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特開2024-100661ウイルス不活化剤組成物、その製造方法、ウイルス不活化処理方法及び清掃方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100661
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ウイルス不活化剤組成物、その製造方法、ウイルス不活化処理方法及び清掃方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 33/12 20060101AFI20240719BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20240719BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240719BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
A01N33/12 101
A01N59/16 A
A01P1/00
A01N25/04 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122050
(22)【出願日】2023-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2023004574
(32)【優先日】2023-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390029458
【氏名又は名称】ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】若松 里恵子
(72)【発明者】
【氏名】中川原 千咲
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA04
4H011BA06
4H011BB04
4H011BB18
4H011DA15
(57)【要約】
【課題】弱酸性ないし中性領域で優れたウイルス不活化効果を発現し、貯蔵安定性にも優れる水系のウイルス不活化剤組成物の提供。
【解決手段】成分A:下記式(I)で表される化合物及び下記式(II)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の第四級アンモニウム塩と、成分B:ハロゲン元素を含まない銀化合物と、水と、を含み、pHが4.0以上8.0以下である、ウイルス不活化剤組成物。式中、Xは硫酸メチル又は硫酸エチル、R及びRは各々独立して炭素数8~12の直鎖アルキル基又は炭素数8~12の直鎖アルケニル基、Rはメチル基、Rはメチル基又はエチル基、Rは炭素数12~18の直鎖アルキル基又は炭素数12~18の直鎖アルケニル基、R及びRは各々独立してメチル基又はヒドロキシエチル基、Rはメチル基又はエチル基である。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分A:下記式(I)で表される化合物及び下記式(II)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の第四級アンモニウム塩と、
成分B:ハロゲン元素を含まない銀化合物と、
水と、を含み、
pHが4.0以上8.0以下である、ウイルス不活化剤組成物。
【化1】
【化2】
式中、Xは硫酸メチル又は硫酸エチルであり、
及びRは各々独立して炭素数8~12の直鎖アルキル基又は炭素数8~12の直鎖アルケニル基であり、Rはメチル基であり、Rはメチル基又はエチル基であり、 Rは炭素数12~18の直鎖アルキル基又は炭素数12~18の直鎖アルケニル基であり、R及びRは各々独立してメチル基又はヒドロキシエチル基であり、Rはメチル基又はエチル基である。
【請求項2】
前記成分Bの銀元素換算の含有量/前記成分Aの含有量で表される質量比が、0.0005~0.1000である、請求項1に記載のウイルス不活化剤組成物。
【請求項3】
硬質表面用である、請求項1又は2に記載のウイルス不活化剤組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のウイルス不活化剤組成物の製造方法であって、
前記成分Aと前記成分Bと水とを含む原料を混合し、pHが4.0以上8.0以下である組成物を形成することを含み、
前記組成物を形成する際に、前記原料全体に対するハロゲン元素の割合を5質量ppm以下にする、ウイルス不活化剤組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のウイルス不活化剤組成物を処理対象物に接触させることを含む、ウイルス不活化処理方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のウイルス不活化剤組成物を硬質表面に接触させた後、前記硬質表面に付着している前記ウイルス不活化剤組成物を除去することを含む、清掃方法。
【請求項7】
前記ウイルス不活化剤組成物を霧状にして吹き付けることによって前記硬質表面に付着させる、請求項6に記載の清掃方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス不活化剤組成物、その製造方法、ウイルス不活化処理方法及び清掃方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では一年を通してウイルスの感染が問題となっている。
ウイルスの感染を防止するために、清掃などによって物品の表面に付着したウイルスを除去することが行われる。しかし、ウイルスを除去したつもりでも完全に除去しきれなかったウイルスが空気中に漂い、活性が残っているウイルスに感染する場合がある。例えば、ノロウイルスがその代表例である。ノロウイルスは、エンベロープ型ウイルスに比べて対処が難しいとされるノンエンベロープ型ウイルスであり、吐しゃ物からの二次感染によって感染性胃腸炎を発症することがある。
【0003】
ウイルスの感染防止には、ウイルスの不活化を図ることも有効である。ウイルスの不活化方法としては、熱処理、紫外線処理などの物理的手法が検討されている一方で、薬剤を用いる検討も行われている。例えば塩素系漂白剤や過酸化物は、ノンエンベロープ型ウイルスに対する不活化効果に優れる。しかしこれらの薬剤は、塩素臭や皮膚刺激性があるために使用場面が限られ、汎用性が高いものではなかった。
【0004】
また、主に手指消毒においては、低級アルコールにリン酸やポリヘキサメチレングアニジン系化合物を配合してする方法が検討されている。しかし、このようなエタノール製剤は、効果は高いものの、公共施設や病院、介護施設などで広範囲に散布するには経済的に不向きである。さらに、メラミン樹脂等のプラスチック部材へダメージを与える問題もある(特許文献1)。
【0005】
