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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100623
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ガス発生器
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/264 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
B60R21/264
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004748
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127203
【弁理士】
【氏名又は名称】奈良 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】川島 知哉
【テーマコード(参考)】
3D054
【Fターム(参考)】
3D054DD15
3D054DD17
3D054FF16
(57)【要約】
【課題】従来よりも、作動時におけるガス発生剤の燃焼時によるハウジングの内部の圧力を十分かつ容易に緩衝することが可能なガス発生器を得る。
【解決手段】ガス発生器100は、フィルタ40の位置に対応する部分にガス噴出口11を有するハウジング10と、ハウジング10の一方の開口端に取付けられているホルダ20と、ハウジング10の他方の開口端を閉塞するようにハウジング10の他端部に取付けられている閉塞部材12と、ハウジング10内部に設けられ、ガス発生剤30を内包する収容器34と、ハウジング10内部に設けられ、収容器34に一端が接触するフィルタ40とを含む。閉塞部材12とフィルタ40との間に、移動部材61を介して作動時に発生するガスによる衝撃を受けた場合に塑性変形する緩衝部材62と、緩衝部材62の周囲に形成された空間63とが設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼することによってガスを発生させるガス発生剤が収容され、前記ガスが通過するフィルタを内部に含み、前記フィルタに対応する位置に前記ガスを噴出するガス噴出口が形成されている長尺円筒状のハウジングと、
前記ハウジング内の前記ガス発生剤を着火燃焼させることが可能な点火器と、
前記点火器の一部が保持され、前記ハウジングの軸方向の一端部に固定されているホルダと、
前記ハウジングの軸方向の他端部を閉塞する閉塞部材と、
前記ハウジングの内部の前記閉塞部材と前記フィルタとの間において、作動時に発生する前記ガスの圧力により、初期状態である停止状態から前記ハウジングの軸方向に移動可能に設けられている移動部材と、
前記移動部材と前記閉塞部材との間に設けられ、作動時に発生する前記ガスの圧力が前記移動部材を介して伝達された場合、塑性変形することによって前記ガスの圧力を緩衝可能な緩衝部材と、
を備えていることを特徴とするガス発生器。
【請求項2】
初期状態において、前記緩衝部材と前記ハウジングの内壁部との間の少なくとも一部に、前記緩衝部材の外周囲の少なくとも一部を境界として含む所定の空間が形成されており、
前記所定の空間は、前記緩衝部材と前記ハウジングの内壁部とが所定距離以上離間した状態で設けられることによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のガス発生器。
【請求項3】
前記ガス発生剤が収容された収容器を前記ハウジング内に備え、
一端部が前記フィルタの前記閉塞部材側に接触し、他端部が前記閉塞部材に接触した状態で、前記ハウジングの内部に配設されているとともに、前記フィルタを前記収容器と挟持する筒状部材をさらに備え、
前記筒状部材の内部に、前記移動部材と前記緩衝部材とが配設されていることを特徴とする請求項1に記載のガス発生器。
【請求項4】
前記筒状部材の一端部には、内部側に向かって立設された環状の立設部が形成されており、
