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特開2024-100716堆肥および酸素供給剤を用いる農園芸用植物の成長促進剤および成長促進方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100716
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】堆肥および酸素供給剤を用いる農園芸用植物の成長促進剤および成長促進方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20240719BHJP
   C05F 3/00 20060101ALI20240719BHJP
   C05F 11/00 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
A01G7/00 604Z
C05F3/00
C05F11/00
A01G7/00 602D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024001641
(22)【出願日】2024-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2023004749
(32)【優先日】2023-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(71)【出願人】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中野 明正
(72)【発明者】
【氏名】千葉 奈菜
(72)【発明者】
【氏名】大前 薫
【テーマコード(参考)】
4H061
【Fターム(参考)】
4H061AA01
4H061BB02
4H061CC01
4H061CC03
4H061CC04
4H061CC15
4H061CC18
4H061CC19
4H061CC31
4H061CC36
4H061CC47
4H061DD11
4H061EE14
4H061EE70
4H061FF14
4H061KK07
4H061KK09
4H061LL07
4H061LL15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】過酸化カルシウムなどの過酸化物からなる酸素供給剤と、堆肥を組み合わせて農園芸用植物に用いることによって、化学肥料を使用しない、かつ、有機肥料の効果を高めることのできる農園芸用植物用の成長促進剤を提供すること。
【解決手段】堆肥および酸素供給剤2を用いる農園芸用植物の成長促進剤であって、前記酸素供給剤2が、カルシウムまたはマグネシウムの過酸化物(A)を含み、かつ、カルシウムまたはマグネシウムの水酸化物(B)または炭酸塩(C)のうち、少なくとも1種以上を含有する混合物からなる酸素供給剤2であり、堆肥を含む土(または培地)の層の底部に酸素供給剤2を層状に配置することを特徴とする、農園芸用植物の成長促進剤。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
堆肥および酸素供給剤を用いる農園芸用植物の成長促進剤であって、
前記酸素供給剤が、カルシウムまたはマグネシウムの過酸化物(A)を含み、かつ、
カルシウムまたはマグネシウムの水酸化物(B)または炭酸塩(C)のうち、少なくとも1種以上を含有する混合物からなる酸素供給剤であり、
堆肥を含む土(または培地)の層の底部に酸素供給剤を層状に配置することを特徴とする、
農園芸用植物の成長促進剤。
【請求項2】
前記酸素供給剤を含む層が、堆肥を含まない土(または培地)と混合することを特徴とする、請求項1に記載の農園芸用植物の成長促進剤。
【請求項3】
前記酸素供給剤を含む層が、厚さ1mm~500mmの層状である、請求項1に記載の農園芸用植物の成長促進剤。
【請求項4】
前記酸素供給剤を含む層が、板状の固形物、袋詰めした形態、担体との混合物、であることを特徴とする請求項3に記載の農園芸用植物の成長促進剤。
【請求項5】
前記酸素供給剤が、粉末状、または、粒径が1mm~10mmの粒状もしくは顆粒状である、請求項1に記載の農園芸用植物の成長促進剤。
【請求項6】
前記堆肥が動植物性堆肥である、請求項1に記載の農園芸用植物の成長促進剤。
【請求項7】
