1には、折れ曲がった下端部11N1のすぐ上に、突出部11N2が、周方向に間隔をあけて均等に設けられている。これらの突出部11N2の上下方向の中心は、首モールド部用のシート体Sh1の上下方向の中心よりも下方に位置している。
【0089】
斜壁モールド11のうちの、斜壁体M2の内側に設置される本体モールド部用のシート体Sh2は、周方向に3分割された、いずれもビニルエステルを主成分とした樹脂製のものである。
【0090】
図7(B)は、首モールド部と本体モールド部の接続箇所を模式的に示す図である。
【0091】
首モールド部11Nの下端部11N1よりも内側に本体モールド部11Mの上縁部分11M1が位置する。すなわち、下端部11N1の内周面と上縁部分11M1の外周面が接している。
【0092】
ステップS21では、まず、首モールド部用のシート体Sh1を、周方向両端を重ね合わせた縮径状態でマンホールの入口の開口Mhから挿入する。次いで、高さ調整部材M1の内側で突出部11N2がマンホールの内周壁Mi(高さ調整部材M1の内周壁)に当接するまで作業者の手によって首モールド部用のシート体Sh1を拡径し、シート体Sh1は、周方向の両端部どうしが重なり合った筒状の首モールド部11Nになる。この状態で、複数設けられた突出部11N2のうちの一部又は全部の突出部11N2において、マンホールの内周壁Miに向けてアンカーボルトAB(図3参照)を打ち込む。この結果、充填空間Sが確保された状態で首モールド部11Nがマンホールの内周壁Miに固定される。
【0093】
次いで、本体モールド部11M用のシート体Sh2をマンホールの入口の開口Mhから挿入する。図7(A)に示すように、本体モールド部用のシート体Sh2は、正面側の内側に設置され下方に向かうほど径方向外側に傾斜した正面モールド部111と、その正面モールド部111に対して、向かって左側から背面側にまで回り込んだ左側面モールド部112と、右側から同じく背面側にまで回り込んだ右側面モールド部113とに分割されている。正面モールド部111にしても左側面モールド部112にしても右側面モールド部113にしても、下端部111a、112a、113aは真下に延在するよう折り曲げられている。
【0094】
図8(A)は、本体モールド部11Mを真上から見た模式図である。この図8(A)では図の下方が正面側になり、上方が背面側になる。
【0095】
図8(A)に示す本体モールド部11Mは、図7(A)に示す正面モールド部111、左側面モールド部112および右側面モールド部113を組み立てたものである。正面モールド部111は、マンホールの径方向中心から正面側にθ1(80度)の広がり角度で広がった部分になる。左側面モールド部112は、背面側で右側面側まで延びており、右側面モールド部113は、背面側で左側面側まで延びている。この結果、左側面モールド部112と右側面モールド部113は背面側で重なり合っている。
【0096】
図2に示すステップS21では、まず、右側面モールド部113の下端部113aを直壁モールド12のラップ部121の内側に嵌め込み、背面側端部においてマンホールの内周壁Miに向けてアンカーボルトAB(図3(A)参照)を打ち込む。この結果、右側面モールド部113が内周壁Miに固定される。次いで、左側面モールド部112の下端部112aをそのラップ部121の内側に嵌め込む。こうすることで、左側面モールド部112の背面側端部が先に設置した右側面モールド部113の背面側端部に重なる。重なった箇所でもマンホールの内周壁Miに向けてアンカーボルトAB(図3(A)参照)を打ち込む。この結果、左側面モールド部112も内周壁Miに固定される。最後に、正面モールド部111の下端部111aを直壁モールド12のラップ部121の内側に嵌め込み、正面モールド部111の左側面側端部が左側面モールド部112に重なり、正面モールド部111の右側面側端部が右側面モールド部113に重なる。正面モールド部111の重なった箇所でもマンホールの内周壁Miに向けてアンカーボルトABを打ち込み、本体モールド部11Mが内周壁Miに固定される。なお、右側面モールド部113の背面側端部が左側面モールド部112の背面側端部に重なっていてもよい。あるいは、左側面モールド部112が正面モールド部111の左側面側端部に重なり、右側面モールド部113が正面モールド部111の右側面側端部に重なっていてもよい。