前記移動部材は、初期状態で、前記立設部のうち前記筒状部材の内部側に接触するように配設されていることを特徴とする請求項3に記載のガス発生器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に搭載される乗員保護装置としてのエアバッグ装置に組み込まれるガス発生器に関し、より特定的には、長尺円筒状の外形を有するいわゆるシリンダ型のガス発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダ型のガス発生器においては、従来から、作動時におけるガス発生剤の燃焼時によるハウジングの内部の圧力の上昇により、ハウジングの内部のフィルタ内壁に接触するように設けられた多孔質パッドクッションを変形させて、上記圧力による衝撃を緩衝するものがある(たとえば下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第8496266号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のガス発生器においては、ハウジングの内部のフィルタ内壁に接触するように多孔質パッドクッションが設けられているので、ハウジングの径方向の空間が比較的狭くなっている。すなわち、上記特許文献1のガス発生器の作動時において、上述の変形ができたとしても、上記圧力による衝撃を緩衝することは限定的なものと考えられる。
【0005】
そこで、本発明は、ハウジングの内径が同じであっても、従来よりも、作動時におけるガス発生剤の燃焼時によるハウジングの内部の圧力を十分かつ容易に緩衝することが可能な構成を有したガス発生器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明のガス発生器は、燃焼することによってガスを発生させるガス発生剤が収容され、前記ガスが通過するフィルタを内部に含み、前記フィルタに対応する位置に前記ガスを噴出するガス噴出口が形成されている長尺円筒状のハウジングと、前記ハウジング内の前記ガス発生剤を着火燃焼させることが可能な点火器と、前記点火器の一部が保持され、前記ハウジングの軸方向の一端部に固定されているホルダと、前記ハウジングの軸方向の他端部を閉塞する閉塞部材と、前記ハウジングの内部の前記閉塞部材と前記フィルタとの間において、作動時に発生する前記ガスの圧力により、初期状態である停止状態から前記ハウジングの軸方向に移動可能に設けられている移動部材と、前記移動部材と前記閉塞部材との間に設けられ、作動時に発生する前記ガスの圧力が前記移動部材を介して伝達された場合、塑性変形することによって前記ガスの圧力を緩衝可能な緩衝部材と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
(2) 上記(1)のガス発生器は、初期状態において、前記緩衝部材と前記ハウジングの内壁部との間の少なくとも一部に、前記緩衝部材の外周囲の少なくとも一部を境界として含む所定の空間が形成されており、前記所定の空間は、前記緩衝部材と前記ハウジングの内壁部とが所定距離以上離間した状態で設けられることによって形成されていることが好ましい。
【0008】
(3) 別の観点として、上記(1)のガス発生器は、前記ガス発生剤が収容された収容器を前記ハウジング内に備え、一端部が前記フィルタの前記閉塞部材側に接触し、他端部が前記閉塞部材に接触した状態で、前記ハウジングの内部に配設されているとともに、前記フィルタを前記収容器と挟持する筒状部材をさらに備え、前記筒状部材の内部に、前記移動部材と前記緩衝部材とが配設されているものであってもよい。
【0009】
(4) 上記(3)のガス発生器においては、前記筒状部材の一端部には、内部側に向かって立設された環状の立設部が形成されており、前記移動部材は、初期状態で、前記立設部のうち前記筒状部材の内部側に接触するように配設されているものであってもよい。
【0010】
上記各構成によれば、ハウジングの内径が同じであっても、従来よりも、作動時におけるガス発生剤の燃焼時によるハウジングの内部の圧力を十分かつ容易に緩衝することが可能な構成を有したガス発生器を提供することができる。すなわち、作動時に発生するガスの圧力によってハウジングが破損などすることを、容易に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一部を断面で表した本発明の実施形態に係るガス発生器の内部構造を示す模式図である。
図2図1のガス発生器の他端部付近の拡大図であって、初期状態を示す図である。
図3図1のガス発生器の他端部付近の拡大図であって、作動時の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1図3を参照して、本発明の実施形態に係るシリンダ型のガス発生器の内部構造について説明する。
【0013】
(ガス発生器100の構成)
ガス発生器100は、長尺円筒状の外形を有しており、ハウジング10と、ハウジング10の一方の開口端に取付けられているホルダ20と、ハウジング10の他方の開口端を閉塞するようにハウジング10の他端部に取付けられている閉塞部材12と、を含んでいる。
