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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101216
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】炭素固定・水素生成システム
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/12 20060101AFI20240722BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20240722BHJP
   C01F 5/14 20060101ALI20240722BHJP
   C10J 3/00 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
C01B3/12
C01B32/05
C01F5/14
C10J3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005083
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】506213382
【氏名又は名称】アンヴァール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 重利
【テーマコード(参考)】
4G076
4G146
【Fターム(参考)】
4G076AA10
4G076AB24
4G076BA11
4G076BC10
4G076BG02
4G076CA01
4G076DA30
4G146AA01
4G146AB01
4G146BA32
(57)【要約】
【課題】バイオ炭の生成時における二酸化炭素の排出を抑制しつつ、バイオ炭を活用して高効率で水素を生成可能な炭素固定・水素生成システムを提供する。
【解決手段】バイオマスからバイオ炭を生成するバイオ炭生成装置100と、バイオ炭生成装置100で生成された未燃焼ガス中の二酸化炭素をマグネシウムと反応させる燃焼装置5と、燃焼装置5で生成された酸化マグネシウムとバイオ炭生成装置100で生成されたバイオ炭と水を反応室60で反応させて水素を生成させる水素生成装置6と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスからバイオ炭を生成するバイオ炭生成装置と、
前記バイオ炭生成装置で生成された未燃焼ガス中の二酸化炭素をマグネシウムと反応させる燃焼装置と、
前記燃焼装置で生成された酸化マグネシウムと前記バイオ炭生成装置で生成された前記バイオ炭と水を反応室で反応させて水素を生成させる水素生成装置と、
を備えることを特徴とする炭素固定・水素生成システム。
【請求項2】
前記バイオ炭生成装置で生成された未燃焼ガス中の一酸化炭素を酸素と反応させて二酸化炭素に変換する一酸化炭素変換装置を備えることを特徴とする請求項1に記載の炭素固定・水素生成システム。
【請求項3】
前記バイオ炭生成装置で生成された未燃焼ガス中の二酸化炭素と一酸化炭素を分離する分離手段を有していることを特徴とする請求項2に記載の炭素固定・水素生成システム。
【請求項4】
前記分離手段は、ナノポーラス材であることを特徴とする請求項3に記載の炭素固定・水素生成システム。
【請求項5】
前記バイオ炭生成装置で生成された未燃焼ガス中の一酸化炭素と二酸化炭素を前記反応室に供給することを特徴とする請求項1に記載の炭素固定・水素生成システム。
【請求項6】
前記バイオ炭は、前記燃焼装置に供給可能であり、当該燃焼装置で生成された酸化マグネシウムと前記バイオ炭を前記反応室に供給することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の炭素固定・水素生成システム。
【請求項7】
前記酸化マグネシウムと前記バイオ炭は、粉末状であり、
前記酸化マグネシウムと前記バイオ炭を混合させた状態で前記反応室に供給する流路を備えることを特徴とする請求項6に記載の炭素固定・水素生成システム。
【請求項8】
前記燃焼装置で生成された酸化マグネシウムと一酸化炭素を前記反応室に供給することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の炭素固定・水素生成システム。
【請求項9】
前記燃焼装置は、前記二酸化炭素と前記マグネシウムの反応を利用して回転されるガスタービンを有し、
前記流路は、前記ガスタービンのケーシングに設けられることを特徴とする請求項7に記載の炭素固定・水素生成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ炭を活用した炭素固定・水素生成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
木材や竹材等のバイオマスに含まれる炭素は、光合成により大気中の二酸化炭素が固定されたものであるが、バイオマスを自然界に放置しておくと微生物等により分解され、二酸化炭素として再び大気中に放出されてしまう。そこで、バイオマスを炭化して木炭や竹炭等のバイオ炭とすることにより、燃料として燃焼利用しない限り、半永久的に炭素固定することができる。
【0003】
バイオ炭は、バイオマスを燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下で加熱することにより生成され、生成時に発生する未燃焼ガスには、主に二酸化炭素と一酸化炭素が多量に含有されている。一酸化炭素は、人体にとって有毒であることから、一般的には作業者に影響がないように二酸化炭素と共に大気中に放出されているが、一酸化炭素をメタンに改質して回収する試みも行われている(特許文献1参照)。
【0004】
また、バイオ炭は、燃料として燃焼利用する以外に、二酸化炭素を発生させない活用方法として、農用地等の土壌改良のために土壌に混ぜ込む、あるいは地中に埋設することにより、微生物等により分解されない状態で炭素を貯留する、いわゆる炭素貯留が行われている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-277485号公報(第3頁~第5頁、第2図)
【特許文献2】特開2022-153012号公報(第12頁、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、バイオ炭を農用地等の土壌に施用する場合、農用地の面積や作物に合わせた施用量やpH調整等の管理を行う必要があるだけでなく、バイオ炭が土壌に半永久的に残留することからバイオ炭の品質等も厳しく管理される必要があることから、大規模な活用への障壁となっている。また、カーボンニュートラルの観点から、バイオ炭の生成時に発生する未燃焼ガスの新たな処理・回収技術とともに、新たなバイオ炭の活用方法の開発が求められている。
