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特開2024-101039バリア効果及び固定効果を有するフィルム形成剤としてのアミロースに富むデンプンの化粧品使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101039
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】バリア効果及び固定効果を有するフィルム形成剤としてのアミロースに富むデンプンの化粧品使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20240719BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20240719BHJP
   A61Q 1/02 20060101ALI20240719BHJP
   A61Q 1/04 20060101ALI20240719BHJP
   A61Q 1/10 20060101ALI20240719BHJP
   A61Q 1/14 20060101ALI20240719BHJP
   A61Q 3/02 20060101ALI20240719BHJP
   A61Q 5/02 20060101ALI20240719BHJP
   A61Q 5/06 20060101ALI20240719BHJP
   A61Q 5/10 20060101ALI20240719BHJP
   A61Q 5/12 20060101ALI20240719BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240719BHJP
   A61Q 19/04 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K8/9789
A61Q1/02
A61Q1/04
A61Q1/10
A61Q1/14
A61Q3/02
A61Q5/02
A61Q5/06
A61Q5/10
A61Q5/12
A61Q19/00
A61Q19/04
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024088011
(22)【出願日】2024-05-30
(62)【分割の表示】P 2021557784の分割
【原出願日】2020-03-27
(31)【優先権主張番号】1903339
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】591169401
【氏名又は名称】ロケット フレール
【氏名又は名称原語表記】ROQUETTE FRERES
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】メンティンク、レオン
(72)【発明者】
【氏名】ウィルス、ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ルーヴェ-ポミエ、ジェラルディン
(72)【発明者】
【氏名】ラコア、カミーユ
(57)【要約】
【解決手段】 本発明は、化粧用剤にバリア効果又は固定効果を付与することができる、化粧用又は外皮用のフィルム形成剤の分野に関する。バリア効果により、環境汚染、例えば微粒子及び揮発性有機化合物、より具体的には都市大気汚染から皮膚を保護することが可能となる。固定効果により、顔料及び/又は染料の転写を低減又は排除し、ヘアスタイルの保持力を高めたり、頭髪、体毛、又はまつ毛の形を整えたりすることが可能となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中油型エマルジョンの環境汚染に対するバリア効果及び/又は固定効果を有するフィルム形成剤としての、外用剤における使用であって、
前記水中油型エマルジョンは、少なくとも1つのマメ科植物デンプンと、脂肪物質と、を含み、
前記デンプンは、30%~75%のアミロース含有量と、
固形分20重量%での25℃の水性分散液における、50~1000mPa・sのブルックフィールド粘度と、
を有し、
環境汚染に対する前記バリア効果により、表皮の細胞及びケラチノサイトを保護することが可能であることを特徴とする、使用。
【請求項2】
前記マメ科植物デンプンが、エンドウ(Pisum sativum)のデンプンであることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記マメ科植物デンプンが、ヒドロキシプロピル化されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記ヒドロキシプロピル基含有量が、ヒドロキシプロピル化デンプンの乾燥重量に対して、0.1~20乾燥重量%の範囲であることを特徴とする、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記マメ科植物デンプンが、アルファ化マメ科植物デンプン又は微細化マメ科植物デンプンから選択されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記マメ科植物デンプンが、ヒドロキシプロピル化され、加水分解され、アルファ化されたエンドウマメデンプンであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記外用剤における、バリア効果及び/又は固定効果を有するフィルム形成性のマメ科植物デンプンの重量含有量が、前記外用剤全体に対して、5重量%~15重量%の範囲であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
環境汚染に対する前記バリア効果により、空気中に浮遊する大気微粒子、及び/又は皮膚に対してアレルギー性、有害性、毒性のある揮発性有機化合物が、皮膚と接触するのを低減又は防止することが可能であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
