(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101217
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】炭素固定装置
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20240722BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
C01B32/05
B01D53/62 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005084
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】506213382
【氏名又は名称】アンヴァール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 重利
【テーマコード(参考)】
4D002
4G146
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AC10
4D002BA06
4D002BA08
4D002DA06
4D002FA10
4D002GA01
4D002GB08
4D002GB12
4G146AA01
4G146AB01
4G146BA09
4G146CB11
4G146CB13
4G146CB32
(57)【要約】
【課題】燃焼反応室内の温度を長時間安定して制御することができる炭素固定装置を提供する。
【解決手段】二酸化炭素との燃焼反応室30にマグネシウムを投入可能な第1投入手段34と、燃焼反応室30にマグネシウム含有組成物を投入可能な第2投入手段35と、を備える。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素との燃焼反応室にマグネシウムを投入可能な第1投入手段と、
前記燃焼反応室にマグネシウム含有組成物を投入可能な第2投入手段と、
を備えることを特徴とする炭素固定装置。
【請求項2】
前記マグネシウム含有組成物は、線状構造であることを特徴とする請求項1に記載の炭素固定装置。
【請求項3】
前記マグネシウム含有組成物は、網状構造であることを特徴とする請求項1に記載の炭素固定装置。
【請求項4】
前記マグネシウム含有組成物は、立体格子構造であることを特徴とする請求項1に記載の炭素固定装置。
【請求項5】
前記マグネシウム含有組成物は、最短長さが1cm以上の塊状であることを特徴とする請求項1に記載の炭素固定装置。
【請求項6】
前記マグネシウム含有組成物は、マグネシウム合金であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の炭素固定装置。
【請求項7】
前記マグネシウム合金は、内部よりも被膜層における添加物の割合が高くなっていることを特徴とする請求項6に記載の炭素固定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、火力発電、ガスフレアリング等で化石燃料の燃焼に伴って発生した二酸化炭素を低減するために、炭素固定を行う技術が知られている。このような技術には、化学反応を利用して二酸化炭素を捕集し、炭素固定を行うものがある。
【0003】
特許文献1の炭素固定装置は、二酸化炭素とマグネシウムを反応室に導入し、燃焼させることにより炭素固定を行い、主に酸化マグネシウムと炭素からなる混合物を生成する。また、特許文献1においては、二酸化炭素とマグネシウムの燃焼反応により発生する約1500℃~約3000℃の高温高圧の気体を利用してガスタービン発電装置により発電を行うことで、二酸化炭素を発生させることなくクリーンエネルギを創出できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-84237号公報(第6頁~第9頁、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の炭素固定装置にあっては、反応室における二酸化炭素とマグネシウムの燃焼反応が短時間の激しい反応であることから、長時間安定した発電量を得るためには、反応室に二酸化炭素とマグネシウムを大量に供給し続けなければならないという問題がある。また、二酸化炭素とマグネシウムの燃焼反応により発生する反応熱は非常に高温であることから、反応室の耐久性に配慮して反応室内の温度制御が行われることが好ましいが、特許文献1にあっては、燃焼反応における反応熱が反応室内の二酸化炭素濃度に依存しているため、反応室の状況に応じて二酸化炭素の濃度や供給量を細かく調整しなければならず、反応室内の温度を長時間安定させることが難しいという問題があった。
【0006】
発明者らは、燃焼反応室にマグネシウムとマグネシウム含有組成物をそれぞれ投入可能とすることにより、燃焼反応室内の温度を長時間安定して制御できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、燃焼反応室内の温度を長時間安定して制御することができる炭素固定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の炭素固定装置は、
二酸化炭素との燃焼反応室にマグネシウムを投入可能な第1投入手段と、
前記燃焼反応室にマグネシウム含有組成物を投入可能な第2投入手段と、
を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、燃焼反応室にマグネシウムと、二酸化炭素との燃焼反応の進行がマグネシウムと比較し緩やかであるマグネシウム含有組成物をそれぞれ投入可能とし、マグネシウムとマグネシウム含有組成物の投入量のバランスを調整することにより、燃焼反応室内の温度の過剰な上昇を抑制しつつ、燃焼時間を長くすることができるため、燃焼反応室内の温度を長時間安定して制御することができる。