【0014】
ハウジング10は、軸方向の両端に開口を有する長尺の円筒状の部材からなる。閉塞部材12は、所定の厚みを有する円盤状の部材からなり、その周面に後述するかしめ固定のための環状溝部13を有している。このかしめ固定のための環状溝部13は、閉塞部材12の周面に周方向に向かって延びるように形成されている。また、ハウジング10の閉塞部材12が取付けられた側の端部近傍の周壁には、ガス噴出口11が設けられている。このガス噴出口11は、ガス発生器100の内部において発生したガスを外部に噴出するための孔であり、ハウジング10の周方向及び軸方向に沿って複数個設けられている。ハウジング10の外径は特に限定されないが、16mm以下のものであってもよい。
【0015】
閉塞部材12は、ステンレス鋼、鉄鋼、アルミニウム合金、又はステンレス合金等の金属製であって、所定の厚みを有する円盤状の部材からなる。そして、ハウジング10の一方の開口端に閉塞部材12の一部が内挿された状態で、閉塞部材12の周面に設けられた環状溝部13に対応する部分のハウジング10の周壁を径方向内側に縮径させて(かしめて)当該環状溝部13に係合させることにより、ハウジング10に対する閉塞部材12のかしめ固定が行なわれている。
【0016】
閉塞部材12と後述するフィルタ40との間には、筒状部材60と、移動部材61と、緩衝部材62と、空間63と、が設けられている。
【0017】
筒状部材60は、金属または合金などからなる部材であって、一端部が後述するフィルタ40の閉塞部材12側に接触し、他端部が閉塞部材12に接触した状態で、ハウジング10の内部に配設されている。また、筒状部材60は、フィルタ40を後述する収容器34とともに挟持している。また、筒状部材60の一端部には、内部側に向かって立設された環状の立設部60aと、立設部60aの内側に形成されている開口部60bと、が設けられている。このような構成の筒状部材60によれば、ハウジング10の内部で作動時に発生したガスは、開口部60bを通過することになる。
【0018】
移動部材61は、ハウジング10の内部の閉塞部材12とフィルタ40との間において、作動時におけるガス発生剤30の燃焼により発生するガスの圧力により、作動時には、図3に示したように、図1図2に示した初期状態(停止状態)からハウジング10の軸方向に移動可能に設けられている。また、移動部材61は、初期状態において開口部60bを閉塞するように、立設部60aのうち筒状部材60の内部側から開口部60bを閉塞するように配設されている。すなわち、立設部60aと緩衝部材62とで、移動部材61を挟持した状態となっている。また、移動部材61は、金属または合金などからなる板状部材であって、上記ガスによるハウジングの内圧上昇による衝撃を、面で押す力に変える機能を発揮するために、熱および力による変形が起こらないことが望ましい
【0019】
緩衝部材62は、移動部材61と閉塞部材12との間に設けられ、作動時に発生する上記ガスの圧力が移動部材61を介して伝達された場合、塑性変形することによって上記ガスの圧力を緩衝可能となっているものである。なお、緩衝部材62は、上記ガスの圧力を緩衝する程度に合わせて、塑性変形量が比較的多い形状、材質であることが望ましい。たとえば、当該材質は、金属(たとえば真鍮、アルミニウムなどの軟質金属)、合金、樹脂などが適宜選択されてもよく、当該形状は柱状またはブロック状のものであってもよいし、筒状のもの(単なる筒状だけでなく、ハニカム構造が内部に形成されているものも含む)、多孔質状のもの(たとえばスポンジ状部材)であってもよい。また、図1図3に示したように、初期状態における緩衝部材62の中心がハウジング10の中心軸と同軸上となるように、かつ、緩衝部材62とハウジング10の内壁部とが所定距離以上離間した状態となるように、設けることが好ましい。これにより、緩衝部材62が容易に塑性変形できるようにする(塑性変形を阻害しないようにする)ための空間63を、緩衝部材62とハウジング10の内壁部との間に形成できる。
【0020】
ここで、緩衝部材62のハウジング10に対する位置決めは、たとえば、以下の(1)~(6)のように行うことで可能である。(1)移動部材61の緩衝部材62側に設けた少なくとも1つの凹部に、この凹部の位置に対応するように緩衝部材62の移動部材61側に設けた凸部を嵌め込む、(2)移動部材61の緩衝部材62側に設けた凸部に、この凸部の位置に対応するように緩衝部材62の移動部材61側に設けた凹部を嵌め込む、(3)閉塞部材12の緩衝部材62側に設けた少なくとも1つの凹部に、この凹部の位置に対応するように緩衝部材62の閉塞部材12側に設けた凸部を嵌め込む、(4)閉塞部材12の緩衝部材62側に設けた凸部に、この凸部の位置に対応するように緩衝部材62の閉塞部材12側に設けた凹部を嵌め込む、(5)緩衝部材62を、接着剤によって閉塞部材または移動部材へ固定する、(6)これら(1)~(5)の中から適宜選択して組み合わせる。
