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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101199
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】放射線検出器およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/20 20060101AFI20240722BHJP
   G21K 4/00 20060101ALI20240722BHJP
   A61B 6/42 20240101ALN20240722BHJP
【FI】
G01T1/20 B
G21K4/00 B
A61B6/00 300Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005027
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】堀内 弘
(72)【発明者】
【氏名】會田 博之
【テーマコード(参考)】
2G083
2G188
4C093
【Fターム(参考)】
2G083CC03
2G083DD12
2G083EE02
2G083EE03
2G083EE04
2G188AA03
2G188BB02
2G188CC09
2G188CC15
2G188CC17
2G188CC19
2G188CC22
2G188DD05
2G188DD42
2G188DD44
2G188EE07
4C093CA07
4C093EB11
4C093EB20
(57)【要約】
【課題】散乱放射線の影響を軽減し、画像特性を改善できる放射線検出器およびその製造方法を提供する。
【解決手段】X線検出器は、光を電気信号に変換する光電変換基板と、光電変換基板に接して外部から入射したX線51を光に変換するシンチレータ層31とを備える。シンチレータ層31は、ハロゲン化物であるCsIおよび賦活剤であるTlを含有する蛍光体である。シンチレータ層31は、シンチレータ層31の膜厚方向におけるX線51の入射側を入射側領域A、入射側領域Aとは反対側を非入射側領域Bとするとともに、シンチレータ層31の面内方向の中心領域を中央部C、外周領域を周辺部Dとした場合、入射側領域Aは賦活剤を含有せず、入射側領域Aの膜厚分布は中央部C>周辺部D、非入射側領域Bの膜厚分布は中央部C<周辺部Dの関係にある。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を電気信号に変換する光電変換基板と、
前記光電変換基板に接して外部から入射した放射線を光に変換するシンチレータ層とを備え、
前記シンチレータ層は、
ハロゲン化物であるCsIおよび賦活剤であるTlを含有する蛍光体であり、
前記シンチレータ層の膜厚方向における前記放射線の入射側を入射側領域、前記入射側領域とは反対側を非入射側領域とするとともに、前記シンチレータ層の面内方向の中心領域を中央部、外周領域を周辺部とした場合、
前記入射側領域は前記賦活剤を含有せず、
前記入射側領域の膜厚分布は前記中央部>前記周辺部、
前記非入射側領域の膜厚分布は前記中央部<前記周辺部の関係にある
ことを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
前記シンチレータ層は、柱状結晶構造を有し、かつ前記入射側領域が前記シンチレータ層の膜厚の5%~50%を占める
ことを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記シンチレータ層の前記中央部は、前記シンチレータ層の形成領域の中心を基準とした同心円状、若しくは、方形状の領域の50%以上を占める
ことを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項4】
前記シンチレータ層の前記非入射側領域における前記賦活剤の膜厚方向の濃度範囲は0.1mass%~2.0mass%である
ことを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項5】
光を電気信号に変換する光電変換基板と、前記光電変換基板に接して外部から入射した放射線を光に変換するシンチレータ層とを具備する放射線検出器の製造方法であって、