環境汚染に対する前記バリア効果により、表皮の細胞及び/又はケラチノサイトの生存率を増加させることが可能であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記外用剤が、デイクリーム、サンクリーム、アフターサンクリーム、セルフタンナー、マスクから選択されるスキンケア製品;シャンプー、クリーム状又はマスク状又はローション状のコンディショナー、スプレー状又はジェル状又はワックス状のヘアスタイリング製品、染色製品から選択されるヘアケア製品;ファンデーション、アイシャドウ、マスカラ、口紅、プレスリップカラー、リップグロス、アイライナー、マニキュアから選択されるメイクアップ製品;クレンジングジェル、クレンジングワイプ若しくはメイク落としワイプ、又は水性アルコール溶液若しくはジェルから選択される衛生製品、から選択されることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記マメ科植物デンプンが、前記外用剤における唯一のデンプン質又はデンプン質由来のフィルム形成剤であることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
環境汚染に対するバリア効果を有するフィルム形成剤としての、外用剤における、ヒドロキシプロピル化されたマメ科植物デンプンの使用であって、
前記デンプンが、
30%~75%のアミロース含有量と、
固形分20重量%での25℃の水性分散液における、50~1000mPa・sのブルックフィールド粘度と、
前記外用剤全体に対して、5重量%~32重量%の重量含有量と、
を有し、
前記外用剤が、前記外用剤全体に対して、5重量%~32重量%の重量含有量の脂肪物質を含み、
環境汚染に対する前記バリア効果により、表皮の細胞及びケラチノサイトを保護することが可能であることを特徴とする、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧用又は外皮用のフィルム形成剤の分野に関するものであり、外用剤に、環境汚染に対するバリア特性、例えば微粒子や揮発性有機化合物に対するバリア特性、より具体的には都市大気汚染に対するバリア特性を与えるため、及び/又は当該外用剤を固定するための特性を与えるために使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
本出願は、化粧品における3つの現在のニーズ、すなわち、可能な限り天然の製品を提供すること、毎日使用するための簡単で快適な化粧用品を使用して環境攻撃から皮膚を保護すること、皮膚又は皮膚付属器官に化粧品使用のため製品を固定すること、に対する解決策を提供するものである。
【0003】
環境汚染、より具体的には、「スモッグ」や「都市粉塵」としても知られる大気汚染は、重金属を含み得る粒子及び無機繊維、並びに、病原性微生物に更に関連し得る毒性又は発癌性の有機化合物(多環式芳香族炭化水素化合物、フラン、アルデヒドなど)で構成されている。このような粒子は、1μm未満から最大500μmの範囲のサイズを有する。このような粒子は、小さければ小さいほど毒性が強くなる。L’Orealが行った調査によると、2.5μm~10μmの範囲のサイズの粒子が最も有害であり、表皮の奥深くまで入り込み、深刻な化学的劣化を引き起こす。
【0004】
大気汚染は、早期の皮膚老化を引き起こす。老化のプロセスは、この汚染によって引き起こされるものなどの生物学的機能障害、例えば、表皮脂質の過酸化、タンパク質の変化、水分の異常な喪失によって誘発され、また、UVB放射線による酸化ストレス、アポトーシス、及び細胞損傷によっても引き起こされることが実証されている。これらの機能障害は、黒ずみの発生、皮膚の輝きの低下、及び皮膚の感受性の増大を引き起こす。
【0005】
したがって、環境汚染から皮膚を保護することは、皮膚、爪、又は毛髪の感覚的に心地よいテクスチャーを維持しながら、皮膚の外観及び健康を保護するための化粧品の新たな目標となっている。
【0006】
もう1つの消費者の要求は、化粧用品、特にファンデーション、口紅、マスカラ等のメイクアップ製品や、染毛製品などの日常的に使用する製品が、一度適用された後も所定の位置のまま残ることである。これは、覆われた領域が衣服などの繊維や皮膚との摩擦を受けた場合であっても、化粧用品が、可能な限り長く、理想的には少なくとも1日、少なくとも部分的に、又はより良好には完全に覆われた領域に留まる必要があることを意味する。化粧用品中に固定剤が存在することにより、このような転写を発生させないことが可能となる。
【0007】
当初、当業界では、汚染防止バリア効果を有するフィルム形成機能を求めて、天然由来のポリマーを使用していた。しかし、後者には、特に、色、臭気、純度、有効性の一貫性、及び粘度の安定性に関して、いくつかの欠点があった。これらの理由から、合成ポリマー又は半合成ポリマーで代替されるようになった。この点では、N-ビニルイミダゾールポリマー又はコポリマー、シリコーン化合物又はシリコーンゴム、そして最後にカルボマーが知られており、これらは化粧品でよく使われている。Lubrizolが開発したCarbopol(登録商標)シリーズは、その一例である。特に、ポリエチレングリコ
ールと長鎖アルキル酸エステルとのコポリマーであり、多種多様な化粧品処方にフィルム形成特性を与えるために作製された製品Carbopol(登録商標)Ultrez 10NFを挙げることができる。
【0008】
固定効果を有するフィルム形成機能を求めて、当業界では現在、アクリレートポリマー又はアクリレート及びアリルメタクリレートコポリマー(Lubrizol製のFixate(商標)G-100など)などの合成ポリマー、N-ビニルピロリドンと酢酸ビニルとのコポリマー、架橋メチルメタクリレートポリマー、ポリビニルピロリドン、シリコーン、PEG-40又はPEG-60の水添ヒマシ油が使用されている。
【0009】
欧州特許第1684731号によると、錠剤などの固体医薬形態をコーティング又はフィルムコーティングするためのフィルム形成剤として、アルファ化及び流動化されたヒドロキシプロピル化エンドウマメデンプンを使用することが公知の実務となっている。この文献には、アミロースに富むデンプン、更にヒドロキシプロピル化されたエンドウマメデンプンを、化粧用剤におけるフィルム形成剤として使用することは開示されていない。
【0010】
技術的な問題
昨今、化粧品業界は、環境保護、化石資源の保全、二酸化炭素排出量の面で、並びに消費者の健康及び安全の面で、新たな課題に直面している。このような観点から、業界は処方を見直し、可能であれば製品の処方に天然由来の溶液を使用するようにしている。科学技術はこの分野で進歩しており、製造業者が製造する製品で効果的なフィルム形成機能を、環境に優しく消費者にも優しい天然成分で実現できる、信頼性の高い効率的な技術的解決策を提案することを目的としている。
【0011】
