(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101196
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】移動体、設計支援装置及び設計支援方法
(51)【国際特許分類】
B62D 15/00 20060101AFI20240722BHJP
B60B 19/00 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
B62D15/00
B60B19/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005020
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(71)【出願人】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100108213
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 豊隆
(72)【発明者】
【氏名】土方 優明
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 功一
(57)【要約】
【課題】複数の全方向移動車輪を非対称に配置した場合であっても、直進性を向上させることができる移動体を提供する。
【解決手段】移動体は、3個以上の全方向移動車輪11を備える移動体であって、全方向移動車輪11のうち、少なくとも2個の全方向移動車輪11の推力方向が異なるように配置され、移動体の基準点を原点とするxy直交座標系において、移動体の移動により全方向移動車輪11の各々に生ずる速度ベクトルと、当該速度ベクトルを基準にして求まる移動体の旋回中心までの距離との積により表される速度モーメントの総和がゼロとなるように全方向移動車輪11が配置されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3個以上の全方向移動車輪を備える移動体であって、
前記全方向移動車輪のうち、少なくとも2個の全方向移動車輪の推力方向が異なるように配置され、
前記移動体の基準点を原点とするxy直交座標系において、前記移動体の移動により前記全方向移動車輪の各々に生ずる速度ベクトルと、当該速度ベクトルを基準にして求まる前記移動体の旋回中心までの距離との積により表される速度モーメントの総和がゼロとなるように前記全方向移動車輪が配置されている、
移動体。
【請求項2】
n(nは3以上の整数)個の全方向移動車輪の各々の代表点のx座標をx
i(i:1~nまでの整数)、前記代表点のy座標をy
iとし、n個の全方向移動車輪の各々の回転面方向の速度ベクトルをV
iとし、前記各々の回転面方向とX軸とのなす角度をθ
iとし、前記移動体の旋回中心から前記速度ベクトルV
iの各々により形成される直線に引いた垂線の長さをl'
iとし、前記移動体の速度のx方向成分をV
x、前記移動体の速度のy方向成分をV
yとした場合に、以下の式(1)及び式(2)を満たすように、3個以上の全方向移動車輪が配置されている、
【数1】
【数2】
請求項1記載の移動体。
【請求項3】
3個以上の全方向移動車輪のうち、少なくとも2個の全方向移動車輪の推力方向が異なるように前記全方向移動車輪を移動体に配置する際における、配置場所の設計を支援する設計支援装置であって、
前記全方向移動車輪を前記移動体に配置する際に、前記全方向移動車輪のうち最後に配置する全方向移動車輪の配置場所を算出する算出部を備え、
前記算出部は、前記移動体の基準点を原点とするxy直交座標系における以下の式(3)及び式(4)を用いて、前記最後に配置する全方向移動車輪の回転面方向とx軸とのなす角度θ
n、及び前記最後に配置する全方向移動車輪の代表点の座標(x
n、y
n)を定める直線を算出する、
【数3】
【数4】
(ここで、n:全方向移動車輪の個数、i:1~nまでの整数、x
i:全方向移動車輪の各々の代表点のx座標、y
i:全方向移動車輪の各々の代表点のy座標、θ
