(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100744
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】カーボンナイトライド、光触媒、カーボンナイトライドの使用方法、カーボンナイトライドの製造方法、及び針状物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 27/24 20060101AFI20240719BHJP
B01J 35/39 20240101ALI20240719BHJP
B01J 35/31 20240101ALI20240719BHJP
B01J 37/10 20060101ALI20240719BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
B01J27/24 M
B01J35/39
B01J35/31
B01J37/10
B01J37/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024003484
(22)【出願日】2024-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2023004139
(32)【優先日】2023-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】田口 耕造
(72)【発明者】
【氏名】七木田 薫哉
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA01
4G169AA02
4G169AA08
4G169BA04B
4G169BB01A
4G169BB01B
4G169BD03A
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BD06A
4G169BD06B
4G169CA05
4G169CA10
4G169DA05
4G169EA06
4G169EB08
4G169FB10
4G169FB30
4G169HA01
4G169HA02
4G169HB01
4G169HB10
4G169HE05
4G169HF02
(57)【要約】
【課題】カーボンナイトライドの密度が大きいと不利である。
【解決手段】開示のカーボンナイトライドは、見かけ密度が1g/cm
3以下であり得る。開示のカーボンナイトライドは、中空のチューブ状構造を有し得る。開示のカーボンナイトライドは、フロートを有することなく水に浮遊し得る。開示のカーボンナイトライドは、カーボンナイトライドの粉末を水熱法によって処理し、焼成することによって製造され得る。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
見かけ密度が1g/cm3以下である多孔性カーボンナイトライド。
【請求項2】
中空のチューブ状構造を有するカーボンナイトライド。
【請求項3】
フロートを有することなく水に浮遊するカーボンナイトライド。
【請求項4】
ホウ素を含有する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のカーボンナイトライド。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のカーボンナイトライドを有する光触媒。
【請求項6】
投入される液よりも小さい密度を持つカーボンナイトライドを、前記液に投入し、
前記カーボンナイトライドを前記液に浮遊させ、
前記液に浮遊させた前記カーボンナイトライドによって、光触媒作用を生じさせる
ことを備えるカーボンナイトライドの使用方法。
【請求項7】
中空構造カーボンナイトライドの製造方法であって、
カーボンナイトライドの粉末を水熱法によって処理し、
前記水熱法によって処理されたものを焼成する、
ことを備える中空構造カーボンナイトライドの製造方法。
【請求項8】
前記水熱法によって処理する前に、前記カーボンナイトライドを粉砕する、
ことを更に備える請求項7に記載のカーボンナイトライドの製造方法。
【請求項9】
カーボンナイトライドの粉末を水熱法によって処理することを備える針状物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カーボンナイトライド、光触媒、カーボンナイトライドの使用方法、カーボンナイトライドの製造方法、及び針状物質の製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、カーボンナイトライドの粉末を有効成分とする光触媒を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
従来のカーボンナイトライド(C3N4)は、密度が大きいという問題がある。密度が大きいと不利な場合がある。例えば、密度が大きいカーボンナイトライドが、廃液などの液に投入されると、液中で沈殿する。カーボンナイトライドが、液の浄化のための光触媒として用いられる場合、光触媒となるカーボンナイトライドに光が届く必要があるが、沈殿すると光が届きにくくなり、不利である。沈殿を防止するには、例えば、液を回転体によって攪拌することが考えられるが、攪拌をするには、攪拌のための駆動源が必要になってしまう。
【0005】
また、従来のカーボンナイトライドは、光触媒作用が低いという問題もある。
【0006】
したがって、上記問題のいずれかの解決が望まれる。
【0007】
本開示のある側面は、カーボンナイトライドである。開示のカーボンナイトライドは、密度が1g/cm3以下であり得る。
【0008】
開示のカーボンナイトライドは、外殻の内側が空洞である中空構造を有し得る。
【0009】
開示のカーボンナイトライドは、中空のチューブ状構造を有し得る。
【0010】
開示のカーボンナイトライドは、水に浮遊し得る。
【0011】
本開示の他の側面は、光触媒である。開示の光触媒は、前述のカーボンナイトライドを有し得る。
【0012】
本開示の複合体は、カーボンナイトライドと、前記カーボンナイトライドとはバンドギャップが異なる物質と、がヘテロ接合されている。
【0013】
本開示の他の側面は、カーボンナイトライドの使用方法である。開示の使用方法は、前述のカーボンナイトライドを光触媒として使用することを備え得る。
【0014】
開示の使用方法は、投入される液よりも小さい密度を持つカーボンナイトライドを、前記液に投入し、前記カーボンナイトライドを前記液に浮遊させる、ことを備え得る。
【0015】
本開示の他の側面は、カーボンナイトライドの製造方法である。開示の製造方法は、カーボンナイトライドを水熱法によって処理し、前記水熱法によって処理された前記カーボンナイトライドを焼成することを備え得る。
【0016】