【0097】
そして、図7(B)を用いて説明したように、正面モールド部111、左側面モールド部112および右側面モールド部113それぞれの上縁部の外周面は、先に設置した首モールド部11Nの下端部11N1の内周面に接した状態になる。
【0098】
正面モールド部111、左側面モールド部112および右側面モールド部113には、突出部が設けられていないが、下端部111a、112a、113aは、マンホールの内周壁Miとの充填空間Sが突出部122で確保されたラップ部121に嵌め込まれている。このため、正面モールド部111、左側面モールド部112および右側面モールド部113それぞれの下側での充填空間Sは、ラップ部121に設けられた突出部122で保障される。一方、首モールド部11Nでは、下端部11N1のすぐ上に設けられた突出部11N2によってマンホールの内周壁Miとの充填空間Sが確保されている。しかも、正面モールド部111、左側面モールド部112および右側面モールド部113それぞれの上縁部の方が首モールド部11Nの下端部11N1よりも内側に位置している。これらのことから、正面モールド部111、左側面モールド部112および右側面モールド部113それぞれの上側での充填空間Sは、下端部11N1近傍に設けられた突出部11N2で保障される。なお、後述する図8(C)に示す突出部111tと同じような突出部を設けてもよい。
【0099】
また、正面モールド部111は、斜壁体M2の斜壁に沿った角度に調整して設置することが可能である。
【0100】
図8(B)は、正面モールド部111の傾斜角度を調整した様子を模式的に示す図である。
【0101】
この図8(B)では、正面モールド部111を実線と1点鎖線と2点鎖線で示している。いずれの正面モールド部111も、ここでは不図示の斜壁体M2の斜壁と平行の関係にある。実線で示す正面モールド部111は、図3(B)における正面モールド部と同じであり、斜壁体M2の斜壁の傾斜角度が想定通りの角度であった場合のものになる。1点鎖線で示す正面モールド部111は、斜壁体M2の斜壁の傾斜角度が想定した角度よりも大きかった場合を誇張して示したものになる。2点鎖線で示す正面モールド部111は、斜壁体M2の斜壁の傾斜角度が想定した角度よりも小さかった場合を誇張して示したものになる。正面モールド部111は、首モールド部11Nと分離されており、左側面モールド部112とも右側面モールド部113とも分割されているため、不図示の斜壁体M2の斜壁と平行になるように調整可能である。すなわち、本体モールド部11M用のシートは、少なくとも、斜壁体M2の斜壁の内側に設置される斜壁対応部分(本実施形態では正面モールド部111が相当)を他とは別体にし、斜壁対応部分では独立して傾斜角度の調整ができるようにしている。この結果、充填空間Sの厚みを設計通りの一定の厚みに保つことができる。
【0102】
ここで、充填空間Sの厚みが増してしまうと、充填材が余分に必要になるばかりか、充填材の樹脂による硬化発熱の熱がたまりやすくなり、モールドが熱変形してしまう恐れがある。一方、充填空間Sの厚みが薄くなると、必要な強度を確保することができなくなる。このため、正面モールド部111を、斜壁体M2の斜壁と平行になるように調整可能であることは極めて重要になる。斜壁体M2は、工場で製造されコンクリート製のものであるため、斜壁体M2の斜壁の傾斜角度は一律に揃えられているが、現場でコンクリートを打設することで作製されたマンホールでは、設計通りに打設したつもりでも斜壁の傾斜角度が設計とは異なってしまうことがあり、本実施形態は特に有益である。
【0103】
図8(C)は、変形例の本体モールド部11M’を真上から見た模式図である。この図8(C)でも図の下方が正面側になり、上方が背面側になる。
【0104】
図8(C)に示す本体モールド部11M’用のシート体は周方向に2分割されたシート体である。すなわち、斜壁対応部分111’と、それ以外の部分114で構成されている。斜壁対応部分111’は、マンホールの径方向中心から正面側にθ2(84度)の広がり角度で広がった部分になる。斜壁対応部分111’は、開口Mhが600mmのマンホールに、そのままの形状で挿入することができる。一方、それ以外の部分114は縮径可能な形状であり、開口Mhが600mmのマンホールには縮径させて挿入する。この変形例の本体モールド部11M’は、斜壁体M2の斜壁の傾斜角度が図1に示す斜壁体M2の斜壁角度よりも大きな斜壁角度の斜壁体に対応したものである。
