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特開2024-100745フルオロエタン化合物の製造方法及びフルオロオレフィンの製造方法
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  • 特開-フルオロエタン化合物の製造方法及びフルオロオレフィンの製造方法 図1
  • 特開-フルオロエタン化合物の製造方法及びフルオロオレフィンの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100745
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】フルオロエタン化合物の製造方法及びフルオロオレフィンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/354 20060101AFI20240719BHJP
   C07C 19/08 20060101ALI20240719BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20240719BHJP
   C07C 17/25 20060101ALI20240719BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240719BHJP
【FI】
C07C17/354
C07C19/08
C07C21/18
C07C17/25
C07B61/00 300
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024003508
(22)【出願日】2024-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2023003900
(32)【優先日】2023-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023062394
(32)【優先日】2023-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一博
(72)【発明者】
【氏名】島田 朋生
(72)【発明者】
【氏名】平野 暁久
(72)【発明者】
【氏名】吉村 俊和
(72)【発明者】
【氏名】小松 雄三
(72)【発明者】
【氏名】茶木 勇博
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC13
4H006BA23
4H006BA25
4H006BA55
4H006BD70
4H006BE20
4H006EA02
4H006EA03
4H039CB30
(57)【要約】
【課題】目的生成物であるフルオロエタン化合物を効率よく製造することができるフルオロエタン化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】本開示のクロロフルオロエタン化合物を触媒の存在下で還元反応することでフルオロエタン化合物を含む生成物を得る工程Aを含み、前記触媒は、Ni,Pd,Pt,Ru及びRhからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属が活性炭に担持されている。本開示の製造方法によれば、目的生成物であるフルオロエタン化合物を効率よく製造することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロフルオロエタン化合物を触媒及び水素の存在下で還元反応することでフルオロエタン化合物を含む生成物を得る工程Aを含み、
前記触媒は、Ni,Pd,Pt,Ru及びRhからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属が活性炭に担持されている、フルオロエタン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記フルオロエタン化合物は、1,1,2-トリフルオロエタンを含み、
前記クロロフルオロエタン化合物は、1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタンを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記フルオロエタン化合物は、1,1,2-トリフルオロエタンを含み、
前記クロロフルオロエタン化合物は、1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタンを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記フルオロエタン化合物は、1,1-ジフルオロエタンを含み、
前記クロロフルオロエタン化合物は、1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタンを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記生成物は、クロロトリフルオロエチレン及びトリフルオロエチレンからなる群より選ばれる化合物を副生成物として含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタンをテトラクロロエチレンの液相フッ素化反応により得る工程を備える、請求項2に記載の製造方法。
【請求項7】
フルオロオレフィンの製造方法であって、
請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法によってフルオロエタン化合物を得る工程と、
当該工程で得られたフルオロエタン化合物の脱フッ化水素反応により、前記フルオロオレフィンを得る工程と、
を含む、フルオロオレフィンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フルオロエタン化合物の製造方法及びフルオロオレフィンの製造方法の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,1,2-トリフルオロエタン(以下、「HFC-143」と表記することがある)に代表されるフルオロエタンは、各種冷媒を製造するための原料として知られている。HFC-143等のフルオロエタンの製造方法としては種々の方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、水素化触媒の存在下、クロロトリフルオロエチレン等の水素化反応により、HFC-143を製造する技術が提案されている。特許文献2では、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)と水素の反応によりHFO-1123を得るプロセスにおいて副生成物としてHFC-143及びHCFC-133bが含まれることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1-287044号公報