【0009】
前記マグネシウム含有組成物は、線状構造であることを特徴としている。
この特徴によれば、粉末状のものと比べて、燃焼時間を長くすることができるため、マグネシウム含有組成物による燃焼反応室内の温度制御を行いやすい。
【0010】
前記マグネシウム含有組成物は、網状構造であることを特徴としている。
この特徴によれば、網状構造における比表面積や網目の大きさ等を変更することにより、マグネシウム含有組成物による燃焼反応室内の温度制御を行いやすい。
【0011】
前記マグネシウム含有組成物は、立体格子構造であることを特徴としている。
この特徴によれば、立体格子構造における比表面積や空隙率等を変更することにより、マグネシウム含有組成物による燃焼反応室内の温度制御をより行いやすい。
【0012】
前記マグネシウム含有組成物は、最短長さが1cm以上の塊状であることを特徴としている。
この特徴によれば、塊状のマグネシウム含有組成物は徐々に燃焼することから、燃焼反応室内の温度制御をより行いやすい。
【0013】
前記マグネシウム含有組成物は、マグネシウム合金であることを特徴としている。
この特徴によれば、マグネシウム合金は、成形性が高いため、形状を変更しやすい。
【0014】
前記マグネシウム合金は、内部よりも被膜層における添加物の割合が高くなっていることを特徴としている。
この特徴によれば、被膜層の強度、難燃性、耐食性等を高めることができるため、二酸化炭素との燃焼反応の進行をより緩やかにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態におけるマグネシウム含有組成物の構造の例を示す断面図である。
【
図2】マグネシウム含有組成物の形状(小片状,塊状)の例を示す図である。
【
図3】マグネシウム含有組成物の形状(線状構造)の例を示す図である。
【
図4】マグネシウム含有組成物の形状(網状構造)の例を示す図である。
【
図5】マグネシウム含有組成物の形状(立体格子構造)の例を示す図である。
【
図6】実施例における炭素固定装置が組み込まれた炭素固定システムを示す概要図である。
【
図7】実施例における炭素固定装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、燃焼反応室に純金属であるマグネシウム(以下、「純Mg」と表記する。)と、二酸化炭素(CO2)との燃焼反応が純Mgと比較し緩やかであるマグネシウム含有組成物(以下、「Mg含有組成物」と表記する。)をそれぞれ投入可能とすることにより、燃焼反応室内の温度の過剰な上昇を抑制しつつ、燃焼時間を長くできることを見出し、これを契機として燃焼反応室内の長時間安定した温度制御を図ったものである。
【0017】
Mg含有組成物は、マグネシウムを主成分としている。すわなち、Mg含有組成物の平均化学組成は、マグネシウムが45質量%以上を占めている。尚、Mg含有組成物におけるマグネシウムは、マグネシウム単体として存在するものだけでなく、マグネシウム化合物として存在するものも含む。
【0018】
また、Mg含有組成物は、マグネシウム単体あるいはマグネシウム化合物以外に、他の金属元素あるいは金属化合物、各種バインダ等を含有していてもよい。
【0019】
具体的には、Mg含有組成物は、マグネシウム(Mg)にカルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、ジルコニウム(Zr)、Li(リチウム)、Y(イットリウム)等の元素を添加したマグネシウム合金、酸化マグネシウム(MgO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、炭酸マグネシウム(MgCO3)等のマグネシウム化合物、ドロマイト等のマグネシウム鉱物が挙げられる。
【0020】
また、Mg含有組成物は、純Mg、マグネシウム合金、マグネシウム化合物及びマグネシウム鉱物の少なくともいずれかを組み合わせて作製されたもの、あるいは純Mg、マグネシウム合金、マグネシウム化合物及びマグネシウム鉱物の少なくともいずれかをベースとして、各種バインダ等を添加して作製されたものであってもよい。
【0021】
例えば、本実施形態におけるMg含有組成物としては、純Mgと空気中の酸素(O
2)との反応によって表面にMgOの被膜層が形成されたもの(
図1(a)参照)が挙げられる。
図1(a)に示されるように、上記Mg含有組成物は、主に純MgからなるMg層が、MgOの被膜層により被覆された構造となる。これにより、被膜層が物理的衝撃や燃焼反応室内の高温による熱分解によってひび割れたり、剥離したりすることで、内部の純MgとCO
2との燃焼反応を開始させることができる。そのため、純Mgと比べて、燃焼反応室におけるCO
2との燃焼反応の進行、すなわち燃焼開始までに要する時間と、内部(中心部)の燃焼までに要する時間を緩やかにすることができる。尚、燃焼反応室にMg含有組成物を投入する際に、例えば勢いよく噴射する、機械的に攪拌する等して被膜層に物理的衝撃を積極的に加えることにより、被膜層を壊して内部の純MgとCO
2との燃焼反応を促進するようにしてもよい。
【0022】
