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特開2024-100726ポリアルキレンイミン誘導体およびその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100726
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ポリアルキレンイミン誘導体およびその利用
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/04 20060101AFI20240719BHJP
   A61K 8/84 20060101ALI20240719BHJP
   A61Q 5/12 20060101ALI20240719BHJP
   A61Q 5/02 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C08G73/04
A61K8/84
A61Q5/12
A61Q5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024002643
(22)【出願日】2024-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2023004160
(32)【優先日】2023-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 悠子
(72)【発明者】
【氏名】平内 達史
【テーマコード(参考)】
4C083
4J043
【Fターム(参考)】
4C083AC072
4C083AC102
4C083AC122
4C083AC172
4C083AC232
4C083AC292
4C083AC302
4C083AC312
4C083AC352
4C083AC422
4C083AC432
4C083AC642
4C083AC692
4C083AC712
4C083AC892
4C083AD071
4C083AD072
4C083AD132
4C083AD202
4C083BB06
4C083CC33
4C083CC38
4C083DD08
4C083DD23
4C083DD27
4C083DD31
4C083EE01
4C083EE06
4C083EE07
4C083EE18
4C083EE28
4C083FF01
4J043PA02
4J043PC066
4J043PC116
4J043QA04
4J043SA05
4J043SB01
4J043YB08
4J043YB29
4J043ZA22
4J043ZB60
(57)【要約】
【課題】水に溶解または分散させた状態での保存安定性に優れる化粧料用の新規化合物およびその利用技術を提供する。
【解決手段】ポリアルキレンイミンの窒素原子に特定の構造を有する化合物が付加反応してなるポリアルキレンイミン誘導体であって、特定の構造を有する置換基を有し、数平均分子量が50,000以上であり、ポリアルキレンイミンに含まれる窒素原子に対する前記置換基の付加量が0.1mol%~35mol%である、ポリアルキレンイミン誘導体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレンイミンの窒素原子に下記式(1)および/または(2)の構造を有する化合物が付加反応してなるポリアルキレンイミン誘導体であって、
下記式(3)および/または(4)の構造を有する置換基を有し、
前記ポリアルキレンイミンの数平均分子量が50,000以上であり、
前記ポリアルキレンイミンに含まれる窒素原子に対する前記置換基の付加量が0.1mol%~35mol%である、ポリアルキレンイミン誘導体:
-R ・・・(1)
-R ・・・(2)
-CHCH(OH)-R ・・・(3)
-CHCH(OH)CH-O-R ・・・(4)
(式(1)~(4)中、Rは、炭素数8~20のアルキル基、炭素数8~20のアルケニル基、炭素数8~20のアリール基、または-(CHCHO)n-Rを表し、この際、Rは、炭素数8~20のアルキル基、炭素数8~20のアルケニル基、または炭素数8~20のアリール基を表し;nは、1~50の整数を表す。また、Rはエポキシ基を表し、Rはグリシジルエーテル基を表す。)
ここで、前記ポリアルキレンイミンに含まれる前記窒素原子に対する前記置換基の付加量は、下記の式に基づき算出される値である:
付加量(mol%)={[前記化合物の反応量(g)/前記化合物の分子量(g/mol)]÷[前記ポリアルキレンイミンの量(g)×前記ポリアルキレンイミンの固形分量(%)×前記ポリアルキレンイミンのアミン価(mmol/g)/1000]}×100(%)。
【請求項2】
前記ポリアルキレンイミンは、ポリエチレンイミンである、請求項1に記載のポリアルキレンイミン誘導体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリアルキレンイミン誘導体を含む、化粧料用材料。
【請求項4】
請求項3に記載の化粧料用材料を含む、化粧料用組成物。
【請求項5】
毛髪用である、請求項4に記載の化粧料用組成物。
【請求項6】
ポリアルキレンイミンのアミノ基と、下記式(1)および/または(2)の構造を有する化合物と、を付加反応させる付加工程を含むポリアルキレンイミン誘導体の製造方法であって、
前記ポリアルキレンイミンの数平均分子量が50,000以上であり、
前記付加工程における、前記ポリアルキレンイミンに対する前記化合物の仕込み比は、0.1~35である、ポリアルキレンイミン誘導体の製造方法:
-R ・・・(1)
-R ・・・(2)
(式(1)、(2)中、Rは、炭素数8~20のアルキル基、炭素数8~20のアルケニル基、炭素数8~20のアリール基、または-(CHCHO)n-Rを表し、この際、Rは、炭素数8~20のアルキル基、炭素数8~20のアルケニル基、または炭素数8~20のアリール基を表し;nは、1~50の整数を表す。また、Rはエポキシ基を表し、Rはグリシジルエーテル基を表す。)
【請求項7】
前記ポリアルキレンイミンは、ポリエチレンイミンである、請求項6に記載のポリアルキレンイミン誘導体の製造方法。
【請求項8】
前記付加反応は、溶媒の存在下で行われる、請求項6に記載のポリアルキレンイミン誘導体の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒は水である、請求項8に記載のポリアルキレンイミン誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアルキレンイミン誘導体およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料の材料として、皮膚や毛髪に滑らかさやしっとり感を付与するために、油剤が使用される場合がある。このような油剤として、ポリアルキレンイミン誘導体を使用する技術が知られている(特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-160128号公報
【特許文献2】特開2014-141458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
化粧料において、ポリアルキレンイミン誘導体は、通常、水に溶解または分散させた状態で使用される。
【0005】
しかしながら、従来のポリアルキレンイミン誘導体は、経時で分離する、あるいは、沈殿を生じる等、水に溶解または分散させた状態での保存安定性の観点で改善の余地があった。
【0006】
上記のような状況にあって、本発明の一態様は、水に溶解または分散させた状態での保存安定性に優れる新規のポリアルキレンイミン誘導体およびその利用技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様は、以下の構成を含むものである。
〔1〕ポリアルキレンイミンの窒素原子に下記式(1)および/または(2)の構造を有する化合物が付加反応してなるポリアルキレンイミン誘導体であって、
下記式(3)および/または(4)の構造を有する置換基を有し、
前記ポリアルキレンイミンの数平均分子量が50,000以上であり、
前記ポリアルキレンイミンに含まれる窒素原子に対する前記置換基の付加量が0.1mol%~35mol%である、ポリアルキレンイミン誘導体:
-R ・・・(1)
-R ・・・(2)
-CHCH(OH)-R ・・・(3)
-CHCH(OH)CH-O-R ・・・(4)
(式(1)~(4)中、Rは、炭素数8~20のアルキル基、炭素数8~20のアルケニル基、炭素数8~20のアリール基、または-(CHCHO)n-Rを表し、この際、Rは、炭素数8~20のアルキル基、炭素数8~20のアルケニル基、または炭素数8~20のアリール基を表し;nは、1~50の整数を表す。また、Rはエポキシ基を表し、Rはグリシジルエーテル基を表す。)