i:全方向移動車輪の各々の回転面方向とx軸とのなす角度、とし、A及びBは左辺のn-1個分の総和を便宜上置き換えるために用いるものである)
設計支援装置。
【請求項4】
前記算出部は、式(3)及び式(4)から導出される以下の式(5)を用いて、前記最後に配置する全方向移動車輪の回転面方向とx軸とのなす角度θ
nを算出し、
【数5】
式(3)及び式(4)から導出される以下の式(6)を用いて、前記最後に配置する全方向移動車輪の代表点の座標(x
n、y
n)を定める直線を算出する、
【数6】
請求項3記載の設計支援装置。
【請求項5】
3個以上の全方向移動車輪のうち、少なくとも2個の全方向移動車輪の推力方向が異なるように前記全方向移動車輪を移動体に配置する際における、配置位置の設計を支援する装置において実行される方法であって、
前記全方向移動車輪を前記移動体に配置する際に、前記全方向移動車輪のうち最後に配置する全方向移動車輪の配置場所を算出するステップを含み、
前記算出するステップは、前記移動体の基準点を原点とするxy直交座標系における以下の式(7)及び式(8)を用いて、前記最後に配置する全方向移動車輪の回転面方向とx軸とのなす角度θ
n、及び前記最後に配置する全方向移動車輪の代表点の座標(x
n、y
n)を定める直線を算出する、
【数7】
【数8】
(ここで、n:全方向移動車輪の個数、i:1~nまでの整数、x
i:全方向移動車輪の各々の代表点のx座標、y
i:全方向移動車輪の各々の代表点のy座標、θ
i:全方向移動車輪の各々の回転面方向とx軸とのなす角度、とし、A及びBは左辺のn-1個分の総和を便宜上置き換えるために用いるものである)
設計支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全方向移動車輪を備える移動体、設計支援装置及び設計支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、全方向に移動できる移動体として、複数の全方向移動車輪(例えば、オムニホイール)を備える移動体が開発されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の4輪駆動式の移動体は、前輪同士や後輪同士が並行ではなくハの字形に配置されていて、各車輪が非対称に配置された状態になっている。各車輪が非対称に配置されると、各車輪の回転方向(推力方向)が一致しない状態となるため、移動体を安定して直進させることが難しくなる。
【0005】
そこで、本発明は、複数の全方向移動車輪を非対称に配置した場合であっても、直進性を向上させることができる移動体、設計支援装置及び設計支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る移動体は、3個以上の全方向移動車輪を備える移動体であって、全方向移動車輪のうち、少なくとも2個の全方向移動車輪の推力方向が異なるように配置され、移動体の基準点を原点とするxy直交座標系において、移動体の移動により全方向移動車輪の各々に生ずる速度ベクトルと、当該速度ベクトルを基準にして求まる移動体の旋回中心までの距離との積により表される速度モーメントの総和がゼロとなるように全方向移動車輪が配置されている。
【0007】
この態様によれば、3個以上の全方向移動車輪を非対称に配置させる場合であっても、全方向移動車輪の各々に生ずる速度ベクトルと移動体の旋回中心までの距離との積により表される速度モーメントの総和がゼロになるように、それぞれの全方向移動車輪を配置することができるため、移動体の直進性を向上させることが可能となる。
【0008】
上記態様において、n(nは3以上の整数)個の全方向移動車輪の各々の代表点のx座標をx
i(i:1~nまでの整数)、代表点のy座標をy
iとし、n個の全方向移動車輪の各々の回転面方向の速度ベクトルをV
iとし、各々の回転面方向とX軸とのなす角度をθ
iとし、移動体の旋回中心から速度ベクトルV
iの各々により形成される直線に引いた垂線の長さをl'
iとし、移動体の速度のx方向成分をV
x、移動体の速度のy方向成分をV
yとした場合に、以下の式(1)及び式(2)を満たすように、3個以上の全方向移動車輪が配置されていてもよい。
【数1】
【数2】
【0009】
