(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101099
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】回転機器
(51)【国際特許分類】
F16C 33/58 20060101AFI20240722BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240722BHJP
F04D 29/056 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C19/06
F04D29/056 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004827
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】飯野 朗弘
(72)【発明者】
【氏名】小坂 貴之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 春彦
【テーマコード(参考)】
3H130
3J701
【Fターム(参考)】
3H130AA13
3H130AB26
3H130AB42
3H130AC30
3H130BA24E
3H130DA02Z
3H130DB01X
3H130DD01Z
3H130EA01E
3H130EB01E
3H130EC06E
3H130ED04E
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA56
3J701FA35
3J701GA28
(57)【要約】
【課題】転がり軸受のクリープを抑制できる回転機器を提供する。
【解決手段】ファンモータは、互いに同軸に配置された内輪および外輪20、並びに内輪と外輪との間に配置された転動体を有し、内輪および外輪20のそれぞれが軸方向の外側を向く端面6を有する転がり軸受1と、内輪および外輪20のうち一方の軌道輪5の端面6に接触する接触部140と、を備える。端面6は、凹凸構造60を有する。端面6の硬度は、接触部140の硬度よりも高い。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同軸に配置された内輪および外輪、並びに前記内輪と前記外輪との間に配置された転動体を有し、前記内輪および前記外輪のそれぞれが軸方向の外側を向く端面を有する転がり軸受と、
前記内輪および前記外輪のうち一方の軌道輪の前記端面に接触する接触部と、
を備え、
前記端面は、凹凸構造を有し、
前記端面の硬度は、前記接触部の硬度よりも高い、
回転機器。
【請求項2】
前記凹凸構造は、前記接触部に食い込んでいる、
請求項1に記載の回転機器。
【請求項3】
前記凹凸構造は、前記軸方向の外側に尖っている、
請求項1または請求項2に記載の回転機器。
【請求項4】
前記凹凸構造は、前記転がり軸受の中心軸線に対して回転対称に形成されている、
請求項1または請求項2に記載の回転機器。
【請求項5】
前記接触部は、前記端面側を向く接触面を有し、
前記端面の最大高さは、前記接触面の最大高さよりも大きい、
請求項1または請求項2に記載の回転機器。
【請求項6】
前記端面は、
前記軸方向の一方を向く第1端面と、
前記軸方向の他方を向く第2端面と、
を有し、
前記第1端面および前記第2端面は、同一形状に形成されている、
請求項1または請求項2に記載の回転機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、転がり軸受は、同軸上に配置された外輪及び内輪と、内輪と外輪との間に配設された複数の転動体と、複数の転動体を周方向に均等配列させた状態で各転動体を転動可能に保持する保持器と、を備えている。この種の転がり軸受は、支持する荷重の種類(ラジアル荷重、アキシアル荷重等)や用途等に応じて多種多様なものが知られており、ファンモータ等の様々な回転機器に組み込まれて使用されている。特に、転動体としてボールを利用する玉軸受は、高速回転する回転体の軸部を有する回転機器に好適に用いられる。
【0003】
近年の回転機器の高速回転化に伴い、転がり軸受のクリープが問題となっている。クリープが生じると、転がり軸受の取付面上の滑りにより摩耗粉が発生し、その摩耗粉の侵入により軌道輪の転送面およびボールが損傷する場合がある。また、クリープによる摩擦で摺動部が発熱し、転がり軸受の内部のグリースが劣化して転がり軸受の寿命が低下する場合がある。さらに、クリープによる摩擦で摺動部に錆が発生して摺動部分が固着し、転がり軸受に適正な与圧が掛からない不具合や、転がり軸受の内部への錆の侵入により転がり軸受が損傷する不具合が生じる場合がある。
【0004】
