(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101200
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】立体造形方法、及び立体造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 69/00 20060101AFI20240722BHJP
B33Y 40/20 20200101ALI20240722BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240722BHJP
B29C 64/379 20170101ALI20240722BHJP
B29C 39/12 20060101ALI20240722BHJP
B29C 64/124 20170101ALI20240722BHJP
【FI】
B29C69/00
B33Y40/20
B33Y10/00
B29C64/379
B29C39/12
B29C64/124
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005029
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096080
【弁理士】
【氏名又は名称】井内 龍二
(74)【代理人】
【識別番号】100194098
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 一
(72)【発明者】
【氏名】金盛 一
(72)【発明者】
【氏名】圓崎 論
(72)【発明者】
【氏名】津田 雄一郎
【テーマコード(参考)】
4F204
4F213
【Fターム(参考)】
4F204AA36
4F204AC05
4F204AD05
4F204AG03
4F204EA03
4F204EB01
4F204EB11
4F204EB22
4F204EK13
4F204EK17
4F213AA36
4F213WA02
4F213WA25
4F213WA54
4F213WA87
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL12
4F213WL15
4F213WL32
(57)【要約】
【課題】いわゆるコアシェル方式の立体造形方法において、シェルの厚さを薄くした場合であっても、コア材を硬化させる工程で、シェルに囲われた部分であるコア部の変形を防止することができる立体造形方法を提供すること。
【解決手段】立体造形物の外形を規定するシェル4の内側面に囲われた部分であるコア部5に液相材料であるコア材6を充填するコア材充填工程と、コア部5内のコア材6を硬化させるコア材硬化工程とを含む立体造形方法であって、コア材硬化工程において、コア部5が変形しないようにシェル4の外側面を抑え込む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体造形物の外形を規定するシェルの内側面に囲われた部分であるコア部に液相材料であるコア材を充填するコア材充填工程と、
前記コア部内の前記コア材を硬化させるコア材硬化工程と、
を含む立体造形方法であって、
前記コア材硬化工程において、前記コア部が変形しないように前記シェルの外側面を抑え込むことを特徴とする立体造形方法。
【請求項2】
前記コア材硬化工程において、前記シェルの外側面を抑え込むための抑え込み手段を用いることを特徴とする請求項1記載の立体造形方法。
【請求項3】
前記抑え込み手段として、前記シェルの外側面を嵌め込み可能な形状をした金型を用い、
前記コア材硬化工程において、
前記コア材が充填された前記シェルを前記金型に嵌め込んだ後に、前記コア部内の前記コア材を一括して硬化させることを特徴とする請求項2記載の立体造形方法。
【請求項4】
前記抑え込み手段として、前記シェルを埋め込み可能な流動性部材が充填された埋め込み手段を用い、
前記コア材硬化工程において、
前記コア材が充填された前記シェルを前記埋め込み手段に埋め込んだ後に、前記コア部内の前記コア材を一括して硬化させることを特徴とする請求項2記載の立体造形方法。
【請求項5】
前記コア材が熱硬化性樹脂からなり、
前記コア材硬化工程では、前記コア材に熱エネルギーを付与することにより、前記コア材を熱硬化させることを特徴とする請求項1~4のいずれかの項に記載の立体造形方法。
【請求項6】
前記シェルが物性としてガラス転移温度を有し、該ガラス転移温度が前記コア材の熱硬化温度よりも低く、
前記コア材硬化工程が、前記熱硬化温度以上の温度条件で実施されることを特徴とする請求項5記載の立体造形方法。
【請求項7】
