(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100980
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】心臓、骨格筋、及び筋幹細胞におけるインビボ相同組換え修復
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20240719BHJP
C12N 15/90 20060101ALI20240719BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C12N15/09 100
C12N15/90 Z
C12N15/864 100Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024085010
(22)【出願日】2024-05-24
(62)【分割の表示】P 2021510297の分割
【原出願日】2019-05-03
(31)【優先権主張番号】62/666,685
(32)【優先日】2018-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】507044516
【氏名又は名称】プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】エイミー ジェイ. ウェイガーズ
(72)【発明者】
【氏名】ケクシアン ジュ
(57)【要約】
【課題】心臓、骨格筋、及び筋幹細胞におけるインビボ相同組換え修復の提供。
【解決手段】ウイルスによって送達される配列標的化ヌクレアーゼ及びドナー配列を使用する、骨格筋及び心筋のゲノム改変の方法が開示される。本発明のいくつかの態様は、対象においてインビボで(例えば、筋前駆体ニッチにおいて)筋前駆細胞のゲノムを改変する方法を対象とし、本方法は筋細胞を1つ以上のウイルスと接触させることを含み、1つ以上のウイルスは、筋前駆細胞中で配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入し、筋前駆細胞中でドナー鋳型を形質導入し、改変は、ドナー鋳型のヌクレオチド配列に対応するヌクレオチド配列の挿入を含む。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2018年5月3日出願の米国仮特許出願第62/666,685号の利益を主張し、その内容全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
CRISPR/Cas9などの配列標的化ヌクレアーゼは、DNA二本鎖切断(DSB)修復の細胞機構に関与することによって、哺乳動物のゲノムを編集する高性能なツールを提供する。非相同末端結合(NHEJ)及び相同組換え修復(HDR)は、ヌクレアーゼ生成DSBを修復し、ゲノム損傷及び細胞死を防止するために細胞が使用する主な経路である。NHEJは細胞周期全体を通して、かつ非分裂細胞において活性であるが、このエラーが発生しやすい経路は、非常に予測不能なヌクレオチドの挿入及び欠失ゆえに様々な配列結果をもたらす。
【0003】
対照的に、HDRは、より正確な遺伝子編集結果に加えて、全く新しい配列要素を導入する独自の能力を提供するが、HDRは一般に、有糸分裂後の臓器では非効率的であると考えられ、内因性染色体または外因性鋳型のいずれかに存在する相同DNAを必要とする。最近の研究では、培養細胞、受精卵における、かつ特定の組織への局所送達によるCRISPR誘導HDRの使用が調査されているが、出生後の哺乳動物においてインビボでの多臓器HDRを達成する可能性は試験されていない。加えて、進行中の組織の代謝回転及び修復を支持するために編集細胞の貯蔵所を提供する、再生幹細胞中でインビボHDR標的化が達成され得るかどうかは、まだ探究されていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、驚くべきことに、かつ予想外にも、出生後の心筋、骨格筋、及び筋幹細胞が、マウスの異なる発達時点で鋳型相同組換え(homology directed)修復(HDR、相同組換え(homologous recombination)とも称される)を受けることを見出した。これは、骨格筋及び心筋、すなわち、両方とも主にこのアプローチでは到達できないと広く考えられている有糸分裂後の組織において、HDRによる正確な標的遺伝子置換の予想外の機会を提供する。発明者らの知る限りでは、このデータは、CRISPR/Cas9の全身的なAAV送達による、出生後の心臓における重要なインビボHDR編集に関する最初の実証を提供し、局所的な筋肉内送達によって骨格筋で達成可能な、これまでに報告されたHDR編集率の大幅な改善を示す。本明細書に記載される本発明はまた、細胞の天然ニッチ内の組織幹細胞におけるHDR編集の成功に関する最初の実証を提供し、これによって、これらの希少細胞を単離、増殖または移植する必要なく、治療的及び実験的に幹細胞ゲノムの対象となる操作が比類なく可能となる。最終的に、新生児の哺乳動物の心臓及び出生後の哺乳動物の骨格筋衛星細胞に不可逆的かつ永続的に正確なゲノム改変の可能性を刻み込む能力が、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)を含む、現時点では難治性の多くの心臓及び筋肉疾患に対する今後の治療的介入に刺激的な新しい道を開く。
【0005】
本発明のいくつかの態様は、対象においてインビボで(例えば、筋前駆体ニッチにおいて)筋前駆細胞のゲノムを改変する方法を対象とし、本方法は筋細胞を1つ以上のウイルスと接触させることを含み、1つ以上のウイルスは、筋前駆細胞中で配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入し、筋前駆細胞中でドナー鋳型を形質導入し、改変は、ドナー鋳型のヌクレオチド配列に対応するヌクレオチド配列の挿入を含む。
【0006】
いくつかの実施形態では、1つ以上のウイルスは、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列及びドナー鋳型を形質導入する第1ウイルスを含む。いくつかの実施形態では、1つ以上のウイルスは、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入する第1ウイルス、及びドナー鋳型を形質導入する第2ウイルスを含む。いくつかの実施形態では、1つ以上のウイルスは、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入する第1ウイルス、ならびにドナー鋳型及び1つ以上のgRNA(例えば、1つまたは2つ)を形質導入する第2ウイルスを含む。いくつかの実施形態では、配列標的化ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、Casヌクレアーゼ(例えば、Cas9ヌクレアーゼ)、またはそれらの機能的断片である。
【0007】
いくつかの実施形態では、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列は、筋前駆細胞特異的プロモーター、構成的プロモーター、またはユビキタスプロモーターで形質導入される。いくつかの実施形態では、ドナー鋳型、及び場合により、1つ以上のgRNAをコードする核酸配列は、U6またはH1プロモーターで形質導入される。いくつかの実施形態では、筋前駆細胞は筋幹細胞である。
【0008】
いくつかの実施形態では、対象における筋前駆細胞の少なくとも1%が、ドナー鋳型のヌクレオチド配列に対応するヌクレオチド配列の挿入を含むように改変される。いくつかの実施形態では、改変は、1つのアレルのものである。いくつかの実施形態では、改変は、両方のアレルのものである。いくつかの実施形態では、対象(例えば、ヒトまたはマウス)は、乳児、または若年者、または30歳未満ではない。
【0009】
いくつかの実施形態では、ウイルスは、AAV血清型6、8、9、10またはAnc80である。いくつかの実施形態では、ウイルスは、対象に全身投与されるか、またはウイルスは筋肉内注射によって投与される。
【0010】
本開示のいくつかの態様は、本明細書に開示される方法によって改変されたゲノムを有する核(例えば、筋核)を含む筋線維を対象とする。
【0011】
本開示のいくつかの態様は、対象においてインビボで心臓細胞のゲノムを改変する方法を対象とし、本方法は心臓細胞を1つ以上のウイルスと接触させることを含み、1つ以上のウイルスは、心臓細胞中で配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入し、心臓細胞中でドナー鋳型を形質導入し、改変は、ドナー鋳型のヌクレオチド配列に対応するヌクレオチド配列の挿入を含み、心臓細胞は、DNA合成心臓細胞または複製心臓細胞である。
【0012】
いくつかの実施形態では、心臓細胞は、哺乳動物の有糸分裂後心筋細胞、分裂/増殖せずにDNA合成が可能な哺乳動物の有糸分裂後心筋細胞、ヒト有糸分裂後心筋細胞、分裂/増殖せずにDNA合成が可能なヒト有糸分裂後心筋細胞、心筋細胞前駆細胞、増殖間葉系心臓細胞、増殖内皮心臓細胞、及び心筋前駆細胞からなる群から選択される。
【0013】
いくつかの実施形態では、対象(例えば、ヒトまたはマウス)は、乳児、または若年者、またはヒトの場合、30歳未満である。いくつかの実施形態では、1つ以上のウイルスは、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列及びドナー鋳型を形質導入する第1ウイルスを含む。いくつかの実施形態では、1つ以上のウイルスは、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入する第1ウイルス、及びドナー鋳型を形質導入する第2ウイルスを含む。いくつかの実施形態では、1つ以上のウイルスは、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入する第1ウイルス、ならびにドナー鋳型及び1つ以上のgRNAを形質導入する第2ウイルスを含む。いくつかの実施形態では、配列標的化ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、Casヌクレアーゼ(例えば、Cas9ヌクレアーゼ)、またはそれらの機能的断片である。いくつかの実施形態では、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列は、心臓特異的プロモーター、ユビキタスプロモーターまたは非特異的プロモーターで形質導入される。
【0014】
いくつかの実施形態では、ウイルスは、AAV血清型6、8、9、10またはAnc80である。いくつかの実施形態では、対象における心筋細胞の少なくとも1.6%が改変される。
【0015】
本開示のいくつかの態様は、本明細書に開示される方法によって改変された心筋細胞を含む心臓組織を対象とする。
【0016】
本開示のいくつかの態様は、相同組換え修復による対象におけるインビボでのゲノム改変のために特定の横紋筋タイプを標的とする方法を対象とし、本方法は1つ以上のウイルスが全身投与されることを含み、1つ以上のウイルスは、横紋筋細胞中で配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入し、横紋筋細胞中でドナー鋳型を形質導入し、改変はドナー鋳型のヌクレオチド配列に対応するヌクレオチド配列の挿入を含み、対象の年齢ゆえに、ゲノム改変は少なくとも1つの横紋筋タイプに選択的に生じる。いくつかの実施形態では、筋細胞(例えば、前駆筋細胞)のゲノムが選択的に改変される。いくつかの実施形態では、心臓細胞(例えば、増殖またはDNA合成心臓細胞)のゲノムが選択的に改変される。
【0017】
本発明の上述した、かつ他の多くの特徴及び付随する利点は、本発明の以下の詳細な説明を参照することによってより良く理解されることになる。
【0018】
本特許または出願書類は、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含有する。カラー図面を含む本特許または特許出願公開のコピーは、要請に応じて必要な手数料を支払うことによって特許庁より提供されることになる。
特定の実施形態では、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
対象におけるインビボでの筋前駆細胞のゲノム改変方法であって、前記筋細胞を1つ以上のウイルスと接触させることを含み、前記1つ以上のウイルスが、
a.前記筋前駆細胞中で配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入し、
b.前記筋前駆細胞中でドナー鋳型を形質導入し、
前記改変が、前記ドナー鋳型のヌクレオチド配列に対応するヌクレオチド配列の挿入を含む、前記方法。
(項目2)
前記1つ以上のウイルスが、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列及びドナー鋳型を形質導入する第1ウイルスを含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記1つ以上のウイルスが、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入する第1ウイルスと、ドナー鋳型を形質導入する第2ウイルスとを含む、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記1つ以上のウイルスが、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入する第1ウイルスと、ドナー鋳型及び1つ以上のgRNAを形質導入する第2ウイルスとを含む、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記配列標的化ヌクレアーゼが、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、Casヌクレアーゼ、またはそれらの機能的断片もしくは機能的バリアントである、項目1~4に記載の方法。
(項目6)
前記CasヌクレアーゼがCas9ヌクレアーゼである、項目5に記載の方法。
(項目7)
配列標的化ヌクレアーゼをコードする前記核酸配列が、筋前駆細胞特異的プロモーター、構成的プロモーター、またはユビキタスプロモーターで形質導入される、項目1~6に記載の方法。
(項目8)
ドナー鋳型、及び場合により、1つ以上のgRNAをコードする前記核酸配列が、U6またはH1プロモーターで形質導入される、項目1~7に記載の方法。
(項目9)
前記筋前駆細胞が筋幹細胞である、項目1~8に記載の方法。
(項目10)
前記対象における筋前駆細胞の少なくとも1%が、前記ドナー鋳型のヌクレオチド配列に対応するヌクレオチド配列の挿入を含むように改変される、項目1~9に記載の方法。(項目11)
前記対象における筋前駆細胞の少なくとも40%が、前記ドナー鋳型のヌクレオチド配列に対応するヌクレオチド配列の挿入を含むように改変される、項目1~9に記載の方法。
(項目12)
前記ウイルスが、AAV血清型6、8、9、10またはAnc80である、項目1~11に記載の方法。
(項目13)
前記対象が若年者である、項目1~12に記載の方法。
(項目14)
前記ウイルスが前記対象に全身投与される、項目1~13に記載の方法。
(項目15)
項目1~14に記載の方法によって改変されたゲノムを有する筋核を含む、筋線維。
(項目16)
対象におけるインビボでの心臓細胞のゲノム改変方法であって、前記心臓細胞を1つ以上のウイルスと接触させることを含み、前記1つ以上のウイルスが、
a.前記心臓細胞中で配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入し、
b.前記心臓細胞中でドナー鋳型を形質導入し、
前記改変が、前記ドナー鋳型のヌクレオチド配列に対応するヌクレオチド配列の挿入を含み、前記心臓細胞が、DNA合成心臓細胞または複製心臓細胞である、前記方法。
(項目17)
前記心臓細胞が、分裂/増殖せずにDNA合成が可能な哺乳動物の有糸分裂後心筋細胞、分裂/増殖せずにDNA合成が可能なヒト有糸分裂後心筋細胞、心筋細胞前駆細胞、増殖間葉系心臓細胞、増殖内皮心臓細胞、及び心筋前駆細胞からなる群から選択される、項目14に記載の方法。
(項目18)
前記対象が、乳児、若年者、または30歳未満である、項目16~17に記載の方法。(項目19)
前記1つ以上のウイルスが、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列及びドナー鋳型を形質導入する第1ウイルスを含む、項目16~18に記載の方法。
(項目20)
前記1つ以上のウイルスが、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入する第1ウイルスと、ドナー鋳型を形質導入する第2ウイルスとを含む、項目16~19に記載の方法。
(項目21)
前記1つ以上のウイルスが、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入する第1ウイルスと、ドナー鋳型及び1つ以上のgRNAを形質導入する第2ウイルスとを含む、項目16~19に記載の方法。