【特許文献2】特開2016-130236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、目的生成物であるフルオロエタン化合物を効率よく製造することを目的とする。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、目的生成物であるフルオロエタン化合物を効率よく製造することができるフルオロエタン化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、例えば、以下の項に記載の発明を包含する。
項1
クロロフルオロエタン化合物を触媒及び水素の存在下で還元反応することでフルオロエタン化合物を含む生成物を得る工程Aを含み、
前記触媒は、Ni,Pd,Pt,Ru及びRhからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属が活性炭に担持されている、フルオロエタン化合物の製造方法。
項2
前記フルオロエタン化合物は、1,1,2-トリフルオロエタンを含み、
前記クロロフルオロエタン化合物は、1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタンを含む、項1に記載の製造方法。
項3
前記フルオロエタン化合物は、1,1,2-トリフルオロエタンを含み、
前記クロロフルオロエタン化合物は、1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタンを含む、項1に記載の製造方法。
項4
前記フルオロエタン化合物は、1,1-ジフルオロエタンを含み、
前記クロロフルオロエタン化合物は、1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタンを含む、項1に記載の製造方法。
項5
前記生成物は、クロロトリフルオロエチレン及びトリフルオロエチレンからなる群より選ばれる化合物を副生成物として含む、項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
項6
前記1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタンをテトラクロロエチレンの液相フッ素化反応により得る工程を備える、項2に記載の製造方法。
項7
フルオロオレフィンの製造方法であって、
項1~6のいずれか1項に記載の製造方法によってフルオロエタン化合物を得る工程と、当該工程で得られたフルオロエタン化合物の脱フッ化水素反応により、前記フルオロオレフィンを得る工程と、
を含む、フルオロオレフィンの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示の製造方法によれば、目的生成物であるフルオロエタン化合物を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示のフルオロエタン化合物の製造方法を含む総合プロセスを示す概略図である。
図2】本開示のフルオロエタン化合物の製造方法を含む総合プロセスの他の実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
クロロトリフルオロエチレンの水素化反応でフルオロエタン化合物を製造する場合、前述のように、クロロトリフルオロエチレンが高価であるため、最近ではさらに安価な原料を用い、かつ、効率よくフルオロエタン化合物を製造することが求められている。
【0011】
本発明者らは、目的生成物であるフルオロエタン化合物を高い転化率及び高い選択率で製造するという目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、クロロフルオロエタン化合物を触媒の存在下で水素を用いた気相還元反応を行うことで、上記目的を達成できることを見出した。
【0012】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0013】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を夫々最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値又は実施例から一義的に導き出せる値に置き換えてもよい。
【0014】
1.フルオロエタン化合物の製造方法
本開示のフルオロエタン化合物の製造方法は、下記の工程Aを備える。
工程A:クロロフルオロエタン化合物を触媒の存在下で還元反応することでフルオロエタン化合物を含む生成物を得る工程。
【0015】
本開示のフルオロエタン化合物の製造方法において、前記触媒は、Ni,Pd,Pt,Ru及びRhからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属が活性炭に担持されている。
【0016】
本開示の製造方法によれば、目的生成物であるフルオロエタン化合物を効率よく製造することができる。すなわち、本開示の製造方法は、転化率が高く、また、目的生成物であるフルオロエタン化合物への選択率も高い。
【0017】
以下、本明細書において、本開示のフルオロエタン化合物の製造方法を「本開示の製造方法1」と表記する。
【0018】
本開示の製造方法1において、工程Aでは、クロロフルオロエタン化合物を含む原料を、触媒及び水素の存在下にて還元反応を行う。斯かる還元反応により、目的生成物であるフルオロエタン化合物を含む生成物が得られる。
【0019】
(原料)
工程Aで使用する原料は、クロロフルオロエタン化合物を含む。クロロフルオロエタン化合物は、クロロ基及びフルオロ基の両方を有する炭素数2の化合物である。クロロフルオロエタン化合物において、フルオロ基は二個以上有することが好ましく、三個以上有することがより好ましく、三個であることがさらに好ましい。
【0020】
クロロフルオロエタン化合物の具体例として、1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン(CFC-113)、1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-133b)、1-クロロ-1-フルオロエタン(HCFC-151)、1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエタン(HCFC-132)、2-クロロ-1,1-ジフルオロエタン(HCFC-142)、1-クロロ-1,2-ジフルオロエタン(HCFC-142a)、2-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-133)、2,2-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロエタン(HCFC-123)、及び、1,2-ジクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン(HCFC-123a)からなる群より選択される少なくとも1種が例示される。
【0021】