【0007】
発明者らは、バイオ炭の生成時に放出される未燃焼ガス中を炭素固定システムに導入して積極的に炭素固定するとともに、バイオ炭を次世代エネルギ資源である水素生成に活用することにより、カーボンニュートラルに大きく寄与できる炭素固定・水素生成システムを構築できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、バイオ炭の生成時における二酸化炭素の排出を抑制しつつ、バイオ炭を活用して高効率で水素を生成可能な炭素固定・水素生成システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明の炭素固定・水素生成システムは、
バイオマスからバイオ炭を生成するバイオ炭生成装置と、
前記バイオ炭生成装置で生成された未燃焼ガス中の二酸化炭素をマグネシウムと反応させる燃焼装置と、
前記燃焼装置で生成された酸化マグネシウムと前記バイオ炭生成装置で生成された前記バイオ炭と水を反応室で反応させて水素を生成させる水素生成装置と、
を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、バイオ炭生成装置で生成された未燃焼ガス中の二酸化炭素を燃焼装置でマグネシウムと反応させて炭素固定を行うことにより、バイオ炭生成に伴う二酸化炭素の排出を抑制することができるとともに、水素生成装置の反応室において、バイオ炭生成装置で生成されたバイオ炭と水蒸気の水性ガス反応により水素と一酸化炭素を生成し、さらに水性ガス反応に付随して起こる一酸化炭素と水との水性ガスシフト反応により生成される二酸化炭素は、酸化マグネシウムと水蒸気の水和反応により生成される水酸化マグネシウムに吸収され炭酸マグネシウムとして炭素固定されるため、二酸化炭素の排出を抑制しつつ、水性ガス反応および水性ガスシフト反応が平衡状態となることを防止し反応を生成系に偏らせることにより高効率で水素を生成することができる。
【0010】
前記バイオ炭生成装置で生成された未燃焼ガス中の一酸化炭素を酸素と反応させて二酸化炭素に変換する一酸化炭素変換装置を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、バイオ炭生成装置で生成された未燃焼ガス中の一酸化炭素を一酸化炭素変換装置により二酸化炭素に変換し、燃焼装置でマグネシウムと反応させて炭素固定を行うことにより、バイオ炭生成装置で生成された未燃焼ガスから炭素をより多く固定することができる。
【0011】
前記バイオ炭生成装置で生成された未燃焼ガス中の二酸化炭素と一酸化炭素を分離する分離手段を有していることを特徴としている。
この特徴によれば、一酸化炭素変換装置において、高濃度の一酸化炭素を二酸化炭素に効率よく変換することができる。
【0012】
前記分離手段は、ナノポーラス材であることを特徴としている。
この特徴によれば、未燃焼ガス中の二酸化炭素と一酸化炭素を常温で分離することができる。
【0013】
前記バイオ炭生成装置で生成された未燃焼ガス中の一酸化炭素と二酸化炭素を前記反応室に供給することを特徴としている。
この特徴によれば、バイオ炭生成装置で生成された未燃焼ガス中の一酸化炭素と二酸化炭素の混合ガスを反応室に供給することにより、一酸化炭素が二酸化炭素とマグネシウムの燃焼反応に悪影響を与えることないため、バイオ炭生成装置と反応室の間のガス供給構造を簡素に構成することができる。
【0014】
前記バイオ炭は、前記燃焼装置に供給可能であり、当該燃焼装置で生成された酸化マグネシウムと前記バイオ炭を前記反応室に供給することを特徴としている。
この特徴によれば、燃焼装置における二酸化炭素中でのマグネシウムの燃焼反応により得られる1000℃以上の反応熱により高温状態となったバイオ炭を水素生成装置にそのまま供給することができ、高温状態で反応性の高いバイオ炭を水蒸気と即座に反応させることができるため、言い換えれば水素生成装置内で水性ガス反応のためにバイオ炭を再加熱する必要がなく、水蒸気と即座に反応させることができるため、水素の生成効率を高めることができる。
【0015】
前記酸化マグネシウムと前記バイオ炭は、粉末状であり、
前記酸化マグネシウムと前記バイオ炭を混合させた状態で前記反応室に供給する流路を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、粉末状のバイオ炭の中心まで温度が高温となっておりバイオ炭はガス化しやすく、流路から水素生成装置に供給されて即座に水蒸気と水性ガスシフト反応させることができるとともに、酸化マグネシウムと水蒸気の水和反応も促進することができる。
【0016】
前記燃焼装置で生成された酸化マグネシウムと一酸化炭素を前記反応室に供給することを特徴としている。
この特徴によれば、燃焼装置における二酸化炭素中でのマグネシウムの燃焼反応により得られる1000℃以上の反応熱を水素生成装置における水性ガス反応に有効利用することができる。さらに、燃焼装置において二酸化炭素がマグネシウムと完全に反応しない場合に生じる一酸化炭素を水素生成装置における水性ガスシフト反応に利用して水素を生成することができるため、水素の生成効率を高めることができる。
【0017】
前記燃焼装置は、前記二酸化炭素と前記マグネシウムの反応を利用して回転されるガスタービンを有し、
前記流路は、前記ガスタービンのケーシングに設けられることを特徴としている。
この特徴によれば、タービンの回転を利用してケーシング内に捕集された高温状態のバイオ炭や酸化マグネシウムをケーシングに設けられる流路から水素生成装置に直接供給することができるため、バイオ炭の温度低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例1における炭素固定・水素生成システムを示す概要図である。
図2】実施例における燃焼装置を示す模式図である。
図3】実施例における水素生成装置を示す模式図である。
