(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101066
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】粗化めっき板
(51)【国際特許分類】
C25D 5/16 20060101AFI20240719BHJP
C25D 5/10 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C25D5/16
C25D5/10
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024090204
(22)【出願日】2024-06-03
(62)【分割の表示】P 2021526120の分割
【原出願日】2020-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2019109246
(32)【優先日】2019-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢永 裕記
(72)【発明者】
【氏名】堀江 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】堤 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】市島 真司
(72)【発明者】
【氏名】小▲柳▼ 利文
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 興
(57)【要約】
【課題】優れた耐食性を有し、かつ、他の部材に対して優れた密着性を示す粗化めっき板を提供すること。
【解決手段】金属基材の少なくとも一方の面に、前記金属基材側から、粗化ニッケルめっき層と、亜鉛めっき層とをこの順に備える粗化めっき板であって、レーザー顕微鏡測定による、表面の十点平均粗さRz
jisが3μm以上である、粗化めっき板を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材の少なくとも一方の面に、前記金属基材側から、粗化ニッケルめっき層と、亜鉛めっき層とがこの順に形成されてなる粗化めっき層を備える粗化めっき板であって、
レーザー顕微鏡測定による、前記粗化めっき層表面の十点平均粗さRzjisが3μm以上である、粗化めっき板。
【請求項2】
前記粗化めっき層表面の明度L*が83以下である請求項1に記載の粗化めっき板。
【請求項3】
前記粗化めっき層表面の十点平均粗さRzjisが3~30μmである請求項1または2に記載の粗化めっき板。
【請求項4】
前記粗化めっき層表面の明度L*が45~83である請求項1~3のいずれかに記載の粗化めっき板。
【請求項5】
前記金属基材と、前記粗化ニッケルめっき層との間に、別のめっき層をさらに備える請求項1~4のいずれかに記載の粗化めっき板。
【請求項6】
前記別のめっき層がニッケルめっき層、又は亜鉛めっき層である請求項5に記載の粗化めっき板。
【請求項7】
前記粗化めっき層を構成する前記亜鉛めっき層の付着量が、3g/m2以上である請求項1~6のいずれかに記載の粗化めっき板。
【請求項8】
前記金属基材が、Fe,Cu,AlおよびNiから選択される一種の純金属からなる金属板もしくは金属箔、または、Fe,Cu,AlおよびNiから選択される一種を含む合金からなる金属板もしくは金属箔である請求項1~7のいずれかに記載の粗化めっき板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐食性を有し、かつ、他の部材に対して優れた密着性を示す粗化めっき板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電池を構成する部材や、電子関連機器を構成する部材として、銅めっき鋼板、ニッケルめっき鋼板、銅板、およびニッケル板が用いられている。これらのなかでも、耐食性の観点から、ニッケルめっき鋼板およびニッケル板が広く使用されており、コスト面から、ニッケルめっき鋼板が好適に用いられている。このような材料においては、他の部材と接合する場合に、密着性を向上させるという観点で、表面構造を制御する方法が知られている。
【0003】
たとえば、特許文献1では、鋼板上に、粒子密度:2~500個/μm2、平均粒径:0.05~0.7μmに制御された微細構造を有するニッケルめっき層を形成してなる表面処理鋼板が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、樹脂フィルムと貼り合わせて銅張積層板を形成するための表面処理銅箔として、銅原箔上に、下地ニッケルめっき層と、銅結晶粗化粒からなる粗化銅めっき層と、亜鉛めっき層とが形成されてなる表面処理銅箔が開示されている。さらに、特許文献3では、超微細凹凸を有する亜鉛系鍍金鋼板と、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、および芳香族ポリアミドから選択される1種以上を主成分とする熱可塑性樹脂組成物の樹脂成形品からなる被着材との接合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5885345号公報
【特許文献2】特開2016-65266号公報
【特許文献3】国際公開第2009/116484号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている表面処理鋼板では、表面処理鋼板と接合する部材の種類や、接合方法によっては、他の部材との密着性が不十分である場合があり、密着性のさらなる向上が求められていた。
上記特許文献1に開示されている表面処理鋼板は、最表面がニッケルにより形成されているため、耐食性(特に、耐塩害性や、耐孔食性)が十分でないという課題もあった。
また、上記特許文献2に開示されている表面処理銅箔は、ニッケルと比較して、電気化学的に貴である銅めっき層上に、亜鉛めっき層を形成するものであるため、亜鉛めっき層から亜鉛が溶解しやすく、耐食性が十分でないという課題がある。
さらに、上記特許文献3に開示された技術は、亜鉛めっきを行った後に、エッチングを行う必要あり、製造工程が煩雑であり、さらには、エッチングに要する時間が長いため、生産効率に劣るという課題がある。
【0007】
本発明の目的は、優れた耐食性を有し、かつ、他の部材に対して優れた密着性を示す粗化めっき板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、金属基材上に、粗化ニッケルめっき層、および、亜鉛めっき層をこの順に形成されてなる粗化めっき層を形成し、かつ、このような粗化めっき層を、表面の十点平均粗さRzjisが所定の範囲に制御されたものとすることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、金属基材の少なくとも一方の面に、前記金属基材側から、粗化ニッケルめっき層と、亜鉛めっき層とがこの順に形成されてなる粗化めっき層を備える粗化めっき板であって、レーザー顕微鏡測定による、表面の十点平均粗さRzjisが3μm以上である、粗化めっき板が提供される。
【0010】
本発明の粗化めっき板は、前記粗化めっき層表面の明度L*が83以下であることが好ましい。
本発明の粗化めっき板は、前記粗化めっき層表面の十点平均粗さRzjisが3~30μmであることが好ましい。
本発明の粗化めっき板は、前記粗化めっき層表面の明度L*が45~83であることが好ましい。
本発明の粗化めっき板は、前記金属基材と、前記粗化ニッケルめっき層との間に、別のめっき層をさらに備えるものであることが好ましい。
本発明の粗化めっき板において、前記別のめっき層がニッケルめっき層、又は亜鉛めっき層であることが好ましい。