中でもクロロフルオロエタン化合物は、1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン(CFC-113)及び1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-133b)からなる群より選ばれる1種を含むことがさらに好ましく、1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン(CFC-113)を含むことが特に好ましい。すなわち、工程Aで使用する原料は1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン(CFC-113)を含むことが特に好ましい。この場合、フルオロエタン化合物を効率よく得ることができ、また、転化率もより高くすることができる。
【0022】
工程Aで使用するクロロフルオロエタン化合物は、CFC-113を50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、95質量%以上含むことが特に好ましい。工程Aで使用するクロロフルオロエタン化合物は、CFC-113のみとすることもできる。
【0023】
また、工程Aで使用するクロロフルオロエタン化合物は、HCFC-133bを50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、95質量%以上含むことが特に好ましい。工程Aで使用するクロロフルオロエタン化合物は、HCFC-133bのみとすることもできる。
【0024】
なお、工程Aで使用する原料はクロロフルオロエタン化合物のみからなるものであってもよく、また、本開示の効果が阻害されない限りはクロロフルオロエタン化合物以外の他の成分を含有することもできる。
【0025】
工程Aで使用するクロロフルオロエタン化合物中の水分量は、クロロフルオロエタン化合物の全質量に対し、100質量ppm以下であることが好ましく、70質量ppm以下であることがより好ましく、60質量ppm以下であることがさらに好ましく、50質量ppm以下であることが特に好ましい。この場合、触媒の劣化が抑制されるので、触媒寿命を向上させることができる。クロロフルオロエタン化合物中の水分量の下限値は、本開示の製造方法1の効果が阻害されない限りは特に限定されない。例えば、本開示の製造方法1において、反応器に導入するクロロフルオロエタン化合物は水を含まなくてもよい。あるいは、反応器に導入するクロロフルオロエタン化合物中の水の含有量の下限値は0.1質量ppmとすることができる。反応器に導入するクロロフルオロエタン化合物中の水を除去するための工程が複雑になりにくいという観点からは、反応器に導入する前記クロロフルオロエタン化合物中の水の含有量の下限値は1質量ppmとすることが好ましい。本開示の製造方法1で使用するクロロフルオロエタン中の水の含有量は、カール・フィッシャー水分測定法で得られた値を示す。
【0026】
(触媒)
本開示の製造方法1において、工程Aでは、触媒を使用する。具体的に工程Aでは、前述のように、Ni,Pd,Pt,Ru及びRhからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属が活性炭に担持されてなる触媒を使用する。中でも、フルオロエタン化合物をより効率よく得ることができる点で、触媒は、Pd,Pt及びRuからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属が活性炭に担持されてなる触媒を使用することが好ましく、Pd及びPtからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属が活性炭に担持されてなる触媒を使用することがより好ましく、Pdが活性炭に担持されてなる触媒を使用することがさらに好ましい。
【0027】
前記触媒において、金属の担持量は特に限定されない、フルオロエタン化合物が効率よく得られやすい点で、担体(活性炭)の全量に対する金属の含有割合が0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましい。また、フルオロエタン化合物がより効率よく得られやすい点で、担体(活性炭)の全量に対する金属の含有割合が10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。
【0028】
前記触媒の調製方法については特に限定されず、公知の調製方法を広く使用することができる。例えば、担体である活性炭を、Ni,Pd,Pt,Ru及びRhからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属を含む溶液に浸漬することで該溶液を担体に含浸させ、この後、必要に応じて、中和及び焼成等を行う方法によって、前記触媒を得ることができる。この場合、溶液の濃度、含浸の時間等を調節することで、担体への貴金属の担持量を制御することができる。
【0029】
活性炭の種類は特に限定されず、例えば、種々市販されている活性炭を使用することができる。木炭系活性炭、石炭系活性炭、ヤシガラ活性炭、オイルカーボン活性炭、フェノール樹脂活性炭などの活性炭を主として好適に用いることができ、中でも木炭系活性炭、石炭系活性炭、ヤシガラ活性炭がより好適に用いられる。
【0030】
工程Aにおいて、触媒の使用量は特に限定されず、例えば、公知の水素化反応と同様とすることができる。例えば、工程Aの還元反応で使用する反応器の大きさ、使用する原料の量等に応じて適宜設定することができる。
【0031】
(還元反応)
工程Aでは、クロロフルオロエタン化合物を含む原料を、触媒の存在下にて水素を用いた気相還元反応を行う。斯かる還元反応の一態様として、分子内のハロゲン元素を水素により置換し、ハロゲン化水素が脱離する、いわゆる水素化脱ハロゲン化水素反応を挙げることができる。還元反応の他の一態様として、分子内の2重結合に水素分子が付加してアルケンからアルカンを生成する反応である、いわゆる水素付加反応を挙げることができる。工程Aにおいては上記反応のいずれか、もしくは両方が進行する。
【0032】
工程Aの還元反応において、水素の使用量は特に限定されず、例えば、原料中のクロロフルオロエタン化合物1モルに対して、水素を3モル以上、60モル以下とすることができる。HFC-143の選択率が高くなり、かつ、触媒劣化を抑制する効果が期待できることから、原料に対して当量以上の水素を原料とともに反応器に供給することが好ましい。原料中のクロロフルオロエタン化合物1モルに対して、水素は5モル以上であることが好ましく、7モル以上であることがさらに好ましい。水素を適正な量使用することにより、HFC-143の選択率が高く、触媒劣化を抑制する効果が期待できる。また、一方で、過剰量の水素の供給が水素やHFC-143のロスにつながることから、効率的にプラントを運転する観点では水素の過剰量は適度な範囲内とする必要がある。従って、原料中のクロロフルオロエタン化合物1モルに対して、水素は55モル以下であることが好ましく、40モル以下であることがより好ましく、25モル以下であることがさらに好ましく、21モル以下であることが特に好ましい。なお、前記したように、工程Aで使用するクロロフルオロエタン化合物中の水分量が含まれる場合があり、当該水分量がクロロフルオロエタン化合物の全質量に対し100質量ppm以下である場合、触媒劣化が抑制されやすい点で、原料中のクロロフルオロエタン化合物1モルに対して、水素は15モル以上であることが好ましく、20モル以上であることがより好ましく、60モル以下であることが好ましく、55モル以下であることがより好ましく、40モル以下であることがさらに好ましい。
