(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101086
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】座屈拘束ブレース
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20240722BHJP
【FI】
E04B1/58 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004807
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】梅田 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】木下 智裕
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA04
2E125AA14
2E125AA33
2E125AB08
2E125AC14
2E125AC24
2E125AG12
2E125CA05
(57)【要約】
【課題】芯材の面外変形により拘束材にブレース材軸まわりの曲げが生じた場合でも、木製の拘束部材の割れを防止して、高い座屈拘束力を維持できる座屈拘束ブレースを得る。
【解決手段】本発明に係る座屈拘束ブレース1は、鋼製の芯材3と、芯材3の周囲に配された木製の拘束材5からなり、芯材3は、長手方向で2種類以上の異なる断面を有しており、拘束材5は芯材3を挟むように配された2以上の木製材をボルト接合することで形成され、ボルト接合部17は、少なくともボルト19、ナット21、座金23で構成され、芯材3の両側面位置でブレース材軸方向全長にわたってボルト19が2列配されてなり、芯材3の弱軸方向まわりの座屈に対して抵抗するボルト接合部17について、芯材3の断面が大きい箇所に対応するボルト接合部17のボルト軸方向耐力が、芯材3の断面が小さい箇所に対応するボルト接合部17のボルト軸方向耐力よりも小さく設定されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製の芯材と、前記芯材の周囲に配された木製の拘束材とを備える座屈拘束ブレースであって、
前記芯材は、長手方向で2種類以上の異なる断面を有しており、
前記拘束材は前記芯材を挟むように配された2以上の木製材をボルト接合することで形成されており、
ボルト接合部は、少なくともボルト、ナット、座金で構成され、前記芯材の両側面位置でブレース材軸方向全長にわたって前記ボルトが2列配されてなり、
前記芯材の弱軸方向まわりの座屈に対して抵抗する前記ボルト接合部について、前記芯材の断面が大きい箇所に対応するボルト接合部のボルト軸方向耐力が、前記芯材の断面が小さい箇所に対応するボルト接合部のボルト軸方向耐力よりも小さいことを特徴とする座屈拘束ブレース。
【請求項2】
前記芯材の断面は、長手方向中央部よりも長手方向端部の方が大きいことを特徴とする請求項1記載の座屈拘束ブレース。
【請求項3】
前記芯材の弱軸方向まわりの座屈に対して抵抗する前記ボルト接合部のボルト軸方向耐力が相対的に小さい長手方向範囲において、前記拘束材に長手材軸周りの曲げに対する補強部材が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項4】
前記拘束材に設けられる補強部材の曲げ耐力が下記式を満足することを特徴とする請求項3記載の座屈拘束ブレース。
Mre≧PBe(2uBe-Bs)/4
ここで、Mre:前記補強部材のブレース長手材軸まわりの曲げ耐力[N・mm]
PBe:前記芯材の弱軸方向まわりの座屈に対して抵抗する前記ボルト接合部のボルト軸方向耐力[N]
uBe:2列で設けられたボルト接合部の列間長さ[mm]
Bs:芯材の弱軸方向幅[mm]
【請求項5】
前記芯材の弱軸方向まわりの座屈に対して抵抗する前記ボルト接合部のボルト軸方向耐力が相対的に大きい長手方向範囲において、前記拘束材に長手材軸周りの曲げに対する補強部材が設けられており、該補強部材の曲げ耐力が、前記ボルト接合部のボルト軸方向耐力が相対的に小さい長手方向範囲に設けられた前記補強部材の曲げ耐力以下であることを特徴とする請求項3記載の座屈拘束ブレース。
【請求項6】
前記芯材が平鋼で構成され、長手方向中央部の断面が矩形状で、長手方向端部の断面が十字形状であり、
