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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101166
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】車両の前部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/04 20060101AFI20240722BHJP
【FI】
B62D25/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004949
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大國 崇
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203BB43
3D203BB54
3D203CA23
3D203CA37
3D203CA53
3D203CA55
3D203DA32
(57)【要約】
【課題】骨格部材とドア間の荷重伝達性と、ピラーの衝撃吸収性とを確保することにある。
【解決手段】エンジンルームの骨格を構成する骨格部材(アッパメンバ8)と、車室のドア開口部を開閉するドア(フロントドア10)との間に、車両上下方向に延びるピラー(フロントピラー20)が配設されている車両の前部構造において、ピラー(20)には、骨格部材(8)とドア(10)とに渡される方向に延びる荷重伝達部(30)が設けられていると共に、荷重伝達部(30)は、車両上下方向における幅寸法(W1,W2)が、骨格部材(8)側とドア(10)側とで異なっている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームの骨格を構成する骨格部材と、車室のドア開口部を開閉するドアとの間に、車両上下方向に延びるピラーが配設されている車両の前部構造において、
前記ピラーには、前記骨格部材と前記ドアとに渡される方向に延びる荷重伝達部が設けられていると共に、前記荷重伝達部は、車両上下方向における幅寸法が、骨格部材側とドア側とで異なっている車両の前部構造。
【請求項2】
前記荷重伝達部は、車両上下方向における幅寸法が骨格部材側で相対的に小さくなっている請求項1に記載の車両の前部構造。
【請求項3】
前記荷重伝達部には、前記骨格部材と前記ドアとに渡される方向に延びる補強部材が固定されており、
前記補強部材は、前記渡される方向に延びる上下一対の壁部を有すると共に、上下一対の壁部の前記渡される方向における長さ寸法を異ならせることで、前記荷重伝達部の車両上下方向における幅寸法を骨格部材側とドア側とで異ならせている請求項1又は2に記載の車両の前部構造。
【請求項4】
前記上下一対の壁部のいずれか一方の壁部は、前記ピラーの骨格部材側の端部とドア側の端部とに連結されていると共に、一方とは異なるいずれか他方の壁部は、前記ピラーの骨格部材側の端部とドア側の端部のいずれかに連結されている請求項3に記載の車両の前部構造。
【請求項5】
前記一方の壁部には、その車両上下方向への変形を促す脆弱部が形成されている請求項4に記載の車両の前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンルーム側に設けられた骨格部材と、車室側に設けられたドアとの間に、車両上下方向に延びるピラーが配設されている車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両の前部構造が特許文献1に記載されている。この車両では、エンジンルームの上部骨格が、車両前後方向に延びるエプロンメンバ(骨格部材に相当)で形成されている。また車両の車室には、その車両ボディに設けられたドア開口部が、フロントドアによって開閉可能に構成されている。このフロントドアは、そのベルトラインに沿うように内設されたドアベルトラインリンフォースで補強されている。そしてドアベルトラインリンフォースとエプロンメンバとは車両の高さ方向における配置位置が概ね一致している。
