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特開2024-100728‐シクロペンチル‐7‐オキソ‐2‐(4‐ピペラジン‐1‐イル‐フェニルアミノ)‐7,8‐ジヒドロ‐ピリド[2,3‐D]ピリミジン‐6‐カルボニトリル及び同化合物の増殖性障害の治療における使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010072
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】8‐シクロペンチル‐7‐オキソ‐2‐(4‐ピペラジン‐1‐イル‐フェニルアミノ)‐7,8‐ジヒドロ‐ピリド[2,3‐D]ピリミジン‐6‐カルボニトリル及び同化合物の増殖性障害の治療における使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20240116BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240116BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20240116BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P35/00
A61P1/18
A61P15/00
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023182194
(22)【出願日】2023-10-24
(62)【分割の表示】P 2021525731の分割
【原出願日】2018-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】503310512
【氏名又は名称】オンコノバ セラピューティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】マニアー,マノイ
(72)【発明者】
【氏名】レン,チェン
(72)【発明者】
【氏名】マリレッディガリ,ムラリダール
(57)【要約】      (修正有)
【課題】膵臓のがん、卵巣のがん、又は子宮内膜癌を治療するための医薬組成物を提供する。
【解決手段】有効量の式Iの化合物又はその薬学的に許容可能な塩、及び、1以上の薬学的に許容可能な添加剤を含む、医薬組成物を提供する。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】
の化合物及びその薬学的に許容可能な塩。
【請求項2】
式I
【化2】
の化合物及びその薬学的に許容可能な塩、並びに1以上の薬学的に許容可能な添加剤を含む、医薬組成物。
【請求項3】
異常な細胞増殖によってもたらされる状態を治療する方法であって、有効量の請求項1に記載の化合物及びその薬学的に許容可能な塩を、投与を必要とする対象者に投与することを含む方法。
【請求項4】
前記状態はがんであり、前記対象者はヒトである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記がんは、卵巣がん、子宮頸がん、子宮がん、膣がん、乳がん、前立腺がん、睾丸がん、肺がん、腎臓がん、結腸直腸がん、胃がん、副腎がん、口腔がん、食道がん、肝臓がん、胆嚢がん、骨がん、白血病、リンパ腺がん、眼がん、皮膚がん、及び脳腫瘍から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
がんは、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、及び慢性リンパ性白血病から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記がんはリンパ腫である、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記リンパ腫はB細胞非ホジキンリンパ腫である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記リンパ腫はマントル細胞リンパ腫である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記対象者はヒトであり、細胞増殖性障害は、新生児血管腫症、二次性進行性多発性硬化症、アテローム性動脈硬化、慢性進行性骨髄変性疾患、神経線維腫症、神経節神経腫症、ケロイド形成、骨パジェット病、乳房線維嚢胞病、子宮筋腫、ペイロニー病、デュピュイトラン病、再狭窄症、良性増殖性乳房疾患、良性前立腺過形成、X連鎖リンパ球増殖性障害、移植後リンパ球増殖性障害、黄斑変性症、網膜症、増殖性硝子体網膜症、及び非がん性リンパ球増殖性障害からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
哺乳動物においてキナーゼ活性を阻害する方法であって、治療上有効な量の請求項1に記載の化合物、又はその薬学的に許容可能な塩を、そのような治療を必要とする患者に投与することを含む方法。
【請求項12】
前記患者は、乳がん、多発性骨髄腫、B細胞リンパ腫、前立腺がん、又は子宮頸がんに罹患しているヒトである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
がんに侵された個体においてがん細胞のアポトーシスを誘導する方法であって、有効量の請求項1に記載の化合物、又はその塩を、個体に投与することを含む方法。
【請求項14】
前記個体は、乳がん、多発性骨髄腫、B細胞リンパ腫、前立腺がん、及び子宮頸がんから選択されたがんに侵されたヒトである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記がんは、乳がん、多発性骨髄腫、B細胞リンパ腫、前立腺がん、及び子宮頸がんから選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項16】
前記がんは乳がんである、請求項5に記載の方法。
【請求項17】
がんは、ホルモン受容体陽性であり、ヒト上皮成長因子受容体2陰性の進行性又は転移性の乳がんである、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん及びその他の細胞増殖性障害の治療のための、化合物及び薬学的に許容可能な塩、医薬組成物、これらの調製方法、並びにこれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
がんのような細胞増殖性障害は先進国で最も一般的な死因の一つである。がんのような治療法が存在する疾患については、既存の治療法は、絶えず進歩しているにもかかわらず望ましからぬ副作用があり効力は限定的である。腫瘍細胞が既存の治療法に対して耐性になることも多い。よって、がんを含む細胞増殖性障害のための新しい有効な薬物が必要とされている。
【0003】
サイクリン依存性キナーゼ(Cdk)はそのパートナーであるサイクリンとともに、細胞増殖の調節因子として働くホロ酵素群である。パルボシクリブのような選択的Cdk4阻害剤は抗増殖活性を有することが認められており、またパルボシクリブはいくつかの種類の乳がんの治療について承認されている。しかしながら、パルボシクリブを服用している患者では、好中球減少症及び耐性を含む副作用の出現率が高い。ARK5(AMPK関連プロテインキナーゼ5)は細胞増殖調節に関連した別のキナーゼであり、このキナーゼの過剰発現は多くの種類のがんにおいて、特に多発性骨髄腫において、腫瘍の浸潤及び転移に関連している。
【0004】
本発明は、少なくとも部分的には、8‐シクロペンチル‐7‐オキソ‐2‐(4‐ピペラジン‐1‐イル‐フェニルアミノ)‐7,8‐ジヒドロ‐ピリド[2,3‐d]ピリミジン‐6‐カルボニトリル(ON1232580)が多重特異性プロテインキナーゼ阻害剤として驚くほど高度な能力を有していたという発見に基づいている。加えて、さらに驚くべきことに8‐シクロペンチル‐7‐オキソ‐2‐(4‐ピペラジン‐1‐イル‐フェニルアミノ)‐7,8‐ジヒドロ‐ピリド[2,3‐d]ピリミジン‐6‐カルボニトリルは、広範囲の種類のがん細胞についての、特にB細胞非ホジキンリンパ腫、前立腺がん、子宮頸がん、及び慢性骨髄性白血病(CML)に対する、強力な細胞毒性薬であった。
【発明の概要】
【0005】
本発明の第1の態様では、式I:
【化1】
の化合物及びその薬学的に許容可能な塩が提供される。
【0006】
本発明の第2の態様では、式Iの化合物、及びその薬学的に許容可能な塩、並びに1以上の薬学的に許容可能な添加剤を含んでいる、医薬組成物が提供される。
