(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100684
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ラッシュアジャスタ
(51)【国際特許分類】
F01L 1/245 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
F01L1/245 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023185638
(22)【出願日】2023-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2023003725
(32)【優先日】2023-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000185488
【氏名又は名称】株式会社オティックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川原 和周
(72)【発明者】
【氏名】古居 拓朗
【テーマコード(参考)】
3G016
【Fターム(参考)】
3G016AA06
3G016AA19
3G016BB09
3G016CA05
3G016CA17
3G016CA52
3G016EA13
3G016FA39
3G016GA03
(57)【要約】
【課題】給油路のエアがラッシュアジャスタ内に入り込むのを抑制し、ラッシュアジャスタの機能を維持する。
【解決手段】ラッシュアジャスタ10は、シリンダヘッド90の表面に開口する取付凹部93にボディ11が内嵌されることで、シリンダヘッド90の給油路94にボディ周回溝15が連通するように配置され、給油路94からボディ孔16を通して内部に作動油が供給され、プランジャ12がボディ11に対して上下方向に往復摺動する。ラッシュアジャスタ10は、給油路94からボディ孔16へと流れる作動油の流れ方向を上向きに規定する油通路38が設けられている。ラッシュアジャスタ10は、給油路94に臨む位置でボディ孔16を外側から覆うカバー40を備え得る。油通路38の給油路94側の一端(カバー孔40A)は、カバー40のボディ孔16よりも低い位置に開口し得る。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のボディと、前記ボディ内に配置されるプランジャと、を備え、
前記ボディは、底壁と、前記底壁の外縁部から立ち上がる円筒状の周壁と、前記周壁の外周面に全周に亘って凹設されるボディ周回溝と、前記周壁を貫通して前記ボディ周回溝の奥面に開口するボディ孔と、を有しており、
シリンダヘッドの表面に開口する取付凹部に前記ボディが内嵌されることで、前記シリンダヘッドの給油路に前記ボディ周回溝が連通するように配置され、前記給油路から前記ボディ孔を通して内部に作動油が供給され、前記プランジャが前記ボディに対して上下方向に往復摺動するラッシュアジャスタであって、
前記給油路から前記ボディ孔へと流れる前記作動油の流れ方向を上向きに規定する油通路が設けられている、ラッシュアジャスタ。
【請求項2】
前記給油路に臨む位置で前記ボディ孔を外側から覆うカバーを備え、
前記油通路の前記給油路側の一端は、前記カバーにおける前記ボディ孔よりも低い位置に開口している、請求項1に記載のラッシュアジャスタ。
【請求項3】
前記カバーは、円筒状をなし、前記ボディ周回溝に取り付けられており、
前記油通路は、前記カバーの内周面と前記ボディ周回溝の奥面との間に形成されている、請求項2に記載のラッシュアジャスタ。
【請求項4】
前記カバーは、前記ボディ周回溝内における前記周壁の外周面よりも径方向内側に配置されている、請求項3に記載のラッシュアジャスタ。
【請求項5】
前記カバーは、前記ボディ孔よりも上方において径方向内側に折れ曲がって前記ボディ周回溝の内面に接触する爪部を有している、請求項2から請求項4のいずれか一項に記載のラッシュアジャスタ。
【請求項6】
前記カバーの内周面は、前記ボディ周回溝の奥面に面接触可能に配置される接触面と、前記接触面から連続し、前記ボディ周回溝の奥面から離れて配置される退避面と、を有し、
前記油通路は、前記退避面によって区画されている、請求項3に記載のラッシュアジャスタ。
【請求項7】
前記油通路は、前記カバーに全周に亘って形成された周回油路と、前記周回油路と交差して上向きに延びる上昇油路と、を有する、請求項6に記載のラッシュアジャスタ。
【請求項8】
前記油通路は、前記カバーの上端部において全周に亘って形成されるとともに前記上昇油路の上端に接続された第2周回油路を更に有する、請求項7に記載のラッシュアジャスタ。
【請求項9】