一方、塩化ベンザルコニウム、ジデシルジメチルアンモニウム塩などの第四級アンモニウム塩系抗菌剤は、上記の塩素系漂白剤や過酸化物よりも刺激性や腐食性が少ないことから、様々な場面で用いることができる抗菌剤として幅広く使用されているが、ノンエンベロープ型ウイルスに対する不活化効果は低い。液性をアルカリにして効果を高める検討がなされているが(特許文献2)、皮膚刺激性がマイルドな弱酸性ないし中性領域で十分な効果を発揮するものはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6783516号公報
【特許文献2】特開2021-46533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を鑑みなされたものであり、弱酸性ないし中性領域で優れたウイルス不活化効果を発現し、貯蔵安定性にも優れる水系のウイルス不活化剤組成物及びその製造方法、並びに該ウイルス不活化剤組成物を用いたウイルス不活化処理方法及び清掃方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]成分A:下記式(I)で表される化合物及び下記式(II)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の第四級アンモニウム塩と、
成分B:ハロゲン元素を含まない銀化合物と、
水と、を含み、
pHが4.0以上8.0以下である、ウイルス不活化剤組成物。
【0009】
【化1】
【0010】
【化2】
【0011】
式中、Xは硫酸メチル又は硫酸エチルであり、
及びRは各々独立して炭素数8~12の直鎖アルキル基又は炭素数8~12の直鎖アルケニル基であり、Rはメチル基であり、Rはメチル基又はエチル基であり、 Rは炭素数12~18の直鎖アルキル基又は炭素数12~18の直鎖アルケニル基であり、R及びRは各々独立してメチル基又はヒドロキシエチル基であり、Rはメチル基又はエチル基である。
[2]前記成分Bの銀元素換算の含有量/前記成分Aの含有量で表される質量比が、0.0005~0.1000である、[1]に記載のウイルス不活化剤組成物。
[3]硬質表面用である、[1]又は[2]に記載のウイルス不活化剤組成物。
[4][1]~[3]のいずれかに記載のウイルス不活化剤組成物の製造方法であって、
前記成分Aと前記成分Bと水とを含む原料を混合し、pHが4.0以上8.0以下である組成物を形成することを含み、
前記組成物を形成する際に、前記原料全体に対するハロゲン元素の割合を5質量ppm以下にする、ウイルス不活化剤組成物の製造方法。
[5][1]~[3]のいずれかに記載のウイルス不活化剤組成物を処理対象物に接触させることを含む、ウイルス不活化処理方法。
[6][1]~[3]のいずれかに記載のウイルス不活化剤組成物を硬質表面に接触させた後、前記硬質表面に付着している前記ウイルス不活化剤組成物を除去することを含む、清掃方法。
[7]前記ウイルス不活化剤組成物を霧状にして吹き付けることによって前記硬質表面に付着させる、[6]に記載の清掃方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、弱酸性ないし中性領域で優れたウイルス不活化効果を発現し、貯蔵安定性にも優れる水系のウイルス不活化剤組成物及びその製造方法、並びに該ウイルス不活化剤組成物を用いたウイルス不活化処理方法及び清掃方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔ウイルス不活化剤組成物〕
本発明のウイルス不活化剤組成物(以下、単に「不活化剤組成物」とも記す。)は、成分Aと成分Bと水とを含む。
不活化剤組成物は、成分A、成分B及び水以外の他の成分(以下、「任意成分」とも記す。)をさらに含んでいてもよい。
不活化剤組成物は、典型的には液体状である。
不活化剤組成物は、そのままウイルス不活化処理や清掃などに使用されるものであってもよく、水で希釈してウイルス不活化処理や清掃などに使用されるもの(以下、「濃縮品」とも記す。)であってもよい。
【0014】
<成分A>
成分Aは、下記式(I)で表される化合物(以下、「化合物(I)」とも記す。)及び下記式(II)で表される化合物(以下、「化合物(II)」とも記す。)からなる群から選ばれる少なくとも1種の第四級アンモニウム塩である。
【0015】
【化3】
【0016】
【化4】
【0017】
式(I)及び式(II)中、Xは硫酸メチル又は硫酸エチルである。すなわち、Xは、硫酸メチルイオン(CHOS(=O))又は硫酸エチルイオン(CHCHOS(=O))である。カウンターアニオンが硫酸メチルイオン又は硫酸エチルイオンであることにより、成分Bの併存下での貯蔵安定性に優れるとともに、長期にわたってウイルス不活化性能を維持できる。
市場で流通する第四級アンモニウム塩としては、カウンターアニオンが塩素イオンや臭素イオンであるものが一般的であるが、かかる第四級アンモニウム塩と成分Bを併用した場合、経時で白濁、分離、固形分の析出などが生じ、ウイルス不活化性能が低下する。
【0018】
式(I)中、R及びRは各々独立して炭素数8~12の直鎖アルキル基又は炭素数8~12の直鎖アルケニル基であり、Rはメチル基であり、Rはメチル基又はエチル基である。
及びRの直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基の炭素数が8~12であると、ウイルス不活化性能に優れる。炭素数が12を超えると著しくウイルス不活化性能が低下すると同時に、水への溶解性も低下する。炭素数8未満である場合もウイルス不活化性能が著しく低下する。R及びRの直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基の炭素数は、各々独立して、8~10が好ましい。
及びRは各々独立して、炭素数8~12の直鎖アルキル基であることが好ましく、炭素数8~10の直鎖アルキル基であることが特に好ましい。
【0019】
化合物(I)の具体例としては、ジオクチルジメチルアンモニウムメチルサルフェート、ジデシルジメチルアンモニウムメチルサルフェート、ジヤシアルキル(C8-C18)ジメチルアンモニウムメチルサルフェート、ジドデシルジメチルアンモニウムメチルサルフェート、ジオクチルエチルメチルアンモニウムエチルサルフェート、ジデシルエチルメチルアンモニウムエチルサルフェート、ジドデシルエチルメチルアンモニウムエチルサルフェートが挙げられる。これらの中でも、ウイルス不活化性能と貯蔵安定性の観点から、ジデシルジメチルアンモニウムメチルサルフェート、ジデシルエチルメチルアンモニウムエチルサルフェートが特に好ましい。
なお、Cに付された数は炭素数を意味する。メチルサルフェートはメトサルフェートとも称される。エチルサルフェートはエトサルフェートとも称される。
【0020】
化合物(I)は市販品を用いてもよい。例えば、ジデシルジメチルアンモニウムメチルサルフェートの市販品として、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社のリポカード210-80MSPGが挙げられる。