驚くべきことに、そして予期せぬことに、本出願人は、化粧品用に、使いやすく、特に冷水に直接分散して溶解し、同時に化粧用剤中で安定しているデンプンを提供することが可能であることを見出した。また、本出願人らは、このようなデンプンにより、それを含む化粧用剤を適用した後に、特に有効なバリア効果及び/又は固定効果を有するフィルムを作製することが可能となることを見出すことができた。
【0012】
本発明の目的
環境汚染に対するバリア効果及び/又は固定効果を有するフィルム形成剤としての、外用剤、好ましくは化粧用剤又は外皮用剤における、少なくとも1つのデンプンの使用が提案される。当該デンプンは、
30%以上、優先的には30%~75%のアミロース含有量と、
固形分20重量%での25℃の水性分散液における、10~10,000mPa.s、優先的には20~5000mPa.s、より優先的には50~1000mPa.s、最も優先的には75~500mPa.s、更により優先的には約150mPa.sのブルックフィールド粘度と、を有する。
【0013】
本発明の別の態様によれば、使用に用いることができるデンプンにより、表皮又は皮膚付属器官上に、空気中に浮遊する微粒子及び/若しくは香料などのアレルギー性の揮発性有機化合物による環境汚染から、又は皮膚にとって有害若しくは毒性のある揮発性有機化合物による環境汚染から、優先的には「都市粉塵」などの大気微粒子による汚染から保護するフィルムを形成することが可能となる。
【0014】
本発明の別の態様によれば、使用に有用なデンプンにより、香料、エッセンシャルオイル、有機溶剤などの液体若しくは揮発性の形態で、又は例えば花粉のような固体粒子の形態で、外部由来のアレルギー性製品に対するバリアを形成することがすることが可能となる。
【0015】
本発明の別の態様によれば、使用に有用なデンプンにより、固定効果を有するフィルムを形成することを可能にし、これにより、外用剤、特に顔料、染料、染毛製品の保持力を高めることが可能となり、又はヘアスタイルや頭髪、体毛、まつ毛の形を整えることができ、又は外用剤に非転写性を与える(例えば、メイクアップ製品の非転写性を高める)ことがすることが可能となる。
【0016】
本発明の別の態様によれば、本発明による使用に有用なデンプンは、天然のマメ科植物デンプン、並びに/又は熱変性及び/若しくは化学変性マメ科植物デンプンである。
【0017】
本発明の別の態様によれば、少なくとも1つのマメ科植物デンプンは、唯一のデンプン質又はデンプン質由来のフィルム形成剤である。
【0018】
別の態様によれば、少なくとも1つのそのようなデンプン、好ましくはマメ科植物デンプンを含む、外用剤、好ましくは化粧用剤又は外皮用剤が提案される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、未処理の皮膚領域(対照と表示)、及び参照Aのエマルジョンによって形成されたフィルムで覆われた皮膚領域の、エマルジョンの適用前(T0)、エマルジョンと炭粉末との適用後(T2)、及び水ですすいだ後(T3)の写真を示す。
【0020】
図2図2は、参照Bのエマルジョンで形成されたフィルムで覆われた皮膚領域、及び本発明INV1によるエマルジョンで覆われた皮膚領域の、エマルジョンの適用前(T0)、エマルジョンと炭粉末との適用後(T2)、及び水ですすいだ後(T3)の写真を示す。
【0021】
図3図3は、本発明によるファンデーションの非転写試験におけるティッシュペーパーの写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
環境汚染に対するバリア効果及び/又は固定効果を有するフィルム形成剤としての、外用剤における、少なくとも1つのデンプンの使用が提案される。当該デンプンは、
30%以上、優先的には30%~75%のアミロース含有量と、
固形分20重量%での25℃の水性分散液における、10~10,000mPa.s、優先的には20~5000mPa.s、より優先的には50~1000mPa.s、最も優先的には75~500mPa.s、更により優先的には約150mPa.sのブルックフィールド粘度と、を有する。
【0023】
本発明に有用なデンプン
【0024】
本発明に有用なデンプンの2つの必須の特徴は、30%以上のアミロース含有量と、固形分20重量%での25℃の水性分散液における10~10,000mPa.sのブルックフィールド粘度と、を有することである。
【0025】
本発明の意味の範囲内で、粘度はブルックフィールド粘度であり、この粘度は、例えばBrookfield RDDVD I+粘度計(Brookfield Engineering Laboratories,INC.Middleboro,MA,USA)を用いて、参照RV1、RV2、RV3、RV4、RV5、RV6又はRV7を有するスピンドルのうちの1つを使用し、「Helipath Stand」と称される機器を使用しないで測定される。スピンドルの回転は、毎分20回転に設定されている。スピ
ンドルは、RV1~RV7から選択され、表示された粘度値が、製造業者によって示された、当該スピンドルと可能な粘度の全スケールの10%~100%の間になるようにする。この粘度測定を行うために、25℃で機械的撹拌、例えば解膠撹拌ブレードを用いて250rpmで15分間かけて調製した20重量%のデンプン固形分を含む水性懸濁液又は水溶液300mLを、400mLの低容量ビーカー(直径約7.5cm)に入れる。3回転目の終了時に粘度値を取得する。測定は、信頼性の高い粘度測定値を得るために、例えばマニュアル「Operating Instructions,Manual No.M/92-021-M0101,Brookfield Digital Viscometer,Model DV-I+」に記載されているように、製造業者の推奨事項全てに従って行う。
【0026】
特に、アミロース含有量は、30%~75%、好ましくは30%~45%、更に好ましくは35%~42%の範囲で構成される。アミロースの百分率は、デンプンの乾燥重量に対する乾燥重量として表され、当該デンプンの加水分解及び/又はアルキル化などの何らかの後続の処理の前に求められる。
【0027】
固形分20重量%で25℃の水性分散液におけるブルックフィールド粘度は、10~10,000mPa.s、優先的には20~5000mPa.s、より優先的には50~1000mPa.s、最も優先的には75~500mPa.s、更により優先的には約150mPa.sである。これらのブルックフィールド粘度の範囲は、アミロース含有量の範囲と組み合わせることができる。
【0028】
本発明による使用の第1の実施形態によれば、天然又は化学変性マメ科植物デンプンを使用することが提案される。
【0029】
天然又は化学変性マメ科植物デンプン
【0030】