前記カバーは、耐油性を有する樹脂製又はゴム製である、請求項6から請求項8のいずれか一項に記載のラッシュアジャスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ラッシュアジャスタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、筒状のボディと、このボディ内に往復摺動可能に配置されるプランジャと、を備えたラッシュアジャスタを開示している。ボディは、シリンダヘッドの表面に開口する取付凹部に内嵌される。ボディの周壁には、ボディ孔が貫通して形成されている。プランジャの周壁には、プランジャ孔が貫通して形成されている。ボディが取付凹部に内嵌された状態で、シリンダヘッドの給油路にボディ孔が臨み、ボディ孔及びプランジャ孔を通して給油路を流れる作動油がラッシュアジャスタ内に供給される。プランジャは、ボディからの突出量を変化させる。プランジャによって支持されるロッカアームは、プランジャの突出量の変動に応じて揺動支点位置を変化させ、押圧する弁のバルブクリアランスを自動的に調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、給油路には、作動油とともに気泡等のエアが混入していることがある。作動油内のエアは、ラッシュアジャスタの伸長時に作動油とともに高圧室内に流入し得る。ラッシュアジャスタは、流入したエアが高圧室内に溜まるいわゆるエア噛みが生じると、ロッカアーム側からの押圧力を受けた際、高圧室内のエアが圧縮されて収縮してしまう。この場合、ラッシュアジャスタは、ロッカアームを安定的に支持できず、バルブクリアランスを調整するという機能を適正に発揮できないおそれがある。
【0005】
そこで、本開示は、給油路のエアがラッシュアジャスタ内に入り込むのを抑制し、ラッシュアジャスタの機能を維持することを目的とする。
【0006】
本開示の一実施形態に係るラッシュアジャスタは、筒状のボディと、前記ボディ内に配置されるプランジャと、を備え、前記ボディは、底壁と、前記底壁の外縁部から立ち上がる円筒状の周壁と、前記周壁の外周面に全周に亘って凹設されるボディ周回溝と、前記周壁を貫通して前記ボディ周回溝の奥面に開口するボディ孔と、を有しており、シリンダヘッドの表面に開口する取付凹部に前記ボディが内嵌されることで、前記シリンダヘッドの給油路に前記ボディ周回溝が連通するように配置され、前記給油路から前記ボディ孔を通して内部に作動油が供給され、前記プランジャが前記ボディに対して上下方向に往復摺動するラッシュアジャスタであって、前記給油路から前記ボディ孔へと流れる前記作動油の流れ方向を上向きに規定する油通路が設けられている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、給油路のエアがラッシュアジャスタ内に入り込むのを抑制し、ラッシュアジャスタの機能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態1のラッシュアジャスタを含む動弁装置の断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態1のラッシュアジャスタの断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態1のカバーを模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、実施形態2のカバーを模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、実施形態3のカバーを模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7は、実施形態4のカバーを模式的に示す断面図である。
【
図8】
図8は、実施形態5のカバーを模式的に示す部分断面図である。
【
図9】
図9は、実施形態6のカバーを模式的に示す断面図である。
【
図10】
図10は、実施形態7のカバーを模式的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
本開示のラッシュアジャスタは、
(1)筒状のボディと、前記ボディ内に往復摺動可能に配置されるプランジャと、を備え、前記ボディは、底壁と、前記底壁の外縁部から立ち上がる円筒状の周壁と、前記周壁の外周面に全周に亘って凹設されるボディ周回溝と、前記周壁を貫通して前記ボディ周回溝の奥面に開口するボディ孔と、を有しており、シリンダヘッドの表面に開口する取付凹部に前記ボディが内嵌されることで、前記シリンダヘッドの給油路に前記ボディ周回溝が連通するように配置され、前記給油路から前記ボディ孔を通して内部に作動油が供給され、前記プランジャが前記ボディに対して往復摺動するラッシュアジャスタであって、前記給油路から前記ボディ孔へと流れる前記作動油の流れ方向を上向きに規定する油通路が設けられている。
【0010】
