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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100815
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】摩擦攪拌点接合装置及び継手構造
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
B23K20/12 344
B23K20/12 310
B23K20/12 340
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024077884
(22)【出願日】2024-05-13
(62)【分割の表示】P 2022526630の分割
【原出願日】2021-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2020094145
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村松 良崇
(72)【発明者】
【氏名】三宅 将弘
(72)【発明者】
【氏名】大橋 良司
(72)【発明者】
【氏名】武岡 正樹
(57)【要約】
【課題】ツールの摩耗状況を被接合物の接合打点(被接合部の表面)から判断することができる、摩擦攪拌点接合装置及び継手構造を提供する。
【解決手段】本発明に係る摩擦攪拌点接合装置は、円柱状に形成されているピン部材(11)と、円筒状に形成され、ピン部材(11)が内部に挿通されているショルダ部材(12)と、ピン部材(11)及びショルダ部材(12)を、ピン部材(11)の軸心に一致する軸線(Xr)周りに回転させる回転駆動器(57)と、ピン部材(11)及びショルダ部材(12)を、それぞれ、軸線(Xr)に沿って進退移動させる進退駆動器(53)と、を備え、ショルダ部材(12)の先端部(120)は、テーパー状に形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合物を摩擦熱で軟化させることにより接合する摩擦攪拌点接合装置であって、
前記摩擦攪拌点接合装置は、
円柱状に形成されているピン部材と、
円筒状に形成され、前記ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、前記ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、それぞれ、前記軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、を備え、
前記ショルダ部材の先端部は、テーパー状に形成され、
前記ショルダ部材の前記先端部が、内周面、外周面、及び前記内周面と前記外周面との間の先端面を有し、前記内周面又は前記外周面が前記先端面となす角度が45°未満である、摩擦攪拌点接合装置。
【請求項2】
前記ショルダ部材の先端面と前記ピン部材の先端面が、水平方向から見て、一致するように構成されている、請求項1に記載の摩擦攪拌点接合装置。
【請求項3】
前記ショルダ部材の先端面が、水平方向から見て、前記ピン部材の先端面よりも突出するように構成されている、請求項1に記載の摩擦攪拌点接合装置。
【請求項4】
前記ショルダ部材の先端部の外周面は、傾斜、湾曲、曲線状、又は屈曲するように構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の摩擦攪拌点接合装置。
【請求項5】
前記ショルダ部材の先端部の内周面は、傾斜、湾曲、曲線状、又は屈曲するように構成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の摩擦攪拌点接合装置。
【請求項6】
被接合物を摩擦熱で軟化させることにより接合する摩擦攪拌点接合装置であって、
前記摩擦攪拌点接合装置は、
円柱状に形成されているピン部材と、
円筒状に形成され、前記ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、前記ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、それぞれ、前記軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、
制御器とを備え、
前記ショルダ部材の先端部は、テーパー状に形成され、
前記被接合物は、第1部材と第2部材を備え、
前記第1部材は、前記ピン部材及び前記ショルダ部材と対向するように配置され、かつ、前記第2部材よりも融点の低い材料で構成されていて、
前記制御器は、前記ピン部材及び前記ショルダ部材が、回転した状態で、前記被接合物の被接合部を押圧するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器を動作させる(A)と、
回転した状態の前記ショルダ部材の先端を前記第2部材内における予め設定されている所定の第1位置まで到達させ、かつ、回転した状態の前記ピン部材を前記被接合物の被接合部から後退するように、前記進退駆動器及び前記回転駆動器を動作させる(B)と、
前記(B)の後に、回転した状態の前記ショルダ部材の先端が前記第1位置に到達した状態で、予め設定されている所定の第1時間滞留させる(C)と、
前記(C)の後に、回転した状態の前記ショルダ部材を前記被接合物の被接合部から引き抜くように、かつ、回転した状態の前記ピン部材を前記被接合物の被接合部に向かって進出するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器を動作させる(D)と、を実行するように構成されている、摩擦攪拌点接合装置。
【請求項7】
前記第1時間は、0秒より長く、2秒未満の時間である、請求項6に記載の摩擦攪拌点接合装置。
【請求項8】
前記第1位置は、前記第2部材の前記第1部材との当接面から0.3mm以下の位置である、請求項6又は7に記載の摩擦攪拌点接合装置。
【請求項9】
被接合物を摩擦熱で軟化させることにより接合する摩擦攪拌点接合装置が、
円柱状に形成されているピン部材と、
円筒状に形成され、前記ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、前記ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、それぞれ、前記軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、を備え、
前記ショルダ部材の先端部は、テーパー状に形成され、
前記被接合物は、第1部材と第2部材を備え、
前記第1部材は、前記ピン部材及び前記ショルダ部材と対向するように配置され、かつ、前記第2部材よりも融点の低い材料で構成されていて、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材が、回転した状態で、前記被接合物の被接合部を押圧するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器を動作させる(A)と、
回転した状態の前記ショルダ部材の先端を前記第2部材内における予め設定されている所定の第1位置まで到達させ、かつ、回転した状態の前記ピン部材を前記被接合物の被接合部から後退するように、前記進退駆動器及び前記回転駆動器を動作させる(B)と、
前記(B)の後に、回転した状態の前記ショルダ部材の先端が前記第1位置に到達した状態で、予め設定されている所定の第1時間滞留させる(C)と、
前記(C)の後に、回転した状態の前記ショルダ部材を前記被接合物の被接合部から引き抜くように、かつ、回転した状態の前記ピン部材を前記被接合物の被接合部に向かって進出するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器を動作させる(D)と、
を実行する、摩擦攪拌点接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌点接合装置及び継手構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、鉄道車両、航空機等の輸送機器においては、金属材料を連結するときには、抵抗スポット溶接又はリベット接合が用いられていた。しかしながら、近年では、摩擦熱を利用して金属材料を接合する方法(摩擦攪拌点接合方法)が注目されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示されている摩擦攪拌点接合方法では、略円柱状のピン部材と、該ピン部材を内挿するための中空を有する略円筒状のショルダ部材と、が、被接合物を接合するために用いられていて、以下に示すように、ピン部材とショルダ部材(ツール)を作動(駆動)させる工具駆動部を制御している。
【0004】
すなわち、ピン部材の先端面の断面積をAp、ショルダ部材の先端面の断面積をAs、ピン部材が被接合物の表面から圧入したときの圧入深さをPp、ショルダ部材が被接合物の表面から圧入したときの圧入深さをPsとしたときに、Ap・Pp+As・Ps=Txで定義されるツール平均位置Txの絶対値を小さくするように、工具駆動部を制御している。
【0005】
これにより、接合条件に応じて好適な精度で良好な接合品質を実現し得るとともに、内部空洞欠陥の発生を防止または抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-196682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、本発明者等は、上記特許文献1に開示されている摩擦攪拌点接合方法では、被接合物の表面が平滑化されるため、接合終了後の被接合物の表面からはツールの摩耗状況が判断できない。このため、定期的にツールを装置から外して、ツールの摩耗状況を検査する必要があった。
