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特開2024-10088眼の感染症および疾患を処置するための組成物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010088
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】眼の感染症および疾患を処置するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240116BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20240116BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240116BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240116BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20240116BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20240116BHJP
   C07K 9/00 20060101ALN20240116BHJP
   A61P 27/04 20060101ALN20240116BHJP
   A61K 38/17 20060101ALN20240116BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
A61K38/10
A61P31/04
A61K45/00
A61K38/46
C07K16/18
C07K9/00
A61P27/04
A61K38/17
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023182939
(22)【出願日】2023-10-25
(62)【分割の表示】P 2021079966の分割
【原出願日】2015-03-11
(31)【優先権主張番号】61/951,680
(32)【優先日】2014-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/019,476
(32)【優先日】2014-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】500280803
【氏名又は名称】ユニバーシテイ・オブ・バージニア・パテント・フアウンデーシヨン
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(72)【発明者】
【氏名】ゴードン・ダブリュー・ローリー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ラクリチンまたはその生物活性断片を含む組成物の局所投与により処置され得るドライアイを患う対象体を特定するための組成物および方法を提供する。
【解決手段】本願は、1つには、シンデカン-1の約90KDa脱グリカン化形態は正常な個体の涙液中に豊富であるが、ドライアイを患う個体では豊富でなく、一方約25kDaのシンデカン-1断片がドライにおいて検出可能であるが、正常な涙液において検出可能でないことを開示する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(連邦政府資金による研究開発の記載)
本発明は、国立健康研究所によって授与された、助成金番号RO1EY013143およびR01EY018222の下に、米国政府の支援によりなされた。米国政府は、本発明における一定の権利を有する。
【0002】
(関連出願の相互参照)
本願は、2014年3月12日出願の米国仮出願第61/951,680号および2014年6月1日出願の米国仮出願第62/019,476号に基づく優先権を主張し、該出願の開示はそれぞれ出典明示によりその全体として本明細書の一部とする。
【0003】
(電子提出資料の参照による援用)
その全体として参照により援用されるのは、本明細書と同時に提出し、2015年5月11日作成の「233965SeqListing.txt」というファイル名の19キロバイトのACII(Text)ファイルにより識別されるコンピューター読取可能なヌクレオチド/アミノ酸配列表である。
【背景技術】
【0004】
眼表面の健康は、涙腺からの涙液分泌に依存する。涙腺を含む涙腺房細胞は、極性化され、複雑な腺房周囲基底膜に付着する高分化涙分泌細胞である。頂端細胞の細胞質の大部分は、涙液タンパク質が詰め込まれた大きな分泌顆粒を含む。公知の涙液タンパク質としては:角膜表面で顕著に殺菌性の役割を果たす、リゾチーム;殺菌剤および補体活性化の潜在的な阻害剤として機能する、ラクトフェリン;細菌付着を阻害するために角膜表面に作用するとき、腺房腔へのIgAの細胞内移動を制御する分泌成分;ならびに涙液リポカリン(涙液特異的プレアルブミン)および機能が分かっていない増殖因子TGFα、TGFβおよびEGFが挙げられる。ラットにおいて、ペルオキシダーゼは、実験的研究において便利なマーカーとして役立つ涙の構成要素である。涙は、重要な殺菌性の役割のみを有するのではなく、角膜を清潔かつ潤滑に保ち、角膜上皮の健康に重要である。
【0005】
眼の表面は、最もアクセス可能かつ傷つき易い組織のうちの1つである。角膜上皮細胞は、UV照射、広く変化する気温変動、汚染物質、細菌および他の微生物体を含む、絶えない環境傷害に直面する。血管がこのような剤を供給する他の組織とは異なり角膜は血液供給を欠くため、角膜表面を潤す涙液は、細胞保護剤および抗炎症剤の最も有望な供給源である。実際、涙液は殺菌性タンパク質に富む。涙産生不足を患うドライアイ対象体は、角膜潰瘍形成、感染症または炎症にかかりやすい。涙の供給量が制限されるため、同様の症状は、コンタクトレンズの長期使用によって発生し得る。
【0006】
涙腺房細胞の涙産出が集合的に不十分であるとき、「ドライアイ」(乾性角結膜炎[KCS]としても知られる)が結果として生じる。ドライアイは、シェーグレン症候群、世界中の数百万の人々が罹患している不明な病因を伴う自己免疫疾患の共通の眼症状である。最も一般的な罹患者は、閉経後の女性で、様々な重症度である。処置しない場合、ドライアイは、角膜剥離、潰瘍形成、細菌感染症、および視力喪失を引き起こし得る。主な涙腺による分泌量の病原性低下の原因となる分子機構は、潜在的に複合的である。シェーグレン症候群の対象体の涙腺は、BおよびTリンパ球の病巣を含み、該リンパ球の病原性拡大は、潜在的にウイルス傷害により、涙腺房を破壊し得る。しかしながら、涙腺容積の損出は、主な涙腺の論理上の余剰能力と比較して不十分に思われるときがある。推定から、潜在的な分泌量が正常な水性の涙膜層を維持するのに必要とされるより10倍以上であることを示唆される。したがって、直接または間接的に涙腺房細胞機能を変更し得るおよび/または神経支配の低下をもたらし得る1または複数の共通のサイトカインの異常分泌などの他の機構も注目に値する。涙腺房細胞によって涙膜へ放出される新規のオートクリン/パラクリン因子は、涙腺分泌機構、管系および角膜上皮の健康に必要とされ得る。腺房周囲基底膜はまた、ラミニン-1との見かけの相乗効果が刺激性涙分泌を促進する「BM180」を部分的に介する正常な分泌機能に必要とされる。正常な変化を伴うかまたは独立したこれらの因子の各々の変化は、分泌能の減少に寄与し得る。
【0007】
涙腺-角膜の軸は、眼の健康の基礎的なレギュレーターであり、ドライアイ症候群および角膜傷害に関連する眼表面の炎症において重要な役割を果たす。多数のメディエーター、例えば炎症誘発性サイトカインTNF-α、IL-1β、IL-6およびケモカインIL-8は、角膜炎症の発症および進行に関与する。シクロオキシゲナーゼ(主にPGE2)、リポオキシゲナーゼ(12(s)-HETE)およびシトクロムP450(12(r)-HETE)の活性によって生成されるアラキドン酸由来エイコサノイドもまた関与する。
【0008】
ラクリチンは、反射的流涙間中ヒト涙腺房細胞から先端で放出される12.3kDaの分泌される糖タンパク質であり、混合した反射的および基礎本的なヒトの涙液中でELISAおよびウェスタンブロットによって検出され得る。ラクリチンはまた、最も多い眼に限定された遺伝子の1つとして角膜、結膜、マイボーム腺および唾液腺の上皮により生成される。ラクリチンの作用機構に関する最近の研究は、ラクリチンが眼表面において重要な抗炎症の役割を有し得ることを示唆するPKCαおよびNFkBシグナル伝達経路への収束を示す。最近の臨床研究は、この仮説を立証する。27人の健常なボランティアに対する眼瞼炎(眼瞼の炎症)を患う19人の対象体からの涙液タンパク質の比較は、対象体においてラクリチンが56%減少したことを明らかにした。Sumadreらは(非特許文献1)、ラクリチンが激しくビヒクルに対して基礎的な流涙を30%増加させ、1日当たり複数回投与が十分許容されることを示した。ラクリチンがコンタクトレンズ関連ドライアイにおいて他の涙液タンパク質より選択的に下方制御されることもまた報告された。ラクリチンは、血清と一致するかまたはそれを越えるレベルにおいてヒト角膜上皮細胞を介してMUC16産生を刺激する(非特許文献2)。自家血清は、ドライアイを処置する成功した方法であると報告されている。ラクリチンはまた、培養されたラットおよびサルの涙腺房細胞によって基礎涙分泌を促進し、ヒト角膜上皮細胞の成長を促進する。
【0009】
ラクリチンにより標的とされることができると思われる細胞のタイプはほとんどない。標的細胞は、涙腺房、唾液管/HeLa、ヒト角膜および胎児由来腎臓細胞を含むが、試験した17の種々の細胞株における他は含まれない。そのコレセプターシンデカン-1を眼表面上皮に広く発現する。したがって、ラクリチンは、涙の分泌および角膜上皮の再生に潜在的に役割を有する多機能の眼特異的因子であるように思われる。
【0010】
ドライアイを検知し診断する、ドライアイを処置する、ならびにドライアイの診断に基づく処置戦略および計画を開発するのに有用な組成物ならびに方法が当該技術分野において必要と長く感じられている。本発明はこれらのニーズを満たす。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Invest Ophthalmol Vis Sci., 2011;52:6265-6270; DOI:10.1167/iovs.10-6220
【非特許文献2】Laurie GE, et al. IOVS 2006;47:ARVO E-Abstract 1606
【発明の概要】
【0012】
本発明は、ドライアイ疾患の分子同定のための新規な機構を原因に対処する回復治療と結び付ける。本発明は、シンデカン-1からの約90KDa 脱グリカン化が正常な個体の涙液において豊富であるが、ドライアイを患う個体においては豊富でないという本明細書に記載の発見に関する。また、25kDaシンデカン-1断片がドライにおいて検出可能であるが、正常な涙液において検出可能でない。本発明はまた、局所ラクリチン、脱グリカン化シンデカン-1のアゴニストが、眼の表面の乾燥に角膜知覚神経を敏感にし、神経の湿潤応答(wet response)を増加させるという発見に関する。したがって、本発明の一実施態様は、涙液中におけるシンデカン-1からの約90KDa脱グリカン化の相対的減少および/または25kDaシンデカン-1の存在によりドライアイを特定することに関する。別の一実施態様は、ラクリチンポリペプチドの眼への局所適用により角膜神経の乾燥および湿潤応答を増加させることに関する。
【0013】
本願出願人はまた、涙液減少型ドライアイの涙液がラクリチンモノマーの減少、ラクリチン-Cスプライスバリアントの増加、および潜在型(慢性的に活性な)ヘパラナーゼ(HPSE)に関連することを発見した。したがって一実施態様において、ドライアイを患う患者を特定し、処置のために該患者を選択するための方法を提供する。一実施態様において、対象体から得られた涙液検体中の、
潜在型ヘパラナーゼ;
90kDa 脱グリカン化SDC-1;
25kDa SDC-1;および
不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアント;
からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質の存在を検出する、ドライアイを有する対象体を特定するための方法を提供する。その後、ドライアイを有する患者は、
潜正常な眼からの涙液中に存在するレベルと比較して在型ヘパラナーゼレベルの減少および活性型ヘパラナーゼの対応する増加、;
正常な眼からの涙液中に存在するレベルと比較して90kDa脱グリカン化SDC-1レベルの減少;
25kDa SDC-1の存在;および/または
不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントの存在
の1以上を有することにより特定される。その後、該特定された対象体は、ラクリチンまたはその生物活性断片を含む組成物と対象体の眼の眼表面を接触させることにより処置され得る。
【0014】
潜在型ヘパラナーゼ、90kDa脱グリカン化SDC-1A、25kDa SDC-1または不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントの検出は、抗体の使用を含む、当業者に公知の標準技術を用いて実施され得る。一実施態様において、抗体は、眼科医または検眼士のオフィスにおいて正確で安価な分子診断のために涙がそれに採取されるシルマー試験紙に埋め込まれてもよい。ドライアイに苦しむ対象体を特定するための現在の方法は、原因に対処せず、それ故に不正確さに悩まされ、非特異的である。現在の方法の例としては:a)対象体調査票、b)眼表面損傷のローズベンガルまたはリサミングリーン染色、c)涙液量のシルマー試験紙測定、d)涙液破壊時間、e)涙液蒸発率、f)涙液メニスカス高さまたは半系、g)涙膜インデックスまたはターンオーバー率、h)涙液のオスモル濃度、i)リゾチームまたはラクトフェリンアッセイ、およびj)涙シダ状結晶分析が挙げられる。
【0015】
活性ラクリチンの眼表面への返還は、生理学に正常な眼に必要な正常な角膜知覚神経の乾燥および湿潤応答を助けると分かった。眼を湿らせるすべての腺が角膜知覚入力の反射弓下流により制御されるため、ラクリチンまたはラクリチン断片、合成ペプチドまたはミメティックは、ドライアイのすべての型にためになるべきである。ウサギおよびドライアイマウスモデルにおける前臨床研究は、ドライアイにおいて減少する角膜知覚神経支配の密度を回復し得ることを示唆する。対照的に、一般に用いられる「人口涙液」は、原因に対処することなく一時的に症状を軽減する。
【0016】
涙液減少型ドライアイの涙液は、ラクリチンモノマーの減少、ラクリチン-Cスプライスバリアントの増加、より少なく脱グリカン化したSDC1、25kDa SDC1断片の増加、ならびに潜在型ヘパラナーゼの減少および活性型ヘパラナーゼの増加に関連することを本明細書に開示する。したがって本発明は、本明細書に記載のドライアイのマーカーの1以上を用いてドライアイを有することが分かった対象体について、ドライアイを検出および診断する、ならびに処置計画を開発および提供するための組成物ならびに方法を提供する。本願は、本明細書に記載のFOXO3転座アッセイを含む、ドライアイを検出および診断するための組成物および方法を提供する。複数の方法がまた、眼を検出および診断するのに有用なタンパク質およびタンパク質断片を検出および測定するのに利用可能であり、記載される。
【0017】
さらに本発明は、眼の表面の乾燥に角膜知覚神経にするラクリチンまたはその生物学的活性断片もしくは同族体の使用を提供し、神経の湿潤応答を増加させる。一実施態様において、局所ラクリチンまたは断片N-94(配列番号7)の使用は、流涙を回復または増加させる。一態様において、使用は基礎的流涙を回復させる。一態様において、ラクリチンの局所投与は涙腺炎症を抑制する。
【0018】
一実施態様によれば、ドライアイの対象体の涙液中の90kDa シンデカン-1(SDC1)またはシンデカン-1の他の脱グリカン化形態のレベルを回復させる処置方法を提供する。SDC1の回復は、存在するラクリチンの活性を増強する。さらに本発明は、TGM活性、レベルまたは合成の阻害剤であり得る、トランスグルタミナーゼ(TGM)の阻害剤を用いてドライアイを処置する方法を提供する。
【0019】
一実施態様によれば、配列番号1、配列番号5、配列番号6、配列番号7および配列番号8からなる群より選択される配列、または1、2、3、4もしくは5つのアミノ酸により配列番号1、配列番号5、配列番号6、配列番号7および配列番号8と異なる配列、またはその生物学的活性断片、同族体もしくは誘導体を含む、ペプチド、非天然ペプチド、またはペプチドミメティック誘導体を含む組成物を提供する。一実施態様において、ペプチドは、1、2、3、4または5つの保存的アミノ酸置換により配列番号1、配列番号5または配列番号7と異なる。一実施態様において、アミノ酸修飾はアミノ酸置換であり、そして一実施態様において、置換は保存的アミノ酸置換である。
【0020】
いくつかの実施態様において、本開示のペプチドは、配列番号1、配列番号5もしくは配列番号7のアミノ酸配列、またはその生物学的活性断片、同族体もしくは誘導体に対して少なくとも75%、80%、85%、90%または95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0021】
いくつかの実施態様において、本開示のペプチドは、配列番号1、配列番号5もしくは配列番号7のアミノ酸配列、または配列番号1、配列番号5もしくは配列番号7のペプチドミメティック誘導体に対して少なくとも75%、80%、85%、90%または95%配列同一性を有する非天然アミノ酸配列を含む。ペプチドが非天然であるという記載は、親ラクリチンペプチドの天然ペプチドを除外することを意図する。
【0022】
一実施態様によれば、それを必要とする対象体において角膜創傷治癒を増強する方法を提供する。当該方法は、ラクリチンまたはその生物活性断片を含む組成物と該対象体の眼表面を接触させることを含む。一実施態様において、ラクリチンの生物活性断片は、
KQFIENGSEFAQKLLKKFS(配列番号5);
KQFIENGSEFAQKLLKKFSLLKPWA(配列番号7);
KQFIENGSEFANKLLKKFS(配列番号6);および
KQFIENGSEFANKLLKKFSLLKPWA(配列番号8)からなる群より選択されるか、または1もしくは2つのアミノ酸置換により配列番号5、配列番号6、配列番号7もしくは配列番号8と異なるその誘導体である。一実施態様において、対象体は、PRK(レーザー屈折矯正角膜切除術)またはLASIK(レーザー角膜内切削切除形成術)手術から回復している。
【0023】
別の一実施態様において、ラクリチンのC末端断片を含む殺菌性組成物を提供する。一実施態様において、断片は、配列番号5、配列番号6、配列番号7もしくは配列番号8、または1もしくは2つのアミノ酸置換により配列番号5、配列番号6、配列番号7もしくは配列番号8と異なるその誘導体から選択されるペプチドである。一実施態様において、断片は、配列番号7の配列からなるペプチドである。一実施態様において、組成物は医薬的に許容される担体を含み、ここで組成物は対象体の眼表面への局所投与に適する。一実施態様において、組成物はさらに第2の抗菌剤を含む。本明細書に記載のように、角膜感染症を処置する方法を提供し、ここで当該方法は、ラクリチンのC末端断片を含む組成物とそれを必要とする対象体の角膜を接触させることを含む。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、正常な涙液およびドライアイの涙液それぞれにおける希薄なシンデカン-1の脱グリカン化および25kDa形態の検出を示す。左側のペアの検体(レーザー屈折矯正角膜切除術(PRK)またはレーザー角膜内切削切除形成術(LASIK)前)の約90kDa脱グリカン化SDC1は、正常な涙液において豊富であり、ドライアイの涙液においてはわずかに検出可能である。PRKまたはLASIK手術1日後(D1)、約90kDa脱グリカン化SDC1は、ドライアイの涙液においてより少ない。また25kDa SDC1断片は、ドライアイの涙液において明らかである。手術は、角膜知覚神経を切断することによりドライアイを促進する。PRKまたはLASIK手術1週間後(W1)、約90脱グリカン化SDC1レベルは、手術を受けた正常な涙液において回復し、ドライアイの涙液における25kDaレベルは上昇したまま維持する(1ヵ月(M1)においてより少ない)。
図2図2Aおよび2Bは、ドライアイの涙液における不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントの上昇したレベルの検出を示す。図2Aは、mab 4F6を用いたラクリチン-Cの検出を示すウェスタンブロットである。ラクリチン-Cスプライスバリアントは、ドライアイにおいて常に上昇している。図2Bは、二次抗体を単独で用いたウェスタンブロットであり、陰性コントロールとして働く。二次抗体のみを用いるとバンドは検出されない。
図3図3Aおよび3Bは、正常な涙液対ドライアイの涙液におけるより潜在的ヘパラナーゼ、およびドライアイの涙液におけるより活性なヘパラナーゼの検出を示す。図3Aは、#1453抗体を用いたヘパラナーゼを示すウェスタンブロットである。潜在型ヘパラナーゼを約75kDaバンドにより示し;活性型ヘパラナーゼを約50kDaバンドにより示す。図3Bは、#753抗体を用いたヘパラナーゼを示すウェスタンブロットである。
図4図4A~4Cは、ラクリチンおよびラクリチンのC末端25アミノ酸断片(LACRIPEP)の角膜の健常な回復活性を示す。ストレスを誘導するために培養したヒト角膜上皮細胞を炎症性サイトカインで処理し、細胞を10 nMの不活性型ラクリチントランケーション変異体(C-25)、ラクリチンまたはLACRIPEPで処理した。FOXO3アッセイにおける細胞質染色の測定(核FOXO3染色は細胞死を示す)は、LACRIPEPが、陰性コントロール(C-25)と比較して細胞生存の増強においてラクリチン(図4A参照)と同等に活性であることを示す。ドライアイ(Aire-/-)マウスの研究はまたLACRIPEPを局所投与されたものの生物活性を示す。PBSを局所投与されたもの(白丸)と比較してAire(-/-)ドライアイマウス(図4B;黒丸)においてドライアイ疾患が生じるので、LACRIPEPは流涙の損失を防ぎ、PBS(白丸)と比較してドライアイ疾患を生じる(図4C;黒丸)ので、LACRIPEPを投与されたAire(-/-)ドライアイマウスは、より少なく角膜染色され、ここで該染色は細胞死を示す。
図5図5は、ラクリチンおよびラクリチン合成ペプチドの比較による生存促進活性を示す。ラクリチンC末端トランケーション変異体C-25(陰性コントロール;不活性型)、ラクリチン(lacrt)、ラクリチンC末端ペプチドN-94(配列番号7)またはN-94/C-6(配列番号5)、または組織トランスグルタミナーゼ重合化ラクリチン(不活性型)で処理したヒトHCE-T細胞にストレスを与えたインターフェロン-γおよび腫瘍壊死因子における免疫染色するFOXO3の定量。各投与したペプチドの用量は10 nMである。より多くの核染色は、ストレス/死を示す。より多くの細胞質染色(矢印)は生存を示す。203~379細胞が各処理についてカウントされた。Bonferroniポストテストでの二元配置分散分析、P = 0.01による重合化lacrt除くすべて対C-25の比較。
図6図6Aおよび6Bは、LACRIPEPがヒト涙液中で驚くべき安定性を示すことを示す。図6Aは、37℃で2~16時間ラクリチン枯渇ヒト涙液中にてインキュベーション後の、種々のタンパク質からのプロテアーゼ感受性陽性コントロール「SN pep」およびLACRIPEP(「N-94」;配列番号7)の免疫ブロットを示す。図6Bは質量分析示し、ここで、上段は、涙液の添加および37℃インキュベーション工程前の、SN pep、LACRIPEP(「N-94」)、および6つC末端アミノ酸を有しないLACRIPEP(「N-94/C-6」)のMSプロファイルを示し、下段は、37℃で4時間ラクリチン枯渇涙液中にてインキュベーション後のMSプロファイルを提供する。
図7図7Aおよび7Bは、LACRIPEPの二相性用量反応を示す。局所LACRIPEPの二相性用量反応は、ウサギ基礎的流涙試験(図7A)、および不活性型ラクリチン断片コントロール(C-25D)と比較したラット角膜知覚神経刺激(pLAC;図7B)における試験を示した。
図8図8は、ラットの目上の局所125I-Lacripep-Yの単回4μM用量の分布を示す。わずかな量の125I-Lacripep-Yが血液および血漿中において検出可能である。かなりの量が涙液中に保持される。
図9図9は、ヒト(配列番号7);チンパンジー(配列番号17);ブッシュベビー(配列番号18);ゴリラ(配列番号19);マカク(配列番号20);マーモセット(配列番号21);ネズミキツネザル(配列番号22)およびオラウータン(配列番号23)を含む、霊長類種からのラクリチン同族体の25アミノ酸C末端断片のアライメントを示し、霊長類種間で高い配列保存を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
略称および頭字語
FACSは蛍光活性化セルソーターを意味する。
HCEはヒト角膜上皮を意味する。
HPSEはヘパラナーゼを意味する。
HSはヘパリン硫酸を意味する。
HSGはヒト唾液腺を意味する。
INFGはインターフェロンγを意味する(IFNGとも示す)。
IRBは治験審査委員会を意味する。
SDC1はシンデカン-1を意味する。
TGMはトランスグルタミナーゼを意味する。
TNFは腫瘍壊死因子を意味する。
【0026】
(定義)
本発明の説明および特許請求の範囲において、以下の用語が下記の定義に従って使用される。
【0027】
