(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101137
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】高圧ガス貯留装置
(51)【国際特許分類】
F17C 11/00 20060101AFI20240722BHJP
F17C 13/12 20060101ALI20240722BHJP
F17C 13/02 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
F17C11/00 A
F17C13/12 301Z
F17C13/02 301A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004907
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】308039414
【氏名又は名称】株式会社FTS
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 孝典
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 吉則
(72)【発明者】
【氏名】小原 悠
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 彰倫
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA03
3E172AA05
3E172AA06
3E172AB01
3E172AB04
3E172AB05
3E172AB20
3E172BA01
3E172BB05
3E172BB12
3E172BB18
3E172BD03
3E172CA13
3E172CA14
3E172DA43
3E172DA47
3E172EA02
3E172EA03
3E172EB02
3E172EB03
3E172FA18
(57)【要約】
【課題】タンク内から漏出した高圧ガスの周辺への拡散を防止する。
【解決手段】高圧ガス貯留装置Aは、高圧ガスを貯留するタンク10と、タンク10の外面との間に保留室17を空けるように配置され、タンク10の全体を包囲する外殻体19と、保留室17内の高圧ガスを吸着又は中和可能な処理剤39とを備えている。タンク10から保留室19へ漏出した高圧ガスは、処理剤39による吸着作用又は中和作用によって無害化処理又は低害化処理されるので、高圧ガスが高い有害性を有したままでタンク10の周辺へ拡散することを抑制できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧ガスを貯留するタンクと、
前記タンクの外面との間に保留室を空けるように配置され、前記タンクの全体を包囲する外殻体と、
前記保留室内の前記高圧ガスを吸着又は中和可能な処理剤とを備えている高圧ガス貯留装置。
【請求項2】
前記処理剤が、前記保留室の内部に配置されている請求項1に記載の高圧ガス貯留装置。
【請求項3】
前記保留室内には前記高圧ガスよりも比重の大きい気体が貯留されており、
前記処理剤が、前記保留室の上端部に配置されている請求項2に記載の高圧ガス貯留装置。
【請求項4】
前記保留室内と前記外殻体外の大気中とを連通させる通気路と、
前記通気路に配置され、前記処理剤を含むフィルタとを備えている請求項1に記載の高圧ガス貯留装置。
【請求項5】
前記保留室内の圧力の検出、又は前記保留室内における前記高圧ガスの濃度の検出を行うセンサと、
前記外殻体の外部に配置され、前記センサの検出結果に基づいて前記処理剤を前記保留室内に投入する投入装置とを備えている請求項1に記載の高圧ガス貯留装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ガス貯留装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、タンク内に液化ガスを貯留したタンクシステムが開示されている。タンク内には、液化ガスと、液化ガスが蒸発することによって生成された気化ガスとが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のタンクシステムでは、タンクに亀裂が生じた場合に、タンク内の気化ガスが、亀裂を通ってタンク外へ漏出し、タンクシステムの周辺へ拡散する虞がある。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、タンク内から漏出した高圧ガスの周辺への拡散を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