【0021】
式(II)中、Rは炭素数12~18の直鎖アルキル基又は炭素数12~18の直鎖アルケニル基であり、R及びRは各々独立してメチル基又はヒドロキシエチル基であり、Rはメチル基又はエチル基である。
の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基の炭素数が12~18であると、ウイルス不活化性能に優れる。炭素鎖数が18を超えると著しくウイルス不活化性能が低下すると同時に、水への溶解性も低下する。炭素鎖数12未満である場合もウイルス不活化性能が著しく低下する。Rの直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基の炭素数は、12~18が好ましい。
は、炭素数12~18の直鎖アルキル基であることが好ましく、炭素数14~18の直鎖アルキル基であることが特に好ましい。
【0022】
化合物(II)の具体例としては、ヤシアルキルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート、ヤシアルキルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、ヤシアルキルビス(ヒドロキシエチル)エチルアンモニウムエチルサルフェート、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート、ヘキサデシルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、アルキル(C14-C18)ビス(ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムメチルサルフェート、アルキル(C14-C18)ビス(ヒドロキシエチル)エチルアンモニウムエチルサルフェート、オレイルビス(ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムメチルサルフェート、オレイルビス(ヒドロキシエチル)エチルアンモニウムエチルサルフェートが挙げられる。これらの中でも、ウイルス不活化性能と貯蔵安定性の観点から、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート、アルキル(C14-C18)ビス(ヒドロキシエチル)エチルアンモニウムエチルサルフェートが特に好ましい。
【0023】
化合物(II)は市販品を用いてもよい。例えば、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムメトサルフェートの市販品として、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社のリポカード16-50MSEが挙げられ、アルキル(C14-18)ビス(ヒドロキシエチル)エチルアンモニウムエチルサルフェートの市販品として、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社のエレタットM-65が挙げられる。
【0024】
成分Aは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、1種以上の化合物(I)と1種以上の化合物(II)とを併用してもよく、2種以上の化合物(I)を併用してもよく、2種以上の化合物(II)を併用してもよい。
成分Aとしては、化合物(II)よりも化合物(I)が好ましい。化合物(I)は化合物(II)よりもウイルス不活化効果がより高く、より低濃度での使用で充分なウイルス不活化性能を発現できる。
【0025】
不活化剤組成物中の成分Aの含有量は、その使用形態や不活化方法により適宜調整しうるが、不活化剤組成物の総質量に対し、0.01~10.0質量%が好ましく、0.01~1.0重量%がより好ましい。成分Aの含有量が前記下限値以上であると、ウイルス不活化性能がより優れ、前記上限値以下であると、貯蔵安定性がより優れる。10.0質量%を超えると、貯蔵安定性が低下し、分離が生じるおそれがある。
【0026】
<成分B>
成分Bは、ハロゲン元素を含まない銀化合物である。
成分Bを成分Aと併用することにより、成分Aを単独で使用する場合に比べ、ウイルス不活化効果が向上する。例えば、短時間の接触で、非エンベロープ型ウイルスに対する不活化効果を発現させることができる。また、成分Bは、ハロゲン元素を含まないことで、成分Aと併用しても不活化剤組成物の貯蔵安定性を損なわず、長期保管した際の分離、析出などを抑えることができる。
ハロゲン元素を含む銀化合物と成分Aとを併用した場合、貯蔵安定性が著しく低下するおそれがある。
【0027】
成分Bとしては、以下の(B1)成分、(B2)成分及び(B3)成分からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
(B1)成分は、アミノ酸、総炭素数が3~8で1~3価のカルボン酸及びイミダゾール誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と錯体化された銀である。
(B1)成分としては、銀とアミノ酸(ヒスチジン、アルギニン、クレアチニン等)との錯体、銀とカルボン酸(クエン酸、ピルビン酸、グリコール酸、酢酸、酪酸、フマル酸、サリチル酸等)との錯体、銀とカルボン酸とアミノ酸との錯体、銀とイミダゾール誘導体(イミダゾリン等)との錯体等が挙げられる。これらの(B1)成分は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
(B1)成分としては、例えばMGCウッドケム株式会社(旧:株式会社J-ケミカル)製AGアルファCF-01(クレアチニン及びフマル酸と銀との錯体)、MGCウッドケム株式会社(旧:株式会社J-ケミカル)製AGアルファCF-04(有機窒素系化合物及びフマル酸と銀との錯体)、クエン酸銀、クエン酸1水素銀等を使用することができる。
【0029】
(B2)成分は、ポリマーと錯体化された銀である。
(B2)成分中の銀元素の含有量は、(B2)成分の総質量に対し、例えば0.1~60質量%、又は0.5~15質量%、又は20~100,000質量ppm、又は少なくとも質量20ppm、又は20~4,000質量ppm、又は20~1,500質量ppm、又は30~75質量ppm、又は少なくとも50質量ppmである。
(B2)成分のポリマーとしては、例えば、下式(III)で表される単位A、下式(IV)で表される単位B、及び下式(V)で表される単位Cからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマー単位を含有するポリマーが挙げられる(但し、前記ポリマーの総質量に対し、前記単位Bの割合は99.5質量%以下である。)。
【0030】
【化5】
【0031】
式中、Xは、N、O及びSからなる群から選択された少なくとも1種のヘテロ原子を有する不飽和又は芳香族複素環から選択され、
nは、0又は1であり、