本発明の粗化めっき板において、前記粗化めっき層を構成する前記亜鉛めっき層の付着量が、3g/m2以上であることが好ましい。
本発明の粗化めっき板において、前記金属基材が、Fe,Cu,AlおよびNiから選択される一種の純金属からなる金属板もしくは金属箔、または、Fe,Cu,AlおよびNiから選択される一種を含む合金からなる金属板もしくは金属箔であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた耐食性を有し、かつ、他の部材に対して優れた密着性を示す粗化めっき板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る粗化めっき板の構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る粗化めっき板を構成する粗化ニッケルめっき層および亜鉛めっき層の詳細な構造を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る粗化めっき板の製造方法の一例を説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、他の実施形態に係る粗化めっき板の構成図である。
【
図5】
図5(A)は、実施例1の粗化めっき板の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察して得た画像であり、
図5(B)は、実施例1の粗化めっき板の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察して得た画像であり、
図5(C)は、
図5(B)に示す断面について走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を行った際における、エネルギー分散型X線分光器(EDS)による亜鉛原子の分布を示す画像である。
【
図6】
図6は、180°ピール試験体の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本実施形態の粗化めっき板1の構成を示す図である。
図1に示すように、本実施形態の粗化めっき板1は、金属基材11上に、粗化ニッケルめっき層121と、亜鉛めっき層122とが、この順に形成されてなる粗化めっき層12を有するものである。
なお、本実施形態においては、粗化めっき板1として、金属基材11の一方の面に、粗化ニッケルめっき層121と亜鉛めっき層122とから形成される粗化めっき層12が形成されてなるものを例示したが、このような態様に特に限定されず、粗化ニッケルめっき層121と亜鉛めっき層122とから形成される粗化めっき層12は、金属基材11の両方の面に形成されていてもよい。
【0014】
<金属基材11>
本実施形態のめっき板1の基板となる金属基材11としては、特に限定されないが、Fe,Cu,AlおよびNiから選択される一種の純金属からなる金属板もしくは金属箔、または、Fe,Cu,AlおよびNiから選択される一種を含む合金からなる金属板もしくは金属箔などが挙げられ、具体的には、鋼板、ステンレス鋼板、銅板、アルミニウム板、またはニッケル板(これらは、純金属、合金のいずれであってもよく、箔状であってもよい。)などが挙げられ、これらのなかでも、めっき処理の前処理が比較的簡便な前処理でもめっきを施しやすく、また、粗化ニッケルめっき層121および亜鉛めっき層122を形成することによる、金属基材に対する密着性の向上効果をより高めることができるという観点から、鋼板が好ましく、特に、低炭素アルミキルド鋼(炭素量0.01~0.15重量%)、炭素量が0.01重量%以下(好ましくは炭素量が0.003重量%以下)の極低炭素鋼、または極低炭素鋼にTiやNbなどを添加してなる非時効性極低炭素鋼が好適に用いられる。
【0015】
本実施形態においては、金属基材の熱間圧延板を酸洗して表面のスケール(酸化膜)を除去した後、冷間圧延し、次いで、圧延油を電解洗浄した鋼鈑、ステンレス鋼鈑、銅板、アルミ板、あるいはニッケル板を基板として用いることができる。また、電解洗浄後に、焼鈍または調質圧延を施したものを用いてもよい。この場合における、焼鈍は、連続焼鈍あるいは箱型焼鈍のいずれでもよく、特に限定されない。その他、電鋳法などで作製した電解箔または金属板として、銅箔、ニッケル箔などを金属基材として用いることもできる。
【0016】
なお、金属基材11として、ステンレス鋼板やニッケル板などに不働態皮膜が形成される金属基材を用いる場合には、粗化ニッケルめっき層121を形成するための粗化ニッケルめっきを行う前、あるいは任意に形成される下地金属めっき層を形成するためのめっき処理の前に、ストライクニッケルめっきを施したものを用いてもよい。ストライクニッケルめっきの条件としては、特に限定されないが、たとえば、下記の条件などが挙げられる。下記の条件において、ストライクニッケルめっきによるニッケルの付着量は、通常0.08~0.89g/m2であるが、下地金属めっき層として、下地ニッケル層を形成する場合には、ストライクニッケルめっきによるニッケルの付着量と、下地ニッケル層を形成するためのニッケルめっきによるニッケル付着量との合計量が、下地ニッケル層のニッケル付着量として測定される。
浴組成:硫酸ニッケル六水和物100~300g/L、硫酸10~200g/L
pH:1.0以下
浴温:40~70℃
電流密度:5~100A/dm2
めっき時間:3~100秒間
【0017】
金属基材11の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.01~2.0mm、より好ましくは0.025~1.6mm、さらに好ましくは0.025~0.3mmである。また、金属基材11の粗度は、特に限定されないが、触針式表面粗度計での算術平均粗さRaが0.05~2.0μmであり、より好ましくは0.05~0.9μmであり、さらに好ましくは0.05~0.5μmである。
【0018】
<粗化めっき層12(粗化ニッケルめっき層121および亜鉛めっき層122)>
本実施形態の粗化めっき板1は、
図1に示すように、金属基材11上に、粗化ニッケルめっき層121と亜鉛めっき層122とから形成される粗化めっき層12を備えるものである。
【0019】
本実施形態においては、粗化ニッケルめっき層121と亜鉛めっき層122とから形成される粗化めっき層12表面における、レーザー顕微鏡測定による、十点平均粗さRzjisを3μm以上に制御されたものとする。本実施形態によれば、粗化めっき層12を、粗化ニッケルめっき層121上に、亜鉛めっき層122が形成されたものとすることにより、亜鉛めっき層122による優れた耐食性(特に、耐塩害性や、耐孔食性)を付与するこができ、これにより、粗化めっき板1を、耐食性に優れたものとすることができ、さらには、粗化めっき層12表面における、レーザー顕微鏡測定による、十点平均粗さRzjisを3μm以上の範囲とすることにより、粗化めっき板1を、他の部材との密着性に優れたものとすることができるものである。特に、本実施形態によれば、粗化ニッケルめっき層121と、亜鉛めっき層122とを組み合わせることにより、ニッケルは、銅などと比較して、亜鉛と標準電極電位が近いものであるため、これにより亜鉛めっき層122が溶出し難く、そのため、亜鉛が備える耐食性の向上効果を十分に発揮させることができ、これにより優れた耐食性を実現できるものである。
【0020】