本明細書で用いる用語「ラクリチンポリペプチド」などの用語は、配列番号1のアミノ酸配列および/またはその生物学的活性断片、同族体もしくは誘導体を含む任意のペプチドとして定義される。本明細書で用いる用語ラクリチンポリペプチドの「生物学的活性断片」または「生物活性断片」は、アミノ酸配列MKFTTLLFLAAVAGALVYAEDASSDSTGADPAQEAGTSKPNEEISGPAEPASPPETTTTAQETSAAAVQGTAKVTSSRQELNPLKSIVEKSILLTEQALAKAGKGMHGGVPGGKQFIENGSEFAQKLLKKFSLLKPWA(配列番号1)の天然または合成部分を包含する。ラクリチン(配列番号1)の断片は、例えば:KQFIENGSEFAQKLLKKFS(配列番号5)(「N-94/C-6」)(Wang et al., (2006) J. Cell Biol. 174, 689-700)、およびKQFIENGSEFAQKLLKKFSLLKPWA(配列番号7)(「N-94」)(Zhang et al., (2013) J. Biol. Chem. 288, 12090-12101参照)を含む。
【0028】
本明細書で用いる用語「約(about)」は、大体(approximately)、辺り(in the 領域 of)、およそ(roughly)または付近(around)を意味する。用語「約」を数値または範囲とあわせて用いるとき、述べられる数値の上下の境界を広げることによりその範囲を変更する。例えば、一態様において、20%の分散により示される値の上下の数値を変更するために用語「約」を用いるが、このより広い定義に任意の値または値の範囲を指定することを意図しない。用語「約」が前に付く各値または値の範囲はまた、述べられる絶対的な値または値の範囲の実施態様を包含することを意図する。
【0029】
本明細書で用いる「アシル化」アミノ酸は、それが産生される方法にかかわらず、天然アミノ酸に対して非天然であるアシル基を含むアミノ酸である。アシル化アミノ酸およびアシル化ペプチドを産生する典型的な方法は当該技術分野において公知であり、ペプチド中への包含前にアミノ酸をアシル化することまたはペプチド合成後のペプチドの化学的アシル化を含む。いくつかの実施態様において、アシル基は、(i)血液循環における半減期の延長、(ii)作用発現の遅延、(iii)作用の長期持続、および(iv)プロテアーゼに対する抵抗の向上のうちの1以上をペプチドに有させる。
【0030】
本明細書で用いる「アルキル化」アミノ酸は、それが産生される方法にかかわらず、天然アミノ酸に対して非天然であるアルキル基を含むアミノ酸である。アルキル化アミノ酸およびアルキル化ペプチドを産生する典型的な方法は当該技術分野において公知であり、ペプチド中への包含前にアミノ酸をアルキル化することまたはペプチド合成後のペプチドの化学的アルキル化を含む。任意の特定の理論に縛られるものではないが、ペプチドのアルキル化は、同じでなくとも、ペプチドのアシル化と同様の効果、例えば、血液循環における半減期の延長、作用の発現の遅延、作用の長期持続、およびプロテアーゼに対する抵抗の向上を達成するだろうと考えられる。
【0031】
本明細書で用いる用語「医薬的に許容される担体」は、標準的な医薬担体のいずれか、例えばリン酸緩衝生理食塩溶液、水、エマルジョン、例えば油/水または水/油型エマルジョン、および様々なタイプの湿潤剤を含む。用語はまた、ヒトを含む動物において用いるための米国連邦政府の規制当局により承認されるかまたはUS薬局方に収載される任意の物質を包含する。
【0032】
本明細書で用いる用語「医薬的に許容される塩」は、親化合物の生物学的活性を維持し、生物学的にまたはその他に望ましくないものでない化合物の塩を意味する。本明細書に記載の化合物の多くは、アミノおよび/またはカルボキシル基またはその類似基の存在のおかけで酸および/または塩基性塩を形成できる。
【0033】
本明細書で用いる用語「親水性部分」は、容易に水に可溶であるかまたは容易に水を吸収し、そして毒性作用なく哺乳類種によるインビボで耐えられる(すなわち生体適合性である)任意の化合物を意味する。親水性部分の例としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳-ポリグリコール酸共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ならびにセルロース誘導体、例えばヒドロキシメチルセルロースまたはヒドロキシエチルセルロースおよびその共重合体、ならびに例えば、アルブミン、ヘパリンおよびデキストランを含む天然ポリマーが挙げられる。
【0034】
実験、診断または処置の「対象体」は、ヒトを含む動物である。
【0035】
本明細書で用いる用語「ドライアイ」は、眼を保湿し、眼に栄養分を与えるための十分な涙液がない任意の状態を包含する。ドライアイを有する対象体は、十分な涙を生成しないか、または涙の低品質を有する。本明細書で用いるドライアイとしては、涙液減少型および蒸発亢進型ドライアイが挙げられるが、これらに限定されない。涙液減少型ドライアイとしては、シェーグレン症候群ドライアイ(一次性および二次性を含む)、非シェーグレンのドライアイ(涙の欠乏、涙腺導管閉塞、反射遮断、および全身性の薬物からを含む)が挙げられるが、これらに限定されない。蒸発亢進型ドライアイとしては、内因性(マイボーム油欠乏、眼瞼裂の障害、低いまばたき率、およびアキュテインの薬物作用により生じるものを含む)および外因性(ビタミンA欠乏、局所薬物の防腐剤、コンタクトレンズ着用、および眼表面疾患(例えばアレルギー)を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
本明細書で用いる用語「処置する」は、特定の障害もしくは病態の予防、特定の障害もしくは病態に関連する症状の緩和および/または前記症状を予防もしくは排除することを含む。例えば、本明細書で用いる用語「ドライアイを処置する」は、一般的に正常レベル近くに基礎的な涙レベルを維持することを意味し、所与の状況に依存して涙レベルを増加させることを含み得る。
【0037】
本明細書で用いる医薬品の「有効な」量または「治療上有効量」は、無毒性であるが、所望の効果を提供する薬剤の十分な量を意味する。例えば1つの所望の効果は、ドライアイの防止または処置であろう。「有効」である量は、年齢、個体の全身状態、投与様式などに依存して対象体ごとに変化するだろう。したがって、正確な「有効量」を特定することは必ずしも可能だとは限らない。しかしながら、任意の個体の場合における適切な「有効な」量は、日常の試験を用いて当業者により決められ得る。
【0038】
本発明に関連して用いられる用語「更なる治療上活性な化合物」または「更なる治療剤」は、処置される特定の傷害、疾患または障害のための更なる治療上の使用のための化合物の使用または投与を意味する。例えばこのような化合物は、無関係な疾患もしくは障害、または処置される傷害、疾患もしくは障害のための最初の措置に反応し得ない疾患もしくは障害を含み得るだろう。
【0039】
本明細書で用いる用語「同一性」は、2以上の配列間の類似性を意味する。同一性は、同一の残基数を残基の総数で割り、結果に100を架けて、パーセンテージを達成することにより測定される。したがって、全く同じ配列の2つのコピーは、100%の同一性を有し、一方、互いに比較してアミノ酸/核酸酸欠損、付加または置換を有する2つの配列は、より低い程度の同一性を有する。当業者は、いくつかのコンピュータープログラム、例えばBLAST(Basic Local Alignment Search Tool, Altschul et al. (1993) J. Mol. Biol. 215:403-410)などのアルゴリズムを使用するものが配列同一性の決定に利用可能であることを認識するだろう。
【0040】
本明細書で用いるアミノ酸「修飾」は、アミノ酸の置換、またはアミノ酸へ/からの化学基の付加および/または除去によるアミノ酸の誘導を意味し、ヒトタンパク質において一般に見られる20アミノ酸、および異型または非天然アミノ酸のいずれかでの置換を含む。異型アミノ酸の商業供給権としては、Sigma-Aldrich(Milwaukee, WI)、ChemPep Inc. (Miami, FL)およびGenzyme Pharmaceuticals(Cambridge, MA)が挙げられる。異型アミノ酸を、商業供給業者から購入し得るか、あらたに合成し得るか、または化学的に天然アミノ酸から修飾または由来させ得る。
【0041】
本明細書で用いるアミノ酸「置換」は、異なるアミノ酸残基による1つのアミノ酸残基の置き換えを意味する。
【0042】
本明細書で用いる用語「保存的アミノ酸置換」は、本明細書においては次の5つのグループの1つ内での交換として定義される。
I. 小さい脂肪族非極性または弱極性残基:
Ala、Ser、Thr、Pro、Gly;
II. 極性負電荷残基およびそのアミド:
Asp、Asn、Glu、Gln、システイン酸およびホモシステイン酸;
III. 極性正電荷残基:
His、Arg、Lys;オルニチン(Orn)
IV. 大きい脂肪族非極性残基:
Met、Leu、Ile、Val、Cys、Norロイシン(Nle)、ホモシステイン
V. 大きい芳香族残基:
Phe、Tyr、Trp、アセチルフェニルアラニン
【0043】
本明細書で用いる用語「単離された」は、その自然環境から取り除かれたことを意味する。いくつかの実施態様において、ペプチドは組み換え法により作られ、当該ペプチドは宿主細胞から単離される。
【0044】
本明細書で定義される用語「精製された」は、天然または自然環境において通常分子または化合物に関連する夾雑物を本質的に含まない形態で分子または化合物の単離を意味し、本来の組成物の他の成分から分離されたことの結果として純度が増加したことを意味する。用語「精製されたポリペプチド」は、本明細書において、制限されないが核酸分子、脂質および炭水化物を含む他の化合物から分離されたポリペプチドを説明するために用いられる。
【0045】
「ペプチドミメティック」は、既存のペプチドの一般的な構造と異なるが、例えばそのペプチドの生物学活性を模倣することにより、既存のペプチドと同様に機能する構造を有する化学化合物を意味する。ペプチドミメティックは、典型的に天然アミノ酸および/または非天然アミノ酸を含むが、ペプチド骨格への修飾もまた含み得る。例えばペプチドミメティックとしては、非ペプチド部分、例えばレトロ-インベルソ断片の挿入もしくは置換、または非ペプチド結合、例えばアザペプチド結合(NHによって置換されたCO)、もしくはシュードペプチド結合(例えばCH2で置換されたNH)、もしくはエステル結合(例えば、アミド(-CONHR-)結合のうちの1以上がエステル(COOR)結合によって置き換えられる、デプシペプチド)の組込みを有する天然アミノ酸配列が挙げられ得る。またはペプチドミメティックは、全く天然アミノ酸を欠き得る。
【0046】
本明細書で用いる用語化合物「の投与」および/または化合物「を投与する」は、処置を必要とする対象体に本発明の化合物を提供することを意味すると解すべきである。
【0047】
本明細書で用いるアミノ酸は、以下の表に示されるように、その正式名称、それに対応する3文字コード、またはそれに対応する1文字コードによって表される。
【表1】



【0048】
本明細書で用いる用語「アミノ酸」は、アミノおよびカルボキシル両方の官能基を含む任意の分子を包含し、ここでアミノおよびカルボキシレート基は同じ炭素(α炭素)に結合される。α炭素は、適宜1または2つの更なる有機置換基を有し得る。本開示のために立体化学の特定のないアミノ酸の指定は、アミノ酸のLもしくはD体のいずれか、またはラセミ混合物を包含することが意図される。しかしながら、アミノ酸がその3文字コードにより指定され、上付き数字を含む場合、アミノ酸のD体は、3文字コードの前に小文字dを上付き数字を含むこと(例えば、dLys1)により特定され、ここで小文字d(例えば、Lys1)を欠く指定は、アミノ酸の本来のL体を明示することを意図する。この命名法において、上付き数字を含むことは、N-末端から連続して番号付けられるペプチド配列におけるアミノ酸の位置を指定する。本明細書で用いる表現「アミノ酸」は、天然および合成のアミノ酸の両方、ならびにDおよびL体アミノ酸の両方を含むことを意味する。「標準的アミノ酸」は、天然のるペプチドにおいて一般的に見られる20のL-アミノ酸のいずれかを意味する。
【0049】
本明細書で用いる用語「非コードのアミノ酸」は、それが合成的に調製されるかまたは天然の供給源から誘導されるかにかかわらず、次の20のアミノ酸:Ala、Cys、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、TyrのいずれかのL-異性体でない任意のアミノ酸を包含する。
【0050】
本明細書で用いるペプチドの一般的言及は、制限されないが塩を含む、修飾されたアミノおよびカルボキシ末端を有するペプチドを包含することを意図する。例えば、標準的アミノ酸を指定するアミノ酸配列は、N-およびC-末端における標準的アミノ酸、ならびにN-末端における対応するヒドロキシル酸および/または対応する修飾されたC末端アミノ酸を包含して、末端カルボン酸の位置でアミド基を含むことが意図される。本発明のペプチド内に含まれる、特に、カルボキシまたはアミノ末端のアミノ酸は、それらの活性に有害な影響を及ぼすことなく、ペプチドの循環半減期を変更し得るメチル化、アミド化、アセチル化または他の化学基との置換によって、修飾され得る。さらに、ジスルフィド結合は、本発明のペプチド中に存在してもよく、または存在しなくてもよい。
【0051】
用語「アミノ酸」は「アミノ酸残基」と区別しないで用いられ、遊離アミノ酸およびペプチドのアミノ酸残基を意味し得る。それが遊離アミノ酸を意味しようとまたはペプチドの残基を意味しようといずれにせよ、どの用語が使用されるかについては文脈から理解されよう。
【0052】
アミノ酸は、側鎖Rに基づいて次の7つのグループに分類され得る:(1)脂肪族側鎖、(2)水酸(OH)基を含む側鎖、(3)硫黄原子を含む側鎖、(4)酸性またはアミド基を含有する側鎖、(5)塩基性基を含有する側鎖、(6)芳香環を含有する側鎖、および(7)プロリン(側鎖がアミノ基に融合したイミノ酸)。
【0053】
本発明のペプチド化合物を説明するために使用される命名法は、従来法に従い、ここで、アミノ基は左側に提示され、カルボキシ基は各アミノ酸残基の右側に提示される。本発明の選択された特定の実施態様を表す式において、アミノおよびカルボキシ末端基は、特に示さないが、他に明記されない限り、それらが生理学的pH値で呈する形態にあることが理解されよう。
【0054】
明細書で用いる用語「塩基性」または「正に荷電した」アミノ酸は、R基がpH 7.0で正味の正の電荷を有するアミノ酸を意味し、限定されないが、標準的アミノ酸であるリシン、アルギニン、およびヒスチジンを含む。
【0055】
本明細書において使用する用語「抗体」は、抗原上の特異的エピトープに特異的に結合
することが可能である免疫グロブリン分子を意味する。抗体は、天然の供給源または組換え供給源から誘導される無傷(intact)な免疫グロブリンであり得て、無傷な免疫グロブリンの免疫反応性の部分であり得る。抗体は、典型的に、免疫グロブリン分子の四量体である。本発明における抗体は、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fv、FabおよびF(ab)2、ならびに一本鎖抗体およびヒト化抗体を含む様々な形態で存在し得る。
【0056】
本明細書で用いる「抗微生物剤」は、任意の微生物の増殖を妨害するか、またはそのような微生物を死滅させる任意の化合物を意味する。
【0057】
本明細書で用いる「殺菌剤」は、任意の細菌の増殖を妨害するか、またはそのような細菌を死滅させる任意の化合物を意味する。
【0058】
本明細書で用いる用語ポリペプチドの「生物学的活性断片」または「生物活性断片」は、それらの天然リガンドと特異的に結合できるか、またはタンパク質の機能を行うことができる完全長タンパク質の天然または合成部分を包含する。
【0059】
本明細書で用いる用語「相補的」または「相補性」は、塩基対形成の規則に従って関係付けられるポリヌクレオチド(すなわちヌクレオチドの配列)に関して使用される。例えば、配列「AGT」は配列「TCA」に相補的である。
【0060】
単語「検出する」およびその文法的変化形の使用は、定量を伴わない種の測定を意味し、一方、単語「決定する(determine)」または「測定する(measure)」の使用は、それらの文法的変化形と共に、定量を伴う種の測定を意味する。用語「検出する」および「特定する」は、本明細書において区別しないで用いられる。
【0061】
本明細書において使用される「検出可能なマーカー」または「レポーター分子」は、マーカーを伴わない類似の化合物の存在下でマーカーを含む化合物の特異的検出を可能にする原子または分子である。検出可能なマーカーまたはレポーター分子としては、例えば、放射性同位元素、抗原決定基、酵素、ハイブリダイゼーションに利用可能な核酸、クロモフォア、フルオロフォア、化学発光分子、電気化学的に検出可能な分子、および改変された蛍光偏光または改変された光散乱を提供する分子が挙げられる。
【0062】
本明細書で用いる語句「生存を増強する」は、細胞集団における死の量、または死の割合を減少すること意味する。生存を増強することは、細胞死単独(例えば、アポトーシスに関連する細胞死)を予防すること、または細胞死の割合を減少することにより得る。細胞死の減少はまた、いくらかの細胞増殖を誘導するような間接的効果から生じ得て、そのような間接的効果は、細胞が死ぬ時に、細胞の集団の少なくともいくらかまたはすべてを効果的に補充する。細胞の生存を増強することはまた、増殖を誘導することおよび細胞死、または細胞死の割合を減少することの組み合わせによって、達成し得る。「生存を促進する」および「生存性を増強する」は、本明細書において「生存を増強供する」と区別しないで用いられる。
【0063】
「断片」または「セグメント」は、少なくとも1つのアミノ酸を含むアミノ酸配列の一部、または少なくとも1つのヌクレオチドを含む核酸配列の一部ある。用語「断片」および「セグメント」は、本明細書において区別しないで用いられる。処置における使用のための組成物の部分としてまたはラクリチン効果を誘発するために本明細書において使用されるラクリチンペプチドの断片は、誘発させようとする応答に対して生物学的活性断片であると推定される。
【0064】
本明細書で用いる「機能的な」生物学的分子は、それが特徴付けられる特性または活性を示す形態の生物学的分子である。例えば、機能的酵素は、酵素が特徴付けられる特徴的な触媒活性を示す酵素である。
【0065】
本明細書で用いる「遺伝子」は、核酸コーディング配列、およびDNA配列がメッセンジャーRNA(mRNA)に転写され、その後、特定のポリペプチドに特有なアミノ酸の配列に翻訳されるのに必要な調節要素を意味する。
【0066】
本明細書において使用する用語「傷害」は、細胞または細胞の集団における正常な細胞の代謝の変更を生じる物質または環境変化との接触を意味する。環境傷害として、化学物質、環境汚染、重金属、ウイルスまたは細菌感染、温度の変化、pHの変化、および酸
損傷、DNA損傷、または病原を生じる因子を挙げられ得るが、これらに限定されない。用語「傷害」は、本明細書では、「環境傷害」と区別しないで用いられる。
【0067】
本明細書で用いる用語「シンデカン-1」は、配列番号2のアミノ酸配列ならびにその生物学的活性断片、誘導体および同族体を含むペプチドを意味する。本明細書で用いる用語シンデカン-1ポリペプチドの「生物学的活性断片」または「生物活性断片」は、アミノ酸配列MRRAALWLWLCALALSLQPALPQIVATNLPPEDQDGSGDDSDNFSGSGAGALQDITLSQQTPSTWKDTQLLTAIPTSPEPTGLEATAASTSTLPAGEGPKEGEAVVLPEVEPGLTAREQEATPRPRETTQLPTTHQASTTTATTAQEPATSHPHRDMQPGHHETSTPAGPSQADLHTPHTEDGGPSATERAAEDGASSQLPAAEGSGEQDFTFETSGENTAVVAVEPDRRNQSPVDQGATGASQGLLDRKEVLGGVIAGGLVGLIFAVCLVGFMLYRMKKKDEGSYSLEEPKQANGGAYQKPTKQEEFYA(配列番号2)の天然または合成部分を包含する。配列番号2の下線部分は、配列:
QIVATNLPPEDQDGSGDDSDNFSGSGAGALQDITLSQQTPSTWKDTQLLTAIPTSPEPTGLEATAASTSTLPAGEGPKEGEAVVLPEVEPGLTAREQEATPRPRETTQLPTTHQASTTTATTAQEPATSHPHRDMQPGHHETSTPAGPSQADLHTPHTEDGGPSATERAAEDGASSQLPAAEGSGEQDFTFETSGENTAVVAVEPDRRNQSPVDQGATGASQGLLDRKE(配列番号3)を有する、「シンデカン-1の流されて脱グリカン化された90kDa形態」(または90kDa脱グリカン化SDC-1)を表す。
【0068】
本明細書で用いる用語「SDC-1外部ドメインの25kDa断片」(または25kDa SDC-1)は、90kDa脱グリカン化SDC-1のLPEV配列を含むSDC-1の25kDa断片を意味する。
【0069】
本明細書で用いる用語「ヘパラナーゼ」は、配列番号4のアミノ酸配列ならびにその生物学的活性断片、誘導体および同族体を含むペプチドを意味する。本明細書で用いる用語ヘパラナーゼポリペプチドの「生物学的活性断片」または「生物活性断片」は、アミノ酸配列MLLRSKPALPPPLMLLLLGPLGPLSPGALPRPAQAQDVVDLDFFTQEPLHLVSPSFLSVTIDANLATDPRFLILLGSPKLRTLARGLSPAYLRFGGTKTDFLIFDPKKESTFEERSYWQSQVNQDICKYGSIPPDVEEKLRLEWPYQEQLLLREHYQKKFKNSTYSRSSVDVLYTFANCSGLDLIFGLNALLRTADLQWNSSNAQLLLDYCSSKGYNISWELGNEPNSFLKKADIFINGSQLGEDFIQLHKLLRKSTFKNAKLYGPDVGQPRRKTAKMLKSFLKAGGEVIDSVTWHHYYLNGRTATKEDFLNPDVLDIFISSVQKVFQVVESTRPGKKVWLGETSSAYGGGAPLLSDTFAAGFMWLDKLGLSARMGIEVVMRQVFFGAGNYHLVDENFDPLPDYWLSLLFKKLVGTKVLMASVQGSKRRKLRVYLHCTNTDNPRYKEGDLTLYAINLHNVTKYLRLPYPFSNKQVDKYLLRPLGPHGLLSKSVQLNGLTLKMVDDQTLPPLMEKPLRPGSSLGLPAFSYSFFVIRNAKVAACI(配列番号4)の天然または合成部分を包含する。
【0070】
本明細書で用いる「リガンド」は、標的化合物に特異的に結合する化合物である。リガンドが異種の化合物の検体において化合物の存在を決定する結合反応において機能する場合、リガンド(例えば、抗体)は、化合物と「特異的に結合する」または「特異的な免疫反応性である」。したがって、指定されたアッセイ(例えば、イムノアッセイ)条件下では、リガンドは、好ましくは、特定の化合物に結合し、サンプル中に存在する他の化合物には有意な程度では結合しない。例えば、抗体は、イムノアッセイ条件下で、抗体が惹起されたエピトープを有する抗原に特異的に結合する。様々なイムノアッセイ形式は、特定の抗原に特異的に免疫反応する抗体を選択するために使用してもよい。例えば、固相ELISA免疫アッセイは、抗原に特異的に免疫反応するモノクローナル抗体を選択するために日常的に使用される。特異的免疫反応性を決定するために使用することができるイムノアッセイ形式および条件の説明については、Harlow and Lane, 1988, 抗bodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Publications, New York参照。
【0071】
本明細書で用いる用語「連結」は、2つの基間の接続を意味する。接続は、共有結合か、またはイオン結合、水素結合、および疎水性/親水性相互作用を含むがこれらに限定されない非共有結合のいずれかであり得る。
【0072】
本明細書で用いる用語「リンカー」は、共有結合的または非共有結合的のいずれかで、例えば、イオンもしくは水素結合またはファンデルワールス相互作用を介して、他の2つの分子を連結する分子を意味する。
【0073】
本明細書で用いる「眼表面」は、眼の表面、特に、角膜表面を意味する。
【0074】
本明細書で用いる語句「眼表面に関する疾患、傷害または病態」は、眼表面の疾患、障害、または病態について本明細書に記載の問題または症状のいずれかを直接的または間接的に引き起こすか、または引き起こすことができる任意の疾患、障害または病態を意味する。
【0075】
「作動可能に連結される」は、成分がそれらの機能を実施するように構成される並置を意味する。したがって、コーディング配列に作動可能に連結された制御配列またはプロモーターは、コーディング配列の発現を生じることが可能である。
【0076】
「マーカー」は、そのようなマーカーを伴わない類似の分子の存在下で該マーカーを含む分子の特異的検出を可能にする原子または分子である。マーカーとしては、例えば、放射性同位元素、抗原決定基、ハイブリダイゼーションに利用可能な核酸、クロモフォア、フルオロフォア、化学発光分子、電気化学的に検出可能な分子、改変された蛍光偏光または改変された光散乱を提供する分子および細胞または生物体の増強された生存を可能にする分子(すなわち、選択マーカー)が挙げられる。レポーター遺伝子は、マーカーをコードする遺伝子である。
【0077】
本明細書で用いる用語「発現レベルを測定すること」または「発現レベルを決定すること」は、アッセイの結果を目的の遺伝子またはタンパク質の発現レベルと相関させるために使用し得る任意の測定またはアッセイを意味する。このようなアッセイは、mRNAのレベル、タンパク質レベルなどの測定を含み、ノーザンブロット分析、ウェスタンブロット分析、結合アッセイ、免疫ブロットなどのアッセイにより行い得る。発現レベルは発現率を含み得て、存在するmRNAまたはタンパク質の実際の量によって測定され得る。このようなアッセイは、情報を保存および処理する、レべル、シグナルなどを定量するのを助ける、ならびにレベルを比較する際に用いるための情報をデジタル化するために、プロセスまたはシステムと結び付けられる。
【0078】
「ポリリンカー」は、相互に緊密に配設された(すなわち、各部位間は10ヌクレオチド未満)一連の3以上の異なる制限エンドヌクレアーゼ認識配列を含む核酸配列である。
【0079】
本明細書で用いる用語「プロモーター/調節配列」は、プロモーター/調節配列に作動可能に連結された遺伝子産物の発現に必要である核酸配列を意味する。いくつかの例において、この配列は、コアプロモーター配列であり得て、他の例において、この配列はまた、エンハンサー配列および遺伝子産物の発現に必要である他の調節要素を含み得る。プロモーター/調節配列は、例えば、組織特異的様式で遺伝子産物を発現する配列であり得る。