【0105】
なお、斜壁体が両側傾斜のものである場合には、周方向に均等に分割(例えば、3分割や4分割)したシート体が用いられる。均等に分割されたシート体は、周方向に隣合うシート体と端部どうしが重なり合っている。
【0106】
また、斜壁の内側に設置されるモールドは、図8(A)および同図(C)に示した態様に限定されることはなく、周方向に分割された態様であればよい。
【0107】
さらに、正面モールド部111の傾斜角度の調整を行うことができない場合には、充填空間Sの厚みを一定にすることができず、充填空間Sの厚みが厚くなってしまうと突出量が定まった突出部を仮に設けたとしても意味がなく、厚みが薄くなってしまうと突出部によって正面モールド部111が浮いてしまうことが考えられる。しかしながら、本実施形態では、正面モールド部111を、斜壁体M2の斜壁に沿った角度に調整して設置することが可能であるため、充填空間Sの厚みは一定になる。本体モールド部によるマンホールの内周壁Miとの充填空間Sは、上述のごとく確保されているが、充填空間Sの厚みが一定であることから本体モールド部、特に斜壁対応部分111’に突出部を設けてもよい。図8(C)には、斜壁対応部分111’の外周面に、突条部111tが貼り付けられている。突条部111tは、充填材が流れ落ちることを妨げないように上下方向に延びた細長いものであり、上下2段に設けられている。なお、それ以外の部分114にも突条部111tを設けてもよい。また、突条部111tにしても、上述した突出部122にしても、充填材の流れ落ちやすさや、マンホールの内周壁Miとの接触バランスの観点から、縦一列に設けるのではなく千鳥状に設けてもよい。
【0108】
以上説明したように、首モールド部11Nを設置し、次いで右側面モールド部113、左側面モールド部112および正面モールド部111を設置して本体モールド部11Mを完成させると、斜壁モールド11の設置が完了し、ステップS21は終了になる。
【0109】
図8(D)は、設置が完了した斜壁モールド11を正面斜め上方から見た斜視図である。
【0110】
図8(D)には、周方向の両端部どうしが重なり合った筒状の首モールド部11Nが示されている。首モールド部11Nは第3モールド部の一例に相当する。
【0111】
以下の説明では、首モールド部11Nにおける、周方向の両端部どうしが重なり合った箇所を首接続部11N3と称する。この首接続部11N3における重なり方は、右側から続く端部が左側から続く端部に重なっている。
【0112】
また、本体モールド部11Mでは、正面モールド部111、左側面モールド部112および右側面モールド部113それぞれにおける周方向に隣合う端部どうしが重なり合い、全体として筒状になっている。正面モールド部111は第1モールド部の一例に相当し、左側面モールド部112又は右側面モールド部113は第2モールド部の一例に相当する。
【0113】
以下の説明では、本体モールド部11Mにおける、左側面モールド部112の背面側端部が右側面モールド部113の背面側端部に重なった箇所を本体背面接続部1123と称する。また、正面モールド部111の左側面側端部が左側面モールド部112に重なった箇所を本体左正面接続部1112と称し、正面モールド部111の右側面側端部が右側面モールド部113に重なった箇所を本体右正面接続部1113と称する。
【0114】
なお、首接続部11N3と本体背面接続部1123とでは重なり方が逆であるが、両者の重なり方を揃えてもよい。例えば、首接続部11N3における重なり方を、左側から続く端部が右側から続く端部に重なるようにしてもよい。
【0115】
斜壁モールド11の設置が完了すると、首モールド部11Nに図4及び図5を用いて説明した押さえ治具5を設置する。この際、円弧状帯体51の隙間51Sを図8(D)に示す首接続部11N3の位置に合わせておく。また、本体モールド部11Mの下端部111a、112a、113aには、その押さえ治具5よりも狭幅の押さえ治具を設置する。例えば、ばね鋼製のリング体の径をラックピニオン機構を用いて拡げる金属製治具を設置してもよい。
【0116】