本発明の意味の範囲内で、「マメ科植物」とは、ジャケツイバラ科(cesalpiniaceae)、ネムノキ科(mimosaceae)又は狭義マメ科(papilionaceae)に属する任意の植物、特に狭義マメ科に属する任意の植物、例えばエンドウマメ、ダイズマメ、ソラマメ、ファバマメ、レンズマメ又はウチワマメを意味する。
【0031】
したがって、本発明による使用に有用なマメ科植物デンプンは、エンドウマメのデンプン、ヒヨコマメのデンプン、ソラマメのデンプン、ファバマメのデンプン、ダイズマメのデンプン、ウチワマメ(lupins)のデンプン、レンズマメのデンプン、又はウチワマメ(lupin)のデンプンから選択することができる。優先的には、マメ科植物デンプンは、エンドウマメデンプンから選択され、最も優先的には、エンドウ(Pisum sativum)のデンプンである。
【0032】
マメ科植物デンプンは、天然のもの、又は化学変性のものから選択され得る。化学変性マメ科植物デンプンとは、以下の化学変性、すなわち、ヒドロキシアルキル化、カルボキシアルキル化、スクシニル化、アルキル化、アセチル化、カチオン化、アニオン化のうちの少なくとも1つを受けたマメ科植物デンプンである。これらの化学変性により、当該デンプンのゲルや水溶液の老廃化(retrogradation)を低減又は排除することが可能であり得る点で、これらの化学変性は、マメ科植物デンプンを安定化させるための変性、言い換えれば、水溶液中での粘度を安定化させるための変性である。したがって、化学変性マメ科植物デンプンは、ヒドロキシアルキル化、カルボキシアルキル化、オクテニルスクシニル化、スクシニル化、又はアセチル化マメ科植物デンプンから選択され得る。このようなデンプンは、老廃化する傾向が低減若しくは制御されているか、又は全くないことから、概ね「安定化デンプン」と呼ばれる。
【0033】
本発明に有用なヒドロキシアルキル化マメ科植物デンプンは、ヒドロキシアルキル化デンプンの乾燥重量に対して、0.1~20乾燥重量%、優先的には1~10乾燥重量%の範囲のヒドロキシアルキル基の含有量を有するヒドロキシアルキル化マメ科植物デンプンであり得る。
【0034】
優先的には、マメ科植物デンプンは、ヒドロキシプロピル化、ヒドロキシエチル化、又はカルボキシメチル化マメ科植物デンプンから選択され、最も優先的には、ヒドロキシプロピル化マメ科植物デンプンである。
【0035】
本発明の意味の範囲内で、「ヒドロキシプロピル化マメ科植物デンプン」は、当業者に既知の任意の技術によって、例えば、プロピレンオキシドとのエーテル化反応によってヒドロキシプロピル基で置換されたマメ科植物デンプンを意味することが意図されている。本発明の文脈において、ヒドロキシプロピル化マメ科植物デンプンは、好ましくは、ヒドロキシプロピル化デンプンの乾燥重量に対して、0.1~20乾燥重量%、優先的には0.5~15乾燥重量%、より優先的には1~10乾燥重量%、更により優先的には5~9乾燥重量%、最も優先的には7乾燥重量%に近いヒドロキシプロピル基の含有量を有する。具体的には、この含有量は、プロトン核磁気共鳴スペクトル法、特にEN ISO 11543:2002F標準に従って求められる。
【0036】
第2の実施形態によれば、流動化マメ科植物デンプン、デキストリン化マメ科植物デンプン、又は加水分解マメ科植物デンプンを使用することが提案される。第3の実施形態によれば、マメ科植物デンプンは、アセチル化デンプンから選択される。
【0037】
流動化マメ科植物デンプン
【0038】
「流動化マメ科植物デンプン」とは、乾燥又は無水媒体中で、低温、概ね100℃未満、優先的には80℃未満で穏やかな酸処理を受けた粒状デンプンを意味することを意図している。流動化により、デンプンの分子量が変化するのではなく、アミロースとアミロペクチンとの巨大分子間の分子間結合が破壊されるため、このようなデンプンの溶液の粘度は、非流動化デンプンに比べて低下する。
【0039】
加水分解マメ科植物デンプン
【0040】
本発明の意味の範囲内で、「加水分解マメ科植物デンプン」とは、加水分解操作、すなわちその平均分子量を低下させることを目的とする操作を受けたマメ科植物デンプンを意味することを意図している。このようなデンプンを得る方法は当業者に公知であり、例えば、酸化及び酸処理などの化学的処理によって、又は酵素処理によって得られる。加水分解は、概ね、ゼラチン化又は液化されたデンプンに対して行われる。当業者であれば、デンプンに求める粘度に応じて加水分解のレベルを当然に調整する。
【0041】
デキストリン化マメ科植物デンプン
【0042】
「デキストリン化マメ科植物デンプン」とは、デキストリン化操作を受けたマメ科植物デンプンを意味することを意図している。デキストリン化は、乾燥又は無水媒体中で行われるデンプン粉末の加水分解である。デキストリン化は、熱と、概ねグリコシド結合を加水分解することができる化学剤との複合作用を用いて、粉末状態のデンプンを変性するためのプロセスである。これらの方法では、不連続でも連続でも、100℃を超える変換温度と、乾燥した媒体又は水分含有量の少ない媒体(概ね25%m未満、又は更には15%m未満)における、酸、アルカリ剤、及び/又は酸化剤の任意選択による存在を必要と
する。加水分解と同様に、デキストリン化により、分子量を低減することが可能となる。
【0043】
本発明の文脈において、加水分解マメ科植物デンプン又はデキストリン化マメ科植物デンプンは、好ましくは1~2000kDa、好ましくは10~1000kDa、最も優先的には20~1000kDa、更により優先的には100~1000kDaの範囲の重量平均分子量を有する。例えば、分子量は、200~800kDa、200~500kDa、200~400kDa、又は更に200~300kDaの範囲であり得る。重量平均分子量は、HPSEC-MALLS(多角度レーザー光散乱検出と直列に接続された高性能サイズ排除クロマトグラフィー)によって求められる。
【0044】
本発明による使用のこの実施形態の好ましい変形例によれば、変性マメ科植物デンプンは、加水分解され、ヒドロキシアルキル化されたマメ科植物デンプンである。最も好ましい変形例は、加水分解され、ヒドロキシプロピル化されたマメ科植物デンプンである。
【0045】
第3の実施形態によれば、熱変性マメ科植物デンプンを使用することが提案される。
【0046】
熱変性マメ科植物デンプン
【0047】
本発明に有用なマメ科植物デンプンは、熱変性マメ科植物デンプンであり得る。これらの熱変性は、物理的な変性であり、ゼラチン化、アルファ化、押出、微細化、又は乾燥の操作から選択されるものである。
【0048】
