(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101171
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】気体貯蔵放出化合物
(51)【国際特許分類】
B01J 20/22 20060101AFI20240722BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20240722BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20240722BHJP
C08G 79/00 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
B01J20/22 A
B01J20/30
B01J20/34 E
B01J20/34 H
C08G79/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004958
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】有村 智朗
【テーマコード(参考)】
4G066
4J030
【Fターム(参考)】
4G066AB05A
4G066AB06A
4G066AB30A
4G066AC21B
4G066AC31B
4G066BA03
4G066BA09
4G066BA16
4G066BA22
4G066BA38
4G066CA27
4G066CA35
4G066CA38
4G066CA39
4G066CA51
4G066DA01
4G066FA03
4G066FA05
4G066GA01
4G066GA14
4G066GA18
4G066GA40
4J030CA02
4J030CB02
4J030CC06
4J030CD11
4J030CE02
4J030CF09
4J030CG10
4J030CG29
(57)【要約】 (修正有)
【課題】各種の気体の貯蔵・放出特性に優れ、気体の貯蔵・放出に際して必要な加圧・減圧等の条件を温和にすることができる、新規な気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料を提供する。
【解決手段】式(1A)で表される構造単位(R
1は2価の有機基)と、式(2A)で表される構造単位とが、-B(-O-)
2で表されるホウ素-酸素結合で結合している構造単位を有する、気体貯蔵放出化合物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1A);
【化1】
(式(1A)中、R
1は、2価の有機基である。)
で表される構造単位と、
式(2A);
【化2】
で表される構造単位とが、-B(-O-)
2で表されるホウ素-酸素結合で結合している構造単位を有する、気体貯蔵放出化合物。
【請求項2】
前記式(1A)で表される構造単位が、式(1AA);
【化3】
(式(1AA)中、
n1及びn2は、互いに独立に、0から4の整数である。
R
11及びR
12は、互いに独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアルコキシ基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30のアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアシル基、炭素数4~40のアラルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数6~20のヘテロアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)からなる群より選ばれる基であり、R
11及び/又はR
12が複数ある場合、互いに同一であっても異なっていてもよい。
Xは、結合(無し)、-O-、-CO-、-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-CF
2-、-C(CF
3)
2-、-S-、-SO
2-、-COO-、-Ph-、-O-Ph-O-、-O-Ph-O-Ph-O-、-O-Ph-CO-Ph-O-、-O-Ph-CH
2-Ph-O-、-O-Ph-CH(CH
3)-Ph-O-、-O-Ph-C(CH
3)
2-Ph-O-、-O-Ph-CF
2-Ph-O-、-O-Ph-C(CF
3)
2-Ph-O-、-O-Ph-S-Ph-O-、-O-Ph-SO
2-Ph-O-及び-O-Ph-COO-Ph-O-で表される基(Phは、フェニレン基である。)である。)
で表される構造単位を含む、請求項1に記載の気体貯蔵放出化合物。
【請求項3】
前記気体貯蔵放出化合物が、前記式(1A)又は前記式(1AA)で表される構造単位6つと、前記式(2A)で表される構造単位6つとから構成される六角形構造単位を有する、請求項1又は2に記載の気体貯蔵放出化合物。
【請求項4】
式(1B);
【化4】
で表される化合物、及び
式(2B);
【化5】
で表される化合物、
を含む成分を反応させる、気体貯蔵放出化合物の製造方法。
【請求項5】
前記式(1B)で表される化合物が、式(1BA);
【化6】
(式(1BA)中、
n1は、0から4の整数である。
n2は、0から4の整数である。
R
11及びR
12は、互いに独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアルコキシ基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30のアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアシル基、炭素数4~40のアラルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数6~20のヘテロアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)からなる群より選ばれる基であり、R
11及び/又はR
12が複数ある場合、互いに同一であっても異なっていてもよい。
Xは、結合(無し)、-O-、-CO-、-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-CF
2-、-C(CF
3)
2-、-S-、-SO
2-、-COO-、-Ph-、-O-Ph-O-、-O-Ph-O-Ph-O-、-O-Ph-CO-Ph-O-、-O-Ph-CH
2-Ph-O-、-O-Ph-CH(CH
3)-Ph-O-、-O-Ph-C(CH
3)
2-Ph-O-、-O-Ph-CF
2-Ph-O-、-O-Ph-C(CF
3)
2-Ph-O-、-O-Ph-S-Ph-O-、-O-Ph-SO
2-Ph-O-及び-O-Ph-COO-Ph-O-で表される基(Phは、フェニレン基である。)である。)
で表される化合物を含む、請求項4に記載の気体貯蔵放出化合物の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の気体貯蔵放出化合物を含む、ガス貯蔵放出材料。
【請求項7】
ガスが、水素、二酸化炭素、窒素、希ガス、炭化水素ガスからなる群より選ばれる1種類以上である、請求項6に記載のガス貯蔵放出材料。
【請求項8】
ガスの貯蔵及び/又は放出が、加圧、減圧、昇温、降温、電位の印加及びエネルギー波の照射からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法により行われる、請求項6に記載のガス貯蔵放出材料。