図2に示すステップS21に続くステップS22では、斜壁モールド11の目地処理を行う。斜壁モールド11の目地処理では、図8(D)に示す、首モールド部11Nの首接続部11N3、本体モールド部11Mにおける、本体背面接続部1123、本体左正面接続部1112および本体右正面接続部1113それぞれを目地処理する。いずれの接続部11N3、1123、1112、1113も、図6(A)に示す、直壁モールド12の接続部123と同じ構造であり、硫化水素に耐性のあるビニルエステルを主成分とした樹脂が目地材として用いられる。すなわち、シート体Sh1や左側面モールド部112や右側面モールド部113には、保持部1231aと同様な保持部が設けられており、プライマー層PMも設けられている。また、正面モールド部111にもプライマー層PMが設けられている。目地処理を行った結果も図6(A)に点のハッチングで示す目地材JMと同じようになる。
【0117】
ステップS22における斜壁モールド11の目地処理が完了すると、充填材を充填する(ステップS23)。ここでの充填材の充填は、ステップS12における充填材の充填の続きになり、ステップS12で用いた充填材と同じ充填材が用いられる。上述のごとく、ステップS12が実行されたことによって、直壁モールド12のラップ部121のすぐ下まで充填材が充填され、充填された充填材は既に硬化している。ステップS23では、ステップS12における2回目以降の充填材の注入と同様に充填材を注入する。首モールド部11Nの上縁まで充填材を充填したら、目地処理で用いた目地材と同じ、硫化水素に耐性のあるビニルエステルを主成分としたパテで密封処理を施し、ステップS23は終了になる。図3を用いて説明したように、斜壁モールド11の上縁11uは、高さ調整部材の上端M1uよりも下方に位置しており、斜壁モールド11の上縁11uに達しない程度にビニルエステルを主成分としたパテを盛り付ける。これは、受枠MRにパテが干渉しないようにするためである。なお、ビニルエステルを主成分としたパテに限らず対酸パテを用いてもよい。
【0118】
ステップS12とステップS23とで充填材の充填を分けた理由は、斜壁体M2の斜壁と直壁体M3の直壁との境では充填材の流れ方が大きく変化するため、この境で充填工程を分け、充填材を安定して注入できるようにしている。
【0119】
ステップS24では、モールドの内周面から加工を行い、新しい足掛け金具を設置する。また、モールド内周面の洗浄を行う。以上でマンホールライニング工法が終了する。
【0120】
以上説明したマンホールライニング工法によって、マンホールMの内周壁Miを覆ったマンホールライニング構造物が完成する。完成したマンホールライニング構造物では、モールド11,12,13と、硬化した充填材によって強度が保たれ、斜壁モールド11、直壁モールド12およびインバートモールド13の内周面が、裏打ちされたマンホールの新たな内周壁になる。
【0121】
以下、これまで説明した事項を含めて付記する。
【0122】
(付記A)
マンホールの内周壁を裏打ちするマンホールライニング工法であって、
円弧状のシート体の周方向両端を重ね合わせた縮径状態で該シート体を前記マンホールの入口の開口から該マンホール内に挿入する挿入工程と、
前記縮径状態の前記シート体を拡径し該シート体の周方向両端部分をつなぎ合わせ筒状モールドとし、該筒状モールドの外周面と前記マンホールの内周壁との間に充填空間を形成する充填空間形成工程と、
前記充填空間に充填材を充填する充填工程とを有し、
前記挿入工程は、前記シート体として、前記筒状モールドの内周面になる面が硫化水素に耐性のある材質で構成されたものを用いる工程であり、
前記充填空間形成工程は、前記シート体の周方向両端部分を硫化水素に耐性があるモールド用材料を用いてつなぎ合わす処理を含んだ工程であることを特徴とするマンホールライニング工法。
【0123】
(付記B)
マンホールの内周壁を覆ったマンホールライニング構造物であって、
前記マンホールの内周壁よりも内側に、該内周壁との間に充填空間を残して配置され、内周面が硫化水素に耐性がある材質で構成された筒状モールドと、
前記充填空間に充填された充填材とを備え、
前記筒状モールドは、円弧状のシート体の周方向両端部分を、硫化水素に耐性があるモールド用材料を用いてつなぎ合わせて筒状に形成されたものであることを特徴とするマンホールライニング構造物。