【0007】
本発明のさらに別の態様では、治療上有効な量の式Iの化合物及びその薬学的に許容可能な塩を、投与を必要とする患者に投与することにより、増殖性障害を治療する方法が提供される。
【0008】
本発明のさらに別の態様では、治療上有効な量の式Iの化合物及びその薬学的に許容可能な塩を、投与を必要とする患者に投与することにより、がんを治療する方法が提供される。
【0009】
本発明のさらに別の態様では、医薬組成物であって、治療上有効な量の式Iの化合物及びその薬学的に許容可能な塩を含んでいる該医薬組成物を、投与を必要とする患者に投与することによりがん及び増殖性障害を治療するのに使用される、医薬組成物が提供される。
【0010】
本発明はさらに、細胞増殖性障害について個体を治療する方法であって、有効な量の少なくとも1つの式Iの化合物又はその塩を個体に投与することを含む方法を提供する。
【0011】
ある実施形態では、細胞増殖性障害は、新生児血管腫症、二次性進行性多発性硬化症、アテローム性動脈硬化、慢性進行性骨髄変性疾患、神経線維腫症、神経節神経腫症、ケロイド形成、骨パジェット病、乳房線維嚢胞病、子宮筋腫、ペイロニー病、デュピュイトラン病、再狭窄症、良性増殖性乳房疾患、良性前立腺過形成、X連鎖リンパ球増殖性障害、移植後リンパ球増殖性障害、黄斑変性症、網膜症、増殖性硝子体網膜症、及び非がん性リンパ球増殖性障害からなる群から選択される。
【0012】
特定の実施形態において、細胞増殖性障害はがんである。いくつかの実施形態では、がんは、卵巣がん、子宮頸がん、乳がん、前立腺がん、精巣がん、肺がん、腎臓がん、結腸直腸がん、皮膚がん、脳腫瘍、白血病、例えば急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、及び慢性リンパ性白血病、リンパ腫、例えばB細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、及びマントル細胞リンパ腫、からなる群から選択される。
【0013】
本発明はさらに、がんに侵された個体においてがん細胞のアポトーシスを誘導する方法であって、有効な量の式Iの化合物又はその塩を該個体に投与することを含む方法を提供する。
【0014】
いくつかの実施形態では、がん細胞は腫瘍細胞である。特定の実施形態において、腫瘍細胞は、卵巣、子宮頸部、子宮、膣、乳房、前立腺、精巣、肺、腎臓、結腸直腸、胃、副腎、口腔、食道、肝臓、胆嚢、骨、骨髄、リンパ、眼、皮膚、及び脳の腫瘍細胞からなる群から選択される。
【0015】
本発明はさらに、キナーゼ活性を阻害する治療を必要とする哺乳動物においてキナーゼ活性を阻害する方法であって、治療上有効な量の式Iの化合物又はその薬学的に許容可能な塩を投与することを含む方法を提供する。ある実施形態では、次のキナーゼすなわちARK5、CDK4/6、ABL1、FGFR1、FLT3、FLT4/VEGFR3、FYN、PDGFRb、及びRETのうち1以上が阻害される。好ましくは、前記キナーゼのうち2以上又は3以上が阻害される。
【0016】
本発明のさらに別の態様では、がん及び増殖性障害を治療するための医薬品であって治療上有効な用量を含んでいる医薬品の製造のための、8‐シクロペンチル‐7‐オキソ‐2‐(4‐ピペラジン‐1‐イル‐フェニルアミノ)‐7,8‐ジヒドロ‐ピリド[2,3‐d]ピリミジン‐6‐カルボニトリル及びその薬学的に許容可能な塩の使用が提供される。
【0017】
別の態様では、異常な細胞増殖によってもたらされる状態の治療に使用するための、化合物8‐シクロペンチル‐7‐オキソ‐2‐(4‐ピペラジン‐1‐イル‐フェニルアミノ)‐7,8‐ジヒドロ‐ピリド[2,3‐d]ピリミジン‐6‐カルボニトリル及びその薬学的に許容可能な塩が提供される。好ましくは、そのような状態はがんであり、又はそのような状態は、卵巣がん、子宮頸がん、子宮がん、膣がん、乳がん、前立腺がん、精巣がん、肺がん、腎臓がん、結腸直腸がん、胃がん、副腎がん、口腔がん、食道がん、肝臓がん、胆嚢がん、骨がん、骨髄のがん、白血病、リンパ腺がん、眼がん、皮膚がん、及び脳腫瘍から選択されるがんであり;又はそのような状態は、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、及び慢性リンパ性白血病を含む白血病から選択されるがんであり;又はそのような状態は、B細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、及びマントル細胞リンパ腫を含むリンパ腫から選択されるがんであり;又はそのような状態は、乳がん、多発性骨髄腫、B細胞リンパ腫、前立腺がん、及び子宮頸がんから選択されるがんであり;又はそのような状態は、ホルモン受容体陽性で、ヒト上皮成長因子受容体2陰性の進行性若しくは転移性の乳がんである。内科的治療には、治療上有効な量の式Iの化合物及びその薬学的に許容可能な塩を用いてヒトを治療することが含まれる。
【0018】
本明細書中で言及された全ての出版物及び特許出願は、個々の出版物又は特許出願がそれぞれ具体的かつ個別に参照により組込まれることが示されるのと同じように、参照により全体が組込まれる。
【発明の詳細な説明】
【0019】
本発明は、新規化合物8‐シクロペンチル‐7‐オキソ‐2‐(4‐ピペラジン‐1‐イル‐フェニルアミノ)‐7,8‐ジヒドロ‐ピリド[2,3‐d]ピリミジン‐6‐カルボニトリル(ON1232580)及びその薬学的に許容可能な塩を提供する。本発明者らは、8‐シクロペンチル‐7‐オキソ‐2‐(4‐ピペラジン‐1‐イル‐フェニルアミノ)‐7,8‐ジヒドロ‐ピリド[2,3‐d]ピリミジン‐6‐カルボニトリルが多重特異性プロテインキナーゼ阻害剤として驚くほど高度な能力を有することを見出した。加えて、8‐シクロペンチル‐7‐オキソ‐2‐(4‐ピペラジン‐1‐イル‐フェニルアミノ)‐7,8‐ジヒドロ‐ピリド[2,3‐d]ピリミジン‐6‐カルボニトリルが、広範囲の種類のがん細胞についての、かつ特にB細胞非ホジキンリンパ腫、前立腺がん、子宮頸がん、及び慢性骨髄性白血病に対する、強力な細胞毒性薬であることも同様に驚くべきことであった。
【0020】
本発明の化合物及び組成物は、がん細胞の増殖を選択的に阻害し、かつ様々な種類の腫瘍細胞を殺滅すると考えられる。本発明の化合物は様々なプロテインキナーゼを阻害する。本発明の化合物は、以下にさらに詳細に述べるように、ARK5、CDK4/6、並びにABL1、CDK9、FGFR1、FLT3、VEGFR3、FYN、PDGFRb、及びRETを阻害する驚くべき能力を示す。
【0021】
本発明の化合物は、腫瘍細胞の増殖を阻害し、細胞死を引き起こすと考えられる。細胞死はアポトーシスの誘導によって生じる。該化合物は、広範囲の種類の腫瘍に対して、例えば限定するものではないが下記すなわち:卵巣がん、乳がん、前立腺がん、肺がん、腎臓がん、結腸直腸がん、脳腫瘍、リンパ腫、及び白血病に対して有効であると考えられる。驚くべきことに、ON1232580は、B細胞非ホジキンリンパ腫の細胞株、具体的にはマントル細胞リンパ腫であるGRANTA‐519細胞の強力な殺滅剤であった。対照的に、シスプラチンはGRANTA‐519細胞に対して高い毒性は示さなかった。細胞毒性研究によって示されるように、ON1232580はさらに、DU145細胞(前立腺がん)、HeLa細胞(子宮頸がん)、及びK‐562細胞(ヒト骨髄性白血病)の強力な阻害剤でもある。
【0022】
該化合物はさらに、非がん性の細胞増殖性障害、例えば限定するものではないが下記すなわち、新生児血管腫症、二次性進行性多発性硬化症、アテローム性動脈硬化、慢性進行性骨髄変性疾患、神経線維腫症、神経節神経腫症、ケロイド形成、骨パジェット病、乳房線維嚢胞病、子宮筋腫、ペイロニー病、デュピュイトラン病、再狭窄症、良性増殖性乳房疾患、良性前立腺過形成、X連鎖リンパ球増殖性障害、移植後リンパ球増殖性障害、黄斑変性症、網膜症、増殖性硝子体網膜症、及び非がん性リンパ球増殖性障害の治療に有用であると考えられる。
【0023】
[用語]
別段の定義のない限り、本明細書中で使用される技術用語及び科学用語は全て、本発明が属する分野の当業者が一般に理解しているのと同じ意味を有する。
【0024】
本明細書中で使用される用語は以下の意味を有している。
【0025】
本明細書中で使用されるように、「医薬組成物」という用語は、例えば、疾患を治療するために哺乳動物、例えばヒトに投与されるように、特定の量、例えば治療上有効な量の治療用化合物を、薬学的に許容可能な担体中に含んでいる混合物を意味する。
【0026】