【0003】
そしてエプロンメンバと閉じ状態のフロントドアとの間には、車両上下方向に延びるフロントピラーが配設されている。このフロントピラーは、ピラーインナとピラーアウタとが接合されることで中空筒状に形成されていると共に、その内部に配設されたバルクヘッド(補強部材に相当)で補強されている。このバルクヘッドは、車両上下方向に長尺な矩形に形成されていると共に、エプロンメンバ側からドアベルトラインリンフォース側に延びるように配置されている。またバルクヘッドは、断面コ字形に形成されており、その上縁側と下縁側とが車幅方向に略直角に曲げられることで上下の横側壁が形成されている。そして上下の横側壁は、車両前後方向における長さ寸法が等しくなるように形成されて、それぞれフロントピラーの前端部に連結されている。上記した構成では、車両前突時(前面衝突時等)の衝撃荷重が、エプロンメンバからフロントピラー(バルクヘッドで補強された部分)を通じてドアベルトラインリンフォースに伝達されるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-271761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで上記した車両では、車両衝突時の衝撃荷重がフロントピラーに加えられた際に、このフロントピラーの適所を変形させたいとの要請がある。例えば微小ラップ衝突時等の衝撃荷重がフロントピラーに加えられた場合、この衝撃荷重をフロントピラーの前端部の変形で吸収できるようになる。更に車両前突時の衝撃荷重を低減することで、このフロントピラーに内設されたバルクヘッドが車両後側に過度に動き難くなり、フロントピラーの意図しない箇所の変形が抑制される。しかし上記したフロントピラーでは、そのバルクヘッドが、上下の横側壁の長さが等しい矩形状に形成されて、フロントピラーの前端部に連結されている。このため上記した構成では、車両前突時におけるフロントピラーの前端部(適所)の変形が抑制されるなどして、その衝撃吸収性の確保に手間取るおそれがあった。本発明は上述の点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、骨格部材とドア間の荷重伝達性と、ピラーの衝撃吸収性とをより確実に確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、第1発明の車両の前部構造は、エンジンルームの骨格を構成する骨格部材と、車室のドア開口部を開閉するドアとの間に、車両上下方向に延びるピラーが配設されている。この種の構成では、骨格部材とドア間の荷重伝達性と、ピラーの衝撃吸収性とをより確実に確保することが望ましい。そこで本発明のピラーには、骨格部材とドアとに渡される方向に延びる荷重伝達部が設けられていると共に、荷重伝達部は、車両上下方向における幅寸法が、骨格部材側とドア側とで異なっている。本発明の車両の前部構造では、荷重伝達部がピラーに設けられることで、このピラーの骨格部材とドア間の荷重伝達性を確保している。そして上記した前部構造では、荷重伝達部の車両上下方向の幅寸法に差を設けることで、ピラーの骨格部材側又ドア側のいずれかの部分(適所)が荷重伝達部に極力邪魔されることなく変形できるようになる。
【0007】
第2発明の車両の前部構造は、第1発明の車両の前部構造において、荷重伝達部は、車両上下方向における幅寸法が骨格部材側で相対的に小さくなっている。本発明では、荷重伝達部の車両上下方向の幅寸法を骨格部材側で小さくすることにより、車両前突時の衝撃吸収性の確保に資する構成となる。
【0008】
第3発明の車両の前部構造は、第1発明又は第2発明の車両の前部構造において、荷重伝達部には、骨格部材とドアとに渡される方向に延びる補強部材が固定されている。そして補強部材は、渡される方向に延びる上下一対の壁部を有すると共に、上下一対の壁部の渡される方向における長さ寸法を異ならせることで、荷重伝達部の車両上下方向における幅寸法を骨格部材側とドア側とで異ならせている。本発明では、荷重伝達部を構成する補強部材に上下一対の壁部を設けることで、骨格部材とドア間の荷重伝達性を更に確実に確保することができる。そのうえで上下一対の壁部の渡される方向における長さ寸法を異ならせることにより、ピラーの骨格部材側又ドア側のいずれかの部分を更に確実に変形し易くすることができる。