【0008】
本発明は、ツールの摩耗状況を被接合物の接合打点(被接合部の表面)から判断することができる、摩擦攪拌点接合装置及び継手構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る摩擦攪拌点接合装置は、被接合物を摩擦熱で軟化させることにより接合する摩擦攪拌点接合装置であって、前記摩擦攪拌点接合装置は、円柱状に形成されているピン部材と、円筒状に形成され、前記ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、前記ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、それぞれ、前記軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、を備え、前記ショルダ部材の先端部は、テーパー状に形成されている。
【0010】
これにより、ショルダ部材の先端部に摩耗が生じていない場合には、被接合物を摩擦攪拌点接合すると、被接合部の表面に先端部の形状が印される(転写される)。一方、ショルダ部材の先端部に摩耗が生じている場合には、被接合部の表面に先端部の形状が印されず、表面が平坦状になる。
【0011】
このため、摩擦攪拌点接合の終了後に、被接合部の表面を検査(視認)することにより、ショルダ部材の先端部が摩耗しているか否かを判断することができる。
【0012】
また、本発明に係る継手構造は、第1部材及び第2部材を備える被接合物が、被接合部で摩擦攪拌点接合されることにより形成される、継手構造であって、前記第1部材は、前記第2部材よりも融点の低い材料で構成されていて、前記第1部材及び前記第2部材は、この順となるように配置されていて、前記被接合部の表面には、円環状の凹部が形成されていて、前記凹部の底面が、傾斜、湾曲、曲線状、又は屈曲するように形成されている。
【0013】
これにより、摩擦攪拌点接合の終了後に、被接合部の表面を検査(視認)することにより、ショルダ部材の先端部が摩耗しているか否かを判断することができる。
【0014】
本発明の上記目的、他の目的、特徴、及び利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施形態の詳細な説明から明らかにされる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る摩擦攪拌点接合装置及び継手構造によれば、ツールの摩耗状況を被接合物の接合打点(被接合部の表面)から判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置の概略構成を示す模式図である。
図2図2は、図1に示す摩擦攪拌点接合装置の要部を拡大した模式図である。
図3図3は、図1に示す摩擦攪拌点接合装置の制御構成を模式的に示すブロック図である。
図4図4は、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図5A図5Aは、図1に示す摩擦攪拌点接合装置による摩擦攪拌点接合の各工程の一例を模式的に示す工程図である。
図5B図5Bは、図1に示す摩擦攪拌点接合装置による摩擦攪拌点接合の各工程の一例を模式的に示す工程図である。
図6図6は、本実施の形態1における変形例1の摩擦攪拌点接合装置の要部拡大した模式図である。
図7図7は、本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置の要部の概略構成を示す模式図である。
図8A図8Aは、摩擦攪拌点接合装置のピン部材、ショルダ部材、クランプ部材の先端部の概略構成を示す模式図である。
図8B図8Bは、被接合物の転写部に働くせん断力を分解した図である。
図9図9は、本実施の形態3に係る摩擦攪拌点接合装置の要部の概略構成を示す模式図である。
図10図10は、試験例1、2及び比較例の摩擦攪拌点接合装置を用いて、上記接合条件で摩擦攪拌点接合した被接合物の引張せん断試験と十字引張試験の結果を示すグラフである。
図11図11は、試験例1の摩擦攪拌点接合装置を用いて、摩擦攪拌点接合した被接合物の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。また、全ての図面において、本発明を説明するために必要となる構成要素を抜粋して図示しており、その他の構成要素については図示を省略している場合がある。さらに、本発明は以下の実施の形態に限定されない。
【0018】
(実施の形態1)
以下、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置の一例について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
[摩擦攪拌点接合装置の構成]
図1は、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置の概略構成を示す模式図である。なお、図1においては、図における上下方向を摩擦攪拌点接合装置における上下方向として表している。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50は、ピン部材11、ショルダ部材12、工具固定器52、進退駆動器53、クランプ部材13、裏当て支持部55、裏当て部材56、及び回転駆動器57を備えている。
【0021】
ピン部材11、ショルダ部材12、工具固定器52、進退駆動器53、クランプ部材13、及び回転駆動器57は、C型ガン(C型フレーム)で構成される裏当て支持部55の上端に設けられている。また、裏当て支持部55の下端には、裏当て部材56が設けられている。ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13と、裏当て部材56と、は互いに対向する位置で裏当て支持部55に取り付けられている。なお、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13と、裏当て部材56と、の間には、被接合物60が配置される。
【0022】
ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13は、回転工具固定器521及びクランプ固定器522から構成される工具固定器52に固定されている。具体的には、ピン部材11及びショルダ部材12は、回転工具固定器521に固定されていて、クランプ部材13は、クランプ駆動器41を介して、クランプ固定器522に固定されている。そして、回転工具固定器521は、回転駆動器57を介して、クランプ固定器522に支持されている。なお、クランプ駆動器41は、スプリングにより構成されている。
【0023】
また、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13は、ピン駆動器531及びショルダ駆動器532から構成される進退駆動器53によって、上下方向に進退駆動される。
【0024】
ピン部材11は、円柱状に形成されていて、図1には、詳細に図示されないが、回転工具固定器521により支持されている。また、ピン部材11は、回転駆動器57により、ピン部材11の軸心に一致する軸線Xr(回転軸)周りに回転し、ピン駆動器531により、矢印P1方向、すなわち軸線Xr方向(図1では上下方向)に沿って、進退移動可能に構成されている。
【0025】
なお、ピン駆動器531としては、例えば、直動アクチュエータで構成されていてもよい。直動アクチュエータとしては、例えば、サーボモータとラックアンドピニオン、サーボモータとボールネジ、又はエアシリンダー等で構成されていてもよい。
【0026】
ショルダ部材12は、中空を有する円筒状に形成されていて、回転工具固定器521により支持されている。ショルダ部材12の中空内には、ピン部材11が内挿されている。換言すると、ショルダ部材12は、ピン部材11の外周面を囲むように配置されている。
【0027】
また、ショルダ部材12は、回転駆動器57により、ピン部材11と同一の軸線Xr周りに回転し、ショルダ駆動器532により、矢印P2方向、すなわち軸線Xr方向に沿って進退移動可能に構成されている。
【0028】
なお、ショルダ駆動器532としては、例えば、直動アクチュエータで構成されていてもよい。直動アクチュエータとしては、例えば、サーボモータとラックアンドピニオン、サーボモータとボールネジ、又はエアシリンダー等で構成されていてもよい。
【0029】
このように、ピン部材11及びショルダ部材12(回転工具)は、本実施の形態ではいずれも同一の回転工具固定器521によって支持され、いずれも回転駆動器57により軸線Xr周りに一体的に回転する。さらに、ピン部材11及びショルダ部材12は、ピン駆動器531及びショルダ駆動器532により、それぞれ軸線Xr方向に沿って進退移動可能に構成されている。
【0030】
なお、本実施の形態1においては、ピン部材11は単独で進退移動可能であるとともに、ショルダ部材12の進退移動に伴っても進退移動可能となっているが、ピン部材11及びショルダ部材12がそれぞれ独立して進退移動可能に構成されてもよい。
【0031】
クランプ部材13は、ショルダ部材12と同様に、中空を有する円筒状に形成されていて、その軸心が軸線Xrと一致するように設けられている。クランプ部材13の中空内には、ショルダ部材12が内挿されている。
【0032】
すなわち、ピン部材11の外周面を囲むように、円筒状のショルダ部材12が配置されていて、ショルダ部材12の外周面を囲むように円筒状のクランプ部材13が配置されている。換言すれば、クランプ部材13、ショルダ部材12及びピン部材11が、それぞれ同軸心状の入れ子構造となっている。
【0033】