【0124】
上記特許文献1には、補修材の周方向両端部分をつなぎ合わせる際に、2液硬化型シリコーン樹脂でシールすることが記載されている。
【0125】
しかしながら、硫化水素の濃度が高いマンホールでは、補修材の周方向両端部分をつなぎ合わせた箇所、すなわち2液硬化型シリコーン樹脂でシールした箇所が硫化水素で腐食され、硫化水素が硬化されたエポキシ樹脂又はグラウト材まで入り込んで、エポキシ樹脂又はグラウト材までもが腐食されてしまう事例が報告されている。
【0126】
付記A記載のマンホールライニング工法によれば、内周面が硫化水素に耐性のある材質で構成された前記筒状モールドを用い、さらに、前記充填空間形成工程では、周方向両端部分を硫化水素に耐性があるモールド用材料を用いてつなぎ合わす処理を行うことで、つなぎ目も硫化水素で腐食されにくく、前記充填材まで硫化水素が入り込みにくくなっている。
【0127】
なお、前記材質と前記モールド用材料は同じ成分のものであってもよい。例えば、両者とも、ビニルエステル樹脂を主成分としたものであってもよい。また、前記充填材は、樹脂であってもよいしグラウト材であってもよい。
【0128】
また、前記充填空間形成工程は、前記シート体の、前記マンホールの内周壁側に寄った退避部と周方向一端の縁との間になる一端部分に周方向他端部分を重ね合わせるにあたり、該一端部分と周方向他端部分との対向するそれぞれの面に、これらの面と前記モールド用材料との接着性を向上するプライマー層を形成しておき、該退避部と該周方向他端部分の他端縁との間および該一端部分と該周方向他端部分との間に前記モールド用材料を介在させて該一端部分と該周方向他端部分を重ね合わせる処理を含んだ工程であってもよい。
【0129】
あるいは、前記充填空間形成工程は、前記シート体の、前記マンホールの内周壁側に寄った第1退避部と周方向一端の縁との間になる一端部分と、該シート体の、該内周壁側に寄った第2退避部と周方向他端の縁との間になる他端部分との縁どうしを突き当て、該一端部分と該他端部分を覆い部材で覆うにあたり、該一端部分および該他端部分と該覆い部材との対向するそれぞれの面に、これらの面と前記モールド用材料との接着性を向上するプライマー層を形成しておき、該一端部分および該他端部分と該覆い部材との間に前記モールド用材料を介在させて該一端部分および該他端部分を該覆い部材で覆う処理を含んだ工程であってもよい。
【0130】
付記B記載のマンホールライニング構造物によれば、前記筒状モールドは、内周面が硫化水素に耐性のある材質で構成されており、さらに、円弧状のシート体の周方向両端部分を、硫化水素に耐性があるモールド用材料を用いてつなぎ合わせて筒状に形成されたものであることから、つなぎ目も硫化水素で腐食されにくく、前記充填材まで硫化水素が入り込みにくくなっている。
【0131】
なお、前記材質と前記モールド用材料は同じ成分のものであってもよい。例えば、両者とも、ビニルエステル樹脂を主成分としたものであってもよい。また、前記充填材は、樹脂であってもよいしグラウト材であってもよい。
【0132】
(付記C)
前記筒状モールドは、前記シート体の、前記マンホールの内周壁側に寄った退避部と周方向一端の縁との間になる一端部分に周方向他端部分を重ね合わせて筒状に形成されたものであり、
前記モールド用材料は、前記退避部と前記周方向他端部分の他端縁との間および前記一端部分と該周方向他端部分との間に介在しているものであり、
前記一端部分と前記周方向他端部分との対向するそれぞれの面に、これらの面と前記モールド用材料との接着性を向上するプライマー層が形成されていることを特徴とする付記B記載のマンホールライニング構造物。
【0133】
前記筒状モールドは、外周面に該外周面と前記充填材との接着性を向上するプライマー層を設けることが考えられるが、前記一端部分と前記周方向他端部分との対向するそれぞれの面に前記プライマー層を設けることで、前記モールド用材料とそれぞれの面が前記モールド用材料で強固に付着し、該一端部分と該周方向他端部分が剥がれにくくなる他、硫化水素の進入も阻むことができる。
【0134】
なお、前記プライマー層は、前記モールド用材料を調整するサーフェイサーとしての機能を有するものであってもよい。すなわち、前記プライマー層は、プライマーサーフェイサー(プラサフ)層であってもよい。