本実施形態におけるMg含有組成物は、特にマグネシウム合金であることが好ましく、さらにマグネシウム合金の中でも、Mgと添加成分が略均一に混ざり合った固溶体の状態のものが好ましい。マグネシウム合金は、主成分であるMgよりもO2との反応性が高い、あるいは同程度の反応性を有する添加成分が存在することにより、マグネシウム合金の表面には添加成分の酸化物を含む被膜層が形成される。これにより、MgOのみで構成される被膜層と比べて被膜層の強度、難燃性、耐食性等が向上するため、上述した純Mgの表面にMgOの被膜層が形成されたMg含有組成物と比べて、燃焼反応室におけるCO2との燃焼反応の進行をさらに緩やかにすることができる。特に、カルシウム(Ca)が添加されたマグネシウム合金の場合、MgよりもCaが早く酸化することにより、酸化カルシウム(CaO)を主成分とする被膜層が形成されるため、難燃性を向上させやすい。また、Caが少量(例えば1質量%以下)添加されたマグネシウム合金であっても、難燃性を向上させることができることから、Caの添加量に応じて燃焼反応室におけるCO2との燃焼反応の進行を細かく調整することが可能である。
【0023】
さらに、マグネシウム合金は、Caが20~40質量%添加されることが好ましい。このように、マグネシウム合金におけるCaの添加量を多くすることにより、CaOを含む被膜層に予めひび割れを発生させることができる。被膜層にひび割れを発生させたマグネシウム合金を用いることにより、Caの添加量が少なく被膜層にひび割れがないマグネシウム合金と比べて、内部の純MgとCO2との燃焼反応が起こりやすくなるため、純Mgと比べて燃焼反応室内の温度を適温に維持しつつ、燃焼反応を長時間安定させやすくすることができる。
【0024】
また、マグネシウム合金は、内部においても純Mgと添加成分が混在しており、Mg層が純Mgのみで構成されるものと比べてCO2との燃焼反応が抑制されるため、燃焼反応室におけるCO2との燃焼反応の進行を緩やかにすることができる。
【0025】
尚、Mg含有組成物の表面は、
図1(a)に示されるように、Mg層全体が被膜層により被覆されているものに限らず、
図1(b)に示されるように、Mg層の一部が外部に露出していてもよい。
【0026】
また、Mg層は、マグネシウム単体から構成されるものに限らず、マグネシウム化合物や他の成分が含まれていてもよい。
【0027】
また、被膜層は、MgOを主成分とするものに限らず、燃焼反応室におけるCO2との燃焼反応の進行を緩やかにすることができるものであれば、例えばMg(OH)2、MgCO3等のマグネシウム化合物や他の成分(例えば炭素成分)を主成分とするものであってもよい。
【0028】
また、Mg含有組成物は、マグネシウム合金であることにより、成形性が高いため、形状を変更しやすい。Mg含有組成物の形状は、粉末状よりも小片状(
図2(a)参照)、塊状(
図2(b)参照)である方が燃焼反応室内の温度制御を行いやすく、特に最短長さが1cm以上の塊状であると、Mg含有組成物が中心に向かって徐々に燃焼していくため、燃焼反応室内の温度制御をより行いやすい。
【0029】
さらに、Mg含有組成物は、成形して形状を工夫することにより燃焼反応室内の温度を細かく制御することが可能となる。例えば、Mg含有組成物の形状は、
図3に示される線状構造、
図4に示される網状構造、あるいは
図5に示される立体格子構造として形成されることにより、粉末状のものと比べて、燃焼反応室内の温度制御を行いやすい。
【0030】
尚、線状構造とは、
図3(a)に示されるように、アスペクト比が大きく、小片状のもの(
図2(a)参照)と比べ、ある程度の厚みを有する形状のことである。線状構造の中でも、アスペクト比が比較的小さい(例えばアスペクト比2:1等)ものは、棒状構造と言うこともできる。また、Mg含有組成物の断面形状は、矩形に限らず、円形、楕円形、多角形、凹凸形等から自由に選択されてよい。また、Mg含有組成物は、線状構造(棒状構造)の長手方向に亘って断面形状が一定でなくてもよい。
【0031】
また、本実施形態において、線状構造であるMg含有組成物は、
図3(a)に示されるような略直線状のものに限らず、例えば略直線状の部材を渦巻状(
図3(b)参照)等の種々の形状に成形したものであってもよい。また、Mg含有組成物は、例えば略直線状の部材を複数本まとめて接合して一体に形成したものであってもよい。
【0032】
このように、Mg含有組成物は、線状構造であることにより、粉末状のものと比べて、燃焼時間を長くすることができるとともに、その形状に応じて燃焼反応室におけるCO2との燃焼反応の進行、すなわち燃焼開始までに要する時間と、内部(中心部)の燃焼までに要する時間を調整することができるため、燃焼反応室内の温度制御を行いやすい。
【0033】
また、網状構造とは、
図4(a)に示されるように、略直線状の部材を組み合わせて網状としたもの、
図4(b)に示されるように、板状に成形したものにパンチング加工を施すことにより網状としたもの等のことである。
【0034】
このように、Mg含有組成物は、網状構造における比表面積や網目の大きさ等を変更することにより、その形状に応じて燃焼反応室におけるCO2との燃焼反応の進行を調整することができるため、燃焼反応室内の温度制御を行いやすい。
【0035】
また、立体格子構造とは、
図5(a)に示されるように、例えば略直線状の部材から立方体とした組み立てたもの、
図5(b)に示されるように、例えば中心から3次元的に複数方向に突出する立体形状を基本単位とし、これらを立体的に組み立てた、いわゆるポーラス・ラティス構造等のことである。尚、ポーラス・ラティス構造において基本単位となる立体形状は、
図5(b)に示されるものに限らず、
図5(a)のような立方体等を含む種々の立体形状から自由に選択されてよい。
【0036】
このように、Mg含有組成物は、立体格子構造における比表面積や空隙率等を変更することにより、その形状に応じて燃焼反応室におけるCO2との燃焼反応の進行を調整することができるため、燃焼反応室内の温度制御を行いやすい。また、Mg含有組成物は、立体格子構造であることにより、強度を高めることができるため、取り扱い性を向上させることができる。
【0037】