前記コア材硬化工程の後に、
前記シェルの少なくとも一部を硬化後の前記コア材から分離させ、前記コア部の形状に倣った形状を有し前記コア材からなる立体造形物を得る分離工程を備えていることを特徴とする請求項1~4のいずれかの項に記載の立体造形方法。
【請求項8】
請求項7記載の立体造形方法を用いて立体造形物を製造することを特徴とする立体造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は立体造形方法、及び立体造形物の製造方法に関し、より詳細には、3Dプリンティングなどの付加製造技術を用いて立体造形物を造形する立体造形方法、及び立体造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3Dプリンティング技術を用いた製造装置の名称として、広く3Dプリンタという言葉が使われている。3Dプリンタは、3次元のCADデータをもとにコンピュータで造形物の断面形状を計算し、該造形物を薄い輪切り状の断面構成要素に分割して、その断面構成要素を種々の方法で形成し、それを積層させて目的とする造形物を造形する立体造形装置である。3Dプリンティング技術は、国際的にはAdditive Manufacturing Technologyと同義語として使われる場合が多く、日本語訳として、付加製造技術が用いられている。
【0003】
近年は、3Dプリンタで造形した造形物に対しても、実製品の量産前の評価目的で外観だけでなく剛性や強度が要求されるようになり、金属3Dプリンタや複合材3Dプリンタなどが注目されている。
【0004】
本出願人は、上記した付加製造技術に関連する技術の一つとして、下記の特許文献1記載の立体造形方法を提案している。特許文献1記載の立体造形方法は、造形槽内で複数回のシェルの造形とコア材の充填とを繰り返した後、活性エネルギー線の照射又は熱エネルギーの付与により前記コア材を一括して硬化させることを特徴としている。係る立体造形方法により、前記コア材により造形された部分に積層界面が存在しない、換言すれば、剛性、強度に方向性が無い立体造形物を造形することが可能となった。
【0005】
上記特許文献1記載の立体造形方法(以下この方法をコアシェル方式とも言う。)で立体造形物を得るにあたり、一般には外殻層を形成するシェルと、該シェルの内側の硬化したコア材とを合わせたものを立体造形物と呼んでいる。
[発明が解決しようとする課題]
【0006】
一方で、このコアシェル方式で立体造形物を得るにあたり、立体造形物の一体性が重視されたり、前記シェルの強度が問題視されたりする場合に、前記シェルの少なくとも一部を硬化後の前記コア材から分離させて、硬化後のコア材を主とする立体造形物が求められる場合がある。
【0007】
この場合、前記シェルと硬化後の前記コア材とは密着しているため、前記シェルに切削等による外力を加えて前記コア材から前記シェルを分離する工程が必要となる。
上記コアシェル方式においては、液相状態の前記コア材を一括して硬化させる際、前記コア材を歪みなく硬化させるために、前記シェルの厚さは、前記コア材の硬化時に変形しない十分な厚みを有していることが望ましい。
【0008】
一方で、前記シェルの厚みが増すほど、硬化後の前記コア材から前記シェルを分離しにくくなるため、硬化後の前記コア材から前記シェルを分離させる必要がある場合は、前記シェルの厚さは薄い方が望ましい。
しかしながら、前記シェルの厚さを薄くすると前記コア材を一括して硬化させる工程において、前記熱エネルギー等による加熱によって前記シェルが軟化し、硬化前の前記コア材の自重等も加わって、前記シェルの形状が変形しやすくなり、その結果、硬化後の前記コア材の寸法精度が低下してしまうという課題があった。
【0009】
上記課題が生じる現象の一例について、
図7、8を用いて説明する。
図7、8は、上記コアシェル方式において、従来のコア材を一括して硬化させる工程の前後の状態を模式的に示す図である。
図7(a)は、シェルの厚さが厚い場合のコア材硬化前の状態を模式的に示す平面図であり、(b)は、(a)におけるb-b線断面図であり、(c)は、シェルの厚さが厚い場合のコア材硬化後の状態を模式的に示す平面図であり、(d)は、(c)におけるd-d線断面図である。
図8(a)は、シェルの厚さが薄い場合のコア材硬化前の状態を模式的に示す平面図であり、(b)は、(a)におけるb-b線断面図であり、(c)は、シェルの厚さが薄い場合のコア材硬化後の状態を模式的に示す平面図であり、(d)は、(c)におけるd-d線断面図である。
【0010】
なお、
図7、8に示した例では、シェル40は、上方に開口する有底箱形状に造形されて、シェル40で囲われた部分であるコア部50にコア材60が充填されている。