ここで、粗化ニッケルめっき層121と亜鉛めっき層(後述する下地金属層13としての下地亜鉛めっき層でも、粗化めっき層12を構成する亜鉛めっき層121としてのいずれでも)が、粗化めっき板1の表面に共存すると、粗化めっき板1の使用環境下(たとえば、腐食環境下)にてニッケルと亜鉛との電位差によって亜鉛表面が酸化反応による黒色変化を生じ、黒色の亜鉛酸化物を形成する。本発明者等の知見によると、この黒色の亜鉛酸化物は、亜鉛めっき単独の層構成の場合に生成する白錆(白色の亜鉛の水酸化物および亜鉛の酸化物)と比較して、耐食性に優れることを確認している。黒色の亜鉛酸化物の耐食性向上のメカニズムは必ずしも明らかではないが、たとえば、金属基材11として鋼板などを使用した場合において、亜鉛表面への黒色酸化物形成による亜鉛の溶解が緩やかになるという効果や、亜鉛の犠牲防食作用を緩やかに進行させることができるという効果などが発揮され、これにより、赤錆発生を緩やかにするなどの耐食性向上効果が奏されるものと考えられる。
【0021】
なお、本実施形態において、粗化めっき層12表面の十点平均粗さRz
jisを3μm以上とする方法としては、特に限定されないが、たとえば、粗化めっき層12を、
図2に示すような詳細構造を有するものとする方法が好適である。ここで、
図2に、本発明の一実施形態に係る粗化ニッケルめっき層121および亜鉛めっき層122から構成される粗化めっき層12の詳細な構造を示す模式図である。
図2に示すように、本発明の一実施形態に係る粗化めっき層12は、粗化ニッケルめっき層121として、複数のニッケル粒状物1210から構成される層と、このような複数のニッケル粒状物1210からなる粗化ニッケルめっき層121上に、複数のニッケル粒状物1210を覆うように、亜鉛めっき被膜1220(すなわち、亜鉛めっき層122)が形成されてなるものである。
【0022】
粗化めっき層12表面における、レーザー顕微鏡測定による、十点平均粗さRzjisは、3μm以上の範囲であればよいが、十点平均粗さRzjisは、好ましくは3~30μm、より好ましくは4~15μm、さらに好ましくは5~10μmである。十点平均粗さRzjisが3μm未満であると、粗化が不十分となり他の部材との密着性が確保できないものとなる。一方、十点平均粗さRzjisが30μm超であると、金属基材に対する粗化めっき層の密着性が悪化してしまう傾向にある。
【0023】
粗化めっき層12は、十点平均粗さRzjisが上記範囲にあればよいが、粗化めっき層12表面における、レーザー顕微鏡測定による、算術平均粗さRaが0.2~3.5μmであることが好ましく、より好ましくは0.4~2.0μm、さらに好ましくは0.4~1.1μmである。算術平均粗さRaが0.2μm未満であると、粗化が不十分となり他の部材との密着性が確保できなくなる場合がある。一方、算術平均粗さRaが3.5μm超であると、金属基材に対する粗化めっき層の密着性が悪化してしまう場合がある。
【0024】
また、粗化めっき層12は、粗化めっき層12表面の明度が、L*値で、83以下であることが好ましく、より好ましくは45~83、さらに好ましくは53~70、特に好ましくは58~70である。明度L*を、上記範囲とすることにより、粗化めっき板1を、他の部材との密着性により優れたものとすることができる。
【0025】
さらに、粗化めっき層12表面の85°光沢度は、好ましくは0.3~83であり、より好ましくは1~60、さらに好ましくは1~35、特に好ましくは4~35である。
【0026】
なお、本実施形態において十点平均粗さRz
jisに加えて、明度L
*と、85°光沢度とに着目する理由としては、以下の通りである。
たとえば、粗化めっき層12が、
図2に示すような詳細構造を有するものである場合には、一次粒子が集合した二次粒子(ニッケル粒状物1210)、および亜鉛めっき被膜1220(すなわち、亜鉛めっき層122)からなる突起状(柱状)の集合体が形成されることとなる。そして、このような構造においては、本発明者等の知見によると、粗化めっき層12の密度については、密度が高すぎると突起状間に樹脂などが入り込めず、密着性が確保できない場合があることや、密度が低すぎる場合には、一つ一つの集合体が細く折れやすくなり、金属基材11に対する、粗化めっき層12の密着性が低下するおそれがあること、さらには、集合体そのものが少なすぎてアンカー効果が必ずしも十分でなく、他の部材との密着性の向上効果が十分とならない場合があること等が見出された。
このような状況において、本発明者等がさらなる検討を行ったところ、粗化めっき層12の大きさや、形状、密度に関連するパラメータとして、十点平均粗さRz
jisに加えて、粗化めっき層12の明度L
*、さらには、85°光沢度に着目したところ、これらを特定の範囲とすることにより、他の部材に対する密着性や、粗化めっき層12自体の密着性のさらなる改善が可能となることを見出したものである。
【0027】
そして、本実施形態においては、明度L*を上記範囲とすることが好ましく、明度L*が高すぎると、粗化めっき層の密度が高く、突起状間に樹脂などの他の部材が入り込めず、他の部材との密着性が確保できなくなる場合がある。また、85°光沢度が0.3未満であると、粗化めっき層の密度が低く、一つ一つの集合体が細く折れやすく、金属基材に対する、粗化めっき層の密着性が低下する場合がある。一方、85°光沢度が83を超えると、粗化めっき層の密度が高く、突起状間に樹脂などの他の部材が入り込めず、他の部材との密着性が確保できなくなる場合がある。
【0028】
なお、粗化めっき層12自体の密着性(粗化めっき層12の金属基材11に対する密着性)をより高めることができるという観点からは、粗化めっき層12表面の算術平均粗さRaが、1.1μm以下であり、かつ、粗化めっき層12表面の明度が、L*値で、58以上であることが好ましい。これにより、粗化めっき層12自体の密着性(粗化めっき層12の金属基材11に対する密着性)をより高めることにより、他の部材と接着させて用いた際における信頼性および安定性をより高めることができる。
【0029】
粗化めっき層12を構成する粗化ニッケルめっき層121の付着量は、特に限定されないが、好ましくは0.4~14.0g/m2であり、より好ましくは0.8~9.0g/m2、さらに好ましくは0.8~6.0g/m2である。粗化ニッケルめっき層121の付着量を上記範囲とすることにより、粗化めっき板1を、他の部材との密着性により優れたものとすることができる。
【0030】
なお、粗化ニッケルめっき層121の付着量は、後述する下地金属めっき層13としての下地ニッケルめっき層が形成されていない場合には、得られた粗化めっき板1について蛍光X線装置を用いて総ニッケル量を測定することで求めることができ、一方、後述する下地金属めっき層13としての下地ニッケルめっき層が形成されている場合には、粗化めっき板1について蛍光X線装置を用いて総ニッケル量を測定した後、この総ニッケル量から、下地金属めっき層13としての下地ニッケルめっき層に相当するニッケル量の分を差し引くことで求めることができる。下地金属めっき層13としての下地ニッケルめっき層に相当するニッケル量は、たとえば、得られた粗化めっき板1を切断し、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察することで、下地金属めっき層13としての下地ニッケルめっき層の厚みを計測し、下地金属めっき層13としての下地ニッケルめっき層の厚みから換算されるニッケル量を求める方法や、鋼板上に下地金属めっき層13としての下地ニッケルめっき層を形成した時点における鋼板上のニッケル量を蛍光X線装置を用いて測定する方法や、鋼板に対してめっきにより下地金属めっき層13としての下地ニッケルめっき層を形成する際のクーロン量から算出される電析量から求める方法などが挙げられる。
【0031】
また、粗化めっき層12を構成する亜鉛めっき層122の付着量は、特に限定されないが、耐食性の観点から、好ましくは3g/m2以上であり、より好ましくは6g/m2以上であり、さらに好ましくは6~30g/m2、特に好ましくは6~21g/m2である。亜鉛めっき層122の付着量を上記範囲とすることにより、粗化めっき板1を、他の部材との密着性により優れたものとすることができる。
【0032】
