(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100710
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】遷移金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20240719BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240719BHJP
C22B 47/00 20060101ALI20240719BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20240719BHJP
C22B 3/38 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B7/00 C
C22B47/00
C22B3/08
C22B3/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024000211
(22)【出願日】2024-01-04
(31)【優先権主張番号】10-2023-0005406
(32)【優先日】2023-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】シム ス ヒャン
(72)【発明者】
【氏名】パク ジ ユン
(72)【発明者】
【氏名】ユ ス ミン
(72)【発明者】
【氏名】ユン クム ジュン
(72)【発明者】
【氏名】イ ヒョン フィ
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA16
4K001AA19
4K001BA05
4K001BA22
4K001DB03
4K001DB31
(57)【要約】
【課題】酸化剤または還元剤なしで、向上した回収率を有する遷移金属の回収方法を提供すること。
【解決手段】本開示の実施形態による遷移金属の回収方法では、酸化処理された遷移金属を含む第1原料と、還元処理された遷移金属を含む第2原料とを準備することができる。第1原料と第2原料を混合した原料混合物から、ニッケル、コバルト及びマンガンの少なくとも1つを含む浸出液を得ることができる。浸出液からニッケル、コバルト及びマンガンの少なくとも1つを得ることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化処理された遷移金属を含む第1原料と、還元処理された遷移金属を含む第2原料とを準備するステップと、
前記第1原料と前記第2原料とを混合した原料混合物から、ニッケル、コバルト及びマンガンの少なくとも1つを含む浸出液を得るステップと、
前記浸出液からニッケル、コバルト及びマンガンの少なくとも1つを取得するステップとを含む、遷移金属の回収方法。
【請求項2】
前記酸化処理された遷移金属は、酸化処理されたニッケル、酸化処理されたコバルト、および酸化処理されたマンガンの少なくとも1つを含み、
前記還元処理された遷移金属は、還元処理されたニッケル、還元処理されたコバルト、および還元処理されたマンガンの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の遷移金属の回収方法。
【請求項3】
前記第1原料は、ニッケル含有混合水酸化沈殿物(Mixed hydroxide precipitate,MHP)からニッケルが選択的に浸出された後の残渣である、請求項1に記載の遷移金属の回収方法。
【請求項4】
前記第2原料は、還元処理された正極活物質である、請求項1に記載の遷移金属の回収方法。
【請求項5】
前記浸出液を取得するステップは、硫酸溶液からニッケル、コバルト及びマンガンの少なくとも1つを含む金属塩を浸出させるものである、請求項1に記載の遷移金属の回収方法。
【請求項6】
前記硫酸溶液は0.5M~1.5Mの濃度を有する、請求項5に記載の遷移金属の回収方法。
【請求項7】
前記原料混合物の全重量に対する前記硫酸溶液の重量の比は3~7である、請求項6に記載の遷移金属の回収方法。
【請求項8】
前記原料混合物の全重量に対する前記硫酸溶液の重量の比は5.95~6.5である、請求項7に記載の遷移金属の回収方法。
【請求項9】
前記浸出液を取得するステップは、前記硫酸溶液を用いてpH2.5以下の条件で行われる、請求項5に記載の遷移金属の回収方法。
【請求項10】
前記浸出液を取得するステップは、硫酸溶液以外の酸化剤または還元剤を使用しない、請求項1に記載の遷移金属の回収方法。
【請求項11】
前記浸出液から残余金属を分離することをさらに含む、請求項1に記載の遷移金属の回収方法。
【請求項12】
前記浸出液からニッケル、コバルト及びマンガンの少なくとも1つを取得するステップは、ニッケル、コバルト及びマンガンの少なくとも1つを抽出して取得するものである、請求項1に記載の遷移金属の回収方法。
【請求項13】
