(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100609
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】空燃比制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/04 20060101AFI20240719BHJP
F02D 41/14 20060101ALI20240719BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240719BHJP
F02D 41/34 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
F02D41/04
F02D41/14
F02D45/00 360Z
F02D41/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004720
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 学
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(74)【代理人】
【識別番号】100182028
【弁理士】
【氏名又は名称】多原 伸宜
(72)【発明者】
【氏名】池田 友理恵
【テーマコード(参考)】
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3G301HA01
3G301JA21
3G301LB02
3G301MA01
3G301MA11
3G301ND01
3G301PA07
3G301PA11
3G301PD09
3G301PE03
3G301PE08
3G384BA31
3G384DA04
3G384EA12
3G384FA44
(57)【要約】
【課題】排気通路に設けられた触媒の浄化能力に応じて空燃比のフィードバック制御を行うことにより、空燃比の制御性を確保して、エンジンの運転性及び排気の性状を確保することができる空燃比制御装置を提供する。
【解決手段】空燃比制御装置24は、下流側O2センサ22bから出力される酸素濃度に応じた電気信号に基づいて、燃料噴射弁8の燃料噴射量を調整することにより、エンジン1の混合気の空燃比のフィードバック制御を実行し、フィードバック制御の補正係数の学習値によって燃料噴射量を補正すると共に、学習値を所定の範囲に制限し、排気通路20に設けられた三元触媒21の浄化度合いが大きいほど所定の範囲を大きくする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記エンジンの排気通路の酸素濃度を検出する酸素濃度検出器と、を備えた車両に搭載される空燃比制御装置であって、
前記酸素濃度検出器から出力される前記酸素濃度に応じた電気信号に基づいて、前記燃料噴射弁の燃料噴射量を調整することにより、前記エンジンの混合気の空燃比のフィードバック制御を実行すると共に、前記フィードバック制御の補正係数の学習値によって前記燃料噴射量を補正する空燃比制御部と、
前記学習値を所定の範囲に制限する学習値制限部と、
を有し、
前記学習値制限部は、
前記排気通路に設けられた触媒の浄化度合いが大きいほど前記所定の範囲を大きくする、
ことを特徴とする空燃比制御装置。
【請求項2】
前記学習値制限部は、
前記酸素濃度検出器から出力される前記電気信号に基づいて前記浄化度合いを求める、
ことを特徴とする請求項1記載の空燃比制御装置。
【請求項3】
前記学習値制限部は、
前記車両が備える温度センサより出力される前記エンジンの冷却水の温度に応じた電気信号に基づいて前記浄化度合いを求める、
ことを特徴とする請求項1記載の空燃比制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される空燃比制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの燃料噴射弁の燃料噴射量を調整すると共に、エンジンに供給される混合気の空燃比をフィードバック制御して、空燃比を理論空燃比に維持する制御を行う車両が知られている。
【0003】
特許文献1は、エンジンの混合気の空燃比を制御する技術において、空燃比のフィードバック補正係数の学習値に対して、上限値及び下限値を設定することにより、学習値を所定の範囲に制限する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1においては、学習値を所定の範囲に制限する際に、排気通路に設けられた触媒における排気を浄化する能力を考慮していないため、学習値を適正な範囲にすることができないことにより、空燃比の制御性が低下して、エンジンの運転性及び排気の性状を低下させてしまう可能性がある。
