IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社常光の特許一覧 ▶ 国立大学法人信州大学の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100733
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】蚕の飼育方法、食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 20/142 20160101AFI20240719BHJP
   A23K 50/90 20160101ALI20240719BHJP
   A01K 67/04 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
A23K20/142
A23K50/90
A01K67/04 304D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024003011
(22)【出願日】2024-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2023003958
(32)【優先日】2023-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000146445
【氏名又は名称】株式会社常光
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】羽田 典久
(72)【発明者】
【氏名】梶浦 善太
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005FA04
2B005FA08
2B150AA09
2B150AB04
2B150AB20
2B150DA46
2B150DA47
2B150DA49
(57)【要約】
【課題】食品又は食品添加物への適用性に優れた蚕の飼育方法を提供する。
また、本発明は、上記蚕の飼育方法により得られた蚕を使用した食品の製造方法を提供する。
【解決手段】2種以上のアミノ酸を含む飼料をエリ蚕に給餌して飼育する、蚕の飼育方法であって、2種以上のアミノ酸のうち最も含有量の多いアミノ酸の含有量が、飼料全質量に対して、4.00質量%以上である、蚕の飼育方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上のアミノ酸を含む飼料をエリ蚕に給餌して飼育する、蚕の飼育方法であって、
前記2種以上のアミノ酸のうち最も含有量の多いアミノ酸の含有量が、前記飼料全質量に対して、4.00質量%以上である、蚕の飼育方法。
【請求項2】
前記2種以上のアミノ酸のうち最も含有量の多いアミノ酸の含有量が、前記飼料全質量に対して、5.00質量%以上である、請求項1に記載に蚕の飼育方法。
【請求項3】
前記2種以上のアミノ酸のうち最も含有量の多いアミノ酸がグルタミン酸である、請求項1に記載の蚕の飼育方法。
【請求項4】
香料、脂肪酸、甘味料、塩味料、酸味料、苦味料、辛味料、及び旨味料からなる群から選択される化合物を含む飼料をエリ蚕に給餌して飼育する、蚕の飼育方法。
【請求項5】
前記エリ蚕が、3~5齢のエリ蚕である、請求項1又は4に記載の蚕の飼育方法。
【請求項6】
請求項1又は4に記載の蚕の飼育方法によって飼育されたエリ蚕を乾燥して、エリ蚕の乾燥物を形成する工程1と、
前記工程1により得られた前記乾燥物を使用して食品を製造する工程2と、を有する、食品の製造方法。
【請求項7】
前記工程2が、前記工程1により得られた前記乾燥物を粉末化して得られる粉末を使用して食品を製造する工程である、請求項6に記載の食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蚕の飼育方法及び食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絹製品は蚕の繭から産生されており、従来より、収繭量を高めるため、蚕の常食である生葉の品種改良及び蚕の品種やその飼育方法の改良等が検討されてきた。
例えば、特許文献1では、収繭量を高める上で好適な蚕の飼育方法として、「少なくとも5齢の蚕を桑葉で成育させ、5齢後期の蚕に、昆虫脱皮ホルモン活性物質を投与することを特徴とする蚕の飼育方法。」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-129546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、昨今、世界的な人口増加に伴って食糧不足が予測されており、畜産や水産等に代わる代替タンパクが検討されつつある。