図7に示すように、シェル40の厚さが厚い場合は、コア材硬化前後でシェル40及びコア部50の変形はほとんど生じておらず、コア材60をほとんど歪みなく硬化させて、硬化コア材60aにすることが可能である。
【0011】
一方、
図8に示すように、シェル40の厚さが薄い場合は、
図8(c)、(d)に示すコア材硬化後において、シェル40の長手方向の外周面が少し膨らんだ状態となり、
図8(d)の断面図に示すように、シェル40の上部が少し広がった形態に変形し、これに伴いコア部50も変形することにより、硬化コア材60aが少し歪んだ状態となる。
このように、シェル40の厚さを薄くするとコア材60を一括して硬化させる工程において、熱エネルギー等による熱によってシェル40が軟化し、硬化前のコア材60の自重等も加わって、シェル40の形状が変形して、硬化コア材60aの寸法精度が低下する現象が生じることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段及びその効果】
【0013】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであって、いわゆるコアシェル方式の立体造形方法において、シェルの厚さを薄くした場合であっても、コア材を硬化させる工程においてシェルで囲われた部分であるコア部の変形を防止することができる立体造形方法、及び立体造形物の製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
上記目的を達成するために本発明に係る立体造形方法(1)は、
立体造形物の外形を規定するシェルの内側面に囲われた部分であるコア部に液相材料であるコア材を充填するコア材充填工程と、
前記コア部内の前記コア材を硬化させるコア材硬化工程とを含む立体造形方法であって、
前記コア材硬化工程において、前記コア部が変形しないように前記シェルの外側面を抑え込むことを特徴としている。
【0015】
上記立体造形方法(1)によれば、前記コア材硬化工程において、前記コア部が変形しないように前記シェルの外側面を抑え込むようにするので、前記シェルの厚さを薄くした場合であっても、前記コア材硬化工程における前記コア部の変形を防止することができる。
【0016】
また本発明に係る立体造形方法(2)は、上記立体造形方法(1)において、
前記コア材硬化工程において、前記シェルの外側面を抑え込むための抑え込み手段を用いることを特徴としている。
【0017】
上記立体造形方法(2)によれば、前記コア材硬化工程において、前記抑え込み手段を用いて前記シェルの外側面を抑え込むことが可能となり、前記シェルの変形を抑え込んで、前記コア部の変形を防止することができる。
【0018】
また本発明に係る立体造形方法(3)は、上記立体造形方法(2)において、
前記抑え込み手段として、前記シェルの外側面を嵌め込み可能な形状をした金型を用い、
前記コア材硬化工程において、
前記コア材が充填された前記シェルを前記金型に嵌め込んだ後に、前記コア部内の前記コア材を一括して硬化させることを特徴としている。
【0019】
上記立体造形方法(3)によれば、前記コア材硬化工程において、前記コア材が充填された前記シェルを前記金型に嵌め込んだ後に、前記コア部内の前記コア材を一括して硬化させるので、前記金型によって前記シェルの外側面を抑え込むことができ、前記シェルの変形を抑え込んで、前記コア部の変形を防止することができる。
【0020】
また本発明に係る立体造形方法(4)は、上記立体造形方法(2)において、
前記抑え込み手段として、前記シェルを埋め込み可能な流動性部材が充填された埋め込み手段を用い、
前記コア材硬化工程において、
前記コア材が充填された前記シェルを前記埋め込み手段に埋め込んだ後に、前記コア部内の前記コア材を一括して硬化させることを特徴としている。
【0021】
上記立体造形方法(4)によれば、前記コア材硬化工程において、前記コア材が充填された前記シェルを前記埋め込み手段に埋め込んだ後に、前記コア部内の前記コア材を一括して硬化させることが可能となる。前記埋め込み手段であれば、前記シェルの外形が複雑な形状であっても、前記シェルの外形に沿って前記流動性部材を密着させた状態で、前記シェルを前記流動性部材の中に埋め込むことが可能となり、前記シェルの外側面を前記流動性部材により抑え込むことができ、前記シェルの変形を抑え込んで、前記コア部の変形を防止することができる。
【0022】
また本発明に係る立体造形方法(5)は、上記立体造形方法(1)~(4)のいずれかにおいて、
前記コア材が熱硬化性樹脂からなり、
前記コア材硬化工程では、前記コア材に熱エネルギーを付与することにより、前記コア材を熱硬化させることを特徴としている。
【0023】