【0006】
本発明は、排気通路に設けられた触媒の浄化能力に応じて空燃比のフィードバック制御を行うことにより、空燃比の制御性を確保して、エンジンの運転性及び排気の性状を確保することができる空燃比制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するべく、本発明は、エンジンに燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記エンジンの排気通路の酸素濃度を検出する酸素濃度検出器と、を備えた車両に搭載される空燃比制御装置であって、前記酸素濃度検出器から出力される前記酸素濃度に応じた電気信号に基づいて、前記燃料噴射弁の燃料噴射量を調整することにより、前記エンジンの混合気の空燃比のフィードバック制御を実行すると共に、前記フィードバック制御の補正係数の学習値によって前記燃料噴射量を補正する空燃比制御部と、前記学習値を所定の範囲に制限する学習値制限部と、を有し、前記学習値制限部は、前記排気通路に設けられた触媒の浄化度合いが大きいほど前記所定の範囲を大きくすることを第1の局面とする。
【0008】
本発明は、第1の局面に加えて、前記学習値制限部は、前記酸素濃度検出器から出力される前記電気信号に基づいて前記浄化度合いを求めることを第2の局面とする。
【0009】
本発明は、第1の局面に加えて、前記学習値制限部は、前記車両が備える温度センサより出力される前記エンジンの冷却水の温度に応じた電気信号に基づいて前記浄化度合いを求めることを第3の局面とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の局面にかかる空燃比制御装置によれば、エンジンに燃料を噴射する燃料噴射弁と、エンジンの排気通路の酸素濃度を検出する酸素濃度検出器と、を備えた車両に搭載される空燃比制御装置であって、酸素濃度検出器から出力される酸素濃度に応じた電気信号に基づいて、燃料噴射弁の燃料噴射量を調整することにより、エンジンの混合気の空燃比のフィードバック制御を実行すると共に、フィードバック制御の補正係数の学習値によって燃料噴射量を補正する空燃比制御部と、学習値を所定の範囲に制限する学習値制限部と、を有し、学習値制限部は、排気通路に設けられた触媒の浄化度合いが大きいほど所定の範囲を大きくするものであるため、排気通路に設けられた触媒の浄化能力に応じて空燃比のフィードバック制御を行うことにより、空燃比の制御性を確保して、エンジンの運転性及び排気の性状を確保することができる。
【0011】
また、本発明の第2の局面にかかる空燃比制御装置によれば、学習値制限部は、酸素濃度検出器から出力される電気信号に基づいて浄化度合いを求めるものであるため、浄化度合いを精度よく求めることができる。
【0012】
また、本発明の第3の局面にかかる空燃比制御装置によれば、学習値制限部は、車両が備える温度センサより出力されるエンジンの冷却水の温度に応じた電気信号に基づいて浄化度合いを求めるものであるため、エンジンの冷却水の温度を検出する温度センサを用いて浄化度合いを求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態における空燃比制御装置の構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態における学習値設定処理を示すフロー図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態における学習値制限処理を示すフロー図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態における空燃比のフィードバック制御の流れを示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を適宜参照して、本発明の実施形態における空燃比制御装置につき、詳細に説明する。
【0015】
<空燃比制御装置の構成>
まず、
図1を参照して、本実施形態における空燃比制御装置の構成について説明する。
【0016】
図1は、本実施形態における空燃比制御装置の構成を示す模式図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態における空燃比制御装置24は、ECU(Electronic Control Unit)等の電子制御装置であり、内燃機関であるエンジン1の駆動力を駆動輪に伝達する鞍乗型車両等の車両に搭載されている。