前記シンチレータ層はハロゲン化物であるCsIおよび賦活剤であるTlを含む蛍光体であり、前記シンチレータ層の膜厚方向における前記放射線の入射側を入射側領域、前記入射側領域とは反対側を非入射側領域とするとともに、前記シンチレータ層の面内方向の中心領域を中央部、外周領域を周辺部とした場合、前記非入射側領域はTlを賦活剤として含有し、前記入射側領域は前記賦活剤を含有せず、かつ前記入射側領域の膜厚分布が中央部>周辺部、前記非入射側領域の膜厚分布が前記中央部<前記周辺部の関係となるように、前記CsIと前記Tlとを材料源とした気相成長法により前記シンチレータ層を形成する
ことを特徴とする放射線検出器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放射線を光に変換するシンチレータ層を有する放射線検出器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放射線検出器としては、光を電気信号に変換する光電変換基板、およびこの光電変換基板に接して外部から入射した放射線であるX線を光に変換するシンチレータ層を備えたX線検出器がある。このX線検出器では、入射X線によりシンチレータ層で変換された光が光電変換基板に到達することで電荷に変換され、この電荷が出力信号として読み出され、所定の信号処理回路等にてデジタル画像信号に変換される。
【0003】
シンチレータ層は、ハロゲン化物であるCsIを用いる場合、CsI単体では入射X線を可視光に変換することができないことから、一般的な蛍光体と同様に入射X線に対する光の励起を活性化させるため、賦活剤を含有させている。X線検出器においては、光電変換基板の受光感度のピーク波長が可視光領域の400nm~700nm付近に存在するため、シンチレータ層にCsIを用いた場合、入射X線により励起された光の波長が550nm付近となるTlが賦活剤として用いられている。
【0004】
また、X線は被写体を透過した際に散乱X線を生じるため、この散乱X線によって解像度やコントラストの劣化等の影響が生じる。X線検出器においては、散乱X線による解像度やコントラストの劣化等の影響を除去すべく、X線の入射側にX線グリッドを設置した構成となることが多い。
【0005】
しかし、X線検出器において、X線グリッドを使用した場合、検出されるX線画像の解像度やコントラストの向上を図ることが可能となるが、画像特性の改善を目的とした光電変換基板(アクティブマトリックス光電変換基板)の画素電極サイズおよび画素電極ピッチの微細化への対応が困難となり、かつモアレの発生による画質劣化を防止することが不可能となる。
【0006】
さらに、X線検出器において、X線グリッドを使用する場合、適切なX線画像を得るための制約(例えばX線発生源とX線検出器との距離であるSID(Source Image receptor Distance)等の制約)が多くなり、しかも、構造的に、X線グリッドとシンチレータ層の間に存在する構造体等から生じる散乱X線の影響は除去できないこととなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6306334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、散乱放射線の影響を軽減し、画像特性を改善できる放射線検出器およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態の放射線検出器は、光を電気信号に変換する光電変換基板と、光電変換基板に接して外部から入射した放射線を光に変換するシンチレータ層とを備える。シンチレータ層は、ハロゲン化物であるCsIおよび賦活剤であるTlを含有する蛍光体である。シンチレータ層は、シンチレータ層の膜厚方向における放射線の入射側を入射側領域、入射側領域とは反対側を非入射側領域とするとともに、シンチレータ層の面内方向の中心領域を中央部、外周領域を周辺部とした場合、入射側領域は賦活剤を含有せず、入射側領域の膜厚分布は中央部>周辺部、非入射側領域の膜厚分布は中央部<周辺部の関係にある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態を示すX線検出器の第1の構造例の概略断面図である。
図2】同上X線検出器の第2の構造例の概略断面図である。
図3】同上X線検出器の第3の構造例の概略断面図である。
図4】同上X線検出器の第4の構造例の概略断面図である。
図5】同上X線検出器の等価回路図である。
図6】同上X線検出器の第1構造例のシンチレータ層の模式図である。
図7】同上X線検出器の第2構造例のシンチレータ層の模式図である。
図8】(a)は感度斑が生じたX線画像、(b)は感度斑を補正したX線画像である。
図9】X線検出器とX線発生源との位置関係を示し、(a)は概略側面図、(b)はX線検出器の概略正面図である。
図10】(a)はX線グリッドの使用時のX線画像、(b)はX線グリッドの未使用時のX線画像である。
