(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100688
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】化学構造提案方法、プログラム、および化学構造提案装置
(51)【国際特許分類】
G16C 20/40 20190101AFI20240719BHJP
G16C 20/62 20190101ALI20240719BHJP
【FI】
G16C20/40
G16C20/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023190648
(22)【出願日】2023-11-08
(62)【分割の表示】P 2023004388の分割
【原出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】渡部 直輝
(57)【要約】
【課題】重合性を有する候補構造を効率よく得られる化学構造提案方法、プログラム、および化学構造提案装置を提供する。
【解決手段】化学構造提案装置10は、反応性末端結合処理部130および生成部150を備える。反応性末端結合処理部130は、反応性末端結合処理を行う。反応性末端結合処理は、第1グループから選択された反応性末端構造を、第2グループから選択されたメイン構造に結合させる反応性末端構造として決定する処理である。第1グループは、複数の反応性末端構造からなる。第2グループは、複数のメイン構造からなる。生成部150は、結合構造を示す情報を生成する。結合構造は、第2グループから選択されたメイン構造と、第1グループから選択された反応性末端構造とを結合させて得られる構造である。メイン構造は複数の結合点を有する。反応性末端構造は、結合点を一つのみ有し、かつ、重合性官能基を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一以上のコンピュータが、
複数の反応性末端構造からなる第1グループから選択された前記反応性末端構造を、複数のメイン構造からなる第2グループから選択された前記メイン構造に結合させる前記反応性末端構造として決定する反応性末端結合処理を行い、
前記第2グループから選択された前記メイン構造と、前記第1グループから選択された前記反応性末端構造とを結合させて得られる結合構造を示す情報を生成し、
前記メイン構造は複数の結合点を有し、
前記反応性末端構造は、結合点を一つのみ有し、かつ、重合性官能基を含む
化学構造提案方法。
【請求項2】
請求項1に記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータは、前記結合構造に含まれる前記メイン構造が有する複数の結合点の一つに、前記反応性末端構造と非反応性末端構造とのいずれを結合させるかを、所定の確率SP1を用いて決定し、
前記非反応性末端構造は、結合点を一つのみ有し、かつ、重合性官能基を含まない
化学構造提案方法。
【請求項3】
請求項2に記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータは、前記確率SP1を示す情報の入力を受け付ける
化学構造提案方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータは、前記結合構造に含まれる前記メイン構造に結合させる前記非反応性末端構造を、複数の前記非反応性末端構造からなる第3グループから選択する
化学構造提案方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータは、所定の数FN以上の前記反応性末端構造を含む前記結合構造を示す情報を生成する
化学構造提案方法。
【請求項6】
請求項5に記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータは、前記数FNを示す情報の入力を受け付ける
化学構造提案方法。
【請求項7】
請求項1に記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータはさらに、前記結合構造において、前記第2グループから選択された第1の前記メイン構造と、前記第2グループから選択された第2の前記メイン構造とを結合させることを決定するメイン構造結合処理をさらに行う
化学構造提案方法。
【請求項8】
請求項7に記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータは、前記結合構造において、前記第1のメイン構造が有する複数の結合点の一つに、前記第2のメイン構造と非反応性末端構造とのいずれを結合させるかを、所定の確率SP2を用いて決定し、
前記非反応性末端構造は、結合点を一つのみ有し、かつ、重合性官能基を含まない
化学構造提案方法。
【請求項9】
請求項8に記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータは、前記確率SP2を示す情報の入力を受け付ける
化学構造提案方法。
【請求項10】
請求項7または8に記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータは、前記メイン構造結合処理を複数回繰り返す
化学構造提案方法。
【請求項11】
請求項7または8に記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータは、前記メイン構造結合処理を行うか否かを、所定の確率OPを用いて決定する
化学構造提案方法。
【請求項12】
請求項11に記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータは、前記確率OPを示す情報の入力を受け付ける
化学構造提案方法。
【請求項13】
請求項1または2に記載の化学構造提案方法において、
前記重合性官能基は、エポキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、ビニル基、(メタ)アクリル基、カルボキシル基、ホルミル基、ノルボルネン環、マレイミド環、およびオキサジン環のいずれかである
化学構造提案方法。
【請求項14】
請求項1または2に記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータは、前記結合構造を示す情報を複数生成する
化学構造提案方法。
【請求項15】
請求項1または2に記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータがさらに、前記結合構造の特性を、機械学習モデルを用いて推定する
化学構造提案方法。
【請求項16】
請求項15に記載の化学構造提案方法において、
前記特性は前記結合構造が示す物質を用いて得られる樹脂の硬化体の比重である
化学構造提案方法。
【請求項17】
コンピュータを、化学構造提案装置として機能させるプログラムであって、
前記コンピュータを、
複数の反応性末端構造からなる第1グループから選択された前記反応性末端構造を、複数のメイン構造からなる第2グループから選択された前記メイン構造に結合させる前記反応性末端構造として決定する反応性末端結合処理を行う反応性末端結合処理手段、および
前記第2グループから選択された前記メイン構造と、前記第1グループから選択された前記反応性末端構造とを結合させて得られる結合構造を示す情報を生成する生成手段
として機能させ、
前記メイン構造は複数の結合点を有し、
前記反応性末端構造は、結合点を一つのみ有し、かつ、重合性官能基を含む
プログラム。
【請求項18】
複数の反応性末端構造からなる第1グループから選択された前記反応性末端構造を、複数のメイン構造からなる第2グループから選択された前記メイン構造に結合させる前記反応性末端構造として決定する反応性末端結合処理を行う反応性末端結合処理部と、
前記第2グループから選択された前記メイン構造と、前記第1グループから選択された前記反応性末端構造とを結合させて得られる結合構造を示す情報を生成する生成部と
を備え、
前記メイン構造は複数の結合点を有し、
前記反応性末端構造は、結合点を一つのみ有し、かつ、重合性官能基を含む
化学構造提案装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学構造提案方法、プログラム、および化学構造提案装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化学構造を提案するコンピュータプログラムを用いた、材料開発の試みが行われている。
【0003】
特許文献1には、初期構造をランダムに変化させ、変化させた構造の物性を見積もることを繰り返すことにより、目標の物性値を持つ構造を得ることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、予測モデルで予測された特性値に基づく材料の選択、および材料の変異型の生成等を繰り返すことにより、候補リストを出力することが記載されている。
【0005】
特許文献3には、化学式に基づき、材料の物性値評価値と利用可能性評価値を算出し、物性値評価値と利用可能性評価値を用いて、候補材料として提示する材料を選定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2020/054841号