【0135】
(付記D)
前記モールド用材料は、前記退避部と前記周方向他端部分の他端縁との間にも介在しているものであることを特徴とする付記C記載のマンホールライニング構造物。
【0136】
この態様によれば、前記充填材が前記モールド用材料によってより確実にシールされ、該充填材まで硫化水素が一層入り込みにくくなっている。
【0137】
(付記E)
前記筒状モールドは、前記シート体の、前記マンホールの内周壁側に寄った第1退避部と周方向一端の縁との間になる一端部分と、該シート体の、該内周壁側に寄った第2退避部と周方向他端の縁との間になる他端部分との縁どうしを突き当て、該一端部分と該他端部分を覆い部材で覆うことで筒状に形成されたものであり、
前記モールド用材料は、前記一端部分および前記他端部分と前記覆い部材との間に介在しているものであり、
前記一端部分および前記他端部分と前記覆い部材との対向するそれぞれの面に、これらの面と前記モールド用材料との接着性を向上するプライマー層が形成されていることを特徴とする付記B記載のマンホールライニング構造物。
【0138】
前記一端部分および前記他端部分と前記覆い部材との対向するそれぞれの面に前記プライマー層を設けることで、前記モールド用材料とそれぞれの面が前記モールド用材料で強固に付着し、前記覆い部材が剥がれにくくなる他、硫化水素の進入も阻むことができる。
【0139】
なお、前記プライマー層は、前記モールド用材料を調整するサーフェイサーとしての機能を有するものであってもよい。すなわち、前記プライマー層は、プライマーサーフェイサー(プラサフ)層であってもよい。
【0140】
(付記F)
前記モールド用材料は、前記第1退避部と前記覆い部材における該第1退避部側の縁との間および前記第2退避部と該覆い部材における該第2退避部側の縁との間にも介在しているものであることを特徴とする付記E記載のマンホールライニング構造物。
【0141】
この態様によれば、前記充填材が前記モールド用材料によってより確実にシールされ、該充填材まで硫化水素が一層入り込みにくくなっている。
【0142】
(付記1)
入口の開口から下方に向けて延在し、下方に向かうほど径方向外側に傾斜した斜壁部を有するマンホールの内周壁を裏打ちするマンホールライニング工法であって、
前記マンホールの内周壁よりも内側に該内周壁全周にわたってモールドを設置し、該モールドの外周面と該マンホールの内周壁との間に充填空間を形成する充填空間形成工程と、
前記充填空間に充填材を充填する充填工程とを有し、
前記充填空間形成工程は、少なくとも、前記斜壁部の周方向の一部又は全部を内側から覆う第1モールド部と、該第1モールド部の周方向一方側に位置する第2モールド部とに分割されたモールドを設置する工程であることを特徴とするマンホールライニング工法。
【0143】
(付記2)
入口の開口から下方に向けて延在し、下方に向かうほど径方向外側に傾斜した斜壁部を有するマンホールの内周壁を覆ったマンホールライニング構造物であって、
前記マンホールの内周壁全周を該内周壁との間に充填空間を残して該内周壁の内側から覆うモールドと、
前記充填空間に充填された充填材とを備え、
前記モールドは、前記斜壁部の周方向の一部又は全部を内側から覆う第1モールド部と、該第1モールド部の周方向一方側に位置する、該第1モールド部とは別体の第2モールド部とが結合されたものであることを特徴とするマンホールライニング構造物。
【0144】
マンホールには下方に向かうほど径方向外側に傾斜した斜壁部が存在することが多い。上記特許文献1でも、この斜壁部を内側から覆うモールドが提案されている。
【0145】
工場で製造されたユニットタイプの組み立て式マンホールであれば、多くの場合、斜壁部の傾斜角度は一律に揃えられているが、現場でコンクリートを打設することで作製されたマンホールでは、設計通りに打設したつもりでも斜壁部の傾斜角度が設計とは異なっている場合がある。このため、補修材のうち、斜壁部を覆う部分の角度が、斜壁部の傾斜角度と一致せず、充填空間の厚みが厚くなったり薄くなったりしてしまう場合がある。充填空間の厚みは、設計通りの厚みであることが好ましい。
【0146】