【0080】
「構成性プロモーター」は、それが、細胞において一定の様式で作動可能に連結される遺伝子の発現を駆動するプロモーターである。例えば、細胞のハウスキーピング遺伝子の発現を駆動するプロモーターは、構成性プロモーターと考えられる。
【0081】
「誘導性」プロモーターは、遺伝子産物をコードまたは特定するポリヌクレオチドに作動可能に連結される場合、実質的にプロモーターに対応する誘導物質が細胞に存在する場合にのみ、生細胞において遺伝子産物を産生させるヌクレオチド配列である。
【0082】
「組織特異的」プロモーターは、遺伝子産物をコードまたは特定するポリヌクレオチドに作動可能に連結される場合、実質的に細胞が、プロモーターに対応する組織タイプの細胞である場合にのみ、生細胞において遺伝子産物を産生させるヌクレオチド配列である。
【0083】
本明細書で用いる「核酸」、「DNA」および類似の用語もまた、核酸アナログ、すなわち、ホスホジエステル骨格以外を有するアナログを含む。例えば、当該技術分野において公知であり、骨格においてホスホジエステル結合の代わりにペプチド結合を有するいわゆる「ペプチド核酸」も本発明の範囲内にあると考えられる。
【0084】
他に明記されない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、相互の縮重バージョンであり、同じアミノ酸配列をコードするすべてのヌクレオチド配列を含む。タンパク質およびRNAをコードするヌクレオチド配列は、イントロンを含み得る。
【0085】
用語「ペプチド」は、3以上のアミノ酸の配列を包含し、ここで該アミノ酸は、天然に存在するかまたは合成の(天然に存在しない)アミノ酸である。ペプチドミメティックは、1以上の次の修飾物を有するペプチドを含む:
1. 1以上のペプチジル--C(O)NR--連結(結合)が--CH2-カルバメート連結(--CH2OC(O)NR--)、ホスホン酸連結、-CH2-スルホンアミド(-CH2--S(O)2NR--)連結、尿素(--NHC(O)NH--)連結、--CH2-第二級アミン連結などの非ペプチジル連結、またはアルキル化ペプチジル連結(--C(O)NR--)[式中、RはC1-C4アルキル]によって置き換えられているペプチド;
2. N末端が、--NRR1基、--NRC(O)R基、--NRC(O)OR基、--NRS(O)2R基、--NHC(O)NHR基[式中、RおよびR1は水素またはC1-C4アルキルであるが、ただし、RおよびR1の両方が同時に水素でない]に誘導体化されるペプチド;
3. C末端が、--C(O)R2[式中、R2は、C1~C4アルコキシからなる群より選択される]、および--NR3R4[式中、R3およびR4は、水素およびC1~C4アルキルからなる群より独立して選択される]に誘導体化されるペプチド。
【0086】
合成または天然に存在しないアミノ酸は、インビボで天然には存在しないが、それにもかかわらず、本明細書に記載のペプチド構造に組込まれ得るアミノ酸を指す。得られる「合成ペプチド」は、ペプチドの1、2またはそれ以上の位置で、天然に存在し、遺伝子によりコードされる20種のアミノ酸以外のアミノ酸を含有する。例えば、ナフチルアラニンを、トリプトファンに対して置換し、合成を容易にし得る。ペプチドに置換され得る他の合成アミノ酸としては、L-ヒドロキシプロピル、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニル、α-アミノ酸、たとえばL-α-ヒドロキシリシルおよびD-α-メチルアラニル、L-α-メチルアラニル、β-アミノ酸ならびにイソキノリルが挙げられる。D型アミノ酸および天然に存在しない合成アミノ酸もまた、ペプチドに組込み得る。他の誘導体は、遺伝子によりコードされる20種のアミノ酸(または任意のLもしくはD型アミノ酸)の天然に存在する側鎖の他の側鎖による置き換えを含む。
【0087】
用語「融合ポリペプチド」または「融合タンパク質」は、1以上の異種配列(例えば、非ラクリチンポリペプチド、例えばシンデカン)へN-および/またはC-末端において連結された基準タンパク質(例えば、ラクリチン)を含むキメラタンパク質を意味する。ペプチド連結が、第1のアミノ酸残基の骨格アミノ基および第2のアミノ酸残基のカルボキシル基間で生じるため、ポリペプチド分子は、「アミノ末端」(N末端)および「カルボキシ末端」(C末端)を有すると言える。ポリペプチド配列に関する用語「N末端」および「C末端」は、それぞれポリペプチドのN末端およびC末端領域の部分を含むポペプチドの領域を意味する。ポリペプチドのN末端領域の部分を含む配列は、主にポリペプチド鎖のN末端側の半分からのアミノ酸を含むが、該配列に限定されない。例えば、N末端配列は、ポリペプチドのN末端およびC末端側の半分両方からの塩基を含むポリペプチド配列を含み得る。同じことはC末端領域に当てはまる。N末端およびC末端領域は、必ずではないが、それぞれポリペプチドの最後のN末端およびC末端を定義するアミノ酸を含み得る。
【0088】
本発明の融合タンパク質は、組換え法または固相化学ペプチド合成法により製造され得る。該方法は、1960年代初期から当該技術分野において公知であり(Merrifield, 1963)(Stewart et al., Solid Phase Peptide Synthesis, 2 ed., Pierce Chemical Co., Rockford, Ill., pp. 11-12もまた参照)、最近市販の実験用ペプチドデザインおよび合成キット(Cambridge Research Biochemicals)において用いられている。さらに、多くの利用可能なFMOCペプチド合成システムが利用可能である。例えば、ポリペプチドまたは断片のアッセンブリーは、Applied Biosystems, Inc. Model 431A自動化ペプチドシンセサイザーを用いて固体支持体上で実施され得る。該装置は、直接合成、または他の公知の技術を用いてつなげ得る一連の断片の合成いずれかにより本発明のペプチドへの即座のアクセスを提供する。
【0089】
本発明はまた、ラクリチン生物活性断片またはラクリチン/シンデカン-1融合タンパク質、ならびにラクリチン断片またはラクリチン/シンデカン-1融合タンパク質をコードする核酸分子、および宿主細胞において本発明の核酸分子を発現できるベクターを含む発現カセットを発現する安定な細胞株を含む。好ましくは発現カセットは、核酸配列に作動可能に連結されるプロモーター、例えば構成性または制御可能なプロモーターを含む。一実施態様において、発現カセットは誘導可能なプロモーターを含む。また、本発明の発現カセットまたはベクターを含む、宿主細胞、例えば原核細胞または真核細胞、例えば植物または脊椎動物細胞、例えば哺乳動物細胞(制限されないがヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジまたはげっ歯類(例えばウサギ、ラット、フェレットまたはマウス)細胞が挙げられる)、ならびに核酸分子、発現カセット、ベクター、宿主細胞またはラクリチン/シンデカン-1融合タンパク質を含むキットを提供する。
【0090】
「ベクター」はまた、単離核酸を含む、単離核酸を細胞の内部に送達するために使用され得る合成物を含む意味である。線状ポリヌクレオチド、イオン性または両親媒性の化合物、プラスミド、およびウイルスに関連するポリヌクレオチドを含むがこれらに限定されない多数のベクターが当該技術分野において公知である。したがって、用語「ベクター」は、自律複製するプラスミドまたはウイルスを含む。用語はまた、例えば、ポリリシン化合物、リポソームなどの核酸の細胞への伝達を容易にする非プラスミド性および非ウイルス性化合物を含むと解釈されるべきである。ウイルスベクターの例として、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、プラスミド、コスミド、λファージベクターなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
「発現ベクター」は、発現させようとするヌクレオチド配列に作動可能に連結された発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターを意味する。発現ベクターは、発現のためのシス作用性要素を含み、発現のための他の要素は、宿主細胞によってかまたはインビトロ発現系において供給され得る。発現ベクターは、コスミド、プラスミド(例えば、裸のまたはリポソームに含有される)および組換えリヌクレオチドを組み込むウイルスなどの当該技術分野において公知のすべてのものを含む。
【0092】
本明細書で用いる用語「創傷」は、組織または細胞層に対する物理的断裂または破断に関する。創傷は、外科手術を含む任意の物理的傷害によって生じ得る。
【0093】
実施態様
本明細書に記載のようにラクリチンに基づく活性を有する組成物は、眼表面に関する疾患、傷害または病態を処置するために開示される。一実施態様によれば、ラクリチンポリペプチド、ラクリチンの生物活性断片、非天然ラクリチンペプチド、またはラクリチンのペプチドミメティック誘導体を含む組成物を提供する。一実施態様において、組成物は、配列番号1、配列番号7、配列番号8、配列番号5および配列番号6からなる群より選択される配列、または1、2、3、4もしくは5つのアミノ酸修飾により配列番号1、配列番号7、配列番号8、配列番号5もしくは配列番号6と異なる配列を含む。一実施態様において、組成物は、配列番号7もしくは配列番号8からなる群より選択される配列、または1、2、3、4もしくは5つのアミノ酸置換により配列番号7もしくは配列番号8と異なる配列を含み、そして更なる実施態様において1、2、3、4または5つのアミノ酸置換は、保存的アミノ酸置換である。
【0094】
一実施態様において、ラクリチンの生物活性断片を含む組成物を提供し、ここで該生物活性断片は、配列番号7の配列、1つのアミノ酸置換により配列番号7と異なる誘導体からなる。一実施態様において、1つのアミノ酸置換は保存的アミノ酸置換であり、そして更なる実施態様において、アミノ酸置換は4、6、8、10、17および19の位置にある。一実施態様において、生物活性断片は、配列番号7の配列、または位置4もしくは19における1つのアミノ酸置換により配列番号7と異なる誘導体からなる。驚くべきことに、本願出願人は、天然ヒトラクリチンの25アミノ酸C末端断片(配列番号7)が、ヒト涙液において末端の6アミノ酸が取り除かれた同じ断片(配列番号5)と比較して安定性を高めることを発見した。特に、免疫ブロッティングは、37℃で4時間ラクリチン枯渇涙液中にてインキュベーション後、N-94/C-6はエピトープを失うが、Lacripep(「N-94」;配列番号7)が失わないことを明らかにした。
【0095】
眼科用製品の局所適用が患者のコンプライアンスのために最もポピュラーで忍容性の良好な投与経路のままであるが、点眼剤のバイオアベイラビリティは、まばたき、基準および反射涙液分泌、ならびに鼻涙の排流により激しく妨害される。局所処置の治療指標を高める1つの解決法は、薬物担体としてポリマーナノ粒子の適用による。一実施態様によれば、ナノ粒子に連結されるラクリチンまたはその生物活性断片を含む医薬組成物を提供する。一実施態様において、ナノ粒子は熱応答性エラスチン様ポリペプチド(ELP)である。ELPは、繰返しペンタペプチドモチーフ(Val-Pro-Gly-Xaa-Gly)n(配列番号24)から構成され、可溶性になるより下で相分離するより上である独特な可逆的逆相転移温度、Ttを示す。一実施態様において、ラクリチンまたはその生物活性断片のカルボキシ末端は、ELPに連結され、一実施態様において、配列番号5、配列番号6、配列番号7または配列番号8からなるペプチドのC-末端は、繰返しペンタペプチドモチーフ(VPGSG)48(VPGIG)48(配列番号28)に連結される。
【0096】
一実施態様によれば、シンデカン-1ペプチド、非天然ペプチドまたはそのペプチドミメティック誘導体を含む組成物を提供する。一実施態様において、ペプチドは、配列番号2および配列番号3からなる群より選択される配列、または1、2、3、4または5つのアミノ酸により配列番号2および配列番号3と異なる配列、ならびにその同族体および断片を含む。一実施態様において、ペプチドは、1、2、3、4または5つの保存的アミノ酸置換により配列番号2および配列番号3と異なる。一実施態様において、アミノ酸修飾はアミノ酸置換であり、一実施態様において、置換は保存的アミノ酸置換である。一実施態様において、組成物は、配列番号2の配列からなるシンデカン-1断片を含む。
【0097】
いくつかの実施態様において、本開示のペプチドは、配列番号2もしくは配列番号3のアミノ酸配列またはその断片もしくは同族体に対して少なくとも75%、80%、85%、90%または95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0098】
いくつかの実施態様において、本開示のペプチドは、配列番号2もしくは配列番号3のアミノ酸配列、または配列番号2もしくは配列番号3のペプチドミメティック誘導体に対して少なくとも75%、80%、85%、90%または95%の同一性を有する非天然アミノ酸配列を含む。ペプチドが非天然であるという記載は、親ペプチドの天然ペプチドを除外することを意図する。
【0099】
ラクリチンペプチドまたはその生物活性断片もしくは誘導体を含む組成物は、ドライアイと含む、眼表面に関する疾患、障害および病態を処置する際に使用をしている。したがって一実施態様において、組成物を含むラクリチンポリペプチドは、該疾患、障害および病態を処置するために使用される。
【0100】
一実施態様によれば、ヘパリナーゼペプチド、非天然ペプチドまたはそのペプチドミメティック誘導体を含む組成物を提供し、ここで該ペプチドは、配列番号4からなる群より選択される配列、または1、2、3、4または5つのアミノ酸により配列番号4と異なる配列、ならびにその同族体および断片を含む。一実施態様において、1、2、3、4または5つのアミノ酸修飾により配列番号4と異なるヘパリナーゼペプチドを提供する。一実施態様において、アミノ酸修飾はアミノ酸置換であり、一実施態様において、置換は保存的アミノ酸置換である。
【0101】
いくつかの実施態様において、本開示のペプチドは、配列番号4のアミノ酸配列またはその断片もしくは同族体に対して少なくとも75%、80%、85%、90%または95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0102】
いくつかの実施態様において、本開示のペプチドは、配列番号4のアミノ酸配列または配列番号4のペプチドミメティック誘導体に対して少なくとも75%、80%、85%、90%または95%の配列同一性を有する非天然アミノ酸配列を含む。ペプチドが非天然であるという記載は、親ペプチドの天然ペプチドを除外することを意図する。
【0103】
一実施態様において、本明細書に記載の誘導体は、上記のアミノ酸配列を有するペプチドと等しい活性を修飾ペプチドが有する限り、1、2、または3つのアミノ酸が、親ペプチドと比較して削除、置換、付加されたアミノ酸配列を含む。
【0104】
別の一実施態様において、配列番号5、配列番号6、配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列またはその生物学的活性断片、同族体もしくは誘導体を有する新規な単離ポリペプチドを提供する。一実施態様において、ポリペプチドは、配列番号5のアミノ酸配列またはその生物学的活性断片、同族体もしくは誘導体を有する。別の一実施態様において、ポリペプチドは、配列番号6のアミノ酸配列を有する。別の一実施態様において、ポリペプチドは、配列番号7のアミノ酸配列またはその生物学的活性断片、同族体もしくは誘導体を有する。別の一実施態様において、ポリペプチドは、配列番号8のアミノ酸配列またはその生物学的活性断片、同族体もしくは誘導体を有する。
【0105】
別の一実施態様において、本発明は、治療における使用のための、配列番号5、配列番号6、配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列またはその生物学的活性断片、同族体もしくは誘導体を含む単離ポリペプチド提供する。一実施態様において、本発明は、治療における使用のための、配列番号5、配列番号6、配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列またはその生物学的活性断片、同族体もしくは誘導体を含む精製ポリペプチド提供する。一実施態様において、本発明は、眼表面に関する疾患、傷害または病態の処置における使用のための、配列番号7のアミノ酸配列からなる精製ポリペプチド提供する。
【0106】
別の一実施態様において、本発明は、眼表面に関する疾患、傷害もしくは病態または本明細書に列記される任意の兆候の処置用医薬の製造のための、配列番号5、配列番号6、配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列またはその生物学的活性断片、同族体もしくは誘導体を含む単離ポリペプチドの使用を提供する。一実施態様において、ポリペプチドは、配列番号7のアミノ酸配列からなる精製ポリペプチドである。
【0107】
別の一実施態様において、本発明は、配列番号5、配列番号6、配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列またはその生物学的活性断片、同族体もしくは誘導体を含む少なくとも1つのポリペプチドを治療上有効量にて含む新規な医薬組成物提供し、ここで該組成物は、対象体の眼表面への局所投与に適する。
【0108】
別の一実施態様において、組成物は、配列番号5のアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはその生物学的活性断片、同族体もしくは誘導体を含む。別の一実施態様において、組成物は、配列番号6のアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはその生物学的活性断片、同族体もしくは誘導体を含む。別の一実施態様において、組成物は、配列番号7のアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはその生物学的活性断片、同族体もしくは誘導体を含む。別の一実施態様において、組成物は、配列番号8のアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはその生物学的活性断片、同族体もしくは誘導体を含む。
【0109】
一実施態様において、本発明の組成物はさらに担体を含む。一態様において、担体は緩衝生理食塩水である。一態様において、本発明の組成物は医薬組成物である。一態様において、本発明の医薬組成物は医薬的に許容される担体を含む。一態様において、担体は緩衝生理食塩水である。一態様において、本発明の医薬組成物は、さらに少なくとも1つの更なる治療剤を含む。別の一実施態様において、組成物はさらに緩衝生理食塩水を含む。別の一実施態様において、緩衝液はリン酸緩衝液である。別の一実施態様において、緩衝液は、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二カリウム、およびその組合せから選択される。
【0110】
別の一実施態様において、組成物は、さらにNaClおよびKClから選択される塩を含む。別の一実施態様において、溶液のpHは、7、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.8、7.9、および8から選択される。別の一実施態様において、pHは7.4である。
【0111】
本発明のための緩衝生理食塩溶液の例は、H2Oおよび次の成分を含む。
【表2】



【0112】
別の一実施態様において、本発明は、それを必要とする対象体の眼表面を本発明の組成物と接触させることを含む、ドライアイを処置する新規な方法を提供する。一実施態様によれば、本明細書に記載の組成物に基づくラクリチンでの処置は、次の効果のうちの1以上を生じさせる:
a) 処置は流涙を回復または増加させる;
b) 処置は炎症を引き起こすまたは増加させることなく流涙を回復または増加させる;
c) 処置は基礎的流涙を回復させる;
d) 処置は涙腺炎症を抑制する;
e) 処置は角膜染色に対する眼の感受性を減少させる;
f) 処置は涙液のオスモル濃度を減少させる;
g) 処置は眼表面の健康を向上させる;
h) 処置は涙腺を刺激する;
i) 処置はマイボーム腺を刺激する;
j) 処置は結膜杯細胞を刺激する;
k) 処置は角膜知覚神経を刺激する;
l) 処置は処置される対象体の涙液中のシンデカン-1の流されて脱グリカン化された90kDa形態レベルを増加させる;
m) 処置は処置される対象体の涙液中のSDC-1外部ドメインの25kDa断片レベルを減少させる;
n) 処置は処置される対象体の涙液中の不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントレベルを減少させる;
o) 処置はレベル処置される対象体の涙液中の潜在型ヘパラナーゼを増加させる;そして
p) 処置は処置される対象体の涙液中の活性化ヘパラナーゼレベルを減少させる。
組成物を含むラクリチンを用いる処置に適した患者は、次の状態のうちの1以上を有する患者を含む:
a) 処置前の対象体の涙液が、正常な非ドライアイの涙液と比較して90kDa脱グリカン化SDC-1レベルの低下を含む;
b) 処置前の対象体の涙液が、正常な非ドライアイの涙液と比較して25kDa SDC-1レベルの上昇を含む;
c) 処置前の対象体の涙液が、正常な非ドライアイの涙液と比較して不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントレベルの上昇を含む;
d) 処置前の対象体の涙液が、正常な非ドライアイの涙液と比較して潜在型ヘパラナーゼレベルの低下を含む;
e) 処置前の対象体の涙液が、正常な非ドライアイの涙液と比較して活性化ヘパラナーゼレベルの上昇を含む;および
f) 手術を受けるまでの時間にかかわらず、対象体が、PRK(レーザー屈折矯正角膜切除術)もしくはLASIK(レーザー角膜内切削切除形成術)手術または眼の他の外科手術から回復中であり、PRKまたはLASIK手術を受け、ドライアイを患っている任意の対象体を含む。一実施態様において、過去1日、1カ月、6カ月、1年または数年以内にPRKまたはLASIK手術を受けた対象体は、本明細書に記載の製剤を含むラクリチンを用いる処置から恩恵を受け得る。
【0113】
一実施態様によれば、眼を保湿し、眼に栄養分を与えるための十分な涙液がないことに苦しむ、十分な涙を生成しないか、または涙の低品質を有する対象体を特定するための方法である。一実施態様において、方法は、
潜在型ヘパラナーゼ/活性型ヘパラナーゼ;
90kDa 脱グリカン化SDC-1;
25kDa SDC-1;および
不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアント
からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質の存在について該対象体から得られた涙液検体を検査すること含み、ここで、潜在型ヘパラナーゼまたは活性型ヘパラナーゼ、および90kDa脱グリカン化SDC-1の濃度は測定され、潜在型ヘパラナーゼレベルの減少、または活性型ヘパラナーゼの増加、(正常な眼からの涙液中に存在するレベルと比較して)および/または90kDa脱グリカン化SDC-1レベルの減少(正常な眼からの涙液中に存在するレベルと比較して)および/または涙液検体中の25kDa SDC-1の検出、および/または涙液検体中の不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントの検出は、ドライアイを有する対象体を特定する。個体の4つの状態のいずれか1つまたはその任意の組合せの検出は、例えば配列番号7のラクリチン断片を含む、ラクリチンポリペプチドを含む組成物の局所投与から利益を得るだろう、ドライアイを患う対象体を示す。
【0114】
一実施態様によれば、涙液検体を対象体から得て、90kDa脱グリカン化SDC-1および25kDa SDC-1の濃度を測定する。正常な眼からのこれらのペプチドの濃度と比較して、25kDa SDC-1レベルの増加と一緒になった90kDa脱グリカン化SDC-1レベルの減少は、ドライアイを有する対象体を特定する。一実施態様において、涙液検体を対象体から得て、検体を25kDa SDC-1の存在について検査し、ここで25kDa SDC-1の検出は、ドライアイを有する対象体を特定する。一実施態様において、涙液検体を対象体から得て、検体を不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントの存在について検査し、ここで不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントの検出は、ドライアイを有する対象体を特定する。一実施態様において、涙液検体を対象体から得て、検体を25kDa SDC-1および不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントの存在について検査し、ここで25kDa SDC-1および不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントの検出は、ドライアイを有する対象体を特定する。
【0115】
