(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100927
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20240719BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20240719BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20240719BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
H01L29/78 658H
H01L29/78 657D
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/78 655D
H01L29/91 C
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024083369
(22)【出願日】2024-05-22
(62)【分割の表示】P 2020074684の分割
【原出願日】2020-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000106276
【氏名又は名称】サンケン電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 克行
(57)【要約】
【課題】漏れ電流が比較的小さく高速動作が可能なRC-IGBTを得る。
【解決手段】n
-層11には、領域Iにおいてはp
+層16側に、領域IIにおいてはp
-
層12側に、それぞれ局所的に第1結晶欠陥層D1、第2結晶欠陥層D2が形成されている。領域Iにおいて、p
+層16近くの領域に第1結晶欠陥層D1を形成してこの領域での少数キャリアの寿命を短くすることによって、IGBTのオンからオフの動作の高速化を図ることができる。
第2結晶欠陥層D2は、結晶欠陥濃度のピークが第1結晶欠陥層D1よりもp
-
層12側、かつ溝Tの底部よりも浅い位置にあり、かつn
+
層17側で結晶欠陥濃度が低下するように局所的に結晶欠陥濃度が高くされて、平面視における領域II内に形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の第1半導体領域と、
前記第1半導体領域の上に形成された、前記第1導電型と逆の第2導電型の第2半導体領域と、
前記第2半導体領域の表面側に形成された、前記第1導電型の第3半導体領域と、
前記第1半導体領域の下に形成された前記第2導電型の第4半導体領域と、
前記第2半導体領域及び前記第3半導体領域と電気的に接続されたエミッタ電極と、
前記第4半導体領域と電気的に接続されたコレクタ電極と、
を具備し、
前記エミッタ電極と前記コレクタ電極との間の電流が、前記第2半導体領域の表面側に形成されたゲート電極によって制御される絶縁ゲート型電界効果トランジスタが平面視における第1領域に形成され、
前記第1半導体領域と、
前記第1半導体領域の上に形成された、前記第2導電型である第5半導体領域と、
前記第1半導体領域の下に形成された前記第1導電型の第6半導体領域と、
前記第5半導体領域を厚さ方向で貫通する溝と、
を具備し、
前記エミッタ電極と前記第5半導体領域とが、前記コレクタ電極と前記第6半導体領域とがそれぞれ電気的に接続されて構成されるダイオードが、平面視における前記第1領域に隣接した第2領域に形成され、
前記第1半導体領域に、
厚さ方向において、結晶欠陥濃度のピークが前記第4半導体領域側に設定され、かつ前記第2半導体領域側で前記結晶欠陥濃度が低下するように局所的に前記結晶欠陥濃度が高くされて、平面視における前記第1領域内に形成された第1結晶欠陥層と、
厚さ方向において、結晶欠陥濃度のピークが前記第1結晶欠陥層よりも前記第5半導体領域側、かつ前記溝の底部よりも浅い位置にあり、かつ前記第6半導体領域側で前記結晶欠陥濃度が低下するように局所的に前記結晶欠陥濃度が高くされて、平面視における前記第2領域内に形成された第2結晶欠陥層と、
が形成されたことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