この態様によれば、3個以上の全方向移動車輪を、式(1)及び式(2)を満たすように配置することで、全方向移動車輪の各々に生ずる速度モーメントのx方向成分の総和及びy方向成分の総和をそれぞれゼロにすることができる。
【0010】
本発明の他の態様に係る設計支援装置は、3個以上の全方向移動車輪のうち、少なくとも2個の全方向移動車輪の推力方向が異なるように全方向移動車輪を移動体に配置する際における、配置場所の設計を支援する設計支援装置であって、全方向移動車輪を移動体に配置する際に、全方向移動車輪のうち最後に配置する全方向移動車輪の配置場所を算出する算出部を備え、算出部は、移動体の基準点を原点とするxy直交座標系における以下の式(3)及び式(4)を用いて、最後に配置する全方向移動車輪の回転面方向とx軸とのなす角度θ
n、及び最後に配置する全方向移動車輪の代表点の座標(x
n、y
n)を定める直線を算出する。
【数3】
【数4】
(ここで、n:全方向移動車輪の個数、i:1~nまでの整数、x
i:全方向移動車輪の各々の代表点のx座標、y
i:全方向移動車輪の各々の代表点のy座標、θ
i:全方向移動車輪の各々の回転面方向とx軸とのなす角度、とし、A及びBは左辺のn-1個分の総和を便宜上置き換えるために用いるものである)
【0011】
この態様によれば、3個以上の全方向移動車輪を非対称に配置させる際に、最後に配置する全方向移動車輪を、式(3)及び式(4)を満たすように配置することで、全方向移動車輪の各々に生ずる速度モーメントのx方向成分の総和及びy方向成分の総和をそれぞれゼロにすることができるため、移動体の直進性を向上させることが可能となる。
【0012】
上記態様において、算出部は、式(3)及び式(4)から導出される以下の式(5)を用いて、最後に配置する全方向移動車輪の回転面方向とx軸とのなす角度θ
nを算出し、
【数5】
式(3)及び式(4)から導出される以下の式(6)を用いて、最後に配置する全方向移動車輪の代表点の座標(x
n、y
n)を定める直線を算出してもよい。
【数6】
【0013】
この態様によれば、最後の全方向移動車輪を配置する際に、式(6)を用いて算出される直線上に、最後の全方向移動車輪の代表点の座標(xn、yn)を定め、最後の全方向移動車輪の回転面方向とx軸とのなす角が、式(5)を用いて算出される角度θnとなるように、最後の全方向移動車輪を配置することで、全方向移動車輪の各々に生ずる速度モーメントのx方向成分の総和及びy方向成分の総和をそれぞれゼロにすることができる。
【0014】
本発明の他の態様に係る設計支援方法は、3個以上の全方向移動車輪のうち、少なくとも2個の全方向移動車輪の推力方向が異なるように全方向移動車輪を移動体に配置する際における、配置位置の設計を支援する装置において実行される方法であって、全方向移動車輪を移動体に配置する際に、全方向移動車輪のうち最後に配置する全方向移動車輪の配置場所を算出するステップを含み、算出するステップは、移動体の基準点を原点とするxy直交座標系における以下の式(7)及び式(8)を用いて、最後に配置する全方向移動車輪の回転面方向とx軸とのなす角度θ
n、及び最後に配置する全方向移動車輪の代表点の座標(x
n、y
n)を定める直線を算出する。
【数7】
【数8】
(ここで、n:全方向移動車輪の個数、i:1~nまでの整数、x
i:全方向移動車輪の各々の代表点のx座標、y
i:全方向移動車輪の各々の代表点のy座標、θ
i:全方向移動車輪の各々の回転面方向とx軸とのなす角度、とし、A及びBは左辺のn-1個分の総和を便宜上置き換えるために用いるものである)
【0015】
この態様によれば、3個以上の全方向移動車輪を非対称に配置させる際に、最後に配置する全方向移動車輪を、式(7)及び式(8)を満たすように配置することで、全方向移動車輪の各々に生ずる速度モーメントのx方向成分の総和及びy方向成分の総和をそれぞれゼロにすることができるため、移動体の直進性を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数の全方向移動車輪を非対称に配置した場合であっても、直進性を向上させることができる移動体、設計支援装置及び設計支援方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態に係る移動体の物理的な構成を例示する図である。