図11】シンチレータ層の一般的な形成方法を示す模式図である。
図12】比較を行うサンプルの構成を示す表である。
図13】サンプルの撮影条件を示す模式図である。
図14】(a)はコントラストの測定条件を示す被写体の正面図、(b)はコントラスト比を求める輝度レベルの波形図である。
図15】サンプルの画像特性を示す表である。
図16】(a)はサンプル4について一様性(BU)を求めるX線画像、(b)はサンプル3について一様性(BU)を求めるX線画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0012】
図1ないし図4には放射線検出器の基本構成について第1ないし第4の構造例を示し、図5には基本構成の等価回路図を示す。
【0013】
まず、図1および図5を参照して、放射線検出器(放射線画像検出器)としてのX線検出器(X線画像検出器)1の第1の構造例を説明する。
【0014】
図1に示すように、X線検出器1は、間接方式のX線平面画像検出器である。このX線検出器1は、可視光を電気信号に変換するアクティブマトリクス光電変換基板である光電変換基板2を備えている。
【0015】
光電変換基板2は、矩形平板状の透光性を有するガラス等にて形成された絶縁基板としての支持基板3を備えている。この支持基板3の表面には、二次元的でマトリクス状に複数の画素4が互いに間隔をあけて配列され、画素4毎に、スイッチング素子としての薄膜トランジスタ(TFT)5、電荷蓄積用キャパシタ6、画素電極7、およびフォトダイオード等の光電変換素子8が形成されている。
【0016】
図5に示すように、支持基板3上には、この支持基板3の行方向に沿った複数の制御ラインとしての制御電極11が配線されている。これら複数の制御電極11は、支持基板3上の各画素4間に位置し、この支持基板3の列方向に離間されて設けられている。これら制御電極11には、薄膜トランジスタ5のゲート電極12が電気的に接続されている。
【0017】
支持基板3上には、この支持基板3の列方向に沿った複数の読出電極13が配線されている。これら複数の読出電極13は、支持基板3上の各画素4間に位置し、この支持基板3の行方向に離間されて設けられている。そして、これら複数の読出電極13には、薄膜トランジスタ5のソース電極14が電気的に接続されている。また、この薄膜トランジスタ5のドレイン電極15は、電荷蓄積用キャパシタ6および画素電極7にそれぞれ電気的に接続されている。
【0018】
図1に示すように、薄膜トランジスタ5のゲート電極12は、支持基板3上に島状に形成されている。このゲート電極12を含む支持基板3上には、絶縁膜21が積層されて形成されている。この絶縁膜21は、各ゲート電極12を覆っている。また、この絶縁膜21上には、島状の複数の半絶縁膜22が積層されて形成されている。これら半絶縁膜22は、半導体にて構成されており、薄膜トランジスタ5のチャネル領域として機能する。そして、これら各半絶縁膜22は、各ゲート電極12に対向して配設されており、これら各ゲート電極12を覆っている。すなわち、これら各半絶縁膜22は、各ゲート電極12上に絶縁膜21を介して設けられている。
【0019】
半絶縁膜22を含む絶縁膜21上には、島状のソース電極14およびドレイン電極15がそれぞれ形成されている。これらソース電極14およびドレイン電極15は、互いに絶縁され電気的に接続されていない。また、これらソース電極14およびドレイン電極15は、ゲート電極12上の両側に設けられており、これらソース電極14およびドレイン電極15の一端部が半絶縁膜22上に積層されている。
【0020】
図5に示すように、各薄膜トランジスタ5のゲート電極12は、同じ行に位置する他の薄膜トランジスタ5のゲート電極12とともに共通の制御電極11に電気的に接続されている。さらに、これら各薄膜トランジスタ5のソース電極14は、同じ列に位置する他の薄膜トランジスタ5のソース電極14とともに共通の読出電極13に電気的に接続されている。
【0021】
図1に示すように、電荷蓄積用キャパシタ6は、支持基板3上に形成された島状の下部電極23を備えている。この下部電極23を含む支持基板3上には絶縁膜21が積層されて形成されている。この絶縁膜21は、各薄膜トランジスタ5のゲート電極12上から各下部電極23上まで延長されている。さらに、この絶縁膜21上には、島状の上部電極24が積層されて形成されている。この上部電極24は、下部電極23に対向して配設されており、これら各下部電極23を覆っている。すなわち、これら各上部電極24は、各下部電極23上に絶縁膜21を介して設けられている。そして、この上部電極24を含む絶縁膜21上にはドレイン電極15が積層されて形成されている。このドレイン電極15は、他端部が上部電極24上に積層されて、この上部電極24に電気的に接続されている。