本明細書中で使用されるように、「薬学的に許容可能な」という用語は、正当な医学的判断の範囲内において、妥当なベネフィット・リスク比に見合っている過度の毒性、刺激、アレルギー反応及びその他の問題となる合併症を伴わない、哺乳動物、特にヒトの組織との接触に適している、化合物、材料、組成物、及び/又は投薬剤形を指している。
【0027】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用されるように、単数形の「1つの(a
)」「1つの(an)」及び「その(the)」は、文脈がそうでないことを明白に示してい
ないかぎり、複数の指示物を含んでいる。
【0028】
本明細書中で使用されるように、「治療する」及び「治療」という用語は互換的に用いられ、障害の発症の遅延、及び/又は生じることになるか若しくは生じることが予想される症状の重症度の低減を示すように意図されている。該用語はさらに、既存の症状を改善すること、追加の症状を防止すること、及び症状の根本的な代謝的原因を改善又は防止することを含んでいる。該用語は、疾患、状態、又は障害に対処する目的での患者の管理及びケアを意味するものと理解されている。
【0029】
本明細書中で使用されるように、「個体」(治療の対象者などの場合)は哺乳動物及び非哺乳動物の両方を意味する。哺乳動物には、例えばヒト;ヒト以外の霊長類、例えば類人猿及びサル;ウシ;ウマ;ヒツジ;並びにヤギが含まれる。非哺乳動物には、例えば魚類及び鳥類が含まれる。
【0030】
「有効な量」という表現は、がん又は他の細胞増殖性障害に罹患している個体の治療法について述べるために使用される場合、がん細胞、好ましくは腫瘍細胞の異常な成長若しくは増殖を阻害するか、又は別例としてアポトーシスを誘導して、増殖細胞に対して治療上有用及び/又は選択的な細胞傷害効果をもたらす、式Iの化合物の量を指す。
【0031】
「細胞増殖性障害」という用語は、多細胞生物の1以上の細胞サブセットの望ましからぬ細胞増殖が生じる障害を意味する。いくつかのそのような障害では、生物体によって細胞が通常とは異なる急激な速度で作られる。
【0032】
<本発明の化合物>
本発明の化合物には、式I:
【化2】
の化合物及びその薬学的に許容可能な塩が含まれる。
【0033】
1つの態様では、好ましいのは式Iの化合物及び薬学的に許容可能な塩であって、無機酸、例えばHCl、及び有機酸、例えば乳酸の塩から選択されたものである。
【0034】
その他の好ましい実施形態では、式Iの化合物、又はその実施形態のうちいずれかは、化学合成によって調製され、かつ分析的な方法によって純度が確認された純粋な化合物である。その他の好ましい実施形態では、式Iの化合物、及び該化合物を含有する組成物、例えば医薬組成物は、薬学的に許容不可能な混在物質をほとんど含まない。薬学的に許容不可能な混在物質は、ほとんど含まないとは言えない量で存在する場合にその化合物又は組成物を治療的投与のための医薬としての使用に不適とする物質である。例としては、有毒物質、例えばハロゲン化溶剤及び重金属、並びに感染する可能性のあるもの、例えば細菌類、真菌類、ウイルス、並びに細菌胞子及び真菌胞子が挙げられる。
【0035】
<式Iの化合物の塩>
本発明の化合物は、塩の形態をとることができる。「塩」という用語は、本発明の化合物である式Iの化合物の付加塩を包含する。「薬学的に許容可能な塩」という用語は、医薬としての適用において有用性をもたらす範囲内の毒性プロファイルを有する塩を指す。とはいえ薬学的に許容不可能な塩が、本発明の実行における有用性、例えば本発明の化合物の合成、精製又は製剤化の処理過程における有用性を備えた特性、例えば高結晶度を有する場合もある。
【0036】
適切な薬学的に許容可能な酸付加塩は、無機酸から、又は有機酸から調製可能である。無機酸の例には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、炭酸、硫酸、及びリン酸が挙げられる。適切な有機酸は、脂肪族系酸、脂環式酸、芳香族酸、アラリファティック(araliphatic)酸、複素環酸 カルボン酸及びスルホン酸から選択可能であり、その例とし
て、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、4‐ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸、マンデル酸、エンボン酸(パモ酸)、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パントテン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、2‐ヒドロキシエタンスルホン酸、p‐トルエンスルホン酸、スルファニル酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、ステアリン酸、アルギン酸、β‐ヒドロキシ酪酸、サリチル酸、ガラクタル酸及びガラクツロン酸が挙げられる。薬学的に許容不可能な酸付加塩の例には、例えば、過塩素酸塩及びテトラフルオロホウ酸塩が含まれる。
【0037】
1つの態様では、式Iの化合物の好ましい塩には塩酸塩及び乳酸塩が含まれる。乳酸塩には、(R)‐、(S)‐及び(RS)‐乳酸異性体を用いて調製された塩が含まれる。
【0038】
上記の塩はすべて、対応する式Iの化合物及び適切な酸から従来の手段により調製可能である。好ましくは塩は結晶形態であり、かつ好ましくは適切な溶媒からの塩の結晶化により調製される。当業者であれば、例えばP. H. Stahl及びC. G. Wermuth著「Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use」(ドイツ、ウィリーVCH、2002年)に記載されているような、適切な塩形態を調製及び選択する方法を承知しているであろう。
【0039】
<本発明の化合物を作製する方法>
下記の実施例1は、式Iの化合物及びその塩の合成のための方法を提供する。本発明の塩及び中間体を含む化合物はその反応混合物から分離され、標準的な技法、例えば濾過、液液抽出、固相抽出、蒸留、再結晶、又はフラッシュカラムクロマトグラフィ若しくはHPLCを含むクロマトグラフィによって、精製されることが可能である。式Iの化合物又はその塩の精製のための好ましい方法は、好ましくは結晶形態の化合物又はその塩を形成するために、溶媒から該化合物又は塩を結晶化させることを含む。結晶化に続いて、結晶化溶媒を蒸発以外の処理手順、例えば濾過又は傾瀉によって取り除き、次いで好ましくは結晶を純粋な溶媒(又は純粋な溶媒の混合物)を使用して洗浄する。結晶化のための好ましい溶媒には、水、アルコール、特に4個以下の炭素原子を含有するアルコールであって例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、及びブタン‐1‐オール、ブタン‐2‐オール、及び2‐メチル‐2‐プロパノールなど、エーテル、例えばジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t‐ブチルメチルエーテル、1,2‐ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン及び1,4‐ジオキサン、カルボン酸、例えばギ酸及び酢酸、並びに炭化水素系溶媒、例えばペンタン、ヘキサン、トルエン、並びにこれらの混合物、特に水性エタノールのような水性混合物が挙げられる。その他の可能な溶媒には酢酸エチルが挙げられる。純粋な溶媒であって好ましくは少なくとも分析等級のもの、より好ましくは製薬等級のものが使用されることが好ましい。本発明の処理手順の好ましい実施形態では、生成物はそのようにして分離される。式Iの本発明の化合物又はその塩、及びこれらの医薬組成物において、式Iの化合物又はその塩は好ましくは結晶形態であるか又は結晶形態から調製され、好ましくはそのような処理手順によって調製されたものである。
【0040】
記載された処理手順は本発明の化合物が合成されうる唯一の手段ではないこと、及び極めて幅広い範囲の合成有機反応が本発明の化合物を合成するのに用いられる可能性があることは、当業者には十分理解されるであろう。当業者は、どのようにして適切な合成ルートを選択し実践するかを承知している。適切な合成法は、文献、例えばB. M. Trost及びI. Fleming編, “Comprehensive Organic Synthesis”, (英), Pergamon Press, 1991年, A. R. Katritzky, O. Meth Cohn, 及びC. W. Rees編, “Comprehensive Organic Functional Group Transformations”, (英), Pergamon Press, 1996年, A. R. Katritzky及びR. J. K. Taylor編, “Comprehensive Organic Functional Group Transformations II”, 第2版,(蘭), Elsevier, 2004年, A. R. Katritzky及びC. W. Rees編, “Comprehensive Heterocyclic Chemistry”, (英), Pergamon Press, 1984年, A. R. Katritzky,