【0021】
また、緩衝部材62とハウジング10との位置関係は、上述の位置決めによって、以下のうちいずれかのものとなるものであってもよい。すなわち、緩衝部材62とハウジング10の内壁部との間の少なくとも一部に、緩衝部材62の外周囲(ハウジング10の内壁部と対向している部分)の少なくとも一部を境界として含む所定の空間(緩衝部材62の一部でも入り込むことが可能な空間)が形成されており、作動時に、この所定の空間に緩衝部材62の少なくとも一部が塑性変形して入り込むことによって、上記ガスの圧力を緩衝することができるようになっていればよい。また、たとえば、緩衝部材62を、ハウジング10の中心軸に対して偏心位置に設けるようにしてもよい。このとき、緩衝部材62の外周囲の一部は、ハウジング10の内壁部に接触していてもよいし、接触していなくてもよいが、接触していない方が、作動時における緩衝部材62の塑性変形が容易に達成できる点で好ましい。また、緩衝部材62は、作動時(塑性変形時)に、ハウジング10の内壁部に接触しない程度の位置または大きさにして設けることが好ましいが、十分に上記ガスの圧力を緩衝できるのであれば、作動時(塑性変形時)に接触することになる位置または大きさにして設けてもよい。
【0022】
ホルダ20は、図1に示したように、点火器50をハウジング10の内部側で保持する保持部26と、点火器50の保持位置と反対側において、点火器50に通電するためのコネクタと、リテーナ(不図示)を介して嵌合可能な嵌合部21とを有し、ハウジング10における点火室19側の一端部に固定されている。
【0023】
また、ホルダ20は、ステンレス鋼、鉄鋼、アルミニウム合金、又はステンレス合金等の金属製であって、ハウジング10の軸方向と同方向に延びる筒状の部材からなる。また、ホルダ20は、その外周面の所定位置に後述するかしめ固定のための環状溝部22を有している。このかしめ固定のための環状溝部22は、ホルダ20の外周面に周方向に向かって延びるように形成されている。なお、ハウジング10の他方の開口端にホルダ20の一部が内挿された状態で、ホルダ20の外周面に設けられた環状溝部22に対応する部分のハウジング10の周壁を径方向内側に縮径させて(かしめて)当該環状溝部22に係合させることにより、ハウジング10に対するホルダ20のかしめ固定が行なわれている。
【0024】
図1に示すように、ハウジング10の軸方向の一端部(すなわち、ホルダ20寄りの部分)には、ガス発生剤30の点火手段としての点火器50が配置されている。なお、点火器50及び点火器50を固定するホルダ20は、後述する粒状のガス発生剤30を燃焼させるための火炎を発生させる点火手段としての機能を有している。
【0025】
図1に示すように、点火器50は、ホルダ20の保持部26に内挿されてかしめ固定されている。より詳細には、ホルダ20は、ハウジング10の内部の空間に面する側の端部にかしめ部27を有しており、点火器50が保持部26に内挿されて筒状部材51を介してホルダ20に当て留めされた状態で当該かしめ部27をかしめることにより、点火器50がホルダ20に挟持されて点火器50がホルダ20に固定されている。ここで、筒状部材51は、点火器50の先端部から放出される火炎の方向を作動ガス生成室17側に向けるための指向性部材であって、先端部が作動ガス生成室17側に向かうにしたがって縮径するテーパ形状に形成されている。
【0026】
点火器50は、より具体的には、一対の端子ピン52を挿通かつ保持する基枠と、基枠上に取付けられたスクイブカップ50aとを備えており、スクイブカップ50a内に挿入された端子ピン52の先端を連結するように抵抗体(ブリッジワイヤ)が取付けられ、この抵抗体を取り囲むように又はこの抵抗体に接するようにスクイブカップ50a内に点火薬が充填されている。抵抗体としては一般にニクロム線等が利用され、点火薬としては一般にZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジルコニウム・タングステン・過塩素酸カリウム)、鉛トリシネート等が利用される。なお、スクイブカップ50a内には、点火薬だけでなくさらに伝火薬を充填してもよいが、点火薬と同時に配置され得る伝火薬としては、ホウ素/硝酸カリウム等に代表される金属/酸化剤からなる組成物、水素化チタン/過塩素酸カリウムからなる組成物、又は、ホウ素/5-アミノテトラゾール/硝酸カリウム/三酸化モリブデンからなる組成物等が用いられる。スクイブカップは、一般に金属製又は樹脂製である。