ここで、前記ポリアルキレンイミンに含まれる前記窒素原子に対する前記置換基の付加量は、下記の式に基づき算出される値である:
付加量(mol%)={[前記化合物の反応量(g)/前記化合物の分子量(g/mol)]÷[前記ポリアルキレンイミンの量(g)×前記ポリアルキレンイミンの固形分量(%)×前記ポリアルキレンイミンのアミン価(mmol/g)/1000]}×100(%)。
〔2〕前記ポリアルキレンイミンは、ポリエチレンイミンである、〔1〕に記載のポリアルキレンイミン誘導体。
〔3〕〔1〕または〔2〕に記載のポリアルキレンイミン誘導体を含む、化粧料用材料。〔4〕〔3〕に記載の化粧料用材料を含む、化粧料用組成物。
〔5〕毛髪用である、〔4〕に記載の化粧料用組成物。
〔6〕ポリアルキレンイミンのアミノ基と、下記式(1)および/または(2)の構造を有する化合物と、を付加反応させる付加工程を含むポリアルキレンイミン誘導体の製造方法であって、
前記ポリアルキレンイミンの数平均分子量が50,000以上であり、
前記付加工程における、前記ポリアルキレンイミンに対する前記化合物の仕込み比は、0.1~35である、ポリアルキレンイミン誘導体の製造方法:
-R ・・・(1)
-R ・・・(2)
(式(1)、(2)中、Rは、炭素数8~20のアルキル基、炭素数8~20のアルケニル基、炭素数8~20のアリール基、または-(CHCHO)n-Rを表し、この際、Rは、炭素数8~20のアルキル基、炭素数8~20のアルケニル基、または炭素数8~20のアリール基を表し;nは、1~50の整数を表す。また、Rはエポキシ基を表し、Rはグリシジルエーテル基を表す。)
〔7〕前記ポリアルキレンイミンは、ポリエチレンイミンである、〔6〕に記載のポリアルキレンイミン誘導体の製造方法。
〔8〕前記付加反応は、溶媒の存在下で行われる、〔6〕又は〔7〕に記載のポリアルキレンイミン誘導体の製造方法。
〔9〕前記溶媒は水である、〔8〕に記載のポリアルキレンイミン誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、水に溶解または分散させた状態での保存安定性に優れる新規のポリアルキレンイミン誘導体およびその利用技術を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。尚、本明細書においては特記しない限り、数値範囲を表わす「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)、B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0010】
〔1.ポリアルキレンイミン誘導体〕
本発明の一実施形態に係るポリアルキレンイミン誘導体(以下、「本ポリアルキレンイミン誘導体」と称する場合がある)は、ポリアルキレンイミンの窒素原子に下記式(1)および/または(2)の構造を有する化合物が付加反応してなるポリアルキレンイミン誘導体であって、下記式(3)および/または(4)の構造を有する置換基を有し、前記ポリアルキレンイミンの数平均分子量が50,000以上であり、前記ポリアルキレンイミンに含まれる窒素原子に対する前記置換基の付加量が0.1mol%~35mol%である、ポリアルキレンイミン誘導体である:
-R ・・・(1)
-R ・・・(2)
-CHCH(OH)-R ・・・(3)
-CHCH(OH)CH-O-R ・・・(4)
(式(1)~(4)中、Rは、炭素数8~20のアルキル基、炭素数8~20のアルケニル基、炭素数8~20のアリール基、または-(CHCHO)n-Rを表し、この際、Rは、炭素数8~20のアルキル基、炭素数8~20のアルケニル基、または炭素数8~20のアリール基を表し;nは、1~50の整数を表す。また、Rはエポキシ基を表し、Rはグリシジルエーテル基を表す。)
なお、本明細書におけるポリアルキレンイミンに含まれる窒素原子に対する置換基の付加量は、下記の式に基づき算出される値である:
付加量(mol%)={[前記化合物の反応量(g)/前記化合物の分子量(g/mol)]÷[ポリアルキレンイミンの量(g)×ポリアルキレンイミンの固形分量(%)×ポリアルキレンイミンのアミン価(mmol/g)/1000]}×100(%)。
【0011】
本ポリアルキレンイミン誘導体は、上記の構成を有するため、水に溶解または分散させた状態での保存安定性に優れる。加えて、化粧料材料および化粧料組成物の有効成分(化粧料成分)としても好適に利用することができる。特に、本ポリアルキレンイミン誘導体を含む、化粧料組成物を毛髪に対して適用した場合、毛髪に疎水性を付与することができ、毛髪の指通りや毛髪のツヤを向上することができる。
【0012】
(ポリアルキレンイミン)
本ポリアルキレンイミン誘導体の原料であるポリアルキレンイミンとは、主鎖がアルキレン基とアミノ基からなる構造単位、すなわち、下記式(A-1)、(A-2)および/または(A-3)で表される構造単位を有する化合物(ポリマー)を意図する。
【0013】
【化1】
【0014】
上記式(A-1)、(A-2)および(A-3)中、Qはアルキレン基を表す。ここで、Qで表されるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。ポリアルキレンイミン中に複数含まれる上記式(A-1)、(A-2)または(A-3)で表される構造単位において、Qは同じであってもよく、それぞれ異なっていてもよい。
【0015】
本ポリアルキレンイミン誘導体の原料であるポリアルキレンイミンとしては、より具体的には、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリブチレンイミン等を挙げることができる。これらのポリアルキレンイミンは、直鎖状の構造であってもよく、分岐状構造または環状構造を有していてもよい。中でも、ポリエチレンイミンが好ましく、直鎖状、分岐状、樹枝状のポリエチレンイミンがより好ましい。
【0016】
なお、本明細書において「分枝状のポリエチレンイミン」とは、ポリエチレンイミンが、主鎖から分岐した二次ポリマー鎖を有することを意味し、「樹枝状のポリエチレンイミン」とは、ポリエチレンイミンが、典型的には枝の伸びるコア及び多数の末端基からなる密集した複数の分枝状構造を有することを意味する。
【0017】
本ポリアルキレンイミン誘導体の原料であるポリアルキレンイミンが分岐状構造を有する場合、ポリアルキレンイミンの分岐度は、0%を超え、1%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましく、15%以上が特に好ましい。また、ポリエチレンイミンの分岐度の上限は、50%以下が好ましく、40%以下がより好ましく、35%以下がさらに好ましい。
【0018】
ポリアルキレンイミンの分岐度は、ポリアルキレンイミンの13C-NMRを測定して得られるチャートに基づき、三級アミンに結合している炭素原子と、二級アミンに結合している炭素原子との強度比を求めることで、三級アミンの個数aと二級アミンの個数bとを算出し、算出されたaおよびbの値に基づき、下記式から算出することが出来る:
分岐度(%)=〔a/(a+b)〕×100
直鎖状のポリアルキレンイミンは、三級アミンを有していないので分岐度は0%となる。また、全ての窒素原子が三級アミンとなっているポリアルキレンイミン、すなわち、最大限に分岐しているポリアルキレンイミンは、分岐度が100%となる。
【0019】
本ポリアルキレンイミン誘導体の原料であるポリアルキレンイミンの数平均分子量(Mn)は、水に溶解または分散させた状態での保存安定性に優れるポリアルキレンイミン誘導体を提供する観点から、50,000以上であり、55,000以上であることが好ましく、60,000以上であることがより好ましく、65,000以上であることがさらに好ましく、70,000以上であることが特に好ましい。ポリアルキレンイミンの数平均分子量(Mn)の上限は特に限定されないが、例えば、200,000以下であり得る。
【0020】
本ポリアルキレンイミン誘導体の原料であるポリアルキレンイミンの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、水に溶解または分散させた状態での保存安定性により優れるという利点があることから、100,000以上であることが好ましく、150,000以上であることがより好ましく、200,000以上であることがより好ましく、250,000以上であることがさらに好ましく、300,000以上であることがよりさらに好ましく、350,000以上であることが特に好ましい。ポリアルキレンイミンの重量平均分子量(Mw)の上限は特に限定されないが、例えば、1,000,000以下であり得る。
【0021】
なお、本明細書において、ポリアルキレンイミンの数平均分子量および重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって求められる値であり、測定条件としては、例えば、実施例に記載の条件を採用することができる。
【0022】