平面視における前記第1領域内の前記第2領域側において、前記結晶欠陥濃度のピークが前記第1結晶欠陥層よりも前記第2半導体領域側に設定され、かつ前記結晶欠陥濃度のピーク値が前記第2領域内における前記第2結晶欠陥層における前記結晶欠陥濃度のピーク値よりも低い第1領域側第2結晶欠陥層を具備することを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第1領域側第2結晶欠陥層の下に前記第1結晶欠陥層が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
第1導電型の第1半導体領域と、
前記第1半導体領域の上に形成された、前記第1導電型と逆の第2導電型の第2半導体領域と、
前記第2半導体領域の表面側に形成された、前記第1導電型の第3半導体領域と、
前記第1半導体領域の下に形成された前記第2導電型の第4半導体領域と、
前記第2半導体領域及び前記第3半導体領域と電気的に接続されたエミッタ電極と、
前記第4半導体領域と電気的に接続されたコレクタ電極と、
を具備し、
前記エミッタ電極と前記コレクタ電極との間の電流が、前記第2半導体領域の表面側に形成されたゲート電極によって制御される絶縁ゲート型電界効果トランジスタが平面視における第1領域に形成され、
前記第1半導体領域と、
前記第1半導体領域の上に形成された、前記第2導電型である第5半導体領域と、
前記第1半導体領域の下に形成され平面視において前記第4半導体領域と隣接する前記第1導電型の第6半導体領域と、
を具備し、
前記エミッタ電極と前記第5半導体領域とが、前記コレクタ電極と前記第6半導体領域とがそれぞれ電気的に接続されて構成されるダイオードが、平面視における前記第1領域に隣接した第2領域に形成され、
前記第1半導体領域に、
厚さ方向において、結晶欠陥濃度のピークが前記第4半導体領域側に設定され、かつ前記第2半導体領域側で前記結晶欠陥濃度が低下するように局所的に前記結晶欠陥濃度が高くされて、平面視における前記第1領域内に形成された第1結晶欠陥層と、
厚さ方向において、結晶欠陥濃度のピークが前記第1結晶欠陥層よりも前記第5半導体領域側に設定され、かつ前記第6半導体領域側で前記結晶欠陥濃度が低下するように局所的に前記結晶欠陥濃度が高くされて、平面視における前記第2領域内に形成された第2結晶欠陥層と、
が形成され、
前記第1結晶欠陥層、前記第2結晶欠陥層のうちの一方は、平面視における前記第4半導体領域と前記第6半導体領域の境界までは延伸していないことを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
前記第1結晶欠陥層、前記第2結晶欠陥層のうちの他方も、平面視における前記境界までは延伸していないことを特徴とする請求項4に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第2結晶欠陥層が平面視における前記境界までは延伸していないことを特徴とする請求項4に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)とフリーホイールダイオードとが同一半導体基板に形成された半導体装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
大電力での高速スイッチング動作が可能であるスイッチング素子は、例えばモータの制御用に広く用いられている。一方、このようなスイッチング素子にIGBTを用いる場合、IGBTのオフ時におけるフライバック電圧の発生を抑制するためにIGBTのオン時と逆向きの電流を流すフリーホイールダイオードとが組み合わせる場合が多い。このような半導体装置の1つとして、IGBTと同一の半導体基板上にフリーホイールダイオード(ダイオード)が形成されたRC-IGBT(Reverse Conducting IGBT)が知られている。
【0003】
RC-IGBTの基本構造は通常のIGBTの一部を変更すれば実現することができる。
図12は、トレンチ型のRC-IGBTとなる半導体装置900の構造の例を示す断面図である。ここでは、図中左側の領域I(IGBT領域:第1領域)においてIGBTが形成され、図中右側の領域II(ダイオード領域:第2領域)においてダイオードが形成されている。
図12において、シリコンで形成された半導体基板90において、n
-層(n型の第1半導体領域)91上に、p
-層(領域Iにおいてはp型の第2半導体領域、領域IIにおいては第5半導体領域)92が形成されている。半導体基板90の表面側には、表面からp
-層92を貫通してn
-層91に達する溝(トレンチ)Tが形成されている。溝Tは、