は、H、CH、及びCO12から選択され、R12は、H、CH、C、及びC3~C24アルキル基から選択され、
10は、H、CH、C、フェニル基、CHCO13、及びCO13から選択され、R13は、H、グリシジル基、(CHCHR19O)H、(CHCHR19O)-COCHCOCH、及びCHCH(OH)CHQから選択され、R19は、H、CH、及びフェニル基から選択され、mは、1~20の整数であり、Qは、OH、SOZ、及びXから選択され、Zは、H、Na、K、及びNHから選択され、但し、前記ポリマーに前記単位B及び前記単位Cが含有されていない場合、R10は-CHCO13又は-CO13であり、R13はCHCH(OH)CHQであり、QはXであり、
11は、H、CH、フェニル基、スルホン化フェニル基、フェノール基、アセテート基、ヒドロキシ基、フラグメントO-R、-CO20、及び-CONR1415から選択され、R20は、H、CH、C、及びC3~C24アルキル基から選択され、R14及びR15は、それぞれ独立に、H、CH、C、C(CHCHSOZ、及びC3~C8アルキル基から選択され、
16及びR17は、それぞれ独立に、H、CH、C、及びC3~C24の直鎖又は分岐鎖アルキル基から選択され、
18は、C1~C8アルキレン基、C2~C8アルケニレン基、C6~C10不飽和非環式基、C6~C10環式基、C6~C10の芳香族基、オキシC2~C4アルキレン基、及びポリ(オキシC2~C4アルキレン)基から選択され、bは2~20の整数である。
【0032】
本明細書及び特許請求の範囲において、「アルキル」には、直鎖、分枝鎖及び環式アルキル基が含まれる。「アルケニル」には、直鎖及び分枝鎖アルケニル基が含まれる。不飽和又は芳香族複素環には、例えば、不飽和結合を有する5員~7員の複素環;N、O及びSからなる群から選択された少なくとも1種のヘテロ原子を有する芳香族複素環;このような複素環の異性体及びこれらの組合せが含まれる。さらに、適切な複素環には、例えば、一緒に縮合して、少なくとも1個のN、O又はS原子を有する、より大きな9員~14員の複素環を形成する5員~7員の複素環;このような複素環の異性体及びこれらの組合せを含むことができる。
【0033】
(B2)成分のポリマーは、複素環含有ポリマーを含むものであってよい。
複素環としては、イミダゾール、チオフェン、ピロール、オキサゾール、チアゾール及びそれらのそれぞれの異性体(例えば、チアゾール-4-イル、チアゾール-3-イル及びチアゾール-2-イル)、テトラゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、アゾール、インダゾール、トリアゾール及びそれらのそれぞれの異性体(たとえば1,2,3-トリアゾール及び1,2,4-トリアゾール)、並びにイミダゾール1,2,3-トリアゾール-1,2,4-トリアゾールのようなこれらの組合せ、ベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾール、ベンゾチアゾール、メチルベンゾチアゾール、ベンズイミダゾール並にメチルベンズイミダゾールが挙げられる。
複素環含有ポリマーとしては、例えば、複素環含有モノマーに由来する単位を含有するポリマーが挙げられる。複素環含有モノマーとしては、例えばビニルイミダゾールやビニルピリジンが挙げられる。複素環含有ポリマーは、複素環含有モノマーに由来する単位のほかに、非複素環含有モノマーに由来する単位を含有していてもよい。
【0034】
(B2)成分のポリマーは、典型的には、架橋剤に由来する単位を含む。
架橋剤に由来する単位の割合は、ポリマーの総質量に対し、0.5~60質量%が好ましく、2~10質量%がより好ましく、5~8質量%がさらに好ましい。
架橋剤としては、通常使用されるものであればよく、例えば、ジ-、トリ-、テトラ-及びより高級の多官能性エチレン性不飽和モノマーが挙げられる。より具体的には、トリビニルベンゼン;ジビニルトルエン;ジビニルピリジン;ジビニルナフタレン;ジビニルキシレン;エチレングリコールジアクリレート;トリメチロールプロパントリアクリレート;ジエチレングリコールジビニルエーテル;トリビニルシクロヘキサン;アリルメタクリレート(ALMA);エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA);ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA);プロピレングリコールジメタクリレート;プロピレングリコールジアクリレート;トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA);ジビニルベンゼン(DVB);2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジアクリレート;1,3-ブチレングリコールジアクリレート;1,3-ブチレングリコールジメタクリレート;1,4-ブタンジオールジアクリレート;ジエチレングリコールジアクリレート;ジエチレングリコールジメタクリレート;1,6-ヘキサンジオールジアクリレート;1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート;トリプロピレングリコールジアクリレート;トリエチレングリコールジメタクリレート;テトラエチレングリコールジアクリレート;ポリエチレングリコール200ジアクリレート;テトラエチレングリコールジメタクリレート;ポリエチレングリコールジメタクリレート;エトキシル化ビスフェノールAジアクリレート;エトキシル化ビスフェノールAジメタクリレート;ポリエチレングリコール600ジメタクリレート;ポリ(ブタンジオール)ジアクリレート;ペンタエリスリトールトリアクリレート;トリメチロールプロパントリエトキシトリアクリレート;グリセリルプロポキシトリアクリレート;ペンタエリスリトールテトラアクリレート;ペンタエリスリトールテトラメタクリレート;ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート;ジビニルシラン;トリビニルシラン;ジメチルジビニルシラン;ジビニルメチルシラン;メチルトリビニルシラン;ジフェニルジビニルシラン;ジビニルフェニルシラン;トリビニルフェニルシラン;ジビニルメチルフェニルシラン;テトラビニルシラン;ジメチルビニルジシロキサン;ポリ(メチルビニルシロキサン);ポリ(ビニルヒドロシロキサン);ポリ(フェニルビニルシロキサン)及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0035】
(B2)成分のポリマーの分子量は、例えば500~5000である。
(B2)成分のポリマーは、典型的には、粒子状である。ポリマーの平均粒子径は1~200nmが好ましく、1~50nmがより好ましく、10nm未満がさらに好ましい。平均粒子径は、光散乱法により測定される数平均粒子径である。
【0036】