ポリアルキレンイミンの数平均分子量および重量平均分子量の測定条件は、測定対象となるポリアルキレンイミンの重量平均分子量によって、適宜測定条件を調整することが好ましい。重量平均分子量100,000以下の比較的低分子量のポリアルキレンイミン誘導体、および、重量平均分子量100,000超の比較的高分子量のポリアルキレンイミン誘導体にそれぞれ好適な測定条件としては、実施例に記載の条件を採用することができる。
【0023】
本ポリアルキレンイミン誘導体の原料であるポリアルキレンイミンは、第1級アミン、第2級アミン、および第3級アミンから選択される少なくとも1つのアミンを含む。
本ポリアルキレンイミン誘導体の原料であるポリアルキレンイミンにおける1級アミンの含有割合は、10~50mol%が好ましく、20~45mol%がより好ましく、22~40mol%が更に好ましく、24~37mol%がよりさらに好ましい。2級アミンの含有割合としては、10~60mol%が好ましく、20~55mol%がより好ましく、30~53mol%がさらに好ましい。また、3級アミンの含有割合としては、10~50mol%が好ましく、15~40mol%がより好ましく、20~35mol%がさらに好ましい。
【0024】
本ポリアルキレンイミン誘導体の原料であるポリアルキレンイミン中に存在する1級アミン、2級アミンおよび3級アミンの比率(アミン級比)は、1級アミン:第2級アミン:3級アミン(モル比)が、10~50:10~60:10~50であることが好ましく、20~45:20~55:10~40がより好ましく、25~40:30~50:20~35がさらに好ましい。ポリアルキレンイミンのアミン級比が上記範囲内であれば、過剰量の置換基の導入を抑制できるとともに、得られるポリアルキレンイミン誘導体の分散安定性を向上することができる。なお、ポリアルキレンイミンのアミン級比は、GPC、NMR分析、滴定等の公知の方法により測定することができる。
【0025】
本ポリアルキレンイミン誘導体の原料であるポリアルキレンイミンに含まれるアミノ基は、一部または全部が酸により中和されていても良く、ハロゲン化アルキル等により4級化されていても良く、N-オキシド化されていても良い。
【0026】
ポリアルキレンイミンの不揮発分当たりのアミン価とは、ポリアルキレンイミンの不揮発分1g中にふくまれるアミノ基のモル数(mmol)を意味する。本ポリアルキレンイミン誘導体の原料であるポリアルキレンイミンの不揮発分当たりのアミン価は、5mmol/g以上であることが好ましく、10mmol/g以上がより好ましく、15mmol/g以上がさらに好ましい。ポリアルキレンイミンのアミン価の上限は特に限定されないが、例えば、30mmol/g以下であり、25mmol/g以下であることが好ましく、20mmol/g以下であることがより好ましい。
【0027】
ポリアルキレンイミンのアミン価は、例えば、メタノール溶液中で、0.5mol/Lのp-トルエンスルホン酸標準溶液を用いた電位差滴定を行うことにより算出することが出来る。
【0028】
また、ポリアルキレンイミンの不揮発分(樹脂分)は、カールフィッシャー法もしくは乾燥重量法によって測定することができる。具体的な測定条件を以下に示す:
・カールフィッシャー法
測定機器;カールフィッシャー水分計
溶媒;メタノール 20~30ml
アミン中和剤;酢酸 7ml
計算式:不揮発分(質量%)=100-V×F/S×100
(式中、Vはカールフィッシャー試薬の滴定量(ml)であり、Fはカールフィッシャー試薬の力価(mg/ml)であり、Sは試料採取量(mg)である)
・乾燥重量法
試料を約1gアルミ皿に採取し、熱風循環乾燥機中で150±5℃で1時間乾燥させた後にデシケーター中で10分放冷すし、下記計算式に基づき不揮発分を算出する:
計算式:不揮発分(質量%)=W/S×100
(式中、Wは乾燥後の試料の残存重量(g)であり、Sは乾燥前の試料重量(g)である)。
【0029】
本ポリアルキレンイミン誘導体の原料であるポリアルキレンイミンのカチオン化度は、5~30meq/g以上であることが好ましく、10~25meq/g以上であることがより好ましく、15~22meq/g以上であることがさらに好ましい。なお、カチオン化度の単位であるmeq/gとはポリアルキレンイミン1g当たりのカチオン基のミリ当量数を示す。
【0030】
ポリアルキレンイミンのカチオン化度は、公知の手法を用いて測定することできる。例えば、ケルダール法等で測定した窒素含量の測定値から下記式に基づき算出することが出来る:
カチオン化度(meq/g)=(ポリアルキレンイミン中の窒素含量)/(窒素の原子量)。
【0031】
(置換基)
本ポリアルキレンイミン誘導体は、ポリアルキレンイミンの窒素原子(アミノ基)に、下記式(1)および/または(2)の構造を有する化合物が付加反応してなる化合物であって、下記式(3)および/または(4)の構造を有する置換基を有する化合物である。換言すれば、本ポリアルキレンイミン誘導体は、下記式(3)および/または(4)で表される構造単位を含む:
-R ・・・(1)
-R ・・・(2)
-CHCH(OH)-R ・・・(3)
-CHCH(OH)CH-O-R ・・・(4)
(式(1)~(4)中、Rは、炭素数8~20のアルキル基、炭素数8~20のアルケニル基、炭素数8~20のアリール基、または-(CHCHO)n-Rを表し、この際、Rは、炭素数8~20のアルキル基、炭素数8~20のアルケニル基、または炭素数8~20のアリール基を表し;nは、1~50の整数を表す。また、Rはエポキシ基を表し、Rはグリシジルエーテル基を表す。)
上記式(1)で表される構造を有する化合物は、得られる本ポリアルキレンイミン誘導体における式(3)で表される置換基(構造単位)の由来となるエポキシ基含有化合物であり、上記式(2)で表される構造を有する化合物は、得られる本ポリアルキレンイミン誘導体における式(4)で表される置換基(構造単位)の由来となるグリシジルエーテル化合物である。すなわち、上記式(1)で表される構造を有する化合物をポリアルキレンイミンに付加反応させた場合、式(3)で表される構造が形成され、上記式(2)で表される構造を有する化合物を付加反応させた場合、式(4)で表される構造が形成される。
【0032】
式(1)で表される化合物の具体例としては、以下の式(1a)~(1c)の化合物が挙げられる:
【0033】
【化2】
【0034】
式(2)で表される化合物の具体例としては、以下の式(2a)~(2c)の化合物が挙げられる:
【0035】
【化3】
【0036】
上記式(1)または(2)の構造を有する化合物のエポキシ当量は、特に限定されないが、150~500が好ましく、200~400がより好ましい。
【0037】
本明細書において、エポキシ当量とは、エポキシ基を有する化合物の、当該化合物に含まれるエポキシ基1個当たりの分子量を意図する。なお、化合物のエポキシ当量は、例えば、JIS K7236に準じて測定することができる。
【0038】
式(1)~(4)における炭素数8~20のアルキル基は、特に限定されず、炭素数8~20の直鎖または分岐鎖のアルキル基でありうる。具体的な炭素数8~20のアルキル基としては、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基(ラウリル基)、2-エチルヘキシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基などが挙げられる。
【0039】
式(1)~(4)における炭素数8~20のアルケニル基は、特に限定されず、炭素数8~20の直鎖または分岐鎖のアルケニル基でありうる。具体的な炭素数8~20のアルケニル基としては、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、2-エチルヘキセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基などが挙げられる。
【0040】
式(1)~(4)における炭素数8~20のアリール基は、特に限定されず、例えば、2,3-もしくは2,4-キシリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニリル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、ピレニル基などが挙げられる。
【0041】
これらの中でも、Rとしては、炭素数8以上のアルキル基が好ましく、炭素数9以上のアルキル基がより好ましく、炭素数10以上のアルキル基がさらに好ましく、炭素数11以上のアルキル基がよりさらに好ましい。また、Rとしては炭素数8~20のアルキル基が好ましく、炭素数12~20のアルキル基がより好ましい。特に、RおよびRの炭素数が15以上であれば、比較的少ない置換基の付加量でも、優れた疎水性をポリアルキレンイミン誘導体に付与することができ、水への溶解性と化粧効果(例えば、毛髪の滑らかさ、ツヤ等)とにより優れるポリアルキレンイミン誘導体を提供できる。