前記拘束材に用いられる前記木製部材が複数の平板状の木片を接着することで形成され、前記木片が厚さ方向に積層され、前記木片の幅方向が前記芯材の平鋼の幅方向と直交する向きに配されていることを特徴とする請求項1又は2記載の座屈拘束ブレース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製の芯材と、芯材の周囲に配された木製の拘束材からなる座屈拘束ブレースに関する。
【背景技術】
【0002】
建築物では地震時のせん断力に抵抗する部材として、ブレースを設けることがある。ブレースは柱と梁の架構面内に斜め方向に設けられ、主に地震荷重により生じる層のせん断変形に抵抗する部材である。
地震時において軸方向の引張、圧縮荷重が繰り返し作用するため、ブレースには両荷重に対して十分な耐力やエネルギー吸収能力を有することが要求される。
【0003】
一般に、軸方向の圧縮荷重が作用する場合、部材には座屈が生じる恐れがあり、座屈が生ずることで部材の耐力・変形能力が低下する。
ブレースにおいても座屈による耐力やエネルギー吸収能力の低下が生じうるため、地震荷重に対して抵抗する芯材と、芯材の座屈変形を抑えるために芯材の周囲を覆うように配される拘束材からなる座屈拘束ブレースが存在する。
図15、
図16はこのような座屈拘束ブレース31を柱33と梁35で構成された架構面内に配設したものを示している。
【0004】
拘束材は芯材の座屈による曲げ変形に対して十分な耐力を有することが要求され、また芯材の座屈変形による局所圧縮力に対して拘束材または拘束材の接合部が十分な耐力を有することが要求される。
図17は、芯材37と拘束材39からなる座屈拘束ブレース31の断面図であり、従来の芯材37の断面形状としては、プレート(
図17(a)参照)、円形(
図17(b)参照)、十字(
図17(c)参照)、H形(
図17(d)参照)等があり、また芯材37を覆う拘束材39は箱形(
図17(a)、(c)(d)参照)や円形(
図17(b)参照)が多い。
【0005】
芯材37の座屈変形による局所圧縮力は、芯材37に作用する圧縮荷重と芯材の座屈変形量に比例するため、拘束材39と芯材37の隙間が大きいほど拘束材39に要求される耐力が高くなる。そのため、拘束材39と芯材37の隙間にモルタルなどの充填材41を設けるものもある(
図17(a)参照)。
また拘束材39に芯材37の軸力が流れないよう、アンボンド材43を塗布、または貼り付けたりするものもある(
図17(a)参照)。
【0006】
座屈拘束ブレース31の両端部と架構との接合部に関しては、
図15に示すボルトによって接合するボルト接合部45とするタイプと、
図16に示すピンによって接合するピン接合部47とするタイプがある。
いずれも接合部近辺の芯材37の幅を大きくする、強度の高い鋼材を用いる、補強リブを設けるなどして、芯材の耐力を高くして塑性化を防ぎ、接合部は先行して破壊しない仕様となっている。また、拘束材39が鋼製のため芯材37との接触による局所破壊は生じにくい仕様となっている。
【0007】
一方、昨今CO2排出問題から木材の利用が推進されている。木材は火災時に焼失してしまうため、不燃処理等により耐火性を付与して建物の柱や梁に使用されることがある。加えて鋼構造においても床スラブなど一部で木材を利用するケースがあり、昨今ではブレースの拘束材としての木材使用が検討されている。
【0008】
特許文献1において、鋼製でプレート状の芯材と、芯材の広幅面の両面に配された一対の木製の拘束材からなり、両者が軸方向の両端においてボルト接合されている座屈拘束ブレースが提案されている。
また、特許文献1には、H形断面の芯材のウェブの両面を挟むような一対の木製の拘束材を配した座屈拘束ブレースも提案されている。
【0009】
特許文献2では、鋼製でプレート状の芯材と、芯材の広幅面の両面に配された一対の木製の拘束材と、芯材の狭幅面の両面に配されて前記拘束板と接合されている一対の木製の側板からなる座屈拘束ブレースが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2019-214881号公報
【特許文献2】特開2020-51186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1、2に開示された座屈拘束ブレースは、いずれも木製の拘束材をボルトで接合している。
