(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101218
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】マグネシウムの回収方法およびマグネシウム回収装置
(51)【国際特許分類】
C25B 1/18 20060101AFI20240722BHJP
C25B 9/19 20210101ALI20240722BHJP
C02F 1/58 20230101ALI20240722BHJP
C02F 1/461 20230101ALI20240722BHJP
B01F 23/2326 20220101ALI20240722BHJP
B01F 25/312 20220101ALI20240722BHJP
【FI】
C25B1/18
C25B9/19
C02F1/58 J
C02F1/461 Z
B01F23/2326
B01F25/312
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005085
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】506213382
【氏名又は名称】アンヴァール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 重利
【テーマコード(参考)】
4D038
4D061
4G035
4K021
【Fターム(参考)】
4D038AA03
4D038AB59
4D038AB81
4D038BB10
4D038BB17
4D061DA04
4D061DB18
4D061DC19
4D061EA02
4D061EB04
4D061EB13
4D061EB19
4D061EB29
4D061EB30
4G035AB20
4G035AC23
4K021AB03
4K021BA03
4K021CA15
4K021DB31
(57)【要約】
【課題】大量のマグネシウムを簡素かつ高効率に回収することのできるマグネシウムの回収方法およびマグネシウム回収装置を提供する。
【解決手段】少なくともマグネシウムイオンとカルシウムイオンを含む水溶液を電解することによって、水に対して難溶性のマグネシウム化合物を生成させて回収するマグネシウムの回収方法であって、水溶液に二酸化炭素の微細気泡を発生させ、炭酸カルシウムを生成するカルシウム回収工程を含み、アノード2aとカソード2bとを有する電解槽2を、陽イオン交換膜2bによってアノード2aを有するアノード側槽20aとカソード2bを有するカソード側槽20bとに区画し、該カソード側槽20bにカルシウム回収工程にてカルシウムイオンが回収された水溶液を導入して、カソード側槽20bからアノード側槽20aへの陰イオンの移動を制限した状態で電解を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともマグネシウムイオンとカルシウムイオンを含む水溶液を電解することによって、水に対して難溶性のマグネシウム化合物を生成させて回収するマグネシウムの回収方法であって、
前記水溶液に二酸化炭素の微細気泡を発生させ、炭酸カルシウムを生成するカルシウム回収工程を含み、
アノードとカソードとを有する電解槽を、陽イオン交換膜によって前記アノードを有するアノード側槽と前記カソードを有するカソード側槽とに区画し、該カソード側槽にカルシウム回収工程にてカルシウムイオンが回収された水溶液を導入して、前記カソード側槽から前記アノード側槽への陰イオンの移動を制限した状態で電解を行うことを特徴とするマグネシウムの回収方法。
【請求項2】
前記微細気泡は、ナノバブルであることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウムの回収方法。
【請求項3】
前記水溶液は、海水であることを特徴とする請求項1または2に記載のマグネシウムの回収方法。
【請求項4】
前記水溶液は、濃縮海水であることを特徴とする請求項1または2に記載のマグネシウムの回収方法。
【請求項5】
前記アノード側槽に、塩素イオンを含まない非塩素系電解水を導入し、前記カソード側槽に前記カルシウム回収工程にてカルシウムイオンが回収された水溶液を導入することを特徴とする請求項1または2に記載のマグネシウムの回収方法。
【請求項6】