前記堆肥が牛糞、豚糞、鶏糞または馬糞のいずれか1種またはこれらのうち任意の2種以上の混合物の動物性堆肥である、請求項6に記載の農園芸用植物の成長促進剤。
【請求項8】
堆肥および酸素供給剤を用いる農園芸用植物の成長促進方法であって、
前記酸素供給剤が、カルシウムまたはマグネシウムの過酸化物(A)を含み、かつ、
カルシウムまたはマグネシウムの水酸化物(B)または炭酸塩(C)のうち、少なくとも1種以上を含有する混合物からなる酸素供給剤であり、
堆肥を含む土(または培地)の層の底部に酸素供給剤を層状に配置することを特徴とする、
農園芸用植物の成長促進方法。
【請求項9】
前記酸素供給剤を、栽培容器の底に層状に置き、その上に堆肥または堆肥と土(もしくは培地)の混合物を配置することを特徴とする、請求項8に記載の農園芸用植物の成長促進方法。
【請求項10】
前記酸素供給剤を、耕起時に前記土に混ぜて、土と酸素供給剤の混合層を作り、その上に堆肥を施肥し、土または堆肥と土の混合層を覆土することを特徴とする、請求項8に記載の農園芸用植物の成長促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堆肥および酸素供給剤を用いる農園芸用植物の成長促進剤および成長促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境負荷の少ない持続可能な農業を目指すため、従来の化学肥料に代わり、堆肥などの有機肥料を用いる有機農業の重要性が高まっている。しかしながら、有機農業が普及しない問題として、生育中の肥料の効果が不十分であるとの問題がある。
【0003】
一方、過酸化カルシウム(CaO)または過酸化マグネシウム(MgO)などのアルカリ土類金属の過酸化物は、水と反応し加水分解することにより酸素を放出する性質から、酸素供給剤として市販されており、農業用途、土壌浄化または水質改善など幅広い分野で応用・開発されている(特許文献1~5など)。しかしながらこれらの過酸化物は、化学物質であるという消極的な観点から、広く有機栽培農家に普及しているとはいえないのが現状である。また、従来の酸素供給剤は、カルシウムおよびマグネシウムを主剤とするため、培地のアルカリ化が進み、それが植物の生育の阻害要因になることも考えられている。
【0004】
たとえば特許文献1は、イネの育苗時における苗立ちを促進するものであり、保水材などを床土として用い、過酸化カルシウムを混和すること、また、その中に、過酸化カルシウムを籾重量の2~3割と大量に付着させて生育させる育苗方法が記載されている。この方法は、初期の酸素不足を解消する効果を目的としたものであり、生育中の肥料を添加した状態の改善方法については評価がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63-3731号公報
【特許文献2】特開昭61-166304号公報
【特許文献3】特開平5-319805号公報
【特許文献4】特開2017-222566号公報
【特許文献5】特開平4-11825号公報
【特許文献6】特開2021-155303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、過酸化カルシウムなどの過酸化物からなる酸素供給剤と、堆肥を組み合わせて農園芸用植物に用いることによって、化学肥料を使用しない、かつ、有機肥料の効果を高めることのできる農園芸用植物の成長促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題の解決を目的に検討して得られたものであり、以下を要旨とする。
【0008】
[1]堆肥および酸素供給剤を用いる農園芸用植物の成長促進剤であって、
前記酸素供給剤が、カルシウムまたはマグネシウムの過酸化物(A)を含み、かつ、
カルシウムまたはマグネシウムの水酸化物(B)または炭酸塩(C)のうち、少なくとも1種以上を含有する混合物からなる酸素供給剤であり、
堆肥を含む土(または培地)の層の底部に酸素供給剤を層状に配置することを特徴とする、
農園芸用植物の成長促進剤。
【0009】
[2]前記酸素供給剤を含む層が、堆肥を含まない土(または培地)と混合することを特徴とする、[1]に記載の農園芸用植物の成長促進剤。
【0010】
[3]前記酸素供給剤を含む層が、厚さ1mm~500mmの層状である、[1]に記載の農園芸用植物の成長促進剤。
【0011】
[4]前記酸素供給剤を含む層が、板状の固形物、袋詰めした形態、担体との混合物、であることを特徴とする[3]に記載の農園芸用植物の成長促進剤。