【0027】
衝突を検知した際には、端子ピン52を介して抵抗体に所定量の電流が流れる。抵抗体に所定量の電流が流れることにより、抵抗体においてジュール熱が発生し、この熱を受けて点火薬が燃焼を開始する。燃焼により生じた高温の火炎は、点火薬を収納しているスクイブカップ50aを破裂させる。抵抗体に電流が流れてから点火器50が作動するまでの時間は、抵抗体にニクロム線を利用した場合には2ミリ秒以下である。
【0028】
図1に示すように、ハウジング10の内部空間には、ガス発生剤30を内包した収容器34が装填されている作動ガス生成室17と、フィルタ40が収容されているフィルタ室18と、巻きバネ53が収容されている点火室19と、が設けられている。作動ガス生成室17とフィルタ室18とは、後述の収容器34の蓋部34cによって仕切られている。
【0029】
また、点火室19には、筒状部材51の外周と対向するハウジング10内壁に沿って、巻きバネ53が設けられている。なお、巻きバネ53は、ホルダ20側から収容器34をフィルタ40に押し付けるように付勢するものとなっている。
【0030】
収容器34は、アルミニウムまたはアルミニウム合金、ステンレス鋼またはステンレス合金、鉄鋼などの金属製であって、筒状部34aと、筒状部34aの両端を閉塞する蓋部34b、34cと、を有し、収容器34内部には、ガス発生剤30が装填されている。
【0031】
蓋部34cは、ガス発生剤30が燃焼した場合に発生したガス圧および熱によって開裂するものであって、縁部においてハウジングの内壁に沿って立設された環状の立設部34dを有している。立設部34dの一部は、筒状部34aの端部の内側に位置し、立設部34dの他の一部は、筒状部34aの一端部を覆うように、筒状部34aの一端部において折り返して、筒状部34aの一端部を覆った後、外周壁側から径方向にかしめ固定されている。収容器34の内部には、点火器50の作動によらずに所定温度以上で自動発火するオートイグニッション(AI)機能を有するAI剤32が配設されている。
【0032】
AI剤32は、ガス発生剤30よりも低い温度で自動発火するので、ガス発生器100が組み込まれたエアバッグ装置などが装備された車両等において万が一火災等が発生した場合、外部から加熱されることによるガス発生器100の異常動作の誘発を防ぐことができる。また、AI剤32は、接着などによって蓋部34cの内側に保持された状態で収容器34内に収容されている。また、AI剤32は、収容器34内に設けられた巻きバネ36によって、ガス発生剤30に接触しないように、保護されている。これらにより、AI剤32を保持するための部品は必要ない。ここで、図示しないが、ハウジング10の内壁と収容器34の外周との間には、隙間(断熱層)を形成してもよい。これにより、ガス発生器100が組み込まれたエアバッグ装置などが装備された車両等において万が一火災等が発生した場合、AI剤32の自動発火より先にガス発生剤30が燃焼してしまうことをより防止することができる。
【0033】
なお、蓋部34bの立設部34fは、筒状部34aの他端部を覆うものであるが、上述の立設部34dとほぼ同様の構成であるので、説明を省略する。また、蓋部34bと点火器50の先端部とは、所定距離を有するように離間して配設されている。これにより、点火器50が作動する場合において、スクイブカップ50aが開裂しやすくなっている。
【0034】
ガス発生剤30は、図1に示したように、巻きバネ35と巻きバネ36との間に配設され、点火器50によって点火されることによって生じた火炎によって着火され、燃焼することによってガスを発生させる一体成型物である。また、ガス発生剤30は、一般に燃料と酸化剤と添加剤とを含む成型体として形成される。燃料としては、たとえばトリアゾール誘導体、テトラゾール誘導体、グアニジン誘導体、アゾジカルボンアミド誘導体、ヒドラジン誘導体等又はこれらの組み合わせが利用される。具体的には、たとえばニトログアニジン、硝酸グアニジン、シアノグアニジン、5-アミノテトラゾール等が好適に利用される。また、酸化剤としては、たとえば、塩基性硝酸銅等の塩基性金属硝酸塩や塩基性炭酸銅等の塩基性金属炭酸塩、過塩素酸アンモニウム又は過塩素酸カリウム等の過塩素酸塩、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、アンモニアから選ばれたカチオンを含む硝酸塩等が利用される。硝酸塩としては、たとえば硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等が好適に利用される。また、添加剤としては、バインダ、スラグ形成剤、又は燃焼調整剤等が挙げられる。バインダとしては、たとえばヒドロキシプロピレンメチルセルロース等のセルロース誘導体、カルボキシメチルセルロースの金属塩、ステアリン酸塩等の有機バインダ、合成ヒドロキシタルサイト、酸性白土等の無機バインダが好適に利用可能である。スラグ形成剤としては窒化珪素、シリカ、酸性白土等が好適に利用可能である。また、燃焼調整剤としては、金属酸化物、フェロシリコン、活性炭、グラファイト等が好適に利用可能である。