(B2)成分としては、ダウ・ケミカル日本株式会社から提供されているSILVADUR(登録商標)900 Antimicrobial、SILVADUR(登録商標)930 Antimicrobial、SILVADUR(登録商標) 930FLEX Antimicrobial;Goulston Technologies,Inc.から提供されているLurol(登録商標)Ag-1500;松本油脂製薬株式会社から提供されているブリアンBG-1(登録商標)等の市販品を使用することができる。SILVADUR 930 Antimicrobialは、架橋剤に由来する単位の割合が10質量%未満で、複素環含有モノマーとしてビニルイミダゾールを含み、平均粒子径が10nm未満であるポリマーと錯体化された銀である。
(B2)成分は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
(B3)成分は、銀の酸化物、硝酸銀、硫酸銀あるいは銀そのものが粒子状の担体に担持されたものである。担体の具体例としては、リン酸塩(リン酸ジルコニウム、リン酸カルシウム等)、金属酸化物(酸化ケイ酸、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化ジルコニウム等)、無機化合物(ゼオライト、粘土鉱物、シリカゲル等)等が挙げられる。これらの担体は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
(B3)成分としては、コロイド状アルミナシリカに酸化銀を担持させたものが好ましい。
【0038】
(B3)成分の平均粒子径は、1~500nmが好ましく、1~100nmがより好ましい。平均粒子径は、光散乱法により測定される数平均粒子径である。平均粒子径が500nm以下であれば、粒子の分散状態が安定なものになり、さらに100nm以下であれば、粒子の分散状態がより安定なものとなる。また、平均粒子径が小さいほど、菌と分散粒子との接触が容易となる観点から除菌力に有利に作用する。
(B3)成分としては、日揮触媒化成工業(株)製の、商品名「Atomy Ball-S」、「Atomy Ball-UA」等の市販品を使用することができる。
(B3)成分は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
不活化剤組成物中の成分Bの含有量は、その使用形態や不活化方法により適宜調整しうるが、銀元素換算で、不活化剤組成物の総質量に対し、0.1~100質量ppmが好ましく、0.1~50質量ppmがより好ましく、0.5~25質量ppmがさらに好ましい。成分Bの銀元素換算の含有量が前記下限値以上であると、ウイルス不活化性能がより優れ、前記上限値以下であると、貯蔵安定性がより優れる。100質量ppmを超えると、貯蔵安定性が低下するおそれがあり、経済的な観点からも好ましくない。
【0040】
成分Bの銀元素換算の含有量/成分Aの含有量で表される質量比(以下、「B(Ag換算)/A比」とも記す。)は、0.0005~0.1000が好ましく、0.005~0.050がより好ましく、0.010~0.040がさらに好ましい。B(Ag換算)/A比が前記下限値以上であると、弱酸性~弱アルカリ領域におけるウイルス不活化性能、特に短時間におけるウイルス不活化性能がより優れ、前記上限値以下であると、貯蔵安定性がより優れる。0.1000を超えると、貯蔵安定性が低下し、組成物の黄変や銀の析出が生じるおそれがある。
【0041】
<水>
水としては、水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水などが挙げられ、いずれも用いることができる。
不活化剤組成物が濃縮品である場合、不活化剤組成物に配合される水は、貯蔵安定性の観点から、なるべく塩素などのハロゲン元素の含有量が少ないことが好ましく、精製水、イオン交換水、純水又は蒸留水が好ましい。
【0042】
不活化剤組成物中の水の含有量は、その使用形態や不活化方法により適宜調整しうるが、例えば、不活化剤組成物の総質量に対して、40.0~99.9質量%である。不活化剤組成物が濃縮品である場合は、不活化剤組成物の総質量に対して、40.0~98.0質量%が好ましい。不活化剤組成物がそのまま使用されるものである場合(濃縮品を水で希釈した希釈液である場合を含む)は、不活化剤組成物の総質量に対して、80.0~99.9質量%が好ましい。
なお、成分A、成分B及び水の合計の含有量は、不活化剤組成物の総質量に対して100質量%を超えない。
【0043】
<任意成分>
不活化剤組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、抗ウイルス用途で利用されている助剤をさらに含んでいてもよい。このような助剤の例としては、銀の還元抑制剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤(ただし、成分Aを除く。)、乳化剤、公知の抗菌剤、香料、着色料、水溶性高分子、有機溶剤、塩、pH調整剤、粘度調整剤、発泡剤等が挙げられる。
任意成分は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
不活化剤組成物中の上記任意成分の配合量は、その使用形態や不活化方法により適宜調整しうるが、不活化剤組成物の総質量に対して、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。
【0044】
銀の還元抑制剤は、不活化剤組成物の貯蔵安定性をさらに向上させる目的で配合することができる。不活化剤組成物のpHが中性領域(例えばpH6.0以上8.0以下)である場合、弱酸性領域(例えばpH4.0以上6.0未満)よりも、長期保存時に黄変や着色が生じやすくなる。銀の還元抑制剤を含むことで、中性領域であっても、長期保存時の黄変や着色を抑制できる。
銀の還元抑制剤の例としては、過酸化水素、1,2,4-トリアゾール、ベンゾトリアゾール、ポリリジン(ε-ポリ-L-リジン)等が挙げられる。これらの中でも、不活化剤組成物を長期保存した場合の黄変や着色を抑える効果に優れることから、1,2,4-トリアゾール、ポリリジンが好ましい。
不活化剤組成物が銀の還元抑制剤を含む場合、その含有量は、不活化剤組成物の総質量に対し、1~300質量ppmが好ましく、1~100質量ppmがより好ましい。還元抑制剤として1,2,4-トリアゾールを含む場合は、1~20質量ppmがさらに好ましい。還元抑制剤として過酸化水素を含む場合は、1~100質量ppmがさらに好ましい。
【0045】
界面活性剤は、不活化剤組成物に洗浄力を付与したり、成分Aの水への溶解性を高めたりする目的で配合することができる。
界面活性剤としては、特に規定されないが、例えばポリオキシアルキレンアルキルエーテル、アルキルグルコシド、アルキルポリグルコシド、脂肪酸アルカノールアミド等の非イオン界面活性剤、アミンオキシド、ベタイン等の両性界面活性剤、及びカチオン界面活性剤(ただし、成分Aを除く。)が挙げられる。