本発明者らは、野蚕の一つであるヤママユガ科に属する鱗翅目昆虫に含まれるエリ蚕に着目してその食品又は食品添加物としての用途について検討したところ、ヒマ及びキャッサバ等のエリ蚕が常食とする生葉を給餌して飼育されたエリ蚕を実際に食する上では、風味及び香りに関して更なる改善が必要であることを明らかとした。また、上記風味及び香り等以外にも、特定の栄養素を補給するような用途への展開を考慮すれば、エリ蚕中における所定の成分(例えば、所定のアミノ酸)の含有量を多くできれば、より食品又は食品添加物への適用性が広がる。
【0005】
そこで、本発明は、食品又は食品添加物への適用性に優れた蚕の飼育方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、上記蚕の飼育方法により得られた蚕を使用した食品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。すなわち、以下の構成により上記課題が解決されることを見出した。
【0007】
〔1〕 2種以上のアミノ酸を含む飼料をエリ蚕に給餌して飼育する、蚕の飼育方法であって、2種以上のアミノ酸のうち最も含有量の多いアミノ酸の含有量が、飼料全質量に対して、4.00質量%以上である、蚕の飼育方法。
〔2〕 2種以上のアミノ酸のうち最も含有量の多いアミノ酸の含有量が、飼料全質量に対して、5.00質量%以上である、〔1〕に記載に蚕の飼育方法。
〔3〕 2種以上のアミノ酸のうち最も含有量の多いアミノ酸がグルタミン酸である、〔1〕又は〔2〕に記載に蚕の飼育方法。
〔4〕 香料、脂肪酸、甘味料、塩味料、酸味料、苦味料、辛味料、及び旨味料からなる群から選択される化合物を含む飼料をエリ蚕に給餌して飼育する、蚕の飼育方法。
〔5〕 上記エリ蚕が、3~5齢のエリ蚕である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の蚕の飼育方法。
〔6〕 〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の蚕の飼育方法によって飼育されたエリ蚕を乾燥して、エリ蚕の乾燥物を形成する工程1と、
上記工程1により得られた上記乾燥物を使用して食品を製造する工程2と、を有する、食品の製造方法。
〔7〕 上記工程2が、上記工程1により得られた上記乾燥物を粉末化して得られる粉末を使用して食品を製造する工程である、〔6〕に記載の食品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、食品又は食品添加物への適用性に優れた蚕の飼育方法を提供できる。
また、本発明によれば、上記蚕の飼育方法により得られた蚕を使用した食品の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、以下では、本発明を各実施態様毎に説明する。
【0010】
[第1実施態様:蚕の飼育方法]
本発明の蚕の飼育方法の第1実施態様は、香料、アミノ酸、脂肪酸、甘味料、塩味料、酸味料、苦味料、辛味料、及び旨味料からなる群から選択される化合物(以下「特定化合物」ともいう。)を含む飼料(以下「特定飼料1」ともいう。)をエリ蚕に給餌して飼育する方法である。
本発明の蚕の飼育方法の第1実施態様により得られるエリ蚕は、風味及び香味が改良されており、食品又は食品添加物への適用性に優れる。
【0011】
本発明の蚕の飼育方法の第1実施態様では、エリ蚕を使用する。
エリ蚕は、野蚕の一つであるヤママユガ科に属する鱗翅目昆虫(絹糸昆虫)に含まれ、その一生は、「卵(胚)」(産卵直後より孵化直前までの間の期間)、「幼虫」(孵化直後から繭の形成終了直前の期間(1齢期~5齢期))、「蛹」(繭の形成終了直前から羽化する直前までの期間)、及び、「成虫(蛾)」(羽化直後から死亡までの期間)の各状態を経る。
【0012】
エリ蚕は、卵より孵化した後の幼虫の状態では、ヒマ等の生葉を食べて発育する期間(齢)と、食べずに脱皮の準備をする期間(眠)を交互に繰り返す。
エリ蚕を含むカイコの幼虫において、孵化してから1回目の脱皮までを1齢期、1回目の脱皮から2回目の脱皮までを2齢期といい、通常、4回脱皮して5齢期が終齢である。その後、カイコの幼虫は、体が半透明になり絹糸を吐いて繭を形成し始め(営蚕)、繭中で蛹化し、羽化して成虫となる。
エリ蚕は、上述のヒマのほか、キャッサバ、シンジュ、クロガネモチ、ネズミモチ、及びパパイヤ等の生葉を常食とし、雑食性であることが知られている。
【0013】