有利には、ドライアイのこれらのマーカーは、ラクリチン治療から利益を得るだろう対象体を特定するための根拠として機能を果たし得る。したがって一実施態様において、ドライアイを処置するための方法を提供し、ここで第1工程は、処置に適したこれらの対象体を特定することを含む。一実施態様において、ドライアイについて対象体を処置する方法は、対象体から涙液検体を得て、潜在型ヘパラナーゼ/活性型ヘパラナーゼ、90kDa脱グリカン化SDC-1、25kDa SDC-1および不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントからなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質の存在を検出することを含み、ここで、潜在型ヘパラナーゼレベルの減少、または活性型ヘパラナーゼの増加、(正常な眼からの涙液中に存在するレベルと比較して)、90kDa 脱グリカン化SDC-1レベルの減少(正常な眼からの涙液と比較して)、25kDa SDC-1の検出、および/または不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントの検出は、ドライアイを有する対象体を特定する。潜在型ヘパラナーゼ、活性型ヘパラナーゼ、90kDa 脱グリカン化SDC-1、25kDa SDC-1、および/または不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントの検出されたレベルに基づいてドライアイを有するとして特定された対象体は、その後、例えば配列番号7のペプチドを含む、ラクリチンポリペプチドを含む組成物が投与される。より具体的には、ラクリチンまたはその生物活性断片を含む医薬組成物と対象体の眼表面を接触させる。
【0116】
一実施態様によれば、ドライアイに苦しむとして特定された対象体を、
KQFIENGSEFAQKLLKKFS(配列番号5);
KQFIENGSEFAQKLLKKFSLLKPWA(配列番号7);
KQFIENGSEFANKLLKKFS(配列番号6);および
KQFIENGSEFANKLLKKFSLLKPWA(配列番号8)からなる群より選択されるラクリチンの生物活性断片、または1もしくは2つのアミノ酸置換により配列番号5、配列番号6、配列番号7もしくは配列番号8と異なるその誘導体と接触させる。一実施態様において、ラクリチンの生物活性断片は、KQFIENGSEFAQKLLKKFSLLKPWA(配列番号7)からなる。
【0117】
一実施態様によれば、ラクリチン治療で処置可能であるドライアイに苦しむ対象体は、ラクリチンモノマーの存在について対象体の涙液を試験することにより特定され、ここでコントロールと比較してモノマーの選択的低下はドライアイを示す。コントロールは、ドライアイを患っていない対象体(または対象体群)である。別の一実施態様において、ラクリチン治療で処置可能であるドライアイに苦しむ対象体は、90kDa脱グリカン化SDC-1の存在について対象体の涙液を試験することにより特定され、ここで正常なレベルの90kDa脱グリカン化SDC-1の検出はドライアイを示さない。別の一実施態様において、ラクリチン治療で処置可能であるドライアイに苦しむ対象体は、対象体の涙液を採取し、重さによって涙液のタンパク質を分離することにより特定される。一実施態様において、涙液のタンパク質はSDS-PAGEの使用により分離される。
【0118】
別の一実施態様において、試験は、25kDa SDC-1の存在を検出できる物質を含む試験紙と対象体の涙液を接触させることにより実施される。一実施態様において、物質は抗体であり、適宜モノクローナル抗体である。
【0119】
別の一実施態様において、試験は、90kDa脱グリカン化SDC-1の存在を検出できる物質を含む試験紙と対象体の涙液を接触させることにより実施される。一実施態様において、物質は抗体であり、適宜モノクローナル抗体である。
【0120】
別の一実施態様において、涙液は、25kDa SDC-1および90kDa脱グリカン化SDC-1の存在について試験され、ここで、正常なレベルの90kDa脱グリカン化SDC-1の検出はドライアイを示さず、25kDa SDC-1の存在はドライアイを示す。別の一実施態様において、ドライアイに苦しむ患者を特定する方法は、さらに、本発明の組成物で対象体を処置する工程を含む。一実施態様において、涙液中に25kDa SDC-1を有すると分かった対象体の眼表面は、組成物を含むラクリチンまたはラクリチン断片で処置される。
【0121】
別の一実施態様において、本発明は、25kDa SDC-1の存在について対象体の涙液を試験することを含むドライアイを有する対象体を特定する新規な方法提供し、ここで、25kDa SDC-1の存在はドライアイを示す。一実施態様において、試験は、対象体の涙液を採取し、重さに基づいて涙液のタンパク質を分離することにより実施される。一実施態様において、ペプチドの分離はSDS-PAGEを用いて実施される。
【0122】
別の一実施態様において、不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントの存在について対象体の涙液を試験することを提供し、ここで、不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントの存在はドライアイを示す。一実施態様において、不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントの存在は、対象体の涙液を採取し、重さによって涙液のタンパク質を分離することにより検出される。一実施態様において、涙液のタンパク質はSDS-PAGEの使用により分離される。別の一実施態様において、試験は、不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントの存在を検出できる物質を含む試験紙と対象体の涙液を接触させることにより実施される。一実施態様において、物質は抗体であり、適宜モノクローナル抗体である。更なる実施態様において、本発明の組成物と涙液中に不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントを有すると分かった対象体の眼表面を接触させることを含む処置方法を提供する。
【0123】
別の一実施態様において、ドライアイを有する対象体を特定する新規な方法は、活性型および潜在型ヘパラナーゼの存在について対象体の涙液を試験することを含み、ここで、活性型ヘパラナーゼの増加または潜在型ヘパラナーゼの減少の存在はドライアイを示す。一実施態様において、試験は、対象体の涙液を採取し、重さによって涙液のタンパク質を分離し、潜在型および活性型ヘパラナーゼを検出できる抗ヘパラナーゼ抗体でブロットすることにより実施される。
【0124】
一実施態様において、蒸発亢進型ドライアイ、角膜炎症または角膜潰瘍形成を患う対象体は、本明細書に記載の組成物を含むラクリチンポリペプチドとそれを必要とする対象体の細胞を接触させることにより処置され得る。
【0125】
別の一実施態様において、本発明は、ヒト角膜上皮細胞または涙腺房細胞の増殖を増強する新規な方法を提供し、ここで該方法は、本発明の組成物とそれを必要とする対象体の細胞を接触させることを含む。一実施態様において、本明細書に記載のラクリチンペプチド組成物は、対象体の角膜上皮細胞の増殖を増強するか、対象体の涙腺房細胞の増殖を増強するか、または上皮細胞アポトーシスもしくは上皮細胞死の他の形態を阻害するために、用いられる。一実施態様において、方法は、本明細書に記載のラクリチンペプチド組成物とそれを必要とする対象体の細胞を接触させることを含み、ここで該細胞は、角膜細胞、結膜細胞、または両方の組合せから選択される。
【0126】
別の一実施態様において、ラクリチンペプチドと接触させる上皮細胞は、傷害にさらされている。一実施態様において、ラクリチンペプチドは、配列番号7の配列からなる。一実施態様において、傷害は、眼瞼炎、ドライアイ、結膜炎、シェーグレン症候群、角膜剥離、潰瘍形成、細菌感染症、直接外傷、手術、放射エネルギー、イオン化するエネルギー、ウイルス感染症、真菌感染症、寄生虫感染症、角膜炎、全身性皮膚障害、膠原血管病、ライター病およびベーチェット病からなる群より選択される。
【0127】
別の一実施態様において、リソソームのクリアリングの疾患を処置する方法を提供し、ここで該方法は、本開示の組成物と対象体の眼表面を接触させることを含む。一実施態様において、疾患は、緑内障および加齢黄斑変性症(AMD)から選択される。一実施態様において、方法は、ラクリチンペプチドを含む組成物と対象体の眼表面を接触させることを含み、ここで該ペプチドは、配列番号7の配列からなる。
【0128】
別の一実施態様において、本発明は、リソソームのクリアリングの処置に関する。該疾患としては:緑内障、加齢黄斑変性(AMD)が挙げられる。科学的理論に縛られることを望むものではないが、ラクリチンは、ストレスを受けた細胞における細胞内活性化(毒性)タンパク質の自食的捕捉およびリソソーム分解を引き起こすと考えられる。AMDにおいて、「ドルーゼン」の形成は、網膜色素上皮細胞の細胞内およびこの細胞付近の細胞外両方である。本発明のポリペプチド(例えば、ラクリチン、または配列番号5、配列番号6、配列番号7もしくは配列番号8のポリペプチド)の局所投与が眼へ深く浸透する場合、それはRPEオートファジーを刺激して、ドルーゼンを激減させるだろうと予想される。開放隅角緑内障において、線維柱帯網細胞におけるストレスは、蓄積する細胞内物質の形成を引き起こす。オートファジーは慢性的に増加するが、これは細胞には不健康である。代わりに、ラクリチンは、問題となっている蓄積するタンパク質を取り除くのに十分な加速オートファジーの迅速で一時的なボーラスを強制する。その後、オートファジーは基準に戻る。本開示のポリペプチドは、これらの細胞へのアクセスを獲得すると予想される。
【0129】
別の一実施態様において、本発明は、新規な殺菌性組成物を提供する。一実施態様によれば、配列番号5、配列番号6、配列番号7もしくは配列番号8から選択されるラクリチンのC末端断片、または1、2もしくは3つのアミノ酸置換により配列番号5、配列番号6、配列番号7もしくは配列番号8と異なるその誘導体を含む殺菌性組成物を提供する。一実施態様において、組成物は、対象体の眼表面への局所投与に適する。一実施態様において、1、2または3つのアミノ酸置換により配列番号5、配列番号6、配列番号7または配列番号8と異なるラクリチン誘導体は、配列番号7の番号付けに対して4、6、8、10、17および19の位置から選択される位置にあるアミノ酸置換を有する。これらの位置は、霊長類種の非常に保存されたC末端領域間で可変性を示す(図9参照)。一実施態様において、ラクリチン誘導体は、配列番号7の番号付けに対して4および/または19の位置において1または2つのアミノ酸置換により配列番号7または配列番号8と異なる。一実施態様において、アミノ酸置換は保存的アミノ酸置換である。一実施態様によれば、配列番号5、配列番号6、配列番号7または配列番号8から選択されるラクリチンのC末端断片を含む殺菌性組成物を提供する。一実施態様によれば、配列番号7または配列番号8から選択されるラクリチンのC末端断片を含む殺菌性組成物を提供し、一実施態様において、ラクリチンのC末端断片はKQFIENGSEFAQKLLKKFSLLKPWA(配列番号7)からなる。
【0130】
一実施態様において、第1の抗菌剤を含む殺菌性組成物を提供し、該抗菌剤は、配列番号5、配列番号6、配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列またはその生物学的活性断片、同族体もしくは誘導体を含むポリペプチドであり、該組成物は、対象体の眼表面への局所投与に適する。一態様において、ポリペプチドは配列番号5の配列のアミノ酸を有する。別の一態様において、ポリペプチドは配列番号6のアミノ酸配列を有する。別の一態様において、ポリペプチドは配列番号7のアミノ酸配列を有する。別の一態様において、ポリペプチドは配列番号8のアミノ酸配列を有する。一態様において、殺菌性組成物は、さらに殺菌性の許容される担体を含む。
【0131】
一実施態様において、殺菌性組成物は、さらに第2の抗菌剤を含む。一実施態様において、組成物は、さらに抗菌剤を含む。適切な眼科用抗菌剤は当業者に公知であり、米国特許第5,300,296号、第6,316,669号、第6,365,636号および第6,592,907号に記載のものを含み、これらの開示は本明細書の一部とする。本発明による使用に適した抗菌剤の例としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、クロルヘキシジンジグルクロネートまたはジアセテート、メチルおよびプロピルヒドロキシベンゾエート(パラベン)、フェニルエチルアルコール、酢酸または硝酸フェニル水銀、ソルビン酸、およびチメロサールが挙げられる。
【0132】
一実施態様において、第2の抗菌剤は殺菌性組成物に存在し、一実施態様において、第2の抗菌剤は哺乳類の眼に天然に存在するものである。一実施態様において、第2の抗菌剤はリゾチームである。一実施態様によれば、殺菌性組成物は、ラクリチンのC末端断片および第2の抗菌剤を含み、ここで、ラクリチンのC末端断片と第2の抗菌剤の比は少なくとも2:1である。一実施態様において、殺菌性組成物は、ラクリチンのC末端断片およびリゾチームを含み、ここで、リゾチームのラクリチンのC末端断片に対する重量比は、4:1~3:1である。一実施態様において、ラクリチンのC末端断片はKQFIENGSEFAQKLLKKFSLLKPWA(配列番号7)からなる。
【0133】
一実施態様によれば、眼の感染症を処置するための方法を提供する。方法は、ラクリチンポリペプチドを含む組成物を眼に局所投与する工程を含む。別の一実施態様において、本発明は、本発明の殺菌性組成物とそれを必要とする対象体の角膜を接触させることを含む、角膜感染症を処置する新規な方法を提供する。一実施態様において、KQFIENGSEFAQKLLKKFSLLKPWA(配列番号7)の配列からなるペプチドは、ドライアイの処置または角膜感染症の処置のための医薬の製造において用いられる。
【0134】
別の一実施態様において、対象体の眼表面を接触させることによるドライアイを患う対象体を処置する方法が、本発明の組成物と涙液中の活性型ヘパラナーゼを有すると分かった。
【0135】
別の一実施態様において、本発明は、本発明の組成物を含む新規な容器を提供し、ここで、組成物は点眼剤形態であり、1用量に十分な量である。別の一実施態様において、組成物は点眼剤の形態であり、1~2用量に十分な量である。別の一実施態様において、組成物は点眼剤の形態であり、1週間、2週間、3週間または4週間まで十分な量である。別の一実施態様において、容器は、単回使用アンプル、組成物の点眼剤を投与するために形成されたボトル、またはボディおよびキャップを含むボトルの形態であり、ここで、点眼器がキャップまたはキャップの一部に接続する。
【0136】
米国特許第7,648,964号、第7,459,440号、第7,320,870号および第7,932,227号、ならびに国際公開第98/27205号(Jacobs et al., 1998年6月25日公開)、Sanghi et al., 2001, J. Mol. Biol., 310:127, Wang et al., 2006, J. Cell Biol., 174(5):689-700, Epub 2006 Aug 21, Ma et al., J. Cell Biol., 2006, 174:7:1097-1106, Zhang et al., J. Biol. Chem., 2013, 288(17):12090-101: Epub 2013 Mar 15に記載される方法を用いて本発明はまた実施され得て、これらの内容は出典明示によりその全体として本明細書の一部とする。
【0137】
本発明の様々な態様および実施態様を以下にさらに詳細に記載する。
【0138】
一実施態様によれば、ドライアイ疾患の分子同定のための新規な機構は、原因に対処する回復治療と結び付けられる。一実施態様において、ドライアイを特定する方法は、シンデカン-1からの約90KDa脱グリカン化が正常な個体の涙液において豊富であるが、ドライアイを患う個体においては豊富でなく、一方、約25kDaシンデカン-1断片がドライにおいて検出可能であり、正常な涙液において検出可能でないという発見に関している。局所ラクリチン、脱グリカン化シンデカン-1のアゴニストが、眼の表面の乾燥に角膜知覚神経を敏感にし、神経の湿潤応答を増加させるという発見もまた本明細書に開示されている。したがって、本発明の一実施態様は、涙液中の約90kDaの異常なレベル低下および/または25kDa シンデカン-1の存在を検出することによりドライアイを特定する方法に関する。
別の一実施態様は、局所ラクリチンまたはラクリチン断片、合成ペプチドまたはミメティックを投与することにより角膜神経の乾燥および湿潤応答を増加させる方法に関する。
【0139】
現在の涙液補充物は、一部に該製品から得られる軽減が極めて短期間(15分間未満)であるため、患者には普及していない。涙液に代わるアプローチの例には、緩衝化等張性食塩溶液、溶液をより粘性にすることで眼から容易に流出し難くする水溶性ポリマーを含有する水溶液が含まれる。涙液再構成はまた、リン脂質および油などの涙膜の1以上の成分を提供することによって試みられる。これらの処置アプローチの例は、米国特許第4,131,651号(Shah et al.)、米国特許第4,370,325号(Packman)、米国特許第4,409,205号(Shively)、米国特許第4,744,980号および第4,883,658号(Holly)、米国特許第4,914,088号(Glonek)、米国特許第5,075,104号(Gressel et al.)および米国特許第5,294,607号(Glonek et al.)に記載されており、これらの開示は本明細書の一部とする。既存の眼科用製剤また、TGF-β、コルチコステロイドまたはアンドロゲンを含み得る。すべてが眼に対して非特異的であり、全身性作用を有する。対照的に、ラクリチンは、高度に眼に限定され、ヒト涙液および涙膜の天然の構成要素である。
【0140】
ラクリチンまたはその断片、同族体もしくは誘導体を含む眼科用製剤(例えばラクリチンを含む人工涙液)は、ラクリチンの活性およびその局在化された効果のためとても所望されている。本発明の一実施態様によれば、ラクリチンまたはその生物活性断片を含む組成物は、角膜創傷治癒を増強する、および/または涙液流出が不十分な患者を処置するために用いられる。本発明のラクリチン組成物は、標準的な眼科用成分を用いて製剤化され得て、好ましくは局所投与のための液剤、懸濁剤および他の投与形態として当該組成物は製剤化される。水溶液は、製剤化の容易性、生物学的適合性(特に、処置しようとする疾病、例えば、ドライアイ型疾患および障害を考慮して)、ならびに罹患した眼に1~2滴の溶液を点眼することによりこのような組成物を容易に投与する患者の能力に基づくことが一般に好ましい。しかしながら、組成物はまた、懸濁液、粘性もしくは半粘性ゲル、または他のタイプの固体もしくは半固体組成物であり得る。
【0141】
本発明の組成物は、界面活性剤、防腐剤、抗酸化剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、共溶媒および増粘剤(viscosity building agent)を含み得る。局所眼科用製剤において有用な様々な界面活性剤が本組成物において用いられ得る。これらの界面活性剤は、ラクリチンの化学的分解を防止することを援助し得て、また、組成物が包装される容器にラクリチンが結合することを防止し得る。界面活性剤の例としては、次が挙げられるが、これらに限定されない:Cremophor.TM. EL、ポリオキシル20セトステアリルエーテル、ポリオキシル40硬化ヒマシ油、ポリオキシル23ラウリルエーテルおよびポロキサマー407を組成物に用い得る。貯蔵中の酸化のからラクリチンポリペプチドを保護するため抗酸化剤を本発明の組成物に加え得る。該抗酸化剤の例としては、ビタミンEおよびそのアナログ、アスコルビン酸および誘導体、ならびにブチルヒドロキシアニソール(BHA)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0142】
既存の人口涙液製剤はまた、ラクリチン活性物質のための医薬的に許容される担体として用いられ得る。したがって一実施態様において、ラクリチンポリペプチドは、ドライアイ症候群のための既存の人口涙液製品を改良し、角膜創傷治癒を援助する製品を開発するために用いられる。担体として有用な人口涙液組成物の例としては、Tears NaturaleTM、Tears Naturale IITM、Tears Naturale FreeTM、およびBion TearsTMなどの市販品が挙げられるが、これらに限定されない(Alcon Laboratories, Inc., Fort Worth, Tex.)。他のリン脂質担体製剤の例としては、米国特許第4,804,539号(Guo et al.)、米国特許第4,883,658号(Holly)、米国特許第4,914,088号(Glonek)、米国特許第5,075,104号(Gressel et al.)、米国特許第5,278,151号(Korb et al.)、米国特許第5,294,607号(Glonek et al.)、米国特許第5,371,108号(Korb et al.)、米国特許第5,578,586号(Glonek et al.)に記載のものが挙げられ;本発明のリン脂質担体として有用なリン脂質組成物を開示する限り上記特許は出典明示により本明細書の一部とする。一実施態様によれば、配列番号7の配列からなるラクリチンペプチドおよび医薬的に許容される担体を含む局所眼科用製剤を提供する。一実施態様において、組成物はさらにリン脂質を含む。代替実施態様において、組成物は、さらに界面活性剤、防腐剤、抗酸化剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、共溶媒および/または増粘剤を含む。
【0143】
他の化合物もまた、担体の粘性を増加さえるために本開示の眼科用組成物に加えられ得る。増粘剤の例としては、多糖類、例えばヒアルロン酸およびその塩、コンドロイチン硫酸およびその塩、デキストラン、セルロースファミリーの様々なポリマー;ビニルポリマー;およびアクリル酸ポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。一般に、リン脂質担体または人工涙液担体組成物は、1~400センチポアズ(「cps」)の粘度を示す。人工涙液またはリン脂質担体を含有する好ましい組成物は、約25 cpsの粘度を示す。
【0144】
局所用眼科用製品は、典型的に複数回用量の形態で包装される。したがって、防腐剤は、使用中の微生物混入を防止するために必要である。適切な防腐剤としては、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、臭化ベンゾドデシニウム、メチルパラベン、プロピルパラベン、フェニルエチルアルコール、エデト酸二ナトリウム、ソルビン酸、ポリクオタニウム-1、または当業者に公知の他の物質が挙げられる。そのような防腐剤は、典型的に、0.001~1.0%w/vのレベルで用いられる。本発明の単位用量組成物は、無菌であり、典型的に保存処置がされていない。したがってこのような組成物は、一般に防剤を含有しない。
【0145】
ラクリチン遺伝子発現を調節する遺伝子プロモーターは、先に記載の任意の涙腺遺伝子に最も特異的であるため、この遺伝子の調節要素を用いて、眼における他の遺伝子産物を発現させ得る。特に、ラクリチン遺伝子プロモーターを、広範な外因性遺伝子に作動可能に連結して、涙腺への遺伝子産物の発現を調節する、および/または遺伝子治療として使用して、ドライアイ症候群を処置し得る。
【0146】
本開示のペプチドは、Stewart et al.によるSolid Phase Peptide Synthesis, 2nd Edition, 1984, Pierce Chemical Company, Rockford, Illinois;およびBodanszkyとBodanszkyによるThe Practice of Peptide Synthesis, 1984, Springer-Verlag, New Yorkに記載の固相ペプチド合成(SPPS)などの標準的な十分に確立された技術によって容易に調製され得る。はじめに、適切に保護されたアミノ酸残基が、そのカルボキシル基を介して、架橋されたポリスチレンまたはポリアミド樹脂などの誘導体化された不溶性のポリマー支持体に付着される。「適切に保護された」は、アミノ酸のα-アミノ基、および任意の側鎖官能基の両方における保護基の存在を意味する。側鎖保護基は、一般に、合成全体を通して使用される溶媒、試薬および反応条件に対して安定であり、最終的なペプチド産物に影響を及ぼさない条件下で脱離可能である。オリゴペプチドの段階的合成は、最初のアミノ酸からのN保護基の脱離、所望のペプチドの配列での次のアミノ酸のカルボキシル末端のそれへの結合によって行われる。このアミノ酸もまた、適切に保護される。次に加わるアミノ酸のカルボキシルを活性化させ、カルボジイミド、対称酸無水物またはヒドロキシベンゾトリアゾールまたはペンタフルオロフェニルエステルなどの「活性エステル」基への形成のような反応基への形成によって、支持体結合アミノ酸のN末端と反応させ得る。
【0147】
固相ペプチド合成方法の例としては、α-アミノ保護基としてtert-ブチルオキシカルボニルを利用したBOC方法、および9-フルオレニルメチルオキシカルボニルを利用して、アミノ酸残基のα-アミノを保護するFMOC方法が挙げられ、両方法とも当業者に周知である。
【0148】
Nおよび/またはCブロック基の組込みもまた、固相ペプチド合成方法に常用のプロトコルを用いて達成され得る。C末端ブロック基の組込みのために、例えば、所望のペプチドの合成は、典型的に、樹脂からの切断によって所望のC末端ブロック基を有するペプチドが生じるように、化学的に修飾されている支持樹脂を固相として用いて達成される。C末端が第一級アミノブロック基を有するペプチドを提供するために、ペプチド合成が完了する時に、フッ化水素酸による処置により所望のC末端アミド化ペプチドが遊離されるように、例えば、合成は、p-メチルベンズヒドリルアミン(MBHA)樹脂を用いて、実施される。同様に、C末端におけるN-メチルアミンブロック基の組込みは、HF処置時に、N-メチルアミド化C末端を有するペプチドを遊離するN-メチルアミノエチル誘導体化DVB(樹脂)を用いて達成される。エステル化によるC末端のブロックもまた、従来の手順を使用して、達成され得る。これは、所望のアルコールとの以後の反応によりエステル官能基を形成させることを可能にするために、樹脂からの側鎖ペプチドの遊離を可能にする樹脂/ブロック基の組み合わせの使用を必要とする。メトキシアルコキシベンジルまたは等価なリンカーによって誘導体化されたDVB樹脂と組み合わされたFMOC保護基は、この目的のために用い得て、ジクロロメタン中TFAによって生じる支持体からの切断を伴う。その後、例えば、DCCによる適切に活性化されたカルボキシル官能基のエステル化は、所望のアルコールの添加、続いて、エステル化されたペプチド産物の脱保護および単離によって進められ得る。