上記で与えられた熱変性により、マメ科植物デンプンの水溶解度を増加させることが可能となり、更には完全に水溶性にすることも可能となる。特に、本発明によるデンプンは、好ましくは可溶性にすることができる。これは、当業者に公知の任意の技術、特に熱及び/又は機械的処理によって、例えば、水性媒体中で加熱処理する操作によって可溶性にすることができ、この操作は、アルファ化からゼラチン化又は完全な可溶化まで多岐にわたることがあり、任意選択で、粉状の製品を得ることが望まれる場合には乾燥工程が続く。
【0049】
デンプンを可溶性にする操作は、デンプンの化学変性及び/又は加水分解の前若しくは後に、あるいは外用剤への導入後に、例えば、外用剤が製造される時点で加熱処理することによって、全く差別なく実施することができる。
【0050】
実施形態の組み合わせ
【0051】
本発明に有用なデンプンは、マメ科植物デンプンであること、加水分解デンプンであること、デキストリン化デンプンであること、流動化デンプンであること、熱変性デンプンであること、化学変性デンプンであること、から選択される少なくとも2つの特徴を有するデンプンであり得る。
【0052】
したがって、デンプンは、ヒドロキシアルキル化され、流動化又は加水分解され、アルファ化されたマメ科植物デンプンであり得る。優先的には、このようなマメ科植物デンプンは、ヒドロキシプロピル化され、加水分解され、アルファ化されたエンドウマメデンプンである。
【0053】
マメ科植物デンプンは、アルキル化又はヒドロキシアルキル化され、加水分解されると、好ましくは非粒状になる。フィルム形成組成物が非常に良好なフィルム形成特性を有するように、有利には、任意の公知の技術によって水溶性にする。
【0054】
本発明による使用に好適なアルファ化され、加水分解され、ヒドロキシプロピル化されたエンドウマメデンプンは市販されており、Lycoat(登録商標)、例えば、Lycoat(登録商標)RS720又はLycoat(登録商標)RS780の商標名で本出願人によって販売されている。
【0055】
本発明による使用の別の実施形態によれば、アミロースに富む穀物又は塊茎植物のデンプンを使用することが提案される。
【0056】
アミロースに富む穀物又は塊茎植物のデンプン
【0057】
本発明に有用な穀物又は塊茎植物のデンプンは、アミロースに富む穀物又は塊茎植物のデンプン、すなわち、30%以上、優先的には30%~75%のアミロース含有量を有するものから選択され得る。
【0058】
アミロースに富む穀物又は塊茎植物は、それらのデンプン中のアミロース含有量を増加させるために、交雑育種若しくは交配によって選択された、又は遺伝子改変された穀物又は塊茎植物である。
【0059】
アミロースに富むトウモロコシの例としては、アミロメイズが知られている。
【0060】
上述のマメ科植物デンプンと同様に、本発明に有用なアミロースに富む穀物又は塊茎植物のデンプンは、在来のものであっても、変性のものであってもよい。変性は、上記のマメ科植物デンプンについて記載されたもの、すなわち、アルファ化、微細化などの熱変性、及び/又は、ヒドロキシアルキル化、アセチル化、カチオン化、アニオン化、カルボキシアルキル化などの化学変性と同様であり得る。マメ科植物デンプンについて述べた全ての実施形態は、アミロースに富む穀物又は塊茎植物のデンプンに適用することができる。
【0061】
任意選択による追加の変性
【0062】
上述の熱変性及び化学変性とは別に、本発明によるデンプンは、当該変性が本発明による使用のためのデンプンの所望の特性を妨げない限り、1つ以上の他の物理変性及び/又は化学変性を受けていてもよい。化学変性の例には、特に架橋がある。
【0063】
デンプンに適用され得る他の追加の変性は、マイクロ波若しくは超音波による処理操作、可塑化又は造粒である。
【0064】
外用剤
【0065】
本発明の意味の範囲内で、「外用剤」は、ヒト又は動物、優先的にはヒトの皮膚と接触させることを意図した任意の組成物を意味することを意図している。したがって、それは、化粧品組成物、外皮用組成物、医薬組成物又は獣医学的組成物であり得る。
【0066】
外用剤は、外用剤全体に対して、0.6重量%~50重量%、優先的には2重量%~30重量%、より優先的には5重量%~15重量%、最も優先的には約10重量%の、本発明によるフィルム形成デンプンの重量含有量を含み得る。
【0067】
本発明によるデンプンの重量含有量は、有利には、外用剤のテクスチャーに顕著な有害な影響を与えることなく、特に低粘度、特に25℃で固形分20重量%の水溶液中で50mPa.s~1000mPa.sの範囲のブルックフィールド粘度を有する本発明によ
るデンプンを使用することにより、高くすることができる。
【0068】
これらの外用剤は、前述のデンプン以外に、外用剤に共通して使用される他の成分、例えば、水、保湿剤、乳化剤、界面活性剤、増粘剤、ゲル化剤、潤滑剤、皮膚軟化剤、脂肪物質、及び特に化粧用活性剤又は外皮用活性剤、並びに防腐剤、可溶化剤又は香料などのアジュバントを含み得る。化粧用活性剤の中でも、イソソルビド、ベタイン、グリセリン若しくはアセトアミドエトキシエタノールなどの保湿剤、又は他に多くの他の活性製品若しくは皮膚に対する感覚効果を有する製品、例えば、本出願に記載された特定のデンプン以外のデンプンを含み得る。
【0069】
外用剤の非限定的な例には、ローション、クリーム、セラム、ジェル、軟膏、香油、液体石鹸又はシャワージェル、シャンプー、ムース、ファンデーション、制汗剤、及びデオドラントが含まれる。
【0070】
外用剤、好ましくは化粧用剤は、デイクリーム、サンクリーム、アフターサンクリーム、セルフタンナー、マスクから優先的に選択されるスキンケア製品;シャンプー、クリーム状又はマスク状又はローション状のコンディショナー、スプレー状又はジェル状又はワックス状のヘアスタイリング製品、染色製品から優先的に選択されるヘアケア製品;ファンデーション、アイシャドウ、マスカラ、マニキュア、口紅、プレスリップカラー、リップグロス、アイライナーから優先的に選択されるメイクアップ製品;クレンジングジェル、クレンジングワイプ若しくはメイク落としワイプ、又は水性アルコール溶液若しくはジェルから優先的に選択される衛生製品、から選択される。
【0071】
一実施形態によれば、本発明に有用なデンプンは、外用剤において、唯一のデンプン質フィルム形成剤である。
【0072】
環境汚染に対するバリア効果を有するフィルム
【0073】