また、クランプ部材13は、被接合物60を一方の面(表面)から押圧するように構成されている。クランプ部材13は、上述したように、本実施の形態1においては、クランプ駆動器41を介してクランプ固定器522に支持されている。クランプ駆動器41は、クランプ部材13を裏当て部材56側に付勢するように構成されている。そして、クランプ部材13(クランプ駆動器41及びクランプ固定器522を含む)は、ショルダ駆動器532によって、矢印P3方向(矢印P1及び矢印P2と同方向)に進退可能に構成されている。
【0034】
なお、クランプ駆動器41は、本実施の形態1においては、スプリングで構成したが、これに限定されるものではない。クランプ駆動器41は、クランプ部材13に付勢を与えたり加圧力を与えたりする構成であればよく、例えば、ガス圧、油圧、サーボモータ等を用いた機構も好適に用いることができる。
【0035】
ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13は、それぞれ、先端面11a、先端面12a、及び先端面13aを備えている。また、ピン部材11の先端面11aとショルダ部材12の先端面12aは、水平方向から見て、一致するように構成されている。
【0036】
また、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13は、進退駆動器53により進退移動することで、先端面11a、先端面12a、及び先端面13aは、それぞれ、被接合物60の表面(被接合物60の被接合部)に当接し、被接合物60を押圧する。
【0037】
また、ショルダ部材12の先端部120は、テーパー状に形成されている。ここで、図2を参照しながら、ショルダ部材12の先端部120の形状について、詳細に説明する。
【0038】
図2は、図1に示す摩擦攪拌点接合装置の要部を拡大した模式図である。
【0039】
図2に示すように、本実施の形態1においては、先端部120は、ショルダ部材12の外周面12bと内周面12cが、軸線Xrに対して、傾斜するように形成されている。換言すれば、先端部120は、水平方向から見て、軸線Xr方向の断面形状が、略V字状(略U字状)に形成されている。
【0040】
また、先端部120は、ショルダ部材12の先端面12aから所定の高さhまでの部分(領域)をいう。高さhは、被接合物60の表面に先端部120の形状を印させる(転写させる)観点から、例えば、0.05mm以上であってもよく、第1部材61の厚み寸法の5%以上であってもよい。また、高さhは、ショルダ部材12の先端部120の破損を抑制する観点から、例えば、0.5mm以下であってもよく、第1部材61の厚み寸法の50%以下であってもよい。
【0041】
なお、先端部120は、先端に向かうにつれて、径方向の断面積が小さくなるように形成されていてもよい。また、先端部120は、当該先端部120の先端12d(先端面12a)の面積が、先端部120の基端12eの径方向の断面積よりも小さければ、先端部120の外周面12bと内周面12cの形状は、どのような態様であってもよい。
【0042】
図1に示すように、裏当て部材56は、本実施の形態1においては、平板状の被接合物60の裏面を当接するように平坦な面(支持面56a)により、支持するように構成されている。裏当て部材56は、摩擦攪拌接合を実施できるように被接合物60を適切に支持することができるものであれば、その構成は特に限定されない。裏当て部材56は、例えば、複数の種類の形状を有する裏当て部材56が別途準備され、被接合物60の種類に応じて、裏当て支持部55から外して交換できるように構成されてもよい。
【0043】
被接合物60は、2枚の板状の第1部材61及び第2部材62を有する。第1部材61は、ピン部材11及びショルダ部材12と対向するように配置され、かつ、第2部材62よりも融点の低い材料で構成されている。
【0044】
なお、被接合物60は、第1部材61と第2部材62の間に、第3部材が配置されていてもよい。第3部材としては、例えば、金属材料(例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム合金等)であってもよく、シーラント材であってもよい。シーラント材としては、シーリング材であってもよく、接着剤であってもよい。シーラント材としては、例えば、ポリサルファイド系合成ゴム、天然ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の合成ゴム、四フッ化エチレンゴム樹脂等の合成樹脂等を用いることができる。
【0045】
第1部材61としては、金属材料(例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム合金等)、熱可塑性プラスチック(例えば、ポリアミド等)、及び繊維強化プラスチック(例えば、炭素繊維強化プラスチック等)のうち、少なくとも1つの材料を用いてもよい。アルミニウム合金としては、各種のアルミニウム合金を用いることができ、例えば、Al-Mg-Si系合金(A6061)を用いてもよく、Al-Si-Mg系合金(AC4C)を用いてもよい。
【0046】
また、第2部材62としては、金属材料(例えば、鋼、チタン等)を用いてもよい。鋼としては、各種の鋼をもちいることができ、軟鋼、又は高張力鋼を用いてもよい。また、鋼の表面に酸化膜が形成されていてもよく、メッキ層(例えば、亜鉛メッキ)が形成されていてもよい。亜鉛メッキが形成されている鋼板としては、溶融亜鉛メッキ鋼板(GI鋼板)であってもよく、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板(GA鋼板)であってもよく、ガルバリウム鋼板(登録商標)であってもよく、アルミニウムシリコンメッキホットスタンプ鋼板であってもよい。さらに、メッキ層の厚みとしては、2μm~50μmであってもよい。
【0047】
なお、本実施の形態1においては、被接合物60を板状の第1部材61と板状の第2部材62で構成されている形態を採用したが、これに限定されず、被接合物60(第1部材61及び第2部材62)の形状は任意であり、例えば、直方体状であってもよく、円弧状に形成されていてもよい。また、第3部材の形状も任意であり、例えば、板状であってもよく、直方体状であってもよく、円弧状に形成されていてもよい。
【0048】
また、本実施の形態1におけるピン部材11、ショルダ部材12、工具固定器52、進退駆動器53、クランプ部材13、裏当て支持部55、及び回転駆動器57の具体的な構成は、前述した構成に限定されず、広く摩擦攪拌接合の分野で公知の構成を好適に用いることができる。例えば、ピン駆動器531及びショルダ駆動器532は、摩擦攪拌接合の分野で公知のモータ及びギア機構等で構成されていてもよい。
【0049】
また、裏当て支持部55は、本実施の形態1においては、C型ガンで構成されているが、これに限定されない。裏当て支持部55は、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13を進退移動可能に支持するとともに、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13に対向する位置に裏当て部材56を支持することができれば、どのように構成されていてもよい。
【0050】
また、本実施の形態1においては、クランプ部材13を備える構成を採用したが、これに限定されず、クランプ部材13を備えていない構成を採用してもよい。この場合、例えば、クランプ部材13は、必要に応じて裏当て支持部55から着脱可能に構成されていてもよい。
【0051】
さらに、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50は、摩擦攪拌点接合用ロボット装置(図示せず)に配設される形態を採用している。具体的には、裏当て支持部55が、ロボット装置のアームの先端に取り付けられている。
【0052】
このため、裏当て支持部55も摩擦攪拌点接合用ロボット装置に含まれるとみなすことができる。裏当て支持部55及びアームを含めて、摩擦攪拌点接合用ロボット装置の具体的な構成は特に限定されず、多関節ロボット等、摩擦攪拌接合の分野で公知の構成を好適に用いることができる。
【0053】
なお、摩擦攪拌点接合装置50(裏当て支持部55を含む)は、摩擦攪拌点接合用ロボット装置に適用される場合に限定されるものではなく、例えば、NC工作機械、大型のCフレーム、及びオートリベッター等の公知の加工用機器にも好適に適用することができる。
【0054】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50は、二対以上のロボットが、摩擦攪拌点接合装置50における裏当て部材56以外の部分と、裏当て部材56と、を正対させるように構成されていてもよい。さらに、摩擦攪拌点接合装置50は、被接合物60に対して安定して摩擦攪拌点接合を行うことが可能であれば、被接合物60を手持ち型にする形態を採用してもよく、ロボットを被接合物60のポジショナーとして用いる形態を採用してもよい。
【0055】
[摩擦攪拌点接合装置の制御構成]
次に、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50の制御構成について、図3を参照しながら、具体的に説明する。
【0056】
図3は、図1に示す摩擦攪拌点接合装置の制御構成を模式的に示すブロック図である。
【0057】
図3に示すように、摩擦攪拌点接合装置50は、制御器51、記憶器31、入力器32、及び位置検出器33を備えている。
【0058】
制御器51は、マイクロプロセッサ、CPU等で構成されていて、摩擦攪拌点接合装置50を構成する各部材(各機器)を制御するように構成されている。具体的には、制御器51は、記憶器に記憶された基本プログラム等のソフトウェアを読み出して実行することにより、進退駆動器53を構成するピン駆動器531及びショルダ駆動器532と、回転駆動器57と、を制御する。
