(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100600
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】塗布具用チップ、塗布具、並びに塗布具用チップの製造方法
(51)【国際特許分類】
B43K 1/08 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
B43K1/08 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004709
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】中谷 泰範
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350HA10
2C350NA10
2C350NE01
(57)【要約】
【課題】より安定的に所望の塗布線を形成可能な技術を提供する。
【解決手段】
塗布具用チップ本体と、塗布具用チップ本体の先端側で回転可能なボールを有し、塗布具用チップ本体は、ボールハウス、中心孔及びバック孔が設けられて、バック孔、中心孔及びボールハウスは連通して一連の塗布液の流路を有し、ボールハウスにボールが抱持される塗布具用チップにおいて、ボールハウスに面する側壁部と、ボールが接する座面部と、矢溝部を有し、側壁部と座面部の間に第一溝部を有し、ボールのボール径は、0.6mm以上1.5mm以下であり、座面部の最小包含円の径は、ボール径の75パーセント以上95パーセント以下とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布具用チップ本体と、前記塗布具用チップ本体の先端側で回転可能なボールを有し、前記塗布具用チップ本体は、ボールハウス、中心孔及びバック孔が設けられて、前記バック孔、前記中心孔及び前記ボールハウスは連通して一連の塗布液の流路を有し、前記ボールハウスに前記ボールが抱持される塗布具用チップにおいて、
前記ボールハウスに面する側壁部と、前記ボールが接する座面部と、矢溝部を有し、前記側壁部と前記座面部の間に第一溝部を有し、
前記ボールのボール径は、0.6mm以上1.5mm以下であり、
前記座面部の最小包含円の径は、前記ボール径の75パーセント以上95パーセント以下であることを特徴とする塗布具用チップ。
【請求項2】
前記第一溝部の前記中心孔側の溝壁の壁面が湾曲していることを特徴とする請求項1に記載の塗布具用チップ。
【請求項3】
前記第一溝部の前記中心孔側の溝壁は、前記中心孔から離れる方向であって前記塗布具用チップ本体の先端側に向かって凸となるように湾曲していることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗布具用チップ。
【請求項4】
前記塗布具用チップ本体の中心軸線を含む縦断面において、前記中心軸線を挟んで片側に位置する前記座面部の最も先端側に位置する点と最も後端側に位置する点とを通過する仮想線を第1仮想線とし、前記中心軸線を挟んで他方側に位置する前記座面部の最も先端側に位置する点と最も後端側に位置する点とを通過する仮想線を第2仮想線としたとき、前記第1仮想線と前記第2仮想線のなす角である座角が、70°以上110°以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗布具用チップ。
【請求項5】
前記矢溝部を含んで形成される矢溝を有し、
前記矢溝は、前記ボールハウス、前記中心孔及び前記バック孔と連通し、前記中心孔を中心に放射状に3つ形成されており、前記矢溝の溝幅が0.25mm以上0.35mm以下であり、
前記中心孔の径が0.3mm以上0.6mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗布具用チップ。
【請求項6】
前記ボールの先端から前記塗布具用チップ本体の先端までの長さであり、且つ、前記塗布具用チップ本体の中心軸線の長手方向の長さを飛び出し長さとしたとき、
前記ボールが最も先端側に位置した状態の飛び出し長さから、前記ボールが最も後端側に位置した状態の飛び出し長さを減算した長さが0.040mm以上0.065mm以下となることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗布具用チップ。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の塗布具用チップを有することを特徴とする塗布具。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の塗布具用チップを製造する塗布具用チップの製造方法であって、
前記塗布具用チップの仕掛品を座打ちする座打工程を行うものであり、
前記座打工程では、ボール径を0.795mm以上0.805mm以下とし、座打ち量を0.040mm以上0.065mm以下とすることを特徴とする塗布具用チップの製造方法。
【請求項9】
前記仕掛品は、仕掛溝部を有し、前記仕掛溝部の前記中心孔側の溝壁を形成する壁面が傾斜面であり、前記仕掛溝部の傾斜面を湾曲させて前記第一溝部の前記中心孔側の溝壁を形成する請求項8に記載の塗布具用チップの製造方法。
【請求項10】