なお、亜鉛めっき層122の付着量は、粗化ニッケルめっき層121の付着量の場合と同様に、蛍光X線装置を用いて測定することができ、粗化ニッケルめっき層121の付着量の場合と同様に、下地金属めっき層13としての下地亜鉛めっき層の有無に応じて、求めることができる。
すなわち、亜鉛めっき層122の付着量は、後述する下地金属めっき層13としての下地亜鉛めっき層が形成されていない場合には、得られた粗化めっき板1について蛍光X線装置を用いて総亜鉛量を測定することで求めることができ、一方、後述する下地金属めっき層13としての下地亜鉛めっき層が形成されている場合には、粗化めっき板1について蛍光X線装置を用いて総亜鉛量を測定した後、この総亜鉛量から、下地金属めっき層13としての下地亜鉛めっき層に相当する亜鉛量の分を差し引くことで求めることができる。下地金属めっき層13としての下地亜鉛めっき層に相当する亜鉛量も、下地ニッケルめっき層に相当するニッケル量を求める場合と同様に、断面観察から下地亜鉛めっき層の厚みを計測して換算する方法、下地亜鉛めっき層を形成した時点の亜鉛量を測定する方法、下地亜鉛めっき層を形成する際のクーロン量から算出する方法等により求めることができる。
【0033】
なお、粗化ニッケルめっき層121の付着量と、亜鉛めっき層122の付着量との割合は、特に限定されないが、他の部材との密着性をより高めるという観点から、「亜鉛めっき層122の付着量/(粗化ニッケルめっき層121の付着量+亜鉛めっき層122の付着量)」(すなわち、「Zn/(Ni+Zn)」)の割合で、好ましくは0.4~0.87、より好ましくは0.55~0.87、さらに好ましくは0.65~0.87である。
【0034】
なお、上述したように、粗化めっき層12表面の十点平均粗さRz
jisを3μm以上とするための好適な方法としては、粗化めっき層12を、
図2に示すような詳細構造を有するものとする方法が挙げられ、このような態様を有する粗化めっき層12は、たとえば、次の方法により製造することができる。すなわち、まず、金属基材11に、粗化ニッケルめっきを施すことにより、
図3に示すように、金属基材11上に、ニッケル粒状物1210を凝集させた状態で析出させ、これにより、複数のニッケル粒状物1210から構成される粗化ニッケルめっき層121を形成する。次いで、ニッケル粒状物1210を凝集させた状態で析出させた金属基材11に対し、亜鉛めっきを施すことにより、ニッケル粒状物1210を亜鉛めっき被膜1220により被覆することで、複数のニッケル粒状物1210から構成される粗化ニッケルめっき層121上に、亜鉛めっき被膜1220としての亜鉛めっき層122を形成することで、
図2に示すような詳細構造を有する粗化めっき層12を形成することができる。
【0035】
粗化ニッケルめっき層121を形成する際に、ニッケル粒状物1210を凝集させた状態で析出させるための粗化ニッケルめっきの条件としては、特に限定されないが、粗化めっき層12表面の十点平均粗さRzjisを上記範囲に好適に制御できるという観点より、硫酸ニッケル六水和物を10~100g/Lの濃度で含有し、かつ、硫酸アンモニウムを1~100g/Lの濃度で含有するめっき浴を用いた電解めっきによる方法が好ましい。用いるめっき浴中の硫酸ニッケル六水和物の濃度は、好ましくは10~60g/L、より好ましくは10~50g/L、さらに好ましくは10~40g/Lである。なお、ニッケルイオン供給源として、硫酸ニッケル六水和物に代えて塩化ニッケル六水和物を用いてもよいし、あるいは塩化ニッケル六水和物と硫酸ニッケル六水和物と併用してもよい。塩化ニッケル六水和物を用いる場合には、塩化ニッケル六水和物の濃度は、好ましくは10~60g/Lであり、より好ましくは10~50g/L、さらに好ましくは10~40g/Lである。なお、ニッケルイオン濃度および塩素イオン濃度が高くなると、十点平均粗さRzjisが所定の範囲となるような適切な粗化形状が得にくくなる場合があるため、塩化ニッケル六水和物を、硫酸ニッケル六水和物や塩化アンモニウムと併用する際には注意が必要である。また、めっき液中のアンモニアの供給源として硫酸アンモニウムを用いる場合は、用いるめっき浴中の硫酸アンモニウムの濃度は、好ましくは10~50g/L、より好ましくは10~45g/L、さらに好ましくは15~40g/Lである。なお、ニッケルめっき浴へのアンモニアの添加は、アンモニア水を添加してもよいし、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどの塩で添加してもよく、めっき浴中のアンモニア濃度は、好ましくは0.3~30g/L、より好ましくは1~20g/L、さらに好ましくは3~15g/L、特に好ましくは3~12g/L以下である。
【0036】
また、粗化ニッケルめっき層121を形成する際に、ニッケル粒状物1210を凝集させた状態で析出させるための粗化ニッケルめっきを行う際の、ニッケルめっき浴のpHは、粗化めっき層12表面の十点平均粗さRzjisをより好適に制御できるという観点より、好ましくは4.0~8.0である。pHが高すぎると浴中のニッケルイオンが水和物を形成してめっき不良の原因になりやすいため、上限はより好ましくは7.5以下、さらに好ましくは7.0以下である。pHが低いと浴抵抗が低くなってしまい、ニッケル粒子が二次粒子を形成した状態での析出が起こり難くなり、粗化していない通常の析出形態(平坦なめっき)となりやすく、そのため、粗化ニッケルめっき層を形成しにくくなるため、より好ましくは4.5以上、さらに好ましくは4.8以上、特に好ましくは5.0以上である。
【0037】
ニッケル粒状物1210を凝集させた状態で析出させるための粗化ニッケルめっきを行う際の電流密度は、粗化めっき層12表面の十点平均粗さRzjisをより好適に制御できるという観点より、好ましくは5~40A/dm2である。電流密度が高いと析出効率が低下しやすいほか、めっき処理範囲でのめっきムラ・表面粗度制御ムラが起きやすくなるため、特に100cm2以上の広い面積を確保するためには30A/dm2以下がより好ましく、さらに好ましくは25A/dm2以下であり、特に好ましくは20A/dm2以下である。電流密度が低いと、ニッケル粒子が二次粒子を形成した状態での析出が起こり難くなり、粗化していない通常の析出形態となりやすく、そのため、粗化ニッケルめっき層を形成しにくくなるため、電流密度は、10A/dm2以上であることがより好ましい。なお、本実施形態においては、粗化めっき層12表面の十点平均粗さRzjisをより好適に制御するという観点より、電流密度は、ニッケルめっき浴中のニッケルイオン濃度(後述する実施例ではめっき浴中の硫酸ニッケル六水和物(g/L)で制御)、ニッケルめっき浴の温度、ニッケルめっき浴のpH、ニッケルめっき浴中のアンモニア濃度、ニッケルめっき浴中のハロゲン原子濃度などに応じて制御することが好ましい。
【0038】
また、粗化ニッケルめっきを行う際のニッケルめっき浴の浴温は、特に限定されないが、粗化めっき層12表面の十点平均粗さRzjisをより好適に制御できるという観点より、好ましくは25~60℃、より好ましくは25~50、さらに好ましくは30~50℃である。
【0039】
本実施形態においては、ニッケル粒状物1210を凝集させた状態で析出させるための粗化ニッケルめっきを行う際には、ニッケルめっき浴を撹拌しながら、めっきを行うことが好ましい。ニッケルめっき浴を撹拌することにより、ニッケル粒状物1210を凝集させながら、金属基材11上に均一に析出させやすくなり、これにより、粗化めっき層12表面の十点平均粗さRzjisをより好適に制御できる。撹拌を行う方法としては、特に限定されないが、バブリング、ポンプ循環等の方法が挙げられる。バブリングの条件としては、ガスの種類は特に限定されないが、汎用性の面よりガスとして空気を用いることが好ましく、また、ガスを供給するタイミングとしては、安定的に撹拌するために連続通気が好ましい。
【0040】