【0149】
N末端ブロック基の組み入れを達成し得る一方、合成されたペプチドはなお、例えば、適切な無水物およびニトリルによる処理によって、樹脂に付着される。N末端においてアセチル-ブロック基を組み入れるために、例えば、樹脂に結合したペプチドを、アセトニトリル中20%無水酢酸で処理し得る。その後、Nブロックされたペプチド産物を樹脂から切断し、脱保護し、続いて、単離し得る。
【0150】
化学的または生物学的合成技術のいずれかから得られるペプチドが所望のペプチドであることを確認にするために、ペプチド組成の分析を行うべきである。ペプチドの分子量を決定するための高分解能質量分析を用いて該アミノ酸組成分析を実施し得る。代替的にまたは付加的に、ペプチドのアミノ酸含量は、酸性水溶液中でペプチドを加水分解し、HPLCまたはアミノ酸分析器を用いて混合物の成分を分離し、同定し、定量することによって、確認され得る。ペプチドの配列を明確に決定するために、ペプチドを配列順に分解し、順にアミノ酸を同定するタンパク質シークエネーターを用い得る。
【0151】
その使用の前に、ペプチドを精製して、夾雑物を除去する。これに関して、ペプチドは、適切な規制当局によって設定された基準を満たすように精製されることが理解されよう。要求される純度レベルを達成するために、例えば、アルキル化シリカカラム、例えばC4-、C8-またはC18-シリカを用いる逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を含む多くの従来の精製手順のうちのいずれか1つを用い得る。増加する有機含量のグラジェント移動相は、例えば、通常、少量のトリフルオロ酢酸を含有する水性緩衝液中のアセトニトリルを通常用いて、精製を達成し得る。また、イオン交換クロマトグラフィーを用いて、それらの電荷に基づいてペプチドを分離し得る。
【0152】
もちろん、ペプチドまたはその抗体、誘導体もしくは断片は、活性に影響を及すことなく修飾されるアミノ酸残基を組込み得ることが理解されよう。例えば、末端を、「所望でない分解」(化合物の機能に影響を及ぼす可能性のあるその末端における化合物の任意のタイプの酵素的、化学的または生化学的分解、すなわち、その末端における化合物の配列分解を包含することを意味する用語)からのNおよびC末端を保護および/または安定化するのに適切なブロック基、すなわち化学置換基を含むように誘導体化し得る。
【0153】
ブロック基は、インビボでペプチドの活性に悪影響を及ぼさないペプチド化学の分野において従来使用される保護基を含む。例えば、適切なN末端ブロック基は、N末端のアルキル化またはアシル化によって導入され得る。適切なN末端ブロック基の例として、C1-C5分岐または非分岐アルキル基、アシル基、例えばホルミルおよびアセチル基、ならびにそれらの置換形態、例えばアセトアミドメチル(Acm)基が挙げられる。アミノ酸の脱アミノアナログもまた、有用なN末端ブロック基であり、ペプチドのN末端に結合され得るかまたはN末端残基の代わりに使用され得るかのいずれかである。C末端のカルボキシル基が組み込まれるかもしくは組み込まれないかのいずれかである適切なC末端ブロック基は、エステル、ケトンまたはアミドを含む。エステルまたはケトンを形成するアルキル基、特に、メチル、エチルおよびプロピルなどの低級のアルキル基、ならびに第一級アミン(-NH2)などのアミドを形成するアミノ基、ならびにメチルアミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、メチルエチルアミノのようなモノ-およびジ-アルキルアミノ基などがC末端ブロック基の例である。アグマチンのような脱炭酸化されたアミノ酸アナログもまた、有用なC末端ブロック基であり、ペプチドのC末端残基に結合し得るかまたはその代わりに使用し得るかのいずれかである。さらに、末端における遊離のアミノおよびカルボキシル基は、ペプチドから完全に取り出して、ペプチド活性に対する影響を伴わないその脱アミノおよび脱炭酸形態を得ることができることが理解されよう。
【0154】
他の修飾もまた、活性に悪影響を及ぼさずに組み込まれ得て、これらは、天然のL型異性体の1以上のアミノ酸のD型異性体のアミノ酸による置換を含むが、これらに限定されない。したがって、ペプチドは、1以上のD-アミノ酸残基を含み得るか、またはすべてがD型であるアミノ酸を含み得る。本発明に従うレトロ逆転型のペプチド、例えば、すべてのアミノ酸がD-アミノ酸形態で置換される逆ペプチドもまた、企図される。
【0155】
本発明の酸付加塩もまた、機能的等価物として企図される。したがって、無機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、または有機酸、例えば酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸などで処理されて、ペプチドの水溶性塩を提供する本発明によるペプチドは、本発明における使用に適切である。
【0156】
差異もしくは配列に影響を及ぼさない修飾、またはその両方により天然のタンパク質またはペプチドと異なり得る。
例えば、タンパク質またはペプチドの一次配列を変更するが、通常その機能は変更しない保守的アミノ酸の変化がなされ得る。このため、10以上の保守的アミノ酸変化は、典型的に、ペプチド機能に影響を及ぼさない。一実施態様によれば、保守的アミノ酸置換は、次のグループ内での置換を含む。
グリシン、アラニン;
バリン、イソロイシン、ロイシン;
アスパラギン酸、グルタミン酸;
アスパラギン、グルタミン;
セリン、スレオニン;
リシン、アルギニン;
フェニルアラニン、チロシン
【0157】
修飾(通常、一次配列を変更しない)は、インビボまたはインビトロでのポリペプチドの化学的誘導体化、例えば、アセチル化、またはカルボキシル化を含む。また、グリコシル化の修飾、例えば、その合成およびプロセシング中または更なるプロセシング工程において、ポリペプチドのグリコシル化パターンを修飾することによって、例えば、ポリペプチドを、グリコシル化に影響を及ぼす酵素、例えば、哺乳動物のグリコシル化または脱グリコシル化酵素に曝露することによって、作られるものが含まれる。リン酸化されたアミノ酸残基、例えば、ホスホチロシン、ホスホセリンまたはホスホスレオニンを有する配列もまた包含される。
【0158】
通常の分子生物学的技術を用いて、タンパク質分解に対するそれらの耐性を改善するかもしくは可溶性特性を最大化するかもしくはそれらを治療用物質としてより適切にするように修飾されているポリペプチドまたは抗体フラグメントもまた含まれる。このようなポリペプチドのアナログは、天然に存在するL-アミノ酸以外の残基、例えば、D-アミノ酸または非天然の合成アミノ酸を含有するものを含む。本発明のペプチドは、本明細書で列挙される特定の例示的プロセスのいずれかの生成物に限定されない。
【0159】
一般に、ペプチド中のアミノ酸置換が、典型的には、性質が比較的類似している別のアミノ酸によるアミノ酸の置き換え(すなわち保存的アミノ酸置換)を伴うことは、当業者にはわかるであろう。さまざまなアミノ酸の性質と、アミノ酸置換がタンパク質の構造および機能に及ぼす効果は、当技術分野における広範な研究と知識の対象になってきた。
【0160】
例えば、結果として生じるポリペプチドが、上述した性質の類似するプロファイルまたは改善されたプロファイルを有するであろうという予測の下に、以下に挙げる等配電子的(isosteric)および/または保存的アミノ酸変化を、親ポリペプチド配列に加えることができる。
【0161】
アルキル置換疎水性アミノ酸の置換:アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、ノルロイシン、S-2-アミノ酪酸、S-シクロヘキシルアラニン、または分岐鎖、環状鎖および直鎖アルキル、アルケニルもしくはアルキニル置換を含むC1-10炭素の脂肪族側鎖で置換された他の類似するαアミノ酸を含む。
【0162】
芳香族置換疎水性アミノ酸の置換:フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、ビフェニルアラニン、1-ナフチルアラニン、2-ナフチルアラニン、2-ベンゾチエニルアラニン、3-ベンゾチエニルアラニン、ヒスチジン、先に挙げた芳香族アミノ酸のアミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アザ、ハロゲン化(フルオロ、クロロ、ブロモ、またはヨード)またはアルコキシ置換型を含み、その実例は2-、3-または4-アミノフェニルアラニン、2-、3-または4-クロロフェニルアラニン、2-、3-または4-メチルフェニルアラニン、2-、3-または4-メトキシフェニルアラニン、5-アミノ-、5-クロロ-、5-メチル-または5-メトキシトリプトファン、2'-、3'-、または4'-アミノ-、2'-、3'-、または4'-クロロ-、2、3、または4-ビフェニルアラニン、2'、-3'、-または4'-メチル-2、3または4-ビフェニルアラニン、または4'-メチル-2、3または4-ビフェニルアラニン、および2-または3-ピリジルアラニンである。
【0163】
塩基性官能基を含有するアミノ酸の置換:アルギニン、リシン、ヒスチジン、オルニチン、2,3-ジアミノプロピオン酸、ホモアルギニン、前記アミノ酸のアルキル、アルケニル、またはアリール置換(C1-C10分岐、線状、または環状)誘導体を含み、置換基がヘテロ原子(例えばα窒素、または1もしくは複数の遠位窒素)上にあるか、α炭素上の例えばプロR(pro-R)位にあるかは問わない。実例として役立つ化合物には次に挙げるものがある:N-ε-イソプロピル-リシン、3-(4-テトラヒドロピリジル)-グリシン、3-(4-テトラヒドロピリジル)-アラニン、N,N-γ,γ'-ジエチル-ホモアルギニン。アルキル基がα炭素のプロR位を占めているα-メチルアルギニン、α-メチル-2,3-ジアミノプロピオン酸、α-メチルヒスチジン、α-メチルオルニチンなどの化合物も包含される。アルキル、芳香族、複素芳香族(ここで複素芳香族基は1つ以上の窒素、酸素または硫黄原子を単独でまたは組み合わせて有する)カルボン酸または数多くの周知の活性化誘導体(例えば酸塩化物、活性エステル、活性アゾライド(azolide)および関連誘導体)のいずれかと、リシン、オルニチン、または2,3-ジアミノプロピオン酸とから形成されるアミドも包含される。
【0164】
酸性アミノ酸の置換:アスパラギン酸、グルタミン酸、ホモグルタミン酸、チロシン、2,4-ジアミノプロピオン酸(2,4-diaminopriopionic acid)、オルニチンまたはリシンのアルキル、アリール、アリールアルキル、およびヘテロアリールスルホンアミド、ならびにテトラゾール置換アルキルアミノ酸を含む。
【0165】
側鎖アミド残基の置換:アスパラギン、グルタミン、およびアスパラギンまたはグルタミンのアルキルまたは芳香族置換誘導体を含む。
【0166】
ヒドロキシル含有アミノ酸の置換:セリン、スレオニン、ホモセリン、2,3-ジアミノプロピオン酸、およびセリンまたはスレオニンのアルキルまたは芳香族置換誘導体を含む。上に列挙した各カテゴリー内のアミノ酸で、同じグループの別のアミノ酸を置換できることも理解される。
【0167】
例えば、アミノ酸のハイドロパシーインデックス(hydropathic index)を考慮することができる(Kyte & Doolittle, 1982, J. Mol. Biol., 157:105-132)。アミノ酸の相対的ハイドロパシー特性(hydropathic character)は、結果として生じるタンパク質の二次構造に寄与し、その二次構造が、結果として、そのタンパク質と他の分子との相互作用を規定する。各アミノ酸には、その疎水性および電荷特徴に基づいて、ハイドロパシーインデックスが割り当てられており(Kyte & Doolittle, 1982)、それらは次のとおりである:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/システイン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(-0.4);スレオニン(-0.7);セリン(-0.8);トリプトファン(-0.9);チロシン(-1.3);プロリン(-1.6);ヒスチジン(-3.2);グルタミン酸(-3.5);グルタミン(-3.5);アスパラギン酸(-3.5);アスパラギン(-3.5);リシン(-3.9);およびアルギニン(-4.5)。保存的置換を行う際には、ハイドロパシーインデックスが±2以内のアミノ酸を使用することが好ましく、±1以内はより好ましく、±0.5以内はさらに好ましい。
【0168】
アミノ酸置換はアミノ酸残基の親水性を考慮してもよい(例えば米国特許第4,554,101号)。アミノ酸残基には親水性値が割り当てられている:アルギニン(+3.0);リシン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0);グルタミン酸(+3.0);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(-0.4);プロリン(-0.5.+-0.1);アラニン(-0.5);ヒスチジン(-0.5);システイン(-1.0);メチオニン(-1.3);バリン(-1.5);ロイシン(-1.8);イソロイシン(-1.8);チロシン(-2.3);フェニルアラニン(-2.5);トリプトファン(-3.4)。類似する親水性を有する他のアミノ酸によるアミノ酸の置き換えが好ましい。
【0169】
他の考慮事項にはアミノ酸側鎖のサイズが含まれる。例えば、コンパクトな側鎖を有するアミノ酸、例えばグリシンまたはセリンを、嵩高い側鎖を有するアミノ酸、例えばトリプトファンまたはチロシンで置き換えることは、一般に好ましくないだろう。さまざまなアミノ酸残基がタンパク質二次構造に及ぼす効果も考慮事項である。実験的研究により、タンパク質ドメインがαヘリックス、βシートまたは逆ターン二次構造をとる傾向に、異なるアミノ酸残基が及ぼす効果は決定されており、当技術分野では知られている(例えばChou & Fasman, 1974, Biochemistry, 13:222-245;1978, Ann. Rev. Biochem., 47: 251-276;1979, Biophys. J., 26:367-384参照)。
【0170】
そのような考慮と広範な実験的研究に基づいて、保存的アミノ酸置換の表が構築されており、当技術分野では知られている。例えば:アルギニンおよびリシン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシンおよびイソロイシン。または:Ala(A)leu、ile、val;Arg(R)gln、asn、lys;Asn(N)his、asp、lys、arg、gln;Asp(D)asn、glu;Cys(C)ala、ser;Gln(Q)glu、asn;Glu(E)gln、asp;Gly(G)ala;His(H)asn、gln、lys、arg;Ile(I)val、met、ala、phe、leu;Leu(L)val、met、ala、phe、ile;Lys(K)gln、asn、arg;Met(M)phe、ile、leu;Phe(F)leu、val、ile、ala、tyr;Pro(P)ala;Ser(S)、thr;Thr(T)ser;Trp(W)phe、tyr;Tyr(Y)trp、phe、thr、ser;Val(V)ile、leu、met、phe、ala。
【0171】
アミノ酸置換に関する他の考慮事項には、残基がタンパク質の内部に位置するかどうか、または溶媒露出しているかどうかが含まれる。内部残基の場合、保存的置換には次の置換が含まれるであろう:AspとAsn;SerとThr;SerとAla;ThrとAla;AlaとGly;IleとVal;ValとLeu;LeuとIle;LeuとMet;PheとTyr;TyrとTrp。(例えば、PROWL Rockefeller Universityウェブサイト参照)。溶媒露出残基の場合、保存的置換には次の置換が含まれるであろう:AspとAsn;AspとGlu;GluとGln;GluとAla;GlyとAsn;AlaとPro;AlaとGly;AlaとSer;AlaとLys;SerとThr;LysとArg;ValとLeu;LeuとIle;IleとVal;PheとTyr。アミノ酸置換の選択を補助するために、PAM250スコアリングマトリックス、Dayhoffマトリックス、Granthamマトリックス、McLachlanマトリックス、Doolittleマトリックス、Henikoffマトリックス、Miyataマトリックス、Fitchマトリックス、Jonesマトリックス、Raoマトリックス、LevinマトリックスおよびRislerマトリックスなど、さまざまなマトリックスが構築されている(同上書)。
【0172】
アミノ酸置換の測定において、正電荷残基(例えばHis、Arg、Lys)と負電荷残基(例えばAsp、Glu)の間のイオン結合(塩橋)または近接するシステイン残基間のジスルフィド結合の形成など、分子間結合または分子内結合の存在も考慮することができる。
【0173】
任意のアミノ酸を使って、コードされているペプチド配列中の他の任意のアミノ酸を置換する方法はよく知られており、例えば部位特異的突然変異誘発の技法によるか、アミノ酸置換をコードするオリゴヌクレオチドの合成およびアセンブリならびに発現ベクターコンストラクトへの接合によるなど、当業者にとっては日常的実験に過ぎない。
【0174】
の以下の公知の手順により精製され得て、ここで、免疫学的、酵素的または他のアッセイを用いて、手順の各段階において精製をモニターする。タンパク質の精製方法は当該技術分野において周知であり、例えば、Deutscher et al. (ed., 1990, Guide to Protein Purification, Harcourt Brace Jovanovich, San Diegoに記載されている。
【0175】
本発明はまた、本発明の組成物および組成物を対象体に投与することを説明する指示書を含むキットを含む。別の一実施態様において、このキットは、組成物を投与する前に本発明の組成物を溶解または懸濁するのに適した(好ましくは無菌の)溶媒を含む。
【0176】
本明細書で用いる用語「生理学的に許容される」エステルまたは塩は、組成物を投与される対象体に有害ではない医薬組成物の他の任意の成分に適合性である有効成分のエステルまたは塩の形態を意味する。
【0177】
本明細書に記載の医薬組成物の製剤は、任意の既知の方法によって調製され得るか、またはその後、薬理学の分野において開発され得る。一般に、このような調製方法は、有効成分を担体または1以上の他の付属成分と関連させ、その後、必要または所望であれば、製品を所望の単回または複数回の投与単位に形成または包装する工程を含む。
【0178】
本発明書において提供される医薬組成物の記載は、原則として、ヒトに対する倫理的投与に適する医薬組成物に関するが、当業者であれば、このような組成物はすべての種類の動物への投与に一般に適切であることを理解するであろう。組成物を様々な動物への投与に適切にするためのヒトへの投与に適した医薬組成物の修飾は、十分に理解されており、熟練した薬学者であれば、単なる通常の(もしあれば)実験を伴うこのような修飾を設計および実施し得る。本発明の医薬組成物の投与が企図される対象体としては、ヒトおよび他の霊長類、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ネコ、およびイヌのような商業上関連する哺乳動物ならびにニワトリ、アヒル、ガチョウ、およびシチメンチョウのような商業上関連するトリを含むトリが挙げられるが、これらに限定されない。
【0179】
本発明の方法において有用である医薬組成物を、調製し、包装し、または経口、直腸、膣、非経口、静脈内、局所、肺、鼻内、口内、眼、髄腔内または別の投与経路に適切な製剤で販売し得る。他の企図される製剤としては、計画されたナノ粒子、リポソーム調製物、有効成分を含有する放出性赤血球、および免疫学的に基づく製剤が挙げられる。
【0180】
本発明の医薬組成物を、バルク形態で、単回単位用量として、または複数の単回単位用量として調製、包装または販売し得る。本明細書で用いる「単位用量」は、所定の量の有効成分を含む医薬組成物の個別の量である。有効成分の量は、一般に、対象体に投与される有効成分の用量、または該用量の都合の良い分率、例えば該用量の2分の1または3分の1に等しい。
【0181】
本発明の医薬組成物中の有効成分と医薬的に許容される担体および任意の更なる成分の相対量は、処置される対象体の同一性、サイズおよび病態に依存し、さらに組成物が投与される経路に依存して変動するだろう。例えば、組成物は、0.1%~100%(w/w)の有効成分を含み得る。
【0182】
有効成分に加えて、本発明の医薬組成物は、1以上のさらなる医薬的に活性な物質をさらに含み得る。特に企図される更なる物質は、制吐剤、ならびにスカベンジャー、例えばシアン化合物およびシアン酸塩のスカベンジャーを含む。
【0183】
本発明の医薬組成物の制御放出または徐放性製剤は、従来技術を用いて作られ得る。
【0184】
局所投与に適切な製剤としては、液体または半液体調製物、例えばリニメント剤、ローション剤、水中油型または油中水型エマルジョン、例えばクリーム剤、軟膏剤もしくはペースト剤、および液剤または懸濁剤が挙げられるが、これらに限定されない。有効成分の濃度が、溶媒における有効成分の溶解度の限界ほどに高くなり得るが、局所的投与可能な製剤は、例えば、約1%~約10%(w/w)の有効成分を含み得る。局所投与のための製剤は、本明細書に記載の1以上の更なる成分をさらに含み得る。
【0185】
本発明の医薬組成物を、眼科用投与に適切な製剤で、調製、包装、または販売し得る。このような製剤は、例えば、水性もしくは油性液体担体中で有効成分の0.1~1.0%(w/w)溶液または懸濁液を含む、例えば、点眼剤の形態であり得る。このような点眼剤は、緩衝剤、塩、または本明細書に記載の更なる成分のうちの1以上の他のものをさらに含み得る。有用である他の眼科的に投与可能な製剤は、微結晶形態またはリポソーム調製物において有効成分を含むものを含む。
【0186】
本明細書で用いる「更なる成分」としては、次のうちの1以上が挙げられるがこれらに限定されない:添加剤;界面活性剤;分散剤;不活性希釈剤;造粒剤および崩壊剤;結合剤;滑沢剤;甘味剤;着香剤;着色剤;防腐剤;生分解性組成物、例えばゼラチン;水性媒体および溶媒;油性媒体および溶媒;懸濁化剤;分散剤または湿潤剤;乳化剤、粘滑剤;緩衝剤;塩;増粘剤;賦形剤;乳化剤;抗酸化剤;抗生物質;抗真菌剤;安定化剤;および医薬的に許容されるポリマー性または疎水性材料。本発明の医薬組成物に含められ得る他の「更なる成分」は当該技術分野において公知であり、例えばGenaro, ed., 1985, Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, PAに記載されており、これは出典明示により本明細書の一部とする。
【0187】
典型的には、対象体、好ましくはヒトに投与される本発明の化合物の用量は、対象体の体重当たり1μg~約100 gの量の範囲である。投与される正確な用量は、対象体のタイプおよび処置される疾患状態のタイプ、対象体の年齢および投与経路を含むがこれらに限定されない、任意の多くの要因に依存して変化するであろう。
【0188】
本発明はさらに、ドライアイを有する対象体の特定を提供する。例えば、涙液中で見られるタンパク質またはペプチドは、ELISA、免疫アッセイ、免疫蛍光、免疫組織化学、免疫沈降およびウェスタンブロットを含むがこれらに限定されない様々な方法を用いて検出され得る。
【0189】
本発明の組成物、およびその組成物を対象の細胞または組織に投与することを説明する指示書を含むキットを提供する。別の一実施態様において、このキットは、対象への化合物の投与前に本発明の組成物を溶解または懸濁するのに適した(好ましくは無菌の)溶剤を含む。本明細書で用いる「指示書」は、本明細書において列挙するさまざまな疾患または障害の軽減を達成するためのキットにおける本発明のペプチドの有用性を伝えるために使用することができる刊行物、記録、図表、または他の任意の表現媒体を含む。一実施態様において、キットは、正常で健常な眼における様々なペプチドの濃度に関する情報を提供する標準曲線を提供する。場合によっては、または上記に代えて、指示書は、対象体の細胞または組織における疾患または障害を軽減する1以上の方法を説明し得る。本発明のキットの指示書は、例えば、本発明のペプチドが入っている容器に添付されるか、ペプチドが入っている容器と一緒に出荷され得る。または、指示書および化合物は受取人によって協同的に使用されることを意図して、指示書を容器とは別に出荷してもよい。
以下、本発明の実施態様をさらに挙げる:
[項1]
ドライアイを有する対象体を特定するための方法であって、該対象体から得られた涙液検体中に、
潜在型ヘパラナーゼ;
90kDa 脱グリカン化SDC-1;
25kDa SDC-1;および
不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアント;
からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質が存在することを検出することを含み、
正常な眼からの涙液中に存在するレベルと比較して潜在型ヘパラナーゼレベルの減少または活性型ヘパラナーゼの増加;
正常な眼からの涙液中に存在するレベルと比較して90kDa 脱グリカン化SDC-1レベルの減少;
25kDa SDC-1の検出;および/または
不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントの検出
が、ドライアイを有する対象体を特定する方法。
[項2]
90kDa 脱グリカン化SDC-1および25kDa SDC-1の濃度を該対象体から得られた涙液検体中で測定し、正常な眼からの涙液中に存在するレベルと比較して25kDa SDC-1レベルの増加と一緒になった90kDa 脱グリカン化SDC-1レベルの減少が、ドライアイを有する対象体を特定する、上記項1に記載の方法。
[項3]
該対象体から得られた涙液検体を25kDa SDC-1の存在について検査し、25kDa SDC-1の検出が、ドライアイを有する対象体を特定する、上記項1に記載の方法。
[項4]