【0012】
[5]前記酸素供給剤が、粉末状、または粒径が1mm~10mmの粒状もしくは顆粒状である、[1]に記載の農園芸用植物の成長促進剤。
【0013】
[6]前記堆肥が動植物性堆肥である、[1]に記載の農園芸用植物の成長促進剤。
【0014】
[7]前記堆肥が牛糞、豚糞、鶏糞または馬糞のいずれか1種またはこれらのうち任意の2種以上の混合物の動物性堆肥である、[6]に記載の農園芸用植物の成長促進剤。
【0015】
[8]堆肥および酸素供給剤を用いる農園芸用植物の成長促進方法であって、
前記酸素供給剤が、カルシウムまたはマグネシウムの過酸化物(A)を含み、かつ、
カルシウムまたはマグネシウムの水酸化物(B)または炭酸塩(C)のうち、少なくとも1種以上を含有する混合物からなる酸素供給剤であり、
堆肥を含む土(または培地)の層の底部に酸素供給剤を層状に配置することを特徴とする、
農園芸用植物の成長促進方法。
【0016】
[9]前記酸素供給剤を、栽培容器の底に層状に置き、その上に堆肥または堆肥と土(または培地)の混合物を配置することを特徴とする、[8]に記載の農園芸用植物の成長促進方法。
【0017】
[10]前記酸素供給剤を、耕起時に前記土に混ぜて、土と酸素供給剤の混合層を作り、その上に堆肥を施肥し、土または堆肥と土の混合層を覆土することを特徴とする、[8]に記載の農園芸用植物の成長促進方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の農園芸用植物用の成長促進剤は、堆肥と過酸化カルシウムなどの過酸化物からなる酸素供給剤とを組み合わせて農園芸用植物に用いることによって、化学肥料を使用せず、有機肥料の効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る農園芸用植物の成長促進剤および成長促進方法の説明図の具体例(1)である。
図2】本発明に係る農園芸用植物の成長促進剤および成長促進方法の説明図の具体例(2)である。
図3】本発明に係る農園芸用植物の成長促進剤および成長促進方法の説明図の具体例(3)である。
図4】本発明に係る農園芸用植物の成長促進剤および成長促進方法の説明図の具体例であり、作物の種子または種子から発芽した苗を定植した直後の様子の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されず、本発明の範囲の様々な形態で実施することができる。
【0021】
本発明の農園芸用植物の成長促進剤は、酸素供給剤および堆肥を用いる農園芸用植物の成長促進剤である。本発明の「酸素供給剤」は、具体的に、過酸化カルシウム(CaO)、過酸化マグネシウム(MgO)などのアルカリ土類金属の過酸化物があげられる。また、これらのアルカリ土類金属の過酸化物(A)と、アルカリ土類金属の水酸化物(B)、または、アルカリ土類金属の炭酸塩(C)のうち、少なくとも1種以上を含有する混合物である。
【0022】
アルカリ土類金属の過酸化物(A)としては、過酸化カルシウム(CaO)、過酸化マグネシウム(MgO)があげられる。
【0023】
アルカリ土類金属の水酸化物(B)としては、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化マグネシウム(Mg(OH))があげられる。
【0024】
アルカリ土類金属の炭酸塩(C)としては、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸マグネシウム(MgCO)があげられる。
【0025】
前期のアルカリ土類金属の過酸化物(A)、水酸化物(B)もしくは炭酸塩(C)、または、これらの混合物は、市販のものを用いてもよく、公知の製造方法で製造したものを用いてもよい。
【0026】
過酸化カルシウム(CaO)を含有する製品の製造方法としては、例えば、水酸化カルシウム(Ca(OH))と過酸化水素(H)水溶液を混合し反応させて、スラリー状に調製し、脱水し、過酸化カルシウムを調製し、その後、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムを適当に添加してもよい。そして、造粒、乾燥、粉砕などの工程を経て、過酸化カルシウム(A)、水酸化カルシウム(B)、炭酸カルシウム(C)を少なくとも1種以上含有する混合物(組成物)からなる酸素供給剤を得ることができる。製造過程で、硫酸塩の水和物などの添加剤を添加してもよい。