前記非塩素系電解水が、硫酸ナトリウム水溶液であることを特徴とする請求項5に記載のマグネシウムの回収方法。
【請求項7】
前記マグネシウム化合物を回収するための電解によって前記アノード側槽の非塩素系電解水から前記カソード側槽に移動した陽イオンを含む再生用水溶液を、陽イオン交換膜にて区画された再生槽の一方の区画に導入し、前記マグネシウム化合物を回収するための電解を終了した前記非塩素系電解水を前記再生槽の他方の区画に導入して、前記陽イオンを前記再生用水溶液から該非塩素系電解水に移行させて再生させる再生工程を含むことを特徴とする請求項5に記載のマグネシウムの回収方法。
【請求項8】
前記アノードを構成する電極が、イオン化傾向が銀より小さい物質を有する不溶性電極であることを特徴とする請求項1または2に記載のマグネシウムの回収方法。
【請求項9】
アノードとカソードとを有する電解槽と、
前記アノードと前記カソードに電解用電力を供給可能な電源手段と、
電解によって生成する水に対して難溶性のマグネシウム化合物を回収可能なマグネシウム回収手段と、
を備えるマグネシウム回収装置であって、
少なくともマグネシウムイオンとカルシウムイオンを含む水溶液に二酸化炭素の微細気泡を発生させる微細気泡発生装置と、
前記二酸化炭素の微細気泡によって生成する炭酸カルシウムを回収可能なカルシウム回収手段と、を備え、
前記電解槽が、陽イオン交換膜によって前記アノードを有するアノード側槽と前記カソードを有するカソード側槽とに区画され、
前記カルシウム回収手段によりカルシウムが回収された水溶液を前記カソード側槽に供給するための供給手段を備えることを特徴とするマグネシウム回収装置。
【請求項10】
前記微細気泡発生装置は、ナノバブル発生装置であることを特徴とする請求項9に記載のマグネシウム回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウムの回収方法およびマグネシウム回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マグネシウムの回収方法およびマグネシウム回収装置として、アノードとカソードを有し、アノード側とカソード側とを仕切る隔膜を有する電解処理容器を海中に投入して電気分解(電解)を行うことにより、カソード電解水中にマグネシウムを水酸化マグネシウムとして析出させて回収するものがあるが、電解によってカソード電解水中に発生する水酸化物イオンが隔膜を通過してアノード電解水に移動してしまうため、水酸化マグネシウムの生成効率が低くなるという問題がある。
【0003】
そこで、特許文献1のマグネシウムの回収方法では、アノードとカソードとを有する電解槽を、陽イオン交換膜によってアノード側槽とカソード側槽とに区画し、該カソード側槽に海水を導入して、カソード側槽からアノード側槽への水酸化物イオンの移動を制限した状態で電解を行うことにより、カソード側槽における水酸化物イオン濃度を効率良く高め、水酸化マグネシウムの生成効率を向上させている。さらに、特許文献1においては、カソード側槽において海水中に含まれるカルシウムイオンに由来する炭酸カルシウムが水酸化マグネシウムと一緒に析出することを抑制するために、海水から二酸化炭素を予め脱気することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-70861号公報(第11頁~第13頁、第1図,第18図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1にあっては、沸騰脱気や酸添加脱気によって海水中の二酸化炭素を予め脱気することで、電解時における炭酸カルシウムの析出を抑制しているが、大量のマグネシウムを回収するために海水の処理量を増やそうとすると、沸騰脱気の場合、海水を沸騰させるための大規模な設備やエネルギーが必要となり、酸添加脱気の場合、海水のpHを低下させるために多量の塩酸が必要となってしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、大量のマグネシウムを簡素かつ高効率に回収することのできるマグネシウムの回収方法およびマグネシウム回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明のマグネシウムの回収方法は、
少なくともマグネシウムイオンとカルシウムイオンを含む水溶液を電解することによって、水に対して難溶性のマグネシウム化合物を生成させて回収するマグネシウムの回収方法であって、