クリープによる上記不具合の発生を抑制するために、転がり軸受の取付面に潤滑剤を塗布する技術がある(例えば、特許文献1参照)。これにより、摩擦係数が低減されてクリープを抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、転がり軸受の取付面に潤滑剤を塗布しても、クリープそのものを抑制するには不十分であった。したがって、従来の回転機器においては、依然として転がり軸受のクリープの発生を抑制するという課題がある。
【0007】
そこで本発明は、転がり軸受のクリープを抑制できる回転機器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に係る回転機器は、互いに同軸に配置された内輪および外輪、並びに前記内輪と前記外輪との間に配置された転動体を有し、前記内輪および前記外輪のそれぞれが軸方向の外側を向く端面を有する転がり軸受と、前記内輪および前記外輪のうち一方の軌道輪の前記端面に接触する接触部と、を備え、前記端面は、凹凸構造を有し、前記端面の硬度は、前記接触部の硬度よりも高い。
【0009】
第1の態様によれば、一方の軌道輪の凹凸構造を接触部に食いつかせて、一方の軌道輪と接触部とを係合させることができる。これにより、軌道輪が接触部に対して回転することを規制できる。したがって、転がり軸受のクリープを抑制できる回転機器を提供することができる。
【0010】
本発明の第2の態様に係る回転機器は、上記第1の態様に係る回転機器において、前記凹凸構造は、前記接触部に食い込んでいてもよい。
【0011】
第2の態様によれば、一方の軌道輪と接触部とを確実に係合させることができる。
【0012】
本発明の第3の態様に係る回転機器は、上記第1の態様または第2の態様に係る回転機器において、前記凹凸構造は、前記軸方向の外側に尖っていてもよい。
【0013】
第3の態様によれば、一方の軌道輪の凹凸構造を接触部に容易に食い込ませることができる。したがって、一方の軌道輪と接触部とを確実に係合させることができる。
【0014】
本発明の第4の態様に係る回転機器は、上記第1の態様から第3の態様のいずれかの態様に係る回転機器において、前記凹凸構造は、前記転がり軸受の中心軸線に対して回転対称に形成されていてもよい。
【0015】
第4の態様によれば、一方の軌道輪と接触部との係合より生じる荷重が周方向において偏って分布することを抑制できる。したがって、回転機器に偏心が生じることを抑制できる。
【0016】
本発明の第5の態様に係る回転機器は、上記第1の態様から第4の態様のいずれかの態様に係る回転機器において、前記接触部は、前記端面側を向く接触面を有し、前記端面の最大高さは、前記接触面の最大高さよりも大きくてもよい。
【0017】
第5の態様によれば、凹凸構造における突部の先端のみが接触部に食いついた構成が得られる。このため、突部のうちその先端のみが接触部によって保持される。これにより、突部の全体が接触部に保持される構成と比較して、突部から接触部に加わる荷重を小さくできる。したがって、一方の軌道輪の端面よりも硬度の低い接触部が欠ける等して損傷することを抑制できる。
【0018】
本発明の第6の態様に係る回転機器は、上記第1の態様から第5の態様のいずれかの態様に係る回転機器において、前記端面は、前記軸方向の一方を向く第1端面と、前記軸方向の他方を向く第2端面と、を有し、前記第1端面および前記第2端面は、同一形状に形成されていてもよい。
【0019】
第6の態様によれば、転がり軸受の外観がおおよそ表裏対称となる。これにより、転がり軸受をその表裏を識別して回転機器に組み付ける手間を省くことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、転がり軸受のクリープを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態のファンモータを示す縦断面図である。
【
図3】第1実施形態の転がり軸受の縦断面図である。
【
図5】第1実施形態の軌道輪および接触部を示す図であって、
図4のV-V線に相当する箇所における断面図である。
【
図6】第2実施形態の転がり軸受の平面図であって、
図4に相当する拡大図である。
【
図7】第2実施形態の軌道輪および接触部を示す図であって、
図6のVII-VII線に相当する箇所における断面図である。
【
図8】第3実施形態の転がり軸受の平面図であって、
図4に相当する拡大図である。
【
図9】第3実施形態の軌道輪および接触部を示す図であって、
図8のIX-IX線に相当する箇所における断面図である。
【
図10】第3実施形態の変形例の転がり軸受の平面図であって、
図8に相当する拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
