(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100786
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】光学系、表示装置、投影装置及び照明装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/02 20060101AFI20240719BHJP
F21S 2/00 20160101ALI20240719BHJP
F21V 7/22 20180101ALI20240719BHJP
G03B 21/00 20060101ALI20240719BHJP
G03B 21/14 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
G02B5/02 C
F21S2/00 350
F21V7/22
G03B21/00 D
G03B21/14 A
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024073666
(22)【出願日】2024-04-30
(62)【分割の表示】P 2020136940の分割
【原出願日】2020-08-14
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 和幸
(72)【発明者】
【氏名】金杉 駿介
(72)【発明者】
【氏名】有馬 光雄
(72)【発明者】
【氏名】花島 直樹
(57)【要約】
【課題】光の利用効率が高い光学系を提供することを目的とする。
【解決手段】この光学系は、コヒーレント光源と、前記コヒーレント光源から出射した光の進行方向と交差する固定拡散板及び相対移動拡散板と、を備え、前記固定拡散板は、入射光を矩形に出射し、前記相対移動拡散板は、光の拡散面が入射光に対して相対的に移動し、前記固定拡散板の拡散角をθa、前記相対移動拡散板の拡散角をθbとした際に、θb/θa≦0.76、θa≦16を満たす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コヒーレント光源と、
前記コヒーレント光源から出射した光の進行方向と交差する固定拡散板及び相対移動拡散板と、を備え、
前記固定拡散板は、入射光を矩形に出射し、
前記相対移動拡散板は、光の拡散面が入射光に対して相対的に移動し、
前記固定拡散板の拡散角をθa、前記相対移動拡散板の拡散角をθbとした際に、
θb/θa≦0.76、θa≦16
を満たす、光学系。
【請求項2】
前記固定拡散板及び前記相対移動拡散板は、前記光の進行方向に対して、前記固定拡散板、前記相対移動拡散板の順に並ぶ、請求項1に記載の光学系。
【請求項3】
前記固定拡散板及び前記相対移動拡散板は、前記光の進行方向に対して、前記相対移動拡散板、前記固定拡散板の順に並ぶ、請求項1に記載の光学系。
【請求項4】
前記相対移動拡散板は、回転面が前記光の進行方向と交差し、回転可能な回転拡散板である、請求項1~3のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項5】
前記相対移動拡散板は、拡散面に曲率半径がランダムな凸レンズ又は凹レンズがランダムに配置されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項6】
前記固定拡散板は、平面視で複数のマイクロレンズが行列状に配列したマイクロレンズアレイである、請求項1~5のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項7】
インテグレータレンズをさらに備え、
前記インテグレータレンズは、前記光の進行方向に対して前記固定拡散板及び前記相対移動拡散板の後方にある、請求項1~6のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項8】
インテグレータレンズをさらに備え、
前記インテグレータレンズは、前記光の進行方向に対して前記固定拡散板及び前記相対移動拡散板の後方にあり、
前記マイクロレンズアレイは、
前記複数のマイクロレンズのうち行方向に並ぶマイクロレンズのそれぞれの中心の列方向の平均位置を通り前記行方向に延びる複数の行仮想線と、
前記複数のマイクロレンズのうち列方向に並ぶマイクロレンズのそれぞれの中心の行方向の平均位置を通り前記列方向に延びる複数の列仮想線と、
に囲まれる基本セル領域を有し、