【0042】
本ポリアルキレンイミン誘導体における、原料であるポリアルキレンイミンに含まれる窒素原子に対する式(3)および/または(4)の構造を有する置換基の付加量(付加mol%)は、0.1mol%~35mol%であり、0.5mol%~30mol%であることが好ましく、1.0mol%~25mol%であることがより好ましく、1.5mol%~10mol%であることが特に好ましい。置換基の付加量を上記範囲に制御することにより、ポリアルキレンイミン誘導体に優れた疎水性を付与しつつ、水への溶解性(分散性)および水に溶解(または分散)した状態での保存安定性を向上することができる。なお、本ポリアルキレンイミン誘導体における、置換基の付加量(付加mol%)の算出方法は、上述の通りである。
【0043】
本ポリアルキレンイミン誘導体を、固形分50%の水分散液とした際の、当該水分散液の粘度(すなわち、本ポリアルキレンイミン誘導体の固形分50%の水分散液の粘度)は、特に限定されないが、10,000mPa・s~3,000,000mPa・sであることが好ましく、20,000mPa・s~2,500,000mPa・sであることがより好ましく、100,000mPa・s~2,000,000mPa・sであることがさらに好ましい。本ポリアルキレンイミン誘導体の固形分50%の水分散液の粘度が、10,000mPa・s以上である場合、水への分散性に優れるポリアルキレンイミン誘導体となるという利点があり、3,000,000mPa・s以下である場合、水への分散性および毛髪へ塗布した際の使用感に優れるポリアルキレンイミン誘導体となるという利点がある。なお、本明細書において、ポリアルキレンイミン誘導体の固形分50%の水分散液の粘度は、対象のポリアルキレンイミン誘導体の固形分50%の水分散溶液について、実施例に記載の条件で測定される値である。
【0044】
本ポリアルキレンイミン誘導体を、固形分30%の水分散液とした際の、当該水分散液の粘度の粘度(すなわち、本ポリアルキレンイミン誘導体の固形分30%の水分散液の粘度)は、特に限定されないが、300mPa・s~30,000mPa・sであることが好ましく、400mPa・s~20,000mPa・sであることがより好ましく、500mPa・s~10,000mPa・sであることがさらに好ましい。本ポリアルキレンイミン誘導体の固形分30%の水分散液の粘度が、300mPa・s以上である場合、水への分散性に優れるポリアルキレンイミン誘導体となるという利点があり、30,000mPa・s以下である場合、水への分散性および毛髪へ塗布した際の使用感に優れるポリアルキレンイミン誘導体となるという利点がある。なお、本明細書において、ポリアルキレンイミン誘導体の固形分30%の水分散液の粘度は、対象のポリアルキレンイミン誘導体の固形分30%の水分散液について、実施例に記載の条件で測定される値である。
【0045】
本ポリアルキレンイミン誘導体の平均粒子径は、特に限定されないが、100nm~1,500nmであることが好ましく、200nm~1,300nmであることがより好ましく、300nm~1,000nmであることがさらに好ましい。本ポリアルキレンイミン誘導体の平均粒子径が、100nm以上である場合、水への分散性に優れるポリアルキレンイミン誘導体となるという利点があり、1,500nm以下である場合、水への分散性および毛髪へ塗布した際の使用感に優れるポリアルキレンイミン誘導体となるという利点がある。なお、本明細書において、ポリアルキレンイミン誘導体の平均粒子径とは、対象のポリアルキレンイミン誘導体のキュムラント平均粒子径を意図する。ポリアルキレンイミン誘導体のキュムラント平均粒子径は、実施例に記載の条件で測定することができる。
【0046】
本ポリアルキレンイミン誘導体で処理した(本アルキレンイミン誘導体を塗布した)毛髪の接触角は、未塗布の場合と比べて増加していることが好ましい。本ポリアルキレンイミン誘導体で処理した毛髪の接触角が、未処理の場合と比べて増加していることは、処理された毛髪の疎水性が向上していることを意味する。より疎水性付与効果に優れるポリアルキレンイミン誘導体を提供する観点から、本ポリアルキレンイミン誘導体で処理した毛髪の接触角は、未処理の毛髪と比較して、接触角が5°以上増加していることが好ましく、10°以上増加していることがより好ましく、20°以上増加していることが特に好ましい。また、ポリアルキレンイミン誘導体で処理した毛髪の接触角は、85°以上であることが好ましく、90°以上であることがより好ましく、95°以上であることがさらに好ましく、100°以上であることが特に好ましい。なお、本明細書において、毛髪の接触角は、接触角計を用いて測定される値であり、より具体的には、実施例に記載の条件で測定される値である。
【0047】
〔2.ポリアルキレンイミン誘導体の製造方法〕
本ポリアルキレンイミン誘導体は、ポリアルキレンイミンのアミノ基と、下記式(1)および/または(2)の構造を有する化合物と、を付加反応させる付加工程を含む方法により製造することができる。
-R ・・・(1)
-R ・・・(2)
(式(1)、(2)中、Rは、炭素数8~20のアルキル基、炭素数8~20のアルケニル基、炭素数8~20のアリール基、または-(CHCHO)n-Rを表し、この際、Rは、炭素数8~20のアルキル基、炭素数8~20のアルケニル基、または炭素数8~20のアリール基を表し;nは、1~50の整数を表す。また、Rはエポキシ基を表し、Rはグリシジルエーテル基を表す。)。
【0048】
本発明の一実施形態に係る本ポリアルキレンイミン誘導体の製造方法(以下、「本製造方法」と称する場合がある)において使用するポリアルキレンイミン、ならびに、式(1)および/または(2)の構造を有する化合物については、上記〔1.ポリアルキレンイミン誘導体〕項に記載の態様を適宜援用する。すなわち、本製造方法においては、数平均分子量が50,000以上のポリアルキレンイミンと、式(1)および/または(2)の構造を有する化合物と、を付加反応させる。式(1)および/または(2)の構造を有する化合物は、付加物であるともいえる。
【0049】
本製造方法の付加工程においては、式(1)または(2)で表される化合物の有する少なくとも1つのエポキシ基が開環し、ポリアルキレンイミン中のアミノ基(特に、当該アミノ基が有する活性水素)と反応することで、上記式(3)または(4)で表される構造単位が形成される。
【0050】
付加工程における、ポリアルキレンイミンに対する式(1)または(2)で表される化合物の仕込み比は、0.1~35であり、0.5~30であることが好ましく、1.0~25であることがより好ましく、1.5~10であることが特に好ましい。付加反応が完全に進行する場合、付加工程における、ポリアルキレンイミンに対する式(1)または(2)で表される化合物の仕込み比が、得られポリアルキレンイミン誘導体における置換基の量となる。したがって、窒素原子に対する置換基の付加量が0.1mol%~35mol%であるポリアルキレンイミン誘導体を製造するためには、付加工程における上記化合物の仕込み量を上記範囲に制御することが好ましい。
【0051】
なお、付加工程におけるポリアルキレンイミンに対する式(1)または(2)で表される化合物の仕込み比は、下記式に基づき算出することもできる。
仕込み比={(式(1)または(2)で表される化合物の使用量(g)×1000/式(1)または(2)で表される化合物のエポキシ当量(g/eq))/(ポリアルキレンイミンの仕込み量(g)×ポリアルキレンイミンのアミン価(mmol/g))}。
【0052】
付加工程における付加反応は、溶媒の存在下で行ってもよく、無溶媒下で行ってもよいが、反応系の粘度を低下でき、攪拌が容易となることから、溶媒の存在下で行うことが好ましい。また、付加反応は、撹拌下で行ってもよく、静置下で行ってもよいが、均一な反応物が得やすいという利点があることから、撹拌下で行うことが好ましい。
【0053】
付加反応で使用し得る溶媒としては、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド等のアミド類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;等が挙げられる。これらの溶媒の1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を適宜組み合わせて使用してもよい。中でも、汎用性および安全性の観点から、溶媒としては水を単独で使用することが好ましい。
【0054】
溶媒の存在下で付加反応を行う場合、反応系における原料濃度(ポリアルキレンイミンと、式(1)または(2)で表される化合物との合計量/ポリアルキレンイミンと、式(1)または(2)で表される化合物と、溶媒との合計量)は、付加反応を効率的に進行させるとともに、副生物の反応を抑制する観点から、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましく、60質量%以上であることがよりさらに好ましい。