前記のニッケル、コバルト及びマンガンは、それぞれ硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンの形態で抽出される、請求項12に記載の遷移金属の回収方法。
【請求項14】
前記硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンの少なくとも1つを抽出することは、リン酸系抽出剤およびカルボン酸系抽出剤の少なくとも1つを用いて抽出することである、請求項13に記載の遷移金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遷移金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル、コバルト及びマンガンは、磁石、フィラメントなどのための合金、防食のためのメッキ、触媒、接着炭化物、二次電池用正極活物質などの様々な分野で活用されている。特に、ニッケル、コバルト及びマンガンは、リチウム二次電池の正極用活物質に含まれる遷移金属として活発に使用されている。
【0003】
前記正極用活物質にニッケル、コバルト及びマンガンを含む高コストの有価金属が用いられることにより、正極材の製造に製造コストの20%以上がかかっている。また、近年、環境保護への関心が高まることによって、正極用活物質のリサイクル方法の研究が進められている。
【0004】
例えば、強酸に廃正極活物質を混合し、酸化剤を投入して、ニッケル、コバルト及びマンガンを浸出させ、それぞれ硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンの形で金属を回収することができる。
【0005】
また、ニッケル、コバルト及びマンガンは、鉱石に由来するニッケル含有水酸化沈殿物から回収することができる。例えば、強酸にニッケル含有水酸化沈殿物を混合し、ニッケルを選択的に抽出した後、残渣からコバルト及びマンガンを回収することができる。前記残渣に還元剤を投入して、コバルト及びマンガンをそれぞれ硫酸コバルトおよび硫酸マンガンの形で回収することができる。
【0006】
回収された硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンを活用して、再び正極活物質を製造することができる。
【0007】
しかし、このようなニッケル、コバルト、マンガンなどの回収工程は、多くの工程が求められ、また回収率を向上させるために酸化剤または還元剤が使用されるため、回収コストが上昇することがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例示的な実施形態による一つの課題は、酸化剤または還元剤なしで、向上した回収率を有する遷移金属の回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
例示的な実施形態による遷移金属の回収方法では、酸化処理された遷移金属を含む第1原料と、還元処理された遷移金属を含む第2原料とを準備することができる。前記第1原料と前記第2原料とを混合した原料混合物から、ニッケル、コバルト及びマンガンの少なくとも1つを含む浸出液を取得することができる。前記浸出液からニッケル、コバルト及びマンガンの少なくとも1つを取得することができる。
【0010】
いくつかの実施形態では、前記酸化処理された遷移金属は、酸化処理されたニッケル、酸化処理されたコバルト、および酸化処理されたマンガンの少なくとも1つを含むことができ、前記還元処理された遷移金属は、還元処理されたニッケル、還元処理されたコバルト、および還元処理されたマンガンの少なくとも1つを含むことができる。
【0011】
いくつかの実施形態では、前記第1原料は、ニッケル含有混合水酸化沈殿物(Mixed hydroxide precipitate,MHP)からニッケルが選択的に浸出された後の残渣であってもよい。
【0012】
いくつかの実施形態では、前記第2原料は、還元された正極活物質であってもよい。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記浸出液を取得することは、硫酸溶液からニッケル、コバルト及びマンガンの少なくとも1つを含む金属塩を浸出させることであってもよい。
【0014】
いくつかの実施形態では、前記硫酸溶液は0.5M~1.5Mの濃度を有することができる。
【0015】
いくつかの実施形態では、前記原料混合物の全重量に対する前記硫酸溶液の重量の比は3~7であってもよい。
【0016】
いくつかの実施形態では、前記原料混合物の全重量に対する前記硫酸溶液の重量の比は5.95~6.5であってもよい。
【0017】
いくつかの実施形態では、前記浸出液の取得は、前記硫酸溶液を用いてpH2.5以下の条件で行うことができる。
【0018】
いくつかの実施形態では、前記浸出液の取得において、硫酸溶液以外の酸化剤または還元剤を使用しなくてもよい。
【0019】