高圧ガスを貯留するタンクと、
前記タンクの外面との間に保留室を空けるように配置され、前記タンクの全体を包囲する外殻体と、
前記保留室内の前記高圧ガスを吸着又は中和可能な処理剤とを備えている。
【発明の効果】
【0007】
タンクから保留室へ漏出した高圧ガスは、処理剤による吸着作用又は中和作用によって無害化処理又は低害化処理されるので、高圧ガスが高い有害性を有したままでタンクの周辺へ拡散することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図4】実施例2のフィルタの構造をあらわす部分拡大断面図
【
図6】実施例3において処理剤の投入システムをあらわすブロック図
【発明を実施するための形態】
【0009】
前記処理剤が、前記保留室の内部に配置されていることが好ましい。この構成によれば、高圧ガスの漏出が開始してから処理剤を保留室に投入する場合とは異なり、高圧ガスの漏出を検知するセンサや、処理剤を保留室内へ投入するための装置が不要である。
【0010】
前記保留室内には前記高圧ガスよりも比重の大きい気体が貯留されており、前記処理剤が、前記保留室の上端部に配置されていることが好ましい。この構成によれば、高圧ガスは空気よりも軽いので、高圧ガスを早期に処理することができる。
【0011】
前記保留室内と前記外殻体外の大気中とを連通させる通気路と、前記通気路に配置され、前記処理剤を含むフィルタとを備えていることが好ましい。この構成によれば、タンクから高圧ガスが漏出して保留室内の圧力が高まると、保留室内の高圧ガスは自動的にフィルタに向かうので、高圧ガスを早期に処理することができる。保留室内の圧力が過剰に上昇しないので、外殻体の強度を過剰に高める必要がなく、外殻体のコスト低減を図ることができる。
【0012】
前記保留室内の圧力の検出、又は前記保留室内における前記高圧ガスの濃度の検出を行うセンサと、前記外殻体の外部に配置され、前記センサの検出結果に基づいて前記処理剤を前記保留室内に投入する投入装置とを備えていることが好ましい。
【0013】
<実施例1>
以下、本発明を具体化した実施例1を
図1~
図2を参照して説明する。尚、以下の説明において、前後の方向については、
図1におけるF方向を前方と定義する。上下の方向については、
図1,2におけるH方向を上方と定義する。左右の方向については、
図2におけるR方向を右方と定義する。
【0014】
本実施例1の高圧ガス貯留装置Aは、車両(図示省略)に搭載して使用される。具体的には、高圧ガス貯留装置Aは、車内(例えば、荷物室)又は車外(ボディの床下)に配置される。高圧ガス貯留装置Aは、タンク10と、タンク10を包囲する外殻体18とを備えて構成されている。タンク10は、高圧ガス(高圧の液化ガスと気化ガス)を貯留するための気密性を有する貯留槽である。液化ガスは、常温・大気圧下において気相であるガスを、加圧と冷却によって液相へ相転移したものである。高圧の気化ガスは、液化ガスの蒸発によって生成された気体である。
【0015】
高圧ガス貯留装置Aに貯留する液化ガスと気化ガスは、車両のエンジン用のガス燃料として使用されるものであり、具体的にはアンモニアである。アンモニアは有害性を有する物質であるため、本実施例1では、万一、タンク10内の高圧ガス(アンモニアガス)がタンク10外へ漏出した場合の対策として、外殻体18と処理剤39を設けている。外殻体18は、高圧ガスを一時的に保留するための保留室17を空けた状態で、タンク10を包囲する。処理剤39は、保留室17内に配置されている。
【0016】
図1に示すように、タンク10は、1つの筒部11と一対のドーム部12とを有し、全体としてカプセル状をなす。筒部11は、軸線を水平方向(前後方向)に向けた円筒形の部位である。一対のドーム部12は、略半球状をなす部位であり、筒部11の両端の開口を閉塞するように配置されている。筒部11と一対のドーム部12は、互いに別体部品として製造された金属製の部材からなり、溶接によって気密状に接合されて一体化されている。
【0017】
筒部11の上端部には、筒部11の内外を上下方向に連通させる第1貫通孔13が形成されている。筒部11の上端部には、固定部材14が、筒部11の外周面と第1貫通孔13の開口縁部に密着した状態で溶接により気密状に固着されている。固定部材14には、筒部11の内外を上下方向に連通させる円筒形の第1筒形嵌合部15が形成されている。筒部11の外周面における下端部には、複数の脚部16が溶接によって固着されている。複数の脚部16は、タンク10を外殻体18に支持するための部材である。複数の脚部16は、前後方向及び周方向に間隔を空けた複数位置に配置されている。