そして、本実施形態の製造方法においては、粗化ニッケルめっきにより、ニッケル粒状物1210を凝集させた状態で析出させ、これにより、複数のニッケル粒状物1210からなる粗化ニッケルめっき層121を形成した後、さらに亜鉛めっきを施すことにより、ニッケル粒状物1210を亜鉛めっき被膜1220により被覆し、これにより、複数のニッケル粒状物1210から構成される粗化ニッケルめっき層121上に、亜鉛めっき被膜1220としての亜鉛めっき層122を形成する。ニッケル粒状物1210を亜鉛めっき被膜1220により被覆するための亜鉛めっきは、電解めっきまたは無電解めっきのいずれのめっき法で行ってもよいが、電解めっきにより形成することが好ましい。
【0041】
亜鉛めっきを電解めっき法により行う場合には、その方法は特に限定されないが、粗化めっき層12表面の十点平均粗さRzjisを上記範囲に好適に制御できるという観点より、硫酸亜鉛七水和物を10~400g/Lの濃度で含有し、かつ、硫酸アンモニウムを10~100g/Lの濃度で含有するめっき浴を用いた電解めっきによる方法が好ましい。用いるめっき浴中の硫酸亜鉛七水和物の濃度は、好ましくは50~300g/L、より好ましくは100~300g/L、さらに好ましくは200~300g/Lである。また、用いるめっき浴中の硫酸アンモニウムの濃度は、好ましくは10~50g/L、より好ましくは10~45g/L、さらに好ましくは15~40g/Lである。なお、ニッケルめっき浴へのアンモニアの添加は、アンモニア水を添加してもよいし、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどの塩で添加してもよい。
【0042】
亜鉛めっきを電解めっき法により行う場合における電流密度は、粗化めっき層12表面の十点平均粗さRzjisをより好適に制御できるという観点より、好ましくは1~60A/dm2であり、より好ましくは5~30A/dm2、さらに好ましくは10~20A/dm2である。また、亜鉛めっきを電解めっき法により行う場合における亜鉛めっき浴の浴温は、好ましくは25~70℃、より好ましくは30~60℃、さらに好ましくは40~60℃であり、亜鉛めっき浴のpHは、好ましくは1~6、より好ましくは1~3、さらに好ましくは1~2である。
【0043】
また、本実施形態においては、金属基材11と粗化めっき層12との密着性をより向上させるという観点より、金属基材11と粗化めっき層12との間、より具体的には、
図4に示すように、金属基材11と粗化めっき層12を構成する粗化ニッケルめっき層121との間に下地金属めっき層13を形成することが好ましい。ここで、
図4は、別の実施形態に係る粗化めっき板1aの構成を示す図であり、粗化めっき板1aは、金属基材11上に、下地金属めっき層13を備え、下地金属めっき層13上に、粗化ニッケルめっき層121と、亜鉛めっき層122とが、この順に形成されてなる粗化めっき層12を有するものである。このような下地金属めっき層13としては、ニッケルめっき層または亜鉛めっき層が好ましく、ニッケルめっき層であることがより好ましい。特に、粗化ニッケルめっき層121を構成する複数のニッケル粒状物1210は、粒子状析出物が突起状に凝集析出し集合体を成して存在する状態であり、他の部材との密着性の観点から各集合体同士の間は隙間を有することが好ましく、そのため、金属基材11の全体の表面を完全に覆っていない場合がある。そのため、たとえば、金属基材11として鋼板を用いた場合などにおいて、鋼板の錆の発生を抑制する効果を向上させるために、下地金属めっき層13を設けることが好ましい。なお、このような耐食性向上の効果を目的とし、用途に応じた金属基材11の選定と、それに応じた下地めっき処理を施すことが好ましく、金属基材11に鋼板や銅を用いる場合は、下地金属めっき層13として、下地ニッケルめっき層や下地銅めっき層を設けることが好ましい。なお、金属基材11が銅板である場合には、前処理に酸処理などを施すことによって、粗化めっき層12のめっき密着性をより高めることも可能である。
【0044】
下地金属めっき層13は、金属基材11上に、ニッケル粒状物1210を凝集させた状態で析出させるための粗化ニッケルめっきを行う前に、すなわち、複数のニッケル粒状物1210からなる粗化ニッケルめっき層121を形成する前に、予め金属基材11にめっきを施すことにより形成することができる。下地金属めっき層13を、ニッケルめっき層とする場合、電解めっきまたは無電解めっきのいずれのめっき法を用いて形成してもよいが、電解めっきにより形成することが好ましい。
【0045】
下地金属めっき層13を、ニッケルめっき層とする場合において、下地ニッケルめっき層を形成する方法として電解めっき法を用いる場合には、たとえば、ニッケルめっき浴として、硫酸ニッケル六水和物200~350g/L、塩化ニッケル六水和物20~60g/L、ほう酸10~50g/Lの浴組成のワット浴を用い、pH3.0~5.0、浴温40~70℃、電流密度5~30A/dm2(好ましくは10~20A/dm2)の条件でニッケルめっきを施し、その後、水洗する方法を用いることができる。また、下地金属めっき層13を、亜鉛めっき層とする場合において、下地亜鉛めっき層を形成する方法として電解めっき法を用いる場合には、上述した亜鉛めっき被膜1220(亜鉛めっき層122)と同様の条件で電解めっきを行う方法が挙げられる。
【0046】
以上のように、本発明の一実施形態によれば、
図3に示すように、粗化ニッケルめっきにより、金属基材11上に、ニッケル粒状物1210を凝集させた状態で析出させることで粗化ニッケルめっき層121を形成し、次いで、これに、亜鉛めっきを施すことにより、亜鉛めっき被膜1220としての亜鉛めっき層122を形成することで、
図2に示すような詳細構造を有する粗化めっき層12を形成することができるものであり、これらの形成条件を制御することにより、粗化めっき層12表面の十点平均粗さRz
jisを上記範囲とすることができるものである。
【0047】
以上のような本実施形態の粗化めっき板1によれば、優れた耐食性(特に、耐塩害性や、耐孔食性)を有し、かつ、他の部材に対して優れた密着性を示すものであるため、他の部材と接合させて用いられる用途、たとえば、樹脂(たとえば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、ポリプロピレン、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの各種樹脂や、これらの樹脂に、フィラーや強化繊維などを含有させた樹脂複合体など)や、様々な部材との密着性が求められる各種容器、建築用部材、電子機器部材(筐体、シールド部材、補強部材)、電池部材(外槽、集電体、タブリード)として好適に用いることができる。
【実施例0048】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
なお、各特性の評価方法は、以下のとおりである。
【0049】
<表面粗度>
粗化めっき板の粗化めっき層(粗化ニッケルめっき層および亜鉛めっき層)が形成された面について、JIS B0601:2013に準拠して、レーザー顕微鏡(オリンパス社製、型番:OLS3500)を用いて、97μm×129μm(縦×横)(測定視野幅129μm、測定面積約12,500μm2(12,500μm2±100μm2))の視野をスキャンした後、解析ソフト(ソフト名:LEXT-OLS)を用いて解析モード:粗さ解析の条件にて解析することにより、算術平均粗さRa、十点平均粗さRzjisを測定した。なお、レーザー顕微鏡により測定する際におけるカットオフ値は、測定視野幅(129μm)の1/3の長さである43μm程度(表示上は43.2μm)の波長とした。
【0050】
<粗化ニッケルめっき層の付着量、亜鉛めっき付着量>
粗化ニッケルめっき層の上に亜鉛めっき層を形成した後に、粗化めっき層を構成する粗化ニッケルめっきの付着量および粗化めっき層を構成する亜鉛めっきの付着量を、蛍光X線装置を用いて求めた。