【0009】
第4発明の車両の前部構造は、第3発明の車両の前部構造において、上下一対の壁部のいずれか一方の壁部は、ピラーの骨格部材側の端部とドア側の端部とに連結されていると共に、一方とは異なるいずれか他方の壁部は、ピラーの骨格部材側の端部とドア側の端部のいずれかに連結されている。本発明では、一方の壁部を、ピラーの骨格部材側の端部とドア側の端部とに連結することで、荷重伝達性の確保に一層確実に資する構成となる。そのうえで他方の壁部の連結箇所を限定することにより、ピラーの骨格部材側又はドア側のいずれかの部分を一層確実に変形し易くすることができる。
【0010】
第5発明の車両の前部構造は、第4発明の車両の前部構造において、一方の壁部には、その壁部の車両上下方向への変形を促す脆弱部が形成されている。本発明では、車両衝突時に、脆弱部の働きで一方の壁部の変形を促すことにより、ピラーの優れた衝撃吸収性の確保に資する構成となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る第1発明によれば、骨格部材とドア間の荷重伝達性と、ピラーの衝撃吸収性とをより確実に確保することができる。また第2発明によれば、車両前突時におけるピラーの衝撃吸収性をより確実に確保することができる。また第3発明によれば、荷重伝達性と衝撃吸収性を更に確実に確保することができる。また第4発明によれば、荷重伝達性と衝撃吸収性を一層確実に確保することができる。そして第5発明によれば、ピラーの優れた衝撃吸収性の確保に資する構成となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】車両の前部の概略斜視図である。
図2】車両の骨格部分を示す車両外側の概略斜視図である。
図3】車両の骨格部分を示す車両内側の概略斜視図である。
図4図2のIV-IV線断面図である。
図5】荷重伝達部を示すピラーの車両内側の概略透視側面図である。
図6】補強部材の脆弱部を示すピラーの概略透視斜視図である。
図7】衝撃荷重の加えられた車両の車両内側の概略透視側面図である。
図8】衝撃荷重の加えられた荷重伝達部の概略拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を、図1図8を参照して説明する。各図には、車両の前後方向と左右方向(車幅方向)と上下方向(車両の高さ方向)を示す矢線を適宜図示する。なお各図では、便宜上、車両の左側の部材のみに対応する符号を付す。また各図では、車両の前部構造の主構成を図示し、その他の図示を省略又は簡略化して図示する。
【0014】
先ず、図1及び図2を参照して車両2の前部の概要について説明する。図1に示す車両2には、その車室R前部の車幅方向両側(左右)に、フロントドア10により開閉されるドア開口部3が設けられている。また左右のドア開口部3の前端縁には、それぞれフロントピラー20が立設されている。そして左右のフロントピラー20によってルーフパネル(図示省略)の前部が支持されている。また左右のフロントピラー20等とルーフパネルとによって囲まれた位置にフロントガラス5が設けられている。ここでフロントピラー20は、図1及び図2を参照して、ドア開口部3の車両前側で車両上下方向に延びるピラー支柱部21を有している。このピラー支柱部21(詳細後述)は、フロントドア10のベルトラインBRから下側の部分がフェンダパネル4によって覆われている。
【0015】
また図1に示す左右のフェンダパネル4の間には、車両2のエンジンルームERを開閉可能に構成されたエンジンフード6が設けられている。このエンジンルームERの下部には、図2に示すように車両の前輪(図示省略)を収納するホイールハウス7が設けられている。またホイールハウス7の車幅方向外側(左側)には、エンジンルームERの上部骨格を構成するアッパメンバ8が縦壁状に設けられている。そして図1及び図2を参照して、アッパメンバ8は、その車両外側がフェンダパネル4によって覆われた状態で、車両前後方向、即ち、ピラー支柱部21の上部側に向かって延びるように配置されている。