【
図2】実施形態に係る移動体が備える制御装置の機能的な構成を例示する図である。
【
図3】各全方向移動車輪の目標角速度を算出する方法の一例を説明するための模式図である。
【
図4】設計支援装置の機能的な構成を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。また、図面は模式的なものであるため、各構成要素の寸法や比率は実際のものとは相違する。
【0019】
図1は、実施形態に係る移動体1の物理的な構成を例示する図である。
図1の構成は、例示的に、移動体1が台車である場合の構成である。移動体1は、例えば、台車の荷台3と、荷台3の底面側に配置された4個の全方向移動車輪11a、11b、11c、11dと、全方向移動車輪11a、11b、11c、11dの中心点を通る回転軸13a、13b、13c、13dをそれぞれ駆動する4個のモータ12a、12b、12c、12dと、モータ12a、12b、12c、12dを制御する制御装置2とを備える。
【0020】
以下において、全方向移動車輪11a、11b、11c、11d、モータ12a、12b、12c、12d、及び回転軸13a、13b、13c、13dのそれぞれを特に区別する必要がない場合には、全方向移動車輪11、モータ12、及び回転軸13と呼ぶことにする。
【0021】
なお、移動体1は、台車であることに限定されず、全方向移動車輪11を用いて移動するものであれば、どのようなものであってもよい。例示的に、移動体1は、搬送ロボットや、監視ロボット、エンターテイメントロボット、掃除ロボットなどを含む各種のロボットであってよい。
【0022】
全方向移動車輪11として、例えば、オムニホイールを用いることができる。本実施形態では、例示的に、全方向移動車輪11がオムニホイールである場合について説明する。
【0023】
各全方向移動車輪11は、任意の位置に任意の角度で配置することができるが、少なくとも2個の全方向移動車輪11の推力方向が異なるように配置することが好ましい。これにより、複数の全方向移動車輪11を非対称な状態で配置することができるようになり、例えば、農業機械などのように、非対称な構造に対しても有効に車輪を配置することが可能となる。
【0024】
推力方向は、全方向移動車輪11の車輪本体が回転することにより推進力が生じる方向である。換言すると、推力方向は、全方向移動車輪11の回転軸13に直交する方向であり、さらに、回転軸13と直交する全方向移動車輪11の回転によって形成される面及びその面に平行な全方向移動車輪11内の任意の面の方向(以下、「回転面方向」ともいう。)でもある。
【0025】
複数の全方向移動車輪11の推力方向が異なる配置として、例えば、2個の全方向移動車輪11をハの字形に配置することが挙げられる。他方、2個の全方向移動車輪11を平行に配置した場合には、2個の全方向移動車輪11の推力方向が同じ方向になる。
【0026】
各モータ12は、制御装置2により制御され、対応する全方向移動車輪11をそれぞれ制御する。モータ12がエンコーダを有してもよいし、モータ12とは別個にエンコーダを備えてもよい。モータ12又は全方向移動車輪11の角度や回転数を測定して、制御装置2に提供できれば、どのような構成であってもよい。
【0027】
図2は、移動体1が備える制御装置2の機能的な構成を例示する図である。制御装置2は、モータ12を制御するモジュールであり、例えば、制御部21及び記憶部22を有する。
【0028】
制御部21は、物理的にはプロセッサであり、プロセッサが記憶部22に記憶されているプログラムを実行することで、例えば、モータ12を制御する。制御部21が各モータ12を制御することで、各全方向移動車輪11が駆動され、移動体1の動きが制御される。記憶部22は、物理的にはメモリであり、モータ12を制御するためのプログラムやデータ等を記憶する。以下において、制御部21の各種機能について説明する。
【0029】