C. W. Rees, 及びE. F. V. Scriven編, “Comprehensive Heterocyclic Chemistry II”, (英), Pergamon Press, 1996年、並びに、J. March編, “Advanced Organic Chemistry”, 第4版、(米), John Wiley and Sons, 1992年、のような参照元を参照すること
により特定されてもよい。
【0041】
<投薬剤形及び投与経路>
8‐シクロペンチル‐7‐オキソ‐2‐(4‐ピペラジン‐1‐イル‐フェニルアミノ)‐7,8‐ジヒドロ‐ピリド[2,3‐d]ピリミジン‐6‐カルボニトリル及びその薬学的に許容可能な塩は、多種多様な投薬剤形で投与可能である。本発明の化合物は、薬学的に許容可能な担体と組み合わせて、医薬組成物の形態で投与されてもよい。そのような製剤中の有効成分は、0.1~99.99重量パーセントを構成することができる。「薬学的に許容可能な担体」とは、製剤の他の成分と共存可能であり、かつ被投与者に対して有害でない任意の担体、希釈剤又は添加剤を意味する。
【0042】
活性作用薬は、選択された投与経路及び標準的な薬学上の実務に基づいて選択された薬学的に許容可能な担体とともに投与されることが好ましい。活性作用薬は、医薬調合の分野における標準的な実務に従って投薬剤形へと製剤化可能である。Alphonso Gennaro編, “Remington's Pharmaceutical Sciences”, 第18版, (米ペンシルベニア州イーストン
), Mack Publishing Co., 1990年を参照されたい。適切な投薬剤形は、例えば、錠剤、
カプセル剤、溶液、非経口液、トローチ、坐剤、又は懸濁液を含むことができる。
【0043】
注射投与を含む非経口投与については、活性作用薬は、適切な担体又は希釈剤、例えば水、油(特に植物油)、エタノール、生理食塩水、デキストロース(グルコース)及び関連する糖の水溶液、グリセロール、又はプロピレングリコール若しくはポリエチレングリコールのようなグリコールとともに混合することができる。非経口投与のための溶液は、活性作用薬の水溶性の塩を含有することが好ましい。安定化剤、酸化防止剤及び保存剤も添加することができる。適切な酸化防止剤には、亜硫酸塩、アスコルビン酸、アスコルビン酸の塩類及びエステル、システイン及びその誘導体、クエン酸及びその塩類、並びにEDTAナトリウムが挙げられる。適切な保存剤には、塩化ベンザルコニウム、メチルパラベン又はプロピルパラベン、及びクロロブタノールが挙げられる。非経口投与用の組成物は、水性若しくは非水性の溶液、分散液、懸濁液又は乳濁液の形態をとることができる。
【0044】
経口投与については、活性作用薬は、錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤、果粒剤又はその他の適切な経口投薬剤形の調製のために1以上の固体の非活性成分と組み合わせることができる。例えば、活性作用薬は、少なくとも1つの添加剤、例えば賦形剤、結合剤、保湿剤、崩壊剤、溶解遅延剤、吸収促進剤、湿潤剤 吸収剤又は平滑剤と組み合わせることができる。1つの錠剤の実施形態によれば、活性作用薬は、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ステアリン酸マグネシウム、マンニトール及びデンプンと組み合わされ、次いで従来の錠剤化方法によって錠剤へと成形されてもよい。
【0045】
細胞増殖性障害の治療について治療上の有益性を得るための本発明の化合物の具体的用量は、当然ながら個々の患者の特定の状況、例えば患者の体格、体重、年齢及び性別、細胞増殖性障害の性質及び病期、細胞増殖性障害の病原力、並びに化合物の投与経路によって決定されることになろう。
【0046】
例えば、約0.05~約50mg/kg/日、より好ましくは約0.1~約10mg/kg/日の1日投薬量を利用することができる。場合により上記の範囲外の投薬量を使用する必要があるかもしれないので、より高用量又は低用量も企図される。1日投薬量は、例えば等分されて1日当たり2~4回の1日投与とされるなど、分割可能である。組成物は、単位投薬剤形に製剤化されて、各投薬量が約1~約500mg、より典型的には約10~約100mgの活性作用薬を単位投薬量ごとに含有していることが好ましい。「単位投薬剤形」という用語は、ヒト対象者及び他の哺乳動物のための単一投薬量として適している物理的に分かれた単位であって、各々が所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性物質を適切な医薬品添加剤を伴って含有している単位を指している。
【0047】
医薬組成物を製剤化するために使用される構成成分は高純度のものであり、かつ有害な可能性のある混在物質をほとんど含まない(例えば少なくとも国の食品等級、一般には少なくとも分析用の等級、及びより典型的には少なくとも医薬品等級である)。特にヒトが摂取するものについては、組成物は、米国食品医薬品局の該当規則において定義されるような「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準(Good Manufacturing Practice)」の下で製造又は製剤化されることが好ましい。例えば、適切な製剤は、無菌及び
/又はほぼ等張であり、及び/又は米国食品医薬品局の「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準」の規則全てを完全に順守するものであるとよい。
【0048】
化合物は、任意の経路での投与、例えば限定するものではないが経口投与、直腸投与、舌下投与、頬側投与、眼投与、経肺投与、及び非経口投与が行われてもよいし、又は口腔内噴霧若しくは鼻内噴霧(例えばネブライザによる霧、小滴、若しくは固形微粒子の吸入)として投与されてもよい。非経口投与には、例えば、静脈内、筋肉内、動脈内、腹腔内、鼻腔内、膣内、嚢内(例えば膀胱)、皮内、経皮、局所又は皮下の投与が挙げられる。医薬組成物は、投与前に希釈される濃縮溶液など、非経口で使用するための無菌注射溶液の形態であってもよい。本発明の範囲内でさらに企図されるのは、薬物が制御型製剤に含められて患者の身体に注入され、その後で全身性又は局所的な該薬物の放出が生じることである。例えば、その薬物が、循環血中への制御放出のため、又は腫瘍が成長している局所部位への放出のために、デポー剤に含められて局部にとどめられてもよい。
【0049】
本発明の実行に役立つ1以上の化合物を、同一経路若しくは異なる経路によって同時に、又は治療期間の異なる時点で、投与することができる。該化合物は、他の抗増殖性化合物などの他の薬剤より前、その薬剤と一緒に、又はその薬剤の後に、投与可能である。
【0050】
治療は、単一の中断なしの期間として、又は不連続の期間として、必要な長さの期間にわたり実行可能である。治療を行う医師は、患者の反応に基づいて治療を増加、減少、又は中断する方法を承知しているであろう。1つの実施形態によれば、治療は約4~約16週間にわたって実行される。この治療スケジュールが必要に応じて繰り返されてもよい。
【0051】
活性作用薬は、非経口投与(例えば注射による、例えば濃縮製剤の希釈後の持続注入による投与)を目的として製剤化可能であり、かつ防腐剤の添加の有無にかかわらず、アンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ、少量注入剤に含められた単位用量の形態であってもよいし、又は多回投与容器に含められていてもよい。非経口用製剤は、適切な酸化防止剤、浸透圧調整剤、安定化剤、及びその他の薬学的に許容可能な添加剤を含むことができる。適切な酸化防止剤には、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、L‐システイン及びその誘導体、並びにチオ硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシラートナトリウム、クエン酸、d,l‐α‐トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、モノチオグリセロール、アスコルビン酸その塩及びエステル、並びに没食子酸プロピルが挙げられる。
