(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100844
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】バイオマスガスおよび水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
C10J 3/00 20060101AFI20240719BHJP
C01B 3/38 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C10J3/00 Z
C01B3/38
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024079711
(22)【出願日】2024-05-15
(62)【分割の表示】P 2020572307の分割
【原出願日】2020-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2019026012
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】507127613
【氏名又は名称】有限会社市川事務所
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】市川 勝
(72)【発明者】
【氏名】木内 勉
(72)【発明者】
【氏名】野津 剛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 文彦
(57)【要約】
【課題】本発明は、バイオマスの熱分解ガス化におけるタール等の副生成物を低減し、バイオマスのガス化効率及びバイオマスガス生成量の向上を図れるバイオマスガス製造方法、水素製造方法、バイオマスガス製造システム及び水素製造システムを目的とする。
【解決手段】バイオマスを原料とし、金属成分を含む水蒸気によるガス化により、バイオマスガスを得る熱分解ガス化工程を有する、バイオマスガス製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスを原料とし、金属成分を含む水蒸気によるガス化により、バイオマスガスを得る熱分解ガス化工程を有する、バイオマスガス製造方法により前記バイオマスガスを得るバイオマスガス製造工程と、
前記バイオマスガスを改質して水素を生成する水素製造工程と、を有し、
前記熱分解ガス化工程において、熱分解ガス化反応の温度を800℃~1000℃に制御して、熱分解ガス化反応の温度が800℃の場合に下記式(1)の熱分解ガス化反応を行い、熱分解ガス化反応の温度が900℃の場合に下記式(2)の熱分解ガス化反応を行い、熱分解ガス化反応の温度が1000℃の場合に下記式(3)の熱分解ガス化反応を行う、バイオマスガスおよび水素の製造方法。
C1.42H2O0.91+0.38H2O=0.74H2+0.75CO+0.24CH4+0.24C2H4+0.28CO2・・・式(1)
C1.42H2O0.91+0.71H2O=1.27H2+0.76CO+0.21CH4+0.02C2H4+0.41CO2・・・式(2)
C1.42H2O0.91+0.89H2O=1.59H2+0.76CO+0.15CH4+0.51CO2・・・式(3)
【請求項2】
前記金属成分が、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、ホウ素、アルミニウム及びガリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む、請求項1に記載のバイオマスガスおよび水素の製造方法。
【請求項3】
前記金属成分の含有量が前記水蒸気1kgに対して、10~10000mgである請求項1または2に記載のバイオマスガスおよび水素の製造方法。
【請求項4】
前記熱分解ガス化工程において、燃焼ガスの温度および流量制御に加えて、前記バイオマスおよび前記水蒸気の供給流量の調整により、熱分解ガス化工程の温度を800℃~1000℃に制御する、請求項1~3のいずれか1項に記載のバイオマスガスおよび水素の製造方法。
【請求項5】
前記熱分解ガス化工程は、前記バイオマスの一部を燃焼する燃焼操作と、前記バイオマスの他の一部と前記水蒸気とから前記バイオマスガスを得るガス化操作とを有し、
前記ガス化操作は、前記燃焼操作で発生した排熱を熱源として用いる、請求項1~4のいずれか1項に記載のバイオマスガスおよび水素の製造方法。
【請求項6】
前記熱分解ガス化工程は、前記バイオマスを炭化して炭化物を得る炭化操作と、前記炭化物と前記水蒸気とから前記バイオマスガスを得る炭化物ガス化操作とを有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のバイオマスガスおよび水素の製造方法。
【請求項7】
前記熱分解ガス化工程で発生した排熱を熱源として用いて、前記改質ガス化工程、水蒸気を加熱する水蒸気加熱工程および前記水素製造工程の加熱操作を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のバイオマスガスおよび水素の製造方法。