前記インテグレータレンズの長辺と短辺との比は、前記基本セル領域の長辺と短辺の比と略同一である、請求項6に記載の光学系。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の光学系を備える、表示装置。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の光学系を備える、投影装置。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の光学系を備える、照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学系、表示装置、投影装置及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
拡散板は、入射した光を様々な方向へ拡散させる。拡散板は、例えば、ディスプレイ、プロジェクタ、照明等の様々用途で用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、レーザー光源から出射したレーザー光を用いたプロジェクタが記載されている。特許文献1に記載のプロジェクタは、レーザー光を拡散板及びライトパイプを通過させることで、矩形の画像を表示する。また特許文献2には、互いに隣り合って設けられ、拡散特性の異なる複数の拡散領域を有し、複数の拡散領域のそれぞれが回転軸周りに回転可能である光源装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4235769号公報
【特許文献2】特許第6160117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のプロジェクタにおいて、矩形のライトパイプには、拡散板で円形に拡散した光が入射している。その結果、特許文献1に記載のプロジェクタには、光の入力ロスが生じている。また特許文献2の光源装置は、複数の拡散領域を有する光拡散素子が回転することで、拡散光の形状は円形となる。その結果、特許文献2に記載の光拡散素子には、光の入力ロスが生じている。
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、光の利用効率が高い光学系、表示装置、投影装置及び照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0008】
第1の態様にかかる光学系は、コヒーレント光源と、前記コヒーレント光源から出射した光の進行方向と交差する固定拡散板及び相対移動拡散板と、を備え、前記固定拡散板は、入射光を矩形に出射し、前記相対移動拡散板は、光の拡散面が入射光に対して相対的に移動する。
【0009】
上記態様にかかる光学系において、前記固定拡散板及び前記相対移動拡散板は、前記光の進行方向に対して、前記固定拡散板、前記相対移動拡散板の順に並んでいてもよい。
【0010】
上記態様にかかる光学系において、前記固定拡散板及び前記相対移動拡散板は、前記光の進行方向に対して、前記相対移動拡散板、前記固定拡散板の順に並んでいてもよい。
【0011】
上記態様にかかる光学系において、前記相対移動拡散板は、回転面が前記光の進行方向と交差し、回転可能な回転拡散板であってもよい。
【0012】
上記態様にかかる光学系において、前記相対移動拡散板は、拡散面に曲率半径がランダムな凸レンズ又は凹レンズがランダムに配置されていてもよい。
【0013】
上記態様にかかる光学系において、前記固定拡散板の拡散角をθa、前記相対移動拡散板の拡散角をθbとした際に、θb/θa≦0.76を満たしてもよい。
【0014】
上記態様にかかる光学系において、前記固定拡散板は、平面視で複数のマイクロレンズが行列状に配列したマイクロレンズアレイであってもよい。
【0015】
上記態様にかかる光学系は、インテグレータレンズをさらに備え、前記インテグレータレンズは、前記光の進行方向に対して前記固定拡散板及び前記相対移動拡散板の後方にあってもよい。
【0016】
上記態様にかかる光学系は、インテグレータレンズをさらに備え、前記インテグレータレンズは、前記光の進行方向に対して前記固定拡散板及び前記相対移動拡散板の後方にあり、前記マイクロレンズアレイは、前記複数のマイクロレンズのうち行方向に並ぶマイクロレンズのそれぞれの中心の列方向の平均位置を通り前記行方向に延びる複数の行仮想線と、前記複数のマイクロレンズのうち列方向に並ぶマイクロレンズのそれぞれの中心の行方向の平均位置を通り前記列方向に延びる複数の列仮想線と、に囲まれる基本セル領域を有し、前記インテグレータレンズの長辺と短辺との比は、前記基本セル領域の長辺と短辺の比と略同一であってもよい。
【0017】
第2の態様にかかる表示装置は、上記態様にかかる光学系を備える。
【0018】
第3の態様にかかる投影装置は、上記態様にかかる光学系を備える。
【0019】
第4の態様にかかる照明装置は、上記態様にかかる光学系を備える。