【0027】
過酸化マグネシウム(MgO)を含有する製品の製造方法としては、過酸化Caと同様の方法で製造することができる。例えば、主に水酸化マグネシウム(Mg(OH))と過酸化水素(H)水溶液を混合して反応させて、過酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムを少なくとも1種以上含有する混合物(組成物)からなる酸素供給剤を得ることができる(例えば、特許文献6)。製造過程で、硫酸塩の水和物などの添加剤を添加してもよい。
【0028】
本発明の酸素供給剤には水が含まれていてもよく、水分の含有量は、酸素供給剤全体の0~20質量%であることが好ましい。本発明の酸素供給剤に使用する水は、特に限定されず、通常の水でよく、水道水、工業用水、脱イオン水(イオン交換水)、蒸留水などがあげられる。
【0029】
本発明の過酸化物または過酸化物を含有する酸素供給剤である組成物を用いて、本発明の成長促進剤を製造する装置としては、公知のものを使用できる。前記酸素供給剤は、粉末状、または、粒状もしくは顆粒状でもよく、粒状もしくは顆粒状の場合の粒径は1mm~10mmであることが好ましい。
【0030】
本発明の酸素供給剤は、公知の材料や造粒装置を用いて、適当な粒径に造粒し製造することができる。さらに、該組成物の粒子の表面を適当な物質で被覆することもできる。これらの材料の成分の濃度、または、混合時・造粒時の温度などの製造条件は、安全性や効果を考慮して、適宜調整することができる。
【0031】
本発明の酸素供給剤は、前記の成分以外に、土壌改良剤、化学肥料、農薬などその他の公知の農業用生産資材または担体と混合するなどして組み合わせて使用することができる。具体的には、以下のものがあげられ、土壌改良剤としては、泥炭、腐植酸質資材、木炭、もみ殻などの有機質資材;珪藻土;ゼオライト(沸石)、バーミキュライト、パーライト、ベントナイトなどの鉱物質資材;微生物資材;ポリエチレンイミン系資材もしくはポリビニルアルコール系資材などの合成高分子資材;生分解性プラスチックス;などがあげられる。これらは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの材料(資材)または担体を、酸素供給剤を被覆する材料として用いてもよい。
【0032】
本発明の酸素供給剤は、堆肥と組み合わせて用いる農園芸用植物の成長促進剤であって、具体的には、適当な耕起した土に堆肥(有機肥料)を混合してもよく、堆肥または堆肥を含む土(もしくは培地)の層の下部に酸素供給剤を配置する状態で使用することを特徴とする。したがって、本発明においては、堆肥と酸素供給剤は、混合体または複合体のいずれの形態を形成しておらず、堆肥(または堆肥を含む土(もしくは培地))の下部に酸素供給剤が分離して配置することを特徴とする(図1図3参照(各図右側)、1施肥層、10無施肥層、2酸素供給剤、2a酸素供給剤(袋入り)、3遮根シート、4ロックウール、5水槽、6植物体、6a地上部、6b地下部)。
【0033】
本発明の、堆肥および酸素供給剤を用いる農園芸用植物の成長促進方法において、該農園芸植物の種子または種子から発芽した苗は、堆肥を含む土の中または上部に撒種されて配置しており、その最初の時点では、種子または種子から生じる根は酸素供給剤とは接していない(図4参照)。しかしながら、作物が十分に成長して、根などの地下部の一部が酸素供給剤と接してもよい。
【0034】
本発明における土は、具体的には、赤玉土、黒ボク、ポドゾル、褐色森林土、灰色台地土、泥炭土、グライ土、灰色低地土、褐色低地土、などがあげられるが、これらに限定されない。
【0035】
「堆肥」とは一般的には、動物の糞や死骸、植物の残さや腐敗物などが、小動物、昆虫や微生物によって分解物によって得られた動植物性堆肥などを指すが、本発明における堆肥は、特に限定されず、牛糞、豚糞、鶏糞、馬糞などの畜糞堆肥(動物性堆肥);生ごみ、落葉、腐葉土、わら、バーク堆肥などの植物性堆肥;生ごみ堆肥;などの動植物性堆肥があげられる。これらの堆肥は、例えば動物性堆肥、植物性堆肥、もしくは生ごみ堆肥のうち、1種類でもよく、また、これらのうち、任意の2種以上の混合物であってもよい。
【0036】
一般的な堆肥は、例えば、牛糞、豚糞、鶏糞などの動物性堆肥の場合、家畜農家や畜産業者で大量に生じる糞を廃棄物とし処理せずに、一定期間発酵させたものや発酵前の状態で回収して入手することができる。また、市販されている牛糞堆肥、鶏糞堆肥などの動物性堆肥または植物性堆肥を用いてもよい。