上記構成によれば、ボディ孔よりも下方に位置する作動油をラッシュアジャスタ内に流入させることができる。例えば、給油路にエアが滞留し、給油路における油面高さがボディ孔の高さよりも低い状態が生じた場合、従来であれば給油路からボディ孔へとエアが流入してしまう。これに対し、本開示に係るラッシュアジャスタは、油通路によって、給油路からボディ孔へと流れる作動油の流れ方向が上向きに規定される。このため、給油路における油面高さがボディ孔の高さよりも低い状態が生じた場合であっても、油通路によって、ボディ孔の高さ位置よりも下方の位置の作動油をラッシュアジャスタ内に流入させることができ、ラッシュアジャスタ内にエアが入り込むのを回避できる。その結果、ラッシュアジャスタによるバルブクリアランスの調整機能が適正に維持される。
【0011】
(2)前記給油路に臨む位置で前記ボディ孔を外側から覆うカバーを備え、前記油通路の前記給油路側の一端は、前記カバーにおける前記ボディ孔よりも低い位置に開口しているとよい。この構成によれば、ボディ孔へのエアの流入を抑制する構成をカバーによって容易に実現できる。
【0012】
(3)前記カバーは、円筒状をなし、前記ボディ周回溝に取り付けられており、前記油通路は、前記カバーの内周面と前記ボディ周回溝の奥面との間に形成されているとよい。この構成によれば、油通路を容易に形成することができる。
【0013】
(4)前記カバーは、前記ボディ周回溝内における前記周壁の外周面よりも径方向内側に配置されているとよい。この構成によれば、ラッシュアジャスタをシリンダヘッドの取付凹部に取り付ける際に、予めカバーを組み付けた状態で取り付けることができる。
【0014】
(5)前記カバーは、前記ボディ孔よりも上方において径方向内側に折れ曲がって前記ボディ周回溝の内面に接触する爪部を有しているとよい。この構成によれば、爪部によって、カバーのボディ周回溝内の所望の位置に容易に位置決めできる。また、爪部によって油通路の一端を閉じることで、油通路内へのエアの侵入、油通路からの作動油漏れ等を好適に防止できる。
【0015】
(6)前記カバーの内周面は、前記ボディ周回溝の奥面に面接触可能に配置される接触面と、前記接触面から連続し、前記ボディ周回溝の奥面から離れて配置される退避面と、を有し、前記油通路は、前記退避面によって区画されていてもよい。この構成によれば、接触面がボディ周回溝の奥面に面接触することによって、カバーにかかる油圧が受け止められる。このため、カバーの変形を好適に抑制でき、油通路の形成を維持できる。
【0016】
(7)前記油通路は、前記カバーに全周に亘って形成された周回油路と、前記周回油路と交差して上向きに延びる上昇油路と、を有するものであってもよい。この構成によれば、油通路を必要最小限の範囲で設けることができる。このため、カバーの強度確保が容易である。
【0017】
(8)前記油通路は、前記カバーの上端部において全周に亘って形成されるとともに前記上昇油路の上端に接続された第2周回油路を更に有するものであってもよい。この構成によれば、第2周回油路においてボディ孔を外側から覆うことができるため、カバーをボディ周回溝に組み付ける際、周方向の位置合わせが不要になる。その結果、カバーのボディ周回溝への組み付け作業の簡素化を実現できる。
【0018】
(9)前記カバーは、耐油性を有する樹脂製又はゴム製であってもよい。この構成によれば、カバーが金属製等である場合と比較して、所望の形状のカバーを容易に得ることができる。
【0019】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0020】
<実施形態1>
本開示の実施形態1のラッシュアジャスタ10は、油圧式ラッシュアジャスタであって、内燃機関の動弁装置に設けられている。
【0021】
(動弁装置)
動弁装置は、
図1に示すように、内燃機関と同期して回転するカムシャフト70に設けられたカム71と、バルブ本体80に設けられたバルブステム81と、カム71の回転に応じて揺動することでバルブステム81を押圧するロッカアーム60と、ロッカアーム60の一端部を揺動可能に支持するラッシュアジャスタ10とを備えている。
【0022】
バルブステム81は、シリンダヘッド90の吸気又は排気のポート91に連なる貫通孔92に挿入され、コイルスプリング82によってバルブ本体80を閉弁させる方向に付勢されている。カム71が回転すると、ロッカアーム60が揺動するとともに、バルブステム81が貫通孔92内を往復移動し、これによってバルブ本体80が吸気又は排気のポート91を開閉するようになっている。
【0023】
ロッカアーム60は、一端部がラッシュアジャスタ10に支持され、他端部がバルブステム81に当接させられ、一端部と他端部との間に設けられたローラ61にカム71が回転可能に接触して配置されている。
【0024】
(ラッシュアジャスタの構造)