【0055】
付加工程においては、ポリアルキレンイミンと、式(1)または(2)で表される化合物とを全て一括に仕込んで付加反応させてもよく、いずれかを反応系に予め仕込んでおき、残りを滴下することで付加反応させてもよいが、ポリアルキレンイミンを予めに反応系に仕込んでおき、当該反応系内に式(1)または(2)で表される化合物を滴下する方法が好ましい。
【0056】
付加反応の反応温度は、特に限定されないが、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、90℃以上が特に好ましい。反応温度が60℃以上である場合、未反応の式(1)または(2)で表される化合物を低減でき、副反応も抑制することができる。
【0057】
付加反応の反応時間は、特に限定されず、反応温度、反応スケールなどによって適宜調節できるが、未反応の式(1)または(2)で表される化合物の量が5質量%以下となるまで、好ましくは3質量%以下となるまで、より好ましくは1質量%以下となるまで、特に好ましくは、1質量%未満となるまでの間、付加反応を行うことが好ましい。
【0058】
付加工程においては、必要に応じて第3級アミン等の触媒を使用してもよい。
【0059】
本製造方法は、上記付加工程の他に、精製工程、後反応工程、濃縮工程、乾燥工程、希釈工程などの任意の工程を含む物であってもよい。
【0060】
〔3.化粧料用材料および化粧料用組成物〕
本発明の一実施形態において、本ポリアルキレンイミン誘導体を含む化粧料用材料を提供する。
【0061】
本発明の一実施形態に係る化粧料用材料(以下、「本化粧料用材料」と称する場合がある)は、本ポリアルキレンイミン誘導体を、水に溶解または分散させてなる水溶液または水分散液である。
【0062】
本化粧料用材料おける、本ポリアルキレンイミン誘導体の配合量は特に限定されないが、0.001~20質量%であることが好ましく、0.01~10質量%であることがより好ましい。
【0063】
本化粧料用材料に配合するポリアルキレンイミン誘導体は、塩の形態であってもよい。また、本化粧料用材料に、本ポリアルキレンイミン誘導体と共に酸を配合することによって、本化粧料用材料のpHを調整すると共に、ポリアルキレンイミン誘導体の塩を形成させてもよい。
【0064】
本化粧料用材料に配合し得る酸としては、例えば、脂肪酸、アルキルリン酸、アルキルスルホン酸、アルキル硫酸等のアルキル基を有する酸;L-グルタミン酸、L-アスパラギン酸等の酸性アミノ酸;ピログルタミン酸;安息香酸、p-トルエンスルホン酸等の芳香族酸;グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、グルコン酸、パントテン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等のヒドロキシ酸;その他リン酸、塩酸、酢酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸などが挙げられる。これらの中でも、化粧料用材料(および当該化粧料材料を含む化粧料組成物)に毛髪に対する保湿および柔軟化効果を付与できることから、有機酸が好ましく、特に、酸性アミノ酸、ピログルタミン酸、ヒドロキシ酸、コハク酸、マレイン酸が好ましい。
【0065】
従来のポリアルキレンイミン誘導体、例えば特許文献1または特許文献2に記載のポリアルキレンイミン誘導体は、水に溶解または分散させて化粧料用材料とした場合、ほとんど水に溶解または分散しないか、あるいは、水に溶解または分散したしても、保存中にポリアルキレンイミン誘導体が水と分離、凝集するなど、保存安定性に課題があり、水に溶解または分散させてなる水溶液または水分散液の形態の化粧料用材料として取り扱うことが困難であった。一方で、本化粧料用材料は、水に溶解または分散した状態での保存安定性に優れる本ポリアルキレンイミン誘導体を含むため、水に溶解または分散させてなる水溶液または水分散液の形態で、長期間安定的に保存することが可能である。このような水に溶解または分散させてなる水溶液または水分散液の形態で、長期間安定的に保存できるポリアルキレンイミン誘導体を含む化粧料用材料は従来知られておらず、驚くべき発見であるといえる。
【0066】
本化粧料用材料は、化粧料組成物として好適に利用することができる。すなわち、本発明の一実施形態において、本化粧料用材料を含む化粧料組成物を提供する。なお、本化粧料材料の用途は、化粧料組成物に限定されず、乳化剤、可溶化剤、分散剤、消泡剤、潤滑剤、浸透剤、洗浄剤、抗菌剤、消臭剤等の用途に用いることもできる。
【0067】
本発明の一実施形態に係る化粧料組成物(以下、「本化粧料組成物」と称する場合がある)は、本化粧料用材料、ひいては、本ポリアルキレンイミン誘導体を含むため、対象の皮膚や毛髪に、滑らかさやしっとり感といった化粧効果を付与することができる。特に、毛髪に対して適用した場合、毛髪に疎水性を付与することができ、毛髪の指通りや毛髪のツヤを向上することができる。また、係る化粧効果を水洗後も維持することが可能である。したがって、本化粧料組成物は、毛髪用であることが好ましい。
【0068】
本化粧料組成物における本化粧料用材料の配合量は特に限定されないが、化粧料組成物中の本ポリアルキレンイミン誘導体の含有量が0.001~50質量%となるよう配合することが好ましく、0.01~30質量%となるよう配合することがより好ましく、0.01~10質量%となるよう配合することが更に好ましい。
【0069】
本化粧料組成物は、本化粧料用材料に加え、本発明の効果を損なわない範囲で、化粧料、医薬品などに一般的に用いられている各種成分(その他の成分)を配合することが可能である。このようなその他の成分としては、炭化水素、高級アルコール、高級脂肪酸、油脂を含むトリグリセリド、エステル油、動植物油脂、シリコーン、ビタミン類、紫外線吸収剤、水溶性高分子、酸化防止剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、金属イオン封鎖剤、エタノール、増粘剤、防腐剤、色素、顔料、香料などが挙げられる。
【0070】
本化粧料組成物の形態は、特に限定されず、W/O型乳化化粧料組成物、O/W型乳化化粧料組成物、W/O/W乳化化粧料組成物、油水両連続相からなる化粧料組成物、油性化粧料組成物、水性化粧料組成物等の形態を適用することが可能である。より具体的に、本化粧料組成物の製品形態としては、ヘアミスト、ヘアリキッド、ヘアミルク、ヘアトニック、ヘアコンディショナー、ヘアシャンプー、ヘアトリートメント、リンス、育毛剤等の毛髪化粧料;化粧水、乳液、クリーム、パック等のスキンケア化粧料;ファンデーション、口紅、アイシャドー等のメークアップ化粧料;日焼け止め化粧料(サンスクリーン剤);ボディー化粧料;芳香化粧料;メーク落とし、ボディーシャンプー等の皮膚化粧料;制汗剤、軟膏等が例示できる。
【0071】
本ポリアルキレンイミン誘導体(および本ポリアルキレンイミン誘導体を含む化粧料組成物)は、抗菌性にも優れるものである。ポリアルキレンイミン誘導体の抗菌性は、最小発育阻止濃度(MIC)に基づき評価することができる。本ポリアルキレンイミン誘導体のMICは、300ppm以下が好ましく、200ppm以下がより好ましく、100ppm以下がさらに好ましく、80ppm以下が特に好ましい。MICの値が300ppm以下であれば、比較的少ない量で、優れた静菌性能を発揮することができるため、好ましい。
【実施例0072】
以下に、本発明を実施例等に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0073】
〔評価方法〕
実施例および比較例における各測定および評価は、下記の方法により行った。
【0074】
なお、評価に用いた毛髪は、以下の方法で作製したものを使用した。
【0075】
(未処理毛髪)
カラーリングやパーマなどの化学処理を行っていないアジア人の毛髪(ビューラックス社製)を、ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム(SLES)水溶液(有効成分0.5%)に室温で5分間浸漬し、流水洗浄後、100℃で乾燥させたものを未処理毛髪とした。
【0076】
(ダメージ処理毛髪)
上記の未処理毛髪をブリーチ液(4%過酸化水素:2.5%アンモニア水=1:1(w/w))に室温で30分間、浴比1:10(毛髪:ブリーチ液重量比(w/w))で浸漬したのち、流水洗浄し、100℃で乾燥させた。このブリーチ処理、水洗、乾燥の一連の処理を5回繰り返したものをダメージ処理毛髪とした。
【0077】
(水への溶解性(分散性))
ポリエチレンイミン誘導体の10.0wt%水溶液(固形分)を調製したとき、均一に溶解もしくは分散するものを、水への溶解性が〇(良好)と評価し、均一に溶解もしくは分散しないものを水への溶解性が×(不良)と評価した。
【0078】
(水に溶解または分散させた状態での保存安定性(保存安定性))