【0037】
土に対する堆肥の比率は、畑に対しては、堆肥を1~20kg/mが好ましく、2~10kg/mがより好ましい。堆肥の種類によっては、適宜増減させてもよい。
【0038】
堆肥の性能を定量化する方法には、いくつかの方法があるが、例えば、堆肥中の有機物含有量、C/N比(堆肥中の炭素と窒素の割合)などで表される。本発明における好ましい堆肥の有機物含有量は60%以上が好ましい。C/N比は、堆肥の種類によって変動するため、特に限定されないが、牛糞、鶏糞など動物性堆肥の場合、15~25が好ましく、腐葉土、植物残さなどの植物性堆肥の場合、25~35が好ましい。
【0039】
土に対する酸素供給剤の比率は、畑に対しては、作付面積100cmあたりの比で、1~10g/100cmで土と混合するのが好ましく、2~5g/100cmがより好ましい。土中における、堆肥と酸素供給剤の比率(堆肥:酸素供給剤)は、20:0.5~ 20:5が好ましい。
【0040】
本発明の農園芸用植物の成長促進方法において、酸素供給剤を、栽培容器の底に層状に置き、その上に堆肥または堆肥と土(または培地)の混合物を配置することができる。栽培容器としては、市販品などでもよく、材質および形状が公知のものを使用できる。
【0041】
本発明の農園芸用植物の成長促進方法において、酸素供給剤を、耕起時に土に混ぜて、土と酸素供給剤の混合層を作り、その上に堆肥を施肥し、土または堆肥と土の混合層を覆土することができる。播種または苗の定植は、堆肥の層または堆肥と土の混合層の表層の部分に行いその上に覆土してもよく、また、堆肥と土を混合したもののみを使用して表層付近に播種または定植を行ってもよい。
【0042】
以下に、本発明の堆肥および酸素供給剤を用いる農園芸用植物の成長促進剤、および、該成長促進剤を用いる成長促進方法の形態の具体例を説明する。
<具体例(1)>
本発明の農園芸用植物の成長促進方法は、堆肥を含む土(または培地)の層の底部に酸素供給剤を層状に配置することを特徴とする方法である。図1に、土の下に、堆肥または堆肥を混合した土(1 施肥層)を配置し、さらにその下に酸素供給剤の層(2 酸素供給剤)を配置する例を示す(図1右)。土(1 施肥層)上に、堆肥等を含まない土(10 無施肥層)を配置する。
農園芸用植物の種子は、土(1 施肥層)もしくは土(10 無施肥層)のいずれかの内部、または、両者の中間に配置してもよい。具体的な方法の一例として、土(1施肥層)の配置の後、その表層付近に撒種し、種子の上部に土(10 無施肥層)を被せてよい(覆土)。堆肥または堆肥を含む土の層の厚さは、想定する作物の成長や地中部の大きさや形状に応じて適当に選択することができる。
【0043】
本発明の農園芸用植物の成長促進剤および成長促進方法において、前記の具体例(1)において具体的に示される、「2 酸素供給剤」を施用する層は、厚さ1mm~500mmの層状であることが好ましい。酸素供給剤の層の厚さは、ある程度均一であればよいが、厚さや粗密が不均一であっても効果は十分得られ、全体的に層状を形成していればよい。また、作物の形状(根、地下茎など)に応じて、厚さの分布の大小をつけてもよく、酸素供給剤の粗密を調整してもよい。厚さを均一にするために、酸素供給剤(の粉末、粒子、顆粒)を成型して板状の固形物にしてもよい。また、酸素供給剤を作物の成長を阻害しない適当な素材(合成樹脂製、生分解性プラスチック製、不織布など)の網袋(ネット)に入れて配置してもよい。
【0044】
前記の具体例(1)において、栽培容器(ポットなど)に土(1施肥層 および 10無施肥層)を配置して、その栽培容器の底に層状に酸素供給剤を配置してもよい。その場合、図1のように、水の供給方法として、ポットの下部に5水槽を配置してもよい(底面給液栽培)。水槽中には4ロックウールを配置することもできる。ポットと水槽の間に3遮根シートを配置してもよい。その他、一般的な作物の栽培に使用できる公知の道具、器具、素材を使用して、本発明の構成を含む形態を形成することができる。
【0045】