本発明によるデンプン、好ましくはマメ科植物デンプンを使用することで、外用剤は、皮膚又は頭髪又は体毛の表面にフィルムを形成することができ、これにより、皮膚にとって有害性又は毒性のある環境汚染に対するバリアが形成される。このフィルムは、空気中に浮遊する微粒子や、アレルギー性揮発性有機化合物、特に大気微粒子、例えば「都市粉塵」という名称で知られている粉塵、又は植物の花粉による環境汚染から、皮膚、頭髪、若しくは体毛を保護する。また、このフィルムは、汚染物質や、香水などの意図的に皮膚に適用されるアレルギー性物質からも保護する。これにより、空気中に浮遊する大気微粒子、及び/又は揮発性有機化合物若しくは微粒子に関連する有機化合物が、皮膚と接触するのを低減又は防止することが可能となる。
【0074】
微粒子による環境汚染については、本発明により得られるバリアフィルムにより、当該微粒子の皮膚への付着力を低減することが可能となる。この結果、皮膚がこれらの微粒子と接触しなくなり、ひいては皮膚の健康を害することができなくなる。したがって、皮膚は、通常微粒子によって引き起こされる代謝分解から保護される。
【0075】
揮発性有機物質や微粒子に付着した物質による環境汚染については、本発明によるバリアフィルムを用いることで、当該有機物質が皮膚や頭髪、体毛に拡散するのを防ぐことが可能となる。
【0076】
実際、本出願人は、本発明によるデンプンを含む外用剤により、表皮の細胞及びケラチノサイトの部分的な細胞保護が可能となることを確認した。「細胞保護」とは、表皮の細胞が、都市粉塵などの微小汚染物質、並びにヒ素、カドミウム、コバルト、クロム、ニ
ッケル、鉛、ストロンチウム及びアンチモンなどの重金属に曝されたときに、表皮の細胞を保護すること、すなわちその死滅率を低下させることが可能となることを意図している。換言すれば、表皮の細胞が汚染ストレスに曝されたときに、本発明による使用により、その一部分、又は更には大部分、優先的には少なくとも50%を生存状態に保つことが可能となる。
【0077】
本発明による細胞保護が存在しない場合、表皮の細胞及びケラチノサイトは、都市粉塵及び重金属に曝露されることで実質的に全てが死滅する。本発明によるバリアフィルムの存在下では、表皮の細胞及びケラチノサイトは、これらの汚染物質の影響を受けにくく、その結果、そのようなバリアフィルムが存在しない場合の曝露に比べて、細胞の死滅率が少なくとも60%減少することが示される。
【0078】
固定効果を有するフィルム
【0079】
本出願人は、「固定効果を有するフィルム」とは、個人の皮膚又は皮膚付属器官の一部に、外用剤によって形成されたフィルムが、固定効果を有するフィルムで覆われた部分に外側部分からの機械的摩擦に耐えるのに十分な、当該部分への付着力及び/又は固有の機械的凝集力を有することを意味することを意図している。外側部分の例としては、覆われた部分以外の個人の皮膚部分、別の個人の皮膚、着用している個人若しくは別の個人の衣服、又はワイプが挙げられる。機械的摩擦の例には、例えば、2つの頬の間における摩擦、頬と手の間における摩擦、頬と唇の間における摩擦、2対の唇の間における摩擦がある。固定効果を有するフィルムをこのように擦ると、皮膚上の所定の位置に留まり、物理的な一体性が保たれ、外側部分にはほとんど又は全く物質が転写しない。摩擦の後、外側部分には、外用剤の痕跡がわずかに含まれる、又は全く含まれない。
【0080】
固定効果を有するフィルムは、例えば着色された外用剤からの物質の、身体の一部分から衣服などの別の外側部分への転写を防ぐ。これにはまた、熱や湿気による流出を抑えることで、適用後の外用剤の保持力を良くすることも含まれる。
【0081】
本発明によるデンプン、優先的にはマメ科植物デンプンをバリアフィルム形成剤として使用することにより、固定効果を有するフィルムの形成が可能になる。この固定効果を有するフィルムにより、外用剤の転写を低減又は排除することが可能となる。特に、メイクアップ製品などの外用剤からの顔料及び/又は染料の転写を低減又は排除することが可能となる。したがって、固定効果を有するこのフィルムにより、染毛製品の顔料及び/又は染料の保持力を高めることが可能となる。また、固定効果を有するこのフィルムにより、ヘアスタイルの保持力を高めたり、頭髪、体毛又はまつ毛の形を整えたりすることが可能となる。
【実施例0082】
実施例1:水中油型(O/W)エマルジョンの調製
【0083】
この実施例では、表1の組成による4つの水中油型(O/W)エマルジョンの調製を示す。
対照エマルジョン:水、油、Seppic製の乳化剤「Montanov L」、及びSeppic製の防腐剤「Sepicide HB」のみを含むエマルジョン。
エマルジョンA:先行技術による、フィルム形成剤としてCP Kelco製の「Keltrol」キサンタンガムを含むエマルジョン。
エマルジョンB:先行技術による、CP Kelco製の「Keltrol」キサンタンガム、Hercules製の「Natrosol 250 HHR」ヒドロキシエチルセルロース、及びRoquette製の「Pregeflo CH40」デンプンから
なるフィルム形成混合物(Beaute by Roquette(登録商標)DS112)を含むエマルジョン。
エマルジョンINV1:本発明に従って使用される、Roquette Freres製の「Lycoat(登録商標)RS720」エンドウマメデンプンを有するエマルジョン。
【0084】
エマルジョンの調製手順は以下のとおりである。35~40℃の水にフィルム形成剤を分散させ、毎分1000回転の解膠撹拌ブレードで少なくとも10分間撹拌することにより水相を調製する。次に、35~40℃で撹拌しながら乳化剤を加える。これとは別に、油を35~40℃まで加熱する。次いで、毎分1500回転の解膠撹拌ブレードで15分間撹拌しながら、35~40℃で水相中、油を乳化する。最後に、防腐剤を添加する。エマルジョンは、周囲温度になるまで撹拌し続ける。
【0085】
【表1】
【0086】
実施例2:微粒子の付着力低下に対するin vivo測定
【0087】
この実施例では、実施例1で調製した4つのエマルジョンについて、微粒子バリア効果による汚染防止の性能特性を比較した。
【0088】
この目的のために、18歳~65歳の10人のボランティアから採取したヒトの表皮に対して、1μm~5μmのサイズにした炭の粒子(微粒子と呼ぶ)を実験モデルとして使用して試験を行った。この炭微粒子は、燃焼エンジンからの排気ガス粒子などの実際の汚染性微粒子を適切にモデル化したものである。
【0089】
炭微粒子の調製:
【0090】
試験に先立ち、炭を家庭用粉砕機に10分間供することにより、十分な量の炭微粒子を調製した。この粉砕により、主に1μm~5μmのサイズ分布を有するマイクロメートルサイズの粒子が得られる。
【0091】
参加者の表皮上での試験手順:
【0092】
各参加者の前腕部に1cm×1cmの領域を4つ設定した。このように設定した各領