【発明の効果】
【0020】
上記態様にかかる光学系によれば、光の利用効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】第1実施形態に係る固定拡散板の平面図である。
【
図3】第1実施形態に係る固定拡散板の断面図である。
【
図4】拡散板の製造方法の一例を説明するための断面図である。
【
図5】拡散板の製造方法の一例を説明するための断面図である。
【
図6】拡散板の拡散角の定義を説明するための模式図である。
【
図9】実施例及び比較例の評価装置の模式図である。
【
図10】拡散光の評価方法を説明するための模式図である。
【
図11】実施例及び比較例の結果をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0023】
図1は、第1実施形態にかかる光学系100の模式図である。光学系100は、コヒーレント光源10B、10G、10Rと、固定拡散板20と、回転拡散板30と、インテグレータレンズ40と、を備える。
図1に示す光学系100は、この他、ダイクロイックミラーDMを備える。
【0024】
まず方向について定義する。固定拡散板20が広がる面をxy平面とし、xy平面の任意の方向をx方向、x方向と直交する方向をy方向とする。x方向は、行方向の一例である。y方向は、列方向の一例である。また固定拡散板20に対して直交する方向をz方向とする。
【0025】
コヒーレント光源10B、10G、10Rは、コヒーレントな光を出射する。コヒーレント光源10B、10G、10Rは、例えば、レーザーである。
図1に示すコヒーレント光源10Bは青色レーザーであり、コヒーレント光源10Gは緑色レーザーであり、コヒーレント光源10Rは赤色レーザーである。コヒーレント光源は、それぞれの色を準備してもよいし、蛍光体に青色レーザーを照射することで黄色、緑及び赤色を生み出してもよい。
図1では、それぞれのコヒーレント光源10B、10G、10Rから出射される各色を、ダイクロイックミラーDMを用いて収束し、白色を実現している。
【0026】
コヒーレント光は、スペックルノイズを生み出す。スペックルノイズは、被照射物(例えばスクリーン)における拡散作用と、コヒーレントなレーザー光との干渉によりランダムな細かい干渉パターンがノイズとして生じたものである。スペックルノイズは、例えば、画像の画質を著しく低下させる原因となる。スペックルノイズが生じると、各色がぎらつき、白色とならない。
【0027】
固定拡散板20及び回転拡散板30には、コヒーレント光源10B、10G、10Rからの光が入射する。固定拡散板20及び回転拡散板30でコヒーレント光を広げることで、スペックルノイズが低減される。
図1に示す光学系100は、光の進行方向に対して、固定拡散板20、回転拡散板30の順に並んでいる。
【0028】
固定拡散板20は、入射光を矩形に拡散する矩形拡散板である。入射光を矩形に拡散するとは、拡散光のxy方向の10%角度幅に対するx方向の10%角度幅の比が1より小さいことを意味する。拡散光の10%角度幅は、強度分布をガウス関数でフィッティングし、フィッティングカーブにおいて最大強度の10%以上の強度となる角度の範囲である。
【0029】
固定拡散板20は、例えば、マイクロレンズアレイである。
図2は、第1実施形態に係る固定拡散板20の平面図である。
図3は、第1実施形態に係る固定拡散板20の断面図である。
図3は、
図2における行仮想線Vcに沿って固定拡散板20を切断した断面である。
【0030】
固定拡散板20は、例えば、z方向からの平面視で、複数のマイクロレンズ21が行列状に配列している。マイクロレンズ21のそれぞれは、例えば、略矩形である。複数のマイクロレンズ21のそれぞれは、基本パターンに基づいて配列している。
【0031】
基本パターンは、行仮想線Vcと列仮想線Vrとによって囲まれる基本セル領域が、x方向及びy方向に整列したパターンである。行仮想線Vcは、行方向(x方向)に並ぶマイクロレンズ21のそれぞれの中心の列方向(y方向)の平均位置を通り、x方向に延びる複数の仮想線である。列仮想線Vrは、列方向(y方向)に並ぶマイクロレンズ21のそれぞれの中心の行方向(x方向)の平均位置を通り、y方向に延びる複数の仮想線である。
【0032】
2つの行仮想線Vcと2つの列仮想線Vrとに囲まれる最小単位が基本セル領域である。基本セル領域のx方向の長さGxとy方向の長さGyの比と、後述するインテグレータレンズ40のx方向の長さとy方向の長さの比とが、略一致すると、光学系100の光の利用効率が特に高まる。略一致とは、いずれかの値を基準に、10%の数値幅の範囲内にあることを意味する。
【0033】