【0059】
これにより、ピン部材11及びショルダ部材12の進出移動又は後退移動の切り替え、進退移動時のピン部材11及びショルダ部材12における、先端位置の制御、移動速度、及び移動方向等を制御することができる。また、ピン部材11、ショルダ部材12及びクランプ部材13の被接合物60を押圧する押圧力を制御することができる。さらに、ピン部材11及びショルダ部材12の回転数を制御することができる。
【0060】
なお、制御器51は、集中制御する単独の制御器51によって構成されていてもよいし、互いに協働して分散制御する複数の制御器51によって構成されていてもよい。また、制御器51は、マイクロコンピュータで構成されていてもよく、MPU、PLC(Programmable Logic Controller)、論理回路等によって構成されていてもよい。
【0061】
記憶器31は、基本プログラム、各種データを読み出し可能に記憶するものであり、記憶器31としては、公知のメモリ、ハードディスク等の記憶装置等で構成される。記憶器31は、単一である必要はなく、複数の記憶装置(例えば、ランダムアクセスメモリ及びハードディスクドライブ)として構成されてもよい。制御器51等がマイクロコンピュータで構成されている場合には、記憶器31の少なくとも一部がマイクロコンピュータの内部メモリとして構成されてもよいし、独立したメモリとして構成されてもよい。
【0062】
なお、記憶器31には、データが記憶され、制御器51以外からデータの読み出しが可能となっていてもよいし、制御器51等からデータの書き込みが可能になっていてもよいことはいうまでもない。
【0063】
入力器32は、制御器51に対して、摩擦攪拌点接合の制御に関する各種パラメータ、あるいはその他のデータ等を入力可能とするものであり、キーボード、タッチパネル、ボタンスイッチ群等の公知の入力装置で構成されている。本実施の形態1では、少なくとも、被接合物60の接合条件、例えば、被接合物60の厚み、材質等のデータが入力器32により入力可能となっている。
【0064】
位置検出器33は、ショルダ部材12の先端(先端面12a)の位置情報を検出して、検出した位置情報を制御器51に出力するように構成されている。位置検出器33としては、例えば、変位センサ、LVDT、エンコーダー等を用いてもよい。
【0065】
[摩擦攪拌点接合装置の動作(運転方法)]
次に、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50の動作について、図4図5A、及び図5Bを参照して具体的に説明する。なお、図5A及び図5Bにおいては、被接合物60として、第1部材61及び第2部材62を用い、これらを重ねて点接合にて連結する場合を例に挙げている。
【0066】
図4は、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置の動作の一例を示すフローチャートである。図5A及び図5Bは、図1に示す摩擦攪拌点接合装置による摩擦攪拌点接合の各工程の一例を模式的に示す工程図である。
【0067】
なお、図5A及び図5Bにおいては、摩擦攪拌点接合装置の一部を省略し、矢印rは、ピン部材11及びショルダ部材12の回転方向を示し、ブロック矢印Fは、第1部材61及び第2部材62に加えられる力の方向を示す。また、裏当て部材56からも第1部材61及び第2部材62に対して力が加えられているが、説明の便宜上、図5A及び図5Bには図示していない。さらに、ショルダ部材12には、ピン部材11及びクランプ部材13との区別を明確とするために、網掛けのハッチングを施している。
【0068】
まず、作業者(操作者)が、裏当て部材56の支持面56aに被接合物60を載置する。ついで、作業者が入力器32を操作して、制御器51に被接合物60の接合実行を入力する。なお、ロボットが、裏当て部材56の支持面56aに被接合物60を載置してもよい。
【0069】
すると、図4に示すように、制御器51は、回転駆動器57を駆動させて、ピン部材11及びショルダ部材12を予め設定されている所定の第1回転数(例えば、200~3000rpm)で回転させる(ステップS101;図5Aの工程(1)参照)。
【0070】
次に、制御器51は、進退駆動器53(ショルダ駆動器532)を駆動させて、ピン部材11及びショルダ部材12を回転させた状態で、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13を被接合物60に接近させ、ピン部材11の先端面11a、ショルダ部材12の先端面12a、及びクランプ部材13の先端面13a(図5A及び図5Bには図示せず)を被接合物60の表面60c(被接合物60の被接合部Wa)に当接させる(ステップS102;図5Aの工程(2)参照)。
【0071】
このとき、制御器51は、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13が予め設定された所定の押圧力(例えば、3kN~15kNの範囲に含まれる所定値)で被接合物60を押圧するように、進退駆動器53(ショルダ駆動器532)を制御する。
【0072】
これにより、クランプ部材13と裏当て部材56とで第1部材61及び第2部材62が挟み込まれ、クランプ駆動器41の収縮により、クランプ部材13が被接合物60の表面60c側に付勢され、クランプ力が発生する。
【0073】
また、この状態では、ピン部材11及びショルダ部材12共に進退移動しないので、被接合物60の表面60cを「予備加熱」することになる。これにより、第1部材61の当接領域における構成材料が摩擦により発熱することで軟化し、被接合物60の表面60c近傍に塑性流動部60aが生じる。
【0074】
次に、制御器51は、ピン部材11の先端面11aがショルダ部材12の先端面12aに対して没入するように、進退駆動器53を駆動する(ステップS103)。このとき、制御器51は、ピン部材11が被接合物60から離れるように、進退駆動器53(ピン駆動器531)を駆動してもよい。また、制御器51は、ショルダ部材12が被接合物60内に圧入されるように、進退駆動器53(ショルダ駆動器532)を駆動してもよい。
【0075】
これにより、ショルダ部材12の先端部が、回転した状態で、被接合物60の被接合部内に圧入される。
【0076】
次に、制御器51は、位置検出器33から、ショルダ部材12の先端面12a(先端)の位置情報を取得する(ステップS104)。ついで、制御器51は、ステップS104で取得したショルダ部材12の先端の位置情報が、予め設定されている所定の第1位置まで到達したか否かを判定する(ステップS105)。
【0077】
ここで、第1位置は、予め実験等により設定することができ、第2部材62内の任意の位置である。より詳細には、第1位置は、第2部材62の第1部材61との当接面62a(第2部材62のショルダ部材12の先端面12aと対向する面)から0.3mm以下の間における任意の位置である。
【0078】
また、第1位置は、第2部材62に形成されているメッキ層(メッキ膜)又は酸化膜を除去して、新生面を形成させる観点から、当接面62aから0.008mm以上の位置であってもよく、当接面62aから0.01mm以上の位置であってもよい。また、第1位置は、ショルダ部材12の摩耗(損傷)を抑制する観点から、当接面62aから0.25mm以下の位置であってもよく、当接面62aから0.20mm以下の位置であってもよく、当接面62aから0.10mm以下の位置であってもよい。
【0079】
さらに、第1位置は、第2部材62に形成されているメッキ層(メッキ膜)又は酸化膜を除去して、新生面を形成させる観点から、第2部材62に形成されているメッキ層(メッキ膜)又は酸化膜から0.20mm以下の位置であってもよく、第2部材62に形成されているメッキ層(メッキ膜)又は酸化膜から0.10mm以下の位置であってもよい。
【0080】
これにより、ショルダ部材12の先端面12aが、第2部材62の当接面62aから0.3mm以下における任意の位置(すなわち、第1位置)にまで到達する。そして、第2部材62におけるショルダ部材12と当接している部分、及び/又は第2部材62における塑性流動部60aと当接している部分に、新生面が形成される。
【0081】
なお、塑性流動部60aの軟化した材料はショルダ部材12により押し退けられ、ショルダ部材12の直下からピン部材11の直下に流動するので、ピン部材11は後退し、ショルダ部材12に対して浮き上がる(図5Aの工程(3)参照)。
【0082】
制御器51は、ステップS104で取得したショルダ部材12の先端面12aの位置情報が、第1位置まで到達していないと判定した場合(ステップS105でNo)には、ステップS104に戻り、ステップS104で取得したショルダ部材12の先端面12aの位置情報が、第1位置まで到達したと判定するまで、ステップS104及びステップS105の処理を繰り返す。
【0083】
一方、制御器51は、ステップS104で取得したショルダ部材12の先端面12aの位置情報が、第1位置まで到達したと判定した場合(ステップS105でYes)には、ステップS106の処理を実行する。
【0084】
なお、制御器51は、ショルダ部材12の先端面12aが、第1位置に到達すると、先端面12aが第1位置に位置するように、進退駆動器53(ショルダ駆動器532)を駆動させる。具体的には、制御器51は、ショルダ部材12の進行を停止させるように、進退駆動器53を駆動させる。
【0085】
ステップS106では、制御器51は、ショルダ部材12の先端面12aが、第1位置まで到達したと判定してからの時間tを計測する。ついで、制御器51は、ステップS106で計測した時間tが、予め設定されている所定の第1時間を経過したか否かを判定する(ステップS107)。
【0086】
ここで、第1時間は、予め実験等により設定することができる。第1時間は、被接合物60の被接合部の接合強度を十分に高くする観点から、例えば、0秒より長い時間であってもよく、0.5秒以上であってもよい。また、第1時間は、被接合物60の接合時間を短縮する観点から、2秒未満であってもよい。