図4】本発明の実施例2における炭素固定・水素生成システムを示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、バイオ炭の生成時に放出される未燃焼ガス中の二酸化炭素(CO)を燃焼装置でマグネシウム(Mg)と反応させて炭素固定を行うことにより、バイオ炭生成時における二酸化炭素の排出を抑制することができるとともに、水素生成装置において、燃焼装置で生成される酸化マグネシウム(MgO)と、バイオ炭生成装置で生成されたバイオ炭と水蒸気(HO)を反応させることで、二酸化炭素(CO)の排出を抑制しつつ、高効率で水素(H)を生成することが可能であることを見出し、これを契機とするものである。尚、バイオ炭生成装置で生成されるバイオ炭は、水分、揮発分、灰分(ミネラル)等の不純物を除いた残りの固定炭素が50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは85%以上の木炭や竹炭であることが好ましい。また、バイオ炭の原料となるバイオマスは、針葉樹または広葉樹の木材やブリケット、竹材に限らず、樹皮、ヤシガラ、稲わら、もみ殻、廃棄紙、バイオ燃料の製造後の残渣等のような他のバイオマスであってもよい。
【0020】
本発明に係る炭素固定・水素生成システムを実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0021】
本実施例1の炭素固定・水素生成システム1は、図1に示されるように、電解装置2と、低温焼成装置3と、還元装置4と、Mg/CO発電装置5(燃焼装置)と、H生成装置6(水素生成装置)と、H回収装置7と、バイオ炭生成装置100と、CO変換装置101(一酸化炭素変換装置)と、から主に構成されており、バイオ炭生成装置100で生成される未燃焼ガス中のCOだけでなく、未燃焼ガスから分離された一酸化炭素(CO)をCO変換装置101において酸素(O)と反応させて変換したCOをMg/CO発電装置5でMgと燃焼反応させて炭素固定を行うとともに、Mg/CO発電装置5における燃焼反応により生成された1000℃以上の高温状態のMgOと、バイオ炭生成装置100で生成されたバイオ炭をH生成装置6に供給することにより、H生成装置6で生成されるCOをMgOに吸着させCOの排出を抑制しつつ、高効率でHを生成するものである。さらに、炭素固定・水素生成システム1は、バイオ炭生成装置100で生成されたバイオ炭をMg/CO発電装置5に供給し、Mg/CO発電装置5で生成されたMgOとバイオ炭をH生成装置6にそのまま供給することにより、高温状態で反応性の高いバイオ炭を水蒸気と即座に反応させて、Hの生成効率を向上させるものである。
【0022】
電解装置2においては、海水を電解して水酸化マグネシウム(Mg(OH))を生成する。
【0023】
低温焼成装置3においては、電解装置2で得られたMg(OH)に後述するMg/CO発電装置5で発生した熱(600℃)を与えて熱分解させ(反応式1参照)、MgOを生成する。
Mg(OH)→MgO+HO・・・(反応式1)
【0024】
還元装置4においては、CaCを還元剤として、低温焼成装置3で得られたMgOの還元反応を行わせ(反応式2参照)、Mg/CO発電装置5の反応に利用されるMgを生成する。尚、還元装置4において用いられる還元剤はCaCに限らず、MgOを還元できるものであれば、他の還元剤であってもよい。
MgO+CaC→Mg+CaO+2C・・・(反応式2)
【0025】
MgOの還元反応に必要なエネルギは、例えばパルスパワー波によって与えることができ、不活性ガスおよび還元性ガスの雰囲気下でパルスパワー波を照射することにより、MgOの還元効率を高めることができる。不活性ガスとしては、アルゴンガス、ネオンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等を挙げることができる。還元性ガスとしては、CaCとの反応性が低い一酸化炭素(CO)が用いられることが好ましく、パルスパワー波の照射によりMgOがプラズマ化して発生する副産物としての酸素(O)とCOが反応してCOが発生する。尚、還元性ガスとしてのCOには、後述する反応式4によって得られたCOを回収したものや、バイオ炭生成装置100で生成される未燃焼ガス中から分離されたCOが利用されてもよい。また、MgOの還元反応に必要なエネルギは、パルスパワー波によって与えられるものに限らず、例えば高温に加熱することによって与えられてもよい。
【0026】
Mg/CO発電装置5においては、還元装置4や後述する低温焼成装置8で得られるCOに加えて、バイオ炭生成装置100で生成される未燃焼ガスからナノポーラス材により構成される図示しない分離手段により吸着分離されたCOだけでなく、分離手段を通過して分離されたCOをCO変換装置101においてOと反応させて変換したCO(下記反応式3参照)をMgと反応させ(下記反応式4,5参照)、炭素の固定が行われる。尚、COとMgの反応は、発熱反応である。
2CO+O→2CO・・・(反応式3)
【0027】
詳しくは、例えば火力発電所で生じた排気等、COリッチな気体に含まれるCOをMgと反応させると、COはMgとは完全に反応せずCOが一部生じ、反応熱の温度が約1500℃~約2000℃となる(反応式4参照)。
Mg+CO→MgO+CO・・・(反応式4)
【0028】
また、CO濃度が高濃度、例えば95%以上である場合には、COはMgと略完全に反応し、MgOと炭素(C)とが生成されCOは生成されず、反応熱の温度が約3000℃以上となる(反応式5参照)。COとMgの反応の観点からはCO濃度が100%であることが好ましい。本実施例においては、反応熱の温度が約2000℃~約3000℃となるようにCO濃度が調整されることが好ましい。尚、CO濃度は、バイオ炭生成装置100で生成される未燃焼ガスから上述した分離手段であるナノポーラス材を通過して分離されたCOや、例えば他のナノポーラス材を用いて未燃焼ガスから分離された窒素(N)を導入することにより行われてもよい。
2Mg+CO→2MgO+C・・・(反応式5)
【0029】
尚、上述した分離手段を構成するナノポーラス材とは、様々な金属イオンとそれらを連結する架橋性の有機配位子を組み合わせることで、内部に空間(ポーラス)を持つ結晶性の高分子構造が形成されたものであり、金属-有機構造体(metal―organic framework;MOF)とも呼ばれる。尚、MOFを構成する金属イオンは、周期表における略全ての金属が適用可能であるが、コバルトイオン(Co2+)、ニッケルイオン(Ni2+)、銅イオン(Cu2+)、亜鉛イオン(Zn2+)等が多く用いられる。また、有機配位子は、酸素ドナー性配位子、窒素ドナー性配位子が多く用いられ、例えばテレフタル酸、4,4’-ビピリジル、イミダゾール等が挙げられる。さらに、MOFを構成する金属イオンと有機配位子の組み合わせは、1:1のものに限らず、複数種類の金属イオンを含むMOFや、複数種類の有機配位子を1つの結晶構造に含むMOFであってもよい。COを吸着可能なMOFとしては、例えばHKUST-1、ZIF-8、MOF-177等が挙げられる。本実施例1において用いたナノポーラス材は、SyncMOF社製のMOFであり、298KにおいてCOが吸着され、COが全く吸着されない特性を有しており、ナノポーラス材にCO/CO混合ガスを通過させることでCOを高純度で得ることができる。また、当該ナノポーラス材に吸着されたCOは、減圧や昇温を行うことにより脱離させることができる。