【特許文献2】特表2022-516697号公報
【特許文献3】特開2021-174473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1から特許文献3の技術では、たとえば、元となる構造の一部を変異させる等の方法で、化学構造を生成していた。樹脂開発等においては、重合性を有する候補構造を得る必要があるが、特許文献1から特許文献3の技術では、重合性を有する候補構造を効率よく得られるものではなかった。
【0008】
本発明は、重合性を有する候補構造を効率よく得られる化学構造提案方法、プログラム、および化学構造提案装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態によれば、以下の化学構造提案方法、プログラム、および化学構造提案装置が提供される。
【0010】
1. 一以上のコンピュータが、
複数の反応性末端構造からなる第1グループから選択された前記反応性末端構造を、複数のメイン構造からなる第2グループから選択された前記メイン構造に結合させる前記反応性末端構造として決定する反応性末端結合処理を行い、
前記第2グループから選択された前記メイン構造と、前記第1グループから選択された前記反応性末端構造とを結合させて得られる結合構造を示す情報を生成し、
前記メイン構造は複数の結合点を有し、
前記反応性末端構造は、結合点を一つのみ有し、かつ、重合性官能基を含む
化学構造提案方法。
2. 1.に記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータは、前記結合構造に含まれる前記メイン構造が有する複数の結合点の一つに、前記反応性末端構造と非反応性末端構造とのいずれを結合させるかを、所定の確率SP1を用いて決定し、
前記非反応性末端構造は、結合点を一つのみ有し、かつ、重合性官能基を含まない
化学構造提案方法。
3. 2.に記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータは、前記確率SP1を示す情報の入力を受け付ける
化学構造提案方法。
4. 2.または3.に記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータは、前記結合構造に含まれる前記メイン構造に結合させる前記非反応性末端構造を、複数の前記非反応性末端構造からなる第3グループから選択する
化学構造提案方法。
5. 1.から4.のいずれか一つに記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータは、所定の数FN以上の前記反応性末端構造を含む前記結合構造を示す情報を生成する
化学構造提案方法。
6. 5.に記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータは、前記数FNを示す情報の入力を受け付ける
化学構造提案方法。
7. 1.から6.のいずれか一つに記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータはさらに、前記結合構造において、前記第2グループから選択された第1の前記メイン構造と、前記第2グループから選択された第2の前記メイン構造とを結合させることを決定するメイン構造結合処理をさらに行う
化学構造提案方法。
8. 7.に記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータは、前記結合構造において、前記第1のメイン構造が有する複数の結合点の一つに、前記第2のメイン構造と非反応性末端構造とのいずれを結合させるかを、所定の確率SP2を用いて決定し、
前記非反応性末端構造は、結合点を一つのみ有し、かつ、重合性官能基を含まない
化学構造提案方法。
9. 8.に記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータは、前記確率SP2を示す情報の入力を受け付ける
化学構造提案方法。
10. 7.から9.のいずれか一つに記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータは、前記メイン構造結合処理を複数回繰り返す
化学構造提案方法。
11. 7.から10.のいずれか一つに記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータは、前記メイン構造結合処理を行うか否かを、所定の確率OPを用いて決定する
化学構造提案方法。
12. 11.に記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータは、前記確率OPを示す情報の入力を受け付ける
化学構造提案方法。
13. 1.から12.のいずれか一つに記載の化学構造提案方法において、
前記重合性官能基は、エポキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、ビニル基、(メタ)アクリル基、カルボキシル基、ホルミル基、ノルボルネン環、マレイミド環、およびオキサジン環のいずれかである
化学構造提案方法。
14. 1.から13.のいずれか一つに記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータは、前記結合構造を示す情報を複数生成する
化学構造提案方法。
15. 1.から14.のいずれか一つに記載の化学構造提案方法において、
前記一以上のコンピュータがさらに、前記結合構造の特性を、機械学習モデルを用いて推定する
化学構造提案方法。
16. 15.に記載の化学構造提案方法において、
前記特性は前記結合構造が示す物質を用いて得られる樹脂の硬化体の比重である
化学構造提案方法。
17. コンピュータを、化学構造提案装置として機能させるプログラムであって、
前記コンピュータを、
複数の反応性末端構造からなる第1グループから選択された前記反応性末端構造を、複数のメイン構造からなる第2グループから選択された前記メイン構造に結合させる前記反応性末端構造として決定する反応性末端結合処理を行う反応性末端結合処理手段、および
前記第2グループから選択された前記メイン構造と、前記第1グループから選択された前記反応性末端構造とを結合させて得られる結合構造を示す情報を生成する生成手段
として機能させ、
前記メイン構造は複数の結合点を有し、
前記反応性末端構造は、結合点を一つのみ有し、かつ、重合性官能基を含む
プログラム。
18. 複数の反応性末端構造からなる第1グループから選択された前記反応性末端構造を、複数のメイン構造からなる第2グループから選択された前記メイン構造に結合させる前記反応性末端構造として決定する反応性末端結合処理を行う反応性末端結合処理部と、
前記第2グループから選択された前記メイン構造と、前記第1グループから選択された前記反応性末端構造とを結合させて得られる結合構造を示す情報を生成する生成部と
を備え、
前記メイン構造は複数の結合点を有し、
前記反応性末端構造は、結合点を一つのみ有し、かつ、重合性官能基を含む
化学構造提案装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、重合性を有する候補構造を効率よく得られる化学構造提案方法、プログラム、および化学構造提案装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1の実施形態に係る化学構造提案装置の概要を示す図である。
【
図2】第1の実施形態に係る化学構造提案方法の概要を示す図である。
【
図3】化学構造提案装置を実現するための計算機を例示する図である。
【
図4】第1の実施形態に係る化学構造提案装置の機能構成を例示する図である。
【
図5】(a)から(e)はそれぞれ、第1グループに属する反応性末端構造を例示する図である。
【
図6】(a)から(e)はそれぞれ、第2グループに属するメイン構造を例示する図である。
【
図7】(a)から(e)はそれぞれ、第3グループに属する非反応性末端構造を例示する図である。
【
図8】第1の実施形態に係る結合構造の概念について説明するための図である。
【
図9】第1の実施形態に係る化学構造提案装置が行う処理の流れを例示するフローチャートである。
【
図10】反応性末端結合処理の流れを例示するフローチャートである。
【
図11】第2の実施形態に係る化学構造提案装置の機能構成を例示する図である。
【
図12】第2の実施形態に係る結合構造の概念について説明するための図である。
【
図13】第2の実施形態に係る化学構造提案装置が行う処理の流れを例示するフローチャートである。
【
図14】メイン構造結合処理の流れを例示するフローチャートである。
【
図15】第3の実施形態に係る化学構造提案装置が行う処理の流れを例示するフローチャートである。
【
図16】第4の実施形態に係る化学構造提案装置の機能構成を例示する図である。
【
図17】第4の実施形態に係る化学構造提案装置が行う処理の流れを例示するフローチャートである。
【
図18】(a)から(c)は、結合構造1から結合構造3をそれぞれ示す図である。
【
図19】(a)から(c)は、物質Bから物質Dの構造をそれぞれ示す図である。
【
図20】物質Aについて、同定を行った結果を示す図である。
【