【0018】
外殻体18は、タンク10の全体を間隔を空けて包囲するカプセル状の部材である。タンク10の外面と外殻体18の内面との間の空間は、タンク10から漏出した高圧ガスを一時的に貯留しておくための保留室17として機能する。タンク10の外面の全領域と外殻体18の内面の全領域は、保留室17に臨んでいる。
【0019】
外殻体18は、互いに異なる部品として製造された1つの筒状部材21と、前後一対のドーム状部材22とを接合して構成されている。筒状部材21は、軸線を水平方向(前後方向)に向けた円筒形をなす部材であり、タンク10の筒部11と同軸状に配置されている。一対のドーム状部材22は、略半球状をなす部位であり、筒状部材21の両端の開口を閉塞するように配置されている。筒状部材21は金属製であり、ドーム状部材22は、筒状部材21よりも比重の小さい材料からなる。
【0020】
筒状部材21の上端部には、保留室17と筒状部材21の外部とを上下方向に連通させる第2貫通孔23が形成されている。筒状部材21の外周面における上端部には、第2貫通孔23を包囲するように配置されたスペーサ24が溶接により気密状に固着されている。スペーサ24の上面には、ボルト締めによって閉塞部材25が取り付けられている。閉塞部材25には、筒状部材21の内外を上下方向に連通させる円筒形の第2筒形嵌合部26が形成されている。第2筒形嵌合部26は第2貫通孔23内に配置されている。
【0021】
筒状部材21の内周面における下端部には、タンク10の脚部16の下端部が載置されている。タンク10は、複数の脚部16を介すことによって、外殻体18の筒状部材21に支持されている。筒状部材21の内周面における下端部には、複数の位置決め部材27が固着されている。外殻体18を上から視た平面視において、位置決め部材27は、U字形をなしている。複数の位置決め部材27には、複数の脚部16の下端部が個別に嵌合されている。脚部16と位置決め部材27との嵌合によって、外殻体18の筒状部材21とタンク10とが前後方向及び左右方向に位置決めされている。
【0022】
筒状部材21の外周面における前後両端部には、筒側フランジ部28が一体に形成されている。筒側フランジ部28には、周方向に間隔を空けた複数の取付孔(図示省略)が形成されている。筒側フランジ部28のうち筒状部材21の軸線方向中央側の面には、各取付孔と同軸状に配置されたナット29が溶接によって固着されている。筒状部材21の前後両端面には、筒状部材21とドーム状部材22との接合部をシールするためのリング状のセルフシール部材30が取り付けられている。
【0023】
ドーム状部材22は、略半球形(お椀形)をなす金属製のベース部材31と、ベース部材31の外面に密着した補強層32とを備えて構成されている。ベース部材31と補強層32とを合わせたドーム状部材22全体の厚さは、筒状部材21の厚さと同一の寸法である。補強層32は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)からなる複数枚の細長い補強シートを、ベース部材31の外面に積層するように貼り付けることによって構成されたものである。ベース部材31は、筒状部材21と同一の金属材料でも、筒状部材21とは異種の金属材料のいずれでもよい。
【0024】
ベース部材31は、筒状部材21よりも薄肉であるが、補強層32によって補強されている。CFRPからなる補強層32の比強度(引っ張り強さを密度で除した値)は、金属製のベース部材31よりも大きい。したがって、本実施例1のドーム状部材22と同一の厚さであって金属のみで構成されたドーム状の部材(図示省略)に比べると、本実施例1のドーム状部材22は軽量化されている。
【0025】
ドーム状部材22における筒状部材21側の開口縁部には、ドーム側フランジ部33が形成されている。ドーム側フランジ部33は、ベース部材31に一体に形成された部位である。ドーム側フランジ部33には、周方向に間隔を空けた複数の取付孔(図示省略)が形成されている。
【0026】
ドーム状部材22を筒状部材21に組み付ける際には、一対のドーム状部材22を筒状部材21の前後両端の開口部に配置する。そして、ドーム側フランジ部33を筒側フランジ部28に突き合わせ、締結ボルト34を、ドーム側フランジ部33と筒側フランジ部28の取付孔に貫通させ、ナット29にねじ込んで締め付ける。締結ボルト34とナット29との締付けによって一対のドーム状部材22と筒状部材21とが一体化され、外殻体18の組付けが完了する。