本発明の蚕の飼育方法の第1実施態様においてエリ蚕へ給餌する飼料(特定飼料1)は、香料、アミノ酸、脂肪酸、甘味料、塩味料、酸味料、苦味料、辛味料、及び旨味料からなる群から選択される化合物(特定化合物)を含む。香料、アミノ酸、脂肪酸、甘味料、塩味料、酸味料、苦味料、辛味料、及び旨味料としては、食品に適用されている公知物を適宜使用できる。
特定化合物は、1種単独で使用されてもよいし、2種以上を併用してもよい。
特定飼料1に特定化合物を配合する方法としては特に制限されず、特定化合物自体を配合してもよいし、特定化合物を含む食品(例えば、特定化合物がオレイン酸の場合、オレイン酸を含むオリーブオイル等が該当する。)を配合してもよい。
【0014】
香料としては、食品に香りを付与するために一般に使用され得るものであれば特に制限されず、例えば、酢酸エチル等のエステル類、イソアミルアルコール等のアルコール類、リナロール、ミルセン、ゲラニオール、及びリモネン等のモノテルペン類、カリオフィレン、フムレン、及びファルネセン等のセスキテルペン類、並びに、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシ桂皮酸、プロアントシアニジン、及びフラボノイド類等のフェノール成分等が挙げられる。
【0015】
アミノ酸としては、例えば、バリン、ロイシン、イソロイシン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、アラニン、プロリン、システイン、リジン、スレオニン、アスパラギン、フェニルアラニン、セリン、メチオニン、グリシン、チロシン、ヒスチジン、及びトリプトファン等が挙げられる。
【0016】
脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、ミリストレイン酸、及びエイコセン酸等の一価不飽和脂肪酸(オメガ9系脂肪酸);リノール酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、及びエイコペンタエン酸(EPA)等の多価不飽和脂肪酸(オメガ3系、オメガ6系脂肪酸)等が挙げられる。
【0017】
甘味料としては、食品に甘味を付与するために一般に使用され得るものであれば特に制限されず、例えば、糖類、糖アルコール、及び高甘味度甘味料等が挙げられる。
糖類としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水あめ、乳糖、異性化液糖、ショ糖結合水あめ、はちみつ、オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖等の単糖、二糖、オリゴ糖、及び多糖等が挙げられる。
糖アルコールとしては、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、及びエリスリトール等が挙げられる。
高甘味度甘味料としては、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ステビア、ネオテーム、甘草、グリチルリチン、グリチルリチン酸塩、ジヒドロカルコン、ソーマチン、及びモネリン等が挙げられる。なお、「高甘味度甘味料」とは、ショ糖と比較して高い甘味度(具体的には、ショ糖の10倍以上の甘味度)を有する、天然又は合成の非糖質系甘味料の総称である。
【0018】
塩味料としては、食品に塩味を付与するために一般に使用され得るものであれば特に制限されず、例えば、食塩、無機化合物のカリウム塩及びアルカリ土類金属塩、並びに、有機酸のカリウム塩及び及びアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
無機化合物のカリウム塩としては、例えば、塩化カリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、及びリン酸三カリウム等が挙げられる。無機化合物のアルカリ土類金属塩としては、マグネシウム塩又はカルシウム塩が好ましく、例えば、塩化マグネシウム等が挙げられる。
有機酸のカリウム塩としては、例えば、クエン酸二水素カリウム、クエン酸三カリウム、グルコン酸カリウム、グルタミン酸カリウム、酒石酸水素カリウム、及び乳酸カリウム等が挙げられる。有機酸のアルカリ土類金属塩としては、マグネシウム塩及びカルシウム塩が好ましく、例えば、クエン酸カルシウム、グルタミン酸カルシウム、グルタミン酸マグネシウム、及び乳酸カルシウム等が挙げられる。
【0019】
酸味料としては、食品に酸味を付与するために一般に使用され得るものであれば特に制限されず、例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、アスコルビン酸、酢酸、コハク酸、乳酸、グルコン酸、アジピン酸、イタコン酸、フィチン酸、及びフマル酸等の有機酸又はそのアルカリ金属塩(好ましくはナトリウム塩);リン酸等の無機酸又はその塩;等が挙げられる。