【0035】
巻きバネ35は、図1に示したように、外観全体として円錐台形状に相似するように、らせん状に巻き回して形成されている。また、巻きバネ35は、一端部が蓋部34bに当接しているとともに、渦巻状に形成されている他端部がガス発生剤30に当接して、ガス発生剤30に弾性力を付勢するように設けられている。巻きバネ36においては、渦巻状に形成されている一端部がAI剤32に当接しているとともに、渦巻状に形成されている他端部がガス発生剤30に当接して、ガス発生剤30に弾性力を付勢するように設けられている。これら巻きバネ35、36の付勢により、ガス発生剤30は、収容器34内において、巻きバネ35と巻きバネ36とに挟まれるようにして固定される。また、巻きバネ35は、全体として点火器50側からガス発生剤30側にかけて円錐台形状となっていることで、点火器50から放出された火炎の方向をガス発生剤30側に向けやすくすることができる。
【0036】
図1に示すように、フィルタ室18は、上述のハウジング10の周壁に設けられたガス噴出口11を介して外部と通じている。また、フィルタ室18内には、中心に略円柱状の空間40aを有した円筒状の部材からなるフィルタ40が、フィルタ40の外周壁とハウジング10内壁との間に形成された隙間18aを介して収容されている。また、フィルタ40の収容器34側の端部は、蓋部34cの内部に挿入(好ましくは圧入)されており、閉塞部材12と蓋部34cとに挟持された状態となっている。このような円筒状の部材からなるフィルタ40を利用すれば、作動時においてフィルタ室18を流動する作動ガスの流動抵抗が低く抑えられ、効率的なガスの流動が可能である。
【0037】
フィルタ40は、たとえばステンレス鋼或いは鉄鋼等の金属からなる線材、又は、網材を巻き回したもの或いはプレス加工することによって押し固めたもの等が利用される。具体的には、メリヤス編みの金網、平織りの金網、又はクリンプ織りの金属線材の集合体等が利用される。また、フィルタ40として、孔あき金属板を巻き回したもの等を利用することもできる。この場合、孔あき金属板としては、たとえば、金属板に千鳥状の切れ目をいれるとともにこれを押し広げて孔を形成して網目状に加工したエクスパンドメタルや、金属板に孔を穿つとともにその際に孔の周縁に生じるバリを潰すことでこれを平坦化したフックメタル等が利用できる。フィルタ40は、作動ガス生成室17にて発生したガスがこのフィルタ40中を通過する際に、ガスが有する高温の熱を奪い取ることによってガスを冷却する冷却手段として機能するとともに、ガス中に含まれるスラグ等を除去する除去手段としても機能する。また、隙間18aが設けられているので、フィルタ40のガス噴出口11付近に、作動ガス生成室17にて発生したガスが集中してしまうことを防止でき、フィルタ40全体を使用することができる。その結果として、ガスの冷却およびスラグ等の除去を効率的に行うことができる。ここで、フィルタ40の一変形例として、金属からなる略円筒状又はすり鉢状の部品を組み合わせて形成した迷路状流路を有したフィルタを使用してもよい。これにより、作動ガスの進路を様々な方向に変更させることができるので、ガスの冷却及びスラグの除去を行うことが可能である。
【0038】
なお、ホルダ20の嵌合部21には、雌型コネクタ(不図示)が取付けられる。この雌型コネクタは、ガス発生器100とは別途設けられる衝突検知手段からの信号を伝達するハーネスの雄型コネクタが接続される部位である。雌型コネクタには、リテーナ(不図示)が取付けられる。このリテーナは、ガス発生器100の搬送時等において静電放電等によってシリンダ型のガス発生器100が誤動作することを防止するために取付けられるものであり、エアバッグ装置への組付け段階においてハーネスの雄型コネクタが雌型コネクタに挿し込まれることによってその端子ピン52への接触が解除されるものである。
【0039】