【0033】
還元反応を行う方法は特に限定されない。例えば、反応器内に触媒を収容した状態で、クロロフルオロエタン化合物を含む原料と水素ガスとを反応器に導入して、当該触媒に接触させることで、気相還元反応が行われる。その後、反応器外にて目的のフルオロエタン化合物を含む生成物が、例えば混合ガスとして捕集される。当該混合ガス中には、目的生成物であるフルオロエタン化合物の他、後記する副生成物、及び、未反応原料等も含まれ得る。還元反応において、クロロフルオロエタン化合物を含む原料と水素ガスとは同一のライン(配管)から反応器内に導入してもよいし、異なるライン(配管)から反応器内に導入してもよい。
【0034】
還元反応において、反応温度(原料が触媒に接触するときの雰囲気温度)は特に限定的ではなく、例えば、50~400℃、好ましくは100~380℃、さらに好ましくは100~350℃、特に好ましくは150~330℃とすることがきる。
【0035】
還元反応の反応時間は特に限定されない。例えば、反応器内の触媒の充填量をW(g)と、反応器に流入させるクロロフルオロエタン化合物及び水素ガスの全流量をFとの比率:W/Fで表される接触時間を1~50g・sec/ccとすることができ、5g・sec/cc以上であることが好ましく、10g・sec/cc以上であることがより好ましく、40g・sec/cc以下であることが好ましく、30g・sec/cc以上であることがより好ましく、20g・sec/cc以下であることがさらに好ましい。
【0036】
工程Aの還元反応は、連続式及びバッチ式のいずれの方式を採用できる。また、工程Aの(気相)還元反応は、減圧下、大気圧下及び加圧下のいずれで行ってもよい。例えば、反応性の観点から、反応時の圧力は、2MPaG以下であることが好ましく、1.5MPaG以下であることがより好ましく、1MPaG以下であることが特に好ましい。なお、「MPaG」のGはゲージ圧であることを意味し、大気圧を基準(つまり、大気圧を0MPaG)とした圧力計の表示値を示す。また、還元反応は、ヘリウム、窒素、アルゴンなどの不活性ガスを反応ガスに共存させて行うこともできる。
【0037】
還元反応で使用する反応器は、例えば、管型の流通型反応器等を用いることができる。流通型反応器としては、例えば、断熱反応器、及び、熱媒体を用いて加熱して温度調節できると共に反応熱を除熱することにより反応温度を調節できる多管型反応器等を用いることができる。反応器は、腐食作用に抵抗性がある材料によって形成されていることが好ましく、特に、ステンレス(SUS)、ハステロイ(HASTALLOY)、インコネル(INCONEL)、モネル(MONEL)等で形成されていることが好ましい。
【0038】
反応器は、反応器内の温度を調節するためのジャケットを備えることもでき、ジャケット内には、例えば、熱媒等を流通させることができる。これにより、反応器内のガス(例えば、原料であるクロロフルオロエタン化合物及び水素並びに反応生成物である塩化水素、フルオロエタン類、フルオロエチレン類等)の温度を調節することができる。
【0039】
以上の工程Aにおける還元反応を行って得られる混合ガスを捕集することで、目的物であるフルオロエタン化合物を得ることができる。本開示の製造方法1は、工程Aの他、必要に応じて他の工程を具備することもできる。反応器出口ガスは、未反応原料であるクロロフルオロエタン、水素のほか、反応生成物である塩化水素、フルオロエタン類、フルオロエチレン類等を含む。従って、本開示の製造方法1は、これらのガスを分離しやすくするための工程、例えば、ガスを昇圧する圧縮工程、分離するための冷却工程、蒸留工程、脱酸、脱水工程等を含むことができる。
【0040】
(生成物)
本開示の製造方法1の生成物は、前記フルオロエタン化合物を含む。本明細書において、フルオロエタン化合物とは、炭素数が2であり一つ以上のフッ素を含む飽和炭化水素である。工程Aで使用するクロロフルオロエタン化合物の種類に応じたものである限り、その種類は特に限定されない。なお、前記フルオロエタン化合物は、クロロ基を有することができ、すなわち、フルオロエタン化合物は、クロロフルオロエタン化合物であってもよいが、前記フルオロエタン化合物は、クロロ基を有さないことが好ましい。
【0041】
本開示の製造方法1では、1種又は2種以上の前記フルオロエタン化合物が生成する。つまり、本開示の製造方法1において、生成物は、1種又は2種以上の前記フルオロエタン化合物を含む。
【0042】
本開示の製造方法1で得られるクロロフルオロエタン化合物及び/又はフルオロエタン化合物の具体例としては、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)、フルオロエタン(HFC-161)、1,2-ジフルオロエタン(HFC-152)、1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)、2-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-133)、1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-133b)、2,2-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロエタン(HCFC-123)、1,2-ジクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン(HCFC-123a)、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)及び1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)等を挙げることができる。
【0043】
なお、念のために注記するにすぎないが、製造方法1において、工程Aで使用する原料と生成物とは異なる原料である。例えば、工程Aで使用する原料がHCFC-133bである場合は、生成物はHCFC-133b以外の化合物である。
【0044】
本開示の製造方法1で得られるフルオロエタン化合物は、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)を含むことが好ましく、とりわけ本開示の製造方法1で得られるフルオロエタン化合物は、HFC-143が主生成物であることが好ましい。1,1,2-トリフルオロエタンが主生成物であれば、転化率及び選択率が特に高くなるからである。HFC-143が主生成物である場合、原料であるクロロフルオロエタン化合物は、1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン(CFC-113)又は1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-133b)である。