なお、下地ニッケルめっき層または下地亜鉛めっき層を形成した実施例7,8,27,28,36,37においては、下地ニッケルめっき層または下地亜鉛めっき層を形成した工程後において蛍光X線装置による測定を行うことで、下地ニッケルめっき層または下地亜鉛めっき層の付着量を求め、これらの量を差し引くことで、粗化めっき層を構成する粗化ニッケルめっきの付着量および粗化めっき層を構成する亜鉛めっきの付着量を求めた。
【0051】
<明度L*>
粗化めっき層表面の明度L*を、分光測色計(製品名「CM-5」、コニカミノルタ社製)を使用して、JIS Z8722における幾何条件Cに準拠して、SCE方式(正反射光除去方式)にて測定した。
【0052】
<85°光沢度>
粗化めっき層表面の85°光沢度を、光沢計(製品名「VG 7000」、日本電色工業社製)を使用して、JIS Z8741に準拠して、測定した。なお、同じ測定器を用いて、60°光沢度を測定したところ、いずれの実施例(実施例1~32)においても、60°光沢度は、1.5未満であった。
【0053】
<樹脂密着性(180°ピール強度)>
所定サイズの型枠(SUS製)を用意し、この枠内体積に対し、材料体積が105~110%となるように粗化めっき板と樹脂板を重ねて枠内に配置した。次いで、材料が投入された型枠を離型剤を塗布したSUS板で挟んだ後、ホットプレス(G-12型フットポンプ式小型プレス(テクノサプライ社製)の上盤と下盤の間にセットした。
そして、以下の積層条件にて加熱と加圧を行い、金属と樹脂からなる積層板を作製した。
<積層条件>
1)予備加熱 ⇒ 温度:180~310℃、面圧:0.5MPa、保持時間:3分
2)プレス ⇒ 温度:180~310℃、面圧:5MPa、保持時間:7分
3)冷却/脱型 ⇒ 温度:70℃以下、面圧:5MPa
次に、作製した積層板を、幅20mm、長さ100mmの寸法に切断し、長さ方向の端部から40mmの位置まで金属を剥離させることで、180°ピール試験体を得た。次いで、得られた180°ピール試験体に対して、引張試験機にて引張試験を行い、剥離荷重(180°ピール強度)を測定した。尚、剥離強度は、ストローク25mm~75mmの荷重を平均し、それを試験体幅で除した値とした。
図6に、180°ピール試験体の概略を示す。
180°ピール強度が高いほど、樹脂との密着性に優れると判断できる。
なお、180°ピール強度の値は、実施例1~8、比較例1,12については、比較例2を1.0とした指数で表し、実施例9~28、比較例3,13については、比較例4を1.0とした指数で表した。同様に、実施例29は比較例5を1.0とした指数で、実施例30は比較例6を1.0とした指数で、実施例31は比較例7を1.0とした指数で、実施例32,36,37、比較例14は比較例8を1.0とした指数で、実施例33は比較例9を1.0とした指数で、実施例34は比較例10を1.0とした指数で、実施例35は比較例11を1.0とした指数で、それぞれ表した。
【0054】
<耐食性>
粗化めっき板を、50mm×130mmに切断し、切断面をシールにより被覆することで、短冊状の評価サンプルを得た。そして、短冊状の評価サンプルについて、35℃、98%の湿度条件にて、5重量%NaClを用いた塩水噴霧試験を72時間の条件にて行い、27時間経過後の評価サンプルについて、外観を目視により観察することで、以下の基準に従って、耐食性の評価を行った。なお、耐食性の評価は、実施例1,7,8、比較例1,2、実施例23,27,28、比較例3,4、実施例32,36,37、比較例8、比較例12~14について行った。
◎:目視上赤錆(点錆)発生無し
○:視認できる赤錆(点錆)がわずかに発生(十点未満レベル)
△:視認できる赤錆(点錆)が全体的に発生(数十点レベル)
×:全面に赤錆もしくは点状の極大赤錆が発生
【0055】
《実施例1》
基体として、低炭素アルミキルド鋼の冷間圧延板(厚さ0.1mm)を焼鈍して得られた鋼板を準備した。
【0056】
そして、準備した鋼板について、アルカリ電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記の浴組成の粗化ニッケルめっき浴を用いて、下記条件にて、電解めっき(粗化ニッケルめっき)を行うことで、鋼板の片面に、ニッケル粒状物を析出させることで、粗化ニッケルめっき層を形成した。
<粗化ニッケルめっき条件>
浴組成:硫酸ニッケル六水和物10g/L、塩化ニッケル六水和物10g/L、硫酸アンモニウム20g/L
pH:6.0
浴温:35℃
電流密度:15A/dm2
めっき時間:20.8秒間
【0057】
次いで、ニッケル粒状物を析出させた鋼板に対して、下記の浴組成の亜鉛めっき浴を用いて、下記条件にて電解めっき(亜鉛めっき)を行うことで、鋼板上に析出させたニッケル粒状物を、亜鉛めっき被膜により被覆させることにより、実施例1の粗化めっき板を得た。
<亜鉛めっき条件>
浴組成:硫酸亜鉛七水和物220g/L、硫酸アンモニウム30g/L
pH:2.0
浴温:55℃
電流密度:10A/dm2
めっき時間:47.0秒間
【0058】
そして、得られた粗化めっき板について、粗化ニッケルめっき層の付着量、亜鉛めっき層の付着量、粗化めっき層表面の十点平均粗さRzjis、算術平均粗さRa、ならびに、粗化めっき層表面の明度L*および85°光沢度の各測定を行った。結果を表1に示す。
【0059】
また、得られた粗化めっき板について、ナイロン6(PA6、厚さ1mm)の樹脂板を用いて、180°ピール試験体を作製し、得られた180°ピール試験体を用いて、樹脂密着性(180°ピール強度)の評価を行った。
具体的には、まず、得られた粗化めっき板と樹脂板(ナイロン6)を縦100mm、横100mmの寸法に切断し、粗化めっき板の粗化めっき層側が樹脂板と接合するように2つの材料を重ね合わせ、ホットプレスにて加熱・加圧を行うことで、積層板を作製した。
<積層条件>
1)予備加熱 ⇒ 温度:270℃、面圧:0.5MPa、保持時間:3分
2)プレス ⇒ 温度:270℃、面圧:5MPa、保持時間:7分
3)冷却/脱型 ⇒ 温度:70℃以下、面圧:5MPa
そして、得られた積層板から180°ピール試験体を作製し、上記した方法により、樹脂密着性(180°ピール強度)の評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
《実施例2~6、比較例1》
粗化ニッケルめっきのめっき時間(処理時間)および亜鉛めっきのめっき時間(処理時間)を表1に示す条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~6、比較例1の粗化めっき板および180°ピール試験体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
《実施例7》
鋼板について、アルカリ電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記の浴組成の下地ニッケルめっき浴を用いて、下記条件にて、電解めっきを行うことで、鋼板の両面に、厚さ1μmの下地ニッケルめっきを形成した後、この下地ニッケルめっき層上に、実施例1と同様にして、粗化ニッケルめっき層の形成、および、亜鉛めっき被膜による被覆を行い、実施例7の粗化めっき板を得るとともに、実施例1と同様にして、180°ピール試験体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
<下地ニッケルめっき条件>
浴組成:硫酸ニッケル六水和物250g/L、塩化ニッケル六水和物45g/L、ホウ酸30g/L
pH:4.2
浴温:60℃
電流密度:10A/dm2
【0062】
《実施例8》