図21】物質Bについて、同定を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る化学構造提案装置10の概要を示す図である。本実施形態に係る化学構造提案装置10は、反応性末端結合処理部130および生成部150を備える。反応性末端結合処理部130は、反応性末端結合処理を行う。反応性末端結合処理は、第1グループから選択された反応性末端構造を、第2グループから選択されたメイン構造に結合させる反応性末端構造として決定する処理である。第1グループは、複数の反応性末端構造からなる。第2グループは、複数のメイン構造からなる。生成部150は、結合構造を示す情報を生成する。結合構造は、第2グループから選択されたメイン構造と、第1グループから選択された反応性末端構造とを結合させて得られる構造である。メイン構造は複数の結合点を有する。反応性末端構造は、結合点を一つのみ有し、かつ、重合性官能基を含む。
【0015】
図2は、本実施形態に係る化学構造提案方法の概要を示す図である。本実施形態に係る化学構造提案方法は、一以上のコンピュータにより実行される。本実施形態に係る化学構造提案方法では、一以上のコンピュータが、反応性末端結合処理を行う(ステップS10)。反応性末端結合処理は、第1グループから選択された反応性末端構造を、第2グループから選択されたメイン構造に結合させる反応性末端構造として決定する処理である。第1グループは、複数の反応性末端構造からなる。第2グループは、複数のメイン構造からなる。そして、本実施形態に係る化学構造提案方法では、一以上のコンピュータが、結合構造を示す情報を生成する(ステップS11)。結合構造は、第2グループから選択されたメイン構造と、第1グループから選択された反応性末端構造とを結合させて得られる構造である。メイン構造は複数の結合点を有する。反応性末端構造は、結合点を一つのみ有し、かつ、重合性官能基を含む。
【0016】
本実施形態に係る化学構造提案方法は、本実施形態に係る化学構造提案装置10により実行され得る。
【0017】
化学構造提案装置10のハードウエア構成について以下に説明する。化学構造提案装置10の各機能構成部(反応性末端結合処理部130および生成部150)は、各機能構成部を実現するハードウエア(例:ハードワイヤードされた電子回路など)で実現されてもよいし、ハードウエアとソフトウエアとの組み合わせ(例:電子回路とそれを制御するプログラムの組み合わせなど)で実現されてもよい。以下、化学構造提案装置10の各機能構成部がハードウエアとソフトウエアとの組み合わせで実現される場合について、さらに説明する。
【0018】
図3は、化学構造提案装置10を実現するための計算機1000を例示する図である。計算機1000は任意の計算機である。たとえば計算機1000は、SoC(System On Chip)、Personal Computer(PC)、サーバマシン、タブレット端末、またはスマートフォンなどである。計算機1000は、化学構造提案装置10を実現するために設計された専用の計算機であってもよいし、汎用の計算機であってもよい。また、化学構造提案装置10は、一つの計算機1000で実現されても良いし、複数の計算機1000の組み合わせにより実現されても良い。
【0019】
計算機1000は、バス1020、プロセッサ1040、メモリ1060、ストレージデバイス1080、入出力インタフェース1100、およびネットワークインタフェース1120を有する。バス1020は、プロセッサ1040、メモリ1060、ストレージデバイス1080、入出力インタフェース1100、およびネットワークインタフェース1120が、相互にデータを送受信するためのデータ伝送路である。ただし、プロセッサ1040などを互いに接続する方法は、バス接続に限定されない。プロセッサ1040は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、または FPGA(Field-Programmable Gate Array)などの種々のプロセッサである。メモリ1060は、RAM(Random Access Memory)などを用いて実現される主記憶装置である。ストレージデバイス1080は、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)、メモリカード、または ROM(Read Only Memory)などを用いて実現される補助記憶装置である。
【0020】
入出力インタフェース1100は、計算機1000と入出力デバイスとを接続するためのインタフェースである。たとえば入出力インタフェース1100には、キーボード、マウス、またはタッチパネルなどの入力装置や、ディスプレイまたはスピーカーなどの出力装置が接続される。入出力インタフェース1100が入力装置や出力装置に接続する方法は、無線接続であってもよいし、有線接続であってもよい。
【0021】
ネットワークインタフェース1120は、計算機1000をネットワークに接続するためのインタフェースである。この通信網は、たとえば LAN(Local Area Network)や WAN(Wide Area Network)である。ネットワークインタフェース1120がネットワークに接続する方法は、無線接続であってもよいし、有線接続であってもよい。
【0022】
ストレージデバイス1080は、化学構造提案装置10の各機能構成部を実現するプログラムモジュールを記憶している。プロセッサ1040は、これら各プログラムモジュールをメモリ1060に読み出して実行することで、各プログラムモジュールに対応する機能を実現する。
【0023】
本実施形態に係る化学構造提案装置10は、結合構造を示す情報を生成することにより、化学構造を提案する装置である。化学構造提案装置10が提案する化学構造は、既存の構造であってもよいし、新規の構造であってもよい。結合構造を示す情報を、以下では「構造情報」とも呼ぶ。
【0024】
反応性末端構造は重合性官能基を含むことから、構造情報に示される結合構造は、一以上の重合性官能基を有する。重合性官能基は重合可能な部分であればよく、その構造は特に限定されない。重合性官能基は特に限定されないが、反応性末端構造に含まれる一以上の重合性官能基のそれぞれは、たとえばエポキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、ビニル基、(メタ)アクリル基、カルボキシル基、ホルミル基、ノルボルネン環、マレイミド環、およびオキサジン環のいずれかである。すなわち、結合構造は例として、エポキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、ビニル基、(メタ)アクリル基、カルボキシル基、ホルミル基、ノルボルネン環、マレイミド環、およびオキサジン環のうち一以上を含む。構造情報に示される結合構造が一以上の重合性官能基を有することにより、その結合構造は樹脂生成のためのモノマーまたはオリゴマーとして機能しうる。すなわち、化学構造提案装置10によれば、樹脂の生成に利用することができる構造情報を効率良く得られる。
【0025】
図4は、本実施形態に係る化学構造提案装置10の機能構成を例示する図である。
図4の例において、化学構造提案装置10は第1グループ記憶部101、第2グループ記憶部102、第3グループ記憶部103、および結合構造記憶部104を備える。反応性末端結合処理部130は第1グループ記憶部101、第2グループ記憶部102、第3グループ記憶部103のそれぞれにアクセス可能である。
【0026】
第1グループ記憶部101が化学構造提案装置10の内部に設けられる場合、たとえば第1グループ記憶部101は、計算機1000のストレージデバイス1080を用いて実現される。第2グループ記憶部102が化学構造提案装置10の内部に設けられる場合、たとえば第2グループ記憶部102は、計算機1000のストレージデバイス1080を用いて実現される。第3グループ記憶部103が化学構造提案装置10の内部に設けられる場合、たとえば第3グループ記憶部103は、計算機1000のストレージデバイス1080を用いて実現される。結合構造記憶部104が化学構造提案装置10の内部に設けられる場合、たとえば結合構造記憶部104は、計算機1000のストレージデバイス1080を用いて実現される。ただし、第1グループ記憶部101、第2グループ記憶部102、第3グループ記憶部103、および結合構造記憶部104のうち一以上は化学構造提案装置10の外部に設けられていても良い。
【0027】
第1グループ記憶部101は、第1グループに関する情報を保持している。第1グループに関する情報には、第1グループに属する複数の反応性末端構造を示す情報が含まれる。上述した通り、第1グループは、複数の反応性末端構造からなる。反応性末端構造を示す情報は、たとえば、反応性末端構造を示す記述子であってもよいし、各反応性末端構造について定められた記号等の識別情報であってもよい。たとえば識別情報と反応性末端構造とを対応付けたデータベースが別途設けられており、識別情報に基づいて反応性末端構造を特定できてもよい。
【0028】
図5(a)から
図5(e)はそれぞれ、第1グループに属する反応性末端構造を例示する図である。反応性末端構造は分子の一部分である。反応性末端構造は、結合点を一つのみ有し、かつ、重合性官能基を含む構造である。なお、結合点は、未結合の結合手であるとも言える。結合点と結合点とが結合可能である。
図5(a)から