【請求項9】
ガス貯蔵放出材料の形状が、粒子、繊維、フィルム、不織布、織布、多孔質体、成形体である、請求項6に記載のガス貯蔵放出材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の気体を貯蔵及び放出することができる気体貯蔵放出化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化のような環境問題を解決するために、これまでの化石燃料に代わる、クリーンなエネルギー源の開発が進められている。このうち、水素は、資源が多様かつ豊富であり、燃焼性能特性・発熱量が良好であり、燃料電池や内燃機関による発電時に二酸化炭素が排出されない低環境負荷であることから、エネルギー源として有望なものの一つとされている。
【0003】
水素をエネルギー源として用いるためには、変動する需要に柔軟に対応して供給を行うことができる、水素の貯蔵・放出システムの構築が必要である。例えば、余剰電力を用いて水を電気分解して得られた水素を、利用施設へ輸送する水素サプライチェーンの構築が必要である。
しかし、水素は常温常圧で気体であるため、現在、タンクやボンベ等の容器を用い高圧水素ガスとして貯蔵されている。そのため、これまで水素を利用する場合、高圧水素や液化水素をタンクローリーにより輸送する必要があった。また、水素貯蔵施設においても、高圧水素ガスタンクなどの大規模なインフラの整備が必要であった。
【0004】
容器を用いた高圧水素ガスの貯蔵・放出システムに代えて、オンサイトで水素を使用する場合、水素と材料間の相互作用により低圧で大量かつ安全に貯蔵・放出できる、水素貯蔵材料を用いた水素貯蔵・放出システムが検討されている。水素貯蔵材料は、水素を選択的かつ可逆的に貯蔵及び放出できる材料である。水素貯蔵材料としては、水素吸蔵合金や機能性炭素材料(酸化グラフェン)が有望とされているが、水素貯蔵能力に問題がある。また、不純物ガスによる性能低下や、レアメタルや高純度金属を原材料として使用することに伴うコスト上昇等の点において、改善の余地がある。さらに、水素吸蔵合金や機能性炭素材料(酸化グラフェン)は、加工性が悪く、水素貯蔵時には冷却が、水素放出時には加熱が必要であり、また、水素吸蔵合金を構成するチタンやマンガンなどは、密度が4~8g/cm3と高いため水素貯蔵材料の重量が大きくなり、取り扱い性の点で問題がある。
【0005】
水素貯蔵放出化合物の例としては、以下のような特許がこれまで出願されてきた。
特許文献1には、水素化マグネシウムを形成することにより水素の貯蔵を行い、水素化マグネシウムと水を反応させて水素を放出させて、水素燃料電池の発電等のために使用することが開示されている。しかしながら、水素を発生させた後、水酸化マグネシウムが残渣として残り、実用化に際しては、残渣としての水酸化マグネシウムを再活性化させる処理時にエネルギーが必要となるという問題がある。
特許文献2には、第一の金属イオンが亜鉛イオン(Znイオン)であり、配位子が2,7-ジカルボキシルピレンのアニオンであり、第二の金属イオンがベリリウムイオン(Beイオン)又はマグネシウムイオン(Mgイオン)である有機金属構造体(MOF)を含む、水素ガス等のガス吸着材が開示されている。このガス吸着材は、従来のガス吸着材と比較して、水素ガス等のガス吸蔵量を増大させることが可能であるとされている。しかしながら、有機金属構造体(MOF)は水分により分解しやすいため、耐久性の点で問題がある。
特許文献3には、電子スピン共鳴法で測定される電子スピン密度が1×1013~5×1017スピン/gである共役系高分子からなる水素吸蔵材料が開示されている。しかしながら、この水素吸蔵材料は、水素貯蔵率が小さいため、燃料電池システムを十分な時間駆動させることは困難である。
特許文献4には、複数の単位格子から形成される多孔性配位高分子であって、各単位格子の各頂点がZn4Oクラスターからなり、各単位格子の各辺が-OOC-C≡C-COO-基からなり、単位格子が少なくとも1個の水素分子を含有している多孔性配位高分子を用いた水素分子貯蔵方法が開示されている。しかしながら、この多孔性配位高分子は、反応性が高く、酸化・還元等の化学反応を起こし易いため、多孔性配位構造が安定でないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6974623号公報
【特許文献2】特開2020-196668号公報
【特許文献3】特開2018-199106号公報
【特許文献4】特開2017-200903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は、各種の気体の貯蔵・放出特性に優れ、気体の貯蔵・放出に際して必要な加圧・減圧等の条件を温和にすることができ、製造が容易であり、安定性・耐久性が高い、新規な気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。この結果、特定の構造単位を有する気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料が、各種のガス、特に水素の貯蔵・放出特性に優れており、これを用いることにより上記課題が解決できることを見出した。
【0009】
すなわち、上記課題を解決する本発明には、以下の構成が主に含まれる。
[項1]
式(1A);
【化1】
(式(1A)中、R
1は、2価の有機基である。)
で表される構造単位と、
式(2A);
【化2】
で表される構造単位とが、-B(-O-)
2で表されるホウ素-酸素結合で結合している構造単位を有する、気体貯蔵放出化合物。
[項2]
前記式(1A)で表される構造単位が、式(1AA);
【化3】
(式(1AA)中、
n1及びn2は、互いに独立に、0から4の整数である。
R
11及びR
12は、互いに独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアルコキシ基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30のアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアシル基、炭素数4~40のアラルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数6~20のヘテロアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)からなる群より選ばれる基であり、R
11及び/又はR
12が複数ある場合、互いに同一であっても異なっていてもよい。
Xは、結合(無し)、-O-、-CO-、-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-CF
2-、-C(CF
3)
2-、-S-、-SO
2-、-COO-、-Ph-、-O-Ph-O-、-O-Ph-O-Ph-O-、-O-Ph-CO-Ph-O-、-O-Ph-CH
2-Ph-O-、-O-Ph-CH(CH
3)-Ph-O-、-O-Ph-C(CH
3)
2-Ph-O-、-O-Ph-CF
2-Ph-O-、-O-Ph-C(CF
3)
2-Ph-O-、-O-Ph-S-Ph-O-、-O-Ph-SO
2-Ph-O-及び-O-Ph-COO-Ph-O-で表される基(Phは、フェニレン基である。)である。)
で表される構造単位を含む、項1に記載の気体貯蔵放出化合物。
[項3]