図12における紙面と垂直方向に延伸して並行に複数形成されている。溝Tの内面(側面)には酸化膜(ゲート絶縁膜)93が一様に形成された上で、ゲート電極81が溝Tを埋め込むように形成されている。
【0004】
領域Iにおける半導体基板90の表面側においては、溝Tの両側にn+層(第3半導体領域)94が形成されている。また、半導体基板90の表面には、エミッタ電極82が形成されている。溝Tの表面側においては層間絶縁膜95がゲート電極81(溝T)を覆うように形成されているため、エミッタ電極82は、層間絶縁膜95が形成されない部分を通じてn+層94とp-層92の両方に電気的に接続し、ゲート電極81とは絶縁される。
【0005】
また、半導体基板90の裏面全面には、コレクタ電極83が形成されている。ここで、コレクタ電極83とn
-層91の間には、領域Iにおいてはp
+層(コレクタ層:第4半導体領域)96が設けられ、領域IIにおいてはn
+層(第6半導体領域)97が設けられる。こうした構造によって、領域Iにおいてはn
+層94をエミッタ領域、p
-層92をベース領域、p
+層96をコレクタ領域とするIGBTが形成され、n
-層91はこのIGBTのドリフト層となる。一方、領域IIにおいては、p
-層92をアノード側半導体、n
-層91(n
+層97)をカソード側半導体とするpnダイオードが形成される。この場合、領域Iと領域IIの境界は、p
+層(コレクタ層)96とn
+層97の境界とする。なお、
図12においては領域IIでも領域Iと同様に溝T、溝T内に絶縁膜を介して電極等が形成されているが、これらの形態は適宜設定される。
【0006】
RC-IGBTにおいては、IGBTにおけるコレクタエミッタ間飽和電圧(VCEsat)が小さいことが要求される。一方、ダイオード(フリーホイールダイオード)における順方向電圧VFが小さいことが要求される。更に、RC-IGBTの高速動作のために、ダイオードが順方向から逆方向に変化した直後のリカバリー特性の改善(高速化)も要求される。
【0007】
ダイオードのリカバリー特性の改善のためには、半導体中で順方向時において多数存在した少数キャリアを迅速に消滅させることが有効であるため、半導体層においてダイオードとして機能する部分の少数キャリア寿命を短くすることが有効である。このように少数キャリア寿命を短くするためには、半導体層に結晶欠陥を導入する技術が用いられ、このためには例えばプロトンやHe等の軽イオンのイオン注入が有効である。このようにイオン注入によれば、半導体層の局所領域にこのような結晶欠陥を導入することも容易である。
【0008】
特許文献1には、ダイオードが形成される領域IIのアノード側半導体(p-層92)に近いn-層91の領域のみに局所的に結晶欠陥を導入する方法が記載されている。また、特許文献2には、IGBTとダイオードが繰り返し配置されたRC-IGBTにおいて、IGBTのベース領域間及びその直下に結晶欠陥を導入しない構造が記載されている。
【0009】
また、特許文献3には、半導体基板の表面側のIGBTが形成される領域Iを遮蔽した上でダイオードが形成される領域IIの半導体基板の表面に軽イオン照射し、半導体基板の裏面側のダイオードが形成される領域IIを遮蔽した上でIGBTが形成される領域Iの半導体基板の裏面に軽イオン照射する製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開公報WO2013/046377号
【特許文献2】特開2007-103770号公報
【特許文献3】特開2013-197306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1、2に記載の技術によっては、ダイオードの高速化は図れるものの、IGBTの動作の改善が行われない。これに対して、特許文献3に記載の技術においては、ダイオード、IGBT共に高速化を図ることができる。しかしながら、特許文献3に記載の構造においては、半導体基板の厚さ方向においてp層(アノード側半導体)からN層(カソード側半導体)に至る広い領域に結晶欠陥層が形成されており、このpn接合で形成されるダイオードの漏れ電流(逆方向電流)が大きくなる。このため、RC-IGBTが発熱し、場合によっては破壊する場合があった。
【0012】
このため、漏れ電流が比較的小さく高速動作が可能なRC-IGBTが望まれた。