【請求項8】
前記水素製造工程は、鉄、コバルト、白金、ロジウム、モリブデン、ジルコニウム、チタン、セリウム、ランタン及びネオジムから選択される少なくとも1種の金属元素を含む複合型改質触媒を用いる、請求項1~7のいずれか1項に記載のバイオマスガスおよび水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスガスおよび水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、木質バイオマスは燃焼燃料として用いられるか、又は廃棄物として処理されてきた。一方、バイオマスを高温の水蒸気を用いて直接熱分解ガス化する一段式ガス化技術及びバイオマスの炭化処理で生成する炭化物を高温の水蒸気で熱分解ガス化する二段式ガス化技術等、様々な形態の熱分解ガス化炉がこれまでに開発されている。熱分解ガス化で生成するバイオマスガス(CO、水素、CO2及びメタン等を含む混合ガス)は、ガスエンジン発電で電力利用するほか、バイオマスガスの改質反応で高純度水素を製造して燃料電池用等に利用されている(非特許文献1~4参照)。
【0003】
バイオマスの熱分解ガス化は、バイオマスの供給方法、水蒸気等の酸化剤の圧力、温度、流量等の反応条件や含有量、加熱方式、ガス化炉構造等により様々な形式がある。
圧力としては、常圧(0.1~0.12MPa)と加圧(0.2~2MPa)で、バイオマスを熱分解ガス化する形式がある。
温度としては、低温(650℃未満)、高温(650~1200℃)において、バイオマスを熱分解ガス化する形式がある。
ガス化剤としては、空気、酸素、水蒸気を用いて、バイオマスを熱分解ガス化する形式がある。
加熱方式としては、ガス化原料となるバイオマスの一部を酸素と反応させて内部燃焼する内燃式ガス化と、原料となるバイオマスと水蒸気とを外部より加熱する外燃式ガス化がある。
ガス化炉形式としては、固定床、流動床、移動床、攪拌床、ロータリーキルン式等が挙げられる。
バイオマスの熱分解ガス化は、これらの形式やその組み合わせによって、それぞれ分類される。
【0004】
バイオマスの熱分解ガス化で生成するバイオマスガスの利用方法としては、ガスエンジン発電や、水蒸気改質反応を応用した水素製造がある。これまでの開発事例では、直接に高温の水蒸気を用いてバイオマスをガス化する一段式熱分解ガス化方法と、バイオマスを炭化炉で炭化して得た炭化物に高温の水蒸気を用いてガス化する二段式熱分解ガス化方法が知られている(特許文献1~2、非特許文献1~5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特開2008-88434号公報
【特許文献2】日本国特許第5342264号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】市川勝 監修「バイオマスリファイナリー触媒技術の新展開」シーエムシー出版(2011)pp70~77,pp99~106
【非特許文献2】D. Xianwenら, Energy Fuels 14, 2000, 552
【非特許文献3】I. D. Barnら, Energy Fuels 14, 2000, 889
【非特許文献4】笹内謙一、バイオマスの熱分解ガス化による発電利用 日本燃焼学会誌、47巻、139号(2005)31~39頁
【非特許文献5】市川勝、生活と環境、61巻1号(2016)「バイオマス資源を利活用する水素エネルギー技術の新展開」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の技術では、バイオマスの熱分解ガス化におけるガス化効率(バイオマスガス熱量/(バイオマス熱量+外熱投入熱量)×100)は高々50~65%であり、ガス化効率の改良と生成ガス量の増大が求められている。
加えて、従来の技術では、熱分解ガス化において、タール、木酢液やコーク等が副次的に生成される。副次的に生成される副生成物の処理コストや地域環境への負担低減が求められている。高温熱分解ガス化炉の排熱利用の向上が求められている。加えて、バイオマスガスを用いる水素製造方法においては、反応工程の低温化、低圧化及び触媒性能の改良による省エネルギー化並びに水素製造コストの低減が求められている。
【0008】
本発明は、バイオマスの熱分解ガス化におけるタール等の副生成物を低減し、バイオマスのガス化効率及びバイオマスガス生成量の向上を図れるバイオマスガス製造方法、水素製造方法、バイオマスガス製造システム及び水素製造システムを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]バイオマスを原料とし、金属成分を含む水蒸気によるガス化により、バイオマスガスを得る熱分解ガス化工程を有する、バイオマスガス製造方法。