【0052】
本発明は、8‐シクロペンチル‐7‐オキソ‐2‐(4‐ピペラジン‐1‐イル‐フェニルアミノ)‐7,8‐ジヒドロ‐ピリド[2,3‐d]ピリミジン‐6‐カルボニトリル及びその薬学的に許容可能な塩を含んでいる経口投薬剤形、バイアル又はアンプルと、場合により、水などの担体として適切な液体の容器とを具備している、医薬パック又は医薬キットを含む。場合により、該医薬パック又は医薬キットは、医薬又は生物学的製剤の製造、使用又は販売を規制する政府機関により定められた形式の通知書であって、ヒトへの投与のための製造、使用又は販売について該機関により承認されたことを示す通知書を備えることも可能であるし、該通知書との関連付けを有していてもよい。
【0053】
<治療の方法>
本発明の別の実施形態によれば、細胞増殖性障害、特にがんに罹患している個体を治療する方法であって、有効な量の式Iの少なくとも1つ化合物又はその薬学的に許容可能な塩を、単独で、又は薬学的に許容可能な担体と組み合わせて、前記個体に投与することを含む方法が提供される。
【0054】
本発明の別の実施形態によれば、がんに侵された個体において、がん細胞、好ましくは腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する方法であって、有効な量の式Iの少なくとも1つの化合物又はその薬学的に許容可能な塩を、単独で、又は薬学的に許容可能な担体と組み合わせて、前記個体に投与することを含む方法が提供される。
【0055】
本発明はさらに、式Iの化合物、又はその薬学的に許容可能な塩の、薬物療法における使用に関する。
【0056】
本発明はさらに、増殖性障害の治療のための、又は腫瘍細胞のアポトーシスを誘導するための、式Iの化合物及びその薬学的に許容可能な塩に関する。
【0057】
本発明はさらに、増殖性障害の治療に使用するための、又は腫瘍細胞のアポトーシスを誘導するための、式Iの化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含んでいる医薬品に関する。
【0058】
本発明はさらに、細胞増殖性障害、特にがんの治療のための、又はがんを患う個体において腫瘍細胞のアポトーシスを誘導するための医薬品の調製における、式Iの化合物又はその薬学的に許容可能な塩の使用に関する。
【0059】
本発明による化合物は、細胞増殖性障害、例えばがん、悪性及び良性の腫瘍、血管増殖性の障害、自己免疫系の障害、並びに線維症障害に侵された個体(動物及びヒトを含む哺乳動物)に投与されることが可能である。本発明の特定の実施形態では、治療される個体、対象者、又は患者はヒトである。
【0060】
該化合物は広範囲の種類の腫瘍に対して有効であると考えられ、広範囲の種類の腫瘍には、限定するものではないが、以下すなわち卵巣がん;子宮頸がん;乳がん;前立腺がん;精巣がん、肺がん、腎臓がん;結腸直腸がん;皮膚がん;脳腫瘍;白血病、例えば急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、及び慢性リンパ性白血病;リンパ腫、例えばB細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、及びマントル細胞リンパ腫、が挙げられる。
【0061】
より具体的には、本発明の化合物、組成物及び方法によって治療されうるがんには、限定するものではないが、以下すなわち:
【0062】
乳がん、例えば乳管癌、管状癌、髄様癌、粘液癌、乳頭状癌、及び篩状癌;
【0063】
噴門がん、例えば肉腫、例えば血管肉腫、線維肉腫、横紋筋肉腫、及び脂肪肉腫;粘液腫;横紋筋腫;線維腫;脂肪腫並びに奇形腫;
【0064】
肺がん、例えば気管支原生癌、例えば扁平上皮細胞、未分化小細胞、未分化大細胞、及び腺癌;肺胞及び細気管支癌;気管支腺腫;肉腫;リンパ腫;軟骨腫性過誤腫;並びに中皮腫;
【0065】
消化管がん、例えば食道のがん、例えば扁平上皮癌、腺癌、平滑筋肉腫、及びリンパ腫;胃のがん、例えば癌腫、リンパ腫、及び平滑筋肉腫;膵臓のがん、例えば膵管腺癌、インスリノーマ、グルカゴノーマ、ガストリノーマ、カルチノイド腫瘍、及びビポーマ;小腸のがん、例えば腺癌、リンパ腫、カルチノイド腫瘍、カポジ肉腫、平滑筋腫、血管腫、脂肪腫、神経線維腫、及び線維腫;大腸のがん、例えば腺癌、管状腺腫、絨毛腺腫、過誤腫、及び平滑筋腫;
【0066】
尿生殖路がん、例えば腎臓のがん、例えば腺癌、ウィルムス腫瘍(腎芽腫)、リンパ腫、及び白血病;膀胱及び尿道のがん、例えば扁平上皮癌、移行上皮癌、及び腺癌;前立腺のがん、例えば腺癌、及び肉腫;精巣のがん、例えば精上皮腫、奇形腫、胎児性癌、奇形癌、絨毛癌、肉腫、間質細胞癌、線維腫、線維腺癌、類腺腫瘍、及び脂肪腫;
【0067】
肝臓がん、例えばヘパトーマ、例えば肝細胞癌;肝内胆管癌;肝芽細胞腫;血管肉腫;肝細胞腺腫;及び血管腫;
【0068】
骨のがん、例えば、骨原性肉腫(骨肉腫)、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性リンパ腫(細網細胞肉腫)、多発性骨髄腫、悪性巨細胞腫 脊索腫、骨軟骨腫(骨軟骨性外骨腫)、良性軟骨腫、軟骨芽細胞腫、軟骨粘液線維腫、類骨骨腫及び巨細胞腫;
【0069】
神経系のがん、例えば頭蓋骨のがん、例えば骨腫、血管腫、肉芽腫、黄色腫、及び変形性骨炎;髄膜のがん、例えば髄膜腫、髄膜肉腫、及び神経膠腫症;脳のがん、例えば星状細胞腫、髄芽細胞腫、神経膠腫、上衣腫、胚芽腫(松果体腫)、多形性膠芽腫、乏突起神経膠腫、神経鞘腫、網膜芽細胞腫、及び先天性腫瘍;並びに脊髄のがん、例えば神経線維腫、髄膜腫、神経膠腫、及び肉腫;
【0070】
婦人科がん、例えば子宮のがん、例えば子宮内膜癌;子宮頸部のがん、例えば子宮頸癌、及び前腫瘍性子宮頸部異形成;卵巣のがん、例えば卵巣癌、例えば漿液性嚢胞腺癌、粘液性嚢胞腺癌、分類不能癌、顆粒膜‐莢膜細胞腫(cone-thecal cell tumors)、セルト
リ・ライディッヒ細胞腫、未分化胚細胞腫、及び悪性奇形腫;外陰部のがん、例えば扁平上皮癌、上皮内癌、腺癌、線維肉腫、及び黒色腫;膣のがん、例えば明細胞癌、扁平上皮癌、ブドウ状肉腫、及び胎児性横紋筋肉腫;並びにファロピアン管のがん、例えば癌腫;
【0071】
血液系のがん、例えば血液のがん、例えば急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ球性白血病、骨髄増殖性疾患、多発性骨髄腫、及び骨髄異形成症候群、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(悪性リンパ腫)並びにヴァルデンストレームマクログロブリン血症;
【0072】
皮膚のがん、例えば、悪性黒色腫、基底細胞癌、扁平上皮癌、カポジ肉腫、色素性母斑
異形成母斑、脂肪腫、血管腫、皮膚線維腫、ケロイド、乾癬;並びに
副腎のがん、例えば神経芽細胞腫、が挙げられる。
【0073】
がんは固形腫瘍の場合があり、固形腫瘍は転移性であることも転移性でないこともある。がんはさらに、白血病のように、びまん性の組織として生じることもある。したがって、「腫瘍細胞」という用語は、本明細書中に提示されるように、上記に特定された障害のうちのいずれか1つに侵された細胞を含んでいる。
【0074】
化合物は、非がん性の細胞増殖性障害、すなわち良性の兆候を特徴とする細胞増殖性障害の治療にも役立つと考えられる。そのような障害は、細胞が異常に速い速度で身体によって作られるという点で「細胞増殖性(cytoproliferative)」又は「過剰増殖性」とし
て知られていることもある。本発明の化合物によって治療可能と考えられる非がん性の細胞増殖性障害には、例えば、新生児血管腫症、二次性進行性多発性硬化症、アテローム性動脈硬化、慢性進行性骨髄変性疾患、神経線維腫症、神経節神経腫症、ケロイド形成、骨パジェット病、乳房線維嚢胞病、子宮筋腫、ペイロニー病、デュピュイトラン病、再狭窄症、良性増殖性乳房疾患、良性前立腺過形成、X連鎖リンパ球増殖性障害(ダンカン病)、移植後リンパ球増殖性障害(PTLD)、黄斑変性症、並びに糖尿病性網膜症及び増殖性硝子体網膜症(PVR)のような網膜症が挙げられる。
【0075】
本発明の化合物により治療可能と考えられる他の非がん性の細胞増殖性障害には、がん性の障害へと進行するリスクが高い前がん性のリンパ球増殖性細胞の存在が含まれる。数多くの非がん性のリンパ球増殖性障害が、潜伏性ウイルス感染、例えばエプスタイン‐バーウイルス(EBV)及びC型肝炎と関連している。これらの障害は多くの場合良性の病変として始まり、時間を経てリンパ系新生物へと進行する。