【0016】
ここで車両2では、図3に示す車室R内の前部に、パイプ状のインパネリインフォース9が車幅方向(左右)に延びるように設けられている。このインパネリインフォース9は、ステアリング(図示省略)、及びその他の部材を支持する骨材である。そしてインパネリインフォース9は、その左右両端がそれぞれ左右のフロントピラー20に固定されている。即ち、インパネリインフォース9の左右両端は、ピラー支柱部21の上部の後側にブラケット90を介して固定されている。
【0017】
[車両の前部構造]
そして図2に示す車両の前部構造では、エンジンルームER側に配設されたアッパメンバ8と、車室R側に配設されたフロントドア10との間に、フロントピラー20のピラー支柱部21が配設されている。ここでアッパメンバ8は、上記したようにエンジンルームERの上部骨格をなしており、エンジンルームERの骨格部材に相当する。また図1及び図2を参照して、フロントドア10は、そのベルトラインBRに沿って車両前後方向に延びるドアリンフォース11が内設されることで補強されている。そしてピラー支柱部21には荷重伝達部30(詳細後述)が設けられており、この荷重伝達部30が、車両前後方向においてアッパメンバ8とドアリンフォース11間に配置されている。
【0018】
上記した車両の前部構造では、車両衝突時等の衝撃荷重が、図2に示すピラー支柱部21の荷重伝達部30を介して、アッパメンバ8とドアリンフォース11間で伝達されるようになる。そしてこの種の車両の前部構造では、車両衝突時の衝撃吸収性を考慮して、フロントピラー20の適所を部分的に変形させたいとの要請がある。そこで本実施例では、後述する荷重伝達部30(補強部材40)にて、アッパメンバ8とフロントドア10間の荷重伝達性と、フロントピラー20の衝撃吸収性とを確保することとした。以下、車両の前部構造を、フロントピラー20、荷重伝達部30(補強部材40)の順に詳述する。
【0019】
[フロントピラー(ピラー)]
先ず、図2に示すフロントピラー20では、上記したようにピラー支柱部21が車両上下方向に延びるように立設されている。ここでピラー支柱部21の下端部は、ドア開口部3の下縁部を構成するロッカー100に連結されている。またピラー支柱部21の上部には、固定ガラス用の窓枠ピラー25が設けられている。この窓枠ピラー25は、側面視で略三角形状に形成されており、車両上側且つ後側に向けて斜めに延びる後部ピラー26を有している。そして後部ピラー26の上端部は、ルーフパネルの左右両端を支持するルーフサイドレール101に連結され、後部ピラー26の下端部は、ピラー支柱部21の上端部に連結されている。
【0020】
また図2に示すピラー支柱部21は、その前端部201側がエンジンルームER側のホイールハウス7とアッパメンバ8とに連続している。そしてピラー支柱部21の前端部201の上部側に、骨格部材としてのアッパメンバ8の後端部8Eが連結されている。またピラー支柱部21の後端部202側には、閉じ状態のフロントドア10が配置されている。そしてピラー支柱部21の上部後側には、フロントドア10のドアリンフォース11が車両前後方向に延びるように配置されている。こうして上記した構成では、ピラー支柱部21の上部側が、アッパメンバ8とドアリンフォース11間に介在されるようになる。なおアッパメンバ8の後端部8Eは、ドアリンフォース11の配置位置よりもやや低い高さ位置でピラー支柱部21に連結されている。
【0021】
そしてピラー支柱部21は、図4に示すようにピラーインナパネル22とピラーアウタパネル23とが互いの周縁部分で接合されて構成されている。ここでピラーインナパネル22は、車幅方向外側(左側)が解放された断面横U字形に形成されており、その周縁部分が車幅方向外側に略直角に曲げられている。このピラーインナパネル22の周縁部分がピラーアウタパネル23に溶接等により接合されることで、ピラー支柱部21が中空筒状に形成されるようになる。そしてピラー支柱部21の上部側には、ピラーインナパネル22とピラーアウタパネル23とで囲まれた空間部内に、後述の荷重伝達部30を構成する補強部材40が内設されている。