前記仕掛溝部は、前記中心孔側の溝壁の壁面と、前記中心孔側とは逆側となる溝壁の壁面とのなす角が20°以上50°以下となるように形成されていることを特徴とする請求項9に記載の塗布具用チップの製造方法。
【請求項11】
塗布具用チップ本体と、前記塗布具用チップ本体の先端側で回転可能なボールを有し、前記塗布具用チップ本体は、ボールハウス、中心孔及びバック孔が設けられて、前記バック孔、前記中心孔及び前記ボールハウスは連通して一連の塗布液の流路を有し、前記ボールハウスに前記ボールが抱持される塗布具用チップにおいて、
前記ボールハウスに面する側壁部と、前記ボールが接する座面部と、矢溝部を有し、前記側壁部と前記座面部の間に第一溝部を有し、
前記第一溝部の前記中心孔側の溝壁の壁面が湾曲していることを特徴とする塗布具用チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールペン等の塗布具における塗布具用チップに関する。また、塗布具用チップを備えた塗布具、塗布具用チップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、先端のボールに付着した塗布液を塗布対象に塗布する塗布具が知られており、このような塗布具として、例えば、塗布液にインキを採用したボールペンが知られている。例えば、特許文献1には、このようなボールペンに採用されるボールペンチップ(塗布具用チップ)が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されたボールペンチップは、ボールと、ボールペンチップ本体を有しており、ボールペンチップ本体には、ボールの大部分が収容されるボールハウスが設けられている。このボールハウスは、円環状に連続する円筒壁と、円筒壁の後方側に位置する座面を有している。そして、座面は、中心孔に向かって縮径し、中心孔と繋がるように形成されている。
【0004】
ここで、このボールハウスでは、円筒壁と中心孔をつなぐように形成されたすり鉢状の傾斜壁を設け、この傾斜壁を削り取ることにより、第1空間を形成している。
詳細に説明すると、このボールハウスでは、傾斜壁を削り取ることで円筒壁の後方側に垂直壁と水平壁を形成する。このとき、水平壁は、垂直壁の後端部分と座面の先端側部分を繋ぐ部分となっている。このように垂直壁と水平壁を形成することで、円筒壁と座面の間であって垂直壁及び水平壁と隣接する位置に第1空間が形成される。
特許文献1に開示されたボールペンチップは、このような第1空間が設けられることで、座面が小さく、座打ちがし易いという利点がある。また、第1空間内に塗布液(インキ)が満たされるので、より多くの塗布液をボールハウス内に溜めることができ、チップ内での塗布液の流れを良くすることが可能となる。
【0005】
なお、特許文献1では、この第1空間を形成する際、上記した水平壁に替わって、先端側から後端側に向かって拡径するように傾斜する面としてもよいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、本発明者は、上記した従来の塗布具について、ボール径を大きくして提供することを考えた。そして、ボール径を大きくした従来の塗布具を作製して研究を進めた結果、従来の塗布具は、ボール径を一定以上大きくし、一定以上寝かせて(筆記角度を一定以上小さくして)使用した場合に、所謂「ボテ(インキボテ)」が発生し易くなるという課題を有していることが新たに判明した。
なお、ここでいう「ボテ」とは、塗布具によって塗布液を塗布する際(筆記時)に、余剰インクが少しずつペン先に溜まり、紙に落ちて塗布線(筆記線)が乱れてしまう状態(汚くなる状態)を意味する。また、「筆記角度」は、紙等の筆記対象物の表面と塗布具の中心軸線のなす角である。
【0008】
このことにつき、詳細に説明すると、ボール径の大きなボールペン(塗布具)の先端(ペン先)を所定方向に移動させて線(塗布線)を形成するとき、筆記角度を一定以上小さくして使用すると、ボールがボールハウス内の片側に偏在してしまうこととなる。すなわち、ボールペンが大きく傾いた状態で使用されることで、ボールがボールペンの中心軸線から離れた位置であり、ペン先の移動方向における基端側となる位置に偏在してしまう。
そして、このようにボールが偏在してしまうと、ボールと、ボールペンチップ本体の先端部(かしめ部分)との間に形成された隙間部分が閉塞されてしまうこととなる。さらに、このように隙間部分が閉塞されてしまうと、ボールの表面に付着したインキ(塗布液)、すなわち、紙等の塗布対象物に塗布されずにボールの表面に付着したままのインキがボールペンチップ本体の内部に回収されず、ボールペンチップ本体の先端の外側に溜まってしまう。そして、ボールペンチップ本体の先端の外側に一定量以上のインキが溜まると、インキが落下し、ボテが発生してしまう。
【0009】
以上のように、従来の塗布具には、ボール径を一定以上大きくし、筆記角度を一定以上小さくして使用した場合でも「ボテ」の発生を抑制、防止するという点において改良の余地があることが新たに判明した。つまり、従来の塗布具には、使用時の塗布線(塗布対象物に塗布液が塗布されて形成される線)の乱れを抑制し、所望の塗布線をより安定的に形成可能とするという点において、さらなる改良の余地があった。
【0010】