【0018】
エンジン1は、燃焼室18と吸気通路19との接続部位に設けられている吸気バルブ14と、燃焼室18と排気通路20との接続部位に設けられている排気バルブ15と、ピストン17に連結されている図示しないクランクシャフトと共に同軸に回転するリラクタ16と、ピストン17と、燃焼室18と、燃焼室18と連通する吸気通路19と、燃焼室18と連通する排気通路20と、を有している。
【0019】
エンジン1の吸気系は、始動ソレノイド7と、スロットルバルブ10と、全閉ストッパ11と、アイドルアジャストスクリュ12と、スロットルバルブ10を迂回する補助通路13と、吸気通路19に設けられるスロットルバルブ10をバイパス(迂回)する補助吸気通路23と、を備えている。
【0020】
始動ソレノイド7は、補助吸気通路23に設けられている補助吸気弁であり、空燃比制御装置24の制御により、エンジン1の始動時のアイドリングであるファーストアイドル時に開閉して補助吸気通路23の吸気量を調整する。始動ソレノイド7は、全閉開度又は全開開度にのみ制御可能な廉価なON/OFF型の開閉弁である。始動ソレノイド7は、エンジン1のファーストアイドルの際に開弁して、外部からエンジン1に供給される空気量を増量することによりエンジン1の暖機を行い、エンジン1の温度が所定温度に達してファーストアイドルを終了する際に閉弁する。
【0021】
スロットルバルブ10は、吸気通路19の吸気方向(
図1において右方向)において燃料噴射弁8の上流側に設けられており、機械式又は電子式の開閉弁である。スロットルバルブ10は、全開開度の位置である全開位置と、全閉開度の位置である全閉位置と、の間で開閉することにより、吸気通路19から燃焼室18に流入する外気の量を調整する。
【0022】
全閉ストッパ11は、スロットルバルブ10の全閉位置を規制すると共に、スロットルバルブ10の全閉位置における吸気通路19の吸気量を調整する。
【0023】
アイドルアジャストスクリュ12は、補助通路13に設けられ、補助通路13の吸気量を調整することによって、アイドル回転数を調整する。アイドルアジャストスクリュ12は、補助通路13の吸気量を多くするほどアイドル回転数を高くすることができる。
【0024】
空燃比制御装置24は、図示しないメモリ等を備えており、メモリには、空燃比制御装置24に必要な制御プログラム及び制御データ等が格納されている。空燃比制御装置24は、メモリに格納されている制御プログラムを実行することにより、吸気温センサ2、スロットルポジションセンサ3、吸気圧センサ4、クランク角センサ5、冷却水温センサ6、上流側O2センサ22a及び下流側O2センサ22bから入力される信号に基づいて、始動ソレノイド7、燃料噴射弁8及び点火栓9の動作を制御する。
【0025】
ここで、吸気温センサ2は、吸気通路19内に流入する空気の温度を検出し、検出した空気の温度を示す吸気温信号を空燃比制御装置24に入力する。スロットルポジションセンサ3は、スロットルバルブ10のスロットル開度を検出し、検出したスロットル開度に応じた開度信号を空燃比制御装置24に入力する。吸気圧センサ4は、吸気通路19のスロットルバルブ10及び補助吸気通路23よりも吸気方向の下流側に設けられており、補助吸気通路23から流入する空気を含む吸気通路19内に流入する空気の圧力を吸気圧として検出し、検出した吸気圧を示す吸気圧信号を空燃比制御装置24に入力する。
【0026】
クランク角センサ5は、図示しないクランクシャフトの回転に伴って回転するリラクタ16の外周面に形成されている歯部に対応したクランクパルスを空燃比制御装置24に入力する。冷却水温センサ6は、エンジン1の図示しない冷却水通路内を流通する冷却水の温度を検出し、検出した冷却水の温度に応じた電気信号である冷却水温信号を空燃比制御装置24に入力する。燃料噴射弁8は、吸気通路19に設けられており、空燃比制御装置24によって開弁時間が制御されることにより適切な量の燃料を噴射してエンジン1に供給する。点火栓9は、空燃比制御装置24によって制御されたタイミングで、燃焼室18内の燃料及び空気から成る混合気に点火する。
【0027】
三元触媒21は、エンジン1と連通してエンジン1において生じた排気ガスを外部に排気する排気通路20に連通して排気通路20の途中に設けられており、エンジン1から排出される排気ガスを浄化する。
【0028】
上流側O
2センサ22aは、三元触媒21の排気方向(
図1の右方向)の上流側における排気通路20に連通すると共に三元触媒21の上流側に近接して配置され、三元触媒21の上流側における排気ガス中の酸素濃度の高低を検出し、検出した酸素濃度の高低を示す電気信号を空燃比制御装置24に出力する酸素濃度検出器である。