不活化剤組成物に洗浄力を付与する目的の場合は、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤等の各種の界面活性剤を使用することができる。特に、アルキルアミンオキシド(ラウリルアミンオキシド、テトラデシルアミンオキシド、ヤシアミンオキシド)や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルグルコシド、アルキルポリグルコシド、アルキルアミンエーテル系ノニオン等を好適に使用することができる。
成分Aの水への溶解性を高める目的の場合は、アルキルアミンオキシドや非イオン界面活性剤が好ましい。これら界面活性剤を併用することにより、本組成物の濃縮品を調製しやすくなる。
不活化剤組成物が界面活性剤を含む場合、その含有量は、不活化剤組成物の総質量に対し、0.01~5.00質量%が好ましく、0.01~2.00質量%がより好ましい。界面活性剤の含有量が5.00質量%を超えるとノンエンベロープ型ウイルスに対する不活化性能が低下する場合がある。
【0046】
濃縮品の処方の一例を以下に示す。各成分の含有量は、濃縮品の総質量に対する割合である。残部は水である。
[処方例1]
成分A:ジデシルジメチルアンモニウムメトサルフェート 2.0質量%
成分B:銀錯体(AGアルファ CF-01、J-ケミカル社製) 2.0質量%
任意成分:ラウリルアミンオキシド 0.4質量%
[処方例2]
成分A:ジデシルジメチルアンモニウムメトサルフェート 0.4質量%
成分B:銀錯体(AGアルファ CF-04、MGCウッドケム社製) 2.5質量%
任意成分:ラウリルアミンオキシド 0.2質量%
1,2,4-トリアゾール 10質量ppm
[処方例3]
成分A:ヘキサデシルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート 2.5質量%
成分B:銀錯体(AGアルファ CF-04、MGCウッドケム社製) 2.5質量%
任意成分:ラウリルアミンオキシド 1.0質量%
1,2,4-トリアゾール 10質量ppm
【0047】
有機溶剤としては、エタノール、イソプロパノール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、1,2-ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、イソプレングリコール、ジグリセリン等が挙げられる。
塩としては、硫酸ナトリウム、クエン酸塩、亜硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム等が挙げられる。
pH調整剤としては、乳酸、クエン酸、グリコール酸、コハク酸、酒石酸、dl-リンゴ酸、アスコルビン酸、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0048】
<液性>
不活化剤組成物のpHは、4.0以上8.0以下であり、4.0~7.0が好ましい。pHが前記範囲内であると、皮膚刺激性が少ない。また、pHが8.0以下であると、貯蔵安定性に優れる。
pHは、25℃において、pH測定器(例えば、Mettler Toledo社製 型番MP230)で測定することで求められる。
【0049】
不活化剤組成物の粘度は、ウイルス不活化処理や清掃に使用される際には、10mPa・s以下が好ましく、6mPa・s以下がより好ましい。不活化剤組成物の粘度が上記上限値以下であると、不活化剤組成物を霧状又は泡状にして対象物に吹き付けやすい。粘度の下限値は、実質的に1mPa・s以上であり、2mPa・s以上が好ましい。
粘度は、25℃において、B型(ブルックフィールド型)粘度計を用い、60rpmで60秒後の値を読み取ることで求められる。
【0050】
不活化剤組成物が濃縮品である場合、不活化剤組成物の総質量に対するハロゲン元素の割合は、5質量ppm以下が好ましく、3質量ppm以下がより好ましい。濃縮品の場合、成分Bの濃度の高さから、ハロゲン元素の割合が5質量ppmを超えると、貯蔵時に白濁や析出が生じやすい傾向がある。ハロゲン元素の割合を3質量ppm以下にすることで、貯蔵安定性が向上し、透明外観を維持できる。
不活化剤組成物の総質量に対するハロゲン元素の割合は、ICP分析、もしくはイオンクロマトグラフにより求められる。
【0051】
<製造方法>
不活化剤組成物は、例えば、成分Aと成分Bと水とを含む原料を混合し、pHが4.0以上8.0以下である組成物を形成することにより製造できる。
例えば、水の一部に成分A、成分B、必要に応じて銀の還元抑制剤、界面活性剤等を添加して混合し、必要に応じて、pH調整剤を添加してpHを調整する。その後、残りの水を添加することで、目的の組成物が得られる。
【0052】
形成する組成物が濃縮品である場合は、混合する原料全体に対するハロゲン元素の割合を5質量ppm以下にすることが好ましい。濃縮品の場合、前記したように、ハロゲン元素の割合が5質量ppmを超えると、組成物の貯蔵時に白濁や析出が生じやすい。ハロゲン元素の割合を5質量ppm以下にすることで、貯蔵安定性が向上し、透明外観を維持できる。原料全体に対するハロゲン元素の割合は、5質量ppm以下がより好ましく、3質量ppm以下がさらに好ましい。
原料全体に対するハロゲン元素の割合は、ICP分析、もしくはイオンクロマトグラフにより求められる。
【0053】
不活化剤組成物は、種々の製品形態を採り得る。
不活化剤組成物は、そのまま容器に収容されて容器入り物品とされてもよい。容器入り物品の容器としては、例えば、スプレー容器やスクイズ容器等の吐出容器が挙げられる。 スプレー容器としては、エアゾールスプレー容器、トリガースプレー容器(直圧型又は蓄圧型)、ディスペンサースプレー容器等が挙げられる。これらの容器は、手動式のものでもよいし、電動式のものでもよい。
エアゾールスプレー容器としては、例えば、特開平9-3441公報、特開平9-58765号公報等に記載されているものが挙げられる。噴射剤としてはLPG(液化プロパンガス)、DME(ジメチルエーテル)、炭酸ガス、窒素ガス等が挙げられる。これらの噴射剤は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
トリガースプレー容器としては、例えば、特開平9-268473号公報、特開平10-76196号公報等に記載のものが挙げられる。蓄圧式のトリガースプレー容器としては、例えば、特開2013-154276号公報等に記載のものが挙げられる。
ディスペンサースプレー容器としては、例えば、特開平9-256272号公報等に記載のものが挙げられる。
【0054】
不活化剤組成物は、詰め替え容器に収容された容器入り物品とされてもよい。詰め替え容器としては、プラスチック製容器が挙げられる。プラスチック製容器としては、ボトル容器、スタンディングパウチ等が挙げられる。
スタンディングパウチとしては、例えば、特開2000-72181号公報に記載のものが挙げられる。スタンディングパウチを構成するフィルムとしては、厚さ100~250μmの線状低密度ポリエチレンの内層と厚さ15~30μmの延伸ナイロンの外層とを有する二層構造のフィルム、厚さ100~250μmの線状低密度ポリエチレンの内層と厚さ15μmの延伸ナイロンの中間層と、厚さ15μmの延伸ナイロンの外層とを有する三層構造のフィルム等が好ましい。