(項目22)
前記配列標的化ヌクレアーゼが、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、Casヌクレアーゼ、またはそれらの機能的断片である、項目16~21に記載の方法。
(項目23)
前記CasヌクレアーゼがCas9ヌクレアーゼである、項目22に記載の方法。
(項目24)
配列標的化ヌクレアーゼをコードする前記核酸配列が、心臓特異的プロモーター、ユビキタスプロモーター、または非特異的プロモーターで形質導入される、項目16~23に記載の方法。
(項目25)
前記ウイルスが、AAV血清型6、8、9、10またはAnc80である、項目16~24に記載の方法。
(項目26)
前記対象における前記心筋細胞の少なくとも1.6%が改変される、項目16~25に記載の方法。
(項目27)
項目16~26に記載の方法によって改変された心筋細胞を含む、心臓組織。
(項目28)
相同組換え修復による対象におけるインビボでのゲノム改変を目的とした特定の横紋筋タイプの標的化方法であって、1つ以上のウイルスを全身投与することを含み、前記1つ以上のウイルスが、
a.横紋筋細胞中で配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入し、
b.横紋筋細胞中でドナー鋳型を形質導入し、
前記改変が、前記ドナー鋳型のヌクレオチド配列に対応するヌクレオチド配列の挿入を含み、前記対象の年齢ゆえに、ゲノム改変が少なくとも1つの横紋筋タイプに選択的に生じる、前記方法。
(項目29)
筋細胞または筋前駆細胞の前記ゲノムが選択的に改変される、項目28に記載の方法。
(項目30)
心臓細胞または心臓前駆細胞の前記ゲノムが選択的に改変される、項目28に記載の方法。
(項目31)
前記対象が、乳児、若年者、または成人である、項目28~30に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】
図1A~1Jは、NHEJ及びHDR編集筋芽細胞の識別及び追跡を可能にするGFP/BFPカラースイッチレポーターシステムを図示する。(
図1A)は、HDRと不正確なNHEJを区別するための青色/緑色カラースイッチレポーターの概略図である。不正確なNHEJはGFP蛍光を妨害するが、HDR置換はGFPからBFPへのスペクトルシフトを可能にし、RFLP分析用のBtgI制限部位を作成する。(
図1B)は、トランスフェクション及びウイルス産生に使用されるAAV構築物を示す。ITR、逆方向末端反復配列、U6、U6プロモーター、CMV、CMVプロモーター、NLS、核局在化シグナル、pA:ポリA。(
図1C)は、実験計画を提供する。骨格筋幹細胞(衛星細胞)を、単一のCAG-GFPアレルを保有するマウスから単離し、(
図1B)に示したプラスミド構築物でトランスフェクトした。トランスフェクト細胞を培養下で増殖させ、次いで損傷前のレシピエントマウスへの筋肉内移植のために青色または緑色蛍光に基づいて選別した。(
図1D、1E)は、gRNA-BFP鋳型のみでトランスフェクトした筋芽細胞(
図1D、対照)またはSaCas9及びgRNA-BFP鋳型でトランスフェクトした筋芽細胞(
図1E、実験)の代表的なフローサイトメトリー分析である。(
図1F、1G)は、対照または実験培養物中におけるCRISPR-HDR編集BFP+筋芽細胞(
図1F)及びCRISPR-NHEJ編集GFP-/BFP-筋芽細胞(
図1G)の頻度(%)を示す。個々のデータ点は、平均±SDを重ねて表示され、N=3の独立したトランスフェクションを表す。**p<0.01、***p<0.001、対応のない両側t検定、DF=4。(
図1H)は、編集されたBFP+SMPが筋電位を保持していることを示す。GFP+及びBFP+骨格筋前駆細胞をFACSで単離し、mdxマウスの前脛骨筋(TA)にGFP+(下段)またはCRISPR/Cas9-HDR編集BFP+(上段)幹細胞を注射した。次いで、TAをBFPまたはGFPの蛍光検出によって検査した。スケールバー、50um。緑色、GFP、青色、BFP、赤色、コムギ胚芽凝集素(WGA)、白色、TO-PRO-3。(
図1I)は、GFP座でのPCR増幅に続いて、FACS選別トランスフェクト細胞のBtgI消化を示す。3つの異なる集団を見出した:GFP+SMP(編集なし)、BFP+SMP(HDR)、及びGFP-/BFP-SMP(NHEJ)。(
図1J)は、選別されたCRISPR/Cas9-HDR編集BFP+SMPが、増殖後もBFP発現を保持していることを示す。BFP+SMPを2週間の増殖後に分析した。
【
図2A】
図2A~2Gは、全身的AAV-CRISPRが、3週齢のGFP
+/-mdxマウスの肝臓、心臓及び骨格筋においてインビボCRISPR-NHEJ及びCRISPR-HDRを可能にすることを図示する。(
図2A)は、実験計画を示している。単一のCAG-GFPアレルを保有するMdxマウスに、GFPgRNA-BFP鋳型のみ(対照)またはAAV-GFPgRNA-BFP鋳型とAAV-SaCas9(二重CRISPR/Cas9システム)を保有するAAVを注射した。臓器を蛍光及びゲノム分析のために4週間後に採取した。(
図2B、2D、2F)は、AAV-GFPgRNA-BFP鋳型及びAAV-SaCas9の全身同時注入後の、肝臓(
図2B)、心臓(
図2D)、及び前脛骨筋(骨格筋、
図2F)におけるCRISPR-NHEJ編集(GFP-/BFP-)及びCRISPR-HDR編集(BFP+)細胞の検出に関する代表的な蛍光画像を示す。スケールバー、50um。緑色、GFP、青色、BFP、赤色、コムギ胚芽凝集素(WGA)、白色、TO-PRO-3。(
図2C、2E、2G)は、肝臓(
図2C)、心臓(
図2E)または前脛骨筋(
図2G)におけるBFP+(HDR編集、左プロット)またはGFP-/BFP-(NHEJ編集、右プロット)細胞の頻度(%)を示す。この組織の高度な多核化のために、NHEJ編集を骨格筋線維(すなわち、筋線維)では定量化できず、これによって、ほぼ全ての筋核が標的とされない限り、緑色蛍光消失の検出が妨げられる。AAV-gRNA鋳型及びAAV-SaCas9の同時注射については、N=4マウス(実験AAV-HDR群)、AAV-gRNA鋳型注射のみについてはN=3(AAV対照群)。頻度データを生成するために、各マウスの組織ごとに3つの視野を定量化した。
【
図3A】
図3A~3Dは、衛星細胞がCRISPR-HDRによってインビボで標的され、インビトロで筋管を融合かつ形成する能力を保持し得ることを示す。(
図3A)は、CRISPR-NHEJ及びCRISPR-HDRを可能にするために、ビヒクルもしくはAAV-GFPgRNA-BFP鋳型のみを対照として、またはAAV-GFPgRNA-BFP鋳型及びAAV-SaCas9を静脈内に注射した若年mdxマウスからの骨格筋衛星細胞の代表的なフローサイトメトリー分析を示す。(
図3B、3C)は、CRISPR-HDR編集BFP+衛星細胞(
図3B)及びCRISPR-NHEJ編集GFP-/BFP-衛星細胞(
図3C)の頻度(%)を示す。個々のデータ点は、平均±SDを重ねて表示され、AAV-Cas9及びAAV-gRNA鋳型(実験)、注射したマウスはN=4、AAV-gRNA鋳型のみ(対照)、注射したマウスはN=3、ビヒクル、注射したマウスはN=3。*p<0.05、n.s.、(
図3B)ではp=0.999、(
図3C)ではp=0.7737と有意ではない、Tukeyの多重比較検定を用いた一元配置ANOVA、DF=7。(
図3D)は、FACS選別インビボAAV-HDR注射GFP+(非編集)、BFP+(HDR)及びGFP-/BFP-(NHEJ)衛星細胞から分化した筋管の代表的な蛍光検出を示す。スケールバー、100um。緑色、GFP、青色、BFP、赤色、ミオシン重鎖素(MHC)、白色、TO-PRO-3。
【
図4A】
図4A~4Fは、P3マウスにおけるAAV8による色変換システムの送達によって、インビボCRISPR-HDR標的化における組織依存的な時間制限が明らかとなることを示す。(
図4A)は、実験計画を示している。単一のCAG-GFPアレルを保有するP3仔(野生型及びMDX)に、GFPgRNA-BFP鋳型のみ(対照)またはAAV-GFPgRNA-BFP鋳型とAAV-SaCas9を保有するAAVを注射した。臓器を蛍光及びゲノム分析のために4週間後に採取した。(
図4B、4D、4F)は、AAV-GFPgRNA-BFP鋳型及びAAV-SaCas9(実験)またはAAV-GFPgRNA-BFP鋳型のみ(対照)の腹腔内注射後の、GFP
+/-;mdxマウスの肝臓(
図4B)、心臓(
図4D)、及び前脛骨筋(
図4F)におけるCRISPR-NHEJ編集(GFP-/BFP-)及びCRISPR-HDR編集(BFP+)細胞の検出に関する代表的な蛍光画像を示す。スケールバー、50um。緑色、GFP、青色、BFP、赤色、コムギ胚芽凝集素(WGA)、白色、TO-PRO-3。(
図4C、4E)は、処置したGFP;mdx及び野生型(CAG-GFP)マウスの肝臓(
図4C)及び心臓(
図4E)におけるGFP-/BFP-(NHEJ)及びBFP+(HDR)細胞の頻度(%)を示す。骨格筋ではHDR編集を検出せず、この組織の高度な多核化のために、NHEJ編集を定量化できなかった。実験群についてはN=5(N=2のmdx、N=3のC57BL/6J動物)、対照群についてはN=3(N=1のmdx、N=2のC57BL/6J動物)。
【
図5A】GFP/BFPカラースイッチングレポーターシステム構成成分のインビトロ試験を図示する。(
図5A)は、GFP及びBFPがフローサイトメトリーによって区別され得ることを示す代表的なFACSプロットを示す。mdxTTF(蛍光タンパク質なし)をCAG-GFPまたはCAG-BFPのいずれかのプラスミドでトランスフェクトし、3日後にフローサイトメトリーで分析した。
【
図5B】GFP/BFPカラースイッチングレポーターシステム構成成分のインビトロ試験を図示する。(
図5B)は、カラースイッチング置換及びGFPgRNAの設計を示す。2塩基置換によってスペクトルシフトが引き起こされ、制限断片長多型(RFLP)分析用のBtgI部位が作成される。置換部位近傍のGFPを標的とする3つのSaCas9適合性gRNAを選択した。GFPgRNA2は、所望の色決定塩基に最も近い箇所を切断し、このgRNAによる認識はHDR置換によって無効となり、これによってBFP鋳型及びゲノムHDR産物をさらなるCas9標的化から防ぐ。
【
図5C】GFP/BFPカラースイッチングレポーターシステム構成成分のインビトロ試験を図示する。(
図5C)は、GFPgRNAによるGFP破壊を示す。GFP
+/-;mdxTTFを、SaCas9のみ(対照)で、またはSaCas9とGFPを標的とする3つのgRNAのうち1つでトランスフェクトした(
図5Bを参照のこと)。3つのgRNAは全て、GFP発現を妨害する。GFPgRNA2はカラースイッチング変異に近接しているため、それを後続の実験で使用するために選択した。GFPgRNA2は、本文中ではGFPgRNAまたはgRNAと称される。SSC、側方散乱。
【
図5D】GFP/BFPカラースイッチングレポーターシステム構成成分のインビトロ試験を図示する。(
図5D)は、BFP鋳型を含まないSaCas9+GFPgRNA2でトランスフェクトした筋芽細胞中におけるGFP破壊及びBFP発現の欠如を示す。GFP
+/-;mdx筋芽細胞を、lipofectamineのみ(lipo、対照)で、またはBFP鋳型の不存在下においてSaCas9+GFPgRNA2でトランスフェクトし、GFP及びBFP発現についてフローサイトメトリーで分析した。BFP+ではなく、GFP-/BFP-(CRISPR-NHEJ編集)細胞が、SaCas9及びgRNAでトランスフェクトした培養物中に存在し、このことは、NHEJだけでは緑色から青色へのスペクトルシフトを誘導できないことを示していた。
【
図6A】エクスビボCRISPR-NHEJ及びHDR編集筋芽細胞の分化及びシーケンシングの確認を図示する。(
図6A)は、あらかじめSaCas9及びGFPgRNA-BFP鋳型でトランスフェクトしたFACS選別GFP+(非編集)、BFP+(CRISPR-HDR編集)及びGFP-/BFP-(CRISPR-NHEJ編集)筋芽細胞から分化した筋管の代表的な蛍光画像を示す。スケールバー、100um。緑色、GFP、青色、BFP、赤色、ミオシン重鎖素(MHC)。
【
図6B】エクスビボCRISPR-NHEJ及びHDR編集筋芽細胞の分化及びシーケンシングの確認を図示する。(
図6B)は、FACS選別した培養増殖筋芽細胞からのゲノムPCR産物の制限断片長多型(RFLP)分析を示す。M、マーカー。
【
図6C】エクスビボCRISPR-NHEJ及びHDR編集筋芽細胞の分化及びシーケンシングの確認を図示する。(
図6C)は、GFP及びBFP参照配列にアラインメントしたゲノムアンプリコンのサンガーシーケンシングによって、選別BFP+細胞のHDR及び選別GFP-/BFP-細胞のNHEJが確認されることを示す。
【
図7】全身的AAV-CRISPRによって、若年mdx動物の前脛骨筋の筋線維においてインビボCRISPR-NHEJ及びCRISPR-HDR編集が可能になることを図示する。AAV-対照(GFPgRNA-BFP鋳型のみ)またはAAV-実験(gRNA鋳型+SaCas9)を受けたマウスの前脛骨筋における、CRISPR-NHEJ編集(GFP-/BFP-)及びCRISPR-HDR編集(BFP+)細胞の検出に関する代表的な蛍光画像。各画像は、25枚の20倍画像を互いに合成している。スケールバー、200um。緑色、GFP、青色、BFP、赤色、コムギ胚芽凝集素(WGA)、白色、TO-PRO-3。
【
図8】GFP+、GFP-/BFP-及びBFP+細胞の再選別による、インビボにおける骨格筋衛星細胞のCRISPR-NHEJ及びHDR編集の確認を図示する。(
図8A)は、ビヒクルAAV-GFPgRNA-BFP鋳型のみを対照として、またはAAV-GFPgRNA-BFP鋳型及びAAV-SaCas9をあらかじめ静脈内に注射した若年mdxマウスから単離した骨格筋衛星細胞によるGFP及びBFP発現の分析を示す代表的なフローサイトメトリーデータを示す。GFP+(非編集)、GFP-/BFP-(NHEJ編集)、及びBFP+(HDR編集)細胞の単離に使用した選別ゲートが示されている。選別した集団を培養下で2週間別々に増殖させ、次いで、再分析のために採取した(
図8Bに示す)。(
図8B)は、AAV-HDR注射マウスからあらかじめ選別した培養増殖GFP-/BFP-、GFP+、及びBFP+細胞中におけるGFP及びBFP発現の代表的なフローサイトメトリー分析を示す。
【
図9】全身的AAV-CRISPRによって、新生児C57BL/6J動物においてインビボCRISPR-NHEJ及びCRISPR-HDR編集が可能になることを図示する。AAV-GFPgRNA-BFP鋳型及びAAV-SaCas9(実験)またはAAV-GFPgRNA-BFP鋳型(対照)を新生児GFP
+/-;C57BL/6Jマウスに腹腔内注射した後の、肝臓(
図9Aに示す)及び心筋(
図9Bに示す)における、CRISPR-NHEJ編集(GFP-/BFP-)及びCRISPR-HDR編集(BFP+)細胞の検出に関する代表的な蛍光画像。スケールバー、50um。スケールバー、50um。緑色、GFP、青色、BFP、赤色、コムギ胚芽凝集素(WGA)、白色、TO-PRO-3。
【
図10A】インビボCRISPR-NHEJ及びCRISPR-HDR編集のゲノムPCR及び次世代シーケンシングの検証を図示する。(
図10A)は、ゲノムPCRに使用されるGFP/BFPゲノム導入遺伝子座及びプライマーの概略図を示す。フォワードプライマーは、鋳型DNAではなく、ゲノム配列上のGFP/BFP開始部位の上流に結合し、リバースプライマーは、Cas9切断部位及びカラースイッチング置換の下流に結合する。このプライマー対は、ゲノム導入遺伝子座を増幅するが、鋳型配列は増幅しない(鋳型にはフォワードプライマー結合配列がないため)。
【
図10B】インビボCRISPR-NHEJ及びCRISPR-HDR編集のゲノムPCR及び次世代シーケンシングの検証を図示する。(
図10B)は、P21 AAV-HDR注射GFP
+/-;mdxマウスのインビボCRISPR-NHEJ及びCRISPR-HDR編集衛星細胞、TA筋、心臓、及び肝臓のゲノムNGS分析からの代表的なアラインメント配列を示す。*は代表的なNHEJ配列を示し、**は不正確なNHEJによる挿入部位をマークする。
【
図10C】インビボCRISPR-NHEJ及びCRISPR-HDR編集のゲノムPCR及び次世代シーケンシングの検証を図示する。(
図10C)は、AAV-HDRまたはAAV-対照をインビボで投与したP21 GFP
+/-;mdxマウスから選別した衛星細胞中で検出されたHDR及びNHEJ編集アレルのリード数及びアレル頻度(GFP/BFP配列にマッピングした非編集、HDR編集、またはNHEJ編集リード数/合計リード数)を示す。BFP
+及びGFP
-/BFP
-細胞をAAV-SaCas9及びAAV-gRNA-BFP鋳型注射実験マウス(AAV-HDR)から選別し、GFP
+細胞をAAV-gRNA-BFP鋳型注射対照マウス(AAV-対照)から選別した。
【
図11A】
図11A~11Cは、新生児骨格筋の衛星細胞が、全身的AAV-CRISPR-HDRで稀に標的とされることを図示する。(