【0013】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の半導体装置は、第1導電型の第1半導体領域と、前記第1半導体領域の上に形成された、前記第1導電型と逆の第2導電型の第2半導体領域と、前記第2半導体領域の表面側に形成された、前記第1導電型の第3半導体領域と、前記第1半導体領域の下に形成された前記第2導電型の第4半導体領域と、前記第2半導体領域及び前記第3半導体領域と電気的に接続されたエミッタ電極と、前記第4半導体領域と電気的に接続されたコレクタ電極と、を具備し、前記エミッタ電極と前記コレクタ電極との間の電流が、前記第2半導体領域の表面側に形成されたゲート電極によって制御される絶縁ゲート型電界効果トランジスタが平面視における第1領域に形成され、前記第1半導体領域と、前記第1半導体領域の上に形成された、前記第2導電型である第5半導体領域と、前記第1半導体領域の下に形成された前記第1導電型の第6半導体領域と、前記第5半導体領域を厚さ方向で貫通する溝と、を具備し、前記エミッタ電極と前記第5半導体領域とが、前記コレクタ電極と前記第6半導体領域とがそれぞれ電気的に接続されて構成されるダイオードが、平面視における前記第1領域に隣接した第2領域に形成され、前記第1半導体領域に、厚さ方向において、結晶欠陥濃度のピークが前記第4半導体領域側に設定され、かつ前記第2半導体領域側で前記結晶欠陥濃度が低下するように局所的に前記結晶欠陥濃度が高くされて、平面視における前記第1領域内に形成された第1結晶欠陥層と、厚さ方向において、結晶欠陥濃度のピークが前記第1結晶欠陥層よりも前記第5半導体領域側、かつ前記溝の底部よりも浅い位置にあり、かつ前記第6半導体領域側で前記結晶欠陥濃度が低下するように局所的に前記結晶欠陥濃度が高くされて、平面視における前記第2領域内に形成された第2結晶欠陥層と、が形成されたことを特徴とする。
また、本発明の半導体装置は、第1導電型の第1半導体領域と、前記第1半導体領域の上に形成された、前記第1導電型と逆の第2導電型の第2半導体領域と、前記第2半導体領域の表面側に形成された、前記第1導電型の第3半導体領域と、前記第1半導体領域の下に形成された前記第2導電型の第4半導体領域と、前記第2半導体領域及び前記第3半導体領域と電気的に接続されたエミッタ電極と、前記第4半導体領域と電気的に接続されたコレクタ電極と、を具備し、前記エミッタ電極と前記コレクタ電極との間の電流が、前記第2半導体領域の表面側に形成されたゲート電極によって制御される絶縁ゲート型電界効果トランジスタが平面視における第1領域に形成され、前記第1半導体領域と、前記第1半導体領域の上に形成された、前記第2導電型である第5半導体領域と、前記第1半導体領域の下に形成され平面視において前記第4半導体領域と隣接する前記第1導電型の第6半導体領域と、を具備し、前記エミッタ電極と前記第5半導体領域とが、前記コレクタ電極と前記第6半導体領域とがそれぞれ電気的に接続されて構成されるダイオードが、平面視における前記第1領域に隣接した第2領域に形成され、前記第1半導体領域に、厚さ方向において、結晶欠陥濃度のピークが前記第4半導体領域側に設定され、かつ前記第2半導体領域側で前記結晶欠陥濃度が低下するように局所的に前記結晶欠陥濃度が高くされて、平面視における前記第1領域内に形成された第1結晶欠陥層と、厚さ方向において、結晶欠陥濃度のピークが前記第1結晶欠陥層よりも前記第5半導体領域側に設定され、かつ前記第6半導体領域側で前記結晶欠陥濃度が低下するように局所的に前記結晶欠陥濃度が高くされて、平面視における前記第2領域内に形成された第2結晶欠陥層と、が形成され、前記第1結晶欠陥層、前記第2結晶欠陥層のうちの一方は、平面視における前記第4半導体領域と前記第6半導体領域の境界までは延伸していないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は以上のように構成されているので、漏れ電流が比較的小さく高速動作が可能なRC-IGBTを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る半導体装置の構造を示す断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係る半導体装置の第1の変形例の構造を示す断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態に係る半導体装置の第2の変形例の構造を示す断面図である。
【
図4】本発明の第1の実施の形態に係る半導体装置の第3の変形例の構造を示す断面図である。
【