ポリエチレンイミン誘導体の10.0wt%水溶液(固形分)を調製し、室温で30日間保存した後に、当該水溶液の状態を目視にて確認し、下記の基準でポリエチレンイミン誘導体の保存安定性を判定した;
〇(良好):均一な溶解もしくは分散状態を維持した。
×(不良):水とポリエチレンイミン誘導体の分離が見られた。
【0079】
(毛髪の指通り)
ダメージ処理毛髪(1g、10cm)を、ポリエチレンイミン誘導体の0.1wt%水溶液(固形分)に室温で5分間浸漬させた後、乾燥させた(接触処理)。係る接触処理後の各毛束の感触について、専門のパネラー5名により官能評価を行い、下記の基準で毛髪の指通りを評価した。
【0080】
評価は、5段階(5点: まったく引っかかりを確認できない、4点:ひっかかりを確認できない、3点: ひっかかりを確認できるかどちらともいえない、2点: ひっかかりが確認できる、1点: はっきりとひっかかりが確認できる)で行い、各パネラーの点数の合計に基づき、下記の基準で判定した;
◎(良好) :点数の合計が20点以上
○(合格) :点数の合計が15点以上20点未満、
△(不合格):点数の合計が10点以上115 点未満
×(不良) :点数の合計が10点未満。
【0081】
(毛髪のツヤ)
ダメージ処理毛髪を、ポリエチレンイミン誘導体の0.1wt%水溶液(固形分)に室温で5分間浸漬させた後、乾燥させた(接触処理)。また、陰性対照として、未処理(ポリエチレンイミン誘導体に接触させない)のダメージ処理毛髪(ブランク毛)を用意した。係る接触処理後の毛髪の状態を目視で確認し、下記の基準で毛髪のツヤを評価した。
○(良好):ダメージ処理をしたブランク毛と比較してツヤが増した
△(不合格):ダメージ処理をしたブランク毛と比較して同等のツヤ
×(不良):ダメージ処理をしたブランク毛と比較してツヤが減少した。
【0082】
(毛髪の疎水性)
ダメージ処理毛髪を、ポリエチレンイミン誘導体の0.1wt%水溶液(固形分)に室温で5分間浸漬させた後、乾燥させた。(接触処理)。また、陰性対照として、未処理(ポリエチレンイミン誘導体に接触させない)ののダメージ処理毛髪(ブランク毛)を用意した。接触処理後の毛髪について、接触角計B100((株)あすみ技研)を用いて当該毛髪に対する精製水の接触角を測定し、下記の基準で毛髪の疎水性を判定した。
◎(良好) :ブランク毛に比べて接触角が20°以上大きい
〇(合格) :ブランク毛に比べて接触角が+5°以上、+20°未満
△(不合格):ブランク毛に比べて接触角が同じか、+5°未満
×(不良) :ブランク毛よりも接触角が小さい。
【0083】
なお、測定においては、毛髪各1本について精製水を0.1μL滴下し、滴下から20秒後の接触角を測定した。また、ブランク毛(未接触のダメージ処理毛髪)の接触角は82.95°であった。
【0084】
(水洗後の毛髪の疎水性)
毛髪の疎水性評価と同様の手順で作製したポリエチレンイミン誘導体の0.1wt%水溶液接触後の毛髪を、水道水で60秒間水洗した。また、陰性対照として、未接触のダメージ処理毛髪(ブランク毛)を用意し、これを上記の条件で水洗した。この水洗後の毛髪について、接触角計B100((株)あすみ技研)を用いて当該毛髪の接触角を測定し、下記の基準で毛髪の疎水性を判定した。
◎(良好) :ブランク毛に比べて接触角が20°以上大きい
〇(合格) :ブランク毛に比べて接触角が+5°以上、+20°未満
△(不合格):ブランク毛に比べて接触角が同じか、+5°未満
×(不良) :ブランク毛よりも接触角が小さい。
【0085】
なお、測定においては、毛髪各1本について精製水を0.1μL滴下し、滴下から20秒後の接触角を測定した。また、ブランク毛(未接触のダメージ処理毛髪)の接触角は82.95°であった。
【0086】
(ポリアルキレンイミンの数平均分子量および重量平均分子量)
ポリアルキレンイミンの数平均分子量および重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法を用い、測定対象のポリアルキレンイミンの重量平均分子量が100,000以下である場合には、下記(条件1)の条件で、測定対象のポリアルキレンイミンの重量平均分子量が100,000超である場合には、下記(条件2)の条件でそれぞれ測定を行った。
【0087】
(条件1)
測定装置 :株式会社島津製作所製
使用カラム:昭和電工株式会社製 SHODEX Asahipac GF-710HQ+GF-510HQ+GF-310HQ
溶離液 :0.2mol%のモノエタノールアミン水溶液に酢酸を添加し、pH5.1に調整した溶液
標準物質 :プルランP-82(和光純薬工業株式会社製)
検出器 :示差屈折計(株式会社島津製作所製)
(条件2)
測定装置 :株式会社島津製作所製
使用カラム:昭和電工株式会社製SHODEX OHpak SB-807HQ(2本)+SB-806M/HQ(2本)
溶離液 :0.5mol%の硝酸ナトリウムおよび0.5mol%の酢酸を含む水溶液
標準物質:プルランP-82(和光純薬工業株式会社製)
検出器 :示差屈折計(株式会社島津製作所製)。
【0088】
(ガスクロマトグラフィー)
実施例および比較例における未反応エポキシ基含有化合物の残存量測定は、ガスクロマトグラフィーを用い、下記の条件で測定を行った。
装置名 :SHIMADZU Nexis GC-2030
カラム :SH-Wax、長さ30m。内径0.53mm、液層の膜厚1μm
測定条件:50℃10分保持後に10℃/分で240℃に昇温し、240℃で6分保持
溶媒 :t-アミルアルコール。
【0089】
(粘度測定)
実施例および比較例におけるポリアルキレンイミン誘導体を含む水分散液の粘度は、対象のポリアルキレンイミン誘導体の固形分50%または固形分30%の水分散液を作製し、当該水分散液について、下記の条件で測定した。
【0090】
測定装置 :東機産業株式会社製 機種:TVB10M
測定温度 :25℃
ローター :M4
回転数 :0.3rpm~12rpm 粘度範囲に応じて適宜選択した。
【0091】
(平均粒子径測定(DLS))
実施例および比較例におけるポリアルキレンイミン誘導体の平均粒子径(キュムラント平均粒子径)は、対象のポリアルキレンイミン誘導体の水溶液を作製し、当該水溶液について、下記の条件で測定した。
【0092】
測定装置 :大塚電子株式会社製 多検体ナノ粒子径測定システム nanoSAQLA-BC
測定温度 :25℃
測定溶媒 :水
セルタイプ :ASセル
屈折率 :1.3314, 粘度:0.8902
積算回数 :100回
繰り返し回数:3回
繰り返し回数3回の平均値(キュムラント平均粒子径)を測定値とした。
【0093】
〔実施例1〕
温度計、還流冷却器および撹拌装置を備えた100mLの四つ口フラスコに、ポリエチレンイミンの水溶液(日本触媒社製、数平均分子量70,000、重量平均分子量350,000、固形分51%、アミン価18mmol/g(不揮発分)、1級アミン/2級アミン/3級アミン=25/50/25(mol%))50g(0.459mol相当)を仕込んでおき、攪拌しながら、100℃に昇温した後、1,2-エポキシデカン(東京化成工業社製、分子量156.27g/mol)を2.58g(0.0165mol相当)投入し、反応温度100℃で16時間、ポリエチレンイミンと1,2-エポキシデカンの付加反応を行った(付加工程)。係る操作により、ポリエチレンイミンの窒素原子に1,2-エポキシデカンに由来する構造を有する置換基が付加してなるポリエチレンイミン誘導体(誘導体1)を得た。得られた誘導体1について、ガスクロマトグラフィーを用いて未反応の1,2-エポキシデカンの残量を測定した結果、残量は1%未満であった。すなわち、1,2-エポキシデカンの反応率は99%以上であり、ポリエチレンイミンに含まれる窒素原子に対する1,2-エポキシデカンに由来する置換基の付加量(付加mol%)は3.6mol%であった。また、1,2-エポキシデカンと水による開環反応で得られる副生物の反応率は1%以下であった。
【0094】
〔実施例2~10〕
1,2-エポキシデカンに変えて、表1に記載のエポキシ基含有化合物またはグリシジルエーテル化合物を、表1に記載の付加量となるようポリエチレンイミンと付加反応させたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリエチレンイミンの窒素原子に特定のエポキシ化合物に由来する構造を有する置換基が付加してなるポリエチレンイミン誘導体(誘導体2~10)を得た。
【0095】
〔実施例11〕