制御部21は、移動体1の目標速度及び目標角速度に基づいて、各全方向移動車輪11の目標角速度をそれぞれ算出する。そして、制御部21は、算出した各目標角速度で回転するように、対応する全方向移動車輪11を駆動するモータ12をそれぞれ制御することで、移動体1の走行を制御する。
【0030】
移動体1の目標速度及び目標角速度として、例えば、移動体1の指令速度及び指令角速度を用いることができる。移動体1の角速度として、例えば、移動体1の旋回による角速度を用いることができる。
【0031】
図3を参照して、各全方向移動車輪11の目標角速度を算出する方法の一例について説明する。
【0032】
図3は、
図1と同様に、4個の全方向移動車輪11a、11b、11c、11dが移動体1に配置されている状態を例示する。同図のxy直交座標系は、移動体1の重心を原点として設けられた座標系である。なお、xy直交座標系の原点は、重心であることに限定されず、各全方向移動車輪11の速度モーメントを導出可能な基準点であればよい。
【0033】
図3では、例示的に、x軸の正の方向を移動体1の前進方向とする。また、x軸の正の方向における移動体1の速度成分をV
xとし、y軸の正の方向における移動体1の速度成分をV
yとする。さらに、xy直交座標系の原点を中心とする旋回の角速度をΩとする。この角速度Ωは、反時計回りを正とする。
【0034】
図3の各全方向移動車輪11の半径をrとし、各全方向移動車輪11の角速度をω
n(
図3では、n=1,2,3,4)とし、全方向移動車輪11の回転面方向の速度成分をV
nとする。この場合、V
n=r×ω
nとなる。
【0035】
また、各全方向移動車輪11の代表点Pnの座標を(xn,yn)とし、x軸と各全方向移動車輪11の回転面方向とのなす角度をθnとする。全方向移動車輪11の代表点Pnとして、例えば、全方向移動車輪11の中心や重心などを用いることができる。
【0036】
この場合、制御部21は、移動体1の目標速度V
x、V
y及び目標角速度Ωに基づいて、各全方向移動車輪11の目標角速度ω
nを、例えば、以下の式(9)を用いて算出することができる。
【数9】
【0037】
なお、
図3では、全方向移動車輪11が4個である場合を例示しているが、移動体1に配置する全方向移動車輪11は、3個以上であればよい。つまり、式(9)のnは3以上の整数であればよい。
【0038】
ここで、各全方向移動車輪11に生ずる推進力は、実際には車輪の滑りなどの影響を受けるものの、各全方向移動車輪11の対地速度に比例すると仮定し、各全方向移動車輪11の対地速度ベクトルが移動体1の旋回中心に与える速度モーメントがつり合っている状態を考えると、以下の式(10)及び式(11)を導出できる。
【数10】
【数11】
【0039】
式(10)及び式(11)において、n(nは3以上の整数、
図3ではnが4である)個の全方向移動車輪11の各々の代表点P
nのx座標をx
i(i:1~nまでの整数)、y座標をy
iとし、n個の全方向移動車輪11の各々の回転面方向の速度ベクトルをV
iとし、各々の回転面方向とX軸とのなす角度をθ
iとし、移動体1の旋回中心(xy直交座標系の原点)から速度ベクトルV
iの各々により形成される直線に引いた垂線の長さをl'
iとし、移動体1の速度のx方向成分をV
x、移動体1の速度のy方向成分をV
yとする。
【0040】
式(10)及び式(11)は、移動体1の移動により全方向移動車輪11の各々に生ずる速度ベクトルViと、その速度ベクトルViを基準にして求まる移動体1の旋回中心までの距離l'iとの積により表される速度モーメントの総和がゼロになることを表している。
【0041】
したがって、式(10)及び式(11)を満たすように、各全方向移動車輪11を移動体1に配置することで、各全方向移動車輪11の対地速度ベクトルが移動体1の旋回中心に与える速度モーメントのつり合いを保つことができるようになり、移動体1の制御性及び直進性を担保することが可能となる。
【0042】
式(10)及び式(11)を満たすように、各全方向移動車輪11を移動体1に配置するという発想は、例えば、次の設計支援方法に利用することができる。その設計支援方法は、n個の全方向移動車輪11を配置する移動体1において、n-1個の全方向移動車輪11の配置が決まり、最後の全方向移動車輪11の配置を決定する作業を支援する方法である。この設計支援方法について、以下に具体的に説明する。