図5(e)において、結合点は実線円で囲まれている部分であり、重合性官能基は破線円で囲まれている部分である。
図5(a)から
図5(e)は、重合性官能基がエポキシ基である例を示している。第1グループに属する複数の反応性末端構造は、互いに異なる構造である。第1グループは、同じ重合性官能基を有する複数の反応性末端構造からなることが好ましい。ただし、一つの第1グループに、互いに異なる重合性官能基を有する複数の反応性末端構造が含まれてもよい。反応性末端構造は、重合性官能基を複数有してもよいが、重合性官能基を一つのみ有することが好ましい。
【0029】
第1グループが、同じ重合性官能基を有する複数の反応性末端構造からなる場合、重合性官能基ごとに第1グループが定められていてもよい。たとえば、エポキシ基を有する複数の反応性末端構造からなる第1グループG1e、ヒドロキシ基を有する複数の反応性末端構造からなる第1グループG1h、アミノ基を有する複数の反応性末端構造からなる第1グループG1a等が設けられる。第1グループ記憶部101は、複数の重合性官能基のそれぞれに対して設けられた第1グループに関する情報を保持できる。第1グループに関する情報には、その第1グループに属する複数の反応性末端構造を示す情報が含まれる。この場合、反応性末端結合処理部130は、第1グループ記憶部101に保持された複数の第1グループから、いずれかの第1グループを選択して用いることができる。
【0030】
第2グループ記憶部102は、第2グループに関する情報を保持している。第2グループに関する情報には、第2グループに属する複数のメイン構造を示す情報が含まれる。上述した通り、第2グループは、複数のメイン構造からなる。メイン構造を示す情報は、たとえば、メイン構造を示す記述子であってもよいし、各メイン構造について定められた記号等の識別情報であってもよい。たとえば識別情報とメイン構造とを対応付けたデータベースが別途設けられており、識別情報に基づいてメイン構造を特定できてもよい。
【0031】
図6(a)から
図6(e)はそれぞれ、第2グループに属するメイン構造を例示する図である。メイン構造は分子の一部分である。メイン構造は、複数の結合点を有する。また、メイン構造は、重合性官能基を有してもよいし、有さなくてもよい。
図6(a)から
図6(e)において、結合点は実線円で囲まれている部分である。第2グループに属する複数のメイン構造は、互いに異なる構造である。
【0032】
第3グループ記憶部103は、第3グループに関する情報を保持している。第3グループは、複数の非反応性末端構造からなる。第3グループに関する情報には、第3グループに属する複数の非反応性末端構造を示す情報が含まれる。非反応性末端構造を示す情報は、たとえば、非反応性末端構造を示す記述子であってもよいし、各非反応性末端構造について定められた記号等の識別情報であってもよい。たとえば識別情報と非反応性末端構造とを対応付けたデータベースが別途設けられており、識別情報に基づいて非反応性末端構造を特定できてもよい。
【0033】
図7(a)から
図7(e)はそれぞれ、第3グループに属する非反応性末端構造を例示する図である。非反応性末端構造は分子の一部分である。非反応性末端構造は、結合点を一つのみ有し、かつ、重合性官能基を含まない構造である。
図7(a)から
図7(e)において、結合点は実線円で囲まれている部分である。
【0034】
本実施形態に係る化学構造提案装置10は、少なくとも、いずれかのメイン構造と、いずれかの反応性末端構造とが結合された結合構造を示す構造情報を生成する。結合構造は、一以上のメイン構造と一以上の反応性末端構造との組み合わせ、または、一以上のメイン構造、と、一以上の反応性末端構造と、一以上の非反応性末端構造との組み合わせからなる。
【0035】
図8は、本実施形態に係る結合構造の概念について説明するための図である。
図8において、結合点は実線円で囲まれている部分である。化学構造提案装置10は、メイン構造が有する複数の結合点のそれぞれに結合させる構造を決定する。そして、決定結果に基づいて、結合構造が定まる。本実施形態において、メイン構造の各結合点に結合させる構造は、反応性末端構造または、非反応性末端構造である。各結合点にどの構造を結合させるかに依存して、得られる結合構造は異なる。
【0036】
本実施形態に係る化学構造提案装置10によれば、バリエーション豊かな結合構造を示す情報が得られる。なおかつ、結合構造が反応性末端構造を有する。したがって、樹脂開発に対して有効な結合構造の提案が効率よく行われる。
【0037】
化学構造提案装置10が行う処理について以下に詳しく説明する。
【0038】
図9は、本実施形態に係る化学構造提案装置10が行う処理の流れを例示するフローチャートである。化学構造提案装置10に対して、構造情報を生成するための処理を開始させる操作が行われると、まず、反応性末端結合処理部130は、条件情報を取得する(ステップS21)。条件情報には、反応性末端結合処理に用いられる条件を示す情報が含まれる。条件情報に依存して、生成される構造情報が変化しうる。
【0039】
反応性末端結合処理部130は、予め定められ、反応性末端結合処理部130からアクセス可能な記憶部に保持された条件情報を読み出して取得してもよいし、ユーザからの入力を受け付けることで条件情報を取得してもよい。ユーザは化学構造提案装置10(計算機1000)に接続された入力装置を用いて、化学構造提案装置10に情報を入力できる。ユーザは、どのような結合構造を得たいかに応じて、条件情報を設定することができる。言い換えると、ユーザは、条件情報を調整することで、得られる結合構造の傾向をコントロールできる。
【0040】
条件情報はたとえば、最低反応性末端数FNを含む。FNは、結合構造に含まれる反応性末端構造の下限を示す値である。FNは、1以上の整数である。条件情報がFNを含むことにより、結合構造に最低限含ませる反応性末端構造の数をコントロールできる。
【0041】
また、条件情報はたとえば、確率SP1を示す情報を含む。確率SP1は、一つの結合点に非反応性末端構造を結合させるか反応性末端構造を結合させるかに関わる確率である。
【0042】
条件情報は、所定数TNを含んでもよい。TNは、生成部150が生成すべき構造情報の数である。TNは、1以上の整数である。
【0043】
上述した通り、重合性官能基ごとに第1グループが定められている場合、条件情報は、いずれかの重合性官能基を示す情報を含んでもよい。反応性末端結合処理部130は、重合性官能基を示す情報に基づいて、複数の第1グループの中から、使用すべき第1グループを選択することができる。
【0044】
また、条件情報は、第1メイン構造を示す情報を含んでもよい。第1メイン構造は、第2グループから選択された一つのメイン構造である。
【0045】
ただし、条件情報は必ずしもこれらの情報を含まなくてもよい。FN、SP1、TN、重合性官能基を示す情報、および第1メイン構造を示す情報は、それぞれ化学構造提案装置10において予め定められていてもよいし、ランダムに決定されてもよい。
【0046】
ステップS21に次いで反応性末端結合処理部130は、第1メイン構造を特定する(ステップS22)。条件情報に第1メイン構造を示す情報が含まれる場合、反応性末端結合処理部130は、条件情報に基づいて第1メイン情報を特定できる。条件情報に第1メイン構造を示す情報が含まれない場合、反応性末端結合処理部130はたとえば、第2グループからランダムに一つの第1メイン構造を選択してもよい。
【0047】
そして反応性末端結合処理部130は、反応性末端結合処理を行う(ステップS23)。本実施形態に係る反応性末端結合処理部130は、反応性末端結合処理の開始時点において、この第1メイン構造を、結合対象構造とする。
【0048】
図10は、反応性末端結合処理(ステップS23)の流れを例示するフローチャートである。
図10では、反応性末端構造が重合性官能基を一つのみ有し、メイン構造が重合性官能基を有さない場合の例を示している。ただし、反応性末端結合処理は本例に限定されない。
【0049】
反応性末端結合処理が開始すると、反応性末端結合処理部130は、結合対象構造において、未結合の結合点(すなわち、結合先が決定されていない結合点)を一以上特定する(ステップS101)。本実施形態では、反応性末端結合処理部130は、第1メイン構造が有する複数の結合点を、未結合の結合点として特定する。
【0050】
次いで、反応性末端結合処理部130は、結合点の余剰数Nを特定する(ステップS102)。余剰数Nは、反応性末端構造以外の構造を結合させることができる未結合の結合点の数である。具体的には反応性末端結合処理部130はステップS101で特定した未結合の結合点の数CNを特定する。そして、反応性末端結合処理部130は、未結合の結合点の数CNから最低反応性末端数FNを差し引くことでNを算出する。上述した通り、化学構造提案装置10は、FNを示す情報の入力を受け付けることができる。すなわち、FNをユーザが指定可能である。ただし、FNは予め定められていてもよい。
【0051】
ステップS103において反応性末端結合処理部130は、未結合の結合点のうち、一つの対象結合点を特定する。対象結合点はその時点における未結合の結合点のうち、いずれであってもよい。反応性末端結合処理部130は、未結合の結合点のうち、ランダムに対象結合点を選択することができる。対象結合点は、構造情報が示す結合構造に含まれる、メイン構造が有する複数の結合点の一つであるといえる。