温度計、還流冷却器および撹拌装置を備えた100mLの四つ口フラスコに、ポリエチレンイミンの水溶液(日本触媒社製、数平均分子量100,000、重量平均分子量450,000、固形分51%、アミン価18mmol/g(不揮発分)、1級アミン/2級アミン/3級アミン=30/40/30(mol%))50g(0.459mol相当)を仕込んでおき、攪拌しながら、100℃に昇温した後、ステアリルグリシジルエーテル(分子量363.0g/mol)2.5g(0.0069mol相当)投入し、反応温度100℃で16時間、ポリエチレンイミンとステアリルグリシジルエーテルの付加反応を行った(付加工程)。係る操作により、ポリエチレンイミンの窒素原子にステアリルグリシジルエーテルに由来する構造を有する置換基が付加してなるポリエチレンイミン誘導体(誘導体11)を得た。得られた誘導体11について、ガスクロマトグラフィーを用いて未反応のステアリルグリシジルエーテルの残量を測定した結果、残量は1%未満であった。すなわち、ステアリルグリシジルエーテルの反応率は99%以上であり、ポリエチレンイミンに含まれる窒素原子に対するステアリルグリシジルエーテルに由来する置換基の付加量(付加mol%)は1.5mol%であった。また、ステアリルグリシジルエーテルと水による開環反応で得られる副生物の反応率は1%以下であった。
【0096】
〔実施例17〕
温度計、還流冷却器および撹拌装置を備えた300mLの四つ口フラスコに、ポリエチレンイミンの水溶液(日本触媒社製、数平均分子量70,000、重量平均分子量350,000、固形分52%、アミン価18mmol/g(不揮発分)、1級アミン/2級アミン/3級アミン=25/50/25(mol%))120g(1.123mol相当)を仕込んでおき、攪拌しながら、100℃に昇温した後、ステアリルグリシジルエーテル(分子量363.0g/mol)6.12g(0.0169mol相当)投入し、反応温度100℃で5時間、ポリエチレンイミンとステアリルグリシジルエーテルの付加反応を行った(付加工程)。係る操作により、ポリエチレンイミンの窒素原子にステアリルグリシジルエーテルに由来する構造を有する置換基が付加してなるポリエチレンイミン誘導体(誘導体12)を得た。得られた誘導体12について、ガスクロマトグラフィーを用いて未反応のステアリルグリシジルエーテルの残量を測定した結果、残量は1%未満であった。すなわち、ステアリルグリシジルエーテルの反応率は99%以上であり、ポリエチレンイミンに含まれる窒素原子に対するステアリルグリシジルエーテルに由来する置換基の付加量(付加mol%)は1.5mol%であった。また、ステアリルグリシジルエーテルと水による開環反応で得られる副生物の反応率は1%以下であった。この誘導体12について、固形分を50%になるように水に分散させ、得られた水分散液の粘度を測定したところ、800,000mPa・sであり、また、固形分が30%となるように水に分散させた水分散液の粘度は7,400mPa・sであった。また、この固形分50%液を100倍希釈して、誘導体12の平均粒子径を測定したところ、488nmであった。
【0097】
〔実施例18〕
反応温度を75℃、反応時間を13時間に変更した以外は、実施例17と同様にしてポリエチレンイミン誘導体(誘導体13)を得た。得られた誘導体13について、ガスクロマトグラフィーを用いて未反応のステアリルグリシジルエーテルの残量を測定した結果、残量は1%未満であった。すなわち、ステアリルグリシジルエーテルの反応率は99%以上であり、ポリエチレンイミンに含まれる窒素原子に対するステアリルグリシジルエーテルに由来する置換基の付加量(付加mol%)は1.5mol%であった。また、ステアリルグリシジルエーテルと水による開環反応で得られる副生物の反応率は1%以下であった。この誘導体13について、固形分を50%になるように水に分散させ、得られた水分散液の、粘度を測定したところ、22,000mPa・sであり、また、固形分が30%となるように水に分散させた水分散液の粘度は690mPa・sであった。また、この固形分50%液を100倍希釈して、誘導体13の平均粒子径を測定したところ、647nmであった。
【0098】
〔実施例19〕
反応温度を60℃、反応時間を15時間に変更した以外は、実施例17と同様にしてポリエチレンイミン誘導体(誘導体14)を得た。得られた誘導体14について、ガスクロマトグラフィーを用いて未反応のステアリルグリシジルエーテルの残量を測定した結果、残量は1%未満であった。すなわち、ステアリルグリシジルエーテルの反応率は99%以上であり、ポリエチレンイミンに含まれる窒素原子に対するステアリルグリシジルエーテルに由来する置換基の付加量(付加mol%)は1.5mol%であった。また、ステアリルグリシジルエーテルと水による開環反応で得られる副生物の反応率は1%以下であった。この誘導体14について、固形分を50%になるように水に分散させ、得られた水分散液の粘度を測定したところ、15,000mPa・sであり、また、固形分が30%となるように水に分散させた水分散液の粘度は550mPa・sであった。また、この固形分50%液を100倍希釈して、誘導体14の平均粒子径を測定したところ、745nmであった。
【0099】
〔比較例1〕
温度計、還流冷却器および撹拌装置を備えた100mLの四つ口フラスコに、ポリエチレンイミンの水溶液(日本触媒社製、数平均分子量1,200、重量平均分子量3,400、固形分98%、アミン価19mmol/g(不揮発分)、1級アミン/2級アミン/3級アミン=35/35/30(mol%))25g(0.4655mol相当)を仕込んでおき、攪拌しながら、100℃に昇温した後、ステアリルグリシジルエーテル(分子量363.0g/mol)67.59g(0.1862mol相当)投入し、反応温度100℃で16時間、ポリエチレンイミンとステアリルグリシジルエーテルの付加反応を行った(付加工程)。係る操作により、ポリエチレンイミンの窒素原子にステアリルグリシジルエーテルに由来する構造を有する置換基が付加してなるポリエチレンイミン誘導体(誘導体1’)を得た。得られた誘導体1’について、ガスクロマトグラフィーを用いて未反応のステアリルグリシジルエーテルの残量を測定した結果、残量は1%未満であった。すなわち、ステアリルグリシジルエーテルの反応率は99%以上であり、ポリエチレンイミンに含まれる窒素原子に対するステアリルグリシジルエーテルに由来する置換基の付加量(付加mol%)は40mol%であった。
【0100】
〔比較例2〕
温度計、還流冷却器および撹拌装置を備えた100mLの四つ口フラスコに、ポリエチレンイミンの水溶液(日本触媒社製、数平均分子量1,200、重量平均分子量3,400、固形分98%、アミン価19mmol/g(不揮発分)、1級アミン/2級アミン/3級アミン=35/35/30(mol%))25g(0.4655mol相当)と、水25gとを仕込んでおき、攪拌しながら、100℃に昇温した後、ステアリルグリシジルエーテル(分子量363.0g/mol)67.59g(0.1862mol相当)投入し、反応温度100℃で16時間、ポリエチレンイミンとステアリルグリシジルエーテルの付加反応を行った(付加工程)。係る操作により、ポリエチレンイミンの窒素原子にステアリルグリシジルエーテルに由来する構造を有する置換基が付加してなるポリエチレンイミン誘導体(誘導体2’)を得た。得られた誘導体2’について、ガスクロマトグラフィーを用いて未反応のステアリルグリシジルエーテルの残量を測定した結果、残量は1%未満であった。すなわち、ステアリルグリシジルエーテルの反応率は99%以上であり、ポリエチレンイミンに含まれる窒素原子に対するステアリルグリシジルエーテルに由来する置換基の付加量(付加mol%)は40mol%であった。
【0101】
〔比較例3〕
1,2-エポキシデカンに変えて、表2に記載のグリシジルエーテル化合物を、表2に記載の付加量となるようポリエチレンイミンと付加反応させたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリエチレンイミンの窒素原子に特定のエポキシ化合物に由来する構造を有する置換基が付加してなるポリエチレンイミン誘導体(誘導体3’)を得た。
【0102】
〔比較例4〕
表2に記載の付加量となるようステアリルグリシジルエーテルとポリエチレンイミンを付加反応させたこと以外は、比較例1と同様にして、ポリエチレンイミンの窒素原子に特定のステアリルグリシジルエーテルに由来する構造を有する置換基が付加してなるポリエチレンイミン誘導体(誘導体4’)を得た。
【0103】
実施例1~11および比較例1~4のポリエチレンイミン誘導体について、上記の方法で、水への溶解性、水に分散または溶解した状態での保存安定性、毛髪の指通り、毛髪のツヤ、毛髪の疎水性(接触角)および水洗後の毛髪の疎水性(接触角)を測定および評価した。結果を表1または表2に示す。なお、比較例2~4については、得られたポリエチレンイミン誘導体が水に溶解および分散できなかったため、毛髪の指通り、毛髪のツヤ、毛髪の疎水性(接触角)および水洗後の毛髪の疎水性(接触角)については測定することができなかった。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
表1および2中、C8~C18の記載は、付加物として使用したエポキシ基含有化合物またはグリシジルエーテル化合物の、エポキシ基またはグリシジルエーテル部分を除いた炭素数である。
【0107】
<ポリアルキレンイミンに含まれる窒素原子に対する置換基の付加量>