いくつかの実施形態では、前記浸出液から残余金属を分離することをさらに含むことができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、前記浸出液からニッケル、コバルト及びマンガンの少なくとも1つを取得することは、ニッケル、コバルト及びマンガンの少なくとも1つを抽出して取得することであってもよい。
【0021】
いくつかの実施形態では、前記のニッケル、コバルト及びマンガンは、それぞれ硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンの形で抽出されるものであってもよい。
【0022】
いくつかの実施形態では、前記硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンの少なくとも1つを抽出することは、リン酸系抽出剤およびカルボン酸系抽出剤の少なくとも1つを用いて抽出することであってもよい。
【発明の効果】
【0023】
例示的な実施形態によれば、酸化された遷移金属を含む第1原料と、還元された遷移金属を含む第2原料とを混合することにより、ニッケル、コバルト及びマンガンを浸出することができる。前記第1原料は前記第2原料の酸化剤として、前記第2原料は前記第1原料の還元剤として使用することができる。これにより、別の酸化剤または還元剤を添加しなくても、ニッケル、コバルト及びマンガンを浸出させることができる。
【0024】
いくつかの実施形態では、ニッケル、コバルト及びマンガンは、硫酸溶液から浸出することができる。これにより、ニッケル、コバルト及びマンガンを、それぞれニッケル、コバルト及びマンガンを含む金属塩の形態で浸出することができる。また、硫酸溶液による浸出時、pHを低く維持することができる。これにより、ニッケル、コバルト及びマンガンの酸化反応速度を速くすることができ、浸出率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、例示的な実施形態による遷移金属の回収方法を説明するための概略的なフローチャートである。
【
図2】
図2は、例示的な実施形態による遷移金属の回収方法を説明するための概略的なフローチャートである。
【
図3】
図3は、比較例による遷移金属の回収方法を説明するための概略的なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
例示的な実施形態による遷移金属の回収方法は、ニッケル、コバルト及びマンガンの少なくとも1つを含有する原料から、ニッケル、コバルト及びマンガンの少なくとも1つを回収する方法を提供する。例えば、ニッケル、コバルト及びマンガンの少なくとも1つを含有する製品から、ニッケル、コバルト及びマンガンの少なくとも1つを精製する方法を含むことができる。
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態をより具体的に説明する。但し、これらの実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、本発明を制限するものではない。
【0028】
図1及び
図2は、例示的な実施形態による遷移金属の回収方法を説明するための概略的なフローチャートである。
【0029】
図1及び
図2を参照すると、第1原料および第2原料を準備することができる(例えば、S10工程)。
【0030】
例示的な実施形態によれば、前記第1原料は酸化された遷移金属を含むことができる。例えば、前記第1原料は、酸化されたニッケル、酸化されたコバルト、および酸化されたマンガンの少なくとも1つを含むことができる。
【0031】
いくつかの実施形態では、前記第1原料は、鉱石に由来するニッケル含有混合水酸化沈殿物(Mixed hydroxide precipitate,MHP)から準備された原料であってもよい。前記ニッケル含有MHPは、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)の少なくとも1つを含むことができる。一実施形態では、前記ニッケル含有MHPは、ニッケル、コバルト及びマンガンの他に、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ナトリウム(Na)、亜鉛(Zn)、カルシウム(Ca)などの付加金属をさらに含むことができる。
【0032】
いくつかの実施形態では、前記ニッケル含有MHPからニッケルに選択的な抽出選択性を有する酸化剤を使用してニッケルを浸出させることができる。前記酸化剤は、金属ペルスルフェートを含むことができる。例えば、前記酸化剤は、ナトリウムペルスルフェート(Na2S2O8)を含むことができる。前記酸化剤と共に硫酸溶液を前記ニッケル含有MHPに供給し、ニッケルを選択的に浸出することができる。
【0033】
一実施形態では、前記ニッケル含有MHPからニッケルが選択的に浸出された後の残渣を第1原料として用いることができる。前記残渣は、硫酸および酸化剤によって遷移金属(例えば、ニッケル、コバルト、マンガンなど)が酸化された形態で存在し得る。