前記気体貯蔵放出化合物が、式(1A)又は式(1AA)で表される構造単位6つと、式(2A)で表される構造単位6つとから構成される六角形構造単位を有する、項1又は2に記載の気体貯蔵放出化合物。
[項4]
式(1B);
【化4】
で表される化合物、及び
式(2B);
【化5】
で表される化合物、
を含む成分を反応させる、気体貯蔵放出化合物の製造方法。
[項5]
前記式(1B)で表される化合物が、式(1BA);
【化6】
(式(1BA)中、
n1は、0から4の整数である。
n2は、0から4の整数である。
R
11及びR
12は、互いに独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアルコキシ基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30のアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアシル基、炭素数4~40のアラルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数6~20のヘテロアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)からなる群より選ばれる基であり、R
11及び/又はR
12が複数ある場合、互いに同一であっても異なっていてもよい。
Xは、結合(無し)、-O-、-CO-、-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-CF
2-、-C(CF
3)
2-、-S-、-SO
2-、-COO-、-Ph-、-O-Ph-O-、-O-Ph-O-Ph-O-、-O-Ph-CO-Ph-O-、-O-Ph-CH
2-Ph-O-、-O-Ph-CH(CH
3)-Ph-O-、-O-Ph-C(CH
3)
2-Ph-O-、-O-Ph-CF
2-Ph-O-、-O-Ph-C(CF
3)
2-Ph-O-、-O-Ph-S-Ph-O-、-O-Ph-SO
2-Ph-O-及び-O-Ph-COO-Ph-O-で表される基(Phは、フェニレン基である。)である。)
で表される化合物を含む、項4に記載の気体貯蔵放出化合物の製造方法。
[項6]
項1~3のいずれか1項に記載の気体貯蔵放出化合物、又は、項4又は5に記載の気体貯蔵放出化合物の製造方法により得られる気体貯蔵放出化合物を含む、ガス貯蔵放出材料。
[項7]
ガスが、水素、二酸化炭素、窒素、希ガス、炭化水素ガスからなる群より選ばれる1種類以上である、項6に記載のガス貯蔵放出材料。
[項8]
ガスの貯蔵及び/又は放出が、加圧、減圧、昇温、降温、電位の印加及びエネルギー波の照射からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法により行われる、項6又は7に記載のガス貯蔵放出材料。
[項9]
ガス貯蔵放出材料の形状が、粒子、繊維、フィルム、不織布、織布、多孔質体、成形体である、項6~8のいずれか1項に記載のガス貯蔵放出材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、各種の気体の貯蔵・放出特性に優れた新規な気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料が提供される。
本発明の気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料は、特に、水素貯蔵・放出特性が非常に優れている。
本発明の気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料は、気体の貯蔵・放出に際して必要な加圧・減圧等の条件を温和にすることができるため、酸化グラフェン等の炭素系材料を用いた場合と比較して、加圧や減圧等を行う周辺機器類のサイズ等を小さくすることが可能である。さらに、建物内部に安全に水素を貯蔵することが可能となる。
本発明の気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料は、水素吸蔵合金や機能性炭素材料(酸化グラフェン)よりも水素を多量に貯蔵できて密度が低い。また、水素吸蔵合金や機能性炭素材料(酸化グラフェン)は、水素を貯蔵させる場合に冷却が、放出させる場合に加温が、それぞれ必要になるが、本発明の気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料の場合は、水素を貯蔵させる場合の冷却時や放出させる際の加温時に必要とするエネルギーが小さく、水素貯蔵・放出の制御が容易である。
【0011】
本発明の気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料は、市販の化合物原料を用い、簡便な合成方法により得られる高分子材料であることから、安価で汎用性が高い。また、水素吸蔵合金よりも密度が低い高分子材料であるから、取扱性に優れ、効率の良い水素輸送が可能となる。さらに、水素吸蔵合金や機能性炭素材料(酸化グラフェン)を用いた場合、水素を貯蔵させる場合に冷却が必要であり、放出させる際に加温が必要になるが、本発明の気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料は、水素の貯蔵・放出時における、加熱冷却、加圧減圧等の条件を温和なものにできることから、低いエネルギー利用下にて使用できる。
本発明の気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料は、安定性・耐久性が高く、長期の使用が可能であり、使用条件を厳しくする必要がなく、取り扱い性が良好である。
そして、余剰電力により水を電気分解して得られた水素を、高分子貯蔵タンク内部に収着させておき、そのタンクをトラックに積載し、水素利用施設へ輸送する水素サプライチェーンを安全に安価で構築することが可能である。その際、本発明の気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料は、軽量な高分子材料から構成されているので、輸送時の燃料費の軽減につながり、取扱性も良好である。
【0012】
本発明の気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料が、水素ガス等のガスを貯蔵放出するメカニズムについて、本発明者は、以下のように推察している。
本発明の気体貯蔵放出化合物は、前記式(1A)で表される構造単位及び前記式(2A)で表される構造単位が-B(-O-)2で表されるホウ素-酸素結合を形成して高次構造を形成している。高次構造は、例えば三次元網状構造や式(3a)で表される六角形構造単位等を含み、高次構造に基づく直径2~5nm程度の内部空間(包摂内部空間)を備えている。当該内部空間(包摂内部空間)に気体、例えば、水素分子(水素ガス)が相互作用を維持しながら収着されることにより、気体、例えば、水素分子(水素ガス)を貯蔵放出する機能が発現するのではないかと推測している。なお、本発明は、この推測により本発明は何ら限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1に係る本発明の気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料と、比較例1に係る機能性炭素材料(酸化グラフェン)との水素貯蔵・放出特性を示す図。
【
図2】実施例1に係る本発明の気体貯蔵放出化合物の表面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の気体貯蔵放出化合物及びそれを含むガス貯蔵放出材料について説明する。