【0022】
[荷重伝達部]
次に、荷重伝達部30は、図4に示すピラー支柱部21に対して後述の補強部材40が内設されることで形成されており、その他のピラー部分に比して剛性が高められている。この荷重伝達部30(補強部材40)は、図5に示すようにピラー支柱部21の上部側に設けられていると共に、アッパメンバ8とフロントドア10とに渡される方向、即ち、車両前後方向に延びるように形成されている。そして荷重伝達部30は、その高さ位置がフロントドア10のドアリンフォース11に概ね一致する位置に設けられることで、アッパメンバ8よりもやや高い高さ位置に配置されている。
【0023】
[補強部材]
そして補強部材40は、図4に示すように車幅方向外側(左側)が解放された断面横U字形に形成されて、ピラーアウタパネル23側に固定されている。そして荷重伝達部30では、その補強部材40によってピラー支柱部21の断面形状が保持されることにより、その他のピラー部分に比して高剛性となっている。また補強部材40は、図4及び図5を参照して、上下一対の壁部41,42と、この上下の壁部41,42間に渡された天井壁部43とから形成されている。ここで天井壁部43は、車両前後方向に延びる板状に形成されており、この天井壁部43の上下の縁部が車幅方向外側に曲げられることで上下の壁部41,42が形成されている。そして図5に示す上下の壁部41,42は、車両上下方向に適宜の間隔をあけて、それぞれ車両前後方向に直線的に延びている。
【0024】
[上下の壁部(一方の壁部、他方の壁部)]
ここで図4及び図5に示す上側の壁部41は、その上周縁部410が車両上側に曲げられており、この曲げられた上周縁部410でピラーアウタパネル23に溶接等で固定されている。そして補強部材40では、天井壁部43と上側の壁部41と上周縁部410とが断面クランク状に連続している。これにより、天井壁部43と上側の壁部41間と、上側の壁部41と上周縁部410間とに、それぞれ稜線Xが車両前後方向に延びるように形成されている(各図では、便宜上、各稜線に共通の符号Xを付す)。また下側の壁部42も、その下周縁部420が車両下側に曲げられており、この曲げられた下周縁部420でピラーアウタパネル23に固定されている。そして下側の壁部42側にも、上側の壁部41側と同様に一対の稜線Xが形成されている。こうして補強部材40では、その上下の壁部41,42側にそれぞれ一対の稜線Xを形成して剛性を確保することにより、優れた荷重伝達性の確保に資する構成となっている。
【0025】
そして図5に示す補強部材40では、上側の壁部41が一方の壁部に相当し、車両前後方向に長尺に形成されている。この上側の壁部41は、ピラー支柱部21(フロントピラー20)の前端部201と後端部202間に渡されるように、車両前後方向の長さ寸法が調節されている。そして上側の壁部41では、その上周縁部410の前端が、ピラー支柱部21の前端部201に連結されていると共に、その上周縁部410の後端が、ピラー支柱部21の後端部202に連結されている。また下側の壁部42は、他方の壁部に相当し、上側の壁部41に比して車両前後方向の長さ寸法が短尺化されることで、ピラー支柱部21との連結箇所が限定されている。即ち、下側の壁部42では、その下周縁部420の後端がピラー支柱部21の後端部202に連結されている。一方、下側の壁部42の前端42Eは、ピラー支柱部21の前端部201よりも車両後側に配置され、この前端部201に対して非連結状態となっている。
【0026】
[荷重伝達部の車両上下方向における幅寸法]