【0034】
前述のようにして得られた酸化された遷移金属を第1原料として準備することができる。
【0035】
例示的な実施形態によれば、前記第2原料は、還元された遷移金属を含むことができる。例えば、前記第2原料は、還元されたニッケル、還元されたコバルト、および還元されたマンガンの少なくとも1つを含むことができる。
【0036】
いくつかの実施形態では、前記第2原料は、リチウム二次電池から回収された正極を粉砕して収集された正極活物質から準備された原料であってもよい。前記正極は、例えば、使用済みの廃リチウム二次電池、または製造過程で損傷または不良が発生した正極であってもよい。
【0037】
前記正極活物質は、下記化学式1で表される組成を有する化合物を含むことができる。
【0038】
[化学式1]
LixNi1-yMyO2+z
【0039】
化学式1中、xは0.9≦x≦1.1、yは0≦y≦0.7、zは-0.1≦z≦0.1、MはNa、Mg、Ca、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Co、Fe、Cu、Ag、Zn、B、Al、Ga、C、Si、SnまたはZrから選択される1種以上の元素であってもよい。
【0040】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質は、ニッケル、コバルト及びマンガンを含むNCM系リチウム酸化物であってもよい。
【0041】
一実施形態では、前記正極活物質からリチウム(Li)をリチウム酸化物の形態で除去し、還元された遷移金属を得ることができる。例えば、前記正極活物質を不活性気体雰囲気中で炭素系物質と反応させることにより、リチウム酸化物および還元された遷移金属を得ることができる。
【0042】
前記のようにして得られた還元された遷移金属を第2原料として準備することができる。
【0043】
例示的な実施形態では、前記第1原料と前記第2原料とを混合して原料混合物を形成し、前記原料混合物からニッケル、コバルト及びマンガンの少なくとも1つを浸出させて浸出液を得ることができる(例えば、S20工程)。
【0044】
いくつかの実施形態では、前記原料混合物における第1原料の含有量および第2原料の含有量は、第1原料の酸化程度および第2原料の還元程度によって調整できる。
【0045】
例えば、第1原料の酸化程度が高い場合には、第1原料の含有量が第2原料の含有量よりも低くなり得る。例えば、第2原料の還元程度が高い場合には、第2原料の含有量が第1原料の含有量よりも低くなり得る。
【0046】
いくつかの実施形態では、前記のニッケル、コバルト及びマンガンは、金属塩の形態で浸出することができる。例えば、前記のニッケル、コバルト及びマンガンは、硫酸ニッケル(NiSO4)、硫酸コバルト(CoSO4)および硫酸マンガン(MnSO4)の形態で浸出することができる。
【0047】
いくつかの実施形態では、前記原料混合物に硫酸溶液を注入して硫酸溶液から浸出することができる。硫酸は強酸であり、ニッケル、コバルト及びマンガンは硫酸に対して高い溶解度を有する。このため、前記硫酸溶液によってニッケル、コバルト及びマンガンを浸出させることができる。
【0048】
一実施形態では、前記硫酸溶液の濃度は0.5M~1.5M、または0.8M~1.2Mであってもよい。前記範囲内では、原料混合物と硫酸溶液との混合時の硫酸による急激なpHの変化を抑制することができる。
【0049】
いくつかの実施形態では、前記原料混合物の全重量に対する前記硫酸溶液の重量比は、3~7、または3.5~6.5であってもよい。前記範囲内では、無駄な硫酸の量を減らしながら、ニッケル、コバルト及びマンガンの浸出に必要となる十分な量の硫酸を提供することができる。
【0050】
一実施形態では、前記原料混合物の全重量に対する前記硫酸溶液の重量比は5.95~6.5であってもよい。前記範囲内では、遷移金属は硫酸溶液に対して飽和しなくなる。これにより、ニッケル、コバルト及びマンガンの浸出率を向上させることができる。
【0051】
いくつかの実施形態では、前記原料混合物のニッケル、コバルト及びマンガンは、2.5以下、0~2.5、または0~2のpH条件で浸出することができる。例えば、pHは、第1原料および第2原料の含有量比及び/又は硫酸溶液の含有量により調整することができる。前記範囲内では、ニッケル、コバルト及びマンガンの浸出反応(例えば、ニッケル、コバルト及びマンガンと硫酸との形成反応)を行うことができる。
【0052】
いくつかの実施形態では、前記のニッケル、コバルト及びマンガンの選択的浸出反応は、硫酸溶液以外の別の酸化剤または還元剤を使用せずに行うことができる。
【0053】
第1原料または第2原料をそれぞれ独立して浸出させる場合には、前記第1原料または第2原料中の遷移金属を2価イオンの形態にするために、酸化剤または還元剤を適正当量比で投入する。このため、第1原料または第2原料をそれぞれ独立して浸出させる場合には、遷移金属の取得率を向上させるために酸化剤または還元剤が共に投入される。