【0030】
Mg/CO発電装置5では、反応を利用して回転されるタービン42(ガスタービン,図2参照)を利用して、発電が行われている。
【0031】
尚、Mg/CO発電装置5で生成されたCは、約2000℃~約3000℃で焼成されることにより、黒鉛化されている。また、Mg/CO発電装置5で生成されたCは、主にsp混成軌道による結合を有しており、Hをほとんど含有していない。すなわち、Hの含有量は極微量またはゼロである。詳しくは、Mg/CO発電装置5で生成されたCは、炭素原子間においてsp混成軌道による結合とsp混成軌道による結合が混在するアモルファス構造を一部有しており、sp混成軌道による結合の割合は1%~50%程度となっており、Mg/CO発電装置5の燃焼状態にもよるが当該割合は好ましくは1%~10%である。
【0032】
また、Mg/CO発電装置5には、バイオ炭生成装置100で生成されたバイオ炭が供給されており、Mg/CO発電装置5で生成されたMgOとバイオ炭を混合状態でH生成装置6に供給することにより、高温状態で反応性の高いバイオ炭を水蒸気(HO)と即座に反応させることができる。尚、H生成装置6には、バイオ炭だけでなく、Mg/CO発電装置5で生成されたCが、MgOやバイオ炭と一緒に供給されてもよい。
【0033】
生成装置6においては、Mg/CO発電装置5で生成された1000℃以上の高温状態のMgOとバイオ炭(C)を水蒸気(HO)と反応させ(下記反応式6~9参照)、Hの生成が行われる。尚、水蒸気の一部には、低温焼成装置3において上述した反応式1によって得られたHOを回収したものが利用されてもよい。
MgO+HO→Mg(OH)・・・(反応式6)
C+HO→CO+H・・・(反応式7)
CO+HO→CO+H・・・(反応式8)
Mg(OH)+CO→MgCO+HO・・・(反応式9)
【0034】
反応式6で示されるMgOとHOとの水和反応は、発熱反応である。反応式7で示されるバイオ炭(C)とHOとの水性ガス反応は、900℃以上の高温が必要な吸熱反応である。反応式8で示されるCOとHOとの水性ガスシフト反応は、発熱反応である。反応式9で示されるMg(OH)によるCOの吸収は、発熱反応である。反応式6,8,9の発熱反応により放出される熱は、反応式7で示される水性ガス反応やH生成装置6内の温度維持に使われる。
【0035】
生成装置6において生成されたHは、H回収装置7に供給される。また、H生成装置6において生成された炭酸マグネシウム(MgCO)は、低温焼成装置8に供給される。
【0036】
低温焼成装置8においては、H生成装置6で生成されたMgCOにMg/CO発電装置5で発生した熱(350℃以上)を与えて熱分解させ(反応式10参照)、MgOを生成する。
MgCO→MgO+CO・・・(反応式10)
【0037】
低温焼成装置8において生成されたMgOは、還元装置4やH生成装置6に供給されることにより、Mgの生成(反応式2参照)やHの生成(上記反応式6~9参照)に利用される。
【0038】
尚、電解装置2において、電解によりMg(OH)が回収された海水には、同時に炭酸カルシウム(CaCO)が回収されることにより炭酸ガス(重炭酸イオン)が含まれていないため、該海水に還元装置4や低温焼成装置8で発生したCOやH生成装置6でMg(OH)により吸着しきれなかったCOの一部を吸収させることにより、炭素を固定してもよい(点線矢印参照)。
【0039】
次いで、Mg/CO発電装置5について図2を用いて詳しく説明する。図2に示されるように、本実施例のMg/CO発電装置5は、還元装置4において還元反応に必要なエネルギをパルスパワー波によって与えることで発生したCOリッチな導入気体A1を用いて炭素固定および発電が可能となっている。
【0040】
Mg/CO発電装置5は、COをMgと反応させる反応室30と、COリッチな導入気体A1を圧縮して反応室30に供給する供給手段20と、反応室30内にパルスパワー波を照射する第2パルスパワー波照射器31と、反応室30から供給された気体A4のエネルギを用いて発電する発電手段40と、発電手段40の下流側に配設されCOとCOを分離可能なセパレータ51と、セパレータ51によりCOが分離されたCOを含む気体A9を供給手段20に供給する循環手段80と、発電手段40により発電にエネルギが使用された残気体A10を排出する排出手段90と、を備えている。尚、以降の説明において、還元装置4側を上流側、排出手段90の後述する第8連通路91側を下流側として説明する。
【0041】
まず、供給手段20について説明する。供給手段20は、上流側から順に、還元装置4の下流側に連結された第1連通路21と、第1連通路21内にパルスパワー波を照射する第1パルスパワー波照射器22と、第1連通路21の下流側に配設された冷却器23と、冷却器23の下流側に配設された第2連通路24と、第2連通路24の下流側に連結された軸流式の圧縮機25と、圧縮機25の下流側および反応室30の上流側に連結された第3連通路26と、から主に構成されている。
【0042】
第1連通路21は、還元装置4ばかりでなく、後述する循環手段80の逆止弁82とも連結されており、逆止弁82から第1連通路21内に気体A9が流入可能となっている。
【0043】
第1パルスパワー波照射器22は、第1連通路21内かつ後述する逆止弁82との合流箇所よりも上流側に配置されたプラグ22aから第1パルスストリーマ放電を実行可能となっている。本実施例では、第1パルスパワー波照射器22は、半値幅80nsの高電圧を繰り返し動作で発生可能であり、充電電圧を20kV、放電電流を170Aとし、電源を5pps(Pulses Per Second)で運転させることで、第1パルスパワー波を照射し、第1パルスストリーマ放電を生じせしめる。このように、短パルス、高電圧小電流、短サイクルで運転させ、グロー放電やアーク放電とならないようにすることが肝要である。尚、本実施例においては、パルスパワー波によって与えることで発生したCOリッチかつ不純物が少ない導入気体A1が用いられることから、第1パルスパワー波照射器22は配設されなくてもよい。また、導入気体A1の温度によっては、冷却器23も配設されなくてもよい。
【0044】
反応室30は、高耐熱かつ高耐圧に形成されており、図示しない投入口から粉末状のMgを投入可能となっている。尚、投入するMgは粉末以外の形状例えばフレーク状、バー状であってもよい。また、反応室30には、図示しない別の投入口から粉末状のバイオ炭を投入可能となっている。投入するバイオ炭は粉末以外の形状例えばフレーク状、バー状であってもよい。