また、開示の製造方法は、カーボンナイトライドを水熱法によって処理することを備え得る。
【0017】
更なる詳細は、後述の実施形態として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施形態に係るカーボンナイトライドの製造方法の説明図である。
【
図2】
図2は、メラミン、g-C3N4、FTC3N4粉末の画像である。
【
図3】
図3は、初期カーボンナイトライドであるg-C3N4SEM画像である。
【
図4】
図4は、針状の中間物質のSEM画像である。
【
図5】
図5は、中空構造カーボンナイトライドのSEM画像である。
【
図6】
図6は、中空構造カーボンナイトライドのTEM画像である。
【
図7】
図7は、中空構造カーボンナイトライドの外殻表面のTEM画像である。
【
図8】
図8は、g-C3N4と中空構造カーボンナイトライドの体積の違いを示す画像である。
【
図9】
図9は、沈殿したg-C3N4と浮遊した中空構造カーボンナイトライドを示す画像である。
【
図10】
図10は、中空構造カーボンナイトライドの吸光度(OD値)測定実験を示す図である。
【
図12】
図12は、酸化チタンを担持した場合の吸光度(OD値)測定実験を示す図である。
【
図14】
図14は、太陽光下における試験管分解実験の結果を示す。
【
図17】
図17は、p-フェニレンジアミン分解実験の結果を示す。
【
図18】
図18は、水熱合成時間を変えた場合のローダミンB分解実験の結果を示す。
【
図19】
図19は、水熱合成時間を変えたカーボンナイトライドのX線回折法による分析結果を示す。
【
図20】
図20は、水熱合成時間を変えたカーボンナイトライドのSEM画像である。
【
図21】
図21は、水熱合成時間を変えたカーボンナイトライドのTEM画像である。
【
図22】
図22は、ホウ素を含有するカーボンナイトライドの製造方法の説明図である
【
図23】
図23は、ホウ素を含有するカーボンナイトライドのX線回折法による分析結果を示す図である。
【
図24】
図24は、カーボンナイトライドのSEM画像である。
【
図25】
図25は、ホウ素を含有するカーボンナイトライドのローダミンB分解実験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<1.カーボンナイトライド、光触媒、カーボンナイトライドの使用方法、カーボンナイトライドの製造方法、針状物質の製造方法>
【0020】
(1)実施形態に係るカーボンナイトライドは、密度が1g/cm3以下であり得る。密度は、見かけ密度であり得る(以下同様)。密度が1g/cm3以下である場合、液に沈殿するほど密度が大きいという従来のカーボンナイトライドの問題が解決され得る。密度が1g/cm3以下であるカーボンナイトライドは、密度が1g/cm3である水に浮遊することができ、沈殿し難い。なお、密度が1g/cm3以下であることは、比重が1以下であることと等価である。カーボンナイトライドは、多孔性であり得る。
【0021】
(2)実施形態に係るカーボンナイトライドは、外殻の内側が空洞である中空構造を有し得る。カーボンナイトライドが、外殻と当該外殻の内側の空洞とを備える中空構造を持つと、カーボンナイトライドの嵩が非常に大きくなり、密度ないし比重を小さくすることができる。なお、外殻は、多孔質であり得る。
【0022】
(3)中空構造を有するカーボンナイトライドの密度は、1g/cm3より大きくてもよいが、1g/cm3以下であるのが好ましい。
【0023】
(4)実施形態に係るカーボンナイトライドは、中空のチューブ状構造を有し得る。カーボンナイトライドが、中空のチューブ状構造を有すると、カーボンナイトライドの嵩が非常に大きくなり、密度ないし比重を小さくすることができる。中空のチューブ状構造を有するカーボンナイトライドの密度は、1g/cm3より大きくてもよいが、1g/cm3以下であるのが好ましい。
【0024】
(5)実施形態に係るカーボンナイトライドは、水に浮遊し得る。水に浮遊するカーボンナイトライドは、密度が1g/cm3以下であり得る。なお、水の密度は1g/cm3である。カーボンナイトライドが水に浮遊すると、カーボンナイトライドの沈殿を防止するために水を攪拌する必要がなく、有利である。また、カーボンナイトライドを浮遊させるためには、カーボンナイトライドを浮遊させるフロート(浮き)を利用することが考えられるが、実施形態に係るカーボンナイトライドは、密度ないし比重が小さいため、フロートを有することなく水に浮遊し得る。すなわち、実施形態に係るカーボンナイトライドは、カーボンナイトライド自体に作用する浮力によって水に浮遊できるため、フロートが不要である。
【0025】
前記(1)から(5)のいずれか1項において、カーボンナイトライドの密度の上限は、1g/cm3未満であるのが好ましく、0.98g/cm3以下であるのがより好ましく、0.95g/cm3以下であるのが更に好ましく、0.9g/cm3以下であるのが更に好ましく、0.88g/cm3以下であるのが更に好ましく、0.86g/cm3以下であるのが更に好ましい。
【0026】
前記(1)から(5)のいずれか1項において、カーボンナイトライドの密度の下限は、0.1g/cm3以上であるのが好ましく、0.3g/cm3以下であるのがより好ましく、0.5g/cm3以上であるのが更に好ましく、0.6g/cm3以上であるのが更に好ましく、0.7g/cm3以上であるのが更に好ましく、0.8g/cm3以上であるのが更に好ましい。
【0027】
前記上限及び前記下限から導かれる密度の好適な範囲の例は、例えば、0.1g/cm3以上1g/cm3以下、0.5g/cm3以上1g/cm3以下、0.7g/cm3以上1g/cm3以下、0.1g/cm3以上0.9g/cm3以下、0.5g/cm3以上0.9g/cm3以下、0.7g/cm3以上0.9g/cm3以下、0.3g/cm3以上0.9g/cm3以下、及び0.6g/cm3以上0.9g/cm3以下のいずれかである。
【0028】
(6)実施形態に係る光触媒は、前記(1)から(5)のいずれか1項に記載のカーボンナイトライドを有し得る。
【0029】
(7)実施形態に係る複合体は、前記(1)から(5)のいずれか1項に記載のカーボンナイトライドと、前記カーボンナイトライドとはバンドギャップが異なる物質と、がヘテロ接合された複合体である。
【0030】
(8)実施形態に係るカーボンナイトライドの使用方法は、前記(1)から(5)のいずれか1項に記載のカーボンナイトライドを光触媒として使用することを備え得る。
【0031】