【0052】
ステップS104において、反応性末端結合処理部130は、余剰数Nがゼロより大きいか否かを判定する(ステップS104)。Nがゼロより大きい場合(ステップS104のYes)、反応性末端結合処理部130は、対象結合点に反応性末端構造を結合させるか否かを判定する(ステップS105)。
【0053】
ステップS105において反応性末端結合処理部130は、対象結合点に、反応性末端構造と非反応性末端構造とのいずれを結合させるかを、所定の確率SP1を用いて決定することができる。すなわち、確率SP1に応じて非反応性末端構造の付加確率を調整可能である。上述した通り、化学構造提案装置10は、確率SP1を示す情報の入力を受け付けることができる。そうすることで、確率SP1をユーザが指定可能である。ただし、確率SP1は予め定められていてもよい。
【0054】
反応性末端結合処理部130はたとえば、SP1の確率で、対象結合点に非反応性末端構造を結合させる。一方反応性末端結合処理部130は、1-SP1の確率で、対象結合点に反応性末端構造を結合させる。ただし、反応性末端結合処理部130は、SP1の確率で、対象結合点に反応性末端構造を結合させ、1-SP1の確率で、対象結合点に非反応性末端構造を結合させてもよい。
【0055】
反応性末端結合処理部130が対象結合点に非反応性末端構造を結合させると決定した場合(ステップS105のNo)、反応性末端結合処理部130は対象結合点に結合させる非反応性末端構造を特定する(ステップS106)。たとえば反応性末端結合処理部130は、第3グループ記憶部103に保持されている第3グループから、一つの非反応性末端構造をランダムに選択することができる。すなわち反応性末端結合処理部130は、結合構造に含まれるメイン構造に結合させる非反応性末端構造を、第3グループから選択することができる。そうすることで、結合構造が多様化される。
【0056】
他の例として、ステップS106で特定すべき非反応性末端構造を示す情報が、条件情報に含まれていてもよい。その場合、反応性末端結合処理部130は、条件情報に示された非反応性末端構造を、対象結合点に結合させる非反応性末端構造として特定する。この特定された非反応性末端構造が、対象結合点に結合させる構造として決定される。
【0057】
次いで反応性末端結合処理部130は、余剰数Nの値を1だけ減らす(ステップS107)。
【0058】
そして、反応性末端結合処理部130は、ステップS101で特定した未結合の結合点のうち、未処理の結合点、すなわち、結合させる構造が決定されていない結合点があるか否かを判定する(ステップS109)。未処理の結合点がない場合(ステップS109のNo)、反応性末端結合処理部130は、反応性末端結合処理を終了する。未処理の結合点がある場合(ステップS109のYes)、反応性末端結合処理部130が行う処理は、ステップS103に戻り、未処理の結合点のうち、一つの結合点を新たな対象結合点として特定する。
【0059】
ステップS105において反応性末端結合処理部130が対象結合点に反応性末端構造を結合させると決定した場合(ステップS105のYes)、反応性末端結合処理部130は対象結合点に結合させる反応性末端構造を特定する(ステップS108)。たとえば反応性末端結合処理部130は、第1グループから、一つの反応性末端構造をランダムに選択することができる。他の例として、ステップS108で特定すべき反応性末端構造を示す情報が、条件情報に含まれていてもよい。その場合、反応性末端結合処理部130は、条件情報に示された反応性末端構造を、対象結合点に結合させる反応性末端構造として特定する。この特定された反応性末端構造が、対象結合点に結合させる構造として決定される。
【0060】
ステップS104において、余剰数Nが0より大きくないと判定された場合(ステップS104のNo)にも、反応性末端結合処理部130は、ステップS108の処理を行う。
【0061】
ステップS108に次いで反応性末端結合処理部130は、上述したステップS109を実行する。
【0062】
以上のように反応性末端結合処理部130は反応性末端結合処理を実行できる。
【0063】
図9に戻り、反応性末端結合処理(ステップS23)が終わると、生成部150は、構造情報を出力する(ステップS24)。生成部150は、反応性末端結合処理部130が行った決定の結果に基づき、構造情報を生成する。したがって
図10の例において、生成部150は、所定の数FN以上の反応性末端構造を含む結合構造を示す構造情報を生成できる。このように、ユーザは所望の条件を満たす構造を得られる。
【0064】
構造情報はたとえば、結合構造に含まれる複数の構造(メイン構造、反応性末端構造等)、および、複数の構造が有する複数の結合点の結合関係を少なくとも示す。構造情報は、結合構造を示す記述子を含んでもよい。
【0065】
生成部150は、反応性末端結合処理が終了した後に、反応性末端結合処理部130が決定した全ての事項に基づいて構造情報を生成してもよいし、反応性末端結合処理部130が一つの決定を行うごとに、情報を更新することで、構造情報を生成してもよい。すなわち、反応性末端結合処理と、生成部150による構造情報の生成とは、並行して行われてもよい。
【0066】
生成部150による構造情報の出力先は特に限定されない。たとえば生成部150は、構造情報を結合構造記憶部104に対して出力する。すなわち生成部150は、構造情報を結合構造記憶部104に保持させる。他の例として、生成部150は、構造情報を、化学構造提案装置10に接続されたディスプレイ等に表示させてもよい。その場合、生成部150は、結合構造を示す図をディスプレイに表示してもよい。生成部150は、他の装置に対して構造情報を出力してもよい。
【0067】
ステップS24に次いで、生成部150は、所定数TNの構造情報が出力されたか否かを判定する(ステップS25)。所定数TNの構造情報が出力されていない場合(S25のNo)、処理がステップS22に戻り、反応性末端結合処理部130は、再度第1メイン構造を特定する。そうして、構造情報の生成が繰り返される。所定数TNの構造情報が出力された場合(ステップS25のYes)、化学構造提案装置10の構造情報を生成するための処理が終了する。このように、生成部150は、結合構造を示す構造情報を複数生成することができる。また、反応性末端結合処理が行われるたびに、ある程度のランダム性を持って構造情報が生成される。したがって、多様な構造が生成される。
【0068】
次に、本実施形態の作用および効果について説明する。本実施形態によれば、反応性末端結合処理部130は、第1グループから選択された反応性末端構造を、第2グループから選択されたメイン構造に結合させる反応性末端構造として決定する反応性末端結合処理を行う。したがって、重合性を有する候補構造を効率よく得られる。
【0069】
(第2の実施形態)
図11は、第2の実施形態に係る化学構造提案装置10の機能構成を例示する図である。本実施形態に係る化学構造提案装置10は、以下に説明する点を除いて第1の実施形態に係る化学構造提案装置10と同じである。また、本実施形態に係る化学構造提案方法は、以下に説明する点を除いて第1の実施形態に係る化学構造提案方法と同じである。
【0070】
本実施形態に係る化学構造提案装置10は、メイン結合処理部110をさらに備える。メイン結合処理部110は、結合構造において、第2グループから選択された第1のメイン構造と、第2グループから選択された第2のメイン構造とを結合させることを決定するメイン構造結合処理を行う。そうすることで、重合性オリゴマーを示す構造情報を効率よく得られる。
【0071】
メイン結合処理部110は、第1グループ記憶部101および第3グループ記憶部103のそれぞれにアクセス可能である。
【0072】
本実施形態に係る化学構造提案装置10を実現する計算機のハードウエア構成は、第1の実施形態に係る化学構造提案装置10と同様に、たとえば
図3によって表される。ただし、本実施形態に係る化学構造提案装置10を実現する計算機1000のストレージデバイス1080には、本実施形態のメイン結合処理部110の機能を実現するプログラムモジュールがさらに記憶される。
【0073】
図12は、本実施形態に係る結合構造の概念について説明するための図である。
図12において、結合点は実線円で囲まれている部分である。化学構造提案装置10は、メイン構造の複数の結合点のそれぞれに結合させる構造を決定する。そして、決定結果に基づいて、結合構造が定まる。本実施形態において、メイン構造の各結合点に結合させる構造は、メイン構造、反応性末端構造、または非反応性末端構造である。各結合点にどの構造を結合させるかに依存して、得られる結合構造は異なる。
【0074】
本実施形態に係る化学構造提案装置10によれば、第1の実施形態に係る化学構造提案装置10と同様、バリエーション豊かな結合構造を示す情報が得られる。なおかつ、結合構造が反応性末端構造を有する。したがって、樹脂開発に対して有効な結合構造の提案が効率よく行われる。さらに、本実施形態に係る化学構造提案装置10によれば、メイン構造が複数連なる構造が提案され得る。したがって、オリゴマーを示す構造情報が効率良く得られる。
【0075】
本実施形態に係る化学構造提案装置10が行う処理について以下に詳しく説明する。
【0076】