前記水溶液に二酸化炭素の微細気泡を発生させ、炭酸カルシウムを生成するカルシウム回収工程を含み、
アノードとカソードとを有する電解槽を、陽イオン交換膜によって前記アノードを有するアノード側槽と前記カソードを有するカソード側槽とに区画し、該カソード側槽にカルシウム回収工程にてカルシウムイオンが回収された水溶液を導入して、前記カソード側槽から前記アノード側槽への陰イオンの移動を制限した状態で電解を行うことを特徴としている。
この特徴によれば、水溶液に二酸化炭素の微細気泡を発生させ、炭酸カルシウムを生成することによって多量の水溶液から短時間でカルシウムを回収し、カルシウムが回収されPHが低下し二酸化炭素の微細気泡と反応しにくくなった水溶液を陽イオン交換膜によって区画されたカソード側槽に導入することにより、カソード側槽で発生した水酸化物イオンがアノード側槽へ移動してしまうことを防いで、カソード側槽における水酸化物イオン濃度を効率良く高めて、カルシウムの析出を抑制しつつ、大量のマグネシウムを簡素かつ高効率に回収することができる。
【0008】
前記微細気泡は、ナノバブルであることを特徴としている。
この特徴によれば、水溶液中のカルシウムイオンと二酸化炭素(炭酸イオン)との化学反応が促進され、炭酸カルシウムとしてカルシウムを高効率で回収することができる。
【0009】
前記水溶液は、海水であることを特徴としている。
この特徴によれば、海水から安価にマグネシウムを回収できる。
【0010】
前記水溶液は、濃縮海水であることを特徴としている。
この特徴によれば、炭酸カルシウムとしてカルシウムのみを高効率で回収しやすくすることができる。
【0011】
前記アノード側槽に、塩素イオンを含まない非塩素系電解水を導入し、前記カソード側槽に前記カルシウム回収工程にてカルシウムイオンが回収された水溶液を導入することを特徴としている。
この特徴によれば、電解によってアノード側において、有害な塩素ガスが発生してしまうことを防止できるので、塩素ガスの処理コストによるマグネシウムの回収コスト上昇を抑制できる。
【0012】
前記非塩素系電解水が、硫酸ナトリウム水溶液であることを特徴としている。
この特徴によれば、入手が容易であって安価な硫酸ナトリウムを使用することにより、非塩素系電解水を使用することによるマグネシウムの回収コスト上昇を抑制できる。
【0013】
前記マグネシウム化合物を回収するための電解によって前記アノード側槽の非塩素系電解水から前記カソード側槽に移動した陽イオンを含む再生用水溶液を、陽イオン交換膜にて区画された再生槽の一方の区画に導入し、前記マグネシウム化合物を回収するための電解を終了した前記非塩素系電解水を前記再生槽の他方の区画に導入して、前記陽イオンを前記再生用水溶液から該非塩素系電解水に移行させて再生させる再生工程を含むことを特徴としている。
この特徴によれば、非塩素系電解水を再生して繰り返し使用でき、マグネシウムの回収コストを低減できる。
【0014】
前記アノードを構成する電極が、イオン化傾向が銀より小さい物質を有する不溶性電極であることを特徴としている。
この特徴によれば、電極を構成する物質のイオンが、マグネシウム回収後の水溶液中に含まれることによる環境への影響を抑制できる。
【0015】
本発明のマグネシウム回収装置は、
アノードとカソードとを有する電解槽と、
前記アノードと前記カソードに電解用電力を供給可能な電源手段と、
電解によって生成する水に対して難溶性のマグネシウム化合物を回収可能なマグネシウム回収手段と、
を備えるマグネシウム回収装置であって、
少なくともマグネシウムイオンとカルシウムイオンを含む水溶液に二酸化炭素の微細気泡を発生させる微細気泡発生装置と、
前記二酸化炭素の微細気泡によって生成する炭酸カルシウムを回収可能なカルシウム回収手段と、を備え、
前記電解槽が、陽イオン交換膜によって前記アノードを有するアノード側槽と前記カソードを有するカソード側槽とに区画され、
前記カルシウム回収手段によりカルシウムが回収された水溶液を前記カソード側槽に供給するための供給手段を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、水溶液に二酸化炭素の微細気泡を発生させ、炭酸カルシウムを生成することによってカルシウムが回収された水溶液を陽イオン交換膜によって区画されたカソード側槽に導入することにより、カソード側槽で発生した水酸化物イオンがアノード側槽へ移動してしまうことを防いで、カソード側槽における水酸化物イオン濃度を効率良く高めて、カルシウムの析出を抑制しつつ、大量のマグネシウムを簡素かつ高効率に回収することができる。