ラッシュアジャスタ10は、シリンダヘッド90の上面に開口する取付凹部93に軸線を上下方向に向けて挿入される。取付凹部93は、シリンダヘッド90の給油路94(オイルギャラリー)に連通している。給油路94には、
図1の紙面厚さ方向に作動油が流れる。
【0025】
図2に示すように、ラッシュアジャスタ10は、有底円筒状のボディ11と、ボディ11内に上下方向に往復摺動可能に収容される有底円筒状のプランジャ12とを備えている。
【0026】
プランジャ12は、円板状の底壁17と、底壁17の外周から立ち上がって上端部が略半球状に絞られた周壁18とからなる。プランジャ12の周壁18の上端部は支承部19とされ、支承部19の半球面状の外周面に、ロッカアーム60の一端部が支持されている(
図1を参照)。支承部19の上端部には、頂孔21が上下方向に貫通して設けられている。
【0027】
プランジャ12の周壁18の外周面には、プランジャ周回溝24が全周に亘って凹設されている。プランジャ12の周壁18には、この周壁18を厚み方向に貫通してプランジャ周回溝24の奥面に開口するプランジャ油孔25が設けられている。プランジャ12の底壁17の径方向中央部には、円形の弁孔26が上下方向に貫通して設けられている。
【0028】
ボディ11は、プランジャ12の底壁17よりも一回り大きい円板状の底壁13と、底壁13の外周から立ち上がる周壁14とからなる。ボディ11の周壁14の外周面には、ボディ周回溝15が全周に亘って凹設されている。ボディ周回溝15は、上下方向に沿った奥面33と、奥面33の上端及び下端からそれぞれ径方向外側に拡開する上側側面34及び下側側面35と、を有している。ボディ周回溝15の奥面33には、ボディ11の周壁14を厚み方向に貫通するボディ孔16が開口している。
【0029】
図2に示すように、ボディ11の周壁14の外周面には、周面上部36と、周面下部37とが設けられている。周面上部36及び周面下部37は、ボディ周回溝15の上下において、周壁14の全周に亘って設けられている。ボディ周回溝15は、これら周面上部36及び周面下部37の外周面から凹状に窪んだ形態である。周面上部36の下端部は、ボディ周回溝15の上側側面34に交差している。周面下部37の上端部は、ボディ周回溝15の下側側面35に交差している。周面上部36及び周面下部37は略同等の外径を有している。周面上部36及び周面下部37の外周面は、ラッシュアジャスタ10が取付凹部93に内嵌された状態において、取付凹部93の内周面に摺動可能に接触する。また、ボディ11の周壁14の上端部には、プランジャ12の上方への抜け出しを規制するリテーナ50が取り付けられる(
図2参照)。
【0030】
図2に示すように、本実施形態に係るラッシュアジャスタ10はカバー40を備えている。カバー40は、給油路94に臨む位置でボディ孔16を外側から覆う。カバー40は円筒状をなし、ボディ周回溝15に取り付けられている。カバー40は、ボディ周回溝15における奥面33の上下方向長さと略同等の長さを有して奥面33の全体を覆っている。カバー40の内周面は、ボディ周回溝15の奥面33との間に略一定の間隔を置いて奥面33に対向している。カバー40の内周面と奥面33との間の隙間は、油通路38である。
【0031】
図3に示すように、カバー40は、円筒状の筒部41と、筒部41の上端に設けられる上側爪部42と、筒部41の下端に設けられる下側爪部43と、を有している。筒部41は、周面上部36の外径よりも僅かに小さい外径を有している。これにより、ボディ周回溝15に取り付けられた状態のカバー40は、周壁14の外周面である周面上部36及び周面下部37の外周面よりも径方向内側に配置される。
【0032】
上側爪部42及び下側爪部43は、筒部41の上下方向の両端部に設けられている。上側爪部42は、筒部41の上端から径方向内側に折れ曲がっている。上側爪部42の先端は、上側側面34と奥面33との交差部分の下方であって、ボディ孔16よりも上方において奥面33に接触している。この上側爪部42によって、カバー40の内面と奥面33との間の油通路38の上端が閉じられている。同様に、下側爪部43は、油通路38の下端を閉じている。下側爪部43は、筒部41の下端から径方向内側に折れ曲がり、その先端が下側側面35と奥面33との交差部分の上方において奥面33に接触している。
【0033】
また、筒部41の下端部にはカバー孔40Aが形成されている。カバー孔40Aは、油通路38の給油路94側の一端である。カバー孔40Aは、カバー40におけるボディ孔16よりも低い位置に開口している。カバー孔40Aは、周方向に複数形成されている。本実施形態の場合、カバー孔40Aは、周方向に等間隔に4つ並んで形成されている。各カバー孔40Aは、円形状に開口するいわゆる丸孔である。カバー40は、例えば、四フッ化エチレン(PTFE)等の樹脂、金属のばね材等、耐熱性及び弾性を有する材料からなる。
【0034】