(9)実施形態に係るカーボンナイトライドの使用方法は、投入される液よりも小さい密度ないし比重を持つカーボンナイトライドを、前記液に投入し、前記カーボンナイトライドを前記液に浮遊させる、ことを備え得る。カーボンナイトライドが投入される液は、例えば、廃液などカーボンナイトライドによって浄化される液である。カーボンナイトライドの密度ないし比重が、カーボンナイトライドが投入される液の密度ないし比重よりも小さいことで、投入されたカーボンナイトライドは、液に浮遊することができる。カーボンナイトライドが液に浮遊することで、カーボンナイトライドの沈殿を防止するために液を攪拌する必要がなく、有利である。カーボンナイトライドは、フロートを有することなく、カーボンナイトライド自体に作用する浮力によって液に浮遊できる。カーボンナイトライドは、液の表面に浮遊してもよいし、液の中に浮遊してもよい。
【0032】
(10)前記(9)の使用方法は、前記液に浮遊させた前記カーボンナイトライドによって、光触媒作用を生じさせることを更に備えるのが好ましい。
【0033】
(11)実施形態に係る中空構造カーボンナイトライドの製造方法は、カーボンナイトライドを水熱法によって処理し、前記水熱法によって処理されたものを焼成することを備え得る。本発明者らは、水熱法による処理及びその後の焼成によって、カーボンナイトライドを中空構造にして、カーボンナイトライドの嵩を大きくし、密度を大きく低下させ得ることを発見した。
【0034】
(12)前記(11)の製造方法は、前記水熱法によって処理する前に、前記カーボンナイトライドを粉砕することを更に備え得る。
【0035】
(13)実施形態に係る針状物質の製造方法は、カーボンナイトライドの粉末を水熱法によって処理することを備え得る。水熱法によって処理されたものは、その後、焼成されることで、密度が大きく低下し好適である。また、水熱法によって処理されているが未焼成のものは、焼成後のカーボンナイトライドに比べて嵩が小さく、例えば、輸送などでの取り扱いが容易である。
【0036】
<2.カーボンナイトライド、光触媒、カーボンナイトライドの使用方法、カーボンナイトライドの製造方法、及び針状物質の製造方法の例>
【0037】
カーボンナイトライド(C3N4)は、一般に、安定した物質であり、無毒であり、低コストであり、可視光で反応するという特性を有する。
【0038】
図1は、密度ないし比重が小さいカーボンナイトライドを製造する工程の一例を示している。
図1の製造工程は、密度が比較的大きい初期カーボンナイトライドを得る第1工程S1と、初期カーボンナイトライドを高温高圧で処理する第2工程S2と、第2工程S2で得られたものを焼成する第3工程S3と、を備え得る。第3工程S3によって得られたカーボンナイトライドは、従来のカーボンナイトライドに比べて、嵩が大きく、密度ないし比重が非常に小さい。また、第3工程S3によって得られたカーボンナイトライドは、従来のカーボンナイトライドに比べて、光触媒作用が大きい。第3工程S3によって得られたカーボンナイトライドは、廃液などの液の浄化、又は空気などの気体の浄化のための光触媒として用いられ得る。
【0039】
第3工程S3によって得られたカーボンナイトライドは、中空構造カーボンナイトライド又は低密度カーボンナイトライドと呼ばれ得る。また、第3工程によって得られたカーボンナイトライドは、後述のように液に浮くため浮遊型カーボンナイトライドとも呼ばれ得る。
【0040】
第1工程S1は、従来のカーボンナイトライドを得るための公知の方法によって行われ得る。すなわち、初期カーボンナイトライドは、従来の一般なカーボンナイトライドと同様のものであり、密度が比較的大きく、水に沈殿する。
【0041】
第1工程S1では、一例として、メラミン(C3H6N6)が焼成され、初期カーボンナイトライドとしてのg-C3N4(グラフィティック・カーボンナイトライド)が得られる。g-C3N4は、例えば、メラミンの粉末(
図2のP1参照)を電気炉で焼成することで得られる。メラミンの粉末は、例えば、焼成皿に載せられ、焼成皿に蓋をした状態で、電気炉で焼成される。焼成は、例えば、
図1に示すように、メラミン:6gを500℃で2時間、520℃で2時間、20℃/分で昇温させて行われる。このように、メラミンからg-C3N4を得るための焼成温度T1は、約500℃である。なお、焼成前のメラミンは白色粉末であるのに対して、焼成により得られたg-C3N4の粉末(
図2のP2参照)は、黄色粉末である。
【0042】
図3は、第1工程S1で得られたg-C3N4のSEM画像を示している。
図3に示すように、第1工程S1の焼成で得られたg-C3N4は、不定形の粒状である。
【0043】
図1に示す製造方法では、一例として、第1工程S1の後に、第2工程S2に先立つ前処理として工程S1-1が行われる。工程S1-1では、第1工程S1で得られたg-C3N4が粉砕される。粉砕によって、カーボンナイトライドの粉末を微細化することができる。微細化は、第2工程S2に有利である。また、工程S1-1では、g-C3N4の粉末が水中に均一に分散化される。水は、例えば、精製水である。分散化は、第2工程S2に有利である。
【0044】
工程S1-1は、例えば、g-C3N4をすり潰し、すり潰したg-C3N4と精製水を容器に入れ攪拌し、更にホモジナイザーで粉砕することによって行われ得る。攪拌は、例えば、g-C3N4:2gと精製水:60mlをテフロン(登録商標)容器に入れ、マグネティックスターラーで1時間行われる。ホモジナイザーによる粉砕は、例えば、10分間行われる。
【0045】
第2工程S2では、初期カーボンナイトライドであるg-C3N4から、中間物質が製造される。ここでは、工程S1-1によって水に分散された初期カーボンナイトライドが水熱法によって処理されて、中間物質が得られる。本発明者らは、カーボンナイトライドを水熱法によって処理することで、新規な形態の物質が得られることを発見した。また、本発明者らは、水熱法によって得られたものを、焼成することで、新規な形態のカーボンナイトライドが得られることを発見した。第2工程S2で得られたもの(中間物質)を、X線回折法(XRD)にて分析したところ、中間物質の回折パターンは、カーボンナイトライドの回折パターンとは、ピークの位置が異なっていた。したがって、第2工程S2で得られたものは、カーボンナイトライドとは異なる物質を含むものであると考えられる。また、中間物質の回折パターンは、メラミン(C3H6N6)の回折パターンに近似していた。したがって、中間物質は、メラミン又はメラミンに近い結晶構造を有するものを含む可能性が考えられる。
【0046】
水熱法によって得られる物質の形態は、
図4に示すように、一例として、針状である。ここでの「針状」とは、細長い形状を意味する。第2工程S2では、中間物質として、針状物質が製造され得る。針状としての細長い形状は、例えば、横断面(長さ方向に交差する面)の最大寸法が、長さよりも小さい形状であり、好ましくは、横断面の最大寸法が長さよりも十分に小さい形状である(
図26(A)参照)。針状としての細長い形状において、長さは、横断面の最大寸法の5倍以上、好ましくは8倍以上、より好ましくは10倍以上、さらに好ましくは20倍以上である。なお、第2工程S2で得られた物質は、針状でないものを含んでいてもよい。