そして図5に示す荷重伝達部30では、上記した補強部材40の上下の壁部41,42の長さ寸法が異なっており、下側の壁部42が相対的に短尺である。また天井壁部43の前部には切欠き部位44が形成されており、この切欠き部位44では天井壁部43の前下側が四半円弧状に切り欠かれている。また切欠き部位44は、上側の壁部41から下側の壁部42に向かうにつれて次第に車両後側に曲げられた円弧状の縁部45を有している。この縁部45は、荷重伝達部30の車両下側の端部を構成していると共に、下側の壁部42側の稜線Xを縦断することで当該部分を弱体化させている。そして上記した構成によると、荷重伝達部30の車両上下方向の幅寸法(W1,W2)が、アッパメンバ8側とフロントドア10側とで異なるようになる。即ち、荷重伝達部30のフロントドア10側の幅寸法W1は、上側の壁部41と下側の壁部42間の上下の距離で規定される。また荷重伝達部30の幅寸法は、切欠き部位44によって車両前側に向かうにつれて次第に小さくなる。そして荷重伝達部30の前端において、上側の壁部41と切欠き部位44の縁部45の上下の距離、即ち、荷重伝達部30のアッパメンバ8側の幅寸法W2が最も小さくなる。こうして荷重伝達部30の前下側では、そのアッパメンバ8側の幅寸法W2が相対的に小さくされることで、ピラー支柱部21の前端部201との間に部分的な隙ができるようになる(図5では、下側の壁部42の前端42Eと、ピラー支柱部21の前端部201との間の部分に隙を示す符号Gを付す)。
【0027】
[脆弱部]
そして図5及び図6を参照して、上側の壁部41には、その車両上下方向への変形を促す脆弱部50が設けられている。この脆弱部50は、上側の壁部41を局部的に車両下側に盛り上がらせる方向に変形させることで形成されており、上側の壁部41を車幅方向(左右)に横断するように設けられている。また脆弱部50は、上記した切欠き部位44の車両上側に設けることができ、車両前後方向において下側の壁部42の前端42Eと同位置又はそれよりも車両前側に設けることができる。そして上記した構成では、車両前突時に比較的大きな衝撃荷重(大荷重)が上側の壁部41に加えられた場合、上側の壁部41の前端側の部分が、脆弱部50を基点に曲がり変形できるようになる(図8参照)。
【0028】
[フロントピラーの荷重伝達部の働き]
図2に示す車両の前部構造では、ピラー支柱部21の上部側が、エンジンルームER側のアッパメンバ8(骨格部材)と、車室R側のドアリンフォース11(フロントドア10)間に介在されている。そしてピラー支柱部21の上部側には、図5に示すように、アッパメンバ8(骨格部材)とフロントドア10とに渡される方向に延びる荷重伝達部30が設けられている。この荷重伝達部30では、その補強部材40の上側の壁部41が、フロントピラー20の前端部201と後端部202とに連結されている。このため車両前突時(前面衝突時)の衝撃荷重は、車両下側のアッパメンバ8からピラー支柱部21の荷重伝達部30を通じて車両上側のドアリンフォース11に伝達されるようになる。
【0029】
そして図5に示す車両の前部構造では、微小ラップ衝突時等の衝撃吸収性を考慮して、フロントピラー20の前端部201側を変形させたいとの要請がある(図7参照)。そこでフロントピラー20には、上記したように荷重伝達部30が設けられていると共に、荷重伝達部30は、車両上下方向における幅寸法(W1,W2)が、アッパメンバ8側とフロントドア10側とで異なっている。上記した構成では、荷重伝達部30の車両上下方向の幅寸法に差を設けることで、フロントピラー20のアッパメンバ8側の部分を変形し易くすることができる。そこで以下に、微小ラップ衝突時のフロントピラー20の挙動を、荷重伝達部30の働きと共に具体的に説明する。
【0030】
[車両衝突時におけるフロントピラーの挙動]
上記した構成では、微小ラップ衝突時の衝撃荷重が、先ず、図5に示す車両下側のアッパメンバ8からピラー支柱部21の上部(荷重伝達部30)に伝達される。そしてピラー支柱部21では、荷重伝達部30の車両上下方向の幅寸法W2がアッパメンバ8側で小さくされることにより、この荷重伝達部30の前下側とピラー支柱部21の前端部201との間に隙(G)が設けられている。これにより、図7に示すように衝撃荷重Fを受けたピラー支柱部21の前端部201は、荷重伝達部30との間の隙(G)を詰めるように車両後側に変形できるようになる。また荷重伝達部30は、その下側の壁部42の長さ寸法が小さくされ且つ切欠き部位44が設けられた状態で、アッパメンバ8の上側に配置されている。このためピラー支柱部21の前端部201は、アッパメンバ8との連結箇所から荷重伝達部30の上側の壁部41に至る広い範囲で車両後側に変形できるようになる。