【0016】
前記微細気泡発生装置は、ナノバブル発生装置であることを特徴としている。
この特徴によれば、水溶液中のカルシウムイオンと二酸化炭素(炭酸イオン)との化学反応が促進され、炭酸カルシウムとしてカルシウムを高効率で回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例1におけるマグネシウム回収装置の構成図である。
【
図2】実施例1のマグネシウム回収装置におけるナノバブル発生装置の構成を示す図である。
【
図3】ナノバブル発生装置の変形例を示す図である。
【
図4】実施例1のマグネシウム回収装置における電解スタックの構成を示す図である。
【
図5】本発明の実施例2におけるマグネシウム回収装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るマグネシウムの回収方法を適用したマグネシウム回収装置を実施するための形を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0019】
図1に示されるように、本実施例1のマグネシウム回収装置は、少なくともマグネシウムイオンとカルシウムイオンを含む水溶液である海水(海洋深層水)を貯留するための海水タンク11と、海水タンク11から供給される海水中に二酸化炭素の微細気泡(ナノバブル)を発生させるナノバブル発生装置100(微細気泡発生装置)と、カルシウムイオンとナノバブル化した二酸化炭素(炭酸イオン)との化学反応により溶解度の低い炭酸カルシウムが生成された処理海水を貯留するための処理海水タンク12と、処理海水タンク12に貯留されているナノバブル処理済みの処理海水を濾過して炭酸カルシウムを回収するための濾過装置101(カルシウム回収手段)と、カルシウムが回収されたカルシウム回収海水を貯留するためのカルシウム回収海水タンク7と、5wt%硫酸ナトリウム水溶液を貯留するための硫酸ナトリウム水溶液タンク8と、電気分解(電解)を行うための電解スタック2(電解槽)と、該電解スタック2に設けられた陽極2a(アノード)と陰極2c(カソード)に電解用の電力を供給するための直流電源装置1(電源手段)と、電解スタック2において電解処理された電解処理済みの硫酸ナトリウム水溶液を貯留するための陽極溶液タンク9と、電解処理済みの海水を貯留するための陰極溶液タンク10と、陰極溶液タンク10に貯留されている電解処理済みの海水を濾過してマグネシウム化合物である水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムを回収するための濾過装置16(マグネシウム回収手段)と、から主に構成されており、大量の海水に対して連続的に電解を行うことが可能な装置とされている。
【0020】
本実施例1において、ナノバブル発生装置100は、海水タンク11と処理海水タンク12の間を接続する配管に設けられている。
図2に示されるように、ナノバブル発生装置100は、図示しないポンプにより海水タンク11と接続された配管から供給される海水を圧縮しながら通過させる圧縮部100aと、この圧縮部100aを通過した海水が吹き出される吹出部100bと、を有し、吹出部100bの内径は、圧縮部100aから拡径されている。すなわち、圧縮部100aの内径が最小となっており、海水タンク11から供給された海水は、圧縮部100aを通過する際に流速が上がることで、ベンチュリー効果により海水の流速が高速になって吹出部100bから吹き出される。また、導入ポート00cを介しナノバブル発生装置100内に導入された二酸化炭素は、複数分岐した枝管100dを通って圧縮部100a内に大量に噴出され、圧縮部100a内の海水と混合されることにより、吹出部100bから吹き出されことにより海水中にナノバブルを発生させる構成となっている。
【0021】
尚、微細気泡発生装置によって海水中に発生させる微細気泡は、海水中のカルシウムイオンと二酸化炭素(炭酸イオン)との化学反応を促進させる観点からナノバブルであることが好ましいが、マイクロバブルであってもよい。上記ナノバブル発生装置100においては、圧縮部100aを通過する海水の流速と、枝管100dの径によって発生す微細気泡の大きさを調整することができる。
【0022】