[気体貯蔵放出化合物]
本発明の気体貯蔵放出化合物は、式(1A);
【化7】
(式(1A)中、R
1は、2価の有機基である。)
で表される構造単位と、
式(2A);
【化8】
で表される構造単位とが、-B(-O-)
2で表されるホウ素-酸素結合で結合している構造単位を有する、気体貯蔵放出化合物である。
【0015】
式(1)で表される構造単位は、例えば、式(1B)で表されるジボロン酸化合物又はその反応性誘導体に基づくものとすることができる。
【化9】
(式(1B)中、R
1は、2価の有機基である。)
R
1基としては、例えば、炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、炭素数3~20の脂環族炭化水素基、炭素数6~30の芳香族炭化水素基、炭素数0~30の複素環基が挙げられる。
【0016】
本発明において、式(1)で表される構造単位は、例えば、メタンジボロン酸、1,2-エタンジボロン酸、1,3-プロパンジボロン酸、1,4-ブタンジボロン酸、1,5-ペンタンジボロン酸、1,6-ヘキサンジボロン酸、1,7-ヘプタンジボロン酸、1,8-オクタンジボロン酸、1,9-ノナンジボロン酸、1,10-デカンジボロン酸、1,11-ウンデカンジボロン酸、1,12-ドデカンジボロン酸、1,13-トリデカンジボロン酸、1,14-テトラデカンジボロン酸、1,15-ペンタデカンジボロン酸、1,16-ヘキサデカンジボロン酸、1,17-ヘプタデカンジボロン酸、1,18-オクタデカンジボロン酸、1,19-ノナデカンジボロン酸、1,20-エイコサンジボロン酸、2-オキサ-1,3-プロパンジボロン酸、3-オキサ-1,5-ペンタンジボロン酸、4-オキサ-1,7-ヘプタンジボロン酸、1,4-フェニレンジボロン酸、1,3-フェニレンジボロン酸、1,4-ナフタレンジボロン酸、1,3-ナフタレンジボロン酸、1,5-ナフタレンジボロン酸、1,7-ナフタレンジボロン酸、1,8-ナフタレンジボロン酸、2,5-ナフタレンジボロン酸、2,6-ナフタレンジボロン酸、2,7-ナフタレンジボロン酸、2,8-ナフタレンジボロン酸、アントラセンジボロン酸、フェナントレンジボロン酸、ナフタセンジボロン酸、フルオレンジボロン酸、ピレンジボロン酸、ペリレンジボロン酸からなる群より選ばれる1種類以上の化合物又はその反応性誘導体から得ることができる。これらのジボロン酸は、1つ以上の置換基を有していてもよく、置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。これらのジボロン酸化合物は、市販品を用いてもよく、また合成して得ることができる。
【0017】
また、本発明において、式(1)で表される構造単位は、式(1BA);
【化10】
(式(1BA)中、
n1は、0から4の整数である。
n2は、0から4の整数である。
R
11及びR
12は、互いに独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアルコキシ基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30のアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアシル基、炭素数4~40のアラルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数6~20のヘテロアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)からなる群より選ばれる基であり、R
11及び/又はR
12が複数ある場合、互いに同一であっても異なっていてもよい。
Xは、結合(無し)、-O-、-CO-、-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-CF
2-、-C(CF
3)
2-、-S-、-SO
2-、-COO-、-Ph-、-O-Ph-O-、-O-Ph-O-Ph-O-、-O-Ph-CO-Ph-O-、-O-Ph-CH
2-Ph-O-、-O-Ph-CH(CH
3)-Ph-O-、-O-Ph-C(CH
3)
2-Ph-O-、-O-Ph-CF
2-Ph-O-、-O-Ph-C(CF
3)
2-Ph-O-、-O-Ph-S-Ph-O-、-O-Ph-SO
2-Ph-O-及び-O-Ph-COO-Ph-O-で表される基(Phは、フェニレン基である。)である。)
で表される構造を有する化合物群より選ばれる1種類以上の化合物から得ることができる。
【0018】
式(1BA)で表される構造を有する化合物群に含まれる化合物としては、例えば、4,4’-ビフェニルジボロン酸、2,2’-ジメチル-4,4’-ビフェニルジボロン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジボロン酸、4,4’-ジフェニルケトンジボロン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジボロン酸、4,4’-ジフェニルメタンジボロン酸、4,4’-ジフェニル-メタンジボロン酸、2,2-ビス(4-ボロン酸フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-ボロン酸フェニル)プロパン、2,2-ビス[4-(4-ボロン酸フェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-ボロン酸フェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
本発明において、式(1)で表される構造単位は、前記式(1BA)で表される化合物の1種類以上から得られるものを含むことが好ましい。
【0019】
式(2A)で表される構造単位は、例えば、式(2B)で表される化合物又はその反応性誘導体から得ることができる。
【化11】
【0020】
式(2B)で表される化合物は、2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン又はその反応性誘導体である。式(2A)で表される構造単位を得るために用いられる式(2B)で表される化合物は、市販品を用いてもよく、また合成して得ることができる。本発明においては、反応性等の観点から、2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレンを用いることが好ましい。
【0021】
本発明の気体貯蔵放出化合物は、式(1A)及び(2A)で表される構造単位以外に、共重合単位を含んでいてもよい。
本発明の気体貯蔵放出化合物が含んでいてもよい共重合単位としては、例えば、次の式(3A)~(5A)で表され、式(1A)及び(2A)で表される構造単位以外の構造単位が挙げられる。
【化12】
(式(3A)~(5A)中、wは2~4の整数、xは1~3の整数、yは1又は2、zは1又は2、R
3はw+1価の有機基、R
4は2x+2価の有機基、R
5はy+2z価の有機基である。式(4A)は、前記式(2A)と同じではない。)
なお、式(1A)~(5A)で表される構造単位は、それぞれ、-B(-O-)
2で表されるホウ素-酸素結合で結合している。
【0022】