【0045】
また、反応室30内には、第2パルスパワー波照射器31のプラグ31aが配置されており、反応室30内で第2パルスストリーマ放電を実行可能となっている。また、反応室30内の下流側には、ガスタービン発電装置41のタービン42が配置されている。本実施例では、第2パルスパワー波照射器31は、半値幅40nsの高電圧を繰り返し動作で発生可能であり、充電電圧を100kV、放電電流を170Aとし、電源を10ppsで運転させることで、第2パルスパワー波を照射し、第2パルスストリーマ放電を生じせしめる。このように、短パルス、高電圧小電流、短サイクルで運転させ、グロー放電やアーク放電とならないようにすることが肝要である。
【0046】
発電手段40は、反応室30内でCOとMgとが反応することで発生した高温高圧の気体A4を用いて発電可能なガスタービン発電装置41を有している。ガスタービン発電装置41は、高温高圧の気体A4の圧力により回転されるタービン42と、タービン42の回転に応じて発電可能な発電装置43と、から主に構成されている。
【0047】
セパレータ51は、反応室30の下流側に連結された第4連通路50の下流側に配設されている。また、セパレータ51の下流側には、気体A7からCOが回収された気体A8が流入する第5連通路70と、回収したCOによりCO濃度が高い気体A11が流入する第7連通路71がそれぞれ連結されている。また、第7連通路71の下流側には、COの貯蔵タンク72が連結されている。
【0048】
循環手段80は、上述した第5連通路70と、第5連通路70の下流側に連結された三方向弁Vと、三方向弁Vの一方の下流側に連結された第6連通路81と、第6連通路81の下流側に連結された逆止弁82と、から主に構成されている。
【0049】
排出手段90は、上述した第5連通路70と、三方向弁Vと、三方向弁Vの他方の下流側に連結され、Mg/CO発電装置5の外部に連通する第8連通路91と、から主に構成されている。尚、図2では、三方向弁Vの第8連通路91が連結されている弁が閉弁状態となっている。
【0050】
次に、Mg/CO発電装置5の動作について説明する。還元装置4で得られたCOリッチな導入気体A1は、第1連通路21に流入される。導入気体A1は、CO濃度が約70%以上であり、CO以外にも、窒素(N)、水素(H)、酸素(O)、水蒸気(HO)等が含まれている。また、導入気体A1の温度は、300℃程度であり、単位時間当たりの流量は、0.1×10-4/sである。
【0051】
矢印で示されるように、第1連通路21内に導入された導入気体A1は、第1パルスパワー波照射器22のプラグ22aから連続的に照射され続けている第1パルスストリーマ放電により発生している非熱平衡プラズマにより、導入気体A1に含まれるH、O、HO等の反応が促進され不純物がさらに少なくなる。尚、導入気体A1には、バイオ炭生成装置100で生成され分離手段により分離されたCOやCO変換装置101でCOから変換されたCOが混合されてもよいし、バイオ炭生成装置100で生成され分離手段により分離されたCOのみであってもよく、さらに、他の装置から導入されるCOリッチな気体であってもよい。また、バイオ炭生成装置100で生成された未燃焼ガス中の水素(H)や炭化水素等の不純物は、予め分離されていてもよいし、第1パルスストリーマ放電により発生している非熱平衡プラズマによる反応によって処理されてもよい。
【0052】
導入気体A1は、矢印で示されるように、冷却器23に導出されて冷却され、約30℃程度の気体A2となる。気体A2は、矢印で示されるように、第2連通路24を通過した後、圧縮機25により圧縮される。
【0053】
矢印で示されるように、圧力約2.0MPa、単位時間当たり流量5.0×10-5/sの圧縮・加圧された気体A3が第3連通路26を通過して粉末状のMgやバイオ炭が投入されている反応室30に流入する。反応室30内では第2パルスパワー波照射器31のプラグ31aから短時間の第2パルスストリーマ放電が行われ、反応室30内に非熱平衡プラズマが発生する。この非熱平衡プラズマにより、気体A3に含まれるCOとMgが直接反応し、酸化マグネシウム(MgO)、炭素(C)、一酸化炭素(CO)等が生成されることを確認した。すなわち、COの炭素固定がなされ、気体A3のCO濃度が低減された。
【0054】
この反応により、反応熱が発生し、反応室30内の温度が約2000℃~約3000℃となった。第2パルスパワー波照射を停止した以降にも、反応室30内に気体A3が流入することで、COとMgとが連続的に反応することが観察された。
【0055】
このように、MgとCOとがまだ反応していない状態では、第2パルスストリーマ放電をトリガーとしてMgとCOとを反応させることが可能であり、MgとCOとの反応が開始して以降の反応については、発生する高温の反応熱により連続的に反応させ続けることができる。
【0056】
また、COとMgとの反応により、気体A3の温度が急激に上昇することに伴って、気体A3が急激に膨張するため、高温高圧の気体A4となり、下流側に噴出される。
【0057】
気体A4は、矢印で示されるように、反応室30の下流側からセパレータ51に流入しようとする。このとき、気体A4は、反応室30とセパレータ51との間に配設されているガスタービン発電装置41のタービン42を回転させる。この気体A4の通過に伴いタービン42が回転されることにより、ガスタービン発電装置41の発電装置43による発電が行われる。
【0058】
セパレータ51では、気体A7に含まれるCOが分離されるため、高濃度のCOが含まれる気体A11と、COが分離された残りの気体である気体A8に分離される。高濃度のCOが含まれる気体A11は、矢印で示されるように、第7連通路71を通じて貯蔵タンク72に封入される。
【0059】
一方、COが分離された残りの気体である気体A8は、矢印で示されるように、第5連通路70に導出される。第5連通路70には、気体A8に含まれるCO濃度を測定可能な図示しない濃度センサが設けられており、CO濃度が一定(本実施例では、10vol%)以上である気体A9の場合には、三方向弁Vの第8連通路91側が閉弁状態となり、第5連通路70および第6連通路81側が開弁状態となる。これにより、気体A9は、矢印で示されるように、三方向弁V、第6連通路81および逆止弁82を通じて、第1連通路21に導出され、導入気体A1と共に上述したサイクルが繰り返し行われることとなる。
【0060】