[2]前記熱分解ガス化工程は、前記バイオマスの一部を燃焼する燃焼操作と、前記バイオマスの他の一部と前記水蒸気とから前記バイオマスガスを得るガス化操作とを有し、前記ガス化操作は、前記燃焼操作で発生した排熱を熱源として用いる、[1]に記載のバイオマスガス製造方法。
[3]前記熱分解ガス化工程は、前記バイオマスを炭化して炭化物を得る炭化操作と、前記炭化物と前記水蒸気とから前記バイオマスガスを得る炭化物ガス化操作とを有する、[1]に記載のバイオマスガス製造方法。
[4]前記熱分解ガス化工程で発生した排熱を熱源として用いて、前記水蒸気を加熱する水蒸気加熱工程を有する、[1]~[3]のいずれか一項に記載のバイオマスガス製造方法。
[5]前記金属成分が、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、ホウ素、アルミニウム及びガリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む、[1]~[4]のいずれか一項に記載のバイオマスガス製造方法。
[6]前記金属成分が炭酸塩、硫酸塩、塩酸塩及びケイ酸塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩を含み、前記塩の含有量が前記水蒸気1kgに対して、10~10000mgである[1]~[5]のいずれか一項に記載のバイオマスガス製造方法。
【0010】
[7][1]~[6]のいずれか一項に記載のバイオマスガス製造方法により前記バイオマスガスを得るバイオマスガス製造工程と、前記バイオマスガスを改質して水素を生成する水素製造工程と、を有する、水素製造方法。
[8]前記水素製造工程は、鉄、コバルト、白金、ロジウム、モリブデン、ジルコニウム、チタン、セリウム、ランタン及びネオジムから選択される少なくとも1種の金属元素を含む複合型改質触媒を用いる、[7]に記載の水素製造方法。
【0011】
[9]バイオマスを原料とし、金属成分を含む水蒸気によるガス化により、バイオマスガスを得る熱分解ガス化装置を有する、バイオマスガス製造システム。
[10]前記熱分解ガス化装置は、前記バイオマスの一部を燃焼する燃焼炉と、前記バイオマスの他の一部と前記水蒸気とから前記バイオマスガスを得るガス化炉とを有し、前記熱分解ガス化装置は、前記燃焼炉で発生した排熱を前記ガス化炉へ供給する手段を有する、[9]に記載のバイオマスガス製造システム。
[11]前記熱分解ガス化装置は、前記バイオマスを炭化して炭化物を得る炭化炉と、前記炭化物と前記水蒸気とから前記バイオマスガスを得る炭化物ガス化炉とを有する、[9]に記載のバイオマスガス製造システム。
[12]前記熱分解ガス化装置で発生した排熱を熱源として用いて、前記水蒸気を加熱する水蒸気加熱手段を有する、[9]~[11]のいずれか一項に記載のバイオマスガス製造システム。
【0012】
[13][9]~[12]のいずれか一項に記載のバイオマスガス製造システムと、前記バイオマスガスを改質して水素を生成する水素製造装置と、を有する、水素製造システム。
[14]前記水素製造装置は、複合型改質触媒が充填された反応床を有し、前記複合型改質触媒は、鉄、コバルト、白金、ロジウム、モリブデン、ジルコニウム、チタン、セリウム、ランタン及びネオジムから選択される少なくとも1種の金属元素を含む、[13]に記載の水素の製造システム。
【発明の効果】
【0013】
本発明のバイオマスガス製造方法、水素製造方法、バイオマスガス製造システム及び水素製造システムによれば、バイオマスの熱分解ガス化におけるタール等の副生成物を低減し、バイオマスのガス化効率及びバイオマスガス生成量の向上を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る水素製造システムの概略図である。
【
図2】本発明の第一実施形態に係る水素製造方法のフローチャートである。
【
図3】本発明の第二実施形態に係る水素製造システムの概略図である。
【
図4】本発明の第二実施形態に係る水素製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、地熱水蒸気等の金属成分を含む高熱量水蒸気を利用して、バイオマスを熱分解ガス化することを特徴とするバイオマスガス製造方法である。本実施形態に示す技術により、バイオマスのガス化効率とバイオマスガス生成量の向上を図り、加えて、タール等の副生成物を限りなく除去できる。熱分解ガス化装置の排熱及び燃焼炉の排熱を地熱発電(バイナリー発電を含む)用のスチームの熱交換手段を用いて排熱の利用を向上できる。これにより、環境面と経済性に優れたバイオマスガス製造方法と水素製造方法とを提供できる。
【0016】
本発明において、原料として用いるバイオマスとしては、林業や農業における生産又は廃棄されたバイオマスを粉砕し、乾燥したものを用いることが好ましい。バイオマスとしては、例えば、杉、松、竹等の森林伐採材、稲わら、サトウキビ等の農業生産物や副産物、建築廃材、綿、繊維製品等の産業廃棄物等を例示できる。
【0017】