【0022】
各薄膜トランジスタ5の半絶縁膜22、ソース電極14およびドレイン電極15と、各電荷蓄積用キャパシタ6の上部電極24とのそれぞれを含む絶縁膜21上には、絶縁層25が積層されて形成されている。この絶縁層25は、酸化珪素(SiO)等にて形成されており、各画素電極7を取り囲むように形成されている。
【0023】
この絶縁層25の一部には、薄膜トランジスタ5のドレイン電極15に連通したコンタクトホールとしてのスルーホール26が開口形成されている。このスルーホール26を含む絶縁層25上には、島状の画素電極7が積層されて形成されている。この画素電極7は、スルーホール26にて薄膜トランジスタ5のドレイン電極15に電気的に接続されている。
【0024】
各画素電極7上には、可視光を電気信号に変換するフォトダイオード等の光電変換素子8が積層されて形成されている。
【0025】
また、光電変換基板2の光電変換素子8が形成された表面に、放射線としてのX線を可視光に変換するシンチレータ層31が形成されている。このシンチレータ層31は、ハロゲン化物であるヨウ化セシウム(CsI)および賦活剤であるタリウム(Tl)を含む蛍光体である。そして、シンチレータ層31は、光電変換基板2の面方向に複数の短冊状の柱状結晶32が形成された柱状結晶構造に形成されている。
【0026】
また、シンチレータ層31上にはシンチレータ層31で変換された可視光の利用効率を高めるための反射層41が積層されて形成され、この反射層41上にはシンチレータ層31を大気中の水分から保護する保護層42が積層されて形成され、この保護層42上には保護カバー43が配置されている。
【0027】
そして、このように構成されたX線検出器1において、シンチレータ層31へと入射した放射線としてのX線51はこのシンチレータ層31の柱状結晶32にて可視光52に変換される。
【0028】
この可視光52は柱状結晶32内を通じて光電変換基板2の光電変換素子8に到達して電気信号に変換される。光電変換素子8で変換された電気信号は画素電極7に流れ、画素電極7に接続された薄膜トランジスタ5のゲート電極12が駆動状態となるまで、画素電極7に接続された電荷蓄積用キャパシタ6へと移動して保持されて蓄積される。
【0029】
このとき、制御電極11の1つを駆動状態にすると、この駆動状態となった制御電極11に接続された1行の薄膜トランジスタ5が駆動状態となる。
【0030】
この駆動状態となったそれぞれの薄膜トランジスタ5に接続された電荷蓄積用キャパシタ6に蓄積された電気信号が読出電極13へと出力される。
【0031】
この結果、X線画像の特定の行の画素4に対応する信号が出力されるため、制御電極11の駆動制御によって、全てのX線画像の画素4に対応する信号を出力でき、この出力信号がデジタル画像信号に変換されて出力される。
【0032】
次に、図2を参照してX線検出器1の第2の構造例を説明する。なお、X線検出器1の第1の構造例と同じ符号を用い、同様の構成および作用の説明は省略する。
【0033】
光電変換基板2の構造および作用は第1の構造例と同じである。
【0034】
光電変換基板2上に接合層61を介してシンチレータパネル62が接合されている。シンチレータパネル62は、X線51を透過する支持基板63を有し、この支持基板63上に光を反射する反射層41が形成され、この反射層41上に短冊状の複数の柱状結晶32を有するシンチレータ層31が形成され、このシンチレータ層31上にシンチレータ層31を密閉する保護層42が積層されて形成されている。
【0035】
そして、このように構成されたX線検出器1において、シンチレータパネル62のシンチレータ層31へと入射したX線51はこのシンチレータ層31の柱状結晶32にて可視光52に変換される。
【0036】
この可視光52は柱状結晶32内を通じて光電変換基板2の光電変換素子8に到達して電気信号に変換され、上述したようにデジタル画像信号に変換されて出力される。
【0037】
次に、図3を参照してX線検出器1の第3の構造例を説明する。図1に示したX線検出器1の第1の構造例において、シンチレータ層31が柱状結晶32をなしていないだけで、他の構成は同様である。
【0038】
次に、図4を参照してX線検出器1の第4の構造例を説明する。図2に示したX線検出器1の第2の構造例において、シンチレータ層31が柱状結晶32をなしていないだけで、他の構成は同様である。
【0039】