芯材が座屈する際、拘束材が芯材に押されることでボルト接合部には引張力が作用する。その際、ボルト接合部(ボルト接合部周辺の木材もしくはボルト)が破壊することで所定の座屈拘束効果が得られない恐れがある。特に、木材は弾性係数が低いためボルト接合部の木材が局所的に変形し、その結果芯材の座屈変形が増大して局所圧縮力も大きくなる恐れがある。
【0012】
したがって、ボルト接合部に所定の性能が要求されるが、特許文献1、2においては必要な性能については言及されていない。
また、芯材が座屈する際、拘束材が芯材に押されることでボルト接合部には引張力が、拘束材には長手材軸まわりの曲げが作用する。その際に拘束材が曲げ破壊することで所定の座屈拘束効果が得られない恐れがある。
【0013】
以上の通り、木材の利用が推進されている中、木材をブレースの拘束材として利用する構造が提案されている。
しかしながら、特許文献1、2においては拘束材の曲げ破壊防止については十分な考慮が成されていないため、拘束材が破壊する可能性がある。木製の拘束材が破壊した場合、座屈拘束効果が急激に低下するため、木製の拘束部材が十分な拘束効果を発揮するには木材の破壊を防止する必要がある。
【0014】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、芯材の面外変形によって拘束材にブレース材軸まわりの曲げが生じた場合でも、木製の拘束部材の割れを防止して、高い座屈拘束力を維持できる座屈拘束ブレースを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)本発明に係る座屈拘束ブレースは、鋼製の芯材と、前記芯材の周囲に配された木製の拘束材とを備え、
前記芯材は、長手方向で2種類以上の異なる断面を有しており、
前記拘束材は前記芯材を挟むように配された2以上の木製材をボルト接合することで形成されており、
ボルト接合部は、少なくともボルト、ナット、座金で構成され、前記芯材の両側面位置でブレース材軸方向全長にわたって前記ボルトが2列配されてなり、
前記芯材の弱軸方向まわりの座屈に対して抵抗する前記ボルト接合部について、前記芯材の断面が大きい箇所に対応するボルト接合部のボルト軸方向耐力が、前記芯材の断面が小さい箇所に対応するボルト接合部のボルト軸方向耐力よりも小さいことを特徴とするものである。
【0016】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記芯材の断面は、長手方向中央部よりも長手方向端部の方が大きいことを特徴とするものである。
【0017】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記芯材の弱軸方向まわりの座屈に対して抵抗する前記ボルト接合部のボルト軸方向耐力が相対的に小さい長手方向範囲において、前記拘束材に長手材軸周りの曲げに対する補強部材が設けられていることを特徴とするものである。
【0018】
(4)また、上記(3)に記載のものにおいて、前記拘束材に設けられる補強部材の曲げ耐力が下記式を満足することを特徴とするものである。
Mre≧PBe(2uBe-Bs)/4
ここで、Mre:前記補強部材のブレース長手材軸まわりの曲げ耐力[N・mm]
PBe:前記芯材の弱軸方向まわりの座屈に対して抵抗する前記ボルト接合部のボルト軸方向耐力[N]
uBe:2列で設けられたボルト接合部の列間長さ[mm]
Bs:芯材の弱軸方向幅[mm]
【0019】
(5)また、上記(3)に記載のものにおいて、前記芯材の弱軸方向まわりの座屈に対して抵抗する前記ボルト接合部のボルト軸方向耐力が相対的に大きい長手方向範囲において、前記拘束材に長手材軸周りの曲げに対する補強部材が設けられており、該補強部材の曲げ耐力が、前記ボルト接合部のボルト軸方向耐力が相対的に小さい長手方向範囲に設けられた前記補強部材の曲げ耐力以下であることを特徴とするものである。
【0020】
(6)また、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載のものにおいて、前記芯材が平鋼で構成され、長手方向中央部の断面が矩形状で、長手方向端部の断面が十字形状であり、
前記拘束材に用いられる前記木製部材が複数の平板状の木片を接着することで形成され、前記木片が厚さ方向に積層され、前記木片の幅方向が前記芯材の平鋼の幅方向と直交する向きに配されていることを特徴とするものである