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態について、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る水素製造システムの概略図である。
【0018】
図1の水素製造システム100は、バイオマスガス製造システム60と、水素製造装置16とを有する。バイオマスガス製造システム60は、燃焼炉9と、熱分解ガス化装置50(「熱分解ガス化炉」ともいう。)と、気水分離器32とを有する。
燃焼炉9は、空気ブロアー30と、熱分解ガス化装置50とに接続されている。気水分離器32は、地熱水貯留層31と、熱分解ガス化装置50とに接続されている。熱分解ガス化装置50は、ガス分離精製処理部13を介して、熱交換器18と接続されている。熱交換器18は、タービン発電機19と、ガスホールダー14と、熱交換器17とに接続されている。ガスホールダー14は、ガスエンジン発電装置15と接続されている。熱交換器17は、気水分離器32と接続されている。
本実施形態において、熱分解ガス化装置50は、ガス化炉本体1と、ガス化炉加熱部8と、ガス化反応塔10と、水蒸気熱交換器34とで構成されている。ガス化炉本体1は、ガス化炉加熱部8と、ガス化反応塔10と、水蒸気熱交換器34とに接続されている。
水蒸気熱交換器34は、水蒸気加熱手段として機能する。
【0019】
ガス化炉本体1は、地熱水蒸気等の金属成分を含む水蒸気33を炉内部に供給する水蒸気投入部5を有する。
ガス化炉加熱部8は、炉頂部から熱分解ガス化用のバイオマス3を炉内部に供給するバイオマス投入部4と接続されている。
ガス化反応塔10の下部には、熱分解ガス化で生成する固形灰やコークを取り出す排出部11が設けられている。ガス化反応塔10の上部には、生成するバイオマスガス2の排出部12が設けられている。
【0020】
次に、水素製造システム100を用いた水素製造方法の一例について、
図1及び
図2を用いて説明する。
図2に示すように、本実施形態に係る水素製造方法は、バイオマスを原料とし、金属成分を含む水蒸気によるガス化により、バイオマスガスを得るバイオマスガス製造工程P3と、バイオマスガスを改質して水素を生成する水素製造工程P4とを有する。
【0021】
まず、燃料用のバイオマス6を燃焼炉9の上部開口部より燃焼炉9内に投入し、空気ブロアー30で燃焼炉9内に空気を供給しながら、バイオマス6の一部を燃焼して燃焼ガス7を生成する(燃焼操作S1)。
燃焼炉9で生成した燃焼ガス7は、熱分解ガス化装置50のガス化炉加熱部8に供給される。
【0022】
次に、熱分解ガス化装置50のバイオマス投入部4から熱分解ガス化用のバイオマス3をガス化炉本体1に投入する。
【0023】
本実施形態において、金属成分を含む水蒸気33として、地熱水貯留層31より汲み上げた地熱水を気水分離器32で気体を分離して得られる地熱水蒸気を使用する。
水蒸気33に含まれる金属成分としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、ホウ素、アルミニウム及びガリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素が挙げられる。
水蒸気33に含まれる金属成分は、炭酸塩、硫酸塩、塩酸塩及びケイ酸塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩を含んでもよい。
塩の含有量は、水蒸気1kgに対して、10~10000mgが好ましく、20~1000mgがより好ましい。
【0024】
水蒸気33は、水蒸気熱交換器34において燃焼操作S1で発生した排熱WHを熱源として加熱される(水蒸気加熱工程P2)。水蒸気33は、ガス化炉本体1の下部の水蒸気投入部5よりガス化炉本体1内に投入される。水蒸気33としては、水道水や工業用水を軟水処理後に直接、あるいは重油燃焼ボイラー処理で得られる水蒸気を、同様に用いることができる。
ガス化炉本体1内においては、投入されたバイオマス3と高温の水蒸気33とが混合対流しつつ均一に加熱されて、バイオマスガス2が得られる(ガス化操作S2)。
水蒸気33は、金属成分を含むので、タール等の副生成物を低減したバイオマスガス2が得られる。
【0025】
ガス化炉本体1内に供給する水蒸気33は、650~1200℃の高温度域において、好ましくは800~1000℃に加熱されて、ガス化操作S2に供せられる。ガス化操作S2で得られたバイオマスガスは、ガス化炉反応塔10に供給される。ガス化炉反応塔10の内部で、高温度域での水蒸気33による熱分解ガス化が促進され、CH4、C2H4等の炭化水素及びH2、CO、CO2を含むバイオマスガス2が生成する(熱分解ガス化工程P1)。
【0026】
熱分解ガス化工程P1では、一般に、バイオマス(CnH2Om:杉、竹、草木材の場合C1.42H2O0.91、n、mは正の数。)を原料に、水蒸気(H2O)をガス化剤として、ガス化炉反応塔10の内部の温度に応じて下記式(1)、(2)、(3)の熱分解ガス化反応が主体となる。
ガス化炉反応塔10の内部の温度800℃:
C1.42H2O0.91+0.38H2O=0.74H2+0.75CO+0.24CH4+0.24C2H4+0.28CO2 ・・・式(1)
ガス化炉反応塔10の内部の温度900℃:
C1.42H2O0.91+0.71H2O=1.27H2+0.76CO+0.21CH4+0.02C2H4+0.41CO2 ・・・式(2)
ガス化炉反応塔10の内部の温度1000℃:
C1.42H2O0.91+0.89H2O=1.59H2+0.76CO+0.15CH4+0.51CO2 ・・・式(3)
【0027】
生成したバイオマスガスを用いて、水素を製造するためには、上記式(1)、(2)、(3)の反応がスムーズに行われるように熱分解ガス化工程P1を調整する必要がある。水蒸気に酸素や空気が混有する場合は、バイオマスの完全燃焼によりバイオマスガスのガス熱量が低下するので水蒸気の脱酸素化を行ってもよい。
【0028】
熱分解ガス化工程P1を調整する手段の1つとしては、ガス化炉反応塔10の内部の温度を、800~1000℃に制御することにある。ガス化炉反応塔10の内部の温度の制御は、燃焼ガス7の温度及び流量制御に加えて、ガス化炉本体1に供給するバイオマス3及び水蒸気33の供給流量の調整により行われる。ガス化炉反応塔10の内部の温度を、800~1000℃に制御することにより、バイオマス3の熱分解ガス化反応(1)~(3)が好ましいガス化変換率で進行してバイオマスガス2が得られる(以上、バイオマスガス製造工程P3)。
【0029】
バイオマスガス2に含まれる固形灰やコーク等の煤塵は、サイクロンと、副次的に生成されるタールを物理的に除去するバグフィルターとを備えるガス分離精製処理部13で除去される。バイオマスガス2は、ガス分離精製処理部13を経由してガスホールダー14に貯蔵される。バイオマスガス2は、ガスエンジン発電装置15及び水素製造装置16の双方又はいずれか一方に供給される。
【0030】
本実施形態において、バイオマス投入部4は炉頂部に設けられており、水蒸気投入部5はガス化炉本体1の下部に設けられている。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、バイオマス3をガス化炉本体1の下方又は側方から供給してもよい。水蒸気33をガス化炉本体1の炉頂部又は側方から供給してもよい。バイオマスや水蒸気の供給箇所は1箇所のみならずに複数箇所としてもよい。
【0031】
本実施形態において、燃焼操作S1で発生した燃焼ガス7の排熱WHは、熱交換機17に供給される。熱分解ガス化工程P1で発生したバイオマスガス2の排熱WHは、熱交換機18に供給される。熱交換機17又は熱交換機18に供給された排熱WHは、地熱水蒸気の追加の熱源として利用される(水蒸気加熱工程P2)。熱交換処理後の水蒸気は、タービン発電機19に投入して排熱を利用したスチーム発電に供される。
【0032】
バイオマスガス2を用いて水素Hを製造する場合は、複合型改質触媒が充填された反応床を有する水素製造装置16において、バイオマスガス2を改質して水素Hを生成する(水素製造工程P4)。水素製造装置16は、ガス圧力を所定圧に加圧するブースターと、生成した水素Hを分離する気液分離装置とを備えていてもよい。所定圧としては、例えば、1~20気圧(0.1~2MPa)が挙げられる。水素製造装置16の熱源として、熱交換器17より排出する燃焼ガス7の排熱を用いて所定温度域で水素を製造することもできる。所定温度域としては、例えば、250℃~600℃が挙げられる。
【0033】
本実施形態の水素製造工程P4においては、鉄、コバルト、白金、ロジウム、モリブデン、ジルコニウム、チタン、セリウム、ランタン及びネオジムから選択される少なくとも1種の金属元素を含む複合型改質触媒を用いてもよい。本明細書において、「複合型改質触媒」とは、ニッケルやルテニウム等を主成分とする従来の触媒に、鉄、コバルト、白金、ロジウム、モリブデン、ジルコニウム、チタン、セリウム、ランタン及びネオジムから選択される少なくとも1種の金属元素を混合した触媒をいう。これらの触媒は、上記金属元素を含む多孔質酸化物であってもよい。多孔質酸化物とは、細かい孔が非常に多く空いている金属酸化物のことをいう。多孔質酸化物としては、例えば、ジルコニア等が挙げられる。複合型改質触媒は、従来の含浸法に従って、上記金属元素を含む物質のアセチルアセトナト錯体のアセトン溶液や様々な塩(硝酸塩や塩酸塩等)の水溶液を用いて調製できる。通常、調製された触媒に水素ガスあるいは還元試薬を用いて還元処理後にバイオマスガスの改質反応に供する。しかし、本発明において、複合型改質触媒は、水素ガスあるいは還元試薬を用いて還元処理を行わずにバイオマスガスの改質反応に供されてもよい。
【0034】
本実施形態の水素製造工程P4においては、バイオマスガス2の改質反応で水素製造を行う。バイオマスガス2の改質反応において、反応温度は、反応性及び熱効率という観点から250℃~600℃が好ましく、350℃~450℃がより好ましい。反応圧力は、1~20気圧(0.1~2MPa)が好ましく、5~10気圧(0.5~1MPa)がより好ましい。