上記立体造形方法(5)によれば、前記コア材が熱硬化性樹脂からなるので、前記コア材充填工程を常温、常圧環境下で容易に行え、かつ前記コア材硬化工程において、前記コア材全体を一体化させた状態に効率良くしっかりと硬化させることができる。
【0024】
また本発明に係る立体造形方法(6)は、上記立体造形方法(5)において、
前記シェルが物性としてガラス転移温度を有し、該ガラス転移温度が前記コア材の熱硬化温度よりも低く、
前記コア材硬化工程が、前記熱硬化温度以上の温度条件で実施されることを特徴としている。
【0025】
上記立体造形方法(6)によれば、前記コア材硬化工程が、前記熱硬化温度以上の温度条件で実施されて、前記シェルが軟らかくなったとしても、前記コア材硬化工程において、前記コア部が変形しないように前記シェルの外側面を抑え込むので、前記シェルが前記コア材の自重に耐えきれずに変形することを防止することができ、前記コア部の変形を防止することができる。
【0026】
また本発明に係る立体造形方法(7)は、上記立体造形方法(1)~(6)のいずれかにおいて、
前記コア材硬化工程の後に、
前記シェルの少なくとも一部を硬化後の前記コア材から分離させ、前記コア部の形状に倣った形状を有し前記コア材からなる立体造形物を得る分離工程を備えていることを特徴としている。
【0027】
上記立体造形方法(7)によれば、前記抑え込み手段を用いる前記コア材硬化工程によって、前記シェルの厚みを薄くすることができ、また、前記分離工程において、前記シェルを硬化後の前記コア材から容易に分離させることが可能となる。
【0028】
また本発明に係る立体造形物の製造方法は、上記立体造形方法(1)~(7)のいずれかを用いて立体造形物を製造することを特徴としている。
【0029】
上記立体造形物の製造方法によれば、前記立体造形物を製造する場合に、上記立体造形方法(1)~(7)のいずれかにより得られる効果を奏することとなり、前記コア材硬化工程において前記シェルの変形、すなわち、前記コア部の変形を防止して、硬化した前記コア材の寸法精度を高めることができる。そして、前記シェルの分離が容易となり、寸法精度の高い前記コア材を主とする立体造形物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施の形態に係る立体造形方法に用いる立体造形装置の構成例を示す概略図である。
【
図2】実施の形態に係る立体造形方法の一例を説明するための図であり、(a)はシェル造形工程、(b)はコア材充填工程を説明するための図である。
【
図3】実施の形態に係る立体造形方法におけるコア材硬化工程の一例を説明するための図であり、(a)はコア材硬化前、(b)はコア材硬化後の状態を示す図である。
【
図4】(a)、(b)は、コア材硬化工程で用いる抑え込み手段としての金型の別の形態を示す図である。
【
図5】実施の形態に係る立体造形方法における分離工程の一例を説明するための図であり、(a)はシェル分離前、(b)、(c)はシェル分離後の状態を示す図である。
【
図6】別の実施の形態に係る立体造形方法におけるコア材硬化工程の一例を説明するための図であり、(a)はコア材硬化前、(b)はコア材硬化後の状態を示す図である。
【
図7】コアシェル方式において、従来のコア材を一括して硬化させる工程の前後の立体造形物の状態の一例を模式的に示す図であり、(a)は、シェルの厚さが厚い場合のコア材硬化前の状態を模式的に示す平面図であり、(b)は、(a)におけるb-b線断面図であり、(c)は、シェルの厚さが厚い場合のコア材硬化後の状態を模式的に示す平面図であり、(d)は、(c)におけるd-d線断面図である。
【
図8】コアシェル方式において、従来のコア材を一括して硬化させる工程の前後の立体造形物の状態の一例を模式的に示す図であり、(a)は、シェルの厚さが薄い場合のコア材硬化前の状態を模式的に示す平面図であり、(b)は、(a)におけるb-b線断面図であり、(c)は、シェルの厚さが薄い場合のコア材硬化後の状態を模式的に示す平面図であり、(d)は、(c)におけるd-d線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る立体造形方法、及び立体造形物の製造方法の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、図面に記載しているシェルやコア部の形態などは、本発明の主旨が容易に理解できるように模式的に描かれており、これらの形態に限定されるものではない。
【0032】
図1は、実施の形態に係る立体造形方法に用いる立体造形装置の構成例を示す概略図である。
立体造形装置10は、複合材3Dプリンタとしての機能を備え、液槽重合が行われる造形槽11、レーザー光学系12、コア材供給系13、及び熱硬化手段16を主たる構成要素としている。