そこで本発明は、より安定的に所望の塗布線を形成可能な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するにあたって、本発明者がボールとボールペンチップ本体の関係を鋭意検討した結果、ボールペンチップ本体の座面部分の外側に溝を設け、さらに座面部分の最小包含円の径(座径)をボール径の75パーセント以上95パーセント以下とすることで、ボール径を0.6mm以上となる大きなものとして筆記角度を一定以上小さくしても所謂「ボテ」の発生を抑制、防止できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
上記知見から導き出された本発明の一つの様相は、塗布具用チップ本体と、前記塗布具用チップ本体の先端側で回転可能なボールを有し、前記塗布具用チップ本体は、ボールハウス、中心孔及びバック孔が設けられて、前記バック孔、前記中心孔及び前記ボールハウスは連通して一連の塗布液の流路を有し、前記ボールハウスに前記ボールが抱持される塗布具用チップにおいて、前記ボールハウスに面する側壁部と、前記ボールが接する座面部と、矢溝部を有し、前記側壁部と前記座面部の間に第一溝部を有し、前記ボールのボール径は、0.6mm以上1.5mm以下であり、前記座面部の最小包含円の径は、前記ボール径の75パーセント以上95パーセント以下であることを特徴とする塗布具用チップである。
【0013】
本様相によると、「ボテ」の発生を抑制、防止できる。
【0014】
また、本発明者は、ボールペンチップ本体の座面部分の外側に設ける溝の中心側の溝壁の壁面を湾曲させることが「ボテ」の発生を抑制、防止する上で効果があることを見出した。
上記知見を踏まえ、上記した様相は、前記第一溝部の前記中心孔側の溝壁の壁面が湾曲していることが好ましい。
【0015】
また、上記した様相は、前記第一溝部の前記中心孔側の溝壁は、前記中心孔から離れる方向であって前記塗布具用チップ本体の先端側に向かって凸となるように湾曲していることが好ましい。
【0016】
上記した様相は、前記塗布具用チップ本体の中心軸線を含む縦断面において、前記中心軸線を挟んで片側に位置する前記座面部の最も先端側に位置する点と最も後端側に位置する点とを通過する仮想線を第1仮想線とし、前記中心軸線を挟んで他方側に位置する前記座面部の最も先端側に位置する点と最も後端側に位置する点とを通過する仮想線を第2仮想線としたとき、前記第1仮想線と前記第2仮想線のなす角である座角が、70°以上110°以下であることが好ましい。
【0017】
係る様相によると、塗布具の一部として使用する際に、より確実に塗布液の安定供給が可能となる。
【0018】
上記した様相は、前記矢溝部を含んで形成される矢溝を有し、前記矢溝は、前記ボールハウス、前記中心孔及び前記バック孔と連通し、前記中心孔を中心に放射状に3つ形成されており、前記矢溝の溝幅が0.25mm以上0.35mm以下であり、前記中心孔の径が0.3mm以上0.6mm以下であることが好ましい。
【0019】
係る様相によると、塗布具の一部として使用する際に、より確実に塗布液の安定供給が可能となる。
【0020】
上記した様相は、前記ボールの先端から前記塗布具用チップ本体の先端までの長さであり、且つ、前記塗布具用チップ本体の中心軸線の長手方向の長さを飛び出し長さとしたとき、前記ボールが最も先端側に位置した状態の飛び出し長さから、前記ボールが最も後端側に位置した状態の飛び出し長さを減算した長さが0.040mm以上0.065mm以下となることが好ましい。
【0021】
係る様相によると、塗布具の一部として使用する際に、より確実に塗布液の安定供給が可能となる。
【0022】
本発明の他の様相は、上記した塗布具用チップを有することを特徴とする塗布具である。
【0023】
本様相の塗布具は、上記した塗布具用チップを有するので、所謂「ボテ」の発生を抑制、防止できる。
【0024】
本発明の他の様相は、上記した塗布具用チップを製造する塗布具用チップの製造方法であって、前記塗布具用チップの仕掛品を座打ちする座打工程を行うものであり、前記座打工程では、ボール径を0.795mm以上0.805mm以下とし、座打ち量を0.040mm以上0.065mm以下とすることを特徴とする塗布具用チップの製造方法である。
【0025】
本様相によると、塗布具用チップを製造する際、第一溝部の中心孔側の溝壁の壁面を容易に所望の形状とすることができる。
【0026】
上記した様相は、前記仕掛品は、仕掛溝部を有し、前記仕掛溝部の前記中心孔側の溝壁を形成する壁面が傾斜面であり、前記仕掛溝部の傾斜面を湾曲させて前記第一溝部の前記中心孔側の溝壁を形成することが好ましい。
【0027】
係る様相によると、塗布具用チップの製造のさらなる容易化が可能である。
【0028】
上記した様相は、前記仕掛溝部は、前記中心孔側の溝壁の壁面と、前記中心孔側とは逆側となる溝壁の壁面とのなす角が20°以上50°以下となるように形成されていることが好ましい。
【0029】
係る様相によると、塗布具用チップの製造のさらなる容易化が可能である。
【0030】
本発明の他の様相は、塗布具用チップ本体と、前記塗布具用チップ本体の先端側で回転可能なボールを有し、前記塗布具用チップ本体は、ボールハウス、中心孔及びバック孔が設けられて、前記バック孔、前記中心孔及び前記ボールハウスは連通して一連の塗布液の流路を有し、前記ボールハウスに前記ボールが抱持される塗布具用チップにおいて、前記ボールハウスに面する側壁部と、前記ボールが接する座面部と、矢溝部を有し、前記側壁部と前記座面部の間に第一溝部を有し、前記第一溝部の前記中心孔側の溝壁の壁面が湾曲していることを特徴とする塗布具用チップである。