【0087】
制御器51は、ステップS106で計測した時間tが、第1時間を経過していないと判定した場合(ステップS107でNo)には、ステップS106で計測した時間tが、第1時間を経過したと判定するまで、ステップS106とステップS107の処理を実行する。
【0088】
一方、制御器51は、ステップS106で計測した時間tが、第1時間を経過したと判定した場合(ステップS107でYes)には、ステップS108の処理を実行する。
【0089】
ステップS108では、制御器51は、ピン部材11が被接合物60に向かって進むように、進退駆動器53(ピン駆動器531)を駆動する、及び/又は、制御器51は、ショルダ部材12が被接合物60から離れるように、進退駆動器53(ピン駆動器531)を駆動する。
【0090】
具体的には、制御器51は、進退駆動器53を制御して、ピン部材11の先端面11a及びショルダ部材12の先端面12aを、互いに段差がほとんど生じない程度に合わせる(面一とする)。
【0091】
このとき、被接合物60の表面(上面)60cに、先端部120の形状を転写させる観点から、制御器51は、ピン部材11の先端面11a及びショルダ部材12の先端面12aが、被接合物60の第1部材61内における予め設定されている所定の第2位置に位置するように、進退駆動器53を制御してもよい。
【0092】
また、制御器51は、ピン部材11の先端面11aは、被接合物60の表面60cに位置させ、ショルダ部材12の先端面12aが、被接合物60の第1部材61内における第2位置に位置するように、進退駆動器53を制御してもよい。
【0093】
ここで、第2位置は、予め実験等により設定することができる。第2位置は、被接合物60の表面(上面)60cに、先端部120の形状を転写させる観点から、例えば、被接合物60の表面60cから先端部120の高さh寸法分、下方(内方)の位置であってもよい。また、第2位置は、被接合物60の表面60cの凹凸の高さを低減させる観点から、例えば、被接合物60の表面60cから先端部120の高さhの1/2寸法分、下方(内方)の位置であってもよい。
【0094】
さらに、制御器51は、回転した状態のショルダ部材12の先端が第2位置に到達した状態で、予め設定されている所定の第2時間滞留させてもよい。ここで、第2時間は、予め実験で設定することができる。第2時間は、被接合物60の表面(上面)60cに、先端部120の形状を転写させる観点から、例えば、0秒より長い時間であってもよく、0.5秒以上であってもよい。また、第2時間は、被接合物60の接合時間を短縮する観点から、2秒未満であってもよい。
【0095】
これにより、ピン部材11が徐々に第1部材61に向かって進み、ショルダ部材12が第1部材61から後退する。このとき、塑性流動部60aの軟化した部分は、ピン部材11の直下からショルダ部材12の直下(ショルダ部材12の圧入により生じた凹部)に流動する。
【0096】
そして、ピン部材11の先端面11aとショルダ部材12の先端面12aが、被接合物60の表面60c近傍まで移動する。これにより、被接合物60の表面60cに先端部120の形状が印される(転写される)(図5Bの工程(4)参照)。
【0097】
なお、制御器51は、ステップS103及び/又はステップS108の処理において、ピン部材11の先端面の面積をAp、ショルダ部材12の先端面の面積をAsとし、ピン部材11の圧入深さをPp、ショルダ部材12の圧入深さをPsとしたときに、次の式(I)
Ap・Pp+As・Ps=Tx ・・・ (I)
で定義されるツール平均位置Txの絶対値を小さくするように、進退駆動器53を制御することが好ましく、ツール平均位置Tx=0となるように、進退駆動器53を制御することがより好ましい。なお、ツール平均位置Txの絶対値を小さくする具体的な制御については、特開2012-196682号公報に詳細に開示されているため、ここでは、その説明を省略する。
【0098】
また、制御器51は、ステップS108の処理において、ピン部材11の先端面11aが、第1位置に位置するように、進退駆動器53を制御してもよい。この場合、制御器51は、ピン部材11の先端面11aが、第1位置に位置した後に、ピン部材11の先端面11a及びショルダ部材12の先端面12aが、面一となるように、進退駆動器53を制御してもよい。
【0099】
次に、制御器51は、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13を被接合物60から離間するように、進退駆動器53を駆動させる(ステップS109)。ついで、制御器51は、回転駆動器57を制御して、ピン部材11及びショルダ部材12の回転を停止させ(ステップS110;図5Bの工程(5)参照)、本プログラム(被接合物60の接合工程)を終了する。
【0100】
これにより、ピン部材11及びショルダ部材12の当接による回転(及び押圧)は第1部材61及び第2部材62に加えられなくなるので、塑性流動部60aでは塑性流動が停止し、塑性流動部60aと第2部材62の新生面とが接合する。
【0101】
なお、本実施の形態1に係る摩擦攪拌接合装置50により、形成された被接合物60の被接合部Waが、本実施の形態1に係る継手構造の一例となる。具体的には、被接合物60の被接合部Waには、円環状の凹部60bが形成される。
【0102】
また、本実施の形態1においては、ショルダ部材12の先端部120における外周面12bと内周面12cが傾斜しているので、凹部60bの内壁は、屈曲するように形成される(図5Bの工程(5)参照)。すなわち、ショルダ部材12の先端部120の形状が、凹部60bに印される(転写される)。
【0103】
このため、ショルダ部材12の先端部120の形状により、凹部60bの内壁を傾斜、湾曲、曲線状、又は屈曲するように形成させることができる。
【0104】
このように構成されている、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、ショルダ部材12の先端部120が、テーパー状に形成されている。
【0105】
これにより、ショルダ部材12の先端部120に摩耗が生じていない場合には、被接合物60を摩擦攪拌点接合すると、被接合物60(被接合部)の表面60cに先端部120の形状が印される(転写される)。一方、ショルダ部材12の先端部120に摩耗が生じている場合には、被接合物60の表面に先端部120の形状が印されず、表面60cが平坦状になる。
【0106】
このため、摩擦攪拌点接合の終了後に、被接合物60の表面を検査(視認)することにより、ショルダ部材12の先端部120が摩耗しているか否かを判断することができる。したがって、定期的にツール(ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13)を摩擦攪拌点接合装置50から外して、ツールの摩耗状況を検査する必要がなくなる。
【0107】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、先端部120がテーパー状に形成されているため、テーパー形状を有していない従来のショルダ部材12に比して、ショルダ部材12の先端面12aの面積が小さくなり、面圧を大きくすることができる。
【0108】
このため、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、従来の摩擦攪拌点接合装置に比して、ショルダ部材12の先端面12aが第1位置に到達するまでの時間を短縮することができる。
【0109】
ところで、被接合物60の第2部材62が、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板等のメッキ層を有している場合、表面に酸化被膜が形成されている場合、又は表面にシーラント材が配置されている場合等には、被接合物60を接合するためには、メッキ層(メッキ膜)又は酸化膜を形成する不純物(例えば、亜鉛等)を除去して、新生面を形成させる必要がある。
【0110】
本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、先端部120がテーパー状に形成されているため、ショルダ部材12の先端部120の外周面12b及び/又は内周面12cに沿って、不純物の流動を促進させることができる。
【0111】
このため、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、従来の摩擦攪拌点接合装置に比して、被接合物60を十分な接合強度にまで接合するために、ショルダ部材12の先端面12aを第1位置に滞留させる時間を2秒以下にすることができる。
【0112】
したがって、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、従来の摩擦攪拌点接合装置に比して、被接合物60の接合時間を短縮することができる。
【0113】
本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置は、被接合物を摩擦熱で軟化させることにより接合する摩擦攪拌点接合装置であって、摩擦攪拌点接合装置は、円柱状に形成されているピン部材と、円筒状に形成され、ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、ピン部材及びショルダ部材を、ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、ピン部材及びショルダ部材を、それぞれ、軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、を備え、ショルダ部材の先端部は、テーパー状に形成されている。