また、Mg含有組成物は、カルシウム(Ca)あるいは酸化カルシウム(CaO)を含有するもの、例えばCaが添加されたマグネシウム合金やドロマイトのようなマグネシウム鉱物であることにより、Mg含有組成物の熱分解により生成されるCaOと、燃焼反応室におけるMgとCO2の燃焼反応により生成される炭素(C)との反応により、MgOの還元剤として使用可能な炭化カルシウム(CaC2)を生成することができる。このCaC2の生成反応は高温(約2000℃)を要する吸熱反応であるため、CaあるいはCaOを含有するMg含有組成物を燃焼反応室に少量投入するだけで、燃焼反応室の温度を大きく低下させることができる。
【0038】
本発明に係る炭素固定装置を実施するための形態を実施例に基づいて説明する。以下、実施例における炭素固定装置が組み込まれた炭素固定システムを例に挙げて説明する。
【実施例0039】
本実施例の炭素固定システム1は、
図6に示されるように、海水を電解して炭酸カルシウム(CaCO
3)と水酸化マグネシウム(Mg(OH)
2)を得る電解装置2と、電解装置2で得られたMg(OH)
2または後述する炭素固定装置10の第1反応室30で得られた酸化マグネシウム(MgO)を基に炭化カルシウム(CaC
2)を還元剤とする還元反応によりマグネシウム(Mg)と二酸化炭素(CO
2)を得る還元装置3と、主に還元装置3で発生したCO
2を同じく還元装置3で得られた純MgやMg含有組成物と反応させる燃焼反応室としての第1反応室30、第1反応室30の反応熱を利用して酸化カルシウム(CaO)と第1反応室30の反応により得られた炭素(C)を反応させる第2反応室32、電解装置2で得られたCaCO
3を熱分解して第2反応室32で反応させるCaOを得る第3反応室33を備える炭素固定装置10と、を備えている。
【0040】
詳しくは、還元装置3においては、CaC2を還元剤として下記反応式1により表されるMgOの還元反応が行われ、炭素固定装置10の第1反応室30における反応に利用される純Mgが生成される。
MgO+CaC2→Mg+CaO+2C・・・(反応式1)
【0041】
MgOの還元反応に必要なエネルギは、例えばパルスパワー波によって与えることができ、不活性ガス及び還元性ガスの雰囲気下でパルスパワー波を照射することにより、MgOの還元効率を高めることができる。不活性ガスとしては、アルゴンガス、ネオンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等を挙げることができる。還元性ガスとしては、CaC2との反応性が低い一酸化炭素(CO)が用いられることが好ましく、パルスパワー波の照射によりMgOがプラズマ化して発生する副産物としての酸素(O2)とCOが反応してCO2が発生する。尚、還元性ガスとしてのCOには、後述する炭素固定装置10の第1反応室30における反応(反応式3参照)や第2反応室32における反応(反応式5参照)で生成されたCOを回収したものが利用されてもよい。
【0042】
また、還元装置3においては、電解装置2で得られたMg(OH)2に熱を与えることにより、下記反応式2により表される熱分解が行われ、上記還元反応(反応式1参照)に利用されるMgOが生成される。
Mg(OH)2→MgO+H2O・・・(反応式2)
【0043】
炭素固定装置10の第1反応室30においては、還元装置3で得られるCO2を純MgやMg含有組成物と反応させ、下記反応式により表される炭素の固定が行われる。尚、第1反応室30における反応は、発熱反応である。詳しくは、CO2濃度を大気よりも比較的高くした状態でCO2を純Mgと反応させると、CO2は純Mgとは完全に反応せず一酸化炭素(CO)が一部生じ、反応熱の温度が約1500℃~約2000℃となる(反応式3参照)。
Mg+CO2→MgO+CO ・・・(反応式3)
【0044】
また、CO2濃度が高濃度、例えば95%以上である場合には、CO2は純Mgと略完全に反応し、MgOとCとが生成されCOは生成されず、反応熱の温度が約3000℃以上となる(反応式4参照)。CO2と純Mgの反応の観点からはCO2濃度が100%であることが好ましい。
2Mg+CO2→2MgO+C・・・(反応式4)
【0045】
第2反応室32においては、第1反応室30で得られたCを第3反応室33で得られたCaOと反応させ、下記反応式5により表されるようにCaC2が生成され、Cのリサイクルが行われる。尚、第2反応室32における反応は、約2000℃の温度を必要とする吸熱反応である。また、第2反応室32における反応には、第1反応室30において、Caが添加されたマグネシウム合金の被膜層に含まれるCaOを分離したものが用いられてもよい。さらに、第1反応室30で得られたMgOを分離して第1反応室30に混在する高温のCとCaOを第2反応室32における反応にそのまま用いることにより、CとCaOを再加熱する必要がなく、即座に反応させることができるため、CaC2の生成効率を高めることができる。
CaO+3C→CaC2+CO・・・(反応式5)
【0046】
第3反応室33においては、電解装置2で得られたCaCO3に熱を与えることにより、下記反応式6により表される熱分解が行われ、第2反応室32における反応に利用されるCaOが生成される。また、CaOと共に生成されるCO2は、第1反応室30における反応に利用可能である。尚、第3反応室33における反応は、800℃~900℃程度の温度を必要とする吸熱反応である。
CaCO3→CaO+CO2・・・(反応式6)
【0047】
尚、電解装置2において、電解によりCaCO3とMg(OH)2が回収された海水には、炭酸ガス(重炭酸イオン)が含まれていないため、該海水に還元装置3で発生したCO2や炭素固定装置10の第3反応室33で生成されたCO2の一部を吸収させることにより、炭素を固定してもよい。
【0048】
次いで、炭素固定装置10について
図7を用いて詳しく説明する。