図13は、本実施形態に係る化学構造提案装置10が行う処理の流れを例示するフローチャートである。化学構造提案装置10に対して、構造情報を生成するための処理を開始させる操作が行われると、まず、メイン結合処理部110は、条件情報を取得する(ステップS31)。本実施形態に係る条件情報には、反応性末端結合処理に用いられる条件を示す情報に加えて、メイン構造結合処理に用いられる条件を示す情報が含まれる。条件情報に依存して、生成される構造情報が変化しうる。
【0077】
メイン結合処理部110は、予め定められ、メイン結合処理部110からアクセス可能な記憶部に保持された条件情報を読み出して取得してもよいし、ユーザからの入力を受け付けることで条件情報を取得してもよい。ユーザは、どのような結合構造を得たいかに応じて、条件情報を設定することができる。言い換えると、ユーザは、条件情報を調整することで、得られる結合構造の傾向をコントロールできる。
【0078】
本実施形態において反応性末端結合処理部130は、メイン結合処理部110から条件情報を取得してもよいし、第1の実施形態で説明したように反応性末端結合処理部130が記憶部等から条件情報を取得してもよい。
【0079】
なお、メイン結合処理部110は、条件情報のうち、メイン結合処理部110が行う処理に必要な情報のみを取得してもよい。また、反応性末端結合処理部130は、条件情報のうち、反応性末端結合処理部130が行う処理に必要な情報のみを取得してもよい。
【0080】
本実施形態に係る条件情報は、第1の実施形態に係る条件情報と同様である。ただし、本実施形態において、条件情報はさらに、以下に説明する情報を、メイン構造結合処理に用いられる条件を示す情報として含んでもよい。
【0081】
本実施形態に係る条件情報は、所定の反復回数MNを含んでも良い。MNは、メイン構造結合処理を行う回数を示す値である。MNは、0以上の整数である。条件情報がMNを含むことにより、メイン構造の連結数の傾向をコントロールできる。なお、MN=0とすることにより、本実施形態に係る化学構造提案装置10にメイン構造結合処理を行わせず、第1の実施形態に係る化学構造提案装置10と同様に機能させることもできる。
【0082】
また、本実施形態に係る条件情報はたとえば、確率SP2を示す情報を含む。確率SP2は、一つの結合点に非反応性末端構造を結合させるかメイン構造を結合させるかに関わる確率である。確率SP2は確率SP1と同じでもよいし、異なってもよい。
【0083】
ただし、本実施形態に係る条件情報は必ずしもこれらの情報を含まなくてもよい。MN、およびSP2は、化学構造提案装置10において予め定められていてもよいし、ランダムに決定されてもよい。
【0084】
ステップS31に次いでメイン結合処理部110は、第1メイン構造を特定する(ステップS32)。条件情報に第1メイン構造を示す情報が含まれる場合、メイン結合処理部110は、条件情報に基づいて第1メイン情報を特定できる。条件情報に第1メイン構造を示す情報が含まれない場合、メイン結合処理部110はたとえば、第2グループからランダムに一つの第1メイン構造を選択してもよい。
【0085】
そしてメイン結合処理部110は、MNがゼロであるか否かを判定する(ステップS33)。MNがゼロである場合(ステップS33のYes)、メイン結合処理部110はメイン構造結合処理を行わず、反応性末端結合処理部130が反応性末端結合処理を行う(ステップS36)。この場合、本実施形態に係る反応性末端結合処理部130は、反応性末端結合処理の開始時点において、ステップS32で特定された第1メイン構造を、結合対象構造とする。
【0086】
MNがゼロでない場合(ステップS33のNo)、メイン結合処理部110がメイン構造結合処理を行う(ステップS34)。本実施形態に係るメイン結合処理部110は、最初のメイン構造結合処理の開始時点において、ステップS32で特定した第1メイン構造を、結合対象構造とする。
【0087】
図14は、メイン構造結合処理(ステップS34)の流れを例示するフローチャートである。
図14の例では、反応性末端構造が重合性官能基を一つのみ有し、メイン構造が重合性官能基を有さない場合の例を示している。ただし、メイン構造結合処理は本例に限定されない。
【0088】
メイン構造結合処理が開始すると、メイン結合処理部110は、結合対象構造において、未結合の結合点を一以上特定する(ステップS201)。
【0089】
次いで、メイン結合処理部110は、結合点の余剰数Nを特定する(ステップS202)。具体的にはメイン結合処理部110はステップS201で特定した未結合の結合点の数CNを特定する。そして、メイン結合処理部110は、未結合の結合点の数CNから最低反応性末端数FNを差し引くことでNを算出する。上述した通り、化学構造提案装置10は、FNを示す情報の入力を受け付けることができる。すなわち、FNをユーザが指定可能である。ただし、FNは予め定められていてもよい。
【0090】
ステップS203においてメイン結合処理部110は、未結合の結合点のうち、一つの対象結合点を特定する。対象結合点はその時点における未結合の結合点のうち、いずれであってもよい。メイン結合処理部110は、未結合の結合点のうち、ランダムに対象結合点を選択することができる。
【0091】
ステップS204において、メイン結合処理部110は、余剰数Nがゼロより大きいか否かを判定する(ステップS204)。Nがゼロより大きい場合(ステップS204のYes)、メイン結合処理部110は、対象結合点にメイン構造を結合させるか否かを判定する(ステップS205)。
【0092】
ステップS205においてメイン結合処理部110は、対象結合点に、メイン構造と非反応性末端構造とのいずれを結合させるかを、所定の確率SP2を用いて決定することができる。すなわち、確率SP2に応じて非反応性末端構造の付加確率を調整可能である。上述した通り、化学構造提案装置10は、確率SP2を示す情報の入力を受け付けることができる。そうすることで、確率SP2をユーザが指定可能である。ただし、確率SP2は予め定められていてもよい。
【0093】
最初のメイン構造結合処理で具体的にメイン結合処理部110は、結合構造において、第1のメイン構造が有する複数の結合点の一つに、第2のメイン構造と非反応性末端構造とのいずれを結合させるかを、所定の確率SP2を用いて決定できる。ここで、第2のメイン構造は第1のメイン構造と同じでもよいし異なっていてもよい。
【0094】
メイン結合処理部110はたとえば、SP2の確率で、対象結合点に非反応性末端構造を結合させる。一方メイン結合処理部110は、1-SP2の確率で、対象結合点に反応性末端構造を結合させる。ただし、メイン結合処理部110は、SP1の確率で、対象結合点にメイン構造を結合させ、1-SP2の確率で、対象結合点に非反応性末端構造を結合させてもよい。
【0095】
メイン結合処理部110が対象結合点に非反応性末端構造を結合させると決定した場合(ステップS205のNo)、メイン結合処理部110は対象結合点に結合させる非反応性末端構造を特定する(ステップS206)。たとえばメイン結合処理部110は、第3グループ記憶部103に保持されている第3グループから、一つの非反応性末端構造をランダムに選択することができる。すなわちメイン結合処理部110は、結合構造に含まれるメイン構造に結合させる非反応性末端構造を、第3グループから選択することができる。そうすることで、結合構造が多様化される。
【0096】
他の例として、ステップS206で特定すべき非反応性末端構造を示す情報が、条件情報に含まれていてもよい。その場合、メイン結合処理部110は、条件情報に示された非反応性末端構造を、対象結合点に結合させる非反応性末端構造として特定する。この特定された非反応性末端構造が、対象結合点に結合させる構造として決定される。
【0097】
次いでメイン結合処理部110は、余剰数Nの値を1だけ減らす(ステップS207)。
【0098】
そして、メイン結合処理部110は、ステップS201で特定された未結合の結合点のうち、未処理の結合点、すなわち、結合させる構造が決定されていない結合点があるか否かを判定する(ステップS209)。未処理の結合点がない場合(ステップS209のNo)、メイン結合処理部110は、メイン構造結合処理を終了する。未処理の結合点がある場合(ステップS209のYes)、メイン結合処理部110が行う処理は、ステップS203に戻り、未処理の結合点のうち、一つの結合点を新たな対象結合点として特定する。
【0099】
ステップS205においてメイン結合処理部110が対象結合点にメイン構造を結合させると決定した場合(ステップS205のYes)、メイン結合処理部110は対象結合点に結合させるメイン構造を特定する(ステップS208)。
【0100】
対象結合点に結合させるメイン構造は、第1のメイン構造と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0101】
たとえば対象結合点に結合させるメイン構造を、第1のメイン構造と同じ構造とすることが予め定められていてもよい。この場合、メイン結合処理部110は、第1のメイン構造と同じ構造を、対象結合点に結合させるメイン構造として特定する。そうすることで、結合構造は、同じメイン構造が複数連結された構造となる。
【0102】
または、メイン結合処理部110は、第2グループから、一つのメイン構造をランダムに選択してもよい。他の例として、ステップS208で特定すべきメイン構造を示す情報が、条件情報に含まれていてもよい。その場合、メイン結合処理部110は、条件情報に示されたメイン構造を、対象結合点に結合させるメイン構造として特定する。この特定されたメイン構造が、対象結合点に結合させる構造として決定される。