また、CO濃度が一定(本実施例では、10vol%)未満である残気体A10の場合には、三方向弁Vの第6連通路81側が閉弁状態となり、第5連通路70および第8連通路91側が開弁状態となる。これにより、残気体A10は、点線矢印で示されるように、三方向弁Vおよび第8連通路91を通じて外部に排出される。
【0061】
次いで、H生成装置6について図2および図3を用いて詳しく説明する。図2および図3に示されるように、本実施例のH生成装置6は、Mg/CO発電装置5から供給されるMgO、バイオ炭(C)およびCOが含有される気体A5と水蒸気を用いて水素生成および炭素固定が可能となっている。
【0062】
生成装置6は、MgO、バイオ炭(C)およびCOを水蒸気と反応させる反応室60と、MgO、CおよびCOを含む気体A5を反応室60に供給するフィーダ61(図3参照)と、反応室60内に100℃程度の高温の水蒸気を噴射する水蒸気噴射器62(図3参照)と、反応室60の下流側に配設されCOとHを分離可能なセパレータ10と、セパレータ10によりCOが分離されたHを含む気体A6を回収するH回収装置7と、を備えている。尚、以降の説明において、Mg/CO発電装置5側を上流側、H回収装置7側を下流側として説明する。
【0063】
次に、H生成装置6の動作について説明する。Mg/CO発電装置5を構成するガスタービン発電装置41のタービン42を回転させる気体A4には、反応室30における反応により生成され主にMgOとCおよびバイオ炭からなるMgO粒子とC粒子が含まれており、タービン42の動翼やタービン42を被覆するケーシング44に形成される図示しない静翼に衝突したMgO粒子とC粒子は、さらに細かい微粒子状に粉砕された状態で気体A5と共にケーシング44と一体に設けられる流路45内に誘導され、1000℃以上の高温状態でH生成装置6の反応室60に供給される。尚、反応室30における反応により生成されたMgO粒子とC粒子を複数回採取して光学顕微鏡および電子顕微鏡を用いた画像解析法によりMgO粒子とC粒子の粒子径を測定したところ、気体A5に含まれH生成装置6の反応室60に供給されるMgO粒子の粒子径は4μm~110μmの範囲、C粒子の粒子径は10μm~350μmの範囲であった。また、粒度分布(個数基準分布)の算術平均による平均粒子径は、MgO粒子が50μm~60μm、C粒子が80μm~110μmであった。また、MgO粒子の形状は、アスペクト比が小さい粒状であり、C粒子の形状は、アスペクト比が小さい粒状のものと、MgO粒子と比べてアスペクト比が大きい鱗片状のものが混在していた。粒状のC粒子は、バイオ炭由来であり、鱗片状C粒子は、Mg/CO発電装置5の反応室30における燃焼反応により生成されたC由来であると推測される。バイオ炭由来のC粒子の形状は、バイオマスに由来するポーラス構造を成しており、燃焼反応により生成されたC由来のC粒子の形状は、詳細には平面状に結合された炭素原子の薄層が積層構造を成しており、積層方向の寸法が最も小さい鱗片状であった。また、バイオ炭由来のC粒子の方が、燃焼反応により生成されたC由来のC粒子よりも粒子径が大きい傾向が観察された。
【0064】
尚、MgO粒子の平均粒子径は、Mg/CO発電装置5の反応室30に投入される粉末状のMgの平均粒子径に依存しており、予めMgの平均粒子径を反応室30において生成されるC粒子の平均粒子径に近づけておく、例えばMgの平均粒子径を80~110μmとすることにより、後述するH生成装置6の反応室60における反応性を高めるようにしてもよい。また、C粒子の形状および平均粒子径は、Mg/CO発電装置5の反応室30におけるCO濃度や反応熱の温度だけでなく、Mg/CO発電装置5を構成する反応室30、タービン42、ケーシング44等の形状や寸法によっても変化することから、Mg/CO発電装置5の稼働が安定した段階で反応室30において生成されたC粒子を採取し、C粒子の平均粒子径を測定することにより、Mg/CO発電装置5の反応室30に投入されるMgの平均粒子径を決定してもよい。
【0065】
また、H生成装置6においては、反応室60で起こる反応による内部圧力の変化を測定しフィードバック制御を行うことにより、フィーダ61によるMgO、バイオ炭(C)およびCOの供給量と水蒸気噴射器62による水蒸気の噴射量が調整される。これにより、H生成装置6の反応室60において、安定してH生成を行うことができる。尚、反応室60の内部圧力に加えて内部温度やCO濃度、特に温度を制御パラメータに加えると一層よい。
【0066】
反応室60の入り口においては、先ず1000℃以上の高温状態のバイオ炭(C)と水蒸気の水性ガス反応によりHとCOが生成される。また、反応室60の入り口では、CO濃度が低いため、MgOが水蒸気と反応してMg(OH)となる。尚、Mg/CO発電装置5で生成されたMgOは2000℃~3000℃の高温で焼成されることにより、塩基点が減少しており、CO吸収能が低下しているが、反応室60に供給された直後に水蒸気との反応によりMg(OH)となることで、CO吸収能を高めることができる。
【0067】
次に、気体A5に含まれるCOおよび水性ガス反応による生成物であるCOと水蒸気との水性ガスシフト反応によりHとCOが生成される。水性ガスシフト反応により生成されたCOは、Mg(OH)に吸収されMgCOとして炭素固定される。さらに、気体A5に含まれるCOによって反応室60内のCO濃度が高められるため、水性ガスシフト反応が促進され、Hの生成が効率よく行われる。
【0068】
この反応により、反応室60内のCO濃度が所定値以下に維持される。また、Mg/CO発電装置5で生成された1000℃以上の高温状態のMgOとバイオ炭(C)が供給されてくることで、反応室60内のCOが略全てHとCOになることが観察された。これは、Mg(OH)によるCO吸収によって、水性ガス反応および水性ガスシフト反応が平衡状態となることを防止し反応を生成系、すなわちHの生成方向に偏らせたことによるものと推測される。
【0069】
また、Mg(OH)は、化学量論的にCOを吸収するため、所定量のCOを吸収すると吸収能が低下するが、Mg/CO発電装置5が稼働している間、生成されたMgOとバイオ炭(C)が反応室60内に供給され続けるため、水蒸気の供給が滞ることなく行われれば、Mg(OH)によるCOの吸収が常時行われ、H生成装置6内におけるCO濃度の上昇が抑制され、安定してH生成が行われる。尚、反応室60内に供給されるバイオ炭は、Mg/CO発電装置5で生成されたものに限らず、バイオ炭生成装置100で生成されたバイオ炭が直接供給されてもよい。この場合、バイオ炭は、水蒸気との水性ガス反応の効率を高める観点から、バイオ炭生成装置100によりバイオ炭生成時の900℃以上に加熱されたものがバイオ炭生成装置100から反応炉につながる搬送コンベアにより供給されることが好ましい。
【0070】