固定拡散板20においてマイクロレンズ21は、密に存在する。すなわち、マイクロレンズ21の間に非レンズ領域が存在しない。そのため、マイクロレンズ21同士の間は稜線となる。稜線の高さ、方向が不規則であると、固定拡散板20による回折が抑制される。隣接する稜線は、互いに平行ではないことが好ましい。
【0034】
マイクロレンズ21は、例えば、固定拡散板20の基準面Rpに対して凹む凹レンズである。マイクロレンズ21は、例えば、基準面Rpに対して突出する凸レンズでもよい。基準面Rpは、xy平面と平行な面であり、第1面20aの最も突出した部分と接する面である。基準面Rpは、例えば、固定拡散板20のマイクロレンズ21となる凹部を加工する前の基板の表面である。
図3では、マイクロレンズ21が固定拡散板20の第1面20aのみにある例を示したが、マイクロレンズ21は第1面20aと第2面20bの両面にあってもよい。マイクロレンズ21のそれぞれの曲率半径は、ランダムでもよい。
【0035】
固定拡散板20は、例えば、入射する波長帯域の光を透過できる材料からなる。固定拡散板20は、例えば、光学ガラス、水晶、サファイア、樹脂板、樹脂フィルムである。光学ガラスは、例えば、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、白板ガラス等である。樹脂は、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、環状オレフィン・コポリマー(COC)等である。光学ガラス、水晶及びサファイアの無機材料は、耐光性に優れる。また水晶、サファイアは放熱性に優れる。
【0036】
固定拡散板20は、レジスト塗布工程と、露光・現像工程と、エッチング工程とによって作製される。
図4及び
図5は、固定拡散板20の製造方法の一例を説明するための模式図である。
【0037】
まずレジスト塗布工程では、基板S上にレジストR1を塗布する。基板Sは、加工により上述の固定拡散板20となるため、固定拡散板20と同様の材料である。後述するエッチング工程では、エッチングガスとしてフッ素系エッチングガス(CF4、SF6、CHF3等)を用いる場合がある。Al2O3及びアルカリ金属等は、フッ素系エッチングガスと反応して不揮発性物質となる場合がある。例えば、アルカリ金属は含有しないがAl2O3を27%含有するガラス基板(例えば、コーニング社製のイーグルXG)をフッ素系エッチングガスでエッチングすると、エッチングされにくいAl2O3が残り、表面に微小突起が発生し、ガラス基板の透過率が低下する。基板Sは、アルカリ成分の含有量が20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。基板Sは、例えば、石英ガラス、テンパックスガラスが好ましい。レジストR1は、公知のものを適用できる。
【0038】
次いで、露光工程では、グレースケールマスクGmを介してレジストR1に光L1を照射し、レジストR1を露光する。露光は、例えば、グレースケールマスクを動かしながら繰り返し露光するステップアンドリピート露光を行う。ステッピングの位置精度によっては、1回の露光で形成される基本セルの間に最大で数μm程度の幅の繋ぎ目が生じる場合がある。このような問題を避けるために、基本セル同士が重なるように露光することが好ましい。基本セル同士を大きく重ねる場合は、複数回の露光で所望の露光量となるように調整してもよい。
【0039】
グレースケールマスクGmは、基本パターンを基準に設計される。基本パターンは上述の行仮想線Vcと列仮想線Vrとによって形成されるパターンと同等である。グレースケールマスクGmは、基本パターンを基準に、行仮想線RL及び列仮想線CLの間隔Gx、Gy、それぞれのマイクロレンズの頂点cの位置、それぞれのマイクロレンズの曲率半径のパラメータを、それぞれシフトさせて作製される。これらのパラメータをばらつかせることで、固定拡散板20から回折パターンが出力されることが抑制される。
【0040】
次いで、現像工程では、露光したレジストパターンを現像する。現像によりレジストR1の一部が除去され、表面にレジストパターンを有するレジストR2となる。レジストR2の表面には、所望のマイクロレンズアレイと同様のレジストパターンが形成される。
【0041】
次いで、エッチング工程では、レジストR2を介して基板Sをドライエッチングする。ドライエッチングは、例えば、反応性のガスGを用いて行う。ガスGは、例えば、上述のフッ素系エッチングガスである。ドライエッチングによりレジストR2の表面に形成されたマイクロレンズアレイのパターンが、基板Sに転写される。基板Sは、第1面にマイクロレンズアレイが形成された固定拡散板20となる。
【0042】