域について、次の2つの測定、すなわち、Dino-Liteデジタル顕微鏡で撮影した写真を画像解析して黒色微粒子の数をカウントする測定、及びMinolta(著作権表示)CR-200比色計を用いた比色測定を行った。
【0093】
微粒子のカウント:
【0094】
デジタル顕微鏡「Dino Lite」で撮影した高解像度の写真を、画像処理ソフト「GIMP」(GNU Image Manipulation Software)を用いて処理した。まず、軸(白黒)に沿って投影を行い、黒色の微粒子を目立たせ、画像を標準化した。その後、GIMPソフトウェアを用いて、黒色画素の数をカウントした。
【0095】
比色測定:
【0096】
Minolta CR-200比色計は、表面の色を対物測定するツールである。これにより、CIE 1976色空間(CIELAB色空間とも呼ばれる)内の3つの座標、L*、a*、及びb*からなる結果が得られる。色の明度を特徴付けるL*パラメータのみが使用された。L*=0は黒に相当し、L*=100は白色を示す。
【0097】
参加者を対象とした試験の実施:
【0098】
エマルジョンを適用する前、つまり清潔な肌の上で、微粒子のカウントと比色測定を実施する(測定T0)。
【0099】
エマルジョンA、エマルジョンB、エマルジョンINV1の3つの領域を試験対象のエマルジョンで覆った。この目的のために、必要な量をピペットで付着させ、次いでスパチュラで広げることによって、皮膚1cm2当たり約2mgのエマルジョンを適用した。その後、参加者はエマルジョンが乾くまで20分待った。4つ目の領域は、対照領域とするために、清潔なままになっている。測定を行った(測定T1)。
【0100】
粒子を含浸させたメイクアップ用スポンジで軽く叩くことにより、炭の粒子を4つの領域に適用した後、測定を行った(測定T2)。
【0101】
次いで、各領域の表面全体に100mLの水を流して、4つの領域をすすいだ後、測定を行った(測定T3)。
【0102】
以下の表2は、黒色画素の平均数を集計したものである。
【0103】
【表2】
【0104】
表3は、平均L*パラメータの測定値を示している。
【0105】
【表3】
【0106】
表4は、T3とT2との間の平均変動(%で表示)を示している。
【0107】
【表4】
表4
【0108】
本発明によるデンプンを含むエマルジョンINV1から形成されたフィルムで皮膚を覆った場合、炭微粒子に曝露した後に水で洗浄することにより、黒色画素数を59%減少させ、L*パラメータを95%増加させることが可能となる。これは、参照エマルジョンA及びBと比較して、32%優れた画素数の減少、及び15~18%優れたL*パラメータの増加を表す。黒色画素数の減少は、皮膚に付着した黒色粒子数の減少の直接的な結果である。L*パラメータの増加は、皮膚に付着した粒子の数の減少からもたらされる、皮膚の明度の増加を反映している。したがって、本発明によって使用されるデンプンにより、実際に、皮膚上の微粒子の付着力を効果的に低減することが可能となる。
【0109】
実施例2:細胞保護のin vitro測定
【0110】
この実施例では、実施例1のエマルジョンA及びエマルジョンINV1の、表皮の細胞を微小汚染物質の致死効果から保護する能力をin vitro試験によって測定する。このin vitro試験は、再構築表皮サンプルにエマルジョンを事前に適用しない場合と適用した場合とで、微小汚染物質の混合物に曝露されたときの再構築表皮サンプルの細胞生存率を比較することからなる。
【0111】
表6は、エマルジョンINV1の細胞保護の有無、及びエマルジョンAで達成された細胞保護と比較した改善の有無を判定するための、6つの再構築表皮サンプルの試験条件を示している。1列目のサンプルは、微小汚染物質無しのプロトコルによるものである。2列目のサンプルは、微小汚染物質有りのプロトコルによるものである。
【0112】
【表5】
【0113】
再構築表皮は、Episkinから「Episkin(商標) RHE/Reconstructed Human Epidermis」の名称で販売されているものである。
【0114】
微小汚染物質は、重金属と都市粉塵との混合物である。重金属の混合物は、ヒ素、カドミウム、コバルト、クロム、ニッケル、鉛、ストロンチウム、及びアンチモンからなる。都市粉塵は「Urban dust 1649b NIST(登録商標)SRM(登録商標)」であり、「National Institute for Standards and Technology」のSRM 1649bの基準に対応している。
【0115】
プロトコルは、以下のとおりである。
再構築表皮を生理学的培地に入れる。
1サンプル当たり30マイクロリットルの量で、再構築表皮の表面にエマルジョンを適用して、再構築表皮サンプルを完全に覆う均質な層を形成する。
以下の微小汚染物質曝露プロトコルに従って、サンプルを微小汚染物質に曝露する。
次いで、以下のMTT細胞生存率プロトコルに従って、細胞生存率の水準を測定する。
【0116】
微小汚染物質曝露プロトコル
【0117】
30マイクロリットルのエマルジョンを各再構築表皮サンプルに適用する。次いで、1回分の微小汚染物質を各サンプルに適用する。サンプルを、5vol%の二酸化炭素を含有する雰囲気下で、37℃のオーブン内に24時間置く。微小汚染物質への曝露期間の終了時に、MTTプロトコルに従って、各サンプルの細胞生存率を3回繰り返して測定する。
【0118】
MTT細胞生存率プロトコル
【0119】
再構築表皮サンプルを、3-[4,5-ジメチルチアゾール-2-イル]-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミドである1mg/mLの「MTT」を含有する溶液中、37℃で3時間インキュベートする。次いで、溶液を取り出し、イソプロパノールで置き換え、22℃で更に2時間インキュベートする。各再構築表皮サンプルの2つのアリコートをマイクロプレートの96個のウェルのそれぞれに移す。次に、マイクロプレートリーダー(TecanモデルF200Pro)を備えた比色計を用いて、各ウェルで570nmでの吸光度を測定する。
【0120】
細胞生存率は、以下の式に従って算出される。細胞生存率(%)=[570nmでのサンプルの吸光度/570nmでの陰性対照の吸光度]×100。
【0121】
細胞生存率の測定に用いた6つのサンプルの吸光度値を、以下の表7に示す。
【0122】
【表6】
【0123】
サンプルの細胞生存率は、前述のデータから計算される。
【0124】
【表7】
【0125】