【0045】
なお、本明細書でいう主生成物とは、生成物中に50モル%以上含まれる成分であることを意味する。
【0046】
HFC-143が主生成物である場合、生成物中のHFC-143の含有割合は、60モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましい。
【0047】
本開示の製造方法1で得られるフルオロエタン化合物は、1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)であってもよい。すなわち、本開示の製造方法1で得られるフルオロエタン化合物は、HFC-152aが主生成物であってもよい。HFC-152aが主生成物ある場合、原料であるクロロフルオロエタン化合物は、1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-133b)である。
【0048】
本開示の製造方法1で得られる生成物には、副生成物及び未反応原料等が含まれていてもよい。本開示の製造方法1で得られる生成物において、前記副生成物の含有割合は、例えば、生成物の全量を基準として40モル%以下とすることができ、30モル%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることがさらに好ましい。
【0049】
前記副生成物の種類は特に限定されない。例えば、前記副生成物は、クロロトリフルオロエチレン及びトリフルオロエチレンからなる群より選ばれる化合物を含み得る。すなわち、工程Aで得られる前記生成物は、クロロトリフルオロエチレン及びトリフルオロエチレンからなる群より選ばれる化合物を副生成物として含み得る。
【0050】
例えば、原料であるクロロフルオロエタン化合物としてCFC-113を使用した場合、主生成物はHFC-143であり、このときの副生成物としてはクロロトリフルオロエチレン及びトリフルオロエチレンからなる群より選ばれる化合物が生成しやすい。なお、クロロトリフルオロエチレン及びトリフルオロエチレンは、例えば、CFC-113からHFC-143を得るための還元反応おける中間体である。
【0051】
より具体的には、本開示の製造方法1で得られる生成物中の主成分がHFC-143である場合、副生成物として1,2-ジクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン(HCFC-123a)が生成し得る。HFC-143が主生成物である場合、生成物中の副生成物の含有割合は、40モル%未満であることが好ましく、30モル%未満であることがより好ましく、20モル%未満であることがさらに好ましい。
【0052】
また、本開示の製造方法1で得られる生成物中の主成分がHFC-152aである場合、副生成物として1,2-ジクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン(HCFC-123a)が生成し得る。HFC-152aが主生成物である場合、生成物中の副生成物の含有割合は、40モル%未満であることが好ましく、30モル%未満であることがより好ましく、20モル%未満であることがさらに好ましい。
【0053】
副生成物がクロロトリフルオロエチレン及びトリフルオロエチレンからなる群より選ばれる化合物を含む場合、クロロトリフルオロエチレン及びトリフルオロエチレンの総含有割合は、生成物の全量を基準として40モル%未満とすることができ、30モル%未満であることがより好ましく、20モル%未満であることがさらに好ましい。
【0054】
本開示の製造方法1で得られた生成物は、精製して目的化合物の純度を高めてもよいし、精製せずに得られた生成物を目的化合物として使用してもよい。また、生成物中に未反応の原料を含む場合、原料を適宜の方法で分離することで、再度、反応用の原料として使用することができる。つまり、製造方法1において、粗生成物を原料としてリサイクルすることができる。
【0055】
本開示の製造方法1により、例えば、HFC-143と、HCFC-123aを含む組成物を得ることができる。斯かる組成物において、HFC-143の含有割合は、HFC-143及びHCFC-123aの全量に対し、60モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましい。HCFC-123aの含有割合は、HFC-143及びHCFC-123aの全量に対し、40モル%未満とすることができ、30モル%未満であることがより好ましく、20モル%未満であることがさらに好ましい。
【0056】
また、本開示の製造方法1により、例えば、HFC-152aと、HCFC-123aを含む組成物を得ることができる。斯かる組成物において、HFC-152aの含有割合は、HFC-152a及びHCFC-123aの全量に対し、60モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましい。HCFC-123aの含有割合は、HFC-152a及びHCFC-123aの全量に対し、40モル%未満とすることができ、30モル%未満であることがより好ましく、20モル%未満であることがさらに好ましい。
【0057】
(原料の製造方法)
工程Aで原料として使用するクロロフルオロエタン化合物の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の製造方法を広く採用することができる。中でも、クロロフルオロエタン化合物は、テトラクロロエチレンと、フッ素化剤とを反応させる工程A0を備える方法で製造することが好ましい。この場合、例えば、クロロフルオロエタン化合物として、1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン(CFC-113)が製造されやすい。
【0058】
工程A0において、テトラクロロエチレンと、フッ素化剤との反応は、例えば、液相フッ素化反応である。すなわち、本開示の製造方法1は、前記1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタンをテトラクロロエチレンの液相フッ素化反応により得る工程を備えることもできる。
【0059】
工程A0において、フッ素化剤としては特に限定されず、例えば、HFや金属ハロゲン化物などのフッ素化剤(フッ素化触媒)が使用される。フッ素化剤(フッ素化触媒)の例として、SbCl、SbCl、SnCl、TaCl、TiCl、NbCl、MoCl、FeCl、およびこれらのフッ素化剤と結合しているClの一部又は全部をフッ素に置換したもの、およびこれらの混合物、またはこれらの組み合わせによるものである。この中では五塩化アンチモンおよび5塩化アンチモンのClの一部をフッ素に置換したものが好ましく、HFとともに用いる液相フッ素化反応が本反応に好適に用いられる。この反応は、液相フッ素化反応を例にとれば、反応温度50℃~200℃、反応圧力0.2~1.5MPaGの反応圧力で実施される。フッ素化剤であるアンチモンの価数を5に維持するため、適宜塩素を添加することもできる。反応器から流出する反応ガスは、目的物であるCFC-113のほか、未反応のHF、HCl、中間体であるCFC-112、塩素などを含みうる。工程A0で行う反応は、一般的に用いられる耐食材料等の反応器を使用することができる。例えば、ハステロイ、インコネル、モネルなどのニッケルを含む材料が好適に用いられる。