【0031】
こうして車両の前部構造では、図7に示す微小ラップ衝突時の衝撃荷重Fをフロントピラー20(ピラー支柱部21)の前端部201の変形で吸収できるようになり、衝撃吸収性の確保に資する構成となる。また衝撃荷重Fを低減することで、このフロントピラー20に内設された補強部材40が車両後側(車室側)に過度に動き難くなる。そして補強部材40の車両後側への移動を抑制することにより、フロントピラー20の意図しない箇所、例えば後部ピラー26の車両後側への座屈変形を抑制できるようになる。
【0032】
更に上記した構成では、図7に示すピラー支柱部21の前端部201の変形量を荷重伝達部30によって調整できるようになる。即ち、ピラー支柱部21の前端部201は、衝撃荷重Fを受けることで車両後側に所定量だけ変形したのち、補強部材40の下側の壁部42によって受けられる。こうしてピラー支柱部21の前端部201の変形が下側の壁部42で止められることで、この前端部201の過度の変形を抑制することができる。つづいてピラー支柱部21の変形後の前端部201を、荷重伝達部30(上下の壁部41,42)で受けることで、このピラー支柱部21からドアリンフォース11に衝撃荷重Fが伝達されるようになる。こうして荷重伝達部30の働きでピラー支柱部21の過度の変形を抑制することにより、このピラー支柱部21の上部後側の意図しない変形が抑制されて、当該部分に固定されたインパネリインフォース9が車両後側に動き難くなる。
【0033】
[脆弱部の働き]
次に図8を参照して、フロントピラー20(ピラー支柱部21の上部側)に比較的大きな衝撃荷重F(大荷重)が加えられた場合を説明する。このような場合には、ピラー支柱部21の前端部201を、更に広範囲にわたって変形させることが望ましい。そこで荷重伝達部30を構成する補強部材40では、その上側の壁部41に脆弱部50が設けられることで、この上側の壁部41の前端側の部分が、脆弱部50を基点に車両上側に変形し易くされている。これにより、ピラー支柱部21の前端部201は、上側の壁部41を曲がり変形させながら、更に広範囲にわたって変形できるようになる。
【0034】
以上説明した通り、本実施例の車両の前部構造では、荷重伝達部30がフロントピラー20に設けられることで、このフロントピラー20のアッパメンバ8(骨格部材)とフロントドア10間の荷重伝達性を確保している。そして上記した前部構造では、荷重伝達部30の車両上下方向の幅寸法に差を設けることで、フロントピラー20の適所が荷重伝達部30に極力邪魔されることなく変形できるようになる。即ち、本実施例では、荷重伝達部30の車両上下方向の幅寸法をアッパメンバ8側で小さくすることにより、車両前突時の衝撃吸収性の確保に資する構成となる。このため本実施例によれば、アッパメンバ8とフロントドア10間の荷重伝達性と、フロントピラー20の衝撃吸収性とを確保することができる。また上記した構成では、荷重伝達部30にて衝撃吸収性を確保できることから、フロントピラー20の意図しない箇所(後部ピラー26等)の過度の補強が不要となり、コストアップの抑制に資する構成となる。また同構成では、補強部材40の質量を下側の壁部42の短尺化と切欠き部位44の形成で低下させられるようになり、車両2の質量低減に資する構成となる。
【0035】
さらに本実施例では、荷重伝達部30を構成する補強部材40に上下一対の壁部41,42を設けることで、アッパメンバ8(骨格部材)とフロントドア10間の荷重伝達性を更に確実に確保することができる。そのうえで上下一対の壁部41,42の渡される方向における長さ寸法を異ならせることにより、フロントピラー20のアッパメンバ8側の部分を更に確実に変形し易くすることができる。また本実施例では、上側の壁部41(一方の壁部)を、フロントピラー20の前端部201と後端部202(アッパメンバ側の端部とフロントドア側の端部と)とに連結することで、荷重伝達性の確保に一層確実に資する構成となる。そのうえで下側の壁部42(他方の壁部)の連結箇所を限定することにより、フロントピラー20のアッパメンバ8側の部分を一層確実に変形し易くすることができる。そして本実施例では、車両衝突時に、脆弱部50の働きで上側の壁部41の変形を促すことにより、フロントピラー20の優れた衝撃吸収性の確保に資する構成となる。