図11A)は、CRISPR-NHEJ及びCRISPR-HDRを可能にするために、AAV-GFPgRNA-BFP鋳型のみを対照として、またはAAV-GFPgRNA-BFP鋳型及びAAV-SaCas9を腹腔内注射してから4週間後の、新生児(P3)mdx及びC57BL/6マウスから単離した骨格筋衛星細胞の代表的なフローサイトメトリー分析を示す。(
図11B、11C)は、CRISPR-HDR編集BFP+衛星細胞(
図11B)及びCRISPR-NHEJ編集GFP-/BFP-衛星細胞(
図11C)の頻度(%)を示す。個々のデータ点は、平均±SDを重ねて表示され、AAV-Cas9及びAAV-gRNA鋳型(実験)の注射したmdxマウスはN=2、注射したC57BL6マウスはN=3、AAV-gRNA鋳型のみ(対照)の注射したmdxマウスはN=1、注射したC57BL6マウスはN=2。*p<0.05、Tukeyの多重比較検定を用いた一元配置分散分析(ANOVA)、DF=4。
【
図12-1】CRISPR媒介編集が、3日齢(P3)または21日齢(P21)で処置したマウスの肝臓、心臓、及び前脛骨筋において、GFPマウスのGFP蛍光強度の低減をもたらすことを示す。
【
図13-1】CRISPR媒介編集が、AAV-CRISPRを注射したP21(処置時に21日齢のマウス)の前脛骨筋においてBFP蛍光と、GFP蛍光強度の低減をもたらすことを示す。各ヒストグラムについて、n=1400。個々の筋線維を、ImageJにおいて別個の目的の領域として丸で囲み、各線維の平均蛍光強度を「測定」機能を使用して測定した。Prism8を使用してヒストグラムを生成した。マン・ホイットニーU検定を使用して中央値を比較した。
【
図14】HDR編集筋肉の層下単核細胞がBFP+であることを示す。衛星細胞は、層下単核細胞として定義される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書に記載されるのは、骨格筋及び心筋、すなわち、両方とも主にこのアプローチでは到達できないと広く考えられている有糸分裂後の組織における、HDRによる正確な標的遺伝子置換の方法である。具体的には、発明者らは、CRISPR/Cas9の全身的なAAV送達による、出生後の心臓における重要なインビボHDR編集、及び骨格筋におけるHDR編集率の大幅な改善を実証する。本明細書に記載される方法はまた、細胞の天然ニッチ内の組織幹細胞におけるHDR編集を可能にし、これによって、これらの希少細胞を単離、増殖または移植する必要なく、治療的及び実験的に幹細胞ゲノムの対象となる操作が可能となる。
【0021】
筋細胞のゲノムを改変する方法
【0022】
本開示のいくつかの態様は、対象においてインビボで筋前駆細胞のゲノムを改変する方法を対象とし、本方法は筋細胞を1つ以上のウイルスと接触させることを含み、1つ以上のウイルスは、筋前駆細胞中で配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入し、筋前駆細胞中でドナー鋳型を形質導入し、改変は、ドナー鋳型のヌクレオチド配列に対応するヌクレオチド配列の挿入(例えば、ドナー配列との相同組換えによる)を含む。相同組換え(Homologous recombination)(HR)媒介修復(相同組換え(homology-directed)修復(HDR)とも称される)は、二本鎖DNA切断を修復するための鋳型として相同ドナーDNAを使用する。ドナーDNAの配列がゲノム配列と異なる場合、このプロセスにより、ゲノムに配列変化が導入される。
【0023】
「ゲノムの改変」という語句は、本明細書で使用される場合、調節配列または遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列の相同組換えによる追加(すなわち、ドナー鋳型のヌクレオチド配列に対応するヌクレオチド配列の挿入)を包含する。いくつかの実施形態では、改変は、疾患または状態(例えば、遺伝子変異)と関連するゲノム領域と、非病理学的ゲノム領域との相同組換えによる置換を含む。例えば、いくつかの実施形態では、改変は、変異を含むゲノム領域と、野生型または非変異ゲノム領域との置換を含む。いくつかの実施形態では、変異は、置換または欠失変異を含む。いくつかの実施形態では、改変は、欠失変異の欠失部分に対応するゲノムへのヌクレオチド配列の相同組換えによる挿入を含む。いくつかの実施形態では、ゲノムの改変は、遺伝子産物の発現、活性または安定性を調節するゲノム配列の相同組換えによる挿入及び/または置換を含む。いくつかの実施形態では、ゲノムの改変は、対象の両方のアレルの改変を含む。いくつかの実施形態では、ゲノムの改変は、対象の1つのアレルの改変を含む。いくつかの実施形態では、ゲノム改変は、生物学的プロセスと関連する1つ以上の遺伝子の改変を含む。いくつかの実施形態では、生物学的プロセスは、エピジェネティックな調節またはタンパク質恒常性(例えば、オートファジー、ユビキチン・プロテアソーム、熱ショック応答、抗酸化応答、小胞体ストレス応答)を含む。
【0024】
本明細書で使用される場合、「対象」は、ヒトまたは動物(例えば、霊長類)を意味する。通常、動物は脊椎動物、例えば、霊長類、げっ歯類、飼育動物または狩猟動物などである。霊長類としては、チンパンジー、カニクイザル、クモザル、及びマカク、例えば、アカゲザルが挙げられる。げっ歯類としては、マウス、ラット、ウッドチャック、フェレット、ウサギ及びハムスターが挙げられる。飼育及び狩猟動物としては、ウシ、ウマ、ブタ、シカ、バイソン、バッファロー、ネコ科の種、例えば、イエネコ、イヌ科の種、例えば、イヌ、キツネ、オオカミ、鳥類の種、例えば、ニワトリ、エミュー、ダチョウ、ならびに魚、例えば、マス、ナマズ及びサケが挙げられる。患者または対象は、前述の、例えば、上記した全ての任意のサブセットを含むが、ヒト、霊長類またはげっ歯類などの1つ以上の群または種を除く。ある特定の実施形態では、対象は哺乳動物、例えば、霊長類、例えば、ヒトである。「患者」、「個体」及び「対象」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。好ましくは、対象は哺乳動物である。哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシであり得るが、これらの例に限定されない。対象はオスまたはメスであり得る。「対象」は、様々な実施形態において任意の脊椎動物であってよい。対象は、例えば、実験、診断、及び/または治療を目的として薬剤が投与される個体または試料が得られる個体または手順が実施される個体であってよい。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、新生児~6か月齢である。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、6~24か月齢である。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、2~6歳、6~12歳、または12~18歳である。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、18~30歳、30~50歳、50~80歳、または80歳を超える。いくつかの実施形態では、対象は、少なくとも約5、10、20、30、40、50、60、65、70、75、80、85、または90歳である。いくつかの実施形態では、対象は、約5、10、20、30、40、50、60、65、70、75、80、85、または90歳未満である。いくつかの実施形態では、対象は成人である。この目的のために、若くとも18歳のヒトが成人であると見なされる。いくつかの実施形態では、対象は若年者(例えば、ヒト対象では約18、12または6歳未満)である。いくつかの実施形態では、対象は若年者(例えば、ヒト対象では約18、12または6歳未満)ではない。いくつかの実施形態では、対象は胚である。いくつかの実施形態では、対象は胎児である。ある特定の実施形態では、子宮内の胚または胎児に対する生物学的効果を処置するか、または引き起こすために、薬剤が妊婦に投与される。
【0025】
いくつかの実施形態では、対象は、筋組織が関与する疾患または状態を有する。いくつかの実施形態では、対象は、筋ジストロフィーを有するか、または筋ジストロフィーと診断されている。いくつかの実施形態では、筋ジストロフィーは、筋強直性筋ジストロフィー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、眼咽頭型筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー、及びエメリ・ドレフュス型筋ジストロフィーから選択される。いくつかの実施形態では、筋ジストロフィーは、ベッカー型筋ジストロフィーまたはデュシェンヌ型筋ジストロフィーである。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法は、対象の疾患または状態を処置するために使用される。
【0026】
本明細書で使用される場合、細胞を1つ以上のウイルスと「接触させること」は、対象の全身に(例えば、静脈内に)または局所的に(例えば、筋肉内注射)ウイルスを投与することを含み得る。あるいは、他の投与経路が選択されてよい(例えば、経口、吸入、鼻腔内、気管内、動脈内、眼内、静脈内、筋肉内、及び他の親経路)。接触方法は限定されず、当該技術分野において利用可能な任意の好適な方法であってよい。
【0027】
いくつかの実施形態では、ウイルス組成物は、ヒト患者に対して約1.0×109GC~約1.0×1015GCの範囲内(体重が70kgの平均的な対象を処置するために)、好ましくは1.0×1012GC~1.0×1014GCである複製欠損ウイルスの量を含有するために投与単位で製剤化され得る。好ましくは、製剤中の複製欠損ウイルスの用量は、1.0×109GC、5.0×109GC、1.0×1010GC、5.0×1010GC、1.0×1011GC、5.0×1011GC、1.0×1012GC、5.0×1012GC、または1.0×1013GC、5.0×1013GC、1.0×1014GC、5.0×1014GC、または1.0×1015GCである。
【0028】
いくつかの実施形態では、筋前駆細胞またはそのサブセットのゲノムの少なくとも約0.1%、0.5%、1%、2%、3%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%以上が改変される。いくつかの実施形態では、筋前駆細胞またはそのサブセットのゲノムの少なくとも約0.1%、0.5%、1%、2%、3%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%以上が、相同組換えによって改変される(例えば、ゲノム配列が相同組換えによって置換または挿入される)。いくつかの実施形態では、筋前駆細胞またはそのサブセットのゲノムの少なくとも約40%以上が、相同組換えによって改変される(例えば、ゲノム配列が相同組換えによって置換または挿入される)。いくつかの実施形態では、対象における筋前駆細胞の少なくとも1%が、ドナー鋳型のヌクレオチド配列に対応するヌクレオチド配列の挿入を含むように改変される。いくつかの実施形態では、対象における筋前駆細胞の少なくとも1%、2%、3%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%以上が、ドナー鋳型のヌクレオチド配列に対応するヌクレオチド配列の挿入を含むように改変される。いくつかの実施形態では、改変は、少なくとも1つのアレルの改変を含む。いくつかの実施形態では、改変は、両方のアレルの改変を含む。
【0029】
本明細書全体にわたって開示される方法での使用に好適なウイルスとしては、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス(例えば、レンチウイルス)、ワクシニアウイルス及び他のポックスウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス)などが挙げられる。ウイルスは、宿主細胞に導入される場合、感染性ウイルスを産生するのに十分なウイルス遺伝情報を含有する場合または含有しない場合があり、すなわち、ウイルスベクターは複製可能な場合または複製欠損性の場合がある。
【0030】
いくつかの実施形態では、ウイルスは、アデノ随伴ウイルスである。アデノ随伴ウイルス(AAV)は、小さな(20nm)複製欠損性の非エンベロープウイルスである。AAVゲノムは、約4.7キロベース長の一本鎖DNA(ssDNA)である。ゲノムは、DNA鎖の両端に逆方向末端反復配列(ITR)、ならびに2つのオープンリーディングフレーム(ORF):rep及びcapを含む。AAVゲノムは、19番染色体上の特定の部位に最も頻繁に組み込まれる。ゲノム中へのランダムな組込みは、ごくわずかな頻度で生じる。組込み能力は、ベクターからrep ORFの少なくとも一部を除去することによって排除される場合があり、結果としてエピソームの状態を保持し、少なくとも非分裂細胞中で持続的な発現を提供するベクターをもたらす。AAVを遺伝子導入ベクターとして使用するために、プロモーターに機能的に連結される、所望のタンパク質またはRNAをコードする核酸配列、例えば、ATPIF1を阻害するポリペプチドまたはRNAをコードする核酸配列を含む核酸が、AAVゲノムの逆方向末端反復配列(ITR)間に挿入される。アデノ随伴ウイルス(AAV)及びベクターとしての、例えば、遺伝子治療のためのそれらの使用は、Snyder,RO and Moullier,P.,Adeno-Associated Virus Methods and Protocols,Methods in Molecular Biology,Vol.807.Humana Press,2011でも述べられている。
【0031】
いくつかの実施形態では、AAVは、AAV血清型6、8、9、10またはAnc80である(WO2015054653に開示され、参照によって本明細書に組み込まれる)。いくつかの実施形態では、AAV血清型は、AAV血清型2である。任意のAAV血清型、または改変AAV血清型が適宜使用されてよく、かつ限定されない。
【0032】
別の好適なAAVは、例えば、rhlOであってよい[例えば、WO2003/042397を参照のこと]。さらに他のAAV供給源としては、例えば、AAV9[例えば、US7,906,111、US2011-0236353-A1を参照のこと]、及び/またはhu37[例えば、US7,906,111、US2011-0236353-A1を参照のこと]、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV6.2、AAV7、AAV8[例えば、米国特許第7790449号、米国特許第7282199号を参照のこと]などが挙げられてよい。これらの及び他の好適なAAVの配列に加えて、AAVベクターを生成する方法については、例えば、WO2003/042397、WO2005/033321、WO2006/110689、米国特許第7790449号、米国特許第7282199号、及びUS7588772B2を参照のこと。さらに他のAAVが、場合により、選択されたAAVカプシドの組織選択性を考慮に入れて選択されてよい。組換えAAVベクター(AAVウイルス粒子)は、AAVカプシド内にパッケージングされた、5’AAV ITR、本明細書に記載される発現カセット及び3’AAV ITRを含有する核酸分子を含んでよい。本明細書に記載されるように、発現カセットは、各発現カセット内にオープンリーディングフレーム(複数可)のための調節エレメントを含有してよく、核酸分子は、場合により追加の調節エレメントを含有してよい。
【0033】
AAVベクターは、全長AAV 5’逆方向末端反復配列(ITR)及び全長3’ITRを含有してよい。AITRと称される5’ITRの短縮型が記載されていて、それはD-配列及び末端分解部位(trs)が欠失している。「sc」という略語は、自己相補的であることを指す。「自己相補的AAV」は、組換えAAV核酸配列が保有しているコード領域が、分子内二本鎖DNA鋳型を形成するように設計されている構築物を指す。感染時、第2鎖の細胞媒介合成を待つのではなく、scAAVの2つの相補的な半分が会合して、すぐに複製及び転写を行う準備ができている1本の二本鎖DNA(dsDNA)単位を形成することになる。例えば、D M McCarty et al,“Self-complementary recombinant adeno-associated virus(scAAV) vectors promote efficient
transduction independently of DNA synthesis”,Gene Therapy,(August 2001),Vol 8,Number 16,Pages 1248-1254を参照のこと。自己相補的AAVは、例えば、米国特許第6,596,535号、同第7,125,717号、及び同第7,456,683号に記載され、その各々の全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0034】