【0114】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置では、ショルダ部材の先端面とピン部材の先端面が、水平方向から見て、一致するように構成されていてもよい。
【0115】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置では、ショルダ部材の先端部の外周面は、傾斜、湾曲、曲線状、又は屈曲するように構成されていてもよい。
【0116】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置では、ショルダ部材の先端部の外周面が、傾斜するように構成されていて、ショルダ部材の先端部は、水平方向から見て、ショルダ部材の先端面とショルダ部材の傾斜面とのなす角度が、6°以上、かつ、45°未満となるように構成されていてもよい。
【0117】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置では、ショルダ部材の先端部の内周面は、傾斜、湾曲、曲線状、又は屈曲するように構成されていてもよい。
【0118】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置では、ショルダ部材の先端部の内周面が、傾斜するように構成されていて、ショルダ部材の先端部は、水平方向から見て、ショルダ部材の先端面とショルダ部材の傾斜面とのなす角度が、6°以上、かつ、45°未満となるように構成されていてもよい。
【0119】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置では、被接合物は、第1部材と第2部材を備え、第1部材は、ピン部材及びショルダ部材と対向するように配置され、かつ、第2部材よりも融点の低い材料で構成されていて、摩擦攪拌点接合装置は、制御器をさらに備え、制御器は、ピン部材及びショルダ部材が、回転した状態で、被接合物の被接合部を押圧するように、回転駆動器及び進退駆動器を動作させる(A)と、回転した状態のショルダ部材の先端を第2部材内における予め設定されている所定の第1位置まで到達させ、かつ、回転した状態のピン部材を被接合物の被接合部から後退するように、進退駆動器及び回転駆動器を動作させる(B)と、(B)の後に、回転した状態のショルダ部材の先端が第1位置に到達した状態で、予め設定されている所定の第1時間滞留させる(C)と、(C)の後に、回転した状態のショルダ部材を被接合物の被接合部から引き抜くように、かつ、回転した状態のピン部材を被接合物の被接合部に向かって進出するように、回転駆動器及び進退駆動器を動作させる(D)と、を実行するように構成されていてもよい。
【0120】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置では、制御器は、(D)を実行するときに、ショルダ部材の先端が、第1部材内における予め設定されている所定の第2位置に到達するように、回転駆動器及び進退駆動器を動作させてもよい。
【0121】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置では、制御器は、(D)において、回転した状態のショルダ部材の先端が第2位置に到達した状態で、予め設定されている所定の第2時間滞留させてもよい。
【0122】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置では、制御器は、(D)の後に、回転した状態のピン部材及び回転した状態のショルダ部材を被接合物の被接合部から引き抜くように、回転駆動器及び進退駆動器を動作させる(E)を実行させてもよい。
【0123】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置では、被接合部は、第1部材と第2部材の間に配置される第3部材をさらに備えてもよい。
【0124】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置では、第1時間は、第1時間は、0秒以上、2秒未満の時間であってもよい。
【0125】
さらに、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置では、第1位置は、第2部材のショルダ部材の先端面と対向している側の主面から0.3mm以下の位置であってもよい。
【0126】
また、本実施の形態1に係る継手構造は、第1部材及び第2部材を備える被接合物が、摩擦攪拌点接合装置により、被接合部で摩擦攪拌点接合されることにより形成される、継手構造であって、第1部材は、第2部材よりも融点の低い材料で構成されていて、第1部材及び第2部材は、この順となるように配置されていて、被接合部の表面には、円環状の凹部が形成されていて、凹部の底面が、傾斜、湾曲、曲線状、又は屈曲するように形成されている。
【0127】
さらに、本実施の形態1に係る継手構造では、摩擦攪拌点接合装置が、円柱状に形成されているピン部材と、円筒状に形成され、ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、を備え、継手構造は、回転した状態のショルダ部材の先端を第2部材内における予め設定されている所定の第1位置まで到達させた状態で、予め設定されている所定の第1時間滞留させることで形成されてもよい。
【0128】
[変形例1]
次に、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50の変形例について、説明する。
【0129】
図6は、本実施の形態1における変形例1の摩擦攪拌点接合装置の要部拡大した模式図である。図6の(A)~(D)は、ショルダ部材の先端部の外周面が、傾斜、湾曲、曲線状、又は屈曲するように形成されている態様を示す。また、図6の(E)~(H)は、ショルダ部材の先端部の内周面が、傾斜、湾曲、曲線状、又は屈曲するように形成されている態様を示す。
【0130】
図6の(A)に示すように、変形例1の摩擦攪拌点接合装置50は、ショルダ部材12における先端部120の外周面12bが、傾斜するように形成されていてもよい。より詳細には、先端部120の外周面12bの断面(軸線Xrに沿った断面)形状が、水平方向から見て、軸線Xrに対して、傾斜するように形成されていてもよい。
【0131】
また、図6の(B)に示すように、変形例1の摩擦攪拌点接合装置50は、ショルダ部材12における先端部120の外周面12bが、屈曲するように形成されていてもよい。より詳細には、先端部120の外周面12bの断面形状が、水平方向から見て、屈曲するように形成されていてもよい。なお、図6の(B)においては、屈曲点が、1つの態様を示しているが、屈曲点が複数ある態様であってもよい。
【0132】
また、図6の(C)に示すように、変形例1の摩擦攪拌点接合装置50は、ショルダ部材12における先端部120の外周面12bが、湾曲するように(円弧上に)形成されていてもよい。より詳細には、先端部120の外周面12bの断面形状が、水平方向から見て、湾曲するように形成されていてもよい。
【0133】
さらに、図6の(D)に示すように、変形例1の摩擦攪拌点接合装置50は、ショルダ部材12における先端部120の外周面12bが、曲線状に形成されていてもよい。より詳細には、先端部120の外周面12bの断面形状が、水平方向から見て、曲線状に形成されていてもよい。ここで、曲線状の曲線とは、二次関数、三次関数等の高次関数、指数関数、又は対数関数等で示される関数の曲線である。
【0134】
また、図6の(E)に示すように、変形例1の摩擦攪拌点接合装置50は、ショルダ部材12における先端部120の内周面12cが、傾斜するように形成されていてもよい。より詳細には、先端部120の内周面12cの断面(軸線Xrに沿った断面)形状が、水平方向から見て、軸線Xrに対して、傾斜するように形成されていてもよい。
【0135】
また、図6の(F)に示すように、変形例1の摩擦攪拌点接合装置50は、ショルダ部材12における先端部120の内周面12cが、屈曲するように形成されていてもよい。より詳細には、先端部120の内周面12cの断面形状が、水平方向から見て、屈曲するように形成されていてもよい。なお、図6の(F)においては、屈曲点が、1つの態様を示しているが、屈曲点が複数ある態様であってもよい。
【0136】
また、図6の(G)に示すように、変形例1の摩擦攪拌点接合装置50は、ショルダ部材12における先端部120の内周面12cが、湾曲するように(円弧上に)形成されていてもよい。より詳細には、先端部120の内周面12cの断面形状が、水平方向から見て、湾曲するように形成されていてもよい。
【0137】
さらに、図6の(H)に示すように、変形例1の摩擦攪拌点接合装置50は、ショルダ部材12における先端部120の内周面12cが、曲線状に形成されていてもよい。より詳細には、先端部120の内周面12cの断面形状が、水平方向から見て、曲線状に形成されていてもよい。ここで、曲線状の曲線とは、二次関数、三次関数等の高次関数、指数関数、又は対数関数等で示される関数の曲線である。
【0138】
このように構成されている、変形例1の摩擦攪拌点接合装置50であっても、実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50と同様の作用効果を奏する。
【0139】
(実施の形態2)
本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置は、実施の形態1(変形例を含む)に係る摩擦攪拌点接合装置において、ショルダ部材の先端面が、水平方向から見て、ピン部材の先端面よりも突出するように構成されている。
【0140】
以下、本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置の一例について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0141】