図7に示されるように、本実施例の炭素固定装置10は、還元装置3において還元反応に必要なエネルギをパルスパワー波によって与えることで発生した二酸化炭素(CO
2)リッチな導入気体A1を用いて炭素固定及び発電が可能となっている。
【0049】
炭素固定装置10は、CO2を純MgやMg含有組成物と反応させる第1反応室30と、第1反応室30で得られる炭素(C)を酸化カルシウム(CaO)と反応させる第2反応室32と、炭酸カルシウム(CaCO3)を熱分解させる第3反応室33と、第1反応室30に純Mgを投入可能な第1投入手段34と、第1反応室30にMg含有組成物を投入可能な第2投入手段35と、CO2リッチな導入気体A1を圧縮して第1反応室30に供給する供給手段20と、第1反応室30内にパルスパワー波を照射する第2パルスパワー波照射器31と、第1反応室30から供給された気体A4のエネルギを用いて発電する発電手段40と、発電手段40の下流側に配設されCO2と一酸化炭素(CO)を分離可能なセパレータ60と、セパレータ60によりCOが分離されたCO2を含む気体A9を供給手段20に供給する循環手段80と、発電手段40により発電にエネルギが使用された残気体A10を排出する排出手段90と、を備えている。尚、以降の説明において、還元装置3側を上流側、排出手段90の後述する第8連通路91側を下流側として説明する。
【0050】
まず、供給手段20について説明する。供給手段20は、上流側から順に、還元装置3の下流側に連結された第1連通路21と、第1連通路21内にパルスパワー波を照射する第1パルスパワー波照射器22と、第1連通路21の下流側に配設された冷却器23と、冷却器23の下流側に配設された第2連通路24と、第2連通路24の下流側に連結された軸流式の圧縮機25と、圧縮機25の下流側及び第1反応室30の上流側に連結された第3連通路26と、から主に構成されている。
【0051】
第1連通路21は、還元装置3ばかりでなく、後述する循環手段80の逆止弁82とも連結されており、逆止弁82から第1連通路21内に気体A9が流入可能となっている。
【0052】
第1パルスパワー波照射器22は、第1連通路21内かつ後述する逆止弁82との合流箇所よりも上流側に配置されたプラグ22aから第1パルスストリーマ放電を実行可能となっている。本実施例では、第1パルスパワー波照射器22は、半値幅80nsの高電圧を繰り返し動作で発生可能であり、充電電圧を20kV、放電電流を170Aとし、電源を5pps(Pulses Per Second)で運転させることで、第1パルスパワー波を照射し、第1パルスストリーマ放電を生じせしめる。このように、短パルス、高電圧小電流、短サイクルで運転させ、グロー放電やアーク放電とならないようにすることが肝要である。尚、本実施例においては、パルスパワー波を与えることで発生したCO2リッチかつ不純物が少ない導入気体A1が用いられることから、第1パルスパワー波照射器22は配設されなくてもよい。また、導入気体A1の温度によっては、冷却器23も配設されなくてもよい。
【0053】
第1反応室30は、高耐熱かつ高耐圧に形成されており、第1投入手段34に繋がる投入口から粉末状の純Mgを、第2投入手段35に繋がる投入口から線状のMg含有組成物(本実施例ではマグネシウム合金)をそれぞれ投入可能となっている。尚、第1投入手段34は、還元装置3で得られる純Mgを酸素(O2)と反応させない状態、例えば還元装置3でも用いられる一酸化炭素(CO)雰囲気において貯留できるようになっている。第1反応室30内の温度は、図示しない温度センサにより常時測定されており、第1反応室30内の温度に応じて第1投入手段34による純Mgの投入量と、第2投入手段35によるMg含有組成物の投入量が調整されることにより、第1反応室30内の温度制御が行われる。本実施例においては、第1反応室30内の温度を約1500℃~約2500℃の範囲における目標温度で長時間安定させることができるように純MgとMg含有組成物の投入量のバランスが調整されることが好ましい。
【0054】
また、第1反応室30内には、第2パルスパワー波照射器31のプラグ31aが配置されており、第1反応室30内で第2パルスストリーマ放電を実行可能となっている。また、第1反応室30内の下流側には、ガスタービン発電装置41のタービン42が配置されている。本実施例では、第2パルスパワー波照射器31は、半値幅40nsの高電圧を繰り返し動作で発生可能であり、充電電圧を100kV、放電電流を170Aとし、電源を10ppsで運転させることで、第2パルスパワー波を照射し、第2パルスストリーマ放電を生じせしめる。このように、短パルス、高電圧小電流、短サイクルで運転させ、グロー放電やアーク放電とならないようにすることが肝要である。
【0055】
発電手段40は、第1反応室30内でCO2と純MgやMg含有組成物とが反応することで発生した高温高圧の気体A4を用いて発電可能なガスタービン発電装置41を有している。ガスタービン発電装置41は、高温高圧の気体A4の圧力により回転されるタービン42と、タービン42の回転に応じて発電可能な発電装置43と、から主に構成されている。
【0056】
第2反応室32は、ガスタービン発電装置41のタービン42の下流側に配設され、タービン42を通過して温度と圧力が低下した気体A5が通過するとともに、図示しない投入口から第3反応室33で得られた粉末状のCaOを投入可能となっている。尚、投入するCaOは粉末以外の形状例えばフレーク状、バー状であってもよい。また、CaOは、第3反応室33で得られたものに限らず、例えば還元装置3におけるCaC2を還元剤としたMgOの還元反応により得られるCaOであってもよい。また、Mg含有組成物にCaあるいはCaOが含有される場合は、第1反応室30においてMg含有組成物の熱分解により生成されるCaOであってもよい。