【0031】
本様相もまた、「ボテ」の発生を抑制、防止できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によると、より安定的に所望の塗布線を形成可能な技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の実施形態に係るボールペンチップを採用したボールペンレフィルを示す断面図である。
【
図2】
図1のボールペンチップを示す断面図である。
【
図3】
図2のボールペンチップの先端側部分を示す断面図であり、ボールが後方側に位置している様子を示す。
【
図4】
図2のボールペンチップの先端側部分を示す断面図であり、ボールが前方側に位置している様子を示す。
【
図5】
図3のA-A面で切断したボールペンチップの先端側部分を示す断面図であり、座面部をドットで示す。
【
図6】
図1のボールペンチップを製造する手順を示す説明図であり、第1仕掛チップ本体を示す。
【
図7】
図6に続いてボールペンチップを製造する様子を示す説明図であり、第1仕掛チップ本体の先端側からボールを挿入した様子を示す。
【
図8】
図7に続いてボールペンチップを製造する様子を示す説明図であり、仕掛ボールペンチップ本体の先端側を変形させた様子を示す。
【
図9】(a)は、本発明の実施例1に係るボールペンチップ本体の縦断面を撮影した画像であり、(b)は(a)をトレースした図である。
【
図10】(a)は、本発明の実施例1に係るボールペンを使用した筆記試験で形成された筆記線の一つを示す画像であり、(b)は(a)をトレースして一部を拡大した図である。
【
図11】本発明の比較例1に係るボールペンチップを示す説明図である。
【
図12】実施例1、実施例2、比較例1に対して行った筆記試験の結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態に係るボールペンチップ1(塗布具用チップ)について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、ペン先側(先端側)を前側、その逆側(尾端側、ペン軸側)を後側とも称す。
【0035】
本実施形態のボールペンチップ1は、
図1で示されるように、インキ筒2(塗布液収容部材)の先端部分に取り付けられることで、ボールペンレフィル3(芯部材、塗布芯)の一部を構成する。そして、このボールペンレフィル3は、ボールペン(塗布具)の一部として使用可能なものであり、所謂ボールペンの芯として使用可能である。
したがって、本実施形態のボールペンレフィル3を採用したボールペンは、軸筒部材(図示しない)と、ボールペンレフィル3を有し、ボールペンレフィル3の少なくとも一部を軸筒部材に収容して形成されたものとなる。
【0036】
付言しておくと、本実施形態のボールペンレフィル3は、通常のボールペンの一部として使用可能である他、ボールペンレフィル3(ボールペンチップ1)の先端部分を軸筒部材の先端部分から出没させる出没式のボールペンの一部としても使用可能である。さらに、複数のボールペンレフィル3から一つを選択して先端部分を繰り出す複式(複数選択式)のボールペンの一部としても使用可能である。
【0037】
ボールペンレフィル3について詳細に説明する。ボールペンレフィル3は、上記したように、ボールペンチップ1と、インキ筒2を有しており、インキ筒2の先端側にボールペンチップ1を取り付けて形成されるものである。
インキ筒2は、ポリプロピレン等の樹脂製の筒状部材であり、内部にインキ(塗布液)が収容される収容管である。本実施形態では、インキ筒2の内部に水性ゲルインキを収容している。本実施形態のボールペンチップ1は、このように水性ゲルインキを紙等の塗布対象物に塗布するボールペン(ボールペンレフィル3)の一部として採用することが好ましい。
【0038】
ボールペンチップ1は、
図2で示されるように、ボールペンチップ本体10(塗布具用チップ本体)と、ボール11と、ボール付勢部材(図示しない)を有している。
なお、ボール付勢部材について説明しておくと、ボール付勢部材は、コイル状のばねであり、ボールペンチップ本体10の内部に圧縮状態で収容され、ボール11を先端側(
図2の下側)に付勢する。
このことから、ボールペンレフィル3を採用したボールペンは、不使用時には、付勢されたボール11がボールペンチップ本体10の先端側に押し当てられた状態(
図4参照)となり、ボールペンチップ本体10の外部へのインキの流出を防止する。
対して、ボールペンの使用時には、ボール11が筆記圧(塗布圧)によって基端側(インキ筒2側であり、
図2の上側)に移動し、インキがボールペンチップ本体10の外部に流出する状態(
図3参照)となる。
つまり、ボールペンの使用時には、ボール11が筆記圧によって後方側に移動した状態で、ボール11を紙等の塗布対象物に接触させつつボールペンの軸筒部材を手で移動させることにより、インキが付着したボール11が転がる。そして、ボール11に付着したインキがボールペンチップ本体10の外部に送り出され、塗布対象物に付着し、塗布線(筆記線)が形成される。
【0039】
ボールペンチップ本体10は、