式(3A)で表される構造単位は、ボロン酸基を3つ以上有するポリボロン酸化合物又はその反応性誘導体から、式(4A)で表される構造単位は、式(2A)で表される構造単位を構成しないヒドロキシ基を2x+2個有するポリオール化合物又はその反応性誘導体から、式(5A)で表される構造単位は、ボロン酸基を1又は2個と、ヒドロキシ基を2個又は4個有する(ジ又はテトラ)ヒドロキシ(モノ又はジ)ボロン酸化合物又はその反応性誘導体から、それぞれ得ることができる。
【0023】
R3、R4及びR5としては、それぞれ独立に、例えば、炭素数2~30の2価の脂肪族炭化水素基(例えば、それぞれ独立に、-(CH2)2-、-(CH2)3-、-CH(CH3)CH2-、-CH2-C(CH3)2-CH2-、-(CH2)4-、-(CH2)6-、-(CH2)8-、-(CH2)10-、-(CH2)12-、-(CH2)18-、-(CH2)24-等)、炭素数3~20の2価の脂環族炭化水素基、炭素数6~20の2価の芳香族炭化水素基及び炭素数6~20でN及び/又はO及び/又はSを有する芳香族複素環基からなる群より選ばれる1つ以上の基が挙げられる。これらの基は、フッ素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~20のアルコキシ基(フッ素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数6~10のアリール基(フッ素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基(フッ素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~10のアシル基、炭素数6~10のヘテロアリール基(フッ素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~10のアルキル基(フッ素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)からなる群より選ばれる1つ以上の基である1つ以上の置換基で置換されていてもよい。好ましくは、それぞれ独立に、炭素数2~6のアルキレン基、フェニレン基等が挙げられる。
【0024】
本発明の気体貯蔵放出化合物は、式(1A)で表される構造単位及び式(2A)で表される構造単位のみから構成されていてもよい。また、式(1A)で表される構造単位及び式(2A)で表される構造単位に加えて、式(3A)~(5A)で表される構造単位を1種類以上含んでいてもよい。
気体貯蔵放出化合物中の全構造単位(式(1A)で表される構造単位、式(2A)で表される構造単位、式(3A)で表される構造単位、式(4A)で表される構造単位及び式(5A)で表される構造単位、以下、これらをまとめて「全構造単位」という場合がある。)の合計量に対する、式(1A)で表される構造単位の含有量は、例えば1モル%以上、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、例えば60モル%以下、好ましくは50モル%以下である。1モル%未満又は60モル%超の場合には、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
【0025】
気体貯蔵放出化合物中の全構造単位の合計量に対する、式(2A)で表される構造単位の含有量は、例えば1モル%以上、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、例えば60モル%以下、好ましくは50モル%以下である。1モル%未満又は60モル%超の場合には、高分子鎖内部の気体包摂空間が縮小するため気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
【0026】
気体貯蔵放出化合物中の全構造単位の合計量に対する、式(3A)で表される構造単位の含有量は、例えば30モル%以下、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。30モル%超の場合には、気体貯蔵放出化合物中の高分子鎖と気体分子との相互作用が弱くなるために気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
気体貯蔵放出化合物中の全構造単位の合計量に対する、式(4A)で表される構造単位の含有量は、例えば30モル%以下、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。30モル%超の場合には、高分子鎖内部における分子骨格の熱振動が大きくなり気体分子を包摂するメカニズムが効果を発揮しなくなるため、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
気体貯蔵放出化合物中の全構造単位の合計量に対する、式(5A)で表される構造単位の含有量は、例えば40モル%以下、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。40モル%超の場合には、気体貯蔵放出化合物中の高分子鎖が容易に酸化分解されるようになるため、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
【0027】
本発明の気体貯蔵放出化合物の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば5,000以上、好ましくは10,000以上であり、例えば3,000,000以下、好ましくは2,000,000以下、より好ましくは1,500,000以下である。重量平均分子量が5,000未満の場合、気体貯蔵放出化合物が液状になるおそれがあり、気体が気体貯蔵放出化合物の表面のみに吸着されることから貯蔵放出能力が低下するおそれがある。重量平均分子量が3,000,000を超えると、水素ガスによる脆性を発現するおそれがあり、気体貯蔵放出化合物の化学的安定性が失われるおそれがある。
【0028】
[気体貯蔵放出化合物の製造方法]
本発明の気体貯蔵放出化合物は、少なくとも、式(1B);
【化13】
(式(1A)中、R
1は、2価の有機基である。)
で表されるジボロン酸化合物又はその反応性誘導体を含むポリボロン酸成分と、式(2B);
【化14】
で表される2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン又はその反応性誘導体を含むポリオール成分とを、-B(-O-)
2で表されるホウ素-酸素結合を形成する重縮合反応させることで得ることができる。
【0029】
式(1B)で表されるジボロン酸化合物又はその反応性誘導体は、式(1BA);
【化15】
(式(1BA)中、
n1は、0から4の整数である。
n2は、0から4の整数である。
R
11及びR
12は、互いに独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアルコキシ基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30のアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアシル基、炭素数4~40のアラルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数6~20のヘテロアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)からなる群より選ばれる基であり、R
11及び/又はR
12が複数ある場合、互いに同一であっても異なっていてもよい。
Xは、結合(無し)、-O-、-CO-、-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-CF