【0029】
上流側O2センサ22aが検出する排気ガス中の酸素濃度の高低は、エンジン1に供給される混合気の空燃比の燃料濃度の低高に対応しており、上流側O2センサ22aが検出する排気ガス中の酸素濃度が低いということは、エンジン1に供給される混合気の燃料濃度が高く(燃料が過多で酸素濃度が低いことを意味し、リッチと表現することがある)、上流側O2センサ22aが検出する酸素濃度が高いということは、エンジン1に供給される混合気の燃料濃度が低い(燃料が希薄で酸素濃度が高いことを意味し、リーンと表現することがある)ことを意味している。また、上流側O2センサ22aは、排気ガス中の酸素濃度が所定濃度(所定閾値濃度)以下の低い状態であるときにはハイレベルの電圧(例えば数百mVの電圧値)の電気信号を出力し、排気ガス中の酸素濃度が所定濃度(所定閾値濃度)を超える高い状態であるときにはローレベルの電圧(例えば実質0Vの電圧値)の電気信号を出力するものであり、かかる所定閾値濃度が、上流側O2センサ22aが出力する電気信号の電圧を反転させる所定の反転閾値(所定の反転電圧値)に相当することになる。また、上流側O2センサ22aの所定閾値濃度は、一般的には、エンジン1に供給される混合気の理論空燃比に相当するように設定すればよい。
【0030】
なお、このような高低の2値的な出力電圧を呈する電気信号を出力する上流側O2センサ22aに代えて、これと同様の所定の反転閾値を設定して、排気ガス中の酸素濃度に応じた連続的な出力電圧を呈する電気信号を出力するAF(Air-Fuel:空燃比)センサや、排気ガス中の酸素濃度に応じた連続的な線形の出力電圧を呈する電気信号を出力するLAF(Linear Air-Fuel)センサを用いて、排気ガス中の酸素濃度の検出精度を向上してもよい。
【0031】
下流側O
2センサ22bは、三元触媒21の排気方向(
図1の右方向)の下流側における排気通路20に連通すると共に三元触媒21の下流側に近接して配置され、三元触媒21の下流側における排気ガス中の酸素濃度の高低を検出し、検出した酸素濃度の高低を示す電気信号を空燃比制御装置24に出力する酸素濃度検出器である。なお、下流側O
2センサ22bの構成としては、上流側O
2センサ22aの構成と同一のものを用いるため、下流側O
2センサ22bのその他の詳細な説明は省略する。
【0032】
空燃比制御装置24は、クランク角センサ5から入力されるクランクパルスに基づいて、エンジン1のクランク角を検出すると共に、エンジン回転数を算出する。空燃比制御装置24は、スロットルバルブ10が電子式の開閉弁である場合に、スロットルポジションセンサ3及びクランク角センサ5から入力される信号を用いて、図示しない駆動モータを駆動することによりスロットルバルブ10のスロットル開度を制御する。空燃比制御装置24は、スロットルバルブ10が車両の運転者により操作される操作部材に連結された機械式の開閉弁である場合に、点火栓9の点火時期を調整することにより、エンジン1のアイドル回転数がアイドル目標回転数に近づくようにフィードバック制御を行う。また、空燃比制御装置24は、冷却水温センサ6から入力される冷却水温信号より求めた冷却水の温度と、スロットルポジションセンサ3から入力される開度信号より求めたスロットル開度と、に基づいて、始動ソレノイド7の開度を制御する。
【0033】
また、空燃比制御装置24は、空燃比制御部25と、学習値制限部26と、を機能ブロックとして備えている。
【0034】
空燃比制御部25は、空燃比制御装置24により制御される始動ソレノイド7の開度と、上流側O2センサ22a又は下流側O2センサ22bから出力される酸素濃度に応じた電気信号と、に基づいて、燃料噴射弁8の燃料噴射量を調整することにより、エンジン1に供給される混合気の空燃比が理論空燃比になるように又は理論空燃比を維持するようにフィードバック制御を実行する。空燃比制御部25は、空燃比のフィードバック制御の実行中において、燃料噴射弁8の燃料噴射量を補正する補正係数を算出する。
【0035】
具体的には、空燃比制御部25は、上流側O2センサ22a又は下流側O2センサ22bがエンジン1の排気ガス中の酸素濃度の高低を検出することにより、下流側O2センサ22bが出力する電気信号の電圧が、エンジン1に供給される混合気の空燃比が理論空燃比を挟んでリッチ側からリーン側に反転したことを示す状態になったときには、エンジン1に供給される混合気の空燃比がリッチ側になるように補正係数を算出し、上流側O2センサ22a又は下流側O2センサ22bが出力する電気信号の電圧が、エンジン1に供給される混合気の空燃比が理論空燃比を挟んでリーン側からリッチ側に反転したことを示す状態になったときには、エンジン1に供給される混合気の空燃比がリーン側になるように補正係数を算出する。