【0023】
図1は、実施形態のファンモータを示す縦断面図である。
図1に示すファンモータ100は、回転機器の一例である。ファンモータ100は、軸部111を有する回転体110と、回転体110を支持する基部120と、基部120に対して回転体110を回転させる駆動部130と、基部120に装着されているとともに軸部111を回転可能に支持する一対の転がり軸受1と、を備える。以下の説明では、転がり軸受1を単に軸受1と称する場合がある。また、本実施形態では、回転体110の軸部111の中心軸線Oの延びる方向を軸方向といい、中心軸線Oに直交して中心軸線Oから放射状に延びる方向を径方向といい、中心軸線O回りに周回する方向を周方向という。また、軸方向に平行、かつ互いに反対方向を指向する方向のうち一方を上方と定義し、他方を下方と定義する。
【0024】
基部120は、軸方向に延びる筒部121を有する。筒部121には、回転体110の軸部111が挿入されている。
回転体110は、基部120の上方に配置されている。回転体110は、軸部111と、筒部121の外側で軸部111に接続されたファン112と、を備える。ファン112は、軸部111の上端部に固定されている。ファン112は、軸部111の上端部から径方向の外側に張り出しているとともに周方向の全体にわたって延びるフランジ113と、フランジ113の外周縁全体から下方に延びる周壁114と、周壁114の径方向の外側で周方向に間隔をあけて配列された複数のブレード115と、を備える。周壁114は、筒部121に対して径方向に間隔をあけた状態で筒部121を全周にわたって囲んでいる。
【0025】
駆動部130は、モータである。駆動部130は、コイルを有するステータ131と、磁石を有するロータ132と、を備える。ステータ131は、軸部111の外側で基部120に固定されている。ロータ132は、ステータ131の径方向外側でファン112の周壁114に固定されている。
【0026】
一対の軸受1は、それぞれ筒部121の内周面と軸部111の外周面との間に介在している。各軸受1は、玉軸受である。一対の軸受1は、互いに同軸に配置されている。一対の軸受1は、軸方向に間隔をあけて並んでいる。
【0027】
一対の軸受1は、第1軸受1Aおよび第2軸受1Bである。第1軸受1Aは、筒部121に回転体110側から挿入されている。第1軸受1Aは、付勢部材101およびカラー102に接触している。付勢部材101は、コイルばねである。付勢部材101は、第1軸受1Aを挟んで回転体110の反対側に配置されている。付勢部材101は、回転体110の軸部111に外挿され、中心軸線Oと同軸に配置されている。付勢部材101は、回転体110とは反対側への変位を規制された状態で、筒部121の内側に配置されている。付勢部材101は、第1軸受1Aの外輪20の下方を向く端面26(
図2参照)に接触して圧縮されている。これにより、付勢部材101は、筒部121に対して第1軸受1Aを回転体110側に付勢している。カラー102は、第1軸受1Aを挟んで付勢部材101の反対側に配置されている。カラー102は、第1軸受1Aの内輪10とファン112のフランジ113との間に介在している。カラー102は、第1軸受1Aの内輪10の上方を向く端面16(
図2参照)に接触する下端面を有する。
【0028】
第2軸受1Bは、筒部121に回転体110の反対側から挿入されている。第2軸受1Bの外輪20の上方を向く端面26は、筒部121の内周面の段差面122に接触している。第2軸受1Bの外輪20は、筒部121の内周面の段差面122によって回転体110側の変位を規制されている。第2軸受1Bの内輪10の下方を向く端面16は、軸部111に装着されたCリング103に接触している。第2軸受1Bの内輪10は、Cリング103によって軸部111に対する回転体110から離れる方向の変位を規制されている。以下の説明では、ファンモータ100のうち軸受1以外の部材において、軸受1の軌道輪(内輪10および外輪20)の端面が接触する部分を接触部140と称する。本実施形態において接触部140は、第1軸受1Aの外輪20の端面26が接触する付勢部材101の上端部と、第1軸受1Aの内輪10の端面16が接触するカラー102の下端面と、第2軸受1Bの外輪20の端面26が接触する筒部121の段差面122と、第2軸受1Bの内輪10の端面16が接触するCリング103の上端面と、である。
【0029】
[第1実施形態]
図2は、第1実施形態の転がり軸受の平面図である。
図3は、第1実施形態の転がり軸受の縦断面図である。なお
図2および
図3では、後述する凹凸構造60の図示を省略している。
図2および
図3に示すように、各軸受1は、軌道輪である内輪10および外輪20と、複数の転動体30と、保持器40と、一対のシール部材50と、を備える。内輪10および外輪20は、中心軸線Oを共通軸線とする。なお一対の軸受1は、同一の構成を有する。