不活化剤組成物は、織布又は不織布に浸漬されてシート状クリーナーとされてもよい。
【0055】
〔ウイルス不活化処理方法〕
本発明の不活化剤組成物の使用方法の一例は、本発明の不活化剤組成物を処理対象物に接触させることを含む、ウイルス不活化処理方法である。
不活化剤組成物を処理対象物に接触させると、処理対象物に存在するウイルスが不活化剤組成物によって不活化される。
不活化剤組成物を水で希釈して希釈液とし、希釈液を処理対象物に接触させてもよい。希釈は使用現場で行うことができる。希釈液の体積/希釈前の不活化剤組成物の体積で表される希釈倍率は、例えば10~500倍とすることができる。希釈液における成分Aの含有量は、希釈液の総質量に対して、100~3000ppmが好ましく、100~1000質量ppmがより好ましい。
不活化剤組成物を水で希釈する場合、希釈水中の塩素をなるべく低減させてから使用することが好ましい。塩素の低減方法としては、例えば、吸着剤やフィルターによる除去、煮沸等が挙げられる。
【0056】
不活化対象のウイルスは、特に限定されない。
本発明の不活化剤組成物は、エンベロープを持たないウイルス(非エンベロープ型ウイルス)、エンベロープを持つウイルス(エンベロープ型ウイルス)のいずれに対しても有用であり、非エンベロープ型ウイルスの不活化に特に有用である。
非エンベロープ型ウイルスとしては、ノロウイルス、カリシウイルス、ポリオウイルス、エコーウイルス、A型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、ライノウイルス、アストロウイルス、ロタウイルス、コクサッキーウイルス、エンテロウイルス、サポウイルス、アデノウイルス、B19ウイルス、パホバウイルス、ヒトパピローバウイルス等が挙げられる。
エンベロープ型ウイルスとしては、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、RSウイルス、ムンプスウイルス、ラッサウイルス、デングウイルス、風疹ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、麻疹ウイルス、C型肝炎ウイルス、エボラウイルス、黄熱ウイルス、日本脳炎ウイルス、ヒトヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルス、ワクシニアウイルス等が挙げられる。
さらに、本発明の不活化剤組成物は、細菌及び真菌等の微生物(例えば、大腸菌、黄色ブドウ球菌、黒カビ、クロコウジカビ等)に対する除菌活性にも優れていることが確認されている。
【0057】
処理対象物としては、家屋、病院、介護施設、オフィス、ホテル、ビル、レストラン、工場、商業施設等の床、壁、ドアノブ、手すり、調理台、調理器具、食器洗浄機、電気器具、浴室、便器や便座、ガラス、プラスチック(アクリル板等)、食品工場製造ラインの機器及び配管などが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の不活化剤組成物は、金属、ガラス、プラスチック等の硬質表面用として好適である。
【0058】
不活化剤組成物を処理対象物に接触させる方法は特に限定されないが、例えば、不活化剤組成物を液状で塗布する方法、不活化剤組成物を霧状又は泡状にして吹き付ける方法、不活化剤組成物を織布又は不織布に浸漬したシート状クリーナーで処理対象物を拭く方法等が挙げられる。より短時間でウイルスの不活化効果を高める点では、不活化剤組成物を霧状にして吹き付ける方法が好ましい。
【0059】
不活化剤組成物を処理対象物に接触させた後、処理対象物に付着している不活化剤組成物を除去してもよいし、除去しなくてもよい。除去しない場合は、例えば風乾、自然乾燥等によって乾燥させればよい。
除去方法としては、雑巾、モップ、ブラシ等の清掃具で拭き取る方法、水で洗い流す方法等が挙げられる。なお、シート状クリーナーを用いる場合、不活化剤組成物を接触させる操作が、不活化剤組成物を除去する操作を兼ねてもよい。
不活化剤組成物を除去する場合、不活化剤組成物を処理対象物に接触させてから除去するまでの時間(接触時間)は、例えば0.5~5.0分間である。
【0060】
〔清掃方法〕
本発明の不活化剤組成物の使用方法の他の一例は、本発明の不活化剤組成物を硬質表面に接触させた後、硬質表面に付着している不活化剤組成物を除去することを含む、清掃方法である。
前記したウイルス不活化処理方法と同様に、不活化剤組成物を水で希釈して希釈液とし、希釈液を処理対象物に接触させてもよい。
不活化剤組成物を硬質表面に接触させる方法は、前記と同様である。不活化剤組成物の除去方法、接触時間も、前記と同様である。
【0061】
本発明の不活化剤組成物によれば、第四級アンモニウム塩である成分Aと、銀化合物である成分Bとを含有するため、pHが4.0~8.0の弱酸性ないし中性領域でありながら、ウイルス不活化効果に優れる。例えば、短時間の接触で、非エンベロープ型ウイルスに対して優れた不活化効果が発現する。
また、成分Aのカウンターアニオンがメチル硫酸イオン又はエチル硫酸イオンであり、成分Bがハロゲン元素を含まないことで、貯蔵安定性にも優れており、貯蔵中に銀が析出することなく透明外観を維持することができる。また、貯蔵中にウイルス不活化効果が劣化しにくい。
さらに、pHが弱酸性ないし中性領域の水性であるので、皮膚やプラスチック部材へダメージを与えにくい。そのため、清掃用途に好適である。
【実施例0062】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
各例で使用した原料を以下に示す。
【0063】
(使用原料)
<成分A及びその比較品>
A-1:ジデシルジメチルアンモニウムメトサルフェート(リポカード210-80MSPG、有効成分80質量%、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)。
A-2:ジデシルエチルメチルアンモニウムエチルサルフェート(有効成分80質量%、後述する合成例1で得た合成品)。
A-3:ヘキサデシルトリメチルアンモニウムメトサルフェート(リポカード16-50MSE、有効成分50質量%、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)。
A-4:アルキル(C14-C18)エチルビス(ヒドロキシエチル)アンモニウムエトサルフェート(エレタットM-65、有効成分29質量%、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)。
A-5:ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(リポカード210-80E、有効成分80質量%、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)。