【0036】
空燃比制御部25は、空燃比のフィードバック制御の実行中において、上記のように算出した補正係数を学習して学習値を求める後述の学習値設定処理を実行し、求めた補正係数の学習値に基づいて燃料噴射弁8の燃料噴射量を補正する。
【0037】
ここで、補正係数の学習値は、エンジン1の回転数等に基づいて算出される基本燃料値に対し、エンジン1に供給される混合気の空燃比がリーン側及びリッチ側のいずれかになるように乗算等されて適用される値である。また、三元触媒21の劣化の程度又は酸素貯蔵容量の程度によって上流側O2センサ22a又は下流側O2センサ22bの出力の反転を検出するまでの周期が変化するため、三元触媒21が劣化していないとき又は三元触媒21の酸素貯蔵容量が大きいときには、エンジン1の空燃比がリッチ側又はリーン側に大きく変化する傾向にあることにより、空燃比をフィードバック制御する際にエンジン1の出力変動が大きくなって、エンジン1を搭載した車両のドライバビリティの悪化等に繋がってしまう。これに対して、上記の学習値を用いて空燃比のフィードバック制御を実行することにより、エンジン1の出力変動を抑制することができ、車両のドライバビリティの悪化を抑制することができる。
【0038】
学習値制限部26は、空燃比制御部25がフィードバック制御を実行しているときに三元触媒21の劣化度合いを求めて、空燃比制御部25が求めた補正係数の学習値を劣化度合いに応じた所定の範囲に制限する後述の学習値制限処理を実行する。
【0039】
具体的には、学習値制限部26は、冷却水温センサ6より出力されるエンジン1の冷却水温に応じた冷却水温信号、又は上流側O2センサ22a若しくは下流側O2センサ22bの出力する電気信号に基づいて三元触媒21の浄化度合いを求める。
【0040】
ここで、三元触媒21が劣化していない場合には、暖機が進むことによりエンジン1の冷却水温が高くなる一方、三元触媒21が劣化している場合には、暖機が進まないことによりエンジン1の冷却水温が低くなる。このため、学習値制限部26は、冷却水温センサ6より出力される冷却水温信号が示す暖機開始時から所定時間内のエンジン1の冷却水温が所定閾値以上であるときに、三元触媒21が劣化していないと判定し、冷却水温センサ6より出力される電気信号が示す暖機開始時から所定時間内のエンジン1の冷却水温が所定値閾値未満であるときに、三元触媒21が劣化していると判定することが可能となる。
【0041】
これより、学習値制限部26は、エンジン1の冷却水温が所定閾値以上である場合に、エンジン1の冷却水温が所定閾値未満である場合に比べて、空燃比制御部25が求めた補正係数の学習値を制限する所定の範囲を拡大する。
【0042】
また、三元触媒21が劣化していない場合には、三元触媒21の酸素貯蔵能力(OSC)が高いために、三元触媒21は多量の酸素を吸蔵することができる一方、三元触媒21が劣化している場合には、三元触媒21は多量の酸素を吸蔵することができない。このため、学習値制限部26は、下流側O2センサ22bの出力する電気信号の電圧の高低が、エンジン1に供給される混合気の空燃比がリーン側及びリッチ側の一方から他方に反転することに対応して反転する反転周期に関するパラメータの値(例えば、かかる反転周期の値や、かかる反転周期に比例した値等)が、所定値以上のときに、三元触媒21が劣化していないと判定し、反転周期に関するパラメータの値が、所定値未満のときに、三元触媒21が劣化していると判定することが可能となる。かかる所定値は、エンジン1の回転数や吸気量から求められるエンジン1の運転状態に応じて設定されることが好ましい。また、かかる三元触媒21の劣化の判定については、三元触媒21の温度が劣化の判定に要求される温度を超える温度に達しているときに実行されることが前提となる。
【0043】
これにより、学習値制限部26は、混合気の空燃比がリーン側及びリッチ側の一方から他方に反転することに対応して反転する反転周期に関するパラメータの値が所定閾値以上の場合に、混合気の空燃比がリーン側及びリッチ側の一方から他方に反転することに対応して反転する反転周期に関するパラメータの値が所定閾値未満である場合に比べて、空燃比制御部25が求めた補正係数の学習値を制限する所定の範囲を拡大する。
【0044】
以上のような構成を有する空燃比制御装置24は、以下に示す学習値設定処理及び学習値制限処理を実行することにより、空燃比の制御性を確保して、エンジン1の運転性及び排気の性状を確保する。以下、更に
図2から
図4をも参照して、学習値設定処理及び学習値制限処理について、詳細に説明する。