2-、-C(CF
3)
2-、-S-、-SO
2-、-COO-、-Ph-、-O-Ph-O-、-O-Ph-O-Ph-O-、-O-Ph-CO-Ph-O-、-O-Ph-CH
2-Ph-O-、-O-Ph-CH(CH
3)-Ph-O-、-O-Ph-C(CH
3)
2-Ph-O-、-O-Ph-CF
2-Ph-O-、-O-Ph-C(CF
3)
2-Ph-O-、-O-Ph-S-Ph-O-、-O-Ph-SO
2-Ph-O-及び-O-Ph-COO-Ph-O-で表される基(Phは、フェニレン基である。)である。)
で表されるジボロン酸化合物又はその反応性誘導体であることが好ましい。
【0030】
<ポリボロン酸成分>
ポリボロン酸成分に含まれる式(1B)で表されるジボロン酸化合物は、前記式(1A)で表される構造単位を構成する、式(1B)で表されるジボロン酸化合物又はその反応性誘導体と同様のものである。
また、ポリボロン酸成分に含まれていてもよい、式(1B)で表されるジボロン酸化合物以外のポリボロン酸又はその反応性誘導体は、例えば、前記式(3A)で表される構造単位を構成するポリボロン酸化合物又はその反応性誘導体と同様のものである。
【0031】
ポリボロン酸成分中における、式(1B)で表されるジボロン酸化合物の含有量は、例えば10モル%以上、好ましくは50モル%以上であり、100モル%以下である。10モル%未満であると、高分子鎖内部における気体貯蔵空間が縮小するため、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
【0032】
<ポリオール成分>
ポリオール成分に含まれていてもよい、式(2B)で表される2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン又はその反応性誘導体以外のポリオール又はその反応性誘導体は、例えば、前記式(4B)で表される構造単位を構成するポリオール化合物と同様のものである。
【0033】
ポリオール成分中における、式(2B)で表される2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン又はその反応性誘導体の含有量は、例えば10モル%以上、好ましくは50モル%以上であり、100モル%以下である。10モル%未満であると、高分子鎖内部における気体貯蔵空間が縮小するため、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
【0034】
<その他の反応成分>
本発明において、重縮合反応の際には、ポリボロン酸成分及びポリオール成分以外に、必要に応じて、(モノ又はジ)ボロン酸(ジ又はテトラ)オール化合物(ジボロン酸ジヒドロキシ化合物、ジボロン酸テトラヒドロキシ化合物、ボロン酸ジヒドロキシ化合物、ボロン酸テトラヒドロキシ化合物)又はその反応性誘導体等をその他の反応成分として用いることができる。(モノ又はジ)ボロン酸(ジ又はテトラ)オール化合物又はその反応性誘導体は、例えば、式(5A)で表される構造単位を構成する(モノ又はジ)ボロン酸(ジ又はテトラ)オール化合物又はその反応性誘導体と同様のものである。
【0035】
<各成分の反応比率>
本発明において、式(1B)で表されるジボロン酸化合物又はその反応性誘導体を含むポリボロン酸成分と、式(2B)で表される2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン又はその反応性誘導体を含むポリオール成分との反応モル比は、所定の分子量及び特性の気体貯蔵放出化合物が形成される反応モル比であれば、特に限定されない。
例えば、式(2B)で表される2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン又はその反応性誘導体は、式(1B)で表されるジボロン酸化合物又はその反応性誘導体を含むポリボロン酸成分1モルに対して、例えば0.8モル以上、好ましくは0.9モル以上、より好ましくは0.95モル以上であり、例えば1.7モル以下、好ましくは1.6モル以下、より好ましくは1.45モル以下である。式(2B)で表される2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン又はその反応性誘導体を含むポリオール成分の量が1.7モル超又は0.8モル未満であると、気体貯蔵放出化合物の分子量が十分に大きくならず、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
【0036】
[重合方法]
本発明において、少なくとも、式(1B)で表されるジボロン酸化合物又はその反応性誘導体を含むポリボロン酸成分と、式(2B)で表される2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン又はその反応性誘導体を含むポリオール成分とを反応させる方法としては、公知のボロン酸-ポリオール重縮合反応手段を用いることができる。
ボロン酸-ポリオール重縮合反応に際しては、必要に応じて、触媒や溶媒等を用いることができる。また、反応成分を一括投入してもよく、また、一方の成分にもう一方の成分を順次投入してもよい。また、一部の成分を反応させた後、反応生成物同士を反応させることで、分子構造を制御しブロック共重合体等を構成することもできる。
【0037】
[ガス貯蔵放出材料]
本発明のガス貯蔵放出材料は、前記気体貯蔵放出化合物の1種類以上を1~100質量%、好ましくは10~100質量%、より好ましくは50~100質量%含んでいる。前記気体貯蔵放出化合物の含有量が1質量%未満であると、ガス貯蔵特性を十分に発揮することができない場合がある。
本発明のガス貯蔵放出材料に含まれていてもよい。前記気体貯蔵放出化合物以外の成分としては、例えば、樹脂、充填剤、各種添加剤等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
【0038】
樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ウレタン系樹脂等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
充填剤としては、特に限定されないが、例えば、シリカ、タルク、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、ガラスフレーク、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、有機繊維、有機ナノファイバー、無機ナノファイバー、金属ナノファイバー等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
各種添加剤としては、特に限定されないが、例えば、有機顔料、無機顔料、染料等の着色剤、ゼオライトや活性炭等の吸着剤、可塑剤、抗菌剤、導電材、酸化防止剤、前記気体貯蔵放出化合物以外の気体貯蔵放出化合物等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。
【0039】
ガス貯蔵放出材料の形状は、任意の形状とすることができる。例えば、粒子、繊維、フィルム、不織布、織布、多孔質体、成形体等のいずれかとすることができる。
粒子である場合は、例えば、平均粒子径0.1μm~20mmの範囲で任意に調節することができる。本発明におけるガス貯蔵放出材料の平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積基準累積粒子径D50の値である。