【0030】
内輪10は、回転輪として設けられている。内輪10は、軸部111に外挿されている。外輪20は、固定輪として設けられている。外輪20は、内輪10との間に環状の空間を設けた状態で、内輪10を径方向の外側から囲んでいる。複数の転動体30は、内輪10と外輪20との間に配置されるとともに、保持器40によって転動可能に保持されている。保持器40は、複数の転動体30を周方向に均等配列させた状態で、各転動体30を回転可能に保持している。シール部材50は、内輪10と外輪20との間の環状の空間を軸方向の外側から覆っている。内輪10と外輪20との間の環状の空間には、図示しないグリースが配置されている。
【0031】
外輪20は、ステンレス鋼や軸受鋼等の金属材料により円環状に形成されている。外輪20は、軸方向に沿った幅が、内輪10の軸方向に沿った幅と同等とされた外輪本体21と、外輪本体21から径方向の内側に向かって突出するとともに周方向の全体にわたって延びる突出部22と、を有する。外輪本体21は、外輪20の開口縁から軸方向の内側に延びる内周面21aを有する。突出部22は、外輪本体21における軸方向の中央に位置する部分に形成されている。突出部22の軸方向に沿った幅は、外輪本体21の軸方向に沿った幅よりも短く、転動体30の外径よりも大きい。
【0032】
突出部22の内周面には、径方向の外側に向かって窪む外輪軌道面23が形成されている。外輪軌道面23は、転動体30の外表面に沿うように断面視半球状に形成されているとともに、突出部22の内周面の全周に亘って周方向に延びる環状に形成されている。外輪軌道面23は、突出部22の内周面のうち、軸方向の中央に位置する部分に形成されている。突出部22の内周面のうち外輪軌道面23を除く部分は、一定の内径で軸方向に延びている。
【0033】
外輪20は、軸方向の外側を向く一対の端面26を備える。端面26は、外輪本体21における軸方向の外側を向く端面と一致する。端面26は、径方向に一定の幅を有し、周方向に延びている。
【0034】
内輪10は、ステンレス鋼や軸受鋼等の金属材料により円環状に形成されている。内輪10の外周面には、径方向の内側に向かって窪む内輪軌道面11が形成されている。内輪軌道面11は、転動体30の外表面に沿うように断面視半球状に形成されているとともに、外周面の全周に亘って周方向に延びる環状に形成されている。内輪軌道面11は、内輪10の外周面のうち、軸方向の中央に位置する部分に形成され、外輪軌道面23に対して径方向に向い合うように配置されている。内輪10の外周面のうち内輪軌道面11を除く部分は、一定の外径で軸方向に延びている。内輪10は、軸方向の外側を向く一対の端面16と、を備える。端面16は、径方向に一定の幅を有し、周方向に延びている。
【0035】
以下の説明では、内輪10および外輪20を区別しない場合に軌道輪5と称する。また、内輪10の端面16および外輪20の端面26を区別しない場合に、単に端面6と称する。
【0036】
複数の転動体30は、ステンレス鋼や軸受鋼等の金属材料により球状に形成されている。複数の転動体30は、外輪軌道面23と内輪軌道面11との間に配置され、外輪軌道面23および内輪軌道面11によって転動可能に支持される。複数の転動体30は、保持器40によって周方向の間隔を保たれている。
【0037】
図3に示すように、保持器40は、合成樹脂または金属材料により全体として円環状に形成されている。保持器40は、中心軸線Oと同軸に配置されている。保持器40は、円環状に形成されて複数の転動体30に対して下方に配置された環状部41と、環状部41から上方に突設されているとともに周方向に間隔をあけて設けられた複数の柱部42と、を備える。柱部42は、周方向に均等に配列されている。周方向に隣り合う一対の柱部42は、互いの間にボールポケットを形成している。ボールポケットは、保持器40を径方向に貫通するとともに、保持器40の上端面において上方に開口している。ボールポケットは、転動体30の数に対応して設けられ、転動体30を各別に転動可能に保持する。これにより保持器40は、転動体30を周方向に間隔をあけて均等配列させる。
【0038】
図2および
図3に示すように、シール部材50は、円環の板状に形成されている。シール部材50は、中心軸線Oと同軸に配置されている。シール部材50は、外輪20に装着されている。シール部材50は、複数の転動体30に対する軸方向の両側に1つずつ配置されている。シール部材50は、外輪20の突出部22に軸方向の外側から重なる台座部51と、台座部51の内周縁から軸方向の外側に延びた段差部52と、段差部52における軸方向外側の端縁から径方向の内側に張り出したカバー部53と、台座部51の外周縁から径方向の外側かつ軸方向の外側に延びた係止部54と、を備える。シール部材50は、平面視で少なくとも転動体30の中心を跨ぐように径方向に延びている。カバー部53の内周縁は、内輪10の外周面に隙間をあけて配置されている。係止部54の外周縁は、外輪本体21の内周面21aに軸方向の内側から係止されている。これにより、シール部材50は、外輪20に固定されている。