【0045】
<学習値設定処理>
図2及び
図4を参照して、本実施形態における学習値設定処理の流れについて詳しく説明する。
【0046】
図2は、本発明の実施形態における学習値設定処理を示すフロー図である。
図4は、本発明の実施形態における空燃比のフィードバック制御の流れを示すタイミングチャートである。
【0047】
図2に示す学習値設定処理は、空燃比制御装置24が稼働している状態で空燃比制御部25がフィードバック制御の実行を開始したタイミングで開始となり、学習値設定処理はステップS1の処理に進む。
図2に示す学習値設定処理は、空燃比制御部25がフィードバック制御を実行している間、所定の制御周期毎に繰り返し実行される。なお、
図2に示す学習値設定処理では、下流側O
2センサ22bを用いてリッチからリーンに又はリーンからリッチに反転したか否かを判定するものとする。
【0048】
ステップS1の処理では、空燃比制御部25が、下流側O2センサ22bからの電気信号を読み込む。これにより、ステップS1の処理は完了し、学習値設定処理はステップS2の処理に進む。
【0049】
ステップS2の処理では、空燃比制御部25が、下流側O2センサ22bから読み込んだ電気信号がリッチからリーンに又はリーンからリッチに反転したか否かを判定する。判定の結果、反転していない場合には、空燃比制御部25は、学習値設定処理を終了する。一方、反転した場合には、空燃比制御部25は、学習値設定処理をステップS3の処理に進める。
【0050】
ステップS3の処理では、空燃比制御部25が、リッチからリーンに又はリーンからリッチに反転した際の補正係数MHGを読み込む。具体的には、空燃比制御部25は、
図4に示す時刻t2及びt4においてリッチからリーンに反転し、
図4に示す時刻t1及びt3においてリーンからリッチに反転する場合に、各時刻における補正係数MHG(
図4において白丸の値)を読み込む。これにより、ステップS3の処理は完了し、学習値設定処理はステップS4の処理に進む。
【0051】
ステップS4の処理では、空燃比制御部25が、直近の所定回数において読み込んだ補正係数MHGの平均値MHGAVEを算出する。例えば、空燃比制御部25は、
図4の時刻t4の補正係数MHGを読み込んだ際に、
図4の時刻t1、t2、t3、t4の各時刻に読み込んだ(直近の4回において読み込んだ)各補正係数MHGの平均値MHGAVEを算出する。これにより、ステップS4の処理は完了し、学習値設定処理はステップS5の処理に進む。
【0052】
ステップS5の処理では、学習値制限部26が、補正係数MHGの学習値MREFHGの上限値LH及び下限値LLを設定する学習値制限処理を実行する。なお、学習値制限処理の詳細については後述する。これにより、ステップS5の処理は完了し、学習値設定処理はステップS6の処理に進む。
【0053】
ステップS6の処理では、空燃比制御部25が、平均値MHGAVEが学習値制限部26により設定された上限値LHよりも大きいか否かを判定する。判定の結果、平均値MHGAVEが上限値LHよりも大きい場合には、空燃比制御部25は、学習値設定処理をステップS9の処理に進める。一方、平均値MHGAVEが上限値LH以下の場合には、空燃比制御部25は、学習値設定処理をステップS7の処理に進める。
【0054】
ステップS7の処理では、空燃比制御部25が、平均値MHGAVEが学習値制限部26により設定された下限値LLよりも小さいか否かを判定する。判定の結果、平均値MHGAVEが下限値LLよりも小さい場合には、空燃比制御部25は、学習値設定処理をステップS10の処理に進める。一方、平均値MHGAVEが下限値LL以上の場合には、空燃比制御部25は、学習値設定処理をステップS8の処理に進める。
【0055】
ステップS8の処理では、空燃比制御部25が、学習値MREFHGとして平均値MHGAVEをメモリに保存する。これにより、ステップS8の処理は完了し、学習値設定処理は終了する。
【0056】
ステップS9の処理では、空燃比制御部25が、学習値MREFHGとして上限値LHをメモリに保存する。これにより、ステップS9の処理は完了し、学習値設定処理は終了する。
【0057】
ステップS10の処理では、空燃比制御部25が、学習値MREFHGとして下限値LLをメモリに保存する。これにより、ステップS10の処理は完了し、学習値設定処理は終了する。
【0058】
<学習値制限処理>
図3を参照して、本実施形態における学習値制限処理の流れについて詳しく説明する。
【0059】
図3は、本発明の実施形態における学習値制限処理を示すフロー図である。
【0060】