繊維である場合は、例えば、長さ1mm~3m、直径0.1mm~5mm、デニール数0.5d~20dの範囲で任意に調節することができる。
フィルムである場合、例えば、厚さ2μm~5mmの範囲で任意に調整することができる。フィルムの幅及び長さは、任意の大きさとすることができる
不織布又は織布である場合は、例えば、目付5g/m2~200g/m2の範囲であり、通気度において5cm3/cm3・s~100cm3/cm3・sの範囲を任意に調整することができる。
多孔質体である場合は、例えば、見かけ密度0.1g/cm3~1.2g/cm3、空隙率5~80vol%の範囲で任意に調整することができる。
成形体である場合は、例えば、押出成形、射出成形等の任意の成形手段を用い、任意の形状の成形体に調整することができる。
本発明のガス貯蔵放出材料は、粒子、多孔質体、不織布、フィルム、繊維の形状であることが、製造の容易性、水素等とのガスと接触する面積の調整、取り扱い性の向上等の点から好ましい。
【0040】
[気体(ガス)]
本発明の気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料が貯蔵・放出する気体(ガス)は、特に限定されない。例えば、水素、二酸化炭素、一酸化炭素、硫化水素、アンモニア、窒素、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、ラドン)、炭化水素ガス(メタン、エタン、プロパン、ブタン、アセチレン等)、酸素、ハロゲンガス(フッ素、塩素)等からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。好ましくは、水素、窒素、二酸化炭素、アルゴン、メタン、エタン、プロパン、アセチレンからなる群より選ばれる1種類以上であり、特に好ましくは水素である。
【0041】
[気体の貯蔵・放出方法]
本発明の気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料における気体(ガス)の貯蔵(会合)・放出(離脱)方法は、気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料、特に、水素貯蔵材料において、水素を貯蔵・放出させる公知の方法を用いることができる。
例えば、加圧、減圧、昇温(加熱)、降温(冷却)、電位の印加、エネルギー波(紫外線、赤外線、電磁波等)照射等からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法が挙げられる。
【0042】
貯蔵手段として、好ましくは、加圧、減圧、昇温(加熱)、降温(冷却)、電位の印加、紫外線の照射からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法が挙げられ、より好ましくは、加圧、減圧、昇温(加熱)、降温(冷却)からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法が挙げられる。本発明において、特に好ましくは、加圧手段を含む方法が用いられる。
放出手段として、好ましくは、減圧、加圧、昇温(加熱)、降温(冷却)、電位の印加、紫外線の照射からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法が挙げられ、より好ましくは、減圧、加圧、昇温(加熱)、降温(冷却)からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法が挙げられる。本発明において、特に好ましくは、減圧手段を含む方法が用いられる。
本発明の気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料における気体(ガス)の貯蔵(会合)・放出(離脱)手段は、上記の手段を用いる際に温和な条件(例えば、水素吸蔵合金と比較して、温和な条件)であっても、気体(ガス)の貯蔵(会合)・放出(離脱)を行うことができ、非常に有用である。
【0043】
[気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料の用途]
本発明の気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料は、気体(ガス)を、常温(25℃±20℃)で大気圧下において安全に長期間貯蔵でき、貯蔵された気体(ガス)を簡便な手段で放出させることができる。本発明の気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料は、特に水素を、常温(25℃±20℃)で大気圧下において安全に長期間貯蔵でき、貯蔵された水素を簡便な手段で放出できることから、水素貯蔵材料として有用である。
また、水素吸蔵合金や機能性炭素材料(酸化グラフェン等)が水素の貯蔵・放出特性を示さない大気圧未満の低圧状態においても、水素の貯蔵・放出特性に優れるものであるから、この点からも、水素貯蔵材料として有用である。
さらに、成形性に優れることから任意の形状に容易に加工することが可能であり、軽量であることから、運搬・保存を容易に行うことができる。
【0044】
例えば、風力、波力、地熱、太陽光等の再生可能エネルギーを用いて発電した電気を使い、水電解水素製造装置で水素を製造し、車載コンテナ等に収納した本発明の気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料に水素を貯蔵する。水素を貯蔵した気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料が収納されたコンテナ等を車両に搭載し、水素貯蔵材料タンクと純水素型燃料電池とを設備として有する温浴施設に運び、気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料からこれら設備に水素を移送する。
燃料電池で発生する電気と温水は温浴施設で使用するとともに、水素移送時に「熱のカスケード利用」を行い、水素を貯蔵する側で発生する熱を、放出する側の加熱に利用する。また、水素貯蔵材料タンクから水素を放出するために必要な熱は、建物からの低温排熱を利用しエネルギー効率を向上させることができる。
【実施例0045】
以下に実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、実施例により何ら限定されるものではない。
【0046】
[気体貯蔵放出化合物の合成]
<実施例1>
500mL丸底セパラブルフラスコに、2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレンを10.0g投入し、さらに、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を40ml加え、窒素ガスフロー下180rpmで撹拌して溶液を調製した。次いで、撹拌を継続しつつ、2,2’-ジメチル-4,4’-ビフェニルジボロン酸を23.6g加え、100℃で6時間反応させた後に撹拌を止めた。反応当初は無色透明であった溶液は、緑灰色の溶液となっていた。窒素ガスフロー下で終夜保存した後に、6時間還流した後に室温まで放冷し、20mLのアセトンを加えてろ過処理を行い灰色固体を得た。得られた灰色固体を、アセトン10mLによる洗浄を3回行った後に、60℃で16時間減圧乾燥した。乾燥後に乳鉢で粉砕し、300mlのアセトンで洗浄して再度ろ過処理し60℃で16時間減圧乾燥して、気体貯蔵放出化合物を得た。