以上のような、図1(右)の構成を一例として、酸素供給剤のない場合(図1左)と比較して、酸素供給剤の配置により,6植物体が、6a地上部および6b地下部(1施肥層~10無施肥層)にわたって成長の促進が認められる(図1右)。一般的に、堆肥はアルカリ性であり、酸素供給剤もアルカリ性であるため、土のpHが上がり過ぎると作物の成長に影響するため、pHの上昇を抑えることが好ましい。過酸化物を堆肥(または堆肥と土の混合物)の下部で層状(シート状)に保つことにより、徐々に、堆肥付近に酸素が供給され(定植直後の図4参照)、堆肥付近に存在する微生物の活動が活発になり有機物の分解が促進され、肥料の効果が高まる。
【0046】
<具体例(2)>
本発明の農園芸用植物の成長促進方法において、前記具体例(1)において、10無施肥層が無く、1施肥層で置き換わっていてもよい(図2)。その他の点については、具体例(1)に記載の内容と同様である。
【0047】
<具体例(3)>
本発明の農園芸用植物の成長促進方法において、前記酸素供給剤は、耕起時に土(堆肥を含まない)に混ぜて、土と酸素供給剤の混合層を作り、その上に堆肥、堆肥と土の混合層を覆土し、さらに土を覆土することも可能である。具体的には、図3のように、実際の広い畑作地(1施肥層)などで、使用することができる。2酸素供給剤は、粉状(顆粒状)でそのまま土に埋めても(散布しても)よく、袋入りの状態(2a酸素供給剤)で埋めてもよい。
【0048】
本発明の農園芸用植物の成長促進剤は、野菜、果物または花き(花卉)の栽培に適しており、具体的には、トマト、ナス、ピーマン、パプリカ、キュウリ、カボチャ、メロン、スイカ、イチゴ、トウモロコシ、マメ科(ダイズ、インゲンマメなど)などの果菜類;レタス、ホウレンソウ、キャベツ、ハクサイ、ネギ、チンゲンサイ、コマツナなどの葉菜類;ダイコン、ニンジン、ゴボウ、サツマイモ、タマネギ、カブ、ジャガイモ、レンコン、ニンニクなどの根菜類;バラ、キク、ガーベラ、リンドウ、シュッコンカスミソウ、キキョウ、トルコギキョウ、カーネーション、サクラ、ヤシ、アルストロメリア、スターチス、アルメリア、ルリマツリ、ラン(洋ラン)、シクラメン、サボテン、ペゴニア、プリムラ、ユリ、チューリップ、フリージア、グラジオラス、パンジー、ペチュニア、マリーゴールド、サルビア、アジサイ、ニチニチソウ、ツツジなどの切り花類、切り葉類、切り枝類、鉢もの類、球根類、花壇用苗もの類、多肉植物類または観葉植物類など、があげられる。具体例(1)または(2)のように、根域が制限されても成長する作物であれば適用できる。
【実施例0049】
以下、本発明の実施の形態について、実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0050】
[実施例1]
<酸素供給剤>
酸素供給剤は、市販の過酸化カルシウム(保土谷化学工業株式会社製、製品名:ネオカルオキソ)(有効な酸素供給剤成分である過酸化カルシウム(CaO)含有量が20~30質量%である混合物)を使用した。
【0051】
栽培の実験は、千葉大学柏の葉キャンパス内(千葉県柏市)の太陽光型植物工場で以下のように実施した。作物としてレタスを選択し、供試品種としてフリルアイス(登録商標、雪印種苗株式会社)を選択した。2022年3月21日に、2cm×2cm×高さ1.5cmのロックウールキューブ(Grodan社製キューブ状ロックウール)に播種した。
次に、同年3月28日に、赤玉土に化学肥料(セントラルグリーン株式会社製、野菜専用肥料、商品名「CG硝酸化成15-15-15」、窒素含有量=15質量%)または有機質肥料(株式会社東商製、製品名「発酵牛ふん」、堆肥、原料:おがこ、牛糞、樹皮、含有量:窒素1.5%、リン酸2.1%、加里2.8%、炭素窒素比(C/N比)23、有機物72%)を所定量(下記に具体的な詳細)添加したものを用意し、ポット(直径8cm×深さ約10cm)の中に、図1のように、赤玉土の層(図1の「1施肥層」)(厚さ約5cm)の下部に層状に酸素供給剤を配置した。1施肥層の上に前記のフリルアイスを播種したロックウールキューブを置き、さらにその上に赤玉土を覆土した(定植、3月29日)。以下に詳細を示す。
【0052】
化学肥料を使用した区を化学肥料区(比較例1)として、堆肥(牛糞)を使用した区を堆肥区(実施例1)とした。
【0053】
<化学肥料区>(比較例1)
具体的には、1施肥層の120mLの赤玉土に対して、化学肥料を施肥量が窒素含有量300mg/株となるように添加した(実際には1株あたり、前記15質量%窒素含有化学肥料(CG硝酸化成15-15-15)2gを赤玉土120mLに添加した)。前記ポット内にて、このように施肥した赤玉土を下層部(図1の1施肥層)(厚さ約5cm)とし、その上に前記レタス(フリルアイス)を播種したロックウールキューブを置き、その上に赤玉土120mLを覆土した(図1の10無施肥層)(厚さ約5cm)。これを化学肥料区とした。