【0103】
結合構造に含みうるメイン構造の、種類の数の上限値が予め定められていてもよい。または、条件情報が、結合構造に含みうるメイン構造の、種類の数の上限値を含んでもよい。その場合、ステップS208の繰り返しの中で、この上限値が守られる範囲内で、メイン結合処理部110は、メイン構造を選択する。たとえば、メイン結合処理部110は、それまでに特定されたメイン構造の種類の数が上限値未満である場合には、第2グループから対象結合点に結合させるメイン構造を選択する。一方、メイン結合処理部110は、それまでに特定されたメイン構造の種類の数が上限値である場合には、それまでに特定されたメイン構造の中から、対象結合点に結合させるメイン構造を選択する。
【0104】
ステップS204において、メイン結合処理部110は、余剰数Nが0より大きくないと判定された場合(ステップS204のNo)にも、メイン結合処理部110は、ステップS208の処理を行う。
【0105】
ステップS208に次いでメイン結合処理部110は、上述したステップS209を実行する。
【0106】
以上のようにメイン結合処理部110はメイン構造処理を実行できる。
【0107】
図13に戻り、メイン構造結合処理(ステップS34)が終わると、メイン結合処理部110は、メイン構造結合処理がMN回行われたか否かを判定する(ステップS35)。メイン構造結合処理がMN回行われていない場合(ステップS35のNo)、メイン結合処理部110は再度メイン構造結合処理を行う(ステップS34)。こうすることで、メイン結合処理部110はメイン構造結合処理を複数回繰り返すことができ、結合構造として所望の長さのオリゴマーが得られやすくなる。ただし、二回目以降のメイン構造結合処理では、それまでの一度以上のメイン構造結合処理においてメイン結合処理部110が行った決定の結果を反映させた構造を結合対象構造とする。すなわち、二回目以降のメイン構造結合処理において結合対象構造は、複数のメイン構造が結合された構造、または一以上のメイン構造と一以上の非反応性末端構造とが結合された構造である。
【0108】
メイン構造結合処理がMN回行われた場合(ステップS35のYes)、続いて反応性末端結合処理部130が反応性末端結合処理を行う(ステップS36)。この場合、本実施形態に係る反応性末端結合処理部130は、それまでに行われた全てのメイン構造結合処理において、メイン結合処理部110が行った全ての決定の結果を反映させた構造を、結合対象構造とする。すなわち、反応性末端結合処理において結合対象構造は、複数のメイン構造が結合された構造、または一以上のメイン構造と一以上の非反応性末端構造とが結合された構造である。
【0109】
本実施形態に係る反応性末端結合処理(ステップS36)は、第1の実施形態に係る反応性末端結合処理(ステップS23)と同じである。
【0110】
反応性末端結合処理(ステップS36)が終わると、生成部150は、構造情報を出力する(ステップS37)。生成部150は、メイン結合処理部110および反応性末端結合処理部130が行った決定の結果に基づき、構造情報を生成する。
【0111】
生成部150は、反応性末端結合処理が終了した後に、メイン結合処理部110および反応性末端結合処理部130が決定した全ての事項に基づいて構造情報を生成してもよいし、メイン結合処理部110または反応性末端結合処理部130が一つの決定を行うごとに、情報を更新することで、構造情報を生成してもよい。すなわち、メイン構造結合処理と、生成部150による構造情報の生成とは、並行して行われてもよい。また、反応性末端結合処理と、生成部150による構造情報の生成とは、並行して行われてもよい。
【0112】
構造情報の出力については第1の実施形態で説明した通りである。
【0113】
ステップS37に次いで、生成部150は、所定数TNの構造情報が出力されたか否かを判定する(ステップS38)。所定数TNの構造情報が出力されていない場合(S38のNo)、処理がステップS32に戻り、メイン結合処理部110は、再度第1メイン構造を特定する。そうして、構造情報の生成が繰り返される。所定数TNの構造情報が出力された場合(ステップS38のYes)、化学構造提案装置10の構造情報を生成するための処理が終了する。
【0114】
以上、本実施形態によれば、第1の実施形態と同様の作用および効果が得られる。くわえて、本実施形態によれば、メイン結合処理部110がメイン構造結合処理を行う。したがって、重合性オリゴマーを示す構造情報を効率よく得られる。
【0115】
(第3の実施形態)
図15は、第3の実施形態に係る化学構造提案装置10が行う処理の流れを例示するフローチャートである。本実施形態に係る化学構造提案装置10は、以下に説明する点を除いて第2の実施形態に係る化学構造提案装置10と同じである。また、本実施形態に係る化学構造提案方法は、以下に説明する点を除いて第2の実施形態に係る化学構造提案方法と同じである。
【0116】
本実施形態に係る化学構造提案装置10において、メイン結合処理部110は、メイン構造結合処理を行うか否かを、所定の確率OPを用いて決定する。そうすることで、メイン構造の連結確率を調整可能であるとともに、生成される構造情報のバリエーションが増加する。
【0117】
本実施形態において、条件情報はたとえば確率OPを示す情報を含む。すなわち、メイン結合処理部110は、確率OPを示す情報の入力を受け付けることができる。したがって、確率OPをユーザが指定可能である。ただし、条件情報は確率OPを示す情報を含まなくても良い。化学構造提案装置10において確率OPは予め定められていてもよいし、ランダムに決定されてもよい。
【0118】
図15を参照して、本実施形態に係る化学構造提案装置10が行う処理について以下に詳しく説明する。ステップS41からステップS43は、第2の実施形態で説明したステップS31からステップS33とそれぞれ同じである。ステップS33においてMNがゼロでない場合(ステップS33のNo)、メイン結合処理部110は、メイン構造結合処理を行う前に、ステップS44を行う。
【0119】
ステップS44では、メイン結合処理部110は、メイン構造結合処理を行うか否かを判定する。メイン結合処理部110はたとえば、OPの確率で、次にメイン構造結合処理(ステップS45)を行う(ステップS44のYes)。一方メイン結合処理部110は、1-OPの確率で、次にメイン結合処理を行わずにステップS46を行う(ステップS44のNo)。ただし、メイン結合処理部110は、OPの確率で、次にメイン結合処理を行わずにステップS46を行い、1-OPの確率で、次にメイン構造結合処理(ステップS45)を行ってもよい。
【0120】
本実施形態に係るメイン構造結合処理(ステップS45)は、第2の実施形態に係るメイン構造結合処理(ステップS34)と同じである。本実施形態に係るメイン結合処理部110は、メイン構造結合処理(ステップS45)に次いでステップS46を行う。
【0121】
ステップS46では、メイン結合処理部110は、上述したステップS44がMN回行われたか否かを判定する。ステップS44がMN回行われていない場合(ステップS46のNo)、メイン結合処理部110は再度ステップS44を行う。ステップS44がMN回行われた場合(ステップS46のYes)、続いて反応性末端結合処理部130が反応性末端結合処理を行う(ステップS47)。
【0122】
本実施形態に係る反応性末端結合処理(ステップS47)は、第2の実施形態に係る反応性末端結合処理(ステップS36)と同じである。また、ステップS48およびステップS49は、第2の実施形態で説明したステップS37およびステップS38とそれぞれ同じである。
【0123】
以上、本実施形態によれば、第2の実施形態と同様の作用および効果が得られる。くわえて、本実施形態によれば、メイン結合処理部110は、メイン構造結合処理を行うか否かを、所定の確率OPを用いて決定する。そうすることで、メイン構造の連結確率を調整可能であるとともに、生成される構造情報のバリエーションが増加する。
【0124】
(第4の実施形態)
図16は、第4の実施形態に係る化学構造提案装置10の機能構成を例示する図である。本実施形態に係る化学構造提案装置10は、以下に説明する点を除いて第1から第3の実施形態の少なくともいずれかに係る化学構造提案装置10と同じである。また、本実施形態に係る化学構造提案方法は、以下に説明する点を除いて第1から第3の実施形態の少なくともいずれかに係る化学構造提案方法と同じである。
【0125】
図16では、第2および第3の実施形態に係る化学構造提案装置10と同様、化学構造提案装置10がメイン結合処理部110を備える場合の例を示しているが、本実施形態に係る化学構造提案装置10は、第1の実施形態に係る化学構造提案装置10と同様、メイン結合処理部110を備えなくてもよい。
【0126】