図5】本発明の第1の実施の形態に係る半導体装置の第4の変形例の構造を示す断面図である。
【
図6】本発明の第2の実施の形態に係る半導体装置の構造を示す断面図である。
【
図7】本発明の第3の実施の形態に係る半導体装置の構造を示す断面図である。
【
図8】本発明の第3の実施の形態に係る半導体装置の第1の変形例の構造を示す断面図である。
【
図9】本発明の第3の実施の形態に係る半導体装置の第2の変形例の構造を示す断面図である。
【
図10】本発明の第3の実施の形態に係る半導体装置の第3の変形例の構造を示す断面図である。
【
図11】本発明の第3の実施の形態に係る半導体装置の第4の変形例の構造を示す断面図である。
【
図12】従来の半導体装置の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態となる半導体装置について説明する。この半導体装置は、トレンチ型のIGBTとフリーホイールダイオード(ダイオード)とが共通の半導体基板に形成されたRC-IGBTである。このため、その基本構造は
図12に示されたものと同様である。
【0018】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る半導体装置1の断面図であり、
図12に対応する。このため、この半導体装置1においても、n
-層(n型の第1半導体領域)11、p
-層(領域Iにおいてはp型の第2半導体領域、領域IIにおいては第5半導体領域)12、n
+層(第3半導体領域)14、p
+層((コレクタ層:第4半導体領域))16、n
+層(第6半導体領域)17が形成された半導体基板10が用いられ、トレンチT、酸化膜(ゲート絶縁膜)13、層間絶縁層15が同様に形成され、ゲート電極21、エミッタ電極22、コレクタ電極23も同様に電気的に接続される。このため、領域I(IGBT領域)においてIGBTが、領域IIにおいてダイオードが形成されている。
【0019】
ここで、n
-層11には、領域Iにおいてはp
+層16側に、領域IIにおいてはp
-
層12側に、それぞれ局所的に第1結晶欠陥層(結晶欠陥層)D1、第2結晶欠陥層(結晶欠陥層)D2が形成されている。第1結晶欠陥層D1、第2結晶欠陥層D2は、n
-層11において結晶欠陥(少数キャリア寿命を短くする点欠陥)が多く導入された層であり、例えば半導体基板10に対して裏面側(
図1における下側)からプロトンやHeイオン等の軽イオンをイオン注入することによって形成される。この際、第2結晶欠陥層D2を形成する際のイオンのエネルギーは第1結晶欠陥層D1を形成する際のイオンのエネルギーよりも大きく設定される。特許文献1~3に記載の技術と同様に、第1結晶欠陥層D1、第2結晶欠陥層D2においては、少数キャリア(正孔)の寿命がその周囲のn
-層11よりも短くなる。
【0020】
なお、このように第1結晶欠陥層D1、第2結晶欠陥層D2はn
-層11に形成されるため、その結晶欠陥密度は、実際には
図1における左右に示されるような分布をもつ。すなわち、第1結晶欠陥層D1における結晶欠陥密度のピークは領域Iにおいてn
-層11のp
+層16近くに設定され、第2結晶欠陥層D2における結晶欠陥密度のピークはn
-層11のp
-層12近くに設定される。この際、特に第2結晶欠陥層D2は実質的にp
-層12には形成されず、実質的にn
-層11のみに設けられる。このような設定は、イオン注入のエネルギーを調整することによって行われる。また、特に第1結晶欠陥層D1は実質的にp
+層16には形成されず、実質的にn
-層11のみに設けられる。このような設定は、イオン注入のエネルギーを調整することによって行われる。
【0021】
一般的に、IGBTがオンからオフになる際の動作においては、n-層11が空乏化するが、この際に、コレクタ層(p+層16)近くの領域に少数キャリア(正孔)が多く残存していると、この残存キャリアが消滅するまでに時間を要する。このため、領域Iにおいて、コレクタ層(p+層16)近くの領域に第1結晶欠陥層D1を形成し、この領域での少数キャリアの寿命を短くすることによって、IGBTのオンからオフの動作の高速化を図ることができる。
【0022】
一方、IGBTがオンの状態においては、第1結晶欠陥層D1をp-層12から離れた領域に設けており、p-層12側のn-層11中に十分な少数キャリア(正孔)を蓄積することができるため、伝導度変調の効果によってVCEsatを低くすることができる。
【0023】