【0047】
なお、第2工程S2で得られる針状カーボンナイトライドの粒子は、後述の第3工程S3で得られるカーボンナイトライドが持つ中空構造とは異なり、中実構造を持つ。つまり、第2工程S2で得られる針状カーボンナイトライドは、中実の細長い棒状である。なお、第2工程S2で得られたカーボンナイトライドは、後述の第3工程S3で得られるカーボンナイトライドのように嵩は大きくなっていない。
【0048】
第2工程S2において用いられる水熱法(hydrothermal method)は、水熱反応を利用した物質の処理方法である。水熱反応は、高温高圧の水、水溶液又は蒸気などの流体の関与する反応である。水熱反応は、例えば、100℃以上かつ1気圧以上の高温高圧下の水が関与する反応として定義され得る。水熱法は、水熱合成法(hydrothermal synthesis)とも呼ばれる。
【0049】
第2工程S2は、例えば、g-C3N4の粒子が分散した水が耐熱容器に密閉され、加熱による自己発生圧下で行われる。耐熱容器としては、例えば、ステンレス容器が利用され得る。
図1に示すように、第2工程S2における加熱温度T2は、例えば、200℃である。第2工程S2における加熱温度T2は、後述の第3工程S3の焼成温度T3(約500℃)よりも低いのが好ましい。また、加熱温度T2は、第1工程S1の焼成温度T1(約500℃)よりも低いのが好ましい。加熱温度T2は、400℃よりも低いのがより好ましく、350℃よりも低いのがより好ましく、300℃よりも低いのが更に好ましい。加熱温度T2は、150℃よりも高いのがより好ましく、180℃よりも高いのが更に好ましい。加熱温度T2は、一例として、150℃から400℃の間であり、180℃から300℃の間であってもよい。
【0050】
第2工程S2の水熱法は、一例として、
図1に示すように、200℃で16時間行われ得る。
【0051】
水熱法による処理の後、容器の上澄み液が除去される。上澄み液が除去された中間物質は精製水で洗浄される。洗浄された中間物質は、乾燥される。乾燥は、例えば、60℃で行われる。
【0052】
第3工程S3では、中間物質が焼成される。第2工程S2の後に乾燥された中間物質は、例えば、蓋つきの焼成用るつぼに入れられ、電気炉で焼成される。焼成は、例えば、
図1に示すように、500℃で2時間、520℃で2時間、5℃/分で昇温させて行われる。このように、第3工程S3の焼成温度T3は、約500℃である。第3工程S3の焼成条件は、第1工程S1と同様でよい。
【0053】
本発明者らは、水熱法によって得られたものを焼成すると、焼成前よりも膨張して中空構造になることを発見した。すなわち、焼成が行われる第1工程S1及び第3工程S3の間に水熱法による処理を介在させると、驚くべきことに、膨張したカーボンナイトライドが得られる。なお、第1工程S1の焼成の後に、第2工程S2を行うことなく、第3工程S3の焼成を行っても、カーボンナイトライドは膨脹しない。
【0054】
水熱法後の第3工程S3の焼成によって、中間物質の粒子それぞれが中空になるように膨脹する。粒子の膨張によって、粉末の嵩が大きくなり、密度ないし比重が小さくなる。また、焼成後の物質は、X線回折法によって分析した結果、カーボンナイトライドであることが確認された。したがって、第3工程S3の焼成によって、嵩が大きく、密度ないし比重が小さい、カーボンナイトライドが得られる。
【0055】
中空構造は、中実の中間物質が焼成によって膨脹して形成された外殻を持ち、その外殻の内側が空洞になっている。なお、外殻は、内側の空洞を完全に覆っている必要はなく、空洞の内外に連通する孔(開口)を有していてもよい。
【0056】
例えば、水熱法によって得られた物質が中実の棒状(つまり、針状)である場合、それを焼成して得られたカーボンナイトライドは、中空であって、径が増大した棒状構造を持つ。つまり、この場合のカーボンナイトライドの粒子は、
図5のSEM写真に示すように、筒状の外殻の内側に空洞を有する中空チューブ状構造を持つ。チューブ状構造の長手方向両端は、開口を有し得る。ここでの「チューブ状」とは、内部が中空である棒状の構造を意味する。チューブ状は、例えば、横断面(空洞及び外殻を含む)の最大寸法が、長さよりも小さい形状であり、好ましくは、横断面の最大寸法が長さよりも十分に小さい形状である(
図26(B)参照)。チューブ状の構造において、長さは、横断面の最大寸法の5倍以上、好ましくは8倍以上、より好ましくは10倍以上、さらに好ましくは20倍以上である。なお、第3工程S3で得られた物質は、チューブ状でないものを含んでもよい。チューブ状の粒子は、その長さが50μm以上であるものを含むのが好ましく、100μm以上であるものを含むのがより好ましく、200μm以上であるものを含むのがさらに好ましい。粒子の長さが大きいことで、孔径が比較的大きな簡易なフィルター(例えば、孔径が50μmのもの)を使用して、溶液中の粒子を回収するのが容易となる。
【0057】
中空構造のカーボンナイトライドの外殻は、非常に薄く、ナノオーダの厚さである。外殻は、
図4に示す中実の針状物質の径に比べて、非常に薄い。また、外殻の厚さは、中空構造の空洞の径に比べて、非常に薄い。
【0058】
なお、第3工程S3の焼成前の中間物質が粒状である場合、第3工程S3の焼成によって得られるカーボンナイトライドは、粒が膨張した外殻を有し、内部に空洞を有する中空構造になり得る。第3工程S3の焼成前の中間物質を粒状にするには、例えば、針状の中間物質を粉砕すればよい。
【0059】
以下では、
図1に示す工程S1~S3で得られたチューブ状構造カーボンナイトライドを「FTC3N4」又は「FTC3N4MT」と表記する。FTは、Float Typeの略であり、MTは、MicroTubeの略である。
【0060】
図6は、FTC3N4粒子の長手方向一端側の開口付近のTEM画像であり、
図7は、FTC3N4粒子の外殻の表面のTEM画像である。
図6及び
図7のTEM画像に示すように、FTC3N4粒子の外殻の表面に凹凸及び穴が存在することが確認できる。また、外殻は、多孔質である。第3工程S3の焼成による膨張に伴い、外殻が形成されるとともに、その外殻表面に多数の凹凸及び穴が形成され、しかも多孔質になることで、密度ないし比重が大幅に低下していると考えられる。また、外殻表面に多数の凹凸及び穴が形成され、しかも多孔質になることで、FTC3N4の表面積が大幅に増加していると考えられる。また、チューブ状構造などの中空構造を持つことでも表面積が増加している。表面積の増加は、後述のように、FTC3N4の光触媒作用を大きくする。なお、外殻の内側の空洞は、多孔質の外殻に含まれる細孔よりも(十分に)大きい。
【0061】
図2のP3-1は、第3工程S3によって得られたFTC3N4粉末を示す。FTC3N4粉末は、繊維の塊である綿のような形態を持つ。
図2のP3-2は、塊になっているFTC3N4粉末を構成する個々のFTC3N4粒子をバラバラにして撮影した画像である。