図2に示すように、ボディ11内の下部には、プランジャ12の底壁17との間に、高圧室27が設けられている。プランジャ12内は、底壁17の上方に、低圧室22を区画している。高圧室27には、上下方向に移動して弁孔26を開閉可能な球状の弁体28と、弁体28を保持するケージ29と、ケージ29内に収容されて弁体28を弁孔26に向けて付勢する圧縮コイルばねからなる第1スプリング31と、ケージ29の外周縁部とボディ11の底壁13との間に介設されてプランジャ12を上方に付勢する圧縮コイルばねからなる第2スプリング32と、が収容されている。弁体28は、第1スプリング31によって弁孔26を閉じる上方に付勢されている。
【0035】
(ラッシュアジャスタの組付構造)
カバー40をボディ周回溝15に取り付ける際には、径方向に拡開した状態のカバー40を、ラッシュアジャスタ10の軸方向の端部から被せるようにして通し、ボディ周回溝15に嵌め込む。カバー40は、弾性を有する材料からなるため容易に拡開でき、ボディ周回溝15への取り付けも容易である。また、カバー40は、ボディ周回溝15内において、周壁14の外周面である周面上部36及び周面下部37の外周面よりも径方向内側に配置されている。このため、ラッシュアジャスタ10を取付凹部93に内嵌する際には、先にカバー40を取り付け、その後従来と同様に取付凹部93に内嵌すればよい。また、ラッシュアジャスタ10を取付凹部93に内嵌した状態においても、従来と同様、周壁14の外周面である周面上部36及び周面下部37の外周面が取付凹部93の内周面に摺動可能に接触した状態になる。
【0036】
(ラッシュアジャスタの作用)
図4に示すように、ラッシュアジャスタ10が取付凹部93に内嵌された状態において、ボディ11におけるボディ周回溝15は、給油路94に臨む位置に配置される。ボディ孔16は、カバー40によって外側から覆われる。このカバー40の内面とボディ周回溝15の奥面33との間には、油通路38が形成される。給油路94内の作動油は、油通路38を介してボディ孔16へと流れる。油通路38は、給油路94からボディ孔16へと流れる作動油の流れ方向を上向きに規定する。すなわち、ボディ孔16へと流れる作動油は、ボディ孔16よりも下方から、ボディ孔16に向けて上向きに流れる。
【0037】
具体的には、給油路94を流通する作動油は、カバー孔40Aから油通路38に進入する。作動油は、カバー40の内面と奥面33との間の隙間である油通路38を流通してボディ孔16に流入する。カバー孔40Aは、ボディ孔16よりも低い位置に開口しているため、カバー孔40Aから油通路38に進入した作動油は、ボディ孔16に向かって上向きに油通路38を流通してボディ孔16に到達する。
【0038】
シリンダヘッド90の給油路94を流れる作動油は、ボディ周回溝15、ボディ孔16、プランジャ周回溝24及びプランジャ油孔25を経て低圧室22に供給される。また、弁体28が第1スプリング31の付勢力に抗して下降し、弁孔26が開いた状態で、低圧室22から弁孔26を通して高圧室27に作動油が充填される。
【0039】
内燃機関の駆動時にカム71が回転し、ロッカアーム60がローラ61を介して上方から押圧されると、プランジャ12がロッカアーム60の一端部に押圧されてボディ11に対して下方に移動し、高圧室27の作動油が圧縮させられる。高圧室27の圧力が上昇するのに伴い、高圧室27の作動油がプランジャ12とボディ11の両周壁14,18間を通してプランジャ周回溝24側に流出する。このため、ラッシュアジャスタ10の全長が高圧室27からの作動油の流出分だけ短縮させられる。また、高圧室27の圧力上昇によって作動油(ボディ11及びプランジャ12)が剛体化し、ロッカアーム60に対するラッシュアジャスタ10の支持位置が規定される。
【0040】
さらにカム71が回転し、ロッカアーム60に作用するカム71からの押圧力が減退すると、高圧室27の圧力と第2スプリング32の付勢力とを受けたプランジャ12が上昇し、プランジャ12の上端部がボディ11から大きく突出する。高圧室27の圧力下降によって弁体28が弁孔26から離れて弁孔26を開き、低圧室22から高圧室27に作動油が流れ、ラッシュアジャスタ10の全長が伸長する。こうしてラッシュアジャスタ10がロッカアーム60を適正な位置で支持することにより、カム71とロッカアーム60とのバルブクリアランスが実質的にゼロとなるように調整される。
【0041】
さて、シリンダヘッド90の給油路94には作動油とともに気泡等のエアが滞留していることがある。仮に、エアが高圧室27に混入すると、上記ラッシュアジャスタ10の剛体化が適正に実現されず、ラッシュアジャスタ10によるバルブクリアランスの調整機能が損なわれる懸念がある。
【0042】