【0076】
<獲得耐性を有するがん及び併用療法>
本発明の1つの実施形態によれば、式Iの化合物及びその薬学的に許容可能な塩は、1以上の特定の抗がん剤に対して耐性の腫瘍細胞を有している薬物耐性がんの患者に投与することができる。
【0077】
本発明の別の実施形態によれば、式Iの化合物及びその薬学的に許容可能な塩は、別の抗がん剤(cancer agent)の投与の前に、投与と同時に、及び/又は投与の後で、がん患者に投与することができる。
【0078】
耐性が生じる可能性がある、及び/又は、式Iの化合物及びその薬学的に許容可能な塩と組み合わせて使用することが可能である、抗がん剤の例としては、数ある中でも特に、細胞毒性薬、化学療法剤(特に、アルキル化薬、代謝拮抗物質、アントラサイクリン、アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、モノクローナル抗体)、CDK4/6阻害剤、例えばパルボシクリブ、ESAを含んでいる赤血球生成調節剤、例えばEPO(内因性、組換え型及び/又は合成のEPO)、エポエチンアルファ、Procrit(登録商標)、Epogen(登録商標)、エポエチンベータ、ダルベポエチンアルファ、及び/又はメトキシポリエチレングリコール‐エポエチンベータ;DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(アザシチジン、デシタビン、5‐フルオロ‐2’‐デオキシシチジン、5,6‐ジヒドロ‐5‐アザシチジン、ゼブラリン、ファザラビン、ヒドラリジン(hydralizine)
、プロカイン、プロカインアミド、没食子酸エピガロカテキン、プサマプリンA、若しくは(S)‐2‐(1,3‐ジオキソ‐1,3‐ジヒドロ‐イソインドール‐2‐イル)‐3‐(1H‐インドール‐3‐イル)‐プロピオン酸、又はこれらの薬学的に許容可能な塩)、レナリドミドのような免疫修飾物質、が挙げられる。
【0079】
患者のがんが特定の治療法に応答しないのは、2つの一般的原因すなわち:宿主側の要因、及びがん細胞の特定の遺伝的又はエピジェネティックな変質、のうちの1つに起因する可能性がある。宿主側の要因には、薬物の吸収が不十分であるか又は代謝若しくは排泄が急速である結果、血清中濃度が低くなること;特に高齢の患者において薬物の影響に対する忍容性が乏しい結果、用量を最適濃度より低くする必要が生じること;嵩高い腫瘍の場合に、又はモノクローナル抗体及びイムノトキシンのような高分子量かつ低組織移行性の生物学的作用薬の場合に生じることが考えられる、腫瘍部位へ薬物を送達できないこと、が挙げられる。加えて、宿主‐腫瘍環境の様々な変質が、がん治療に対する腫瘍の応答に影響を与える可能性があり、これらの影響には、数ある中でも特に、正常細胞による薬物の局所的代謝、薬物が腫瘍内を通過する時間に影響を与える可能性のある腫瘍への血液供給機構が異常及び/又は特殊であること、が挙げられる。
【0080】
本発明の医薬組成物及び特許請求の範囲に記載されるような治療上の処方計画は、抗がん剤又は抗がん療法に対する忍容性又は耐性を高めることにより、がん治療における前述の障壁のうち1以上を克服するのに有効である。従って、本発明の方法は、がん患者における薬物耐性に対抗して打ち勝つ有効ながん治療法のための追加のツールを提供する。
【0081】
多くのがんが化学療法薬に対して耐性を生じる主要な仕組みである多剤耐性は、多くの種類の化学療法が失敗する主要因である。多剤耐性は、様々な血液がん及び固形腫瘍の患者に影響を及ぼす。腫瘍は通常は悪性細胞の混合集団で構成されており、その一部は薬物感受性であるがその他は薬物耐性である。化学療法は薬物感受性の細胞を破壊することができるが、薬物耐性の細胞が残されて高い割合を占める。腫瘍が再び成長し始めるとき、このとき残っている腫瘍細胞は薬物耐性なので、化学療法は失敗する可能性がある。
【0082】
治療法に対する耐性は、腫瘍細胞の細胞膜に、細胞内部から化学療法薬を能動的に排出する少なくとも2つの分子「ポンプ」が存在することに関係づけられている。これにより、腫瘍細胞は核内又は細胞質内における薬物又は分子の作用過程という毒性作用を回避することが可能となる。がんに化学療法薬耐性を与えることが一般に認められている2つのポンプは、P糖タンパク質及びいわゆる多剤耐性関連タンパク質(MRP)である。その機能及び重要性から、これらのタンパク質はがんを抑制しようといういくつかの取り組みの標的となっている。
【0083】
1つの実施形態によれば、本発明の組成物及び方法は、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、ESA、又はこれらの組み合わせに対する耐性を克服する。
【0084】
本発明の方法及び組成物は、特に外因性エリスロポエチン(EPO)に対して獲得耐性を有する患者における、がん及びがん関連貧血の治療に有用である。外因性EPOに対する耐性は、死亡リスクの増加に関係している。がん患者の貧血は多数の様々な機序の作用及び経路によって生じ、がん細胞が生物学的活性を有する生成物を生じる結果として、身体内におけるがん細胞の直接的作用であることもあれば、がんの治療の結果であることもある。貧血と血液がんの進行との間にも関連がある。貧血の主因は、不十分なエリスロポエチン(EPO)産生、鉄分の欠乏、及び内因性EPO抵抗性を伴う慢性疾患である。EPO投与を受けている患者の最大10%が治療法に対し低応答性であり、大用量の作用薬を必要とする。炎症誘発性サイトカインは、赤血球前駆細胞に対して阻害効果を及ぼすことにより、また鉄代謝を妨害することにより、EPOの作用に拮抗する。米国特許第8,664,272B2号を参照されたい。
【0085】
本発明はさらに、本発明の医薬組成物の1以上の成分が入った1以上の容器を含んでいる医薬パック又は医薬キットを提供する。場合により、そのような容器には、医薬又は生物学的製剤の製造、使用又は販売を規制する政府機関により定められた形式の通知書であって、ヒトへの投与のための製造、使用又は販売について該機関により承認されたことを示す通知書に関連付けがなされてもよい。
【0086】
本発明について以降の実施例によりさらに例証するが、実施例はどのような形であれ本発明の範囲に対して限定を加えるように解釈されるべきではない。それどころか、本明細書中の説明を読んで当業者が思い付く可能性のある様々な他の実施形態、改変形態、及びこれらの等価物が、本発明の趣旨及び/又は添付の特許請求の範囲の範囲から逸脱することなく用いられる場合もあることが、明白に了解されるべきである。
【実施例0087】
<実施例1:8‐シクロペンチル‐7‐オキソ‐2‐(4‐ピペラジン‐1‐イル‐フェニルアミノ)‐7,8‐ジヒドロピリド[2,3‐d]ピリミジン‐6‐カルボニトリル(ON1232580)の合成>
式Iの化合物の合成スキームは
【化3】
である。
【0088】
≪4‐[4‐(6‐シアノ‐8‐シクロペンチル‐7‐オキソ‐7,8‐ジヒドロ‐ピリド[2,3‐d]ピリミジン‐2‐イルアミノ)‐フェニル]‐ピペラジン‐1‐カルボン酸tert‐ブチルエステル(ON1232570)の合成≫
4‐(4‐アミノフェニル)‐ピペラジン‐1‐カルボン酸tert‐ブチルエステル(1.2g、3.96mmol)をトルエン(25mL)に溶解して10分間撹拌した。8‐シクロペンチル‐2‐メタンスルフィニル‐7‐オキソ‐7,8‐ジヒドロ‐ピリド[2,3‐d]ピリミジン‐6‐カルボニトリル(1.0g、3.31mmol)を上記の溶液に加え、10mLのトルエンでフラスコを洗い、70~80℃に加熱して4時間維持した。質量分析計でモニタリングが行われた反応の完了後、反応混合物を室温まで冷却して一晩放置した。形成された固体を濾別し、トルエン(20mL)で洗浄し、真空下で乾燥させた。収量は1.56g(91%)であった。
【0089】
1H NMR (300 Hz, CDCl3): δ 1.51 (s, 9H, 3 X CH3), 1.64 (br s, 4H, 2 X CH2), 1.88 (br s, 2H, CH2), 2.30 (br s, 2H, CH2), 3.01 (t, 4H, J = 10.2, 7.5 Hz, 2 X CH2), 3.63 (t, 4H, J = 5.4, 4.8 Hz, 2 X CH2), 5.86 (t, 1H, J = 8.4, 8.1 Hz, CH),
6.98 (d, 2H, J = 9.0 Hz, Ar-H), 7.47 (d, 2H, J = 9.0 Hz, Ar-H), 7.98 (s, 1H, Ar-H) and 8.58 (s, 1H, Ar-H.