図2のP3-2に示すように、FTC3N4粉末に含まれる個々のFTC3N4粒子は、針状であり、大きいもので長手方向長さが1mm程度あり、肉眼でも針状であると認識できるほどである。FTC3N4粉末は、このような針状粒子であるFTC3N4粒子が集合して、P3-1に示すような繊維の塊である綿のような形態を持つ。したがって、針状粒子の集合体であるFTC3N4粉末を、「綿状カーボンナイトライド粉末」と呼ぶことができる。
【0062】
FTC3N4粉末は、初期カーボンナイトライドであるg-C3N4及び中間物質に比べて、嵩が大きく、密度が非常に小さくなっている。
【0063】
図8は、初期カーボンナイトライドであるg-C3N4粉末及びFTC3N4粉末それぞれ同量(0.05g)を、サンプルチューブに入れた状態を示している。g-C3N4粉末は、サンプルチューブの底からd1の高さまでしかないのに対して、FTC3N4粉末は、サンプルチューブの底からd2の高さまである。
図8から、FTC3N4粉末の嵩(体積)は、g-C3N4粉末に比べて、大幅に大きくなっている。FTC3N4粉末の体積は、同量のg-C3N4粉末の体積の10~30倍程度になり得る。したがって、FTC3N4粉末の密度は、大幅に低下する。
【0064】
図9は、g-C3N4粉末及びFTC3N4粉末それぞれを、ビーカーに入れた水(密度:1g/cm
3)に投入した状態を示している。g-C3N4粉末は水よりも密度が大きいため、ビーカーの底に沈殿している。これに対して、FTC3N4粉末は、密度が小さいため、水面に浮遊している。したがって、
図1の方法で得られたFTC3N4粉末は、密度が水よりも小さいことがわかる。
【0065】
FTC3N4の密度を測定したところ、FTC3N4粉末の密度は、0.8515g/cm3であった。密度の測定方法としては、密度の異なる二種類の溶液(重液及び軽液)を混ぜ合わせることで混合溶液の密度を調整し、その混合溶液に入れた物質が浮くか沈むかによって密度を測定する方法を採用した。この方法によって、FTC3N4の見かけ密度が測定され得る。なお、測定前の事前実験によって、FTC3N4は、水(密度:1g/cm3)に浮き、エタノール(密度:0.79g/cm3)に沈むことを確認したため、重液として水を採用し、軽液としてエタノールを採用した。
【0066】
具体的には、FTC3N4の密度の測定は、次のようにして行った。まず、ビーカーの中に、重液として水を入れFTC3N4を水に浮かせる。その後、水を攪拌しながら、軽液としてのエタノールを水に加え、水とエタノールとの混合溶液の密度を徐々に小さくしていく。浮かんでいたFTC3N4が沈むとエタノールを加えるのを止めた。FTC3N4が沈んだときの混合溶液をビーカーから1cm3取り出し、その重量を測定した。この重量は、混合溶液の1cm3あたりの重量であるから、混合溶液の密度(g/cm3)に相当する。FTC3N4が沈んだときの混合溶液の密度は、FTC3N4の密度に相当する。なお、最初にビーカーに入れた水の重量と、FTC3N4が沈むまでに加えたエタノールの重量の比率から、FTC3N4の密度を求めてもよい。
【0067】
なお、FTC3N4の密度は、第3工程S3の焼成条件を調整することによって調整され得る。例えば、密度は、焼成時間の長さを調整することによって調整され得る。第3工程S3の焼成によって密度が小さくなったため、焼成時間を短くすると密度は大きくなり、焼成時間を長くすると密度は小さくなる。したがって、焼成時間等を調整することで、FTC3N4粉末の密度を1g/cm3前後の所望の値に調整することが可能である。また、FTC3N4の密度は、第2工程S2の水熱法による処理時間を調整することによって調整され得る。
【0068】
図10及び
図11は、FTC3N4の分解性能を調べた実験結果を示している。この実験では、ビン中の10mLのメチレンブルー溶液(10mg/L)にFTC3N4粉末を5mg入れた。ビンの上部開口をラップフィルムで覆い、可視光を照射するLED蛍光灯(アイリスオーヤマ社製 LDG20T・N・7/10V2)下で、分解を行った。1日毎にビン中の溶液を採取し、吸光度(OD値)を測定し、測定後、採取した溶液をビンに戻した。
【0069】
図10に示すように、1日目(0h)のOD値は0.55であったのが、2日目(24h経過)のOD値は0.36に減少した。更に、3日目(48h経過)のOD値は0.23に減少し、4日目(72h経過)のOD値は0.10に減少し、5日目(96h経過)のOD値は0.03に減少した。したがって、FTC3N4は、十分な分解力をもっていることが確認された。
【0070】
なお、ビンに入れられたFTC3N4は、当初(1日目)、塊のまま溶液の液面上に浮遊していたが、2日目以降は、FTC3N4と溶液とがなじんで、FTC3N4が溶液の表面に広がって溶液表面を覆う膜状になった。FTC3N4は、1日目から5日目まで溶液の液面に浮遊したままであった。FTC3N4が浮遊していると溶液の上部から照射される光が、溶液によって遮られることが少なく、FTC3N4は、効率的に溶液を分解することができる。したがって、溶液が濁っている、及び/又は、溶液の深さが大きい場合であっても、部効率的な分解が可能である。
【0071】
また、初期カーボンナイトライドであるg-C3N4についても、FTC3N4と同様の実験を行った。
図11の上段の表及び下段のグラフは、g-C3N4及びFTC3N4それぞれの分解力を示している。
図11において、C/C0は、0h時点でのOD値(C0)を1とした場合における、各時間(0h,24h,48h,72h,96h)のOD値(C)の大きさを示している。
図11に示すように、FTC3N4は、g-C3N4に比べて、C/C0を小さくできており、大きな分解力を持っていることがわかる。
【0072】
なお、この実験において、g-C3N4は、メチレンブルー溶液に沈殿したが、溶液の量が小さく、溶液液面からg-C3N4までの距離が小さいため、光源からの光が十分に届いていた。したがって、
図11に示す結果は、FTC3N4が溶液に浮いていることによる分解力の向上よりも、FTC3N4自体の分解力が向上していることの影響が主である。したがって、
図11は、主に、FTC3N4自体の分解力(光触媒作用)が優れていることを示している。FTC3N4自体の分解力が優れているのは、前述のように、外殻表面に多数の凹凸が形成されていることから、FTC3N4の単位体積、単位質量当たりの表面積(比表面積)が大幅に増加しているためであると考えられる。
【0073】
そして、FTC3N4は、それ自体が優れた光触媒作用を有するとともに、それ自体が液に浮くことができるため、仮に、液が濁っていたり、液の深さが大きかったりしても、光が液によって遮られることが少なく、その光触媒作用を維持できる。
【0074】