回転拡散板30は、回転面が光の進行方向と交差し、回転可能である。回転拡散板30が回転することで、光の拡散面が入射光に対して相対的に移動する。回転拡散板30は、相対移動拡散板の一例である。回転拡散板30は、光の拡散面が入射光に対して相対的に移動するものであればよく、例えば、回転拡散板30に変えて、振動する振動拡散板を用いてもよい。
【0043】
回転拡散板30は、例えば、フロスト型拡散板、マイクロレンズ型拡散板である。回転拡散板30は、回転していない状態で、入射光を矩形に拡散する矩形拡散板でも、入射光を円形に拡散する円形拡散板でもよい。回転拡散板30を単体で用いた場合、矩形拡散板、円形拡散板のいずれを用いた場合でも、拡散面が入射光に対して相対的に移動することで、拡散光は円形となる。
【0044】
回転拡散板30は、例えば、拡散面に曲率半径がランダムな凸レンズ又は凹レンズがランダムに配置されている。曲率半径及び配置がランダムであることで、コヒーレント光を効率的に広げ、スペックルノイズの発生を低減しやすくなる。
【0045】
固定拡散板20及び回転拡散板30は、少なくとも一面に反射防止膜を有してもよい。反射防止膜は、例えば、低屈折率層と高屈折率層とが積層された積層膜である。低屈折率層は、例えばSiO2、MgF2、CaF2である。高屈折率層は、例えば、Nb2O5、TiO2、Ta2O5、Al2O3、HfO2、ZrO2である。SiO2、Nb2O5及びTa2O5は、耐光性に優れ、高出力レーザー等によって出射される高い光密度の光が照射されても劣化しにくい。また反射防止膜は、数百nmピッチの微細な凹凸が配列したモスアイ構造でもよい。
【0046】
固定拡散板20の拡散角θaと、回転拡散板30の拡散角θbとは、θb/θa≦0.76を満たすことが好ましい。
【0047】
図6は、固定拡散板20及び回転拡散板30の拡散角の定義を説明するための模式図である。拡散板の拡散角θは、レンズの平均曲率半径R、拡散板の屈折率n、隣接するレンズの平均間隔pから以下の関係に基づき求められる。
θ=2sin
-1{(p(n-1)/2R)
拡散板の拡散角θは、平行光を入射した際に、拡散板から出射される光の広がり角と定義することもできる。
【0048】
拡散角θaと拡散角θbとが上記関係を満たすと、2つの拡散板を通過した後の光が矩形になる。上述のように、回転拡散板30を単体で用いた場合は、通過した光は、原則円形に広がる。これに対し、2つの拡散板を使い、これらの2つの拡散板が上記の関係を満たすと、通過した光が矩形になる。拡散板を通過した後の光は、インテグレータレンズや画像表示デバイスに照射される。これらの部材は四角形であり、拡散光が矩形であると光の利用効率が高まる。
【0049】
インテグレータレンズ40は、照射面への照度の均一性を高めるレンズである。インテグレータレンズ40を光が通過することで、投影される画像の精度が高まる。インテグレータレンズ40は、光の進行方向に対して固定拡散板20及び回転拡散板30の後方にある。
【0050】
インテグレータレンズ40のx方向の長さとy方向の長さの比と、基本セル領域のx方向の長さGxとy方向の長さGyの比と、略一致すると、光学系100の光の利用効率が特に高まる。
【0051】
本実施形態にかかる光学系を用いると、固定拡散板20に拡散光が円形である円形拡散板を用いた場合より光の利用効率が高い。また固定拡散板20の拡散角θaと回転拡散板30の拡散角θbとが所定の関係を満たすことで、2つの拡散板を通過した後の光を矩形に近づけることができ、光の利用効率をより高めることができる。
【0052】
以上、第1実施形態について詳述したが、当該例に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0053】
図7は、第1変形例に係る光学系101の模式図である。第1変形例にかかる光学系101は、固定拡散板20と回転拡散板30との配置順が、上記の光学系100と異なる。第1変形例に係る光学系101において、光学系100と同様の構成については同様の符号を付し、説明を省く。
【0054】
図7に示す光学系101は、光の進行方向に、回転拡散板30、固定拡散板20、インテグレータレンズ40の順に並んでいる。回転拡散板30と固定拡散板20の配置順が逆転しても、2つの拡散板を通過後の光は同じとなる。したがって、第1変形例に係る光学系101も、上記の光学系100と同様の効果が得られる。
【0055】
上記の光学系100、101は、表示装置、投影装置、照明装置等に用いることができる。
【0056】
図8は、第1適用例に係る表示装置DPの模式図である。表示装置DPは、例えば、レーザーテレビ、DLPプロジェクタである。表示装置DPは、コヒーレント光源10Bと、固定拡散板20と、複数のミラーMと、蛍光体ホイールPWと、回転拡散板30と、インテグレータレンズ40と、複数のレンズLと、デジタルマイクロデバイスDLDと、プリズムTIRと、を有する。