【0054】
<堆肥区>(実施例1)
堆肥区の施肥量は、化学肥料区における窒素含有量と合わせた。具体的には、前記の牛糞堆肥中の窒素含有量に基づき、赤玉土に相当量の肥料を混合し、化学肥料区と同様の方法で、図1の1施肥層を作り、その上に前記のフリルアイスを播種したロックウールキューブを置き、赤玉土を覆土した。これを牛糞用の堆肥区とした。
【0055】
前記の堆肥区に対して、酸素供給剤を置床しない区(対照区)、酸素供給剤1gを不織布シート(縦3cm×横3cm×厚さ約1mm)で囲みポット底面(中央部)に置床する区、同様に酸素供給剤2gを不織布シート(縦3cm×横3cm場×厚さ約2mm)で囲みポット底面(中央部)に置床する区を設けた。
【0056】
定植から50日後の5月18日を栽培期間終了とし収穫し、それぞれの区すべてのレタスの新鮮重を評価した。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1より、堆肥(牛糞)に酸素供給剤を使用した区では、酸素供給剤を使用しない区と比較して地上部新鮮重が増加し、かつ、化学肥料区と同等もしくは優れた肥料効果が認められた。
【0059】
[実施例2]
実施例1の堆肥(牛糞)の代わりに、堆肥(鶏糞)に本発明の酸素供給剤を使用して同様に試験した。実施例1と同様に化学肥料を使用した区を化学肥料区(比較例)と比較した。以下に試験方法を説明する。
有機質肥料(鶏糞)は、有限会社星野農産製(製品名「発酵ペレット鶏ふん」、原料:鶏糞、含有量:窒素4.4%、リン酸3.3%、加里2.7%、炭素窒素比(C/N比)7)のものを使用した。この鶏糞を所定量(下記に具体的な詳細)添加したものを用意し、ポット(直径8cm×深さ約10cm)の中に、図1のように、赤玉土の層(図1の「1施肥層」)(厚さ約5cm)の下部に層状に酸素供給剤を配置した。1施肥層の上に前記のフリルアイスを播種したロックウールキューブを置き、さらにその上に赤玉土を覆土した(定植、2023年10月29日)。以下に詳細を示す。
【0060】
<化学肥料区>(比較例2)
240mLの赤玉土に対して、化学肥料を施肥量が窒素含有量300mg/株となるように添加した(実際には1株あたり、前記15質量%窒素含有化学肥料(CG硝酸化成15-15-15)2gを赤玉土240mLに添加した)。その上に前記レタス(フリルアイス)を播種したロックウールキューブを定植した。これを化学肥料区とした。
【0061】
<堆肥区>(実施例2)
堆肥区の施肥量は、化学肥料区における窒素含有量と合わせた。具体的には、前記の鶏糞堆肥中の窒素含有量に基づき、赤玉土に相当量の肥料を混合し、化学肥料区と同様の方法で、図1の1施肥層を作り、その上に前記のフリルアイスを播種したロックウールキューブを置き、赤玉土を覆土した。これを鶏糞用の堆肥区とした。
【0062】
前記の堆肥区に対して、酸素供給剤を置床しない区(対照区)、酸素供給剤2gを不織布シート(縦3cm×横3cm×厚さ約2mm)で囲みポット底面(中央部)に置床する区を設けた。
【0063】
2023年10月20日播種、10月29日定植から50日後の12月18日、栽培期間終了とし収穫し、それぞれの区すべてのレタスの新鮮重を評価した。結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
表2より、鶏糞区(実施例2)はいずれも化学肥料区(比較例2)よりは劣っているものの、酸素供給剤を使用しない区と比較して地上部新鮮重が増加していることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の農園芸用植物の成長促進剤は、野菜、果物または花き(花卉)などの作物に有機質肥料を施用する場合において、その肥料効果を高めるという優位性がある。また、本発明の農園芸用植物の成長促進方法は、堆肥(牛糞、鶏糞など)などの有機質肥料の層の下部に酸素供給剤を施用することにより効果を示し、ポットなどの区切られた土にも、広い畑にも同様に応用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 施肥層
10 無施肥層
2 酸素供給剤
2a 酸素供給剤(袋入り)
3 遮根シート
4 ロックウール
5 水槽
6 植物体
6a 地上部
6b 地下部
図1
図2
図3
図4