【0043】
設計支援方法は、例えば、
図4に示す設計支援装置5において実行してもよい。設計支援装置5は、例えば、パーソナルコンピュータなどの端末装置であり、プロセッサ、記憶装置、通信装置、入力装置及び表示装置などを有する。プロセッサは、記憶装置に記憶されているプログラムを実行することで、設計支援装置5の各種の機能を実現する。各種の機能には、例えば、算出部51による設計支援機能が含まれる。以下に、算出部51による設計支援機能の一例について説明する。
【0044】
算出部51は、移動体1の基準点を原点とするxy直交座標系における式(12)及び式(13)を用いて、最後に配置する全方向移動車輪11
nの回転面方向とx軸とのなす角度θ
n、及び最後に配置する全方向移動車輪11
nの代表点P
nの座標(x
n、y
n)を定める直線を算出する。
【数12】
【数13】
【0045】
上記の式(12)及び式(13)において、全方向移動車輪11の個数をn個とし、1~nまでの整数をiとし、全方向移動車輪11iの各々の代表点Piのx座標をxi、y座標をyiとし、x軸と各全方向移動車輪11iの回転面方向とのなす角度をθiとする。また、A及びBは、それぞれの左辺にあるn-1個分の総和を便宜上置き換えるために用いる。
【0046】
具体的に、算出部51は、式(12)及び式(13)から導出される以下の式(14)を用いて、最後に配置する全方向移動車輪11
nの回転面方向とx軸とのなす角度θ
nを算出する。
【数14】
【0047】
また、算出部51は、式(12)及び式(13)から導出される以下の式(15)を用いて、最後に配置する全方向移動車輪11
nの代表点P
nの座標(x
n、y
n)を定める直線を算出する。
【数15】
【0048】
移動体1に全方向移動車輪11を配置する作業員は、式(14)及び式(15)の算出結果に基づいて、式(15)で求まる直線上に、最後の全方向移動車輪11nの代表点Pnを定め、そして、最後の全方向移動車輪11nの回転面方向とx軸とのなす角度が、式(14)で求まる角度θnとなるように、最後の全方向移動車輪11nを配置する。
【0049】
このように最後の全方向移動車輪11nを配置することで、全方向移動車輪11の各々に生ずる速度モーメントのx方向成分の総和及びy方向成分の総和をそれぞれゼロにすることができるため、移動体1の直進性を向上させることが可能となる。
【0050】
上述したように、実施形態に係る移動体1によれば、3個以上の全方向移動車輪11のうち、少なくとも2個の全方向移動車輪11の推力方向が異なるように配置し、移動体1の基準点を原点とするxy直交座標系において、移動体1の移動により全方向移動車輪11の各々に生ずる速度ベクトルと、その速度ベクトルを基準にして求まる移動体1の旋回中心までの距離との積により表される速度モーメントの総和がゼロとなるように全方向移動車輪11を配置することが可能となる。
【0051】
これにより、3個以上の全方向移動車輪11を非対称に配置させる場合であっても、全方向移動車輪11の各々に生ずる速度ベクトルと移動体1の旋回中心までの距離との積により表される速度モーメントの総和がゼロになるように、それぞれの全方向移動車輪11を配置することができるため、移動体1の直進性を向上させることが可能となる。
【0052】
したがって、複数の全方向移動車輪11を非対称に配置した場合であっても、直進性を向上させることが可能となる。また、本発明を利用することで、柔軟な車輪配置を実現することが可能となり、例えば、物体の把持機構や、床面の清掃機構、搬送物の収納機構などを最適な位置に配置することができる。
【0053】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、他の様々な形で実施することができる。このため、上記実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。
【符号の説明】
【0054】
1…移動体、2…制御装置、3…荷台、5…設計支援装置、11…全方向移動車輪、12…モータ、13…回転軸、21…制御部、22…記憶部、51…算出部