【0057】
コヒーレント光源10Bからは青色の光が出射する。光は固定拡散板20及び蛍光体ホイールPWを通過後、回転拡散板30に入射する。蛍光体ホイールPWは、青色レーザーが照射されることで黄色(緑、赤色)を生み出し、これらの光は回転拡散板30に至る。回転拡散板30を通過後の光は、インテグレートレンズ40及び複数のレンズLで集光される。集光された光は、プリズムTIRを介してデジタルマイクロデバイスDLDに至る。デジタルマイクロデバイスDLDは、光のON、OFFを制御し、プリズムTIRと介して外部に光を出力する。
【実施例0058】
以下の実施例1~15及び比較例1~20では、
図9に示す光学系を設計し、シミュレーションにより拡散光を評価した。光学系は、コヒーレント光源10と固定拡散板20と回転拡散板30とスクリーンScとを有する。コヒーレント光源10は、強度1W、スポット径0.6mmの光を出力する。コヒーレント光源10と固定拡散板20との距離は5mmとした。固定拡散板20と回転拡散板30との距離は0.5mmとした。回転拡散板30とスクリーンScとの距離は200mmとした。シミュレーションは、Zemax社のOpticStudioを用いて行った。
【0059】
スクリーンの全エリアは40mm×40mmとし、評価エリアは全エリアの中央の18.5mm×18.5mmのエリアとした。そして、全エリアに対する評価エリアの光の利用効率、及び、x方向及びxy方向の拡散特性を求めた。xy方向は、x方向及びy方向のそれぞれに対して45°傾いた方向である。
図10は、実施例及び比較例における拡散光を説明するための模式図である。x方向及びxy方向の拡散特性は、拡散光のx方向及びxy方向の10%角度幅で評価した。10%角度幅は、上述のように、拡散光の10%角度幅は、強度分布をガウス関数でフィッティングし、フィッティングカーブにおいて最大強度の10%以上の強度となる角度の範囲である。
【0060】
「実施例1~4、比較例1~6」
実施例1~4は、固定拡散板20を、入射光を矩形に拡散する矩形拡散板とし、回転拡散板30を、入射光を円形に拡散する円形拡散板とした。比較例1~6は、固定拡散板20を円形拡散板とし、回転拡散板30を円形拡散板とした。実施例1~4、比較例1~6では、全エリアの検出強度が1425mW程度となるようした。実施例1~4では固定拡散板20の拡散角θaを5°に設定し、比較例1~6では、固定拡散板20の拡散角θaを7°に設定した。そして、回転拡散板30の拡散角θbを変えて、それぞれの場合の評価を行った。以下の表1にその結果をまとめる。
【0061】
【0062】
実施例1~4は、比較例1~6と比較して光利用効率が高かった。また拡散角θb/拡散角θaが0.8より小さいと、拡散光の形状が矩形に近づいた。
【0063】
「実施例5~8、比較例7~13」
実施例5~8は、固定拡散板20を矩形拡散板とし、回転拡散板30を円形拡散板とした。比較例7~13は、固定拡散板20を円形拡散板とし、回転拡散板30を円形拡散板とした。実施例5~8、比較例7~13では、全エリアの検出強度が300mW程度となるようした。実施例5~8では固定拡散板20の拡散角θaを10°に設定し、比較例7~13では、固定拡散板20の拡散角θaを14°に設定した。そして、回転拡散板30の拡散角θbを変えて、それぞれの場合の評価を行った。以下の表2にその結果をまとめる。
【0064】
【0065】
実施例5~8は、比較例7~13と比較して光利用効率が高かった。また拡散角θb/拡散角θaが0.8より小さいと、拡散光の形状が矩形に近づいた。
【0066】
「実施例9~15、比較例14~20」
実施例9~15は、固定拡散板20を矩形拡散板とし、回転拡散板30を円形拡散板とした。比較例14~20は、固定拡散板20を円形拡散板とし、回転拡散板30を円形拡散板とした。実施例9~15、比較例14~20では、全エリアの検出強度が100mW程度となるようした。実施例9~15では固定拡散板20の拡散角θaを16°に設定し、比較例14~20では、固定拡散板20の拡散角θaを22°に設定した。そして、回転拡散板30の拡散角θbを変えて、それぞれの場合の評価を行った。以下の表3にその結果をまとめる。
【0067】
【0068】
実施例9~15は、比較例14~20と比較して光利用効率が高かった。また拡散角θb/拡散角θaが0.8より小さいと、拡散光の形状が矩形に近づいた。
【0069】
またこれらの実施例及び比較例の結果を
図11にまとめる。
図11に示すように、拡散角θb/拡散角θaが0.76以下であれば、比較例における光利用効率の最大値より光利用効率を高めることができる。