偽型AAVが産生される場合、ITRは、カプシドのAAV供給源とは異なる供給源から選択される。例えば、AAV2 ITRは、選択された細胞受容体、標的組織またはウイルス標的に対して特定の効率を有するAAVカプシドと共に使用するために選択される場合がある。一実施形態では、AAV2に由来するITR配列、またはその欠失型(AITR)が、便宜上、かつ規制当局の承認を早めるために使用される。しかしながら、他のAAV供給源に由来するITRが選択されてもよい。ITRの供給源がAAV2に由来し、AAVカプシドが別のAAV供給源に由来する場合、得られたベクターは偽型と称される場合がある。しかしながら、AAV ITRの他の供給源が利用されてもよい。
【0035】
一本鎖AAVウイルスベクターが使用されてよい。対象への送達に好適なAAVウイルスベクターを生成及び単離する方法は、当該技術分野において既知である。例えば、米国特許第7790449号、米国特許第7282199号、WO2003/042397、WO2005/033321、WO2006/110689、及びUS7588772B2を参照のこと。1つのシステムでは、産生細胞株が、ITRに隣接する導入遺伝子をコードする構築物ならびにrep及びcapをコードする構築物(複数可)で一過性トランスフェクトされる。第2システムでは、rep及びcapを安定して供給するパッケージング細胞株が、ITRに隣接する導入遺伝子をコードする構築物で(一過性または安定に)トランスフェクトされる。これらの各システムでは、ヘルパーアデノウイルスまたはヘルペスウイルスの感染に応答してAAVビリオンが産生されるため、混入ウイルスからrAAVを分離する必要がある。より最近では、AAVを回収するのにヘルパーウイルスの感染を必要としないシステムが開発され、必要なヘルパー機能(すなわち、アデノウイルスEl、E2a、VA、及びE4またはヘルペスウイルスUL5、UL8、UL52、及びUL29、ならびにヘルペスウイルスポリメラーゼ)も、システムによってトランスに供給される。これらの新しいシステムでは、ヘルパー機能は、必要なヘルパー機能をコードする構築物で細胞を一過性トランスフェクトすることによって供給され得るか、または細胞が、ヘルパー機能をコードする遺伝子を安定して含有するように操作され得、その発現は転写もしくは転写後レベルに制御され得る。さらに別のシステムでは、ITRに隣接する導入遺伝子及びrep/cap遺伝子は、バキュロウイルスベースのベクターの感染によって昆虫細胞に導入される。これらの産生システムに関する概説については、一般に、例えば、Zhang et al,2009,“Adenovirus-adeno-associated virus hybrid for large-scale recombinant adeno-associated virus production,”Human Gene Therapy 20:922-929を参照し、その各々の内容全体が参照によって本明細書に組み込まれる。これらの及び他のAAV産生システムを作製かつ使用する方法は、以下の米国特許にも記載され、その内容全体が参照によって本明細書に組み込まれる:5,139,941、5,741,683、6,057,152、6,204,059、6,268,213、6,491,907、6,660,514、6,951,753、7,094,604、7,172,893、7,201,898、7,229,823、及び7,439,065。
【0036】
別の実施形態では、他のウイルスベクターが使用されてよく、組込みウイルス、例えば、ヘルペスウイルスまたはレンチウイルスを含むが、他のウイルスが選択されてもよい。好適には、これらの他のベクターのうち1つが生成される場合、それは複製欠損ウイルスベクターとして産生される。「複製欠損ウイルス」または「ウイルスベクター」は、合成または人工ウイルス粒子を指し、その中では目的の遺伝子を含有する発現カセットがウイルスカプシドまたはエンベロープ中にパッケージングされ、ウイルスカプシドまたはエンベロープ内にさらにパッケージングされている任意のウイルスゲノム配列が複製欠損性である、すなわち、それらは子孫ビリオンを生成できないが、標的細胞に感染する能力を保持し得る。一実施形態では、ウイルスベクターのゲノムは、複製に必要な酵素をコードする遺伝子を含まない(このゲノムは「ガットレス」である、すなわち、人工ゲノムの増幅及びパッケージングに必要なシグナルに隣接する目的の導入遺伝子のみを含有するように操作され得る)が、これらの遺伝子は産生中に供給されてもよい。
【0037】
1つ以上のウイルスは、哺乳動物細胞中で発現(例えば、配列標的化ヌクレアーゼ、ドナー鋳型、及び/または1つ以上のgRNAの発現)を誘導できるプロモーターを含有してよく、例えば、好適なウイルスプロモーター、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)、レトロウイルス、シミアンウイルス(例えば、SV40)、パピローマウイルス、ヘルペスウイルスもしくは哺乳動物細胞に感染する他のウイルスに由来するものなど、または例えば、EF1アルファ、ユビキチン(例えば、ユビキチンBもしくはC)、グロビン、アクチン、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)などの遺伝子に由来する哺乳動物プロモーター、または複合プロモーター、例えば、CAGプロモーター(CMV初期エンハンサーエレメント及びニワトリベータ-アクチンプロモーターの組合せ)などである。いくつかの実施形態では、ヒトプロモーターが使用されてよい。いくつかの実施形態では、プロモーターは、CMVプロモーター、U6プロモーター、H1プロモーター、構成的プロモーター、及びユビキタスプロモーターから選択される。いくつかの実施形態では、プロモーターは、特定の細胞型における発現を誘導する。例えば、筋前駆細胞特異的プロモーター。
【0038】
本明細書に開示される各方法のいくつかの実施形態では、好適な組織特異的プロモーターは、ワールドワイドウェブのtiprod.bioinf.med.uni-goettingen.de/で利用可能な「TiProD:Tissue specific promoter Database」に記載されている組織特異的プロモーターから当業者であれば得られ得る。
【0039】
本明細書に開示される方法に使用され得る配列標的化ヌクレアーゼは限定されることなく、本明細書に開示される任意の配列標的化ヌクレアーゼであってよい。いくつかの実施形態では、配列標的化ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、Casヌクレアーゼ(例えば、Cas9ヌクレアーゼ)、またはそれらの機能的断片もしくは機能的バリアントである。
【0040】
現在使用されている配列標的化ヌクレアーゼ(すなわち、標的化可能なヌクレアーゼ、部位特異的ヌクレアーゼ)には、主に4つの種類がある:ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、及びRNA誘導型ヌクレアーゼ(RGN)、例えば、CRISPR/CasII型システムのCasタンパク質など、ならびに操作されたメガヌクレアーゼ。ZFN及びTALENは、選択されたDNA配列をタンパク質の標的とするように適切に設計されている、部位特異的DNA結合ドメイン(DBD)に融合された制限酵素FokI(またはその操作されたバリアント)のヌクレアーゼドメインを含む。ZFNの場合、DNA結合ドメイン(DBD)は、ジンクフィンガーDBDを含む。TALENの場合、部位特異的DBDは、キサントモナス種などの植物病原菌に見られる部位特異的DNA結合タンパク質のファミリーである転写活性化因子様エフェクター(TALE)によって用いられるDNA認識コードに基づいて設計される。
【0041】
規則的な間隔をもってクラスター化された短鎖反復回文配列(CRISPR)II型システムは、ゲノム工学用のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ技術として使用するために改変されている細菌適応免疫系である。細菌系は、crRNA及びtracrRNAと呼ばれる2つの内因性細菌RNAならびにCRISPR関連(Cas)ヌクレアーゼ、例えば、Cas9を含む。tracrRNAはcrRNAと部分的に相補性を有し、それと複合体を形成する。Casタンパク質は、crRNA/tracrRNA複合体によって標的配列に誘導され、これは標的内でcrRNA配列と相補配列との間にRNA/DNAハイブリッドを形成する。ゲノム改変で使用するために、crRNA及びtracrRNA構成成分は、多くの場合に組み合わされて単一のキメラガイドRNA(sgRNAまたはgRNA)となり、crRNAの標的化特異性及びtracrRNAの特性が組み合わされて、Casタンパク質がDNAを切断できるように標的配列にCasタンパク質を局在化させる単一の転写物となる。sgRNAは、多くの場合に所望の標的配列に相補的な、またはそれと相同なおよそ20ヌクレオチドのガイド配列に続いて、約80ntのハイブリッドcrRNA/tracrRNAを含む。当業者は、ガイドRNAが標的配列に完全に相補的である、またはそれと相同である必要はないことを十分に理解する。例えば、いくつかの実施形態では、それは1つまたは2つのミスマッチを有する場合がある。gRNAがハイブリダイズするゲノム配列には、通常、片側にプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列が隣接しているが、当業者は、ある特定のCasタンパク質がPAM配列に対して緩やかな要件を有する場合があることを十分に理解する。PAM配列はゲノムDNA中に存在するが、sgRNA配列中には存在しない。Casタンパク質は、正確な標的配列及びPAM配列を有する任意のDNA配列を対象とすることになる。PAM配列は、Casタンパク質が由来する細菌の種に応じて変化する。Casタンパク質の具体例としては、Cas1、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9及びCas10が挙げられる。いくつかの実施形態では、部位特異的ヌクレアーゼは、Cas9タンパク質を含む。例えば、Streptococcus pyogenes(Sp)、Neisseria meningitides、Staphylococcus aureus、Streptococcus thermophiles、またはTreponema denticolaに由来するCas9が使用されてよい。これらのCas9タンパク質のPAM配列は、それぞれNGG、NNNNGATT、NNAGAA、NAAAACである。いくつかの実施形態では、Cas9は、Staphylococcus aureus(saCas9)に由来する。
【0042】
部位特異的ヌクレアーゼの操作されたバリアントは多数開発されていて、ある特定の実施形態で使用されてよい。例えば、Cas9及びFok1の操作されたバリアントは、当該技術分野において既知である。さらに、生物学的に活性な断片またはバリアントが使用され得ると理解されることになる。他の選択肢としては、ハイブリッド部位特異的ヌクレアーゼの使用が挙げられる。例えば、CRISPR RNA誘導型FokIヌクレアーゼ(RFN)では、FokIヌクレアーゼドメインが、触媒的に不活性なCas9タンパク質(dCas9)タンパク質のアミノ末端に融合される。RFNは二量体として機能し、2つのガイドRNAを利用する(Tsai,QS,et al.,Nat Biotechnol.2014;32(6):569-576)。一本鎖DNA切断を生成する部位特異的ヌクレアーゼも、ゲノム編集に有用である。そのようなヌクレアーゼは「ニッカーゼ」と称されることもあり、2つのヌクレアーゼドメインを含む部位特異的ヌクレアーゼ(ZFN、TALEN、及びCasタンパク質など)の2つのヌクレアーゼドメインのうち1つにおいて、主要な触媒残基に変異(例えば、アラニン置換)を導入することによって生成され得る。そのような変異の例としては、SpCas9のD10A、N863A、及びH840A、または他のCas9タンパク質の相同位置が挙げられる。ニックは、一部の細胞型では低効率でHDRを刺激し得る。互いに近く、反対の鎖上に存在する一対の配列を標的とする2つのニッカーゼは、各鎖上に一本鎖切断を作成して(「ダブルニッキング」)、DSBを効果的に生成し得、これは場合によりドナーDNA鋳型を使用してHDRによって修復され得る(Ran,F.A.et al.Cell 154,1380-1389(2013))。いくつかの実施形態では、Casタンパク質は、SpCas9バリアントである。いくつかの実施形態では、SpCas9バリアントは、R661A/Q695A/Q926A三重バリアントまたはN497A/R661A/Q695A/Q926A四重バリアントである。Kleinstiver et al.,“High-fidelity CRISPR-Cas9 nucleases with no detectable genome-wide off-target effects,” Nature,Vol.529,pp.490-495(及び補足資料)(2016)を参照し、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態では、Casタンパク質は、クラス2タイプV-B CRISPR-Casタンパク質のC2c1である。Yang et al.,“PAM-Dependent Target DNA Recognition and Cleavage by C2c1 CRISPR-Cas Endonuclease,” Cell,Vol.167,pp.1814-1828(2016)を参照し、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態では、Casタンパク質は、US20160319260「Engineered CRISPR-Cas9 nucleases with Altered PAM Specificity」に記載されている1つであり、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0043】
配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸は、ウイルス(例えば、AAV)中に含まれるのに十分に短くなければならない。いくつかの実施形態では、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸は、4.4kb未満である。
【0044】
いくつかの実施形態では、配列標的化ヌクレアーゼは、天然に存在する標的化可能なヌクレアーゼと少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%のポリペプチド配列同一性を有する。
【0045】
いくつかの実施形態では、1つ以上のウイルスは、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列及びドナー鋳型を形質導入する第1ウイルスを含む。いくつかの実施形態では、1つ以上のウイルスは、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列、ドナー鋳型及び1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つなど)のgRNAを形質導入する第1ウイルスを含む。単一のウイルスが配列標的化ヌクレアーゼ、ドナー鋳型、及び場合により、1つ以上のgRNAを形質導入する、本明細書に記載される方法の実施形態では、当業者は、必要なヌクレオチド配列をパッケージングできる好適なウイルスを選択し得る。いくつかの実施形態では、1つ以上のウイルスは、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入する第1ウイルス、及びドナー鋳型を形質導入する第2ウイルスを含む。いくつかの実施形態では、1つ以上のウイルスは、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入する第1ウイルス、ならびにドナー鋳型及び1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つなど)のgRNAを形質導入する第2ウイルスを含む。いくつかの実施形態では、1つ以上のウイルスは、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入する第1ウイルス、ならびにドナー鋳型及び2つのgRNAを形質導入する第2ウイルスを含む。いくつかの実施形態では、第1ウイルスと第2ウイルスとの比は、約1:3~約1:100であり、その間の比を含む。例えば、第1ウイルスと第2ウイルスとの比は、約1:5~約1:50、または約1:10、または約1:20であってよい。好ましくはないが、比は1:1であってもよいか、または第2ウイルスが多く存在してもよい。
【0046】
いくつかの実施形態では、本方法は、様々な送達組成物及びナノ粒子、例えば、ミセル、リポソーム、カチオン性脂質-核酸組成物、ポリグリカン組成物及び他のポリマー、脂質及び/またはコレステロールベースの核酸コンジュゲート、ならびに本明細書に記載されるものなどの他の構築物を含むものと一体となった、非ウイルス構築物、例えば、「裸のDNA」、「裸のプラスミドDNA」、RNA、及びmRNAによって媒介される1つ以上の構成成分(例えば、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸、ドナー鋳型、1つ以上のgRNA(例えば、2つのgRNA))の送達を含む。例えば、X.Su et al,Mol.Pharmaceutics,2011,8(3),pp774-787、ウェブ公開:2011年3月21日、WO2013/182683、WO2010/053572及びWO2012/170930を参照し、その全てが参照によって本明細書に組み込まれる。