図3に示す学習値制限処理は、学習値設定処理のステップS4の処理が完了したタイミングで開始となり、学習値制限処理はステップS51の処理に進む。
【0061】
ステップS51の処理では、学習値制限部26が、三元触媒21の浄化度合いDEGを算出する。
【0062】
具体的には、学習値制限部26は、冷却水温センサ6より出力される冷却水温信号が示すエンジン1の冷却水温、又は上流側O2センサ22a若しくは下流側O2センサ22bから出力される電気信号が示す混合気の空燃比がリーン側及びリッチ側の一方から他方に反転することに対応して反転する反転周期に関するパラメータの値を、三元触媒21の浄化度合いDEGとして算出する。
【0063】
これにより、ステップS51の処理は完了し、学習値制限処理はステップS52の処理に進む。
【0064】
ステップS52の処理では、学習値制限部26が、浄化度合いDEGが閾値TWth以上であるか否かを判定する。判定の結果、浄化度合いDEGが閾値TH以上(DEG≧TH)の場合には、学習値制限部26は、学習値制限処理をステップS55の処理に進める。一方、浄化度合いDEGが閾値TH未満(DEG<TH)の場合には、学習値制限部26は、学習値制限処理をステップS53の処理に進める。
【0065】
具体的には、冷却水温センサ6より出力される冷却水温信号が示すエンジン1の冷却水温が閾値TH以上であるときに、三元触媒21が劣化していないと判定できるため、学習値制限部26は、エンジン1の冷却水温が閾値TH以上であるときに学習値制限処理をステップS55の処理に進める。一方、冷却水温センサ6より出力される冷却水温信号が示すエンジン1の冷却水温が閾値TH未満であるときに、三元触媒21が劣化していると判定できるため、学習値制限部26は、冷却水温センサ6より出力される電気信号が示すエンジン1の冷却水温が閾値TH未満であるときに学習値制限処理をステップS53の処理に進める。
【0066】
また、上流側O2センサ22a又は下流側O2センサ22bより出力される電気信号より求めたエンジン1に供給される混合気の空燃比がリーン側及びリッチ側の一方から他方に反転することに対応して反転する反転周期に関するパラメータの値が閾値TH以上であるときに、三元触媒21が劣化していないと判定できるため、学習値制限部26は、この反転周期に関するパラメータ値が閾値TH以上であるときに学習値制限処理をステップS55の処理に進める。一方、上流側O2センサ22a又は下流側O2センサ22bより出力される電気信号より求めたエンジン1に供給される混合気の空燃比がリーン側及びリッチ側の一方から他方に反転することに対応して反転する反転周期に関するパラメータの値が閾値TH未満であるときに、三元触媒21が劣化していると判定できるため、学習値制限部26は、この反転周期に関するパラメータ値が閾値TH未満であるときに学習値制限処理をステップS53の処理に進める。
【0067】
ステップS53の処理では、学習値制限部26が、学習値MREFHGの上限値LHとして上限値LH1を設定する。これにより、ステップS53の処理は完了し、学習値制限処理はステップS54の処理に進む。
【0068】
ステップS54の処理では、学習値制限部26が、学習値MREFHGの下限値LLとして下限値LL1を設定する。これにより、ステップS54の処理は完了し、学習値制限処理は終了する。
【0069】
ステップS55の処理では、学習値制限部26が、学習値MREFHGの上限値LHとして上限値LH2を設定する。これにより、ステップS55の処理は完了し、学習値制限処理はステップS56の処理に進む。
【0070】
ステップS56の処理では、学習値制限部26が、学習値MREFHGの下限値LLとして下限値LL2を設定する。これにより、ステップS56の処理は完了し、学習値制限処理は終了する。
【0071】
このように、学習値制限部26は、浄化度合いが閾値TH以上であることにより三元触媒21の排気を浄化する能力が大きい場合に、浄化度合いが閾値TH未満であることにより三元触媒21の排気を浄化する能力が小さい場合に比べて、上限値LH1よりも大きい値の上限値LH2(LH1<LH2)を設定すると共に下限値LL1よりも小さい値の下限値LL2(LL1>LL2)を設定して、学習値MREFHGを制限する範囲を拡大する。
【0072】
上記の学習値制限処理のステップS51の処理において、上流側O2センサ22a及び下流側O2センサ22bのうちの何れか一方を用いて三元触媒21の劣化度合いを算出したが、上流側O2センサ22aと下流側O2センサ22bとの両方を用いて三元触媒21の劣化度合いを算出してもよい。
【0073】