【0060】
以上のように、本開示の製造方法1は、工程Aの前に工程A0を備えることができる。
【0061】
2.フルオロオレフィンの製造方法
本開示の製造方法1で得られたフルオロエタン化合物を用いて、これを脱ハロゲン化水素反応することによりフルオロオレフィンを得ることもできる。すなわち、本開示は、本開示の製造方法1で得られたフルオロエタン化合物の脱フッ化水素工程により、フルオロオレフィンを製造する方法も包含する。以下、斯かる製造方法を「本開示の製造方法2」と表記する。また、本開示の製造方法2で行われる前記脱フッ化水素工程を「工程B」と表記する。
【0062】
本開示の製造方法2によれば、例えば、下記一般式(4)
CX1121=CX3141 (4)
(式(4)中、X11、X21、X31及びX41は同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、X11、X21、X31及びX41のうちの少なくとも一つは水素原子を示し、X11、X21、X31及びX41のうちの少なくとも一つはフッ素原子を示す)
で表されるフルオロオレフィンを得ることができる。
【0063】
脱フッ化水素工程において、脱フッ化水素反応の方法は特に限定されず、例えば、公知の脱フッ化水素反応と同様の条件で行うことができる。例えば、脱フッ化水素反応は、脱フッ化水素用触媒の存在下、気相で行うことができる。
【0064】
本開示の製造方法2において、フルオロエタンとして、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)を用いた場合の脱フッ化水素反応は以下の反応式に従う。
CFHCFH → CHF=CHF + HF
【0065】
前記脱フッ化水素用触媒は、特に限定されず、公知の触媒を広く使用することができ、例えば、酸化クロム、フッ化酸化クロム、酸化アルミニウム、フッ化酸化アルミニウム等を挙げることができる。
【0066】
前記脱フッ化水素用触媒媒は、担体に担持されていてもよい。担体としては、例えば、炭素、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、シリカ(SiO)、チタニア(TiO)等が挙げられる。炭素としては、活性炭、不定形炭素、グラファイト、ダイヤモンド等を用いることができる。
【0067】
本開示の製造方法2において、脱フッ化水素反応は、酸化剤の存在下で行うこともできる。脱フッ化水素反応において触媒劣化の抑制に効果が高まりやすい点で、酸化剤は反応ガスに同伴させて供給することが好ましい。酸化剤としては、例えば、酸素、塩素、臭素又はヨウ素等を挙げることができ、酸素が特に好ましい。酸化剤の濃度は特に限定されず、例えば公知の脱フッ化水素反応と同様とすることができる。
【0068】
脱フッ化水素反応の反応温度も特に限定されず、公知の脱フッ化水素反応と同様とすることができ、例えば、300℃以上とすることができ、好ましくは320℃以上、さらに好ましくは340℃以上、特に好ましくは350℃以上とすることができる。また、脱フッ化水素反応の反応温度は、600℃以下とすることができ、好ましくは550℃以下、さらに好ましくは500℃以下、特に好ましくは450℃以下とすることができる。
【0069】
脱フッ化水素反応の反応時間、反応時の圧力も特に限定されず、公知の条件を広く採用できる。脱フッ化水素反応は、不活性ガスの存在下及び空気、または酸素の存在下のいずれの存在下で行うこともできる。脱フッ化水素反応は、連続及びバッチ式のいずれの方式を採用してもよい。
【0070】
本開示の製造方法2は、脱フッ化水素工程の他、必要に応じて他の工程を具備することもできる。なお、製造方法2においても、製造方法2で得られた粗生成物から原料を分離してリサイクルすることができる。
【0071】
脱フッ化水素工程によって、本開示の製造方法2の目的物であるフルオロオレフィン、例えば、一般式(4)で表される化合物が得られる。脱フッ化水素工程によって得られるフルオロオレフィンは1種又は2種以上である。
【0072】
得られるフルオロオレフィンは、脱フッ化水素工程で使用するフルオロエタンによって決まり得る。フルオロオレフィンとしては、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)、1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)及びトリフルオロエチレン(HFO-1123)、フルオロエチレン(HFO-1141)等が例示される。
【0073】
本開示の製造方法2において、フルオロエタンとしてHFC-143を用いた場合、得られるフルオロオレフィンはHFO-1132である。本開示の製造方法2において、フルオロエタンとしてHFC-143aを用いた場合、得られるフルオロオレフィンはHFO-1132aである。本開示の製造方法2において、フルオロエタンとしてHFC-134aを用いた場合、得られるフルオロオレフィンはHFO-1123である。HFO-1132には、トランス-1,2-ジフルオロエチレン[(E)-HFO-1132]、シス-1,2-ジフルオロエチレン[(Z)-HFO-1132]が含まれ得る。
【0074】
以上の本開示の製造方法2によってフルオロオレフィンを得る場合、前述した本開示の製造方法1と、本開示の製造方法2とを連続的に行ってもよいし、あるいは、それぞれ独立に行ってもよい。本開示の製造方法2は、前記工程Aによりフルオロエタン化合物を含む生成物を得た後、当該フルオロエタン化合物の脱フッ化水素工程により、フルオロオレフィンを製造することができる。
【0075】
以上のように、本開示の製造方法2は、フルオロオレフィンの製造方法であって、本開示の製造方法1によってフルオロエタン化合物を得る工程と、当該工程で得られたフルオロエタン化合物の脱フッ化水素反応により、前記フルオロオレフィンを得る工程とを含むものである。
【0076】
3.総合プロセス
本開示は、上述した工程A0、工程A及び工程Bを備える総合プロセスを包含する。斯かる総合プロセスを「総合プロセス1」と表記する。総合プロセス1の概念を図1に示す。なお、図1においてPCEはパークロロエチレン(テトラクロロエチレン)を意味する。また、本図は総合プロセス1の概念図であるため、すべての流れ、工程を示すものではない。
【0077】
総合プロセスの他の実施形態として、前記工程A0と、工程A´と、工程A2と、工程Bを含むことができる。斯かる総合プロセスの他の実施形態を「総合プロセス2」と表記する。総合プロセス2の概念を図2に示す。なお、図2においてPCEはパークロロエチレン(テトラクロロエチレン)を意味する。また、本図は総合プロセス2の概念図であるため、すべての流れ、工程を示すものではない。
【0078】
総合プロセス2において、工程A´及び工程A2は下記のとおりである。
工程A´:前記工程Aの還元反応における中間体として、フルオロエチレン化合物を取り出す工程。