【0054】
これに対して、第1原料と第2原料を混合して浸出させることにより、前記第1原料は前記第2原料の酸化剤としての役割を果たすことができ、前記第2原料は前記第1原料の還元剤としての役割を果たすことができる。これにより、酸化剤及び還元剤を投入しなくても、第1原料及び第2原料の遷移金属を二価イオンの形態にすることができる。これにより、ニッケル、コバルト及びマンガンの取得コストを軽減することができ、酸化剤および還元剤を使用しないため、環境に優しい方法でニッケル、コバルト及びマンガンを得ることができる。
【0055】
前記のニッケル、コバルト及びマンガンの浸出は、例えば60℃~100℃、または70℃~90℃で行うことができる。前記範囲内では、ニッケル、コバルト及びマンガンの浸出率を向上させることができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、ニッケル、コバルト及びマンガンが浸出された浸出液から、残余金属をさらに分離及び除去することができる(例えば、S30工程)。例えば、前記浸出液には、鉄、アルミニウム、銅、亜鉛などの残余金属が含まれていることがある。この場合、前記浸出液に含まれている残余金属をさらに分離及び除去することができる。
【0057】
一実施形態では、浸出液に含まれている残余金属は、液液分離によって少なくとも部分的に除去することができる。
【0058】
例えば、前記液液分離は、混合沈降または遠心抽出によって行うことができる。前記液液分離によって、前記浸出液から残余金属の量を低減または除去することができる。
【0059】
例示的な実施形態によれば、前記浸出液からニッケル、コバルト及びマンガンを得ることができる(例えば、S40工程)。
【0060】
いくつかの実施形態では、ニッケル、コバルト及びマンガンは、それぞれ硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンの形態で抽出して得ることができる。例えば、硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンは、それぞれ硫酸ニッケル水和物(例えば、NiSO4・6H2O)、硫酸コバルト水和物(例えば、CoSO4・7H2O)、および硫酸マンガン水和物(例えば、MnSO4・H2O)の形態で抽出して得ることができる。
【0061】
一実施形態では、前記浸出液にリン酸系抽出剤またはカルボン酸系抽出剤を投入して、コバルト及びマンガンをそれぞれ硫酸コバルトおよび硫酸マンガンの形態で抽出することができる。
【0062】
例えば、前記浸出液にリン酸系抽出剤またはカルボン酸系抽出剤を用いてコバルトを抽出することができる。例えば、前記抽出剤は、アルカリ化合物と共に添加して、浸出液から硫酸コバルトを抽出することができる。抽出された硫酸コバルトは、液液分離によって硫酸コバルト水溶液に分離することができる(例えば、S43-1工程)。
【0063】
前記液液分離は、混合沈降または遠心抽出によって行うことができる。前記硫酸コバルト水溶液は、真空蒸発、遠心脱水、乾燥などによって硫酸コバルト水和物として得ることができる。
【0064】
例えば、前記浸出液にリン酸系抽出剤またはカルボン酸系抽出剤を用いてマンガンを抽出することができる。例えば、前記抽出剤は、アルカリ化合物と共に添加して、前記浸出液から硫酸マンガンを抽出することができる。抽出された硫酸マンガンは、液液分離によって硫酸マンガン水溶液に分離することができる(例えば、S43-1工程)。
【0065】
前記液液分離は、混合沈降または遠心抽出によって行うことができる。前記硫酸マンガン水溶液は、真空蒸発、遠心脱水、乾燥などによって硫酸マンガン水和物として得ることができる。
【0066】
いくつかの実施形態では、前記浸出液からニッケルを抽出することができる。一実施形態では、浸出液に含まれているコバルト及びマンガンを抽出した後、残留浸出液からニッケルを抽出することができる。例えば、前記浸出液からコバルト及びマンガンが抽出された後の残液はニッケル水溶液であり得る。
【0067】
いくつかの実施形態では、前記ニッケル水溶液を濃縮及び/又は結晶化する工程によって硫酸ニッケル水和物を得ることができる(例えば、S45-1工程)。
【0068】
例えば、前記ニッケル水溶液の水を部分的に蒸発させて濃縮した後、冷却して、前記ニッケル水溶液の硫酸ニッケルを硫酸ニッケル水和物の形態で結晶化して沈殿し得る。沈殿した硫酸ニッケル水和物は固液分離によって分離することができる。前記固液分離は、フィルタープレスまたは遠心分離機を用いて行うことができる。
【0069】
一実施形態では、前記ニッケル水溶液には、ナトリウムなどの残余金属が含まれていることがある。前記残余金属を残存させながら硫酸ニッケル水和物を固液分離して、前記残余金属を分離することができる。
【0070】
前記固液分離により、前記浸出液から結晶化した硫酸ニッケル水和物を得ることができる。
【0071】