【0033】
造形槽11内には、シェル材2として、例えば、液相材料である光硬化性樹脂が貯留されており、図示しない光硬化性樹脂調整系により、その液面位置を所定位置に維持、調整可能となっている。シェル材2には、例えば、エポキシ系、アクリル系などの公知の紫外線硬化樹脂などが使用可能である。また、造形槽11内には造形台15が設けられている。造形台15は、造形中の造形物を支持するためのものであり、図示しない駆動機構により図中z軸方向の任意の位置に移動(昇降)かつ設置可能となっている。
【0034】
レーザー光学系12は、紫外線レーザー光源12a、及び走査光学系12bを備えている。紫外線レーザー光源12aから紫外線レーザー光12cが出射され、出射された紫外線レーザー光12cは、走査光学系12bの駆動により、シェル材2の液面上(すなわちxy平面)の所定範囲を走査させることが可能となっている。
【0035】
シェル材2は、活性エネルギー線の一つである紫外線レーザー光12cの照射により、
図1にて硬化済み紫外線硬化樹脂層3で示すように液面から所定の深さだけ硬化するようになっている。この硬化深度は、紫外線レーザー光源12aの出力を調整することにより、ある程度の幅で調整可能となっており、例えば、0.1mm~0.4mm程度の範囲で調整されている。
【0036】
したがって、造形台15上面をシェル材2の液面から所定の硬化深度だけ沈めた深さに位置させ、シェル材2の液面の任意の位置へ紫外線レーザー光12cを照射することにより、造形台15上に任意の面積の硬化済み紫外線硬化樹脂層3が形成される。そして、造形台15上に硬化済み紫外線硬化樹脂層3が形成された後、硬化深度分だけ造形台15を下降させ、シェル材2の液面の任意の位置へ紫外線レーザー光12cを照射することにより、硬化済み紫外線硬化樹脂層3の上に硬化済み紫外線硬化樹脂層3が積層されるようになっている。
【0037】
そして、造形台15の下降とシェル材2液面への紫外線レーザー光12cの照射とを繰り返し実施することにより、硬化済み紫外線硬化樹脂層3の積層が進行し、3次元形状の硬化済み紫外線硬化樹脂層3を得ることが可能となっている。
本実施の形態では、このようにして造形された造形物をシェル4(
図2参照)と呼ぶ。また、このシェル4は、コア材6を充填するための外殻層として機能するものであり、シェル4の内側面に囲われた部分のうち底面を有する部分をコア部5(
図2参照)と呼ぶ。
【0038】
コア材供給系13は、コア材6を内部に貯留するコア材タンク13a中から、ポンプ13bで配管系13c、13dを順に介して圧送しながらコア材6を供給し、ノズル14先端からコア材6を吐出する。ノズル14は図示しないノズル移動機構により、図中xyz各方向に移動かつ固定可能となっている。このため配管系13dはノズル14の移動に追随するようフレキシブルな構造及び材料で構成されている。
【0039】
コア材6は、例えば、エポキシ系、アクリル系など公知の液相材料である熱硬化性樹脂の中に強化材が均一に分散された複合材で構成されている。前記強化材は、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、及びアラミド繊維のうちの少なくとも1つを含む繊維状の強化材でもよいし、シリカ等の無機材料粉などでもよい。コア材6にはシェル材2よりも高比重なものが使用されている。また、コア材6の粘度は、シェル材2の粘度よりも2倍以上であることが好ましい。
【0040】
熱硬化手段16は、加熱対象を密閉可能なチャンバを有する加熱炉で構成されている。ここでの加熱対象は、造形槽11から取り出された、コア材6が充填されたシェル4(
図3参照)であり、熱硬化手段16は、その加熱炉内をコア材6の熱硬化温度よりも高い温度まで昇降させることが可能となっている。
【0041】
熱硬化手段16を用いて、コア材6が充填されたシェル4を加熱するにあたり、本実施の形態では、コア材6が充填されたシェル4を金型17に嵌め込んだ状態で加熱を行うことを特徴の一つとしている(
図3(a)参照)。
金型17は、シェル4の外側面を嵌め込み可能な形状を有し、コア材硬化工程において、シェル4の外側面を抑え込むための抑え込み手段として機能させるものである。該抑え込み手段は、シェル4の変形を抑え込むための手段として機能させるものである。
【0042】
そして、熱硬化手段16によって、シェル4に充填されているコア材6に熱エネルギーを付与し、コア材6の熱硬化温度よりも高い温度まで昇温させて、金型17でシェル4が変形する現象を抑え込んだ状態で、コア材6を一括して熱硬化させることが可能となっている。シェル4は、物性としてガラス転移温度Tgsを有し、このガラス転移温度Tgsはコア材6の熱硬化温度Tpcよりも低い値となっている。