工程A2:前記フルオロエチレン化合物の気相水素化反応により、フルオロエタン化合物を得る工程。
【0079】
なお、総合プロセス2において、工程A0は、総合プロセス1の工程A0と同様であり、また、工程Bは、総合プロセス1の工程Bと同様である。
【0080】
工程A´において、フルオロエチレン化合物は、フルオロエチレン(HFO-1141)、1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレン(CFO-1112)、1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE、CFO-1113)、トリフルオロエチレン(HFO-1123)、2-クロロ-1,1-ジフルオロエチレン(HCFO-1122)、1-クロロ-1,2-ジフルオロエチレン(HCFO-1122a)、テトラフルオロエチレン(FO-1114)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらのうち、前記フルオロエチレンは、クロロトリフルオロエチレン(CTFE、CFO-1113)及びテトラフルオロエチレン(FO-1114)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、クロロトリフルオロエチレン(CTFE、CFO-1113)を含むことが特に好ましい。
【0081】
工程A2において、前記フルオロエチレン化合物の気相水素化反応により、フルオロエタン化合物を製造する方法は特に限定されず、公知の気相水素化反応を広く採用することができる。例えば、触媒が充填された反応器内に工程A´で得たフルオロエチレン化合物及び水素ガスを流入させ、触媒と接触させることで水素化反応を行うことができる。これにより、フルオロエタン化合物が得られる。斯かるフルオロエタン化合物の種類は、前述の工程Aの還元反応で生成するフルオロエタン化合物の種類と同様である。工程A´でクロロトリフルオロエチレン(CTFE、CFO-1113)の気相水素化反応を行った場合は、フルオロエタン化合物としてHFC-143が得られる。
【0082】
前記工程A2で得られたフルオロエタン化合物は、前述の工程Bにより、脱ハロゲン化水素反応することで、フルオロオレフィンを得ることができる。
【0083】
本開示に包含される発明を特定するにあたり、本開示の各実施形態で説明した各構成(性質、構造、機能等)は、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各構成のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0084】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0085】
(実施例1)
内径が1.5cmで、長さ50cmの反応器を1個準備し、この反応器に活性炭に対してパラジウム(Pd)0.5質量%担持した触媒10gを充填した。この反応器の原料供給口から、CFC-113、及び、水素を前記反応器内に供給し、触媒を通過させ、還元反応を行った。斯かる還元反応において、CFC-113は、ガス状態で20ml/minの流量で供給し、また、水素:CFC-113のモル比9:1(すなわち、水素/CFC-113モル比が9)となるように水素ガスを供給させた。上記還元反応では、反応器内の触媒の充填量をW(g)、反応器に流入させるCFC-113及び水素ガスの全流量をF(25℃、0.1013MPaにおける流量)として、W/Fで表される接触時間を3g・sec/ccとし、また、CFC-113及び水素が触媒を通過するときの温度(反応温度、すなわち、反応器内温度)を300℃とした。これによりHFC-143が得られ、転化率は97%、HFC-143の選択率は77%であった。HFC-143に転化できる中間体を含めた有用化合物の選択率は85%であった。
【0086】
(実施例2)
触媒を、活性炭に対してパラジウム(Pd)2質量%担持した触媒に変更したこと以外は実施例1と同様の方法でHFC-143を得た。転化率は98%、HFC-143の選択率は95%であった。
【0087】
(実施例3)
触媒を、活性炭に対してパラジウム(Pd)3質量%担持した触媒に変更したこと以外は実施例1と同様の方法でHFC-143を得た。転化率は99%、HFC-143の選択率は98%であった。
【0088】
(実施例4~9)
表1に示すように、反応温度及び水素/CFC-113モル比を設定したこと以外は実施例2と同様の方法でHFC-143を得た。
【0089】
(実施例10)
触媒を、活性炭に対してPtを2質量%担持した触媒に変更したこと以外は実施例4と同様の方法でHFC-143を得た。
【0090】
(実施例11)
触媒を、活性炭に対してRuを2質量%担持した触媒に変更したこと以外は実施例4と同様の方法でHFC-143を得た。
【0091】
(実施例12)
触媒を、活性炭に対してRhを2質量%担持した触媒に変更したこと以外は実施例4と同様の方法でHFC-143を得た。
【0092】
(比較例1)
触媒を、酸化アルミニウムに対してPdを2質量%担持した触媒に変更したこと以外は実施例1と同様の方法でHFC-143を得た。この場合の転化率は64%、選択率は40%であった。なお、36時間の反応で転化率は40%、選択率は32%まで低下した。
【0093】
表1には、各実施例で実施した反応において、反応条件(反応温度、水素/CFC-113モル比)並びに反応後の添加率及び選択率を示している。
【0094】
【表1】
【0095】
(実施例13)
内径が0.97cmで、長さ55cmの反応器を1個準備し、この反応器に活性炭に対してパラジウム(Pd)2.0質量%担持した触媒2gを充填した。この反応器の原料供給口から、水分量が41.8質量ppmであるCFC-113、及び、水素を反応器内に供給し、触媒を通過させ、還元反応を行った。斯かる還元反応において、CFC-113は、ガス状態で4.7ml/minの流量で供給し、また、水素:CFC-113のモル比12:1(すなわち、水素/CFC-113モル比が12)となるように水素ガスを供給させた。上記還元反応では、反応器内の触媒の充填量をW(g)、反応器に流入させるCFC-113及び水素ガスの全流量をF(25℃、0.1013MPaにおける流量)として、W/Fで表される接触時間を2g・sec/ccとし、また、CFC-113及び水素が触媒を通過する時の温度(反応温度、すなわち、反応器内温度)を285℃とした。これによりHFC-143が得られ、転化率は100%、HFC-143の選択率は80%であった。HFC-143に転化できる中間体を含めた有用化合物の選択率は80%であった。また本条件における触媒寿命は約46時間であり、W/Fを12とした場合は約0.4か月であった。
【0096】
(実施例14)