【0035】
本実施形態においては、生成した水素Hは、PSA(圧力変動吸着:Pressure Swing Adsorption)ガス分離装置によりガス精製されて高純度水素(純度99.999%以上の水素)として得られる。高純度水素は、燃料電池自動車、家庭発電及び緊急電源設備(UPS:Uninterruptible Power Supply)の燃料電池用に利用される。
【0036】
[第二実施形態]
本発明の第二実施形態について、
図3を用いて説明する。
図3に、本発明の第二実施形態に係る水素製造システムの概略図を示す。第一実施形態と同じ構成には、同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0037】
図3の水素製造システム200は、バイオマスガス製造システム62と、水素製造装置16とを有する。バイオマスガス製造システム62は、炭化炉21と、炭化物ガス化炉24と、水蒸気熱交換器27とを有する。
炭化炉21は、空気ブロアー30と、炭化物ガス化炉24に設けられたガス化炉加熱部25とに接続されている。水蒸気熱交換器27は、ガス化炉加熱部25と、炭化物ガス化炉24の水蒸気投入部26と、水蒸気29の供給源とに接続されている。炭化物ガス化炉24は、ガス分離精製処理部13を介して、熱交換器18と接続されている。熱交換器18は、タービン発電機19と、ガスホールダー14と、熱交換器17とに接続されている。ガスホールダー14は、ガスエンジン発電装置15と接続されている。熱交換器17は、水蒸気熱交換器27と接続されている。
本実施形態において、熱分解ガス化装置52は、炭化炉21と、炭化物ガス化炉24とで構成されている。
水蒸気熱交換器27は、水蒸気加熱手段として機能する。
【0038】
次に、水素製造システム200を用いた水素製造方法の一例について、
図3及び
図4を用いて説明する。
図4に示すように、本実施形態の水素製造方法は、バイオマスを炭化して炭化物を得る炭化操作S3と、炭化物と水蒸気とからバイオマスガスを得る炭化物ガス化操作S4とを有するバイオマスガス製造工程P3と、バイオマスガスを改質して水素を生成する水素製造工程P4とを有する。
【0039】
まず、杉、松、竹等の木質バイオマス20を炭化炉21の上部開口部より炭化炉21内に投入し、空気ブロアー30で炭化炉21内に空気を供給しながら、木質バイオマス20の部分燃焼で炭化物22を生成する(炭化操作S3)。
炭化炉21で生成した炭化物22は、炭化炉21の下端部より取り出され、破砕処理を施された後に、上部開口部又は中部開口部より、炭化物ガス化炉24に投入される。
炭化炉21で発生する燃焼ガス23は、上部開口部を経てガス化炉加熱部25に供給され、炭化物ガス化炉24の内壁を所定温度に加熱する。燃焼ガス23は、ガス化炉加熱部25を経て、水蒸気熱交換器27に供給される。
【0040】
水蒸気29は、金属成分を含む。
水蒸気29に含まれる金属成分としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、ホウ素、アルミニウム及びガリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素が挙げられる。
水蒸気29に含まれる金属成分は、炭酸塩、硫酸塩、塩酸塩及びケイ酸塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩を含んでもよい。
塩の含有量は、水蒸気1kgに対して、10~10000mgが好ましく、20~1000mgがより好ましい。
【0041】
水蒸気29は、水蒸気熱交換器27で、所定の温度に加熱された後、その一部が水蒸気投入部26から炭化物ガス化炉24内に供給される。所定の温度としては、例えば、650~1200℃が挙げられる。
炭化物ガス化炉24の内部では、水蒸気29と炭化物22との熱分解ガス化反応(C+H2O=CO+H2)及びCOシフト反応(CO+H2O=CO2+H2)等が連続して進行する(熱分解ガス化工程P1)。その結果、水素(H2)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH4)及び二酸化炭素(CO2)の混合ガスであるバイオマスガス28が生成する(炭化物ガス化操作S4)。生成したバイオマスガス28は、ガス分離精製処理部13に供給される(以上、バイオマスガス製造工程P3)。
水蒸気29は、金属成分を含むので、タール等の副生成物を低減したバイオマスガス28が得られる。
ガス分離精製処理部13を経由したバイオマスガス28は、熱交換器18に供給される。
【0042】
水蒸気熱交換器27で加熱された水蒸気29の一部は、熱交換器17、18を経由し、タービン発電機19に供給される。
【0043】
水蒸気熱交換器27より排出される燃焼ガス23の排熱WHは、熱交換機17に供給される。炭化物ガス化炉24で生成するバイオマスガス28の排熱WHは、熱交換機18に供給される。熱交換機17又は熱交換機18に供給された排熱WHは、第一実施形態と同様に、熱交換器17、18において、地熱水蒸気等の水蒸気の追加の熱源として利用される(水蒸気加熱工程P2)。熱交換処理後の水蒸気は、タービン発電機19に投入して排熱を利用したスチーム発電に供される。