【0057】
第3反応室33は、第2反応室32の下流側に配設され、第2反応室32を通過して温度と圧力がさらに低下した気体A6が通過するとともに、図示しない投入口から電解装置2(
図6参照)で得られたCaCO
3粉末を投入可能となっている。
【0058】
セパレータ60は、第3反応室33の下流側に連結された第4連通路50の下流側に配設されている。また、セパレータ60の下流側には、気体A7からCOが回収された気体A8が流入する第5連通路70と、回収したCOによりCO濃度が高い気体A11が流入する第7連通路71がそれぞれ連結されている。また、第7連通路71の下流側には、COの貯蔵タンク72が連結されている。
【0059】
循環手段80は、上述した第5連通路70と、第5連通路70の下流側に連結された三方向弁Vと、三方向弁Vの一方の下流側に連結された第6連通路81と、第6連通路81の下流側に連結された逆止弁82と、から主に構成されている。
【0060】
排出手段90は、上述した第5連通路70と、三方向弁Vと、三方向弁Vの他方の下流側に連結され、炭素固定装置10の外部に連通する第8連通路91と、から主に構成されている。尚、
図7では、三方向弁Vの第8連通路91が連結されている弁が閉弁状態となっている。
【0061】
次に、動作について説明する。還元装置3で得られたCO2リッチな導入気体A1は、第1連通路21に流入される。導入気体A1は、CO2濃度が約70%以上であり、CO2以外にも、窒素(N2)、水素(H2)、酸素(O2)、水蒸気(H2O)等が含まれている。また、導入気体A1の温度は、300℃程度であり、単位時間当たりの流量は、0.1×10-4m3/sである。
【0062】
矢印で示されるように、第1連通路21内に導入された導入気体A1は、第1パルスパワー波照射器22のプラグ22aから連続的に照射され続けている第1パルスストリーマ放電により発生している非熱平衡プラズマにより、導入気体A1に含まれるH2、O2、H2O等の反応が促進され不純物がさらに少なくなる。
【0063】
導入気体A1は、矢印で示されるように、冷却器23に導出されて冷却され、約30℃程度の気体A2となる。気体A2は、矢印で示されるように、第2連通路24を通過した後、圧縮機25により圧縮される。
【0064】
矢印で示されるように、圧力約2.0MPa、単位時間当たり流量5.0×10-5m3/sの圧縮・加圧された気体A3が第3連通路26を通過して純Mgが投入されている第1反応室30に流入する。第1反応室30内では第2パルスパワー波照射器31のプラグ31aから短時間の第2パルスストリーマ放電が行われ、第1反応室30内に非熱平衡プラズマが発生する。この非熱平衡プラズマにより、気体A3に含まれるCO2と純Mgが直接反応し、酸化マグネシウム(MgO)、炭素(C)、一酸化炭素(CO)等が生成されることを確認した。すなわち、CO2の炭素固定がなされ、気体A3のCO2濃度が低減された。
【0065】
この反応により、反応熱が発生し、純MgとMg含有組成物の投入量のバランスを調整することにより、第1反応室30内の温度を約1500℃~約2500℃の範囲における目標温度で長時間安定させることができた。また、第2パルスパワー波照射を停止した以降にも、第1反応室30内に気体A3が流入することで、CO2と純MgやMg含有組成物とが連続的に反応することが観察された。
【0066】
このように、純MgとCO2とがまだ反応していない状態では、第2パルスストリーマ放電をトリガーとして純MgとCO2とを反応させることが可能であり、純MgとCO2との反応が開始して以降の反応については、発生する高温の反応熱によりCO2と純MgやMg含有組成物を連続的に反応させ続けることができる。尚、第1反応室30における最初の反応(着火)には、CO2と純Mgの燃焼反応を利用し、高温の反応熱が発生した後は、CO2とMg含有組成物のみを連続的に反応させ続けることにより、第1反応室30内の温度を維持してもよい。
【0067】
また、CO2と純MgやMg含有組成物との反応により、気体A3の温度が急激に上昇することに伴って、気体A3が急激に膨張するため、高温高圧の気体A4となり、下流側に噴出される。
【0068】
気体A4は、矢印で示されるように、第1反応室30の下流側から第2反応室32に流入しようとする。このとき、気体A4は、第1反応室30と第2反応室32との間に配設されているガスタービン発電装置41のタービン42を回転させる。この気体A4の通過に伴いタービン42が回転されることにより、ガスタービン発電装置41の発電装置43による発電が行われる。
【0069】
第2反応室32に流入した約1500℃~約2500℃の高温の気体A5には、第1反応室30における反応により生成され主にMgOとCからなる混合物の粒子が含まれており、気体A5中のCが第2反応室32に投入されている粉末状のCaOと反応し、炭化カルシウム(CaC2)、一酸化炭素(CO)等が生成されることを確認した。尚、第2反応室32においてCaC2を生成する観点から第1反応室30内の温度は約2000℃以上に制御されることが好ましい。
【0070】
また、吸熱反応であるCaOとCとの反応により、気体A5の温度が急激に低下することに伴って、気体A5が急激に収縮するため、温度と圧力が低下した気体A6となり、下流側に噴出される。
【0071】
第3反応室33に流入した約1100℃の高温の気体A6は、第3反応室33に投入されているCaCO3粉末と反応し、酸化カルシウム(CaO)、二酸化炭素(CO2)等が生成されることを確認した。
【0072】
また、吸熱反応であるCaCO3の熱分解反応により、気体A6の温度が急激に低下することに伴って、気体A6が急激に収縮するため、温度と圧力がさらに低下した気体A7となり、下流側に噴出される。
【0073】