この場合には、学習値制限部26が、上流側O2センサ22aが出力する電気信号の電圧値が混合気の空燃比が理論空燃比を挟んでリーン側からリッチ側に反転したことを示す、つまり上流側O2センサ22aが出力する電気信号の電圧値が所定の反転閾値(上流側O2センサ22aの所定の反転電圧値)を挟んで低電圧側(リーン側)から高電圧側(リッチ側)へ反転したことを検出した場合に、その検出した時点から、下流側O2センサ22bが出力する電気信号の電圧値が、混合気の空燃比が理論空燃比を挟んでリーン側からリッチ側に反転してそのままリッチ側に留まった後に最初にリッチ側からリーン側に反転したことを示す、つまり下流側O2センサ22bが出力する電気信号の電圧値が所定の反転閾値(下流側O2センサ22bの所定の反転電圧値)を挟んで低電圧側(リーン側)から高電圧側(リッチ側)へ反転してそのままリッチ側に留まった後に最初にリッチ側からリーン側に反転したことを検出した時点までの期間を浄化度合いとして算出する。
【0074】
また、学習値制限部26が、上流側O2センサ22aが出力する電気信号の電圧値が混合気の空燃比が理論空燃比を挟んでリッチ側からリーン側に反転したことを示す、つまり上流側O2センサ22aが出力する電気信号の電圧値が所定の反転閾値(上流側O2センサ22aの所定の反転電圧値)を挟んで高電圧側(リッチ側)から低電圧側(リーン側)へ反転したことを検出した場合に、その検出した時点から、下流側O2センサ22bが出力する電気信号の電圧値が、混合気の空燃比が理論空燃比を挟んでリッチ側からリーン側に反転してそのままリーン側に留まった後に最初にリーン側からリッチ側に反転したことを示す、つまり下流側O2センサ22bが出力する電気信号の電圧値が所定の反転閾値を挟んで高電圧側(リッチ側)から低電圧側(リーン側)へ反転してそのままリーン側に留まった後に最初にリーン側からリッチ側に反転したことを検出した時点までの期間を浄化度合いとして算出する。
【0075】
以上の本実施形態における空燃比制御装置24では、フィードバック制御の補正係数の学習値によって燃料噴射弁8の燃料噴射量を補正すると共に、学習値を所定の範囲に制限し、排気通路20に設けられた三元触媒21の浄化度合いが大きいほど所定の範囲を大きくして、排気通路20に設けられた三元触媒21の浄化能力に応じて空燃比のフィードバック制御を行うことにより、空燃比の制御性を確保して、エンジン1の運転性及び排気の性状を確保することができる。
【0076】
また、本実施形態における空燃比制御装置24では、学習値制限部26は、上流側O2センサ22a又は下流側O2センサ22bから出力される電気信号に基づいて浄化度合いを求めるものであるため、浄化度合いを精度よく求めることができる。
【0077】
また、本実施形態における空燃比制御装置24では、学習値制限部26は、車両が備える冷却水温センサ6より出力されるエンジン1の冷却水の温度に応じた電気信号に基づいて浄化度合いを求めるものであるため、エンジン1の冷却水の温度を検出する冷却水温センサ6を用いて浄化度合いを求めることができる。
【0078】
本発明は、部材の種類、形状、配置、個数等は前述の実施形態に限定されるものではなく、その構成要素を同等の作用効果を奏するものに適宜置換する等、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはもちろんである。
【0079】
具体的には、上記の実施形態において、アイドル回転数を調整する際の吸気量を、全閉ストッパ11とアイドルアジャストスクリュ12とによって調整したが、全閉ストッパ11で調整せずにアイドルアジャストスクリュ12のみで調整してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上のように、本発明においては、排気通路に設けられた触媒の浄化能力に応じて空燃比のフィードバック制御を行うことにより、空燃比の制御性を確保して、エンジンの運転性及び排気の性状を確保する空燃比制御装置を提供することができるものであり、その汎用普遍的な性格から鞍乗型車両等の車両の空燃比制御装置に広範に適用され得るものと期待される。
【符号の説明】
【0081】
1…エンジン
2…吸気温センサ
3…スロットルポジションセンサ
4…吸気圧センサ
5…クランク角センサ
6…冷却水温センサ
7…始動ソレノイド
8…燃料噴射弁
9…点火栓
10…スロットルバルブ
11…全閉ストッパ
12…アイドルアジャストスクリュ
13…補助通路
14…吸気バルブ
15…排気バルブ
16…リラクタ
17…ピストン
18…燃焼室
19…吸気通路
20…排気通路
21…三元触媒
22a…上流側O2センサ
22b…下流側O2センサ
23…補助吸気通路
24…空燃比制御装置
25…空燃比制御部
26…学習値制限部