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、芯材の面外変形によって木製の拘束材にブレース材軸まわりの曲げが生じた場合でも、拘束部材の割れを防止することができ、高い座屈拘束力を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施の形態に係る座屈拘束ブレースの説明図であり、
図1(a)は座屈拘束ブレースを
図2(a)の矢視A-A方向から見た状態で内部を透視して示したものであり、
図1(b)は
図1(a)の矢視B-B図である。
【
図2】実施の形態に係る座屈拘束ブレースの説明図であり、
図2(a)は
図1(a)の矢視C-C断面図、
図2(b)は
図1(a)の矢視D-D断面図である。
【
図3】拘束材の他の態様の説明図である(その1)。
【
図4】拘束材の他の態様の説明図である(その2)。
【
図5】芯材の座屈によって作用する拘束材のブレース材軸まわりの曲げモーメントの説明図である。
【
図6】芯材の座屈によって作用する荷重と拘束材の破壊の発生箇所を示す図である。
【
図7】実施の形態において補強部材の設け方の説明図である(その1)。
【
図8】実施の形態において補強部材の設け方の説明図である(その2)。
【
図9】実施例で用いた座屈拘束ブレースの試験体の全体を示す図である。
【
図10】
図9に示した試験体の断面を示す図である。
【
図11】実施例における比較例の荷重変形関係を示すグラフである。
【
図12】実施例における発明例の荷重変形関係を示すグラフである。
【
図13】実施例における比較例の試験後の状態を示す写真である。
【
図14】実施例における発明例の試験後の状態を示す写真である。
【
図15】架構面内に設置される一般的な座屈拘束ブレースの説明図である(その1)。
【
図16】架構面内に設置される一般的な座屈拘束ブレースの説明図である(その2)。
【
図17】一般的な座屈拘束ブレースの芯材と拘束材の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本実施の形態に係る座屈拘束ブレース1について、
図1、
図2に基づいて説明する。
図1(a)は座屈拘束ブレース1の内部構造を説明する説明図であり、
図2の矢視A-A方向から見た状態を透視して内部を示したものである。
また、
図1(b)は、
図1(a)の矢視B-B方向から見た状態を示す図である。
さらに、
図2(a)は、
図1(a)の矢視C-C断面に相当する図であり、
図2(b)は、
図1(a)の矢視D-D断面に相当する図である。
【0024】
本実施の形態に係る座屈拘束ブレース1は、
図1、
図2に示すように、鋼製の芯材3と、芯材3の周囲に配された木製の拘束材5とを備えるものである。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0025】
<芯材>
芯材3の長手方向最端部は鉄骨架構との接合部6となっており、本例のように高力ボルト形式の場合はボルト穴7が設けられている。また、ピン接合形式の場合はクレビスが芯材長手方向端部に設けられる。接合部6は塑性化させないことが多く、接合部6に断面サイズを上げるもしくは高強度の鋼材を用いてもよい。
【0026】
芯材長手方向で断面が変化しており少なくとも2種類以上の異なる断面形状を有している。
断面形状を異ならせる場合としては、塑性化範囲の調整や一部範囲を塑性化させないよう、芯材3の一部で幅や板厚を上げたり、補強リブ13を設けたりする場合などが該当する。
本実施の形態では、芯材3の長手方向中央部を塑性化部9、長手方向端部側を塑性化防止部11とするために、長手方向端部側の芯材断面を大きくしている。
具体的には、芯材3に平鋼を用い、芯材長手方向中央側の塑性化部9は平鋼のままのプレート状断面で、芯材長手方向端部側の塑性化防止部11は平鋼に補強リブ13を設けた十字断面となっている。
端部側の塑性化を防止することで座屈長さが短くなり座屈拘束ブレース1の座屈耐力を高くすることができる。
【0027】
<拘束材>
拘束材5は芯材3を挟むように配された2以上の木製材をボルト接合して形成されている。
拘束材5は芯材3の曲げ変形及び局部座屈に対して十分な耐力・剛性となるよう強度とサイズを調整する必要がある。
【0028】
芯材3は弱軸まわりに構面外変位を生じやすいため、木製の拘束材5が2つの場合は弱軸周りの変形を抑える側に拘束材5を配し(
図2参照)、拘束材5が4つの場合は4方向に木製の拘束材5を配することが望ましい(