【0027】
タンク10の筒部11には、タンク10内の高圧ガスをエンジン(図示省略)へ供給するための燃料ポンプ35が取り付けられている。燃料ポンプ35は、全体として軸線を上下方向に向けた円柱形をなす。燃料ポンプ35は、フランジ状取付部36を固定部材14の上面に載置した状態で、第1筒形嵌合部15を貫通するように配置されている。燃料ポンプ35の下端側部分は、タンク10内に収容されている。燃料ポンプ35は、フランジ状取付部36と固定部材14をボルト締めすることによって、タンク10に固定されている。燃料ポンプ35の上端部は、閉塞部材25の第2筒形嵌合部26に嵌合されている。燃料ポンプ35の上端面に設けた接続部37は、外殻体18の外部上方へ突出している。接続部37には、タンク10内の高圧ガスをエンジンへ供給するための供給管(図示省略)が接続される。
【0028】
保留室17内には、タンク10内の液化ガスや気化ガスが漏れた場合の対処手段として、複数の処理剤39が設けられている。処理剤39としては、気化ガスを吸着して気化ガスの拡散を抑制する吸着剤や、気化ガスを化学的に中和して気化ガスの有害性を緩和又は消失される中和剤などがある。中和剤の具体例としては、水や、水と酸素系液体を混合したものがある。処理剤39としては、水を含ませた多孔質樹脂、ゼオライト、活性炭等がある。保留室17内に設ける処理剤39としては、吸着剤のみを配置してもよく、中和剤のみを配置してもよく、吸着剤と中和剤の両方を配置してもよい。
【0029】
処理剤39は、保留室17内における複数の位置に分散して配置されている。具体的には、筒状部材21の内周面における上端部と、筒状部材21の内周面におる下端部と、タンク10の筒部11の外周面における下端部とに配置されている。処理剤39の配置の仕方については、筒部11の外周面における上端部や側面部、ドーム部12の外周面、ドーム状部材22の内周面等に配置してもよい。
【0030】
次に、本実施例1の高圧ガス貯留装置Aの作用を説明する。高圧ガスを貯留するタンク10は、その全体が気密性を有する外殻体18によって包囲され、タンク10と外殻体18との間には、タンク10から漏れた高圧ガスを貯留するための保留室17が確保されている。換言すると、外殻体18の内部に保留室17とタンク10とが収容されている。これにより、万一、タンク10内の高圧ガスがタンク10外へ漏れたとしても、漏れた高圧ガスは、保留室17内に留まる。したがって、タンク10から漏れた気化ガスが、車両のキャビン内に侵入したり、車両の周辺に拡散したりする虞はない。
【0031】
タンク10から漏れた高圧ガスは、保留室17内に拡散して処理剤39に接触する。処理剤39が吸着剤である場合は、処理剤39が高圧ガスを捕捉するので、保留室17内における気化ガスの濃度が低下し、若しくは、保留室17内を浮遊する気化ガスの量が減少する。処理剤39が中和剤である場合は、処理剤39が高圧ガスを低害化又は無害化するので、高圧ガスが有害状態のままで保留室17内に留まる量が減少する。
【0032】
また、タンク10における漏れが、タンク10内の液化ガスの液面よりも下方で生じた場合は、タンク10から漏れた液化ガスが、タンク10から筒状部材21の内周面へ直接滴下、又はタンク10の外面を伝って筒状部材21の内周面に滴下する。漏れた液化ガスは、筒状部材21の下端部に配置した処理剤39によって低害化又は無害化の処理がなされる。また、漏れた液化ガスが蒸発して気化ガスになったものも、上記と同様に処理剤39によって低害化又は無害化される。
【0033】
本実施例1の高圧ガス貯留装置Aは、タンク10と外殻体18と処理剤39とを備えている。タンク10は、液化ガスと、液化ガスの蒸発により生成された気化ガスとを貯留する。外殻体18は、タンク10の外面との間に保留室17を空けるように配置され、タンク10の全体を包囲する。処理剤39は、保留室17内の高圧ガスを吸着可能な物質又は中和可能な物質からなる。タンク10から保留室17へ漏出した高圧ガスは、処理剤39による吸着作用又は中和作用によって無害化処理又は低害化処理されるので、高圧ガスが高い有害性を有したままでタンク10の周辺へ拡散することを抑制出来る。具体的には、高圧ガスが有害性を有した状態で、車内に充満したり車外へ拡散したりすることを抑制できる。
【0034】