【0020】
苦味料としては、食品に苦味を付与するために一般に使用され得るものであれば特に制限されず、例えば、クエン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、ナリンジン、キニーネ、クワシン、カフェイン、モモルデシン、クエルシトリン、テオブロミン、及びイソフムロン類等が挙げられる。
【0021】
辛味料としては、食品に辛味を付与するために一般に使用され得るものであれば特に制限されず、例えば、ピペリン、シャビシン、サンショアミド、α-サンショール、β-サンショール、ジンゲロン、ジンゲロール、カプサイシン、タデオナール、ジアリルサルファイド、ジアリルジサルファイド、プロピルアリルジスルフィド、ジプロピルジスルフィド、ジアリルトリスルフィド、アリルイソチオシアネート、アリイン、アリシン、4-メチルチオ-3-ブチニール・イソチオシアネート、ソラニン、スピラントール、シナルビンカラシ油、クロトニルカラシ油、ヘイロリン、フェニルエチルカラシ油、ベンジルカラシ油、エリソリン、及びパラドール等が挙げられる。
【0022】
旨味料としては、食品に旨味を付与するために一般に使用され得るものであれば特に制限されず、例えば、L-グルタミン酸モノナトリウム、イノシン酸ナトリウム、及びグアニル酸ナトリウム等が挙げられる。
【0023】
特定飼料1は、特定化合物を含めばその種類は特に制限されず、例えば、特定化合物及び乾燥葉粉末(例えば、ヒマ、クワ、キャッサバ、シンジュ、クロガネモチ、ネズミモチ、及びパパイヤ等の乾燥葉粉末)を寒天及びカラギーナン等の増粘剤で固めてなる固形物等が挙げられる。
なお、上述のとおり、特定飼料1に特定化合物を配合する際、特定化合物自体を配合してもよいし、特定化合物を含む食品を配合してもよい。
上記固形物は、上記成分以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、脱脂大豆粉末、おから、澱粉、ビタミン類、ミネラル類、防腐剤、抗生物質、繊維(例えばセルロース等)、及び水等が挙げられる。
上記固形物である特定飼料1は、例えば、寒天が溶解する70℃程度の水に所定の成分(寒天を含む)を添加して攪拌し、攪拌後に冷却して固化させることで形成できる。
特定飼料1としては、特定化合物、乾燥葉粉末(例えば、乾燥ヒマ葉粉末)、及び市販の人工飼料(例えば、日本農産工業製の「シルクメイトL4M」等)を寒天及びカラギーナン等の増粘剤で固めてなる固形物等も好ましい。
【0024】
エリ蚕への特定飼料1の給餌時期は、1~5齢の間のいずれの間であってもよいが、月齢が1~2齢の時期に特定飼料1を給餌した場合、エリ蚕が死亡し易く歩留まりが劣る場合がある。このため、死亡数を抑制して歩留まりが向上する点で、エリ蚕への特定飼料1の給餌時期は、3~5齢の間であるのが好ましい。
なお、月齢が1~2齢のエリ蚕には、人工飼料、並びに、ヒマ、キャッサバ、シンジュ、クロガネモチ、ネズミモチ、及びパパイヤ等の生葉を給餌するのが好ましい。
【0025】
上述の本発明の蚕の飼育方法の第1実施態様により得られるエリ蚕は、幼虫及び蛹の時期(好ましくは、5齢経過後であって営繭の直前の時期)に食品又は食品添加物へ適用されるのが好ましい。
エリ蚕を食品又は食品添加物へ適用する方法としては特に制限されない。例えば、エリ蚕を人工乾燥法及び自然乾燥法により乾燥して得られる乾燥物自体を食品又は食品添加物としてもよいし、上述の乾燥物を更に粉体化したものを食品又は食品添加物としてもよい。
【0026】
[第2実施態様:蚕の飼育方法]
本発明の蚕の飼育方法の第2実施態様は、2種以上のアミノ酸を含む飼料(以下「特定飼料2」ともいう。)をエリ蚕に給餌して飼育する、蚕の飼育方法であって、2種以上のアミノ酸のうち最も含有量の多いアミノ酸の含有量が、飼料全質量に対して、4.00質量%以上である、蚕の飼育方法である。
本発明の蚕の飼育方法の第2実施態様により得られるエリ蚕は、特定飼料2中における最も含有量が多いアミノ酸の含有量が多くなり、食品又は食品添加物への適用性に優れる。
【0027】
本発明の蚕の飼育方法の第2実施態様では、エリ蚕を使用する。
エリ蚕の態様は、本発明の蚕の飼育方法の第1実施態様で説明したエリ蚕の態様と同様であるため、説明を省略する。
【0028】
本発明の蚕の飼育方法の第2実施態様においてエリ蚕へ給餌する飼料(特定飼料2)は、2種以上のアミノ酸を含み、2種以上のアミノ酸のうち最も含有量の多いアミノ酸の含有量が、飼料全質量に対して、4.0質量%以上である飼料である。
特定飼料2には、2種以上のアミノ酸が含まれる。