【0047】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法によって改変された筋前駆細胞のゲノムを有するその細胞は、筋幹細胞(例えば、成体筋幹細胞)である。しかしながら、筋前駆細胞は限定されない。いくつかの実施形態では、対象における筋前駆細胞(例えば、筋幹細胞)の少なくとも1%が、ドナー鋳型のヌクレオチド配列に対応するヌクレオチド配列の挿入を含むように改変される。本発明の他の実施形態では、本明細書に開示される方法は、筋線維細胞の改変を含む。いくつかの実施形態では、筋前駆細胞及び筋線維細胞の両方とも、それらのゲノムが改変されている。いくつかの実施形態では、筋線維細胞のゲノムは、改変されていないか、または実質的に改変されていない。
【0048】
本発明のいくつかの態様は、本明細書に開示される方法によって筋前駆細胞(例えば、衛星細胞)のゲノムを改変することによって、改変されたゲノムを有する筋線維を作製する方法を対象とする。改変された筋線維は、1つ以上の改変された筋前駆細胞核を含む。いくつかの実施形態では、筋線維は、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、10、20、50、75、100、200、250、300、400以上の改変された核を含む。いくつかの実施形態では、筋線維の核の少なくとも約1%、2%、3%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、51%、60%、70%、90%、95%、または99%が、本明細書に開示される方法によって改変されたゲノムを有する。いくつかの実施形態では、対象の筋線維の少なくとも約1%、2%、3%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、51%、60%、70%、90%、95%、または99%が、本明細書に開示される方法によって改変されたゲノムを有する。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法によって改変された筋線維を有する対象は、筋ジストロフィーと診断されている。いくつかの実施形態では、対象は筋ジストロフィーを有する。いくつかの実施形態では、筋ジストロフィーは、筋強直性筋ジストロフィー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、眼咽頭型筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー、及びエメリ・ドレフュス型筋ジストロフィーから選択される。いくつかの実施形態では、筋ジストロフィーは、ベッカー型筋ジストロフィーまたはデュシェンヌ型筋ジストロフィーである。
【0049】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法は、本明細書に開示される方法によって改変されたゲノムを有する筋前駆細胞または筋線維の運命または機能を評価することをさらに含む。
【0050】
心臓細胞のゲノムを改変する方法
【0051】
本開示のいくつかの態様は、対象においてインビボで心臓細胞のゲノムを改変する方法を対象とし、本方法は心臓細胞を1つ以上のウイルスと接触させることを含み、1つ以上のウイルスは、心臓細胞中で配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入し、心臓細胞中でドナー鋳型を形質導入し、改変は、ドナー鋳型のヌクレオチド配列に対応するヌクレオチド配列の挿入(例えば、相同組換え)を含み、心臓細胞は、DNA合成心臓細胞または複製心臓細胞である。
【0052】
対象は限定されず、本明細書に記載されるような任意の対象であってよい。いくつかの実施形態では、対象は心臓の疾患または状態を有する。いくつかの実施形態では、心臓の疾患または状態は、遺伝子変異と関連する。いくつかの実施形態では、心臓の疾患または状態は、遺伝子変異を修正することによって改善または処置され得る。いくつかの実施形態では、心臓の疾患または状態は、心臓細胞のゲノムに遺伝子配列を挿入することによって改善または処置され得る。いくつかの実施形態では、心臓の疾患または状態の可能性は、遺伝子変異の修正によって低減または予防され得る。いくつかの実施形態では、心臓の疾患または状態の可能性は、心臓細胞のゲノムに遺伝子配列を挿入することによって低減または予防され得る。いくつかの実施形態では、対象は、乳児、または若年者、または30歳未満である。いくつかの実施形態では、対象は、乳児、または若年者、または30歳未満ではない。
【0053】
いくつかの実施形態では、心臓細胞は、哺乳動物の有糸分裂後心筋細胞、分裂/増殖せずにDNA合成が可能な哺乳動物の有糸分裂後心筋細胞、ヒト有糸分裂後心筋細胞、分裂/増殖せずにDNA合成が可能なヒト有糸分裂後心筋細胞、心筋細胞前駆細胞、増殖間葉系心臓細胞、増殖内皮心臓細胞、及び心筋前駆細胞からなる群から選択される。
【0054】
配列標的化ヌクレアーゼは限定されず、本明細書に記載される任意の配列標的化ヌクレアーゼであってよい。いくつかの実施形態では、配列標的化ヌクレアーゼは、Cas9またはその機能的断片もしくは機能的バリアントである。
【0055】
いくつかの実施形態では、1つ以上のウイルスは、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列及びドナー鋳型を形質導入する第1ウイルスを含む。いくつかの実施形態では、1つ以上のウイルスは、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列、ドナー鋳型及び1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つなど)のgRNAを形質導入する第1ウイルスを含む。単一のウイルスが配列標的化ヌクレアーゼ、ドナー鋳型、及び場合により、1つ以上のgRNAを形質導入する、本明細書に記載される方法の実施形態では、当業者は、必要なヌクレオチド配列をパッケージングできる好適なウイルスを選択し得る。いくつかの実施形態では、1つ以上のウイルスは、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入する第1ウイルス、及びドナー鋳型を形質導入する第2ウイルスを含む。いくつかの実施形態では、1つ以上のウイルスは、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入する第1ウイルス、ならびにドナー鋳型及び1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つなど)のgRNAを形質導入する第2ウイルスを含む。いくつかの実施形態では、第1ウイルスと第2ウイルスとの比は、約1:3~約1:100であり、その間の比を含む。例えば、第1ウイルスと第2ウイルスとの比は、約1:5~約1:50、または約1:10、または約1:20であってよい。好ましくはないが、比は1:1であってもよいか、または第2ウイルスが多く存在してもよい。
【0056】
いくつかの実施形態では、本方法は、様々な送達組成物及びナノ粒子、例えば、ミセル、リポソーム、カチオン性脂質-核酸組成物、ポリグリカン組成物及び他のポリマー、脂質及び/またはコレステロールベースの核酸コンジュゲート、ならびに本明細書に記載されるものなどの他の構築物を含むものと一体となった、非ウイルス構築物、例えば、「裸のDNA」、「裸のプラスミドDNA」、RNA、及びmRNAによって媒介される1つ以上の構成成分(例えば、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸、ドナー鋳型、1つ以上のgRNA)の送達を含む。例えば、X.Su et al,Mol.Pharmaceutics,2011,8(3),pp774-787、ウェブ公開:2011年3月21日、WO2013/182683、WO2010/053572及びWO2012/170930を参照し、その両方が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0057】
1つ以上のウイルスは、哺乳動物細胞中で発現(例えば、配列標的化ヌクレアーゼ、ドナー鋳型、1つ以上のgRNAの発現)を誘導できるプロモーター、例えば、本明細書に記載されるような好適なウイルスプロモーターなどを含有してよい。いくつかの実施形態では、ヒトプロモーターが使用されてよい。いくつかの実施形態では、プロモーターは、CMVプロモーター、U6プロモーター、H1プロモーター、構成的プロモーター、及びユビキタスプロモーターから選択される。いくつかの実施形態では、プロモーターは、特定の細胞型における発現を誘導する。例えば、いくつかの実施形態では、プロモーターは、心臓特異的プロモーター(例えば、哺乳動物の有糸分裂後心筋細胞特異的プロモーター、分裂/増殖せずにDNA合成が可能な哺乳動物の有糸分裂後心筋細胞特異的プロモーター、ヒト有糸分裂後心筋細胞特異的プロモーター、分裂/増殖せずにDNA合成が可能なヒト有糸分裂後心筋細胞特異的プロモーター、心筋細胞前駆細胞特異的プロモーター、増殖間葉系心臓細胞特異的プロモーター、増殖内皮心臓細胞特異的プロモーター、もしくは心筋前駆細胞特異的プロモーター、またはこれらの列挙したサブタイプのうち1つ以上に特異的なプロモーター)である。いくつかの実施形態では、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列は、心臓特異的プロモーター、ユビキタスプロモーターまたは非特異的プロモーターで形質導入される。
【0058】
使用される1つ以上のウイルスは限定されず、任意の好適なウイルスまたは本明細書に開示されるウイルスであってよい。いくつかの実施形態では、ウイルスは、AAV血清型6、8、9、10またはAnc80である。
【0059】
いくつかの実施形態では、ウイルス組成物は、ヒト患者に対して約1.0×109GC(ゲノムコピー、本明細書においてはウイルスゲノム(vg)とも称される)~約1.0×1015GCの範囲内(体重が70kgの平均的な対象を処置するために)、好ましくは1.0×1012GC~1.0×1014GCである複製欠損ウイルスの量を含有するために投与単位で製剤化され得る。好ましくは、製剤中の複製欠損ウイルスの用量は、1.0×109GC、5.0×109GC、1.0×1010GC、5.0×1010GC、1.0×1011GC、5.0×1011GC、1.0×1012GC、5.0×1012GC、または1.0×1013GC、5.0×1013GC、1.0×1014GC、5.0×1014GC、または1.0×1015GCである。
【0060】
いくつかの実施形態では、対象の心臓細胞のゲノムのうち少なくとも約0.1%、0.5%、1%、2%、3%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%以上が改変される。いくつかの実施形態では、心臓細胞のゲノムの少なくとも約0.1%、0.5%、1%、2%、3%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%以上が、相同組換えによって改変される(例えば、ゲノム配列が相同組換えによって置換または挿入される)。いくつかの実施形態では、対象における心臓細胞の少なくとも1%、1.6%、2%が、ドナー鋳型のヌクレオチド配列に対応するヌクレオチド配列の挿入を含むように改変される。いくつかの実施形態では、改変は、少なくとも1つのアレルの改変を含む。いくつかの実施形態では、改変は、両方のアレルの改変を含む。
【0061】
本開示のいくつかの態様は、本明細書に開示される方法によって改変されたゲノムを有する心臓細胞を含む心臓組織を対象とする。いくつかの実施形態では、心臓組織は、本明細書に開示される方法によって改変された心臓細胞の子孫細胞を含む。いくつかの実施形態では、心臓組織の筋細胞の少なくとも約1%、2%、3%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、51%、60%、70%、90%、95%、99%が、本明細書に開示される方法によって改変されているか、または改変されている細胞の子孫である。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法によって改変された心臓組織を有する対象は、心臓の疾患または状態と診断されている。いくつかの実施形態では、心臓の状態は、損傷した心筋である(例えば、心筋梗塞に続いて心筋を損傷した)。いくつかの実施形態では、心臓疾患は、心筋梗塞、虚血性心疾患、拡張型心筋症、心不全(例えば、うっ血性心不全)、虚血性心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症、アルコール性心筋症、ウイルス性心筋症、頻脈媒介性心筋症、ストレス誘発性心筋症、アミロイド心筋症、不整脈源性右室異形成、左室緻密化障害、心内膜線維弾性症、大動脈弁狭窄症、大動脈弁逆流症、僧帽弁狭窄症、僧帽弁逆流症、僧帽弁逸脱症、肺動脈弁狭窄症、肺動脈弁狭窄症、肺動脈弁逆流症、三尖弁狭窄症、三尖弁逆流症、先天性障害、遺伝性障害、またはそれらの組合せである。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法は、それを必要とする対象で心筋再生を促進するために利用され得る。
【0062】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法は、ゲノム改変を伴う心臓細胞の運命または機能を評価することをさらに含む。
【0063】
ゲノム改変のために特定の横紋筋タイプを標的とする方法
【0064】
本開示のいくつかの態様は、相同組換え修復による対象におけるインビボでのゲノム改変のために特定の横紋筋タイプを標的とする方法を対象とし、本方法は1つ以上のウイルスが全身投与されることを含み、1つ以上のウイルスは、横紋筋細胞中で配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入し、横紋筋細胞中でドナー鋳型を形質導入し、改変はドナー鋳型のヌクレオチド配列に対応するヌクレオチド配列の挿入を含み、対象の年齢ゆえに、ゲノム改変は少なくとも1つの横紋筋タイプに選択的に生じる。
【0065】
いくつかの実施形態では、筋前駆細胞のゲノムは、選択的に改変される。いくつかの実施形態では、心臓細胞のゲノムは、選択的に改変される。
【0066】
対象は限定されず、本明細書に記載されるような任意の対象であってよい。いくつかの実施形態では、対象は、筋肉または心臓の疾患または状態を有する。
【0067】
配列標的化ヌクレアーゼは限定されず、本明細書に記載される任意の配列標的化ヌクレアーゼであってよい。いくつかの実施形態では、配列標的化ヌクレアーゼは、Cas9またはその機能的断片もしくは機能的バリアントである。
【0068】
いくつかの実施形態では、1つ以上のウイルスは、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列及びドナー鋳型を形質導入する第1ウイルスを含む。いくつかの実施形態では、1つ以上のウイルスは、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列、ドナー鋳型及び1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つなど)のgRNAを形質導入する第1ウイルスを含む。単一のウイルスが配列標的化ヌクレアーゼ、ドナー鋳型、及び場合により、1つ以上のgRNAを形質導入する、本明細書に記載される方法の実施形態では、当業者は、必要なヌクレオチド配列をパッケージングできる好適なウイルスを選択し得る。いくつかの実施形態では、1つ以上のウイルスは、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入する第1ウイルス、及びドナー鋳型を形質導入する第2ウイルスを含む。いくつかの実施形態では、1つ以上のウイルスは、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列を形質導入する第1ウイルス、ならびにドナー鋳型及び1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つなど)のgRNAを形質導入する第2ウイルスを含む。いくつかの実施形態では、第1ウイルスと第2ウイルスとの比は、約1:3~約1:100であり、その間の比を含む。例えば、第1ウイルスと第2ウイルスとの比は、約1:5~約1:50、または約1:10、または約1:20であってよい。好ましくはないが、比は1:1であってもよいか、または第2ウイルスが多く存在してもよい。
【0069】