再構築表皮にエマルジョンを適用しない場合、細胞生存率は17.3%となり、再構築表皮の細胞が微小汚染物質に曝された場合の致死効果を反映していることが分かる。エマルジョンAを適用することにより、細胞生存率を35.5%まで高めることが可能となる。
【0126】
本発明によるエマルジョンINV1により、細胞生存率を42.5%まで高めることが可能とあり、これはエマルジョンAよりも7%高く、8%良好な細胞保護を反映している。
【0127】
フィルムは、微小汚染物質の浸透から外植片を保護し、その結果、先行技術によるエマルジョンと比較して、生存可能な状態の細胞の数を約8%増加させる。
【0128】
実施例3:本発明によるファンデーション
【0129】
以下のプロトコルにより、表8の全体組成に従って、本発明によるファンデーションを調製する。
【0130】
【表8】
【0131】
まず、解膠撹拌ブレードを用いて中速で撹拌することにより、22℃で10分間、組成物に必要な水に、Tabulose SC611を分散させる。次いで、均質な混合物が得られるまで、解膠撹拌ブレードを用いて中速で撹拌することによって、顔料を連続的に分散させる。更に22℃で、本発明によるエンドウマメデンプンのデンプンであるLycoat(登録商標)RS720(アルファ化し、加水分解し、ヒドロキシプロピル化したエンドウマメデンプンのデンプン)を分散させる。このようにして得られた相Aを、穏やかに撹拌しながら80℃まで約20分間加熱する。
【0132】
相Aの調製と並行して、相Bの成分の必要な重量を計量し、それらを共に混合することによって、相Bを調製する。次いで、相Bの全体を80℃まで加熱する。
【0133】
相A及び相Bの準備が整い、80℃の温度になってから、解膠撹拌ブレードを用いて1500~2000rpmの速度で15分間撹拌しながら、B相をA相に乳化させる。次いで、得られた水中油型エマルジョンを、解膠撹拌ブレードを用いてゆっくり撹拌しながら、22℃まで冷却する。次いで、相Cの防腐剤及び香料を添加し、最後に、水で30%mに希釈したクエン酸を添加することにより、エマルジョンのpHを5.8~6.0の値に調整する。
【0134】
非転写試験
【0135】
本発明によるファンデーションの非転写性を検証するために、参加者に対して試験を実施する。参加者は、顔の一方の頬に本発明によるファンデーションを適用し、もう一方の頬には、同じプロトコルに従って、Lycoat(登録商標)RS720を含まない表の組成に従って調製された本発明によらないファンデーションを適用する。次に、参加者女性は2分間待機する。
【0136】
参加者は、ティッシュペーパーを各頬に圧力をかけずに置き、次に人差し指で圧力をかけ、次に新しいティッシュペーパーでこの操作を繰り返し、人差し指で9回圧力をかける。この試験の結果を図3に示す。
【0137】
本発明によらないファンデーションで覆われた頬に適用されたティッシュペーパーには、最初の圧力の後でファンデーションの顕著な染みができ、次の9回続く圧力ではその染みがそれほど顕著ではなくなることが観察された。実際、目に見える量のファンデーションがティッシュペーパーに転写された。すなわち、本発明によらないファンデーションは非転写性を有していない。
【0138】
本発明によるファンデーションで覆われた頬については、最初の圧力の後でも、9回続く圧力の後でも、ティッシュペーパー上にファンデーションの痕跡が見られないことが観察された。本発明によるファンデーションは、皮膚からティッシュペーパーに転写されなかった。すなわち、本発明によるファンデーションは非転写性を有する。
【0139】
本発明によるファンデーションの利点
【0140】
本発明によるファンデーションは、繊細なテクスチャーを有し、中程度から高程度の保護範囲を実現する。このファンデーションは、環境汚染から保護し、Lycoat(登録商標)RS720デンプンフィルムによる固定により、少なくとも1日は持続する均質でマットな肌の色を提供する。
【0141】
実施例4:本発明によるマスカラ
【0142】
以下のプロトコルにより、表9の全体組成に従って、本発明によるマスカラを調製する。
【0143】
【表9】
【0144】
以下のプロトコルに従ってマスカラを調製する。
【0145】
水を75℃まで加熱し、次いで、解膠撹拌ブレードを用いて1500~2000rpmで強く撹拌しながら、ケイ酸アルミニウムマグネシウムを添加する。この撹拌は、均質な混合物が得られるまで維持される。次に、相Aの他の構成成分を連続的に添加し、各添加間で均質な混合物が得られるまで待つ。このようにして得られた相Aを75℃に維持する。
【0146】
これと別に、相Bの全ての構成成分を撹拌しながら混合し、次いで75℃まで加熱する。
【0147】
次いで、解膠撹拌ブレードを用いて1500~2000rpmで撹拌しながら、相Bを相A中で乳化させる。次いで、均質な混合物が得られるまで、500rpmで適度に撹拌しながら、相Cをゆっくり添加する。次に、混合物を適度に撹拌しながら22℃まで冷却した後、相Dを添加する。
【0148】
本発明によるマスカラの利点
【0149】
本発明によるマスカラは、環境汚染に対するバリアフィルムを形成することにより、マスカラが適用されるまつ毛を保護する。また、本発明によるマスカラは、指や紙、衣服などでまつ毛を擦ってもマスカラがまつ毛に付着したままになるので、非転写性も有している。
【0150】
実施例5:本発明によるリップグロス
【0151】
以下のプロトコルにより、表10の全体組成に従って、持続性の汚染防止保護リップグロスを調製する。
【0152】
【表10】
【0153】
まず、Lycoat(登録商標)RS720のエンドウマメデンプンを22℃の水に分散させ、解膠撹拌ブレードを用いて穏やかに撹拌する。次に、ソルビトール「Beaute by Roquette PO 070」及びキシリトール「Beaute by
Roquette PO 370」を、完全に溶解するまで添加し、引き続き穏やかに撹拌しながら均質な混合物を得る。相A1+A2が得られる。
【0154】
次に、均質な混合物が得られるまで、キサンタンガムを相A1+A2に分散させる。次に、穏やかに撹拌しながら、相Cの成分を、組み合わせた混合物に連続的に添加する。
【0155】
このようにして、キサンタンガムによってシロップ状のテクスチャーを有し、Lycoat(登録商標)RS720により、適用時には滑らかな感覚を与え、唇に一度適用された後にはべたつかない感覚を与えるリップグロスが得られる。リップグロスは、唇の上に保護及び固定用のフィルムを形成し、環境汚染から唇を保護し、保湿剤(ソルビトール及びキシリトール)が唇に十分な潤いを与えることができる。
図1
図2
図3