アミノ酸としては、例えば、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、チロシン、スレオニン、トリプトファン、バリン、ヒスチジン、アルギニン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、プロリン、セリン、グルタミン、及びアスパラギン等が挙げられる。
2種以上のアミノ酸は、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、チロシン、スレオニン、トリプトファン、バリン、ヒスチジン、アルギニン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、プロリン、及びセリンからなる群から選択されるアミノ酸を含むことが好ましい。
なかでも、2種以上のアミノ酸は、少なくともグルタミン酸を含むことが好ましい。まあ、2種以上のアミノ酸のうち最も含有量が多いアミノ酸が、グルタミン酸であることが好ましい。
【0029】
2種以上のアミノ酸のうち最も含有量の多いアミノ酸の含有量は、飼料全質量に対して、4.00質量%以上である。なかでも、得られるエリ蚕中における所定のアミノ酸の含有量がより多くなる点で、5.00質量%以上が好ましく、6.00質量%以上がより好ましく、10.0質量%以上がさらに好ましく、13.0質量%以上が特に好ましい。
飼料全質量に対する、2種以上のアミノ酸のうち最も含有量の多いアミノ酸の含有量の上限値は特に制限されないが、エリ蚕が飼料をより食べやすい点で、16.8質量%以下が好ましく、15.0質量%以下がより好ましい。
【0030】
飼料中における、2種以上のアミノ酸の合計含有量は特に制限されないが、得られるエリ蚕中におけるアミノ酸の含有量がより多くなる点で、飼料全質量に対して、5.00質量%以上が好ましく、10.0質量%以上がより好ましく、20.0質量%以上がさらに好ましく、21.5質量%以上が特に好ましく、25.0質量%以上が最も好ましい。
上記飼料中における、2種以上のアミノ酸の合計含有量の上限値は特に制限されないが、エリ蚕が飼料をより食べやすい点で、飼料全質量に対して、50.0質量%以下が好ましく、40.0質量%以下がより好ましく、30.0質量%以下がさらに好ましい。
【0031】
特定飼料2は、上述した2種以上のアミノ酸を含めば、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、特に制限されず、例えば、乾燥葉粉末(例えば、クワ、ヒマ、キャッサバ、シンジュ、クロガネモチ、ネズミモチ、及びパパイヤ等の乾燥葉粉末)が挙げられる。
上記乾燥葉粉末以外にも、他の成分としては、例えば、脱脂大豆粉末、おから、澱粉、ビタミン類、ミネラル類、防腐剤、抗生物質、繊維(例えばセルロース等)、及び水等が挙げられる。
【0032】
特定飼料2の調製方法は特に制限されないが、例えば、市販の人工飼料(例えば、「くわのはな」等)に2種以上のアミノ酸を混合する方法が挙げられる。
【0033】
エリ蚕への特定飼料2の給餌時期は、1~5齢の間のいずれの間であってもよいが、月齢が1~2齢の時期に特定飼料2を給餌した場合、エリ蚕が死亡し易く歩留まりが劣る場合がある。このため、死亡数を抑制して歩留まりが向上する点で、エリ蚕への特定飼料2の給餌時期は、3~5齢の間であるのが好ましく、5齢のときであるのがより好ましい。
なお、特定飼料2を給餌する前のエリ蚕には、人工飼料、並びに、ヒマ、キャッサバ、シンジュ、クロガネモチ、ネズミモチ、及びパパイヤ等の生葉を給餌するのが好ましい。
【0034】
エリ蚕への特定飼料2の給餌量は特に制限されないが、一日の給餌量としてはエリ蚕1頭あたり0.1~15gが好ましく、0.2~12gがより好ましい。
【0035】
上述の本発明の蚕の飼育方法の第2実施態様により得られるエリ蚕は、幼虫及び蛹の時期(好ましくは、5齢経過後であって営繭の直前の時期)に食品又は食品添加物へ適用されるのが好ましい。
エリ蚕を食品又は食品添加物へ適用する方法としては特に制限されない。例えば、エリ蚕を人工乾燥法及び自然乾燥法により乾燥して得られる乾燥物自体を食品又は食品添加物としてもよいし、上述の乾燥物を更に粉体化したものを食品又は食品添加物としてもよい。
【0036】
[食品の製造方法]
本発明の食品の製造方法は、下記工程1及び工程2を含むのが好ましい。
工程1:本発明の蚕の飼育方法(第1実施態様及び第2実施態様)によって飼育されたエリ蚕を乾燥して、エリ蚕の乾燥物を形成する工程
工程2:工程1により得られた乾燥物を使用して食品を製造する工程
【0037】
工程1における本発明の蚕の飼育方法(第1実施態様及び第2実施態様)は、既述のとおりである。