このように、FTC3N4は、それが投入される液よりも、小さい密度を持ち得るため、FTC3N4を液に投入すると、FTC3N4は、それ自体に作用する浮力によって、フロートを有することなく、液の表面又は液中に浮遊する。浮遊したFTC3N4は、液によって光がさえぎられることが少なく、効率的に光触媒作用を発揮できる。したがって、FTC3N4は、可視光応答型の浮遊型光触媒として機能し得る。FTC3N4は、廃液・ため池の水・家庭排水などの液体、又は、空気などの気体の浄化に使用され得る。また、FTC3N4は、浮遊しているため、使用後に回収するのが容易である。FTC3N4を回収し、乾燥させることで、再利用することができる。
【0075】
さて、一般に、g-C3N4は、電子対の再結合率が高いため、分解が阻害され易い。すなわち、g-C3N4にバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光が照射されると電子が価電子帯(VB)から伝導帯(CB)に移動する。このとき、電子(e-)は還元剤、正孔(h+)は酸化剤として機能するが、お互いに再結合しようとするため、還元・酸化が阻害され易い。この再結合を防止するため、ヘテロ接合(Zスキーム)が利用される。ヘテロ接合は、バンドギャップが異なる物質を組み合わせることである。バンドギャップが異なる物質を組み合わせることで、電子はCB準位が低い方へ、正孔はVB準位が高い方へ移動するため、再結合を防止できる。
【0076】
したがって、FTC3N4にバンドギャップが異なる物質がヘテロ接合されていると、分解力(光触媒作用)を大きくできる。FTC3N4とはバンドギャップが異なる物質は、例えば、酸化チタン(TiO2;P25)である。
【0077】
FTC3N4とバンドギャップが異なる物質とがヘテロ接合された複合体は、例えば、中間物質に、酸化チタン(TiO2)を担持させる処理を行い、その後、第3工程S3を行うことによって得られる。より具体的には、水熱法によって得られた中間物質粉末と酸化チタン(TiO2)を40mLのメタノールに入れ、110℃で加熱しながら500rpmで攪拌する。その後、メタノールを蒸発させて乾燥させた。これにより、酸化チタンが担持された中間物質が得られる。酸化チタンが担持された中間物質に対して第3工程S3を行うことによって、酸化チタンが担持されたFTC3N4である複合体が得られる。なお、また、複合体は、
図1に示す第3工程S3によって得られたFTC3N4に、酸化チタン(TiO2)を担持させる処理を行って得てもよい。
【0078】
図12及び
図13は、酸化チタンを担持したFTC3N4(実施例)の分解性能を調べた実験結果を示している。この実験では、比較例として、初期カーボンナイトライドとしてのg-C3N4に酸化チタンを担持させた複合体を用いた。比較例としての複合体は、g-C3N4粉末と酸化チタンとを40mLのメタノールに入れ、110℃で加熱しながら500rpmで攪拌し、メタノールを蒸発させ乾燥することで得た。なお、実施例において、FTC3N4と酸化チタン(P25)との体積比は1:1とした。また、比較例において、g-C3N4と酸化チタン(P25)との体積比は1:1とした。
【0079】
この実験でも、実施例及び比較例の複合体をメチレンブルー溶液に投入して、吸光度(OD値)を測定した。
図12に示すように、実施例の複合体の場合、0hの時点では、OD値が0.62であったのが、24h経過後では、OD値が0.14に減少した。比較例の複合体の場合、0hの時点では、OD値が0.62であったのが、24時間経過後では0.22に減少した。
図12に示すように、実施例の複合体は、比較例の複合体よりも、分解力が高いことがわかる。
【0080】
なお、実施例の複合体及び比較例の複合体は、いずれも、溶液中に沈殿した。実施例の複合体は、密度が高い酸化チタンを担持したため重量が大きくなり沈殿したものと考えられる。また、比較例の複合体は、g-C3N4の密度が元々大きいため沈殿したものと考えられる。
【0081】
図13は、
図12の結果を表(上段)及びグラフ(下段)で示したものである。
図13では、酸化チタンを担持していないFTC3N4の0h及び24hにおけるOD値(C)及びC/C0の値(
図13参照)も示している。
図13に示すように、酸化チタンを担持したFTC3N4の複合体(実施例)は、酸化チタンを担持していないFTC3N4に比べて、C/C0が大きく低下しており、大きな分解力を持っていることがわかる。また、酸化チタンを担持したFTC3N4の複合体(実施例)は、酸化チタンを担持したg-C3N4(比較例)に比べてもC/C0が低下しており、大きな分解力を持っていることがわかる。
【0082】
図14は、FTC3N4による染料(ローダミンB)の分解実験結果を示している。この実験では、2本の試験管それぞれに、ローダミンB溶液(100mg/L)を10mL入れた。一方の試験管にはFTC3N4粉末を投入し、他方の試験管にはFTC3N4粉末を投入しなかった。この実験では、深い容器の底部など、光が届きにくい環境を模擬するため、
図14(B)に示すように、透明な試験管の側面をマスクした。マスクのため、試験管の側面をアルミホイルで覆った。マスクにより、試験管側面からの光が遮断され、試験管内の溶液の上部にだけ光が照射される。これら2本の試験管を、室内において、太陽光が照射される窓際に静置し、1日ごとに試験管中の溶液を採取し、吸光度(OD値)を測定した。
【0083】
図14(A)に示すように、0日目のOD値は、「粉末あり」が0.55であり、「粉末なし」が0.56であり、溶液はいずれも赤色であった。FTC3N4粉末が投入された試験管において、FTC3N4粉末は溶液の上部に浮遊した。
【0084】
図14(D)は、時間経過による吸光度の変化を示している。
図14(D)において、C/C0は、0日目でのOD値(C0)を1とした場合における、各日(0day,1day,2day,3day,4day,5day)のOD値(C)の大きさを示している。「粉末なし」の場合、時間経過によるC/C0の変化が見られないのに対して、「粉末あり」の場合、時間経過によりC/C0が低下した。5日目(5day)のOD値は、「粉末あり」が0.01であり、「粉末なし」が0.56であった。
【0085】
図14(C)は、1週間後の試験管の様子を示している。1週間後において、「粉末なし」の場合、溶液は赤色のままであったのに対して、「粉末あり」の場合、溶液は全体的に透明になった。なお、「粉末あり」において、FTC3N4粉末の一部が、試験管の底部に沈殿した。
【0086】
図14に示す実験結果によれば、主に溶液の上部に浮遊するFTC3N4は、光が届き難い容器底面など、溶液に光が届き難い部分があっても、光触媒作用による分解が可能であることが確認された。
【0087】
図15は、FTC3N4を繰り返し使用した実験(サイクル実験)の結果を示している。この実験では、容器に、赤色のローダミンB溶液(10mg/L)を10mL入れ、さらに、FTC3N4粉末を5mg投入した。投入したFTC3N4粉末は溶液上部に浮遊した(