【0039】
図4は、
図2のIV部の拡大図である。
図5は、第1実施形態の軌道輪および接触部を示す図であって、
図4のV-V線に相当する箇所における断面図である。
図4および
図5に示すように、各軌道輪5の端面6は、凹凸構造60を有している。凹凸構造60は、軸方向に直交する平面に、軸方向の外側に突出した突部61を設けたものである。突部61は、周方向に等間隔で複数設けられている。突部61が互いに同形同大に形成されることで、凹凸構造60は、中心軸線Oに対して回転対称に形成されている。なお図示の例では、突部61は径方向に1つのみ設けられているが、突部61は径方向に複数設けられていてもよい。突部61は、軸方向の外側に尖っている。図示の例では、突部61は四角錘状に形成されている。突部61は、端面6の内周縁と外周縁との間に点状の先端61aを有している。各軌道輪5の一対の端面6は、同一形状に形成されている。なお
図4および
図5では外輪20の端面26の凹凸構造60を示しているが、内輪10の端面16も外輪20の端面26と同様に凹凸構造60を有している。
【0040】
各軸受1の軌道輪5の端面6の硬度は、当該軌道輪5の端面6が接触する接触部140の硬度よりも高い。硬度は、例えばビッカース硬さである。各軌道輪5の端面6の突部61は、接触部140に食い込んでいる。これにより接触部140の表面のうち軌道輪5の端面6側を向く接触面141には、軌道輪5の端面6の形状に倣って凹凸が形成される。接触部140の接触面141には、突部61の先端61aのみが食い込む。これにより、軌道輪5の端面6の最大高さは、接触部140の接触面141の最大高さよりも大きい。最大高さは、表面粗さの1つのパラメータである。すなわち、軌道輪5の端面6の最大高さは、突部61の高さに相当する。また、接触部140の接触面141の最大高さは、突部61が食い込んだ深さに相当する。なお軌道輪5の端面6の最大高さ、および接触部140の接触面141の最大高さは、粗面加工に基づく最大高さよりも大きく、少なくとも軌道輪5の外表面のうち端面6以外の箇所の最大高さよりも大きい。
【0041】
以上に説明したように、本実施形態のファンモータ100では、軌道輪5の端面6が凹凸構造60を有し、軌道輪5の端面6の硬度が接触部140の硬度よりも高い。この構成によれば、軌道輪5の凹凸構造60を接触部140に食いつかせて、軌道輪5と接触部140とを係合させることができる。これにより、軌道輪5が接触部140に対して回転することを規制できる。したがって、軸受1のクリープを抑制できるファンモータ100を提供することができる。
【0042】
凹凸構造60は、接触部140に食い込んでいる。この構成によれば、軌道輪5と接触部140とを確実に係合させることができる。
【0043】
凹凸構造60は、軸方向の外側に尖っている。この構成によれば、軌道輪5の凹凸構造60を接触部140に容易に食い込ませることができる。したがって、軌道輪5と接触部140とを確実に係合させることができる。
【0044】
凹凸構造60は、中心軸線Oに対して回転対称に形成されている。この構成によれば、軌道輪5と接触部140との係合より生じる荷重が周方向において偏って分布することを抑制できる。したがって、ファンモータ100に偏心が生じることを抑制できる。
【0045】
軌道輪5の端面6の最大高さは、接触部140の接触面141の最大高さよりも大きい。この構成によれば、凹凸構造60における突部61の先端61aのみが接触部140に食いついた構成が得られる。このため、突部61のうちその先端61aのみが接触部140によって保持される。これにより、突部61の全体が接触部140に保持される構成と比較して、突部61から接触部140に加わる荷重を小さくできる。したがって、軌道輪5の端面6よりも硬度の低い接触部140が欠ける等して損傷することを抑制できる。
【0046】
軌道輪5の一対の端面6は、同一形状に形成されている。この構成によれば、転がり軸受1の外観がおおよそ表裏対称となる。これにより、転がり軸受1をその表裏を識別してファンモータ100に組み付ける手間を省くことができる。
【0047】
[第2実施形態]
次に、
図6および
図7を参照して、第2実施形態について説明する。第1実施形態では、軌道輪5の端面6に設けられた突部61の先端61aが点状である。これに対して第2実施形態は、軌道輪5の端面6に設けられた突部61Aが径方向に長さを有する点で、第1実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0048】