付記1記載のマンホールライニング工法によれば、前記第1モールド部が、前記第2モールド部と分割されていることにより、該第1モールド部の設置角度を前記斜壁部の傾斜角度に合わせることができ、マンホールの斜壁部の充填空間の厚みを設計通りの厚みにしやすい。
【0147】
付記2記載のマンホールライニング構造物によれば、前記第1モールド部が、前記第2モールド部と別体であったことにより、該第1モールド部の設置角度を前記斜壁部の傾斜角度に合わせて調整した後、該第1モールド部と該第2モールド部とが結合されており、マンホールの斜壁部の充填空間の厚みが設計通りの厚みになりやすい。
【0148】
なお、全周が斜壁部(いわゆる両側斜壁)のマンホールの場合には、前記第1モールド部は、前記斜壁部(両側斜壁)の周方向の一部を内側から覆うものになり、前記第2モールド部は、前記斜壁部の周方向の残りの部分を内側から覆うものになる。また、前記第2モールド部を、周方向にさらに分割してもよい。
【0149】
周方向の一部が斜壁部(いわゆる片側斜壁)のマンホールの場合には、前記第1モールド部は、前記斜壁部(片側斜壁)の周方向の全部又はほぼ全部を内側から覆うものになり、前記第2モールド部は、直壁部を内側から覆うものになる。また、片斜壁の場合であっても、前記第2モールド部を、周方向にさらに分割してもよい。
【0150】
マンホールの内周壁が、下方に向かうほど径方向外側に相対的に大きく傾斜した部分の他、相対的に小さく傾斜した部分(例えば、マンホールを昇降するステップが取り付けられている部分)も有する場合には、前記斜壁部は、相対的に大きく傾斜した部分が相当する。
【0151】
(付記3)
前記充填空間形成工程は、少なくとも、前記第1モールド部と、前記第2モールド部と、該第1モールド部及び該第2モールド部に上方から接する円弧状の第3モールド部とに分割されたモールドを設置する工程であることを特徴とする付記1記載のマンホールライニング方法。
【0152】
前記第3モールド部は、直壁の部分を覆うモールド部に相当し、該第3モールド部と前記第1モールド部との境目の角度が前記斜壁部の傾斜角度によって変わってくるため、該第3モールド部に対して、該第1モールド部は分割されていることが好ましい。こすうることで、前記第1モールド部の設置角度を前記斜壁部の傾斜角度により近付けることができるようになる。
【0153】
(付記4)
前記モールドは、
前記第1モールド部と、
前記第2モールド部と、
前記第1モールド部及び前記第2モールド部に上方から接する、該第1モールド部とも該第2モールド部とも別体の円弧状の第3モールド部と、
が結合されたものであることを特徴とする付記2記載のマンホールライニング構造物。
【0154】
前記第3モールド部は、直壁の部分を覆うモールド部に相当し、該第3モールド部と前記第1モールド部との境目の角度が前記斜壁部の傾斜角度によって変わってくる。前記第1モールド部が、前記第3モールド部とも別体であったことにより、前記第1モールド部の設置角度を前記斜壁部の傾斜角度により近付けることができるようになる。
【0155】
本発明は、これまでに説明した実施の形態や変形例に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことができる。例えば、両側傾斜の斜壁体を有するマンホールのライニングにも適用することができる。また、充填材は、常温硬化型の樹脂の他、加熱硬化型の樹脂を用いてもよい。あるいは、モールドを透明にして光硬化型の樹脂を用いてもよい。さらには、上述したように、樹脂に限らずグラウト材等であってもよい。
【0156】
また、以上説明した実施の形態の記載や変形例の記載や付記の記載それぞれにのみ含まれている構成要件であっても、その構成要件を、実施の形態や他の変形例や付記に適用してもよい。
【符号の説明】
【0157】
11 斜壁モールド
11N 首モールド部
11M 本体モールド部
111 正面モールド部
112 左側面モールド部
113 右側面モールド部
12 直壁モールド
1231 一端部分
1232 他端部分
13 インバートモールド
5 押さえ治具
51 円弧状帯体
51S 隙間
520 操作回転体
531 シリコンラバーヒータ
JM 目地材
S 充填空間
M マンホール
M2 斜壁体
M3 直壁体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8