熱硬化手段16を用いたコア材硬化工程では、コア材6が充填されたシェル4を金型17に嵌め込んだ状態で加熱を行うので、コア材6の熱硬化温度Tpcよりも高い温度まで昇温させて、シェル4が軟らかくなったとしても、シェル4がコア材6の自重に耐えきれずに変形するのを金型17によって抑え込むことができ、これによりコア部5の変形を防止することが可能となっている。
【0043】
この硬化したコア材6を本実施の形態では硬化コア材6a(
図3参照)と呼び、この硬化コア材6aが本実施の形態における立体造形物を主として構成する。
コア部5が後に形成される立体造形物における所望の形状を有するようにシェル4が造形され、このコア部5全体にコア材6を充填してからコア材6を熱硬化させることにより、前記所望の形状の立体造形物を得ることが可能となる。
また、本方法によると、硬化コア材6aにより形成される立体造形物には積層界面が存在しないため、剛性、強度に方向性が無い立体造形物を造形することが可能となっている。
【0044】
次に、実施の形態に係る立体造形方法の一例について、
図2~5を用いて説明する。
図2(a)はシェル造形工程、
図2(b)はコア材充填工程の一場面を示す図である。
図3は、コア材硬化工程の一例を説明するための図であり、(a)はコア材硬化前、(b)はコア材硬化後の状態を示す図である。
図4(a)、(b)は、コア材硬化工程で用いる押さえ込み手段としての金型の別の形態を示す図である。
図5は、分離工程の一例を説明するための図であり、(a)はシェル分離前、(b)、(c)はシェル分離後の状態を示す図である。
【0045】
実施の形態に係る立体造形方法では、最初に立体造形装置10によってシェル4の造形、及び造形されたシェル4内へのコア材6の充填が行われる。
具体的には、まず、ノズル14が紫外線レーザー光12cの照射範囲から退避した状態において、造形台15上のシェル材2の液面の任意の位置への紫外線レーザー光12cの照射、及び硬化深度分の造形台15の降下が交互に行われることにより、
図2(a)に示すように所望の形状のコア部5を有するシェル4が造形される。上記のようにしてシェル4を造形する工程をシェル造形工程という。
図2に示すシェル4は、上面に矩形の開口を有する有底箱形状に造形されている。また、シェル4の厚さは、例えば、1mm程度以下となるように薄く造形されている。
【0046】
次に、
図2(b)に示すようにシェル4内に形成されたコア部5内へノズル14が移動し、ノズル14からコア部5へコア材6が吐出されることにより、コア部5内へのコア材6の充填が進行する。上記のようにしてシェル4の内側面に囲われた部分であるコア部5へコア材6を充填する工程をコア材充填工程という。
【0047】
本実施の形態では、コア材充填工程は、シェル4が造形槽11内のシェル材2に浸漬した状態で実施され、コア材6の充填前には、
図2(a)に示すようにコア部5にシェル材2が存在する。そして、シェル材2より比重が大きいコア材6がコア部5に充填されていくにしたがって、コア部5内のシェル材2は押し上げられ、
図2(b)に示すように、シェル4の上部に設けられた開口を経てコア部5からシェル4の外部へシェル材2が押し出されて、シェル材2からコア材6への置換が行われる。
【0048】
なお、上記のシェル造形工程、及びコア材充填工程は交互に複数回ずつ実施されてもよい。すなわち、所定の高さまでシェル4を造形し、そのシェル4によって形成されるコア部5にコア材6を充填した後、さらにシェル4を増築し、そして増築されたシェル4によって新たに形成されたコア部5にコア材6を充填する、という工程を繰り返し行っても良い。このようにシェル4の造形を複数回に分割することで、特にコア部5が複雑な形状を有する場合にも、段階的にコア材6を充填することによってコア部5の隅々までコア材6を充填することが可能となる。なお、上記シェル造形工程およびコア材充填工程は、通常室温(例えば、20℃~30℃)環境下にて実施される。
【0049】
そして、コア材充填工程が完了すると、次に造形槽11内にある造形台15をシェル材2の液面よりも上に上昇させて、造形台15からコア材6が充填されたシェル4を取り外し、次のコア材硬化工程に進む。
【0050】
コア材硬化工程では、
図3(a)に示すように、コア材6が充填されたシェル4を金型17に嵌め込んだ後、熱硬化手段16に投入して、コア材6の硬化処理を開始する。
すなわち、コア材6が充填されたシェル4を金型17に嵌め込んだ状態で熱硬化手段16内に載置し、熱硬化手段16内をコア材6の熱硬化温度Tpcよりも高い温度まで上昇させることにより、シェル4及びコア材6が加熱されて、コア材6の硬化が開始、進行する。そこから所定時間経過するとコア材6全体の硬化が完了して、