該対象体から得られた涙液検体を不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントの存在について検査し、不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントの検出が、ドライアイを有する対象体を特定する、上記項1に記載の方法。
[項5]
該対象体から得られた涙液検体を25kDa SDC-1および不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントの存在について検査し、25kDa SDC-1および不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントの検出が、ドライアイを有する対象体を特定する、上記項1に記載の方法。
[項6]
対象体をドライアイについて処置する方法であって、
a)該対象体から得られた涙液検体中に、
潜在型ヘパラナーゼ;
90kDa 脱グリカン化SDC-1;
25kDa SDC-1;および
不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアント;
からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質が存在することを検出することによって、ドライアイを患う患者を特定する工程であって、
正常な眼からの涙液中に存在するレベルと比較して潜在型ヘパラナーゼレベルの減少;
正常な眼からの涙液中に存在するレベルと比較して90kDa 脱グリカン化SDC-1レベルの減少;
25kDa SDC-1の検出;および/または
不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントの検出
が、ドライアイを有する対象体を特定する工程;および
b)ラクリチンポリペプチドを含む組成物と工程a)で特定した対象体の眼表面を接触させる工程
を含む方法。
[項7]
ラクリチンポリペプチドが、配列番号1のポリペプチド、または
KQFIENGSEFAQKLLKKFS(配列番号5);
KQFIENGSEFAQKLLKKFSLLKPWA(配列番号7);
KQFIENGSEFANKLLKKFS(配列番号6);および
KQFIENGSEFANKLLKKFSLLKPWA(配列番号8)、
からなる群より選択されるラクリチンまたは1もしくは2つのアミノ酸置換により配列番号5、配列番号6、配列番号7もしくは配列番号8と異なる配列番号5、配列番号6、配列番号7もしくは配列番号8の誘導体の生物活性断片である、上記項6に記載の方法。
[項8]
ラクリチンポリペプチドが、配列KQFIENGSEFAQKLLKKFSLLKPWA(配列番号7)からなる、上記項6に記載の方法。
[項9]
治療上有効量の、KQFIENGSEFAQKLLKKFSLLKPWA(配列番号7)、または1つのアミノ酸置換によりKQFIENGSEFAQKLLKKFSLLKPWA(配列番号7)と異なる配列からなるペプチド;および医薬的に許容される担体を含む医薬組成物であって、対象体の眼表面への局所投与のために製剤化される組成物。
[項10]
該ペプチドが、配列KQFIENGSEFAQKLLKKFSLLKPWA(配列番号7)からなる、上記項9に記載の医薬組成物。
[項11]
さらにリン脂質、界面活性剤、防腐剤、抗酸化剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、共溶媒または増粘剤を含む、上記項9または10に記載の医薬組成物。
[項12]
必要とする対象体において角膜創傷治癒を増強する方法であって、配列番号1の配列を有するラクリチンポリペプチドまたはその生物活性断片を含む組成物と該対象体の眼表面を接触させることを含む方法。
[項13]
工程a)で特定した対象体の眼表面を、
KQFIENGSEFAQKLLKKFS(配列番号5);
KQFIENGSEFAQKLLKKFSLLKPWA(配列番号7);
KQFIENGSEFANKLLKKFS(配列番号6);および
KQFIENGSEFANKLLKKFSLLKPWA(配列番号8)、
からなる群より選択されるラクリチンまたは1もしくは2つのアミノ酸置換により配列番号5、配列番号6、配列番号7もしくは配列番号8と異なるその誘導体の生物活性断片と接触させる、上記項12に記載の方法。
[項14]
アミノ酸置換が、配列番号7の番号付けに対して4、6、8、10、17および19の位置にある、上記項13に記載の方法。
[項15]
ラクリチンの生物活性断片が、配列番号7、または配列番号7の番号付けに対して4および/または19から選択される位置における1もしくは2つのアミノ酸置換により配列番号7と異なるその誘導体からなる、上記項13に記載の方法。
[項16]
ラクリチンの生物活性断片が、KQFIENGSEFAQKLLKKFSLLKPWA(配列番号7)からなる、上記項13に記載の方法。
[項17]
対象体が、PRK(レーザー屈折矯正角膜切除術)またはLASIK(レーザー角膜内切削切除形成術)手術から回復している、上記項12~16のいずれか一項に記載の方法。
[項18]
配列番号5、配列番号6、配列番号7もしくは配列番号8から選択されるラクリチンまたは1もしくは2つのアミノ酸置換により配列番号5、配列番号6、配列番号7もしくは配列番号8と異なるその誘導体のC末端断片;および医薬的に許容される担体を含む殺菌性組成物であって、対象体の眼表面への局所投与に適する組成物。
[項19]
アミノ酸置換が、配列番号7の番号付けに対して4、6、8、10、17および19の位置にある、上記項18に記載の組成物。
[項20]
ラクリチンのC末端断片が、KQFIENGSEFAQKLLKKFSLLKPWA(配列番号7)からなる、上記項18に記載の組成物。
[項21]
組成物がさらに第2の抗菌剤を含む、上記項18~20のいずれか一項に記載の組成物。
[項22]
第2の抗菌剤がリゾチームである、上記項21に記載の組成物。
[項23]
リゾチームのラクリチンのC末端断片に対する重量比が4:1~3:1である、上記項22に記載の組成物。
[項24]
角膜感染症を処置する方法であって、上記項18に記載の組成物と必要とする対象体の角膜を接触させることを含む方法。
[項25]
ドライアイの処置のための医薬の製造におけるKQFIENGSEFAQKLLKKFSLLKPWA(配列番号7)の配列からなるペプチドの使用。
【実施例0190】
実施例1
ドライアイ疾患の同定
手順
細胞培養、コンストラクトおよび抗体
ヒト角膜上皮(HCE-T)細胞をRIKEN BioResource Center(つくば市、日本)から購入し、継代3および15間を使用した。HCE-T細胞を培養し、4 mg/mlインスリン、100μg/ml EGF、500μg/mlコレラ毒素および5μl/ml DMSOを含むDMEM/F-12中で保存した。プライマリーヒト角膜上皮細胞(PCS-700-010)をATCC(Manassas、VA)から購入し、推奨の培地中に広げた。
【0191】
45、65および71アミノ酸のN-末端欠損体、ならびに点変異体V69S、I73S、I98S、F104S、L108S、L109S、F112S、I68S/I73S、V91S/L109SおよびL108S/L109S/F112SをpLACから発達させた。すべてのコンストラクトをDNA配列決定により確認した。ラクリチンおよび欠損体または点変異体(欠損変異体「C-25」を含む)をEscherichia coliにおいて生じさせ、以前説明されている(Wang et al, (2006) J. Cell Biol. 174, 689-700)ように精製し、フロースルー中にラクリチンが採取されるPBS中のDEARに対して更に精製した。精製ラクリチンは、ろ過滅菌され、凍結乾燥保存された。
【0192】
「抗-Pep Lac N-末端」としてキーホールリンペットヘモシアニン-結合EDASSDSTGADPAQEAGTS(「Pep Lac N-末端」)に対して、および「抗-N-65 Lac C-末端」としてラクリチン欠損変異体N-65に対して(Bio-Synthesis Inc., Lewisville, TX)、New Zealand WhiteラビットにおいてポリクローナルNおよびC末端特異的抗ラクリチン抗体をそれぞれ生じさせ、区別した。キーホールリンペットヘモシアニン-結合DPAQEAGTSKPNEEISに対してマウスにおいてモノクローナル N末端-特異的抗-ラクリチン抗体を生じさせ(University of Virginia Lymphocyte Culture Center)、1F5-C9-F4(「1F5」;IgG1)としてラクリチン欠損変異体C-59に対してクローニングする3つのラウンドにより検査した。
【0193】
涙液および生存率分析
眼瞼と眼の間でミリメートルグラデーションを有するフィルターウィッキング「シルマー」試験紙の挿入により0.5%プロパラカイン麻酔した眼から涙液を採取し、個々に-70℃で保存した。溶出前に、正常またはドライアイの涙液総量を各試験紙へ引っ張られた涙液のミリメートルから推定した。これは、溶出のためにそれぞれ用いられるPBSの最終量を定義した。貯留された正常の涙液または貯留されたドライアイの涙液を-70℃で使用するまで保存した。
FOXO3転座アッセイについて、α-MEM(5.54 mm グルコース)中カバーガラス上にサブコンフルエンス(約50%)までHCE-T細胞を3回培養し、IFNG(100 units/ml;Roche Applied Science)中で一晩感作し、10 nmラクリチンまたはC-25を含むまたは含まないTNFを加えたα-MEM(50 ng/ml;PeproTech, Rocky Hill, NJ)で1:100希釈した正常またはドライアイの涙液で15分間処理した。細胞を洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで固定し、FOXO3(1:200;Millipore, Billerica, MA)、続いてヤギ抗-ウサギ二次抗体の免疫染色し、Zeiss LSM 700顕微鏡で見た。
【0194】
いくつかの実験をラクリチンの免疫枯渇させた正常な涙液で実施した。免疫枯渇について、ウサギ抗-Pep Lac N-末端および抗-N-65 Lac C-末端をプロテインAビーズ上に一緒に固定し、洗浄した。ウサギ免疫前カラムを擬枯渇涙液として同様に調製した。正常な涙液との各々の一晩インキュベーションからのフロースルーを採取し、上記のTNFでIFNG-感作した細胞において3回アッセイした。バリデーションについて、各カラムからの酸溶離剤をSDS-PAGEにより分離し、ニトロセルロースに移し、マウス抗-ラクリチン抗体1F5およびマウス-特異的ペルオキシダーゼ-標識二次抗体を用いてラクリチンについてブロットし、続いて化学発光を検出した。
【0195】
3-(4,5-ジメチル-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)(MTT)還元アッセイ(Invitrogen)またはNucleocounter(New Brunswick Scientific, Edison, NJ)を用いて生存率をモニターした。細胞を500 細胞/mm2の密度で24-ウェルプレートに一晩播種して、翌日約80%コンフルエンスに増加させた。その後、細胞をα-MEM中のIFNG(100 units/ml)にて一晩感作し、10 nmラクリチンまたはラクリチン欠損体もしくは点変異体で、または上記のTNFを加えたα-MEM中の種々のラクリチン投与量で、15分間3回処理した。
【0196】
阻害剤の包含は、他に断る場合を除きすべての生存率および他の実験においてラクリチンまたはC-25の添加と同時でありであった。阻害剤は、PI103(0.5μm;EMD、Darmstadt、Germany)、ラパマイシン(10および100 nm;EMD)、およびシクロスポリンA(0.1μm;EMD)を含んだ。1つの例外は4-メチルウンベリフェリル-β-d-キシロピラノシド(「キシロシド」;70および80 nm;Sigma)であり、これはIFNG間作中ならびにTNFおよびラクリチンで処理中に加えられた。アッセイを各ウェルへのMTT(5 mg/ml)、続いて0.04 n HClとともにイソプロパノールの添加により完了し(37℃で4時間)、630 nmの参照波長を用いて570 nmにおいて測定した。Nucleocounter(New Brunswick Scientific)において生存率をアッセイした。
【0197】
結果
涙液は、タンパク質、脂質および代謝物において豊富な半透明膜として血管の無い膜上皮および血管のある結膜に溜まる。眼瞼を保湿するその能力を超えて、涙液は、光の屈折に不可欠である。涙液の役割は、角膜上皮の健康の促進において等しく重要で、薬物または点眼剤によって置き換えられない。涙液が慢性的に不十分であるとき、上皮はストレスを受け、状況をさらに悪化させる炎症性サイトカインを放出する。ドライアイは、全人口の5~6%に影響を与えており、閉経後の女性および老年者においてそれぞれ6~9.8%および34%まで増加する。最も一般的な眼の疾患であるが、単一のゴールドスタンダード診断テストはなく、効果的な処置もない。現在の方法としては:a)対象体調査票、b)眼表面損傷のローズベンガルまたはリサミングリーン染色、c)涙液量のシルマー試験紙測定、d)涙液破壊時間、e)涙液蒸発率、f)涙液メニスカス高さまたは半系、g)涙膜インデックスまたはターンオーバー率、h)涙液のオスモル濃度、i)リゾチームまたはラクトフェリンアッセイ、およびj)涙シダ状結晶分析が挙げられ、これらの各々は多数の欠点を有する。
【0198】
涙液プロテオームは、1,543のタンパク質を含むと推定され、半分以上が遺伝子オントロジーにより「細胞内」のものとして指定され、正常な上皮再生からの細胞死が寄与し得ることを示唆する。軽症から重症な水分欠乏へ下方制御される唯一の増殖因子様分子は、ラクリチンであった。73人の正常な個体からの涙液の涙液減少型ドライアイを患う129人の個体との2-D SDS PAGEによる比較は、ラクリチンが涙液減少型ドライアイの95%において下方制御されることを明らかにした。ウサギにおいて局所的に添加されたとき、ラクリチンは基礎的流涙を促進した。ドライアイにおいて下方制御されることが分かった別の涙液タンパク質は、リポカリン-1であった。リポカリン-1は、そうでなければ眼表面を湿らせることを妨げるだろう脂質の眼表面を浄化する。ラクリチンは、おそらく一部にコンタクトレンズ上に容易に吸着するため、コンタクトレンズ関連ドライアイにおいて最も激しく下方制御されるタンパク質であった。それはまた、眼瞼の一般的な炎症であり、蒸発亢進型ドライアイに関連する眼瞼炎において不足する。しかしながら、質量分析前の2-D SDS PAGEは、ラクリチン下方制御を識別するのに必要であり、臨床使用の実用的でない方法である。
【0199】
いくつかの分子がラクリチン活性に必要である。シンデカン-1(SDC1)の異常な脱グリカン化形態は、生理的塩にてラクリチンカラムに結合する細胞表面タンパク質の質量分析配列決定により、ラクリチンのための主要な細胞表面結合タンパク質であることが発見された。バリデーションはアフィニティー沈殿によった。SDC1は、短い細胞質尾で血漿膜に固定されたカルボキシ末端を有する広く発現される細胞表面ヘパリン硫酸プロテオグリカンであり、短いコンドロイチン硫酸鎖を有しないまたは有する、近位にセリン184および194においてコンドロイチン硫酸鎖で(ヒトSDC1;番号付けはシグナルペプチドを除外する)、および遠位に3つまでのヘパリン硫酸鎖(セリン15、23、25)で置換された外部ドメインである。ラクリチンのC末端α-ヘリックスは、SDC1アミノ酸1~50内のドメインを結合し、先のヘパリン硫酸のヘパラナーゼ脱グリカン化に依存して結合している。SDC1のSiRNAノックダウンは、ヘパラナーゼ(ヘパラナーゼ-2ではない)が枯渇するようにラクリチン依存分裂促進活性を抑止するが、外因性ヘパラナーゼの添加によりまたは細菌ヘパリチナーゼで救いられ得る。結合ドメインは、ラクリチンC末端α-ヘリシティを増強する疎水性アミノ酸20~30に絞らせている。結合はまた、ヘパラナーゼ開裂ヘパリン硫酸と隣接コンドロイチン硫酸の疎水性核タンパク質の新規なハイブリッドドメインとして、S23およびS25(潜在的にS15)のヘパリン硫酸およびコンドロイチン硫酸での置換に依存した。ヘパラナーゼは広く発現されない。SDC1のコンドロイチン硫酸でのN-末端置換は一般的でない。
【0200】
我々は、非常に感度のよい蛍光発光法を用いて涙液中のSDC1を見た。視力矯正レーザー屈折矯正角膜切除術またはLASIK手術を受けた146人の個体からの涙液をシルマー試験紙上に採取し、1日、1週間および1ヵ月後さらに涙液を採取した。涙液を-70℃に保管し、涙液と等量のPBSで溶出し、時間および正常(≧15 mm)対ドライアイ(≦5 mm)の涙液いずれかによって貯め、その後SDS-PAGEにより分離した。分離した涙液タンパク質をニトロセルロースにに移し、抗-SDC1 mab A-38Bでブロットした。二次absを涙液カラムに関してプレクリアーし、そしてab C-末端をC-59ラクリチントランケーション変異体に関してプレクリアーした。ラクリチンが標的とするSDC1からの稀なヘパラナーゼ脱グリカン化形態において(図1)、正常な涙液は予想外にも豊富であった。SDC1の脱グリカン化形態のほとんどは、ドライアイの涙液において見られなかった。脱グリカン化SDC1は、約90(図1)から約80kDaへまたは約60kDaにさえ分子量において変化し得て、これは様々な上皮間で変化し得るO-グリコシル化レベルに依存する。レーザー屈折矯正角膜切除術またはLASIK手術の1日後、涙液の約90kDa SDC1は正常とドライアイ間で区別がつかず、手術に誘導されたドライアイと一致した。新しい約25kDa SDC1断片は、ドライアイと初め指定したものにおいて見られた(図1)。脱グリカン化SDC1および流涙は、1週間および1ヵ月後正常な個体において回復した。しかしながら、ドライアイ関連約25kDaバンドは、アッセイした時間枠全体にわたって維持された(図1)。したがって涙液中の約90kDaシンデカンは、正常のマーカーである。約90kDaシンデカンを欠くものはドライアイを有する。また約25kDa形態は、PRKまたはLASIKを受けたドライアイの個体を識別する。
【0201】
涙液における不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントについてのブロットはまた、ドライアイを示すことが分かった(図2A)。ラクリチン-cは、C-末端をコードするエクソン4および5から配列を欠き、天然ラクリチンに存在しない更なる配列を有する。代わりに、イントロン3からの不活性型の新たなC-末端はスプライスされる。我々はさらに、正常な涙液においてより潜在的ヘパラナーゼとの涙液ヘパラナーゼにおける差異を発見し(レーザー屈折矯正角膜切除術またはLASIK手術の1日後を除く;図3)、一方、活性型ヘパラナーゼはドライアイの涙液において豊富であった。その潜在型65kDaから活性型58kDaヘテロダイマー型へ処理されるヘパラナーゼの分泌は、UTPにより刺激される。UTPは、ムチンの産生を含むと考えられる機構によるドライアイのための処置案である。これらの観察は、眼表面における生理学的なラクリチン、UTPおよびヘパラナーゼ間の潜在的なつながりを示唆する。
【0202】
まとめると、涙液減少型ドライアイの涙液は、脱グリカン化したSDC1および潜在型ヘパラナーゼに劇的により少なく関連するが、SDC1断片および慢性的に活性なヘパラナーゼ、ならびに正常な活性ラクリチンを使って不活性型ラクリチン-Cスプライスバリアントに本質的により多く関連する。これらの状態は、ラクリチンを局所的に回復させることにより反対にされ得るドライアイの悪化または開始に適切である。
【0203】
ドライアイ疾患の同定-特異的処置
一般的に用いられる「人口涙液」は、ドライアイに関連する症状をこれらの症状の原因に対処することなく一時的に軽減する。抗炎症剤シクロスポリンの眼科用製剤が現在広く使用されている。それおよび他の抗炎症剤が臨床試験されているが、一般的にドライアイ対象体の約15%のみに有益である。炎症の結果に着目するか、または他の臓器系のために開発された薬物を適用するよりむしろ、眼表面の天然の生態および何がドライアイにおいてかけているかを考慮することに利益がある。正常なウサギの眼に局所添加したときに基礎的流涙を促進するラクリチンモノマーという天然の涙液タンパク質の下方制御は、ドライアイ疾患の上流の扇動者であり得る。なぜドライアイにおいてラクリチンモノマーが少ないのか。ラクリチンモノマーは、涙液中の組織トランスグルタミナーゼ(TGM2)により不活性型多量体に架橋される。ヒト涙液からのすべてのラクリチン単量体、多量体および断片を免疫枯渇することによりこれを実証した。免疫枯渇させた涙液中にスパイクした組み換えラクリチンは、37℃で一晩インキュベーション後、二量体、三量体および四量体を形成した。涙液なしの陰性コントロールにおいて、少量の二量体が形成された。架橋は、シンデカン-1を標的とするラクリチン分裂促進ドメイン(アミノ酸100~109)内にグルタミン106を含む。架橋ラクリチンは、本質的にあまりシンデカン-1と結合せず、活性がより低い(図5;右2つの棒グラフ)。ブロッティングは、正常なヒトの涙は0.6μM TGM2を含み、それ故に単量体ラクリチンの陰性レギュレーターとして作用するように思われることを示唆する。ヒト角膜上皮細胞は、TGM1およびTGM2のmRNAの両方を発現する。両方のmRNA発現は、高浸透圧ストレスで特にTGM1を増加させるが、TGM1は涙液中で検出されなかった。したがってラクリチンは、ドライアイにおいて架橋の促進および非活性化を受け得る。
【0204】
ホメオスタシスの調節に必要なラクリチンドメインを定義するためにトランケーションおよび点変異体を生じさせた。C-25トランケーション変異体の不活性は、α-ヘリカルでおよびおそらく両親媒性であることが依然示され、それ故に指図されたラクリチンのC-末端において細胞保護的ドメインを定義した。両親媒性α-ヘリックスの疎水面は、高親和性アゴニスト-受容体またはコレセプター相互作用を介在し得る。この可能性をアッセイするために、疎水性残基を1、2または3倍に突然変異させた。またトランケーション、および野生型と完全に異なる配列を有するラクリチン-CスプライスバリアントのC-末端(「I3」)を生じさせた。アミノ酸の全体にわたる番号付けは、シグナルペプチドを有しない成熟タンパク質のものである。疎水性面の変異体I98S、F104S、L108S/L109S/F112SおよびF112Sは、有意に活性が低い(Wang et al, ‘13)。活性は、隣接α-ヘリックスにおいてL65S、I68S/I78S、V69SおよびI73Sの変異により影響されなかった。45、65または71のN-末端アミノ酸の削除は効果がなく、I3は不活性であった。L108、L109およびF112は、シンデカン-1核タンパク質配列GAGALと相互作用する。
【0205】
正常な個体またはドライアイと診断されたものからの基礎的な涙液を、炎症性サイトカインのインターフェロン-γ(INFG)および腫瘍壊死因子(TNF)(よりインビボのドライアイ相当物に類似)でストレスを与えられたヒト角膜上皮細胞とインキュベートした。角膜転写因子FOXO3の核-細胞質転座は、細胞ストレスのための単純な読み出しとして働き、細胞質FOXO3は回復したホメオスタシスを示した。核FOXO3は、概して細胞ストレスまたは死について転写する。正常な涙液で処理されるストレス細胞において、FOXO3は、細胞質へ移動した。しかしながら、ドライアイの涙液でFOXO3は核を維持する。次に、正常な涙液は、補い得る他の増殖因子を有するが、ラクリチンを正常な涙液から免疫枯渇した。また、ドライアイの涙液をラクリチンでスパイクした。ドライアイの涙液は、高浸透圧性および炎症性両方のサイトカイン豊富である。擬枯渇涙液は、FOXO3を細胞質へ移動させたが、一方、FOXO3は、ラクリチン枯渇涙液で処理された細胞中に核を維持した。ドライアイの涙液はラクリチンでスパイクしたが、ラクリチントランケーション変異体C-25(C末端25アミノ酸を欠く)でスパイクしたのでなく、FOXO3を細胞質へ移動させた。C-25でなくラクリチンはまた、INFG/TNFストレスを受けたプライマリーヒト角膜上皮細胞においてFOXO3を移動させた。したがってラクリチンは、正常な涙液の優れたプロテクターである。
【0206】
生物活性ラクリチンのC末端断片(LACRIPEP;配列番号7)を用いてこの試験を繰り返した。上記のようにストレスを誘導するために培養したヒト角膜上皮細胞を炎症性サイトカインで処理し、細胞を10 nMの不活性型ラクリチントランケーション変異体(C-25)、ラクリチンまたはLACRIPEPで処理した。FOXO3アッセイにおける細胞質染色の測定(核FOXO3染色は細胞死を示す)は、LACRIPEPが、陰性コントロール(C-25)と比較して細胞生存の増強においてラクリチン(図4A参照)と同等に活性であることを示す。したがって、本願出願人は、LACRIPEPがすべての適用についてラクリチンの代わりになり得ると予想する。
【0207】
自己免疫性レギュレーター(Aire)-欠損[Aire-/-]マウスは、ドライチャンバーまたはスポラミンを必要とせずに自然発生的にドライアイを生じる。Aire-/-マウスは、50μg/mlのラクリチン10μl、またはコントロールにおいてはPBSを1日3回3週間された。いくつかの種々のアッセイは、結果をモニターした。PBSを局所投与されたもの(白丸)のと比較してAire(-/-)ドライアイマウス(図4B;黒丸)においてドライアイ疾患が生じるので、ラクリチンの生物活性断片、LACRIPEP(配列番号7)は、流涙の損失を防ぎ、涙腺の炎症を低下させた。局所ラクリチンは、リンパ球性病巣の数/涙腺組織のミリメートル平方面積当たりとして測定される涙腺へのCD4+T細胞湿潤は低下したが(平方mm当たり3.68±0.65 ラクリチン対平方mm当たり9.7+1.5 PBS;P=0.01)、角膜基質(14.6±1.6 ラクリチン対12.4±2.1 PBS)または角膜縁(29.6±2.5 ラクリチン対34.6±2.9 PBS)いずれかへのCD4+T細胞のパターンまたは分布に明白な効果はなかった。
【0208】