海水中において二酸化炭素を微細気泡化することにより、気液界面積が増大するだけでなく、気泡の平均滞留時間が増加する(気泡の分散性が増大する)ことにより、海水中のカルシウムイオンと二酸化炭素(炭酸イオン)溶解速度が増大し、化学反応が促進されるものと推測される。また、海水中において二酸化炭素の微細気泡による撹拌作用が得られることから、化学反応を円滑に進めるために処理海水を機械的に撹拌する必要がない。
【0023】
また、微細気泡発生装置における微細気泡の発生方式としては、上記したナノバブル発生装置100のようなベンチュリー式に限らず、例えば、
図3に示される変形例のナノバブル発生装置110のように、多孔質膜110aにより海水タンク11から供給される海水が流れる流路が形成されるとともに、導入ポート110bに接続される図示しないガスタンクから高圧の二酸化炭素(CO
2)が供給されており、多孔質膜110aに形成される細孔から海水中に二酸化炭素が噴出することにより、海水中に二酸化炭素のナノバブルを発生させる微細孔式となっていてもよい。これ以外にも、予め二酸化炭素を溶解させた海水を減圧することで溶解できなくなった二酸化炭素を微細気泡として発生させる加圧溶解式、海水に含まれる二酸化炭素の気泡を物理的な旋回力を用いて粉砕して微細気泡を発生させる旋回液流式、その他にもスタティックミキサー式、エゼクター式、冷却溶解式、混合蒸気凝縮式等の各種方式を採用することができる。尚、カルシウムやマグネシウムが回収された後の海水は、海へ排出されることもあるため、界面活性剤等の添加物を添加することなく微細気泡を発生させることができる方式が好ましい。
【0024】
本実施例1においては、ナノバブル発生装置100により海水中に二酸化炭素のナノバブルを発生させることにより、反応性が高い海水中のカルシウムイオンを二酸化炭素(炭酸イオン)と反応させて炭酸カルシウムを優先的に生成することができる。
【0025】
また、ナノバブル処理済みの処理海水を濾過装置101により濾過することにより、処理海水に沈降せずに含まれている炭酸カルシウムを確実に回収することができる。尚、本実施例1において、カルシウム回収海水タンク7に貯留されるカルシウム回収海水には、カルシウムが含まれていない。また、1回のナノバブル処理と濾過により海水中のカルシウムが十分に回収できない場合は、海水中のカルシウムがなくなるまでこれらの処理を複数回繰り返してもよい。
【0026】
カルシウム回収海水は、二酸化炭素のナノバブルを大量に含有しており、一部が溶解することにより炭酸となり、水素イオンが解離することによりpH値が低下し酸性に傾いているため、カルシウム回収海水中のマグネシウムイオンは、二酸化炭素(炭酸イオン)と反応しにくくなっている。本発明のマグネシウム回収装置は、電解スタック2にカルシウム回収海水を供給して電解を行うことにより、少ない電力量でpH値を効率よく上昇させ、海水中のマグネシウムを高効率で回収することができる。
【0027】
電解スタック2の下方と硫酸ナトリウム水溶液タンク8およびカルシウム回収海水タンク7とは、導入配管13aおよび導入配管13cにて接続されており、硫酸ナトリウム水溶液タンク8に貯留されている硫酸ナトリウム水溶液と、カルシウム回収海水タンク7に貯留されているカルシウム回収海水とは、電解スタック2の下方から電解スタック2内部に導入されて、電解スタック2の上方から排出される。
【0028】
尚、導入配管13a,13cの経路上には、
図1に示されるように、各導入配管13a,13cに対応して流量を可変可能なポンプ14a,14cが設けられている。ポンプ14a,14cによって電解スタック2に供給される硫酸ナトリウム水溶液とカルシウム回収海水の流量は、ポンプ14a,14cを動作させるためのインバータ電源6a,6cによって個別に調整可能とされている。尚、ポンプ14a,14cは、流量を可変不能なポンプであってもよい。
【0029】
また、導入配管13a,13cの経路上には、
図1に示されるように、導入配管13a、13cを介して電解スタック2に供給される硫酸ナトリウム水溶液とカルシウム回収海水の流量を計測するための流量計3a,3cが設けられているとともに、バルブ4a,4cが設けられている。
【0030】
電解スタック2の上方と陽極溶液タンク9と陰極溶液タンク10とは、排出配管15aおよび排出配管15cにて接続されており、電解スタック2において電解処理されて排出された電解処理済みの硫酸ナトリウム水溶液が陽極溶液タンク9に貯留され、電解処理済みの海水が陰極溶液タンク10に貯留される。