鋼板について、アルカリ電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記の浴組成の下地亜鉛めっき浴を用いて、下記条件にて、電解めっきを行うことで、鋼板の両面に、厚さ1μmの下地亜鉛めっきを形成した後、この下地亜鉛めっき層上に、実施例1と同様にして、粗化ニッケルめっき層の形成、および、亜鉛めっき被膜による被覆を行い、実施例8の粗化めっき板を得るとともに、実施例1と同様にして、180°ピール試験体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
<下地亜鉛めっき条件>
浴組成:硫酸亜鉛七水和物220g/L、硫酸アンモニウム30g/L
pH:2.0
浴温:55℃
電流密度:10A/dm2
【0063】
《比較例2》
粗化ニッケルめっきを形成せずに、鋼板上に、直接、亜鉛めっきを行った以外は、実施例1と同様にして、めっき板および180°ピール試験体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0064】
《実施例9》
粗化ニッケルめっきのめっき時間(処理時間)および亜鉛めっきのめっき時間(処理時間)を表2に示す条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例9の粗化めっき板を得て、同様に評価を行った。そして、得られた粗化めっき板を用いたこと、樹脂板として、ナイロン6に代えて、エポキシ樹脂(EP、厚さ1mm)を使用したこと、および、ホットプレスにおける加熱温度を180℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、180°ピール試験体を得て、上記した方法により、樹脂密着性(180°ピール強度)の評価を行った。結果を表2に示す。
【0065】
《実施例10~26、比較例3》
粗化ニッケルめっきのめっき時間(処理時間)、亜鉛めっきのめっき時間(処理時間)、めっき浴、電流密度、pHおよび浴温を表2に示す条件に変更した以外は、実施例9と同様にして、実施例10~26、比較例3の粗化めっき板および180°ピール試験体を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0066】
《実施例27》
実施例7と同様にして、鋼板の両面に、厚さ1μmの下地ニッケルめっきを形成した後、この下地ニッケルめっき層上に、実施例23と同様にして、粗化ニッケルめっき層の形成、および、亜鉛めっき被膜による被覆を行い、実施例27の粗化めっき板を得るとともに、実施例9と同様にして、180°ピール試験体を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0067】
《実施例28》
実施例8と同様にして、鋼板の両面に、厚さ1μmの下地亜鉛めっきを形成した後、この下地亜鉛めっき層上に、実施例23と同様にして、粗化ニッケルめっき層の形成、および、亜鉛めっき被膜による被覆を行い、実施例28の粗化めっき板を得るとともに、実施例9と同様にして、180°ピール試験体を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0068】
《比較例4》
粗化ニッケルめっきを形成せずに、鋼板上に、直接、亜鉛めっきを行った以外は、実施例18と同様にして、めっき板および180°ピール試験体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0069】
《実施例29》
180°ピール試験体を得る際に、樹脂板として、ナイロン6に代えて、ナイロン66(PA66、厚さ1mm)を使用したこと、および、ホットプレスにおける加熱温度を280℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、180°ピール試験体を得て、上記した方法により、樹脂密着性(180°ピール強度)の評価を行った。結果を表3に示す。
【0070】
《実施例30》
180°ピール試験体を得る際に、樹脂板として、ナイロン6に代えて、ナイロン610(PA610、厚さ1mm)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、180°ピール試験体を得て、上記した方法により、樹脂密着性(180°ピール強度)の評価を行った。結果を表3に示す。
【0071】
《実施例31》
180°ピール試験体を得る際に、樹脂板として、ナイロン6に代えて、ナイロン12(PA12、厚さ1mm)を使用したこと、および、ホットプレスにおける加熱温度を240℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、180°ピール試験体を得て、上記した方法により、樹脂密着性(180°ピール強度)の評価を行った。結果を表3に示す。
【0072】
《実施例32》
180°ピール試験体を得る際に、樹脂板として、ナイロン6に代えて、ポリプロピレン樹脂(PP、厚さ1mm)を使用したこと、および、ホットプレスにおける加熱温度を200℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、180°ピール試験体を得て、上記した方法により、樹脂密着性(180°ピール強度)の評価を行った。結果を表3に示す。
【0073】
《実施例33》
180°ピール試験体を得る際に、樹脂板として、ナイロン6に代えて、ABS樹脂(ABS、厚さ1mm)を使用したこと、および、ホットプレスにおける加熱温度を240℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、180°ピール試験体を得て、上記した方法により、樹脂密着性(180°ピール強度)の評価を行った。結果を表3に示す。
【0074】
《実施例34》
180°ピール試験体を得る際に、樹脂板として、ナイロン6に代えて、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA、厚さ1mm)を使用したこと、および、ホットプレスにおける加熱温度を250℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、180°ピール試験体を得て、上記した方法により、樹脂密着性(180°ピール強度)の評価を行った。結果を表3に示す。
【0075】
《実施例35》
180°ピール試験体を得る際に、樹脂板として、ナイロン6に代えて、熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU、厚さ1mm)を使用したこと、および、ホットプレスにおける加熱温度を220℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして得られた粗化めっき板を用いて、実施例1と同様にして、180°ピール試験体を得て、上記した方法により、樹脂密着性(180°ピール強度)の評価を行った。結果を表3に示す。
【0076】
《実施例36》
180°ピール試験体を得る際に、樹脂板として、ナイロン6に代えて、ポリプロピレン樹脂(PP、厚さ1mm)を使用したこと、および、ホットプレスにおける加熱温度を200℃に変更したこと以外は、実施例7と同様にして、180°ピール試験体を得て、上記した方法により、樹脂密着性(180°ピール強度)の評価を行った。結果を表3に示す。
【0077】
《実施例37》
180°ピール試験体を得る際に、樹脂板として、ナイロン6に代えて、ポリプロピレン樹脂(PP、厚さ1mm)を使用したこと、および、ホットプレスにおける加熱温度を200℃に変更したこと以外は、実施例8と同様にして、180°ピール試験体を得て、上記した方法により、樹脂密着性(180°ピール強度)の評価を行った。結果を表3に示す。
【0078】
《比較例5~11》