高圧ガスの漏出が開始してから処理剤39を保留室17に投入する場合には、高圧ガスの漏出を検知するセンサや、処理剤39を保留室17内へ投入するための装置が必要であるが、本実施例1では、処理剤39が常に保留室17の内部に配置されているので、高圧ガスを検出するセンサや処理剤39を投入するための装置が不要である。
【0035】
保留室17内には、気化ガスよりも比重の大きい気体(空気)が貯留されている。処理剤39は保留室17の上端部に配置されている。気化ガスは空気よりも軽いので、処理剤39を保留室17の上端部に配置することによって、気化ガスを早期に処理することができる。
【0036】
<実施例2>
次に、本発明を具体化した実施例2を
図3及び
図4を参照して説明する。本実施例2の高圧ガス貯留装置Bは、タンク10から保留室17へ漏れた高圧ガスを処理するための手段を、上記実施例1とは異なる構成としたものである。その他の構成については上記実施例1と同じであるため、同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0037】
外殻体18の筒状部材21には、筒状をなす複数の通気部材40が設けられている。通気部材40は、筒状部材21の上端部に配置され、筒状部材21を気密状に貫通した状態で取り付けられている。通気部材40の基端部(下端部)は、保留室17の内部に配置されている。通気部材40の先端部(上端部)は、外殻体18の外周面から上方へ突出している。
【0038】
図4に示すように、通気部材40の内部には、通気部材40の先端面に開口する収容室41が形成されている。通気部材40の基端側の端部には、収容室41の基端を閉塞する壁部42が形成されている。壁部42には、保留室17内と収容室41内とを連通させる複数の連通孔43が形成されている。収容室41と連通孔43とによって、保留室17内と外殻体18の外部の大気中とを連通させる通気路44が構成されている。収容室41内には、処理剤39を含むフィルタ45が収容されている。処理剤39は、実施例1に記載した物質のうち、通気性を有し、且つ連通孔43からは落下しない物質である。
【0039】
タンク10内の気化ガスが保留室17に漏れると、保留室17内の圧力が大気圧よりも高くなるため、保留室17内の気体は、通気部材40内を通って外殻体18の外部(大気中)へ放出される。保留室17内の気体のうち、空気よりも比重の小さい気化ガスは、保留室17内を通気部材40に向かって上昇する。上昇した気化ガスは、保留室17内と大気中との圧力差によって、通気部材40の連通孔43から収容室41内に流入し、フィルタ45に含まれる処理剤39に接触する。処理剤39が吸着剤である場合は、気化ガスは処理剤39に吸着されるので、大気中への気化ガスの放出量が低下する。保留室17内の空気は、そのまま大気中へ放出される。処理剤39が中和剤である場合、気化ガスは、中和剤によって低害化又は無害化された状態で、大気中へ放出される。
【0040】
気化ガスの比重が空気よりも小さいという点に着目し、フィルタ45を保留室17の上端部に配置した。これにより、保留室17内へ漏れ出した気化ガスは、速やかにフィルタ45に向かい、処理剤39によって早期のうちに処理される。保留室17と大気中とを連通させる通気路44を設けたので、保留室17内の圧力が過剰に上昇する虞がない。したがって、外殻体18の強度を過剰に高める必要がなく、外殻体18のコスト低減を図ることができる。
【0041】
<実施例3>
次に、本発明を具体化した実施例3を
図5~
図6を参照して説明する。本実施例3の高圧ガス貯留装置Cは、タンク10から保留室17へ漏れた気化ガスを処理するための手段を、上記実施例1とは異なる構成としたものである。その他の構成については上記実施例1と同じであるため、同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0042】
保留室17内には、濃度センサ50と圧力センサ51が設けられている。濃度センサ50は、筒状部材21の内周面における上端部に配置され、保留室17内における気化ガスの存在の有無、及び保留室17内における気化ガスの濃度を検出する。圧力センサ51は、筒状部材21の内周面における上端部に配置され、保留室17内の圧力を検出する。
図6に示すように、濃度センサ50から出力された検出信号と、圧力センサ51から出力された検出信号は、制御部52に入力されるようになっている。
【0043】