図15(A)参照)。そして、容器を、LED照明下に静置して、溶液を分解させた(1回目の分解)。
図15(B)は、5日後の溶液を示しており、溶液は透明であった。その後、容器から溶液を取り除き、溶液をフィルターでろ過することによってFTC3N4粉末を回収した。
図15(C)は、ろ過によりFTC3N4粉末を取り除いた透明容器を示している。フィルターとしては、ADVANTEC社の定量濾紙5C(保持粒子径:1μm、直径70mm)を用いた。
【0088】
回収したFTC3N4粉末を再利用するため、容器に、新しいローダミンB溶液を10mL入れ、さらに、回収したFTC3N4粉末を投入した。このFTC3N4粉末も溶液上部に浮遊した。そして、容器を、LED照明下に載置して、溶液を分解させた(2回目の分解)。2回目も、1回目と同様に、5日後において、溶液は透明になった。
【0089】
図15(D)は、時間経過による吸光度の変化を示している。
図15(D)において、C/C0は、0日目でのOD値(C0)を1とした場合における、各日(0day,1day,2day,3day,4day,5day)のOD値(C)の大きさを示している。
図15(D)において、「1回目」は、1回目の分解によるC/C0の変化を示し、「2回目」は、2回目の分解によるC/C0の変化を示している。
【0090】
図15(D)に示すように、2回目も、1回目と同様に、光触媒作用による分解が可能であり、FTC3N4の繰り返し利用が可能であることが確認された。なお、
図15(D)では、2回目の方が、C/C0の低下度合がやや緩やかであるが、これは、1回目の分解後のFTC3N4粉末の回収の際に、容器の内面に付着したFTC3N4を回収できなかったため、2回目の分解の際のFTC3N4の量が、1回目のときよりも少ないためであると考えられる。
【0091】
図16は、FTC3N4の抗菌性又は防藻性を確認した結果を示している。この実験では、2つの20mL容器それぞれに、水を10mL、LB培地を1mL、泥水を1mL入れた。一方の容器にはFTC3N4粉末を投入し、他方の試験管にはFTC3N4粉末を投入しなかった。
図16において、「N/A」は、FTC3N4粉末を投入していないものを示し、「FT-C3N4MT」は、FTC3N4粉末を投入したものを示す。これら2つの容器を、
図16(A)に示すように、室内において、太陽光が照射される窓際に静置した。毎日、容器を1mL取り出し、分光光度計で吸光度を測定し、測定し終えた溶液は容器に戻した。
【0092】
図16(B)に示すように、「N/A」では、0日目から3日目まで吸光度が増加しており、溶液中で菌が増殖していることが確認された。一方、「FT-C3N4MT」では、「N/A」に比べて、吸光度の増加が小さく、FTC3N4粉末の光触媒作用により菌の増殖が抑えられていることがわかる。したがって、FTC3N4粉末は抗菌性(水中抗菌性)を有する。なお、この実験では、光触媒作用のための光として太陽光を用いたため、FTC3N4粉末が入っていても、夜間に菌が増殖し得る。しかし、常時、光を照射すれば、常時、光触媒作用が得られ、菌の増殖をより効果的に防止できる。なお、
図16(B)において、3日目以降は吸光度が低下しているが、これは、菌の増殖に伴う栄養素の減少によるものと考えられる。
【0093】
また、「N/A」の容器の底部には、実験開始から数日後に、緑色の藻類の発生が確認されが、「FT-C3N4MT」の容器には、藻類の発生は確認されなかった。これは、FTC3N4粉末の光触媒作用によって、防藻性が生じたためであると考えられる。
【0094】
図17は、ヘアカラー剤の成分(パラフェニレンジアミン:p-フェニレンジアミン)を含む溶液の分解実験結果を示している。パラフェニレンジアミンは、白髪染め剤又は茶色系のヘアカラー剤に含まれる成分である。ヘアカラー剤を含む排液の処理のため、ヘアカラー剤中の成分の分解が望まれる。この実験では、FTC3N4粉末によるパラフェニレンジアミン溶液の分解を行った。実験では、パラフェニレンジアミン溶液(20mg/L)を11ml入れた容器に、FTC3N4粉末を投入し、LED照明下に静置した。毎日、容器を1mL取り出し、分光光度計で吸光度(OD値)を測定し、測定し終えた溶液は容器に戻した。
図17において、C/C0は、0日目でのOD値(C0)を1とした場合における、各日(0day,1day,2day,3day)のOD値(C)の大きさを示している。
図17に示すように、時間経過によって、C/C0が低下しており、パラフェニレンジアミンがFTC3N4粉末によって分解されることが確認された。
【0095】
また、図示は省略するが、AZO色素の分解実験も行った。AZO色素は、衣服の染色に用いる色素である。AZO色素を含む排液の処理のため、AZO色素の分解が望まれる。この実験では、FTC3N4粉末によるAZO色素の分解を行った。実験では、AZO色素の一種であるメチルオレンジ溶液を入れた容器に、FTC3N4粉末を投入し、LED照明下に静置した。毎日、容器を1mL取り出し、分光光度計で吸光度(OD値)を測定し、測定し終えた溶液は容器に戻した。この実験においても、
図17と同様に、C/Cが低下し、メチルオレンジがFTC3N4粉末によって分解されることが確認された。
【0096】
図18から
図21は、
図1に示す第2工程S2の水熱法(水熱合成)による処理時間を変化させた実験の結果を示す。この実験では、
図1に示す製造方法において、第2工程S2の水熱法による処理時間を、8時間、12時間、16時間として、FTC3N4を製造した。
図18から
図21において、「8h」は水熱合成を8時間行った得られたFTC3N4を示し、「12h」は水熱合成を12時間行って得られたFTC3N4を示し、「16h」は水熱合成を16時間行って得られたFTC3N4を示す。また、「pure g-C3N4」又は「g-C3N4」は、初期カーボンナイトライドであるg-C3N4を示す。
【0097】
図18(A)に示すように、4つの縦長の透明容器それぞれに赤色のローダミンB溶液(100mg/L)を10mL入れ、水熱合成時間を変えた3種類のFTC3N4及び初期カーボンナイトライドであるg-C3N4を投入した。3種類のFTC3N4及び初期カーボンナイトライドは、すべて同重量である。初期カーボンナイトライドは、溶液中に沈んだが、3種類のFTC3N4は、溶液上に浮遊した。
【0098】
図18(B)に示すように、溶液上に浮遊するFTC3N4は、「8h」よりも「12h」のほうが多く見え、「12h」よりも「16h」のほうが多く見える。ただし、これらのFTC3N4は全て同重量であり、多く見えるのは、嵩が大きくなっているためである。つまり、水熱合成の時間を長くするほど、FTC3N4の嵩が大きくなり、密度又は比重が低下する。したがって、水熱合成時間を長くするほど、FTC3N4の密度を小さくすることができる。また、図示はしていないが、水熱合成時間を18時間にすると、16時間よりもさらにFTC3N4の密度が小さくなった。したがって、水熱合成時間は、6時間以上20時間未満程度であるのが好ましく、12時間から18時間程度であるのがより好ましい。