図2で示されるように、外形が略円錐状となる先端部15と、外形が略円筒状となる基端側部16を有している。基端側部16は、基端側(
図2の上側)の部分が先端側の部分よりも薄く形成されて外径が小さくなっている。言い換えると、基端側部16は、基端側の部分に外径の小さい縮径部16aを有する。また、ボールペンチップ本体10は、縮径部16aの基端側部分(
図2の上端側部分)であり、ボールペンチップ本体10全体の基端側部分となる、テーパ部(先細り部)を有する。テーパ部は、基端側の端部に向かうにつれて窄まっていく(外径が小さくなっていく)部分である。
【0040】
ボールペンチップ本体10は、インキ(塗布液)の流路として機能する内部空間部20を有している。この内部空間部20は、先端部15の先端側開口部23から基端側部16の基端側開口部25の間に設けられ、ボールペンチップ本体10の全体を貫通している。
詳細には、この内部空間部20は、先端側開口部23側からボールハウス26、中心孔27、バック孔28に区画される部分であり、これらボールハウス26、中心孔27、バック孔28が連通して形成されている。
【0041】
ボールハウス26は、
図3で示されるように、ボール11の一部を収容し、ボール11を抱持する部分であり、先端側開口部23から中心孔27の前端までの間に形成される空間である。
中心孔27は、ボールハウス26とバック孔28の間に位置し、これらを連結する孔である。
バック孔28は、ボールペンチップ本体10の後端部(基端側開口部25)から先端方向へ向かってボールハウス26に達しない近傍に至るまでの間に位置する空間である。このバック孔28は、先端側端部が中心孔27の尾端側端部と連続しており、各部の径が中心孔27の径よりも大きくなっている。
【0042】
ボールペンチップ本体10は、
図3で示されるように、先端変形部33と、側壁部34と、接続壁部35と、座部36と、第一溝部37を有している。
【0043】
先端変形部33は、ボールペンチップ本体10の先端側に位置する部分であり、ボールペンチップ本体10の先端側を内側にかしめて形成する部分である(詳しくは後述する)。この先端変形部33は、環状に連続しており、先端変形部33の内側に先端側開口部23が形成される。この先端変形部33は、ボール11の脱落を防止する部分であり、先端側開口部23の径方向長さがボール11の径方向長さ(ボール径L1)よりも短くなるように斜め方向に延びている。すなわち、先端側開口部23の径方向の内側であって前方側に向かうように延びている。
【0044】
側壁部34は、前後方向に延びて円環状に連続する内壁部分であり、ボールハウス26の一部を囲むように形成され、内側面(内側壁面)がボールハウス26に面する。本実施形態では、側壁部34の先端側部分に先端側溝部43(第二溝部)が形成されている。この先端側溝部43は、側壁部34の一部が先端側開口部23の径方向で外側に窪んで形成される溝であり、環状に連続する。
詳細には、側壁部34は、先端側の側壁先端側部34aが基端側の側壁基端側部34bよりも先端側開口部23の径方向で外側に位置しており、これらの間に側壁テーパ部34cを有する。側壁テーパ部34cは、後方側に向かうにつれて狭径となる部分である。
そして、側壁先端側部34aが先端側溝部43の溝底部分となっている。
【0045】
接続壁部35は、側壁部34(側壁基端側部34b)と座面部46(座部36)を繋ぐ壁面を形成する部分である。
【0046】
第一溝部37は、側壁部34(側壁基端側部34b)の基端側部分(後端側部分)の内側面と接続壁部35の前側面との間に形成される溝である。すなわち、側壁部34の基端側部分と接続壁部35は、第一溝部37の溝壁を形成する部分となる。詳細には、側壁部34の基端側部分は、先端側開口部23の径方向外側の壁面を形成し、接続壁部35は、その逆側となる先端側開口部23の径方向内側(中心孔27側)の溝壁を形成する。
なお、ここでいう先端側開口部23の径方向内側とは、ボールペンチップ1(ボールペンチップ本体10)の中心軸線M側でもある。また、中心軸線Mとは、ボールペンチップ1(ボールペンチップ本体10)の各部の横断面の中心を通る仮想線である。
【0047】
ここで、本実施形態のボールペンチップ本体10では、溝壁の壁面となる接続壁部35の外表面(先端側面)を第一溝部37の内側に向かって凸となる湾曲面としている。すなわち、第一溝部37の中心孔27側の溝壁を形成する壁面が湾曲している。
詳細には、先端側開口部23の径方向外側であって且つ前方に向かう方向である斜め方向に凸となるように、接続壁部35の外表面(壁面)が湾曲している。
【0048】
さらに、本実施形態の第一溝部37は、斜め後方に延びる溝であり、詳細には、先端側開口部23の径方向外側であって後側に向かう方向に延びている。また、第一溝部37は、延び方向の先端側部分が基端側部分よりも溝幅が小さく、先細りする溝となっている。すなわち、基端側部分、中途部分、先端側部分の順で溝幅が小さくなっていく。なお、本実施形態の第一溝部37は、最も後端側の部分(延び方向の先端側部分)が座面部46の後端よりも前方に位置する。
【0049】
座部36は、ボールハウス26の底面を形成し、ボール11の受座となる部分である。
座部36は、座面部46を有する。座面部46は、ボール11の曲率とほぼ同一の曲率を有する凹球面状に形成された部分である。
【0050】