ドライアイからの眼表面粘膜損傷を評価するために、Aire(-/-)ドライアイマウスの眼にリサミングリーンを局所投与し、これはPBS処理した眼を時間と共に次第に染色した(図4C参照)。対照的に、局所ラクリチンは有意に染色を減少させた(-0.417±0.06 ラクリチン対0.125±0.07 PBS;p=0.02)。さらに、ラクリチンは、ケラチン10(皮膚上皮マーカー)レベルを減少させ、このことは慢性炎症に関連する角膜ケラチン化を妨げる能力を示唆し、一方、ケラチン12)発現(角膜マーカー)は安定なままであった(80.1±4.8% ラクリチン対85.6±1.8%;P>0.10)。さらに、LACRIPEPを投与されたAire(-/-)ドライアイマウスはまた、あまり角膜染色されないと分かり、PBS(白丸)と比較してドライアイ疾患(図4C;黒丸)が発達するのでこれは細胞死の指標である。したがって、局所ラクリチンおよびその生物活性断片は、ドライアイにおいて涙腺炎症および角膜染色を低下させ、眼表面分化を促進した。重要なことには、炎症の抑制および流涙の促進が、炎症性細胞または涙産生細胞いずれとの直接接触なしで達成された。
【0209】
局所ラクリチンは、涙腺房細胞への物理的アクセスなしで流涙を刺激する。応答の速さは、角膜知覚神経活性化と一致する。個々の角膜知覚神経活性を以前記載された方法によりラットの三叉神経節のレベルにおいてモニターした。局所ラクリチンは神経刺激性であるという所見がこれらの研究から明らかになった。局所ラクリチンは、神経の「乾燥応答」を増強し、神経の「湿潤応答」をより少ない程度にした。「乾燥応答」は、角膜の乾燥の結果としての神経活性化を意味し、これは流涙に重要なTRPM8介在刺激であると考えられ、一方、アゴニストが角膜神経末端に存在するとき「湿潤応答」は生じる。陰性コントロールトランケーション変異体C-25によりこれらの応答いずれも影響されず、このことは神経刺激および流涙両方におけるC末端α-ヘリックスの重要性を支持する。ラクリチンによる乾燥応答の増強は、TRPM8チャネルの調節によりそうである:アドレナリンα2Aおよび/またはα2C受容体によって角膜が潤っている間の(ボード上のラクリチンで)完全に阻害されたTRPM8状態から、角膜が乾燥している間の(ラクリチ除去で)完全に低下(活性化)した状態までに及ぶ。角膜が潤っている間のTRPM8活性が始めは低いため、角膜が潤っている間のラクリチンによる活動電位の明らかな阻害は小さく、一方、眼表面の動的冷却が生じるとき、角膜が乾燥している間にそれは最適なレベルに到達する。ラクリチンはまた、TRPM8神経密度を増加させ得る。
【0210】
乾燥応答の刺激は、間接または直接的機構により得た。角膜上皮のラクリチン刺激は、2つの細胞タイプ間のジャンクション様複合体を介して感覚性ニューロンを間接的に標的とし得た。しかしながら、これらは珍しいと考えられる。神経終末へのラクリチンアクセスを妨げる上皮タイトジャンクションが直接機構に対して主張する。しかしながらCa2+およびいくつかの増殖因子は、タイトジャンクションを緩め得る。PDGFは、内皮タイトジャンクションのVEGFがするように、数分以内で培養腎臓細胞間のタイトジャンクションを透過性にし、一方、重層角膜上皮の表面細胞の慢性的な透過化が、MMP9-または炎症性サイトカイン関連炎症およびエンドトキシンチャレンジからの細菌感染症において観察される。ラクリチン依存Ca2+動員は、神経アクセスのための迅速で急性の透過化を促進するのに十分であり得る。我々は、2工程のプロセスが含まれると予想する。第1に、カルシウムがタイトジャンクション透過性を制御するため、表面の角膜上皮細胞のラクリチンまたはラクリチンペプチド標的化は、おそらく初期エンドソームへのオクルディンの輸送の一時的な増加、または角膜上皮のラクリチン依存カルシウムシグナル伝達により、タイトジャンクションを微妙に緩めるのを促進する。我々は、ラクリチン刺激カルシウムシグナル伝達あたり20秒以内、およびラクリチン刺激オートファジーが1分までであるので、プロセスは1分以内に活性化されると予想する。このように、ラクリチンまたはペプチドは入り込む。続いて生じる神経刺激は、角膜創傷治癒における神経刺激の重要性ごとでのように、タイトジャンクションの再閉鎖を引き起こすのに十分であり得る。
【0211】
シンデカン-1は、細胞のラクリチン標的化を介在する細胞表面のヘパリン硫酸プロテオグリカンであるが、ヘパラナーゼ後のみ(Ma et al, ‘06)がヘパリン硫酸鎖間に位置するGAGALを発現した。ヘパラナーゼはまた、ラクリチン結合に必要とされるように見えるヘパリン硫酸の残りを生じ、このことはハイブリッドGAGAL/ヘパリン硫酸結合部位を示唆する。この相互作用の役割を評価するために、4-メチルウンベリフェリル-b-D-キシロピラノシド(「キシロシド」)中で一晩細胞を培養して、ヘパランおよびコンドロイチン硫酸アッセンブリーを競合的に抑制した。キシロシドは、完全にラクリチンの細胞保護的活性を停止させた。したがって、これらの活性は、シンデカン-1結合ドメインを含むC-末端中の領域に依存する。さらにラクリチン活性は、合成的に生成されたときラクリチンと同じくらい強力である配列KQFIENGSEFAQKLLKKFS(「N-94/C-6」;配列番号5)(Wang et al., 2006)またはKQFIENGSEFAQKLLKKFSLLKPWA(「N-94」;配列番号7)(Zhang et al., 2013)内で完全に一体化されるように見える。
【0212】
角膜知覚ニューロンのラクリチン標的化。アドレナリンα2C選択的アンタゴニストMK912は、シンデカン-1阻害剤キシロシドがするように、HCE-T細胞におけるラクリチン加速オートファジーを阻害する。両方はまた、ラクリチン刺激FOXO3リン酸化を阻害する。10μMラクリチン前、間および1時間の間/後の角膜ニューロンの活性プロファイルは、少しの阻害(約12~約8スパイク/s)が、おそらくTRPM8チャネルを阻害するα2アドレナリン受容体活性化のため、ラクリチンの適用直後に従うことを明らかにする。ラクリチンの1時間後のこの阻害の除去および洗浄は、乾燥(約20~約23スパイク/s)および湿潤応答(約12~約16スパイク/s)の興奮の増強を生じる。
【0213】
実施例2
T涙液ラクリチンのモノマー形態は、眼表面ストレスの緩和に関与する多機能因子である。それはまた、基礎的流涙のアゴニストである。モノマーラクリチンは、細胞表面のシンデカン-1(SDC1)のヘパラナーゼ(HPSE)脱グリカン化形態を標的とする。しかしながら、重合化ラクリチンおよびラクリチン-Cスプライスバリアントは両方、SDC1を標的とできず、それ故に不活性である。我々は、SDC1またはHPSEいずれかがドライアイの涙液においてモノマーラクリチンを置き換えられ得るか、およびSDC1またはHPSEが不適当でありウ得るかを調べた。
【0214】
方法:レーザー屈折矯正角膜切除術の前ならびに1日、1週間および1ヵ月後に、146人の個体からシルマー試験紙上に涙液を採取した。涙液を-70℃で保存し、後に涙液と等量のPBSで溶出し、時間および正常(≧15 mm)対ドライアイ(≦5 mm)の涙液によって貯めた。涙液をSDS-PAGEにより分離し、抗-N-末端特異的ラクリチンmab 1F5、抗-C末端特異的ラクリチンab「ab C-末端」、抗-ラクリチン-Cスプライスバリアントmab 4G6、抗-SDC1 mab A-38B、ならびに抗-ヘパラナーゼabs #733および#1453でブロットした。二次absを涙液カラムに関してプレクリアーし、そしてab C-末端をC-59ラクリチントランケーション変異体に関してプレクリアーした。
【0215】
結果:Ab C-末端は、ドライアイ対正常な涙液においてより少ないラクリチンモノマーを検出し、欠乏は明らかにラクリチン-Cスプライスバリアントの増加によりドライアイにおいて補われた。1F5 mab エピトープは両方の形態により共有され、それ故に推定されるハイブリッドバンドはドライアイにおいてより見られる。正常な涙液は、潜在型(uncleaved)HPSEおよび脱グリカン化SDC1において豊富であった。PRKの1日後、ラクリチン-Cはさらにドライアイにおいて増加し、正常において両方SDC1およびHPSEが減少した。PRK前の状態への復帰は、1ヵ月までに明白であった。
【0216】
結論:涙液減少型ドライアイ涙液は、ラクリチンモノマーの減少、ラクリチン-Cスプライスバリアントの増加、ならびにより少なく脱グリカン化したSDC1および潜在型HPSEに関連する。これらの状態は、ドライアイの悪化または開始に適切である。
【0217】
実施例3
25アミノ酸ラクリチンのC末端断片の安定性
最も多い合成ペプチド薬の制限は、それらのプロテアーゼ感度である。HIVプロテアーゼレトロペプシンおよびカテプシンKのみが、PROSPER(プロテアーゼ特異性予測サーバー)分析に従いLACRIPEPを開裂でき、前者は中間において切断し、後者は最後のアラニンを取り除く。レトロペプシンは、LACRIPEPを不活性化するだろう。一方カテプシンKは、影響を有しないだろう。しかしながら、いずれのプロテアーゼも正常なヒトの涙液において見られない。それにもかかわらず、涙液は他のプロテアーゼに富む。したがって、我々は、2、4、6および16時間37℃で正常なヒト涙液中においてLACRIPEPをインキュベートした。免疫ブロッティングのために、我々は、最初に免疫枯渇によりすべての内因性ラクリチンを取り除いた。37℃で2~16時間ラクリチン枯渇ヒト涙液中にてインキュベーション後の、種々のタンパク質からのプロテアーゼ感受性陽性コントロール「SN pep」およびLACRIPEP(「N-94」)の免疫ブロットを示す図6Aに示されるように、LACRIPEPは少なくとも16時間非常に安定であった。SN pep、Lacripep(「N-94」)、および6つC末端アミノ酸を有しないLacripep(「N-94/C-6」)の質量分析は、37℃で4時間ラクリチン枯渇涙液中にてインキュベーション後の3つのペプチドの比較による安定性を示す(図6B)。驚くべきことに、より小さいラクリチンのC末端断片(N-94/C-6;配列番号5)は、LACRIPEPペプチド(配列番号7)ほど安定でないことが分かった。質量分析は、Lacripep(「N-94」)および6つC末端アミノ酸を有しないLacripep(「N-94/C-6」)が涙液中で同様の安定性を有し、6つC末端アミノ酸を有しないLacripep(「N-94/C-6」)が62℃(図6B)で29日間リン酸緩衝生理食塩水中にて安定であったことを示唆されたが、免疫ブロッティングは、N-94/C-6が37℃で4時間ラクリチン枯渇涙液にてインキュベーション後エピトープを消費するが、Lacripep(「N-94」)ではそうでないことを示す。したがって、天然ラクリチンの最後の6つのアミノ酸は、N-94をN-94/C-6と比較して優れた医薬ペプチドにするラクリチンの生物活性断片の安定性を高めるのに関連がある。
【0218】
LACRIPEPの別の利点は、その低い最適用量である。ヒト細胞培養において、その最適容量は1~10 nMである。動物実験において、約4μM(0.0012%)が最適である(図7Aおよび7B)。4μM LACRIPEPはまた、殺菌性であるが溶血性でないことが分かった。全タンパク質としてラクリチンは殺菌活性を有しない。
【0219】
全身毒性試験においてLACRIPEPをモニターするために、LACRIPEPをヨウ素化のための1つのC末端チロシンで合成し、125I-Lacripep-Yを形成した。単回4μM用量の125I-Lacripep-Yを投与されたラットは、血液および血清において検出される最小レベルを有して眼の涙液中で高保持を示した(図8参照)。
【0220】
実施例4
涙ラクリチンの開裂増強断片は殺菌性である
実験手順
涙および涙免疫枯渇正常ヒトの基礎的な涙を回収した。簡単にいうと、0.5%プロパラカインで麻酔した眼からの涙を予め秤量した芯に回収し、-70℃保存のために急速冷凍した。涙を、各試験紙で30μlのPBSに20分浸し、続いて遠心することにより溶出した。免疫枯渇について、10倍希釈した涙を一晩(4℃)または1時間、室温で、「抗N-65 Lac C末端」または免疫前Igで飽和させたタンパク質Aビーズ(0.2 ml、NAb Spin Kit、Peirce/Thermo Scientific)とインキュベートした。N-65は、65 N-末端アミノ酸を欠くラクリチントランケーション変異体である。遠心(5000×gで1分)後の涙フロースルーを、次いで抗細菌活性についてアッセイした。
【0221】
ラクリチン構築物、精製、合成ペプチド、および質量分析-ラクリチンN-末端トランケーションN-55、N-65、N-71、およびN-75を、先に記載のように(Zhang et al, (2013)J. Biol. Chem. 288、12090-12101)親cDNA pLACからのPCRにより産生した。80(N-80)および86(N-86)アミノ酸のN-末端欠損を、それぞれ順方向プライマー
GGTGGTCATATGAAAGCAGGAAAAGGAATGCACGG(配列番号9)およびGGTGGTCATATGCACGGAGGCGTGCCAGGTGG(配列番号10)
および共通逆方向プライマーGGTGGTCATATGTATATCTCCTTCTTAAAG(配列番号11)を使用して産生した。全構築物をシークエンシングにより確認した。細菌タンパク質発現および組み換えラクリチンの精製およびラクリチントランケーションを先に記載のように行った(Zhang et al、(2013)J. Biol. Chem. 288, 12090-12101)。簡単にいうと、浄化細胞(ER2566またはBL21-CP)ライセートを、50 mM Tris、0.5 M NaCl(pH 8)で平衡化したキチンカラム(IMPACT-CN System;New England Biolabs Inc., Beverly, MA)に載せ、続いて20カラム容積で洗浄し、50 mM 2-メルカプトエタノールで16時間、室温で同じ緩衝液で溶出し、PBS(4℃)に対して広範な透析を行い、タンパク質定量化を行った。さらにDEAE精製で約9-kDaラクリチンタンパク分解性断片および細菌混入物を除去し、その中でラクリチンをリン酸緩衝液、pH 7.2中の140 mM NaClを用いるフロースルーとして回収した。合成ペプチドN-80/C-25、N-94、N-94/C-6、N-94/C-10、N-94/C-15、N-99、およびN-104をGenscript(Piscataway、NJ)で、アセチル化N末端を用いて合成した。純度は95%であった。ラクリチンC末端N-94、N-99、およびN-104以外の全てのC-末端はアミド化された。N-64/C-31はアミド化もアセチル化もされず、University of Virginia Biomolecular Research Facilityにより合成された。ラクリチン約9-kDa断片の性質を、ウェスタンブロットで探究した。簡単にいうと、DEAE前後のラクリチンをSDS-PAGEにより分離し、次いでそれぞれ0.3% Tween 20含有PBS中1:200または1:400に希釈した抗Pep Lac N-末端および抗N-65 Lac C末端抗体を用いて移動およびブロットした。検出はECLを用いた。
【0222】
断片精製について、キチン富化ラクリチンを、14 mM NaCl含有リン酸緩衝液(pH 7.2)に対して透析した。同緩衝液で平衡化したDEAEでインキュベーション後、約9-kDa断片をフロースルーで回収し、一方インタクト(18kDa)ラクリチンを、リン酸緩衝液、pH 7.2中の140 mM NaClで溶出した。タンパク質濃度決定(BCAアッセイ)後、両者を等分し、凍結乾燥し、-70℃で保存した。4-20% グラジェントゲル上のSDS-PAGEで分析した。約9-kDa断片の同一性を質量分析により決定した。
【0223】
細菌増殖、SYTOX Greenアッセイ、およびカラム上開裂-大腸菌(E. coli)(ATCC(Manassas VA)catalog no. 10536)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)(ATCC catalog no. 12228)、および緑膿菌(P. aeruginosa)(ATCC catalog no. 9027)を50mlのLuria-Bertani(LB)培地中対数中期まで増殖させ、10 mM NaCl含有リン酸緩衝液(pH 7.2;PB-NaCl)で遠心を用いて3回洗浄した。ペレットを1mlのPB-NaClに再懸濁した。
【0224】
ラクリチン阻害アッセイについて、各々PB-NaClで1:100希釈した50ulの細菌ペレットを1.5時間(37℃)、100ulのラクリチン、ラクリチントランケーション、または合成ペプチドと、最終濃度0.1-6uMでインキュベートした。混合物をPB-NaClに1:10希釈し、その後100ulをLB寒天プレート上に四つ組で蒔き、一晩、37℃で増殖させた。コロニーを手動で計数した。他の例において、対数中期大腸菌を37℃で0、1、2、または3時間、2uM ラクリチンまたはラクリチントランケーションまたはアンピシリン(5uM)またはテトラサイクリン(2uM)で処理した。各処理後、100ulを遠心し、1mlのPB-NaClに再懸濁し、LB寒天に蒔き(100ul)、一晩増殖(37℃)させ、コロニー計数した。
【0225】
塩感受性試験のために、ペレット化し、洗浄した対数中期大腸菌、表皮ブドウ球菌、または緑膿菌を1mlのPB-NaClに再懸濁し、上記のようにPB-NaClまたは130、280、または380mosmol/liter PB-NaCl中の3uM N-65で1.5時間(37℃)処理した。混合物をPB-NaClで1:10希釈し、その後各々の100ulを四つ組でLB寒天プレートに蒔き、一晩、37℃で増殖させた。コロニーを手動で計数した。
【0226】
細菌透過性アッセイのために、ペレット化し、洗浄した対数中期大腸菌を1mlのPB-NaClに再懸濁し、上記のように3uM ラクリチン、N-65、またはC-25または10% Triton X-100で処理した。同様に、洗浄した対数中期表皮ブドウ球菌を1mlのPB-NaClに再懸濁し、ラクリチンまたはC-25または約9-kDa精製ラクリチン断片で処理した。その後、1ulの0.5 mM SYTOX Greenを、96ウェル蛍光マイクロタイタープレートの各ウェルに添加した。Fluoroskan Ascent FL fluorometer (Thermo Fisher Scientific)を使用して、5分間隔で485nmおよび538nmの各励起および発光波長で読み取った。並行して、洗浄対数中期大腸菌の10% Triton X-100、PB-NaCl、または3uM N-65での1時間の処理後、SYTOX Green内在化を共焦点顕微鏡で可視化した。
【0227】
糖鎖付加を伴わない無細胞合成について、pLacSL中の完全長ラクリチンcDNAをPCR増幅し、製造者(New England Biolabs、Ipswich、MA)により供給されたpTXB1にサブクローン化した。無細胞合成および続くリボソームの除去、その後のHisタグ付因子の金属親和性樹脂吸着を製造者(New England Biolabs;PURExpress)の指示に従い実施した。発現直後、アリコートを-60℃で保存した。他のアリコートを37℃で24および48時間インキュベートした。各々をSDS-PAGEで分離し、移動させ、抗N-65 Lac C末端抗体でブロットした。
【0228】
ラクリチン開裂アッセイについて、表皮ブドウ球菌の飽和50-ml一晩培養からの上清を遠心(10分;11,000 rpm)により回収した。各上清を次いで4、16、および20時間(37℃)、PB-NaCl中、N-末端により固定化したラクリチン-インテイン含有キチンビーズとインキュベートした。C末端開裂産物をPBNaCl洗浄により回収し、SDS-PAGEで分離し、移動させ、抗N-65 Lac C末端抗体でブロットした。いくつかの実験において、表皮ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、緑膿菌、および大腸菌の一晩培養からの上清およびライセートを、一晩(37℃)、ラクリチンとPB-NaCl溶液中インキュベートした。混合物を次いでSDS-PAGEで分離し、移動させ、抗N-65 Lac C末端抗体でブロットした。並行試験は、PB-NaCl中37℃で0、24、48、および72時間または24時間(37℃)、1uM ペプスタチン、10uM ベスタチン、100uM アンチパイン、1 mM 4-ベンゼンスルホニルフルオリドヒドロクロリド、100uM キモスタチン、10uM E64、100uM ロイペプチン、または10 mM ホスホラミドンとまたは100℃で5分沸騰させた後24時間のキチン-インテイン固定化ラクリチンの完全性をモニターした。
【0229】
溶血アッセイ-いくぶん修飾したCerovsky' et al.の方法に従った。洗浄ヒツジ赤血球ペレット(MP Biomedicals, Santa Ana, CA)を、1時間、37℃で565ulのPBS+100ulのラクリチン、最終濃度2uMのN-55、N-65、N-71、N-75、N-80もしくはC-25または最終濃度6uMのN-65、N-64/C-31、N-80/C-25、N-94、N-94/C-6、N-94/C-10、N-94/C-15、N-99もしくはN-104に懸濁した。各陽性および陰性コントロールとして、Triton X-100(最終濃度5%)またはPBSを、ラクリチンまたはラクリチン断片の代わりに包含させた。遠心(250 x g;5分)後、540nmでの上清の吸光度をモニターした。
【0230】
メタボローム解析-洗浄した対数中期大腸菌を、6uM N-65またはPB-NaClと、15分、37℃で6複製で、各々1 X 108 細胞/複製でインキュベートした。次いで細胞を1回洗浄し、ペレットを-70℃で急速凍結して保存した。不偏代謝物解析を、GC/MSおよびLC/MS/MSを使用してMetabolon Inc.(Durham, NC)で行った。78代謝物が同定された。
【0231】
統計解析-単一メタボローム解析以外、全ての実験を少なくとも3回行った。代謝物データの統計解析を行い、そこで、生データ値を、正規分布として密接に分布させるようまず対数変換し、次いでノンパラメトリックWilcoxon検定および2検体t検定で評価した。p < 0.05である両検定について、代謝物を有意差と見なし、その相関パターンについて階層的クラスタリングによりさらに分析した。データを平均+/-S.Eとして報告する。
【0232】
結果
涙液中のラクリチン殺菌活性-涙は眼の表面を環境病原体から保護し、分泌促進性マイトジェンラクリチンに富み、これは、基底および反射で涙を流す間、眼の上を流れる。ラクリチンはタンパク分解性に処理されたC末端がヒト汗の殺菌活性に貢献するダームシジンと21%同一である。我々は、ラクリチンまたはラクリチン断片が殺菌活性を有するか否かの決定を探索した。半希釈した基礎的な涙は大腸菌増殖を完全に遮断し、大腸菌は、緑膿菌同様発展途上国における細菌結膜炎の顕著な貢献因子である。我々は、ラクリチンおよびC末端ラクリチン断片の両者を免疫枯渇するために固定化抗N-65 Lac C末端抗体(ab C末端)または免疫前Ig(偽枯渇)を通した涙で試験した。両者を、大腸菌および緑膿菌の用量依存的攻撃のために10倍希釈した。偽枯渇涙は大腸菌および緑膿菌コロニーを、涙液量依存的方法で抑制した。これは、リン酸緩衝液陰性コントロールとして無効であったC末端抗体-免疫枯渇させた涙と対照的であった。
【0233】
ラクリチンのC末端は殺菌性ドメインを含む-ラクリチンのC末端は、3個の予測α螺旋を有し、各々、円二色性により確認されている。最もC末端のα螺旋は両親媒性であり、大部分疎水性表面残基により、角膜上皮細胞増殖および生存のイニシエーターとしてのシンデカン-1を標的とする。両親媒性α螺旋と細菌膜の結合は不安定化され得る。これらまたは他のラクリチンドメインが殺菌性であるか否かを探索するために、我々は、組み換えラクリチンおよびラクリチントランケーションを産生した。各々をインテイン融合タンパク質として産生し、キチンで精製して、またインテインタグを除去し、DEAEで精製して、細菌混入物を除いた。ラクリチンおよびトランケーションを、次いで、等モル(2uM)量で、対数中期大腸菌、緑膿菌、または表皮ブドウ球菌存在下アッセイした。緑膿菌は、しばしばコンタクトレンズ装着における角膜炎を担う眼病原体である。表皮ブドウ球菌は結膜炎および角膜炎の一般的原因であり、選択的に小ラクリチンを含むわずかに改変された涙組成と関係する眼瞼炎症である、眼瞼炎に多い。トランケーションを有しないラクリチンはコロニーの見かけに影響せず、数はリン酸緩衝液陰性コントロールと同一であった。しかしながら、N-末端から65(N-65)または80(N-80)アミノ酸を欠くラクリチンでコロニーの低下が明らかであり、この効果は大腸菌または緑膿菌において6個のさらなるアミノ酸(N-86)除去により完全にまたは一部打ち消されたが、表皮ブドウ球菌では打ち消されなかった。アミノ酸81-86は配列LAKAGKG(配列番号12)を含み、これは、強力なダームシジン断片SSL-25における配列と44%のアミノ酸同一性でアラインされる。
【0234】
LAKAGKG(配列番号12)領域が原因となるか否かを確認するために、我々は、SSL-25相同領域のトランケーション狭窄部分を含む、AKAGKGMHGGVPGG(配列番号13;アミノ酸81-94;N-80/C-25)を産生した。一部重複LKSIVEKSILLTEQALAKAGKGMH(配列番号14;アミノ酸65-88;N-64/C-31)およびC末端KQFIENGSEFAQKLLKKFSLLKPWA(配列番号7;アミノ酸95-119;N-94)も産生した。予想外に、コロニーはN-80/C-25およびN-64/C-31に富み、一方、わずか12.5%がダームシジンのC-末端と同一である領域であるN-94を有するコロニーはわずかであるかまたは見られなかった。この部位を狭めるために、我々は、カルボキシ末端N-94/C-6、N-94/C-10、N-94/C-15およびN-99 ENGSEFAQKLLKKFSLLKPWA(配列番号15)、およびN-104(FAQKLLKKFSLLKPWA(配列番号16)から連続的に除去されたアミノ酸を有する合成ペプチドを産生した。N-94およびN-104は十分活性であったが、他のペプチドはそうではなく、しかしN-94/C-6(配列番号5)はわずかに活性であった。N-65は殺菌性であり、アンピシリンと等効力である。用量反応試験において、N-104は、N-65とほぼ同様に有効であり、抗微生物ペプチドで一般的な用量範囲である大腸菌について約1uMおよび緑膿菌について約1~1.5uMの半最大阻害であった。
【0235】
考察