【0044】
本実施形態の炭化物ガス化炉24で生成するバイオマスガス28は、第一実施形態と同様に、ガス分離精製処理部13で、タールやコークが分離され、精製処理後に、熱交換器18、17を順に経由して、ガスホールダー14に貯蔵される。
ガスホールダー14内のバイオマスガス28は、ガスエンジン発電装置15あるいは水素製造装置16に供給されて、ガス発電及び水素製造に利用される。
【0045】
本実施形態では、第一実施形態と同様に、生成するバイオマスガス28を複合型改質触媒に接触させることにより、低圧(例えば、1MPa以下)で、かつ、低温度域(例えば、650℃未満)において水素製造を行うことが可能である(水素製造工程P4)。水素製造装置16の加熱熱源として、炭化炉21及び炭化物ガス化炉24より排出する燃焼ガス23及びバイオマスガス28の排熱を用いて所定温度域で水素製造を行うこともできる。
【実施例0046】
本発明の実施例を以下に示すが、下記の実施例は、発明を例示するだけのものあって、本発明の内容が下記の実施例によって制限されるものではない。
【0047】
[実施例1、比較例1]
金属成分を含む水蒸気として、地熱水貯蔵層より汲み上げた地熱水の気水分離器で得られる地熱水蒸気をバイオマスの熱分解ガス化用の水蒸気として使用した。バイオマスとして杉材ペレット(15%含水率)をガス化用100kg/h及び燃焼用50kg/hの供給速度で、それぞれ熱分解ガス化炉及び燃焼ガス炉に投入してバイオマスの熱分解ガス化実験を行った。熱分解ガス化炉の温度は900℃、圧力は1.2気圧(0.12MPa)とした。熱分解ガス化炉におけるスチーム(水蒸気)とバイオマスとの重量比(S/C[kg]/[kg])は、1.9とした。金属成分を含む水蒸気として地熱水蒸気A(150℃、0.3MPa、流量200kg/h、熱量650kcal/kg)を用いた場合(実施例1)と、軟水処理の水道水を用いた場合(比較例1)での熱分解ガス炉のバイオマスのガス化変換効率及びバイオマスガスの生成量等について熱分解ガス化反応の試験結果を表1に比較して示した。表中、「燃料ガス収率(m3/kg)」は、バイオマス1kg当たりの燃料ガス(H2+CO+CH4+C2H6+CO2)の生成量(Nm3)を意味する。表中、「CnHm(vol%)」は、n(n、mは自然数)が2以上の揮発性長鎖炭化水素成分の体積%を意味する。出口ガス中のCO、水素、CO2、CH4及びその他の炭化水素濃度は、ガスクロパック(Gaskuropack)及びモレキュラシーブ13Xを充填するマイクロガスクロ分析器(ジーエルサイエンス株式会社製)とFID(水素炎イオン化検出器)ガスクロ分析器(株式会社島津製作所製)を用いて測定した。排出ガスの流量は、湿式ガス流量計により測定した。生成ガスの生成速度は、流出ガスのGC(ガスクロマトグラフィー)分析から算出した。ガス化変換率は、式「(バイオマスガスの総低位発熱量)/(投入バイオマスの低位発熱量)×100」から算出した。バイオマスガスの生成速度は、2~10時間の平均値とした。タール及びチャーの生成量は、バイオマス供給を停止した後、フィルター採取重量測定により決定した。地熱水蒸気Aの含有金属成分は、Na:600mg/kg、K:95mg/kg、Mg:35mg/kg、Ca:65mg/kg、Sr:15mg/kgであった。地熱水蒸気Aの含有金属成分は、イオンクロマトグラフ法により測定した。軟水処理後の水道水を用いた水蒸気中の金属成分及び塩成分は水蒸気1kg当たりの濃度で、Na:8mg/kg、K:3mg/kg、Ca:6mg/kg、Mg:3mg/kg、Al:0.2mg/kg、B:0.5mg/kgであった。軟水処理後の水道水を用いた水蒸気中の金属成分及び塩成分は、イオンクロマトグラフ法及びICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法により測定した。この結果から、金属成分を含む地熱水蒸気を用いるバイオマスのガス化炉において水道水を用いた場合に比べて、ガス化変換率と燃料ガス(バイオマスガス)の生成量及びガス発熱量(低位ガス熱量)が顕著に向上して、かつ副次的に生成されるタールが低減した。
【0048】
【0049】
[実施例2~3]