また、H生成装置6にセパレータ10を介してH回収装置7が接続されることにより、気体A6に含まれる高純度のHの回収が常時行われ、H生成装置6内におけるH濃度が所定値以下に維持される。これにより、Hの生成がさらに効率よく行われる。尚、セパレータ10は、H生成装置6で生成されたCOとHを分離可能である。セパレータ10としては、例えばH分離膜やCO吸着材が用いられる。
【0071】
以上説明したように、本実施例1の炭素固定・水素生成システム1は、H生成装置6の反応室60において、バイオ炭(C)と水蒸気の水性ガス反応によりHとCOを生成し、さらに水性ガス反応に付随して起こるCOと水蒸気との水性ガスシフト反応により生成されるCOは、MgOと水蒸気の水和反応により生成されるMg(OH)に吸収されMgCOとして炭素固定されるため、COの排出を抑制しつつ、水性ガス反応および水性ガスシフト反応が平衡状態となることを防止し反応を生成系に偏らせることにより高効率でHを生成することができる。
【0072】
また、本実施例1の炭素固定・水素生成システム1は、バイオ炭生成装置100で生成された未燃焼ガス中のCOをMg/CO発電装置5でMgと反応させて炭素固定を行うことにより、バイオ炭生成に伴うCOの排出を抑制することができる。
【0073】
さらに、本実施例1の炭素固定・水素生成システム1は、バイオ炭生成装置100で生成された未燃焼ガス中のCOをOと反応させてCOに変換するCO変換装置101を備えることにより、バイオ炭生成装置100で生成された未燃焼ガス中のCOをCOに変換し、Mg/CO発電装置5でMgと反応させて炭素固定を行うことにより、バイオ炭生成装置100で生成された未燃焼ガスから炭素をより多く固定することができる。
【0074】
また、本実施例1の炭素固定・水素生成システム1は、バイオ炭生成装置100で生成された未燃焼ガス中のCOとCOを分離するナノポーラス材により構成される図示しない分離手段を有していることにより、未燃焼ガス中のCOとCOを常温で分離することが可能であり、CO変換装置101において、高濃度のCOをCOに変換して、Mg/CO発電装置5に供給することができる。
【0075】
また、本実施例1の炭素固定・水素生成システム1は、バイオ炭をMg/CO発電装置5に供給可能であり、Mg/CO発電装置5におけるCO中でのMgの燃焼反応により得られる1000℃以上(2000℃~3000℃)の反応熱により高温状態となったバイオ炭をH生成装置6にそのまま供給することができ、高温状態で反応性の高いバイオ炭を水蒸気と即座に反応させることができる。言い換えれば、H生成装置6内で水性ガス反応のためにバイオ炭を再加熱する必要がなく、水蒸気と即座に反応させることができるため、Hの生成効率を高めることができる。
【0076】
また、本実施例の炭素固定・水素生成システム1は、Mg/CO発電装置5において、COがMgと完全に反応しない場合に生じるCOをH生成装置6の反応室60における水性ガスシフト反応に利用してHを生成することができるため、Hの生成効率を高めることができる。尚、水性ガスシフト反応により生成されるCOは、Mg(OH)に吸収され、水性ガスシフト反応を生成系に偏らせることができるため、水性ガス反応が反応系に偏ることが防止されている。
【0077】
また、Mg/CO発電装置5において生成されるMgOとCは、粉末状であり、さらに、Mg/CO発電装置5に供給されるバイオ炭も粉末状であることにより、MgOとバイオ炭(C)を混合させた状態で流路45からH生成装置6における反応室60に供給することにより、粉末状のバイオ炭(C)の中心まで温度が高温となっておりバイオ炭(C)はガス化しやすく、流路45からH生成装置6における反応室60に供給されて即座に水蒸気と水性ガスシフト反応させることができるとともに、MgOと水蒸気の水和反応も促進することができる。
【0078】
また、流路45は、ガスタービン発電装置41のタービン42を被覆するケーシング44に設けられることにより、タービン42の回転を利用してケーシング44内に捕集された高温状態のMgOやバイオ炭(C)を気体A5と共に流路45からH生成装置6における反応室60に直接供給することができるため、バイオ炭(C)の温度低下を抑制することができる。
【0079】
また、Mg/CO発電装置5において約2000℃~約3000℃で焼成されることにより生成されるCは、黒鉛化されていることにより、H生成装置6における水蒸気との反応性が高まり、Hの生成効率を高めることができる。具体的には、黒鉛化されているCは、平面状に結合された薄層の積層構造を有し、この薄層の層間に水分子が入り込むことにより、反応性が高まると考えられる。また、黒鉛化されているCは、薄層の層間が弱いファンデルワールス力で結合されているため、薄層が剥離しやすく、剥離されることで表面積が大きくなり、水蒸気と反応しやすくなっていると考えられる。
【0080】
さらに、Mg/CO発電装置5において約2000℃~約3000℃の高温にさらされたバイオ炭は、水分や揮発分がさらに少ない状態となることにより、H生成装置6における水蒸気との反応性が高まり、Hの生成効率を高めることができる。また、バイオ炭は、そのポーラス構造により、比表面積が大きくなっており、水蒸気と反応しやすくなっていると考えられる。
【0081】
また、H生成装置6における反応室60では、MgOと水蒸気の水和反応により生成されるMg(OH)によりCOの吸収を行うため、CO吸収材として知られるCaO等と比べて比較的低温(300℃~500℃程度)で反応させることができる。
【0082】
また、バイオ炭に含まれる微量の灰分(カルシウム,マグネシウム等のミネラル成分)がバイオ炭を構成する炭素成分の極近傍に存在していることから、H生成装置6における水蒸気との反応(上記反応式6参照)により、灰分の酸化物からCa(OH)やMg(OH)等が生成され、COの吸収反応(上記反応式9参照)が起こりやすくなることにより、Hの生成時におけるCOの排出量を抑制することができる。
【0083】
また、H生成装置6において生成されたMgCOを低温焼成装置8において熱分解させてMgOを生成し、これを還元装置4におけるMgの生成や、H生成装置6におけるHの生成に再利用することにより循環させるマグネシウムルーピングにより、本発明の炭素固定・水素生成システム1から排出される廃棄物を少なくすることができる。尚、図1に示されるように、低温焼成装置8においてMgCOの熱分解によりMgOと共に生成されたCO(反応式10参照)は、Mg/CO発電装置5に供給されることにより、Mgの生成(反応式4,5参照)に利用することができる。
【0084】