【0031】
尚、陰極溶液タンク10には、上記したように、濾過装置16が接続されており、陰極溶液タンク10において沈降せずに、電解処理済み海水に含まれている水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムが濾過されることにより、海水中のマグネシウムが回収される。
【0032】
図4に示されるように、本実施例1の電解スタック2は、陽極2aと陰極2cとを備えるとともに、陽極2aと陰極2cとの間に設けられた陽イオン交換膜2bにより区画された電解槽である。
【0033】
詳しくは、電解槽の中央に、陽イオン交換膜2bをシリコーンゴムで加圧することによって配置して、電解槽をアノード側槽20aとカソード側槽20bとに区画している。尚、本実施例では、陽イオン交換膜として、1価の陽イオンであるナトリウムイオンを交換可能なCMB(株式会社アストム社製商品名)を使用しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、アノード側槽20aに導入する水溶液に溶解している電解質、特に陽イオンの価数に応じて、適宜に選択すればよい。
【0034】
また、電解スタック2のアノード側槽20aに硫酸ナトリウム水溶液タンク8から供給される硫酸ナトリウム水溶液の濃度は、陽極側から陰極側へ輸送される水素イオンによる中和反応を防ぐのに十分な濃度とすることが好ましく、具体的には、電解スタック2の出口で得られる溶液中のpH値を測定することによる検討の結果、5wt%の高濃度の硫酸ナトリウム水溶液とすればよい。
【0035】
電解スタック2に設けられている陽極2aと陰極2cとしては、電解によって水溶液に侵食されることがなく、電気電導度が高く、機械的強度に優れ、さらに価格が安いことが好ましいことから、チタン板に白金メッキを施した白金メッキチタン板を用いている。この白金電極は化学安定性が高く、電解によっても水溶液中に白金が溶解してしまうことがない。また、これら白金メッキ層の厚みも、メッキ層の欠落部(欠陥部)がないような適宜な厚みを有するものであればよい。尚、本実施例1では、メッキによって白金層を表面に形成した電極としているが、本発明はこれに限定されるものではなく、価格面や機械的強度が問題なければ、電極自体を全て白金板としてもよいし、電極をカーボン素材から構成してもよく、この場合にはカーボン素材の表面がナノポーラス金属等の導電性部材でコーティングされていることが好ましい。
【0036】
また、本実施例1では、電解スタック2に設けられている陽極2aとして白金メッキチタン板を使用した形態を例示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、これら陽極2aとしては、イオン化傾向が銀(Ag)以上であると電極が酸化されて溶解してしまうことから、イオン化傾向が銀(Ag)より小さい物質であれば、白金以外の物質、例えば、金(Au)や炭素(C)等の物質を、少なくとも表面に有する電極とすればよい。また、陰極側は還元反応となるので、電解スタック2に設けられている陰極2cはいずれの金属も使用できる。
【0037】
電解スタック2のアノード側槽20aに硫酸ナトリウム水溶液を導入するとともにカソード側槽20bにカルシウム回収海水を導入しつつ、陽極2aと陰極2cとに電流を流すと電解反応が起こる。詳しくは、水の電解により陰極2cで生成する水酸化物イオンと海水中のマグネシウムイオンとが反応し、水酸化マグネシウムとして析出するとともに、pH値の上昇に伴い海水中のマグネシウムイオンと二酸化炭素(炭酸イオン)とが反応し、炭酸マグネシウムとして析出する。
【0038】
さらに、本実施例1では陽イオン交換膜2bを用いているため、陰極2cで生成する陰イオンである水酸化物イオンが陽イオン交換膜2bを通過できず、アノード側槽20aに移動することができないので、カソード側槽20bのpH値を、少ない電力量にて効率良く上昇させることが可能となり、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムを効率良く析出させることができる。また、カソード側槽20bに導入される海水に含まれる陰イオンである塩素イオンについても、水酸化物イオンと同じく陽イオン交換膜2bを通過できず、アノード側槽20aに移動することができないため、アノード側槽20aに塩素イオンが含まれない状態にて電解が行われるようになるので、陽極2aにおいて塩素ガスが発生してしまうことがなく、陽極2aにおいては酸素ガスが発生する。尚、陰極2cでは、水素ガスが発生する。