図4参照)。
また、細かい部材を含めると6つ以上の拘束材5から形成されてもよい(
図4参照)。
【0029】
拘束材5には、芯材3の断面形状に合わせた溝15が形成され、これによって芯材3全体を覆うことができるようになっている。
芯材3の塑性化防止部11は前述の通り芯材断面形状を大きくしているため、その分拘束材5に設けられる溝15は塑性化部9より大きくなり、拘束材5のブレース材軸まわりの曲げ耐力は塑性化部9より小さくなっている。
本発明では、このように曲げ耐力が小さくなった拘束材5の部位が芯材3の座屈時に曲げ破壊することがないようにするため、当該部位に対応するボルト接合部17のボルト軸方向耐力を塑性化部9のボルト接合部17より小さくしている。詳細は後述する。
【0030】
また、木製の拘束材5にはボルト接合用のボルト孔や座繰りが設けられている。ボルト孔は一般にボルト径より1、2mm大きい径となっている。芯材3の座屈しやすい方向は芯材3の断面形状に依存するが、芯材3が座屈しやすい方向とボルト材軸方向が一致するようにボルト接合部17の向きを調整する。
【0031】
木製材には製材の他に、集成材、LVL、CLTなどの木質材料を用いてもよい。芯材3の形状初期不正を考慮して、溝15のサイズは芯材3の断面形状よりも少し大きくしておいてもよい。
【0032】
<ボルト接合部>
ボルト接合部17は、少なくともボルト19、ナット21、座金23で構成され、芯材3の両側面位置でブレース材軸方向全長にわたってボルト19が2列配されている。
座金23は四角形、円形などの鋼板を使用し、ボルト接合部17の狙いの耐力に合わせてそのサイズを調整する。また、ばねワッシャーなどナット21の緩み止めを設けてもよい。ボルト19は芯材3に干渉しないよう、芯材3の両側面位置で各1列、計2列設けられる。芯材3の座屈は全長にわたって生じうるため、ボルト接合部17のブレース材軸方向全長にわたって設けられる。
【0033】
芯材3の弱軸方向まわりの座屈に対して抵抗するボルト接合部17について、芯材3の断面が大きい箇所に対応するボルト接合部17のボルト軸方向耐力を、芯材3の断面が小さい箇所に対応するボルト接合部17のボルト軸方向耐力よりも小さく設定している。
本実施の形態では、前述したように、芯材3の長手方向中央部を塑性化部9、長手方向端部側を塑性化防止部11としている。このため、長手方向端部側の芯材断面が相対的に大きいので、当該部分のボルト軸方向耐力を、長手方向中央側の塑性化部9のボルト接合部17より小さく設定している。
このようにしている理由を以下に説明する。
【0034】
芯材3がプレート状の場合、芯材3は板厚方向に座屈が生じやすく、芯材3が扁平した断面形状の場合、幅が小さい方向に座屈が生じやすい。芯材3の座屈により拘束材5が押された際、芯材3の両側面にあるボルト19が抵抗するため、拘束材5にはボルト部分を支点、芯材接触部分を載荷点としたブレース材軸まわりの曲げが生じる。
そのため拘束材5に耐力以上の曲げモーメントが作用した際、拘束材5が破壊し十分な座屈拘束効果が得られない恐れがある。
【0035】
拘束材5に作用する曲げモーメントにはボルト接合部17の反力が影響するため、ボルト接合部17の耐力を下げることで拘束材5に作用する曲げモーメントの増大を抑え拘束材5の曲げ破壊を防止することができる。つまり、拘束材5のブレース材軸まわりの曲げ耐力に合わせてボルト接合部17の耐力を変えることが望ましい。
【0036】
拘束材5の曲げ耐力には拘束材5の断面形状が影響し、拘束材5の断面形状は芯材3の断面形状に合わせた溝15が影響するため、芯材3の断面形状が長手方向範囲で変化する場合、それに合わせてボルト接合部17の耐力を変化させることで拘束材5の曲げ破壊を防止することができる。
なお、ボルト接合部17の耐力はボルト19の引張耐力もしくはボルト接合部17の木材のめり込み耐力で決まるため、ボルト径、ボルト強度、木材強度、めり込み部の接触面積によって調整することができる。
【0037】
次に、芯材3の弱軸方向まわりの座屈に対して抵抗するボルト接合部17のボルト軸方向耐力の上限について説明する。
拘束材5の曲げ破壊を防止する観点でボルト接合部17の耐力を小さくしているため、ボルト接合部17の耐力上限は拘束材5の曲げ耐力に依存することになる。
芯材3が座屈すると芯材弱軸方向まわり面外変形が生じる。この面外変形によって木製の拘束材5には芯材3との接触部に分布荷重が作用し、それに抵抗するようにボルト19には引張力が作用する。