180°ピール試験体を得る際に、樹脂板として、実施例29~35でそれぞれ使用した、ナイロン66の板(比較例5)、ナイロン610の板(比較例6)、ナイロン12の板(比較例7)、ポリプロピレン樹脂の板(比較例8)、ABS樹脂の板(比較例9)、ポリメチルメタクリレート樹脂の板(比較例10)、熱可塑性ポリウレタン樹脂の板(比較例11)を使用し、ホットプレスにおける加熱温度を各樹脂板に対応する温度とした以外は、比較例2と同様にして得られためっき板を用いて、比較例2と同様にして、180°ピール試験体を得て、上記した方法により、樹脂密着性(180°ピール強度)の評価を行った。結果を表3に示す。
【0079】
《比較例12》
鋼板について、アルカリ電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記の浴組成のニッケルめっき浴を用いて、下記条件にて、電解めっきを行うことで、鋼板の両面に、厚さ1μmのニッケルめっきを形成することで、ニッケルめっき板を得た。そして、得られたニッケルめっき板について、実施例1と同様にして評価を行うとともに、得られたニッケルめっき板を用いて、実施例1と同様にして、180°ピール試験体を得て、同様に評価を行った。結果を表4に示す。
<ニッケルめっき条件>
浴組成:硫酸ニッケル六水和物250g/L、塩化ニッケル六水和物45g/L、ホウ酸30g/L
pH:4.2
浴温:60℃
電流密度:10A/dm2
めっき時間:31.2秒間
【0080】
《比較例13》
180°ピール試験体を得る際に、樹脂板として、ナイロン6に代えて、エポキシ樹脂(EP、厚さ1mm)を使用したこと、および、ホットプレスにおける加熱温度を180℃に変更したこと以外は、比較例12と同様にして、180°ピール試験体を得て、上記した方法により、樹脂密着性(180°ピール強度)の評価を行った。結果を表4に示す。
【0081】
《比較例14》
180°ピール試験体を得る際に、樹脂板として、ナイロン6に代えて、ポリプロピレン樹脂(PP、厚さ1mm)を使用したこと、および、ホットプレスにおける加熱温度を200℃に変更したこと以外は、比較例12と同様にして、180°ピール試験体を得て、上記した方法により、樹脂密着性(180°ピール強度)の評価を行った。結果を表4に示す。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
表1~4から確認できるように、粗化ニッケルめっき層と、亜鉛めっき層とがこの順に形成されてなる粗化めっき層を備え、かつ、粗化めっき層表面の十点平均粗さRzjisが3μm以上である粗化めっき板によれば、いずれも各種樹脂に対する密着性に優れるものであった(実施例1~37)。
一方、粗化めっき層表面の十点平均粗さRzjisが、3μm未満である場合や、粗化めっき層を形成しない場合(すなわち、粗化ニッケルめっき層を形成せず、直接、亜鉛めっき層を形成した場合)には、各種樹脂に対する密着性に劣る結果となった(比較例1~11)。
また、粗化めっき層を形成しなかった場合にも、各種樹脂に対する密着性に劣る結果となった(比較例12~14)。
【0087】
さらに、粗化めっき層の下に、下地ニッケルめっき層を形成した場合には、樹脂密着性により優れ、かつ、耐食性に極めて優れるものであった(実施例7,27,36)。
また、粗化めっき層の下に、下地亜鉛めっき層を形成した場合には、耐食性に極めて優れるものであった(実施例8,28,37)。
なお、下地めっき層の有無にかかわらず、表面粗度および外観に極端な差はみられず、さらには、実施例1,実施例23,実施例32の結果より、他の実施例においても、優れた耐食性を実現できるものと考えることができる。
【0088】
なお、
図5(A)は、実施例1の粗化めっき板の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察して得た画像であり、
図5(B)は、実施例1の粗化めっき板の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察して得た画像であり、
図5(C)は、
図5(B)に示す断面について走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を行った際における、エネルギー分散型X線分光器(EDS)による亜鉛原子の分布を示す画像である。
図5(B)、
図5(C)の比較からも明らかなように、実施例1の粗化めっき層は、粗化ニッケルめっき層を形成する複数のニッケル粒状物の表面に、亜鉛めっき被膜(亜鉛めっき層)が形成されたものであり、そのため、亜鉛めっき被膜(亜鉛めっき層)の備える優れた耐食性を十分に発揮できるものであるといえる。なお、このことは、実施例1を含む実施例1~31のいずれにおいても同様であった。
また、
図5(B)、
図5(C)において、ニッケル粒状物の表面に、亜鉛めっき被膜(亜鉛めっき層)が形成されてなる突起状の粗化めっき層について、突起の根元の位置をベースとして、基材と、粗化めっき層との界面位置を判断したところ、このような界面を境に、粗化めっき層が良好に形成されていることが確認された。
【0089】
また、粗化めっき層12表面の算術平均粗さRaが1.1μm以下であり、かつ、粗化めっき層12表面の明度が、L*値で、58.5以上である実施例1,4,6~8,10,11,13,14,18~24,27~37について、下記評価方法により評価される粗化めっき層の密着性(粗化めっき層自体の金属基材に対する密着性)を評価したところ、いずれも、ΔE*ab=5未満と良好な結果であり、粗化めっき層の密着性にも優れるものであった。
以下に、粗化めっき層の密着性の評価方法を示す。
【0090】
<粗化めっき層の密着性>
まず、基準サンプルとして、粘着テープ(ニチバン社製、商品名「セロテープ(登録商標)」)を、台紙に貼り付けたものを準備し、分光測色計(製品名「CM-5」、コニカミノルタ社製)を使用して、明度L*、色度a*、b*を測定した。なお、測定に際しては、CIE1976L*a*b*色差モデルを用いた。
そして、実施例1,4,6~8,10,11,13,14,18~24,27~37で得られた粗化めっき板の粗化めっき層が形成された面に、粘着テープ(ニチバン社製、商品名「セロテープ」)を、幅24mm、長さ50mmの範囲となるように貼付した後、貼付した粘着テープによる剥離試験を、JIS H 8504に記載された引きはがし試験方法の要領で行った。そして、剥離試験後の粘着テープを、上記基準サンプルと同じ台紙に貼り付け、上記と同様にして、分光測色計を使用して、明度L*、色度a*、b*を測定した。そして、予め測定した、基準サンプルの明度L*、色度a*、b*の測定結果、および剥離試験後の粘着テープの明度L*、色度a*、b*の測定結果から、これらの差ΔE*ab(ΔE*ab=〔(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2〕1/2)を算出し、以下の基準に基づいて、粗化めっき層の密着性の評価を行った。なお、ΔE*abが小さいほど、剥離試験において剥離する量が少なく、つまり、剥離試験後の、粗化ニッケル層の残存率が高く、基材に対する密着性に優れると判断することができる。
金属基材の少なくとも一方の面に、前記金属基材側から、粗化ニッケルめっき層と、亜鉛めっき層とがこの順に形成されてなる粗化めっき層を備える粗化めっき板であって、
レーザー顕微鏡測定による、前記粗化めっき層表面の十点平均粗さRzjisが3μm以上であり、
前記粗化ニッケルめっき層の付着量が、0.4~14.0g/m
2
であり、
前記亜鉛めっき層の付着量が、3g/m
2
以上である、粗化めっき板。
前記金属基材が、Fe,Cu,AlおよびNiから選択される一種の純金属からなる金属板もしくは金属箔、または、Fe,Cu,AlおよびNiから選択される一種を含む合金からなる金属板もしくは金属箔である請求項1~7のいずれかに記載の粗化めっき板。