ここで、本実施形態のボールペンチップ本体10は、
図3、
図5で示されるように、矢溝50が形成されている。ボールペンチップ本体10の矢溝50の数は、奇数とすることが好ましく、本実施形態では、3つ(3条)の矢溝50が等角度間隔で設けられている。それぞれの矢溝50は、中心孔27を中心として放射状に延びており、且つ、ボールハウス26とバック孔28の間でこれらを連通している。
すなわち、矢溝50は、先端側開口部23の径方向内側の部分が中心孔27と連続(連通)している。そして、矢溝50は、前端部分がボールハウス26に向かって開口し、ボールハウス26と連続(連通)すると共に、後端部分がバック孔28に向かって開口し、バック孔28と連続(連通)している。
【0051】
ここで、座部36に注目すると、
図5で示されるように、座部36では、座面部46と、矢溝50の一部分が円環状に並んでおり、並び方向で交互に位置している。
すなわち、座部36は、座面部46と、矢溝部(矢溝50の少なくとも一部)を有しており、これらが円環状に並んだ部分となっている。
【0052】
本実施形態のボールペンチップ本体10は、ボール11のボール径L1(
図3参照)を0.6mm以上1.5mm以下とすることが好ましく、0.7mm以上1.2mm以下とすることがさらに好ましい。本実施形態では、ボール径L1を0.8mmとしている。
【0053】
また、本実施形態のボールペンチップ本体10は、座径L2は、0.645mm以上0.720mm以下とすることが好ましく、0.680mm以上0.700mm以下とすることがさらに好ましい。本実施形態では、座径L2を0.690mmとしている。
なお、座径L2は、中心軸線Mを含む面であって前後方向と平行となる断面を縦断面としたとき、縦断面において、中心軸線Mを挟んで片側に位置する座面部46の前端部分と、他方側に位置する座面部46の前端部分との間の距離である。
また、この座径L2は、中心軸線Mの長手方向(前後方向)を視線方向とし、先端側(前側)からみた平面視において、座面部46の全体が収まる最小包含円M2の径(直径)でもある(
図5参照)。
【0054】
さらに、座径L2は、ボール径L1の75パーセント以上95パーセント以下とすることが好ましく、80パーセント以上90パーセント以下とすることがさらに好ましい。本実施形態では、座径L2をボール径L1の86.2パーセントとしている。
このことにより、ボール径L1を0.6mm以上となる大きなものとし、筆記角度を一定以上小さくして使用した場合であっても、「ボテ」の発生を抑制、防止することが可能となる。
【0055】
本実施形態のボールペンチップ本体10は、座角θ1(
図3参照)を70°以上110°以下とすることがさらに好ましく、80°以上100°以下とすることがさらに好ましい。本実施形態では、この座角θ1を90°としている。
なお、座角θ1は、上記した縦断面において、片側の座面部46の最も先端側に位置する点P1と最も後端側に位置する点P2を通過する仮想線を第1仮想線l1とし、他方側の座面部46の最も先端側に位置する点P1と最も後端側に位置する点P2を通過する仮想線を第2仮想線l2としたとき、第1仮想線l1と第2仮想線l2のなす角とする。
【0056】
また、本実施形態のボールペンチップ本体10は、中心孔27の径L3(直径、
図3参照)を0.3mm以上0.6mm以下とすることが好ましく、0.45mm以上0.55mm以下とすることがさらに好ましい。本実施形態では、この中心孔27の径L3を0.5mmとしている。
より詳細には、ボール径L1を0.7mmとした場合、中心孔27の径L3を0.3mm以上0.45mm以下とすることが好ましく、ボール径L1を0.8mmとした場合、中心孔27の径L3を0.45mm以上0.55mm以下とすることが好ましい。
【0057】
また、本実施形態のボールペンチップ本体10は、矢溝50の幅の長さL4を0.25mm以上0.35mm以下とすることが好ましく、0.3mm以上0.35mm以下とすることがさらに好ましい。本実施形態では、矢溝50の幅の長さL4を0.33mmとしている。
なお、矢溝50の幅の長さL4は、中心孔27の周方向で離れた位置にそれぞれ配された溝壁間の距離でもある。
【0058】
ここで、
図4で示されるように、ボールペンチップ本体10のボール11が最も前方に位置した状態において、ボール11の前端からボールペンチップ本体10前端までの前後方向の長さを非使用時のボール11の飛び出し長さL5とする。この非使用時のボール11の飛び出し長さL5は、0.290mm以上0.320mm以下とすることが好ましく、0.300mm以上0.310mm以下とすることがさらに好ましい。本実施形態では、この非使用時のボール11の飛び出し長さL5を0.305mmとしている。
【0059】
また、
図3で示されるように、ボールペンチップ本体10のボール11が最も後方に位置した状態において、ボール11の前端からボールペンチップ本体10前端までの前後方向の長さを使用時のボール11の飛び出し長さL6としたとき、使用時のボール11の飛び出し長さL6は、0.180mm以上0.380mm以下とすることが好ましく、0.200mm以上0.300mm以下とすることがさらに好ましい。本実施形態では、この使用時のボール11の飛び出し長さL6を0.255mmとしている。
なお、上記した非使用時のボール11の飛び出し長さL5から、この使用時のボール11の飛び出し長さL6を減算した値が後述する座打ち量と同じ値となる。