内径が0.97cmで、長さ55cmの反応器を1個準備し、この反応器に活性炭に対してパラジウム(Pd)2.0質量%担持した触媒1.76gを充填した。この反応器の原料供給口から、水分量が41.8質量ppmであるCFC-113、及び、水素を反応器内に供給し、触媒を通過させ、還元反応を行った。斯かる還元反応において、CFC-113は、ガス状態で3.1ml/minの流量で供給し、また、水素:CFC-113のモル比20:1(すなわち、水素/CFC-113モル比が20)となるように水素ガスを供給させた。上記還元反応では、反応器内の触媒の充填量をW(g)、反応器に流入させるCFC-113及び水素ガスの全流量をF(25℃、0.1013MPaにおける流量)として、W/Fで表される接触時間を1.65g・sec/ccとし、また、CFC-113及び水素が触媒を通過する時の温度(反応温度、すなわち、反応器内温度)を175℃とした。これによりHFC-143が得られ、転化率は100%、HFC-143の選択率は56%であった。HFC-143に転化できる中間体を含めた有用化合物の選択率は88.5%であった。また本条件における触媒寿命は約903時間であり、W/Fを12とした場合は約9.1か月であった。
【0097】
(実施例15)
内径が0.97cmで、長さ55cmの反応器を1個準備し、この反応器に活性炭に対してパラジウム(Pd)2.0質量%担持した触媒1.76gを充填した。この反応器の原料供給口から、水分量が41.8質量ppmであるCFC-113、及び、水素を反応器内に供給し、触媒を通過させ、還元反応を行った。斯かる還元反応において、CFC-113は、ガス状態で1.4ml/minの流量で供給し、また、水素:CFC-113のモル比25:1(すなわち、水素/CFC-113モル比が25)となるように水素ガスを供給させた。上記還元反応では、反応器内の触媒の充填量をW(g)、反応器に流入させるCFC-113及び水素ガスの全流量をF(25℃、0.1013MPaにおける流量)として、W/Fで表される接触時間を3g・sec/ccとし、また、CFC-113及び水素が触媒を通過する時の温度(反応温度、すなわち、反応器内温度)を300℃とした。これによりHFC-143が得られ、転化率は100%、HFC-143の選択率は87%であった。HFC-143に転化できる中間体を含めた有用化合物の選択率は91.3%であった。また本条件における触媒寿命は約952時間であり、W/Fを12とした場合は約9.5か月であった。
【0098】
(実施例16)
内径が0.97cmで、長さ55cmの反応器を1個準備し、この反応器に活性炭に対してパラジウム(Pd)2.0質量%担持した触媒1.76gを充填した。この反応器の原料供給口から、水分量が41.8質量ppmであるCFC-113、及び、水素を反応器内に供給し、触媒を通過させ、還元反応を行った。斯かる還元反応において、CFC-113は、ガス状態で0.7ml/minの流量で供給し、また、水素:CFC-113のモル比51:1(すなわち、水素/CFC-113モル比が51)となるように水素ガスを供給させた。上記還元反応では、反応器内の触媒の充填量をW(g)、反応器に流入させるCFC-113及び水素ガスの全流量をF(25℃、0.1013MPaにおける流量)として、W/Fで表される接触時間を3g・sec/ccとし、また、CFC-113及び水素が触媒を通過する時の温度(反応温度、すなわち、反応器内温度)を300℃とした。これによりHFC-143が得られ、転化率は100%、HFC-143の選択率は83%であった。HFC-143に転化できる中間体を含めた有用化合物の選択率は86.1%であった。また本条件における触媒寿命は約1120時間であり、W/Fを12とした場合は約11.2か月であった。
【0099】
(実施例17)
内径が0.97cmで、長さ55cmの反応器を1個準備し、この反応器に活性炭に対してパラジウム(Pd)2.0質量%担持した触媒1.42gを充填した。この反応器の原料供給口から、水分量が510質量ppmであるCFC-113、及び、水素を反応器内に供給し、触媒を通過させ、還元反応を行った。斯かる還元反応において、CFC-113は、ガス状態で4.1ml/minの流量で供給し、また、水素:CFC-113のモル比10:1(すなわち、水素/CFC-113モル比が10)となるように水素ガスを供給させた。上記還元反応では、反応器内の触媒の充填量をW(g)、反応器に流入させるCFC-113及び水素ガスの全流量をF(25℃、0.1013MPaにおける流量)として、W/Fで表される接触時間を1.72g・sec/ccとし、また、CFC-113及び水素が触媒を通過する時の温度(反応温度、すなわち、反応器内温度)を175℃とした。これによりHFC-143が得られ、転化率は85%、HFC-143の選択率は50%であった。HFC-143に転化できる中間体を含めた有用化合物の選択率は86%であった。また本条件における触媒寿命は約540時間であり、W/Fを12とした場合は約5.2か月であった。
【0100】
(実施例18)
内径が0.97cmで、長さ55cmの反応器を1個準備し、この反応器に活性炭に対してパラジウム(Pd)2.0質量%担持した触媒1.42gを充填した。この反応器の原料供給口から、水分量が173質量ppmであるCFC-113、及び、水素を反応器内に供給し、触媒を通過させ、還元反応を行った。斯かる還元反応において、CFC-113は、ガス状態で4.1ml/minの流量で供給し、また、水素:CFC-113のモル比10:1(すなわち、水素/CFC-113モル比が10)となるように水素ガスを供給させた。上記還元反応では、反応器内の触媒の充填量をW(g)、反応器に流入させるCFC-113及び水素ガスの全流量をF(25℃、0.1013MPaにおける流量)として、W/Fで表される接触時間を1.72g・sec/ccとし、また、CFC-113及び水素が触媒を通過する時の温度(反応温度、すなわち、反応器内温度)を175℃とした。これによりHFC-143が得られ、転化率は99.9%、HFC-143の選択率は57.5%であった。HFC-143に転化できる中間体を含めた有用化合物の選択率は89.1%であった。また本条件における触媒寿命は約455時間であり、W/F12とした場合は約4.4か月であった。
【0101】
(実施例19)
内径が0.97cmで、長さ55cmの反応器を1個準備し、この反応器に活性炭に対してパラジウム(Pd)2.0質量%担持した触媒1.46gを充填した。反応管内の圧力を0.20MPaGに調整し反応器の原料供給口から、水分量が173質量ppmであるCFC-113、及び、水素を反応器内に供給し、触媒を通過させ、還元反応を行った。斯かる還元反応において、CFC-113は、ガス状態で4.7ml/minの流量で供給し、また、水素:CFC-113のモル比10:1(すなわち、水素/CFC-113モル比が10)となるように水素ガスを供給させた。上記還元反応では、反応器内の触媒の充填量をW(g)、反応器に流入させるCFC-113及び水素ガスの全流量をF(25℃、0.1013MPaにおける流量)として、W/Fで表される接触時間を1.70g・sec/ccとし、また、CFC-113及び水素が触媒を通過する時の温度(反応温度、すなわち、反応器内温度)を175℃とした。これによりHFC-143が得られ、転化率は99.9%、HFC-143の選択率は50.9%であった。HFC-143に転化できる中間体を含めた有用化合物の選択率は89.8%であった。また本条件における触媒寿命は約569時間であり、W/Fを12とした場合は約5.6か月であった。
図1
図2