そして、図1ないし図4に示される構造のX線検出器1において、シンチレータ層31は、ハロゲン化物であるCsIおよび賦活剤であるTlを含む蛍光体であり、かつ、シンチレータ層31の膜厚方向におけるX線51の入射側領域をA、非入射側領域をBとするとともに、シンチレータ層31の面内方向の中心領域を中央部C、外周領域を周辺部Dとした場合、少なくとも次の(1)~(3)の特徴を有しており、さらに次の(4)~(6)の特徴を有していることが好ましい。
【0040】
(1)入射側領域Aは賦活剤を含有しない(非入射側領域Bのみ賦活剤を含有する)。
(2)入射側領域Aの面内方向の膜厚分布は中央部C>周辺部Dである。
(3)非入射側領域Bの面内方向の膜厚分布は中央部C<周辺部Dである。
(4)シンチレータ層31は、短冊状の柱状結晶構造を有し、かつ入射側領域Aがシンチレータ層31の膜厚の5%~50%を占める。
(5):シンチレータ層31の中央部Cは、シンチレータ層31の形成領域の中心を基準とした同心円状、若しくは方形状で、シンチレータ層31の形成領域の50%以上を占める。
(6)シンチレータ層31の非入射側領域Bにおける賦活剤の膜厚方向の濃度範囲は0.1mass%~2.0mass%である。
【0041】
ここで、図1に示される第1の構造例のX線検出器1において、シンチレータ層31の模式図を図6に示す。また、図2に示される第2の構造例のX線検出器1において、シンチレータ層31の模式図を図7に示す。
【0042】
図6または図7に示すように、(1)~(4)の特徴をシンチレータ層31に付与した場合、入射側領域Aは、賦活剤を含有しないことから、発光に寄与しないX線51の吸収層となり、つまりX線51が被写体を透過した際に生じる散乱X線のX線グリッドを使用した場合と同様の効果を有することとなる。
【0043】
また、X線検出器1において、X線51が被写体を透過した際に生じる散乱X線の強度分布は、中央部C>周辺部Dとなる。そのため、中央部Cの散乱X線の強度に対応した散乱X線の吸収層をシンチレータ層31の形成領域全体に均一に形成した場合、図8(a)に示すX線画像(Flat Field補正:無)のように、散乱X線の強度分布に伴う同心円状の感度斑(シェーディング)がX線画像に生じることとなる。
【0044】
さらに、図9に示すように、X線検出器1においては、通常、X線発生源(X線管)80は、X線検出器1の中心軸上に設置されることから、X線検出器1の中央部Cと周辺部Dとでは、X線発生源80からの距離とX線(入射X線)51の入射角度に相違が生じる。
【0045】
ここで、X線検出器1の中央部CにおけるX線発生源80からの距離をL、X線検出器1の周辺部DにおけるX線発生源80からの距離をL´、X線検出器1の中心軸に対する周辺部DでのX線51の入射角度をθ、中央部Cから周辺部Dまでの距離をMとし、中央部Cおよび周辺部DにおけるX線51の強度(エネルギー)を夫々α、βとすると、X線51の強度は、次の[数1]の式となるため、X線51の強度は、X線発生源80からの距離の二乗に比例して減衰することとなる。
【0046】
【数1】
【0047】
このため、一般的なX線検出器においては、発光に寄与するシンチレータ層31の形成領域の面内方向の膜厚分布が均一の場合、X線発生源80からの距離とX線51の入射角度の相違に伴い、図8(a)に示されるような同心円状の感度斑(シェーディング)がX線画像に生じることとなる。
【0048】
そこで、X線検出器1においては、図8(b)に示すような感度斑を補正するFlat Field補正がX線画像に付与されることとなるが、Flat Field補正をX線画像に付与する場合、補正に伴いX線画像に含まれるノイズ成分も増幅されることから、補正前の感度斑が大きい程、補正後のX線画像のS/Nが低下し、X線画像のダイナミックレンジも減少する。言い換えれば、X線画像の感度分布の一様性{BU(Brightness Uniformity)}がよい程、高画質なX線画像(高S/N、ワイドダイナミックレンジ)が得られることとなる。
【0049】
このため、図6または図7に示されるように、上記(1)(2)(4)の特徴にさらに上記(3)の特徴をシンチレータ層31に付与すれば、図8(a)に示されるようなX線画像に発生する同心円状の感度斑を大幅に軽減できるため、より高画質なX線画像を得ることが可能となる。
【0050】
さらに、上記(1)~(4)の特徴をシンチレータ層31に付与した場合、入射側領域Aは、構造上、短冊状の柱状結晶構造を有するシンチレータ層31の各柱状結晶32に独立して形成されることから、X線グリッドを使用した場合に対して、次のI~IIIの効果が得られることとなる。
【0051】