いくつかの実施形態では、本方法は、様々な送達組成物及びナノ粒子、例えば、ミセル、リポソーム、カチオン性脂質-核酸組成物、ポリグリカン組成物及び他のポリマー、脂質及び/またはコレステロールベースの核酸コンジュゲート、ならびに本明細書に記載されるものなどの他の構築物を含むものと一体となった、非ウイルス構築物、例えば、「裸のDNA」、「裸のプラスミドDNA」、RNA、及びmRNAによって媒介される1つ以上の構成成分(例えば、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸、ドナー鋳型、1つ以上のgRNA)の送達を含む。例えば、X.Su et al,Mol.Pharmaceutics,2011,8(3),pp774-787、ウェブ公開:2011年3月21日、WO2013/182683、WO2010/053572及びWO2012/170930を参照し、その両方が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0070】
1つ以上のウイルスは、哺乳動物細胞中で発現(例えば、配列標的化ヌクレアーゼ、ドナー鋳型、1つ以上のgRNAの発現)を誘導できるプロモーター、例えば、本明細書に記載されるような好適なウイルスプロモーターなどを含有してよい。いくつかの実施形態では、ヒトプロモーターが使用されてよい。いくつかの実施形態では、プロモーターは、CMVプロモーター、U6プロモーター、H1プロモーター、構成的プロモーター、及びユビキタスプロモーターから選択される。いくつかの実施形態では、プロモーターは、特定の細胞型における発現を誘導する。いくつかの実施形態では、配列標的化ヌクレアーゼをコードする核酸配列は、ユビキタスプロモーターまたは非特異的プロモーターで形質導入される。
【0071】
使用される1つ以上のウイルスは限定されず、任意の好適なウイルスまたは本明細書に開示されるウイルスであってよい。いくつかの実施形態では、ウイルスは、AAV血清型6、8、9、10またはAnc80である。
【0072】
いくつかの実施形態では、ウイルス組成物は、ヒト患者に対して約1.0×109GC~約1.0×1015GCの範囲内(体重が70kgの平均的な対象を処置するために)、好ましくは1.0×1012GC~1.0×1014GCである複製欠損ウイルスの量を含有するために投与単位で製剤化され得る。好ましくは、製剤中の複製欠損ウイルスの用量は、1.0×109GC、5.0×109GC、1.0×1010GC、5.0×1010GC、1.0×1011GC、5.0×1011GC、1.0×1012GC、5.0×1012GC、または1.0×1013GC、5.0×1013GC、1.0×1014GC、5.0×1014GC、または1.0×1015GCである。
【0073】
いくつかの実施形態では、対象の横紋筋細胞タイプ(例えば、心筋、筋前駆細胞、筋線維)のゲノムの少なくとも約0.1%、0.5%、1%、2%、3%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%以上が改変される。いくつかの実施形態では、横紋筋細胞タイプ(例えば、心筋、筋前駆細胞、筋線維)のゲノムの少なくとも約0.1%、0.5%、1%、2%、3%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%以上が、相同組換えによって改変される(例えば、ゲノム配列が相同組換えによって置換または挿入される)。いくつかの実施形態では、対象における横紋筋細胞タイプ(例えば、心筋、筋前駆細胞、筋線維など)の少なくとも約1%、1.6%、または2%が、ドナー鋳型のヌクレオチド配列に対応するヌクレオチド配列の挿入を含むように改変される。いくつかの実施形態では、改変は、少なくとも1つのアレルの改変を含む。いくつかの実施形態では、改変は、両方のアレルの改変を含む。
【0074】
いくつかの実施形態では、ヒト対象は、6~24か月齢である。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、2~6歳、6~12歳、または12~18歳である。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、18~30歳、30~50歳、50~80歳、または80歳を超える。いくつかの実施形態では、対象は、少なくとも約5、10、20、30、40、50、60、65、70、75、80、85、または90歳である。いくつかの実施形態では、対象は、約5、10、20、30、40、50、60、65、70、75、80、85、または90歳未満である。いくつかの実施形態では、対象は成人である。この目的のために、若くとも18歳のヒトが成人であると見なされる。いくつかの実施形態では、対象は若年者(例えば、ヒト対象では約18、12または6歳未満)である。いくつかの実施形態では、対象は若年者(例えば、ヒト対象では約18、12または6歳未満)ではない。いくつかの実施形態では、対象は1歳未満である。いくつかの実施形態では、対象は、1歳超~6歳未満である。いくつかの実施形態では、対象は、6歳超~12歳未満である。いくつかの実施形態では、対象は、12歳超~18歳未満である。いくつかの実施形態では、対象は、18歳超~24歳未満である。いくつかの実施形態では、対象は18歳超である。いくつかの実施形態では、対象は思春期後である。いくつかの実施形態では、対象は思春期前である。いくつかの実施形態では、対象は思春期を迎えている。いくつかの実施形態では、対象は胚である。いくつかの実施形態では、対象は胎児である。ある特定の実施形態では、子宮内の胚または胎児に対する生物学的効果を処置するか、または引き起こすために、薬剤が妊婦に投与される。
【0075】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法は、ゲノム改変を伴う横紋筋細胞の運命または機能を評価することをさらに含む。
【0076】
「減少する(decrease)」、「減少する(reduce)」、「減少した」、「減少」、「減少する(decrease)」、及び「阻害する」という用語は全て、本明細書では一般に、参照と比較して統計的に有意な量の減少を意味するために使用される。しかしながら、誤解を避けるために、「減少する(reduce)」、「減少」または「減少する(decrease)」または「阻害する」は通常、参照レベルと比較した場合に少なくとも10%の減少を意味し、例えば、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、最大及び例えば、参照レベルと比較した場合に所与の実体もしくはパラメータの完全な欠如を含む減少、または所与の処置を行わない場合と比較して10~99%のいずれかの減少を含み得る。
【0077】
「増加した」、「増加する」または「増強する」または「活性化する」という用語は全て、本明細書では一般に、統計的に有意な量の増加を意味するために使用され、あらゆる誤解を避けるために、「増加した」、「増加する」または「増強する」または「活性化する」という用語は、参照レベルと比較した場合に少なくとも10%の増加を意味し、例えば、少なくとも約20%、もしくは少なくとも約30%、もしくは少なくとも約40%、もしくは少なくとも約50%、もしくは少なくとも約60%、もしくは少なくとも約70%、もしくは少なくとも約80%、もしくは少なくとも約90%、もしくは最大及び100%の増加を含む増加または参照レベルと比較した場合に10~100%のいずれかの増加、あるいは少なくとも約2倍、もしくは少なくとも約3倍、もしくは少なくとも約4倍、もしくは少なくとも約5倍もしくは少なくとも約10倍の増加、または参照レベルと比較した場合に2倍~10倍以上のいずれかの増加を意味する。
【0078】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」または「含む(comprises)」という用語は、組成物、方法、及び方法または組成物に不可欠な、それらの各々の構成成分(複数可)に関連して使用されるが、不可欠であろうとなかろうと、指定されていない要素を含むことについて制限されない。
【0079】
「からなる」という用語は、本明細書に記載されるような組成物、方法、及びそれらの各々の構成成分を指し、これは実施形態のその記載に列挙されていない要素をいずれも除外する。
【0080】
本明細書で使用される場合、「から本質的になる」という用語は、所与の実施形態に必要なそれらの要素を指す。本用語は、その実施形態の基本的かつ新規の、または機能的な特徴(複数可)に実質的には影響を及ぼさない要素の存在を許容する。
【0081】
「統計的に有意」または「有意に」という用語は、統計的有意性を指し、一般に0.05を超える「p」値(関連の統計的検定によって算出される)を意味する。当業者は、任意の特定の実験に関連する統計的検定が、分析されているデータの種類に依存することを容易に理解することになる。追加の定義は、以下で個々の節の本文中において提供される。
【0082】
細胞生物学及び分子生物学の一般的な用語の定義は、“The Merck Manual of Diagnosis and Therapy”,19th Edition,Merck Research Laboratoriesにより出版,2006(ISBN0-911910-19-0)、RobertS.Porter et al.(eds.),The Encyclopedia of Molecular Biology,Blackwell Science Ltd.により出版,1994(ISBN0-632-02182-9)、The ELISA guidebook(Methods in molecular biology 149)by Crowther J.R.(2000)、Immunology by Werner Luttmann,Elsevierにより出版,2006に見出され得る。分子生物学の一般的な用語の定義は、Benjamin Lewin,Genes X,Jones&Bartlett Publishingにより出版,2009(ISBN-10:0763766321)、Kendrew et al.(eds.),Molecular Biology and Biotechnology:a Comprehensive Desk Reference,VCH Publishers,Inc.により出版,1995(ISBN1-56081-569-8)及びCun-ent Protocols
in Protein Sciences 2009,Wiley Intersciences,Coligan et al.,edsにも見出され得る。
【0083】
別段の記載がない限り、本発明は、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(3ed.),Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,USA(2001)及びDavis et
al.,Basic Methods in Molecular Biology,Elsevier Science Publishing,Inc.,New York,USA(1995)に記載されているような、標準的な手順を使用して実施され、その両方とも、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0084】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」及び「ポリペプチド」という用語は交換可能に使用され、隣接する残基のアルファ-アミノ基とカルボキシ基との間のペプチド結合によって互いに連結された一連のアミノ酸残基を示す。「タンパク質」、及び「ポリペプチド」という用語は、そのサイズまたは機能にかかわらず、修飾アミノ酸(例えば、リン酸化、糖化、グリコシル化など)及びアミノ酸類似体を含む、タンパク質アミノ酸のポリマーを指す。「タンパク質」及び「ポリペプチド」は、比較的大きなポリペプチドに関連して多くの場合に使用されるのに対して、「ペプチド」という用語は、小さなポリペプチドに関連して多くの場合に使用されるが、当該技術分野においてこれらの用語の使用方法は重複する。「タンパク質」及び「ポリペプチド」という用語は、精製して遺伝子産物及びその断片とする場合、本明細書では交換可能に使用される。
【0085】
したがって、例示的なポリペプチドまたはタンパク質としては、遺伝子産物、天然に存在するタンパク質、ホモログ、オルソログ、パラログ、断片及び他の等価物、バリアント、断片、ならびに前述の類似体が挙げられる。
【0086】
本明細書で使用される場合、「核酸」または「核酸配列」という用語は、リボ核酸、デオキシリボ核酸またはそれらの類似体の単位を組み込んだ任意の分子、好ましくはポリマー分子を指す。核酸は、一本鎖または二本鎖のいずれかであり得る。一本鎖核酸は、変性二本鎖DNAの一本鎖核酸であり得る。あるいは、それは、いずれの二本鎖DNAにも由来しない一本鎖核酸であり得る。一態様では、鋳型核酸はDNAである。別の態様では、鋳型はRNAである。好適な核酸分子は、ゲノムDNAまたはcDNAを含むDNAである。他の好適な核酸分子は、mRNAを含むRNAである。核酸分子は、ゲノムDNAと同様に天然に存在し得るか、もしくはそれは合成の場合がある、すなわち、ヒトの行動に基づいて調製される場合がある、または2つの組合せの場合もある。核酸分子はまた、ある特定の修飾、例えば、米国特許出願第20070213292号に記載されるような2’-デオキシ、2’-デオキシ-2’フルオロ、2’-O-メチル、2’-O-メトキシエチル(2’-O-MOE)、2’-O-アミノプロピル(2’-O-AP)、2’-O-ジメチルアミノエチル(2’-O-DMAOE)、2’-O-ジメチルアミノプロピル(2’-O-DMAP)、2’-O-ジメチルアミノエチルオキシエチル(2’-O-DMAEOE)、または2’-O-N-メチルアセトアミド(2’-O-NMA)、コレステロール付加、及びホスホロチオエート骨格など、ならびに米国特許第6,268,490号に記載されるような、2’-酸素原子と4’-炭素原子との間でメチレン単位によって連結されているある特定のリボヌクレオシドを有し得、両方の特許及び特許出願の全体が、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0087】
本明細書で使用される場合、疾患、障害または病状に関連して使用される場合の「処置する」、「処置」、「処置すること」、または「改善」は、状態の治療的処置を指し、目的は、症状または状態の進行または重症度を逆転、軽減、改善、阻害、鈍化または停止することである。「処置すること」という用語は、状態の少なくとも1つの有害作用または症状を減少または軽減させることを含む。1つ以上の症状または臨床マーカーが減少する場合、処置は一般に「効果的」である。あるいは、状態の進行が減少または停止する場合、処置は「効果的」である。すなわち、「処置」は、症状またはマーカーの改善だけでなく、処置が行われない場合に予想される症状の進行または悪化の停止または少なくとも遅延も含む。有益なまたは所望の臨床結果としては、処置が行われない場合に予想されるものと比較した場合に、1つ以上の症状(複数可)の軽減、欠損程度の縮小、安定した(すなわち、悪化しない)状態が挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
障害または疾患に対する所与の処置の有効性は、熟練した臨床医によって決定され得る。しかしながら、処置は、本用語が本明細書で使用される場合に「効果的な処置」と見なされ、障害の徴候または症状のうちいずれか1つまたは全てが有益な方法で変化される場合、他の臨床的に認められている症状が、例えば、本明細書に記載されるような薬剤または組成物を用いた処置後に少なくとも10%向上または改善する。有効性はまた、個体が入院によって評価されるように悪化しないこと、または医学的介入を必要としない(すなわち、疾患の進行が停止している)ことによって測定され得る。これらの指標を測定する方法は当業者に既知であり、及び/または本明細書に記載されている。
【0089】
本開示の実施形態の説明は、網羅的であること、または本開示を開示された正確な形式に限定することを意図するものではない。本開示の特定の実施形態、及びその実施例は、例示目的のために本明細書に記載されているが、関連分野の当業者が認識することになるように、様々な同等の修正が本開示の範囲内で可能である。例えば、方法のステップまたは機能が所与の順序で提示されているが、代替の実施形態は、異なる順序で機能を実施する場合があるか、または機能は実質的に同時に実施される場合がある。本明細書で提供される本開示の教示は、適宜、他の手順または方法に適用され得る。本明細書に記載される様々な実施形態は、さらなる実施形態を提供するために組み合わされ得る。本開示の態様は、必要であれば、上記の参考文献及び用途の組成物、機能及び構想を用いて、本開示のよりさらなる実施形態を提供するように修正され得る。これらの及び他の変更は、詳細な説明に照らして本開示で行われ得る。
【0090】
前述した実施形態のいずれかの特定の要素は、他の実施形態における要素と組み合わされ得るか、または置換され得る。さらに、本開示のある特定の実施形態と関連する利点が、これらの実施形態の文脈において記載されているが、他の実施形態もそのような利点を示す場合があり、全ての実施形態が、本開示の範囲内となるようにそのような利点を示す必要が必ずしもあるわけではない。
【0091】