【0047】
<構造分析>
(FT-IR測定)
実施例で得られた気体貯蔵放出化合物のFT-IRを、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製「FT/IR-6800」)を用い、一回反射ATR法により測定して分子構造を分析した。結果は以下のとおりである。
CO:1736,1778(cm-1)
Ph-CH3:1482,2934,2981(cm-1)
B-O:920,1079,3150,3400(cm-1)
芳香環:3068,3081,3094(cm-1)
【0048】
(ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)測定)
実施例で得られた気体貯蔵放出化合物について、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)装置(島津製作所社製)に、HPLCカラム(島津ジーエルシー社製「Shim-pack GPC-805」)を装着し、N,N’-ジメチルホルムアミド溶媒に溶解させた気体貯蔵放出化合物を注入し、カラム保持時間を測定した。
得られたカラム保持時間から、分子量が判明しているポリスチレンを測定することで予め作成した検量線と比較計算して、ポリスチレン換算分子量を算出した。
【0049】
なお、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー装置(島津製作所社製)の装置構成は以下のとおりである。
システム:Nexera GPCシステム
システムコントローラ:CBM-40
送液ユニット:LC40D
オンライン脱気ユニット:DGU-403
オートサンプラ:SIL-40C
カラムオーブン:CTO-40C
検出器:RID-20ABLK、LabSolutionsGPCソフトウエア、LCワークステーションPC、LabSolutions LC Single LC
カラム:Shim-pack GPC-805
溶媒:N,N’-ジメチルホルムアミド
【0050】
(構造分析結果)
FT-IR測定及びゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)測定の結果より、実施例で得られた気体貯蔵放出化合物は、重量平均分子量が63,000であり、式(1a)で表される構造単位及び式(2a)で表される構造単位が-B(-O-)
2で表されるホウ素-酸素結合を形成して高次構造を形成しており、式(3a)で表される六角形構造単位を有する高分子化合物であることが確認された。
【化16】
【化17】
【化18】
【0051】
<水素貯蔵放出能力の評価>
水素貯蔵放出能力の評価は、PCT(Pressure Composition Temperature)法を用いた。
試験用粉末をSUS製サンプル管に充填し、Microtrac社製PCT(Hydrogen Pressure-Composition-Isomers)測定装置(Belsop MaxG)を用い、25℃においてPCT(Pressure Composition Temperature)曲線を観察することで行った。PCT特性測定装置は、物質が水素を吸放出するときの特性(P:圧力、C:貯蔵量(吸収量)、T:温度)を測定する装置で、ジーベルツ装置とも呼ばれるものである。
圧力に対する、実施例に係る気体貯蔵放出化合物の水素の貯蔵量(Adsorption:質量%)及び放出量(Desorption:質量%)との関係は、
図1のとおりとなった。なお、ここでいう貯蔵量及び放出量は、気体貯蔵放出化合物の質量に対する水素の貯蔵量(吸収量)又は放出量を質量%として表したものである。
図1より、実施例1において合成した気体貯蔵放出化合物は、高い水素貯蔵能力を有していることが分かる。
【0052】
<走査型電子顕微鏡観察>
実施例で得られた気体貯蔵放出化合物の粉末に関して、観察試料(気体貯蔵放出化合物)の表面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。結果を
図2に示す。
図2より、実施例で得られた気体貯蔵放出化合物の粉末は、その表面に10nmから100nm程度の細孔が多数存在することが確認され、気体分子がこれらの細孔を通じて高分子鎖内部に吸着されるものと推察できる。
なお、走査型電子顕微鏡観察の条件は、以下のとおりである。
・電界放出型走査電子顕微鏡
Zeiss社製 Merlin
・加圧電圧
0.8kV
・試料調製
試料を40℃(真空中)にて1時間乾燥後、分散法にて観察資料とした。
【0053】
<比較例>
塩化パラジウム水溶液(5質量%in10質量%HCl)50mlをメスフラスコで10倍に希釈した後、200ml丸底フラスコに30mlを注ぎ込んだ。そこへ、酸化グラフェン3.0gを入れ、丸底フラスコをアズワン社製超音波装置(二周波・樹脂筐体タイプMCD-2P)に浸し、2時間超音波照射した。その後、pH試験紙の色がpH7を示すまで、1%アンモニア水溶液を丸底フラスコに滴下した。得られた溶液全体をグラスフィルターG3にてろ過し、上から水10mlで洗浄した。得られた粉末を、ケニス社製ポットミル(MT-90mm)に入れ、アズワン社製卓上型ポットミル架台(PM-001 2-7816-01)に載せ、300rpmの回転速度で2時間処理して酸化グラフェンを得た。
得られた酸化グラフェンを、東京スクリーン社製篩(試験用ふるいJTS-200-45-48、網目:平織、目開:0.053mm)を用いて分取し、水素貯蔵放出能力評価用試料とした。
得られた水素貯蔵放出能力評価用試料について、実施例1と同様に水素貯蔵放出能力を評価した。結果を
図1に併せて示す。
図1より、実施例1の気体貯蔵化合物(それを含むガス貯蔵放出材料)の方が、比較例1の酸化グラフェンよりも高い水素貯蔵放出能力を示すことがわかる。
【0054】
実施例の気体貯蔵放出化合物の気体貯蔵放出特性が高い理由について、本発明者は次のように推察している。
比較例に示す酸化グラフェンは、炭素-炭素結合からなる六員環が2次元的に広がった層が積層して形成された炭素化合物であって、層と層の間の距離は0.5nmから2nmの範囲であり、層間にパラジウムが分散されたものである。層間に分散されたパラジウムと水素分子との反応により、H2が2Hに分解され、10MPa以上の圧力を加えることで、生成した水素原子が酸化グラフェンの炭素上に配位結合して、水素が酸化グラフェン内部に貯蔵される。
一方、実施例1に示す発明の気体貯蔵放出化合物は、前記式(1a)で表される構造単位及び前記式(2a)で表される構造単位が-B(-O-)2で表されるホウ素-酸素結合を形成して高次構造を形成している。高次構造は、例えば三次元網状構造や式(3a)で表される六角形構造単位等を含み、高次構造に基づき水素包摂空間が形成されている。この水素包摂空間は、酸化グラフェンの層と比較して、水素が容易に入ることが可能であることから、水素貯蔵に有利に働き、水素分子の貯蔵率を高くすることができる。したがって、10MPaよりも低い1MPaの圧力下においても、水素貯蔵率が大きくなると推察している。なお、本発明は、本推察に限定されるものではない。
【0055】
これらの結果より、本発明の気体貯蔵放出化合物及びそれを含むガス貯蔵放出材料は、比較例の酸化グラフェンと比較して、気体貯蔵放出化合物の質量に対する水素の貯蔵量(吸収量)及び放出量の質量%が大きく、水素の貯蔵・放出能力が高いことが判明した。
これより、本発明の気体貯蔵放出化合物及びそれを含むガス貯蔵放出材料は、ガス、特に水素を貯蔵・放出することができる材料として有用であることが確認された。