図3は、比較例による遷移金属の回収方法を説明するための概略的なフローチャートである。
図3を参照して後述する比較例は、
図1の工程の効果をより詳細に説明するために提供されるものであり、本発明の範囲から除外することを意図するものではない。例えば、
図3に含まれるステップ/工程は、本発明の例示的な実施形態にも含まれ得る。
【0072】
図3を参照すると、ニッケル含有MHPおよび正極活物質から遷移金属をそれぞれ浸出することができる。
【0073】
前記ニッケル含有MHPから、ニッケルに選択的な抽出選択性を有する酸化剤を用いてニッケルを浸出させることができる。前記酸化剤は金属ペルスルフェートを含むことができる。例えば、前記酸化剤はナトリウムペルスルフェート(Na2S2O8)を含むことができる。前記酸化剤と共に硫酸溶液が前記ニッケル含有MHPに供給され、ニッケルを選択的に浸出することができる。
【0074】
前記ニッケル含有MHPからニッケルが選択的に浸出した後の残渣を浸出させることができる。前記残渣は、硫酸および酸化剤によって遷移金属(例えば、ニッケル、コバルト、マンガンなど)が酸化された形態で存在することができる。
【0075】
前記残渣に還元剤を投入して第1浸出液を得ることができる。例えば、前記還元剤は過酸化水素(H2O2)を含むことができる。前記還元剤と共に硫酸溶液を前記残渣に供給して、ニッケル、コバルト及びマンガンをそれぞれ硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンの形態で浸出することができる。前述の方法により、第1浸出液を得ることができる。
【0076】
前記正極活物質は、リチウム二次電池から回収された正極を粉砕して収集された正極活物質であってもよい。前記正極は、例えば、使用済みの廃リチウム二次電池、または製造過程で損傷または不良が発生した正極であってもよい。
【0077】
前記正極活物質は、ニッケル、コバルト及びマンガンを含むNCM系リチウム酸化物であってもよい。前記正極活物質には、ニッケル、コバルト及びマンガンが含まれていてもよく、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、銅、アルミニウムなどがさらに含まれていてもよい。
【0078】
前記正極活物質からリチウム(Li)をリチウム酸化物の形態で除去することができる。例えば、前記正極活物質を不活性気体雰囲気中で炭素系物質と反応させ、リチウム酸化物および還元された遷移金属を得ることができる。
【0079】
前記還元された遷移金属に酸化剤を投入して、第2浸出液を得ることができる。例えば、前記酸化剤は、過酸化水素(H2O2)を含むことができる。前記酸化剤と共に硫酸溶液を前記還元された遷移金属に供給して、ニッケル、コバルト及びマンガンをそれぞれ硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンの形態で浸出することができる。前述の方法により、第2浸出液を得ることができる。
【0080】
前記第1浸出液と前記第2浸出液とを混合して、混合浸出液を形成することができる。前記混合浸出液は、硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンを含むことができる。前記混合浸出液は、残余金属をさらに含むことができる。
【0081】
前記混合浸出液に含まれている残余金属は、液液分離によって少なくとも部分的に除去することができる。前記液液分離は、混合沈降または遠心抽出によって行うことができる。前記液液分離により、前記第1浸出液から残余金属の量が低減または除去された混合浸出液を得ることができる。
【0082】
前記混合浸出液に抽出剤を投入して、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンを抽出することができる。例えば、前記抽出剤はリン酸系抽出剤を含むことができる。
【0083】
前記混合浸出液から硫酸コバルトおよび硫酸マンガンを抽出した残留混合浸出液からニッケルを抽出することができる。例えば、前記残留混合浸出液に抽出剤を投入して硫酸ニッケルを抽出することができる。例えば、前記抽出剤は、リン酸系抽出剤を含むことができる。
【0084】
硫酸コバルトおよび硫酸マンガンが抽出された残留混合浸出液から抽出した硫酸ニッケルを部分的に濃縮および結晶化し、硫酸ニッケルを硫酸ニッケル水和物の形態で得ることができる。
【0085】
前述のように、比較例によれば、ニッケル含有MHPおよび正極活物質から遷移金属を浸出するために、それぞれ還元剤および酸化剤が使用される。また、ニッケル含有MHP及び正極活物質から遷移金属を浸出する工程を別々に行うので、浸出工程が両分化される。これにより、工程コストが上昇し、また廃還元剤および廃酸化剤によって環境汚染が発生する可能性がある。
【0086】
これに対して、
図1及び