【0038】
この荷重により、拘束材5には
図5に示すようなブレース材軸まわりの曲げモーメント分布が生じる。
図6に示すように補強リブ13などにより溝15が設けられた部分が拘束材5にある場合、この部分の曲げ耐力は他の部分より低くなっており、前述のブレース材軸まわりの曲げによって当該部分に曲げ破壊部25が発生する危険性がある。
【0039】
ボルト19の反力と芯材3の座屈による分布荷重はつりあっているため、芯材3の座屈による分布荷重は下記式で表される。
Ws=2PBe/Bs
ここで、Ws:ボルトピッチ長さあたり芯材の座屈による分布荷重[N/mm]
PBe:ボルト接合部の反力[N]
Bs:芯材の弱軸方向幅[mm]
【0040】
単純支持されたはりの中間に分布荷重が作用している場合の曲げモーメント最大値M
maxは下記の公式で求められる。
M
max=RA(a+RA/2w)
ここで、RA:一方の支点(A点とする)の反力[N]
a:A点から分布荷重作用端までの距離[mm]
w:作用している分布荷重[N/mm]
上記の公式に、RA=P
Be、a=(u
Be-B
s)/2、w=Ws=2P
Be/B
sを代入することで、
図5に示す曲げモーメントの最大値M
maxは下記式で表される。
M
max=P
Be(2u
Be-B
s)/4
ここで、P
Be:ボルト接合部の反力[N]
u
Be:2列で設けられたボルト接合部の列間長さ[mm]
B
s:芯材の弱軸方向幅[mm]
拘束材5の曲げ耐力M
Weが曲げモーメント最大値M
max以上であれば、すなわちM
We≧M
maxを満たせば拘束材5の曲げ破壊は生じえない。
よって、M
We≧P
Be(2u
Be-B
s)/4
上式をP
Beで整理することで、P
Beの上限値は下式のように示される。
P
Be≦4M
we/(2u
Be-B
s)
ここで、P
Be:前記芯材の弱軸方向まわりの座屈に対して抵抗する前記ボルト接合部のボルト軸方向耐力[N]
M
We:前記木製部材のブレース長手材軸まわりの曲げ耐力[N]
u
Be:2列で設けられたボルト接合部の列間長さ[mm]
B
s:芯材の弱軸方向幅[mm]
以上のように、ボルト接合部17分を支点、芯材3と接触する拘束材幅中央側を載荷点と捉えた場合、ボルト接合部17の耐力を上式に示す上限以下に抑えることで拘束材5の曲げ破壊を防止することができる。
【0041】
本実施の形態では、芯材3の断面が大きい箇所に対応するボルト接合部17のボルト軸方向耐力を、芯材3の断面が小さい箇所に対応するボルト接合部17のボルト軸方向耐力よりも小さく設定しているので、木製の拘束材5の破壊を抑制でき、高い座屈拘束効果が期待できる。
【0042】
以下、拘束材5の他の態様について説明する。
拘束材5として複数の木片を接着して形成される木製部材、いわゆる集成材を用いた場合、芯材3である平鋼の幅方向と木片の幅方向、すなわち集成材の幅方向が直交する向きに集成材を配するのが好ましい。
【0043】
芯材3が平鋼の場合、芯材3は板厚方向に座屈しやすいため拘束材5は平鋼の幅面に対向する位置に設けられ、芯材幅方向に大きい木製材が必要となる。
集成材は平板状の木片を高さ方向に接着して形成されるため、高さ方向の寸法調整が容易であることから、集成材の高さ方向が平鋼の幅方向と一致するように配することで、芯材幅方向に大きい木製材の製造が容易となる。
【0044】
芯材3の弱軸方向まわりの座屈に対して抵抗するボルト接合部17のボルト軸方向耐力が相対的に小さい拘束材5における長手方向範囲において、長手材軸周りの曲げに対する補強部材27を設けるようにしてもよい。
【0045】
拘束材5の曲げ破壊はボルト接合部17の耐力を下げることで防止することができるが、一方でボルト接合部17の耐力が低すぎると拘束材5を構成する木製部材が乖離し、芯材3の座屈変形を抑えられなくなる恐れがある。
そのため、ボルト接合部17の耐力をある程度確保しておく必要があり、その耐力が拘束材5の曲げ破壊を生じうるレベルであった場合は、拘束材5の方を補強し曲げ破壊を防止する必要がある。
【0046】
補強部材27としては鋼板、鋼棒、ボルト19などを用いることができる。
図7は、補強部材27として鋼板を拘束材5の表面に取り付けた例であり、
図8は補強部材27としてボルト19(
図8(c)参照)や棒鋼(
図8(b)参照)を木製の拘束材5の中を通した例である。
補強部材27として鋼板を用いた場合、