I:光電変換基板(アクティブマトリックス光電基板)の画素電極サイズおよび画素電極ピッチに依らず、モアレが発生しないため、X線画像の画質劣化が発生しない。X線グリッドを使用した場合、図10(a)に示すように、モアレが発生し、X線画像の画質劣化を生じるのに対して、X線グリッドを使用しないことにより、図10(b)に示すように、モアレが発生せず、X線画像の画質劣化を防止することができる。
【0052】
II:適切なX線画像を得るための制約{例えばX線発生源80とX線検出器1との距離であるSID(Source Image receptor Distance)等の制約}が少ない。
【0053】
III:構造的に散乱X線の吸収層(入射側領域A)と発光に寄与するシンチレータ層31の非入射側領域Bとの間には構造体等が存在しないため、画像特性(感度、解像度およびコントラスト等)の改善効率がよい。
【0054】
また、入射X線の線質が軟らかい場合{X線発生源(X線管)80の管電圧が低い場合}、被写体による入射X線の吸収が大きくなることから、相対的に散乱X線の影響が顕著となり、シンチレータ層31のX線51の入射側に存在する構造体(反射層41、保護層42および保護カバー43等)の微小なX線吸収率の違いがX線画像に観測され易くなるが、X線検出器1において、上記(1)~(4)の特徴をシンチレータ層31に付与した場合、X線グリッドを使用した場合と異なり、入射側領域Aは、シンチレータ層31のX線の入射側に存在する構造体よりも非入射側に形成されるため、入射X線の線質が軟らかい場合においても散乱X線の影響により発生する微小なX線画像斑を抑制することも可能となる。
【0055】
このため、X線検出器1において、上記(1)~(4)の特徴をシンチレータ層31に付与した場合、X線グリッドを使用することなく、画像特性(感度、解像度およびコントラスト等)の改善が可能となる。
【0056】
また、X線検出器1において、上記(1)~(4)の特徴をシンチレータ層31に付与した場合、さらに(5)の特徴であるシンチレータ層31の中央部Cがシンチレータ層31の形成領域の50%以上を占めれば、例えばX線画像を用いた診断等に適したX線検出器1を提供できる。
【0057】
さらに、X線検出器1において、上記(1)~(4)の特徴をシンチレータ層31に付与した場合、入射側領域Aは、賦活剤を含有しないことから、発光に寄与しないX線の吸収層となるため、上記(6)の特徴である非入射側領域Bの賦活剤の膜厚方向の濃度範囲を0.1mass%~2.0mass%とすれば、良好な画像特性(感度、解像度等)が得られる。より好ましくは、非入射側領域Bの賦活剤の膜厚方向の濃度範囲を1.6mass%±0.4mass%とすれば、画像特性(感度、解像度等)を劣化させることなく、残像特性を改善することも可能となる。
【0058】
次に、ハロゲン化物であるCsIにTlを賦活剤として含有する蛍光体からなるシンチレータ層31の一般的な形成方法の模式図を図11に示す。
【0059】
真空チャンバ71内に基板72(光電変換基板2または支持基板63に該当する)を配置し、この基板72を回転させながら、真空チャンバ71内に設置されているCsIの蒸発源73からの蒸発粒73aとTlIの蒸発源74からの蒸発粒74aを基板72の積層面に蒸着する真空蒸着法により、シンチレータ層31を積層形成する。
【0060】
このとき、シンチレータ層31の形成過程において、TlIの蒸発源74からの蒸発粒74aの供給を遮断、若しくは停止すれば、シンチレータ層31の膜厚方向の任意の領域に賦活剤を含有しない領域を形成することが可能となる。
【0061】
このため、本実施形態のシンチレータ層31は、シンチレータ層31の形成過程の末期、若しくは初期に、TlIの蒸発源74からの蒸発粒74aの供給を遮断、若しくは停止し、かつCsIの蒸発源73からの蒸発粒73aの供給分布を制御することにより形成される。蒸発粒73aの供給分布の制御には遮蔽物等を用いてもよい。したがって、入射側領域Aは賦活剤を含有せず、非入射側領域Bは賦活剤を含有し、かつ入射側領域Aの面内方向の膜厚分布を中央部C>周辺部D、非入射側領域Bの面内方向の膜厚分布は中央部C<周辺部Dとし、さらに非入射側領域Bを所定の賦活剤の濃度とすることが可能となる。なお、非入射側領域Bの面内方向の膜厚分布は略均等となる。
【0062】
ここで、図1に示される構造のX線検出器1の実施例について説明する。この実施例では、シンチレータ層31の母材:CsI、賦活剤:Tl、反射層41:TiO、保護カバー43:アルミニウムとし、その他の構成を異ならせたサンプル1、2、3、4を作成した。図12にサンプル1、2、3、4の構成を示す。
【0063】
サンプル1は、シンチレータ層31の膜厚方向の全域に賦活剤を含有し、X線グリッドが無い構成である。
【0064】