さらに、本発明に係る炭素固定・水素生成システム1は、システム上流のMg/CO発電装置5におけるMgの燃焼反応によりCOを炭素固定し、これにより生成されたMgOとCをシステム下流のH生成装置6におけるH生成の材料として利用し、COの排出を抑制しつつ、高効率でクリーンなHを生成することが可能となるものである。
【0085】
尚、本実施例1においては、Mg/CO発電装置5とH生成装置6にそれぞれバイオ炭を供給する態様について説明したが、これに限らず、バイオ炭はMg/CO発電装置5とH生成装置6のいずれか一方に供給されるように構成してもよい。
【0086】
また、本実施例1においては、バイオ炭生成装置100で生成された未燃焼ガス中からCOとCOを分離手段により分離し、COは、Mg/CO発電装置5に供給し、COは、CO変換装置101によりCOに変換してMg/CO発電装置5に供給する態様について説明したが、これに限らず、未燃焼ガス中のCOは、還元装置4に供給して還元性ガスとして利用してもよいし、別途回収して化成品の原材料として使用してもよい。
【0087】
また、バイオ炭生成装置100で生成された未燃焼ガス中からCOとCOを分離する分離手段は、ナノポーラス材により構成されるものに限らず、吸着材や触媒、その他の分離手法によるものであってもよい。
【0088】
また、本実施例1においては、バイオ炭をMg/CO発電装置5に供給して高温状態となったMgOとバイオ炭をH生成装置6にそのまま供給する態様について説明したが、これに限らず、例えばバイオ炭生成装置100におけるバイオマスの炭化温度が900℃以上の高温で行われる場合、バイオ炭生成装置100にMgOを供給して900℃以上に加熱されたバイオ炭とMgOをH生成装置6に供給するように構成されてもよい。
【実施例0089】
次に、実施例2に係る炭素固定・水素生成システムにつき、図4を参照して説明する。尚、前記実施例と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0090】
本実施例2の炭素固定・水素生成システム201は、図4に示されるように、バイオ炭生成装置100にフィルタ102が設けられている点で前記実施例1と相違する。詳しくは、バイオ炭生成装置100で生成される未燃焼ガス中に含まれる水素(H)や炭化水素等の不純物をフィルタ102により分離し、COとCOの混合ガスをMg/CO発電装置5に供給し、COをMgと燃焼反応させて炭素固定を行うものである。尚、バイオ炭生成装置100からフィルタ102を通して供給される混合ガス中のCOは、Mg/CO発電装置5に供給される気体A3のCO濃度を若干低下させるものの、Mg/CO発電装置5におけるCOとMgの燃焼反応に悪影響を与えることなくMg/CO発電装置5を通過した後、セパレータ51により分離され、貯蔵タンク72に封入される(図2参照)。
【0091】
このように、バイオ炭生成装置100とMg/CO発電装置5の間のガス供給構造を簡素に構成することができる。また、バイオ炭生成装置100で生成される未燃焼ガスから、予めHや炭化水素等の不純物をフィルタ102により分離しておくことにより、Mg/CO発電装置5におけるCOとMgの燃焼反応を円滑に行うことができる。
【0092】
以上、本発明の実施例1,2を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0093】
例えば、前記実施例では、Mg/CO発電装置5において、CO中でMgを燃焼させることにより1000℃以上の高温状態となったバイオ炭(C)をH生成装置6にそのまま供給する態様について説明したが、これに限らず、H生成装置6に供給されるまでにバイオ炭(C)の温度が低下した場合には、水性ガス反応に必要な900℃以上に再加熱してもよい。
【0094】
また、前記実施例では、ガスタービン発電装置41のタービン42を被覆するケーシング44にH生成装置6へMgOとCを供給する流路45が設けられる態様について説明したが、これに限らず、例えば、タービン42よりも下流の第4連通路50にH生成装置6へ繋がる分岐路を設け、整流板等によりMgOとバイオ炭(C)を分離して分岐路を経由してH生成装置6へ供給するようにしてもよい。
【0095】
また、H生成装置6において生成された炭酸マグネシウム(MgCO)は、別途回収してコンクリートの骨材等として使用してもよい。
【0096】
また、前記実施例では、Mg/CO発電装置5における燃焼反応により生成された1000℃以上の高温状態のMgOと、バイオ炭生成装置100で生成されたバイオ炭をH生成装置6に供給することにより、H生成装置6で生成されるCOをMgOに吸着させCOの排出を抑制しつつ、高効率でHを生成する形態について説明したが、これに限らず、H生成装置6にMgOとバイオ炭が供給される反応室60とは別に、還元装置4における還元反応(反応式2参照)により生成されたCaOとバイオ炭が供給される反応室を設けて水蒸気(HO)と反応させ(下記反応式11~14参照)、Hの生成を行うようにしてもよい。
CaO+HO→Ca(OH)・・・(反応式11)
C+HO→CO+H・・・(反応式12)
CO+HO→CO+H・・・(反応式13)
Ca(OH)+CO→CaCO+HO・・・(反応式14)
【0097】
尚、反応式11で示されるCaOとHOとの水和反応は、発熱反応である。反応式12で示されるCとHOとの水性ガス反応は、900℃以上の高温が必要な吸熱反応である。反応式13で示されるCOとHOとの水性ガスシフト反応は、発熱反応である。反応式14で示されるCa(OH)によるCOの吸収は、発熱反応である。反応式11におけるCaOとHOとの水和反応により熱が発生し、CaOを用いたH生成用の反応室内に一連の反応に必要な熱が供給されるため、外部から熱を与える必要がなく、還元装置4における還元反応により生成されるCaOをそのまま利用することができる。
【0098】
このように、Mg/CO発電装置5における燃焼反応により生成されたMgOと、還元装置4における還元反応により生成されるCaOを利用してそれぞれH生成を行うことにより、各H生成に伴って発生するCOをMgOとCaOに吸着させCOの排出を抑制しつつ、さらに高効率でHを生成することができる。
【符号の説明】
【0099】
1,201 炭素固定・水素生成システム
2 電解装置
3 低温焼成装置
4 還元装置
5 Mg/CO発電装置(燃焼装置)
6 H生成装置(水素生成装置)
7 H回収装置
8 低温焼成装置
10 セパレータ
30 反応室
40 発電手段
41 ガスタービン発電装置
42 タービン
44 ケーシング
45 流路
60 反応室
61 フィーダ
62 水蒸気噴射器
100 バイオマス生成装置
101 CO変換装置(一酸化炭素変換装置)
102 フィルタ
図1
図2
図3
図4