なお、表1および2中、付加量(付加mol%)は、ポリアルキレンイミンに含まれる窒素原子に対するエポキシ基含有化合物またはグリシジルエーテル化合物(すなわち、式(1)および/または(2)の構造を有する化合物)の付加反応量であり、下記式に基づき算出した値である:
付加量(mol%)={[エポキシ基含有化合物またはグリシジルエーテル化合物の反応量(g)/エポキシ基含有化合物またはグリシジルエーテル化合物の分子量(g/mol)]÷[ポリアルキレンイミン(g)×固形分(%)×アミン価(mmol/g(不揮発分))/1000]}×100(%)。
式中、ポリアルキレンイミンは、置換基を付加する前のポリアルキレンイミンであり、アミン価は当該置換基を付加する前のポリアルキレンイミンのアミン価である。
【0108】
なお、実施例および比較例におけるエポキシ基含有化合物およびグリシジルエーテル化合物の反応率はいずれも99%以上であった為、エポキシ基含有化合物またはグリシジルエーテル化合物の反応量としては、エポキシ基含有化合物またはグリシジルエーテル化合物の仕込み量を代入した。
【0109】
〔実施例12~16〕
表3に記載の種類および量の、ポリエチレンイミン誘導体(実施例1,6~9で作製した、誘導体1、6~9)と、コハク酸と、精製水とを混合し、ポリエチレンイミン誘導体を含む化粧料組成物(化粧料組成物1~5)を調製した。得られた化粧料組成物について、上記の方法で、水への溶解性、水に分散または溶解した状態での保存安定性、毛髪の指通り、毛髪のツヤ、毛髪の疎水性(接触角)および水洗後の毛髪の疎水性(接触角)を測定および評価した。また、比較例5として、未処理(化粧料組成物を使用しない状態)の毛髪について、各物性を測定および評価した。結果を表3に示す。
【0110】
【表3】
【0111】
表3中、各成分の配合量の単位は質量%であり、各誘導体の含有量は固形分換算の数値である。
【0112】
表1より、本ポリアルキレンイミン誘導体は、水に溶解または分散した状態においても優れた保存安定性を有していることが分かる。また、表1および3より、本ポリアルキレンイミン誘導体は、化粧料用材料ならびに化粧料組成物としても好適に利用できることが分かる。
【0113】
一方で、表2より、ポリアルキレンイミンの数平均分子量(Mn)が50,000未満であるか、置換基(付加物)の付加量が0.1mol%~35mol%の範囲外である従来のポリアルキレンイミン誘導体は、水に溶解または分散することができないか、水に溶解または分散することはできても、保存安定性には劣るものであることが分かる。
【0114】
〔抗菌性評価〕
(MIC(最小発育阻止濃度))
実施例で調製した誘導体1、6~9および11、ならびに、未変性のポリエチレンイミン(数平均分子量70,000、重量平均分子量350,000)の1wt%水溶液を、ミューラーヒントン培地中で2倍ずつ順次希釈していき、各誘導体含有培地の希釈系列を調製した。その後、各濃度の実施例を含有する培地をポリスチレン製96穴プレートに50μLずつ添加した。次に、18時間ミューラーヒントン寒天培地上で生育させた大腸菌(Escherichia coli、NBRC-3972)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus、NBRC-13276)または緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa、NBRC-13275)のコロニーをバターフィールド緩衝液に懸濁し、10×10個/mL程度の菌液を調製した。調製した菌液をミューラーヒントン培地中で10×10個/mL程度まで希釈し、上記で調製した希釈系列に対して50μLずつ添加した。35℃にて20時間静置後、希釈系列のうち、菌が生育していない培地中の最小の抗菌剤濃度(ppm)を、最小発育阻止濃度(MIC)として決定した。菌の生育の有無は、目視にて培地の濁度が上昇しているかによって判断した。結果を表4に示す。
【0115】
【表4】
【0116】
表4より、本ポリアルキレンイミン誘導体は、優れた抗菌性を有することが分かる。
【0117】
〔処方例1〕
下記の処方に基づき、化粧料組成物(ヘアミスト)を調製した。調製したヘアミストのpHは4.5であった。当該ヘアミストは、毛髪に塗布した際のツヤ、指通りに優れ、乾燥後も良好な感触を付与することができる。
【0118】
(処方)
95%エタノール 30.00質量%
グリセリン 2.00質量%
1,3-ブチレングリコール 1.00質量%
エチドロン酸(キレスト PH-210SD、キレスト社製) 0.20質量%
PEG-40水添ヒマシ油 0.20質量%
香料 0.05質量%
フェノキシエタノール 0.20質量%
誘導体8(固形分) 0.20質量%
コハク酸 0.07質量%
イオン交換水 残量
合計 100質量%。
【0119】
〔処方例2〕
下記の処方に基づき、化粧料組成物(シャンプー)を調製した。調製したシャンプーのpHは5.5であった。当該シャンプーは、毛髪に適用した際の泡立ちや指通り、洗い流し時の指通りに優れ、乾燥した後にも良好な感触を毛髪に付与することができる。
【0120】
(処方)
安息香酸ナトリウム 0.30質量%
エチドロン酸(キレスト PH-210SD、キレスト社製) 0.20質量%
グリセリン 2.00質量%
コカミドMEA 1.50質量%
カチオン化セルロース 0.30質量%
ラウリルベタイン(花王社製、アンヒトール20BS) 25.00質量%
ラウレス-4カルボン酸ナトリウム(三洋化成工業社製、ビューライト LCA-25F) 30.00質量%
デシルグルコシド(花王社製、マイドール10) 10.00質量%
誘導体7(固形分) 0.20質量%
フェノキシエタノール 0.30質量%
コハク酸 0.18質量%
イオン交換水 残量
合計 100質量%。
【0121】
〔処方例3〕
下記の処方に基づき、化粧料組成物(ヘアコンディショナー)を調製した。調製したヘアコンディショナーのpHは3.8であった。当該ヘアコンディショナーは、毛髪に適用して洗い流し時の指通りに優れ、乾燥した後にも良好な感触を毛髪に付与することができる。
【0122】
(処方)
乳酸 0.68質量%
エチドロン酸(キレスト PH-210SD、キレスト社製) 0.10質量%
1,3-ブチレングリコール 3.00質量%
水添ナタネ油アルコール 7.00質量%
ベヘナミドプロピルジメチルアミン(NIKKOL アミドアミン MPB PLUS、日光ケミカルズ社製) 2.00質量%
ネオペンタン酸イソステアリル(ネオライト 180P、高級アルコール工業社製)
2.00質量%
誘導体9(固形分) 0.30質量%
イオン交換水 残量
合計 100質量%。
【0123】
〔処方例4〕
下記の処方に基づき、化粧料組成物(ヘアトリートメント)を調製した。調製したヘアトリートメントのpHは4.4であった。当該ヘアトリートメントは、毛髪に適用して洗い流し時の指通りに優れ、乾燥した後にも良好な感触を毛髪に付与することができる。
【0124】
(処方)
グリセリン 3.00質量%
エチドロン酸(キレスト PH-210SD、キレスト社製) 0.10質量%
ベヘントリモ二ウムクロリド(カチオン VB-Mフレーク、日油社製)
2.00質量%
ステアルトリモニウムクロリド(コータミン 86Pコンク、花王社製)
0.80質量%
セテアリルアルコール(カルコール 6850、花王社製) 5.00質量%
ステアリン酸グリセリル(レオドール MS-50、花王社製) 0.50質量%
誘導体7(固形分) 0.20質量%
コハク酸 0.14質量%
イオン交換水 残量
合計 100質量%。
【0125】
〔処方例5〕
下記の処方に基づき、化粧料組成物(ヘアミルク)を調製した。調製したヘアミルクのpHは4.9であった。当該ヘアミルクは、毛髪に塗布した際の指通りに優れ、乾燥した後にも良好な感触を毛髪に付与することができる。
【0126】
(処方)
1,3-ブチレングリコール 2.00質量%
エチドロン酸(キレスト PH-210SD、キレスト社製) 0.20質量%
ポリクオタニウム-37(ビスカレス HPD、クローダジャパン社製)
2.00質量%
ネオペンタン酸イソステアリル(ネオライト 180P、高級アルコール工業社製)
5.00質量%
誘導体8(固形分) 0.20質量%
フェノキシエタノール 0.20質量%
コハク酸 0.06質量%
イオン交換水 残量
合計 100質量%。
【0127】
なお、これらの処方例はあくまで例示であり、本ポリアルキレンイミン誘導体を含む化粧料組成物の組成物はこれらに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の一態様によれば、水に溶解または分散させた状態での保存安定性に優れる新規のポリアルキレンイミン誘導体を提供することができる。このような水に溶解または分散させた状態での保存安定性に優れるポリアルキレンイミン誘導体は、化粧料用材料等の用途に好適に利用することができる。