[摩擦攪拌点接合装置の構成]
図7は、本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置の要部の概略構成を示す模式図である。
【0142】
図7に示すように、本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置50は、実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50と基本的構成は同じであるが、ショルダ部材12の先端面12aが、水平方向から見て、ピン部材11の先端面11aよりも突出するように構成されている点が異なる。
【0143】
なお、図7においては、ショルダ部材12の先端部120における外周面12bと内周面12cは、水平方向から見て、傾斜するように形成されている。
【0144】
また、ショルダ部材12の先端部120における外周面12bと内周面12cは、水平方向から見て、同じ傾斜角度で形成されていてもよい。また、先端部120の外周面12bの傾斜角度αが、先端部120の内周面12cの傾斜角度βよりも大きくてもよい。さらに、先端部120の外周面12bの傾斜角度αが、先端部120の内周面12cの傾斜角度βよりも小さくてもよい。
【0145】
ここで、図8A及び図8Bを参照しながら、先端部120の外周面12bの傾斜角度α及び先端部120の内周面12cの傾斜角度βについて、説明する。
【0146】
図8Aは、摩擦攪拌点接合装置のピン部材、ショルダ部材、クランプ部材の先端部の概略構成を示す模式図である。図8Bは、被接合物の転写部に働くせん断力を分解した図である。
【0147】
図8Aに示すように、被接合物60の被接合部Waにショルダ部材12の先端部120の外周面12bの形状が転写された部分を転写部601とする。また、ショルダ部材12の先端部120の内周面12cとピン部材11の先端部により、被接合物60の被接合部Waに形成された突状の部分を転写部602とする。
【0148】
なお、先端部120の外周面12bの傾斜角度αは、軸線Xrに対して垂直な線である、仮想線Cと、外周面12bが傾斜する基端側(上端側)端部A1と先端側(下端部側)端部A2とをつないだ線と、の角度をいう。
【0149】
同様に、先端部120の内周面12cの傾斜角度βは、仮想線Cと、内周面12cが傾斜する基端側(上端側)端部B1と先端側(下端部側)端部B2とをつないだ線と、の角度をいう。
【0150】
このため、先端部120の外周面12b及び内周面12cは、実施の形態1の変形例で示したように、湾曲等している場合には、湾曲等の基端型端部と先端側端部をつないだ線と、仮想線Cとが、それぞれ、傾斜角度α及び傾斜角度βとなる。
【0151】
図8Aの一点鎖線で示すように、外周面12bの傾斜角度αが大きくなると、転写部601の斜面の角度θ1も大きくなる。転写部601の斜面の角度θ1が大きくなると、転写部601の底辺(底面の面積)が小さくなり、転写部601が欠損する(むしれが発生する)おそれがある。
【0152】
同様に、内周面12cの傾斜角度βが大きくなると、転写部602の斜面の角度θ2も大きくなる。転写部602の斜面の角度θ2が大きくなると、転写部602の底辺(底面の面積)が小さくなり、転写部602が欠損する(むしれが発生する)おそれがある。
【0153】
また、ピン部材11の先端部及びショルダ部材12の先端部を被接合物60から離間させるときに、転写部601の斜面(外周面12bとの接触面)及び転写部602の斜面(内周面12cとの接触面)には、それぞれ、せん断力F1、F2が働く。
【0154】
図8B(1)に示すように、F1sinθ1が、転写部601をむしり取る力として作用する。同様に、F2sinθ2が、転写部602をむしり取る力として作用する(図(B(2)参照)。ここで、θ1=45°のとき、F1sinθ1=F1cosθ1となる。同様に、θ2=45°のとき、F2sinθ2=F2cosθ2となる。また、θ1=傾斜角度αであり、θ2=傾斜角度βである。
【0155】
このため、θ1<45°のとき、すなわち、傾斜角度α<45°のとき、転写部601のむしれの発生を抑制することができる。同様に、θ2<45°のとき、すなわち、傾斜角度β<45°のとき、転写部602のむしれの発生を抑制することができる。
【0156】
したがって、先端部120の外周面12bの傾斜角度αは、45°未満であることが好ましく、先端部120の内周面12cの傾斜角度βは、45°未満であることが好ましい。
【0157】
また、後述する試験例1及び試験例2の結果から、傾斜角度αは、32°以下であってもよく、17°以下であってもよく、12°以下であってもよく、6°以下であってもよい。同様に、傾斜角度βは、32°以下であってもよく、17°以下であってもよく、12°以下であってもよく、6°以下であってもよい。
【0158】
このように構成されている、本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置50であっても、実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50と同様の作用効果を奏する。
(実施の形態3)
本実施の形態3に係る摩擦攪拌点接合装置は、被接合物を摩擦熱で軟化させることにより接合する摩擦攪拌点接合装置であって、摩擦攪拌点接合装置は、円柱状に形成されているピン部材と、円筒状に形成され、ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、ピン部材及びショルダ部材を、ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、ピン部材及びショルダ部材を、それぞれ、軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、を備え、ショルダ部材の先端面には、周方向に沿って延びる凹部が形成されている。
【0159】
以下、本実施の形態3に係る摩擦攪拌点接合装置の一例について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0160】
[摩擦攪拌点接合装置の構成]
図9は、本実施の形態3に係る摩擦攪拌点接合装置の要部の概略構成を示す模式図である。
【0161】
図9に示すように、本実施の形態3に係る摩擦攪拌点接合装置50は、実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50と基本的構成は同じであるが、ショルダ部材12の先端面12aに周方向に沿って延びる(環状の)凹部20が形成されている点が異なる。
【0162】
凹部20は、開口部20Aの面積が、底面20Bの面積よりも大きくなるように形成されていてもよい。また、凹部20の内周面20C及び外周面20Dのうち、少なくとも一方の周面は、軸線Xrと平行となるように形成されていてもよい。さらに、凹部20の内周面20C及び外周面20Dのうち、少なくとも一方の周面は、傾斜、湾曲、曲線状、又は屈曲するように形成されていてもよい。
【0163】
また、凹部20の深さdは、被接合物60の表面に先端部120の形状を印させる(転写させる)観点から、例えば、0.05mm以上であってもよく、第1部材61の厚み寸法の5%以上であってもよい。また、深さdは、ショルダ部材12の先端部120の破損を抑制する観点から、例えば、0.5mm以下であってもよく、第1部材61の厚み寸法の50%以下であってもよい。
【0164】
このように構成されている、本実施の形態3に係る摩擦攪拌点接合装置50であっても、実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50と同様の作用効果を奏する。
【0165】
なお、本実施の形態3においては、ショルダ部材12の先端面12aに凹部20を形成する態様を採用したが、これに限定されない。ピン部材11の先端面11aに環状の凹部20を形成する態様を採用してもよい。
【0166】
[試験例]
次に、実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置50及び上記特許文献1に開示されている摩擦攪拌点接合方法による、被接合物60の接合試験について説明する。
【0167】
(試験例1)
実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置50を用いて、被接合物60の接合試験を実行した。なお、試験例1では、先端部120の高さを0.2mmとした。また、先端部120の外周面12bの傾斜角度αを12°とし、先端部120の内周面12cの傾斜角度βを32°とした。
【0168】
(試験例2)
実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置50を用いて、被接合物60の接合試験を実行した。なお、試験例2では、先端部120の高さを0.1mmとした。また、先端部120の外周面12bの傾斜角度αを6°とし、先端部120の内周面12cの傾斜角度βを17°とした。
【0169】
(比較例)
比較例として、特許文献1に開示されている摩擦攪拌点接合方法による、被接合物60の接合試験を実行した。具体的には、比較例の摩擦攪拌点接合装置として、先端部120における内周面と外周面が、軸線Xrに対して平行となるように形成されているショルダ部材12を用いて、被接合物60の接合試験を実行した。
【0170】
(接合条件)
第1部材61として、1mmのアルミニウム板(A6061)を用い、第2部材62
として、1.2mmの980MPa級合金化溶融亜鉛メッキ鋼板(GA)を用いた。
【0171】