第3反応室33から流出した気体A7は、矢印で示されるように、第4連通路50を通じてセパレータ60に導出される。セパレータ60では、気体A7に含まれるCOが分離されるため、高濃度のCOが含まれる気体A11と、COが分離された残りの気体である気体A8に分離される。高濃度のCOが含まれる気体A11は、矢印で示されるように、第7連通路71を通じて貯蔵タンク72に封入される。
【0074】
一方、COが分離された残りの気体である気体A8は、矢印で示されるように、第5連通路70に導出される。第5連通路70には、気体A8に含まれるCO2濃度を測定可能な図示しない濃度センサが設けられており、CO2濃度が一定(本実施例では、10vol%)以上である気体A9の場合には、三方向弁Vの第8連通路91側が閉弁状態となり、第5連通路70及び第6連通路81側が開弁状態となる。これにより、気体A9は、矢印で示されるように、三方向弁V、第6連通路81及び逆止弁82を通じて、第1連通路21に導出され、導入気体A1と共に上述したサイクルが繰り返し行われることとなる。すなわち、第3反応室33におけるCaCO3の熱分解反応により生成されたCO2の一部は、第1反応室30における純MgやMg含有組成物との反応により炭素固定される。
【0075】
また、CO2濃度が一定(本実施例では、10vol%)未満である残気体A10の場合には、三方向弁Vの第6連通路81側が閉弁状態となり、第5連通路70及び第8連通路91側が開弁状態となる。これにより、残気体A10は、点線矢印で示されるように、三方向弁V及び第8連通路91を通じて外部に排出される。
【0076】
以上説明したように、本実施例の炭素固定装置10では、第1反応室30に第1投入手段34により純Mgと、第2投入手段35によりCO2との燃焼反応の進行が純Mgと比較し緩やかであるMg含有組成物をそれぞれ投入可能とし、第1反応室30内の温度に応じて純MgとMg含有組成物の投入量のバランスを調整することにより、第1反応室30内の温度の過剰な上昇を抑制しつつ、燃焼時間を長くすることができるため、第1反応室30内の温度を約1500℃~約2500℃の範囲における目標温度で長時間安定させることができることから、高温高圧の気体A4が安定して発生し続けるため、発電手段40による発電効率が高い。
【0077】
また、第1反応室30内の温度を約1500℃~約2500℃の範囲における目標温度で長時間安定させることができるため、第1反応室30の耐久性に配慮した運用が可能となる。
【0078】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0079】
例えば、前記実施例では、Mg含有組成物としてのマグネシウム合金は、Mgと添加成分が略均一に混ざり合った固溶体の状態のものが好ましいと説明したが、これに限らず、例えばマグネシウム合金の表面側における添加成分の割合がMgよりも多くなるように製造されていてもよい。これによれば、マグネシウム合金の表面に形成される被膜層の難燃性等を効率よく向上させることができる。また、添加成分がCaである場合、マグネシウム合金の表面におけるCaの含有率を高めることにより、被膜層におけるひび割れを発生させやすくすることができる。
【0080】
また、前記実施例では、第1反応室30に第2投入手段35により投入されるMg含有組成物が線状のマグネシウム合金である態様について説明したが、これに限らず、前記実施形態において説明したMg含有組成物の組成や形状のものであれば、適用可能であることは言うまでもない。
【0081】
また、第2投入手段35により投入されるMg含有組成物は、1種類に限らず、第1反応室30内の目標温度や温度の調整幅等に応じて複数種類を使い分けてもよい。この場合、Mg含有組成物は、同一形状で組成の異なるもの、同一組成で形状が異なるもの、組成と形状の両方が異なるもの等のように、その組み合わせは自由である。
【0082】
また、前記実施例では、還元装置3で得られる純Mgを第1投入手段34においてO2と反応させない状態で貯留するものとして説明したが、これに加えて、還元装置3で得られる純Mgの一部を第2投入手段35にも貯留し、第2投入手段35において純MgとO2を反応させて表面にMgOの被膜層を形成したMg含有組成物を作製できるように構成してもよい。
【0083】
また、第1投入手段34により投入される純Mgは、粉末状のものに限らないが、第1反応室30におけるCO2との燃焼反応の効率を高める観点から、第2投入手段35により投入されるMg含有組成物よりもCO2との燃焼反応が起こりやすい形状やサイズであることが好ましい。
【0084】
また、炭素固定装置10は、少なくとも純MgやMg含有組成物とCO2との燃焼反応が行われる第1反応室30を備えていれば、第2反応室32や第3反応室33を備えていなくてもよい。
【0085】
また、炭素固定装置10が還元装置3に適用されている構成として説明したが、これに限らず、所定のCO2濃度となる気体が発生する施設であれば、例えば火力発電所等の他の施設にも適用することが可能である。また、還元装置3で得られたCO2と図示しない化石燃料を燃焼させたCO2を含む排気ガスを混合した気体が炭素固定装置10に導入されてもよい。
【0086】
また、第1パルスパワー波照射器22によるパルスストリーマ放電が第1連通路21内で行われる構成として説明したが、これに限らず、冷却器23による冷却後の第2連通路24内で行われてもよく、圧縮機25による圧縮後の第3連通路26内で行われてもよく、第1反応室30に導入されるまでの範囲であれば限定されるものではない。
【0087】
また、圧縮機25は、ガスタービン発電装置41とは別置である構成として説明したが、これに限らず、気体A4によって回転されるガスタービン発電装置41のタービン42の回転力を利用して気体を圧縮する構成としてもよい。
【0088】