全ての特許及び他の確認された刊行物は、例えば、本発明と関連して使用される場合のあるそのような刊行物に記載される手法を記載かつ開示することを目的として、参照によって本明細書に明示的に組み込まれる。これらの刊行物は、本出願の出願日以前の、それらの開示のためにのみ提供される。この点で、本発明者らは、先行発明もしくは過去の刊行物によって、または他のいかなる理由によっても、そのような開示に先行する権利が付与されないことを認めるものと解釈されるべきではない。これらの文献の日付または内容に関する描写に関する記載の全ては、出願人に利用可能な情報に基づいているが、これらの文献の日付または内容の正確さについて認めるものではない。
【0092】
当業者は、本発明が、目的を実行し、言及された目的及び利点に加えて、それに固有のものを得るために十分に適合されていることを容易に理解する。本明細書における説明及び実施例の詳細は、ある特定の実施形態を代表するものであり、例示的であって、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。本明細書における修正及び他の使用は、当業者であれば想定するものである。これらの修正は、本発明の趣旨内に包含される。本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、様々な置換及び修正が本明細書に開示される本発明に加えられる可能性があることが、当業者には容易に明らかとなる。
【0093】
「a」及び「an」という冠詞は、本明細書及び特許請求の範囲で本明細書において使用される場合、特に明確な反対の指示がない限り、複数の指示対象を含むと理解されるべきである。群の1つ以上のメンバー間に「または」を含む請求項または説明は、特に反対の指示がない限り、またはさもなければ文脈から明らかでない限り、群のメンバーのうち1つ、2つ以上、または全てが、所与の製品またはプロセス中に存在する、それらに用いられる、またはさもなければそれらに関連する場合に満たされると考えられる。本発明は、群のうちの正確に1つのメンバーが、所与の製品またはプロセス中に存在する、それらに用いられる、またはさもなければそれらに関連する実施形態を含む。本発明はまた、群のメンバーのうち2つ以上、または全てが、所与の製品またはプロセス中に存在する、それらに用いられる、またはさもなければそれらに関連する実施形態を含む。さらに、本発明は、別段の指示がない限り、または矛盾もしくは不一致が生じることになると当業者に明らかでない限り、列挙されている請求項のうち1つ以上からの1つ以上の制限、要素、条項、記述用語などが、同じ基本請求項(または関連するような任意の他の請求項)に従属する別の請求項に導入される全ての変更、組合せ、及び順列を提供すると理解されるべきである。本明細書に記載される全ての実施形態は、該当する場合、本発明の全ての異なる態様に適用可能であることが企図される。実施形態または態様のいずれかは、該当する場合は常に、1つ以上の他のそのような実施形態または態様と自由に組み合わされ得ることも企図される。要素が一覧表として、例えば、マルクーシュ群または同様の形式で提示される場合、要素の各サブグループも開示され、いずれの要素(複数可)もこの群から除去され得ると理解されるべきである。一般に、本発明、または本発明の態様が特定の要素、特徴などを含むと見なされる場合、本発明のある特定の実施形態または本発明の態様が、そのような要素、特徴などからなるか、またはそれらから本質的になると理解されるべきである。簡潔にするために、それらの実施形態は、いずれの場合においても本明細書では多数の用語で具体的に記載されているわけではない。特定の除外が本明細書に列挙されているかどうかにかかわらず、本発明の任意の実施形態または態様が、特許請求の範囲から明示的に除外され得ることも理解されるべきである。例えば、任意の1つ以上の活性剤、添加剤、成分、任意の薬剤、生物の種類、障害、対象、またはそれらの組合せが除外され得る。
【0094】
特許請求の範囲または説明が組成物に関する場合、別段の指示がない限り、または矛盾もしくは不一致が生じることになると当業者に明らかでない限り、本明細書に開示される方法のいずれかに従って組成物を作製または使用する方法、及び本明細書に開示される目的のいずれかのために組成物を使用する方法が、本発明の態様であると理解されるべきである。特許請求の範囲または説明が方法に関する場合、例えば、別段の指示がない限り、または矛盾もしくは不一致が生じることになると当業者に明らかでない限り、方法の実施に有用な組成物を作製する方法、及び方法に従って生成された製品が本発明の態様であると理解されるべきである。
【0095】
範囲が本明細書で与えられる場合、本発明は、端点が含まれる実施形態、両方の端点が除外される実施形態、及び一方の端点が含まれ、他方が除外される実施形態を含む。別段の指示がない限り、両方の端点が含まれていると想定されるべきである。さらに、別段の指示がない限り、またはさもなければ文脈及び当業者の理解から明らかでない限り、範囲として表される値は、その文脈に別段の明確な指示がない限り、本発明の異なる実施形態に記載されている範囲内の任意の具体的な値または部分範囲を、その範囲における下限値の単位の10分の1まで想定し得ると理解されるべきである。一連の数値が本明細書に記載されている場合、本発明は、一連の任意の2つの値によって定義される任意の介在する値または範囲と同様に関連する実施形態、及び最小値が最小と見なされる場合があり、最大値が最大と見なされる場合がある実施形態を含むとさらに理解される。数値は、本明細書で使用される場合、パーセンテージで表される値を含む。数値の前に「約」または「およそ」が付く本発明の任意の実施形態では、本発明は、正確な値が列挙されている実施形態を含む。数値の前に「約」または「およそ」が付かない本発明の任意の実施形態では、本発明は、値の前に「約」または「およそ」が付く実施形態を含む。
【0096】
「およそ」または「約」は一般に、別段の記載がない限り、またはさもなければ文脈から明らかでない限り、いずれの方向にも(その数を超えて、またはその数未満で)1%の範囲内またはいくつかの実施形態では、数の5%の範囲内またはいくつかの実施形態では、数の10%の範囲内となる数を含む(そのような数が、可能な値の100%を許容できないほど超えてしまう場合を除く)。特に明確に反対の指示がない限り、2つ以上の行為を含む本明細書で請求される任意の方法において、方法の行為の順序は、方法の行為が列挙されている順序に必ずしも限定されるとは限らないが、本発明は順序がそのように限定されている実施形態を含むと理解されるべきである。別段の指示がない限り、または文脈から明らかでない限り、本明細書に記載される任意の製品または組成物が、「単離されている」と見なされる場合があることも理解されるべきである。
【実施例0097】
CRISPR/Cas9によるインビボ遺伝子編集事象を高い感度で検出するために、増強した強力な緑色蛍光タンパク質(GFP)シグナル
8を普遍的に発現するトランスジェニックマウス株を使用する、蛍光タンパク質ベースのレポーターシステム(
図1A)を開発した。青色蛍光タンパク質(BFP)配列を、公開されているBFPバリアント
9~11に基づいて、GFP配列と比較して最小限の2塩基置換(C197G及びT199C)を保有するように設計した。この単純な改変によって、蛍光活性化細胞選別(FACS)による2つの蛍光タンパク質の容易な識別が可能となる(
図5A~5D)。同じ2塩基置換によって、制限断片長多型(RFLP)分析用のBtgI部位も作成される。GFPの置換部位を標的とする一本鎖ガイドRNA(sgRNA)を、Staphylococcus aureus由来のCas9タンパク質(SaCas9)と適合するように設計し、GFPシグナルの効率的な破壊のために、GFP
+/-;mdxマウス由来の尾部線維芽細胞(TTF)で試験した(
図5B、5C)。このgRNAを、HDR実験で使用するために、Kozakまたは開始ATG配列を欠くプロモーターのないBFP鋳型と共に、AAV骨格を有するベクター中に挿入した(
図1B)。
【0098】
このカラースイッチシステムを使用して、CRISPR/Cas9が再生幹細胞集団中でHDRを引き起こす能力を試験した。GFP
+/-;mdxマウスの骨格筋に由来する衛星細胞を単離し、エクスビボ増殖後に
12、13、AAV-SaCas9及びAAV-GFPgRNA-BFP鋳型からなる二重ベクターでトランスフェクトした(
図1B、1C)。この二重ベクターシステムを、最終目標がCRISPR/Cas9及び鋳型をインビボで送達することであって、AAVの積載能力が約4.5~4.7kbと限られるため、単一のベクターに全ての構成成分を含めることができなかった場合に採用した。次いで、フローサイトメトリーを使用して、トランスフェクト細胞集団中においてNHEJ事象とHDR事象とを単一細胞分解能で区別した。二重ベクターでトランスフェクトした実験群には、GFPリーディングフレームの不正確なNHEJ媒介破壊を表す、緑色蛍光の消失(GFP-)を示す細胞に加えて、HDRを表す、GFPの消失及びBFPシグナルの取得(BFP+)を示す細胞を含んだ(
図1D~1G)。対照的に、GFP-/BFP-及びBFP+細胞は対照トランスフェクションには存在せず、その中で細胞はAAV-GFPgRNA-BFP鋳型のみを受けた(
図1D~1G)。同様に、SaCas9及びgRNAを、BFP鋳型を含めずにトランスフェクトした場合(
図5D)、青色蛍光の取得を一切観察せず、これはNHEJだけではGFPからBFPへのスペクトルシフトを誘導できないことを示していた。GFP-/BFP-及びBFP+集団をFACSによって別々に選別し、RFLP及びサンガーシーケンシングによって検証して、それらをそれぞれCRISPR-NHEJ及び-HDRで編集したことを示した(
図1I、1J、6B、6C)。最後に、これらのエクスビボで編集した衛星細胞由来の筋芽細胞が、筋肉形成能力を保持しているかどうかを調査した。分化培地に切り替えると、CRISPR-NHEJ(GFP-/BFP-)及びCRISPR-HDR(BFP+)筋芽細胞が融合してミオシン重鎖陽性筋管を形成した(
図6A)。さらに、mdxマウスの損傷前のTA筋に移植した場合、選別したBFP+筋芽細胞は、青色の筋線維を生じさせることによってインビボでの筋肉修復に寄与した(
図1H)。これらのデータは、本明細書で開発したGFP/BFPカラースイッチングシステムが、ゲノムCRISPR-NHEJ及びCRISPR-HDR編集事象について単一細胞分解能で正確かつ高い感度で報告し、編集細胞のインビボでの再生結果をその後も追跡可能であることを示している。
【0099】
インビボでCRISPR媒介遺伝子編集事象を追跡することを目的とした発明者らのレポーターシステムの有用性を評価した。AAVを、上述したベクターを使用して生成し、血清型8でパッケージングしたが、これは肝臓、心臓及び骨格筋に高い向性を有する
14。CRISPR-HDRベクターを、若年(P21)オスGFP
+/-;mdxマウスの静脈内に注射した(
図2A)。対照マウス(AAV対照)に、1×10
13ウイルスゲノム(vg)のAAV-GFPgRNA-BFP鋳型のみを各マウスに施した一方で、実験マウス(AAV-HDR)には、1×10
13vgのAAV-GFPgRNA-BFP鋳型と5×10
12vgのAAV-SaCas9を施した。分析のために、注射の3週間後にマウスを安楽死させた(
図2A)。AAV-HDRを注射した全ての実験マウスの肝臓で、GFPシグナルの広範囲にわたる消失及びBFPシグナルの取得を検出したが、AAV対照注射動物では検出しなかった(
図2B)。平均して、65.7%(範囲、62~70%)の肝細胞がNHEJで編集され、GFP蛍光の減少を示したが、11.9%(範囲、9~13%)の細胞がHDRで編集されてBFP+となり(
図2C)、これは最近報告された新生児の肝臓におけるCRISPR-HDR編集率と一致していた
6、7。BFP+肝臓細胞の大部分もGFP-であり、レポーターシステム及び定量化戦略の信頼度を高めた。次世代シーケンシングによって、実験マウスの肝臓におけるCRISPR-NHEJ及びCRISPR-HDR編集をさらに確認した(
図10A、10B)。最近の論文
15は、高用量のAAV(特に、AAV9バリアント)を全身に注射した非ヒト霊長類及び子ブタの肝臓毒性について懸念を引き起こしたが、AAV注射マウスの致死性または全体的な健康に対する明らかな有害作用は、本試験では一切観察されなかった。これらの試験によって、組織切片の免疫染色またはシグナル増幅の必要なく、CRISPR編集事象をインビボで定量化することを目的とした、発明者らの蛍光イメージングベースのシステムにおける感度及び精度を確認する。
【0100】
骨格筋は主に有糸分裂後の組織であり、衛星細胞に由来する筋原性前駆体の融合によって形成された多核筋線維で主に構成される。発明者らなどは、筋肉中でAAV-CRISPR媒介NHEJを利用し、Dmdエクソン23を削除またはスキップすることによって、ジストロフィーmdxマウスのDmdリーディングフレームを修正し、ジストロフィン発現及び機能を回復させた
16~18。しかしながら、筋肉中でのAAV-CRISPR媒介HDRの過去の試み
19では、作製された編集はごくわずかであり(編集されたアレルはわずか0.18%)、このことは筋特異的プロモーター(CK8)の使用に起因する可能性があり、これはCas9発現を成熟筋線維に限定している。したがって、発明者らは、AAV-GFPgRNA-BFP鋳型のみを施した対照と比較して、筋線維及びそれらの前駆体中で発現することになる広範囲に活性な調節エレメントによって制御される、AAV-GFPgRNA-BFP鋳型とAAV-SaCas9を全身に施したmdxマウスの骨格筋におけるCRISPR-HDRの可能性を評価した(
図2A)。際だったことに、発明者らは、全ての実験マウスの前脛骨筋(TA)中で広範囲にわたるBFP+筋線維を観察した(
図2F、
図7)。対照的に、BFP+線維は対照中には存在しなかった(
図2F、
図7)。平均で、36.7%(範囲、32~41%)の線維が、AAV-HDR注射マウス(P21)中でBFP+であり、これは強力なHDR媒介遺伝子置換を示していた(
図2G)。GFPシグナルの完全な消失を示した線維はほぼなかったが(緑色蛍光の完全な消失には、これらの細胞中における何百もの筋核の全てまたはほぼ全てをCRISPR/Cas9の標的とする必要があるためと予想した通り)、HDR編集及びNHEJ編集の両方のゲノム配列をNGSによって検出及び確認した(
図9A~9B)。さらに、二重AAV処置マウスの衛星細胞がBFP+であることを見出した(
図14)。
【0101】
本試験で検出したBFP+筋線維のパーセンテージが比較的高いことを考慮すると、筋線維特異的プロモーターを使用する、これまでに報告されたAAV-CRISPR媒介HDRの低効率と比較して
19、発明者らは、骨格筋幹細胞が発明者らのシステムで標的とされ得、その後、編集した前駆細胞が筋線維中に組み込まれたと推論した。したがって、発明者らは、広く検証された表面マーカープロファイル(Ter119
-CD45
-Mac1
-Sca1
-CXCR4
+β1-インテグリン
+)を使用して、AAV-HDR注射マウスから筋幹細胞を単離した
12、13、20。発明者らのグループがこれまでに公開したデータと一致して
16、およそ5%のFACS単離筋幹細胞がGFP-/BFP-であり、これはAAV-CRISPR-NHEJによるインビボ破壊を示していた(
図3A、3C)。重要なことには、発明者らは、BFP+である筋幹細胞のより小さな集団(約1%)も検出し、これはAAV-CRISPRによるインビボHDR編集を示唆していた(
図3A、3B)。この集団における青色蛍光の取得及び緑色蛍光の消失を、培養増殖細胞の再選別(
図7)及びシーケンシング分析(
図9)によって検証した。これらのインビボで編集した衛星細胞の筋原性機能を試験するために、発明者らは、培養下でそれらを増殖させ、エクスビボで分化アッセイを実施した。インビボNHEJ及びHDR編集衛星細胞は、融合してそれぞれGFP-/BFP-及びBFP+筋管を形成する能力を保持していた(
図7D)。
【0102】
骨格筋と同様に、心筋は、インビボでの治療遺伝子編集から恩恵を受け得る幅広い遺伝子疾患に関与しているが、出生後の心臓は、限定的な増殖活性及び著しく低い再生能を示す
21、22。発明者らなどは、新生児及び若年マウスの心臓中におけるAAV-CRISPR媒介インビボ遺伝子破壊を記録したが、この組織中におけるHDR対NHEJの相対的な効率は十分に試験されていない
16~19、23。P21の全身的AAV-HDR注射マウスでは、大半の心筋細胞(平均で62%)がGFPシグナルを消失し、これはゲノムGFP配列の高レベルなNHEJ媒介破壊を示していた(
図2D~2E)。BFP+心筋細胞も、全ての実験マウス中において稀ではあるが(平均で約0.58%)存在した(
図2D~2E)。対照的に、GFP破壊もBFP蛍光もAAV対照マウスでは検出しなかった(
図2D~2E)。
【0103】
発明者らは、P21後のマウスにおける増殖心筋細胞の欠如、及び恒常性における内因性心筋前駆細胞からの寄与がごくわずかであることが、骨格筋とは対照的に、心筋で観察したHDRの率が低かったことの根拠となる可能性があると仮定した
21、22、24。発明者らはさらに、AAVの早期投与が、新生児期に増殖細胞を保持するが、後に有糸分裂後となる心臓などの臓器においてHDR編集効率を高める可能性があると推論した。発明者らはまた、mdxマウスの軽度の病態生理学