ラクリチンが殺菌性であるか否かを探索する理論的根拠は、タンパク分解性処理されたC末端がそのヒト汗における殺菌活性に貢献するダームシジンとの21%同一性であり、涙に存在することである。驚くべきことに、ダームシジン一次配列相同性はラクリチン活性の源ではなかった。ダームシジンの殺菌性SSL-25ペプチドと、合成ペプチドとしては不活性型であった相同ラクリチン領域の間で、同一性はわずか40.7%である。むしろ、合わせて、N-65処理細胞における膜不透過性SYTOX Greenの急速侵入により明らかなように、細菌膜接触および挿入に適した、N-末端両親媒性α螺旋および疎水性C末端コイルドコイル尾部からなるハイブリッドドメインである、7%ダームシジン同一性を有するラクリチンN-104断片がコア活性を具体化した。驚くべきことに、C末端25アミノ酸断片KQFIENGSEFAQKLLKKFSLLKPWA(配列番号7;アミノ酸95-119;N-94)は十分活性であり、一方、6末端アミノ酸(例えばKQFIENGSEFAQKLLKKFS;配列番号5)の除去は、ペプチドの殺菌活性を実質的に低下させることが判明した。
【0236】
実施例5
眼科用製品の局所適用が患者のコンプライアンスのために最もポピュラーで忍容性の良好な投与経路のままであるが、点眼剤のバイオアベイラビリティは、まばたき、基準および反射涙液分泌、ならびに鼻涙の排流により激しく妨害される。局所処置の治療指標を高める1つの解決法は、薬物担体としてポリマーナノ粒子の適用による。
【0237】
局所処置の治療指標を高める1つの解決法は、薬物担体としてポリマーナノ粒子の適用による。コロナにおいて治療リガンドを示すポリマーナノ粒子は、複数の同時相互作用(多重)により複雑なバイオ分子アーキテクチャーと相互作用し得て、効率的な組織浸透に必要な十分に定義されたサイズ示し得る。足場として使用されることができる1つの該材料は、熱応答性エラスチン様ポリペプチド(ELP)である。ELPは、繰返しペンタペプチドモチーフ(Val-Pro-Gly-Xaa-Gly)n(配列番号24)から構成され、可溶性になるより下で相分離するより上である独特な可逆的逆相転移温度、Ttを示す。ゲスト残渣(Xaa)の選択および5回の繰り返し回数、nの変化によりTtを調節し得る。
【0238】
眼表面でのラクリチンの機能をさらに探究し、そのバイオアベイラビリティを増強し、角膜上皮をさらに標的としようとする動機に触発されて、本発明者らは、表面にラクリチンの多価提示を有するLSIナノ粒子を、バイオエンジニアリングを用いて作成するために、ジブロックELP(SI)ナノ粒子足場を利用した。
【0239】
材料および方法
材料および装置
TB DRY(登録商標)Powder Growth MediaをMO BIO Laboratories, Inc.(Carlsbad、CA)から購入した。NHS-rhodアミンをThermo Fisher Scientific(Rockford、IL)から購入した。SV40-Adeno ベクタートランスフォーム角膜細胞(RCB 2280、HCE-T)を理研細胞バンク(日本)から購入した。ウシ下垂体抽出物(BPE)および事前認定(prequalified)ヒト組み換え上皮細胞増殖因子1-53(EGF)を加えたケラチン生成細胞-SFM培地をGibco Invitrogen(Life Technologies、NY)から購入した。細胞浸透性のカルシウム指示薬Fluo-4 AMをLife Technologies(NY)から購入した。0.5 mmバー(burr)を有するAlgerbrush IIをThe Alger Company, Inc.(TX)から購入した。自社飼育の12週齢雌性非肥満糖尿病性(NOD)(Taconic Farms、Germantown/NY、USA)マウスを用いてインビボ実験を行った。
【0240】
LSIナノ粒子の構築
ELP(SI)をコードする遺伝子をpET25b(+)ベクター内での再帰的方向性ライゲーションによって合成した。EditSeq(DNAStar Lasergene、WI)において最良のE. coliコドンを用いて、ヒトラクリチンをコードし、分泌シグナルペプチドを有しない配列をデザインした。BseRI部位での挿入を介してラクリチン配列とELP tagの間にトロンビン切断部位をデザインした。pIDTSmart-KANベクター内で5'末端および3'末端にてNdeIおよびBamHI制限消化部位と隣接しているラクリチン遺伝子をIntegrated DNA Technologiesから購入した。
(IDT)は以下のとおりである:
CATATGGAAGACGCTTCTTCTGACTCTACCGGTGCTGACC
CGGCTCAGGAAGCTGGTACCTCTAAACCGAACGAAGAAATCTC
TGGTCCGGCTGAACCGGCTTCTCCGCCGGAAACCACCACCACC
GCTCAGGAAACCTCTGCTGCTGCTGTTCAGGGTACCGCTAAAG
TTACCTCTTCTCGTCAGGAACTGAACCCGCTGAAATCTATCGTT
GAAAAATCTATCCTGCTGACCGAACAGGCTCTGGCTAAAGCTG
GTAAAGGTATGCACGGTGGTGTTCCGGGTGGTAAACAGTTCAT
CGAAAACGGTTCTGAATTCGCTCAGAAACTGCTGAAAAAATTCT
CTCTGCTGAAACCGTGGGCTGGTCTGGTTCCGCGTGGTTCTG
GTTACTGATCTCCTCGGATCC(配列番号25)。
【0241】
上記の遺伝子をpET25b(+)ベクターにサブクローニングし、BseRI制限部位を介するELP SI遺伝子のライゲーションによってLSI遺伝子を合成した。DNA配列決定法によって融合タンパク質遺伝子の正しいクローニングを確認した。37℃でオービタルシェーカー(250 rpm)中にてBLR(DE3)E. coli(Novagen Inc.、Milwaukee、WI)においてLSI 融合タンパク質を24時間発現し、逆相転移サイクリングにより精製した。
【0242】
LSI相挙動の特徴付けおよびナノ粒子形成
LSI 融合タンパク質の位相図は、DU800 UV-Vis 分光光度計(Beckman Coulter、Brea、CA)を用いて、溶液温度の関数として350 nmでの光学密度変化によって特徴付けられた。Ttは、最大一次導関数の点で定義された。DynaPro-LSR Plate Reader(Wyatt Technology、Santa Barbara、CA)も使用し、動的光散乱法(DLS)を用いてナノ粒子の自己アッセンブリーを測定した。溶液を5から50℃に加熱した場合の光散乱データを一定の温度間隔(1℃)で回収した。レイリー球体モデルを使用して結果を分析し、二乗和値に基づくキュムラントアルゴリズムに適合させた。臨界ミセル温度(CMT)は、Rhが平均的モノマーRhよりも有意に大きい最低温度であると定義された。
【0243】
LSI ナノ粒子のTEMイメージング
100 kVのFEI Tecnai 12 TWIN 顕微鏡(Hillsboro、OR)にてTEMイメージングを行った。簡単に言うと、まず、炭素フィルム(CF400-Cu、Election Microscopy Sciences、Hatfield、PA)を有する銅グリッド上に100 uM 溶液(5 uL)を沈着させた。過剰の溶液を濾紙で除去した後、該検体を2%酢酸ウラニルでネガティブ染色し、次に、30秒後に過剰の酢酸ウラニルを除去した。次に、該検体を、イメージングで使用する前に少なくとも3時間、室温下にて乾燥させた。
【0244】
SV40不死化ヒト角膜上皮細胞(HCET)培養
ウシ下垂体抽出物(BPE、50 mg/ml)および上皮細胞増殖因子(EGF、5 ng/ml)を含有するケラチン生成細胞-SFM培地(KSFM、Life Technologies、Rockville、MD)中にてSV40不死化HCE-T細胞(理研細胞バンク、日本)を増殖した。35 mm カバーグラス底のディッシュ中にてCa2+イメージング・スクラッチ・アップテイクアッセイに細胞継代4-6を用いた。刺激後の応答性を最適化するために、実験前に24時間、EGFおよびBPE不含培地で細胞を飢餓させた。
【0245】
Ca2+イメージング
HCE-TをCa2+およびMg2+不含リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回すすいぎ、2.5 mM カルシウムプローブFluo-4AM(Invitrogen Life technologies、NY)を含有する新鮮KSFM培地中にて37℃で20分間インキュベートした。次に、細胞をNaCl リンゲルバッファー(145 mM NaCl、5mM KCl、1mM CaCl2、1mM KH2PO4、1 mM MgCl2、10mM グルコース、および10mM HEPES、モル浸透圧濃度300、pH 7.4)で2回すすぎ、同バッファー中に室温で30分間保持した。Ca2+不含培地について、1 mM Ca2+ を0.5 mM EGTAと交換した。細胞を488 nmで照射し、それらの発光を、Zeiss LSM 510 Meta 共焦点顕微鏡システムを使用して510 nmで3.15秒ごとにモニターした。目的のフィールドは24~45 細胞を含有しており、画像解析ソフトウェアを用いて各領域の蛍光強度変化を算出した。Fluo-4AMの蛍光強度の変化を使用してCa2+動態を評価した。該データは、各時点での蛍光強度(Ft)から最初の時点での蛍光強度(F0)の変化率として表した:(Ft - F0)/F0 X 100%。
【0246】
インビトロスクラッチ遮断アッセイ
スクラッチアッセイのために、コンフルエントHCE-T単層をp200ピペットチップで一直線に削り取ってひっかき傷を作った。細胞をBPEまたはEGFを含まないKSFM培地ですすいでデブリを除去し、次に、BPE(50 mg/ml)およびEGF(5 ng/ml)を含有する新鮮KSFM培地、LSI、または増殖因子を含まない培地(処理なし)と一緒にインキュベートした。Zeiss LSM 510 Meta 共焦点顕微鏡システムを用いて、処理開始時と24時間後の創傷の位相コントラスト画像を撮った。
【0247】
外因性細胞アップテイクアッセイ
アミノ末端の共有結合的修飾を介して、SIおよびLSI ナノ粒子をNHS-rhodアミン(Thermo Fisher Scientific Inc、Rockford、IL)とコンジュゲートした。コンジュゲーションを100 mM ホウ酸バッファー(pH 8.0)中にて4℃で2時間(LSI)または一晩(SI)行い、次に、PD10カラム(GE Healthcare、Piscataway、NJ)にて脱塩して、遊離色素を除去した。簡単に言うと、細胞をBPEおよびEGFを含まない新鮮培地ですすいだ後、該ディッシュに10 mM rhodアミン標識タンパク質を加えた。37℃で種々の時間インキュベーとした後、該細胞をすすぎ、Zeiss LSM 510 Meta 共焦点顕微鏡システムを用いて画像を得た。
【0248】
マウスの角膜剥離および回復研究
簡単に言うと、12週齢雌性NODマウスをキシラキシン/ケタミン(60-70 mg + 5 mg/kg)の腹腔内注射で麻酔し、加熱パッドの上に置いた。眼洗液(OCuSOFT、Inc.、TX)で眼表面を浄化した後、Algerbrush II(The Alger Company、Inc.、TX)を用いて右眼の角膜上皮を基底膜まで取り除いた;左眼は、反対側の対照として無傷のままであった。マウスを、12時間間隔で24時間、BPE(50 mg/ml)および EGF(5 ng/ml)を含有するKSFM培地、100 mM LSIまたは100 mM SIを2回投与して(5 ml)治療したか、または処置しなかった。眼表面を0.6 mg/ml フルオレセイン(Akorn、IL)5 mlで染色した後、12時間後および24時間後にMoticam 2300カメラを用いて擦過傷の画像を得た。
【0249】
統計
前実験を少なくとも3回反復した。Ca2+媒介蛍光の最大蛍光強度変化を、対応のないt検定を用いて解析した。一方向ANOVAを用い、次に、Tukeyのpost hoc検定を用いてスクラッチ創傷治癒定量化を解析した。二元配置分散分析を用い、次に、Bonferroni post検定を用いてHCE-Tアップテイクを解析し、Kruskal-WallisノンパラメトリックANOVAを用いてマウスの角膜上皮の擦過傷からの回復を解析した。Mann-Whitney U検定を用いて、処置12時間後のLSIとLS96との角膜創傷治癒比較を解析した。0.05未満のp値は統計学的に有意であるとみなした。
【0250】
結果および考察
LSIと称されるELPラクリチン融合は熱応答性ナノ粒子を形成する。
【0251】
それぞれELPタグを含むラクリチンの2つの誘導体が形成される:

LSI
GEDASSDSTGADPAQEAGTSKPNEEISGPAEPASPPETTTTAQETSAAAVQGTAKVTSSRQELNPLKSIVEKSILLTEQALAKAGKGMHGGVPGGKQFIENGSEFAQKLLKKFSLLKPWAGLVPRGSG(VPGSG)48(VPGIG)48Y(配列番号26);
および
LS96
GEDASSDSTGADPAQEAGTSKPNEEISGPAEPASPPETTTTAQETSAAAVQGTAKVTSSRQELNPLKSIVEKSILLTEQALAKAGKGMHGGVPGGKQFIENGSEFAQKLLKKFSLLKPWAGLVPRGSG(VPGSG)96Y(配列番号27)。
【0252】
LSIおよびLS96をpET25(+)ベクター内にクローン化し、E. coli内で発現し、逆相転移サイクリングを用いて精製した。LSIは、SIと類似した熱依存性アッセンブリーを受け、その相転移温度(Tt)以上でナノ粒子を形成すると考えられ、一方、可溶性巨大分子S96と融合したラクリチン遺伝子を有するLS96は、生理学的温度を有意に超えるまで相分離しない対照として開発された。発現タンパク質の純度および分子量を確認した後、温度の関数として光学密度を用いてそれらの位相図を特徴付けた。モノマーELPは、可溶性(solubility)からコアセルベートへの単一相転移を受けるが、ある種のELPジブロックコポリマーは、加熱に反応して2つのアッセンブリー工程を示す:(i)可溶性モノマーは、Tt1以上で集合して安定なナノ粒子を構築する;(ii)より高い温度Tt2で、ナノ粒子自体コアセルベートとなる。LSIのようなELPについて、かくして、Tt1は、それ以上ではナノ粒子が好ましい臨界ミセル温度(CMT)であると定義された(25 mMで32.3℃)。Tt2、すなわちバルク相転移温度は、これらナノ粒子がさらに集合してコアセルベートを構築する温度を表す。LSIは、そのSI足場と著しく対照的に、18.4℃(25 mM)で1つの相転移を示すだけである。さらにまた、LSIは、Ttを下記の等式に適合させた場合の勾配の低下によって示されるように、SI足場と比べてあまり濃度依存性相転移を示さなかった:Tt = m log[CELP] + b(ここで、CELPは濃度であり、mは勾配であり、bは1 mMでの転移温度である)。Eqn(1)は、インビボで遭遇し得る広範囲の濃度にわたってTt の推定を可能にする。本発明者らの細菌の報告において、ELP濃度依存の抑制は、本発明者らが一本鎖抗体とディスインテグリンの間の融合において報告した融合ドメイン自体が介在するアッセンブリーと相関する。LSIが単一相転移を示すという予想外の観察結果に基づいて、粒子がこのTt以上または以下のどちらで形成するかを決定するために動的光散乱(DLS)を用いた。
【0253】
かくして、両方の構築物は、DLSによって比較されて、温度依存性アッセンブリープロセスをモニターした。驚くべきことに、LSIは、Tt以下でさえ前集合して30-40 nmのナノ粒子となる。Tt以上では、130-140 nmの範囲のより大きなナノ粒子の支持が始まる。SIは、生理学的に適切な温度で20-30 nmのミセルのままである。光学密度データと合わせて、これは、ラクリチン自体が、SIが介在するTt1以上で集合してより大きな構造を構築し続ける小さい凝集体の部分アッセンブリーを媒介することを示唆している。LSIおよびSIによって形成された主要な構造をさらに試験するために、本発明者は、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて室温から乾燥させた場合にそれらの形態を観察した。DLSと一致するが、SIは平均直径36.5 +/- 5.8 nmの単分散ミセル構造を形成し、LSIは平均直径67.1 +/- 11.5 nmを示すより大きなナノ粒子を形成した。いずれにしても、SIおよびLSIはどちらもナノ構造を形成することができるようである。
【0254】
LSIナノ粒子は、SV-40により形質導入されたヒト角膜上皮細胞を用いて分裂促進活性を示す。
【0255】
傷害後、多くの上皮性細胞の最先の反応の1つは、単層細胞シートに広がった一過性のCa2+波動である。該Ca2+波動は、細胞遊走、増殖および創傷修復に関連するその他の事象の原因である下流シグナル伝達経路の引き金を引く。ラクリチンは、HCE-T全体にわたってCa2+波動伝搬を刺激すると報告されており、さらなる研究によって、このCa2+シグナルが、ベンザルコニウムクロリドでストレスを与えられたHCE細胞のラクリチンの保護および培養された角膜上皮ホメオスタシスの維持に関連していることが確認されている。LSIがラクリチンの分裂促進活性を維持するかを確認するために、本発明者らは、報告されたHCE-Tモデルに基づいてカルシウムトランジェントおよびスクラッチ創傷治癒アッセイの両方を試験した。本発明者らは、まず、LSIまたはSIのいずれかの処置の下に、Fluo-4 AMで負荷されたHCE-T細胞において、細胞内Ca2+波動伝搬を試験した。24~45細胞を含有する目的のフィールドを選択し、LSM 510画像解析ソフトウェアを用いて10個の個々の細胞の蛍光強度変化を算出した。Ca2+シグナルを定量化するために、最初の時点の蛍光強度(F0)に対する各時点の蛍光強度(Ft)の変化率:(Ft - F0)/F0 X 100%を用いた。SIによって引き金が引かれたシグナルは無視でき、基底値と比べて0.054 +/-0.049倍の最大蛍光強度変化を惹起しただけであった。しかしながら、LSIナノ粒子の添加によって、F0(p<0.0001)の4.399 +/- 1.043倍の最大蛍光強度をもって、細胞への有意に急速なカルシウム流入が生じた。さらにまた、同一濃度による同一グループの細胞の二回目の処置は40秒から70秒までのピーク期間を延長したCa2+流入の幅広いピークを生じるので、HCE-T細胞は外因性LSI処置についての「記憶」を有するようである。Ca2+媒介シグナル伝達の下流で、HCE-Tは、細胞のコンフルエントシート上で作られたスクラッチのクロージャーの間じゅう視覚化され得る、より急速な運動性および増殖を開始することが分かる。
【0256】
LSIのインビトロ効果を視覚化するために、本発明者らは、細胞のシートにスクラッチを施し、経時的治癒過程を得た。各処置を3重に行い、分析のために各ウェルにおける4つの独立した創傷距離を測定した。処置の24時間後、非常に低い濃度のLSI(10 nM)は、増殖因子を含有しない単純培地と比べて、スクラッチ創傷治癒を有意に促進した(***p<0.001)。この効果は、BPEおよびEGFを含有するポジティブ対照と一致した。
【0257】
LSI ナノ粒子はHCE-Tへのアップテイクを受ける。
LSIのインビトロ分裂促進活性に後押しされて、本発明者らは、さらに、外因性LSIがHCE-Tに進入可能であるかを研究した。かくして、該細胞を種々の時点でNHS-rhodアミン標識LSIおよびSIナノ粒子と一緒にインキュベートした。ラクリチン媒介アップテイクと一致して、LSIは、時間に依存して、HCE-Tへの細胞アップテイクを受けた。有意な細胞進入は、インキュベーションの10分後に見られ、1時間後に、LSIナノ粒子は核周囲領域内に蓄積した。定量化後、LSIは、SIナノ粒子よりも有意に高い細胞質蛍光を示した(p<0.0001)。種々のサイズ、形状および変化を有するナノ物質は、医用画像処理、組織標的化、および細胞アップテイクに広く用いられている。さらに最近、下流シグナル伝達を調節するためにより効果的に膜受容体を架橋するためのナノ粒子の使用は、特に抗体媒介受容体架橋において、大きな注目を集めている。
【0258】
LSIナノ粒子は非肥満糖尿病性(NOD)マウスの角膜剥離を治癒する。
本発明者らは、局所点眼剤によるLSIナノ粒子インビボ効力の研究を進めた。この研究において、本発明者らは、LSIナノ粒子の創傷治癒効果を評価するために、雌性NODマウスの角膜上皮性擦過傷モデルを開発した。非肥満糖尿病性(NOD)マウスは、ヒトの創傷治癒不良のための動物モデルとして頻繁に使用される。細胞増殖の低下、筋線維芽細胞表現型の発病の遅延、プロコラーゲンI mRNA 発現の減少、およびアポトーシス細胞死の制御異常がNODグループにおいて見られた。NODマウスモデルは、LSIナノ粒子のインビボ活性の評価のために選択された。簡単に言うと、Algerbrush IIを用いて角膜縁領域にダメージを与えずに動物の右眼に直径約2 mmの円形の擦過傷を作った。画像処理の直後に、5 mlの100 mM LSIナノ粒子、SIナノ粒子または対照EGF + BPEを眼表面に局所投与し、この処置を創傷開始の12時間後に1回繰り返した。コバルトブルー光の下でフルオレセイン染色を用いて0時、12時間目、および24時間目に創傷の画像を得た。最初の創傷治癒比較研究は、処置グループごとに、反対側の対照として左眼を無傷のままにした4匹のマウスを含んだ。実験後、ImageJを使用して創傷治癒画像を解析した。平均フルオレセイン強度、創傷面積、合計フルオレセイン(合計 = 平均フルオレセイン強度×創傷面積)、初期値のフルオレセインパーセンテージ、初期値の創傷面積パーセンテージ(PctArea)、および初期値の合計フルオレセインパーセンテージを、ブラインド評価者(blind reviewer)によって、Kruskal-Wallisノンパラメトリック検定を用いて12時間目および24時間目にグループ間で比べて決定した。処置によって有意な炎症または他のいかなる有害作用も観察されなかった。特に、12時間目および24時間目のいずれの時点でのLSIも、SI(p = 0.001)、EGF + BPE(p = 0.001)、および非処置グループ(p = 0.001)と比べて、初期創傷面積(PctArea)のパーセンテージを有意に減少させており、LSIが角膜上皮の回復を促進するのに最良の製剤であることを示唆している。フルオレセイン画像処理結果を裏付けるために、本発明者らは、さらに、組織学分析のために24時間後に角膜上皮を処理した。簡単に言うと、角膜を固化し、異常を横切って薄片にし、ヘマトキシリンおよびエオシンによって染色した。
【0259】
角膜上皮(EP)の病理;
ボーマン膜(BM);角膜実質(ST);デスメ膜(DM);内皮(EN)を評価した。意外なことに、LSI処置グループの角膜上皮は、滑らかな再構成表面をもち、炎症のない完全な回復を示した。フルオレセイン試験によって、SIグループにおける24時間目の染色に対する一部抵抗性が明らかになったが、再生角膜上皮は、分化を完了しなかった。分裂促進的ラクリチンタンパク質は、タンパク質ポリマーナノ粒子上で修飾された場合に活性のままであることを示したので、本発明者らは、次に、ELP媒介粒子アッセンブリーがこの結果を達成するために必要であるかを研究した。インビボでのELPアッセンブリーの有意さに取り組むために、LSIナノ粒子の効力は、LS96と称される熱的に反応しないラクリチン融合タンパク質と直接比較することができる。LSIおよびLS96はどちらも、ラクリチン配列、およびそれに続くELP含有96総五量体反復を含有する;しかしながら、ELP S96は、生理学的温度を超えるまで相分離しない。光学密度測定は、実際に、LS96がリン酸緩衝生理食塩水中にて観察できる相転移を全く示さないことを明らかにした。加えて、DLSは、LSIが37℃でLS96よりも非常に大きな水力学的半径を有することを確認した。
【0260】
これら2つのラクリチンELPの関連製剤を使用したNODマウスにおける角膜欠損研究は、共に、12時間後に上皮をクローズしてこのクロージャーをLS96のものと比較するLSIの能力を確認することであった。本発明者らの実験観察結果をより良好に評価するために、本発明者らは、さらに、検体サイズを1グループあたり8匹のマウス(全ての右眼が擦過処理を受けている)に増やした。興味深いことに、LSIは、非熱応答性LS96融合よりも有意に(p<0.05)速く擦過傷を治癒した。この知見は、ELP媒介アッセンブリーがLSIの増強に関与しているという主張を直接的に支持する。
【0261】
結論
角膜創傷治癒プロセスを促進するために、候補生物薬剤であるマイトジェンラクリチンを眼表面に送達する手段として多価ELPナノ粒子を使用した。このラクリチンELP融合であるLSIは、非修飾SIナノ粒子と類似する熱応答性自己アッセンブリー特性を示し、生理学的に適切な温度にてそのコロナでアクセスできるラクリチンを提供する。LSIナノ粒子は、カルシウム依存性細胞シグナル伝達の引き金を引き、細胞に内部移行し、ヒト角膜上皮性細胞株(HCE-T)の単層におけるスクラッチクロージャーを促進する。角膜上皮の除去後にNODマウスの眼表面に局所的投与した場合、LSIナノ粒子は、SIおよび未処置グループと比べて速い創傷治癒を促進した。最も重要なことに、LSIナノ粒子は、熱依存性アッセンブリーを受けていないLS96と称される対照ラクリチンELP融合と比べて速い角膜上皮再生を生じる。全体的にみて、この研究は、ナノ粒子足場としてのELPの、タンパク質治療薬を眼表面に有効に送達し、擦過傷を修復する潜在能力に光を当てる。
【0262】
本明細書で引用した特許、特許出願および刊行物のいずれもの記載は、出典明示によりその全体として本明細書の一部を構成する。
【0263】
見出しは、参考までに、かつ、特定のセクションの位置決めに役立つように、本明細書に含まれている。これらの見出しは、本明細書に記載されている概念の範囲を制限するものではなく、これらの概念は、明細書の全体にわたって別のセクションにおける適用性を有し得る。
【0264】
本発明は、特定の実施態様を参照して記載されているが、本発明の別の実施態様およびバリエーションが、本発明の真の精神および範囲を逸脱することなく、当該技術分野における当業者によって工夫され得ることであることは明らかである。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9
【配列表】
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