また、ダイオードが順方向から逆方向になる際には、領域IIにおけるp-層12側のn-層11のpn接合近くに第2結晶欠陥層D2が形成されたため、アノード電極へと吐き出されていないp-層12側のn-層11のpn接合付近の少数キャリア(正孔)が第2結晶欠陥層D2に捕獲され、これを迅速に消滅させることができ、ダイオードのリカバリー特性を向上させることができる。この際、結晶欠陥がn-層11からp-層12側まで形成されないため、リーク電流は増大しない。
【0024】
一方、ダイオードが定常状態の際には、キャリア(正孔)が裏面近傍に蓄積することで、低い順方向電圧を得ることができる。この際、n-層11のn+層17側に結晶欠陥を設けない(又は少なくする)ことで、低い順方向電圧を保持することができる。
【0025】
なお、ダイオードの順方向電圧VFを下げるため、領域IIのダイオードがオンした時の伝導度変調を領域IのIGBTがオンした時の伝導度変調よりも高くすることが望ましい。一方、領域IIのダイオードがオンからオフに切り替えると、領域IIに多くの残存キャリアが存在してしまい、領域IIのダイオードのターンオフ時の特性が悪化する。そこで、第2結晶欠陥層D2における結晶欠陥の濃度(
図1におけるピーク値)は、第1結晶欠陥層D1における結晶欠陥の濃度(ピーク値)よりも高くすることが好ましい。これにより、領域IIのダイオードのターンオフ時の特性を改善することができる。
【0026】
また、上記の例では、第1結晶欠陥層D1は領域I内に、第2結晶欠陥層D2は領域II内にそれぞれ形成されているが、これらを領域外にまで延伸させてもよい。こうした構成を具備する上記の変形例について以下に説明する。
【0027】
図2は、第2結晶欠陥層D2を領域I内まで延伸させた半導体装置1A(第1の変形例)の構成、
図3は、第1結晶欠陥層D1を領域II内まで延伸させた半導体装置1B(第2の変形例)の構成をそれぞれ示す。
【0028】
領域IにおいてIGBTがオフの場合には、領域IIにおいてダイオードが順方向となる。この場合において、領域IIでダイオードを構成するn
-層11にはp
-層12から少数キャリア(正孔)が多く注入され、この正孔は図中縦方向だけではなく横方向にも拡散し、領域I内にも到達する。この正孔は残存キャリアとなり、IGBTのオフ特性に悪影響を及ぼす。そのため、領域I内ではこの正孔を消滅させることが好ましい。
図2に示された半導体装置1Aにおいては、第2結晶欠陥層D2における領域I内の部分(第1領域側第2結晶欠陥層D21)はこの正孔を捕獲し、この正孔を消滅させることができる。その結果、領域I内に正孔が侵入することを抑制し、IGBTのオフ特性に悪影響を及ぼすことが抑制される。一方、
図2に示された半導体装置1Aにおいては、この第2結晶欠陥層D2は領域Iにおいて領域II側の端部にしか設けられないため、これによるIGBTのオン時における伝導度変調に対する悪影響は小さく、VCEsatへの悪影響は小さい。
【0029】
領域IにおいてIGBTがオンの場合、領域IでIGBTのオン動作(伝導度変調)に寄与するn
-層11中の正孔はコレクタ層16から図中縦方向だけではなく横方向に拡散し、領域II内にも到達する。この正孔は領域IIにおける残存キャリアとなり、ダイオードのリカバリー特性に悪影響を及ぼす。そのため、領域II内では、残存キャリアを消滅させることが好ましい。
図3に示された半導体装置1Bにおいては、第1結晶欠陥層D1における領域II内の部分(第2領域側第1結晶欠陥層D12)は、この正孔を消滅させることができる。一方、この第1結晶欠陥層D1は領域IIにおいて領域I側の端部にしか設けられないため、これによるダイオードにおけるリーク電流の増加等の悪影響は小さい。
【0030】
このように、第2結晶欠陥層D2を領域I内まで、あるいは第1結晶欠陥層D1を領域II内まで延伸させることができる。こうした設定も、軽イオン注入によってこれらの結晶欠陥層を形成する場合には、容易に行うことができる。
【0031】
この場合において、第1領域側2結晶欠陥層D21によるIGBTの動作に対する悪影響を低減するために、第1領域側第2結晶欠陥層D21の結晶欠陥濃度(ピーク値)は、領域II内の第2結晶欠陥層D2の結晶欠陥濃度(ピーク値)よりも低くすることが好ましい。また、第2領域側第1結晶欠陥層D12の結晶欠陥濃度は、領域I内の第1結晶欠陥層D1の結晶欠陥濃度よりも低くすることが望ましい。
【0032】
ただし、第2結晶欠陥層D2や第1結晶欠陥層D1を領域外に延伸させずに、これらと同等の構造を形成することもできる。例えば、