外殻体18の筒状部材21には、バルブ53が取り付けられている。バルブ53は、保留室17の内部と外殻体18の外部とに臨むように配置されている。バルブ53の一次側の開口は、供給路54を介すことによって、外殻体18の外部に配置した投入装置55に接続されている。バルブ53の二次側の開口は保留室17内に臨んでいる。投入装置55は、処理剤39(図示省略)を貯留するとともに、貯留している処理剤39をバルブ53側へ送り出す機能を備えた装置である。
【0044】
処理剤39が塊状の固体や粒状体や液体である場合は、投入装置55を外殻体18の上方に配置し、処理剤39を自重によってバルブ53に向けて落下させることができる。処理剤39が液体である場合は、ポンプによって処理剤39をバルブ53側へ圧送することができる。制御部52は、圧力センサ51からの検出信号及び濃度センサ50からの検出信号に基づいて、バルブ53の開閉と投入装置55の動作を制御する。
【0045】
制御部52には、報知部56が接続されている。報知部56の具体例としては、車両のインストルメントパネルに表示される警告ランプや、車両のキャビン内に警報音を発するスピーカー等がある。制御部52は、圧力センサ51からの検出信号と、濃度センサ50からの検出信号に基づいて、報知部56へ異常検出信号を出力する。
【0046】
タンク10内の気化ガスが保留室17へ漏れると、保留室17内の圧力が上昇し、この圧力上昇が圧力センサ51によって検出され、その検出信号が制御部52に入力される。圧力センサ51による検出と前後して、保留室17内に漏れた気化ガスが濃度センサ50によって検出され、濃度センサ50からの検出信号が制御部52に入力される。圧力センサ51と濃度センサ50のうちいずれか一方からの検出信号が制御部52に入力されると、制御部52は、直ちに報知部56へ報知信号を出力し、これと同時に、バルブ53を開弁するとともに投入装置55を起動させる。投入装置55が起動すると、処理剤39が供給路54とバルブ53を通って保留室17内に投入される。投入された処理剤39は、保留室17内の気化ガスを吸着又は中和する。
【0047】
本実施例3の高圧ガス貯留装置Cは、保留室17内の圧力の検出を行う圧力センサ51と、保留室17内における気化ガスの濃度の検出を行う濃度センサ50と、外殻体18の外部に配置された投入装置55とを備えている。投入装置55は、圧力センサ51又は濃度センサ50の検出結果に基づいて、処理剤39を保留室17内に投入する。粒状体や液体である処理剤39を、事前に保留室17に投入しておいた場合、車両の走行時の振動によって異音が発生するが、本実施例3では、気化ガスが漏れたときにのみ、処理剤39を保留室17に投入するので、走行中に異音が発生することを防止できる。
【0048】
<他の実施例>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
・本発明は、タンクに貯留される液化ガスが、エンジン用のガス燃料として使用される液化石油ガス(LPG)や、燃料電池用のガス燃料として使用される液体水素や、ガス燃料となる気体(例えば、水素)の貯蔵手段であるエネルギーキャリアである場合にも適用できる。
・実施例1~実施例3では、タンクに液化ガスと気化ガスを貯留したが、タンクには、高圧の気化ガスのみを貯留してもよい。この高圧の気化ガスは、液化ガスの蒸発によって生成された気体ではなく、加圧する過程で大気圧下と同じく気相を保った気体である。気相を保った高圧の気化ガスの具体例としては、圧縮天然ガス(CNG)等がある。
・実施例1において、保留室は、必ずしも高い気密性を有していなくてもよい。
・実施例1において、保留室に貯留する気体は、空気以外の気体でもよく、空気と空気以外の気体とを混合した気体でもよい。
・実施例1において、保留室に貯留する気体は、気化ガスよりも比重の小さい物質であってもよい。この場合、処理剤を保留室の下端部に配置すれば、気化ガスを効果的に処理することができる。
・実施例1及び実施例2において、保留室内に濃度センサを設けてよい。
・実施例3において、保留室は、必ずしも高い気密性を有していなくてもよい。
・実施例3において、保留室内の異なる位置に複数の濃度センサを設けてもよい。この場合、濃度センサは、外殻体の内周面とタンクの外周面の両方に配置してもよく、タンクの外周面のみに配置してもよい。
・実施例3において、投入装置を起動させるためのセンサは、圧力センサと濃度センサのいずれか一方だけでもよい。
【符号の説明】
【0049】
A,B,C…高圧ガス貯留装置
10…タンク
17…保留室
19…外殻体
39…処理剤
44…通気路
45…フィルタ
50…濃度センサ(センサ)
51…圧力センサ(センサ)
55…投入装置