図3(b)に示すように、コア部5に硬化コア材6aが形成される。
【0051】
金型17は、シェル4の外側面を抑え込むための抑え込み手段、換言すれば、シェル4及びコア部5の変形を防止するための変形防止手段の一例である。本実施の形態において、金型17は、略直方体形状(箱形状)をしたシェル4の外側面を嵌め込み可能な形状、すなわち、上面に矩形の開口を有する有底箱形状を備え、コア材硬化工程において熱変形しにくい材料(例えば、金属など)で構成されている。
【0052】
なお、金型17の形態は、
図3(a)に示した有底箱型に限定されるものではなく、例えば、
図4(a)に示すようなシェル4の外側面のうち外周面に嵌め込み可能な矩形の枠形状をした金型17Aを用いることも可能である。また、金型17Aにようにシェル4の外周面全体を囲む形態の他、
図4(b)に示す金型17Bのように、シェル4の外周面のうち特に熱変形しやすい部分(この場合、上半分)の外周面を囲む形態のものであってもよい。
【0053】
上記のようにして、金型17、17A、17Bのような抑え込み手段を用いて、シェル4の変形を抑え込み可能な状態で、コア材6を硬化させて硬化コア材6aを形成させる工程をコア材硬化工程という。
金型17、17A、17Bのような抑え込み手段を用いることにより、コア材硬化工程でシェル4のガラス転移温度Tgs以上の温度で加熱されて、シェル4が軟らかくなったとしても、シェル4がコア材6の自重に耐えきれずに変形する現象を抑え込むことが可能となるので、シェル4の厚さを1mm程度以下に薄くすることも可能となる。
なお、コア部5に充填されたコア材6全体をしっかりと硬化させるためには、本実施の形態のようにコア材6として熱硬化性樹脂からなる材料を使用し、コア材硬化工程では、例えば光エネルギーによる硬化よりも熱エネルギーによるコア材6の硬化を実施することが好ましい。
【0054】
コア材硬化工程が完了した後、熱硬化手段16内から金型17、17A、17Bに嵌め込まれたシェル4(コア部5に硬化コア材6aが形成された状態のシェル4)を取り出し、金型17、17A、17Bをシェル4から取り外して、次の分離工程に進む。
【0055】
この分離工程は、シェル4の少なくとも一部を硬化コア材6aから分離させる工程である。
図5(a)に示すように、切削工具などの工具19を用いて、不要なシェル4を硬化コア材6aから分離することによって、
図5(b)に示すように、コア部5の形状に倣った形状を有する硬化コア材6aからなる立体造形物1が得られる。
【0056】
分離工程は、例えば、シェル4と硬化コア材6aとの少なくとも一方が軟化する温度条件下で実施してもよい。前記温度条件としては、例えば、シェル4は軟化するが、硬化コア材6aは軟化せずに硬い状態を維持できる温度条件が好ましい。
なお、
図5(b)に示す例では、全てのシェル4が分離されて硬化コア材6aのみからなる立体造形物1が得られているが、これに限らず、
図5(c)に示すように、一部のシェル4が残され、このシェル4と硬化コア材6aとを合わせたものを立体造形物1と呼んでもよい。
【0057】
上記実施の形態に係る立体造形方法によれば、コア材硬化工程において、抑え込み手段として金型17、17A、17Bを用い、コア材6が充填されたシェル4を金型17、17A、17Bに嵌め込んだ後に、コア部5内のコア材6を一括して硬化させるようになっている。したがって、コア材6を硬化させる際に、シェル4が軟らかくなったとしても、金型17、17A、17Bによってシェル4の外側面を抑え込むことが可能となり、シェル4の厚さを1mm程度以下に薄くした場合であっても、シェル4の変形を抑え込むことが可能となり、コア部5の変形を防止することができる。
【0058】
また上記実施の形態に係る立体造形方法によれば、コア材6が熱硬化性樹脂からなるので、コア材充填工程を常温、常圧環境下で容易に行え、かつコア材硬化工程において、コア材6全体を一体化させた状態に効率良くしっかりと硬化させることができる。
【0059】
また上記実施の形態に係る立体造形方法によれば、コア材硬化工程の後に、シェル4の少なくとも一部を硬化コア材6aから分離させ、コア部5の形状に倣った形状を有し硬化コア材6aからなる立体造形物1を得る分離工程を備えているので、金型17、17A、17Bを用いるコア材硬化工程によってシェル4の厚さを薄くすることができ、また、分離工程において、薄いシェル4を硬化コア材6aから容易に分離させることが可能となる。
【0060】