本実施形態において、化学構造提案装置10は、推定部170をさらに備える。推定部170はたとえば、結合構造の特性を、機械学習モデルを用いて推定する。推定される特性は特に限定されないが、推定される特性はたとえば、比重、曲げ弾性率、引張弾性率、曲げ強度、引張強度、伸び率、衝撃強度、密着強度、体積抵抗率、屈折率、比誘電率、誘電正接、熱伝導率、線膨張係数、吸水率、融点、および硬化収縮率のうち一以上を含む。推定される特性(「結合構造の特性」と呼ぶ)は、結合構造が示す物質そのものの特性であってもよいし、結合構造が示す物質を用いて、所定の条件で得られる樹脂の特性であってもよい。また、推定される特性は、その樹脂を用いて、所定の条件で得られる硬化体や組成物の特性であってもよい。推定される特性はたとえば結合構造が示す物質を用いて得られる樹脂の硬化体の比重であり得る。
【0127】
本実施形態に係る化学構造提案装置10を実現する計算機のハードウエア構成は、第1の実施形態に係る化学構造提案装置10と同様に、たとえば
図3によって表される。ただし、本実施形態に係る化学構造提案装置10を実現する計算機1000のストレージデバイス1080には、本実施形態の推定部170の機能を実現するプログラムモジュールがさらに記憶される。
【0128】
推定部170はたとえば、事前に機械学習が行われた学習済みモデルを用いて、結合構造の特性を推定する。この機械学習はたとえば、化学構造を示す情報と、その化学構造に関する特性(正解データ)とを含む訓練データを用いて行われる。訓練データにおける化学構造は、重合性官能基を有する構造であることが好ましい。また、訓練データにおける化学構造は、結合構造が有する重合性官能基と同じ重合性官能基を含むことが好ましい。機械学習に用いられる複数の訓練データにおける化学構造に関する特性は、測定条件や、樹脂の形成条件(反応度等)、硬化条件等が特定の条件に統一されていることが好ましい。そうすることで、結合構造の特性として、その特定の条件を前提とした特性が推定される。
【0129】
推定部170が用いる学習済みモデルは、ニューラルネットワークを含む。学習済みモデルには、結合構造を示す構造情報を入力することができる。また、学習済みモデルから出力される情報には、特性を示す情報が一以上含まれる。
【0130】
推定部170は、一つの特性のみを推定してもよいし、複数の特性(たとえば比重、曲げ弾性率、および引張弾性率等)を推定してもよい。化学構造提案装置10が複数の特性を推定する場合、推定部170は、特性を示す情報を複数出力可能な学習済みモデルを用いてもよいし、特性を示す情報を一つのみ出力可能な学習済みモデルを複数用いてもよい。
【0131】
図17は、本実施形態に係る化学構造提案装置10が行う処理の流れを例示するフローチャートである。本例において、ステップS51からステップS58は、第3の実施形態で説明したステップS41からステップS48とそれぞれ同じである。本実施形態のステップS58において生成部150は、構造情報を推定部170に対して出力する。推定部170は生成部150から構造情報を取得すると、その構造情報が示す結合構造の特性を推定する(ステップS59)。すなわち、推定部170は、構造情報を学習済みモデルに入力する。そして、学習済みモデルの出力として、結合構造の特性を示す情報が得られる。推定部170は、構造情報に結合構造の特性を示す情報を関連付けて出力する。
【0132】
推定部170がこれらの情報を出力する先は特に限定されない。たとえば推定部170は、構造情報および特性を示す情報を、結合構造記憶部104に対して出力する。すなわち推定部170は、構造情報および特性を示す情報を結合構造記憶部104に保持させる。他の例として、推定部170は、構造情報および特性を示す情報を、化学構造提案装置10に接続されたディスプレイ等に表示させてもよい。その場合、推定部170は、結合構造を示す図をディスプレイに表示させてもよいし、特性を示すグラフやチャートを表示させてもよい。推定部170は、他の装置に対して構造情報および特性を示す情報を出力してもよい。
【0133】
ステップS60は、第3の実施形態におけるステップS49と同じである。
【0134】
図17では、化学構造提案装置10が第3の実施形態に係る化学構造提案装置10と同様の処理を行い、さらに特性の推定を行う例について説明した。ただし、化学構造提案装置10は、第1または第2の実施形態に係る化学構造提案装置10と同様の処理を行い、さらに特性の推定を行ってもよい。
【0135】
また、推定部170は、結合構造の特性の推定に加えて、または代えて、結合構造の合成難度をさらに推定してもよい。推定部170は、合成難度の推定にも、事前に機械学習が行われた学習済みモデルを用いることができる。この機械学習はたとえば、化学構造を示す情報と、その化学構造を有する物質の合成難度(正解データ)とを含む訓練データを用いて行われる。この学習済みモデルには、結合構造を示す構造情報を入力することができる。また、学習済みモデルから出力される情報には、合成難度が含まれる。
【0136】
以上、本実施形態によれば、第1から第3の実施形態の少なくともいずれかと同様の作用および効果が得られる。くわえて、本実施形態によれば、化学構造提案装置10は、推定部170をさらに備える。そうすることで、結合構造に対して追加の情報が得られ、材料開発を効率良く進めることができる。
【実施例0137】
以下、本実施形態を、実施例を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0138】
(実施例1)
第1の実施形態で説明した化学構造提案方法を用い、低比重の樹脂の探索を目的として複数の構造情報を生成した。構造情報の生成において、最低反応性末端数FNを2、確率SP1(非反応性末端付加確率)を0.6と設定した。重合性官能基はヒドロキシ基とした。本実施例で得られた構造情報が示す結合構造は、いずれも重合可能な構造であった。さらに、得られた各構造情報について、学習済みモデルを用いて比重を推定し、推定された比重が最も低い構造情報が示す結合構造を、結合構造1とした。
【0139】
(実施例2)
第3の実施形態で説明した化学構造提案方法を用い、複数の構造情報を生成した。なお、生成した構造情報の数は実施例1と同じとした。構造情報の生成において、最低反応性末端数FNを2、反復回数MNを2、確率OP(メイン構造結合処理実行確率)を0.5、確率SP1(非反応性末端付加確率)を0.6、確率SP2(非反応性末端付加確率)を0.6と設定した。重合性官能基はヒドロキシ基とした。本実施例で得られた構造情報が示す結合構造は、いずれも重合可能な構造であった。さらに、得られた各構造情報について、学習済みモデルを用いて比重を推定し、推定された比重が最も低い構造情報が示す結合構造を、結合構造2とした。
【0140】
(比較例)
実施形態で説明したような第1グループの情報を用いずに複数の構造情報を生成した。すなわち、本比較例において、複数の反応性末端構造からなる第1グループから選択された反応性末端構造を、メイン構造に結合させる反応性末端構造として決定する反応性末端結合処理が行われなかった。構造情報の生成において、反復回数MNを0、確率OPを0.5、確率SP2を0.6と設定した。本比較例で得られた構造情報が示す結合構造は、いずれも重合不可能な構造であった。すなわち、比較例の構造情報は、樹脂を生成できない構造であり、樹脂開発においては有益な情報ではなかった。比較例において生成された構造情報が示す結合構造の一例を、結合構造3と呼ぶ。
【0141】
図18(a)から
図18(c)は、結合構造1から結合構造3それぞれを示す図である。結合構造2は、オリゴマーであった。一方、結合構造1および結合構造3は、オリゴマーではなかった。
【0142】
以下の通り、結合構造1および結合構造2のそれぞれが示す物質を重合させて樹脂を生成し、得られた樹脂の比重を測定した。なお、上述した通り結合構造3では樹脂を生成できないため、比重は測定できなかった。
【0143】
樹脂の生成のために、まず、
図18(a)で示す構造を有する物質A、
図19(a)で示す構造を有する物質B、
図19(b)で示す構造を有する物質C、および
図19(c)で示す構造を有する物質Dをそれぞれ準備した。物質Aおよび物質Bは独自に合成した。物質Aおよび物質Bについて、1H NMR法により同定を行った結果をそれぞれ
図20および
図21に示す。物質Cとしては株式会社大阪ソーダ製エポキシ樹脂1:4-(2,3-エポキシプロパン-1-イルオキシ)-N,N-ビス(2,3-エポキシプロパン-1-イル)-2-メチルアニリン(EMA)を用いた。物質Dとしては、東京化成工業株式会社製TPP(Tetraphenylporphyrin)を用いた。
【0144】
実施例1では、物質Aを76.9wt%、物質Cを22.3wt%、物質Dを0.8wt%の条件で、これらを混合し、180℃2時間の硬化条件で硬化させることにより、樹脂の硬化体1を得た。
【0145】
実施例2では、物質Aを57.4wt%、物質Bを33.4wt%、物質Cを8.3wt%、物質Dを0.9wt%の条件で、これらを混合し、180℃2時間の硬化条件で硬化させることにより、樹脂の硬化体2を得た。なお、物質Aと物質Bを混合および硬化させることで、混合系中で結合構造2に相当するオリゴマーを形成させた。
【0146】
アルキメデス法により、硬化体1および硬化体2の比重を測定した。硬化体1の比重は1.06であり、硬化体2の比重は1.04であった。このように、実施例1および実施例2のいずれにおいても、所望の低比重の樹脂を効率よく探索できた。また、実施例1よりも実施例2において、より低比重の樹脂を得られる結合構造(オリゴマー)が探索できた。
【0147】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。