A-6:ヤシアルキルジメチルベンザルコニウムクロライド(リポカードCB-50、有効成分50質量%、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)。
A-7:ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド(リポカード16-29、有効成分29質量%、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)。
【0064】
<成分B>
B-1:AGアルファCF-01(MGCウッドケム株式会社製、銀錯体、銀濃度2.5質量%)。
B-2:クエン酸銀(富士フイルム和光純薬製、銀元素分27.5質量%)。
B-3:SILVADUR 930 Antimicrobial(ダウ・ケミカル日本株式会社製、ポリマーと錯体化された銀、銀元素濃度0.1質量%)。
B-4:AGアルファCF-04(MGCウッドケム株式会社製、銀錯体、銀濃度0.5質量%)。
B-5:コロイド状アルミナシリカに酸化銀を担持させたナノコロイド、日揮触媒化成社製、商品名「Atomy Ball-UA」(銀元素濃度0.07質量%)。
【0065】
<任意成分>
[界面活性剤]
C-1:ポリオキシエチレン(9E.O.)ラウリルエーテル(ブラウノンEL-1509、青木油脂製)。9E.O.はオキシエチレン基の平均繰り返し数が9であることを示す。
C-2:ラウリルジメチルアミンオキシド(カデナックスDM-12DW、有効成分33%、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)。
[添加剤(銀の還元抑制剤)]
D-1:1,2,4-トリアゾール(東京化成工業製)。
D-2:ε-ポリ-L-リジン(富士フイルム和光純薬製)。
【0066】
<媒体>
pH調整緩衝液:リン酸緩衝液(5mMリン酸二水素ナトリウム・二水和物/5mMリン酸水素二ナトリウム・12水和物=95vol%/5vol%)。
精製水:超純水(Milli-Q(登録商標)水)。
【0067】
(合成例1:A-2の合成)
3リットルのフラスコにジデシルメチルアミンを800.0g、エタノール296gを入れ、窒素ガス雰囲気下、70℃になるまで加温した。次に温度70~80℃の状態を保持しながら、ジエチル硫酸383gを4.3g/分の速度で滴下し4級化反応させ、投入終了後80℃に昇温し4時間熟成を行った。その後、40℃まで冷却することによりA-2を得た。
【0068】
(実施例1~20、比較例1~8)
<不活化剤組成物の調製>
表1~3に示す組成となるように、pH調整緩衝液又は精製水に、成分A、成分B、界面活性剤、添加剤を添加し、混合することで、不活化剤組成物を調製した。各例の試料溶液のpHを表1~3に示す。
表中、空欄は、その成分を含有しないことを意味する。表中の配合量の単位は質量基準のppmである。成分Aの配合量は純分換算値を表し、成分A以外の原料の配合量は原料の総量を表す。pH調整緩衝液又は精製水の「バランス」は、不活化剤組成物の合計量を100質量%とした場合の残部である。pHは、室温25℃の部屋にてpH測定器(Mettler Toledo社製 型番MP230)を用い、不活化剤組成物を攪拌しながら測定した。
【0069】
<ウイルス不活化効果(対ネコカリシウイルス)の評価>
ウシ胎児血清(シグマハイクロン社、FBS)10体積%及びペニシリンストレプトマイシン溶液(シグマ社)1体積%を含むRoswell Park Memorial Institute 1640培地(シグマ社、以下「RPMI 1640培地」ともいう。)をT-75フラスコ(イワキ社)に15mL添加した。このRPMI 1640培地にネコ腎細胞(JCRB9035)を播種して37℃、炭酸ガス5体積%濃度の雰囲気で培養した。96穴マイクロプレート(イワキ社)について、各ウェルにRPMI1640培地を0.1mL添加して、ネコ腎細胞を播種して、T-75フラスコの場合と同様に培養した。T-75フラスコで生育したネコ腎細胞にネコカリシウイルス(Feline calicivirus F9, ATCC VR-782)を感染させて24時間培養して、培養液を得た。この培養液を3000rpmで5分間の遠心分離を行い、上清をウイルス液とした。
【0070】
各例の不活化剤組成物0.9mLに上記ウイルス液を0.1mL添加して、25℃、60秒間放置した。その後、反応液0.1mLを、反応停止液であるSCDLP液体培地0.9mLと混合して反応を停止させた。反応を停止させた当該溶液について10倍希釈系列を作成するために、ペニシリンストレプトマイシン溶液1体積%を含むRPMI1640培地で10倍ずつ順次希釈した。96穴マイクロプレートで生育したネコ腎細胞をRPMI1640培地で洗浄し、その洗浄液を取り除いた後、希釈した反応液を0.1mL添加して37℃、炭酸ガス5体積%濃度の雰囲気で1時間培養した。その後、上澄みを取り除き、ペニシリンストレプトマイシン溶液1体積%を含むRPMI1640培地を0.2mL添加し、37℃、炭酸ガス5体積%濃度の雰囲気で4日間培養した。4日間培養後の細胞の変性を顕微鏡で観察してウイルス感染の有無を判断し、TCID50法にてウイルス感染価(log TCID50)を求めた。
なお、TCID50法とは、ウイルスに感染すると細胞の形状が変化する現象(細胞変性)を利用したウイルス量の測定法で、log TCID50は、50%の細胞に感染するウイルス量を意味する。
各例のlog TCID50について、下記式により、ブランクのlog TCID50からの減少値(Δlоg TCID50)を求め、その値から以下の評価基準に基づきウイルス不活化効果を評価した。ブランクのウイルス感染価は、6.8logTCID50の値である。Δlog TCID50が大きいほどウイルス不活化効果に優れる。結果を表1~3に示す。
Δlog TCID50=ブランクのlog TCID50-各例のlog TCID50
【0071】
《評価基準》
◎◎:Δlog TCID50が4.0以上。
◎:Δlog TCID50が3.0以上4.0未満。
○:Δlog TCID50が2.0以上3.0未満。
×:Δlog TCID50が2未満。
【0072】
<貯蔵安定性の評価>
調製した不活化剤組成物を50℃の恒温槽で7日間保管した。保管後の外観を目視で観察し、以下の評価基準に基づき貯蔵安定性を評価した。結果を表1~3に示す。
《評価基準》
◎:無色透明である。
○:黄変が見られるが透明である。
×:析出物が見られる。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
実施例1~20の不活化剤組成物は、ウイルス不活化効果及び貯蔵安定性に優れていた。
一方、成分Aの代わりにカウンターアニオンが塩化物イオンである第四級アンモニウム塩を用いた比較例1~4は、貯蔵安定性に劣っていた。特に比較例2~4は、ウイルス不活化効果にも劣っていた。
成分Bを含まない比較例5、8、成分Aを含まない比較例6~7は、貯蔵安定性は良好であるが、ウイルス不活化効果に劣っていた。