しかるに本実施形態1の場合、給油路94とボディ孔16とは油通路38によって連通している。この油通路38は、給油路94からボディ孔16へと流れる作動油の流れ方向を上向きに規定する。すなわち、油通路38は、ボディ孔16の高さ位置よりも下方の位置から作動油をボディ孔16に導く。このため、仮に給油路94においてエアがボディ孔16の開口高さと同等の高さ位置に滞留している場合であっても、そのエアよりも下方の作動油を、油通路38を通じてボディ孔16に流入させることができる。このようにして、ラッシュアジャスタ10は、ボディ孔16へのエアの流入を回避できる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態1によれば、油通路38を通じて、給油路94におけるボディ孔16よりも下方に位置する作動油を流入させることができる。このため、仮にボディ孔16の開口高さと同等の高さ位置にエアが滞留してしまった場合であっても、エアのボディ孔16への流入を回避できる。その結果、ラッシュアジャスタ10は、バルブクリアランスの調整機能を適正に維持することができる。
【0044】
また、ラッシュアジャスタ10は、給油路94に臨む位置でボディ孔16を外側から覆うカバー40を備え、油通路38の給油路94側の一端は、カバー40におけるボディ孔16よりも低い位置に、カバー孔40Aとして開口している。このため、ボディ孔16へのエアの流入を抑制する構成をカバー40によって容易に実現できる。
【0045】
さらに、カバー40は、円筒状をなし、ボディ周回溝15に取り付けられている。そして、油通路38は、カバー40の内周面とボディ周回溝15の奥面33との間に形成されている。このため、ラッシュアジャスタ10は、油通路38の形成を容易に実現できる。
【0046】
また、カバー40は、ボディ周回溝15内における周壁14の外周面よりも径方向内側に配置されている。すなわち、カバー40の外径は、ラッシュアジャスタ10が取り付けられるシリンダヘッドの取付凹部93の内径よりも小さい。このため、ラッシュアジャスタ10は、予めカバー40を組み付けた状態で、取付凹部93に取り付けることができる。
【0047】
さらに、カバー40は、ボディ孔16よりも上方において径方向内側に折れ曲がってボディ周回溝15の奥面33に接触する上側爪部42を有している。このため、ラッシュアジャスタ10は、上側爪部42によって、カバー40をボディ周回溝15内の所望の位置に容易に位置決めできる。また、上側爪部42によって油通路38の上端を閉じることで、油通路38内へのエアの侵入、油通路38からの作動油漏れ等を好適に防止できる。
【0048】
<実施形態2>
本開示の実施形態2は、
図5に示すように、カバー240におけるカバー孔240Aを下側爪部43に形成しており、この点で、実施形態1とは異なる。その他は、実施形態1と同様であるため、実施形態1と同一または相当する構成には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0049】
図5に示すように、実施形態2のカバー240は、実施形態1と同様の筒部41、上側爪部42、及び下側爪部43を有している。カバー240は、カバー孔240Aを形成している。カバー孔240Aは、下側爪部43を厚さ方向に貫通して形成されている。このような構成において、カバー孔240Aは、下側爪部43に形成されるため、実施形態1のカバー孔40Aと比較してより下側に形成することができる。このため、カバー240は、給油路94においてより多くのエアが滞留し、作動油の油面高さがより低くなった場合でも、エアのボディ孔16への流入を回避できる。
【0050】
<実施形態3>
本開示の実施形態3は、
図6に示すように、カバー340がカバー孔を形成していない点、下側爪部を有していない点で、上記各実施形態とは異なる。その他は、実施形態1と同様であるため、実施形態1と同一または相当する構成には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0051】
図6に示すように、実施形態3のカバー340は、筒部341、及び上側爪部42を有し、下側爪部を有さない構成である。カバー340において、上側爪部42は、上記各実施形態と同様に、ボディ孔16よりも上方において奥面33に接触する。筒部341は、上記各実施形態の筒部41よりも上下方向において短く形成されている。このようなカバー340は、ボディ周回溝15と筒部341の下端内周縁との間に、平面視円環状の油通路38の開口を形成する。カバー340は、ボディ周回溝15に取り付けられた状態では、奥面33との間の油通路38の下端を閉塞しない。このため、カバー340によって形成される油通路38の給油路94側の一端は、給油路94に常時臨む位置で開口できるとともに、上記各実施形態と比較して開口面積を大きく設定できる。
【0052】
<実施形態4>
本開示の実施形態4は、