25が、心筋細胞の編集効率に影響を及ぼす可能性があるかどうかを疑問に思った。したがって、発明者らは、P3のGFP
+/-;mdxまたはGFP
+/-;C57BL/6J(オス及びメスの)マウスに腹腔内注射によってAAV-HDRベクターを投与した(
図4A)。AAV対照動物には、3×10
12vg/マウスのAAV-gRNA鋳型のみを施し、実験マウス(AAV-HDR)には、同じ用量のAAV-gRNA鋳型を1×10
12vg/マウスのAAV-SaCas9と共に施した。遺伝的背景にかかわらず、類似したパーセンテージのBFP+及びGFP-/BFP-肝臓細胞を検出した(
図4B及び
図9A)。加えて、BFP+肝細胞の頻度は、P3実験とP21実験との間で同等であった(平均で約10%BFP+肝細胞、
図2C及び
図4C)。しかしながら、NHEJ編集肝臓細胞の頻度は新生児期に注射したマウスでは減少し(平均で約28%の肝細胞、
図4C)、これは初期の新生児肝細胞のより活発な増殖率を反映している可能性があり、これによって非組込みAAVエピソームのより急速な希釈損失がもたらされる可能性がある
26。
【0104】
発明者らはまた、P3新生児のAAV-CRISPRの全身投与後に心筋及び骨格筋のHDR率を評価した。BFP+細胞は平均3.5%(範囲、1.6%~4.6%)の心筋細胞を占めていて、この頻度はP21注射マウスの心臓におけるBFP+細胞の頻度よりも有意に高かった(
図4D~4E及び
図2D~2E)。GFP-/BFP-心筋細胞を、2つの実験(
図2E及び
図4E)間で同様の率(>60%)で検出し、これはHDRで観察した年齢依存的な差が、AAV形質導入の効率差を反映する可能性がないことを示唆していた。対照的に、発明者らは、mdxまたはC57BL/6J背景のいずれでも骨格筋切片でBFPシグナルの実質的な取得を観察せず(
図4F)、これはこれらの筋肉における稀なBFP+骨格筋衛星細胞と一致していた(0.05~0.17%BFP+、
図11)。上で述べたように、GFPシグナルの消失を、筋線維多核化の交絡の影響によって評価できなかった。合わせて、これらのデータによって、横紋筋のインビボCRISPR-HDR遺伝子編集における個々の発達上の時間制限が明らかとなり、これはAAV-CRISPR投与のタイミングを調整することによって目的の特定の組織を標的とする(または標的解除する)可能性を提供する。CRISPR-HDR到達性の類似した発達上の制御されたウィンドウが、他の細胞型に存在するかどうかは、今後の調査に対する興味深い道ということになる。
【0105】
上述した結果を
図13に示したデータによってさらに検証し、これは二重AAV処置動物(P3及びP21の両方)の肝臓、心臓、及び筋肉(TA)におけるGFPの消失に加えて、P21筋肉組織及びP3心臓組織におけるBFPシグナル(HDRを示す)の選択的取得を示している。
【0106】
本発明者らは、驚くべきことに、かつ予想外にも、ゲノム編集結果のインビボ追跡を単一細胞レベルで可能にするGFP-BFPカラースイッチングレポーターシステムを使用して、出生後の心筋、骨格筋、及び筋幹細胞が、マウスの異なる発達時点で鋳型HDRを受けることを見出した。アデノ随伴ウイルスによるCRISPR-Cas9編集構成成分の全身送達(AAV-CRISPR)によって、肝臓の効率的なNHEJ及びHDRが確認され、このことはこれまでの報告(Yang,Y.et al.Nat Biotechnol 34,334-338(2016)、Yin,H.et al.Nat Biotechnol 34,328-333(2016))と一致した。加えて、HDR編集筋幹細胞及び筋線維を、出生後21日目(P21)にAAV-CRISPRを注射したマウスで検出したが、P3では検出せず、一方でHDR編集心臓細胞をP3注射動物で検出したが、P21注射動物ではほぼ検出しなかった。発明者らの結果によって、個々の出生後の時点における横紋筋及び筋幹細胞での配列特異的で全身に散在されるインビボAAV-CRISPR媒介HDRの可能性が明らかとなり、治療法開発の新たな機会を提供する。
【0107】
結論として、発明者らの研究は、インビボでのNHEJ及びHDR遺伝子編集結果を単一細胞分解能で追跡する、単純であるが高性能なツールを報告する。さらに、AAVによるgRNAプログラムCas9の全身送達によって、発明者らは、骨格筋及び心筋、すなわち、両方とも主にこのアプローチでは到達できないと広く考えられている有糸分裂後の組織において、HDRによる正確な標的遺伝子置換の予想外の機会を明らかにする。発明者らの知る限りでは、発明者らのデータは、CRISPR/Cas9の全身的なAAV送達による、出生後の心臓における重要なインビボHDR編集に関する最初の実証を提供し、局所的な筋肉内送達によって骨格筋で達成可能な、これまでに報告されたHDR編集率の大幅な改善を示す19、27。発明者らの研究はまた、細胞の天然ニッチ内の組織幹細胞におけるHDR編集の成功に関する最初の実証を提供し、これによって、これらの希少細胞を単離、増殖または移植する必要なく、治療的及び実験的に幹細胞ゲノムの対象となる操作が比類なく可能となる。最終的に、新生児の哺乳動物の心臓及び出生後の哺乳動物の骨格筋衛星細胞に不可逆的かつ永続的に正確なゲノム改変の可能性を刻み込む能力が、現時点では難治性の多くの心臓及び筋肉疾患に対する今後の治療的介入に刺激的な新しい道を開く。
【0108】
動物
【0109】
単一のトランスジェニックアレルを保有する半接合GFPトランスジェニックマウスを、CAG-GFPマウス8をC57BL/6JまたはC57BL/10ScSn-Dmdmdx/J(mdx)(Jackson Labs)のいずれかと交配させることによって生成した。出生後3日目(P3)のGFP+/-;mdx及びGFP+/-;C57BL/6J仔(オス及びメスの両方)を新生児腹腔内(IP)注射に使用し、3週齢のオスのGFP+/-;mdxマウスを若年静脈内(後眼窩)注射に使用した。マウスを、Harvard University Institutional Animal Care and Use Committee(IACUC)によって承認された動物飼育及び実験プロトコールに従って、Harvard Biological Research Infrastructureで維持した。
【0110】
AAVの産生及び投与
【0111】
AAVを、Schepens Eye Research Institute及びMassachusetts Eye and Ear Infirmary(SERI/MEEI)のGrousbeck Gene Therapy CenterのGene
Transfer Vector Core(GTVC)によって産生かつ力価測定し、これまでに記載されたように血清型8でパッケージングした28。簡潔に述べると、セミコンフルエントなHEK293細胞をrep2-cap8パッケージング構築物、アデノウイルスヘルパー機能プラスミド、及びITR隣接導入遺伝子構築物でトランスフェクトした。トランスフェクションの3日後、培地及び細胞を採取し、非粒子関連DNAを除去するために溶解及びbenzonase消化を行った。粒子を、タンジェンシャルフロー濾過、イオジキサノール密度遠心分離、及びPBSベースの緩衝液への緩衝液交換を使用して精製かつ濃縮した。新生児(P3)腹腔内注射では、対照マウスに3×1012ウイルスゲノム(vg)のAAV-GFPgRNA-BFP鋳型のみを施し、実験マウスには、3×1012vgのAAV-GFPgRNA-BFP鋳型と1×1012vgのAAV-SaCas9を施した。ウイルスを注射ごとに75μLのビヒクル(35mM NaClを含むPBS)で希釈した。注射の4週間後に分析のためにマウスを安楽死させた。若年(P21)後眼窩注射では、対照マウスに1×1013vgのAAV-GFPgRNA-BFP鋳型のみを施し、実験マウスには、1×1013vgのAAV-GFPgRNA-BFP鋳型と5×1012vgのAAV-SaCas9を施した。ウイルスを注射ごとに312μLのビヒクル(35mM NaClを含むPBS)で希釈した。注射の3週間後に分析のためにマウスを安楽死させた。
【0112】
遺伝子編集構築物
【0113】
AAV-SaCas9プラスミドは、これまでに記載された16。AAV-GFPgRNA-BFP鋳型プラスミドを、3つの挿入を有するpZac2.1AAVベクターのギブソンアセンブリによって生成した。ベクターを、HindIII-HF及びNotI-HF(NEB)によって二重消化した。挿入片1(U6-GFPgRNA)を、U6-GFPgRNAを含有するプラスミドからPCR増幅した。挿入2(BFP)を、gBlock(IDT)として合成したBFP配列からPCR増幅した。挿入3(ポリA)を、CAG-GFPトランスジェニック動物のゲノムDNAからPCR増幅した。BFP鋳型上の2塩基置換によって、カラースイッチ(緑色蛍光から青色蛍光)が可能となり、BtgI制限酵素によって検出可能な制限断片長多型(RFLP)が生成される。
【0114】
衛星細胞の分離、培養及び分化
【0115】
エクスビボ遺伝子編集用の衛星細胞を、これまでに記載された通りに単離した12。インビボ編集衛星細胞を単離するために、体の半分から三頭筋、腹部及び後肢の筋肉を採取し、ハサミを使用して細かく切り刻み、次いでDMEM(GIBCO)中の0.2%コラゲナーゼII型及び0.05%Dispaseを用いて37℃で2ラウンドの消化に供した(15分間、次いで10分間)。FBSの添加によって酵素を不活性化し、細胞を遠心分離して70umストレーナーに通して濾過してから、APC-Cy7-CD45(Biolegend、1:200)、APC-Cy7-CD11b(Biolegend、1:200)、APC-Cy7-TER119(Biolegend、1:200)、APC-Sca1(Biolegend、1:200)、PE-CD29(Biolegend、1:100)及びビオチン-CD184(BD Biosciences、1:100)を含有する抗体カクテルで30分間染色した。一次抗体のインキュベーション後、細胞を染色培地(SM、ハンクス平衡塩類溶液+2%血清)で洗浄し、次いでストレプトアビジンPE-Cy7(Biolegend、1:200)でさらに20分間染色した。最後に、細胞をSM中で2回洗浄し、ヨウ化プロピジウム(PI)を含有するSM中に再懸濁させて、死細胞をマークした。衛星細胞を、FACS Aria II(BD Biosciences)を使用し、細胞のPI組込みならびにCD45、Ter119、Sca1及びCD11b発現の欠如ならびにCXCR4(CD184)及びβ1-インテグリン(CD29)の陽性発現に基づいて選別したが、表面マーカープロファイルは、強力な筋原性能力によりPax7+細胞を選択するために、複数の刊行物12、13、20で広く検証されている。別々に選別したGFP+、BFP+、及びGFP-/BFP-衛星細胞を、5ng/mLのbFGF(Sigma)を毎日補充した増殖培地(F10、20%ウマ血清、1%Pen Strep、及び1%Glutamax(Gibco))中においてコラーゲンI型(1ug/mL、Sigma)及びラミニン(10ug/mL、Invitrogen)コーティングプレート上で増殖させた。増殖細胞のサブセットからDNAを単離し、QuickExtract(Lucigen)を使用して採取し、ゲノムPCRならびにそれに続くRFLP及びシーケンシング分析に使用した。筋原性分化は、分化培地(DMEM、2%ウマ血清、1%Pen Strep、1%Glutamax(Gibco))に切り替えることによって開始し、3~4日間続いた。細胞を4%PFAによってイメージングのために20分間固定した。
【0116】
トランスフェクション
【0117】
オスmdx;GFP+/-動物から単離した衛星細胞を、毎日bFGFを補充した増殖培地中において培養下で2~3週間増殖させ、次いでコラーゲン(1ug/mL)及びラミニン(10ug/mL)でコーティングした24ウェルプレート上に20,000細胞/ウェルで再播種した。筋芽細胞を、2日目にLipofectamine3000(Invitrogen)を使用し、製造業者の指示に従って、対照群にはAAV-GFPgRNA-BFP鋳型プラスミドのみ、または実験群にはAAV-GFPgRNA-BFP鋳型及びAAV-SaCas9プラスミドを5:1の比で用いてトランスフェクトした(1群あたり3回の独立したトランスフェクション)。BFP+及びGFP+細胞をトランスフェクションの5日後にFACS Aria IIを使用して選別し、インビトロでさらに2週間増殖させた後に再選別して蛍光を確認した。次いで、再選別した細胞をインビトロ分化及びインビボ移植アッセイに使用した。
【0118】
mdx;GFP+/-初代筋芽細胞中でGFP破壊を試験するために、細胞をLipofectamineのみ(対照)で、または上記のようなSaCas9及びGFPgRNA2(BFP鋳型なし)を1:1の比でコードするプラスミドでトランスフェクトした。
【0119】
GFP標的化gRNAのスクリーニングには、mdx;GFP+/-尾部線維芽細胞(TTF)をSaCas9のみ(対照)で、またはSaCas9とGFPを標的とする3つのgRNAのうち1つで、Lipofectamine3000を使用し、製造業者の指示に従ってトランスフェクトした。
【0120】
筋芽細胞移植
【0121】
筋芽細胞移植の1日前に、25μLのNaja mossambica mossambica心臓毒(0.03mg/mL、Sigma)を麻酔したオスのmdxレシピエントマウスの前脛骨筋(TA)に注射した。800,000GFP+、800,000BFP+筋芽細胞またはビヒクル(PBS)のみを損傷前のTA筋に注射した(N=4のTA筋)。注射したTA筋を、凍結切片化及び蛍光検出のために移植の5週間後に採取した。
【0122】
ゲノムPCR及びRFLP分析
【0123】
組織、衛星細胞及び増殖筋芽細胞からゲノムDNAを、QuickExtract DNA Extraction Solution(Epicentre/Lucigen)を使用し、製造プロトコールに従って抽出した。1~2μLのQuickExtract溶液を、Q5ホットスタートポリメラーゼ(NEB)による25μLのPCR反応物ごとに使用した。フォワードプライマーGTGCTGTCTCATCATTTTGGC(配列番号:21)(GFP/BFP開始部位の上流に結合する)及びリバースプライマーTCGTGCTGCTTCATGTGGTC(配列番号:22)(Cas9切断部位及びカラースイッチング置換の下流に結合する)を使用して、ゲノム導入遺伝子座を増幅したが、鋳型配列は増幅しなかった。RFLP分析では、PCR産物を、QIAquick PCR Purification Kit(Qiagen)を使用して精製し、BtgI(NEB)で消化するか、または水で模擬消化してからE-Gel EX 2%アガロースゲル(Invitrogen)上でゲル電気泳動を行った。
【0124】
サンガーシーケンシング及び次世代シーケンシング
【0125】
精製したゲノムPCR産物を、Zero Blunt TOPO PCRクローニングキット(Invitrogen)を使用してTOPO骨格にクローニングし、TOP10コンピテント細胞(Invitrogen)に形質転換した。個々のクローンを、Cambridge,MAのGenewizによって実施された、細菌コロニーサンガーシーケンシングによって分析した。シーケンシング記録を、Geneiousプログラムを使用してGFP導入遺伝子にアラインメントした。次世代シーケンシングでは、8塩基対(bp)のバーコードをゲノムPCRプライマーに付加した。4~10の一意的なバーコード付きPCR産物をプールし、PCR精製してから、MGH DNA coreでのCRISPRシーケンシング(ワールドワイドウェブの//dnacore.mgh.harvard.edu/で利用可能)により分析を行った。NGSの結果を、多重分離後にCRISPRessoプログラムを使用して分析した。代表的なNGS配列を示す。
【0126】
切片化及び蛍光イメージング
【0127】
組織を切離し、すぐに4%PFA中において室温で90分間固定し、次いでPBSで洗浄して30%スクロースに移し、4℃で一晩インキュベートした。次いで、浸水させた組織をO.C.T.コンパウンド(Tissue-Tek)内に包埋し、液体窒素浴中のイソペンタンで凍結した。Microm HM550(Thermo Scientific)を使用して組織を切片化し、製造業者の指示に従ってAlexa Fluor555-コムギ胚芽凝集素及びTO-PRO-3ヨウ化物(Life Technologies)で染色した。BFP+、GFP-(BFP-も)及び全細胞の数を、ImageJによって手動で定量した。肝臓及び心臓では、視野ごとに約200~350細胞を含む3つの代表的な視野を各組織について計数した。P21注射TA切片では、合成した視野の画像(25枚の20倍画像)を、1画像あたり1000個超の細胞で計数した。
【0128】
統計分析
【0129】
GraphPad Prism7.0ソフトウェアを統計分析の実施に使用した。対応のない両側t検定を
図1F~1Gで実施した。Tukeyの多重比較検定を用いた一元配置ANOVAを
図3B~3C及び
図11B~11Cで実施した。正確なp値及び自由度(DF)は、対応する図の説明文中に見出され得る。
【0130】
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