また上記実施の形態に係る立体造形方法を用いて立体造形物1を製造することにより、立体造形物1を製造する場合に、上記立体造形方法により得られる効果を奏することとなり、シェル4の変形、すなわち、コア部5の変形を防止して、硬化コア材6aの寸法精度を高めることできる。したがって、シェル4の分離が容易となり、寸法精度の高い硬化コア材6aからなる立体造形物1を製造することができる。
【0061】
図6は、別の実施の形態に係る立体造形方法におけるコア材硬化工程を説明するための図であり、(a)はコア材硬化前、(b)はコア材硬化後の状態を示す図である。
上記した実施の形態では、コア材硬化工程で用いる抑え込み手段として、シェル4の外側面を嵌め込み可能な形状をした金型17、17A、17Bを用いた。一方で、造形するシェル4の外側面の形状が複雑なものとなる場合、上記抑え込み手段としての金型の製作が難しくなる。
【0062】
そこで、別の実施の形態では、コア材硬化工程で用いる抑え込み手段として、シェル4Aを埋め込み可能な流動性部材18bが充填された埋め込み手段18を用いることを特徴としている。なお、シェル4Aの外側面には複数の凹凸が形成されている。
埋め込み手段18は、例えば、耐熱性を有する容器18a内に、熱変形しにくい流動性部材18bが充填されたものである。流動性部材18bには、例えば、砂などの粉粒体や、粘土などの塑性流動体などが採用され得る。
【0063】
別の実施の形態におけるコア材硬化工程では、コア材6が充填されたシェル4Aを埋め込み手段18の流動性部材18bの中に、シェル4Aの上面の開口を臨ませた状態になるように埋め込んだ後、熱硬化手段16に投入して、コア材6の硬化処理を開始するようになっている。
【0064】
図6(a)に示すように、コア材6が充填されたシェル4Aを埋め込み手段18に埋め込んだ状態で熱硬化手段16内に載置し、熱硬化手段16内をコア材6の熱硬化温度よりも高い温度まで上昇させることにより、コア材6及びシェル4Aが加熱されてコア材6の硬化が開始、進行する。そこから所定時間経過するとコア材6全体の硬化が完了して、
図6(b)に示すように、コア部5Aに硬化コア材6aが形成される。
【0065】
コア材硬化工程が完了した後、熱硬化手段16内から埋め込み手段を取り出し、そして埋め込み手段18に埋め込まれたシェル4A(コア部5Aに硬化コア材6aが形成された状態のシェル4A)を取り出し、次の分離工程に進む。分離工程は、上記と同様の方法で行うことが可能となっている。
【0066】
上記した別の実施の形態に係る立体造形方法によれば、コア材硬化工程において、コア材6が充填されたシェル4Aを埋め込み手段18に埋め込んだ後に、コア部5A内のコア材6を一括して硬化させることが可能となる。
埋め込み手段18であれば、シェル4Aの外側面の形状が複雑な形状であっても、シェル4Aの外形に沿って流動性部材18bを密着させた状態で、シェル4Aを流動性部材18bの中に埋め込むことが可能となり、シェル4Aの外側面を流動性部材18bにより抑え込むことが可能となり、複雑な形状をしたシェル4Aの変形を抑え込んで、コア部5Aの変形を防止することができる。
【0067】
本発明は、以上の実施の形態に限定されるものではなく、上記したコア材硬化工程において用いられる抑え込み手段は種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
なお、上記実施の形態では、シェル4、4Aの造形に用いられるシェル材2が液相材料である場合について説明したが、シェル4、4Aの造形は、液相材料を硬化させる方法(液相重合法)に限定されるものではなく、たとえば熱溶解積層方式(Fused Deposition Molding、FDP)等の他の付加製造の方法などが適用されてもよい。
また、コア材6はコア部5、5Aに充填後一度に硬化させることが可能であれば、熱硬化性樹脂に限らずたとえば光硬化性樹脂などから構成されていても構わない。
【0068】
本発明は、3Dプリンタなどの付加製造技術の分野において広く適用可能であり、係る分野に本発明を適用することにより、例えば、自動車、航空機、ロボットなどの各種産業機器に用いられる部品、介護用品、スポーツ用品など、特に、軽量且つ高強度が要求される部品、製品の試作のみならず、量産化を実現することが可能となる。
【符号の説明】
【0069】
1 立体造形物
2 シェル材
3 硬化済み紫外線硬化樹脂層
4、4A、40 シェル
5、5A、50 コア部
6、60 コア材
6a、60a 硬化コア材
10 立体造形装置
11 造形槽
12 レーザー光学系
12a 紫外線レーザー光源
12b 走査光学系
12c 紫外線レーザー光
13 コア材供給系
13a コア材タンク
13b ポンプ
13c、13d 配管系
14 ノズル
15 造形台
16 熱硬化手段
17、17A、17B 金型
18 埋め込み手段
18a 容器
18b 流動性部材
19 工具