図7に示すように、円筒状をなすカバー440の内周面に接触面444及び退避面445を有している点で、上記各実施形態とは異なる。その他は、実施形態1と同様であるため、実施形態1と同一または相当する構成には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0053】
実施形態4のカバー440は、耐油性を有する樹脂製である。カバー440において、接触面444は、ボディ周回溝15の奥面33に面接触可能に配置される。退避面445は、ボディ周回溝15の奥面33から離れて配置される。退避面445は断面湾曲状をなしている。詳細には、
図7に示すように、退避面445は、カバー440における径方向外側に向けて凸となる断面半円弧状をなしている。退避面445に対応するカバー440の外面は、退避面445に沿った形状をなしている。すなわち、退避面445の形成された部分に対応するカバー440の外面は、接触面444に対応するカバー440の外面よりも径方向外側に膨出している。退避面445に対応するカバー440の外面の膨出長さは、ボディ周回溝15の深さよりも僅かに短く、ラッシュアジャスタを取付凹部93に内嵌した状態であっても取付凹部93の内周面に干渉することはない。
【0054】
本実施形態の場合、油通路438は、退避面445によって区画される。詳細には、油通路438は、退避面445と、ボディ周回溝15の奥面33と、によって区画される。カバー440において、油通路438は、周回油路438Aと上昇油路438Bとを有している。周回油路438Aは、カバー440における周方向の全周に亘って形成されている。本実施形態の場合、周回油路438Aは、カバー440の下端部に設けられている。周回油路438Aには、円形状のカバー孔40Aが、例えば周方向に等間隔に4つ並んで形成されている。上昇油路438Bは、周回油路438Aと交差して上向きに延びている。本実施形態の場合、上昇油路438Bは、下端において周回油路438Aに接続されて上方に延びている。カバー440をボディ周回溝15に取り付けた状態において、上昇油路438Bの上端部は、ボディ孔16を外側から覆う。
【0055】
上記構成のカバー440には、その外面に、給油路94から供給される作動油の油圧が作用する。この場合、接触面444においては、作動油の油圧を受けて中心方向に押圧され、ボディ周回溝15の奥面33に面接触する。カバー440は、下端部の周回油路438Aにおいて作動油を導入する。カバー440は、この周回油路438Aに導入した作動油を、上昇油路438Bによってボディ孔16まで流通させる。このように、カバー440は、接触面444以外の必要最小限の部分に油通路438を形成した構成である。このため、カバー440は、油圧に対する強度を確保が容易であり、油圧による変形を抑制することができる。また、カバー440は、退避面445が径方向外側に向けて凸となる断面湾曲状に形成されている。これにより、カバー440は、油通路438が潰れる方向の圧力に対しての強度を確保でき、一層の変形抑制効果を奏する。
【0056】
また、カバー440において、油通路438は、周回油路438Aと上昇油路438Bとを有する。周回油路438Aには、周方向の4箇所において円形状のカバー孔40Aが形成され、上昇油路438Bは、下端部において周回油路438Aと連通し、上端部においてボディ孔16を外周側から覆っている。これによれば、油通路438は、下端部の周回油路438Aから作動油を確実に導入できるとともに、この周回油路438Aに導入した作動油を上昇油路438Bからボディ孔16に無駄なく導入することができる。また、耐油性を有する樹脂製のカバー440は、所望の形状を容易に得られ、且つ耐久性に優れる。
【0057】
<実施形態5>
本開示の実施形態5は、
図8に示すように、カバー540の内周面に上記実施形態4の接触面444及び退避面445と同様の接触面544及び退避面545を有し、実施形態4の油通路438と同様の油通路538を形成している。カバー540は、耐油性を有して弾性変形可能なゴム製である点において実施形態4とは異なる。
【0058】
カバー540の外周面の形状は、実施形態4のような凹凸の形成されていない円筒状である。このような外周面の形状に対し、カバー540の内周面の形状は、実施形態4と略同等である。すなわち、カバー540において、油通路538は、実施形態4の周回油路438A及び上昇油路438Bと同様の周回油路538A及び上昇油路538Bを有している。カバー540において、接触面444の内径は、弾性変形の生じていない自然状態では、ボディ周回溝15の奥面33の外径よりも僅かに小さい。
【0059】
上記構成の実施形態5のカバー540は、実施形態4と同様の作用及び効果を奏する。また、カバー540は、退避面545を凹設した部分以外の部分がそのまま厚肉状に形成されているため、強度的に有利である。また、カバー540は、ゴム製としたことにより、ボディ周回溝15への取り付けの際には、例えば、周壁を弾性に抗して拡径させつつボディ11を挿入してボディ周回溝15に嵌める、というような簡易な方法によって取り付けることができる。