図2において、第2結晶欠陥層D2は領域II内においてのみ形成し、これと分断された状態で領域Iにおける領域II側に、第2結晶欠陥層D2と厚さ方向における位置を同等として、局所的に結晶欠陥濃度が高くされた結晶欠陥層を形成してもよい。これは、
図2における第1領域側第2結晶欠陥層D21を領域II内の第2結晶欠陥層D2と分断させて形成することに対応する。この場合にも、同様の効果を奏することは明らかである。同様に、
図3における第2領域側第1結晶欠陥層D12を領域I内の第1結晶欠陥層D1と分断させて形成することもできる。このように結晶欠陥層を分断して形成する場合には、上記のような結晶欠陥濃度を領域毎に異ならせることが特に容易である。
【0033】
また、上記と逆に、第1結晶欠陥層D1を領域Iと領域IIの境界側まで延伸させない、あるいは第2結晶欠陥層D2をこの境界側まで延伸させないような構成も可能である。
図4は、第2結晶欠陥層D2をこの境界側まで延伸させない半導体装置1C(第3の変形例)の構成、
図5は、第1結晶欠陥層D1をこの境界側まで延伸させない半導体装置1D(第4の変形例)の構成をそれぞれ示す。
【0034】
半導体装置1C(
図4)においては、領域IIにおいて第2結晶欠陥層D2が領域Iとの境界側で形成されない部分が設けられることにより、前記の半導体装置1(
図1)よりもダイオードの順方向電圧VFを低下させることができる。半導体装置1D(
図5)においては、領域Iにおいて第1結晶欠陥層D1が形成されない部分が設けられることにより、前記の半導体装置1(
図1)よりもIGBTのVCEsatを低下させることができる。なお、
図4の構成と
図3の構成を組み合わせる、すなわち第2結晶欠陥層D2を領域Iと領域IIの境界側まで延伸させない一方で、第1結晶欠陥層D1を領域IIの内部にまで延伸させる、あるいは
図5の構成と
図2の構成を組み合わせる、すなわち第1結晶欠陥層D1を境界側まで延伸させない一方で、第2結晶欠陥層D2を領域Iの内部にまで延伸させることも可能である。
【0035】
第1結晶欠陥層D1、第2結晶欠陥層D2を
図1~
図5、あるいは上記の組み合わせのうち、どの形態として設けるかは、RC-IGBTの使用状況(使用電圧、スイッチング速度等)に応じて設定することができる。いずれの場合も、その製造工程、条件は、第1結晶欠陥層D1、第2結晶欠陥層D2を形成するためのイオン注入の際のマスク以外については共通とすることができる。
【0036】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係る半導体装置においては、例えば特開2018-125326号公報に記載されるように、ドリフト層(n-層11)とp+層16(コレクタ領域)との間に、局所的に不純物濃度が高くされたn型の層(フィールドストップ層:FS層)が形成されている。これによって、オフ時における空乏層がコレクタ領域(p+層16)側に到達しにくくなるため、IGBTの耐圧が高まる。このようにFS層を用いた場合でも、前記のような結晶欠陥層を同様に設けることができる。
【0037】
図6は、このような半導体装置2の構成を
図1に対応させて示す図である。ここで用いられる半導体基板30においては、n
-層11とp
+層(コレクタ層)16、n
+層17との間に、n
-層11よりも高い不純物濃度のn型であるn
+層(FS層:第7半導体領域)31がFS層として設けられる。
【0038】
この場合においては、n-層11からn+層31にかけてn型の領域が厚く形成されるが、前記の理由から、結晶欠陥層D1はIGBTにおけるドリフト層として機能する部分においてのみ設けることが好ましい。このため、結晶欠陥層D1は、領域Iにおけるn-層11のn+層31側(p+層16側)に設けられる。これによって、同様の効果を奏することは明らかである。すなわち、FS層を設けた場合でも、前記と同様の結晶欠陥層を同様に用いることができる。なお、n+層31内に結晶欠陥層D1の結晶欠陥濃度のピークがあっても良いが、p+層16にはないことが望ましい。漏れ電流が比較的小さくすることができる。
【0039】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態に係る半導体装置においては、例えば特開2002-353456号公報に記載されるように、ドリフト層(n-層11)とベース領域(p-層12)の間に、局所的にn-層11よりも不純物濃度が高くされたn型の層(キャリア蓄積層)が形成されている。これによって、IGBTのオン時においてコレクタ領域(p+層16)からn-層11中に注入された正孔がn-層11中にとどまり易くなるため、n-層11中の伝導度変調をより効率的に発生させ、IGBTのオン電圧を低下させることができる。