また、純MgとCO2とを反応させるためのトリガーとして、短時間の第2パルスストリーマ放電を照射する構成として説明したが、これに限らず、第1反応室30内に配置される温度センサにより測定された温度が所定温度以下となった場合に、都度第2パルスストリーマ放電を照射する構成としてもよい。さらに、純MgやMg含有組成物とCO2とを連続的に反応させている期間に亘って、第2パルスストリーマ放電を連続的に照射する構成としてもよい。また、純MgとCO2とを反応させるためのトリガーは、第2パルスストリーマ放電に限らず、例えばアセチレンの燃焼によるものであってもよい。
【0089】
また、純MgやMg含有組成物とCO2との反応による約1500℃~約2500℃の反応熱を、第2反応室32にてCとCaOとの反応に利用する例について説明したが、この反応熱を他の反応に利用することも可能である。例えば、この反応熱を利用しメタン等の炭化水素から、水素とアセチレンを得るものや水素と炭素、特にカーボンブラックを得るものが挙げられる。
【0090】
また、第3反応室33が第2反応室32の下流に配設される態様について説明したが、これに限らず、第3反応室を第2反応室の上流に配設し、第3反応室で得られたCaOを第2反応室におけるCaC2の生成の反応に直接利用できるようにしてもよい。
【0091】
また、ガスタービン発電装置41のタービン42は、第1反応室30の下流側に配設される構成に限らず、気体の温度や圧力等の条件に応じて第2反応室32や第3反応室33の下流側に選択的に配設されてもよい。
【0092】
また、還元装置3における還元反応で得られるCaOやCを第2反応室32におけるCaC2の生成の反応に利用してもよい。このように、炭素固定システム1における各種反応に用いられる原料は、炭素固定システム1内の他の反応から得ることが好ましいが、炭素固定システム1の外部から得た原料を用いてもよい。
【0093】
また、第3反応室33から導出される気体A7の温度が十分に高温であれば、例えば第3反応室33の下流側に高温の気体A7を冷却する冷却器を配設し、冷却器による気体A7の冷却の際に発生した水蒸気によりタービンを回転させる蒸気タービン発電装置によって発電を行うようにしてもよい。この場合、導入気体A1の熱によって昇温された冷却器23を流れる水または水蒸気を蒸気タービン発電装置による発電に用いてもよい。
【0094】
また、第3反応室33におけるCaCO3の熱分解反応は、第1反応室30における反応熱または第2反応室32における排熱を利用して行われるものであればよく、第3反応室33が第1反応室30または第2反応室32と連続する流路を構成していなくてもよい。この場合、図示しない連通路により第3反応室と第1反応室を連通させ、第3反応室で得られたCO2を第1反応室における反応に直接利用できるようにしてもよい。
【0095】
加えて、第1反応室30において反応に用いられるCO2は、還元装置3で得られたCO2や第3反応室33で得られたCO2に限られず、他の手段によって得られたCO2であってもよい。
【0096】
また、第1反応室30における燃焼反応により生成された1000℃以上の高温状態で反応性の高いMgOを水蒸気(H2O)と即座に反応させ(下記反応式7~10参照)、H2の生成を行うようにしてもよい。
MgO+H2O→Mg(OH)2・・・(反応式7)
C+H2O→CO+H2・・・(反応式8)
CO+H2O→CO2+H2・・・(反応式9)
Mg(OH)2+CO2→MgCO3+H2O・・・(反応式10)
【0097】
尚、反応式7で示されるMgOとH2Oとの水和反応は、発熱反応である。反応式8で示されるCとH2Oとの水性ガス反応は、900℃以上の高温が必要な吸熱反応である。反応式9で示されるCOとH2Oとの水性ガスシフト反応は、発熱反応である。反応式10で示されるMg(OH)2によるCO2の吸収は、発熱反応である。反応式7,9,10の発熱反応により放出される熱は、反応式8で示される水性ガス反応や図示しないH2生成用の反応室内の温度維持に使われる。
【0098】
このように、第1反応室30における燃焼反応により生成されたMgOを利用してH2生成を行うことにより、当該H2生成に伴って発生するCO2をMgOに吸着させCO2の排出を抑制しつつ、高効率でH2を生成することができる。
【0099】
また、例えば、第1反応室30にCaが添加されたマグネシウム合金が投入される場合には、第1反応室30における燃焼反応により生成された高温状態で反応性の高いMgOを水蒸気(H2O)と即座に反応させるとともに、別途、第1反応室30においてMgOから分離したCaOを水蒸気(H2O)と反応させ(下記反応式11~14参照)、H2の生成を行うようにしてもよい。
CaO+H2O→Ca(OH)2・・・(反応式11)
C+H2O→CO+H2・・・(反応式12)
CO+H2O→CO2+H2・・・(反応式13)
Ca(OH)2+CO2→CaCO3+H2O・・・(反応式14)
【0100】
尚、反応式11で示されるCaOとH2Oとの水和反応は、発熱反応である。反応式12で示されるCとH2Oとの水性ガス反応は、900℃以上の高温が必要な吸熱反応である。反応式13で示されるCOとH2Oとの水性ガスシフト反応は、発熱反応である。反応式14で示されるCa(OH)2によるCO2の吸収は、発熱反応である。反応式11におけるCaOとH2Oとの水和反応により熱が発生し、CaOを用いたH2生成用の反応室内に一連の反応に必要な熱が供給されるため、外部から熱を与える必要がない。
【0101】
このように、第1反応室30における燃焼反応により生成されたMgOと、分離されたCaOを利用してそれぞれH2生成を行うことにより、各H2生成に伴って発生するCO2をMgOとCaOに吸着させCO2の排出を抑制しつつ、さらに高効率でH2を生成することができる。