【0060】
また、自然状態のカバー540において、接触面444の内径をボディ周回溝15の奥面33の外径よりも僅かに小さくしたことにより、ボディ周回溝15に嵌め込んだ状態のカバー540は、奥面33に弾性力をもって接触する。このため、カバー540は、ボディ11に対する周方向の相対移動を良好に抑制できる。その結果、カバー540は、上昇油路538Bを形成する退避面545がボディ孔16に臨んでいる状態を良好に維持できる。
【0061】
<実施形態6>
本開示の実施形態6は、上記実施形態4の変形例である。
図9に示すように、実施形態6は、カバー640が接触面644及び退避面645を有し、退避面645が油通路638を区画する、という点は実施形態4と同様である。実施形態6のカバー640において、油通路638は、実施形態4と同様の周回油路438A及び上昇油路438Bに加え、第2周回油路638Cを有している点で実施形態4と異なる。その他、上記各実施形態と同一または相当する構成には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0062】
第2周回油路638Cは、周回油路438Aと同様に、カバー640における周方向の全周に亘って形成されている。第2周回油路638Cは、カバー640の上端部に設けられている。第2周回油路638Cは、上昇油路438Bの上端に接続されている。カバー640をボディ周回溝15に取り付けた状態において、第2周回油路638Cは、ボディ孔16を外側から覆う。
【0063】
上記構成の実施形態6のカバー640は、実施形態4と同様の作用及び効果を奏する。これに加えて、カバー640は、ボディ周回溝15に取り付ける際の周方向の位置合わせが不要になるため、組付性の点で有利である。すなわち、カバー640は第2周回油路638Cを有し、この第2周回油路638Cは、周方向の全周に亘って形成されている。カバー640は、第2周回油路638Cにおいてボディ孔16を外側から覆うことが可能な構成である。このため、カバー640は、周方向の特定位置とボディ孔16とを位置合わせすることなくボディ周回溝15に取り付けることができ、組付性に優れる。
【0064】
<実施形態7>
本開示の実施形態7は、上記実施形態5の変形例である。
図10に示すように、実施形態7は、カバー740が接触面744及び退避面745を有し、退避面745が油通路738を区画する、という点は実施形態5と同様である。実施形態7のカバー740において、油通路738は、実施形態5と同様の周回油路538A及び上昇油路538Bに加え、第2周回油路738Cを有している点で実施形態5と異なる。その他、上記各実施形態と同一または相当する構成には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0065】
第2周回油路738Cは、実施形態6の第2周回油路638Cと同様の構成である。すなわち、第2周回油路738Cは、カバー740の上端部においてカバー740の周方向の全周に亘って形成されるとともに、上昇油路538Bの上端に接続されている。このため、実施形態7のカバー740は、上記実施形態5及び実施形態6と同様の作用及び効果を奏する。
【0066】
[本開示の他の実施形態]
今回開示された上記各実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えるべきである。
カバーの形状としては、上記各実施形態において例示した円筒状の他、例えば、軸方向から見た平面視において、周方向の一部が開放されたC字状をなしていてもよい。この場合、カバーは、周方向において3/4以上に亘ってボディ周回溝を覆っていることが好ましい。換言すると、周方向の一部が開放されたカバーの場合、開放部分の範囲は、全周の1/4未満であることが好ましい。この範囲であれば、エアのボディ孔への流入の抑制効果を十分に得ながら、ボディ周回溝への取り付けも安定化させることができる。
カバー孔の形状としては、上記各実施形態において例示した丸孔の他、角孔、長孔等の他の開口形状の孔であってもよい。また、カバー孔は、例えば、下端が開放されたスリット状をなしていてもよい。
【符号の説明】
【0067】
10…ラッシュアジャスタ
11…ボディ
12…プランジャ
13…底壁
14…周壁
15…ボディ周回溝
16…ボディ孔
33…ボディ周回溝の奥面
38,438,538,638,738…油通路
40,240,340,440,540,640,740…カバー
40A,240A…カバー孔(油通路の給油部側の一端)
90…シリンダヘッド
93…取付凹部
94…給油路
438A,538A…周回油路
438B,538B…上昇油路
444,544,644,744…接触面
445,545,645,745…退避面
638C,738C…第2周回油路