【0039】
以上説明したように、本実施例1のマグネシウム回収装置では、海水に二酸化炭素の微細気泡を発生させ、炭酸カルシウムを生成することによってカルシウムが回収されたカルシウム回収海水を陽イオン交換膜2bによって区画されたカソード側槽20bに導入することにより、カソード側槽20bで発生した水酸化物イオンがアノード側槽20aへ移動してしまうことを防いで、カソード側槽20bにおける水酸化物イオン濃度を効率良く高めて、カルシウムの析出を防止しつつ、大量のマグネシウムを簡素かつ高効率に回収することができる。
【0040】
また、濾過装置16によりマグネシウムを回収した後の濾液(排水)には、添加剤等は含まれていないため、排水の処理が不要または簡素になり、排水の処理コストによるマグネシウムの回収コスト上昇を抑制できる。また、マグネシウムを回収した後の濾液には、微細気泡化した二酸化炭素が含まれているため、排水を海に排出することにより海中に二酸化炭素を固定することができる。
【0041】
また、微細気泡は、ナノバブルであることにより、水溶液中のカルシウムイオンと二酸化炭素(炭酸イオン)との化学反応が促進され、炭酸カルシウムとしてカルシウムを高効率で回収することができる。
【0042】
また、少なくともマグネシウムイオンとカルシウムイオンを含む水溶液は、海水であることにより、安価にマグネシウムを回収できる。尚、上記水溶液は、濃縮海水であってもよく、例えば膜濃縮法による製塩後の製塩苦汁を用いた場合、カルシウム回収工程において炭酸カルシウムとしてカルシウムのみを高効率で回収しやすくすることができ、炭酸マグネシウムが生成されることがないため、マグネシウムの回収効率を高めることができる。
【0043】
また、アノード側槽20aに、塩素イオンを含まない非塩素系電解水を導入し、カソード側槽20bにカルシウム回収工程にてカルシウムイオンが回収されたカルシウム回収海水を導入することにより、電解によってアノード側において、有害な塩素ガスが発生してしまうことを防止できるので、塩素ガスの処理コストによるマグネシウムの回収コスト上昇を抑制できる。
【0044】
また、非塩素系電解水として入手が容易であって安価な硫酸ナトリウムを使用することにより、非塩素系電解水を使用することによるマグネシウムの回収コスト上昇を抑制できる。
【0045】
また、アノードを構成する電極が、イオン化傾向が銀より小さい物質を有する不溶性電極であることにより、電極を構成する物質のイオンが、マグネシウム回収後の水溶液中に含まれることによる環境への影響を抑制できる。
再生槽230は、電解スタック202から電極を取り除いた形態、つまり、陽イオン交換膜に仕切られた2つの区画を有するものであり、該再生槽230の一方の区画に電解スタック202のアノード側槽202aから排出された硫酸ナトリウム水溶液が供給され、該再生槽230の他方の区画に電解スタック202のカソード側槽202bから排出されたマグネシウム回収後の濾液が供給されるように接続されている。
この再生槽230では、電解によって海水に移行したナトリウムイオンが、陽イオン交換膜を通過して硫酸ナトリウム水溶液側に戻るように移行することで、硫酸ナトリウム水溶液が再生されるとともに、電解によって高濃度となった硫酸ナトリウム水溶液中の水素イオンが陽イオン交換膜を通過して濾液側に移行して、電解によって高濃度となった海水中の水酸化物イオンと反応して中和することで、濾液のpH値を大きく低下させることができる。
そして、再生槽230の一方の区画において再生された硫酸ナトリウム水溶液は、電解スタック202のアノード側槽202aに供給されて再使用され、再生槽230の他方の区画から排出された排水は海へ排出される。尚、再生された硫酸ナトリウム水溶液について、硫酸ナトリウムの濃度を測定して、濃度が5wt%に達していない不十分な濃度である場合には、硫酸ナトリウムを添加して十分な濃度に調整するようにしてもよい。
以上説明したように、本実施例2のマグネシウム回収装置では、再生槽230において、電解によって再生用水溶液である硫酸ナトリウム水溶液から減少した陽イオンであるナトリウムイオンを、濾液から硫酸ナトリウム水溶液に戻して再生し、該再生した硫酸ナトリウム水溶液を繰り返し使用することが可能となるので、マグネシウムの回収コストをより一層低減できる。