なお、試験例1では、ショルダ部材12の目標到達位置である、第1位置を第2部材62における第1部材61との当接面(上面)から下方0.3mmの位置に設定した。また、試験例2では、第2部材62における第1部材61との当接面(上面)から下方0.2mmの位置に設定した。さらに、比較例では、ショルダ部材12の目標到達位置である、第1位置を第2部材62における第1部材61との当接面(上面)から下方0.1mmの位置に設定した。
【0172】
また、ショルダ部材12の先端面12aが第1位置に到達してから、先端面12aを第1位置に滞留させる時間(第1時間)を0、1、2、又は3秒と変更させて、被接合物60を接合させた。また、ピン部材11及びショルダ部材12の回転数である、第1回転数を2000rpmとした。
【0173】
そして、試験例1、2及び比較例の摩擦攪拌点接合装置により、接合した被接合物60をそれぞれ、引張せん断試験(JIS Z 3136)と、十字引張試験(JIS Z 3137)と、を実行した。
【0174】
(試験結果)
図10は、試験例1、2及び比較例の摩擦攪拌点接合装置を用いて、上記接合条件で摩擦攪拌点接合した被接合物の引張せん断試験と十字引張試験の結果を示すグラフである。また、図11は、試験例1の摩擦攪拌点接合装置を用いて、摩擦攪拌点接合した被接合物の断面写真である。
【0175】
図10に示すように、比較例の摩擦攪拌点接合装置を用いて、摩擦攪拌点接合した場合、第1時間が0秒のときには、十分な接合強度を得ることができなかった。また、比較例の摩擦攪拌点接合装置では、引張せん断試験(TSS)では、第1時間を1秒にすると、十分な接合強度が得られたが、十字引張試験(CTS)では、2秒以上にしなければ、十分な接合強度が得られなかった。
【0176】
一方、試験例1、2の摩擦攪拌点接合装置を用いて、摩擦攪拌点接合した場合には、第1時間が0秒であっても、十分な接合強度が得られた。
【0177】
これらの結果から、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、第1時間を0秒以上、2秒未満に設定すれば、被接合物60を十分な接合強度で接合できることが示された。
【0178】
また、図11に示すように、試験例1の摩擦攪拌点接合装置を用いて、摩擦攪拌点接合すると、ショルダ部材12の先端部120に摩耗が生じていない場合には、被接合物60(被接合部)の表面60cに先端部120の形状(テーパー状の形状;転写部)が印される(転写される)ことが示された。
【0179】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良又は他の実施形態が明らかである。したがって、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の形態を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより種々の発明を形成できる。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本発明の摩擦攪拌点接合装置は、ツールの摩耗状況を被接合物の接合打点(被接合部の表面)から判断することができるため、有用である。
【符号の説明】
【0181】
11 ピン部材
11a 先端面
12 ショルダ部材
12a 先端面
12b 外周面
12c 内周面
12d 先端
12e 基端
13 クランプ部材
13a 先端面
20 凹部
20A 開口部
20B 底面
20C 内周面
20D 外周面
31 記憶器
32 入力器
33 位置検出器
41 クランプ駆動器
50 摩擦攪拌点接合装置
51 制御器
52 工具固定器
53 進退駆動器
55 裏当て支持部
56 裏当て部材
56a 支持面
57 回転駆動器
60 被接合物
60a 塑性流動部
60b 凹部
60c 表面
61 第1部材
62 第2部材
62a 当接面
120 先端部
521 回転工具固定器
522 クランプ固定器
531 ピン駆動器
532 ショルダ駆動器
601 転写部
602 転写部
d 深さ
h 高さ
Xr 軸線
Wa 被接合部
α 傾斜角度
β 傾斜角度
θ1 角度
θ2 角度
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2024-06-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合物を摩擦熱で軟化させることにより接合する摩擦攪拌点接合装置であって、
前記摩擦攪拌点接合装置は、
円柱状に形成されているピン部材と、
円筒状に形成され、前記ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、前記ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、それぞれ、前記軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、を備え、
前記ショルダ部材の先端部は、テーパー状に形成され、
前記ショルダ部材の前記先端部が、内周面及び外周面を有し、前記内周面又は前記外周面が径方向傾斜幅より軸方向傾斜幅が大きいテーパー面である、摩擦攪拌点接合装置。
【請求項2】
前記ショルダ部材の先端部の外周面は、傾斜、湾曲、曲線状、又は屈曲するように構成されている、請求項1に記載の摩擦攪拌点接合装置。
【請求項3】
前記ショルダ部材の先端部の内周面は、傾斜、湾曲、曲線状、又は屈曲するように構成されている、請求項1又は2に記載の摩擦攪拌点接合装置。
【請求項4】
被接合物を摩擦熱で軟化させることにより接合する摩擦攪拌点接合装置であって、
前記摩擦攪拌点接合装置は、
円柱状に形成されているピン部材と、
円筒状に形成され、前記ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、前記ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、それぞれ、前記軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、
制御器とを備え、
前記ショルダ部材の先端部は、テーパー状に形成され、
前記ショルダ部材の前記先端部が、内周面及び外周面を有し、前記内周面又は前記外周面が径方向傾斜幅より軸方向傾斜幅が大きいテーパー面であり、
前記被接合物は、第1部材と第2部材を備え、
前記第1部材は、前記ピン部材及び前記ショルダ部材と対向するように配置され、かつ、前記第2部材よりも融点の低い材料で構成されていて、
前記制御器は、前記ピン部材及び前記ショルダ部材が、回転した状態で、前記被接合物の被接合部を押圧するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器を動作させる(A)と、
回転した状態の前記ショルダ部材の先端を前記第2部材内における予め設定されている所定の第1位置まで到達させ、かつ、回転した状態の前記ピン部材を前記被接合物の被接合部から後退するように、前記進退駆動器及び前記回転駆動器を動作させる(B)と、
前記(B)の後に、回転した状態の前記ショルダ部材の先端が前記第1位置に到達した状態で、予め設定されている所定の第1時間滞留させる(C)と、
前記(C)の後に、回転した状態の前記ショルダ部材を前記被接合物の被接合部から引き抜くように、かつ、回転した状態の前記ピン部材を前記被接合物の被接合部に向かって進出するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器を動作させる(D)と、を実行するように構成されている、摩擦攪拌点接合装置。
【請求項5】
前記第1時間は、0秒より長く、2秒未満の時間である、請求項に記載の摩擦攪拌点接合装置。
【請求項6】
前記第1位置は、前記第2部材の前記第1部材との当接面から0.3mm以下の位置である、請求項4又は5に記載の摩擦攪拌点接合装置。
【請求項7】
被接合物を摩擦熱で軟化させることにより接合する摩擦攪拌点接合装置が、
円柱状に形成されているピン部材と、
円筒状に形成され、前記ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、前記ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、それぞれ、前記軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、を備え、
前記ショルダ部材の先端部は、テーパー状に形成され、
前記ショルダ部材の前記先端部が、内周面及び外周面を有し、前記内周面又は前記外周面が径方向傾斜幅より軸方向傾斜幅が大きいテーパー面であり、
前記被接合物は、第1部材と第2部材を備え、
前記第1部材は、前記ピン部材及び前記ショルダ部材と対向するように配置され、かつ、前記第2部材よりも融点の低い材料で構成されていて、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材が、回転した状態で、前記被接合物の被接合部を押圧するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器を動作させる(A)と、
回転した状態の前記ショルダ部材の先端を前記第2部材内における予め設定されている所定の第1位置まで到達させ、かつ、回転した状態の前記ピン部材を前記被接合物の被接合部から後退するように、前記進退駆動器及び前記回転駆動器を動作させる(B)と、
前記(B)の後に、回転した状態の前記ショルダ部材の先端が前記第1位置に到達した状態で、予め設定されている所定の第1時間滞留させる(C)と、
前記(C)の後に、回転した状態の前記ショルダ部材を前記被接合物の被接合部から引き抜くように、かつ、回転した状態の前記ピン部材を前記被接合物の被接合部に向かって進出するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器を動作させる(D)と、
を実行する、摩擦攪拌点接合方法。