次に、以上において説明したガス発生器100の作動時における動作について説明する。本実施の形態におけるガス発生器100が組み込まれたエアバッグ装置が搭載された車両が衝突した場合には、車両に別途設けられた衝突検知手段によって衝突が検知され、これに基づいて点火器50が作動する。点火器50が作動すると、点火薬の燃焼によって点火器50内の圧力が上昇し、これによって点火器50のスクイブカップ50a先端が破裂し、火炎が点火器50のスクイブカップ50a先端から外部(点火室19)へと流出する。
【0040】
このようにして流れ込んだ火炎により、収容器34の蓋部34bを開裂させて、さらに収容器34内におけるガス発生剤30を着火して燃焼させ、多量のガスを発生させる。このガス発生剤30の燃焼により、作動ガス生成室17内の圧力が上昇し、これによって蓋部34cを開裂させて、該ガスはフィルタ室18へと流れ込む。なお、蓋部34cの立設部34dによって、フィルタ40の収容器34側の端部付近とハウジング10の内壁との間にガスが流入しないようにすることができるので、該ガスがフィルタ40を通過せずに外部に放出されてしまうことを防止している。このようにして、フィルタ室18へ流れ込んだガスは、フィルタ室18内の圧力を上昇させる。このとき、当該圧力による衝撃を、開口部60bを介して受けた移動部材61は、当該衝撃を緩衝部材62に伝達する。伝達された当該衝撃によって、緩衝部材62は塑性変形を起こす。例えば、図1および図2に示した初期状態から、図2の白抜矢印の方向に上記ガスの圧力による衝撃を受け、図3の状態になる。このようにして、ハウジング10などへの上記ガスの圧力による衝撃を緩衝し、移動部材61、緩衝部材62および空間63を設けなかった場合と比較して、当該衝撃を低下させる。その後、フィルタ室18へ流れ込んだガスは、フィルタ40を経由して所定の温度にまで冷却される。冷却された多量のガスは、隙間18aを介してガス噴出口11からガス発生器100の外部へと噴出される。ガス噴出口11から噴出されたガスは、エアバッグの内部に導かれてエアバッグを膨張・展開させる。
【0041】
(ガス発生器100の主な特徴)
本実施の形態のガス発生器100においては、緩衝部材62が容易に塑性変形できるようにする(塑性変形を阻害しないようにする)ための空間63が形成されている。これにより、ガス発生器100の構成によれば、ハウジングの内径が同じであっても、従来よりも、作動時におけるガス発生剤30の燃焼時によるハウジング10の内部の圧力を十分かつ容易に緩衝することが可能である。すなわち、たとえば、作動時に発生するガスの圧力によって、ハウジング10が破損したり、閉塞部材12が抜けたりすることなどを、容易に防止できる。
【0042】
また、筒状部材60によって、フィルタ40を収容器34とともに挟持することができるとともに、作動時に発生するガスの圧力による衝撃が開口部60bを介して移動部材61に確実に伝達されるようにすることができる。
【0043】
以上、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施の形態に限定されるものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。たとえば、移動部材と緩衝部材とは一体化されていてもよい。
【0044】
また、本発明のガス発生器においては、筒状部材60が設けられていないものであってもよい。ただし、このときは、移動部材の径をハウジングの内径と同一として、移動部材の一方の面をフィルタの端部に接触した状態で設けるとともに、移動部材と収容器とによってフィルタを挟持するようにしてもよい。
【0045】
また、本発明のガス発生器においては、ハウジング内において緩衝部材が塑性変形できるように構成されていれば、緩衝部材の周囲に空間が設けられていないものであってもよい。
【0046】
また、本発明のガス発生器においては、ガス発生剤を収容器に内包する構成としたが、これに限られない。当該収容器を用いずに、ガス発生剤をハウジング内の点火器とフィルタとの間に配設する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0047】
10 ハウジング
11 ガス噴出口
12 閉塞部材
13、22 環状溝部
17 作動ガス生成室
18 フィルタ室
18a 隙間
19 点火室
20 ホルダ
21 嵌合部
26 保持部
27 かしめ部
30 ガス発生剤
32 AI剤
34 収容器
34a 筒状部
34b、34c 蓋部
34d、34f、60a 立設部
35、36、53 巻きバネ
40 フィルタ
40a、63 空間
50 点火器
50a スクイブカップ
51、60 筒状部材
52 端子ピン
60b 開口部
61 移動部材
62 緩衝部材
100 ガス発生器
図1
図2
図3