サンプル2は、サンプル1の構成において、X線グリッドを有する構成である。
【0065】
サンプル3は、上記(1)~(4)の特徴をシンチレータ層31に付与した本実施形態であり、入射側領域Aは賦活剤を含有せず、非入射側領域Bは賦活剤を含有し、入射側領域Aの面内方向の膜厚分布は中央部C>周辺部D、非入射側領域Bの面内方向の膜厚分布は中央部C<周辺部Dの関係にある。
【0066】
サンプル4は、サンプル3の構成において、入射側領域Aの面内方向の膜厚分布は中央部C=周辺部D、非入射側領域Bの面内方向の膜厚が均一(非入射側領域Bの面内方向の膜厚分布は中央部C=周辺部D)の関係にある。
【0067】
これら4つのサンプル1、2、3、4について、それぞれX線検出器1に組み合わせ、特定の撮影条件下にて被写体を撮影し、X線画像の画像特性(感度比、MTF比(解像度)、コントラスト比、モアレ)を求める。撮影条件は、図13に示すように、X線発生源80とX線検出器1との間に、鉛の被写体81を中心部に配置した四角形状のアクリル82を配置する。さらに、感度、MTF、コントラスト比の測定時におけるX線照射条件は70kV-0.0087mGy、アクリル厚は60mmである。また、コントラストについては、図14(a)に示すように、被写体81を通過する輝度測定ライン83上の輝度を測定し、図14(b)に示すように、0の輝度レベルに対する被写体無しの輝度レベルHと被写体有りの輝度レベルLとの比H/Lを求める。
【0068】
そして、4つのサンプル1、2、3、4についてのX線画像の画像特性を測定した結果を図15の表に示す。なお、感度比、MTF比、コントラスト比は、サンプル1の画像特性を基準(1.00)とした相対値である。
【0069】
図15に示すように、上記(1)~(4)の特徴をシンチレータ層31に付与した本実施形態であるサンプル3は、X線グリッドを有するサンプル2と同様に感度比、MTF比、コントラスト比が改善する効果を有することとなり、しかも、X線グリッドを使用した場合に対して、構造的にモアレが発生せず、かつバランスの良い画像特性が得られることとなる。
【0070】
さらに、図16(a)にサンプル4のX線画像(Flat Field補正:無)を示し、図16(b)にサンプル3のX線画像(Flat Field補正:無)を示す。このとき、X線照射条件は70kV-0.0087mGy、画像処理はヒストグラム平均値±50%とする。そして、中央部Cの感度をa、周辺部D(X線画像の対角線長の中心から90%の位置)の感度(4箇所の平均値)をbとし、X線画像の感度分布の一様性であるBU(Brightness Uniformity)(%)=b/a・100を求めると、サンプル4はBU=62%、サンプル3はBU=80%となった。したがって、上記(1)~(4)の特徴をシンチレータ層31に付与した本実施形態であるサンプル3は、サンプル4に対しても散乱X線の強度分布に伴う同心円状の感度斑を軽減できるため、より高画質なX線画像を得ることが可能となる。
【0071】
以上のことから、シンチレータ層31の非入射側領域Bは賦活剤を含有し、入射側領域Aは賦活剤を含有せず、かつ入射側領域Aの面内方向の膜厚分布は中央部C>周辺部D、非入射側領域Bの面内方向の膜厚分布は中央部C<周辺部Dとすることにより、散乱X線の影響を軽減し、画像特性(感度、解像度、コントラスト等)を改善できる。
【0072】
また、シンチレータ層31は、短冊状の柱状結晶32を有し、かつ入射側領域Aはシンチレータ層31の膜厚の5%~50%を占めることにより、散乱X線の影響をより軽減し、画像特性(感度、解像度、コントラスト等)をより改善できる。
【0073】
また、シンチレータ層31の中央部Cは、シンチレータ層31の形成領域の中心を基準とした同心円状、若しくは方形状で、シンチレータ層31の形成領域の50%以上を占めることにより、例えばX線画像を用いた診断等に適したX線検出器1を提供できる。
【0074】
また、シンチレータ層31の非入射側領域Bにおける賦活剤の濃度範囲は0.1mass%~2.0mass%であることにより、良好な画像特性(感度、解像度等)が得られる。
【0075】
このように、画像特性(感度、解像度、コントラスト等)の優れた高性能、かつ信頼性の高いX線検出器1を提供することが可能となる。
【0076】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0077】
1 放射線検出器としてのX線検出器
2 光電変換基板
31 シンチレータ層
51 放射線としてのX線
A 入射側領域
B 非入射側領域
C 中央部
D 周辺部
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