Mass: m/z 516.10
【0090】
≪8‐シクロペンチル‐7‐オキソ‐2‐(4‐ピペラジン‐1‐イル‐フェニルアミノ)‐7,8‐ジヒドロ‐ピリド[2,3‐d]ピリミジン‐6‐カルボニトリルトリフルオロアセタート(ON1232580)の合成≫
4‐[4‐(6‐シアノ‐8‐シクロペンチル‐7‐オキソ‐7,8‐ジヒドロ‐ピリド[2,3‐d]ピリミジン‐2‐イル‐アミノ)‐フェニル]‐ピペラジン‐1‐カルボン酸tert‐ブチルエステル(0.75g、14.5mmol)をジクロロメタン(90mL)に溶解して0℃に冷却した。この冷却された撹拌中の溶液に、30mLのジクロロメタンに溶解した19.41g(170.23mmol)のトリフルオロ酢酸を冷却された溶液に30分間かけてゆっくり加え、0℃に4時間維持した。質量分析計でモニタリングが行われた反応の完了後、溶媒を室温にて真空下で蒸発させ、残留物をジエチルエーテル(100mL)で希釈して0℃で15分間撹拌した。形成された固体を濾別し、ジエチルエーテル(50mL)で洗浄し、真空下で乾燥させてそのまま次のステップで使用した。粗収量は0.85g(定量値)であった。
【0091】
1H NMR (300 Hz, D2O): δ 1.38 (br s, 4H, 2 X CH2), 1.68 (br s, 4H, 2 X CH2), 3.12 (br s, 4H, 2 X CH2), 3.28 (br s, 4H, 2 X CH2), 5.03 (br s, 1H, CH), 6.37 (br s, 2H, Ar-H), 6.66 (d, 2H, J = 7.5 Hz, Ar-H), 7.71 (s, 1H, Ar-H) and 8.12 (s, 1H, Ar-H).
Mass: m/z 416.10(質量分析は遊離塩基として示している。)
【0092】
≪遊離塩基としての式Iの化合物8‐シクロペンチル‐7‐オキソ‐2‐(4‐ピペラジン‐1‐イル‐フェニルアミノ)‐7,8‐ジヒドロ‐ピリド[2,3‐d]ピリミジン‐6‐カルボニトリル(ON1232580遊離塩基)の合成≫
8‐シクロペンチル‐7‐オキソ‐2‐(4‐ピペラジン‐1‐イル‐フェニルアミノ)‐7,8‐ジヒドロ‐ピリド[2,3‐d]ピリミジン‐6‐カルボニトリルトリフルオロ酢酸(0.045g)を水(15mL)に溶解して10分間撹拌した。この溶解した溶液を濾過して0℃に冷却した。7%の水酸化ナトリウム溶液(6~7滴)を加えて溶液のpHを7.0~7.5に調整し、該溶液を0℃に1時間維持した。形成された固体を濾別し、水(5mL)で洗浄し、真空下で乾燥させて一晩放置した。収量は0.020g(57.1%)であった。
【0093】
1H NMR (300 Hz, DMSO-d6): δ 1.57 (br s, 2H, CH2), 1.79 (br s, 4H, 2 X CH2), 2.20 (br s, 2H, CH2), 2.84 (br s, 4H, 2 X CH2), 3.02 (br s, 4H, 2 X CH2), 5.73 (br s, 1H, CH), 6.94 (d, 2H, J = 8.1 Hz, Ar-H), 7.49 (d, 2H, J = 8.7 Hz, Ar-H), 8.53 (s, 1H, Ar-H), 8.78 (s, 1H, Ar-H) and 10.38 (br s, 1H, NH).
Mass: m/z 416.10
【0094】
<実施例2:8‐シクロペンチル‐7‐オキソ‐2‐(4‐ピペラジン‐1‐イル‐フェニルアミノ)‐7,8‐ジヒドロピリド[2,3‐d]ピリミジン‐6‐カルボニトリル(ON123580)のキナーゼ阻害>
パルボシクリブは以下の構造
【化4】
を有する。
【0095】
米国国立がん研究所によれば、パルボシクリブは潜在的な抗新生物活性を備えた経口摂取可能なピリドピリミジン由来のサイクリン依存性キナーゼ(CDK)阻害剤である。特に、パルボシクリブはサイクリン依存性キナーゼ(特にCdk4/サイクリンD1キナーゼ)を選択的に阻害し、これにより網膜芽細胞腫(Rb)タンパク質のリン酸化を阻害することが可能であり、これによりRb陽性の腫瘍細胞が細胞周期のS期に入るのを防止する(G1期で止める)。その結果DNA複製の抑制及び腫瘍細胞増殖の低下がもたらされる。
【0096】
表1の化合物について、表に列記されたプロテインキナーゼのキナーゼ活性を阻害する能力を試験した。化合物は、100μMから始める10倍系列希釈を用いて6用量でIC50を求める方法で試験した。対照として、既知のプロテインキナーゼ阻害剤であるスタウロスポリンを、20μMから始める4倍系列希釈を用いて10用量でIC50を求める方法で試験した。反応は10μMのATPとして実施した。1nM未満又は100μMを超えるIC50値については、得られる最良の曲線あてはめに基づいて推定する。
【0097】
表1:
【表1】
空白のセルは、阻害無し、すなわち化合物の活性をIC50の曲線にあてはめられなかったことを示している。
【0098】
略語:ABL1=エーベルソンチロシンプロテインキナーゼ1;ARK5=AMPK関連プロテインキナーゼ5;CDK=サイクリン依存性キナーゼ;FGFR1=線維芽細胞成長因子受容体1;FLT3=fms様チロシンキナーゼ3;FLT4=fms様チロシンキナーゼ4;VEGFR3=血管内皮細胞成長因子受容体3;FYN=fynチロシンプロテインキナーゼ;PDGFRb=血小板由来成長因子受容体ベータ;PGK2=プロテインキナーゼG2;RET=受容体チロシンキナーゼ。
【0099】
表1から認められるように、ON1232580はパルボシクリブと比較すると著しく異なるプロテインキナーゼ阻害プロファイルを有しており、例えばARK5、CDK9/サイクリンK及びCDK6/サイクリンD3に対して、多重特異性プロテインキナーゼ阻害剤として驚くほど強力である。
【0100】
<実施例3:8‐シクロペンチル‐7‐オキソ‐2‐(4‐ピペラジン‐1‐イル‐フェニルアミノ)‐7,8‐ジヒドロピリド[2,3‐d]ピリミジン‐6‐カルボニトリル(ON123580)の活性を対照の細胞毒性薬シスプラチンと比較するがん細胞株における細胞毒性アッセイ>
化合物を、4種のがん細胞株すなわちDU145(ヒト前立腺がん)、GRANTA‐519(ヒトB細胞リンパ腫)、HeLa(ヒト子宮頸がん)、及びK‐562(ヒト慢性骨髄性白血病)で試験した。驚いたことに、ON123580は、ヒトB細胞リンパ腫細胞を含む4種の細胞株全てについて強力な細胞毒性薬であった。
【0101】
≪試薬及び材料≫
ウシ胎児血清(FBS)、(ExCell Bio、カタログ番号FND500。-20℃で保管)。
【0102】
96ウェル平底透明ボトム黒色ポリスチレンTC処理済マイクロプレート(コーニング、カタログ番号3340)。
【0103】
CellTiter‐Glo(登録商標)発光細胞生存アッセイ(Luminescent Cell Viability Assay)(プロメガ、カタログ番号G7572、-20℃で保管)。基質は、96ウェルプレートでの1アッセイ当たり100μLとして1,000回のアッセイに十分な量である。
【0104】
内容:
* 1×100mL CellTiter‐Glo(登録商標)バッファー
* 1×バイアル CellTiter‐Glo(登録商標)基質(凍結乾燥品)
【0105】
CellTiter‐Glo(登録商標)発光細胞生存アッセイは、代謝活性を有する細胞の存在を示すATP存在量の定量に基づいて培養物中の生細胞の数を決定する、均一系の方法である。この均一系アッセイの手順に要するのは、1つの試薬(CellTiter‐Glo(登録商標)の試薬)を血清添加培地で培養された細胞に直接添加することである。この均一系の「添加‐混合‐計測」方式は、細胞溶解と、ATP存在量に比例した発光シグナルの生成とをもたらす。ATPの量は培養物中に存在する細胞の数に正比例する。該アッセイは、ルシフェラーゼ反応によって生じた発光シグナルを生成する。