工程1における乾燥方法としては、人工乾燥法及び自然乾燥法が挙げられる。
人工乾燥法としては、特に制限されないが、例えば、凍結乾燥法、低温乾燥法、及び加圧乾燥法等が好ましい。
「凍結乾燥」とは、水分を含む食品等を低温(通常-30℃以下)で急速に凍結させ、凍結させた固体に対して真空下で熱を加えることで水分を昇華させ、乾燥させる方法である。低温での乾燥となるため、成分の変質等が生じにくく、食品の色、香り、風味、及び栄養等が損なわれにくい。また、凍結した状態から水分のみが昇華するため、乾燥前後で形状の変化が抑制され易い。なお、凍結乾燥において凍結させた固体に対して熱を加える手法としては、マイクロ波であってもよい。
凍結乾燥処理は、市販の真空凍結乾燥機及びマイクロ波凍結乾燥機を使用し、公知手法にて実施できる。
【0038】
「低温乾燥」とは、水分を含む食品等を湿度を下げた低温(通常20~30℃程度)の空気環境下で乾燥させる方法である。低温乾燥処理は、市販の低温乾燥機を使用し、公知手法にて実施できる。
「加圧乾燥」とは、密閉容器内において水分を含む食品等を加熱・加圧した後、急速に常圧に戻し、瞬間的に水分を蒸発させて乾燥させる方法である。加圧乾燥処理は、市販の加圧乾燥機を使用し、公知手法にて実施できる。
【0039】
「自然乾燥」とは、天日干し及び陰干し等の自然エネルギーを利用した乾燥方法である。
【0040】
工程1を経て得られたエリ蚕の乾燥物は、それ自体を食品又は食品添加物としてもよいし、乾燥物を更に粉体化することにより得られる粉末物を食品又は食品添加物としてもよい。
【実施例0041】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、及び、処理手順は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更できる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0042】
[飼料の調製]
人工飼料である「くわのはな」に対して、グルタミン酸を所定量添加して、後述する表1に示す所定量のグルタミン酸を含む飼料1及び2を作製した。また、比較対象として、人工飼料である「くわのはな」そのものを比較飼料として用いた。
表1においては、比較飼料、飼料1及び飼料2(各100g)中におけるアミノ酸の含有量(mg)を示す。いずれの飼料においても、2種以上のアミノ酸の含まれており、最も含有量の多いアミノ酸はグルタミン酸であった。また、比較飼料において、比較飼料全質量に対するグルタミン酸の含有量は3.69%であり、飼料1において、飼料1全質量に対するグルタミン酸の含有量は6.72%であり、飼料2において、飼料2全質量に対するグルタミン酸の含有量は14.7%であった。
【0043】
【表1】
【0044】
[飼育方法]
孵化から4齢終わりまでヒマ(生葉)で飼育した5齢起蚕(5齢のエリ蚕)に対して、上述した比較飼料、飼料1及び飼料2をそれぞれ給餌して、飼育した。
なお、各飼料の給餌の際には、5齢起蚕を30頭ずつにした実験区ごとに各飼料を給餌した。また、給餌量に関しては、起蚕から2日間は1g/頭で実施し、その後は、4g/頭にて実施した。給餌期間に関しては、起蚕から吐糸直前まで実施した。
なお、飼育環境は、25℃、湿度80%の条件であった。
【0045】
上記飼育方法により飼育された蚕を凍結乾燥して、各飼料(比較飼料、飼料1及び飼料2)を給餌して得られたエリ蚕中に含まれるアミノ酸の含有量を分析した。
分析方法としては、上記凍結乾燥して得られた蚕の粉末を用いて、高速クロマトグラフィーを用いた、公定法(食品衛生検査指針)に沿った分析を実施した。計測装置としては、高速アミノ酸分析計LA-8080 AminoSAAYA(日立ハイテクサイエンス社製)を用いた。
上記測定結果より、比較飼料を給餌して飼育したエリ蚕中に含まれるグルタミン酸の含有量(以下、単に「含有量1」という。)を基準として、飼料1又は飼料2を給餌して飼育したエリ蚕中に含まれるグルタミン酸の含有量(以下、単に「含有量2」という。)の増加率を算出した。より具体的には、以下の式(1)より算出される増加率を算出した。
式(1) 増加率(%)={(含有量2-含有量1)/含有量1}×100
飼料1を用いた場合には上記増加率は3.9%であり、飼料2を用いた場合には上記増加率が12.3%であった。
上記結果より、本発明の飼育方法においては、所定のアミノ酸の含有量が多い蚕を飼育することができることが確認された。このような蚕を用いることにより、所定のアミノ酸の含有量が多い食品又は食品添加物を得ることができ、本発明によれば食品又は食品添加物への適用性に優れた蚕を飼育することができることが確認された。