【0036】
本実施形態の車両の前部構造は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。本実施形態では、荷重伝達部の構成を例示したが、荷重伝達部の構成を限定する趣旨ではない。例えばドア側に加えられた衝撃荷重が骨格部材側に伝達される場合がある。この場合には、荷重伝達部の車両上下方向の幅寸法をドア側で小さくする。そして下側の壁部の前端を、フロントピラーの前端部に連結し、下側の壁部の後端を、フロントピラーの後端部よりも車両前側に配置させておく。また切欠き部位を、補強部材の天井壁部の後下側に設けておく。これにより、ドア側に加えられた衝撃荷重を、ピラーのドア側の部分(後端部)を変形させて吸収できる。なおドアは、その荷重伝達性が確保されておればよく、必ずしもドアリンフォース(ドア側の骨格部材)を有する必要はない。
【0037】
また荷重伝達部の幅寸法は、上下の壁部の少なくとも一方を車両上下方向に曲げることでも変えることができる。例えば図4及び図5を参照して、補強部材の断面形状を維持しつつ、その下側の壁部を、アッパメンバ側に向かうにつれて車両上側に連続的又は段差的に曲げることで、荷重伝達部の幅寸法を変えることができる。また上側の壁部と下側の壁部の少なくとも一方を互いに近づく方向に曲げることでも荷重伝達部の幅寸法を変えることができる。なお補強部材は、荷重伝達部の剛性を確保できるように形成されていればよく、必ずしも天井壁部を有する必要はないが、一対の壁部は有していることが望ましい。
【0038】
また本実施形態の補強部材では、上側の壁部を長尺な一方の壁部とし、下側の壁部を短尺な他方の壁部とする例を説明した。これとは異なり、下側の壁部を長尺な一方の壁部とし、上側の壁部を短尺な他方の壁部とし、さらに切欠き部位を、強部材の車両上側に設けることができる。上記した構成は、アッパメンバ(骨格部材)が相対的に高い高さ位置に配置されている場合や、アッパメンバの車両上側に荷重伝達を担う別の骨格部材が配設されている場合等に適している。なお上記した構成は、ドア側に加えられた衝撃荷重が骨格部材側に伝達する場合にも適用できる。また一方の壁部と他方の壁部とは、ピラーの骨格部材側の端部とドア側の壁部の少なくとも一方に連結されることが望ましいが、それに限定されるわけではない。また脆弱部は、上側の壁部を車両上側に盛り上がらせたり、厚み方向に貫通する孔部や薄肉部を設けたりすることでも形成できる。そして一方の壁部には、複数又は単数の脆弱部を設けることができ、また脆弱部を省略することも可能である。
【符号の説明】
【0039】
2 車両
3 ドア開口部
4 フェンダパネル
5 フロントガラス
6 エンジンフード
7 ホイールハウス
8 アッパメンバ(本発明の骨格部材)
8E アッパメンバの後端部
9 インパネリインフォース
10 フロントドア(本発明のドア)
11 ドアリンフォース
20 フロントピラー(本発明のピラー)
21 ピラー支柱部
201 前端部(本発明のピラーの骨格部材側の端部)
202 後端部(本発明のピラーのドア側の端部)
22 ピラーインナパネル
23 ピラーアウタパネル
25 窓枠ピラー
26 後部ピラー
30 荷重伝達部
40 補強部材
41 上側の壁部(本発明の一方の壁部)
410 上周縁部
42 下側の壁部(本発明の他方の壁部)
42E 下側の壁部の前端
420 下周縁部
43 天井壁部
44 切欠き部位
45 (切欠き部位の)縁部
50 脆弱部
90 ブラケット
100 ロッカー
101 ルーフサイドレール
BR ベルトライン
ER エンジンルーム
R 車室
X 稜線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8