また、この使用時のボール11の飛び出し長さL6は、ボールペンの一部としてボールペンチップ1を使用する際において、使用時の塗布対象物(紙等)からボールペンチップ本体10までの距離でもある。より詳細には、ボールペンを筆記角度90度で使用した際において、塗布対象物からボールペンチップ本体10の先端の角部分までの距離でもある。
【0060】
次に、ボールペンチップ1の製造方法(組み立て方法)について説明する。
まず、円柱状の材料を加工し、第1仕掛チップ本体60(塗布具用チップの仕掛品、第1仕掛塗布具用チップ本体)を形成する第1仕掛チップ本体形成工程を行う。
【0061】
ここで、本実施形態の第1仕掛チップ本体60は、
図6で示されるように、仕掛先端部61、仕掛接続壁部62、仕掛溝部63、仕掛座面部64を有する。すなわち、第1仕掛チップ本体60は、上記した先端変形部33、接続壁部35、第一溝部37、座面部46に替わって、これら仕掛先端部61、仕掛接続壁部62、仕掛溝部63、仕掛座面部64を有する点が、上記したボールペンチップ本体10と異なる。
【0062】
仕掛先端部61は、後側部分よりも薄肉化された略円筒状の部分である。すなわち、円環状に連続し前後方向に延びている。
【0063】
仕掛接続壁部62は、側壁部34と仕掛座面部64を繋ぐ壁面を形成する部分である。上記した接続壁部35は、前側の面(壁面)が湾曲部分を有する面(
図3参照)であるのに対し、仕掛接続壁部62は、前側の面(壁面)が傾斜面となっている。
詳細には、仕掛接続壁部62の前側の面は、前方に向かうにつれて中心軸線M側(先端開口の径方向内側)に向かうように傾斜している。
【0064】
仕掛溝部63は、側壁部34(側壁基端側部34b)の基端側部分と仕掛接続壁部62の間、詳細には、側壁部34の基端側部分の内側面と仕掛接続壁部62の前側の傾斜面の間となる位置に形成される。
すなわち、側壁部34の基端側部分の内側面は、先端開口の径方向外側の溝壁の壁面を形成し、仕掛接続壁部62の前側の傾斜面は、先端開口の径方向内側(中心軸線M側)の溝壁の壁面を形成する。ここで、本実施形態の仕掛溝部63は、一方の溝壁の壁面と、他方の溝壁の壁面のなす角θ2としたとき、なす角θ2を20°以上50°以下とすることが好ましく、40°以上50°以下とすることがより好ましい。本実施形態のなす角θ2は、45°としている。
【0065】
この仕掛溝部63は、斜め後方に延びる溝であり、詳細には、先端開口の径方向外側(中心軸線Mから離れる方向)であって後側に向かう方向に延びている。また、仕掛溝部63は、延び方向の先端側部分が基端側部分よりも溝幅が小さく、先細りする溝となっている。すなわち、基端側部分、中途部分、先端側部分の順で溝幅が小さくなっていく。
【0066】
仕掛座面部64は、後述する座打ちによって座面部46となる部分であり、縦断面において、中心軸線M側に向かうにつれて後方側に向かうように傾斜する。
【0067】
なお、本実施形態の第1仕掛チップ本体60は、座角θ3(
図6参照)を70°以上100°以下とすることがさらに好ましく、80°以上95°以下とすることがさらに好ましい。本実施形態では、この座角θ3を90°としている。
なお、座角θ3は、上記した座角θ1と同様に、縦断面において、片側の仕掛座面部64の最も先端側に位置する点P1と最も後端側に位置する点P2を通過する仮想線を第1仮想線l3とし、他方側の仕掛座面部64の最も先端側に位置する点P1と最も後端側に位置する点P2を通過する仮想線を第2仮想線l4としたとき、第1仮想線l3と第2仮想線l4のなす角とする。また、座角θ3は、片側の仕掛座面部64の前端側の傾斜面を含む仮想面と、他方側の仕掛座面部64の前端側の傾斜面を含む仮想面とのなす角でもある。
【0068】
次に、
図7で示されるように、第1仕掛チップ本体60に先端側(前方)からボール11を挿入するボール挿入工程を行う。このとき、ボール11は、仕掛座面部64に先端側から接触する。
詳細には、ボール11は、上記縦断面において、仕掛座面部64の傾斜部分の中途位置、すなわち、傾斜部分の最も前方に位置する部分と最も後方に位置する部分の間となる位置と接触する。
ここで、上記縦断面において、中心軸線Mを挟んで片側に位置するボール11の接触部分から、他方側に位置するボール11の接触部分までの距離を接触部分間距離L7とする。本実施形態の第1仕掛チップ本体60は、上記したように座角θ3を90°としており、このように座角θ3を90°とした場合、この接触部分間距離L7は、0.560mm以上0.570mm以下とすることが好ましい。本実施形態では、この接触部分間距離L7を0.565mmとしている。
【0069】
そして、
図8で示されるように、この状態で第1仕掛チップ本体60を加工して第2仕掛チップ本体67(塗布具用チップの仕掛品、第2仕掛塗布具用チップ本体)を形成する第2仕掛チップ本体形成工程を行う。すなわち、先端側からボール11を入れた第1仕掛チップ本体60の先端側(仕掛先端部61)をかしめて変形させることで、先端変形部33を形成する。このことにより、第2仕掛チップ本体67が形成される。
【0070】
続いて、第2仕掛チップ本体67のボール11を先端側から押圧する「座打ち」を行う座打工程を行う。このことにより、ボールペンチップ1(ボールペンチップ本体10)が完成する(
図3参照)。