以上、本発明の実施形態を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
例えば、前記実施例では、電解スタックのカソード側槽に供給されるカルシウム回収海水には、カルシウムが含まれていない形態を例示しているが、これに限らず、カルシウム回収海水にはカルシウムイオンが含まれていてもよい。この場合、カルシウム回収海水に含まれるカルシウムの量は、処理前の海水に含まれるカルシウムの量よりも大幅に減少していることから、電解スタックにおける電解によりpH値が上昇して水酸化マグネシウムや炭酸マグネシウムが析出する前の段階で、炭酸カルシウムとしてカルシウムを全量析出させることが可能である。そのため、新たにもう一つ電解スタックを接続し、該電解スタックのカソード側槽にカルシウムが全量回収された海水を供給して電解を行うことにより、マグネシウムのみを高効率で回収することができる。
また、前記実施例では、少なくともマグネシウムイオンとカルシウムイオンを含む水溶液を海水とした形態を例示しているが、これに限らず、例えば海水にマグネシウム鉱石等の成分を溶解させた水溶液であってもよいし、工業的に生成された水溶液であってもよい。
また、前記実施例では、濃縮海水として膜濃縮法による製塩後の製塩苦汁を例示したが、これに限らず、例えば濾過膜や逆浸透膜を使用した淡水化処理装置から排出される濃縮海水であってもよい。
また、前記実施例では、海水を連続して処理する形態を例示しているが、これに限らず、これら処理を、例えば、電解スタックに海水を満たして電解を実施した後、電解後の海水を新たな海水に入れ替えて、電解スタックに貯留可能な海水単位にてバッチ形態で処理するものであってもよい。
また、前記実施例では、有害な塩素ガスを発生させないようにするために、アノード側槽に非塩素系電解水である硫酸ナトリウム水溶液を導入する形態を例示しているが、これに限らず、塩素ガスの処理が可能な場合や、生成する塩素ガスを利用したい場合においては、アノード側槽に、カソード側槽と同じく海水を導入するようにしてもよい。
また、前記実施例では、塩素ガスの発生を防止するための塩素イオンを含まない非塩素系電解水として、入手がし易く安価である硫酸ナトリウムを使用した形態を例示しているが、これに限らず、これら非塩素系電解水としては、ナトリウム以外の他の硫酸塩であってもよいし、ナトリウム硝酸塩やナトリウム以外の他の硝酸塩であってもよく、その水溶液をアノード側槽に導入して電解したときに、塩素ガスを発生しない水溶性塩の水溶液であればよい。尚、カソード側槽に導入される水溶液が、海水の場合のナトリウムイオンのような陽イオンを含む場合には、該陽イオンと共通の陽イオンを含む硫酸塩や硝酸塩とすればよい。これら硫酸塩や硝酸塩の水溶液が一般的であるが、硫酸塩や硝酸塩以外のリン酸塩、シュウ酸塩、クロム酸塩の水溶液であってもよい。また、これらの酸によって塩を形成する陽イオンとしては、種類を選ばず、ナトリウム、カリウム等のどのイオンでも可能である。ただし、一価の陽イオン交換膜を使用する場合は、一価の陽イオンにする必要がある。
また、前記実施例では、硫酸ナトリウム水溶液を5wt%とした形態を例示しているが、これらの濃度は、使用する非塩素系電解水の種類に応じて、適宜に決定すればよく、その濃度としては、アノード側槽にて生成する水素イオンがカソード側槽に殆ど移動せずに、非塩素系電解水に含まれる陽イオンだけがカソード側槽に移動する濃度とすればよい。
また、前記実施例では、カソードに水酸化マグネシウムや炭酸マグネシウム等の析出物が付着した場合に、極性を入れ替えて付着した析出物を剥離することを想定して、アノードとカソードの双方を白金メッキチタン電極とした形態を例示しているが、これに限らず、カソードについては、白金層を表面に有していない金属電極を用いてもよい。
また、前記実施例では、マグネシウムは水酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムの混合物として回収される形態を例示しているが、水酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムの混合物を熱分解することにより酸化マグネシウムとして回収・利用するとともに、特に炭酸マグネシウムの熱分解により発生する二酸化炭素を回収してカルシウム回収工程に再利用してもよい。