図6は、第2実施形態の転がり軸受の平面図であって、
図4に相当する拡大図である。
図7は、第2実施形態の軌道輪および接触部を示す図であって、
図6のVII-VII線に相当する箇所における断面図である。
図6および
図7に示すように、各軌道輪5の端面6には、第1実施形態の突部61に替えて、突部61Aが設けられている。突部61Aは、軸方向の外側に突出しているとともに、径方向に沿って延びている。突部61Aは、軸方向の外側に尖っている。突部61Aは、一定の高さで径方向に沿って延びる先端61Aaを有している。
【0049】
本実施形態では、第1実施形態と同様の効果を奏する。これに加え、本実施形態では、接触部140に食いつく突部61Aの先端61Aaが径方向に沿って延びているので、突部の先端が点状に形成された構成と比較して、突部61Aから接触部140に加わる荷重を広範囲に分散できる。したがって、軌道輪5の端面6よりも硬度の低い接触部140が欠ける等して損傷することを抑制できる。
【0050】
なお第2実施形態では突部61Aが径方向に沿って延びているが、この構成に限定されない。突部は、周方向に交差する方向に沿って延びていれば第2実施形態と同様の効果を奏する。
【0051】
[第3実施形態]
次に、
図8および
図9を参照して、第3実施形態について説明する。第1実施形態では、軌道輪5の端面6の凹凸構造60が突部61を有している。これに対して第3実施形態は、軌道輪5の端面6の凹凸構造60Bが溝部62を有する点で、第1実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0052】
図8は、第3実施形態の転がり軸受の平面図であって、
図4に相当する拡大図である。
図9は、第3実施形態の軌道輪および接触部を示す図であって、
図8のIX-IX線に相当する箇所における断面図である。
図8および
図9に示すように、各軌道輪5の端面6に設けられた凹凸構造60Bは、軸方向に直交する平面に、軸方向の内側に窪む溝部62を設けたものである。溝部62は、周方向に等間隔で複数設けられている。溝部62が互いに同形同大に形成されることで、凹凸構造60Bは、中心軸線Oに対して回転対称に形成されている。溝部62は、一定の幅で径方向に沿って延びている。図示の例では、溝部62が軌道輪5の端面6上の開口部から底部に向かって一定の幅で窪んでいるが、この構成に限定されない。溝部62は、軌道輪5の端面6上の開口部から底部に向かって幅を狭めながら窪んでいてもよい。溝部62は、軌道輪5の内周面および外周面に開口している。以上の構成を換言すると、凹凸構造60Bは径方向に沿って延びる突部を有しているとともに、突部の頂面が軸方向に直交する平面状に形成されている。
【0053】
本実施形態では、第1実施形態と同様の効果を奏する。なお、第3実施形態では溝部62が径方向に沿って延びているが、この構成に限定されない。例えば、
図10に示すように、溝部62Aが周方向に交差する方向に沿って延びていても、第3実施形態と同様の効果を奏する。
【0054】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、内輪10が回転輪として設けられ、外輪20が固定輪として設けられている。しかし、内輪が固定輪として設けられ、外輪が回転輪として設けられた回転機器に本発明を適用してもよい。また、内輪および外輪の端面のうち一部の端面のみに上記凹凸構造が設けられていてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、回転機器としてファンモータ100を例示したが、回転機器はこれに限定されない。例えば、回転機器として、歯科用ハンドピースや、ハードディスクドライブのスピンドルモータ等に本発明を適用してもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、突部61の先端61aのみが接触部140の接触面141に食い込んでいるが、この構成に限定されない。すなわち突部61の全体が接触部140の接触面141に食い込んでいてもよい。この場合には、軌道輪5の端面6の最大高さは、接触部140の接触面141の最大高さと一致する。
【0057】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、上述した各実施形態および変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…転がり軸受 5…軌道輪 6…端面 10…内輪(軌道輪) 16…端面 20…外輪(軌道輪) 26…端面 30…転動体 60,60B…凹凸構造 100…ファンモータ(回転機器) 140…接触部 141…接触面