ここで、座打ち直後の状態では、ボール11は、座打ちの前の状態から後方に移動することとなる。そして、座打ちの前後におけるボール11の移動量が座打ち量となる。本実施形態では、ボール径L1を0.795mm以上0.805mm以下とし、座打ち量を0.040mm以上0.065mm以下とすることが好ましい。そして、ボール径L1を0.795mm以上0.805mm以下とし、座打ち量を0.045mm以上0.055mm以下とすることがさらに好ましい。本実施形態では、ボール径L1を0.8mmとし、座打ち量を0.050mmとしている。
この座打ち量は、上記したように、非使用時のボール11の飛び出し長さL5(
図4参照)から、この使用時のボール11の飛び出し長さL6(
図3参照)を減算した値でもある。
【0071】
このように座打ちすることで、仕掛座面部64の前側面が変形し、座面部46が形成される。
また、本実施形態では、仕掛溝部63の2つの溝壁の壁面同士のなす角θ2を上記した20°以上50°以下とし、上記した座打ち量となるようにボール11を押圧して座打ちをすることで、仕掛接続壁部62が変形して接続壁部35が形成される。すなわち、このようにすることで、第一溝部37の中心孔27側の壁面に湾曲部分(
図3参照)を容易に形成できる。このことにより、ボールペンチップ1をボールペンの一部として使用したとき、インキの安定供給が可能となる。
【実施例0072】
続いて、本発明の実施例及び比較例について説明する。
実施例1、実施例2として上記した実施形態に準じた塗布具用チップを有する塗布具を作製した。すなわち、上記した実施形態に準じたボールペンチップを有するボールペンレフィルを作製し、さらに、それぞれのボールペンレフィルを有するボールペンを作製した。
比較例1として従来の塗布具用チップを有する塗布具を作製した。すなわち、従来のボールペンチップを有するボールペンレフィルを作製し、さらに、それぞれのボールペンレフィルを有するボールペンを作製した。
そして、実施例1、実施例2、比較例1のボールペンを使用して筆記試験を行い、その際の筆記線を比較した。
(実施例1)
【0073】
上記した実施形態に準じたボールペンチップを作製した(
図9参照)。
作製したボールペンチップは、ボール径L1を0.8mmとし、座径L2を0.690mmとして、座径L2をボール径L1の86.2パーセントとした。そして、作製したボールペンチップを使用してボールペンレフィルを作製し、さらに市販の軸筒部材と組み合わせてボールペンを作製して、筆記試験機を用いて上質紙に対して連続筆記する筆記試験を実施した。筆記試験では、筆記面に対するボールペンの角度を65°とし、筆記速度を70mm/秒とし、筆記距離を10mとして円周が10cmの円を連続して100個筆記する試験を1回の試験とした。なお、この筆記試験で形成された筆記線の一つを
図10に示す。また、筆記試験では、ボールペンを中心軸線回りに回転させつつ全体を移動させて円周が10cmの円を連続的に筆記した。この筆記試験を6回行った。
(実施例2)
【0074】
上記した実施形態に準じたボールペンチップを作製した。
作製したボールペンチップは、ボール径L1を0.8mmとし、座径L2を0.645mmとして、座径L2をボール径L1の80.6パーセントとした。そして、作製したボールペンチップ使用してボールペンレフィルを作製し、市販の軸筒部材と組み合わせてボールペンを作製して、実施例1と同様の筆記試験を同回数実施した。
(比較例1)
【0075】
比較例1として従来のものと同様のボールペンチップを作製した。
作製したボールペンチップは、
図11で示すように、側壁部300と座面部301の間に水平壁303が設けられ、座面部301の側方に溝(第一溝部37)が形成されていないものであった。また、ボール径が0.8mmであり、座径が0.590mmであり、座径はボール径の73.7パーセントであった。
そして、作製したボールペンチップ使用してボールペンレフィルを作製し、市販の軸筒部材と組み合わせてボールペンを作製して、実施例1と同様の筆記試験を同回数実施した。
【0076】
そして、筆記試験を1回実施する度に形成されるそれぞれの筆記線毎に、ボテの発生数を計測した。具体的には、それぞれの筆記線を目視で確認してボテの発生数を数えた。例えば、
図10の筆記線では、ボテの発生数は3である、といった具合である。
その結果、
図12で示すように、実施例1では、6回の筆記試験のボテの発生数の最小値が1、ボテの発生数の最大値が9、ボテの発生数の平均値が3.7であった。すなわち、ボテの発生数の最も少なかった回では1つ、最も多かった回では9つのボテが発生した。
また、実施例2では、6回の筆記試験のボテの発生数の最小値が14、ボテの発生数の最大値が25、ボテの発生数の平均値が18であった。
そして、比較例1では、6回の筆記試験のボテの発生数の最小値が39、発生数の最大値が67、発生数の平均値が54.8であった。
以上のことから、実施例1のボールペンは、筆記角度を65°として中心軸線回りに回転させながら10mに亘って筆記してもボテがほとんど発生しない優れたものであることがわかる。また、実施例2のボールペンは、比較例1のボールペンと比べてボテの発生数の平均値が半分以下であり、且つ、実施例2のボールペンのボテの発生数の最大値が比較例1のボールペンのボテの発生数の最小値よりも十分に小さく、ボテの発生数が十分に抑制できていることがわかる。