【0099】
図18(C)に示すように、実験では、4つの容器の側面を、アルミホイルで覆い、容器側面からの光が遮断され、容液の上部にだけ光が照射されるようにした。これにより、深い容器の底部など、光が届きにくい環境を模擬することができる。これらの容器を、LED照明下に静置し、1日ごとに各容器中の溶液を採取し、吸光度を測定した。
【0100】
図18(D)は、5日後の溶液を示している。初期カーボンナイトライドであるg-C3N4が投入された溶液は、吸光度(
図18(E)参照)及び溶液の色に変化が見られなかった。これは、溶液中に沈んだ初期カーボンナイトライドに光が届かず、光触媒作用が働かなかったためである。一方、3種類のFTC3N4が投入された溶液は、いずれも時間経過にしたがって、吸光度(
図18(E)参照)が低下し、溶液の色が黄色に変化するとともに透明度が増した。
【0101】
図18において、C/C0は、0日目でのOD値(C0)を1とした場合における、各日(0day,1day,2day,3day,4day,5day,)のOD値(C)の大きさを示している。
図18(E)に示すように、水熱合成時間が長いほど、C/C0が大きく低下しており、分解力が高いことがわかる。
図14は、FTC3N4による染料(ローダミンB)の分解実験結果を示している。この実験では、2本の試験管それぞれに、ローダミンB溶液(100mg/L)を10mL入れた。一方の試験管にはFTC3N4粉末を投入し、他方の試験管にはFTC3N4粉末を投入しなかった。この実験では、深い容器の底部など、光が届きにくい環境を模擬するため、
図14(B)に示すように、透明な試験管の側面をマスクした。マスクのため、試験管の側面をアルミホイルで覆った。マスクにより、試験管側面からの光が遮断され、試験管内の溶液の上部にだけ光が照射される。これら2本の試験管を、室内において、太陽光が照射される窓際に静置し、1日ごとに試験管中の溶液を採取し、吸光度(OD値)を測定した。
【0102】
図19は、実験に用いた3種類のFTC3N4及び初期カーボンナイトライドのX線回折法による分析結果を示している。
図19に示すように、3種類のFTC3N4は、初期カーボンナイトライドと同様のピーク位置(13.04、及び、27.48)を持つ。たただし、水熱合成時間が長くなると、ピークが小さくなることがわかる。これは、チューブ状のFTC3N4の外殻(壁面)の厚さが、水熱合成時間が長くなるほど薄くなるためである。
【0103】
図20は、実験に用いた3種類のFTC3N4及び初期カーボンナイトライドのSEM画像を示している。初期カーボンナイトライドは粒状であるのに対して、3種類のFTC3N4は、いずれもチューブ状であることがわかる。また、「12h」及び「16h」は「8h」に比べて、チューブ状の横断面が大きくなっていることがわかる。
【0104】
図21は、12h水熱合成のFTC3N4のTEM画像及び16h水熱合成のFTC3N4のTEM画像を示している。16h水熱合成のFTC3N4は、12h水熱合成のFTC3N4に比べて、外殻の厚さが薄いことが確認された。また、16h水熱合成のFTC3N4の外殻には、外殻厚さ方向に貫通する孔が、外殻の所々に生じていた。
【0105】
図22は、ホウ素を加えたFTC3N4(B doped FT-C3N4MT)の製造方法の一例を示している。ホウ素ドーピングをすることで、電子が不足し、正孔が形成されるため、電気抵抗が小さくなり。これにより、バンドギャップが減少する。また、電荷分離効率が高くなる。ホウ素が添加されたカーボンナイトライドは、光触媒作用が向上する。
【0106】
図22において、
図1の製法と異なる主な点は、水熱合成前にホウ酸が加えられる点である。
【0107】
図22に示すように、第1工程S1では、メラミン:6gを焼成皿に載せ、蓋をして、電気炉によって500℃で2時間、520℃で2時間、20℃/分で焼成して、初期カーボンナイトライドとしてのg-C3N4(グラフィティック・カーボンナイトライド)を得る。
【0108】
工程S1-1において、g-C3N4をすり潰し、すり潰したg-C3N4:2gと精製水:60ml、ホウ酸:0.2gをテフロン(登録商標)容器に入れマグネティックスターラーで24時間攪拌し、更にホモジナイザーで10分間粉砕することによって行われ得る。
【0109】
第2工程S2では、粉砕されたg-C3N4の粒子が分散した水を耐熱容器としてのステンレス容器に入れられる。ステンレス容器は密封される。そして、200℃で16時間の水熱合成が行われる。
【0110】
水熱合成後、上澄み液が除去され、水熱合成により得られた中間物質が、精製水で洗浄される。その後、60℃で乾燥する。
【0111】
第3工程S3では、中間物質を蓋つきの焼成用るつぼに入れ、電気炉によって500℃で2時間、520℃で2時間、5℃/分で焼成する。以上によって、ホウ素が添加されたFTC3N4(B doped FT-C3N4MT)が得られる。
【0112】
図23は、
図22の製法で得られたFTC3N4(B doped FT-C3N4MT)と
図1の製法で得られたFTC3N4(FT-C3N4MT)の回折パターンを示している。両者の回折パターンは近似(ピーク位置が同じ)しており、
図22の製法で得られたものは、
図1の製法で得られたものと同様にカーボンナイトライドであることがわかる。
【0113】
また、
図24(A)は、
図1の製法で得られたFTC3N4(FT-C3N4MT)のSEM画像を示し、
図24(B)は、
図22の製法で得られたFTC3N4(B doped FT-C3N4MT)のSEM画像を示している。
図22の製法で得られたものも、
図1の製法で得られたものと同様にチューブ状であることがわかる。
【0114】
図23及び
図24に示すように、ホウ素などの不純物が添加されても、チューブ状のカーボンナイトライドを生成できることがわかる。
【0115】
なお、ホウ素以外に、カーボンナイトライドの機能を改善・付加するための様々な不純物が添加され得る。
【0116】
図25は、
図22の製法で得られたFTC3N4(B doped FT-C3N4MT)と
図1の製法で得られたFTC3N4(FT-C3N4MT)とによるローダミンB溶液の分解実験の結果を示している。
図25より、B doped FT-C3N4MTの方が、FT-C3N4MTよりも分解力が向上していることがわかる。
【0117】
本発明は、上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0118】
S1 :第1工程
S1-1 :前処理
S2 :第2工程
S3 :第3工程
T1 :焼成温度
T2 :加熱温度
T3 :焼成温度