図2を参照して説明した例示的な実施形態によれば、浸出工程は、ニッケル含有MHPおよび正極活物質から遷移金属を浸出する工程を単一化することができる。さらに、浸出工程において別の還元剤および酸化剤を使用しなくてもよい。これにより、工程コストを低減することができ、また廃還元剤および廃酸化剤が発生しないため、環境にやさしい浸出工程を行うことができる。
【0087】
以下、本発明の理解を助けるために具体的な実施例を提示するが、これらの実施例は本発明を例示するものに過ぎず、添付の特許請求の範囲を制限するものではない。これらの実施例に対し、本発明の範疇および技術思想の範囲内で種々の変更および修正を加えることが可能であることは当業者にとって明らかであり、これらの変形および修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然のことである。
【0088】
実施例及び比較例
実施例1
ニッケル含有MHPからニッケルを選択的に浸出した後、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む残渣を第1原料として準備した。廃正極を粉砕および還元し、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む正極活物質を第2原料として準備した。前記第1原料と第2原料とを混合した後、1M硫酸溶液を投入し、80℃の条件で2時間浸出させて、ニッケル、コバルト及びマンガンが浸出された浸出液を得た。
【0089】
前記第1原料中の金属濃度を下記表1に示す。
【0090】
前記第2原料中の金属濃度を下記表2に示す。
【0091】
前記第1原料、第2原料及び硫酸溶液の量、および硫酸マージンを下記表3に示す。
【0092】
実施例2~実施例4
第1原料、第2原料及び硫酸溶液の量、および硫酸マージンを下記表3に示すように調整した以外は、実施例1と同様にして実施例2~実施例4の浸出液を得た。
【0093】
比較例1
ニッケル含有MHPからニッケルを選択的に浸出した後、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む残渣を第1原料として準備した。前記第1原料に2M硫酸溶液を投入し、80℃の条件で2時間浸出して浸出液を得た。
【0094】
前記第1原料中の金属濃度を下記表1に示す。
【0095】
前記第1原料及び硫酸溶液の量、および硫酸マージンを下記表3に示す。
【0096】
比較例2
前記第1原料に1M硫酸と共に35重量%の過酸化水素を5.48g投入し、硫酸溶液の量及び硫酸マージンを下記表3に示すように調整した以外は、比較例1と同様にして比較例2の浸出液を得た。
【0097】
比較例3
廃正極を粉砕および還元し、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む正極活物質を第2原料として準備した。前記第2原料に2M硫酸溶液を投入し、80℃の条件で2時間浸出して浸出液を得た。
【0098】
前記第2原料中の金属濃度を下記表2に示す。
【0099】
前記第2原料及び硫酸溶液の量、および硫酸マージンを下記表3に示す。
【0100】
比較例4
前記第2原料に2M硫酸と共に35重量%の過酸化水素を7.62g投入し、硫酸溶液の量及び硫酸マージンを下記表3に示すように調整した以外は、比較例3と同様にして比較例4の浸出液を得た。
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
実験例1
(1)浸出液中のニッケル、コバルト及びマンガン浸出率およびpHの測定
第1原料および第2原料中のニッケル、コバルト及びマンガンの重量に対する浸出液中のニッケル、コバルト及びマンガンの重量を金属ごとに重量%で算出して浸出率を測定した。
【0105】
また、pHメーターを用いて浸出液中のpHを測定した。
【0106】
測定結果を下記表4に示す。
【0107】
【0108】
表4を参照すると、酸化された遷移金属を含む第1原料と、還元された遷移金属を含む第2原料とを混合した後にニッケル、コバルト及びマンガンを浸出した実施例では、酸化剤および還元剤を使用しなくてもニッケル浸出率が85wt%以上、コバルト浸出率が83%以上、マンガン浸出率が77%以上であった。
【0109】
第1原料および第2原料の全重量に対する硫酸溶液の重量の比が5.95~6.5である実施例2では、ニッケル、コバルト及びマンガンの浸出率がいずれも増加した。
【0110】
第1原料および第2原料の全重量に対する硫酸溶液の重量の比が4未満である実施例4では、ニッケルおよびコバルトの浸出率は増加したが、マンガン浸出率は減少した。
【0111】
第1原料と第2原料を混合せず還元剤なしで浸出した比較例1では、ニッケル及びコバルトの浸出率が減少し、マンガンは浸出されなかった。
【0112】
第1原料と第2原料を混合しなかったが、還元剤を投入した比較例2では、ニッケル及びコバルトの浸出率は増加したが、マンガンの浸出率は減少した。
【0113】
第1原料と第2原料を混合せず酸化剤なしで浸出した比較例3では、ニッケル、コバルト及びマンガンの浸出率が減少した。