図7に示すように、補強部材27を拘束材5に釘やねじ等の留付け材29で接合することで、ブレース材軸まわりの曲げに抵抗できるようになる。また、ねじ接合に代えて接着接合してもよい。
【0047】
拘束材5に生じるブレース材軸まわりの曲げモーメントはボルト耐力の影響を受けることから、補強部材27に必要な曲げ耐力もボルト耐力で規定することができる。
すなわち、補強部材27については、その曲げ耐力が曲げモーメント最大値以上であれば拘束材5の曲げ破壊を防止するだけの十分な耐力を保持していることになる。
よって、Mre≧Mmax
Mre≧PBe(2uBe-Bs)/4
ここで、Mre:補強部材のブレース長手材軸まわりの曲げ耐力[N]
PBe:芯材の弱軸方向まわりの座屈に対して抵抗するボルト接合部のボルト軸方向耐力[N]
uBe:2列で設けられたボルト接合部の列間長さ[mm]
Bs:芯材の弱軸方向幅[mm]
【0048】
上記では、拘束材5のブレース材軸まわりの曲げ破壊防止のための補強部材27を、ボルト接合部17のボルト軸方向耐力が相対的に小さい拘束材5における長手方向所定の範囲、具体的には長手方向端部に設けるものであった。
しかし、拘束材5に比べて芯材3の断面形状が大きく、強度も高い場合、拘束材5の断面形状が相対的に大きい範囲でもブレース材軸まわりの曲げ破壊は生じうる。この場合、拘束材5の断面形状が相対的に大きい範囲にも補強部材27を設けることで曲げ破壊を防止し高い座屈拘束効果が得られる。
【0049】
この場合、拘束材5の断面形状が相対的に大きい範囲では拘束材5のブレース材軸まわりの曲げ耐力が拘束材5の断面形状が相対的に小さい範囲に比べて大きいため、設ける補強部材27は拘束材5の断面形状が相対的に小さい範囲の補強部材27以下の曲げ耐力でも十分な効果が得られる。
【0050】
なお、
図4に示すような芯材3の弱軸方向、つまり芯材3の弱軸方向まわりの座屈に対して抵抗するボルト19と直交方向に配されたボルト19は、拘束材5の組立の他に補強部材27としても機能するため、兼用することができる。
【実施例0051】
座屈拘束ブレース1の試験体を対象に繰返し載荷実験を行い、本発明の効果を確認したので、以下説明する。
試験体30は、
図9、
図10に示すように、塑性化部9がプレート断面、塑性化防止部11が十字断面の芯材3を、4本の木材で補剛した座屈拘束ブレース1で、芯材3の弱軸まわりの座屈を防止するために芯材プレート板厚方向にボルト19を2列でブレース全長にわたって設けたものである。
また、芯材3の板幅面に対向する位置にある木材の長手方向ずれ止めとしてドリフトピンと鋼板による接合を併用している。
比較例としてNo.1試験体と、発明例としてNo.2試験体を用いた。詳細を表1に示す
【0052】
【0053】
No.1試験体は長手方向端部側の塑性化防止部11にもボルト19を設けており、No.2試験体は塑性化防止部11にはボルト19を設けていない。
【0054】
載荷はブレースの軸方向に引張圧縮の繰返し載荷荷重を加えるものとし、芯材塑性化部9の平均ひずみを基準に各振幅2サイクル繰り返しながら0.5%ずつ振幅を漸増させる漸増振幅繰返し載荷とした。
【0055】
図11、
図12に実験の荷重変形関係を示す。
No.1試験体は、
図11に示すように、0.5%、1.0%の2サイクルを経て、ひずみ振幅1.5%の1サイクル目圧縮時に拘束材5が破壊し、荷重が低下した。
【0056】
No.2試験体では、
図12に示すように、0.5%、1.0%、1.5%、2.0%の2サイクルを経て、ひずみ振幅2.5%の1サイクル目圧縮時に拘束材5が破壊し荷重が低下しており、No.1試験体より高い塑性変形能力を発揮した。
【0057】
図13、
図14に実験後の試験体30の状況を示す。
No.1試験体では、
図13に示すように、塑性化防止部11の十字断面部で曲げ破壊部25が発生して木材が破壊している。これは
図6(b)に示したものと同様の破壊であり、この破壊によって座屈拘束効果が消失し、荷重が低下した。
【0058】
一方、No.2試験体では、
図14に示すように、塑性化防止部11の木材での破壊は生じていない。これは塑性化防止部11のボルト19を設けていないため、
図5に示すような曲げモーメントがそもそも生じていないためである。
よって、拘束材5のブレース材軸まわりの曲げ破壊にボルト19が大きく影響していることが本実験によって示され、木材の破壊を防止することで高い座屈拘束効果が得られることを確認した。