【0040】
図7は、このような半導体装置3の構成を
図1、6に対応させて示す図である。ここで用いられる半導体基板40においては、領域Iにおいてn
-層11とp
-層12の間にn
+層(キャリア蓄積層:第8半導体領域)41が形成されている。
【0041】
この場合においても、結晶欠陥層D1はIGBTにおけるドリフト層として機能する部分においてのみ設けることが好ましく、結晶欠陥層D1は、領域Iにおけるn-層11におけるp+層16側に設けられる。これによって、同様の効果を奏することは明らかである。すなわち、キャリア蓄積層を設けた場合でも、前記と同様の結晶欠陥層を同様に用いることができる。
【0042】
ただし、この場合においては、キャリア蓄積層と結晶欠陥層等の位置関係を様々に設定することができる。以下に、この点を考慮した変形例について説明する。
【0043】
図8は、n
+層41を領域II側に延伸させた半導体基板45が用いられる半導体装置3A(第1の変形例)の構成を示す。この構造においては、このようにn
+層41を広げることによって、前記のようなIGBTのオン電圧を低下させる効果を特に大きくすることができる。
【0044】
図9は、逆にn
+層41を領域Iと領域IIの境界までには延伸させず、その分、第2結晶欠陥層D2を領域Iの内部まで延伸させた半導体基板46が用いられる半導体装置3B(第2の変形例)の構成を示す。この場合には、第2結晶欠陥層D2を領域Iまで広げたことによって、ダイオードのリカバリー特性を特に向上させることができる。
【0045】
図10は、n
-層11におけるp
-層12側の構造(n
+層41、第2結晶欠陥層D2)は
図7の半導体装置3と同様とし、第1結晶欠陥層D1を領域Iと領域IIの境界まで延伸させない半導体基板47が用いられる半導体装置3C(第3の変形例)の構成を示す。この構造においては、IGBTのオン時においてコレクタ領域(p
+層16)からn
-層11中に多くの正孔を注入しやすくなり、かつこの正孔がエミッタ側(p
-層12側)に到達しにくくなるため、特にIGBTのオン電圧を低くすることができる。
【0046】
図11は、n
+層41、第2結晶欠陥層D2は
図9の半導体装置3Bと同様とし、第1結晶欠陥層D1を領域IIの内部まで延伸させた半導体基板48が用いられる半導体装置3D(第4の変形例)の構成を示す。この構造においては、半導体装置3Bと同様に、ダイオードのリカバリー特性を特に向上させることができると共に、第1結晶欠陥層D1を広げたことによって、半導体装置1Bと同様に、IGBTのオン時(ダイオードの逆バイアス時)において、領域Iから領域IIに流れる正孔を消滅させやすくなるため、ダイオードのリカバリー特性を特に向上させることができる。
【0047】
第2、第3の実施の形態における第1結晶欠陥層、第2結晶欠陥層の位置も、イオン注入の際のマスクによって容易に設定することができる。また、キャリア蓄積層についても同様である。また、FS層とキャリア蓄積層を同時に用いてもよい。
【0048】
なお、上記の半導体装置(RC-IGBT)においてはトレンチゲート型のIGBTが用いられたが、プレーナ型のIGBTに対しても、同様の構成を適用できることは明らかである。また、上記のようなFS層やキャリア蓄積層以外にも、他の層を適宜追加することができる。また、上記の例において、半導体基板中のp型とn型を全て逆転させた場合においても、同様の構成を適用できる。
【符号の説明】
【0049】
1、1A、1B、1C、1D、2、3、3A、3B、3C、3D 900 半導体装置
10、30、40、45~48、90 半導体基板
11、91 n-層(第1半導体領域)
12、92 p-層(第2半導体領域、第5半導体領域)
13、93 酸化膜(ゲート絶縁膜)
14、94 n+層(第3半導体領域)
15、95 層間絶縁層
16、96 p+層(第4半導体領域)
17、97 n+層(第6半導体領域)
21、81 ゲート電極21
22、82 エミッタ電極
23、83 コレクタ電極
31 n+層(第7半導体領域)
41 n+層(第8半導体領域)
D1 第1結晶欠陥層(結晶欠陥層)
D12 第2領域側第1結晶欠陥層
D2 第2結晶欠陥層(結晶欠陥層)
D21 第1領域側第2結晶欠陥層
T 溝(トレンチ)