【0106】
《試薬の調製》
a. CellTiter‐Gloバッファーを解凍して使用前に室温にする。
便宜上、CellTiter‐Gloバッファーを解凍して使用前に最大48時間まで室温で保管してもよい。
b. 凍結乾燥状態のCellTiter‐Glo基質を使用前に室温にする。
c. 適正量(100mL)のCellTiter‐GloバッファーをCellTiter‐Glo基質が入った褐色ボトルに移して、凍結乾燥酵素/基質混合物を再構成する。これでCellTiter‐Glo試薬が作られる。
注:CellTiter‐Gloバッファーのボトルの液体全量をCellTiter‐Glo基質バイアルに加えればよい。
d. 穏やかに渦流混合し、旋回混合することにより、又は内容物を転倒混和することにより混合して、均一な溶液を得る。CellTiter‐Glo基質は1分未満で容易に溶解するはずである。
【0107】
《半数阻害濃度IC50の決定》
1. 対数増殖期に細胞を採取してCount‐star(登録商標)を用いて細胞を計数する。
2. それぞれの培地を用いて細胞の濃度を4.44×10個/mLに調整する。
3. 90μLの細胞懸濁液を2枚の96ウェルプレート(プレートA及びB)に加えて最終的な細胞密度を4×10個/ウェルとする。(細胞の濃度はデータベース又は密度最適化アッセイに従って調整する。)
【0108】
《翌日:T0での読み取り用のプレートについて》
1)T0での読み取り用にプレートAの各ウェルに10μLの培地を添加する。
2)プレート及びその内容物をRTでおよそ30分間平衡化する。
3)50μLのCellTiter‐Glo(CTG)試薬を各ウェルに添加する。
4)内容物をオービタルシェーカーで5分間混合して細胞溶解を誘導する。
5)プレートをRTで20分間インキュベートして発光シグナルを安定させる。
注:温度勾配、細胞播種のムラ又はマルチウェルプレートのエッジ効果により、標準プレート内で不均一な発光シグナルがもたらされる可能性がある。
6)EnVision(登録商標)マルチラベルリーダ(Multi Label Reader)を使用して発光(T0)を記録する。
【0109】
《試験の読み取り用のプレートについて》
1)被験物質の10×溶液を調製する(最も高い作業用濃度を培地中100μMの被験物質として3.16倍系列希釈で9用量レベルとする。出発時の薬物濃度はDMSO中に40mMで最終希釈物の薬物濃度は4μMとした)。
2)シスプラチンの10×参照用対照溶液を調製する(最も高い作業用濃度を培地中100μMとして3.16倍系列希釈とした。(出発時のシスプラチン(ホスピーラ・オーストラリア(Hospira Australia)製)の濃度を3.33mMとして)最終希釈物の薬物
濃度は細胞培養培地中に100nMとした)。
3)被験物質及び参照用対照いずれについても10μL(10×)薬物溶液をプレートBの各ウェルに(各薬物濃度につき3連で)分注する。(培地中のDMSO終濃度:0.25%[v/v])。
4)この試験用プレートBを37℃で5%COの加湿型インキュベータで72時間インキュベートし、次いでCTGアッセイにより計測する。
5)プレート及びその内容物をRTでおよそ30分間平衡化する。
6)50μLのCellTiter‐Glo試薬を各ウェルに添加する。
7)内容物をオービタルシェーカーで5分間混合して細胞溶解を誘導する。
8)プレートをRTで20分間インキュベートして発光シグナルを安定させる。
注:温度勾配、細胞播種のムラ又はマルチウォール(multiwall)プレートのエッジ効
果により、標準プレート内で不均一な発光シグナルがもたらされる可能性がある。
9)発光を記録する。
【0110】
絶対IC50(EC50)を計算するために、S字状の用量応答の非線形回帰モデルを使用して用量‐応答曲線をフィッティングした。生存率を計算する式は以下に示されており、絶対IC50(EC50)は、グラフパッドプリズム(GraphPad Prism)5.0により生成された用量‐応答曲線によって計算した。
【0111】
生存率(%)=(Lum被験物質-Lum培地対照)/(Lum未処理-Lum培地対照)×100%。
【0112】
IC50(50%の細胞が死滅する薬物濃度)を表2にまとめる。
【0113】
表2. 4種の細胞株における絶対IC50及び最大阻害率の概要
【表2】
【0114】
驚いたことに、ON1232580は、B細胞非ホジキンリンパ腫(マントル細胞)細胞株であるGRANTA‐519細胞の強力な殺細胞剤であった。対照的に、シスプラチンはGRANTA‐519細胞に対して毒性はあまり高くなかった。表2に示されるように、ON1232580はさらに、DU145細胞(前立腺がん)、HeLa細胞(子宮頸がん)、及びK‐562細胞(ヒト骨髄性白血病)の強力な阻害剤でもある。
【0115】
特許、特許出願、及び出版物などの本明細書中で引用される全ての参照文献は、前もって具体的に組込まれたか否かに関わらず、ここで参照によりその全体が組み込まれる。
【0116】
上記の個々の節において言及された本発明の様々な特徴及び実施形態は、必要に応じて他の節にも準用される。従って、1つの節において明示された特徴を、必要に応じて、他の節において明示された特徴と組み合わせることができる。
【0117】
いくつかの具体的な実施形態についての前述の説明は、そのような具体的な実施形態を、他の人々が現時点の知識を適用して様々な応用のために包括的概念から逸脱することなく容易に改変又は改作するのに十分な情報を提供するものであり、かつしたがって、そのような改作及び改変は、開示された実施形態の等価物の意味及び範囲の中に包含されるべきであり、かつそのように意図されている。本明細書中で使用される言葉遣い又は用語法は、説明を目的とするものであり、限定のためではないことが理解されるべきである。図面及び説明において、開示されてきたのは例示の実施形態であり、また、具体的な用語が使用されてきたが該用語は別段の定めのないかぎり総括的かつ記述的な意味でのみ使用されており、かつ限定のためには使用されておらず、したがって特許請求の範囲の範囲もそのように限定されてはいない。さらに、当業者であれば、本明細書中で議論された方法の一定のステップを別の順序に並べてもよいし、ステップどうしを組み合わせてもよいことを、認識するであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は本明細書中に開示された特定の実施形態に限定されないことが意図されている。当業者は、日常的な実験を用いるだけで、本明細書中に記載された本発明の実施形態の数多くの等価物を認識することになるし、又は確認することができるであろう。そのような等価物は以降の特許請求の範囲に包含される。
【手続補正書】
【提出日】2023-10-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量の式I
【化1】
の化合物又はその薬学的に許容可能な塩、及び、1以上の薬学的に許容可能な添加剤を含む、膵臓のがん、卵巣のがん、又は子宮内膜癌を治療するための医薬組成物であって、必要とする対象者に投与される、前記医薬組成物。
【請求項2】
前記対象者はヒトである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記対象者が、膵臓のがんを有する、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記対象者が、卵巣のがんを有する、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記対象者が、子宮内膜癌を有する、請求項2に記載の医薬組成物。
【外国語明細書】