実施例1と同様に、金属成分を含む高温水蒸気B及びCを用いてバイオマスの熱分解ガス化反応を行った。熱分解ガス化炉の温度は1000℃、圧力は1気圧(0.1MPa)とした。熱分解ガス化炉におけるスチーム(水蒸気)とカーボンとのモル比(S/C)は、1.5とした。水蒸気B(実施例2:165℃、0.35MPa、流量210kg/h、熱量650kcal/kg)及び水蒸気C(実施例3:180℃、0.5MPa、流量200kg/h、熱量670kcal/kg)を用いて行った場合の燃料ガスのガス成分組成、ガス化変換率、燃料ガス収量等を表2に示した。この結果から、熱分解ガス化において金属成分を含む水蒸気B及びCを用いた場合、ガス化変換率、燃料ガスの収量及びガス発熱量(低位ガス熱量)は通常水を用いた比較例1に比べて増加することが実証された。タールの生成量は顕著に低下した。水蒸気Bの含有金属成分は水蒸気1kg当たりの濃度で、Na:650mg/kg、Li:150mg/kg、Ca:20mg/kg、B:120mg/kg、Mg:230mg/kgであった。一方、水蒸気Cの含有金属成分の濃度は、水蒸気1kg当たり、Na:380mg/kg、K:120mg/kg、Mg:85mg/kg、Al:130mg/kg、Ba:78mg/kgであった。水蒸気Bの含有金属成分は、軟水処理後の水道水を用いた水蒸気中の金属成分及び塩成分と同様の方法により測定した。水蒸気Cの含有金属成分は、地熱水蒸気Aの含有金属成分と同様の方法により測定した。
【0050】
【0051】
[実施例4~5、比較例2]
複合型改質触媒A(8%Ni、10%Ru、1%Pt、5%Ce、1%Ti、2%Co/Al2O3)又は複合型改質触媒B(2%Fe、10%Ru、1%Rh、5%Zr、2%Mo、2%La/Al2O3)(重量%)を充填した水蒸気改質反応器に実施例1の熱分解ガス化で得られたバイオマスガス(45%H2、8%CH4、25%CO、21%CO2、1%C2H6)を用いて改質反応を行った(実施例4、5)。熱分解ガス化炉の出口バイオマスガスを水洗浄処理及びガス精製後に水蒸気改質反応器に投入した。反応条件は、反応温度:250℃、圧力:0.5MPaとした。バイオマス熱分解ガス化で得られるバイオマスガスの水蒸気改質反応器を具備した場合の水素製造試験結果を表3に示す。表中、「水素収量(Nm3/h)」は、純度99.999%以上の水素の量を表す。表3に示すように、生成水素ガスを気液分離後、PSAガス精製処理を行った水素収量は690Nm3/h(実施例4)、645Nm3/h(実施例5)であった。比較例2に示した市販触媒(25%Ni、5%Ru/Al2O3)を用いて行った場合(540Nm3/h)に比べて、実施例4の触媒A及び実施例5の触媒Bを用いた場合の水素収量及び水素変換率が増大することが実証された。
【0052】
【0053】
[実験例1]
実施例1において、杉ペレットを用いた熱分解ガス化炉で排出される燃焼ガス(1000~1200℃)とバイオマスガス(650~800℃)とをガス化炉出口及び炉加熱部にそれぞれ接続する熱交換器において、スチーム発電用の地熱水蒸気(流量2t/h)の追い炊き加熱を実施した。実施例1と同様の稼動条件において、熱分解ガス化炉の燃焼ガス及びバイオマスガスの排熱利用で得られる高熱量水蒸気を用いてスチームターボ発電を行った(実験例1)。その結果、熱分解ガス化炉の排熱を利用する場合と排熱を利用しない場合の発電効率は16%及び15%であり、送電端出力は273kWe及び213kWeであった。バイオマスガス化炉の排熱利用により地熱発電出力は30%増加することが分かった。
【0054】
[実施例6、比較例3]
バイオマスとして建築廃材ペレット(15%含水率)を用いて150kg/hの供給速度で
図3に示す高温炭化炉に投入して炭化物回収率35%で炭化物45kg/hを生成した。回収炭化物を機械的に破砕して得られた炭化物を熱分解ガス化炉の上部より投入した。金属成分を含む水蒸気D(実施例6:150℃、0.35MPa、流量200kg/h、熱量658kcal/kg)を熱分解ガス化炉に投入した場合と水道水を用いた場合(比較例3)の炭化物のガス化変換率及び生成ガス量、ガス組成について熱分解ガス化反応の試験結果を表4に比較して示した。熱分解ガス化炉の温度は950℃、圧力は1.2気圧(0.12MPa)とした。熱分解ガス化炉におけるスチーム(水蒸気)と炭化物とのモル比(S/C)は、1.2とした。この結果から、バイオマスの2段式熱分解ガス化炉において金属成分を含む水蒸気を用いた場合、ガス化変換率、燃料ガス収率及び低位ガス熱量は、水道水を用いた比較例3に比べて増加することが実証された。生成ガスのH
2/COモル比は、水蒸気Dを用いた場合4.3であり、水道水を用いた場合の2.5に比べて水素生成モル比が増大した。加えて、バイオマスのガス化変換効率は68%に改善した。水蒸気Dの含有金属成分の濃度は、水蒸気1kg当たり、Na:600mg/kg、Li:80mg/kg、Sr:15mg/kg、Ga:20mg/kg、B:12mg/kgであった。水蒸気Dの含有金属成分の濃度は、軟水処理後の水道水を用いた水蒸気中の金属成分及び塩成分と同様の方法により測定した。使用した水道水の金属成分の濃度は、水蒸気1kg当たり、Na:6mg/kg、K:2mg/kg、Ca:5mg/kg、Mg:2mg/kg、Al:0.1mg/kgであった。水道水の金属成分の濃度は、地熱水蒸気Aの含有金属成分と同様の方法により測定した。
【0055】
【0056】
本発明によれば、木材や農業廃棄物等のバイオマスの熱分解ガス化において地熱水蒸気等金属成分を含む水蒸気を利用することにより、バイオマスのガス化効率と燃料ガス及び水素収量を向上できることが分かった。これにより、環境負荷の低減と経済的なバイオマスの熱分解ガス化と水素製造方法とを提供できる。